(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】金型に対する離型剤塗布方法、鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法
(51)【国際特許分類】
B22C 23/02 20060101AFI20231207BHJP
B22D 27/18 20060101ALI20231207BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B22C23/02 D
B22D27/18 B
B22C3/00 H
B22C23/02 E
(21)【出願番号】P 2022068822
(22)【出願日】2022-04-19
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304028645
【氏名又は名称】株式会社青木科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】加戸 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】小松原 博昭
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雅之
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051621(JP,A)
【文献】実開平02-076636(JP,U)
【文献】特開2019-177386(JP,A)
【文献】特開平06-179046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 23/02
B22D 17/00-17/32
B05B 7/00-7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能な一対の金型に対して離型剤を塗布する際に実行される金型に対する離型剤塗布方法であって、
前記離型剤は、タンクに貯蔵された状態からポンプにより液送され、スプレーガンによって吐出される際に、霧化エアを混合されて霧状に噴霧されることで前記一対の金型に対して塗布されるものであり、
前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧を、大気圧より大きく
し、また、
前記離型剤は、前記ポンプにより前記タンクから前記スプレーガンで前記霧化エアが混合される前までの液送経路中での液圧が、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧よりも更に大きくなっており、
前記スプレーガンに供給される前記離型剤の離型剤供給量と、前記スプレーガンが前記離型剤を吐出する際の当該スプレーガンの離型剤噴霧開度を制御することで、前記離型剤の液圧を上昇させることを特徴とする金型に対する離型剤塗布方法。
【請求項2】
開閉可能な一対の金型内に形成されたキャビティ内に溶解した金属溶湯を射出注入し、当該金属溶湯を冷却固化させることで鋳造品を成形する鋳造装置において、開放された前記一対の金型に対して離型剤を塗布する際に実行される鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法であって、
前記離型剤は、タンクに貯蔵された状態からポンプにより液送され、スプレーガンによって吐出される際に、霧化エアを混合されて霧状に噴霧されることで前記一対の金型に対して塗布されるものであり、
前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧を、大気圧より大きく
し、また、
前記離型剤は、前記ポンプにより前記タンクから前記スプレーガンで前記霧化エアが混合される前までの液送経路中での液圧が、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧よりも更に大きくなっており、
前記スプレーガンに供給される前記離型剤の離型剤供給量と、前記スプレーガンが前記離型剤を吐出する際の当該スプレーガンの離型剤噴霧開度を制御することで、前記離型剤の液圧を上昇させることを特徴とする鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の金型に対する離型剤塗布方法であって、
前記スプレーガンは、移動ロボットによって移動自在であり、
前記霧化エアが混合された状態で、前記離型剤が前記スプレーガンから前記一対の金型に対して噴霧されるとき、前記移動ロボットの移動速度と待機時間を組み合わせて制御することで、噴霧量の調整が行われることを特徴とする金型に対する離型剤塗布方法。
【請求項4】
請求項2に記載の
鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法であって、
前記スプレーガンは、移動ロボットによって移動自在であり、
前記霧化エアが混合された状態で、前記離型剤が前記スプレーガンから前記一対の金型に対して噴霧されるとき、前記移動ロボットの移動速度と待機時間を組み合わせて制御することで、噴霧量の調整が行われることを特徴とする
鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に対する離型剤塗布方法と、鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、開閉可能な一対の金型内に形成されたキャビティ内に溶解した金属溶湯を射出注入し、当該金属溶湯を冷却固化させることで鋳造品を成形する鋳造装置が公知である。この種の鋳造装置については、種々の形式のものが存在しているが、例えば、下記特許文献1には、金型に湯溜り(ラドル)を備え、この湯溜りに溶湯を溜め、金型が傾けられたときに湯道を介して金型のキャビティへ溶湯を注ぐ傾動式重力鋳造装置が開示されている。この傾動式重力鋳造装置を用いて行われる鋳造法は、金型を繰り返し使用できるため、高い生産性と良好な製品精度を得られる利点を有している。また、この鋳造法では、高速で溶湯を流し込むことはなく、金型に対して十分に水冷を効かせることができる。したがって、冷却速度を比較的早くすることができ、例えば、結晶粒の微細化を図って機械的性質に優れた鋳造品を製造できるなど、種々の利点を享受することのできる鋳造法となっている。
【0003】
上述したように、傾動式重力鋳造装置を用いて行われる鋳造法では、金型を繰り返し使用できるため、例えば鋳造前後のタイミングで一対の金型を開放し、開放された金型に対して粉体入りの油性離型剤を塗布することが行われていた。金型の内側であるキャビティ形成側の面に粉体入りの油性離型剤を塗布することで、鋳造品と金型が付着するのを好適に防ぐことができるので、鋳造品を金型から外し易くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上掲した特許文献1に代表される従来の鋳造装置では、開放された金型に対して粉体入りの油性離型剤を塗布する際に、定期的に離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象が生じていた。このような空洞部が発生すると、離型剤の塗布量が安定しないので、鋳造品の製品品質が悪化してしまう虞が生じていた。また、このような製品品質の悪化を防ぐためには、離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する都度、ダイヤフラムポンプを供給経路に接続し、離型剤の圧送量を増加させたり、離型剤を圧送するためのギヤポンプの周波数を上げて圧送量を増加させたりするなど、鋳造機を停止して空洞部を解消する作業を行うことが行われていたため、生産効率が低下してしまうといった課題も存在していた。さらに、従来技術では、離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象の原因が不明であったため、根本的な課題の解決を図ることができていなかった。
【0006】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、定期的に離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象の原因を解明するとともに、根本的な解決策を実行することで安定的に高品質な鋳造品を得るための鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法を提供することにある。また、本発明方法は、鋳造装置に用いられる金型以外の金型に対しても適用可能な方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0008】
本発明に係る金型に対する離型剤塗布方法は、開閉可能な一対の金型に対して離型剤を塗布する際に実行される方法であって、前記離型剤は、タンク(31)に貯蔵された状態からポンプ(32)により液送され、スプレーガン(36a)によって吐出される際に、霧化エアを混合されて霧状に噴霧されることで前記一対の金型に対して塗布されるものであり、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧を、大気圧より大きくし、また、前記離型剤は、前記ポンプ(32)により前記タンク(31)から前記スプレーガン(36a)で前記霧化エアが混合される前までの液送経路中での液圧が、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧よりも更に大きくなっており、前記スプレーガン(36a)に供給される前記離型剤の離型剤供給量と、前記スプレーガン(36a)が前記離型剤を吐出する際の当該スプレーガン(36a)の離型剤噴霧開度を制御することで、前記離型剤の液圧を上昇させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法は、開閉可能な一対の金型(2(3,4))内に形成されたキャビティ(6)内に溶解した金属溶湯(M)を射出注入し、当該金属溶湯(M)を冷却固化させることで鋳造品(C)を成形する鋳造装置(1)において、開放された前記一対の金型(3,4)に対して離型剤を塗布する際に実行される方法であって、前記離型剤は、タンク(31)に貯蔵された状態からポンプ(32)により液送され、スプレーガン(36a)によって吐出される際に、霧化エアを混合されて霧状に噴霧されることで前記一対の金型(3,4)に対して塗布されるものであり、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧を、大気圧より大きくし、また、前記離型剤は、前記ポンプ(32)により前記タンク(31)から前記スプレーガン(36a)で前記霧化エアが混合される前までの液送経路中での液圧が、前記霧化エアが混合されたときの前記離型剤の液圧よりも更に大きくなっており、前記スプレーガン(36a)に供給される前記離型剤の離型剤供給量と、前記スプレーガン(36a)が前記離型剤を吐出する際の当該スプレーガン(36a)の離型剤噴霧開度を制御することで、前記離型剤の液圧を上昇させることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明に係る金型に対する離型剤塗布方法、もしくは、鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法において、前記スプレーガン(36a)は、移動ロボット(36b)によって移動自在であり、前記霧化エアが混合された状態で、前記離型剤が前記スプレーガン(36a)から前記一対の金型(3,4)に対して噴霧されるとき、前記移動ロボット(36b)の移動速度と待機時間を組み合わせて制御することで、噴霧量の調整を行うようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、定期的に離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象を解消するための金型に対する離型剤塗布方法を提供できるので、安定的に高品質な成形品を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置の縦断面を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える遮断部材を示した外観斜視図である。
【
図3】
図1の状態から金型を傾けて遮断部材で湯口を遮断した状態を示す図である。
【
図4】
図3の状態から更に金型を傾けて加圧ピンで溶湯を加圧している状態を示す図である。
【
図5】金型傾動工程が完了した状態を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える離型剤塗布機構の概略構成を示す模式図である。
【
図7】本実施形態で実行された鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法を説明するための図であり、図中の分図(a)が従来技術を示し、分図(b)が本実施形態で実行された内容を示している。
【
図8】本実施形態に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法を適用する場合の移動ロボットの移動例を説明するための図であり、図中の分図(a)が従来技術を示し、分図(b)が本実施形態の条件を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
まず、
図1~
図5を用いて、本発明に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法が適用される鋳造装置としての傾動式重力鋳造装置1の基本的な構成を説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置の縦断面を示す図である。また、
図2は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える遮断部材を示した外観斜視図である。さらに、
図3は、
図1の状態から金型を傾けて遮断部材で湯口を遮断した状態を示す図であり、
図4は、
図3の状態から更に金型を傾けて加圧ピンで溶湯を加圧している状態を示す図であり、
図5は、金型傾動工程が完了した状態を示す図である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1は、下側の固定型3と上側の可動型4とから構成される金型2を備えており、一対の金型2である固定型3と可動型4とによって湯道5とキャビティ6を画成している。本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1においては、可動型分割面4Aに形成された溝4Bと、固定型分割面3Aとにより湯道5が画成されている。固定型3にはラドル7が固定されており、このラドル7にアルミニウム合金等の溶湯Mが溜められている。
【0018】
固定型3はベース8の上面8aに固定されている。ガイド軸9の下端がベース8に固定され、ガイド軸9の上端がトッププレート10に固定されている。トッププレート10の上面10aには油圧シリンダ11が固定されており、トッププレート10を貫通したシリンダロッド12の先端がトッププレート10の下方に配設された可動プレート13に連結されている。油圧シリンダ11が駆動されると、可動プレート13はガイド軸9にガイドされてベース8とトッププレート10の間を
図1の紙面上下方向に移動可能となっている。可動プレート13の下側には連結部材14が設けられ、この連結部材14によって可動プレート13と可動型4が連結されている。したがって、可動型4は可動プレート13とともにベース8とトッププレート10の間を
図1の紙面上下方向に移動可能となっている。
【0019】
本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1は、不図示の傾動機構を備えている。傾動機構は公知の構成であり、ベース8に設けられ、
図1の紙面の表と裏を結ぶ方向に延出する不図示の傾動軸と、傾動軸を支持する不図示の支持アームと、この支持アームに取り付けられている不図示の傾動駆動手段とを備えている。不図示の傾動機構により、ベース8および金型2は、
図1に示す水平状態から、符号αで示す矢印の方向に所定スピードで傾動することができるように構成されており、その傾動範囲は略90度の角度範囲となっている。
【0020】
可動型4の上面4aには油圧シリンダ15が固定されている。油圧シリンダ15のシリンダロッド16は、可動型4に形成された穴部4b内においてカップリング17により遮断部材18と連結されている。
図2に示すように、遮断部材18はカップリング17内に収容される円柱状の頭部18aと、四角柱状の軸部18bとを備えている。遮断部材18は湯道5の出口5Aに比較的近い位置に配置されており、軸部18bの先端面は可動型4の溝4Bと固定型分割面3Aとともに湯道5を画成している。また、固定型3における遮断部材18の先端面に対向する位置には、凹部3Bが形成されており、この凹部3Bは遮断部材18の先端形状に対応した形状に形成されている。そして、油圧シリンダ15が駆動されると、軸部18bの先端面は湯道5内に侵入して固定型3に形成された凹部3Bに嵌まり込むことで、湯道5を遮断するように構成されている。
【0021】
ベース8の下面8bには、支持棒19によって加圧用油圧シリンダ20が固定されている。加圧用油圧シリンダ20のシリンダロッド21は、連結プレート22を介して加圧ピン23に連結されている。この加圧ピン23はベース8を貫通し、固定型3に形成された孔3a内に配置されている。この孔3aはキャビティ6に対して導通するように形成されているので、加圧用油圧シリンダ20が駆動されると、加圧ピン23の先端はキャビティ6内に侵入し、加圧ピン23がキャビティ6内の溶湯Mを加圧するように構成されている。
【0022】
なお、本実施形態に係る金型2には、不図示の押出ピンが複数設けられており、可動型4を固定型3から離間させた後に、不図示の押出ピンで湯道5内とキャビティ6内で凝固した溶湯M(
図5における鋳造品Cに相当)を押出して金型2から取り出すことが可能となっている。
【0023】
以上、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1の基本的な構成についての説明を行った。次に、
図6を参照図面に加えることで、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1が備える離型剤塗布機構についての説明を行う。ここで、
図6は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える離型剤塗布機構の概略構成を示す模式図である。
【0024】
図6に示すように、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1が備える離型剤塗布機構30は、タンクおよび制御盤31を備えており、タンクおよび制御盤31のうちのタンクには、粉体入りの油性離型剤が貯蔵されている。
【0025】
タンク31内に貯蔵された粉体入りの油性離型剤は、ギヤポンプユニット32の稼働によって圧を受け、離型剤塗布機構30の経路内を液送される。
【0026】
ギヤポンプユニット32からスプレーガンおよび移動ロボット36に向かう経路の途中には、出力端子33と圧力センサ34と3方向電磁弁35が配置されている。出力端子33は、アナログ信号を出力可能となっており、例えば、出力されたアナログ信号を不図示のコンピュータ等で取得してアナログ信号データに基づきシステム全体の保全予知などに利用することができる。圧力センサ34は、液送される粉体入りの油性離型剤の圧力を測定することができる。圧力センサ34で得られた測定データは、例えば、出力端子33を介してシステム外部に送信されて、離型剤塗布機構30や傾動式重力鋳造装置1の制御に利用される。3方向電磁弁35は、液送されてきた粉体入りの油性離型剤の液送ルートを2つに分岐するために用いられる。具体的には、3方向電磁弁35は、スプレーガンおよび移動ロボット36が備えるスプレーガン36aに液送したり、余剰した粉体入りの油性離型剤をタンク31に戻して再利用したりすることができる。
【0027】
以上、
図6を参照して、本実施形態に係る離型剤塗布機構30の説明を行った。ところで、従来技術では、上述した離型剤塗布機構30を備える傾動式重力鋳造装置1を用いて鋳造品Cを成形する場合に、定期的に離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象が生じており、その発生原因が特定できていなかった。そこで、発明者らは、離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象の原因を特定すべく、鋭意研究を行った。例えば研究の初期段階では、供給経路途中から空気が侵入する現象が発生している可能性を疑い、供給経路を構成するチューブを新品に交換し、継手をよりシール性の高いものに交換する等、設備面の対策を実施したが、一向に解決する気配がなかった。また、発明者らは、供給経路内を閉空間にして、加圧によるリークテストを実施したが、この場合も圧力低下は無く、リークは無いことが確認された。そこで、発明者らは、設備的な原因ではないことを確信するに至り、ラボテストによって現場の状態を再現し、外からの空気の流入が考えられない環境下で粉体入りの油性離型剤の液中に空隙が発生することを確認した。このラボテストの結果から、発明者らは、離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象の原因が「溶存している気体」であると推定した。離型剤には大気圧下で所定量の気体が溶け込んでおり、この溶け込んだ気体を「溶存気体」という。「溶存気体」は、圧力が低下したり、温度が上昇したりすると、飽和溶存気体量が低下し、液体内に留まることができなくなって、溶存している気体が気体となって空気中へ出てくるという性質を有している。
【0028】
上述した知見に基づき、発明者らは、本実施形態に係る離型剤塗布機構30のなかで、溶存している気体が気体となって空気中へ出てくる可能性のある個所を調査し、スプレーガン36aに着目した。このスプレーガン36aでは、金型2に対して粉体入りの油性離型剤を塗布する際に、スプレーガン36aによって吐出される離型剤に霧化エアを混合し、霧状に噴霧することが行われていた。そして、発明者らが確認したところ、霧化エアが付加されると、エジェクタの原理と同様に、離型剤が引っ張られると同時に離型剤の圧力が低下することが確認できた。つまり、離型剤の圧力低下によって飽和溶存気体量が低下することで、放出された気体により離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象が生じていたのである。
【0029】
そこで、発明者らは、空洞部発生防止のための根本的な対策を実行することとした。すなわち、霧化エアを付加することで離型剤が引っ張られて液圧の低下が発生することは原理上避けられないため、離型剤の液圧を大気圧以下にしないことで飽和溶存気体量の低下を防止し、供給経路中の空洞部の発生を無くすことを着想した。具体的に実行された対策方法としては、スプレーガン36aに対する離型剤の供給量を増やすとともに、スプレーガン36aのニードル(吐出口の開度)を絞って液圧を上げることで、霧化エアを付加することによる液圧低下分を補い、液圧を大気圧以下にしないようにすることを実施した。この対策の実施内容を、
図7に示す。ここで、
図7は、本実施形態で実行された鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法を説明するための図であり、図中の分図(a)が従来技術を示し、分図(b)が本実施形態で実行された内容を示している。
【0030】
図7中の分図(a)で示すように、従来技術の例においては、粉体入りの油性離型剤の供給量が1cc/min、スプレーガン36aのニードル開度を1回転とした場合、スプレーガン36aからの離型剤の吐出量は0.5cc/minであった。この場合、霧化エアが混合される前の粉体入りの油性離型剤の液圧は大気圧よりも大きいものであったが、霧化エアが混合されたときの粉体入りの油性離型剤の液圧は大気圧以下となり、飽和溶存気体量の低下によって離型剤の供給経路内に液が無い空洞部が発生する事象が生じていた。
【0031】
これに対して、
図7中の分図(b)で示すように、本実施形態においては、粉体入りの油性離型剤の供給量が2cc/min、スプレーガン36aのニードル開度を0.5回転とし、スプレーガン36aからの離型剤の吐出量を0.5cc/minとした。つまり、従来技術と比較して、スプレーガン36aからの離型剤の吐出量を変えずに離型剤の供給量を増やすとともに、スプレーガン36aのニードル(吐出口の開度)を絞って液圧を上げることとした。この条件でスプレーガン36aから離型剤を噴霧させたところ、霧化エアが混合されたときの粉体入りの油性離型剤の液圧が、大気圧より大きい状態となった。また、この吐出状態を実現するために、ギヤポンプユニット32によりタンク31からスプレーガン36aで霧化エアが混合される前までの液送経路中での液圧が、霧化エアが混合されたときの粉体入りの油性離型剤の液圧よりも更に大きくなるようにした。
【0032】
図7中の分図(b)で示した本実施形態の条件で金型2に対する粉体入りの油性離型剤の噴霧による塗布を実行したところ、離型剤の供給経路内での空洞部の発生が皆無となった。その結果、離型剤の安定的な塗布が実現することとなり、傾動式重力鋳造装置1の生産性の向上が実現した。また、安定的に高品質な鋳造品Cを得ることが可能となった。
【0033】
図7を用いて説明したように、本実施形態に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法は、スプレーガン36aに供給される粉体入りの油性離型剤の離型剤供給量を増加させ、かつ、スプレーガン36aが粉体入りの油性離型剤を吐出する際の当該スプレーガン36aの離型剤噴霧開度を絞る制御を行うことで、粉体入りの油性離型剤の液圧を上昇させることを実行するものである。そのため、
図7で示す例では、従来技術の場合と本実施形態の場合で離型剤の吐出量を同量とする例を示したが、離型剤の吐出量が多くなってしまう可能性もある。そこで、スプレーガン36aを移動させる移動ロボット36bの動作条件を変更することで、金型2に対する離型剤の塗布量を調整することが可能である。そのような移動ロボット36bの駆動条件を
図8に例示する。ここで、
図8は、本実施形態に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法を適用する場合の移動ロボットの移動例を説明するための図であり、図中の分図(a)が従来技術を示し、分図(b)が本実施形態の条件を示している。
【0034】
図8では、金型2に対して移動ロボット36bがスプレーガン36aを移動して離型剤の噴霧を行う場合、金型2に対して5つのポイントを設定し、これら5つのポイントを経由して噴霧が行われるよう、移動ロボット36bが稼働することが示されている。そして、本発明方法の実行によって、例えば、従来技術に対して本実施形態の噴霧量が2倍になった場合、従来技術では、移動ロボット36bの移動速度が全て100mm/sであり、ポイント1,3,5での待機時間が1s、ポイント2,4での待機時間が2sであった。これに対して、噴霧量が2倍となる本実施形態の場合には、移動ロボット36bの移動速度を全て200mm/sとし、ポイント1,3,5での待機時間を0.5s、ポイント2,4での待機時間を1sに設定すればよい。つまり、本実施形態の噴霧量がN倍になった場合には、移動ロボット36bの移動速度と待機時間を1/N倍にすることで、噴霧量の調整を行うことが可能となる。つまり、本発明方法の実行によって離型剤の噴霧量が増加する場合には、移動ロボット36bの移動速度と待機時間を組み合わせて制御することで、噴霧量の調整を行うことが可能となる。
【0035】
なお、
図7および
図8で示した数値については、あくまで例示のために記載したものであり、本発明に係る鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法は、
図7および
図8で示した数値条件に限定されるものではない。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、鋳造装置の金型に対する離型剤塗布方法が適用される鋳造装置が傾動式重力鋳造装置1である場合を例示して説明したが、本発明方法を適用可能な鋳造装置は傾動式重力鋳造装置1に限定されるものではない。例えば、ダイカスト法を行うためのダイカスト用装置など、金型2に離型剤を塗布するその他のあらゆる鋳造装置に対して、本発明方法を適用することが可能である。
【0038】
また例えば、上述した実施形態では、本発明方法が適用される離型剤が粉体入りの油性離型剤である場合を例示して説明したが、粉体入りの油性離型剤と同様の性質を有する離型剤であれば、粉体含有の有無に拘らず本発明方法を適用することで、上述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
また例えば、上述した実施形態では、本発明方法が適用される離型剤の供給手段がギヤポンプである場合を例示して説明したが、この供給手段については、離型剤を定量供給可能な性能を有していれば、本発明方法を適用することで上述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、本実施形態に係るギヤポンプの代替手段として採用できる定量供給可能な供給手段としては、例えば、ピストンポンプ、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクリューポンプ、モーノポンプ、チューブポンプ、ベーンポンプなどが挙げられる。
【0040】
また例えば、上述した実施形態では、鋳造装置(傾動式重力鋳造装置1)に用いられる金型2に対して本発明方法が適用される場合が例示されていたが、本発明方法は、鋳造装置に用いられる金型以外の金型に対しても適用可能である。例えば、鍛造やプレス成形、ゴム成形、樹脂成形等に用いられる金型など、あらゆる金型に対して離型剤を塗布する場合に、本発明に係る金型に対する離型剤塗布方法を適用することができる。
【0041】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0042】
1 傾動式重力鋳造装置(鋳造装置)、2 金型、3 固定型、3a 孔、3A 固定型分割面、3B 凹部、4 可動型、4a 上面、4b 穴部、4A 可動型分割面、4B 溝、5 湯道、5A 出口、6 キャビティ、7 ラドル、7a 仕切壁、7b ラドル注ぎ口、8 ベース、8a 上面、8b 下面、9 ガイド軸、10 トッププレート、10a 上面、11 油圧シリンダ、12 シリンダロッド、13 可動プレート、14 連結部材、15 油圧シリンダ、16 シリンダロッド、17 カップリング、18 遮断部材、18a 頭部、18b 軸部、19 支持棒、20 加圧用油圧シリンダ、21 シリンダロッド、22 連結プレート、23 加圧ピン、30 離型剤塗布機構、31 タンクおよび制御盤(タンク)、32 ギヤポンプユニット(ポンプ)、33 出力端子、34 圧力センサ、35 3方向電磁弁、36 スプレーガンおよび移動ロボット(36a:スプレーガン,36b:移動ロボット)、M 溶湯、C 鋳造品。