(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】可否判定装置、可否判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20231207BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231207BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20231207BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20231207BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20231207BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
(21)【出願番号】P 2022053530
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大道 馨
(72)【発明者】
【氏名】加我 正
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085185(JP,A)
【文献】特許第6677398(JP,B1)
【文献】特開2009-060742(JP,A)
【文献】特開2020-109367(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0094971(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0143820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/367
H01M 10/48
G01R 31/392
G01R 31/382
G01R 31/385
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得する取得部と、
前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出する特性算出部と、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する低負荷判定部と、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する高負荷判定部と
を備える可否判定装置。
【請求項2】
可否判定装置のコンピュータが実行する可否判定方法であって、
電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得するステップと、
前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出するステップと、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定するステップと、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定するステップと
を含む可否判定方法。
【請求項3】
コンピュータに、
電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得する手順と、
前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出する手順と、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する手順と、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する手順と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可否判定装置、可否判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。また、気候関連災害の観点からCO2削減のために、電気自動車への関心が高まっており、車載用途としてもリチウムイオン二次電池の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-109367号公報
【文献】特開2017-166874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、二次電池に関する技術においては、劣化状態の指標(SOH : State of Health)のみに基づいて、劣化した二次電池が使用可能であるか否かが単に判定される。このため、使用可能な用途が残っている劣化した二次電池が廃棄されてしまうことがある。
【0005】
本願は上記課題の解決のため、使用可能な用途が残っている劣化した二次電池が廃棄される可能性を低下させることを目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る可否判定装置は、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る可否判定装置は、電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得する取得部と、前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出する特性算出部と、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する低負荷判定部と、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する高負荷判定部とを備える。
【0007】
(2):この発明の他の態様に係る可否判定方法は、可否判定装置のコンピュータが実行する可否判定方法であって、電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得するステップと、前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出するステップと、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定するステップと、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定するステップとを含む。
【0008】
(3):この発明の他の態様に係るプログラムは、コンピュータに、電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得する手順と、前記劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出する手順と、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する手順と、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する手順とを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
(1)から(3)の態様によれば、使用可能な用途が残っている劣化した二次電池が廃棄される可能性を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る可否判定装置の構成例を示す図である。
【
図2】劣化した二次電池の正極容量維持率(初期を100%としたときの容量維持率)と負極容量維持率を示す図である。
【
図3】劣化した二次電池の10秒間の直流抵抗の例を示す図である。
【
図4】劣化前の二次電池の単極ごとの電位曲線と、低負荷時の劣化した二次電池の単極ごとの電位曲線とを示す図である。
【
図5】高い負荷時の劣化した二次電池の単極ごとの電位曲線と、負荷ごとの容量とを示す図である。
【
図6】可否判定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係るバッテリ状態の測定システムが採用された車両の構成の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係るバッテリ状態の測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係るバッテリ状態の測定システムを用いて、dV/dQ曲線を生成させてバッテリ状態を解析した際に、dV/dQ曲線のピークがつぶれたときの解析処理の一例を説明する図である。
【
図10】実施形態に係るバッテリ状態の測定システムを用いて、dV/dQ曲線を生成させてバッテリ状態を解析した際の、初期、1週間後、2週間後及び4週間後のバッテリの劣化を解析する処理の一例を説明する図である。
【
図11】バッテリ状態の測定システムにおける処理の全体の流れ一例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の可否判定装置、可否判定方法及びプログラムの実施形態について説明する。
[全体構成]
図1は、実施形態に係る可否判定装置1の構成例を示す図である。可否判定装置1は、劣化した二次電池の使用可否を二次電池の負荷(出力)ごとに判定する情報処理装置である。二次電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
【0012】
可否判定装置1は、演算部10と、記憶装置20と、操作部30と、通信部40とを備える。演算部10は、取得部11と、特性算出部12と、低負荷判定部13と、高負荷判定部14とを備える。
【0013】
これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがコンピュータのプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0014】
記憶装置20は、劣化前(初期)の二次電池の特性を表すパラメータと、劣化した二次電池の特性を表すパラメータ(劣化モデル)と、演算部10により実行されるプログラムとを記憶する。操作部30は、ユーザによる操作を受け付けるデバイスであり、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネルである。ユーザによる操作は、例えば、二次電池の特性を表すパラメータを入力する操作である。通信部40は、他の装置(不図示)との通信を実行する。例えば、通信部40は、演算部10による算出結果を表す画像データを、表示装置(不図示)に送信する。例えば、通信部40は、コンピュータのプログラムと、パラメータとを取得してもよい。
【0015】
作業者(不図示)は、二次電池の分解及び特性計測を、劣化前(初期)の二次電池について実行する。例えば、作業者(不図示)は、正極の劣化量と負極の劣化量と容量シフト量と10秒直流抵抗との各パラメータを、劣化前の二次電池について計測する。なお、作業者(不図示)は、二次電池の分解及び特性計測を、劣化した二次電池についても実行してよい。
【0016】
図2は、劣化した二次電池の正極容量維持率(初期を100%としたときの容量維持率)と負極容量維持率を示す図である。第1の縦軸は、量維持率(正極容量維持率、負極容量維持率)を表す。第2の縦軸は、容量シフト量を表す。横軸は、二次電池の耐久時間を表す。劣化した二次電池の正極電位、負極電位及び容量シフト量の計測結果に基づいて、劣化した二次電池の正極容量維持率、負極容量維持率及び容量シフト量のモデル(劣化モデル)が、耐久時間について予め定められる。
【0017】
図3は、劣化した二次電池の10秒間の直流抵抗の例を示す図である。縦軸は、10秒間の直流抵抗の維持率を表す。横軸は、二次電池の耐久時間を表す。劣化した二次電池にパルス電流が10秒間にわたって印加されることによって、10秒間の直流抵抗が計測される。劣化した二次電池の10秒間の直流抵抗の計測結果に基づいて、劣化した二次電池の10秒直流抵抗のモデル(劣化モデル)が、耐久時間について予め定められる。
【0018】
図4は、劣化前(初期)の二次電池の単極ごとの電位曲線と、低負荷時の劣化した二次電池の単極ごとの電位曲線とを示す図である。横軸は、容量「Q」(Ah)を表す。縦軸は、開回路電位(OCP : Open Circuit Potential)を表す。取得部11は、dV/dQ解析(電圧と容量の微分解析)と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線(充放電曲線)を取得する。
図4における左側のグラフは、劣化前(初期)の単極ごとの開回路電位曲線を表す。
【0019】
特性算出部12は、
図2に例示された劣化した二次電池の正極電位、負極電位及び容量シフト量のモデル(劣化モデル)を、記憶装置20、操作部30又は通信部40から取得する。特性算出部12は、劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量とから、正極の収縮率を算出する。特性算出部12は、劣化した二次電池の容量シフト量と負極の劣化量とから、負極の収縮率を算出する。
【0020】
特性算出部12は、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に単極ごとの収縮率で変形させて、低負荷時の劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧(開回路電位)の特性を表す曲線を算出する。
図4における右側のグラフは、低負荷時の劣化した単極ごとの開回路電位曲線(充放電曲線)を表す。
【0021】
低負荷判定部13は、劣化した二次電池の正極の開回路電位と負極の開回路電位との差(電圧)と、予め定められた算出条件とに基づいて、劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出する。低負荷判定部13は、上限電圧における容量と下限電圧における容量との差に基づいて、低負荷時の劣化した二次電池の容量(第1容量)を算出する。なお、低負荷時では電圧降下量(IRドロップ)が少ないので、低負荷時の開回路電圧(OCV)は、低負荷時の閉回路電圧(CCV : Closed circuit voltage)の近似とみなされてもよい。
【0022】
図5は、高い負荷時の劣化した二次電池の単極ごとの電位曲線と、負荷ごとの容量とを示す図である。高負荷判定部14は、
図3に例示された直流抵抗のモデル(劣化モデル)を、記憶装置20、操作部30又は通信部40から取得する。高負荷判定部14は、劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量(IRドロップ)で補正する。例えば、高負荷判定部14は、劣化した二次電池の正極の開回路電位を表す曲線を、劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流の乗算結果(電圧降下量)に応じて、下方向にオフセットする。
【0023】
高負荷判定部14は、補正後(オフセット後)の劣化した二次電池の正極の開回路電位と負極の開回路電位との差(電圧)と、予め定められた算出条件とに基づいて、補正後の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出する。高負荷判定部14は、上限電圧における容量と下限電圧における容量との差に基づいて、高負荷時の劣化した二次電池の容量(第2容量)を算出する。
【0024】
低負荷判定部13は、補正前の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する。低負荷時の劣化した二次電池の容量(第1容量)が予め定められた第1閾値以上である場合、低負荷判定部13は、判定対象の二次電池が低負荷用途に使用可能であると判定する。低負荷時の劣化した二次電池の容量(第1容量)が予め定められた第1閾値未満である場合、低負荷判定部13は、判定対象の二次電池が低負荷用途に使用不可であると判定する。
【0025】
高負荷判定部14は、補正後の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する。高負荷時の劣化した二次電池の容量(第2容量)が予め定められた第2閾値以上である場合、高負荷判定部14は、判定対象の二次電池が高負荷用途に使用可能であると判定する。高負荷時の劣化した二次電池の容量(第2容量)が予め定められた第2閾値未満である場合、高負荷判定部14は、判定対象の二次電池が高負荷用途に使用不可であると判定する。
【0026】
高負荷判定部14は、高負荷時の劣化した二次電池の容量が第2閾値以上である場合、そのような二次電池を例えば四輪車用に使用可能であると判定する。低負荷判定部13及び高負荷判定部14のうちの少なくとも一方は、低負荷時の劣化した二次電池の容量が第1閾値以上であり、且つ、高負荷時の劣化した二次電池の容量が第2閾値未満である場合、そのような二次電池を例えば二輪車用に使用可能であると判定する。低負荷判定部13及び高負荷判定部14のうちの少なくとも一方は、低負荷時の劣化した二次電池の容量が第1閾値未満であり、且つ、高負荷時の劣化した二次電池の容量が第2閾値未満である場合、そのような二次電池を例えば定置用に使用可能であると判定する。
【0027】
[可否判定装置の動作例]
図6は、可否判定装置1の動作例を示すフローチャートである。取得部11は、電圧及び容量の微分解析(dV/dQ解析)と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得する(ステップS101)。次に、特性算出部12は、劣化した二次電池の容量シフト量と正極の劣化量と負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出する(ステップS102)。次に、特性算出部12は、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に単極ごとの収縮率で変形させて、劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出する(ステップS103)。
【0028】
次に、低負荷判定部13は、劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正前の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出する(ステップS104)。次に、低負荷判定部13は、補正前の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定する(ステップS105)。
【0029】
次に、高負荷判定部14は、劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正(オフセット)する(ステップS106)。次に、高負荷判定部14は、補正後の劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出する(ステップS107)。次に、高負荷判定部14は、補正後の劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する(ステップS108)。
【0030】
以上のように、演算部10は、劣化した二次電池の使用可否を、二次電池の負荷(出力)ごとに判定する。これによって、使用可能な用途(2次利用のアプリケーション)が残っている劣化した二次電池が廃棄される可能性を低下させることができる。劣化した二次電池の閉回路電圧の算出精度を向上するので、任意の負荷について残存容量の算出精度が向上し、劣化した二次電池の最適な用途(例えば、四輪車用、二輪車用、定置用)を負荷ごとの残存容量に基づいて選択することができる。
【0031】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記プログラムを実行することにより、
電圧及び容量の微分解析と充放電曲線フィッティングとにより、劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を取得し、
前記劣化した二次電池の容量シフト量と前記正極の劣化量と前記負極の劣化量とから、単極ごとの収縮率を算出し、前記劣化した二次電池が劣化する前の単極ごとの開回路電位曲線を、固定点を基準に前記単極ごとの収縮率で変形させて、前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を算出し、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第1容量と第1閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を低負荷時について判定し、
前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線を、前記劣化した二次電池の直流抵抗及び直流電流に応じた電圧降下量で補正し、補正後の前記劣化した二次電池の充電状態及び開回路電圧の特性を表す曲線に基づいて、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧を算出し、補正後の前記劣化した二次電池の上限電圧及び下限電圧により定まる第2容量と第2閾値との比較結果に基づいて、前記劣化した二次電池の使用可否を高負荷時について判定する、
ように構成されている、可否判定装置。
【0032】
(変形例)
劣化する前の単極ごとの電位曲線は、予測対象とされた二次電池が分解されることなく、予測対象とされた二次電池の出力に基づいて定められてもよい。
【0033】
以下、
図7~
図11を参照し、本発明のバッテリ状態の測定技術の実施形態について説明する。以下の説明においては、本発明のバッテリ状態の測定技術が電気自動車(EV)(以下、単に、「車両」と称する場合がある。)に採用された場合の一例について説明するが、本発明のバッテリ状態の測定技術は、車両に搭載されるバッテリに限定されるものではなく、車載以外のバッテリにも適用できるものである。
なお、後述するバッテリ状態の測定システムが採用された車両の構成及びバッテリ状態の測定方法は、いずれも、本発明のバッテリ状態の測定技術の実施形態の一例に過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
[バッテリ状態の測定システムが採用された車両の構成]
本発明のバッテリ状態の測定技術は、例えば、バッテリ状態の測定システムとして活用可能である。
図7は、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム2が採用された車両15の構成の一例を示す図である。
図7に示した車両15は、走行用のバッテリ(リチウムイオン電池)から供給される電力で駆動される電動機(電動モータ)によって走行するBEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)である。なお、車両15は、例えば、四輪の車両のみならず、鞍乗り型の二輪の車両や、三輪(前一輪且つ後二輪の他に、前二輪且つ後一輪の車両も含む)の車両、さらには、アシスト式の自転車等、内燃機関の稼働又はバッテリから供給される電力で駆動される電動モータによって走行する車両の全般が含まれる。
【0035】
図7に示す車両15は、例えば、モータ17と、駆動輪18と、ブレーキ装置16と、車両センサ21と、PCU(Power Control Unit)30と、バッテリ41と、電圧センサ、電流センサ、温度センサ等のバッテリセンサ(取得部)42と、通信装置(送信部)50と、表示装置を含むHMI(Human Machine Interface)60と、充電口70と、接続回路72と、を備える。
【0036】
モータ17は、例えば、三相交流電動機である。モータ17の回転子(ロータ)は、駆動輪18に連結される。モータ17は、バッテリ41が備える図示略の蓄電部から供給される電力によって駆動され、回転の動力を駆動輪18に伝達させる。また、モータ17は、車両15の減速時に、車両15の運動エネルギーを用いて発電する。
【0037】
ブレーキ装置16は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、を備える。ブレーキ装置16は、図示略のブレーキペダルに対する、車両15の利用者(運転者)による操作で発生した油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップ機構として備えてもよい。なお、ブレーキ装置16は、上述したような構成には限定されず、例えば、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。
【0038】
車両センサ21は、例えば、アクセル開度センサと、車速センサと、ブレーキ踏量センサと、を備える。アクセル開度センサは、アクセルペダルに取り付けられ、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出し、検出した操作量をアクセル開度として後述するPCU31が備える制御部(観測部)36に出力する。車速センサは、例えば、車両15の各車輪に取り付けられた車輪速センサと速度計算機とを備え、車輪速センサによって検出された車輪速を統合して車両15の速度(車速)を導出し、制御部36及びHMI60に出力する。ブレーキ踏量センサは、ブレーキペダルに取り付けられ、運転者によるブレーキペダルの操作量を検出し、検出した操作量をブレーキ踏量として制御部36に出力する。
【0039】
PCU31は、例えば、変換器32と、VCU(Voltage Control Unit)34と、制御部36と、を備える。なお、
図7においては、これらの構成要素をPCU31として一まとまりの構成として示しているが、図示例はあくまで一例であり、車両15におけるこれらの構成要素は分散的に配置されても構わない。
【0040】
変換器32は、例えば、AC-DC変換器である。変換器32の直流側端子は、直流リンクDLに接続されている。直流リンクDLには、VCU34を介してバッテリ41が接続されている。変換器32は、モータ17によって発電された交流を直流に変換して直流リンクDLに出力する。
【0041】
VCU34は、例えば、DC―DCコンバータである。VCU34は、バッテリ41から供給される電力を昇圧して直流リンクDLに出力する。
【0042】
制御部36は、例えば、モータ制御部と、ブレーキ制御部と、バッテリ・VCU制御部と、を備える。モータ制御部、ブレーキ制御部、及びバッテリ・VCU制御部は、それぞれ別体の制御装置、例えば、モータECU(Electronic Control Unit)、ブレーキECU、バッテリECUといった制御装置に置き換えられてもよい。
【0043】
また、制御部36や、制御部36が備えるモータ制御部と、ブレーキ制御部と、バッテリ・VCU制御部とは、それぞれ、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現される。また、これらの構成要素のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、これらの構成要素の機能のうちの一部又は全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め車両15が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよい。あるいは、プログラムは、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納され、この記憶媒体が車両15に備えられるドライブ装置に装着されることで、車両15が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされる構成でもよい。
【0044】
制御部36は、モータ制御部において、車両センサ21が備えるアクセル開度センサからの出力に基づいて、モータ17の駆動を制御する。また、制御部36は、ブレーキ制御部において、車両センサ21が備えるブレーキ踏量センサからの出力に基づいて、ブレーキ装置16を制御する。また、制御部36は、バッテリ・VCU制御部において、バッテリ41に接続された後述のバッテリセンサ42からの出力に基づいて、例えば、バッテリ41のSOC(State Of Charge;以下「バッテリ充電率」ともいう)を算出し、VCU34及びHMI60に出力する。さらに、制御部36は、車両センサ21により出力された車速の情報をHMI60に出力してもよい。VCU34は、バッテリ・VCU制御部からの指示に応じて、直流リンクDLの電圧を上昇させる。
【0045】
バッテリ41は、例えば、リチウムイオン電池等、充電と放電とを繰り返すことが可能な二次電池である。バッテリ41を構成する二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池、ナトリウムイオン電池等の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、または二次電池とキャパシタとを組み合わせた複合電池等も考えられる。なお、本発明においては、バッテリ41における二次電池の構成に関しては特に規定しない。また、バッテリ41は、車両15に対して着脱自在に装着される、例えば、カセット式等のバッテリパックであってもよい。バッテリ41は、車両15の外部の充電器500から導入される電力を蓄え、車両15の走行のための放電を行う。
上述したように、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム2は、特に、リチウムイオン電池の劣化状態を解析する場合において、高精度で劣化状態を解析できるという効果を発揮する。
【0046】
バッテリセンサ42は、バッテリ41の電流や、電圧、温度等の物理量を検出する。
バッテリセンサ42は、例えば、電流センサ、電圧センサ、温度センサを備える。バッテリセンサ42は、電流センサによってバッテリ41を構成する二次電池(以下、単に「バッテリ41」という)の電流を検出し、電圧センサによってバッテリ41の電圧を検出し、さらに、温度センサによってバッテリ41の温度を検出する。バッテリセンサ42は、検出したバッテリ41の電流値、電圧値、温度等の物理量のデータ(以下、「物理量データ」という)を制御部36や通信装置50に出力する。バッテリセンサ42は、特許請求の範囲における「取得部」の一例である。
【0047】
制御部36は、バッテリセンサ42が検出して出力したバッテリ41の電流値、電圧値、温度等の物理量データを観測し、バッテリ41の劣化状態を解析(診断・判定)するために用いる、バッテリ41の状態の変化に関連する特性を算出する。例えば、制御部36は、バッテリセンサ42により出力された電流値と、電圧値と、容量値(正極値及び負極値から求められる)とを観測して、バッテリ41の状態の変化を表す正極単極データP及び負極単極データNを算出する。また、制御部36は、例えば、所定の観測時間で観測した電流値と電圧値と容量値とに基づいて、これらの関係でバッテリ41の状態の変化を表す正極単極データP及び負極単極データNを算出してもよい。所定の観測時間としては、複数の時間(期間)が設定される。この所定の観測時間は、例えば、5秒、10秒、15秒等の期間とすることができる。それぞれの期間は、バッテリ41が充電されている状態であるときと、放電している状態であるときとで、別々の観測時間として設定される。バッテリ41の状態が継続的に同じ状態である期間が「所定の観測時間」の何れかに該当する場合、この期間に観測した物理量データが、該当する観測時間における観測データとして採用される。
例えば、バッテリ41が継続して5秒間放電した期間に観測した物理量データが、放電時間=5秒の観測データとして採用される。また、例えば、バッテリ41が継続して10秒間放電した期間に観測した物理量データが、放電時間=10秒の観測データとして採用される。該当する所定の観測時間が複数ある場合、同じ物理量データが、異なる観測時間の観測データとして重複して採用されてもよい。例えば、バッテリ41が継続して10秒間放電した期間に観測した物理量データのうち、継続した5秒間分の物理量データは、放電時間=5秒の観測データと、放電時間=10秒の観測データとの両方の観測データとして採用されてもよい。
【0048】
制御部36は、所定の観測時間で観測した物理量データ(観測データ)に基づいて算出したバッテリ41の状態の変化に関連するそれぞれの特性を表すデータ(以下、「特性データ」という)を通信装置50に出力する。制御部36は、特許請求の範囲における「観測部」の一例である。
【0049】
通信装置50は、セルラー網やWi-Fi網を接続するための無線モジュールを含む。
通信装置50は、Bluetooth(登録商標)等を利用するための無線モジュールを含んでもよい。通信装置50は、無線モジュールにおける通信によって、車両15に係る種々の情報を、例えば、車両15の走行やバッテリ41の状態を管理する図示略のネットワーク上に設けられた、後述のサーバ装置等との間で送受信する。通信装置50は、制御部36により出力された、バッテリ41の、それぞれの特性データを、後述のサーバ装置200に送信する。通信装置50は、後述のサーバ装置200によって解析され、サーバ装置200から送信されたバッテリ41の劣化状態を表す情報を受信し、受信したバッテリ41の劣化状態を表す情報をHMI60に出力してもよい。通信装置50は、特許請求の範囲における「送信部」の一例である。
【0050】
HMI60は、例えば、運転者等の車両15の利用者に対して各種情報を提示するとともに、利用者による入力操作を受け付ける。HMI60は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)等の表示装置と、入力された操作を検知する入力装置とが組み合わされた、いわゆる、タッチパネルである。HMI60は、表示装置以外の各種表示部や、スピーカ、ブザー、入力装置以外のスイッチや、キー等を含んでもよい。HMI60は、表示装置や入力装置を、例えば、車載用ナビゲーション装置等の表示装置や入力装置と共有してもよい。
【0051】
充電口70は、バッテリ41(リチウムイオン電池)を充電するための機構である。充電口70は、車両15の車体外部に向けて設けられている。充電口70は、充電ケーブル520を介して充電器500に接続される。充電ケーブル520は、第1プラグ522と第2プラグ524と、を備える。第1プラグ522は、充電器500に接続され、第2プラグ524は、充電口70に接続される。充電器500から供給される電気は、充電ケーブル520を介して充電口70に入力(供給)される。
【0052】
また、充電ケーブル520は、電力ケーブルに付設された信号ケーブルを含む。信号ケーブルは、車両15と充電器500の間の通信を仲介する。従って、第1プラグ522及び第2プラグ524のそれぞれには、電力ケーブルを接続する電力コネクタと及び信号ケーブルを接続する信号コネクタが設けられている。
【0053】
接続回路72は、充電口70とバッテリ41との間に設けられる。接続回路72は、充電口70を介して充電器500から導入される電流、例えば、直流電流を、バッテリ41に供給するための電流として伝達する。また、接続回路72は、例えば、直流電流をバッテリ41に対して出力し、バッテリ41(リチウムイオン電池)に電力を蓄えさせる(充電する)。
【0054】
[バッテリ状態の測定システムの構成]
次に、バッテリ41が搭載された車両15を含むバッテリ状態の測定システムの一例について説明する。
図8は、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム2の構成の一例を示す図である。
図8に示すバッテリ状態の測定システム2は、例えば、バッテリ41が搭載された車両15が備える車載装置101と、サーバ装置200と、を備え、概略構成される。
【0055】
通信装置50と、サーバ装置200とは、ネットワークNWを介して互いに通信する。
ネットワークNWは、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、プロバイダ装置、無線基地局等を含む無線通信の通信網である。なお、
図8には、ネットワークNWにユーザ端末Tが接続されている状態を示している。この場合、例えば、サーバ装置200は、ネットワークNWを介してユーザ端末Tと通信することも可能である。
【0056】
バッテリ状態の測定システム2は、車両15が備えるバッテリ41の劣化状態を解析・判定するためのシステムである。バッテリ状態の測定システム2では、車両15が備える車載装置101が、算出したバッテリ41の状態の変化に関連するそれぞれの特性データを、ネットワークNWを介してサーバ装置200に送信する。そして、バッテリ状態の測定システム2では、サーバ装置200が、車載装置101により送信されたそれぞれの特性データに基づいて、車両15が備えるバッテリ41の劣化状態を解析する。バッテリ状態の測定システム2では、サーバ装置200が、バッテリ41の劣化状態を解析した結果(解析結果)の情報を、ネットワークNWを介して車両15に送信する。
これにより、例えば、車両15が備えるHMI60が、サーバ装置200から送信された解析結果の情報を、例えば、表示装置に表示して車両15の利用者に提示する。また、バッテリ状態の測定システム2では、サーバ装置200が、バッテリ41の劣化状態の解析結果の情報を、ネットワークNWを介してユーザ端末Tに送信してもよい。これにより、ユーザ端末Tは、サーバ装置200により送信された解析結果の情報を、例えば、車両15の利用者に通知することができる。
【0057】
なお、バッテリ状態の測定システム2は、サーバ装置200が、バッテリ41の劣化状態を解析した結果に基づいて、バッテリ41の劣化状態の学習を行うようにしてもよい。これにより、バッテリ状態の測定システム2は、サーバ装置200が、車両15が備えるバッテリ41の劣化状態をより適切に管理することができる。
【0058】
車載装置101は、例えば、車両15に搭載されたバッテリ41の状態に関連する物理量を示す物理量データを取得するバッテリセンサ(取得部)42と、物理量データに基づいて、バッテリ41の状態変化に関連する特性を観測する制御部(観測部)36と、観測された特性を表す複数の特性データをサーバ装置200に送信する通信装置(送信部)50と、を備える。
【0059】
バッテリセンサ42は、バッテリ41の電流値、電圧値、温度を、例えば、10ミリ秒間隔で検出する。バッテリセンサ42は、検出したバッテリ41の電流値、電圧値、温度等の物理量データを制御部36に出力する。
【0060】
制御部36は、バッテリセンサ42により出力されたバッテリ41の電流値、電圧値、容量値、温度等の物理量データを観測し、観測した物理量データに基づいてバッテリ41の状態を表す特性データを生成する。特性データとは、例えば、バッテリ41の劣化状態を解析するために用いるバッテリ41のdV/dQを表すデータである。制御部36は、例えば、放電時間が5秒のとき、10秒のとき、15秒のときの、それぞれの観測時間における特性データや、充電時間が5秒のとき、10秒のとき、15秒のときの、それぞれの観測時間における特性データを生成する構成とすることができる。この場合、制御部36は、例えば、タイマー機能により、それぞれの観測時間の期間を計時し、計時している観測時間の期間中に観測した物理量データに基づいて、それぞれの特性データを生成する。例えば、放電時間=5秒の観測時間におけるdV/dQを表す特性データを生成する場合、制御部36は、バッテリ41が連続して放電している5秒間を計時し、計時している期間中に、バッテリセンサ42が、例えば、10ミリ秒間隔で検出して出力したバッテリ41の物理量データを観測して得た、それぞれの電圧値と、対応する容量値とに基づいてdV/dQを表す特性データを生成する。同様に、制御部36は、放電時間=10秒、放電時間=15秒の、それぞれの観測時間における特性データや、充電時間=5秒、充電時間=10秒、充電時間=15秒の、それぞれの観測時間におけるdV/dQを表す特性データを生成する。
【0061】
dV/dQを表す特性データは、図示は省略するが、例えば、観測して得たそれぞれの容量値を横軸とし、これに対応する電圧値の容量微分を縦軸とした充放電曲線から得られるものである。このdV/dQは、バッテリ41の劣化状態の解析に用いるデータである。なお、制御部36は、観測時間の開始時に観測した物理量データと、観測時間の終了時に観測した物理量データを特性データとしてもよい。つまり、制御部36は、観測時間の開始時及び終了時における二つの電流値と二つの電圧値と二つの容量値との組(四つの物理量データ)を、dV/dQを表す一つの特性データとしてもよい。
【0062】
制御部36は、上記のように生成された特性データを、観測時間の情報と、バッテリ41が充電されている状態であるか放電している状態であるかの情報とを含めて、通信装置50に出力する。また、特性データには、バッテリ41の温度の変化を示す情報や、バッテリ41のSOC(バッテリ充電率)の情報が含まれていてもよい。
【0063】
通信装置50は、制御部36により出力された、それぞれの観測時間ごとのバッテリ41の特性データを、ネットワークNWを介した通信によってサーバ装置200に送信する。
【0064】
ユーザ端末Tは、例えば、車両15の運転者等、ユーザ端末Tの利用者(以下、「ユーザU」と称する場合がある。)が保有するスマートフォンやタブレット端末等の端末装置である。ユーザ端末Tは、例えば、ユーザUが使用する据え置き型の端末装置であってもよい。ユーザ端末Tでは、バッテリ41の劣化状態の確認や通知を受けるためのアプリケーション(以下、「バッテリ確認アプリケーション」という)等が実行されている。ユーザ端末Tは、サーバ装置200から送信された解析結果の情報を受信した場合、受信した解析結果の情報を、例えば、表示装置に表示することによってユーザUに提示する。ユーザUは、ユーザ端末Tによって実行されているバッテリ確認アプリケーションを操作することにより、任意のタイミングで、サーバ装置200に対してバッテリ41の現在の劣化状態の確認を要求することができる。この場合、ユーザ端末Tは、バッテリ41の劣化状態の送信を要求する確認要求を、ネットワークNWを介してサーバ装置200に送信する。
【0065】
サーバ装置200は、車両15が備えるバッテリ41の劣化状態を管理する。サーバ装置200は、例えば、通信部(受信部)202と、診断部(解析部)204と、を備える。通信部202と診断部204とは、それぞれ、例えば、CPUなどのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現される。また、これらの構成要素のうちの一部又は全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、これらの構成要素の機能のうちの一部又は全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予めサーバ装置200が備えるHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよい。あるいは、プログラムは、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納され、この記憶媒体がサーバ装置200に備えられるドライブ装置に装着されることで、サーバ装置200が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされる構成でもよい。
【0066】
通信部202は、ネットワークNWを介して、車両15が備える通信装置50や、ユーザ端末Tとの間で通信を行うことで情報のやり取りをする。通信部202は、車両15が備える車載装置101により送信されたバッテリ41のそれぞれの特性データを、ネットワークNWを介した通信によって受信する。通信部202は、受信したバッテリ41の、それぞれの特性データを、診断部204に出力する。通信部202は、ユーザ端末Tにより送信されたバッテリ41の確認要求を、ネットワークNWを介した通信によって受信した場合、受信したバッテリ41の確認要求を診断部204に出力する。通信部202は、特許請求の範囲における「受信部」の一例である。
【0067】
診断部204は、通信部202から出力された、バッテリ41の、それぞれの特性データに基づいて、バッテリ41の劣化状態を解析する。より具体的には、診断部204は、通信部202により出力された、バッテリ41の、それぞれの特性データを、特性データに含まれる観測時間ごとに分けて収集する。そして、診断部204は、収集した所定の観測時間の複数の特性データが含まれる特性データ群を基準として、バッテリ41の劣化状態を解析する。車載装置101によってdV/dQを表す特性データが送信された場合、診断部204は、例えば、所定の観測時間の複数のdV/dQを表す特性データが含まれる特性データ群を基準として、バッテリ41の劣化状態をdV/dQ解析する。バッテリ41の劣化状態を解析する際に診断部204が基準とする所定の観測時間は、例えば、最も高頻度に収集することができる、観測時間が最も短い5秒のときの特性データ群である。診断部204は、基準とした観測時間以外の観測時間の特性データ群を、バッテリ41の劣化状態を解析する際の補助として用いる。例えば、観測時間が5秒のときの特性データ群を基準とした場合、診断部204は、観測時間が10秒や15秒のときの特性データ群を、バッテリ41の劣化状態を解析した解析結果を補正するために用いる。
【0068】
ここで、診断部204におけるバッテリ41の劣化状態の解析の一例について説明する。
図9は、サーバ装置200(より具体的には、診断部204)におけるバッテリ41の劣化状態の解析処理の一例を説明する図であり、dV/dQ曲線でバッテリ状態を解析した際に、dV/dQ曲線のピークがつぶれたときの解析処理の一例を説明するグラフである。
図9(a)には、車載装置101から送信された放電時間がt
0のときのdV/dQ曲線を、
図9(b)には、放電時間がt
1のときのdV/dQ曲線を、
図9(c)には、放電時間がt
2のときのdV/dQ曲線を、それぞれ示している。これら
図9(a)~(c)において、横軸は容量値(Ah)であり、縦軸はdV/dQである。
【0069】
上述したように、診断部204は、車載装置101により送信されて通信部202から出力された、バッテリ41のdV/dQを表す特性データを、観測時間ごとに分けて収集する。
図9(a)~(c)においては、診断部204が、放電時間がt
0のときのdV/dQを表す特性データと、放電時間がt
1のときのdV/dQ曲線を表す特性データと、放電時間がt
2のときのdV/dQを表す特性データとを分けて、それぞれの特性データ群として収集する。
【0070】
診断部204は、上記の特性データに基づき、バッテリ41の基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析でバッテリ41の劣化状態を解析する。
診断部204は、以下に詳述するように、dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、初期正極値と負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する。
【0071】
ここで、上述した
図9(a)~(c)のグラフは、それぞれ、上記時間で使用したバッテリ41における正極単極データP及び負極単極データNの実測値に対して、予め、バッテリ41を初期段階で解体し、コインセルの状態で取得した初期正極単極データ(初期正極値)P
0及び初期負極単極データN
0をフィッティングさせることで得られたdV/dQ曲線を示している。
図9(a)は、実セルを使用した時間t
0におけるdV/dQ曲線(実セル
0)であり、
図9(b)は時間t
1におけるdV/dQ曲線(実セル
1)であり、また、
図9(c)は時間t
2におけるdV/dQ曲線(実セル
2)である。
【0072】
まず、予め、バッテリ41を初期段階で解体し、コインセルの状態で初期正極単極データP0及び初期負極単極データN0を取得し、それぞれの初期単極状態のAh-OCP(Open Circuit Potential)曲線を得る。また、観測して得たそれぞれのAh-OCP曲線に対して、容量値を横軸とし、これに対応する電圧値の容量微分を縦軸としたdV/dQ曲線を得る。そして、単極Simセル0のAh-OCP曲線、すなわち容量は、上記の単極正極及び負極Ah-OCP曲線から求められる。
【0073】
次いで、
図9(a)に示すように、初期正極単極データP
0及び初期負極単極データN
0を用いて、実セル
0のdV/dQ曲線の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、実セルスケールの正極単極データP及び負極単極データNを生成させ、Simセル
0のdV/dQ曲線を生成させる。そして、dV/dQ解析で最適化された初期正極単極データP
0及びSimセル
0を用いて、仮想負極単極データN
0’を生成する。このときのセルと各単極データとのdV/dQの関係は、下記式(1)で表される。
[dSimV
セル/dQ]-[dV
正極/dQ]=[dV
負極/dQ] ・・・・・(1)
【0074】
次いで、
図9(b)に示すように、初期正極単極データP
0及び上記の仮想負極単極データN
0’を用いて、バッテリ41を使用した時間t
1(例えば2週間後)における実セル
1の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、dV/dQ曲線を生成する。この際、dV/dQ解析で最適化された正極単極データPのdV/dQ曲線を、実セル
1のdV/dQ曲線から差し引くことにより、劣化後負極単極データ(負極値)N
1のdV/dQ曲線を生成させる。このときのセルと各単極データとのdV/dQの関係も、上記式(1)で表される。
【0075】
次いで、
図9(c)に示すように、初期正極単極データP
0及び上記の劣化後負極単極データN
1を用いて、使用した時間t
2(例えば4週間後)における実セル
2の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、dV/dQ曲線を生成する。
【0076】
実施形態に係るバッテリ状態の測定システム2では、
図9(a)~(c)に示すような処理を繰り返すことにより、n回目の負極単極データNのdV/dQ曲線のフィッティングを、n-1回目に更新した負極単極データN
n-1を用いたdV/dQ曲線を用いて行う。
【0077】
図9(a)~
図9(c)中に示すように、実セル
0~実セル
1~実セル
2・・・と、時間の経過とともに実セルの劣化が進行すると、図中に示した「実セル_実測」のカーブのピークが徐々につぶれてゆく。一方、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム2では、負極単極データN
n-1を更新してゆくため、更新された負極単極データN
n-1を用いて生成されるSimセル
xのデータも、実セル
xと同様、dV/dQ曲線のピークのつぶれを再現できるので、フィッティング精度を向上させることが可能となる。これにより、dV/dQ曲線を用いてリチウムイオン電池からなるバッテリ41の劣化を解析する場合であっても、正極及び負極の容量劣化量や、正負極の電位の相対的な位置関係を高精度で評価できるので、正極・負極の容量値(Ah)-OCP曲線を用いて求められるセル容量のSimの精度を高めることが可能となる。
【0078】
以下、
図10(a)~(d)を参照して、負極単極データNのdV/dQ曲線を更新する手順について説明する。
図10は、dV/dQ曲線を用いて、初期(
図10(a))、1週間後(
図10(b))、2週間後(
図10(c))及び4週間後(
図10(d))のバッテリ41の劣化を解析する処理の一例を説明するグラフである。
【0079】
図10(a)~
図10(c)に示す手順においても、上述した
図9(a)~(c)を参照した説明と同様、初期~1週間後~2週間後~4週間後と、負極単極データN
n-1を更新することで、dV/dQ曲線のピークのつぶれを再現できるので、フィッティング精度を顕著に向上させることが可能となる。
【0080】
図8に戻り、診断部204は、解析したバッテリ41の劣化状態を表す解析結果の情報を、通信部202に出力する。なお、診断部204は、通信部202によりユーザ端末Tからの確認要求が出力された場合、現時点までに収集した特性データを用いて解析したバッテリ41の現時点の劣化状態を表す解析結果の情報を、通信部202に出力する。
【0081】
通信部202は、診断部204により出力された解析結果の情報を、ネットワークNWを介した通信により、車両15が備える車載装置101やユーザ端末Tに送信する。これにより、診断部204が解析したバッテリ41の劣化状態の解析結果が、車両15が備えるHMI60によって、例えば、表示装置に表示される。また、診断部204が解析したバッテリ41の劣化状態の解析結果が、バッテリ確認アプリケーションによってユーザ端末Tの表示装置に表示され、ユーザUに提示されてもよい。
【0082】
[バッテリ状態の測定システムの全体の処理の流れ]
次に、バッテリ状態の測定システム2においてバッテリ41の劣化状態を解析(診断・判定)する処理の全体の流れの一例について説明する。
図11は、バッテリ状態の測定システム2における処理の全体の流れ一例を示すシーケンス図である。
図11には、バッテリ状態の測定システム2においてバッテリ41の劣化状態を解析する際に連携する車載装置101とサーバ装置200の間の処理の一例を示している。本シーケンス図の処理は、車両15においてバッテリ41が利用されている期間の間、繰り返し実行される。なお、車載装置101及びサーバ装置200のそれぞれは、
図8に示したようなそれぞれの構成要素が対応する動作を行うが、以下の説明においては、説明を容易にするため、車載装置101とサーバ装置200とが直接、バッテリ41の劣化状態を解析するための情報や解析結果の情報をやり取りするものとする。また、以下の説明においては、複数の特性データから得られたdV/dQ曲線に基づいて、バッテリ41の劣化状態を解析するものとする。なお、車載装置101におけるバッテリ41の物理量データの観測は、バッテリ41が充電されている状態であるか放電している状態であるかに関わらず行われるが、以下の説明においては、説明を容易にするため、バッテリ41は放電している状態となったときに物理量データの観測を開始するものとする。
【0083】
図11に示すバッテリ状態の測定システム2における処理の一例では、まず、車両15においてバッテリ41の利用が開始されて放電している状態になると、車載装置101は、バッテリ41の物理量データの観測を開始する(ステップS10)。
【0084】
その後、車載装置101は、観測時間(放電時間)=5秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS20)。つまり、車載装置101は、放電時間=5秒の間、バッテリ41が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置101は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ41における観測時間(放電時間)=5秒のdV/dQを算出する(ステップS22)。そして、車載装置101は、算出した観測時間(放電時間)=5秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS24)。これにより、サーバ装置200は、車載装置101により送信された特性データを、放電時間=5秒の特性データ群として収集する(ステップS50)。また、車載装置101は、処理をステップS30に進める。
【0085】
一方、ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置101は、処理をステップS30に進める。なお、ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=5秒の間に、バッテリ41が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置101は、バッテリ41が充電されている状態における観測時間(充電時間)=5秒の物理量データの観測を開始する。
【0086】
続いて、車載装置101は、観測時間(放電時間)=10秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS30)。つまり、車載装置101は、放電時間=5秒の後に引き続く5秒間の間、またはステップS20の確認後、あるいは、放電時間=5秒の開始のタイミングとは異なるタイミングから開始した10秒間の間、バッテリ41が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置101は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ41における観測時間(放電時間)=10秒のdV/dQを算出する(ステップS32)。そして、車載装置101は、算出した観測時間(放電時間)=10秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS34)。これにより、サーバ装置200は、ステップS50において、車載装置101により送信された特性データを、放電時間=10秒の特性データ群として収集する。また、車載装置101は、処理をステップS40に進める。
【0087】
一方、ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置101は、処理をステップS40に進める。なお、ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=5秒の後に引き続く5秒間の間、または放電時間=10秒の間に、バッテリ41が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置101は、バッテリ41が充電されている状態における観測時間(充電時間)=10秒の物理量データの観測を開始する。
【0088】
続いて、車載装置101は、観測時間(放電時間)=15秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS40)。つまり、車載装置101は、放電時間=10秒の後に引き続く5秒間の間、またはステップS30の確認後、あるいは、放電時間=5秒や、放電時間=10秒の開始のタイミングとは異なるタイミングから開始した15秒間の間、バッテリ41が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置101は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ41における観測時間(放電時間)=15秒のdV/dQを算出する(ステップS42)。そして、車載装置101は、算出した観測時間(放電時間)=15秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS44)。これにより、サーバ装置200は、ステップS50において、車載装置101により送信された特性データを、放電時間=15秒の特性データ群として収集する。また、車載装置101は、次の観測時間(放電時間)における物理量データの観測を継続する。
【0089】
一方、ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置101は、次の観測時間(放電時間)における物理量データの観測を継続する。なお、ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=10秒の後に引き続く5秒間の間、または放電時間=15秒の間に、バッテリ41が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置101は、バッテリ41が充電されている状態における観測時間(充電時間)=15秒の物理量データの観測を開始する。
【0090】
その後、サーバ装置200は、ステップS50において収集した、それぞれの観測時間の特性データが含まれる特性データ群に基づいて、バッテリ41の劣化状態を解析する(ステップS60)。なお、サーバ装置200がステップS60におけるバッテリ41の劣化状態の解析を開始するタイミングは、任意のタイミングである。例えば、サーバ装置200は、基準とする観測時間の特性データ(例えば、放電時間=5秒の特性データ)をバッテリ41の劣化状態を解析するために必要な分だけ収集した後に、バッテリ41の劣化状態の解析を開始してもよい。また、例えば、サーバ装置200は、解析したバッテリ41の劣化状態の解析結果の補正に用いる観測時間の特性データ(例えば、放電時間=10秒や15秒の特性データ)を解析結果の補正に必要な分だけ収集した後に、バッテリ41の劣化状態の解析を開始してもよい。また、例えば、サーバ装置200は、ユーザ端末Tにより送信されたバッテリ41の確認要求を受信したときに、バッテリ41の劣化状態の解析を開始してもよい。
【0091】
そして、サーバ装置200は、バッテリ41の劣化状態を解析した解析結果の情報を、車載装置101に送信する(ステップS62)。これにより、車載装置101は、サーバ装置200により送信されたバッテリ41の劣化状態を解析した解析結果の情報を、例えば、車両15が備えるHMI60に出力し、HMI60により表示装置に表示させて、車両15の利用者に提示させる(ステップS70)。
【0092】
このような全体の処理の流れによって、バッテリ状態の測定システム2では、バッテリ41が搭載された車両15が備える車載装置101とサーバ装置200とがそれぞれ連携して、バッテリ41の劣化状態を解析する。このとき、バッテリ状態の測定システム2では、車載装置101においてバッテリ41の劣化状態の解析に関する一定程度の処理(所定の観測時間のdV/dQを算出する処理)を行って、バッテリ41の劣化状態の解析に用いるdV/dQを表す特性データを生成してサーバ装置200に送信する。これにより、バッテリ状態の測定システム2では、車載装置101がバッテリ41の劣化状態を解析するよりも、車載装置101における演算の負荷を軽減するとともに、サーバ装置200が、より高い精度でバッテリ41の劣化状態を解析して、車両15が備えるバッテリ41の劣化状態を管理することができる。
【0093】
しかも、バッテリ状態の測定システム2では、車載装置101がサーバ装置200に送信する、バッテリ41の、それぞれの特性データは、車載装置101において生成した特性データであるため、例えば、バッテリセンサ42が検出した物理量データよりもデータ量が削減されている。このため、バッテリ状態の測定システム2では、車載装置101とサーバ装置200との間のネットワークNWにおける情報(データ)の通信帯域の圧迫を抑えることができる。
【0094】
また、バッテリ状態の測定システム2では、サーバ装置200が解析したバッテリ41の劣化状態の解析結果を、ユーザ端末Tに送信することもできる。これにより、例えば、車両15の運転者などのユーザ端末Tの利用者(ユーザU)は、車両15に乗車していないときでも、任意のタイミングで現在のバッテリ41の劣化状態を確認することができる。
なお、サーバ装置200とユーザ端末Tとの間の処理の流れは、バッテリ確認アプリケーションが実行されている状態のユーザ端末Tからサーバ装置200への確認要求の送信と、サーバ装置200からユーザ端末Tへのバッテリ41の劣化状態の解析結果の送信との処理であり、容易に理解することができる。このため、サーバ装置200とユーザ端末Tとの間の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0095】
図11のシーケンス図で示した流れで処理を行うバッテリ状態の測定システムによれば、車両15が備える車載装置が、検出したバッテリの物理量を複数の異なる観測時間で観測し、バッテリの状態変化に関連する特性を算出して生成した特性データをサーバ装置に送信する。そして、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、サーバ装置が、車載装置により送信されたバッテリの状態変化に関連する特性を表す特性データを観測時間ごとに分けて収集し、収集したバッテリの状態変化に関連する特性を表す特性データ群に基づいて、バッテリの劣化状態を解析する。これにより、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、サーバ装置においてバッテリの劣化状態をより高い精度で解析して、車両が備えるバッテリの劣化状態を管理することができる。しかも、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、車載装置が、バッテリの状態変化に関連する特性を求める処理をある程度完了した状態の特性データをサーバ装置に送信するため、車載装置とサーバ装置との間のネットワークNWにおける情報(データ)の通信帯域の圧迫を抑えた状態で、バッテリの劣化状態を解析して管理することができる。
【0096】
以上説明した実施形態のバッテリ状態の測定システムによれば、車載装置101が、車両15に搭載されたバッテリ41の状態に関連する物理量を示す物理量データを取得するバッテリセンサ42と、物理量データに基づいて、バッテリ41の状態変化に関連する特性を観測する制御部36と、観測された特性を表す複数の特性データをサーバ装置200に送信する通信装置50とを備え、サーバ装置200が、車載装置101により送信された複数の特性データを受信する通信部202と、複数の特性データに基づいてバッテリ41の劣化状態を解析する診断部204と、を備える。そして、実施形態のバッテリ状態の測定システムは、診断部204が、バッテリ41の基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析でバッテリ41の劣化状態を解析するとともに、dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、初期正極値と負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する。これにより、バッテリ41の劣化によってdV/dQ曲線のピークがつぶれた場合であっても、バッテリ41の基準容量に対する電圧の変動特性を精度良く認識することができるので、生成した劣化判定用のdV/dQ曲線を、当該バッテリの初期状態において取得されたdV/dQ曲線と比較することで、バッテリ41が初期状態からどの程度劣化したかを高精度で検出・判定することが可能となる。従って、バッテリ状態の測定システムが採用された車両15では、サーバ装置200において車両15が備えるバッテリ41の劣化状態をより高い精度で管理し、例えば、車両15が走行することができる距離が著しく短くなるような状態を、事前に車両15の利用者に通知するなど、車両15を利用する際の利便性を向上させることが可能になる。
【0097】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
少なくとも、バッテリの状態を解析するサーバ装置を備えるバッテリ状態の測定システムであって、
前記サーバ装置は、
ハードウェアプロセッサと、
プログラムを記憶した記憶装置と、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、前記バッテリの状態に関連する物理量を示す物理量データに基づいた、前記バッテリの状態変化に関連する特性を表す複数の特性データを受信し、前記バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析で前記バッテリの劣化状態を解析するとともに、前記dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、前記初期正極値と前記負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する、
ように構成されている、バッテリ状態の測定システム。
【0098】
なお、実施形態では、バッテリ状態の測定システムが採用された車両15がBEVである場合について説明した。しかしながら、電気自動車としては、燃料によって稼働するエンジンなどの内燃機関の稼働に応じて供給される電力、又は走行用のバッテリ(リチウムイオン電池)から供給される電力によって駆動される電動機(電動モータ)によって走行する、例えば、ハイブリッド電気自動車(HEV)等もある。このため、バッテリ状態の測定システムは、このようなハイブリッド電気自動車においても採用することができる。この場合、ハイブリッド電気自動車では、内燃機関が稼働してバッテリを充電するときも、バッテリの劣化状態を解析するために物理量データを観測する対象の観測時間となる。このような場合においても、上記同様に、サーバ装置においてハイブリッド電気自動車に搭載されたバッテリの劣化状態の解析を、より高い精度で行うことができる。なお、ハイブリッド電気自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れは、上述した実施形態におけるBEVに採用されたバッテリ状態の測定システムの全体的な処理の流れと同様に考えることにより、容易に理解することができる。このため、ハイブリッド電気自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0099】
また、例えば、FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)等のような、燃料電池から供給される電力によって駆動される電動モータで走行する電動車両もある。バッテリ状態の測定システムは、燃料電池自動車においても採用することができる。この場合、実施形態において説明したバッテリが燃料電池に置き換わることになる。この燃料電池においても、バッテリとは異なる原因ではあるが、使用過程において劣化が発生する。このため、バッテリ状態の測定システムは、このような燃料電池自動車においても採用することができる。但し、車載装置において観測する物理量や、サーバ装置において劣化状態を解析する処理は、燃料電池自動車に搭載された燃料電池に対応するものとなる。一方、燃料電池自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れも、上述した実施形態におけるBEVに採用されたバッテリ状態の測定システムの全体的な処理の流れと同様に考えることにより、容易に理解することができる。このため、燃料電池自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0100】
以上、本発明のバッテリ状態の測定技術を車両において実施する形態について説明したが、本発明は、電源(コンセント)と、充電器と、バッテリと、を備える構成であれば車両以外において実施する形態であってもよい。
【0101】
上述したバッテリ状態の測定方法によれば、バッテリの劣化状態の解析を、使用したバッテリを解体することなく、サーバ装置におけるdV/dQ解析によって行うことができ、また、dV/dQ曲線のピークがつぶれた場合であっても、劣化に伴う材料特性の変化に追従した高い精度で行うことが可能となる。
【0102】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0103】
1…可否判定装置
2…バッテリ状態解析システム
10…演算部
11…取得部
12…特性算出部
13…低負荷判定部
14…高負荷判定部
15…車両
16…ブレーキ装置
17…モータ
18…駆動輪
20…記憶装置
21…車両センサ
30…操作部
31…PCU
32…変換器
34…VCU
36…制御部(観測部)
40…通信部
41…バッテリ
42…バッテリセンサ(取得部)
50…通信装置
60…HMI
70…充電口
72…接続回路
100…抵抗器
101…車載装置
110…コイル抵抗器
120…負極抵抗部
130…正極抵抗部
140…疑似容量部
200…サーバ装置
202…通信部(受信部)
204…診断部(解析部)
500…充電器
520…充電ケーブル
522…第1プラグ
524…第2プラグ
T…ユーザ端末
NW…ネットワーク