(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】粉体成膜装置
(51)【国際特許分類】
B41F 15/08 20060101AFI20231207BHJP
B41F 15/12 20060101ALI20231207BHJP
B41F 15/40 20060101ALI20231207BHJP
B41F 35/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B41F15/08 308A
B41F15/12 A
B41F15/40 A
B41F35/00 C
(21)【出願番号】P 2022111475
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2018066363の分割
【原出願日】2018-03-30
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 崇介
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177481(JP,A)
【文献】国際公開第2003/002348(WO,A1)
【文献】特開2010-207780(JP,A)
【文献】米国特許第04592798(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/00 - 15/46
B41F 31/00 - 35/06
B05D 1/00 - 7/26
B41M 1/00 - 3/18
B41M 7/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体が充填される多孔式の粉体充填部材と、
前記粉体充填部材に粉体を充填する充填機と、
前記充填機により粉体充填部材に充填された粉体を、基板に移動させることにより、当該基板に形成された粉体膜にする成膜機と、
前記成膜機により粉体が移動された粉体充填部材を清掃する清掃機とを備え、
前記充填機の位置にある粉体充填部材を、前記成膜機の位置まで搬送する第一搬送機と、
前記成膜機の位置にある粉体充填部材を、前記清掃機の位置まで搬送する第二搬送機と、
前記清掃機の位置にある粉体充填部材を、前記充填機の位置まで搬送する第三搬送機とをさらに備え
、
前記第一搬送機、第二搬送機および第三搬送機が、異なる機器、または、一体とされた機器であることを特徴とする粉体成膜装置。
【請求項2】
粉体充填部材が、単数であることを特徴とする請求項1に記載の粉体成膜装置。
【請求項3】
第一搬送機、第二搬送機および第三搬送機が、一体とされた機器であり、
前記一体とされた機器が、粉体充填部材を把持する回転アームを有することを特徴とする請求項1または2に記載の粉体成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体成膜装置および粉体膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーンに粉体を擦込体で擦込んで粉体膜を形成する静電スクリーン印刷が、従来技術として知られている(例えば、特許文献1参照)。静電スクリーン印刷を採用する当該特許文献1の静電成膜装置は、粉体をスクリーンに供給するホッパと、粉体をスクリーンに擦込む擦込体(スクリーンブラシ)とを備える。前記静電成膜装置は、これらホッパおよび擦込体を互いに独立して動作可能とすることにより、成膜する粉体膜の精度向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の静電成膜装置だと、擦込体によりスクリーンに擦込まれた粉体に基づいて基板に形成された粉体膜は、スクリーンに供給された粉体の散布状態、および、擦込体の移動の軌跡に由来して、厚さにムラが生ずることになる。言い換えれば、前記静電成膜装置で形成される粉体膜は、その膜厚精度が不十分になってしまう。
【0005】
さらに、前記特許文献1に記載の静電成膜装置だと、スクリーンブラシはクリーニング部材により不要な粉体の堆積が防止されるものの、スクリーンのメッシュ部には不要な粉体が残留するので、繰り返し使用されると、残留した粉体による悪影響で、形成される粉体膜の膜厚精度がより不十分になるおそれもある。
【0006】
そこで、本発明は、形成する粉体膜の膜厚精度を良好にし得る粉体成膜装置および粉体膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る粉体成膜装置は、粉体が充填される多孔式の粉体充填部材と、
前記粉体充填部材に粉体を充填する充填機と、
前記充填機により粉体充填部材に充填された粉体を、基板に移動させることにより、当該基板に形成された粉体膜にする成膜機と、
前記成膜機により粉体が移動された粉体充填部材を清掃する清掃機とを備え、
前記充填機の位置にある粉体充填部材を、前記成膜機の位置まで搬送する第一搬送機と、
前記成膜機の位置にある粉体充填部材を、前記清掃機の位置まで搬送する第二搬送機と、
前記清掃機の位置にある粉体充填部材を、前記充填機の位置まで搬送する第三搬送機とをさらに備え、
前記第一搬送機、第二搬送機および第三搬送機が、異なる機器、または、一体とされた機器であるものである。
【0008】
また、第2の発明に係る粉体成膜装置は、第1の発明に係る粉体成膜装置の粉体充填部材が、単数であるものである。
【0009】
さらに、第3の発明に係る粉体成膜装置は、第1または第2の発明に係る粉体成膜装置の第一搬送機、第二搬送機および第三搬送機が、一体とされた機器であり、
前記一体とされた機器が、粉体充填部材を把持する回転アームを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
前記粉体成膜装置および粉体膜形成方法によると、粉体から基板に粉体膜を形成するのに、当該粉体を粉体充填部材に一旦充填してから基板に移動することで、形成される粉体膜の膜厚精度を良好にすることができる。さらに、清掃機により粉体充填部材に残留した粉体が除去されるので、繰り返し使用されても、膜厚精度を安定して良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る粉体成膜装置を概略的に示す断面斜視図である。
【
図2A】同粉体成膜装置が備えるスクリーン版の一部切欠き斜視図である。
【
図2B】同スクリーン版が有するスクリーンメッシュ部および乳剤部を示す分解斜視図である。
【
図3】同粉体成膜装置が備える充填機を説明するための断面斜視図である。
【
図4】同充填機として擦込体の代わりに押込体を採用した場合の断面斜視図である。
【
図5】同粉体成膜装置が備える成膜機を説明するための断面斜視図である。
【
図6】同成膜機として擦込体の代わりに押込体を採用した場合の断面斜視図である。
【
図7A】同粉体成膜装置が備える清掃機の具体例である吸引具を説明するための断面斜視図である。
【
図7B】同清掃機の具体例である微粘着テープを説明するための断面斜視図である。
【
図8】本発明の実施の形態2に係る粉体成膜装置を概略的に示す斜視図である。
【
図9】同粉体成膜装置における粉体充填部材を搬送する回転搬送機の他の例を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態1に係る粉体成膜装置および粉体膜形成方法について、図面に基づき説明する。
【0013】
まず、前記粉体成膜装置の概略について、
図1に基づき説明する。
【0014】
『粉体成膜装置1』
図1に示すように、この粉体成膜装置1は、粉体10から粉体膜11を基板12の上に均一に形成する装置であり、繰り返し使用されても、次いで形成される粉体膜11の膜厚精度も良好にすることが可能である。前記粉体成膜装置1は、粉体10が充填される多孔式の粉体充填部材2と、この粉体充填部材2に粉体10を充填する充填機3とを備える。ここで、充填とは、空いた所に詰めて塞ぎ、その状態で保持することを意味する。前記粉体成膜装置1は、さらに、前記充填機3により粉体充填部材2に充填された粉体10を、基板12に移動させることにより、当該基板12に粉体膜11を形成する成膜機4を備える。粉体10から基板12に粉体膜11を形成するのに、当該粉体10を粉体充填部材2に一旦充填してから基板12に移動することで、形成される粉体膜11の膜厚精度が良好になる。前記粉体成膜装置1は、さらに、前記成膜機4により粉体10が移動された粉体充填部材2を清掃する清掃機5を備える。粉体充填部材2から粉体10を基板12に移動させても、当該粉体充填部材2には若干の粉体10が残留する。この残留した粉体10が清掃機5で除去されることで、同一の粉体充填部材2で再び基板12に粉体膜11を形成しても、当該粉体膜11の膜厚精度も良好になる。
【0015】
次に、前記粉体成膜装置1が備える、粉体充填部材2、充填機3、成膜機4および清掃機5のそれぞれについて、図面に基づき具体的に説明する。
【0016】
「粉体充填部材2」
前記粉体充填部材2は、粉体10が充填される多孔式のものであれば特に限定されないが、例えば
図2Aに示すように、スクリーン版21である。このスクリーン版21は、粉体10を保持および通過させ得る被充填部22と、この被充填部22の外周囲で粉体10を保持および通過させない被覆部23とを有する。前記被充填部22はスクリーンメッシュからなり、前記被覆部23はスクリーンメッシュに乳剤を注入および乾燥させた部分である。言い換えれば、前記スクリーン版21は、
図2Bに示すように、紗厚t1のスクリーンメッシュ部26と、前記被充填部22に相当する位置で中央20が開口した厚さt1+t2の乳剤部27とから構成される。前記スクリーン版21は、
図2Aに示すように、一方側(
図2Aでの上側)で前記スクリーンメッシュ部26と乳剤部27とが面一にされ、他方側(
図2Aでの下側)でスクリーンメッシュ部26よりも乳剤部27が厚さt2だけ突出するように構成される。以下では、前記スクリーン版21において、一方側(
図2Aでの上側)をメッシュ側と称し、他方側(
図2Aでの下側)を乳剤側と称する。
【0017】
「充填機3」
前記充填機3は、粉体充填部材2に粉体10を充填するものであれば特に限定されないが、例えば
図3に示すように、ホッパ31、擦込体32および押え板33を有する。このホッパ31は、移動しながらスクリーン版21の被充填部22に粉体10を供給するものである。ホッパ31による粉体10の被充填部22への供給は、ホッパ31から粉体10を被充填部22に落下させる直接的な方法でもよく、ホッパ31から粉体10を被覆部23に落下させてから擦込体32で被充填部22に移動させる間接的な方法でもよい。前記擦込体32は、擦込みにより前記被充填部22に粉体10を充填する弾性体であり、ポリウレタンスポンジ、ゴム、スキージまたは刷毛などにより構成される。前記押え板33は、粉体10の供給および擦込みの際に、被充填部22を下方から封止して、粉体10を被充填部22に充填する際に確実に保持させるものである。言い換えれば、前記押え板33は、被充填部22に充填された粉体10を当該被充填部22から下方に落下させないものである。これらホッパ31、擦込体32および押え板33は、いずれも充填機3の必須の構成ではない。例えば、ホッパ31がなくても、粉体10を収容している容器または袋から被充填部22に当該粉体10を直接供給してもよい。また、擦込体32がなくても、図示しない振動具によるスクリーン版21の振動で粉体10を被充填部22に充填してもよい。さらに、押え板33がなくても、被充填部22におけるスクリーンメッシュの密度および粉体10の性状によっては、被充填部22に粉体10が十分に保持される。勿論、充填機3がこれらを有する方が、膜厚精度が良好になる。前記擦込体32の代わりに、
図4に示すように、被充填部22を覆い得る押込体38を採用してもよい。前記押込体38は、押込みにより前記被充填部22に粉体10を充填する弾性体である。なお、膜厚精度をより良好にするには、
図3および
図4に示すように、スクリーン版21において、被充填部22に粉体10を充填する際に、乳剤側を上にしておくことが好ましい。勿論、スクリーン版21において、被充填部22に粉体10を充填する際に、乳剤側を下にしてもよい。
【0018】
「成膜機4」
前記成膜機4は、粉体充填部材2に充填された粉体10の移動により基板12に粉体膜11を形成するものであれば特に限定されないが、例えば
図5に示すように、静電力を利用する静電スクリーン印刷が採用される。静電スクリーン印刷を採用した成膜機4は、被充填部22に充填された粉体10を加圧により当該被充填部22から落下(移動の一例である)させる擦込体42と、スクリーン版21および基板12に電圧を印加する直流電源44と、基板12を載置する載置台43と、前記スクリーン版21および載置台43に直流電源44からの電流を流し得る電気回路45とを有する。この電気回路45は、アース46およびスイッチ47を具備する。前記擦込体42の代わりに、
図6に示すように、被充填部22を覆い得る押込体48を採用してもよい。前記押込体48は、前記擦込体42のように擦込みにより粉体10を加圧するのではなく、押込みにより粉体10を加圧するものである。成膜機4として、このような静電スクリーン印刷以外には、擦込体42の加圧のみで、または、図示しない振動具によるスクリーン版21の振動で、粉体10を被充填部22から基板12に落下させる印刷が採用され得る。成膜機4における擦込体42(または押込体48)および振動具は、充填機3における擦込体32(または押込体38)および振動具を兼用してもよい。前述の静電スクリーン印刷を採用した成膜機4の構成、擦込体42、および/または、振動具は、基板12への粉体10の落下を促進させるものであるから、落下促進具とも言える。なお、膜厚精度をより良好にするには、スクリーン版21において、
図5に示すように、被充填部22に充填された粉体10の落下により基板12に粉体膜11を形成する際に、乳剤側を下にしておくことが好ましい。勿論、被充填部22に充填された粉体10の落下により基板12に粉体膜11を形成する際に、乳剤側を上にしてもよい。
【0019】
「清掃機5」
前記清掃機5は、成膜機4により粉体10が移動された粉体充填部材2を清掃するものであれば特に限定されないが、例えば、
図7Aに示すような吸引具51、または、
図7Bに示すような微粘着テープ52を有する。図示しないが、前記清掃機5は、粉体充填部材2(具体的には被充填部22)を上方から下方に送風するブロワと、下方から吸引する吸引具とを有するものでもよい。なお、吸引具51および微粘着テープ52は、いずれも、粉体充填部材2(具体的には被充填部22)から移動し切れずに残留した粉体10を除去するので、粉体除去具とも言える。
【0020】
成膜機4により被充填部22から粉体10が落下した後、当該被充填部22に粉体10が残留しやすいのは、粉体10が落下した方向の反対側、すなわち、
図5の例だと上部(メッシュ側の近傍)である。このため、前記清掃機5は、被充填部22におけるメッシュ側の近傍を主として清掃するものであれば効率が良い。例えば、
図7Aおよび
図7Bの例だと、吸引具51または微粘着テープ52は、被充填部22の上方(メッシュ側)から吸引または貼着するものであれば効率が良い。勿論、吸引具51または微粘着テープ52は、被充填部22の上方(メッシュ側)および下方(乳剤側)の両方から吸引または貼着する構成であれば、残留した粉体10がより確実に除去されるので、膜厚精度をより良好にする観点から好ましい。さらに、粉体10は飛散などにより被覆部23にも付着する可能性があるので、吸引具51または微粘着テープ52は、被充填部22だけでなく被覆部23まで清掃して粉体10を除去するものであることが好ましい。
【0021】
『粉体膜形成方法』
以下、前記粉体成膜装置1の動作、すなわち、粉体膜形成方法について説明する。
【0022】
まず、粉体充填部材2に粉体10を充填する充填工程が行われる。その具体例としては、
図3に示すように、乳剤側が上側(メッシュ側が下側)になるようにスクリーン版21を配置し、押え板33で被充填部22を下方から封止する。その後、被充填部22の上方からホッパ31で当該被充填部22に粉体10を供給していき、被充填部22の粉体10を上方から擦込体32での擦込み(または
図4に示す押込体38での押込み)で当該被充填部22に充填していく。
【0023】
こうして被充填部22に粉体10が充填されると、すなわち、被充填部22に粉体10が詰まって塞ぎ、その状態で保持されると、スクリーン版21を上下に反転する。
【0024】
次に、粉体充填部材2に充填された粉体10を基板12に移動させることにより、当該基板12に粉体膜11を形成する、成膜工程が行われる。その具体例としては、
図5に示すように、スクリーン版21および載置台43に、いずれか一方が正極で他方が負極となるように、電気回路45により直流電源44を接続する。載置台43に基板12を載置し、この基板12がスクリーン版21における被充填部22の真下に位置するように、載置台43およびスクリーン版21の位置関係を調整する。その後、電気回路45のスイッチ47をオンにして、スクリーン版21および基板12に電圧を印加することで得られる静電力と、擦込体42の擦込み(または
図6に示す押込体38での押込み)による加圧とにより、被充填部22の粉体10が基板12に落下する。
【0025】
こうして基板12に膜厚精度の良好な粉体膜11が形成される一方、被充填部22に若干の粉体10が残留する。
【0026】
そして、粉体充填部材2を清掃する清掃工程が行われる。その具体例としては、
図7Aに示すように、上方から吸引具51で被充填部22を吸引する。また、他の具体例としては、
図7Bに示すように、上方から微粘着テープ52を被充填部22に貼着してから剥がす。
図7Aおよび
図7Bのいずれの具体例でも、被充填部22に残留した粉体10が除去される。
【0027】
このように、前記粉体成膜装置1および粉体膜形成方法によると、粉体10から基板12に粉体膜11を形成するのに、当該粉体10を粉体充填部材2に一旦充填してから基板12に移動することで、形成される粉体膜11の膜厚精度を良好にすることができる。さらに、清掃機5により粉体充填部材2に残留した粉体10が除去されるので、繰り返し使用されても、膜厚精度を安定して良好にすることができる。
【0028】
[実施例1~6および比較例]
以下、本発明の実施例1~6に係る粉体成膜装置1および粉体膜形成方法、並びにその比較例について説明する。これら実施例1~6と比較例との概略的な違いは、実施例1~6が充填機3および充填工程を有するのに対し、比較例が充填機3および充填工程を有しないことである。これら実施例1~6および比較例での試験条件および評価結果は、次の表1の通りである。
【0029】
【表1】
粉体10として、実施例1~6よび比較例では、いずれも粒径(D50)が4μmの略球形をした乾燥粉体を採用した。
【0030】
粉体充填部材2として、実施例1,2,4~6および比較例では、スクリーン印刷用のスクリーン版21を採用した。このスクリーン版21において、そのスクリーンメッシュ部26をステンレスメッシュ、メッシュの線径を30μm、紗厚t1を60μm、メッシュ数を300/inch、オープニングを55μm、被充填部22を50mm×50mmの正方形状でベタパターンとした。一方で、実施例3では、電鋳加工にて作製したメタルマスクを採用した。このメタルマスクは、50mm×50mmの正方形状でベタパターンの被充填部22を有する構造とした。この被充填部22は300/inchのメッシュ数に相当する多数の孔が形成されたものである。このメタルマスクにおいて、被充填部22以外の部分であるメタル部の厚さを60μmとした。ところで、表1に示すように、実施例1~6でスクリーンメッシュ部26から突出する乳剤部27の厚さが異なる実施例もあるが、これは被充填部22における容積の変更を目的としている。
【0031】
充填機3および成膜機4が有する擦込体32,42として、表1に示すように、実施例1~3ではポリウレタンのスポンジを採用し、実施例4および6ではウレタンのスキージを採用した。なお、比較例では、成膜機4が有する擦込体32,42として、ポリウレタンのスポンジを採用した。
【0032】
充填機3が有する押え板33として、実施例1~5では、70mm×70mmの正方形状、厚さが300μm、平面度が50μm以下のステンレス板を採用した。実施例6では、実施例1~5でのステンレス板において、中央の領域(40mm×40mm)で厚さを300μmとし、この中央の領域から外方に向けて厚さが徐々に小さくなる斜面(6.7μm/mmの傾斜)を有する微傾斜ステンレス板を採用した。
【0033】
粉体膜11が形成される基板12として、実施例1~6および比較例では、実施例1~5でのステンレス板と同じものを採用した。
【0034】
成膜機4として、実施例1では、静電スクリーン印刷ではなく擦込体42の加圧のみを利用する方法を採用し、実施例2~6および比較例では、電界強度が1kV/mmの静電スクリーン印刷を採用した。
【0035】
清掃機5として、実施例1~6および比較例では、スクリーン版21およびメタルマスクの被充填部22から粉体10を完全に除去する任意の機器を採用した。このため、実施例1~6および比較例で採用された前記スクリーン版21およびメタルマスクは、既に使用されたものであっても、新品のものと同一の機能を有する。
【0036】
そして、清掃工程により清掃されたスクリーン版21またはメタルマスクを使用し、表1の各試験条件に従って、実施例1~6では充填工程および成膜工程により、比較例では成膜工程により、基板12に粉体膜11を形成した。
【0037】
実施例1~4および6では、成膜を3回実施することで、3層からなる粉体膜11を形成した。一方で、実施例5では、成膜を5回実施することで、5層からなる粉体膜11を形成した。ここで、実施例1~6において、これら粉体膜11を構成する単層の重量を、当該単層を成膜する前後で測定したステンレス板の重量差により、算出した。なお、比較例では、1層からなる粉体膜11であり、言い換えれば、単層の粉体膜11であるから、単層の重量を測定しなかった。
【0038】
実施例1~6および比較例での粉体膜11における面内厚さの分布を、当該粉体膜11に対して横方向から光を照射しながらの目視により、確認した。
【0039】
実施例1~6および比較例での粉体膜11における面内厚さのばらつきを定量的に確認するために、当該粉体膜11を10ton/cm2(9.8×102MPa)で30秒間加圧し、加圧された粉体膜11の四隅および中央部を直径10mmのハンドパンチで打ち抜き、これら打ち抜かれた四隅および中央部の重量を測定した。これら四隅および中央部の重量から平均値を算出し、この平均値を基準としたばらつきの範囲を、表1に示すように、百分率(%)で算出した。
【0040】
次に、表1の具体的な評価結果について、比較例を説明した後、実施例1~6を説明する。
【0041】
[比較例]
比較例では、充填工程を有しない、すなわち、スクリーン版21に粉体10が保持されないまま成膜するので、粉体膜11の膜厚精度が良好でなかった。具体的には、表1に示すように、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認され、面内厚さのばらつきが30.7%と実施例1~5に比べて極めて大きな値となった。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、充填工程を有するので、粉体膜11の膜厚精度が良好であった。具体的には、表1に示すように、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認されず、面内厚さのばらつきが9.4%と比較例での約1/3に低減された。
【実施例2】
【0043】
実施例2では、実施例1において電界強度が1kV/mmの静電スクリーン印刷を採用した。このため、粉体膜11の膜厚精度が実施例1よりも良好であった。具体的には、表1に示すように、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認されず、面内厚さのばらつきが6.7%とさらに低減された。
【実施例3】
【0044】
実施例3では、実施例2においてスクリーン版21ではなくメタルマスクを採用した。メタルマスクでは、その被充填部22がスクリーン版21の被充填部22よりも容量が小さいので、単層の重量が実施例1および2よりも減少した。しかしながら、実施例3でも、実施例1および2と同様に、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認されず、面内厚さのばらつきが10%以下と好ましい値となった。この結果、粉体充填部材2として、スクリーン版21以外にも、メタルマスクを採用可能であることが確認された。
【実施例4】
【0045】
実施例4では、擦込体32,42として、実施例1~3のようなスポンジ(ポリウレタン)ではなく、スキージ(ウレタン)を採用した。実施例4でも、実施例1~3と同様に、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認されず、面内厚さのばらつきが10%以下と好ましい値となった。この結果、擦込体32,42として、スポンジ以外にも多種類の擦込体を採用可能であることが確認された。
【実施例5】
【0046】
実施例5では、実施例4においてスクリーンメッシュ部26から突出する乳剤部27の厚さt2を50μmではなく10μmとした。これにより、被充填部22で粉体10が充填され得る容積が減少したので、単層の重量が実施例4よりも減少した。この結果、被充填部22の容積によって成膜量を制御可能であることが確認された。なお、粉体膜11の膜厚精度が実施例4よりも良好であった。具体的には、面内厚さのばらつきが実施例4よりも低い値となった。
【実施例6】
【0047】
実施例6では、実施例4において押え板33に厚さ分布を設けた。具体的には、押え板33として、実施例4では厚さが300μmで均一のステンレス板を採用したが、実施例6では中央の領域で厚さが大きくなる傾斜ステンレス板を採用した。これにより、表1に示すように、粉体膜11において、目視による面内厚さの分布が確認され、面内厚さのばらつきが実施例1~5よりも大きな値となった。この結果、形成する粉体膜11における面内厚さを押え板33で任意に制御可能であることが確認された。
【0048】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る粉体成膜装置100および粉体膜形成方法は、連続的に粉体膜11を基板12に形成する装置および方法である。
【0049】
以下、前記実施の形態1と異なる部分に着目して説明するとともに、前記実施の形態1と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
『粉体成膜装置100』
図8に示すように、本発明の実施の形態2に係る粉体成膜装置100は、粉体充填部材2の数が3つ(複数あればよい)である。前記粉体成膜装置100の充填機3、成膜機4および清掃機5は、それぞれ異なる粉体充填部材2に対して、充填工程、成膜工程および清掃工程を行うように配置されている。また、前記粉体成膜装置100は、粉体充填部材2を搬送する第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63をさらに備える。すなわち、第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63は、粉体充填部材2を搬送する搬送工程を行うものである。前記第一搬送機61は、充填機3の位置にある粉体充填部材2を、成膜機4の位置まで搬送するものである。前記第二搬送機62は、前記成膜機4の位置にある他の粉体充填部材2を、清掃機5の位置まで搬送するものである。前記第三搬送機63は、前記清掃機5の位置にあるさらに他の粉体充填部材2を、前記充填機3の位置まで搬送するものである。
【0051】
前記粉体成膜装置100は、充填工程が行われている粉体充填部材2を保持する充填用保持具73と、成膜工程が行われている粉体充填部材2を保持する成膜用保持具と、清掃工程が行われている粉体充填部材2を保持する清掃用保持具75とを備える。充填工程では乳剤側を上側にするのが好ましく、成膜工程および清掃工程ではメッシュ側を上にするのが好ましいので、前記粉体成膜装置100は、粉体充填部材2を反転する2つの反転具83,85を備える。これら2つの反転具83,85は、充填機3の位置と第一搬送機61との間に設けられた充填後反転具83、および、清掃機5の位置と第三搬送機63との間に設けられた清掃後反転具85である。ここで、前記充填用保持具73は、第三搬送機63から粉体充填部材2をすくい上げて、充填機3の位置まで当該粉体充填部材2を移動させるものである。前記充填後反転具83は、充填機3の位置から第一搬送機61まで粉体充填部材2を反転して移動させるものである。前記成膜用保持具は、図示しないが、第一搬送機61から粉体充填部材2をすくい上げて、成膜機4の位置まで当該粉体充填部材2を移動させて、その位置から第二搬送機62まで当該粉体充填部材2を移動させるものである。清掃用保持具75は、第二搬送機62から粉体充填部材2をすくい上げて、清掃機5の位置まで当該粉体充填部材2を移動させるものである。前記清掃後反転具85は、清掃機5の位置から第三搬送機63まで粉体充填部材2を反転して移動させるものである。勿論、前記充填後反転具83および清掃後反転具85が設けられる位置は、
図8で示したものに限定されず、必要に応じて適宜変更されてもよい。
【0052】
前記第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63は、例えば、無端状ベルトと、この無端状ベルトに掛け渡された搬送先ローラおよび搬送元ローラとをそれぞれ有する。前記充填用保持具73、成膜用保持具および清掃用保持具75は、例えば、粉体充填部材2をすくい上げるフォーク77と、このフォーク77を昇降および鉛直軸V回りに回転させ得る駆動機構78とをそれぞれ有する。前記反転具83,85は、例えば、粉体充填部材2をメッシュ側および乳剤側から挟んで保持する把持体と、把持体を水平軸H回りに回転させ得る回転機構とをそれぞれ有する。
【0053】
前記粉体成膜装置100は、粉体膜11が形成される前の基板12を連続的に成膜機4の位置に搬入する基板搬入機92と、粉体膜11が形成された後の基板12を連続的に成膜機4の位置から搬出する基板搬出機93とを備える。
【0054】
充填機3が有する擦込体32、成膜機4が有する擦込体42、および、清掃機5が有する吸引具51は、いずれも、ガイドレール39,49,59に沿って自動で動くように構成されてもよい。
【0055】
『粉体膜形成方法』
以下、前記粉体成膜装置100の動作、すなわち、粉体膜形成方法について説明する。
【0056】
図8に示すように、充填機3の位置では、連続的に、第三搬送機63から充填用保持具73ですくい上げられた粉体充填部材2に粉体10を充填する充填工程が行われる。充填工程が行われた粉体充填部材2は、連続的に、充填後反転具83により上下に反転されて第一搬送機61により搬送される。
【0057】
一方で、成膜機4の位置では、連続的に、第一搬送機61から成膜用保持具ですくい上げられた粉体充填部材2に成膜工程が行われる。成膜工程が行われた粉体充填部材2は、連続的に第二搬送機62により搬送される。また、成膜機4の位置における粉体充填部材2の下方には、基板搬入機92および基板搬出機93により、連続的に基板12が搬入および搬出される。
【0058】
一方で、清掃機5の位置では、連続的に、第二搬送機62から清掃用保持具75ですくい上げられた粉体充填部材2を清掃する清掃工程が行われる。清掃工程が行われた粉体充填部材2は、連続的に、清掃後反転具85により上下に反転されて第三搬送機63により搬送される。
【0059】
このように、前記粉体成膜装置100および粉体膜形成方法によると、連続的に、清掃機5の位置に供給される基板12に粉体膜11が形成されるので、前記実施の形態1の効果に加えて、粉体膜11が形成された基板12を短時間で製造することができる。
【0060】
ところで、前記実施の形態1および2では、粉体充填部材2および成膜機4の位置関係を、粉体充填部材2の下に載置台43が位置するとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、前記実施の形態1および2の粉体充填部材2および成膜機4を横転させた姿勢にし、当該粉体充填部材2に充填された粉体10を基板12に落下ではなく横移動させることで、当該基板12に粉体膜11を形成するようにしてもよい。勿論、前記粉体充填部材2および成膜機4は、横転させた姿勢に限られず、傾斜させた姿勢にし、粉体10を基板12に斜移動させるようにしてもよい。
【0061】
また、前記実施の形態2では、第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63が異なる機器として説明したが、これら61~63が一体とされた機器でもよい。例えば、第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63を一体にした機器として、
図9に示す回転搬送機60がある。この回転搬送機60は、鉛直軸Vに沿った回転軸65と、この回転軸65を駆動するモータ64と、前記回転軸65に設けられたハウジング66と、このハウジング66から水平軸Hに沿った複数(
図9では例として3本)の回転アーム67とを有する。各回転アーム67は、粉体充填部材2を把持する把持アーム体68と、この把持アーム体68を水平軸H回りに回転させ得る反転用モータ69とを有する。したがって、前記回転搬送機60は、
図8に示す第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63の機能を有するとともに、
図8に示す反転具83,85の機能も有する。なお、
図9に示す充填工程が行われる位置30、成膜工程が行われる位置40、および、清掃工程が行われる位置50には、図示しないが、充填機3、成膜機4および清掃機5がそれぞれ備えられる。また、
図9において、
図8と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。このように、前記実施の形態2に係る粉体成膜装置100が
図9に示す回転搬送機60を備えることにより、第一搬送機61、第二搬送機62および第三搬送機63を前記回転搬送機60に組み込むことになるとともに、反転具83,85も前記回転搬送機60に組み込むことになるので、簡素な構成にすることができる。
【0062】
さらに、前記実施の形態2では、充填工程、成膜工程および清掃工程のタイミングについて説明しなかったが、これら充填工程、成膜工程および清掃工程は同時に行われることが好ましい。これにより、粉体膜11が形成された基板12をより短時間で製造することができる。
【0063】
加えて、前記実施の形態1では、充填機3および成膜機4として、擦込体32,42の代わりに採用してもよいとして説明した押込体38,48は、粉体充填部材2に対して滑らせるものではない。すなわち、押込体38,48は、擦込体32,42のように粉体充填部材2に対して滑らせることで粉体10を擦込むのではなく、粉体充填部材2に対して押付けることで粉体10を押込むものである。
【0064】
また、前記実施の形態1および2は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態1および2で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 粉体成膜装置
2 粉体充填部材
3 充填機
4 成膜機
5 清掃機
10 粉体
11 粉体膜
12 基板
21 スクリーン版
22 被充填部
23 被覆部
31 ホッパ
32 擦込体
33 押え板
38 押込体
42 擦込体
43 載置台
44 直流電源
45 電気回路
48 押込体
51 吸引具
52 微粘着テープ
61 第一搬送機
62 第二搬送機
63 第三搬送機