(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】プレキャスト板の連結構造及び方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20231208BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20231208BHJP
E04B 1/04 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B5/02 R
E04B1/04 D
(21)【出願番号】P 2019163906
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-100512(JP,A)
【文献】特開2014-201944(JP,A)
【文献】特開2007-032212(JP,A)
【文献】特開2006-112112(JP,A)
【文献】特開平07-090814(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110016980(CN,A)
【文献】特開2000-291286(JP,A)
【文献】特開2004-108137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E04B 5/02
E04B 1/04
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのプレキャスト板を互いに連結してなるプレキャスト板の連結構造において、
前記2つのプレキャスト板を、連結端面に平行でかつ面内方向に延びる軸線を基準軸線として、溝内面が横断面で円弧をなすように形成された充填溝を前記基準軸線の方向に沿って前記連結端面に設けてなるプレキャスト板でそれぞれ構成するとともに、前記各充填溝が対向するように前記2つのプレキャスト板を配置した状態で該各充填溝の溝内空間が互いに一体化してなる円柱状の充填空間に前記溝内面との間で付着応力が実質的にゼロとなるように
かつ前記各充填溝にそれぞれ嵌合されるようにセメント系硬化体を充填配置し
てなり、該セメント系硬化体は、前記2つのプレキャスト板の面外相対移動を拘束可能なシアキーとして機能するとともに、該シアキーの機能と相俟って、前記基準軸線回りの前記2つのプレキャスト板の相対回転変形を許容するピン接合として機能するようになっていることを特徴とするプレキャスト板の連結構造。
【請求項2】
前記2つのプレキャスト板を、前記各連結端面の間にクリアランスが形成される形で、又は前記各連結端面の間に止水性弾性材が配置される形でそれぞれ互いに連結した請求項1記載のプレキャスト板の連結構造。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2記載のプレキャスト板の連結構造を構築するプレキャスト板の連結方法であって、前記2つのプレキャスト板を前記各充填溝が対向するように配置し、前記充填空間にセメント系硬化材を注入充填し、該セメント系硬化材を硬化させて前記セメント系硬化体とすること特徴とするプレキャスト板の連結方法。
【請求項4】
前記セメント系硬化材の注入充填を、前記2つのプレキャスト板のうち、少なくともいずれかのプレキャスト板に前記溝内空間に連通するように設けられた注入孔を介して行う
請求項3記載のプレキャスト板の連結方法。
【請求項5】
前記2つのプレキャスト板を対向配置した後であって前記セメント系硬化材を注入充填する前に、前記各プレキャスト板の表面又は裏面から前記充填空間に向けて貫通形成された鉄筋挿入孔を介して鉄筋をそれぞれ挿入することにより、前記基準軸線に直交する平面に沿った交差状の鉄筋を前記充填空間に配置する
請求項3又は請求項4記載のプレキャスト板の連結方法。
【請求項6】
前記各鉄筋を配置する際、前記鉄筋挿入孔に円筒状の保持部材をそれぞれ挿入し、該各保持部材の中空空間に前記鉄筋をそれぞれ貫通させてそれらの端部を前記保持部材に仮保持させる
請求項5記載のプレキャスト板の連結方法。
【請求項7】
前記交差状の鉄筋を配置した後、前記充填溝の底部近傍に仮固定された鉄筋を前記充填空間の中央に向けて並進移動させることにより、前記基準軸線の方向に延びる鉄筋を前記充填空間に配置する
請求項5又は請求項6記載のプレキャスト板の連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として床版、特に橋梁用床版を連結する際に適用されるプレキャスト板の連結構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路、鉄道、河川、港湾などの社会的経済基盤は、我が国においては、高度経済成長期に集中的に建設されており、その関係で、近年、老朽化が一斉に進行しつつあり、それらの維持管理あるいは更新が急務となっているが、道路や鉄道が敷設された橋梁の上部工においては、床版の損傷が顕著であれば、その架替えが必要になり、上部工が鋼桁の上にRC床版が架け渡されてなる桁の場合、該RC床版を、RC構造やPC構造のプレキャストコンクリート床版(以下、単にプレキャスト床版と呼ぶ)に架け替える対策が広く採用されている。
【0003】
ここで、プレキャスト床版の連結部位を橋軸直交軸線回りの曲げに抵抗させる場合であれば、既存の床版を撤去した後、プレキャスト床版を橋軸方向に沿って並べ、しかる後、連結対象となる2つのプレキャスト床版の対向面からそれぞれ延びる鉄筋が重ね継手として機能するように、該対向面の間に拡がる間詰め空間にコンクリートを打設充填することで、両者を相互連結する工法が数多く採用されている。
【0004】
一方、プレキャスト床版をそれらの連結部位で曲げ抵抗させる必要がない場合には、より簡易な連結構造の採用が可能となり、例えば連結対象となる2つのプレキャスト床版のうち、一方のプレキャスト床版に凸部を、他方のプレキャスト床版に該凸部が嵌合する凹部をそれぞれ設けてシアキーとする構成を採用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-104931号公報
【文献】特開昭60-238549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した連結構造において、荷重が発生してから直ちにシアキーにその機能を発揮させようとすると、凹部と凸部の間の遊びをできるだけ小さくする必要があるため、シアキーの機能を高めようとすればするほど、プレキャスト床版を配置する際、凸部を凹部に嵌合する作業に時間を要するという問題や、嵌合時に凸部に過大な力が作用して破損するおそれがあるという問題、さらには、遊びを小さくしたことで結果として回転変形が許容されずに連結部位に曲げモーメントが生じ、その曲げモーメントでやはり凸部が破損しかねないという問題を生じていた。
【0007】
ちなみに、特許文献1には、円柱状のせん断キー1を介して2つのプレキャスト部材を相互連結する連結構造が開示されているが、かかる連結構造においては、せん断キー1を、鋼管あるいはプラスチック製の管から構成された円筒体1aに繊維強化コンクリート6を充填する必要があるため、その製作に時間や手間がかかるほか、プレキャスト部材同士を正確に連結することはできても、プレキャスト部材同士に相対的な設置誤差が生じている場合、その設置誤差が吸収された状態で両者を連結することはできないため(
図4(b)参照)、橋梁の床版等に適用することは本来的に困難である。
【0008】
また、特許文献1記載の発明は、該文献の段落[0018]に、「突き合わせ時に前記両接合面Pa間にグラウト材4(
図4(d)参照)を充填するための隙間5を所定の寸法で生じさせる管理を、かかるせん断キー1及び凹所2によって実現することができる」と記載されていることからもわかる通り、そもそも回転変形は許容されておらず、回転変形の許容を前提とした本願発明とは直接的な関連はない。その点、コンクリート充填部36を横断面が楕円形になるように形成してなる特許文献2記載の発明も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、施工時の作業性を高めるとともに、回転変形を確実に許容することで曲げモーメントに起因するシアキーの破損を回避しつつ、せん断力伝達の応答性を高めることが可能なプレキャスト板の連結構造及び方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレキャスト板の連結構造は請求項1に記載したように、2つのプレキャスト板を互いに連結してなるプレキャスト板の連結構造において、
前記2つのプレキャスト板を、連結端面に平行でかつ面内方向に延びる軸線を基準軸線として、溝内面が横断面で円弧をなすように形成された充填溝を前記基準軸線の方向に沿って前記連結端面に設けてなるプレキャスト板でそれぞれ構成するとともに、前記各充填溝が対向するように前記2つのプレキャスト板を配置した状態で該各充填溝の溝内空間が互いに一体化してなる円柱状の充填空間に前記溝内面との間で付着応力が実質的にゼロとなるようにかつ前記各充填溝にそれぞれ嵌合されるようにセメント系硬化体を充填配置してなり、該セメント系硬化体は、前記2つのプレキャスト板の面外相対移動を拘束可能なシアキーとして機能するとともに、該シアキーの機能と相俟って、前記基準軸線回りの前記2つのプレキャスト板の相対回転変形を許容するピン接合として機能するようになっているものである。
また、本発明に係るプレキャスト板の連結構造は、前記2つのプレキャスト板を、前記各連結端面の間にクリアランスが形成される形で、又は前記各連結端面の間に止水性弾性材が配置される形でそれぞれ互いに連結したものである。
【0011】
また、本発明に係るプレキャスト板の連結方法は請求項3に記載したように、請求項1又は請求項2記載のプレキャスト板の連結構造を構築するプレキャスト板の連結方法であって、前記2つのプレキャスト板を前記各充填溝が対向するように配置し、前記充填空間にセメント系硬化材を注入充填し、該セメント系硬化材を硬化させて前記セメント系硬化体とするものである。
【0012】
また、本発明に係るプレキャスト板の連結方法は、前記セメント系硬化材の注入充填を、前記2つのプレキャスト板のうち、少なくともいずれかのプレキャスト板に前記溝内空間に連通するように設けられた注入孔を介して行うものである。
【0013】
また、本発明に係るプレキャスト板の連結方法は、前記2つのプレキャスト板を対向配置した後であって前記セメント系硬化材を注入充填する前に、前記各プレキャスト板の表面又は裏面から前記充填空間に向けて貫通形成された鉄筋挿入孔を介して鉄筋をそれぞれ挿入することにより、前記基準軸線に直交する平面に沿った交差状の鉄筋を前記充填空間に配置するものである。
【0014】
また、本発明に係るプレキャスト板の連結方法は、前記各鉄筋を配置する際、前記鉄筋挿入孔に円筒状の保持部材をそれぞれ挿入し、該各保持部材の中空空間に前記鉄筋をそれぞれ貫通させてそれらの端部を前記保持部材に仮保持させるものである。
【0015】
また、本発明に係るプレキャスト板の連結方法は、前記交差状の鉄筋を配置した後、前記充填溝の底部近傍に仮固定された鉄筋を前記充填空間の中央に向けて並進移動させることにより、前記基準軸線の方向に延びる鉄筋を前記充填空間に配置するものである。
【0017】
本発明に係る連結構造に用いるプレキャスト板は、連結端面に平行でかつ面内方向に延びる軸線を基準軸線としたとき、該基準軸線の方向に沿って充填溝を連結端面に設けてあるとともに、該充填溝を溝内面が横断面で円弧をなすように形成してあり、このプレキャスト板でそれぞれ構成された2つのプレキャスト板を相互連結した連結構造においては、各充填溝が対向するように2つのプレキャスト板を配置した上、上記溝内面との間では付着応力が実質的にゼロとなるように、該各充填溝の溝内空間が互いに一体化してなる円柱状の充填空間にセメント系硬化体を充填配置してある。
【0018】
このようにすると、円柱状のセメント系硬化体は、隣り合う2つのプレキャスト板の各充填溝にそれぞれ嵌合される形となるため、2つのプレキャスト板の面外相対移動を拘束可能なシアキーとして機能するとともに、溝内面との間では、境界が横断面で円弧となりかつ該溝内面との付着応力が実質的にゼロとなるように充填配置してあるため、上述のシアキーの機能と相俟って、2つのプレキャスト板の基準軸線回りの相対回転変形を許容するピン接合として機能する。
【0019】
また、円柱状のセメント系硬化体は、プレキャスト板を対向配置させた状態で形成されるため、従来のシアキーのように、プレキャスト板を配置する作業中に破損するといった懸念がなくなるとともに、プレキャスト板との間で実質的に遊びがなくなるので、2つのプレキャスト板の面外相対移動に対し、その開始のタイミングに速やかに反応して上記面外相対移動を遅滞なく拘束する。
【0020】
本発明に係るプレキャスト板の連結構造は、RC構造やPC構造として製作されたプレキャスト板を用いることが可能であり、適用部位としては、床版、特に道路橋に用いられるプレキャスト床版に適用する場合が典型例となるが、どのような部位に適用するのかは任意であって、例えば壁体に用いることも可能である。
【0021】
2つのプレキャスト板は、基準軸線回りの相対回転変形が許容されるように、それらの連結端面を離間させておく。
【0022】
ここで、セメント系硬化体は、2つのプレキャスト板が初期状態から回転を始めようとしたときに、充填溝の開口縁部とぶつかって回転が阻害されないように構成する必要があり、それゆえ、セメント系硬化体をその横断面が円形となるように形成した構成が典型例となる。
【0023】
この場合、2つのプレキャスト板は、セメント系硬化体の円心を通る材軸回りに回転可能な状態となるが、2つのプレキャスト板が離間配置されている関係上、各充填溝の横断面形状は、厳密には半円ではなく、中心角が180゜未満の円弧とそれらの端点を結ぶ弦で囲まれた形状、つまり弓形となる。
【0024】
一方、上述の例では、2つのプレキャスト板がセメント系硬化体の材軸を共通の回転中心として回転することになるが、本発明においては、2つのプレキャスト板が同一の回転軸線で回転する必要はないのであって、2つの円をそれらの円心がずれるように重ねた横断面としてもかまわない。
【0025】
なお、この構成だと、セメント系硬化体が、例えば互いに対称な半円の間に長方形を挟み込んだ、いわばトラック競技の平面形をした横断面形状の場合、セメント系硬化体と充填溝の開口縁部とが干渉してプレキャスト板の相互回転が阻害される場合があるが、この場合においては、2つのプレキャスト板の離間領域に相当する部分を例えば溝状に切り欠いた横断面形状とすればよい。
【0026】
上述したプレキャスト板の連結構造を構築するには、まず、上記2つのプレキャスト板を各充填溝が対向するように配置し、次いで、充填空間にセメント系硬化材を注入充填した後、該セメント系硬化材を硬化させてセメント系硬化体とすればよい。
【0027】
セメント系硬化材は、公知のグラウト材から適宜選択すればよい。
【0028】
セメント系硬化材は、上記充填空間に注入充填される限り、どのように注入充填するかは任意であるが、2つのプレキャスト板の間には、後述するようにクリアランスの形成が必要であって、セメント系硬化材の注入充填の際には、かかるクリアランスを介してセメント系硬化材が外に流出せず、該クリアランスに流入することもなきよう、適切な措置を講じる必要がある。
【0029】
そのため、セメント系硬化材の注入充填を上記クリアランスを介して行うようにしてもかまわないが、2つのプレキャスト板のうち、少なくともいずれかのプレキャスト板に溝内空間に連通するように設けられた注入孔を介して行うようにすれば、上記措置を講じる作業との干渉を回避することが可能となり、全体の作業効率を高めることが可能となる。
【0030】
注入孔は、プレキャスト板の表面又は裏面、プレキャスト板が床版であれば、設置状態で上となる面から溝内空間に貫通形成する構成が典型例となる。
【0031】
セメント系硬化体を補強材が埋設されたものとするかどうかは任意であって、繊維を混入した構成が排除されるものではないが、注入孔を介した圧入となるため、鉄筋補強とするのが望ましい。
【0032】
具体的には、2つのプレキャスト板を対向配置した後であってセメント系硬化材を注入充填する前に、各プレキャスト板の表面又は裏面から充填空間に向けて貫通形成された鉄筋挿入孔を介して鉄筋をそれぞれ挿入することにより、上記基準軸線に直交する平面に沿った交差状の鉄筋を充填空間に配置する構成を採用することができる。
【0033】
また、交差状の鉄筋を配置した後、充填溝の底部近傍に仮固定された鉄筋を充填空間の中央に向けて並進移動させることにより、上記基準軸線の方向に延びる鉄筋を充填空間に配置する構成を採用することで、より強固なセメント系硬化体を構築することができる。
【0034】
セメント系硬化材の注入充填工程においては、2つのプレキャスト板の基準軸線回りの相対回転変形が許容されるように該プレキャスト板を対向配置させている関係上、それらの連結端面の間には、充填空間に連通する形でクリアランスが形成されており、かかるクリアランスにセメント系硬化材が流入しないようにする必要がある。
【0035】
ここで、クリアランス全体、又は少なくとも充填空間との境界近傍部分に適当な詰め物をし、かかる状態でセメント系硬化材を注入充填した後、セメント系硬化材の硬化を待って詰め物を除去するようにしてもよいが、セメント系硬化材を注入充填する前に、該クリアランスに止水性弾性材を配置するようにすれば、クリアランスへのセメント系硬化材の流入が防止されるとともに、セメント系硬化体として硬化した後も、止水性弾性材の変形性能が発揮されるので、2つのプレキャスト板の相対回転変形が阻害されるおそれはなく、ゆえにセメント系硬化材が硬化した後に除去する手間を省くことができる。
【0036】
加えて、止水性弾性材を残置することにより、クリアランスへの異物混入が防止されるため、例えば道路の床版として用いる場合には、砂、石といった異物によって2つのプレキャスト板の相対回転変形が阻害されるおそれがなくなる。
【0037】
止水性弾性材は、ゴム系ブロックで構成されたものを、2つのプレキャスト板のうち、一方のプレキャスト板の連結端面に予め貼着しておき、2つのプレキャスト板を対向配置する際、貼着側とは反対の側を他方のプレキャスト板の連結端面に当接させる形で配置してもよいし、2つのプレキャスト板を対向配置した後、クリアランスに弾性シーリング剤を充填する形で配置してもよい。
【0038】
なお、止水性弾性材を前者のように構成すれば、2つのプレキャスト板を対向配置する際、緩衝材としての機能が発揮され、衝突によるプレキャスト板の破損を未然に防止することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】プレキャスト床版1,1を本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104を用いて互いに連結することで橋梁の床版101を構築した様子を示した図であり、(a)は全体配置図、(b)は-A-A線方向に沿った断面図。
【
図2】プレキャスト床版1を示した図であり、(a)は詳細断面図、(b)はB-B線方向から見た矢視図。
【
図3】プレキャスト板の連結構造104を示した図であり、(a)は断面図、(b)は詳細断面図、(c)は分解斜視図。
【
図4】本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104の作用を示した説明図。
【
図5】本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104の構築手順を示した図。
【
図6】変形例に係るプレキャスト板の連結構造を示した断面図。
【
図7】別の変形例に係るプレキャスト板の連結構造とその構築手順を示した図。
【
図8】さらに別の変形例に係るプレキャスト板の連結構造を示した断面図。
【
図9】さらに別の変形例に係るプレキャスト板の連結方法における構築手順を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係るプレキャスト板の連結構造及び方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0041】
図1は、プレキャスト板としてのプレキャスト床版1を、プレキャスト板の連結構造104を用いて互いに連結することで橋梁の床版101を構築した様子を示した図であり、(a)は全体配置図、(b)は-A-A線方向に沿った断面図である。
【0042】
同図に示すように、床版101は、複数のプレキャスト床版1を橋梁の主桁102に架け渡す形で橋軸方向に沿って並設するとともに、該プレキャスト床版のうち、互いに隣り合うプレキャスト床版1,1をプレキャスト板の連結構造104を用いて互いに連結して構成してある。
【0043】
プレキャスト床版1は
図2に示すように、各連結端面21a,21bに平行でかつ面内方向に延びる軸線、同図(a)では紙面直交方向、同図(b)では上下方向にそれぞれ延びる軸線を基準軸線としたとき、該基準軸線の方向に沿って充填溝22a,22bを連結端面21a,21bにそれぞれ設けて構成してある。
【0044】
充填溝22a,22bは、横断面で円弧をなすように形成された溝内面23a,23bをそれぞれ有し、該各溝内面に取り囲まれる形で、それぞれ溝内空間24a,24bが形成されている。
【0045】
ここで、プレキャスト床版1には、設置状態で上面となる側と溝内空間24aとを互いに連通させる形で、グラウトを注入するための注入孔25を貫通形成してある。
【0046】
図3は、プレキャスト床版1,1を連結してなるプレキャスト板の連結構造104を示したものである。
【0047】
同図(a)でわかるように、本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104は、プレキャスト床版1,1の充填溝22a,22bが対向するようにそれらを配置した状態で、該各充填溝の溝内空間が互いに一体化してなる円柱状の充填空間31に溝内面23a,23bとの間で付着応力が実質的にゼロとなるようにセメント系硬化体32を充填配置して構成してある。
【0048】
また、プレキャスト床版1,1の連結端面21a,21bの間には、止水性弾性材としてのゴム系ブロック33を配置してある。
【0049】
ここで、プレキャスト床版1,1は同図(b)に示すように、充填溝22a,22bに形成された溝内面23a,23bの円弧がそれぞれ半径Rであってそれらの中心が共通となるように配置してあるので、セメント系硬化体32も、それらの共通軸線を材軸34とした円柱状形態として構築される。
【0050】
なお、本実施形態では、ゴム系ブロック33の横断面を矩形としたので、セメント系硬化体32のうち、ゴム系ブロック33と境界をなす部分、言い換えれば、連結端面21a,21bの間については、横断面が円弧ではなく直線となり、セメント系硬化体32の全体形状も同図(c)の分解斜視図に示すように、厳密には円柱形態とはならない。また、溝内面23a,23bの各横断面についても、厳密には半円ではなく、中心角が180゜よりもわずかに小さな円弧とそれらの端点を結ぶ弦で囲まれた形状、つまり弓形となる。
【0051】
本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造に用いるプレキャスト床版1は、その連結端面21a,21bに上述した基準軸線の方向に沿って充填溝22a,22bを設けてあるとともに、該充填溝を溝内面23a,23bが横断面で円弧をなすように形成してあり、プレキャスト床版1,1を相互に連結してなる連結構造104においては、各充填溝22a,22bが対向するように2つのプレキャスト床版1,1を配置した上、上記溝内面23a,23bとの間では付着応力が実質的にゼロとなるように、該各充填溝の溝内空間24a,24bが互いに一体化してなる円柱状の充填空間31にセメント系硬化体32を充填配置してある。
【0052】
このようにすると、円柱状のセメント系硬化体32は、隣り合う2つのプレキャスト床版1,1の各充填溝22a,22bにそれぞれ嵌合される形となるため、
図4に示すように、2つのプレキャスト床版1,1の面外相対移動(同図直線矢印方向に沿った移動)を拘束可能なシアキーとして機能するとともに、溝内面23a,23bとの間では、境界が横断面で円弧となりかつ該溝内面との付着応力が実質的にゼロとなるように充填配置してあるため、上述のシアキーの機能と相俟って、2つのプレキャスト床版1,1の基準軸線回り(同図曲線矢印回り)の相対回転変形を許容するピン接合として機能する。
【0053】
本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104を構築するには、1日目の夜、例えば午後8時頃から夜間通行止めとして既存の床版を撤去した後、まず、
図5(a)に示すように、プレキャスト床版1,1の充填溝22a,22bが対向するようにそれらを配置する。
【0054】
プレキャスト床版1,1を対向配置するにあたっては、連結端面21a,21bのうち、いずれか一方にゴム系ブロック33を予め貼着しておき、吊り降ろしの際、貼着側とは反対の側が他方の連結端面に当接するようにすればよい。
【0055】
次に、
図5(b)に示すように、プレキャスト床版1,1を跨ぐ形でそれらの上にアスファルト51を敷設し、この状態で2日目朝から道路として一時的に供用する。
【0056】
なお、プレキャスト床版1と既存の床版の設置天端高さが同じである場合には、ここまでの作業を2日に分けてもかまわない。
【0057】
すなわち、隣り合う既存床版のうち、一方の既存床版とプレキャスト床版1とをまずは入れ替えた後、それらを跨ぐようにアスファルトを敷設して1日目の作業を終え、この状態で一時供用した後、2日目の夜にアスファルトをいったん剥がして残りの既存床版ともう一方のプレキャスト床版1とを入れ替えてから、再度アスファルトを敷設して
図5(b)の状態にしてもかまわない。
【0058】
図5(b)の状態で一時供用した後、その夜に再び夜間通行止めとした上、アスファルト51を一時撤去する。
【0059】
次に、プレキャスト床版1,1の間には、充填溝22a,22bの溝内空間24a,24bが互いに一体化してなる円柱状の充填空間31が形成されているので、この充填空間31に
図5(c)に示すように、注入孔25を介してセメント系硬化材としてのグラウト材52を注入充填する。
【0060】
グラウト材52を注入充填するにあたっては、充填空間31内の空気圧によって注入作業に支障が出ないよう、図示しないエア抜き孔から適宜空気を抜きながら行う。エア抜き孔は、ゴム系ブロック33に埋設しあるいは挟み込む形で連結端面21a,21bにチューブを配置して構成することが可能である。
【0061】
グラウト材52は、溝内面23a,23bとの付着応力が実質的にゼロとなるようにする必要があるが、溝内面23a,23bを凹凸がないよう平滑に構成しておけば、車両振動など供用後に作用する外力によって溝内面23a,23bにおける付着応力を実質ゼロにすることができる。
【0062】
なお、必要であれば、グラウト注入に先立ち、例えばプレキャスト床版1,1を対向配置する前に、溝内面23a,23bに撥水剤や剥離剤を適宜塗布しておけばよい。
【0063】
次に、グラウト材52の充填作業終了を待ってから、
図5(d)に示すように、プレキャスト床版1,1を跨ぐようにアスファルト51を再敷設するとともに、3日目あるいは4日目の朝、通行止めを解除して道路供用を開始する。
【0064】
一方、グラウト材52の充填作業終了後は、グラウト材52がセメント系硬化体32として硬化することで、プレキャスト板の連結構造104の構築が完了する。グラウト材52は、打設後、供用が開始されるまでに強度が発現するよう、材料や配合を選択調製する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104によれば、円柱状のセメント系硬化体32が、隣り合う2つのプレキャスト床版1,1の各充填溝22a,22bにそれぞれ嵌合される形となるため、
図4で説明したように、それらの面外相対移動を拘束可能なシアキーとして機能するとともに、溝内面23a,23bとの間では、境界が横断面で円弧となりかつ該溝内面との付着応力が実質的にゼロとなるように充填配置してあるため、上述のシアキーの機能と相俟って、2つのプレキャスト床版1,1の基準軸線回りの相対回転変形を許容するピン接合として機能する。
【0066】
また、本実施形態に係るプレキャスト板の連結構造104によれば、プレキャスト床版1,1の連結端面21a,21bの間にゴム系ブロック33を配置するようにしたので、その変形性能によってプレキャスト床版1,1の相対回転変形が許容されつつ、連結端面21a,21bの間のクリアランスに砂、石といった異物が混入してプレキャスト床版1,1の相対回転変形が阻害されるのを未然に防止することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態に係るプレキャスト板の連結方法によれば、セメント系硬化体32は、プレキャスト床版1,1を対向配置させた状態で後打ちで形成されるため、従来のシアキーのように、プレキャスト板を配置する作業中に破損するといった懸念がなくなるとともに、プレキャスト板との間で実質的に遊びがなくなるので、2つのプレキャスト床版1,1の面外相対移動に対し、その開始のタイミングに速やかに反応して上記面外相対移動を遅滞なく拘束する。
【0068】
また、本実施形態に係るプレキャスト板の連結方法によれば、グラウト材52を注入充填する前に、プレキャスト床版1,1の連結端面21a,21bの間にゴム系ブロック33を配置するようにしたので、連結端面21a,21bの間に拡がるクリアランスにグラウト材52が流入するのを防止することができるとともに、セメント系硬化体32として硬化した後も、その変形性能が発揮されるので、プレキャスト床版1,1の相対回転変形が阻害されるおそれもなく、それゆえ、グラウト材52が硬化した後にゴム系ブロック33を除去する手間を省くことができる。
【0069】
本実施形態では、アスファルトをいったん剥がしてから、グラウト材52の注入充填を行うようにしたが、注入孔25に連通する注入管や充填空間31に連通するエア抜き管をアスファルトを貫通する形で設置した上でアスファルトを敷設するようにすれば、グラウト材52を注入充填する際にアスファルトを一時的に剥がす必要がなくなる。
【0070】
また、本実施形態では、本発明に係るプレキャスト板の連結構造を、道路橋に用いられるプレキャスト床版1,1を連結する際に適用するものとして説明したが、本発明をどのような部位に適用するのかは任意であって、例えば壁体に用いることも可能である。
【0071】
また、本実施形態では、ゴム系ブロック33をプレキャスト床版1の連結端面21a又は連結端面21bに予め貼着しておくようにしたが、ゴム系ブロック33とプレキャスト床版1とが干渉して吊り降ろし作業に支障が生じるようであれば、プレキャスト床版1,1を対向配置した後、連結端面21a,21bの間に拡がるクリアランスに弾性シーリング剤を充填する形で、本発明の止水性弾性材を配置してもよい。
【0072】
また、本実施形態では、プレキャスト床版1,1の充填溝22a,22bに形成された溝内面23a,23bの横断面が、共通の材軸34を中心とした円弧となるように該プレキャスト床版を配置したが、これに代えて、
図6に示すように、溝内面23a,23bの横断面がそれぞれ、互いに異なる2つの材軸61a,61bを中心とした円弧となるようにプレキャスト床版1,1を配置するようにしてもかまわない。
【0073】
この場合、充填溝22a,22bの溝内空間24a,24bが互いに一体化してなる充填空間64の横断面形状、あるいは該充填空間に注入充填されたグラウト材52が硬化してなるセメント系硬化体62の横断面形状は、同図に示すように、互いに対称な半円の間に長方形を挟み込んだ、いわばトラック競技の平面形をした形状となるが、セメント系硬化体62と充填溝22a,22bの開口縁部とが干渉してプレキャスト床版1,1の相互回転が阻害されるおそれがあるため、2つのプレキャスト床版1,1の離間領域に相当する部分については、同図のように溝状に切り欠いておくのが望ましい。
【0074】
かかる溝状切り欠きは、止水性弾性材としてのゴム系ブロック63を、連結端面21a,21bの離間距離に合わせて、ゴム系ブロック33より幅広とした上、その奥行を連結端面21a,21bの奥行よりも深めに調整し、その状態でグラウト材52を注入充填することで形成が可能である。
【0075】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、必要であれば、セメント系硬化体32を鉄筋補強することが可能である。
【0076】
図7は、セメント系硬化体32を鉄筋補強する場合の手順を示したものであり、まず、上記実施形態と同様にして、既存の床版を撤去するとともに、
図7(a)に示すように、プレキャスト床版1,1の充填溝22a,22bが対向するようにそれらを配置する。
【0077】
次に、
図7(b)に示すように、プレキャスト床版1,1を跨ぐ形でそれらの上にアスファルト51を敷設し、この状態でその日の朝から道路として一時的に供用する。
【0078】
一時供用後、再び夜間通行止めとした上、アスファルト51を一時撤去し、次いで、
図7(c)に示すように鉄筋73a,73bを基準軸線に直交する平面に沿った形で充填空間31に交差状に配置する。
【0079】
鉄筋73a,73bを配置するにあたっては、円筒状の保持部材72a,72bを別途準備した上、該各保持部材の中空部分に鉄筋73a,73bをそれぞれ差し込んで両者の基端側を揃え、次いで、保持部材72a,72bに差し込まれた鉄筋73a,73bを、プレキャスト床版1,1の上面から充填空間31に向けて貫通形成された鉄筋挿入孔71a,71bに挿入する。
【0080】
このようにすると、保持部材72a,72bの外径を鉄筋挿入孔71a,71bの内径と概ね一致させるとともに、保持部材72a,72bの中空空間に差し込んだ鉄筋73a,73bが該中空空間から抜け落ちないように構成しておくことで、鉄筋73a,73bは、保持部材72a,72bを介して鉄筋挿入孔71a,71bにそれぞれ固定され、交差状の姿勢で充填空間31に仮保持される。
【0081】
次に、
図7(d)に示すように、プレキャスト床版1,1を跨ぐ形でそれらの上にアスファルト51を再度敷設し、この状態で3日目あるいは4日目朝から道路として一時的に供用する。
【0082】
次に、夜に再び夜間通行止めとした上、アスファルト51を一時撤去し、次いで、
図7(e)に示すように、上記実施形態と同様にして注入孔25を介してグラウト材52を注入充填する。
【0083】
次に、グラウト材52の充填作業終了を待ってから、
図7(f)に示すように、プレキャスト床版1,1を跨ぐようにアスファルト51を再敷設するとともに、4日目あるいは5日目の朝、通行止めを解除して道路供用を開始する。
【0084】
一方、グラウト材52の充填作業終了後は、グラウト材52がセメント系硬化体32として硬化することで、プレキャスト板の連結構造の構築が完了する。
【0085】
なお、かかる変形例において、基準軸線に直交する平面に沿った交差状の鉄筋73a,73bに加え、基準軸線方向に延びる鉄筋81を充填空間31に配置する場合には、プレキャスト床版1,1を対向配置する前に、いずれかの充填溝、例えば充填溝22bの底部近傍に鉄筋81を予め退避させておき、この状態でプレキャスト床版1,1を対向配置するとともに、交差状の鉄筋73a,73bを配置した後、
図8に示すように、鉄筋81を、吊り棒82を用いて充填空間31の中央に向けて並進移動させるようにすればよい。
【0086】
また、本実施形態では、グラウトを注入するための注入孔25をプレキャスト床版1に貫通形成しておき、該注入孔を介してグラウト材52を充填空間31に注入充填するようにしたが、これに代えて、
図9に示すように、連結端面21a,21bの間に拡がるクリアランスを介して、グラウト材52を充填空間31に注入充填する構成を採用することができる。
【0087】
具体的には、ゴム系ブロック33を必要に応じて適宜切除した上、上記クリアランスに2本のパイプを挿通し、そのうち、一方のパイプを介して空気を抜きつつ、他方のパイプからグラウト材52を注入するようにすればよい。なお、グラウト材52を注入する方のパイプについては、連結端面21a,21bのうち、上面側ではなく、下面側に配置することも可能であり、この場合には、グラウト材52を下方から圧入することになる。
【符号の説明】
【0088】
1 プレキャスト床版(プレキャスト板)
21a,21b 連結端面
22a,22b 充填溝
23a,23b 溝内面
24a,24b 溝内空間
25 注入孔
31,64 充填空間
32,62 セメント系硬化体
33,63 ゴム系ブロック(止水性弾性材)
52 グラウト材(セメント系硬化材)
71a,71b 鉄筋挿入孔
72a,72b 保持部材
73a,73b 鉄筋
81 鉄筋
104 プレキャスト板の連結構造