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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20231207BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F04C18/02 311B
F04C18/02 311P
F04C29/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022567924
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045715
(87)【国際公開番号】W WO2022123657
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遼太
(72)【発明者】
【氏名】松永 和行
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-158577(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の筒チャンバと、前記筒チャンバの一端側を塞ぐ蓋チャンバと、前記筒チャンバの他端側を塞ぐ底チャンバと、を有する密閉容器を備えるとともに、
固定子及び回転子を有し、前記密閉容器に収容される電動機と、
前記回転子と一体で回転する駆動軸と、
渦巻状の固定ラップを有する固定スクロールと、
前記固定ラップとともに圧縮室を形成する渦巻状の旋回ラップを有し、前記電動機の駆動に伴って旋回する旋回スクロールと、
前記電動機よりも前記一端側で前記駆動軸を軸支する第1軸受が設けられる第1フレームと、
前記電動機よりも前記他端側で前記駆動軸を軸支する第2軸受が設けられる第2フレームと、を備え、
前記第2フレームは、その周縁部の少なくとも一部にフランジ部を有し、
前記筒チャンバの前記他端側の端部付近と、前記底チャンバの縁付近と、が前記フランジ部を挟み込んだ状態で固定されており、
前記フランジ部の側面には、径方向内側に凹んでなる側面溝が周方向に設けられているスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記フランジ部の側面の全周に亘って、前記側面溝が設けられていること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記底チャンバは、
縦断面視でU字状を呈する底部と、
前記底部の前記一端側に設けられ、前記底部よりも内径及び外径が大きい円筒状の大径部と、
前記底部から前記大径部へと拡径するように、前記底部と前記大径部とを接続する拡径部と、を有し、
前記筒チャンバの前記他端側の外周面と、前記大径部の前記一端側の内周面と、が接触しており、
前記筒チャンバの前記他端側の端部と、前記拡径部と、が前記フランジ部を挟み込んだ状態で固定されていること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記側面溝の底は、前記拡径部が前記フランジ部に接触している箇所の内側の縁よりも径方向に深く、さらに、前記筒チャンバの前記他端側の内周面よりも径方向に深いこと
を特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記第2フレームは、
前記第2軸受が内周面に設けられる円筒状の基部と、
前記基部を囲むように配置される環状部と、を有するとともに、
前記基部と前記環状部とを接続するように径方向に延びている接続部を有し、
前記フランジ部は、前記環状部から径方向外側に突出していること
を特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記フランジ部における前記側面溝の前記他端側の部分の上下方向の肉厚t1と、前記側面溝の底から前記環状部の内周面までの径方向の肉厚t2と、の間で、1/2×t1≦t2≦2×t1の関係が成り立っていること
を特徴とする請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記環状部の前記他端側の面から前記一端側に凹んでなる下面溝が周方向に設けられていること
を特徴とする請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記接続部を径方向外側に延長した場合の所定領域には、前記環状部の外周面が径方向内側に切り欠かれてなる切欠部が設けられていること
を特徴とする請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機を備え、
前記スクロール圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を順次に介して冷媒が循環する冷媒回路を含んでなる冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機等に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機の構成の簡素化を図る技術として、例えば、特許文献1には、「副軸受けの周端部を上記密閉ケースを構成するメインケースとサイドケースとで挟持固定」することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-158577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、副軸受け(下フレーム)をメインケース(筒チャンバ)に圧入すると、径方向内向きの圧縮力が副軸受けに作用する。その結果、副軸受けに設けられた軸受け部が変形する可能性がある。このようなことを考慮して、軸受け部の変形を抑制しつつ、メインケース(筒チャンバ)とサイドケース(底チャンバ)とによる挟持力を確保するために、組立時に副軸受けを上下方向に挟み込む際のプレス荷重を大きくすることが考えられる。しかし、プレス荷重を大きくしすぎると、副軸受け等の部品の接触応力が降伏点を超えて塑性変形し、組立精度の低下の他、副軸受けの保持力の低下を招く可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、簡素な構成で信頼性の高いスクロール圧縮機等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために、本発明に係るスクロール圧縮機は、電動機よりも一端側で駆動軸を軸支する第1軸受が設けられる第1フレームと、前記電動機よりも他端側で前記駆動軸を軸支する第2軸受が設けられる第2フレームと、を備え、前記第2フレームは、その周縁部の少なくとも一部にフランジ部を有し、筒チャンバの前記他端側の端部付近と、底チャンバの縁付近と、が前記フランジ部を挟み込んだ状態で固定されており、前記フランジ部の側面には、径方向内側に凹んでなる側面溝が周方向に設けられていることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡素な構成で信頼性の高いスクロール圧縮機等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2】第1実施形態に係るスクロール圧縮機において、図1のII-II線におけるスクロール圧縮機の横断面図である。
図3】第1実施形態に係るスクロール圧縮機が備える下フレームの斜視図である。
図4】第1実施形態に係るスクロール圧縮機における、図1の領域G1の部分拡大図である。
図5】第1実施形態に係るスクロール圧縮機において、筒チャンバと底チャンバとが溶接される前の、挟み込み部付近のバネモデルの説明図である。
図6】第1実施形態に係るスクロール圧縮機において、筒チャンバと底チャンバとの溶接前にプレス荷重がかけられた状態において、挟み込み部に作用する荷重等を示す説明図である。
図7】第1実施形態に係るスクロール圧縮機において、筒チャンバと底チャンバとの溶接後にプレス荷重が解放された状態において、挟み込み部に作用する荷重等を示す説明図である。
図8】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の運転中に密閉容器の内圧が上昇した場合において、挟み込み部に作用する荷重等を示す説明図である。
図9】第2実施形態に係るスクロール圧縮機の下フレームの付近を示す部分拡大図である。
図10】第3実施形態に係るスクロール圧縮機の下フレームの付近を示す部分拡大図である。
図11】第4実施形態に係るスクロール圧縮機の下フレームの斜視図である。
図12】第5実施形態に係るスクロール圧縮機の下フレームの斜視図である。
図13】第6実施形態に係るスクロール圧縮機の下フレームの付近を示す部分拡大図である。
図14】第7実施形態に係る空気調和機200の冷媒回路Qの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
<スクロール圧縮機の構成>
図1は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機100の縦断面図である。
図1に示すスクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器である。図1に示すように、スクロール圧縮機100は、密閉容器1と、圧縮機構部2と、クランク軸3(駆動軸)と、電動機4と、オルダムリング5と、バランスウェイト61,62と、下フレーム7(第2フレーム)と、給油ポンプ8と、を備えている。
【0010】
密閉容器1は、圧縮機構部2、クランク軸3、電動機4、下フレーム7等を収容する金属製の容器であり、略密閉されている。密閉容器1には、潤滑性を高めるための潤滑油が封入され、密閉容器1の底部に油溜りR1として貯留されている。密閉容器1は、円筒状の筒チャンバ11(ケースともいう。)と、筒チャンバ11の上側(一端側)を塞ぐ蓋チャンバ12と、筒チャンバ11の下側(他端側)を塞ぐ底チャンバ13と、を備えている。
【0011】
筒チャンバ11の上端付近の内周面には、段差部11aが設けられている。段差部11aは、後記する上フレーム側フランジ部23aが係止される部分であり、切削加工等によって形成されている。段差部11aは、筒チャンバ11の内径を拡径するように、筒チャンバ11の上端から所定深さまで形成されている。
【0012】
蓋チャンバ12は、縦断面視で逆U字状を呈し、筒チャンバ11の上端付近の内側に固定されている。一方、底チャンバ13は、筒チャンバ11の下端付近の外側に固定されている。図1に示すように、底チャンバ13は、縦断面視でU字状を呈する底部13aの他、大径部13bと、拡径部13cと、を備えている。
【0013】
大径部13bは、底部13aの上側(一端側)に設けられる円筒状の部分であり、底部13aよりも内径及び外径が大きくなっている。拡径部13cは、底部13aから大径部13bへと拡径するように、底部13aと大径部13bとを接続する環状の部分である。なお、底部13a、大径部13b、及び拡径部13cは、一体的に形成されている。また、筒チャンバ11の下端付近の外周面と、大径部13bの上端付近の内周面と、が接触している。そして、図1に示す溶接部W1において、大径部13bの上端が筒チャンバ11の外周面に溶接(溶着)されている。
【0014】
図1に示すように、密閉容器1の蓋チャンバ12には、吸込パイプP1が差し込まれた状態で固定されている。吸込パイプP1は、圧縮機構部2の吸込室H1に冷媒を導く管である。また、密閉容器1の筒チャンバ11には、吐出パイプP2が差し込まれた状態で固定されている。吐出パイプP2は、圧縮機構部2で圧縮された冷媒をスクロール圧縮機100の外部に導く管である。
【0015】
圧縮機構部2は、クランク軸3の回転に伴って冷媒を圧縮する機構である。圧縮機構部2は、固定スクロール21と、旋回スクロール22と、上フレーム23(第1フレーム)と、を備え、密閉容器1内の上部空間に配置されている。
固定スクロール21は、台板21aと、渦巻状の固定ラップ21bと、を備えている。台板21aは、平面視で円形状を呈する肉厚の本体部211aと、この本体部211aの下部から径方向外側に突出している固定スクロール側フランジ部211bと、を備えている。
【0016】
なお、固定ラップ21bに対して旋回ラップ22bが旋回する領域(下面視で円形状の領域)を確保するために、本体部211aの下面の中心付近が上側に所定に凹んでいる。固定ラップ21bは、渦巻状を呈し(図2も参照)、前記した領域において台板21aから下側に延びている。なお、台板21aの下面と、固定ラップ21bの下端と、は略面一になっている。
【0017】
旋回スクロール22は、電動機4の駆動に伴って旋回し、固定スクロール21とともに圧縮室C1(図2参照)を形成する部材である。旋回スクロール22は、円板状の鏡板22aと、この鏡板22aに立設される旋回ラップ22bと、クランク軸3の上端部に嵌合するボス部22cと、を備えている。図1に示すように、旋回ラップ22bが鏡板22aの上側に延びている一方、ボス部22cが鏡板22aの下側に延びている。
【0018】
図2は、図1のII-II線におけるスクロール圧縮機100の横断面図である。
図2に示す旋回ラップ22bは、固定ラップ21bとともに圧縮室C1を形成する部材であり、渦巻状を呈している。そして、渦巻状の固定ラップ21bと、渦巻状の旋回ラップ22bと、が噛み合うことで、固定ラップ21bと旋回ラップ22bとの間に圧縮室C1が形成される。圧縮室C1は、ガス状の冷媒を圧縮する空間であり、旋回ラップ22bの外線側・内線側にそれぞれ形成される。また、固定スクロール21の台板21aの中心付近には、圧縮室C1で圧縮された冷媒を圧縮機構部2の上側の空間に導く吐出口V1(図1参照)が設けられている。
【0019】
図1に示す上フレーム23は、固定スクロール21を支持する金属製の部材であり、密閉容器1に固定されている。上フレーム23は、概ね回転対称な形状を呈し、固定スクロール21の下側に設けられている。なお、上フレーム23には、クランク軸3が挿通される孔(符号は図示せず)が設けられている。上フレーム23は、その周縁部に上フレーム側フランジ部23aを備えている。上フレーム側フランジ部23aは、固定スクロール側フランジ部211bの下面に当接する部分である。
【0020】
なお、スクロール圧縮機100の組立時には、上フレーム側フランジ部23aが筒チャンバ11の段差部11aに係止され、さらに、旋回スクロール22や固定スクロール21が密閉容器1に収納された後、蓋チャンバ12が設置される。この状態において、蓋チャンバ12の周端面が、固定スクロール側フランジ部211bの上面に当接する。
【0021】
そして、蓋チャンバ12に下向きのプレス荷重をかけて、筒チャンバ11の段差部11aと蓋チャンバ12とによって、固定スクロール側フランジ部211b及び上フレーム側フランジ部23aを挟み込んだ状態で溶接するようにしている。これによって、固定スクロール21の上下方向の移動を規制できる他、固定スクロール21を上フレーム23に締結するボルト(図示せず)が不要になるため、圧縮機構部2の構成を簡素化できる。このような設置方式を内被せ仕様のプレスフィット方式という。
【0022】
図1に示すクランク軸3(駆動軸)は、電動機4の回転子4bと一体で回転する軸であり、上下方向に延びている。図1に示すように、クランク軸3は、主軸3aと、この主軸3aの上側に延びる偏心部3bと、を備えている。
【0023】
主軸3aは、電動機4の回転子4bに同軸で固定され、この回転子4bと一体で回転する。偏心部3bは、主軸3aに対して偏心しながら回転する軸であり、旋回スクロール22のボス部22cに嵌合している。そして、偏心部3bが偏心しながら回転することで、旋回スクロール22が所定に旋回するようになっている。
【0024】
主軸受9は、クランク軸3の上部を回転自在に軸支するものであり、上フレーム23の孔(符号は図示せず)の周壁面に固定されている。すなわち、上フレーム23(第1フレーム)には、電動機4よりも上側(一端側)でクランク軸3(駆動軸)を軸支する主軸受9(第1軸受)が設けられている。
【0025】
旋回軸受10は、旋回スクロール22のボス部22cに対して偏心部3bを回転自在に軸支するものであり、ボス部22cの内周壁に固定されている。なお、主軸受9や旋回軸受10として、例えば、滑り軸受が用いられる。
また、クランク軸3の内部には、潤滑油を所定に導く給油路3cが設けられている。給油路3cを通流する潤滑油は、圧縮機構部2や各軸受に導かれる。
【0026】
電動機4は、クランク軸3を回転させる駆動源であり、密閉容器1に収容されている。具体的には、上下方向において、圧縮機構部2と下フレーム7との間に電動機4が設置されている。図1に示すように、電動機4は、固定子4aと、回転子4bと、を備えている。固定子4aは、筒チャンバ11の内周壁に固定されている。回転子4bは、固定子4aの径方向内側で回転自在に配置されている。そして、固定子4aの巻線41aに通電されることで、回転子4bがクランク軸3と一体で回転するようになっている。
【0027】
オルダムリング5は、偏心部3bの偏心回転を受けて、旋回スクロール22を自転させることなく公転させる輪状部材である。図1に示すように、オルダムリング5は、旋回スクロール22と上フレーム23との間に設けられている。オルダムリング5は、旋回スクロール22の下面に設けられた溝(図示せず)に装着されるとともに、上フレーム23に設けられた別の溝(図示せず)にも装着されている。
【0028】
バランスウェイト61,62は、スクロール圧縮機100の振動を抑制するための部材である。一方のバランスウェイト61は、クランク軸3において、上フレーム23と電動機4との間に設置されている。他方のバランスウェイト62は、回転子4bの下面に設置されている。
【0029】
下フレーム7(第2フレーム)は、クランク軸3の下部を回転自在に軸支する金属製の部材であり、筒チャンバ11と底チャンバ13とによって挟み込まれた状態で固定されている。なお、下フレーム7の詳細については後記する。
【0030】
給油ポンプ8は、潤滑油を汲み上げる非容積式のポンプであり、給油路3cの下部に設置されている。給油ポンプ8は、所定に捻じ曲げられた薄板状の金属片(図示せず)を備えている。そして、電動機4の駆動に伴う金属片の回転によって、給油路3cを介して、潤滑油が上昇するようになっている。
【0031】
電動機4の駆動によって旋回スクロール22が旋回すると、これに伴って次々に形成される圧縮室C1の容積が縮小し、ガス状の冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、固定スクロール21の吐出口V1を介して、密閉容器1内の上部空間に吐出され、さらに、圧縮機構部2の下側に導かれる。圧縮機構部2の下側に導かれた冷媒は、吐出パイプP2等を介して凝縮器(図示せず)に導かれ、所定の冷凍サイクルで循環する。次に、下フレーム7の構成について詳細に説明する。
【0032】
図3は、スクロール圧縮機が備える下フレーム7の斜視図である。
なお、図3では、下フレーム7において、所定の切断面を基準として面対称となるような断面を示している。図3に示すように、下フレーム7は、円筒状の基部71の他に、環状部72と、フランジ部73と、接続部74と、を備えている。
【0033】
基部71は、その内周面に副軸受71aが設けられる部分であり、円筒状を呈している。副軸受71aは、クランク軸3の下部を軸支し、クランク軸3から径方向の荷重を受ける軸受である。つまり、下フレーム7(第2フレーム)には、電動機4よりも下側(他端側)でクランク軸3(駆動軸)を軸支する副軸受71a(第2軸受)が設けられている。このような副軸受71aとして、例えば、滑り軸受が用いられる。なお、基部71の内周面に所定の研磨加工や表面処理を施すことで、滑り軸受(つまり、副軸受71a)を形成するようにしてもよい。また、円筒状の滑り軸受(つまり、副軸受71a)を基部71の内周面に固定するようにしてもよい。
【0034】
環状部72は、環状を呈し、基部71を囲むように配置されている。環状部72の外周面には、所定の圧入部72aが環状部72の全周に亘って設けられている。圧入部72aは、環状部72の外周面の一部が径方向外側に突出している部分であり、フランジ部73の上側に設けられている。圧入部72aの外径は、筒チャンバ11の下端付近の内径よりもわずかに大きくなっている。そして、スクロール圧縮機100の組立の際、筒チャンバ11の下端付近に下フレーム7が押し込まれることで、圧入部72aが弾性変形し、径方向の圧縮力が作用するようになっている。
【0035】
図3に示すフランジ部73は、筒チャンバ11(図1参照)の下端と、底チャンバ13(図1参照)の拡径部13cと、の間で挟み込まれる部分であり、環状部72から径方向外側に突出している。フランジ部73は、下フレーム7の周縁部K1に設けられ、環状部72と一体的に形成されている。なお、図3の例では、フランジ部73の下面と、環状部72の下面と、が面一になっている。
【0036】
フランジ部73の側面には、径方向内側に凹んでなる側面溝73aが周方向に設けられている。図3の例では、フランジ部73の側面の全周に亘って、側面溝73aが設けられている。なお、側面溝73aを設けることによる作用・効果については後記する。
接続部74は、基部71と環状部72とを接続する部分であり、径方向に延びている。例えば、クランク軸3の中心軸線を基準として、周方向で等間隔(120°の間隔)に、3つの接続部74が設けられている。
【0037】
図4は、図1の領域G1の部分拡大図である。
図4に示すように、筒チャンバ11の下側(他端側)の端部付近と、底チャンバ13の縁付近と、がフランジ部73を挟み込んだ状態で固定されている。つまり、フランジ部73を含む下フレーム7が、筒チャンバ11と底チャンバ13とによって、外被せ仕様のプレスフィット方式で固定されている。なお、第1実施形態の主な特徴の一つは、フランジ部73に側面溝73aを設けるという点である。この側面溝73aを設けることの技術的意義(作用・効果)に先立って、まず、フランジ部73に側面溝73aを設けない場合の問題点について簡単に説明する。
【0038】
フランジ部73に側面溝73aを設けない構成(図示せず)において、筒チャンバ11の下端付近に下フレーム7を押し込んで圧入した場合、径方向内向きの圧縮力が下フレーム7に作用する。この圧縮力が大きすぎると、下フレーム7の副軸受71a(図3参照)が変形し、クランク軸3と副軸受71aとの間の微小な隙間が周方向で不均一になる。その結果、クランク軸3と副軸受71aとの間の摩擦力が増加したり、クランク軸3の挙動が不安定になったりする可能性がある。したがって、下フレーム7を筒チャンバ11に圧入する際の締め代を小さくすることで、下フレーム7の変形を抑制することが求められていた。
【0039】
そこで、例えば、筒チャンバ11と底チャンバ13とによって、フランジ部73を上下方向で挟み込む際のプレス荷重を大きくすることで、フランジ部73の挟持力を高めることが考えられる。しかしながら、組立時のプレス荷重が大きすぎると、フランジ部73等の部品の接触応力が降伏点を超えてしまい、部品が塑性変形して、組立精度の低下やフランジ部73の挟持力の低下を招く可能性がある。そこで、第1実施形態では、プレス荷重が解放されたときのフランジ部73の挟持力の低下量を小さくし、また、密閉容器1への内圧付与時におけるフランジ部73の挟持力の低下量を小さくするために、フランジ部73に側面溝73aを設けるようにしている。
【0040】
図4に示すように、筒チャンバ11の下側(他端側)の端部と、拡径部13cと、がフランジ部73を挟み込んだ状態で固定されている。また、筒チャンバ11の下側(他端側)の外周面と、大径部13bの上側(一端側)の内周面と、が接触している。なお、フランジ部73の側面と、大径部13bの内周面と、は接触していてもよいし、また、所定の隙間が設けられていてもよい。
【0041】
図4に示すように、側面溝73aの径方向の深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、拡径部13cがフランジ部73に接触している箇所M1(破線A11から破線A12までの範囲)の内側の縁(破線A12)よりも深くなっている。また、側面溝73aの径方向の深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、筒チャンバ11の下端側の内周面(破線A13)よりも深くなっている。すなわち、側面溝73aの底は、拡径部13cがフランジ部73に接触している箇所M1の内側の縁よりも径方向に深く、さらに、筒チャンバ11の下側(他端側)の内周面よりも径方向に深くなっている。なお、このような構成に伴う作用・効果については後記する。
【0042】
<スクロール圧縮機の組立手順>
スクロール圧縮機100を組み立てる際には、筒チャンバ11の下側から下フレーム7が圧入されることで、フランジ部73の上面が筒チャンバ11の下端に当接する。さらに、下フレーム7の下側に底チャンバ13が設置される。この状態において、フランジ部73の下面が底チャンバ13の拡径部13cに接触している。そして、筒チャンバ11にクランク軸3(図1参照)や圧縮機構部2(図2参照)が収容された状態で、筒チャンバ11の上側を塞ぐように蓋チャンバ12(図2参照)が設置される。さらに、蓋チャンバ12に下向きのプレス荷重がかけられた状態で、蓋チャンバ12と筒チャンバ11とが溶接されるとともに、底チャンバ13と筒チャンバ11も溶接される。
【0043】
次に、スクロール圧縮機100の組立手順に従って、図5図8を順次に用いて、各部品に作用する荷重等について説明する。なお、筒チャンバ11及び底チャンバ13によってフランジ部73が挟み込まれている箇所を挟み込み部S1(図4参照)という。
【0044】
<挟み込み部付近の弾性変形モデル>
図5は、筒チャンバ11と底チャンバ13とが溶接される前の、挟み込み部S1付近のバネモデルMD1,MD2の説明図である。
なお、図5では、挟み込み部S1とその周囲の構成要素を、並列する2つのバネモデルMD1,MD2(弾性変形モデル)に置き換えている。2つのバネモデルMD1,MD2のうち、一方のバネモデルMD1は、底チャンバ13の弾性変形を示している。他方のバネモデルMD2は、筒チャンバ11及びフランジ部73を一つのバネとして合成したときの弾性変形を示している。なお、2つのバネモデルMD1,MD2は、上下方向に1次元的に変形するものとする。
【0045】
2つのバネモデルMD1,MD2のいずれも、その下端が底チャンバ13の拡径部13cに位置している。また、図5では、筒チャンバ11と底チャンバ13との溶接前の状態であるため、2つのバネモデルMD1,MD2の上端は結合していない(符号30を参照)。
【0046】
図6は、筒チャンバ11と底チャンバ13との溶接前にプレス荷重Pがかけられた状態において、挟み込み部S1に作用する荷重等を示す説明図である。
筒チャンバ11と底チャンバ13との溶接に先立って、蓋チャンバ12(図1参照)を介して、筒チャンバ11に下向きのプレス荷重Pがかけられる。この状態では、まだ溶接されていないため、筒チャンバ11と底チャンバ13とが2つのバネモデルMD1,MD2として独立している(符号30を参照)。
【0047】
プレス荷重がかけられているとき、底チャンバ13の弾性変形を示すバネモデルMD1は、自然長の状態になっている。一方、筒チャンバ11及びフランジ部73の弾性変形を示すバネモデルMD2は、プレス荷重P(>0)で圧縮された状態になっている。したがって、バネモデルMD2には、プレス荷重Pに対する反力(弾性力)としての圧縮荷重Fpが、膨張しようとする上向きの力として発生する。そして、プレス荷重Pと圧縮荷重Fpとが釣り合った状態で静止する。
【0048】
この状態において、下フレーム7を密閉容器1に保持する力(保持力)には、フランジ部73の上下方向の挟持力(その大きさが圧縮荷重Fpに等しい力)と、圧入部72aに作用する径方向の力と、が含まれる。そして、プレス荷重Pが筒チャンバ11にかけられた状態で、筒チャンバ11と底チャンバ13とが溶接され、さらに、プレス荷重Pが解放される。
【0049】
図7は、筒チャンバ11と底チャンバ13との溶接後にプレス荷重が解放された状態において、挟み込み部S1に作用する荷重等を示す説明図である。
図7に示すように、底チャンバ13の上端と筒チャンバ11の側面とを溶接するように、所定の溶接部W1が形成される。この溶接によって、2つのバネモデルMD1,MD2(図6参照)の上端が連結され、1つのバネモデルMD3が形成される。また、バネモデルMD2(図6参照)を上下方向に押さえ付けていたプレス荷重Pが解放されたため、バネモデルMD2が上下方向に変位Δx1だけ伸長する。
【0050】
ここで、2つのバネモデルMD1,MD2(図6参照)は、1つのバネモデルMD3(図7参照)として連結されているため、他方のバネモデルMD1(図6参照)も変位Δx1だけ伸長する。これによって、もともと自然長であったバネモデルMD1には、元の長さに縮もうとする引張荷重Fcが生ずる。2つのバネモデルMD1,MD2に作用する力の大きさは、引張荷重Fcと、変位Δx1の伸長に伴う減少後の圧縮荷重Ffと、が釣り合った状態で釣り合う。そうすると、以下の式(1)~式(3)が得られる。
【0051】
【数1】
【0052】
【数2】
【0053】
【数3】
【0054】
ここで、式(1)に含まれるkcは、バネモデルMD1(図6参照)の剛性係数である。また、式(2)に含まれるkfは、バネモデルMD2(図6参照)の剛性係数である。前記した式(1)に基づいて、以下の式(4)が得られる。
【0055】
【数4】
【0056】
前記した式(2)に式(4)を代入し、さらに、式(3)を代入することで、以下の式(5)が得られる。
【0057】
【数5】
【0058】
式(5)に基づいて、以下の式(6)が得られる。
【0059】
【数6】
【0060】
さらに、式(6)に基づいて、以下の式(7)が得られる。
【0061】
【数7】
【0062】
式(7)から、スクロール圧縮機100の組立時の作用として、次のことが明らかになる。すなわち、フランジ部73に側面溝73aを設けて、バネモデルMD2(図6参照)の剛性を低下させる(つまり、剛性係数kfを小さくする)ことで、圧縮荷重Fpと同じ値であるプレス荷重Pをかけたときにも、バネモデルMD2(図6参照)の圧縮荷重Ff(すなわち、下フレーム7の狭持力)を大きくすることができる。これによって、組立時のプレス荷重Pから下フレーム7の挟持力に用いられずに失われる荷重の低下量(Fp-Ff)を小さくすることができる。したがって、スクロール圧縮機100の組立時に過大なプレス荷重Pを与えずとも、下フレーム7のフランジ部73で十分な挟持力を維持できる。
【0063】
図8は、スクロール圧縮機100の運転中に密閉容器1の内圧が上昇した場合において、挟み込み部S1に作用する荷重等を示す説明図である。
スクロール圧縮機100の運転中、密閉容器1の内部の冷媒圧力によって、筒チャンバ11に生ずる引張荷重をガス荷重Fgとすると、バネモデルMD3における上向きの力としてガス荷重Fgが作用する。このとき、バネモデルMD1(図6参照)と、バネモデルMD2(図6参照)と、は等しい変位Δx2だけ伸長する。また、ガス荷重Fgが作用する前からの差分として、引張荷重ΔFc及び引張荷重ΔFfが生ずる。これら差分としての各荷重の釣合いは、以下の式(8)~式(10)で表される。
【0064】
【数8】
【0065】
【数9】
【0066】
【数10】
【0067】
前記した式(10)に基づいて、以下の式(11)が得られる。
【0068】
【数11】
【0069】
前記した式(9)に式(11)を代入することで、以下の式(12)が得られる。
【0070】
【数12】
【0071】
式(8)に式(12)を代入することで、以下の式(13)が得られる。
【0072】
【数13】
【0073】
前記した式(13)に基づいて、以下の式(14)が得られる。
【0074】
【数14】
【0075】
式(14)から、スクロール圧縮機100の運転中の作用として、次のことが明らかになる。すなわち、フランジ部73に側面溝73aを設けて、フランジ部73の剛性を低下させる(つまり、剛性係数kfを小さくする)ことで、ガス荷重Fgに対する引張荷重ΔFfを小さくすることができる。なお、引張荷重ΔFfは、下フレーム7の挟持力の低下量を表している。したがって、スクロール圧縮機100の運転中、密閉容器1の内圧が上昇した場合でも、下フレーム7の挟持力の低下量を小さくすることができる。
【0076】
なお、下フレーム7の狭持力を極力大きくするという観点からは、側面溝73aによる下フレーム7の剛性の低下量が大きいほど望ましい。ここで、フランジ部73の剛性の低減効果を高めるには、図4に示すように、拡径部13cがフランジ部73に接触している箇所の内側の縁よりも側面溝73aの底が径方向に深く、さらに、筒チャンバ11の下側の内周面よりも側面溝73aの底が径方向に深いことが好ましい。これによって、下フレーム7の剛性の低下量が比較的大きくなるため、プレス荷重が開放された後も下フレーム7の挟持力を十分に確保できる。
【0077】
<効果>
第1実施形態によれば、下フレーム7のフランジ部73に側面溝73aを設けることで、プレス荷重の解放に伴う下フレーム7の挟持力の低下量を小さくすることができる。つまり、過大なプレス荷重を与えずとも、下フレーム7において十分な挟持力を確保できる。これによって、圧入部72aの締め代を小さくすることができる。また、下フレーム7の圧入による副軸受71a(図3参照)の変形を抑制し、ひいては、副軸受71aの摩耗や焼付きを抑制できる。また、スクロール圧縮機100の運転中、ガス荷重Fg(図8参照)に対して、引張荷重ΔFf(図8参照)を小さくすることができる。したがって、密閉容器1の内圧が上昇した場合でも、下フレーム7の挟持力の低下量を低減できる。
【0078】
また、プレスフィット方式に基づいて、筒チャンバ11と底チャンバ13とが固定されるため、ボルトを用いた締結等が不要になる。したがって、スクロール圧縮機100の構成を簡素化し、また、製造コストを削減できる。このように、第1実施形態によれば、簡素な構成で信頼性の高いスクロール圧縮機100を提供できる。
【0079】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、環状部72A(図9参照)の下部の内周面が、第1実施形態(図4参照)の場合よりも径方向外側に切り欠かれている点が異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0080】
図9は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機100Aの下フレーム7Aの付近を示す部分拡大図である。
なお、図9の部分拡大図の位置は、図1の領域G1に対応している。図9に示すように、下フレーム7Aは、環状部72Aの下部(接続部74よりも下側の部分)の内周面が、環状部72Aの上部(接続部74よりも上側の部分)の内周面よりも径方向外側に切り欠かれている。
【0081】
なお、フランジ部73における側面溝73aの下側(他端側)の部分721Aの上下方向(筒チャンバ11の軸方向)の肉厚t1と、側面溝73aの底から環状部72Aの内周面までの径方向の肉厚t2と、の間で、1/2×t1≦t2≦2×t1の関係が成り立っていることが好ましい。このような構成によれば、プレス荷重によってフランジ部73の挟持力が与えられた場合、肉厚t2の部分722Aが変形しやすくなる。したがって、肉厚t1の部分721Aの他、肉厚t2の部分722Aにもプレス荷重による応力を分散させることができる。
【0082】
<効果>
第2実施形態によれば、下フレーム7Aの下部の内周面を径方向外側に切り欠いて、側面溝73aの底から環状部72Aの内周面までの径方向の肉厚t2を比較的小さくするようにしている。これによって、肉厚t2の部分721Aがプレス荷重等で変形しやすくなる。なお、下フレーム7Aにおいて側面溝73aの付近は、プレス荷重による応力が特に集中しやすい。また、スクロール圧縮機100Aの製造上、筒チャンバ11の下端面よりも底チャンバ13の拡径部13cの方が、径方向外側に位置するように設計される場合が多い。このような場合でも、プレス荷重による下フレーム7Aでの応力が分散されるため、下フレーム7Aの破断等を抑制できる。したがって、スクロール圧縮機100Aの信頼性を高めることができる。
【0083】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、環状部72B(図10参照)の下面から上側に凹んでなる下面溝72bが設けられている点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0084】
図10は、第3実施形態に係るスクロール圧縮機100Bの下フレーム7Bの付近を示す部分拡大図である。
なお、図10の部分拡大図の位置は、図1の領域G1に対応している。図10に示すように、環状部72Bの下面(他端側の面)から上側(一端側)に凹んでなる下面溝72bが周方向に設けられている。これによって、側面溝73aの底から環状部72Bの内周面までの径方向の肉厚t2が、下面溝72bを設けない場合に比べて小さくなるため、プレス荷重による応力を分散させることができる。
【0085】
特に、フランジ部73における側面溝73aの下側の部分721Aの上下方向(筒チャンバ11の軸方向)の肉厚t1と、側面溝73aの底から環状部72Bの内周面までの径方向の肉厚t2と、の間で、1/2×t1≦t2≦2×t1の関係が成り立つようにすることが好ましい。これによって、肉厚t2の部分721Aがさらに変形しやすくなり、プレス荷重による応力が分散される。なお、下面溝72bは、周方向の全周に亘って設けられてもよいし、また、周方向の一部に設けられてもよい。
【0086】
<効果>
第3実施形態によれば、下フレーム7Bの環状部72Bに下面溝72bを設けることで、プレス荷重による下フレーム7Bでの応力が分散される。これによって、下フレーム7Bの破断等を抑制できる。
【0087】
≪第4実施形態≫
第4実施形態は、下フレーム7C(図11参照)において、接続部74を径方向外側に延長した場合の所定領域G2において、環状部72Cの外周面が切り欠かれている点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0088】
図11は、第4実施形態に係るスクロール圧縮機100Cの下フレーム7Cの斜視図である。
図11に示すように、下フレーム7Cにおいて、接続部74を径方向外側に延長した場合の所定領域G2には、環状部72Cの外周面から径方向内側に切り欠かれてなる切欠部72eが設けられている。つまり、3つの接続部74に一対一で対応して、環状部72Cの外周面に3つの切欠部72eが設けられている。つまり、下フレーム7Cにおいて、切欠部72eが設けられている箇所(接続部74の延長線上)には、圧入部72aが設けられていない。したがって、下フレーム7Cが筒チャンバ11(図1参照)に圧入されたとき、圧入部72aの変形が副軸受71aに直接的に伝わることがほとんどないため、副軸受71aの変形を抑制できる。
【0089】
なお、図11では、所定領域G2では、圧入部72aを含む環状部72Cの全体が切り欠かれているが、環状部72Cにおいて圧入部72aのみを設けないようにしてもよい。つまり、接続部74を径方向外側に延長した場合の周方向の所定領域には圧入部72aを設けないようにしてもよい。このような構成でも、圧入部72aの変形が接続部74を介して、副軸受71aに直接的に伝わることを抑制できる。
【0090】
<効果>
第4実施形態によれば、下フレーム7Cの環状部72Cにおいて、接続部74を径方向外側に延長した場合の所定領域G2に切欠部72eが設けられている。これによって、圧入部72aの変形が副軸受71aに直接的に伝わることがほとんどないため、副軸受71aの変形を抑制できる。
【0091】
なお、切欠部72eを設けたこと伴い、圧入部72aの面積が小さくなっても、特に問題はない。フランジ部73には側面溝73aが設けられており、フランジ部73の保持力(上下方向の狭持力、及び、径方向の圧入による力)が十分に確保されるからである。このように、第4実施形態によれば、副軸受71aの変形を抑制することで、スクロール圧縮機100Cの信頼性を高めることができる。
【0092】
≪第5実施形態≫
第5実施形態は、下フレーム7D(図12参照)の環状部72Dの他に、フランジ部73Dの外周面も切り欠かれている点が、第4実施形態とは異なっている。なお、その他については、第4実施形態と同様である。したがって、第4実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0093】
図12は、第5実施形態に係るスクロール圧縮機100Dの下フレーム7Dの斜視図である。
図12に示すように、下フレーム7Dにおいて、接続部74を径方向外側に延長した場合の所定領域G2には、環状部72Dの外周面が径方向内側に切り欠かれ、さらに、フランジ部73Dの外周面が径方向内側に切り欠かれてなる切欠部72fが設けられている。つまり、3つの接続部74に一対一で対応して、環状部72D及びフランジ部73Dの外周面に3つの切欠部72fが設けられている。このように、下フレーム7D(第2フレーム)は、その周縁部K2の少なくとも一部にフランジ部73Dを有する構成であってもよい。なお、図12の例では、切欠部72fの径方向の深さが側面溝73aの底面よりも深くなっているが、切欠部72fの深さは適宜に変更可能である。
【0094】
<効果>
第5実施形態によれば、下フレーム7Dを筒チャンバ11に圧入した場合にも、圧入部72aの変形が副軸受71aに直接的に伝わることがほとんどないため、副軸受71aの変形を抑制できる。また、環状部72Dやフランジ部73Dの一部を切り欠く分、材料等に要する製造コストを削減できる。
【0095】
≪第6実施形態≫
第6実施形態は、底チャンバ13E(図13参照)が筒チャンバ11E(図13参照)の内側に設置される点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0096】
図13は、第6実施形態に係るスクロール圧縮機100Eの下フレーム7の付近を示す部分拡大図である。
図13には、底チャンバ13Eの全体を図示していないが、底チャンバ13Eは、第1実施形態で説明したような拡径部13c(図1参照)や大径部13b(図1参照)を特に有しておらず、縦断面視でU字状を呈している。一方、筒チャンバ11Eの下端部の内周面には、段差部11bが設けられている。段差部11bは、下フレーム7のフランジ部73が係止される部分であり、筒チャンバ11Eの下端から所定深さまで、筒チャンバ11Eの内径を拡径するように形成されている。
【0097】
下フレーム7は、環状部72から径方向外側に突出してなるフランジ部73を備えている。フランジ部73の側面には、径方向内側に凹んでなる側面溝73aが周方向に設けられている。そして、筒チャンバ11Eの下側(他端側)の端部付近と、底チャンバ13Eの縁付近と、がフランジ部73を挟み込んだ状態で固定されている。具体的に説明すると、筒チャンバ11Eの段差部11bの面(筒チャンバ11Eの中心軸線に対して垂直な環状の面)と、底チャンバ13Eの上端面と、がフランジ部73を挟み込んだ状態で固定されている。
【0098】
また、筒チャンバ11Eの下側(他端側)の内周面と、底チャンバ13Eの上側(一端側)の外周面と、が接触している。そして、図13に示す溶接部W2で、筒チャンバ11Eの下端が底チャンバ13の外周面に溶接されている。このように、筒チャンバ11Eの内側に底チャンバ13Eが設置する、内被せ仕様のプレスフィット方式を採用することも可能である。
【0099】
<効果>
第6実施形態によれば、内被せ仕様のプレスフィット方式を採用し、筒チャンバ11Eと底チャンバ13Eとでフランジ部73を挟み込む構成において、組立時のプレス荷重の解放後におけるフランジ部73の挟持力の低下量を小さくすることができる。したがって、簡素な構成で信頼性の高いスクロール圧縮機100Eを提供できる。
【0100】
≪第7実施形態≫
第7実施形態では、第1実施形態で説明したスクロール圧縮機100(図1参照)を備える空気調和機200(冷凍サイクル装置:図14参照)について説明する。
【0101】
図14は、第7実施形態に係る空気調和機200の冷媒回路Qの構成図である。
なお、図14の実線矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを示している。
一方、図14の破線矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを示している。
空気調和機200は、冷房や暖房等の空調を行う機器である。図11に示すように、空気調和機200は、スクロール圧縮機100と、室外熱交換器51と、室外ファン52と、膨張弁53と、四方弁54と、室内熱交換器55と、室内ファン56と、を備えている。
【0102】
図14に示す例では、スクロール圧縮機100、室外熱交換器51、室外ファン52、膨張弁53、及び四方弁54が、室外機U1に設けられている。一方、室内熱交換器55及び室内ファン56は、室内機U2に設けられている。
【0103】
スクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器であり、第1実施形態(図1参照)と同様の構成を備えている。
室外熱交換器51は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室外ファン52から送り込まれる外気と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室外ファン52は、室外熱交換器51に外気を送り込むファンである。室外ファン52は、駆動源である室外ファンモータ52aを備え、室外熱交換器51の付近に設置されている。
【0104】
室内熱交換器55は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室内ファン56から送り込まれる室内空気(空調室の空気)と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室内ファン56は、室内熱交換器55に室内空気を送り込むファンである。室内ファン56は、駆動源である室内ファンモータ56aを備え、室内熱交換器55の付近に設置されている。
【0105】
膨張弁53は、「凝縮器」(室外熱交換器51及び室内熱交換器55の一方)で凝縮した冷媒を減圧する弁である。なお、膨張弁53によって減圧された冷媒は、「蒸発器」(室外熱交換器51及び室内熱交換器55の他方)に導かれる。
【0106】
四方弁54は、空気調和機200の運転モードに応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。例えば、冷房運転時(図14の破線矢印)には、冷媒回路Qにおいて、スクロール圧縮機100、室外熱交換器51(凝縮器)、膨張弁53、及び室内熱交換器55(蒸発器)を順次に介して冷媒が循環する。一方、暖房運転時(図11の実線矢印)には、冷媒回路Qにおいて、スクロール圧縮機100、室内熱交換器55(凝縮器)、膨張弁53、及び室外熱交換器51(蒸発器)を順次に介して冷媒が循環する。
【0107】
<効果>
第7実施形態によれば、第1実施形態と同様のスクロール圧縮機100を備えることで、簡素な構成で信頼性の高い空気調和機200を提供できる。
【0108】
≪変形例≫
各実施形態でスクロール圧縮機100等について説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、側面溝73aの形状は、図4に示す形状の他、縦断面視でU字状を呈していてもよいし、また、V字状を呈していてもよい。このような構成において、側面溝73aの「底」とは、側面溝73aの壁面において最も径方向内側に位置している部分(側面溝73aの深さが最も深い部分)であるものとする。
【0109】
また、各実施形態では、フランジ部73の側面の全周に亘って、側面溝73aが設けられる構成について説明したが、これに限らない。すなわち、フランジ部73の側面の少なくとも一部に側面溝73aを設けるようにしてもよい。
【0110】
また、各実施形態では、側面溝73aと底チャンバ13との間の隙間(第6実施形態では、側面溝73aと筒チャンバ11Eとの間の隙間:図13参照)に他の部材が特に設けられない構成について説明したが、これに限らない。例えば、環状部72よりも剛性の低い環状の部材(図示せず)を側面溝73aに設置してもよい。このような構成も、フランジ部73に側面溝73aが設けられる、という事項に含まれる。
【0111】
また、第1~第5実施形態では、底チャンバ13が拡径部13cや大径部13bを備え、大径部13bの上端と筒チャンバ11の外周面とが溶接される構成について説明したが、これに限らない。すなわち、底チャンバ13に代えて、円筒状の筒チャンバ11の下端付近に拡径部(図示せず)や大径部(図示せず)を設けるようにしてもよい。このような構成において、底チャンバ13の上端面と、筒チャンバ11の拡径部(図示せず)とが、フランジ部73を挟み込んだ状態で固定される。さらに、底チャンバ13の上端付近の外周面と、筒チャンバ11の下端付近の内周面と、が接触する。このような構成でも、第1~第5実施形態と同様の効果が奏される。
【0112】
また、各実施形態では、スクロール圧縮機100(図1参照)が縦置きである場合について説明したが、これに限らない。例えば、スクロール圧縮機100は、横置きで設置されてもよいし、また、斜め置きで設置されてもよい。
また、第7実施形態で説明した空気調和機200(図14参照)は、ルームエアコンやパッケージエアコンの他、ビル用マルチエアコンといったさまざまな種類の空気調和機に適用できる。
【0113】
また、第7実施形態では、スクロール圧縮機100(図14参照)を備える空気調和機200(冷凍サイクル装置)について説明したが、これに限らない。例えば、給湯機、空調給湯装置、冷蔵庫、チラーといった他の「冷凍サイクル装置」にも、第2実施形態を適用可能である。
【0114】
また、各実施形態では、スクロール圧縮機100で冷媒を圧縮する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、冷媒以外の所定のガスをスクロール圧縮機100で圧縮するようにしてもよい。
また、各実施形態は、適宜に組み合わせることができる。例えば、第2実施形態(図9参照)と第3実施形態(図10参照)とを組み合わせてもよい。また、第5実施形態(図13参照)と第6実施形態(図14参照)とを組み合わせてもよい。その他にも、さまざまな組合せが可能である。
【0115】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換を適宜に行うことが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0116】
1 密閉容器
11,11E 筒チャンバ
12 蓋チャンバ
13,13E 底チャンバ
13a 底部
13b 大径部
13c 拡径部
2 圧縮機構部
21 固定スクロール
21b 固定ラップ
22 旋回スクロール
22b 旋回ラップ
23 上フレーム(第1フレーム)
3 クランク軸(駆動軸)
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
7,7A,7B,7C,7D 下フレーム(第2フレーム)
71 基部
71a 副軸受(第2軸受)
72,72A,72B,72C,72D 環状部
721A 部分(フランジ部における側面溝の他端側の部分)
72a 圧入部
72b 下面溝
72e,72f 切欠部
73,73D フランジ部
73a 側面溝
74 接続部
9 主軸受(第1軸受)
51 室外熱交換器(凝縮器/蒸発器)
52 室外ファン
53 膨張弁
54 四方弁
55 室内熱交換器(蒸発器/凝縮器)
56 室内ファン
100,100A,100B,100C,100D,100E スクロール圧縮機
200 空気調和機
C1 圧縮室
G2 所定領域
K1,K2 周縁部
M1 箇所(拡径部がフランジ部に接触している箇所)
Q 冷媒回路
図1
図2
図3
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図5
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