(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】バッテリ状態の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20231207BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231207BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20231207BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20231207BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20231207BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231207BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2022054855
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】加我 正
(72)【発明者】
【氏名】冨永 由騎
(72)【発明者】
【氏名】堀 満央
(72)【発明者】
【氏名】合田 直弥
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特許第6918433(JP,B1)
【文献】特表2021-533371(JP,A)
【文献】特開2019-020413(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112083345(CN,A)
【文献】国際公開第2015/025402(WO,A1)
【文献】特許第6490882(JP,B1)
【文献】特開2013-247003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/367
G01R 31/382
G01R 31/385
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、バッテリの状態を解析するサーバ装置を備えるバッテリ状態の測定システムを用いたバッテリ状態の測定方法であって、
前記サーバ装置のコンピュータが、
前記バッテリの状態に関連する物理量を示す物理量データに基づいた、前記バッテリの状態変化に関連する特性を表す複数の特性データを受信し、
前記複数の特性データに基づいて、前記バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析で前記バッテリの劣化状態を解析するとともに、前記dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、前記初期正極値と前記負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する、バッテリ状態の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ状態の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、EV(Electric Vehicle:電気自動車)やHEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド電気自動車)等、少なくとも、バッテリ(二次電池)から供給される電力によって駆動される電動モータで走行する車両の開発が進んでいる。これらのような電動モータで走行する車両に対しては、気候関連災害の発生を抑制することを目的とするCO2削減の観点から、非常に関心が高まっている。
【0003】
電動モータで走行する車両においては、バッテリの劣化状態を常に把握しておくことが重要となる。このため、従来から、車両に搭載されたバッテリの劣化状態を判定するための、多くの技術が開示されている。
【0004】
上記のような、車両に搭載されたバッテリの劣化状態を判定するための技術として、例えば、バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線を用いて、バッテリの劣化状態を判定する処理を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-054082号公報
【文献】国際公開第2014/147753号
【文献】特開2017-227494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示された技術のように、dV/dQ曲線を用いてバッテリの劣化状態を判定する場合には、例えば、電圧値や電流値等、バッテリの劣化状態の判定に用いる値(物理量)を車両又はバッテリ内で検出し、検出された物理量に基づいて、バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線を生成させる処理が行われる。
【0007】
上記のdV/dQ曲線は、例えば、バッテリの充放電曲線における電圧について、基準容量での微分値を計算することによって得られる。このような方法によれば、劣化判定対象のバッテリの基準容量に対する電圧の変動特性を精度良く認識することができるので、生成した劣化判定用のdV/dQ曲線を、当該バッテリの初期状態において取得されたdV/dQ曲線と比較することにより、その時点のバッテリが初期状態からどの程度劣化したかを検出・判定することが可能となる。
【0008】
より具体的には、例えば、まず、バッテリを解体した状態のコインセル単位における単極データ、即ち、初期正極値及び初期負極値を取得して、バッテリとしての初期値を求める。また、数週間(例えば、1~4週間)使用したバッテリに対して、予め取得した初期正極値及び初期負極値のdV/dQ曲線を用い、バッテリのdV/dQ曲線の正極・負極に由来する特徴量でフィッティングを行う。そして、dV/dQ曲線におけるピークの位置合わせを確認することで、バッテリの内部劣化状態を判定する。この際、正極及び負極がどのように変化するのか等を確認することで、正極及び負極の容量劣化量や、正負極の電位の相対的な位置関係を評価し、バッテリの劣化状態を判定する指標とする。
【0009】
しかしながら、バッテリとしてリチウムイオン電池を用い、このリチウムイオン電池に対して上記方法のようなdV/dQ曲線を用いた解析を行った場合、バッテリの劣化に伴い、dV/dQ曲線のピークがつぶれてしまうことから、バッテリの劣化を判断するための解析が困難になる。このような問題について、
図6(a)~(c)を用いて以下に説明する。
【0010】
図6(a)~(c)は、従来のdV/dQ曲線を用いたバッテリ状態の測定方法を説明する図であり、所定時間使用した実セル(リチウムイオン電池)における正極・負極値に由来する特徴量に対して、予め取得した初期正極単極データP
0及び初期負極単極データN
0(ともに解体したセルで取得した初期データ)をフィッティングさせることで得られるdV/dQ曲線を示した図である。これらのうち、
図6(a)は、実セルを使用した時間t
0におけるdV/dQ曲線(実セル
0)であり、
図6(b)は時間t
1におけるdV/dQ曲線(実セル
1)であり、また、
図6(c)は時間t
2におけるdV/dQ曲線(実セル
2)である。
図6(a)~(c)中に示すように、実セル
0~実セル
1~実セル
2・・・と、時間の経過とともに実セルの劣化が進行すると、図中に示した「実セル_実測」のカーブのピークが徐々につぶれてゆく。一方、dV/dQ曲線の生成に上述した初期単極データ(P
0,N
0)を使い続けると、Simセル
x及び実セル
xのdV/dQ曲線にピーク形状の乖離が発生することから、フィッティングが困難になる。また、劣化に伴うdV/dQ曲線のピークのつぶれを補正することは難しく、また、ピークの最大値でフィッティングすると解析結果が劣るものとなる。このため、バッテリとしてリチウムイオン電池を用いた場合、dV/dQ曲線を用いた解析によってバッテリの劣化を判断することが困難になるという問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上記課題の認識に基づいてなされたものであり、バッテリの劣化状態の解析を、dV/dQ曲線を用いた解析で高い精度で行うことが可能なバッテリ状態の測定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るバッテリ状態の測定技術は、以下の構成を採用する。
(1):この発明の一態様に係るバッテリ状態解の測定法は、少なくとも、バッテリの状態を解析するサーバ装置を備えるバッテリ状態の測定システムを用いたバッテリ状態の測定方法であって、前記サーバ装置のコンピュータが、前記バッテリの状態に関連する物理量を示す物理量データに基づいた、前記バッテリの状態変化に関連する特性を表す複数の特性データを受信し、前記複数の特性データに基づいて、前記バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析で前記バッテリの劣化状態を解析するとともに、前記dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、前記初期正極値と前記負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する、バッテリ状態の測定方法である。
【発明の効果】
【0013】
上述した(1)の態様のバッテリ状態の測定方法によれば、バッテリの劣化状態の解析を、使用したバッテリを解体することなく、サーバ装置におけるdV/dQ解析によって行うことができ、また、dV/dQ曲線のピークがつぶれた場合であっても、劣化に伴う材料特性の変化に追従した高い精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1が採用された車両10の構成の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1の構成の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1を用いて、dV/dQ曲線を生成させてバッテリ状態を解析した際に、dV/dQ曲線のピークがつぶれたときの解析処理の一例を説明する図である。
【
図4】実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1を用いて、dV/dQ曲線を生成させてバッテリ状態を解析した際の、初期、1週間後、2週間後及び4週間後のバッテリの劣化を解析する処理の一例を説明する図である。
【
図5】バッテリ状態の測定システム1における処理の全体の流れ一例を示すシーケンス図である。
【
図6】従来の方法でリチウムイオン電池からなるバッテリの劣化状態を解析した場合のdV/dQ曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1~
図5を参照し、本発明のバッテリ状態の測定技術の実施形態について説明する。以下の説明においては、本発明のバッテリ状態の測定技術が電気自動車(EV)(以下、単に、「車両」と称する場合がある。)に採用された場合の一例について説明するが、本発明のバッテリ状態の測定技術は、車両に搭載されるバッテリに限定されるものではなく、車載以外のバッテリにも適用できるものである。
なお、後述するバッテリ状態の測定システムが採用された車両の構成及びバッテリ状態の測定方法は、いずれも、本発明のバッテリ状態の測定技術の実施形態の一例に過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
[バッテリ状態の測定システムが採用された車両の構成]
本発明のバッテリ状態の測定技術は、例えば、バッテリ状態の測定システムとして活用可能である。
図1は、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1が採用された車両10の構成の一例を示す図である。
図1に示した車両10は、走行用のバッテリ(リチウムイオン電池)から供給される電力で駆動される電動機(電動モータ)によって走行するBEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)である。なお、車両10は、例えば、四輪の車両のみならず、鞍乗り型の二輪の車両や、三輪(前一輪且つ後二輪の他に、前二輪且つ後一輪の車両も含む)の車両、さらには、アシスト式の自転車等、内燃機関の稼働又はバッテリから供給される電力で駆動される電動モータによって走行する車両の全般が含まれる。
【0017】
図1に示す車両10は、例えば、モータ12と、駆動輪14と、ブレーキ装置16と、車両センサ20と、PCU(Power Control Unit)30と、バッテリ40と、電圧センサ、電流センサ、温度センサ等のバッテリセンサ(取得部)42と、通信装置(送信部)50と、表示装置を含むHMI(Human Machine Interface)60と、充電口70と、接続回路72と、を備える。
【0018】
モータ12は、例えば、三相交流電動機である。モータ12の回転子(ロータ)は、駆動輪14に連結される。モータ12は、バッテリ40が備える図示略の蓄電部から供給される電力によって駆動され、回転の動力を駆動輪14に伝達させる。また、モータ12は、車両10の減速時に、車両10の運動エネルギーを用いて発電する。
【0019】
ブレーキ装置16は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、を備える。ブレーキ装置16は、図示略のブレーキペダルに対する、車両10の利用者(運転者)による操作で発生した油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップ機構として備えてもよい。なお、ブレーキ装置16は、上述したような構成には限定されず、例えば、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。
【0020】
車両センサ20は、例えば、アクセル開度センサと、車速センサと、ブレーキ踏量センサと、を備える。アクセル開度センサは、アクセルペダルに取り付けられ、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出し、検出した操作量をアクセル開度として後述するPCU30が備える制御部(観測部)36に出力する。車速センサは、例えば、車両10の各車輪に取り付けられた車輪速センサと速度計算機とを備え、車輪速センサによって検出された車輪速を統合して車両10の速度(車速)を導出し、制御部36及びHMI60に出力する。ブレーキ踏量センサは、ブレーキペダルに取り付けられ、運転者によるブレーキペダルの操作量を検出し、検出した操作量をブレーキ踏量として制御部36に出力する。
【0021】
PCU30は、例えば、変換器32と、VCU(Voltage Control Unit)34と、制御部36と、を備える。なお、
図1においては、これらの構成要素をPCU30として一まとまりの構成として示しているが、図示例はあくまで一例であり、車両10におけるこれらの構成要素は分散的に配置されても構わない。
【0022】
変換器32は、例えば、AC-DC変換器である。変換器32の直流側端子は、直流リンクDLに接続されている。直流リンクDLには、VCU34を介してバッテリ40が接続されている。変換器32は、モータ12によって発電された交流を直流に変換して直流リンクDLに出力する。
【0023】
VCU34は、例えば、DC―DCコンバータである。VCU34は、バッテリ40から供給される電力を昇圧して直流リンクDLに出力する。
【0024】
制御部36は、例えば、モータ制御部と、ブレーキ制御部と、バッテリ・VCU制御部と、を備える。モータ制御部、ブレーキ制御部、及びバッテリ・VCU制御部は、それぞれ別体の制御装置、例えば、モータECU(Electronic Control Unit)、ブレーキECU、バッテリECUといった制御装置に置き換えられてもよい。
【0025】
また、制御部36や、制御部36が備えるモータ制御部と、ブレーキ制御部と、バッテリ・VCU制御部とは、それぞれ、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現される。また、これらの構成要素のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、これらの構成要素の機能のうちの一部又は全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め車両10が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよい。あるいは、プログラムは、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納され、この記憶媒体が車両10に備えられるドライブ装置に装着されることで、車両10が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされる構成でもよい。
【0026】
制御部36は、モータ制御部において、車両センサ20が備えるアクセル開度センサからの出力に基づいて、モータ12の駆動を制御する。また、制御部36は、ブレーキ制御部において、車両センサ20が備えるブレーキ踏量センサからの出力に基づいて、ブレーキ装置16を制御する。また、制御部36は、バッテリ・VCU制御部において、バッテリ40に接続された後述のバッテリセンサ42からの出力に基づいて、例えば、バッテリ40のSOC(State Of Charge;以下「バッテリ充電率」ともいう)を算出し、VCU34及びHMI60に出力する。さらに、制御部36は、車両センサ20により出力された車速の情報をHMI60に出力してもよい。VCU34は、バッテリ・VCU制御部からの指示に応じて、直流リンクDLの電圧を上昇させる。
【0027】
バッテリ40は、例えば、リチウムイオン電池等、充電と放電とを繰り返すことが可能な二次電池である。バッテリ40を構成する二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池、ナトリウムイオン電池等の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、または二次電池とキャパシタとを組み合わせた複合電池等も考えられる。なお、本発明においては、バッテリ40における二次電池の構成に関しては特に規定しない。また、バッテリ40は、車両10に対して着脱自在に装着される、例えば、カセット式等のバッテリパックであってもよい。バッテリ40は、車両10の外部の充電器500から導入される電力を蓄え、車両10の走行のための放電を行う。
上述したように、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1は、特に、リチウムイオン電池の劣化状態を解析する場合において、高精度で劣化状態を解析できるという効果を発揮する。
【0028】
バッテリセンサ42は、バッテリ40の電流や、電圧、温度等の物理量を検出する。
バッテリセンサ42は、例えば、電流センサ、電圧センサ、温度センサを備える。バッテリセンサ42は、電流センサによってバッテリ40を構成する二次電池(以下、単に「バッテリ40」という)の電流を検出し、電圧センサによってバッテリ40の電圧を検出し、さらに、温度センサによってバッテリ40の温度を検出する。バッテリセンサ42は、検出したバッテリ40の電流値、電圧値、温度等の物理量のデータ(以下、「物理量データ」という)を制御部36や通信装置50に出力する。バッテリセンサ42は、特許請求の範囲における「取得部」の一例である。
【0029】
制御部36は、バッテリセンサ42が検出して出力したバッテリ40の電流値、電圧値、温度等の物理量データを観測し、バッテリ40の劣化状態を解析(診断・判定)するために用いる、バッテリ40の状態の変化に関連する特性を算出する。例えば、制御部36は、バッテリセンサ42により出力された電流値と、電圧値と、容量値(正極値及び負極値から求められる)とを観測して、バッテリ40の状態の変化を表す正極単極データP及び負極単極データNを算出する。また、制御部36は、例えば、所定の観測時間で観測した電流値と電圧値と容量値とに基づいて、これらの関係でバッテリ40の状態の変化を表す正極単極データP及び負極単極データNを算出してもよい。所定の観測時間としては、複数の時間(期間)が設定される。この所定の観測時間は、例えば、5秒、10秒、15秒等の期間とすることができる。それぞれの期間は、バッテリ40が充電されている状態であるときと、放電している状態であるときとで、別々の観測時間として設定される。バッテリ40の状態が継続的に同じ状態である期間が「所定の観測時間」の何れかに該当する場合、この期間に観測した物理量データが、該当する観測時間における観測データとして採用される。
例えば、バッテリ40が継続して5秒間放電した期間に観測した物理量データが、放電時間=5秒の観測データとして採用される。また、例えば、バッテリ40が継続して10秒間放電した期間に観測した物理量データが、放電時間=10秒の観測データとして採用される。該当する所定の観測時間が複数ある場合、同じ物理量データが、異なる観測時間の観測データとして重複して採用されてもよい。例えば、バッテリ40が継続して10秒間放電した期間に観測した物理量データのうち、継続した5秒間分の物理量データは、放電時間=5秒の観測データと、放電時間=10秒の観測データとの両方の観測データとして採用されてもよい。
【0030】
制御部36は、所定の観測時間で観測した物理量データ(観測データ)に基づいて算出したバッテリ40の状態の変化に関連するそれぞれの特性を表すデータ(以下、「特性データ」という)を通信装置50に出力する。制御部36は、特許請求の範囲における「観測部」の一例である。
【0031】
通信装置50は、セルラー網やWi-Fi網を接続するための無線モジュールを含む。
通信装置50は、Bluetooth(登録商標)等を利用するための無線モジュールを含んでもよい。通信装置50は、無線モジュールにおける通信によって、車両10に係る種々の情報を、例えば、車両10の走行やバッテリ40の状態を管理する図示略のネットワーク上に設けられた、後述のサーバ装置等との間で送受信する。通信装置50は、制御部36により出力された、バッテリ40の、それぞれの特性データを、後述のサーバ装置200に送信する。通信装置50は、後述のサーバ装置200によって解析され、サーバ装置200から送信されたバッテリ40の劣化状態を表す情報を受信し、受信したバッテリ40の劣化状態を表す情報をHMI60に出力してもよい。通信装置50は、特許請求の範囲における「送信部」の一例である。
【0032】
HMI60は、例えば、運転者等の車両10の利用者に対して各種情報を提示するとともに、利用者による入力操作を受け付ける。HMI60は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)等の表示装置と、入力された操作を検知する入力装置とが組み合わされた、いわゆる、タッチパネルである。HMI60は、表示装置以外の各種表示部や、スピーカ、ブザー、入力装置以外のスイッチや、キー等を含んでもよい。HMI60は、表示装置や入力装置を、例えば、車載用ナビゲーション装置等の表示装置や入力装置と共有してもよい。
【0033】
充電口70は、バッテリ40(リチウムイオン電池)を充電するための機構である。充電口70は、車両10の車体外部に向けて設けられている。充電口70は、充電ケーブル520を介して充電器500に接続される。充電ケーブル520は、第1プラグ522と第2プラグ524と、を備える。第1プラグ522は、充電器500に接続され、第2プラグ524は、充電口70に接続される。充電器500から供給される電気は、充電ケーブル520を介して充電口70に入力(供給)される。
【0034】
また、充電ケーブル520は、電力ケーブルに付設された信号ケーブルを含む。信号ケーブルは、車両10と充電器500の間の通信を仲介する。従って、第1プラグ522及び第2プラグ524のそれぞれには、電力ケーブルを接続する電力コネクタと及び信号ケーブルを接続する信号コネクタが設けられている。
【0035】
接続回路72は、充電口70とバッテリ40との間に設けられる。接続回路72は、充電口70を介して充電器500から導入される電流、例えば、直流電流を、バッテリ40に供給するための電流として伝達する。また、接続回路72は、例えば、直流電流をバッテリ40に対して出力し、バッテリ40(リチウムイオン電池)に電力を蓄えさせる(充電する)。
【0036】
[バッテリ状態の測定システムの構成]
次に、バッテリ40が搭載された車両10を含むバッテリ状態の測定システムの一例について説明する。
図2は、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1の構成の一例を示す図である。
図2に示すバッテリ状態の測定システム1は、例えば、バッテリ40が搭載された車両10が備える車載装置100と、サーバ装置200と、を備え、概略構成される。
【0037】
通信装置50と、サーバ装置200とは、ネットワークNWを介して互いに通信する。
ネットワークNWは、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、プロバイダ装置、無線基地局等を含む無線通信の通信網である。なお、
図2には、ネットワークNWにユーザ端末Tが接続されている状態を示している。この場合、例えば、サーバ装置200は、ネットワークNWを介してユーザ端末Tと通信することも可能である。
【0038】
バッテリ状態の測定システム1は、車両10が備えるバッテリ40の劣化状態を解析・判定するためのシステムである。バッテリ状態の測定システム1では、車両10が備える車載装置100が、算出したバッテリ40の状態の変化に関連するそれぞれの特性データを、ネットワークNWを介してサーバ装置200に送信する。そして、バッテリ状態の測定システム1では、サーバ装置200が、車載装置100により送信されたそれぞれの特性データに基づいて、車両10が備えるバッテリ40の劣化状態を解析する。バッテリ状態の測定システム1では、サーバ装置200が、バッテリ40の劣化状態を解析した結果(解析結果)の情報を、ネットワークNWを介して車両10に送信する。
これにより、例えば、車両10が備えるHMI60が、サーバ装置200から送信された解析結果の情報を、例えば、表示装置に表示して車両10の利用者に提示する。また、バッテリ状態の測定システム1では、サーバ装置200が、バッテリ40の劣化状態の解析結果の情報を、ネットワークNWを介してユーザ端末Tに送信してもよい。これにより、ユーザ端末Tは、サーバ装置200により送信された解析結果の情報を、例えば、車両10の利用者に通知することができる。
【0039】
なお、バッテリ状態の測定システム1は、サーバ装置200が、バッテリ40の劣化状態を解析した結果に基づいて、バッテリ40の劣化状態の学習を行うようにしてもよい。これにより、バッテリ状態の測定システム1は、サーバ装置200が、車両10が備えるバッテリ40の劣化状態をより適切に管理することができる。
【0040】
車載装置100は、例えば、車両10に搭載されたバッテリ40の状態に関連する物理量を示す物理量データを取得するバッテリセンサ(取得部)42と、物理量データに基づいて、バッテリ40の状態変化に関連する特性を観測する制御部(観測部)36と、観測された特性を表す複数の特性データをサーバ装置200に送信する通信装置(送信部)50と、を備える。
【0041】
バッテリセンサ42は、バッテリ40の電流値、電圧値、温度を、例えば、10ミリ秒間隔で検出する。バッテリセンサ42は、検出したバッテリ40の電流値、電圧値、温度等の物理量データを制御部36に出力する。
【0042】
制御部36は、バッテリセンサ42により出力されたバッテリ40の電流値、電圧値、容量値、温度等の物理量データを観測し、観測した物理量データに基づいてバッテリ40の状態を表す特性データを生成する。特性データとは、例えば、バッテリ40の劣化状態を解析するために用いるバッテリ40のdV/dQを表すデータである。制御部36は、例えば、放電時間が5秒のとき、10秒のとき、15秒のときの、それぞれの観測時間における特性データや、充電時間が5秒のとき、10秒のとき、15秒のときの、それぞれの観測時間における特性データを生成する構成とすることができる。この場合、制御部36は、例えば、タイマー機能により、それぞれの観測時間の期間を計時し、計時している観測時間の期間中に観測した物理量データに基づいて、それぞれの特性データを生成する。例えば、放電時間=5秒の観測時間におけるdV/dQを表す特性データを生成する場合、制御部36は、バッテリ40が連続して放電している5秒間を計時し、計時している期間中に、バッテリセンサ42が、例えば、10ミリ秒間隔で検出して出力したバッテリ40の物理量データを観測して得た、それぞれの電圧値と、対応する容量値とに基づいてdV/dQを表す特性データを生成する。同様に、制御部36は、放電時間=10秒、放電時間=15秒の、それぞれの観測時間における特性データや、充電時間=5秒、充電時間=10秒、充電時間=15秒の、それぞれの観測時間におけるdV/dQを表す特性データを生成する。
【0043】
dV/dQを表す特性データは、図示は省略するが、例えば、観測して得たそれぞれの容量値を横軸とし、これに対応する電圧値の容量微分を縦軸とした充放電曲線から得られるものである。このdV/dQは、バッテリ40の劣化状態の解析に用いるデータである。なお、制御部36は、観測時間の開始時に観測した物理量データと、観測時間の終了時に観測した物理量データを特性データとしてもよい。つまり、制御部36は、観測時間の開始時及び終了時における二つの電流値と二つの電圧値と二つの容量値との組(四つの物理量データ)を、dV/dQを表す一つの特性データとしてもよい。
【0044】
制御部36は、上記のように生成された特性データを、観測時間の情報と、バッテリ40が充電されている状態であるか放電している状態であるかの情報とを含めて、通信装置50に出力する。また、特性データには、バッテリ40の温度の変化を示す情報や、バッテリ40のSOC(バッテリ充電率)の情報が含まれていてもよい。
【0045】
通信装置50は、制御部36により出力された、それぞれの観測時間ごとのバッテリ40の特性データを、ネットワークNWを介した通信によってサーバ装置200に送信する。
【0046】
ユーザ端末Tは、例えば、車両10の運転者等、ユーザ端末Tの利用者(以下、「ユーザU」と称する場合がある。)が保有するスマートフォンやタブレット端末等の端末装置である。ユーザ端末Tは、例えば、ユーザUが使用する据え置き型の端末装置であってもよい。ユーザ端末Tでは、バッテリ40の劣化状態の確認や通知を受けるためのアプリケーション(以下、「バッテリ確認アプリケーション」という)等が実行されている。ユーザ端末Tは、サーバ装置200から送信された解析結果の情報を受信した場合、受信した解析結果の情報を、例えば、表示装置に表示することによってユーザUに提示する。ユーザUは、ユーザ端末Tによって実行されているバッテリ確認アプリケーションを操作することにより、任意のタイミングで、サーバ装置200に対してバッテリ40の現在の劣化状態の確認を要求することができる。この場合、ユーザ端末Tは、バッテリ40の劣化状態の送信を要求する確認要求を、ネットワークNWを介してサーバ装置200に送信する。
【0047】
サーバ装置200は、車両10が備えるバッテリ40の劣化状態を管理する。サーバ装置200は、例えば、通信部(受信部)202と、診断部(解析部)204と、を備える。通信部202と診断部204とは、それぞれ、例えば、CPUなどのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現される。また、これらの構成要素のうちの一部又は全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、これらの構成要素の機能のうちの一部又は全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予めサーバ装置200が備えるHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよい。あるいは、プログラムは、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納され、この記憶媒体がサーバ装置200に備えられるドライブ装置に装着されることで、サーバ装置200が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされる構成でもよい。
【0048】
通信部202は、ネットワークNWを介して、車両10が備える通信装置50や、ユーザ端末Tとの間で通信を行うことで情報のやり取りをする。通信部202は、車両10が備える車載装置100により送信されたバッテリ40のそれぞれの特性データを、ネットワークNWを介した通信によって受信する。通信部202は、受信したバッテリ40の、それぞれの特性データを、診断部204に出力する。通信部202は、ユーザ端末Tにより送信されたバッテリ40の確認要求を、ネットワークNWを介した通信によって受信した場合、受信したバッテリ40の確認要求を診断部204に出力する。通信部202は、特許請求の範囲における「受信部」の一例である。
【0049】
診断部204は、通信部202から出力された、バッテリ40の、それぞれの特性データに基づいて、バッテリ40の劣化状態を解析する。より具体的には、診断部204は、通信部202により出力された、バッテリ40の、それぞれの特性データを、特性データに含まれる観測時間ごとに分けて収集する。そして、診断部204は、収集した所定の観測時間の複数の特性データが含まれる特性データ群を基準として、バッテリ40の劣化状態を解析する。車載装置100によってdV/dQを表す特性データが送信された場合、診断部204は、例えば、所定の観測時間の複数のdV/dQを表す特性データが含まれる特性データ群を基準として、バッテリ40の劣化状態をdV/dQ解析する。バッテリ40の劣化状態を解析する際に診断部204が基準とする所定の観測時間は、例えば、最も高頻度に収集することができる、観測時間が最も短い5秒のときの特性データ群である。診断部204は、基準とした観測時間以外の観測時間の特性データ群を、バッテリ40の劣化状態を解析する際の補助として用いる。例えば、観測時間が5秒のときの特性データ群を基準とした場合、診断部204は、観測時間が10秒や15秒のときの特性データ群を、バッテリ40の劣化状態を解析した解析結果を補正するために用いる。
【0050】
ここで、診断部204におけるバッテリ40の劣化状態の解析の一例について説明する。
図3は、サーバ装置200(より具体的には、診断部204)におけるバッテリ40の劣化状態の解析処理の一例を説明する図であり、dV/dQ曲線でバッテリ状態を解析した際に、dV/dQ曲線のピークがつぶれたときの解析処理の一例を説明するグラフである。
図3(a)には、車載装置100から送信された放電時間がt
0のときのdV/dQ曲線を、
図3(b)には、放電時間がt
1のときのdV/dQ曲線を、
図3(c)には、放電時間がt
2のときのdV/dQ曲線を、それぞれ示している。これら
図3(a)~(c)において、横軸は容量値(Ah)であり、縦軸はdV/dQである。
【0051】
上述したように、診断部204は、車載装置100により送信されて通信部202から出力された、バッテリ40のdV/dQを表す特性データを、観測時間ごとに分けて収集する。
図3(a)~(c)においては、診断部204が、放電時間がt
0のときのdV/dQを表す特性データと、放電時間がt
1のときのdV/dQ曲線を表す特性データと、放電時間がt
2のときのdV/dQを表す特性データとを分けて、それぞれの特性データ群として収集する。
【0052】
診断部204は、上記の特性データに基づき、バッテリ40の基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析でバッテリ40の劣化状態を解析する。
診断部204は、以下に詳述するように、dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、初期正極値と負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する。
【0053】
ここで、上述した
図3(a)~(c)のグラフは、それぞれ、上記時間で使用したバッテリ40における正極単極データP及び負極単極データNの実測値に対して、予め、バッテリ40を初期段階で解体し、コインセルの状態で取得した初期正極単極データ(初期正極値)P
0及び初期負極単極データN
0をフィッティングさせることで得られたdV/dQ曲線を示している。
図3(a)は、実セルを使用した時間t
0におけるdV/dQ曲線(実セル
0)であり、
図3(b)は時間t
1におけるdV/dQ曲線(実セル
1)であり、また、
図3(c)は時間t
2におけるdV/dQ曲線(実セル
2)である。
【0054】
まず、予め、バッテリ40を初期段階で解体し、コインセルの状態で初期正極単極データP0及び初期負極単極データN0を取得し、それぞれの初期単極状態のAh-OCP(Open Circuit Potential)曲線を得る。また、観測して得たそれぞれのAh-OCP曲線に対して、容量値を横軸とし、これに対応する電圧値の容量微分を縦軸としたdV/dQ曲線を得る。そして、単極Simセル0のAh-OCP曲線、すなわち容量は、上記の単極正極及び負極Ah-OCP曲線から求められる。
【0055】
次いで、
図3(a)に示すように、初期正極単極データP
0及び初期負極単極データN
0を用いて、実セル
0のdV/dQ曲線の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、実セルスケールの正極単極データP及び負極単極データNを生成させ、Simセル
0のdV/dQ曲線を生成させる。そして、dV/dQ解析で最適化された初期正極単極データP
0及びSimセル
0を用いて、仮想負極単極データN
0’を生成する。このときのセルと各単極データとのdV/dQの関係は、下記式(1)で表される。
[dSimV
セル/dQ]-[dV
正極/dQ]=[dV
負極/dQ] ・・・・・(1)
【0056】
次いで、
図3(b)に示すように、初期正極単極データP
0及び上記の仮想負極単極データN
0’を用いて、バッテリ40を使用した時間t
1(例えば2週間後)における実セル
1の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、dV/dQ曲線を生成する。この際、dV/dQ解析で最適化された正極単極データPのdV/dQ曲線を、実セル
1のdV/dQ曲線から差し引くことにより、劣化後負極単極データ(負極値)N
1のdV/dQ曲線を生成させる。このときのセルと各単極データとのdV/dQの関係も、上記式(1)で表される。
【0057】
次いで、
図3(c)に示すように、初期正極単極データP
0及び上記の劣化後負極単極データN
1を用いて、使用した時間t
2(例えば4週間後)における実セル
2の正極・負極に由来する特徴量とフィッティングすることで、dV/dQ曲線を生成する。
【0058】
実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1では、
図3(a)~(c)に示すような処理を繰り返すことにより、n回目の負極単極データNのdV/dQ曲線のフィッティングを、n-1回目に更新した負極単極データN
n-1を用いたdV/dQ曲線を用いて行う。
【0059】
図3(a)~
図3(c)中に示すように、実セル
0~実セル
1~実セル
2・・・と、時間の経過とともに実セルの劣化が進行すると、図中に示した「実セル_実測」のカーブのピークが徐々につぶれてゆく。一方、実施形態に係るバッテリ状態の測定システム1では、負極単極データN
n-1を更新してゆくため、更新された負極単極データN
n-1を用いて生成されるSimセル
xのデータも、実セル
xと同様、dV/dQ曲線のピークのつぶれを再現できるので、フィッティング精度を向上させることが可能となる。これにより、dV/dQ曲線を用いてリチウムイオン電池からなるバッテリ40の劣化を解析する場合であっても、正極及び負極の容量劣化量や、正負極の電位の相対的な位置関係を高精度で評価できるので、正極・負極の容量値(Ah)-OCP曲線を用いて求められるセル容量のSimの精度を高めることが可能となる。
【0060】
以下、
図4(a)~(d)を参照して、負極単極データNのdV/dQ曲線を更新する手順について説明する。
図4は、dV/dQ曲線を用いて、初期(
図4(a))、1週間後(
図4(b))、2週間後(
図4(c))及び4週間後(
図4(d))のバッテリ40の劣化を解析する処理の一例を説明するグラフである。
【0061】
図4(a)~
図4(c)に示す手順においても、上述した
図3(a)~(c)を参照した説明と同様、初期~1週間後~2週間後~4週間後と、負極単極データN
n-1を更新することで、dV/dQ曲線のピークのつぶれを再現できるので、フィッティング精度を顕著に向上させることが可能となる。
【0062】
図2に戻り、診断部204は、解析したバッテリ40の劣化状態を表す解析結果の情報を、通信部202に出力する。なお、診断部204は、通信部202によりユーザ端末Tからの確認要求が出力された場合、現時点までに収集した特性データを用いて解析したバッテリ40の現時点の劣化状態を表す解析結果の情報を、通信部202に出力する。
【0063】
通信部202は、診断部204により出力された解析結果の情報を、ネットワークNWを介した通信により、車両10が備える車載装置100やユーザ端末Tに送信する。これにより、診断部204が解析したバッテリ40の劣化状態の解析結果が、車両10が備えるHMI60によって、例えば、表示装置に表示される。また、診断部204が解析したバッテリ40の劣化状態の解析結果が、バッテリ確認アプリケーションによってユーザ端末Tの表示装置に表示され、ユーザUに提示されてもよい。
【0064】
[バッテリ状態の測定システムの全体の処理の流れ]
次に、バッテリ状態の測定システム1においてバッテリ40の劣化状態を解析(診断・判定)する処理の全体の流れの一例について説明する。
図5は、バッテリ状態の測定システム1における処理の全体の流れ一例を示すシーケンス図である。
図5には、バッテリ状態の測定システム1においてバッテリ40の劣化状態を解析する際に連携する車載装置100とサーバ装置200の間の処理の一例を示している。本シーケンス図の処理は、車両10においてバッテリ40が利用されている期間の間、繰り返し実行される。なお、車載装置100及びサーバ装置200のそれぞれは、
図2に示したようなそれぞれの構成要素が対応する動作を行うが、以下の説明においては、説明を容易にするため、車載装置100とサーバ装置200とが直接、バッテリ40の劣化状態を解析するための情報や解析結果の情報をやり取りするものとする。また、以下の説明においては、複数の特性データから得られたdV/dQ曲線に基づいて、バッテリ40の劣化状態を解析するものとする。なお、車載装置100におけるバッテリ40の物理量データの観測は、バッテリ40が充電されている状態であるか放電している状態であるかに関わらず行われるが、以下の説明においては、説明を容易にするため、バッテリ40は放電している状態となったときに物理量データの観測を開始するものとする。
【0065】
図5に示すバッテリ状態の測定システム1における処理の一例では、まず、車両10においてバッテリ40の利用が開始されて放電している状態になると、車載装置100は、バッテリ40の物理量データの観測を開始する(ステップS10)。
【0066】
その後、車載装置100は、観測時間(放電時間)=5秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS20)。つまり、車載装置100は、放電時間=5秒の間、バッテリ40が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置100は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ40における観測時間(放電時間)=5秒のdV/dQを算出する(ステップS22)。そして、車載装置100は、算出した観測時間(放電時間)=5秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS24)。これにより、サーバ装置200は、車載装置100により送信された特性データを、放電時間=5秒の特性データ群として収集する(ステップS50)。また、車載装置100は、処理をステップS30に進める。
【0067】
一方、ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置100は、処理をステップS30に進める。なお、ステップS20において放電時間=5秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=5秒の間に、バッテリ40が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置100は、バッテリ40が充電されている状態における観測時間(充電時間)=5秒の物理量データの観測を開始する。
【0068】
続いて、車載装置100は、観測時間(放電時間)=10秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS30)。つまり、車載装置100は、放電時間=5秒の後に引き続く5秒間の間、またはステップS20の確認後、あるいは、放電時間=5秒の開始のタイミングとは異なるタイミングから開始した10秒間の間、バッテリ40が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置100は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ40における観測時間(放電時間)=10秒のdV/dQを算出する(ステップS32)。そして、車載装置100は、算出した観測時間(放電時間)=10秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS34)。これにより、サーバ装置200は、ステップS50において、車載装置100により送信された特性データを、放電時間=10秒の特性データ群として収集する。また、車載装置100は、処理をステップS40に進める。
【0069】
一方、ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置100は、処理をステップS40に進める。なお、ステップS30において放電時間=10秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=5秒の後に引き続く5秒間の間、または放電時間=10秒の間に、バッテリ40が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置100は、バッテリ40が充電されている状態における観測時間(充電時間)=10秒の物理量データの観測を開始する。
【0070】
続いて、車載装置100は、観測時間(放電時間)=15秒の物理量データを観測したか否かを確認する(ステップS40)。つまり、車載装置100は、放電時間=10秒の後に引き続く5秒間の間、またはステップS30の確認後、あるいは、放電時間=5秒や、放電時間=10秒の開始のタイミングとは異なるタイミングから開始した15秒間の間、バッテリ40が連続して放電している状態の物理量データを観測することができたか否かを確認する。ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測したことを確認した場合、車載装置100は、観測した物理量データに基づいて、バッテリ40における観測時間(放電時間)=15秒のdV/dQを算出する(ステップS42)。そして、車載装置100は、算出した観測時間(放電時間)=15秒のdV/dQを表す特性データを生成して、サーバ装置200に送信する(ステップS44)。これにより、サーバ装置200は、ステップS50において、車載装置100により送信された特性データを、放電時間=15秒の特性データ群として収集する。また、車載装置100は、次の観測時間(放電時間)における物理量データの観測を継続する。
【0071】
一方、ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測していないことを確認した場合、車載装置100は、次の観測時間(放電時間)における物理量データの観測を継続する。なお、ステップS40において放電時間=15秒の物理量データを観測していないということは、例えば、放電時間=10秒の後に引き続く5秒間の間、または放電時間=15秒の間に、バッテリ40が放電をしている状態から充電されている状態に変化した場合等が考えられる。この場合、車載装置100は、バッテリ40が充電されている状態における観測時間(充電時間)=15秒の物理量データの観測を開始する。
【0072】
その後、サーバ装置200は、ステップS50において収集した、それぞれの観測時間の特性データが含まれる特性データ群に基づいて、バッテリ40の劣化状態を解析する(ステップS60)。なお、サーバ装置200がステップS60におけるバッテリ40の劣化状態の解析を開始するタイミングは、任意のタイミングである。例えば、サーバ装置200は、基準とする観測時間の特性データ(例えば、放電時間=5秒の特性データ)をバッテリ40の劣化状態を解析するために必要な分だけ収集した後に、バッテリ40の劣化状態の解析を開始してもよい。また、例えば、サーバ装置200は、解析したバッテリ40の劣化状態の解析結果の補正に用いる観測時間の特性データ(例えば、放電時間=10秒や15秒の特性データ)を解析結果の補正に必要な分だけ収集した後に、バッテリ40の劣化状態の解析を開始してもよい。また、例えば、サーバ装置200は、ユーザ端末Tにより送信されたバッテリ40の確認要求を受信したときに、バッテリ40の劣化状態の解析を開始してもよい。
【0073】
そして、サーバ装置200は、バッテリ40の劣化状態を解析した解析結果の情報を、車載装置100に送信する(ステップS62)。これにより、車載装置100は、サーバ装置200により送信されたバッテリ40の劣化状態を解析した解析結果の情報を、例えば、車両10が備えるHMI60に出力し、HMI60により表示装置に表示させて、車両10の利用者に提示させる(ステップS70)。
【0074】
このような全体の処理の流れによって、バッテリ状態の測定システム1では、バッテリ40が搭載された車両10が備える車載装置100とサーバ装置200とがそれぞれ連携して、バッテリ40の劣化状態を解析する。このとき、バッテリ状態の測定システム1では、車載装置100においてバッテリ40の劣化状態の解析に関する一定程度の処理(所定の観測時間のdV/dQを算出する処理)を行って、バッテリ40の劣化状態の解析に用いるdV/dQを表す特性データを生成してサーバ装置200に送信する。これにより、バッテリ状態の測定システム1では、車載装置100がバッテリ40の劣化状態を解析するよりも、車載装置100における演算の負荷を軽減するとともに、サーバ装置200が、より高い精度でバッテリ40の劣化状態を解析して、車両10が備えるバッテリ40の劣化状態を管理することができる。
【0075】
しかも、バッテリ状態の測定システム1では、車載装置100がサーバ装置200に送信する、バッテリ40の、それぞれの特性データは、車載装置100において生成した特性データであるため、例えば、バッテリセンサ42が検出した物理量データよりもデータ量が削減されている。このため、バッテリ状態の測定システム1では、車載装置100とサーバ装置200との間のネットワークNWにおける情報(データ)の通信帯域の圧迫を抑えることができる。
【0076】
また、バッテリ状態の測定システム1では、サーバ装置200が解析したバッテリ40の劣化状態の解析結果を、ユーザ端末Tに送信することもできる。これにより、例えば、車両10の運転者などのユーザ端末Tの利用者(ユーザU)は、車両10に乗車していないときでも、任意のタイミングで現在のバッテリ40の劣化状態を確認することができる。
なお、サーバ装置200とユーザ端末Tとの間の処理の流れは、バッテリ確認アプリケーションが実行されている状態のユーザ端末Tからサーバ装置200への確認要求の送信と、サーバ装置200からユーザ端末Tへのバッテリ40の劣化状態の解析結果の送信との処理であり、容易に理解することができる。このため、サーバ装置200とユーザ端末Tとの間の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0077】
図5のシーケンス図で示した流れで処理を行うバッテリ状態の測定システムによれば、車両10が備える車載装置が、検出したバッテリの物理量を複数の異なる観測時間で観測し、バッテリの状態変化に関連する特性を算出して生成した特性データをサーバ装置に送信する。そして、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、サーバ装置が、車載装置により送信されたバッテリの状態変化に関連する特性を表す特性データを観測時間ごとに分けて収集し、収集したバッテリの状態変化に関連する特性を表す特性データ群に基づいて、バッテリの劣化状態を解析する。これにより、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、サーバ装置においてバッテリの劣化状態をより高い精度で解析して、車両が備えるバッテリの劣化状態を管理することができる。しかも、実施形態のバッテリ状態の測定システムでは、車載装置が、バッテリの状態変化に関連する特性を求める処理をある程度完了した状態の特性データをサーバ装置に送信するため、車載装置とサーバ装置との間のネットワークNWにおける情報(データ)の通信帯域の圧迫を抑えた状態で、バッテリの劣化状態を解析して管理することができる。
【0078】
以上説明した実施形態のバッテリ状態の測定システムによれば、車載装置100が、車両10に搭載されたバッテリ40の状態に関連する物理量を示す物理量データを取得するバッテリセンサ42と、物理量データに基づいて、バッテリ40の状態変化に関連する特性を観測する制御部36と、観測された特性を表す複数の特性データをサーバ装置200に送信する通信装置50とを備え、サーバ装置200が、車載装置100により送信された複数の特性データを受信する通信部202と、複数の特性データに基づいてバッテリ40の劣化状態を解析する診断部204と、を備える。そして、実施形態のバッテリ状態の測定システムは、診断部204が、バッテリ40の基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析でバッテリ40の劣化状態を解析するとともに、dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、初期正極値と負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する。これにより、バッテリ40の劣化によってdV/dQ曲線のピークがつぶれた場合であっても、バッテリ40の基準容量に対する電圧の変動特性を精度良く認識することができるので、生成した劣化判定用のdV/dQ曲線を、当該バッテリの初期状態において取得されたdV/dQ曲線と比較することで、バッテリ40が初期状態からどの程度劣化したかを高精度で検出・判定することが可能となる。従って、バッテリ状態の測定システムが採用された車両10では、サーバ装置200において車両10が備えるバッテリ40の劣化状態をより高い精度で管理し、例えば、車両10が走行することができる距離が著しく短くなるような状態を、事前に車両10の利用者に通知するなど、車両10を利用する際の利便性を向上させることが可能になる。
【0079】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
少なくとも、バッテリの状態を解析するサーバ装置を備えるバッテリ状態の測定システムであって、
前記サーバ装置は、
ハードウェアプロセッサと、
プログラムを記憶した記憶装置と、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、前記バッテリの状態に関連する物理量を示す物理量データに基づいた、前記バッテリの状態変化に関連する特性を表す複数の特性データを受信し、前記バッテリの基準容量の変化に対する電圧の変化量を示すdV/dQ曲線による解析で前記バッテリの劣化状態を解析するとともに、前記dV/dQ曲線における初期正極値と1サイクル前のセル値に基づいて負極値を求め、前記初期正極値と前記負極値に基づいてセル値を算出する処理を繰り返し実行する、
ように構成されている、バッテリ状態の測定システム。
【0080】
なお、実施形態では、バッテリ状態の測定システムが採用された車両10がBEVである場合について説明した。しかしながら、電気自動車としては、燃料によって稼働するエンジンなどの内燃機関の稼働に応じて供給される電力、又は走行用のバッテリ(リチウムイオン電池)から供給される電力によって駆動される電動機(電動モータ)によって走行する、例えば、ハイブリッド電気自動車(HEV)等もある。このため、バッテリ状態の測定システムは、このようなハイブリッド電気自動車においても採用することができる。この場合、ハイブリッド電気自動車では、内燃機関が稼働してバッテリを充電するときも、バッテリの劣化状態を解析するために物理量データを観測する対象の観測時間となる。このような場合においても、上記同様に、サーバ装置においてハイブリッド電気自動車に搭載されたバッテリの劣化状態の解析を、より高い精度で行うことができる。なお、ハイブリッド電気自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れは、上述した実施形態におけるBEVに採用されたバッテリ状態の測定システムの全体的な処理の流れと同様に考えることにより、容易に理解することができる。このため、ハイブリッド電気自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0081】
また、例えば、FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)等のような、燃料電池から供給される電力によって駆動される電動モータで走行する電動車両もある。バッテリ状態の測定システムは、燃料電池自動車においても採用することができる。この場合、実施形態において説明したバッテリが燃料電池に置き換わることになる。この燃料電池においても、バッテリとは異なる原因ではあるが、使用過程において劣化が発生する。このため、バッテリ状態の測定システムは、このような燃料電池自動車においても採用することができる。但し、車載装置において観測する物理量や、サーバ装置において劣化状態を解析する処理は、燃料電池自動車に搭載された燃料電池に対応するものとなる。一方、燃料電池自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れも、上述した実施形態におけるBEVに採用されたバッテリ状態の測定システムの全体的な処理の流れと同様に考えることにより、容易に理解することができる。このため、燃料電池自動車に採用されたバッテリ状態の測定システムにおける全体の処理の流れに関する詳細な説明は省略する。
【0082】
以上、本発明のバッテリ状態の測定技術を車両において実施する形態について説明したが、本発明は、電源(コンセント)と、充電器と、バッテリと、を備える構成であれば車両以外において実施する形態であってもよい。
【0083】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・バッテリ状態の測定システム
10・・・車両
12・・・モータ
14・・・駆動輪
16・・・ブレーキ装置
20・・・車両センサ
30・・・PCU
32・・・変換器
34・・・VCU
36・・・制御部(観測部)
40・・・バッテリ
42・・・バッテリセンサ(取得部)
50・・・通信装置
60・・・HMI
70・・・充電口
72・・・接続回路
100・・・車載装置
200・・・サーバ装置
202・・・通信部(受信部)
204・・・診断部(解析部)
500・・・充電器
520・・・充電ケーブル
522・・・第1プラグ
524・・・第2プラグ
T・・・ユーザ端末
NW・・・ネットワーク