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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ガス分離方法およびガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20231207BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20231207BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231207BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231207BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023000444
(22)【出願日】2023-01-05
(62)【分割の表示】P 2020550263の分割
【原出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2023026609
(43)【公開日】2023-02-24
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/037186
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-087811(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147618(WO,A1)
【文献】特開2015-044162(JP,A)
【文献】特開2016-175063(JP,A)
【文献】特開2012-236123(JP,A)
【文献】特開2017-051932(JP,A)
【文献】特開2016-160889(JP,A)
【文献】実開昭48-012337(JP,U)
【文献】特開2017-154120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C01B32/00-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合ガス中の二酸化炭素を分離するガス分離方法であって、
a)平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜が多孔質の支持体上に形成された分離膜複合体を準備して単一の外筒内に設置する工程と、
b)前記外筒に接続されたガス供給部から二酸化炭素および他のガスを含む混合ガスを前記外筒の内部空間に供給して前記分離膜側から前記分離膜複合体に供給し、前記混合ガス中の二酸化炭素を、前記分離膜および前記支持体を透過させることにより、透過ガスを得る工程と、
を備え、
前記外筒内に設置された前記分離膜複合体について、前記分離膜複合体の前記支持体のうち、前記透過ガスが排出される透過側表面の少なくとも一部における温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、前記b)工程が行われることを特徴とするガス分離方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガス分離方法であって、
前記b)工程にて得られた前記透過ガス中の二酸化炭素濃度は、前記混合ガス中の二酸化炭素濃度よりも高いことを特徴とするガス分離方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス分離方法であって、
前記b)工程において、前記支持体の前記透過側表面の全面の温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低いことを特徴とするガス分離方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記b)工程において、前記支持体の前記透過側表面の少なくとも一部における温度は、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも15℃以上低いことを特徴とするガス分離方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記b)工程において前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの圧力は1MPa以上であることを特徴とするガス分離方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記分離膜は無機膜であることを特徴とするガス分離方法。
【請求項7】
請求項6に記載のガス分離方法であって、
前記分離膜はゼオライト膜であることを特徴とするガス分離方法。
【請求項8】
請求項7に記載のガス分離方法であって、
前記分離膜を構成するゼオライトの最大員環数は8以下であることを特徴とするガス分離方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記b)工程において前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの水分含有量は3000ppm以下であることを特徴とするガス分離方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記b)工程において、前記混合ガスのうち、前記分離膜および前記支持体を透過することなく排出される不透過ガスの温度は、前記支持体の前記透過側表面の温度よりも高く、かつ、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも低いことを特徴とするガス分離方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記他のガスは、水素、ヘリウム、窒素、酸素、一酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上のガスを含むことを特徴とするガス分離方法。
【請求項12】
混合ガス中の二酸化炭素を分離するガス分離装置であって、
平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜が多孔質の支持体上に形成された分離膜複合体と、
前記分離膜複合体を内部空間に収容する単一の外筒と、
前記外筒に接続され、二酸化炭素および他のガスを含む混合ガスを前記外筒の内部空間に供給して前記分離膜側から前記分離膜複合体に供給するガス供給部と、
を備え、
前記外筒内に設置された前記分離膜複合体について、前記分離膜複合体の前記支持体のうち、前記分離膜を透過したガスが排出される透過側表面の少なくとも一部における温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、前記混合ガス中の二酸化炭素が、前記分離膜および前記支持体を透過することにより、前記混合ガスから分離されることを特徴とするガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離方法およびガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所等からの燃焼排ガスから二酸化炭素(CO)等のガスを分離することが行われている。例えば、特許文献1や特許文献2では、ゼオライト膜を利用して、混合ガスからCOを分離する技術が提案されている。また、特許文献3では、促進輸送膜を利用したCOの分離技術が提案されている。
【0003】
特許文献4では、ガス流通経路に順に配置された複数の二酸化炭素分離膜において、上流側の二酸化炭素分離膜を水蒸気が透過することにより、下流側の二酸化炭素分離膜に供給されるガスの相対湿度が低下して二酸化炭素透過性が低下する問題を解決するため、下流側の二酸化炭素分離膜に供給されるガスの温度を、上流側の二酸化炭素分離膜に供給されるガスの温度よりも低くして、下流側の二酸化炭素分離膜に供給されるガスの相対湿度を増大させることが提案されている。なお、特許文献4では、二酸化炭素分離膜の温度が下がると、二酸化炭素透過性が低下すると記載されている。
【0004】
一方、特許文献5では、細孔径が5nm~250nmの多孔膜を利用して、複数種類の炭化水素を含む供給混合物を分離する技術が提案されている。特許文献5では、上記多孔膜および透過物の温度が、供給混合物の温度よりも低く維持されることにより、多孔膜の細孔において混合物成分の毛管凝縮が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-159518号公報
【文献】特開2015-044162号公報
【文献】国際公開第2009/093666号
【文献】特開2017-154120号公報
【文献】特表2018-514385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2のようなゼオライト膜を利用して燃焼排ガスからCOを分離回収する場合、燃焼排ガス中のCOの分圧が比較的低いため、ゼオライト膜を透過したガス中のCOの濃度を高くすることが難しい。特許文献3のような無孔性の促進輸送膜では、促進輸送膜中の水分量が低下すると分離性能も低下しやすいため、長期的に安定して分離を継続することが難しい。
【0007】
特許文献4では、複数の二酸化炭素分離膜に供給されるガスの温度について、下流側のガス温度が上流側のガス温度よりも低いことが記載されている。しかし、二酸化炭素分離膜の二酸化炭素透過性は温度低下に伴って低下するため、それぞれの二酸化炭素分離膜(つまり、単一の二酸化炭素分離膜)において、当該分離膜に供給されるガスの温度よりも当該分離膜の温度が低くなるように当該分離膜を冷却することは考え難い。
【0008】
特許文献5では、炭化水素の分離については開示されているが、COの分離については開示されていない。また、特許文献5の多孔膜の細孔径は5nm以上と比較的大きいため、当該多孔膜をCOの分離に利用することは難しい。
【0009】
本発明は、混合ガス中の二酸化炭素を分離するガス分離方法に向けられており、分離膜を透過したガス中の二酸化炭素の濃度を高くするために、分離膜における二酸化炭素の選択性能を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の好ましい形態に係るガス分離方法は、a)平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜が多孔質の支持体上に形成された分離膜複合体を準備して単一の外筒内に設置する工程と、b)前記外筒に接続されたガス供給部から二酸化炭素および他のガスを含む混合ガスを前記外筒の内部空間に供給して前記分離膜側から前記分離膜複合体に供給し、前記混合ガス中の二酸化炭素を、前記分離膜および前記支持体を透過させることにより、透過ガスを得る工程と、を備える。前記外筒内に設置された前記分離膜複合体について、前記分離膜複合体の前記支持体のうち、前記透過ガスが排出される透過側表面の少なくとも一部における温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、前記b)工程が行われる。
【0011】
好ましくは、前記b)工程にて得られた前記透過ガス中の二酸化炭素濃度は、前記混合ガス中の二酸化炭素濃度よりも高い。
【0012】
好ましくは、前記b)工程において、前記支持体の前記透過側表面の全面の温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低い。
【0013】
好ましくは、前記b)工程において、前記支持体の前記透過側表面の少なくとも一部における温度は、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも15℃以上低い。
【0014】
好ましくは、前記b)工程において前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの圧力は1MPa以上である。
【0015】
好ましくは、前記分離膜は無機膜である。より好ましくは、前記分離膜はゼオライト膜である。さらに好ましくは、前記分離膜を構成するゼオライトの最大員環数は8以下である。
【0016】
好ましくは、前記b)工程において前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの水分含有量は3000ppm以下である。
【0017】
好ましくは、前記b)工程において、前記混合ガスのうち、前記分離膜および前記支持体を透過することなく排出される不透過ガスの温度は、前記支持体の前記透過側表面の温度よりも高く、かつ、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも低い。
【0018】
好ましくは、前記他のガスは、水素、ヘリウム、窒素、酸素、一酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上のガスを含む。
【0019】
本発明は、混合ガス中の二酸化炭素を分離するガス分離装置にも向けられている。本発明の一の好ましい形態に係るガス分離装置は、平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜が多孔質の支持体上に形成された分離膜複合体と、前記分離膜複合体を内部空間に収容する単一の外筒と、前記外筒に接続され、二酸化炭素および他のガスを含む混合ガスを前記外筒の内部空間に供給して前記分離膜側から前記分離膜複合体に供給するガス供給部と、を備える。前記外筒内に設置された前記分離膜複合体について、前記分離膜複合体の前記支持体のうち、前記分離膜を透過したガスが排出される透過側表面の少なくとも一部における温度が、前記分離膜複合体に供給される前の前記混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、前記混合ガス中の二酸化炭素が、前記分離膜および前記支持体を透過することにより、前記混合ガスから分離される。当該ガス分離装置によれば、分離膜における二酸化炭素の選択性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、分離膜における二酸化炭素の選択性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ガス分離装置を示す図である。
図2】分離膜複合体の断面図である。
図3】分離膜複合体の拡大断面図である。
図4】混合ガスの分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るガス分離装置2の概略構造を示す図である。図1では、一部の構成の断面における平行斜線を省略している。ガス分離装置2は、二酸化炭素(CO)および他のガスを含む混合ガスから、二酸化炭素を分離させる装置である。当該混合ガスは、例えば、火力発電所からの燃焼排ガスである。
【0023】
ガス分離装置2は、分離膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、ガス供給部26と、第1ガス回収部27と、第2ガス回収部28と、冷却部29とを備える。分離膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22の内部空間に収容される。ガス供給部26、第1ガス回収部27および第2ガス回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。図1に示す例では、冷却部29は、外筒22の外部に配置され、外筒22の外側面を覆う。
【0024】
図2は、分離膜複合体1の断面図である。図3は、分離膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。分離膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成された分離膜12とを備える。図2では、分離膜12を太線にて描いている。図3では、分離膜12に平行斜線を付す。また、図3では、分離膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0025】
支持体11はガスを透過可能な多孔質部材である。図2に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、図2中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。図2に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。図1および図2では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。分離膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0026】
支持体11の長さ(すなわち、図2中の上下方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0027】
支持体11の材料は、表面に分離膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0028】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0029】
分離膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は、好ましくは、支持体11の他の部位の平均細孔径よりも小さい。このような構造を実現するために、支持体11は多層構造を有する。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができ、それぞれは同じでもよいし異なっていてもよい。支持体11の平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。
【0030】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。分離膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。分離膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば25%~50%である。
【0031】
分離膜12は、細孔を有する多孔膜である。分離膜12は、複数種類のガスが混合した混合ガスから、分子篩作用を利用してCOを分離するガス分離膜である。当該混合ガスは、COに比べて分離膜12を透過しにくい他のガスを含む。換言すれば、当該混合ガスは、分離膜12のCOの透過速度に比べて、透過速度が小さい他のガスを含む。当該混合ガスは、COの他に、水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)、酸素(O)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物、アンモニア(NH)、硫黄酸化物、硫化水素(HS)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上のガスを含む。なお、COを分離するとは、当該混合ガス中のCOの少なくとも一部を、分離膜12および支持体11を透過させることをいい、ガスの濃度については問わない。以下の説明では、分離膜12および支持体11を透過したガスを「透過ガス」とも呼ぶ。
【0032】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等のNO(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0033】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等のSO(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0034】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF)、二フッ化硫黄(SF)、四フッ化硫黄(SF)、六フッ化硫黄(SF)または十フッ化二硫黄(S10)等である。
【0035】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、ノルマルブタン(CH(CHCH)、イソブタン(CH(CH)、1-ブテン(CH=CHCHCH)、2-ブテン(CHCH=CHCH)またはイソブテン(CH=C(CH)である。
【0036】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH)、酢酸(C)、シュウ酸(C)、アクリル酸(C)または安息香酸(CCOOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(CS)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0037】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CHCH(OH)CH)、エチレングリコール(CH(OH)CH(OH))またはブタノール(COH)等である。
【0038】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CSH)または1-プロパンチオール(CSH)等である。
【0039】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0040】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CHO)、メチルエチルエーテル(COCH)またはジエチルエーテル((CO)等である。
【0041】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CHCO)、メチルエチルケトン(CCOCH)またはジエチルケトン((CCO)等である。
【0042】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CHCHO)、プロピオンアルデヒド(CCHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(CCHO)等である。
【0043】
分離膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。分離膜12を厚くすると選択性能が向上する。分離膜12を薄くすると透過速度が増大する。分離膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。分離膜12の平均細孔径は、1nm以下である。これにより、分離膜12におけるCOの選択性能を高くすることができる。分離膜12の平均細孔径の下限は、COを透過できれば特に限定されないが、例えば0.2nm以上とすることができる。分離膜12の平均細孔径は、好ましくは、0.2nm以上かつ0.8nm以下であり、より好ましくは、0.3nm以上かつ0.6nm以下であり、さらに好ましくは、0.3nm以上かつ0.5nm以下である。分離膜12の平均細孔径を小さくすると選択性能が向上する。分離膜12の平均細孔径を大きくすると透過速度が増大する。分離膜12の平均細孔径は、分離膜12が配設される支持体11の表面における平均細孔径よりも小さい。
【0044】
分離膜12は、好ましくは無機膜であり、本実施の形態ではゼオライト膜(すなわち、膜状のゼオライト)である。分離膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がSiのみ、もしくは、SiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとPとからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0045】
分離膜12を構成するゼオライトの最大員環数がnである場合、n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。n員環細孔とは、酸素原子がT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数がn個である細孔である。ゼオライトが、nが等しい複数のn員環細孔を有する場合には、全てのn員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures” [online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0046】
分離膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライトであってよい。COの透過速度増大および後述する選択性能向上の観点から、当該ゼオライトの最大員環数は、8以下(例えば、6または8)であることが好ましい。分離膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、分離膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトにより構成されたゼオライト膜である。この場合、分離膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmであり、平均細孔径は、0.40nmである。
【0047】
分離膜12がゼオライト膜である場合、分離膜12は、例えば、ケイ素(Si)を含む。分離膜12は、例えば、Si、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。分離膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。分離膜12がSi原子を含む場合、分離膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上であり、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、分離膜12におけるSi/Al比を調整することができる。
【0048】
-50℃~300℃における分離膜12のCOの透過量(パーミエンス)は、例えば50nmol/m・s・Pa以上である。また、-50℃~300℃における分離膜12のCOの透過量/CH漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば30以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、分離膜12の供給側と透過側とのCOの分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0049】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、図1中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面112を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガスの流入および流出は可能である。
【0050】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、分離膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、図1中の左側の端部)にはガス供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1ガス排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2ガス排出ポート223が設けられる。ガス供給ポート221には、ガス供給部26が接続される。第1ガス排出ポート222には、第1ガス回収部27が接続される。第2ガス排出ポート223には、第2ガス回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0051】
2つのシール部材23は、分離膜複合体1の長手方向両端部近傍において、分離膜複合体1の外側面112(すなわち、支持体11の外側面112)と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、分離膜複合体1の外側面112および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。図1に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介して分離膜複合体1の外側面112に間接的に密着する。シール部材23と分離膜複合体1の外側面112との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0052】
ガス供給部26は、COおよび他のガス(例えば、窒素(N))を含む混合ガスを、ガス供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。ガス供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。
【0053】
ガス供給部26から外筒22の内部に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、分離膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中のCOは、各貫通孔111の内側面上に設けられた分離膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面112から導出され、矢印253にて示すように、第2ガス排出ポート223を介して第2ガス回収部28により回収される。換言すれば、ガス供給部26は、上述の混合ガスを、分離膜12側から分離膜複合体1に供給し、混合ガス中のCOを、分離膜12および支持体11を透過させ、支持体11の外側面112のうち2つのシール部材23の間にある略円筒面状の領域(以下、「透過側表面113」と呼ぶ。)から排出することにより混合ガスから分離する。なお、透過側表面113には、支持体11の外側面112のうち、封止部21に被覆された領域は含まれない。第2ガス回収部28は、例えば、分離膜12および支持体11を透過して外筒22から導出されたCO等の透過ガスを貯留する貯留容器、または、当該透過ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0054】
また、混合ガスのうち、上述の透過ガスを除くガス(以下、「不透過ガス」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1ガス排出ポート222を介して第1ガス回収部27により回収される。第1ガス回収部27は、例えば、外筒22から導出された不透過ガスを貯留する貯留容器、または、当該不透過ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0055】
冷却部29は、外筒22の外側面に直接的または間接的に接触して外筒22を冷却する。冷却部29は、例えば、外筒22の周囲に設けられた略円筒状の冷却ジャケットである。この場合、冷却部29の内部を冷却水等の冷媒が継続的に流れることにより、外筒22が冷却される。図1では、冷却部29内の冷媒に平行斜線を付す。上述の長手方向における冷却部29の長さは、例えば、2つのシール部材23の間の長手方向の距離と略同じ、または、当該距離よりも長い。図1に示す例では、冷却部29の両端部は、2つのシール部材23と長手方向の略同じ位置に位置する。
【0056】
ガス分離装置2では、冷却部29により外筒22が冷却されることにより、外筒22の内側面と対向する分離膜複合体1も冷却される。詳細には、冷却部29により外筒22が冷却されることにより、外筒22の内側面と支持体11の外側面112との間に存在するガスが冷却され、当該ガスに接触する外側面112側から支持体11がおよそ全体に亘って冷却される。その結果、支持体11に接触する分離膜12もおよそ全体に亘って冷却される。
【0057】
次に、図4を参照しつつ、ガス分離装置2による混合ガスの分離の流れの一例について説明する。混合ガスの分離が行われる際には、まず、支持体11上に分離膜12が生成されて分離膜複合体1が準備される(ステップS11)。ステップS11を具体的に説明すると、まず、分離膜12(すなわち、ゼオライト膜)の製造に利用される種結晶が準備される。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0058】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上の分離膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0059】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解・分散させることにより作製する。原料溶液の組成は、例えば、1.0SiO:0.015SDA:0.12(CH(NHである。原料溶液の溶媒には、水やエタノール等のアルコールを用いてもよい。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0060】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜である分離膜12が形成される。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃であり、例えば160℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。
【0061】
水熱合成が終了すると、支持体11および分離膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11および分離膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11および分離膜12が乾燥すると、分離膜12を加熱処理することによって、分離膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、分離膜12内の微細孔を貫通させる。これにより、上述の分離膜複合体1が得られる。
【0062】
ステップS11が終了すると、図1に示すガス分離装置2が組み立てられる(ステップS12)。分離膜複合体1は、外筒22内に設置される。続いて、冷却部29により外筒22を介して分離膜複合体1が冷却される。具体的には、冷却部29により、外筒22のうち2つのシール部材23の間の部位が冷却され、2つのシール部材23の間において外筒22の内側面と支持体11の外側面112との間に存在するガスが冷却される。さらに、支持体11のうち、当該ガスに接触する領域である透過側表面113が冷却され、支持体11がおよそ全体に亘って冷却され、分離膜12もおよそ全体に亘って冷却される(ステップS13)。冷却部29による分離膜複合体1の冷却は、例えば、ガス分離装置2によるガス分離処理が終了するまで継続される。
【0063】
続いて、ガス供給部26により、COおよび他のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される(ステップS14)。本実施の形態では、混合ガスの主成分は、COおよびNである。混合ガスには、COおよびN以外のガスが含まれていてもよい。分離膜12の細孔内へのCOの吸着が混合ガス中の水分により阻害されてCOの透過速度が低下することを抑制することができることから、外筒22の内部空間において、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの水分含有量は、容量比(すなわち、モル比)において3000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましく、100ppm以下であることが特に好ましい。混合ガス中の水分含有量が3000ppmよりも大きい場合には、脱水装置等によって水分含有量を3000ppm以下とした混合ガスを使用することができる。
【0064】
ガス供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力であるガス導入圧は、好ましくは0.5MPa以上であり、より好ましくは1MPa以上であり、さらに好ましくは2MPa以上である。また、ガス導入圧は、例えば20MPa以下であり、典型的には10MPa以下である。ガス供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの温度は、例えば-50℃~300℃であり、本実施の形態では、約10℃~150℃である。外筒22の内部空間において、分離膜複合体1に供給される前の混合ガス(すなわち、分離膜12に供給される直前の混合ガス)の圧力および温度は、上述のガス供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力および温度と略同じである。
【0065】
外筒22内に供給された混合ガスは、分離膜複合体1の各貫通孔111に導入される。そして、混合ガス中のCOが、分離膜複合体1の分離膜12および支持体11を透過し、支持体11の透過側表面113から導出されることにより、混合ガスから分離される(ステップS15)。
【0066】
上述のように、支持体11は冷却部29により冷却されている。このため、支持体11の温度は、分離膜複合体1に供給される前の混合ガス(すなわち、ガス供給ポート221から分離膜12に向かって移動し、分離膜12に供給される直前の混合ガス)の温度よりも低い。具体的には、支持体11の透過側表面113の少なくとも一部における温度が、当該混合ガスの温度よりも10℃以上低い。なお、支持体11の透過側表面113の温度と支持体11を透過した直後のガスの温度はほぼ同じであることから、支持体11の透過側表面113の温度を直接測ることが難しい場合は、支持体11を透過した直後のガスの温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低いことをもって、支持体11の透過側表面113の少なくとも一部における温度が、当該混合ガスの温度よりも10℃以上低いということができる。
【0067】
ガス分離装置2が複数の分離膜複合体を含んでいる場合、当該複数の分離膜複合体のうち、少なくとも1つの分離膜複合体1において、当該分離膜複合体1の支持体11の透過側表面113の少なくとも一部における温度が、当該分離膜複合体1の分離膜12に供給される直前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い。
【0068】
好ましくは、支持体11の透過側表面113の全面の温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い。透過側表面113の温度は、必ずしも全面に亘って上記混合ガスの温度よりも10℃以上低い必要はなく、透過側表面113の少なくとも一部における温度が、当該混合ガスの温度よりも15℃以上低いことも好ましい。さらに好ましくは、支持体11の透過側表面113の全面の温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも15℃以上低い。
【0069】
上述のように、ガス分離装置2では、少なくとも、支持体11のうち透過側表面113の一部における温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い。これにより、分離膜12の細孔内にCOが効率良く吸着され、分離膜12におけるN等の透過速度に対するCOの透過速度の割合が増大される。換言すれば、分離膜12におけるCOの選択性能が向上される。好ましくは、混合ガス中のCOの濃度よりも、分離膜12および支持体11を透過した透過ガス中のCOの濃度が増大される。
【0070】
分離膜複合体1を透過した透過ガスは、第2ガス回収部28により回収される。第2ガス回収部28における圧力(すなわち、透過側圧力)は、任意に設定可能であるが、例えば約1気圧(0.101MPa)である。第2ガス回収部28により回収される透過ガスには、CO以外のガスが含まれていてもよい。
【0071】
また、不透過ガス(すなわち、混合ガスのうち、分離膜12および支持体11を透過しなかったガス)は、各貫通孔111を長手方向に通過し、第1ガス排出ポート222を介して外筒22から排出される。分離膜複合体1の貫通孔111を通過する不透過ガスは、混合ガスよりも低温の分離膜複合体1により冷却される。そのため、貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度は、分離膜複合体1に供給される前の混合ガス(すなわち、ガス供給ポート221から分離膜12に向かって移動し、分離膜12に供給される直前の混合ガス)の温度よりも低い。貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度は、支持体11の透過側表面113の温度よりも高いことが好ましい。また、貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度は、分離膜複合体1を透過した直後の透過ガスの温度よりも高いことが好ましい。なお、貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度は、第1ガス排出ポート222から排出される不透過ガスの温度と略同じである。
【0072】
外筒22から排出された不透過ガスは、第1ガス回収部27により回収される。第1ガス回収部27における圧力は、例えば、ガス供給部26により供給される混合ガスと略同じ圧力である。第1ガス回収部27により回収された不透過ガスには、分離膜複合体1を透過しなかったCOが含まれていてもよい。
【0073】
次に、表1を参照しつつ、上述のステップS11~S15に示すガス分離方法について、分離膜12に供給される直前の混合ガスと透過側表面113との温度差、および、分離膜12に供給される直前の混合ガスの圧力と、COの透過流量および選択性能との関係について説明する。表1中の実施例1~5および比較例1~2では、分離膜12に供給される直前の混合ガスと透過側表面113との温度差ΔT(℃)、および、分離膜12に供給される直前の混合ガスの圧力P(MPa)が異なっている。温度差ΔT(℃)は、上記混合ガスの温度から、透過側表面113のうち最も温度が低い領域における温度を減算したものである。
【0074】
表1には記載していないが、実施例1~5および比較例1~2において、分離膜12はDDR型のゼオライト膜である。また、ガス供給部26からガス分離装置2に供給される混合ガスの組成比(ただし、水分を除く。)は、COが50vol%、Nが50vol%である。混合ガスの水分含有量は、3000ppmである。分離膜12に供給される直前の混合ガスの温度は、30℃である。第2ガス回収部28の圧力(すなわち、透過側圧力)は、1気圧である。
【0075】
表1中のCOの透過流量および選択性能は、以下のように求めた。まず、分離膜複合体1を透過する透過ガスの流量および組成をそれぞれ、マスフローメータおよびガスクロマトグラフィを使用して測定した。続いて、透過ガスの流量および組成の測定値から、分離膜12について、COおよびNのそれぞれの透過速度を求めた。さらに、単位面積、単位時間および単位圧力差当たりのCOおよびNのそれぞれの透過速度(Permeance)を求め、COの透過速度をNの透過速度で除算して得た値を、COの選択性能とした。すなわち、表1中のCOの選択性能とは、Nに対するCOの透過速度比であり、表1中の数値が大きい程、COの選択性能が高く、透過ガスにおけるCOの比率(vol%)が高くなる。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、温度差ΔTが10℃である実施例1~3では、COの選択性能は30.9以上であり、混合ガスの圧力が大きくなるに従って、COの透過流量が増大した。また、混合ガスの圧力が1.0MPaである実施例2,4,5では、COの透過流量はほぼ同じであり、温度差ΔTが大きくなるに従って、COの選択性能が向上した。また、混合ガスの圧力が1.0MPa以上である実施例2~5では、COの透過流量は22.4L(リットル)/min以上である。一方、温度差ΔTが10℃未満である比較例1,2と、混合ガスの圧力が同じである実施例1とを比較すると、COの透過流量はほぼ同じであるが、COの選択性能は、実施例1が60.7であるのに対し、比較例1は49.8であり、比較例2は44.3であった。
【0078】
なお、実施例1~5について、混合ガスの水分含有量を3000ppmよりも小さくした場合、COの透過速度および選択性能は、表1に示す結果と同等、または、表1に示す結果よりも増大した。また、実施例1~5において、不透過ガスの温度(すなわち、貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度)は、分離膜複合体1に供給される前の混合ガス(すなわち、分離膜12に供給される直前の混合ガス)の温度よりも低く、かつ、支持体11の透過側表面113の温度よりも高い。
【0079】
なお、表1には記載しないが、分離膜12をDDR型ゼオライト膜からCHA型ゼオライト膜またはY型(FAU型)ゼオライト膜に変更した場合も、上述のように温度差ΔTを10℃以上とすることにより、COの選択性能が向上した。また、分離膜12として、最大員環数が12であるゼオライトにより構成されるY型ゼオライト膜を利用した場合よりも、最大員環数が8であるゼオライトにより構成されるDDR型ゼオライト膜またはCHA型ゼオライト膜を利用した場合の方が、COの選択性能がさらに向上した。分離膜12をゼオライト膜以外の無機膜である炭素膜またはシリカ膜に変更した場合も、上述のように温度差ΔTを10℃以上とすることにより、COの選択性能が向上した。
【0080】
以上に説明したように、混合ガス中のCOを分離するガス分離方法は、平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜12が多孔質の支持体11上に形成された分離膜複合体1を準備する工程(ステップS11)と、COおよび他のガスを含む混合ガスを、分離膜12側から分離膜複合体1に供給し、混合ガス中のCOを、分離膜12および支持体11を透過させることにより、透過ガスを得る工程(ステップS14)と、を備える。そして、支持体11のうち、透過ガスが排出される透過側表面113の少なくとも一部における温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、ステップS14が行われる。
【0081】
これにより、分離膜12の温度を混合ガスの温度よりも低くすることができ、分離膜12の細孔内にCOを効率良く吸着させることができる。その結果、分離膜12におけるCOの選択性能を向上することができる。また、当該ガス分離方法によれば、混合ガス全体を冷却した後に分離膜12に供給する場合に比べて、冷却に要するエネルギー量を低減することができる。
【0082】
上述のガス分離方法では、ステップS14にて得られた透過ガス中の二酸化炭素濃度は、上記混合ガス中の二酸化炭素濃度よりも高い。これにより、分離膜12におけるCOの分離を促進することができる。
【0083】
上述のガス分離方法では、好ましくは、ステップS14において、支持体11の透過側表面113の全面の温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い。これにより、分離膜12におけるCOの選択性能をさらに向上することができる。
【0084】
上述のガス分離方法では、好ましくは、ステップS14において、支持体11の透過側表面113の少なくとも一部における温度は、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも15℃以上低い。これにより、分離膜12におけるCOの選択性能をさらに向上することができる。
【0085】
上述のガス分離方法では、好ましくは、ステップS14において、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの圧力は1MPa以上である。これにより、分離膜12におけるCOの透過流量を増大させることができる。
【0086】
上述のように、分離膜12は無機膜であることが好ましい。これにより、上述のように、分離膜12におけるCOの透過速度の増大、および、COの選択性能の向上を好適に実現することができる。無機膜としては、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜等が挙げられる。
【0087】
より好ましくは、分離膜12はゼオライト膜である。このように、固有細孔径を有するゼオライト膜を分離膜12として利用することにより、分離膜12におけるCOの選択性能をさらに向上することができる。なお、ゼオライト膜とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。
【0088】
さらに好ましくは、分離膜12を構成するゼオライトの最大員環数は8以下である。これにより、分離膜12におけるCOの選択性能をより一層向上することができる。
【0089】
上述のガス分離方法では、好ましくは、ステップS14において分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの水分含有量は3000ppm以下である。これにより、分離膜12の細孔内へのCOの吸着が、混合ガス中の水分により阻害されることを抑制することができる。その結果、分離膜12におけるCOの透過速度をさらに増大させることができるとともに、COの選択性能をさらに向上することもできる。
【0090】
上述のガス分離方法では、ステップS14において、混合ガス全体を冷却した後に分離膜12に供給しているわけではなく、分離膜12に接触させることで透過ガスを冷却している。このため、当該ガス分離方法によれば、混合ガス全体を冷却した後に分離膜12に供給する場合に比べて、冷却に要するエネルギー量を低減することができる。また、上述のガス分離方法では、ステップS14において、混合ガスのうち分離膜12および支持体11を透過することなく排出される不透過ガスの温度は、支持体11の透過側表面113の温度よりも高く、かつ、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも低いことが好ましい。これにより、不透過ガスの冷却が抑制されるため、冷却に要するエネルギー量をさらに低減することができる。
【0091】
上述のように、当該ガス分離方法によれば、分離膜12におけるCOの選択性能を向上することができる。したがって、当該ガス分離方法は、COと、他のガス(少なくとも、水素、ヘリウム、窒素、酸素、一酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち1種類以上のガスを含むガス)との混合ガスから、COを分離する場合に特に適している。
【0092】
上述のガス分離装置2は、平均細孔径が1nm以下の細孔を有する分離膜12が多孔質の支持体11上に形成された分離膜複合体1と、COおよび他のガスを含む混合ガスを、分離膜12側から分離膜複合体1に供給するガス供給部26と、を備える。そして、支持体11のうち、分離膜12を透過したガスが排出される透過側表面113の少なくとも一部における温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低い状態で、混合ガス中のCOが、分離膜12および支持体11を透過することにより、混合ガスから分離される。
【0093】
これにより、上述のように、分離膜12の温度を混合ガスの温度よりも低くすることができ、分離膜12の細孔内にCOを効率良く吸着させることができる。その結果、分離膜12におけるCOの選択性能を向上することができる。また、当該ガス分離装置によれば、混合ガス全体を冷却した後に分離膜12に供給する場合に比べて、冷却に要するエネルギー量を低減することができる。
【0094】
上述のガス分離装置2およびガス分離方法では、様々な変更が可能である。
【0095】
例えば、混合ガスに含まれるCO以外のガスは、上記説明にて例示したガス以外のガスを含んでいてもよく、上記説明にて例示したガス以外のガスのみにより構成されていてもよい。
【0096】
分離膜12に供給される前の混合ガスの水分含有量は、3000ppmよりも大きくてもよい。また、当該混合ガスの圧力は、上述のように、1MPa未満であってもよい。
【0097】
貫通孔111を通過した直後の不透過ガスの温度は、分離膜複合体1に供給される前の混合ガス(すなわち、分離膜12に供給される直前の混合ガス)の温度と略同じであってもよい。また、当該不透過ガスの温度は、支持体11の透過側表面113の温度と略同じであってもよい。
【0098】
分離膜12がゼオライト膜である場合、当該ゼオライト膜を構成するゼオライトの最大員環数は8よりも小さくてもよく、8よりも大きくてもよい。上述のように、分離膜12はゼオライト膜には限定されず、ゼオライト以外の無機物により形成される無機膜であってもよい。また、分離膜12は、無機膜以外の膜であってもよい。
【0099】
また、分離膜複合体1は、支持体11上に形成された分離膜12を備えることとしたが、分離膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、分離膜12上に積層された機能膜や保護膜には、COを吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0100】
ガス分離装置2では、上述のモノリス型の分離膜複合体1に代えて、略管状や略円筒状の単管型の分離膜複合体が設けられてもよい。分離膜は、略管状または略円筒状の支持体の外側面に設けられ、分離膜および支持体を透過したCOは、支持体の径方向内側の空間へと導出される、という形態であってもよい。封止部は、あってもよいし、なくてもよい。この場合、透過側表面は、略管状または略円筒状の支持体の内側面となる。当該ガス分離装置2では、冷却部として、支持体の径方向内側の空間の中央部において長手方向に延びる冷却管等が設けられてもよい。
【0101】
冷却部29の形状および構造は、様々に変更されてよい。冷却部29は、例えば、外筒22の外側面上に螺旋状に巻回されたチューブ状の冷却ジャケットであってもよい。冷却ジャケットに流される冷媒は、冷却水以外の液体やスラリーであってもよく、冷却されたガスであってもよい。当該冷却されたガスとして、分離膜複合体1を透過した透過ガスが利用されてもよい。あるいは、冷却部29は、外筒22の外側面上に設けられたペルチェ素子であってもよい。
【0102】
また、分離膜複合体1を冷却する方法としては、低温のガスをスイープガス等として透過側表面に接触するように流してもよく、透過ガスのジュール=トムソン効果により冷却してもよい。この場合、透過側表面113の少なくとも一部における温度が、分離膜複合体1に供給される前の混合ガスの温度よりも10℃以上低くなるのであれば、冷却部29は省略されてもよい。この場合であっても、上記と同様に、分離膜12におけるCOの選択性能を向上することができる。
【0103】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のガス分離装置およびガス分離方法は、火力発電所等からの燃焼排ガス中のCOを分離させる装置および方法として利用可能であり、さらには、他の様々な混合ガス中のCOの分離にも利用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 分離膜複合体
2 ガス分離装置
11 支持体
12 分離膜
26 ガス供給部
113 透過側表面
S11~S15 ステップ
図1
図2
図3
図4