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特許7398602インクジェット用処理液、インクジェット捺染装置、及び、インクジェット捺染方法
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  • 特許-インクジェット用処理液、インクジェット捺染装置、及び、インクジェット捺染方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】インクジェット用処理液、インクジェット捺染装置、及び、インクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20231207BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231207BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20231207BHJP
【FI】
B41M5/00 134
B41J2/01 123
B41M5/00 100
B41M5/00 114
C09D11/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023553401
(86)(22)【出願日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2023015859
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022072063
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】保母 純平
(72)【発明者】
【氏名】日置 潤
(72)【発明者】
【氏名】杉本 博子
(72)【発明者】
【氏名】通山 剛
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/182338(WO,A1)
【文献】特表2017-533112(JP,A)
【文献】特開2000-169705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、界面活性剤と、水性媒体とを含むインクジェット用処理液であって、
前記シリコーンオイルの含有量が、処理液全体に対して、5質量%以上15質量%以下であり、
前記界面活性剤は、炭素数が12~14のアルキル基を含む第1界面活性剤と、炭素数が16~18のアルキル基を含む第2界面活性剤とを含有する、インクジェット用処理液。
【請求項2】
前記界面活性剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルである、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項3】
前記第1界面活性剤は、炭素数が異なるアルキル基を有する、2つ以上の化合物を含有する、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項4】
前記第2界面活性剤は、炭素数が異なるアルキル基を有する、2つ以上の化合物を含有する、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項5】
前記第1界面活性剤の含有量より、前記第2界面活性剤の含有量が少ない、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項6】
前記第1界面活性剤の含有量及び前記第2界面活性剤の含有量が、以下の式:
第2界面活性剤の含有量/(第1界面活性剤の含有量+第2界面活性剤の含有量)=0.15~0.25(質量%)
を満たす、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項7】
前記第1界面活性剤及び前記第2界面活性剤の合計含有量が、処理液全体に対して、0.5質量%以上4.0質量%以下である、請求項6に記載のインクジェット用処理液。
【請求項8】
前記第1界面活性剤及び前記第2界面活性剤の合計含有量が、シリコーンオイルの含有量に対して、9.0質量%以上40.0質量%以下である、請求項6に記載のインクジェット用処理液。
【請求項9】
前記乳化粒子の平均粒子径が100nm以上250nm以下である、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項10】
前記インクジェット処理液を60℃で30日間保管したとき、保管前の処理液における前記乳化粒子の平均粒子径X、及び、保管後の処理液における前記乳化粒子の平均粒子径Yが、以下の式:
1.0≦Y/X≦1.05
を満たす、請求項9に記載のインクジェット用処理液。
【請求項11】
捺染用である、請求項1~10のいずれかに記載のインクジェット用処理液。
【請求項12】
捺染対象の画像形成領域にインクを吐出する記録ヘッドと、前記捺染対象の少なくとも前記画像形成領域に処理液を吐出する処理ヘッドとを備え、
前記処理液は、請求項1~10のいずれかに記載のインクジェット用処理液である、インクジェット捺染装置。
【請求項13】
捺染対象の画像形成領域に記録ヘッドからインクを吐出するインク吐出工程と、前記捺染対象の少なくとも前記画像形成領域に処理ヘッドから処理液を吐出する処理工程とを含み、
前記処理液は、請求項1~10のいずれかに記載のインクジェット用処理液である、インクジェット捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット用処理液に関する。さらには、それを用いたインクセット捺染装置及びインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式では、インク塗布後に、記録媒体の変形を抑制したり、画像定着性を向上させるために、処理液を塗布することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、界面活性剤を含む処理液を用いることにより、フェザリング、ブリーディング、用紙変形を抑制できることが開示されている。当該文献によれば、特に2種類の界面活性剤を含む処理液を使用することが好ましいことも報告されている。
【0004】
また、界面活性剤をインクジェット記録液に含めることによって、インク乾燥性、光学濃度、フェザリング、及び、画像定着性を同時に達成できるという報告もこれまでになされている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-16556号公報
【文献】特開2001-226616号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一局面に関するインクジェット用処理液は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、界面活性剤と、水性媒体とを含むインクジェット用処理液であって、前記シリコーンオイルの含有量が、処理液全体に対して、5質量%以上15質量%以下であり、前記界面活性剤は、炭素数が12~14のアルキル基を含む第1界面活性剤と、炭素数が16~18のアルキル基を含む第2界面活性剤とを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態のインクジェット用処理液を使用する、インクジェット捺染装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上記特許文献1の記載の処理液は界面活性剤を含んでいるが、画像品質や用紙変形の抑制を目的としており、処理液の保存安定性については何ら検討されていない。また、上記特許文献2記載の発明は処理液ではなくインクジェット記録液そのものに関する発明であり、さらに当該文献にもインクジェット記録液の保存安定性を向上させることについて記載はない。
【0009】
一方、インクジェットを用いた捺染技術では、捺染物の摩擦堅ろう度を確保するためにシリコーンオイルを含む後処理液が使用されることがある。本発明者らの研究によりインクジェットで吐出されるシリコーンオイルを含有する後処理液では、吐出安定性を確保するためにシリコーンオイルの粒子径をコントロールする必要があることがわかってきている。そして、それは後処理液に界面活性剤を添加することによって調整できることもわかってきた。
【0010】
しかしながら、シリコーンオイルと界面活性剤を含む後処理液を長期間保存していると、界面活性剤がシリコーンオイル表面から離脱し、所望の粒子径を維持することが困難となる場合があることがわかってきた。シリコーンオイルの粒子径を適切な範囲に維持できなければ、吐出安定性を確保しにくいという問題がある。
【0011】
また、上述した特許文献1および2記載の技術はいずれも主に普通紙などの紙媒体やフィルムシートなどの液体低吸収性記録媒体への印刷を行うためのインクジェット画像形成方法に関し、滲みなどが抑制された良好な画像を形成することを目的としており、布等への捺染に使用されることはあまり想定されていない。しかし、捺染に使用されるインクジェット記録の場合、画像品質等に加えて摩擦堅ろう性等の捺染特有の特性も求められる。
【0012】
以下、本開示に係る実施形態について具体的に説明するが、本開示は、これらに限定されるものではない。なお、本明細書において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用いて測定されたメディアン径である。以下、体積中位径を「D50」と記載することがある。材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。「比重」は、何ら規定していなければ、25℃における比重を意味する。アクリルおよびメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
[インクジェット用処理液]
本開示の一実施形態に係るインクジェット用処理液(以下、単に「処理液」と称することもある)は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、界面活性剤と、水性媒体とを含むインクジェット用処理液であって、前記シリコーンオイルの含有量が、処理液全体に対して、5質量%以上15質量%以下であり、前記界面活性剤は、炭素数が12~14のアルキル基を含む第1界面活性剤と、炭素数が16~18のアルキル基を含む第2界面活性剤とを含有することを特徴とする。
【0014】
前記構成によって、本実施形態の処理液は、インクジェットヘッド部材から安定して吐出され、かつ、保存安定性に優れている。すなわち、本開示によれば、インクジェットヘッド部材から安定して吐出することができ、かつ、保存安定性に優れたインクジェット用処理液を提供することができる。さらに、本開示のインクジェット処理液を捺染に使用する場合、摩擦堅ろう性にも優れるという利点がある。
【0015】
本実施形態の処理液は、例えば、後述するインクジェット捺染装置、及びインクジェット捺染方法において好適に用いられる。本実施形態の処理液は、後処理用の処理液である。つまり、インクにより捺染対象の画像形成領域に画像が形成された後、本実施形態の処理液により画像形成領域が後処理される。
【0016】
本実施形態の処理液を捺染用に使用した場合には、上記利点に加えて、摩擦堅ろう性を向上させることができるという利点がある。
【0017】
以下、本実施形態に係るインクジェット用処理液の構成について説明する。本実施形態に係る処理液は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、界面活性剤と、水性媒体とを含有する。つまり、本実施形態の処理液は水性媒体中に乳化粒子が分散しているエマルションであり、より具体的には、水中油滴(O/W)型エマルションである。
【0018】
(乳化粒子)
処理液に含有される乳化粒子は、シリコーンオイルを含有する。乳化粒子に含まれるシリコーンオイルは、特に限定はされないが、非変性シリコーンオイルを少なくとも含むことが好ましい。非変性シリコーンオイルを含むことによって、捺染用に使用した場合の摩擦堅ろう性、特に湿潤摩擦堅ろう性により優れた捺染物を作製することができる。
【0019】
非変性シリコーンオイルとしては、具体的には、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等が挙げられる。中でも、ジメチルポリシロキサン等を使用することが好ましい。
【0020】
また、前記シリコーンオイルは、非変性シリコーンオイル以外のシリコーンオイルであってもよく、あるいは、非変性シリコーンオイルおよびその他のシリコーンオイルの両方を含有してもよい。この場合、1つの乳化粒子に非変性シリコーンオイルおよびその他のシリコーンオイルの両方が含有されていてもよい。あるいは、処理液に含有される乳化粒子が2種以上であり、例えば、第1乳化粒子に非変性シリコーンオイルが含有されており、第2乳化粒子にその他のシリコーンオイルが含有されていてもよい。その他のシリコーンオイルとしては、例えば、イオン性基含有シリコーンオイル等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の処理液が捺染用に使用される場合、前記シリコーンオイルの粘度は、500mm/s(すなわち、mm/秒)以上であることが好ましい。シリコーンオイルの粘度が500mm/s以上であると、摩擦により捺染物からシリコーンオイルが脱離し難くなり、乾燥摩擦堅ろう度および湿潤摩擦堅ろう度により優れた捺染物を作製できると考えられる。また、既に述べたように、本実施形態に係る処理液は、インクジェット捺染装置の処理ヘッドからの吐出性に優れる。処理ヘッドから処理液が吐出される場合は、処理液に捺染物を浸漬させる場合と比較して、処理液の使用量が低減されるため、500mm/s以上の高い粘度のシリコーンオイルを処理液に使用した場合であっても、捺染対象にごわつきが引き起こされ難く、捺染物の触感の低下がより抑制される。
【0022】
シリコーンオイルの粘度の上限は、特に限定されない。シリコーンオイルの粘度は、例えば、100000mm/s以下であることが好ましく、6000mm/s以下であることが好ましい。シリコーンオイルの粘度は、例えば、500mm/s、700mm/s、900mm/s、1000mm/s、1100mm/s、1200mm/s、1500mm/s、1700mm/s、1800mm/s、2000mm/s、3000mm/s、5700mm/s、および6000mm/sからなる群から選択される
2つの値の範囲内であってもよい。
【0023】
本実施形態において、前記シリコーンオイルの粘度は、25℃における動粘度を意味する。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイル(例えば、イオン性基含有シリコーンオイルおよびその他のシリコーンオイル)を含有する場合には、シリコーンオイルの粘度は、2種以上のシリコーンオイルの混合物の粘度を意味する。
【0024】
前記シリコーンオイルの粘度は、JIS(日本産業規格) Z8803:2011(液体の粘度測定方法)に記載の方法に準拠して測定される値である。具体的には、例えば、トルエンにて処理液からシリコーンオイルを抽出し、洗浄し、乾燥させることにより、処理液からシリコーンオイルを分離して、シリコーンオイルの粘度を測定することができる。
【0025】
本実施体系の処理液におけるシリコーンオイルの含有量は、5質量%以上15質量%以下である。シリコーンオイルの含有率が前記範囲であることによって、処理液の吐出性をより安定させ、捺染用に使用した場合の摩擦堅ろう性を向上させることができる。処理液におけるシリコーンオイルの含有率は、好ましくは7質量%以上である。また、処理液におけるシリコーンオイルの含有率は、好ましくは13質量%以下である。
【0026】
本実施形態において、処理液におけるシリコーンオイルの含有率は、処理液全体の質量に対する、シリコーンオイルの質量の百分率を意味する。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイル(例えば、非変性シリコーンオイルおよびその他のシリコーンオイル)を含有する場合には、シリコーンオイルの含有率は、処理液の質量に対する、2種以上のシリコーンオイルの合計質量の百分率を意味する。
【0027】
また、前記乳化粒子は、シリコーンオイル以外の成分をさらに含有してもよい。但し、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を作製するという観点からは、乳化粒子はシリコーンオイルのみを含有していることが好ましい。
【0028】
乳化粒子の平均粒子径(水性媒体中での分散粒子径)は、100nm以上250nm以下であることが好ましい。乳化粒子の平均粒子径が前記範囲であることによって、本実施形態の処理液は、インクジェット装置の処理ヘッドからの吐出性により優れるという利点がある。さらに、捺染用に使用した場合の摩擦堅ろう性をより確実に得ることができる。乳化粒子の平均粒子径のより好ましい範囲は、120nm以上220nm以下であり、さらには150nm以上200nm以下であることがより好ましい。あるいは、乳化粒子の平均粒子径は、例えば、100nm、120nm、135nm、150nm、155nm、160nm、180nm、200nm、210nm、220nm、及び250nmからなる群から選択される2つの値の範囲内であってもよい。
【0029】
本実施形態において、前記平均粒子径は、キュムラント法に基づき算出された散乱光強度基準による調和平均粒子径(キュムラント平均粒子径とも呼ばれる)を意味する。つまり、乳化粒子の平均粒子径は、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0030】
さらに、本実施形態では、前記インクジェット処理液を60℃にて30日間保管したとき、保管前の処理液における前記乳化粒子の平均粒子径X、及び、保管後の処理液における前記乳化粒子の平均粒子径Yが、以下の式:
1.0≦Y/X≦1.05
を満たすことが好ましい。
【0031】
平均粒子径Xおよび平均粒子径Yが上記式を満たすことにより、処理液を長期保存した場合であっても、乳化粒子の平均粒子径が大きく変化しないため、保存安定性に優れる処理液をより確実に得ることができると考えられる。
【0032】
前記式は、さらに1.0≦Y/X≦1.03であることがより好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、「保管前の処理液」とは、作製直後の処理液であることが好ましいが、特に過酷な環境で保存していない限り、作製後に所定の期間保管した後の処理液であってもよい。
【0034】
(界面活性剤)
本実施形態の処理液は、界面活性剤として、前記界面活性剤は、炭素数が12~14のアルキル基を含む第1界面活性剤と、炭素数が16~18のアルキル基を含む第2界面活性剤とを含有する。このような界面活性剤を含有することによって、前記処理液は吐出安定性を確保することができる。これは、処理液中に炭素数が前記範囲である2種類の界面活性剤を含むことで、処理液中に分散している上述の乳化粒子同士が融合することを抑制し、乳化粒子が必要以上に大きくなることを抑制できるためである。つまり、本実施形態の処理液は、前記界面活性剤を含むことにより、処理液中に分散している乳化粒子のサイズ(平均粒子径)を適切な範囲で維持することができる。
【0035】
界面活性剤として上述のように2種ではなくいずれか一方だけを含む場合には、界面活性剤が乳化粒子を形成するシリコーンオイル表面から離脱してしまうため、乳化粒子の平均粒子径を維持することができない。
【0036】
また、第1界面活性剤が有するアルキル基の炭素数が11以下である場合は、比較的高温域(60℃前後)における、シリコーンオイルからの界面活性剤の遊離が起きやすくなるため、前記温度域における分散安定性を確保するためには第1界面活性剤を増量する必要がある。しかし、第1界面活性剤を増やすとチキソ性が発現するため、第1界面活性剤が有するアルキル基の炭素数は12~14とする。好ましい実施形態では、第1界面活性剤が有するアルキル基の炭素数は12および/または14である。
【0037】
一方、第2界面活性剤が有するアルキル基の炭素数が19以上となると、シリコーンオイルに付着しない(取り込まれない)遊離分が増え、その結果、処理液の粘度が高くなりすぎたり、チキソ性が発現してしまう。よって、第2界面活性剤が有するアルキル基の炭素数は16~18とする。好ましい実施形態では、第2界面活性剤が有するアルキル基の炭素数は16および/または18である。
【0038】
第1界面活性剤としては、炭素数が12~14であるアルキル基を有する界面活性剤であれば特に限定なく使用することができる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用できる。より具体的には、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(C12)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(C13)、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル(C14)等を使用することができる。さらに第1界面活性剤は、炭素数の異なるアルキル基を有する、2つ以上の化合物を含有していてもよい。
【0039】
また、第2界面活性剤としては、炭素数が16~18であるアルキル基を有する界面活性剤であれば特に限定なく使用することができる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用できる。より具体的には、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル(C16)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(C18)等を使用することができる。さらに第2界面活性剤は、炭素数の異なるアルキル基を有する、2つ以上の化合物を含有していてもよい。
【0040】
なお、本実施形態の処理液には、本開示の効果を阻害しない範囲であれば、上記以外の界面活性剤を加えることもできる。
【0041】
本実施形態の処理液において、前記第1界面活性剤の含有量より、前記第2界面活性剤の含有量が少ないことが好ましい。それにより、吐出性および保存安定性により優れる処理液を得ることができると考えられる。さらに捺染用に使用した場合の摩擦堅ろう性、特に湿潤摩擦堅ろう性により優れた捺染物を得ることができると考えられる。
【0042】
さらには、前記第1界面活性剤の含有量及び前記第2界面活性剤の含有量が、以下の式:第2界面活性剤の含有量/(第1界面活性剤の含有量+第2界面活性剤の含有量)=0.15~0.25(質量%)を満たすことが好ましい。第2界面活性剤の含有量が、第1界面活性剤の含有量と第2界面活性剤の合計含有量に対して上記範囲内であれば、吐出性と保存安定性をより確実に得ることができると考えられる。これは、第2界面活性剤の含有量が多くなりすぎると、チキソ性が発現し、吐出性や保存安定性の劣化につながるおそれがあるためである。
【0043】
本実施形態の処理液における、前記第1界面活性剤及び前記第2界面活性剤の合計含有量は、処理液全体に対して、0.5質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。特に、より優れた保存安定性および吐出性を得るためには、処理液全体に対する前記合計含有量の下限値が、1.0質量%以上であることが好ましく、さらには、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、前記合計含有量の上限値は2.5質量%以下であることが好ましく、さらに2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、本実施形態の処理液において、前記第1界面活性剤及び前記第2界面活性剤の合計含有量は、シリコーンオイルの含有量に対して、9.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。特に、より優れた吐出性、及び、捺染用に使用した場合の摩擦堅ろう性を得るという観点からは、シリコーンオイルの含有量に対する前記界面活性剤の合計含有量の下限値が、10.0質量%以上であることが好ましく、さらには、15質量%以上であることがより好ましい。また、前記合計含有量の上限値は35.0質量%以下であることが好ましい。
【0045】
(水性媒体)
本実施形態の処理液に含有される水性媒体は、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水、または水と極性溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体に含有される極性溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、およびメチルエチルケトンが挙げられる。水性媒体における水の含有率は、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。水性媒体の含有率は、処理液の質量に対して、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、55質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
(その他の成分)
本実施形態の処理液には、必要に応じて、さらにポリオールを含有させてもよい。処理液がポリオールを含有することで、処理液の粘度が好適に調整される。ポリオールとしては、ジオールまたはトリオールが好ましい。ジオールとしては、例えば、グリコール化合物が挙げられ、より具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル、およびテトラエチレングリコールが挙げられる。トリオールとしては、例えば、グリセリンが挙げられる。処理液がポリオールを含有する場合、ポリオールの含有率は、処理液の質量に対して、10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
また、処理液には本開示の効果を阻害しない限り、その他の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤等が挙げられる。
【0048】
(処理液の製造方法)
本実施形態の処理液の製造方法は特に限定はされないが、その一例を説明する。例えば、ホモジナイザーを用いて、シリコーンオイルと、界面活性剤と、水性媒体と、必要に応じて添加される成分(例えば、ポリオール等)とを混合して乳化させる。このようにして、水性媒体中に、シリコーンオイルを含有する乳化粒子を分散させて、処理液を得ることができる。
【0049】
(用途)
本実施形態の処理液は、特にインクジェット捺染用に好適に使用できる。多くの布種に対して印刷を可能とする顔料インクを用いる場合、顔料を生地表面に固定する必要がある。生地表面に固定できないと摩擦堅ろう性に劣るという問題がある。
【0050】
本実施形態の処理液を使用することで、前記問題を解消できる。すなわち、本実施形態の処理液によれば、捺染物の作製において、湿潤摩擦および乾燥摩擦に対する堅ろう度を向上させることができるため、産業利用上、非常に有用である。
【0051】
[インクジェット捺染装置]
次に、本実施形態に係るインクジェット捺染装置について説明する。
【0052】
本実施形態に係るインクジェット捺染装置10は、捺染対象物の画像形成領域にインクを吐出する記録ヘッド1と、前記捺染対象物の少なくとも画像形成領域に処理液を吐出する処理ヘッド2と、前記捺染対象物を搬送するための載置台3と、を少なくとも備え、前記処理ヘッドから吐出される処理液が、上述したインクジェット用処理液であることを特徴とする。なお、理解しやすくするために、図1は、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、適宜変更されてもよい。図1は、本実施形態に係るインクジェット捺染装置の一例であるインクジェット捺染装置10の要部を示す側面図である。図1に示すインクジェット捺染装置10は、フラットベッド式のインクジェット捺染装置である。
【0053】
本実施形態に係るインクジェット捺染装置10は、上述した本実施形態の処理液を用いて、捺染対象Pを処理する。本実施形態に係る処理液が用いられるため、インクジェット捺染装置10によれば、湿潤摩擦堅ろう性及び乾燥摩擦堅ろう性等に優れた捺染物を得ることができる。
【0054】
図1に示すインクジェット捺染装置10は、記録ヘッド1と、処理ヘッド2と、載置台3とを備える。記録ヘッド1は、第1記録ヘッド1a、第2記録ヘッド1b、第3記録ヘッド1c、および第4記録ヘッド1dを有する。
【0055】
記録ヘッド1は、捺染対象Pの画像形成領域に、インクを吐出する。記録ヘッド1が有する、第1記録ヘッド1a、第2記録ヘッド1b、第3記録ヘッド1c、および第4記録ヘッド1dは、それぞれ、異なる色のインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、およびブラックインク)を吐出する。記録ヘッド1としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッドおよびサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0056】
処理ヘッド2は、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、後処理のための処理液を吐出する。処理液は、第1実施形態に係る処理液である。処理ヘッド2としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッドおよびサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。本実施形態のインクジェット捺染装置10はさらに、前記処理液を収容する処理液タンク(図示せず)を1つ以上備えていてもよく、その場合、当該処理液タンクから前記処理ヘッド2に処理液が供給される。
【0057】
載置台3には、捺染対象Pが載置される。捺染対象Pにインクおよび処理液が吐出可能なように、載置台3の上方に、記録ヘッド1および処理ヘッド2が配設されている。モーター(不図示)の駆動により、載置台3は、記録ヘッド1から処理ヘッド2に向かう方向(例えば、図1の左方向)に、水平に移動する。載置台3が水平に移動することにより、載置台3上の捺染対象Pが搬送される。
【0058】
捺染対象Pは、織物であってもよいし、編み物であってもよい。捺染対象Pとしては、例えば、綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ポリウレタン生地、およびポリエステル生地が挙げられる。
【0059】
捺染物の作製において、まず、捺染対象Pを載置した載置台3が水平に移動して、記録ヘッド1と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。記録ヘッド1から、捺染対象Pの画像形成領域に、インクが吐出される。このようにして、捺染対象Pの画像形成領域に、インクによって画像が形成される。インクが吐出された後、捺染対象Pを載置した載置台3がさらに水平に移動して、処理ヘッド2と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。処理ヘッド2から、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、処理液が吐出される。このようにして、捺染対象Pの画像形成領域に形成された画像上に、処理液によって処理膜が形成される。
【0060】
処理ヘッド2は、捺染対象Pの画像形成領域のみに処理液を吐出してもよく、捺染対象Pの画像形成領域よりも広い領域に処理液を吐出してもよく、捺染対象Pの全面に処理液を吐出してもよい。処理液の使用量を低減させて捺染物の触感の低下を抑制するために、処理ヘッド2は、捺染対象Pの画像形成領域のみに処理液を吐出することが好ましく、画像形成領域の中でも記録ヘッド1によってインクが吐出された領域のみに処理液を吐出することがより好ましい。処理ヘッド2は処理液を吐出する位置を正確にコントロールできるため、インクが吐出された領域のみに処理液を吐出することが可能となる。処理液を吐出する位置を正確にコントロールするために、処理ヘッド2と、捺染対象Pとの間の距離は、1mm以上5mm以下であることが好ましい。また、効率的に処理液による後処理を進めるために、処理ヘッド2からは、処理液のみが吐出されることが好ましい。
【0061】
処理ヘッド2から捺染対象Pに処理液が吐出された後、捺染対象Pを載置した載置台3がさらに水平に移動して、加熱部(不図示)と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。加熱部が捺染対象Pを加熱することにより、インクおよび処理液が乾燥する。加熱温度は、例えば、120℃以上180℃以下である。加熱時間は、例えば、1分以上10分以下である。加熱により、インクおよび処理液に含まれる揮発成分が蒸発し、捺染対象Pへのインクおよび処理液の固定が促進される。その結果、インクにより画像が形成されかつ処理液により処理された捺染対象Pである、捺染物が作製される。
【0062】
以上、第2実施形態に係るインクジェット捺染装置10について説明した。但し、本開示のインクジェット捺染装置は、上記インクジェット捺染装置10に限定されず、例えば、以下の変形例で示すように変更可能である。
【0063】
第1の変形例に関し、インクジェット捺染装置10は、処理液を吐出する処理ヘッド2の代わりに、処理液を散布するスプレーを備えていてもよい。
【0064】
第2の変形例に関し、処理液による処理は、処理液が貯留されている槽に捺染対象Pを浸漬することにより実施されてもよい。浸漬させる場合、第3実施形態で後述する処理液の吐出量は、処理液の塗布量に相当する。
【0065】
第3の変形例に関し、インクジェット捺染装置10においては載置台3が水平に移動したが、載置台3が固定された状態で、記録ヘッド1および処理ヘッド2が水平に移動してもよい。
【0066】
第4の変形例に関し、捺染対象Pの搬送方向に、載置台3が水平に移動、または記録ヘッド1および処理ヘッド2が水平に移動すると共に、記録ヘッド1および処理ヘッド2が、捺染対象Pの搬送方向と直行する方向に水平に移動してもよい。
【0067】
第5の変形例に関し、記録ヘッド1の個数が1~3個または5個以上であってもよい。
【0068】
第6の変形例に関し、フラットベッド式ではないインクジェット捺染装置であってもよい。記録ヘッド1および処理ヘッド2を備えている限り、インクジェット捺染装置の様式に関わらず、第1実施形態に係る処理液を用いることによる効果を得ることができる。
【0069】
[インクジェット捺染方法]
次に、引き続き図1を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット捺染方法を説明する。本実施形態のインクジェット捺染方法は、上述した処理液を用いて、捺染対象Pの画像形成領域に、画像を形成する方法である。あるいは、本実施形態のインクジェット捺染方法は、上述したインクジェット捺染装置10を用いて、捺染対象Pの画像形成領域に、画像を形成する方法でもある。本実施形態のインクジェット捺染方法は、上述した処理液を用いるため、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を作製できる。さらに、本実施形態の処理液は、処理ヘッドからの吐出性に優れているため、インクジェット捺染方法において、これらの効果を確実に発揮させることができる。
【0070】
本実施形態のインクジェット捺染方法は、インク吐出工程と、処理工程とを含む。インク吐出工程において、捺染対象Pの画像形成領域に、記録ヘッド1からインクを吐出する。処理工程において、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、処理ヘッド2から処理液を吐出する。処理液は、第1実施形態に係る処理液である。処理工程は、インク吐出工程の後に行われる後処理工程であることが好ましい。インクジェット捺染方法は、必要に応じて、加熱工程をさらに含んでいてもよい。
【0071】
インク吐出工程において、捺染対象Pに対するインクの吐出量は、例えば、5g/m以上40g/m以下である。
【0072】
処理工程において、捺染対象Pに対する処理液の吐出量は、例えば、10g/m以上120g/m以下である(塗布する場合も含む)。乾燥摩擦堅ろう度を特に向上させるために、処理液の吐出量は、15g/m以上30g/m以下であることが好ましい。乾燥摩擦堅ろう度に加えて、湿潤摩擦堅ろう度を特に向上させるために、処理液の吐出量は、17g/m以上25g/m以下であることがより好ましい。
【0073】
[インク]
本実施形態の処理液と共にインクジェット記録に用いられるインク、並びに、前記捺染装置又は前記捺染方法で使用されるインクは、特に限定はされないが、例えば、顔料と、水性媒体とを含有するインクを使用できる。インクは、必要に応じて、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種を更に含有してもよい。
【0074】
顔料は、例えば、水性媒体に分散して存在する分散性顔料を使用できる。画像濃度、色相、及び色の安定性に優れたインクを得る観点から、顔料のD50は、30nm以上250nm以下であることが好ましく、70nm以上160nm以下であることがより好ましい。
【0075】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0076】
顔料の含有率は、インク全体の重量に対して、1重量%以上12重量%以下であることが好ましく、1重量%以上7重量%以下であることがより好ましい。顔料の含有率が1重量%以上であることで、形成される記録物の画像濃度を向上できる。また、顔料の含有率が12重量%以下であることで、流動性の高いインクが得られる。
【0077】
特に、本実施形態のインクは、アニオン性の顔料を含有していることが好ましい。それにより、上述した処理液に含まれるカチオン性ポリマーと、アニオン性顔料が、記録対象の表面で電気的に反応凝集を起こすため、インクに含まれる結着樹脂(後述のバインダー樹脂)が記録媒体に浸透することを抑制できる。これは、記録媒体が生地である場合に特に重要であり、結着樹脂が繊維の隙間に浸透し、繊維同士を結着してしまうことを防ぐことができる。それにより、捺染対象の生地の風合い(肌触り等)を高めることができる。
【0078】
アニオン性の顔料としては、具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、フェニルスルホン酸基、フェニルカルボキシル基等のアニオン基を有するアニオン性顔料がより好ましい。
【0079】
本実施形態のインクに含有される水性媒体は、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水、又は水と極性溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体に含有される極性溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、及びメチルエチルケトンが挙げられる。水性媒体における水の含有率は、90重量%以上であることが好ましく、100重量%であることが特に好ましい。水性媒体の含有率は、インク全体の重量に対して、5重量%以上70重量%以下であることが好ましく、40重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。
【0080】
さらに、インクが界面活性剤を含有することで、記録対象に対するインクの濡れ性が向上する。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。インクに含有される界面活性剤は、非イオン界面活性剤であることが好ましい。非イオン界面活性剤は、アセチレングリコール構造を有する界面活性剤であることが好ましく、アセチレンジオールエチレンオキサイド付加物であることがより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上20以下であることが好ましく、6以上16以下であることがより好ましく、7以上10以下であることが更に好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えば、グリフィン法により式「HLB値=20×(親水部の式量の総和)/分子量」から算出される。画像のオフセットを抑制しつつ、画像濃度を向上させるために、界面活性剤の含有率は、インク全体の重量に対して、0.1重量%以上5.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上2.0重量%以下であることがより好ましい。
【0081】
さらに、インクがポリオールを含有することで、インクの粘度が好適に調整される。インクに含有されるポリオールとしては、ジオール又はトリオールが好ましい。ジオールとしては、例えば、グリコール化合物が挙げられ、より具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル、及びテトラエチレングリコールが挙げられる。トリオールとしては、例えば、グリセリンが挙げられる。
【0082】
インクがポリオールを含有する場合、インクの粘度を好適に調整するために、ポリオールの含有率は、インク全体の重量に対して、5以上60重量%以下であることが好ましく、20重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0083】
本実施形態のインクに含まれるバインダー樹脂粒子は、水性媒体中に分散した状態で存在する。バインダー樹脂粒子は、捺染対象と顔料とを結合させるバインダーとして機能する。このため、インクがバインダー樹脂粒子を含有することで、顔料の定着性に優れた捺染物を得ることができる。
【0084】
バインダー樹脂粒子が含有する樹脂としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。バインダー樹脂粒子が含む樹脂としては、ウレタン樹脂が好ましい。バインダー樹脂粒子におけるウレタン樹脂の含有率は、80重量%以上であることが好ましく、100重量%であることがより好ましい。
【0085】
バインダー樹脂の含有率は、インク全体の重量に対して、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。バインダー樹脂粒子の含有率が1重量%以上であると、顔料の定着性に優れた記録対象を得ることができる。一方、バインダー樹脂粒子の含有率が20重量%以下であると、記録対象にインクを安定的に吐出できる。
【0086】
さらに本実施形態のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び防カビ剤等)を更に含有してもよい。
【0087】
本実施形態で使用するインクは、例えば、攪拌機を用いて、顔料と、水性媒体と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子)とを混合することにより製造される。混合時間は、例えば、1分以上30分以下である。
【実施例
【0088】
以下に、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例により何ら限定されるものではない。
【0089】
なお、後述の実施例において各乳化粒子の平均粒子径は、以下に述べる方法によって測定した値である。
【0090】
<乳化粒子の平均粒子径の測定方法>
乳化粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に記載の方法に準拠して測定した。乳化粒子の平均粒子径の測定には、処理液を水で1000倍に希釈した測定試料を用いた。
【0091】
また、本実施例で使用した第1界面活性剤及び第2界面活性剤は以下の通りである。
(第1界面活性剤)
・界面活性剤1(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、アルキル基:C12)
・界面活性剤2(ポリオキシエチレントリデシルエーテル、アルキル基:C13)
・界面活性剤3(ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、アルキル基:C14)
(第2界面活性剤)
・界面活性剤4(ポリオキシエチレンセチルエーテル、アルキル基:C16)
・界面活性剤5(ポリオキシエチレンステアリルエーテル、アルキル基:C18)。
【0092】
(実施例1)
5gの非変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF96-3000cs」、ジメチルポリシロキサン、粘度:3,000mm/s、比重:0.97)、63.37gのイオン交換水、30gのプロピレングリコールおよび1.3gの第1界面活性剤(界面活性剤1:C=12)と0.33gの第2界面活性剤(界面活性剤4:C=16)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、処理液1を得た。処理液1には、非変性シリコーンオイルを含有する乳化粒子が分散していた。前記乳化粒子の平均粒子径(X)は、115nmであった。
【0093】
(実施例2)
10gの非変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF96-3000cs」、ジメチルポリシロキサン、粘度:3,000mm/s、比重:0.97)、58.37gのイオン交換水、30gのプロピレングリコールおよび、1.3gの第1界面活性剤(界面活性剤1:C=12)と0.33gの第2界面活性剤(界面活性剤4:C=16)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、処理液1を得た。処理液2には、非変性シリコーンオイルを含有する乳化粒子が分散していた。前記乳化粒子の平均粒子径(X)は138nmであった。
【0094】
(実施例3~14及び比較例1~3)
非変性シリコーンオイル、第1界面活性剤、及び第2界面活性剤は表1に示す配合量(重量%)に変更し、イオン交換水については、上述した成分と30gのプロピレングリコール(固定)と合わせて100gになるように調整した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3~14及び比較例1~3の処理液(処理液3~17)を得た。得られた各処理液には、非変性シリコーンオイルを含有する乳化粒子が分散していた。各処理液における前記乳化粒子の平均粒子径(X)については後述の表2に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
[評価方法]
<保存安定性>
500mLポリ容器に、各実施例および比較例で得た処理液1~17をそれぞれ400g入れ、60℃のオーブンで30日間、静置させて保管した。30日後、前記オーブン内で保管していたポリ容器を取り出し、処理液が室温まで下がってから、各処理液中の乳化粒子の平均粒子径(Y)の測定、及び、後述する吐出性の試験を行った。
【0097】
<吐出性>
処理液の吐出性の評価は、カメラの映像によってノズルからの1滴ずつの処理液の吐出が確認できる吐出評価機(京セラ株式会社製、「KJ4B」)を使用して実施した。この吐出性については、保管前(処理液作成直後)の処理液と、前記保存安定性にて記載したように30日間保管した後の処理液の両方について評価を行った。
【0098】
当該吐出評価機における条件は以下の通りに設定した。
吐出評価機の条件:
ヘッド温度:32℃
ヘッドからの処理液の吐出量:10g/m
駆動周波数:30kHz
【0099】
吐出性の評価の具体的な方法は、次の通りである。まず、当該吐出評価機を用いて、1つの視野で3つのノズルが見えるようにカメラ位置を調整した。次いで、処理液の吐出を開始し、1分間にわたって、処理液が正常に吐出しているか否かをカメラの映像越しに目視にて確認した。1分経過後、正常に処理液を吐出していたノズル数をカウントした。ここで、正常に処理液を吐出していたノズルとは、正常に処理液を吐出していなかったノズル(真直ぐに処理液を吐出していなかったノズル、処理液を吐出していなかったノズル、処理液が溢れ出していたノズル等)以外のノズルである。さらに、カメラ位置を移動させ、別のノズルを対象として、同様にカメラの映像越しでの1分間における処理液の吐出性の確認を繰り返した。合計全12か所において、合計36個のノズルを確認した。最後に。正常に処理液を吐出していたノズルを合計して、以下の判定基準によって処理液の吐出性を評価した。
(判定基準)
A:36
B:34~35
C:33以下
【0100】
<摩擦堅ろう性>
実施例および比較例で得た処理液を使用して捺染物を作製し、それぞれの捺染物における摩擦堅ろう性(湿潤摩擦堅ろう度および乾燥摩擦堅ろう度)を評価した。
【0101】
(インクの調製)
まず、捺染に使用したインク調製した。攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、125gのイオン交換水、および2gのノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)440」、内容:アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物)を入れた。フラスコの内容物を攪拌しながら、165gのプロピレングリコール、100gの黒色顔料分散液(山陽色素株式会社製「AE2078F」、内容:C.I.Pigment Black 7、固形分濃度:20質量%)、および108gのバインダー樹脂粒子分散液(第一工業製薬株式会社「スーパーフレックス470」、内容:ポリウレタン分散液、固形分濃度:38質量%)を、フラスコ内に順に添加した。フラスコの内容物を10分間攪拌して、インクを得た。
【0102】
(評価用捺染物の作製)
前記インクおよび処理液1~17を用いて、評価用捺染物を作製した。
【0103】
捺染対象として、綿ブロード生地(株式会社色染社製、サイズ:A4サイズ、経糸および緯糸の綿番手:40/1、経糸の密度:130本/インチ、緯糸の密度:75本/インチ、目付:122g/m)を使用した。評価用捺染物の作製には、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製「Colorio(登録商標)PX-045A」)を使用した。第1カートリッジの第1インク室にインクを、第2カートリッジの第2インク室に処理液を充填した。次いで、第1カートリッジおよび第2カートリッジをインクジェットプリンターに装着した。なお、第1インク室に充填されたインクは、インクジェットプリンターの記録ヘッドから吐出され、第2インク室に充填された処理液はインクジェットプリンターの処理ヘッドから吐出される。
【0104】
インクジェットプリンターを用いて、インクの吐出量が20g/mになるように、記録ヘッドから捺染対象にインクを吐出して、インクのソリッド画像を形成した。次いで、インクジェットプリンターを用いて、処理液の吐出量が前述した通り20g/mになるように、処理ヘッドから捺染対象に処理液を吐出した。このようにして、インクのソリッド画像上に、処理液によってソリッド画像と同じサイズの処理膜を形成した。次いで、捺染対象を160℃で3分間加熱して、インクおよび処理液を乾燥させて、評価用捺染物を得た。
【0105】
(摩擦堅ろう度の評価方法)
JIS L-0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に記載の摩擦試験機II形(学振形)法の乾燥試験および湿潤試験に従って、評価用捺染物に形成されたソリッド画像を、摩擦用白綿布を用いて摩擦した。JIS L-0801:2011(染色堅ろう度試験方法通則)の箇条10(染色堅ろう度の判定)に記載の「変退色の判定基準」に準拠し、摩擦後の摩擦用白綿布の着色の程度を評価した。摩擦用白綿布の着色の程度は、9段階(汚染の程度が大きい順番に、1級、1~2級、2級、2~3級、3級、3~4級、4級、4~5級、および5級)で判定した。摩擦堅ろう度は、摩擦用白綿布の着色の程度が小さい(5級に近い)ほど良好である。摩擦試験後の摩擦用白綿布の着色の程度から、下記基準に従って、乾燥摩擦堅ろう度、および湿潤摩擦堅ろう度を評価した。なお、上記乾燥試験の判定結果を、乾燥摩擦堅ろう度とし、上記湿潤試験の判定結果を、湿潤摩擦堅ろう度とした。評価がAおよびBである場合を合格とし、評価がCである場合を不合格とした。判定された摩擦堅ろう度、およびその評価結果を、後の表2にまとめて示す。
【0106】
(乾燥摩擦堅ろう度の評価基準)
評価A:乾燥摩擦堅ろう度が、4級以上である。
評価B:乾燥摩擦堅ろう度が、3~4級である。
評価C:乾燥摩擦堅ろう度が、3級以下である。
【0107】
(湿潤摩擦堅ろう度の評価基準)
評価A:湿潤摩擦堅ろう度が、3級以上である。
評価B:湿潤摩擦堅ろう度が、2~3級である。
評価C:湿潤摩擦堅ろう度が、2級以下である。
【0108】
以上の評価試験の結果を表2にまとめる。
【0109】
【表2】
【0110】
(考察)
表2の結果から、本開示の処理液は、インクジェット吐出性に優れ、捺染用に使用した場合には、得られる捺染物の摩擦堅ろう性にも優れることが確認できた。また、60℃で30日間保管した後でも、処理液中の乳化粒子の平均粒子径にあまり変動がなく、吐出性も劣化しないことも確認された。
【0111】
さらに、実施例11~14の結果を考慮すると、界面活性剤の合計含有量がより好適な範囲であれば、より保存安定性および吐出性に優れる処理液が得られることもわかった。つまり、実施例11~14より、界面活性剤の合計含有量が少ないと吐出性に劣る傾向があり、多いと吐出性の劣化に加えて、湿潤摩擦堅ろう性もやや劣化する傾向があることが示された。また、実施例11~12の結果からは、第2界面活性剤の含有量/(第1界面活性剤+第2界面活性剤の含有量)が所定の範囲内であれば、より保存安定性および吐出性に優れることがわかった。
【0112】
一方、第1界面活性剤しか含んでいない処理液を用いた比較例1では、30日保管後の乳化粒子の平均粒子径が大きくなってしまい、保管後の吐出性が劣化してしまった。つまり、比較例1は保存安定性に劣る結果となった。
【0113】
シリコーンオイルの含有量が少なすぎた比較例2の処理液では、吐出性と、摩擦堅ろう性(特に、湿潤摩擦堅ろう性)に劣る結果となった。シリコーンオイルの含有量が多すぎた比較例3の処理液では、保存安定性、吐出性、摩擦堅ろう性(特に、湿潤摩擦堅ろう性)のいずれにも劣っていた。
【符号の説明】
【0114】
1:記録ヘッド
1a:第1記録ヘッド
1b:第2記録ヘッド
1c:第3記録ヘッド
1d:第4記録ヘッド
2:処理ヘッド
3:載置台
10:インクジェット捺染装置
P:捺染対象
【要約】
本開示の一局面は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、界面活性剤と、水性媒体とを含有するインクジェット用処理液であって、前記シリコーンオイルの含有量が、処理液全体に対して、5質量%以上15質量%以下であり、前記界面活性剤は、炭素数が12~14のアルキル基を含む第1界面活性剤と、炭素数が16~18のアルキル基を含む第2界面活性剤とを含有する、インクジェット用処理液に関する。
図1