IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特許7398559高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231207BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20231207BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231207BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20231207BHJP
   C21D 9/50 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C22C38/00 302B
C22C38/26
C21D8/02 D
C21D9/00 L
C21D9/50 101Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022523578
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2020014343
(87)【国際公開番号】W WO2021080291
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0131598
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン‐テク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-319629(JP,A)
【文献】特開平05-339629(JP,A)
【文献】特開昭56-020121(JP,A)
【文献】特表2020-509193(JP,A)
【文献】特表2021-507099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/26
C21D 8/02
C21D 9/00
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.10~0.16%、シリコン(Si):0.20~0.35%、マンガン(Mn):0.4~0.6%、クロム(Cr):6.5~7.5%、モリブデン(Mo):0.7~0.9%、アルミニウム(Al):0.005~0.05%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.020%以下、ニオブ(Nb):0.002~0.025%、バナジウム(V):0.25~0.35%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織として、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの混合組織を含むことを特徴とする高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材。
【請求項2】
前記焼戻しマルテンサイトは、面積分率40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、600MPa以上の引張強度、-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値が100J以上であることを特徴とする請求項1に記載の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材。
【請求項4】
重量%で、炭素(C):0.10~0.16%、シリコン(Si):0.20~0.35%、マンガン(Mn):0.4~0.6%、クロム(Cr):6.5~7.5%、モリブデン(Mo):0.7~0.9%、アルミニウム(Al):0.005~0.05%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.020%以下、ニオブ(Nb):0.002~0.025%、バナジウム(V):0.25~0.35%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを800~1000℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を1000~1050℃の温度範囲で{(1.3×t)+(10~30)}分(ここで、tは鋼材厚さ(mm)を意味する)間保持する熱処理段階と、
前記熱処理された熱延鋼板を1~30℃/sの冷却速度で常温まで冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を800~825℃の温度範囲で{(1.6×t)+(10~30)}分間保持する焼戻し熱処理段階と、
前記焼戻し熱処理後に、最大50時間760~780℃の温度範囲で溶接後熱処理する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延は、パス当たり圧下率2.5~30%で行うものであることを特徴とする請求項4に記載の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記熱間圧延後に、前記熱延鋼板を常温まで空冷する段階をさらに含むものであることを特徴とする請求項4に記載の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、発電所及び化学プラントのボイラー、圧力容器等に使用される鋼材に関するものであって、高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電所及び化学プラントのボイラー、圧力容器等の350~600℃程度の環境の中、高温圧力容器用素材に対する需要が増加し続けている。
また、設備の高度化、長寿命化及び鋼材の厚物化に伴う高温での焼戻し(tempering)熱処理等に対する抵抗性が高い鋼材への供給が求められている。
【0003】
一方、鋼材の厚物化以外にも鋼材を溶接する場合に、溶接後に構造物の変形を防止し、形状及び寸法を安定させるための目的として、溶接時に発生した応力を除去するために溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)が行われている。溶接後熱処理工程は長時間にわたって行われ、この工程が行われた鋼板は、その組織粒子の粗大化により鋼板の引張強度が低下するという問題がある。
すなわち、長時間のPWHT後には、基地組織(Matrix)及び結晶粒界の軟化、結晶粒成長、炭化物の粗大化等によって強度及び靭性が同時に低下する現象を招く。
【0004】
このような問題点を解決するために、次のような技術が提案されている。
特許文献1によると、C、Si、Mn、Cr、Mo、Ni、Cuなどを適量含有する厚物鋼板材に対して焼戻し熱処理パターンを適用、すなわち、高温熱処理(高温焼戻し)後に低温熱処理(低温焼戻し)を施すことによって、高温焼戻し時の転位密度を減少させて強度の減少に対して、低温焼戻しにより発生する析出強化効果を活用する方法を提案している。しかし、このような方法を適用しても長時間のPWHTによる抵抗性が大きく劣化するという問題がある。
したがって、長時間のPWHT後にも物性の劣化を最小化でき、中・高温環境において好適に使用できる鋼材の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第2012-0073448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、高温における長時間の溶接後熱処理(PWHT)の適用にもかかわらず、強度及び靭性の劣化が最小化できる高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供することにある。
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何らの困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材は、重量%で、炭素(C):0.10~0.16%、シリコン(Si):0.20~0.35%、マンガン(Mn):0.4~0.6%、クロム(Cr):6.5~7.5%、モリブデン(Mo):0.7~0.9%、アルミニウム(Al):0.005~0.05%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.020%以下、ニオブ(Nb):0.002~0.025%、バナジウム(V):0.25~0.35%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織として、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの混合組織を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法は、上記の合金成分系を有する鋼スラブを準備する段階と、上記鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを800~1000℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を1000~1050℃の温度範囲で{(1.3×t)+(10~30)}分(ここで、tは鋼材厚さ(mm)を意味する)間保持する熱処理段階と、上記熱処理された熱延鋼板を1~30℃/sの冷却速度で冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を800~825℃の温度範囲で{(1.6×t)+(10~30)}分間保持する焼戻し熱処理段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高温熱処理、特に長時間の高温PWHT後にも強度及び靭性が劣化しない圧力容器用鋼材を提供することができる。特に、本発明の圧力容器用鋼材は、中・高温用の圧力容器用素材として好適に適用できる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、発電所、プラント産業等の環境において、構造用鋼として使用されている圧力容器用鋼材を製造する際に、溶接により発生する残留応力を最小化するために行う溶接後熱処理(PWHT)を長時間行った後にも強度及び靭性の劣化に対する抵抗性を大きく向上させる方案について鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至った。
特に、本発明は、合金組成のうち特定元素の含量を最適化することにより、高温での焼戻し熱処理と長時間のPWHTを行っても、強度及び靭性劣化に対する抵抗性に優れた鋼材を提供することに技術的特徴がある。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材は、重量%で、炭素(C):0.10~0.16%、シリコン(Si):0.20~0.35%、マンガン(Mn):0.4~0.6%、クロム(Cr):6.5~7.5%、モリブデン(Mo):0.7~0.9%、アルミニウム(Al):0.005~0.05%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.020%以下、ニオブ(Nb):0.002~0.025%、バナジウム(V):0.25~0.35%を含む。
以下では、本発明で提供する圧力容器用鋼材の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。なお、本発明において特に断りのない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0012】
炭素(C):0.10~0.16%
炭素(C)は鋼の強度を向上させる上で有利な元素である。Cの含量が0.10%未満であると、基地組織の自体強度が低下する。一方、その含量が0.16%を超えると、強度が過度に増加して靭性に劣るおそれがある。したがって、上記Cは0.10~0.16%含まれることがよい。
【0013】
シリコン(Si):0.20~0.35%
シリコン(Si)は脱酸及び固溶強化に効果的な元素であって、衝撃遷移温度の上昇を伴う元素である。目標とする強度を達成するために、上記Siは0.20%以上含むことが好ましいが、その含量が0.35%を超えると、溶接性が低下し、衝撃靭性に劣るという問題がある。したがって、上記Siは0.20~0.35%含まれることがよい。
【0014】
マンガン(Mn):0.4~0.6%
マンガン(Mn)は、鋼中の硫黄(S)と結合して延伸された非金属介在物であるMnSを形成することにより、常温延伸び率及び低温靭性を阻害するため、その含量を0.6%以下に制限する。但し、その含量が0.4%未満の場合には、適正レベルの強度確保が困難となる。したがって、上記Mnは0.40~0.6%含まれることがよい。
【0015】
クロム(Cr):6.5~7.5%
本発明においてクロム(Cr)は、高温での熱処理(焼戻し、PWHT)を可能とする効果に加えて強度増加効果を得るのに有利であり、このために6.5%以上添加することが好ましい。これにより本発明の鋼材は、高温熱処理に対する優れた抵抗性を確保することができる。但し、上記Crは高価な元素であって、その含量が7.5%を超えると、製造コストが大きく上昇する。したがって、上記Crは6.5~7.5%含まれることがよい。
【0016】
モリブデン(Mo):0.7~0.9%
モリブデン(Mo)は、上記Crと同様に、高温強度の増大に有効な元素であるだけでなく、硫化物による割れ発生を防止するのに有利である。上述の効果を十分に得るためには、Moを0.7%以上含むことが好ましいが、その含量が0.9%を超えると、製造コストの上昇を招くようになる。したがって、上記Moは0.7~0.9%含まれることがよい。
【0017】
アルミニウム(Al):0.005~0.05%
アルミニウム(Al)は、上記Siと共に製鋼工程において強力な脱酸剤である。脱酸効果を十分に得るためには、上記Alを0.005%以上含むことが好ましいが、その含量が0.05%を超えると、脱酸効果は飽和するのに対し、製造コストが大きく上昇するという問題がある。したがって、上記Alは0.005~0.05%含まれることがよい。
【0018】
リン(P):0.015%以下
リン(P)は鋼の低温靭性を阻害しつつ、焼戻脆化感受性を増大させる元素であって、可能な限りその含量を低く制御することが好ましい。但し、上記Pの含量を下げるための工程が複雑で、追加工程により生産コストが増加するおそれがある。これを考慮して、上記Pは0.015%以下に制限することがよく、本発明は上記Pを最大0.015%含有しても、意図する物性確保には無理がないことを明らかにしておく。
【0019】
硫黄(S):0.020%以下
硫黄(S)も鋼の低温靭性を減少させる元素であって、鋼中にMnS介在物を形成することにより鋼の靭性を阻害するため、可能な限りその含量を低く制御することが好ましい。但し、このようなSの含量を下げるための工程が厳しく、追加工程により生産コストが増加するおそれがある。これを考慮して、上記Sは0.020%以下に制限することがよく、本発明は上記Sを最大0.020%含有しても、意図する物性確保には無理がないことを明らかにしておく。
【0020】
ニオブ(Nb):0.002~0.025%
ニオブ(Nb)は、鋼中に微細な炭化物または窒化物を形成して基地組織の軟化を防止するのに効果的な元素である。このような効果を十分に得るためにはNbを0.002%以上含有することが好ましいが、高価な元素であって、その含量が0.025%を超えると、製造コストが大きく上昇するおそれがある。
したがって、上記Nbは0.002~0.025%含まれることがよい。
【0021】
バナジウム(V):0.25~0.35%
バナジウム(V)は上記Nbと同様に、鋼中に微細な炭化物または窒化物を容易に形成する元素である。このような効果を十分に得るためには、上記Vを0.25%以上含有することが好ましいが、これも高価な元素であるため、これを考慮して、その含量を0.35%以下に制限することがよい。したがって、上記Vは0.25~0.35%含まれることがよい。
【0022】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあり、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書ではその全ての内容について特に言及しない。
【0023】
上記の合金成分系を有する本発明の鋼材は、微細組織として、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの混合組織を含むことができ、上記鋼材の厚さにかかわらず全厚さにわたって上記の混合組織を含むことができる。
上記混合組織のうち、上記焼戻しマルテンサイト相は面積分率40%以上であることが好ましい。万一、上記焼戻しマルテンサイト相の分率が40%未満であると、目標とする強度を十分に確保することができない。したがって、上記焼戻しマルテンサイト相を40~90%の面積分率で含む。
【0024】
以下では、本発明の高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
本発明による圧力容器用鋼材は、本発明で提案する合金成分系を満たす鋼スラブを[加熱-熱間圧延-熱処理-冷却-焼戻し熱処理]の工程を経て製造することができ、以下に各工程について詳細に説明する。
【0025】
[鋼スラブ加熱]
上記の合金成分系を満たす鋼スラブを準備した後、これを1050~1250℃の温度範囲で加熱する。上記加熱温度が1050℃未満であると、溶質原子が固溶しにくい。一方、その温度が1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒のサイズが過度に粗大となり、鋼の物性を阻害するという問題がある。
【0026】
[熱間圧延]
上記によって加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板として製造する。上記熱間圧延は、800~1000℃の温度範囲でパス当たり圧下率2.5~30%で行うことが好ましい。
上記熱間圧延時の温度が800℃未満であると、圧延負荷が大きくなるという問題がある。一方、その温度が1000℃を超えると、結晶粒が粗大になるという問題がある。また、上記熱間圧延時に、パス当たり圧下率が2.5%未満であると、圧延生産性が低下して製造コストが上昇するという問題がある。一方、パス当たり圧下率が30%を超えると、圧延機に過剰な負荷を発生させて設備に致命的な悪影響を及ぼすおそれがある。
上記熱間圧延を完了して得られた熱延鋼板は、空冷により常温まで冷却を行うことができ、その後に後続工程を行うことができる。
【0027】
[熱処理]
上記のとおり製造された熱延鋼板を特定の温度範囲に加熱して熱処理を行う。具体的に、上記熱延鋼板を1000~1050℃の温度範囲で{(1.3×t)+(10~30)}分(ここで、tは鋼材厚さ(mm)を意味する)間保持する熱処理を行うことが好ましい。
上記熱処理時に温度が1000℃未満であると、固溶溶質元素の再固溶が難しくなって目標とする強度を確保しにくくなる。一方、その温度が1050℃を超えると結晶粒の成長が起こり、低温靭性を阻害するという問題がある。
上記の温度範囲における熱処理時に、保持時間が{(1.3×t)+10}分未満であると、組織が均質化しにくい。一方、その時間が{(1.3×t)+30}分を超えると、生産性を阻害するため好ましくない。
【0028】
[冷却]
上記のように熱処理された熱延鋼板を1~30℃/sの冷却速度で冷却する。このとき冷却は常温まで行うことができる。ここで、上記冷却速度は、熱延鋼板の厚さ中心部(例えば、1/2t(t:厚さ(mm)地点))を基準とする。
上記冷却時に冷却速度が1℃/s未満であると、冷却中に粗大なフェライト結晶粒が生成するおそれがある。一方、その速度が30℃/sを超えると、過度な冷却設備により経済性が低下するという問題がある。
【0029】
[焼戻し熱処理]
上記によって冷却された熱延鋼板を焼戻し処理する。具体的に800~825℃の温度範囲で{(1.6×t)+(10~30)}分間保持する焼戻し熱処理工程を行うことができる。
上記焼戻し熱処理時に温度が800℃未満であると、微細な析出物の析出が難しくなり、目標とする強度の確保が困難である。一方、その温度が825℃を超えると、析出物の成長が起こり強度及び低温靭性の低下を招くという問題がある。
上述した温度範囲における焼戻し熱処理時に、保持時間が{(1.6×t)+10}分未満であると、組織が均質化しにくい。一方、その時間が{(1.6×t)+30}分を超えると、生産性を阻害するため好ましくない。
【0030】
上記工程を経て製造された本発明の圧力容器用鋼材は、圧力容器の作製時に付加される溶接工程による残留応力を除去する目的で、溶接後熱処理(PWHT)工程が必要である。
一般的に、長時間のPWHT熱処理後には、強度及び靭性の劣化が発生するが、本発明により製造された鋼材は、通常のPWHT温度に比べて高温である760~780℃の温度範囲で最大50時間の熱処理を行っても、強度及び靭性の大きな低下なしに溶接施工が可能であるという利点がある。特に、本発明の鋼材は、高温における最大50時間のPWHT後にも600MPa以上の引張強度及び-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値が100J以上と優れた強度及び靭性を有するという効果がある。
【0031】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明をより詳細に説明するために例示するものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定される。
【実施例
【0032】
下記表1に示す合金組成を有する鋼スラブを準備した後、上記鋼スラブを1150℃で300分間加熱し、パス当たり圧下率5~20%で800~1000℃で熱間圧延を行って熱延鋼板を製造した。その後、上記熱延鋼板を常温まで空冷を行い、再び1050℃に加熱・保持する熱処理を行った。このとき、熱処理は熱延鋼板の厚さに応じて150~280分間保持した。その後、熱延鋼板の厚さ中心部を基準にして冷却速度2.5~15℃/sで常温まで水冷却を行い、下記表2に示す条件で焼戻し熱処理及びPWHT熱処理を行った。
【0033】
上記の全ての工程を経た熱延鋼板に対して引張試験を行い、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び伸び率(El)を測定した。また、シャルピー衝撃試験を行い、衝撃エネルギー値を導出した。上記引張試験はASTM規格A20及びA370&E8に基づいて行い、衝撃試験は-30℃でVノッチを有する試片に対してシャルピー衝撃試験を行った。各結果を下記表3に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
上記表1~表3に示すように、本発明で提案する合金組成及び製造条件を共に満たす発明例1~9は、溶接後熱処理(PWHT)時間が最大50時間に達しても600MPa以上の引張強度及び-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値(CVN@-30℃(J))を100J以上確保することができる。
これに対し、合金組成が本発明から外れている比較例1~3は、長時間のPWHT後の発明例に比べて強度が約150MPa程度、低温靭性が約200J程度低下したことが確認できる。
【0038】
上記のとおり、本発明による合金成分系及び製造条件によって得られる鋼材は、高温焼戻し熱処理だけでなく、長時間の高温溶接後熱処理(PWHT)を行っても、それに対する抵抗性に優れるため、中・高温用の圧力容器用鋼材として好適であるという効果がある。