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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】多板式摩擦クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/21 20060101AFI20231207BHJP
   F16D 13/64 20060101ALI20231207BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16D43/21
F16D13/64 C
F16D13/52 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022055128
(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公開番号】P2023147560
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】松永 直也
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-116723(JP,A)
【文献】実開昭58-69123(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力回転軸(21)に回転自在に軸支されて内燃機関(E)からの駆動トルクが入力されるクラッチハウジング(50)と、
前記出力回転軸(21)に連結されるクラッチセンタ(61,62)と、
前記クラッチハウジング(50)と前記クラッチセンタ(61,62)との間でトルクの伝達及び遮断を行う複数のプレート部材(71,72)からなるクラッチ部(70)と、
前記クラッチ部(70)を前記クラッチセンタとの間で押圧するプレッシャプレート(80)と、
前記クラッチ部(70)を押圧する方向に前記プレッシャプレート(80)を付勢する付勢手段(84)と、
を備える多板式摩擦クラッチ(C)において、
前記クラッチセンタ(61,62)は、前記出力回転軸(21)に相対回転不能に軸支される第1クラッチセンタ(61)と、前記第1クラッチセンタ(61)に相対回転可能に支承され前記プレッシャプレート(80)との間で前記クラッチ部(70)を挟む第2クラッチセンタ(62)とからなり、
前記第1クラッチセンタ(61)と前記第2クラッチセンタ(62)の間には、互いの相対回転により圧縮変形して動力伝達する弾性部材(75a,75b)が介在し、
前記第2クラッチセンタ(62)は、前記プレッシャプレート(80)に対面する側壁(62b)の前記弾性部材(75b)に対向する箇所に、軸方向に貫通する開口部(62h)を有し、
前記開口部(62h)に嵌挿されたプッシュロッド(63)が、前記弾性部材(75b)の圧縮変形により軸方向に移動させられ前記プレッシャプレート(80)を押圧可能であることを特徴とする多板式摩擦クラッチ。
【請求項2】
前記第1クラッチセンタ(61)から前記第2クラッチセンタ(62)に動力伝達するときにのみ圧縮変形する弾性部材(75b)により前記プッシュロッド(63)は軸方向に移動させられることを特徴とする請求項1に記載の多板式摩擦クラッチ。
【請求項3】
前記プッシュロッド(63)は、前記第2クラッチセンタ(62)の前記側壁(62b)に周方向に等間隔に複数設けられることを特徴とする請求項2に記載の多板式摩擦クラッチ。
【請求項4】
前記プッシュロッド(63)は、ばね部材(64)により前記弾性部材(75b)に当接するように付勢されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の多板式摩擦クラッチ。
【請求項5】
前記プッシュロッド(63)と前記プレッシャプレート(80)の間には、空隙(S)が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の多板式摩擦クラッチ。
【請求項6】
前記プッシュロッドは、前記プレッシャプレート(80)を押圧する第1プッシュロッド(63a)と前記弾性部材(75b)に圧接する第2プッシュロッド(63b)とからなり、
前記第1プッシュロッド(63a)と前記第2プッシュロッド(63b)は、互いの間で前記ばね部材(64´)が圧縮状態で介装されて離接可能に離間して配設されることを特徴とする請求項4に記載の多板式摩擦クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多板式摩擦クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車において、内燃機関からの動力を変速機に伝達または遮断するために多板式摩擦クラッチが一般に用いられている。
かかる二輪車用の多板式摩擦クラッチにおいては、出力側の回転が入力側の回転を上回る所謂バックトルクが生じる場合があるが、バックトルクが生じた際に、カム機構が作動して、クラッチ容量(伝達トルクの大きさ)を低下することでタイヤへの急激な制動を抑制する例(例えば、特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2011/049109
【0004】
特許文献1に開示された多板式摩擦クラッチは、駆動トルクが入力されるクラッチハウジングと出力回転軸に連結されるクラッチセンタとの間に、トルクの伝達及び遮断を行う複数のディスク部材(プレート部材)からなるクラッチ部を有し、同クラッチ部をプレッシャプレートがクラッチセンタとの間で押圧する。
そして、クラッチセンタと出力回転軸との間にバックトルクリミッタ機構が設けられている。
【0005】
バックトルクリミッタは、クラッチセンタと一体に回転する第1リングと出力回転軸と一体に回転する第2リングとの間で突起どうしが係合するカム機構が構成されたものである。
【0006】
内燃機関側から変速機側にトルクが伝達される場合は、第1リングと第2リングの各突起の回転方向に垂直な垂直係合面どうしが係合して滑りなく第1リングから第2リングにトルクが伝達され、第2リングから出力回転軸に伝達される。
すなわち、伝達トルクを抑制されず内燃機関側から変速機側にトルクが伝達される。
【0007】
一方、出力側の回転が入力側の回転を越えてバックトルクが作用した場合は、第1リングと第2リングの各突起の回転方向に垂直な面と傾斜角度をもった傾斜係合面どうしが係合して摺接して第1リングにスラスト力が働き、第1リングを第2リングから離れる軸方向に移動する。
【0008】
第1リングとともにクラッチセンタが移動すると、クラッチ部を押圧する方向と反対方向にプレッシャプレートを移動することになり、クラッチ部を押圧する力を抑制することになり、クラッチ容量を低下することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されたバックトルクリミッタのカム機構は、第1リングと第2リングの各突起にそれぞれ垂直係合面と傾斜係合面を有することで、第1リングと第2リングの垂直係合面どうしが接している時、傾斜係合面どうし間に隙間が形成される。
この隙間があると、傾斜面駆動時に衝突によるプレッシャプレートのリフトが発生し、クラッチの作動性が劣ることになる。
また、ここで言う作動性とは、レバーヒッティングを指し、レバーヒッティングは、スリッパー作動時(傾斜面駆動時)の傾斜係合面どうしの衝突によりリフトが発生し、それに伴いクラッチレバーが追従して勝手に動いてしまう事象のことである。
【0010】
第1リングと第2リングの傾斜係合面どうしの摺接によるプレッシャプレートの移動がクラッチ容量を低下させるので、傾斜係合面の傾斜角度によってクラッチ容量が決められていて、クラッチ容量を調整することは難しい。
【0011】
また、発進時のトルク変動が大きいときに、垂直係合面どうしの衝突の反動で第1リングと第2リングが正逆双方の相対回転が繰り返されることがあり、その際に、傾斜係合面どうしの摺接によりクラッチ容量を低下させてしまい、発進が円滑に行われないことがある。
【0012】
カム伝達では、必要なクラッチ容量にするために、傾斜角度、カム数。プレッシャプレート側のクラッチ摩擦材の勘合枚数を設定することになる。
しかし、カム許容面圧により上記が制限されるため、実用されているアルミカム仕様ではクラッチ容量の限界が低い。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、作動性に優れ、発進が円滑に行え、クラッチ容量を容易に調整できる多板式摩擦クラッチを供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、
出力回転軸に回転自在に軸支されて内燃機関からの駆動トルクが入力されるクラッチハウジングと、
前記出力回転軸に連結されるクラッチセンタと、
前記クラッチハウジングと前記クラッチセンタとの間でトルクの伝達及び遮断を行う複数のプレート部材からなるクラッチ部と、
前記クラッチ部を前記クラッチセンタとの間で押圧するプレッシャプレートと、
前記クラッチ部を押圧する方向に前記プレッシャプレートを付勢する付勢手段と、
を備える多板式摩擦クラッチにおいて、
前記クラッチセンタは、前記出力回転軸に相対回転不能に軸支される第1クラッチセンタと、前記第1クラッチセンタに相対回転可能に支承され前記プレッシャプレートとの間で前記クラッチ部を挟む第2クラッチセンタとからなり、
前記第1クラッチセンタと前記第2クラッチセンタの間には、互いの相対回転により圧縮変形して動力伝達する弾性部材が介在し、
前記第2クラッチセンタは、前記プレッシャプレートに対面する側壁の前記弾性部材に対向する箇所に、軸方向に貫通する開口部を有し、
前記開口部に嵌挿されたプッシュロッドが、前記弾性部材の圧縮変形により軸方向に移動させられ前記プレッシャプレートを押圧可能である多板式摩擦クラッチを提供する。
【0015】
この構成によれば、本多板式摩擦クラッチの入力側または出力側から過大な力が加わると、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタが大きく相対回転し、両者間に介在する弾性部材が圧縮変形して第2クラッチセンタの開口部に嵌挿されたプッシュロッドを押して、開口部から突出したプッシュロッドがプレッシャプレートを押圧して、付勢手段により付勢されたプレッシャプレートを押し戻すことができ、クラッチ容量を低下させることができる。
【0016】
本発明の好適な実施形態では、
前記第1クラッチセンタから前記第2クラッチセンタに動力伝達するときにのみ圧縮変形する弾性部材により前記プッシュロッドは軸方向に移動させられる。
【0017】
この構成によれば、出力回転軸側から過大なバックトルクが加わると、第1クラッチセンタから第2クラッチセンタにトルク伝達がなされるので、このトルク伝達の際に圧縮変形する弾性部材の圧縮変形により、プッシュロッドは軸方向に移動させられ、プレッシャプレートを押圧して付勢手段により付勢されたプレッシャプレートを押し戻し、クラッチ部を押圧する力を抑制すことができ、クラッチ容量を低下させることができる。
【0018】
なお、第1クラッチセンタから第2クラッチセンタにトルク伝達がなされる際に圧縮変形する弾性部材は、逆に第2クラッチセンタから第1クラッチセンタにトルク伝達されるときは、圧縮変形せず、プッシュロッドがプレッシャプレートを押し戻すことはなく、クラッチ容量を低下させることはない。
【0019】
本発明の好適な実施形態では、
前記プッシュロッドは、前記第2クラッチセンタの前記側壁に周方向に等間隔に複数設けられる。
【0020】
この構成によれば、プッシュロッドは、第2クラッチセンタの側壁に周方向に等間隔に複数設けられるので、付勢手段により付勢されたプレッシャプレートを押し戻すプッシュロッドの力をプレッシャプレートに均等に加えることができ、プレッシャプレートの円滑な移動を確保することができる。
【0021】
本発明の好適な実施形態では、
前記プッシュロッドは、ばね部材により前記弾性部材に当接するように付勢されている。
【0022】
この構成によれば、プッシュロッドは、ばね部材により弾性部材に当接するように付勢されているので、弾性部材の圧縮変形に対してプレッシャプレートの作動応答性を調整することができる。
【0023】
本発明の好適な実施形態では、
前記プッシュロッドと前記プレッシャプレートの間には、空隙が設けられている。
【0024】
この構成によれば、プッシュロッドとプレッシャプレートの間には、空隙が設けられているので、発進時のトルク変動が大きいときに、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタが正逆双方の相対回転が繰り返されても、弾性部材の圧縮変形によるプッシュロッドの移動はプッシュロッドとプレッシャプレートの間の空隙が弾性部材の圧縮変形とばね部材の剛性により吸収し、プレッシャプレートを押し戻すことはせずに、クラッチ容量の低下を抑えることができ、発進を円滑に行うことができる。
【0025】
第1クラッチセンタと第2クラッチセンタは、弾性部材を介して動力伝達が行われるので、部品どうしの衝突により発生するプレッシャプレートのリフトは極めて僅かで、作動性に影響を与えるほどではない。
また、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタの相対回転に伴う振動を抑制することができ、発進を円滑に行える。
第1,第2クラッチセンタで構成される弾性部材の充填効率をスペーサを使って調整するか、あるいは長さの異なるプッシュロッドでプレッシャプレートを押し戻すまでの隙間を調整することで、クラッチ容量を容易に調整することができる。
【0026】
本発明の好適な実施形態では、
前記プッシュロッドは、前記プレッシャプレートを押圧する第1プッシュロッドと前記弾性部材に圧接する第2プッシュロッドとからなり、
前記第1プッシュロッドと前記第2プッシュロッドは、互いの間で前記ばね部材が圧縮状態で介装されて離接可能に離間して配設される。
【0027】
この構成によれば、第1プッシュロッドと第2プッシュロッドは、互いの間で前記ばね部材が圧縮状態で介装されて離接可能に離間して配設されるので、発進時のトルク変動が大きいときに、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタが正逆双方の相対回転が繰り返されても、弾性部材の圧縮変形によるプッシュロッドの移動は離間した第1プッシュロッドと第2プッシュロッドの間の空隙が吸収し、プレッシャプレートを押し戻すことはせずに、クラッチ容量の低下を抑えることができ、発進を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、多板式摩擦クラッチの入力側または出力側から過大な力が加わると、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタが大きく相対回転し、両者間に介在する弾性部材が圧縮変形して第2クラッチセンタの開口部に嵌挿されたプッシュロッドを押して、開口部から突出したプッシュロッドがプレッシャプレートを押圧して、付勢手段により付勢されたプレッシャプレートを押し戻すことができ、クラッチ容量を低下させることができる。
【0029】
第1クラッチセンタと第2クラッチセンタは、弾性部材を介して動力伝達が行われるので、弾性部材の弾性変形に伴う応答の遅れは極めて僅かで、作動性に影響を与えるほどではない。
また、第1クラッチセンタと第2クラッチセンタの相対回転に伴う振動を弾性部材の減衰力により抑制することができ、発進を円滑に行える。
弾性率や大きさおよび形状の異なる弾性部材に交換することで、クラッチ容量を簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施の形態に係る内燃機関の右ケースカバーを外し一部省略して示した自動二輪車の全体側面図である。
図2図1のII-II矢視の同内燃機関の断面展開図である。
図3】本実施の形態の多板式摩擦クラッチの断面図である。
図4図3のIV-IV矢視の多板式摩擦クラッチの断面図である。
図5】同多板式摩擦クラッチの要部断面図である。
図6】同多板式摩擦クラッチの別の状態を示す要部断面図である。
図7】別の実施の形態の多板式摩擦クラッチの要部断面図である。
図8】同多板式摩擦クラッチの別の状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図6に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した一実施の形態に係る内燃機関Eのケースカバーを外した右側面図であり、図2は、内燃機関の断面展開図(図1のII-II矢視の断面展開図)である。
本内燃機関Eは、自動二輪車に搭載される単気筒4ストローク内燃機関である。
なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施の形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を,RRは後方を、LHは左方を,RHは右方を示すものとする。
【0032】
自動二輪車1の左右車幅方向に指向してクランク軸20を軸支するクランクケース11は、クランク軸20が配置されるクランク室11cを形成するとともに、クランク室11cの後方には仕切壁で仕切られて変速機Mを収容するミッション室11mが形成されている。
【0033】
内燃機関Eは、クランクケース11のクランク室11cの上に、1本のシリンダ12aを有するシリンダブロック12と、シリンダブロック12の上部にガスケットを介してスタッドボルトにより締結されるシリンダヘッド13と、シリンダヘッド13の上部に結合されるシリンダヘッドカバー14とから構成される機関本体を備える。
クランクケース11の上に重ねられるシリンダブロック12,シリンダヘッド13,シリンダヘッドカバー14は、クランクケース11から若干前傾した姿勢で上方に演出している。
【0034】
クランクケース11のミッション室11mには、変速機Mのメイン軸21とカウンタ軸22とが、クランク軸20と平行に左右水平方向に指向して配設されている。
クランクケース11は、シリンダ軸線Lcを含むとともにクランク軸20と直交する平面で左右に2分割された1対の左クランクケース11Lと右クランクケース11Rとが、互いの合わせ面が合わされた状態で結合されている。
【0035】
左右クランクケース11L,11Rの合体でクランク室11cの上方に形成された円開口に、シリンダブロック12のシリンダ12aの下部が嵌入され、シリンダ12aのシリンダボア内にピストン15が往復摺動自在に嵌合される。
ピストン15のピストンピン15pに小端部が軸支されクランク軸20のクランクピン20pに大端部が軸支されたコンロッド16によりピストン15とクランク軸20が連接されてクランク機構が構成されている。
【0036】
クランク軸20の左側主ベアリング25より左方に突出した左軸体20Lは、チェーン室を貫通し、さらに左クランクケース11Lの左側壁の開口を貫通しており、チェーン室に相当する部分には駆動カムチェーンスプロケット20csが形成され、左端にはACジェネレータ26のアウタロータ26rが嵌着されている。
左クランクケース11Lの左側壁の開口を塞ぐ左サリサイドカバー17は、ACジェネレータ26を覆うとともに、ACジェネレータ26のインナステータ26sを支持している。
【0037】
他方、クランク軸20における右クランクケース11Rの右側主ベアリング25より右方に突出した右軸体20Rには、主ベアリング25寄りからスタータ被動ギア27とプライマリドライブギア28が嵌合されてワッシャ29wを介してフランジ付きボルト29により固着されている。
【0038】
クランク室11cの後方のミッション室11mに配設される変速機Mは、メイン軸21およびカウンタ軸22によりそれぞれ軸支されるメインギア群21gおよびカウンタギア群22gと、変速操作機構により操作されるシフトドラムやシフトフォークの変速切換え機構(図示せず)を備えている。
【0039】
メイン軸21は、クランク軸20の後方斜め上にあって、左右クランクケース11L,11Rにベアリング30,30を介して回転可能に軸支され、右側ベアリング30より右方に突出した部分に多板式摩擦クラッチCが設けられる。
【0040】
カウンタ軸22は、クランク軸20の後方斜め上にあって、左右クランクケース11L,11Rにベアリング23,23を介して回転可能に軸支され、左側ベアリング23より左方に貫通して外部に突出して出力軸となっており、突出した左端に駆動チェーンスプロケット24が嵌着されている。
駆動チェーンスプロケット24に巻き掛けられた駆動チェーン24cが後輪側の被動チェーンスプロケット(図示せず)に巻き掛けられて動力が後輪に伝達される。
【0041】
右クランクケース11Rの右側面は、右ケースカバー18で覆われ、右ケースカバー18の多板式摩擦クラッチCが臨む開口を塞ぐクラッチカバー19が多板式摩擦クラッチCの右側方を覆う。
【0042】
メイン軸21には、軸心に軸孔21hが形成され、クラッチ作動ロッド31が挿通される。
クラッチ作動ロッド31は、軸孔21hの左右の縮径部で摺動自在に支持されており、左端に作用するクラッチカム32の作動により軸方向右方に移動される。
なお、軸孔21hにはスカベンジポンプから吐出されたオイルが供給される。
【0043】
図2および図3を参照して、メイン軸21には、スリーブ部材40が右側のベアリング30のインナレースに右側から接して外嵌されており、同スリーブ部材40にニードルベアリング41を介してプライマリドリブンギア42が回転自在に軸支されている。
プライマリドリブンギア42は、クランク軸20に嵌着された前記プライマリドライブギア28に噛合している。
【0044】
多板式摩擦クラッチCにおけるクラッチハウジング50は、メイン軸21に回転自在に軸支されるハウジング側壁部51を有し、同ハウジング側壁部51の外周縁から軸方向右側に複数本の係合突起片52が突出している。
複数本の係合突起片52は周方向に間隔を空けて配列されている。
このクラッチハウジング50のハウジング側壁部51が、プライマリドリブンギア42のディスク部に接してプライマリドリブンギア42の中央円筒ボス部42cに軸支されている。
【0045】
そして、ハウジング側壁部51の外面に突出した保持ボス部51bの外周に圧入して保持されたダンパゴム44が、プライマリドリブンギア42のディスク部に形成された円孔42hに嵌入されていて、プライマリドリブンギア42とクラッチハウジング50との急激なトルク変動を吸収するようになっている。
【0046】
したがって、クランク軸20の回転は、プライマリドライブギア28とプライマリドリブンギア42の噛合およびダンパゴム44を介して多板式摩擦クラッチCのクラッチハウジング50の回転に伝達される。
【0047】
多板式摩擦クラッチCにおけるクラッチセンタは、出力回転軸であるメイン軸21の右端部にスプライン嵌合する第1クラッチセンタ61と、第1クラッチセンタ61に相対回転可能に支承される第2クラッチセンタ62とからなる。
【0048】
図3および図4を参照して、第1クラッチセンタ61は、前記ハウジング側壁部51の内面に対面する中空円板状のセンタ側壁部61bと、同センタ側壁部61bの内周縁部からハウジング側壁部51とは反対側(右側)に円筒状に延出したセンタ円筒ボス部61cと、センタ側壁部61bから右方に延出すると同時にセンタ円筒ボス部61cから径方向外側に延出した3枚の押圧仕切壁61pとを備える。
【0049】
3枚の押圧仕切壁61pは、周方向に等間隔に延出してセンタ側壁部61bの右側の空間を3つの扇形空間に仕切っている(図4参照)。
センタ円筒ボス部61cの内周面にはスプライン溝が形成されている。
また、センタ円筒ボス部61cの右端には、3枚の押圧仕切壁61pの間の3か所に支持突起61sが径方向に突出している。
3つの支持突起61sの突出長は同じであり、先端は中心軸から等距離にある。
【0050】
この第1クラッチセンタ61は、メイン軸21の右端部にワッシャ65,66に挟まれてスプライン嵌合して相対回転不能に軸支される。
メイン軸21の右端に螺合するナット68がロックワッシャ67を介して締結されることで、第1クラッチセンタ61はメイン軸21に嵌着される。
【0051】
一方で、第2クラッチセンタ62は、第1クラッチセンタ61のセンタ側壁部61bの外径より若干大きい内径のセンタ円筒部62cを有し、センタ円筒部62cの右端部が径方向内側に延出して中空円板状のセンタ内側側壁部62bが前記第1クラッチセンタ61のセンタ側壁部61bと対面する位置関係で形成され、センタ円筒部62cの左端部が径方向外側に延出して中空円板状のセンタ外側側壁部62aが前記第1クラッチセンタ61のセンタ側壁部61bの外周に位置して形成されている。
【0052】
クラッチハウジング50の周方向に配列された複数の係合突起片52は、第2クラッチセンタ62のセンタ円筒部62cの外側に所定距離離れた同心円上に位置する。
すなわち、同心円に重なるセンタ円筒部62cと複数の係合突起片52との間に環状空間が形成されており、この環状空間の左側にセンタ外側側壁部62aが位置する。
第2クラッチセンタ62のセンタ円筒部62cの外周面には、軸方向に指向して周方向に複数の溝条62cvが形成されている。
【0053】
同心円に重なるセンタ円筒部62cと複数の係合突起片52との間の環状空間に、複数の摩擦板71とクラッチ板72が交互に嵌挿されてクラッチ部70を構成している。
摩擦板71は、その外周縁に複数形成された外周突部71aがクラッチハウジング50の複数の係合突起片52の互いの間の間隙に軸方向に摺動自在に係合し(図3図4参照)、クラッチハウジング50とともに回転する。
また、クラッチ板72は、その内周縁に複数形成された内周突部72aが第2クラッチセンタ62のセンタ円筒部62cの外周面に軸方向に指向して周方向に複数形成された溝条62cvに摺動自在に係合し(図3参照)、第2クラッチセンタ62とともに回転する。
【0054】
第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bは、第1クラッチセンタ61のセンタ側壁部61bと対面しており、センタ内側側壁部62bから左方に延出すると同時にセンタ円筒部62cから径方向内側に延出した3つの押圧仕切部62pを備えている。
3つの押圧仕切部62pは、周方向に等間隔に延出してセンタ内側側壁部62bの左側の空間を3つの扇形空間に仕切っている(図4参照)。
【0055】
図4に示されるように、第1クラッチセンタ61と第2クラッチセンタ62の互いに対面するセンタ側壁部61bとセンタ内側側壁部62bとの間であって、互いに同心円に重なるセンタ円筒ボス部61cとセンタ円筒部62cの間の環状空間が、周方向に交互に配置された第1クラッチセンタ61の3枚の押圧仕切壁61pと第2クラッチセンタ62の3つの押圧仕切部62pにより略均等に6つの空間に仕切られており、この6つの空間にゴムダンパ75a,75bが介装されている。
【0056】
したがって、図4に示されるように、各ゴムダンパ75a,75bは、軸方向視で第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pと第2クラッチセンタ62の押圧仕切部62pに挟まれて扇形状をなす。
図4を参照して、多板式摩擦クラッチCの回転方向は、矢印に示す通りである。
【0057】
ゴムダンパ75aとゴムダンパ75bは、周方向に交互に配置され、このうち3つのゴムダンパ75aは、矢印で示す回転方向で上流側の第2クラッチセンタ62の押圧仕切部62pと下流側の第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pとに挟まれており、一方3つのゴムダンパ75bは、上流側の第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pと下流側の第2クラッチセンタ62の押圧仕切部62pとに挟まれている。
【0058】
なお、図3に示されるように、第2クラッチセンタ62は、3つの押圧仕切部62pの内周面が第1クラッチセンタ61の3つの支持突起61sの外周面に摺接して相対回転可能に支承されている。
また、図3を参照して第2クラッチセンタ62は、第1クラッチセンタ61の支持突起61sの外周面に摺接する押圧仕切部62pの内周面がそれより径の大きいワッシャ66の外周面より左側で径方向内側にあって、右方への移動を規制されるとともに、押圧仕切部62pの左側端面が、第1クラッチセンタ61のセンタ側壁部61bに接して、左方への移動も規制されている。
【0059】
第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bの3つの押圧仕切部62pがある処には、それぞれボルト孔62bhを有する円筒状をしたボルト取付ボス部62bbが右方に突出して形成されている。
また、第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bには、前記介装された6つのゴムダンパ75a,75bのうち上流側の第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pと下流側の第2クラッチセンタ62の押圧仕切部62pとに挟まれた3つのゴムダンパ75bに対向する箇所に、軸方向に貫通する円筒開口部62hが形成されている。
【0060】
円筒開口部62hには、プッシュロッド63が軸方向に移動自在に嵌挿されている。
図5を参照して、プッシュロッド63は、ゴムダンパ75b側の端部にフランジ63fを有し、円筒開口部62hは、その内径がフランジ63fの外径より僅かに大きく、ゴムダンパ75bとは反対側端部に縮径部62heを有して、縮径部62heの内径がプッシュロッド63の外径に等しい。
プッシュロッド63は円筒開口部62hを貫通して縮径部62heに嵌挿しており、円筒開口部62h内でプッシュロッド63のフランジ63fと円筒開口部62hの縮径部62heとの間にコイルスプリング64が介装されて、コイルスプリング64によりプッシュロッド63がゴムダンパ75bに当接するように付勢されている。
【0061】
第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bの周方向に等間隔の3か所の円筒開口部62hにそれぞれプッシュロッド63がゴムダンパ75bに接して嵌挿されている。
この第2クラッチセンタ62のセンタ外側側壁部62aは、複数の摩擦板71とクラッチ板72が交互に嵌挿されたクラッチ部70に対面しており、このセンタ外側側壁部62aとの間で、プレッシャプレート80がクラッチ部70を挟んで押圧する。
【0062】
プレッシャプレート80は、円板状をなし、外周側側壁部80aがセンタ外側側壁部62aとの間で、複数枚交互に重なる摩擦板71とクラッチ板72を右側から挟んでいる。
プレッシャプレート80は、中央が右方に膨出して中央ボス部80cが形成されており、中央ボス部80cから径方向に延出した内周側側壁部80bを経て外周側側壁部80aに連続している。
【0063】
図3を参照して、クラッチ作動ロッド31の先端(右端)に被せられたキャップ部材33が、メイン軸21の軸端開口から突出してフランジ部33fを形成しており、このフランジ部33fがプレッシャプレート80の中央ボス部80cに当接された環状側板35に対向して、間にスラストベアリング34が挟まれる。
【0064】
プレッシャプレート80の内周側側壁部80bは、第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bと対面しており、内周側側壁部80bには、センタ内側側壁部62bから右方に突出して形成された3本のボルト取付ボス部62bbがそれぞれ貫通する円孔80bhが形成されている。
【0065】
プレッシャプレート80の内周側側壁部80bを貫通して突出した3本のボルト取付ボス部62bbの右端面に、右側から中空円板状をしたセットプレート85を当接して、ボルト86により3本のボルト取付ボス部62bbに締結する。
セットプレート85の中空部からはプレッシャプレート80の中央ボス部80cが右方に突出している。
【0066】
セットプレート85の外周縁の屈曲したばね受け部85rとプレッシャプレート80の外周側側壁部80aの背面(右側面)との間に皿ばね84が圧縮して介装されている。
したがって、皿ばね84のばね力によりプレッシャプレート80は軸方向内側(左側)に付勢され、プレッシャプレート80の外周側側壁部80aが、センタ外側側壁部62aとの間で、交互に重ねられた摩擦板71とクラッチ板72を狭圧して互いに圧接された摩擦板71とクラッチ板72を介してクラッチハウジング50の回転が第2クラッチセンタ62に伝達されるクラッチ接続状態となる。
【0067】
クラッチカム32の作用によりクラッチ作動ロッド31が右方に移動されると、キャップ部材33およびスラストベアリング34を介してプレッシャプレート80が右方に押圧されて皿ばね84の付勢力に抗して右方に移動し、センタ外側側壁部62aとの間での摩擦板71とクラッチ板72の狭圧を解除してクラッチハウジング50の回転が第2クラッチセンタ62に伝達されないクラッチ切断状態とすることができる。
【0068】
図4を参照して、クラッチ接続状態で、クラッチハウジング50の回転が第2クラッチセンタ62に伝達されるときは、第2クラッチセンタ62の回転は、上流側の第2クラッチセンタ62の押圧仕切部62pを下流側の第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pに近づけてゴムダンパ75aを狭圧し、狭圧されたゴムダンパ75aを介して第1クラッチセンタ61の回転に動力伝達される。
なお、ゴムダンパ75aが圧縮変形されてもプッシュロッド63は作動しないので、プレッシャプレート80が押し戻されてクラッチ容量が低下することはない。
【0069】
一方で、クラッチ接続状態で、メイン軸21の回転が第1クラッチセンタ61に伝達されるときは、すなわちバックトルクが働いたときは、第1クラッチセンタ61の回転は、上流側の第1クラッチセンタ61の押圧仕切壁61pを下流側の第2クラッチセンタ62に近づけてゴムダンパ75bを狭圧し、狭圧されたゴムダンパ75bを介して第2クラッチセンタ62の回転に動力伝達される。
【0070】
以上のように、第1クラッチセンタ61と第2クラッチセンタ62は、ゴムダンパ75a,75bを介して動力伝達が行われるので、ゴムダンパ75a,75bの弾性変形に伴う応答の遅れは極めて僅かで、作動性に影響を与えるほどではない。
また、第1クラッチセンタ61と第2クラッチセンタ62の相対回転に伴う振動をゴムダンパ75a,75bの減衰力により抑制することができる。
【0071】
ゴムダンパ75bが狭圧されず圧縮変形していないときは、図5に示されるように、コイルスプリング64により付勢されてゴムダンパ75bに接したプッシュロッド63は、円筒開口部62h内で先端を円筒開口部62hの開口に位置させており、円筒開口部62hのある第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bに対面するプレッシャプレート80との間に距離dの空隙Sを有している。
【0072】
これに対して、バックトルクによりゴムダンパ75bが狭圧されると、図6に示されるように、ゴムダンパ75bは圧縮変形して、開放された円筒開口部62hに膨出して、プッシュロッド63をコイルスプリング64の付勢力に抗して押圧し、プッシュロッド63を円筒開口部62hから押し出す。
ゴムダンパ75bが狭圧される程度により、すなわちバックトルクの大きさにより、プッシュロッド63の円筒開口部62hからの突出量が変わる。
【0073】
大きなバックトルクが働いたときは、プッシュロッド63の円筒開口部62hからの突出量は大きく、プレッシャプレート80との間の空隙Sの距離dを越えると、図6に示されるように、プッシュロッド63の先端はプレッシャプレート80に当接して、さらにプレッシャプレート80を皿ばね84の付勢力に抗して右方に移動させる。
【0074】
プレッシャプレート80の右方への移動で、センタ外側側壁部62aとの間での摩擦板71とクラッチ板72の狭圧が抑制されるので。クラッチ容量を低下させることができる。
このため、エンジンブレーキによって大きなバックトルクが働いたときには、クラッチ容量を低下させて、タイヤに急激な制動が作用するのを抑えることができる。
【0075】
図4を参照して、プッシュロッド63は、第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bの周方向に等間隔に設けられた3つの円筒開口部62hに嵌挿されているので、周方向に等間隔に配置された3つのプッシュロッド63(図4において仮想線で示す)の突出により、プレッシャプレート80を皿ばね84の付勢力に抗して押し戻すプッシュロッド63の力をプレッシャプレート80に均等に加えることができ、プレッシャプレート80を円滑に移動することができる。
【0076】
図5に示されるように、プッシュロッド63は、コイルスプリング64によりゴムダンパ75bに当接するように付勢されているので、ゴムダンパ75bの圧縮変形に対してプレッシャプレートの作動応答性を調整することができる。
【0077】
図5に示されるように、プッシュロッド63とプレッシャプレート80の間には、空隙Sが設けられているので、高機関回転数における発進時のトルク変動が大きいときに、第1クラッチセンタ61と第2クラッチセンタ62が正逆双方の相対回転が繰り返されても、ゴムダンパ75bの圧縮変形によるプッシュロッド63の移動はプッシュロッド63とプレッシャプレート80の間の空隙Sがゴムダンパ75bの圧縮変形とコイルスプリング64の剛性により吸収し、プレッシャプレート80を押し戻すことはせずに、クラッチ容量の低下を抑えることができ、発進を円滑に行うことができる。
【0078】
次に、別の実施の形態の多板式摩擦クラッチについて、図7および図8に示す。
本実施の形態は、プッシュロッドの変形例に相当し、プッシュロッドとプッシュロッド作動構造以外は前記実施の形態と同じであり、同じ部材は同じ符号を用いて示している。
【0079】
本実施の形態に係るプッシュロッドは、プレッシャプレート80を押圧する第1プッシュロッド63aとゴムダンパ75bに圧接する第2プッシュロッド63bとからなり、第2クラッチセンタ62のセンタ内側側壁部62bに形成された円筒開口部62hhに嵌挿される。
【0080】
第1プッシュロッド63aと第2プッシュロッド63bは、ともに有底円筒形をなし、互いに開口側を対向させて円筒開口部62hhに嵌挿され、第1プッシュロッド63aと第2プッシュロッド63bとの間にコイルスプリング64´が圧縮されて介装されている。
円筒開口部62hhは、端部に縮径部はなく、内側は単純に円孔である。
【0081】
ゴムダンパ75bが狭圧されず圧縮変形していないときは、図7に示されるように、コイルスプリング64により付勢されて、第1プッシュロッド63aはプレッシャプレート80に接して押圧し、第2プッシュロッド63bはゴムダンパ75bに圧接して、第1プッシュロッド63aと第2プッシュロッド63bは、互いの間でコイルスプリング64´が圧縮状態で介装されて離接可能に離間して配設され、両者の間には距離wの空隙Sが形成されている。
【0082】
バックトルクによりゴムダンパ75bが狭圧されると、図8に示されるように、ゴムダンパ75bは圧縮変形して、開放された円筒開口部62hに膨出して、第2プッシュロッド63bをコイルスプリング64´の付勢力に抗して押圧し、空隙Sを埋めて第1プッシュロッド63aに当接する。
【0083】
大きなバックトルクが働いたときは、第2プッシュロッド63bは第1プッシュロッド63aに当接した後に、さらに第1プッシュロッド63aおよびプレッシャプレート80とともに右方に移動する。
プレッシャプレート80の右方への移動で、センタ外側側壁部62aとの間での摩擦板71とクラッチ板72の狭圧が抑制されるので。クラッチ容量を低下させることができる。
【0084】
図7に示されるように、第1プッシュロッド63aと第2プッシュロッド63bの間には、空隙Sが設けられているので、高機関回転数における発進時のトルク変動が大きいときに、第1クラッチセンタ61と第2クラッチセンタ62が正逆双方の相対回転が繰り返されても、ゴムダンパ75bの圧縮変形によるプッシュロッド63の移動は第1プッシュロッド63aと第2プッシュロッド63bの間の空隙Sが吸収し、プレッシャプレート80を押し戻すことはせずに、クラッチ容量の低下を抑えることができ、発進を円滑に行うことができる。
【0085】
以上の実施の形態に係る多板式摩擦クラッチは、弾性率や大きさおよび形状の異なる弾性部材に交換することで、あるいは長さの異なるプッシュロッドに交換することで、クラッチ容量を簡単に調整することができる。
【0086】
以上、本発明に係る実施の形態に係る多板式摩擦クラッチについて説明したが、本発明の態様は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むものである。
【符号の説明】
【0087】
E…内燃機関、M…変速機、C…多板式摩擦クラッチ、
1…自動二輪車、20…クランク軸、21…メイン軸(出力回転軸)、22…カウンタ軸、28…プライマリドライブギア、30…ベアリング、31…クラッチ作動ロッド、32…クラッチカム、33…キャップ部材、33fフランジ部、34…スラストベアリング、35…環状側板、40…スリーブ部材、41…ニードルベアリング、42…プライマリドリブンギア、
50…クラッチハウジング、51…ハウジング側壁部、52…係合突起片、
61…第1クラッチセンタ、61b…センタ側壁部、61c…センタ円筒ボス部、61p…押圧仕切壁、61s…支持突起、
62…第2クラッチセンタ、62a…センタ外側側壁部、62b…センタ内側側壁部、62c…センタ円筒部、62p…押圧仕切部、62bb…ボルト取付ボス部、62h…円筒開口部、62hh…円筒開口部、
63…プッシュロッド、63a…第1プッシュロッド、63b…第2プッシュロッド、64…コイルスプリング、64´…コイルスプリング、65…ワッシャ、66…ワッシャ、67…ロックワッシャ、68…ナット、
70…クラッチ部、71…摩擦板(プレート部材)、72…クラッチ板(プレート部材)、75a…ゴムダンパ,75b…ゴムダンパ、
80…プレッシャプレート、80a…外周側側壁部。80b…内周側側壁部、80bh…円孔、80c…中央ボス部、84…皿ばね、85…セットプレート、86…ボルト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8