(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】建物の柱梁接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/21 20060101AFI20231208BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
E04B1/21 B
E04B1/58 508A
(21)【出願番号】P 2019189942
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤生 直人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健生
(72)【発明者】
【氏名】叶 健佑
(72)【発明者】
【氏名】原田 太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 航一
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-104854(JP,A)
【文献】特開2005-240286(JP,A)
【文献】特開昭64-017947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20-1/21
E04B 1/58
E04G 21/14-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート(PCa)製の柱部材と、仕口部に接合されるPCa製の梁部材とによって構成される柱梁架構
を有した建物における柱梁接合方法であって、
前記建物は、
柱部材と梁部材とを用いて構成された柱梁架構を備え、終端列の構築前の第1構造体
と、
前記終端列を構成する列状構造体とを有し、
前記列状構造体は、仕口部を有する柱部材の複数と、複数の前記仕口部に接合され前記終端列を構成する梁部材とを備え、
前記列状構造体の複数の仕口部にそれぞれ接続される前記第1構造体の前記梁部材の複数の端面を露出した状態で
、前記第1構造体を形成し、
前記列状構造体の柱部材の下層階の柱部材の上に
、前記列状構造体の柱部材を載置し
、
前記載置された状態の前記列状構造体
を、前記列状構造体から前記第1構造体の前記端面に向かう第1水平方向に
、側方から押すこと及び引っ張ることの少なくとも一方によってスライドさせ
ることにより、前記第1構造体の複数の前記端面に、前記列状構造体の仕口部を同時期に接合することを特徴とする建物の柱梁接合方法。
【請求項2】
前記
列状構造体の前記仕口部を
有する柱部材の下面、又は前記
列状構造体の前記仕口部を
有する柱部材が載置される下階層の
柱部材の上面には、離間した複数の係合部が突出して形成され、
前記係合部に引っ掛けた掛止部材に対して相対移動可能な押圧部材によって、前記列状構造体を前記第1水平方向にスライドさせることを特徴とする請求項1に記載の建物の柱梁接合方法。
【請求項3】
前記
列状構造体の前記仕口部を
有する柱部材の下面と、前記
列状構造体の前記仕口部を
有する柱部材が載置される下階層の
柱部材の上面との間に滑り部材を配置したことを特徴とする請求項2に記載の建物の柱梁接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリートで構成された柱部材及び梁部材を備えた建物の柱梁接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物を構築する場合に、現場におけるコンクリート打設を低減するために、予め工場で製造したプレキャストコンクリートの柱部材及び梁部材を用いることがある(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載の柱梁接合構造体においては、PCa(プレキャストコンクリート)製柱の柱仕口部には水平方向に貫通孔を形成し、大梁の長手方向の一方側端面から梁用接続鉄筋を突出させ、他方側端面の内方には複数の梁用スリーブを設置する。更に、大梁の梁用接続鉄筋を、PCa製柱の柱仕口部の貫通孔に貫通させて、設置済みの隣の大梁の梁用スリーブに挿入することにより、大梁同士を、柱仕口部を介して接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、プレキャストコンクリート(PCa)製の柱部材及び梁部材を用いて構築する建物において、最後に配置する仕口部や仕口部を含む柱部材は、直線状にない2方向で他の部材と鉄筋で接合する必要がある。このため、最後の部材を、一方向にスライドさせて配置することができず、現場でコンクリート打設により形成されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための建物の柱梁接合方法は、プレキャストコンクリート(PCa)製の柱部材と、仕口部に接合されるPCa製の梁部材とによって構成される柱梁架構を有した建物における柱梁接合方法であって、前記建物は、柱部材と梁部材とを用いて構成された柱梁架構を備え、終端列の構築前の第1構造体と、前記終端列を構成する列状構造体とを有し、前記列状構造体は、仕口部を有する柱部材の複数と、複数の前記仕口部に接合され前記終端列を構成する梁部材とを備え、前記列状構造体の複数の仕口部にそれぞれ接続される前記第1構造体の前記梁部材の複数の端面を露出した状態で、前記第1構造体を形成し、前記列状構造体の柱部材の下層階の柱部材の上に、前記列状構造体の柱部材を載置し、前記載置された状態の前記列状構造体を、前記列状構造体から前記第1構造体の前記端面に向かう第1水平方向に、側方から押すこと及び引っ張ることの少なくとも一方によってスライドさせることにより、前記第1構造体の複数の前記端面に、前記列状構造体の仕口部を同時期に接合する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、現場におけるコンクリート打設を抑制して建物を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態における柱梁接合構造を説明する斜視図。
【
図2】実施形態における柱梁接合構造を構成する柱部材の斜視図であって、(a)は角に配置される柱部材、(b)は角以外の側部に配置される柱部材、(c)は列状構造体の角に配置される柱部材。
【
図3】実施形態における柱梁接合構造を構成する梁部材の斜視図であって、(a)は柱部材に接合される梁部材、(b)は柱部材を貫通して梁部材に接合される梁部材。
【
図4】実施形態における第1構造体の形成方法を説明する側面図であって、(a)は端の柱部材に梁部材を接合する状態、(b)は柱部材を接合する状態、(c)は(b)の柱部材に梁部材を接合する状態を示す。
【
図5】実施形態における第1構造体の形成方法を説明する平面図であって、(a)は端の柱部材に梁部材を接合する状態、(b)は柱部材を接合する状態、(c)は(b)の柱部材に梁部材を接合する状態、(d)は端部の柱部材を接合する状態、(e)は更に梁部材を接合した状態、(f)は第1構造体の最後の梁部材を接合する状態、(g)は第1構造体が完成した状態を示す。
【
図6】実施形態における列状構造体の形成方法を説明する説明図であって、(a)は端の柱部材に梁部材を接合する状態、(b)は柱部材を接合する状態、(c)は端部の柱部材を梁部材に接合した状態を示す。
【
図7】実施形態における列状構造体をスライドさせる際の説明図であって、(a)は平面図、(b)は要部の側面図。
【
図8】実施形態における列状構造体のスライド時に用いる押圧治具の配置の説明図であって、(a)は要部の拡大側面図、(b)は上の階層の柱部材及び梁部材を除いた状態の平面図。
【
図9】変更例における柱梁接合構造の説明図であって、(a)は円弧形状を有した列状構造体を備える構造、(b)は斜め一列に配置された列状構造体を備える構造、(c)は複数の列状構造体を備える構造を示す。
【
図10】変更例において引っ張ることにより列状構造体をスライドさせるための押圧治具の配置の説明図であって、(a)は要部の拡大側面図、(b)は上の柱部材を除いた状態の平面図。
【
図11】変更例における柱梁接合構造の要部の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図8を用いて、建物の柱梁接合方
法を具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、柱梁接合構造10は、複数の柱11,12,13と、柱間に配置された複数の梁部材20a,20b,20c,20d,20eとから構成される。なお、以下の説明において、同一の構造を有する部分については、同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。本実施形態では、各柱11,12,13として断面が四角形状の直方体を用いる。
【0010】
柱11は、建物の角に配置され、直交する2面に梁部材20a~20eが接合する。柱12は、角以外の建物の側部に配置され、3面に梁部材20a~20eが接合する。柱13は、建物の中央に配置され、4面に梁部材20a~20cが接合する。
【0011】
各柱11,12,13は、それぞれ、直方体形状のプレキャストコンクリート(PCa)製の柱部材11a,11b,12a,12b,13a,13b,14a,14b,14c,14d,14eを積み重ねることにより構成される。
【0012】
柱梁接合構造10を構成する各階層は、第1構造体10aと、列状構造体10bとを組み合わせて構成される。列状構造体10bは、柱部材14c,14d,14e及び梁部材20d,20eから構成されており、1階層の終端列において梁部材及び仕口部が1列に並ぶ。なお、柱部材11a,12a,13a,14a,14bは、第1構造体10a及び列状構造体10bの階層の直下の階層を構成する柱部材である。
【0013】
第1構造体10aは、列状構造体10bの構築前に構築された部分である。この第1構造体10aは、柱部材11b,12b,13bと、柱部材11b,12b,13b間に配置された梁部材20a,20bと、一方の仕口面が露出する梁部材20cとを含む。梁部材20cは、柱部材12b,13bと列状構造体10bの柱部材14c~14eとの間に配置される。
【0014】
一方、列状構造体10bは、両角の柱11を構成する柱部材14c,14eと、柱11間の柱12を構成する柱部材14dと、これらの間に配置された梁部材20d,20eとを備える。なお、柱部材14a,14bは、列状構造体10bの直下の階層で角及び側部に配置される。
【0015】
(柱部材11a~14eの構成)
本実施形態では、各柱部材11a~14eの下端部には、仕口部が一体形成される。更に、各柱部材11a~14eの上面には、各角の近傍に、レベル調整ボルト(図示せず)の頭部が突出して設けられている。このレベル調整ボルトによって、上階の柱部材の傾きが調整され、上階の柱部材と下階の柱部材との間に隙間が生じる。
【0016】
建物の角に配置される柱部材11a,11bは同じ構造である。ここでは、第1構造体10aを構成する柱部材11bの構造について説明する。
図2(a)に示すように、柱部材11bの上端部には、複数の機械式継手15が、垂直方向(軸方向)に延在して埋設されている。これら機械式継手15は、柱部材11bに内蔵された柱主筋に接続されており、柱部材11bの上方に配置される柱部材の鉄筋に接合される。柱部材11bの柱主筋16は、柱部材11bの下面から突出し、下方に配置される柱部材11aの機械式継手15と接合される。
【0017】
更に、柱部材11bの下端部には、仕口部J1が形成されている。仕口部J1における隣接する2つの側面部には、複数の機械式継手17が埋設される。これら機械式継手17は、接合する梁の延在方向に対応した2面に、交差しないように異なる高さで配置される。
【0018】
また、建物の側部の柱12を構成する柱部材12a,12bは同じ構造であり、柱部材11bと、仕口部の構造のみが異なる。ここでは、柱部材12bの構造を説明する。
図2(b)に示すように、柱部材12bの下端部の仕口部J2には、水平方向に延在する複数の機械式継手17と複数の貫通孔18とが形成されている。機械式継手17は、一側面側に設けられる。貫通孔18は、機械式継手17に対して直交する方向に延在して、両側面に開口している。なお、機械式継手17と貫通孔18とは、交差しないように異なる高さで配置される。また、貫通孔18は、貫通する梁主筋の先端が固定される梁部材20a~20eの機械式継手17と整合する高さに配置される。
【0019】
更に、建物の中央に配置される柱部材13a,13bは、それぞれ同じ構造を有する。この柱部材13a,13bは、柱部材11b,12bと仕口部における構造が異なる。柱部材13a,13bの仕口部には、直交する2つの水平方向に延在する貫通孔18が、交差しないように異なる高さで形成されている。
【0020】
更に、列状構造体10bの角に配置される柱部材14c,14e及びその下の柱部材14aは同じ構造である。ここでは、柱部材14cの構造について説明する。
柱部材14cには、垂直方向に延在する貫通孔(図示せず)が形成されている。
図2(c)に示すように、柱部材14cの(貫通孔の)上端部には、複数の機械式継手15が埋設される。貫通孔及び機械式継手15には、柱主筋が挿入される。更に、柱部材14cの上面には、柱部材11bと異なり、複数(4つ)の係合部としての引掛けボルト19が、上方に突出して設けられている。
【0021】
更に、柱部材14cの下部には、柱部材11bと同様に、複数の機械式継手17が埋設された仕口部J1が形成されている。また、柱部材14cの下面からは、柱部材11bと異なり、柱主筋は突出していない。
【0022】
また、列状構造体10bの柱部材14dには、柱部材14cと同様に、垂直方向に延在する貫通孔が形成され、この貫通孔の上端部に複数の機械式継手15が埋設され、上面には、複数の引掛けボルト19が設けられている。更に、この柱部材14dの下部に設けられた仕口部は、柱部材12bの仕口部J2の構成と同じであって、複数の機械式継手17が埋設され、貫通孔18が形成される。なお、柱部材14dの下面からは、柱部材14bと同様に、柱主筋は突出していない。
【0023】
(梁部材20a~20eの構成)
次に、梁部材20a~20eの構成について説明する。本実施形態の梁部材20a~20eは、PCa製である。
【0024】
図3(a)及び(b)に示すように、梁部材20a,20cと梁部材20b,20d,20eは、突出する梁主筋の長さが異なるだけであり、その他は同じ構造を有する。このため、梁部材20a,20bの構成について詳述し、その他の梁部材20b~20eの構成については説明を省略する。
【0025】
梁部材20a(20b)には、図示しない複数の梁主筋が内蔵されている。更に、梁部材20a(20b)の一側部(図では右側部)には、複数の機械式継手21が埋設される。また、梁部材20a(20b)の他側部(左側部)には、梁部材20a(20b)内に埋設されている複数の梁主筋22(23)が突出する。梁主筋22(23)は、接合する柱部材11a~14eの機械式継手17の位置(高さ)に応じて配置される。
【0026】
図3(a)に示すように、梁部材20aの梁主筋22は、柱部材11b,12b,14b~14dに埋設された機械式継手17に対応する長さを有する。
また、
図3(b)に示すように、梁部材20bの梁主筋23は、柱部材12b,13b,14cの貫通孔18及び梁部材20a,20dの機械式継手21に対応する長さを有する。
【0027】
<柱梁接合方法>
次に、
図4~
図8を用いて、柱梁接合方法について説明する。この場合、まず、第1構造体10aを接合して形成する。
【0028】
図4及び
図5を用いて、第1構造体10aの形成方法について説明する。
図4は、要部の側面図、
図5は、建て込む対象の階層における平面図である。このため、
図5においては、下の柱部材11a,12a,13a,14a,14bを表示せず、柱部材11b,12b,13b,14c~14e及び梁部材20a~20eのみを示す。
【0029】
まず、
図4(a)に示すように、柱部材11aの上に柱部材11bを接合する。具体的には、柱部材11bを降下させて、下方に突出した柱主筋16を、柱部材11aの機械式継手15に挿入し、グラウトを注入する。
【0030】
次に、
図4(a)及び
図5(a)に示すように、梁部材20aを柱部材11bに接合する。具体的には、梁部材20aの梁主筋22の先端を、柱部材11bの水平方向に延在する機械式継手17に挿入させて、梁部材20aを柱部材11bに向けてスライドさせる。そして、梁部材20aを柱部材11bに当接させた後、柱部材11bの機械式継手17にグラウトを注入して、梁部材20aの梁主筋22を柱部材11bの機械式継手17に固定する。
【0031】
次に、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、柱部材12bを柱部材12aの上に接合する。具体的には、柱部材11a,11bの接合と同様に、柱部材12bを降下させて、下方に突出した柱主筋16を、下方の柱部材12aの機械式継手15に挿入して、グラウトを注入する。この場合、柱部材12bを、梁部材20aと当接させる。
ここで、
図4(c)に示すように、柱部材12bの仕口部J2の貫通孔18を、当接させた梁部材20aの機械式継手21と整合させる。
【0032】
そして、
図4(c)及び
図5(c)に示すように、柱部材12bに梁部材20bを接合する。具体的には、梁部材20bの梁主筋23を、柱部材12bの貫通孔18及び梁部材20aの機械式継手21に挿入させるように、梁部材20bを柱部材12bに向けて、水平方向にスライドさせる。そして、梁部材20bを柱部材12bに当接させた後、柱部材12bの貫通孔18及び梁部材20aの機械式継手21にグラウトを注入して、梁部材20bの梁主筋23を、機械式継手21及び貫通孔18に固定する。
【0033】
その後、
図5(d)に示すように、梁部材20bの機械式継手21に接続鉄筋25を挿入し、この接続鉄筋25の端部を梁部材20bから突出させる。そして、この接続鉄筋25に、柱部材11bの機械式継手17を挿入する。
【0034】
そして、
図5(e)及び
図5(f)の順番で示すように、上述した柱部材12a,13aの上に柱部材12b,13bを接合する第1工程と、これら柱部材12b,13bの仕口部に、梁部材20a~20cをスライドして接合する第2工程とを交互に繰り返す。こうして、PCa製の柱部材→PCa製の梁部材→PCa製の柱部材→PCa製の梁部材→…の順に、PCa製の柱部材とPCa製の梁部材とを交互に組み込み、梁部材20cの仕口面を露出させるようにして、第1構造体10aを形成する。
【0035】
そして、
図5(g)に示すように、第1構造体10aの梁部材20cの機械式継手21に接続鉄筋26の一端部を挿入して固定する。また、接続鉄筋26の他端部を、梁部材20cの仕口面から、列状構造体10bの方向に突出させておく。
【0036】
(列状構造体の形成方法)
次に、
図6を用いて、列状構造体10bの形成方法について説明する。
第1構造体10aが完成した後、柱部材14a,14bの上に、複数の滑り部材41を配置する。この滑り部材41の厚みは、柱部材14aの上に突出したレベル調整ボルトの頭部の高さよりも厚い。そして、柱部材を載置した場合に、レベル調整ボルトを回動させて、レベル調整ボルトの高さを、滑り部材41の高さとほぼ同じにする。この滑り部材41は、かさ上げ部材と、かさ上げ部材の上下にテフロン(登録商標)で構成された板部材とを配置して構成される。
【0037】
そして、
図6(a)に示すように、柱部材14aの上に柱部材14cをずらして載置する。具体的には、柱部材14aのレベル調整ボルト及び滑り部材41の上に柱部材14cを載せる。この場合、柱部材14aを、第1構造体10aの梁部材20cから突出した接続鉄筋26と接触しない位置に配置する。
【0038】
次に、柱部材14cに梁部材20dを接合する。具体的には、梁部材20dの梁主筋22を、柱部材14cの水平方向に延在する機械式継手17に挿入し、梁部材20dを柱部材14cに向けて第2水平方向にスライドさせる。そして、機械式継手17にグラウトを注入して、柱部材14cに梁部材20dを固定する。
【0039】
次に、
図6(b)に示すように、柱部材14bの上に、柱部材14dを載置する。この場合、柱部材14dを、第1構造体10aの梁部材20cから突出した接続鉄筋26と接触しない位置に配置する。更に、柱部材14dの仕口部の貫通孔18を、梁部材20dの機械式継手21と整合させる。
【0040】
次に、柱部材14dに梁部材20eを接合する。具体的には、柱部材14dに向けて、梁部材20eを第2水平方向にスライドさせる。この場合、梁部材20eの梁主筋23を、柱部材14dの貫通孔18及び梁部材20dの機械式継手21に挿入させる。そして、機械式継手21及び貫通孔18にグラウトを注入して、梁主筋23を、機械式継手21及び貫通孔18に固定する。
次に、梁部材20eの機械式継手21に接続鉄筋を挿入し、この接続鉄筋を梁部材20eから突出させておく。
【0041】
そして、
図6(c)に示す柱部材14eを梁部材20eに向けて、第2水平方向にスライドさせる。この場合、梁部材20eから突出させた接続鉄筋に、柱部材14eの機械式継手17を挿入させる。そして、グラウトを注入することにより、柱部材14eが梁部材20eに接合される。
【0042】
(第1構造体と列状構造体との接合方法)
次に、
図7及び
図8を用いて、柱部材14a,14bの上に載置された列状構造体10bを、第1構造体10aの方向にスライドさせて接合させる方法について説明する。
【0043】
図7(a)及び(b)に示すように、形成された列状構造体10bは、柱部材14a,14bの上に、ずらした状態で載置される。この場合、列状構造体10bの柱部材14c~14eは、第1構造体10aの梁部材20cから突出した接続鉄筋26と係合しないように配置される。
【0044】
そして、列状構造体10bをスライドさせるために、柱部材14c~14eと柱部材14a,14bとの接合箇所に、押圧部材としての複数の押圧治具30を設置する。これら接合箇所における押圧治具30の設置方法は同じであるため、柱部材14eと柱部材14aとの間について詳述する。
【0045】
(押圧治具30の構成)
ここで、
図8(a)及び(b)を用いて、列状構造体10bをスライドさせるために用いる押圧治具30の構成について説明する。
【0046】
図8(a)は、
図7における下階の柱部材14aと、上階の柱部材14eとの隙間を示している。また、
図8(b)は、
図8(a)に示される部分において、上の柱部材14e及び梁部材20eを取り除いた状態における平面図を示している。
【0047】
押圧治具30は、例えば、アールアイ株式会社製の商品名「ピタカイ・ミニ(シングル)」を用いることができる。この押圧治具30は、掛止部材としての掛止板31、ナット部材32、ボルト部材33及び押圧板34を備える。掛止板31は、複数の凹部31aが連続して形成された板部材である。この凹部31aは、スライド時に柱部材14aの引掛けボルト19を引っ掛ける。
【0048】
ナット部材32は、掛止板31の端部の上に一体的に固定される。ナット部材32の中心のめねじには、ボルト部材33のねじ軸が螺合する。ボルト部材33の先端には、押圧板34が設けられる。
【0049】
(押圧治具30の設置)
本実施形態では、上述した構成の押圧治具30の掛止板31を、2つ、柱部材14aと柱部材14eとの隙間に挿入する。そして、各掛止板31の凹部31aを、柱部材14aの引掛けボルト19に引っ掛ける。この場合、柱部材14eの端面と柱部材14aの引掛けボルト19との距離に応じた位置の凹部31aを用いる。次に、押圧板34を柱部材14eに当接させるように、ボルト部材33を螺合したナット部材32を掛止板31に固定する。この場合、柱部材14a,14eの間には、既に滑り部材41が配置されている。
【0050】
(列状構造体10bの移動)
そして、上述した押圧治具30を用いて、列状構造体10bを移動させる。
まず、ボルト部材33のねじ軸を回転させて、ナット部材32に対して、ボルト部材33を前進させる。これにより、押圧板34が、柱部材14eの側面を押して、柱部材14eを水平方向(第1水平方向)に移動させる。この場合、第1構造体10aに対向する柱部材14eの機械式継手17に、梁部材20cの接続鉄筋26を挿入させながら柱部材14eを移動させる。なお、ボルト部材33のボルト軸の長さよりも、柱部材14eをスライドさせる距離が長い場合には、引掛けボルト19に係合する掛止板31の凹部31aの位置を変更して、柱部材14eを水平方向に押すことを繰り返す。
【0051】
本実施形態では、各柱部材14c~14eに設けた押圧治具30のボルト部材33を、ほぼ同じタイミングでほぼ同じ速度で回転させる。これにより、各押圧板34は、ほぼ同じ速度で、各柱部材14c~14eを移動させる。
【0052】
最終的に、列状構造体10bの柱部材14c~14eを、下の柱部材14a,14bと整合する位置まで移動させる。柱部材14a,14bの位置と柱部材14c~14eの位置とが整合した場合、接続鉄筋26が挿入された柱部材14c~14eの機械式継手17にグラウトを注入する。
更に、柱部材14a,14bの位置と柱部材14c~14eの位置とが整合した場合には、柱部材14c~14eの貫通孔と、下の柱部材14a,14bの機械式継手15が接合する。そこで、柱部材14c~14eの上面から、柱主筋を下方に挿入する。この柱主筋は、柱部材14c~14eの機械式継手15を通過して、柱部材14c~14eの貫通孔及びその下の柱部材14a,14bの機械式継手15に配置され、グラウト注入により固定される。その後、柱部材14a,14bと柱部材14c~14eとの隙間にも、グラウトを注入する。
以上により、
図1に示すように、列状構造体10bが第1構造体10aに一体化される。この工程を最上階まで繰り返して、柱梁接合構造10を構築する。
【0053】
(作用)
柱梁接合構造10を、終端列を残して第1構造体10aを構築し、この終端列を構成する列状構造体10bをスライドさせて第1構造体10aに一体化させる。これにより、柱梁接合構造10を、現場におけるコンクリート打設を行なわずに構成することができる。
【0054】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、柱梁接合構造10は、第1構造体10aに列状構造体10bをスライドさせて一体化させる。これにより、柱梁接合構造10を、現場におけるコンクリート打設が不要になり、柱梁接合構造10を効率的に構築することができる。
【0055】
(2)本実施形態では、柱部材14aの上に柱部材14cをずらして配置し、この柱部材14cに梁部材20dを接合した。更に、柱部材14bの上に柱部材14dをずらして配置し、梁部材20d及び柱部材14dに梁部材20eを接合し、梁部材20eに柱部材14eを接合した。これにより、列状構造体10bを、第1構造体10aと同様な手順で構築することができる。
【0056】
(3)本実施形態では、列状構造体10bの柱部材14c~14eが載置する柱部材14a,14bの上面に引掛けボルト19を設ける。この引掛けボルト19に係合する掛止板31の押圧治具30を用いて、柱部材14c~14eを第1構造体10aに向けてスライドさせる。これにより、簡単な部材を用いて、列状構造体10bをスライドさせることができる。
【0057】
(4)本実施形態では、列状構造体10bの柱部材14c~14eと柱部材14a,14bとの隙間に、滑り部材41を配置する。これにより、柱部材14c~14eを円滑に移動させることができる。
【0058】
(5)本実施形態では、列状構造体10bの各柱部材14c~14eをほぼ同じ速度でスライドさせる。このため、柱部材14c~14eの機械式継手17に、第1構造体10aから突出させた接続鉄筋26を円滑に挿入させることができる。
【0059】
(6)本実施形態では、柱部材14c~14eの下端部に、仕口部が設けられ、梁部材20d,20eは、列状構造体10bの下部に配置される。これにより、列状構造体10bの重心が下方に位置するので、列状構造体10bを安定してスライドさせることができる。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、列状構造体10bは、柱梁接合構造10において、最後に組み合わせる直線状に並んだ1列の仕口部を含む柱部材14c~14e及び梁部材20d,20eで構成した。列状構造体10bは、直線的に並んだ1列に限定されない。例えば、第1構造体10aの仕口面から突出する接続鉄筋26に対して対向するように配置され、最後に組み合わせる1列部分であればよく、例えば、曲線形状を有する構造体であってもよい。
【0061】
図9(a)に示す柱梁接合構造60は、第1構造体60aに列状構造体60bを組み合わせて構成する。列状構造体60bは、曲線形状の梁部材61,62を有する。また、第1構造体60aは、柱部材14dの位置に応じて、上述した第1構造体10aの中央の梁部材20cが長い構造を有する。そして、列状構造体60bは、第1構造体60aに向かう第1水平方向にスライドして、第1構造体60aの梁部材20cから突出した接続鉄筋26を介して、第1構造体60aと一体化される。
【0062】
更に、列状構造体は、第1構造体の仕口部に係合する鉄筋に対して対向していれば、仕口部を含む柱部材が斜めに配置されてもよい。
例えば、
図9(b)に示す柱梁接合構造65の列状構造体65bは、斜め一列に並んだ柱部材64a,64b,64cを備える。この場合、列状構造体65bを除く第1構造体65aの梁部材20cは、列状構造体65bの柱部材64a~64cの位置に応じた長さを有する。この場合においても、列状構造体65bを、第1構造体65aに向かってスライドさせて、第1構造体65aに接合することにより、柱梁接合構造65を形成する。
【0063】
更に、柱梁接合構造は、形状によっては、複数の列状構造体を備えた構成でもよい。この場合、列状構造体は、建物の1層において平面的に突出した部分の端部に配置される構造であって、第1構造体に接合する梁部材の仕口面の鉄筋の延在方向にスライドする位置に配置していればよい。
【0064】
例えば、
図9(c)に示す柱梁接合構造70は、複数の列状構造体70b,70cと、これらを構築する前の第1構造体70aとを備える。この場合においても、列状構造体70b,70cを、接合する梁部材20cの接続鉄筋26の延在方向にスライドさせて、接続鉄筋26を介して、第1構造体70aと一体化する。なお、列状構造体70b,70cのうち1つのみは従来の工法で形成してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、列状構造体10bは、第1構造体10aの形成後、柱部材14a,14bの上に形成した。列状構造体10bの形成は、柱部材14a,14bの上で行なう場合に限られない。例えば、地上で組み立てた列状構造体10bを、クレーンで吊り上げて、列状構造体10bの柱部材14c~14eを、柱部材14a,14bの上に載置した後、スライドさせてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、柱部材14a,14bの上に載置した列状構造体10bを、建物の外側から、列状構造体10bを押すことにより、第1構造体10aに向かってスライドさせた。列状構造体10bをスライドさせる方法は、これに限定されない。例えば、第1構造体10a側から、柱部材14a~14eを引っ張ってもよい。
【0067】
この場合には、
図10(a)及び(b)に示すように、柱部材14a~14eの上面に設けていた引掛けボルト19を下面に設ける。そして、押圧治具30の掛止板31を、柱部材14c~14eの引掛けボルト19に引っ掛ける。また、掛止板31の下面にナット部材32、ボルト部材33及び押圧板34を配置し、押圧板34を柱部材14a,14bに当接させる。これにより、ボルト部材33を回転させると、その反力により掛止板31が引っ張られ、柱部材14c~14eがスライドする。
また、押圧治具30を用いる代わりに、クレーン等を用いて、列状構造体10bをスライドさせてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、柱部材11a~14eの下端部に仕口部を設けた。柱部材11a~14eの仕口部の位置は、これに限定されない。例えば、
図11に示すように、柱部材74a,74eの上部に仕口部を設け、ここに梁部材75を取り付けてもよい。この場合には、仕口部の上面又は柱部材の下面に、離間した複数の係合部を突出して形成する。そして、仕口部の上面及び柱部材の下面に滑り部材41を配置し、押圧治具30の掛止板31を、係合部に引っ掛けて列状構造体をスライドさせる。すなわち、終端列の仕口部を含む部材の下面、又は終端列の仕口部を含む部材が載置される下階層の部材の上面に係合部を設け、これらの間に滑り部材を配置する。
更に、仕口部を柱部材に設けなくてもよい。例えば、柱部材と仕口部とを、別のプレキャストコンクリートで構成してもよい。また、建物の最上階において、柱になる部分が上方にない仕口部のみのプレキャストコンクリートを用いてもよい。これらの場合には、列状構造体は、仕口部と梁部材とで構成される。
【0069】
・上記実施形態の梁部材20a~20eは、一方の側端部に機械式継手21を埋設し、もう一方の側端部に、梁主筋22,23を突出させた。梁部材20a~20eにおける機械式継手21の配置は、これに限定されない。例えば、両端部に機械式継手を埋設した梁部材としてもよい。この場合には、既に設置している梁部材及び柱部材の機械式継手に、接続鉄筋を挿入して、接合する梁部材に向かって、接続鉄筋を柱部材から突出させる。
【0070】
更に、上記実施形態の梁部材20a~20eは、コンクリートに鉄筋を内蔵したプレキャストコンクリートで構成した。これらの梁部材を、上部の鉄筋が露出したハーフプレキャストコンクリートで構成してもよい。
【0071】
・上記実施形態の柱部材11a~13bは、上端部に機械式継手15を埋設し、柱主筋16を下方に突出させた。柱部材11a~13bの構成は、これに限定されない。例えば、柱主筋を上方に突出させて、下端部に機械式継手を埋設してもよい。更に、柱鉄筋を突出させずに、上端部及び下端部に機械式継手を埋設した柱部材としてもよい。この場合には、上に配置する柱部材を接合する前に、別体の接続鉄筋を機械式継手に挿入し、この接続鉄筋を上に突出させておく。
更に、列状構造体10bを構成する柱部材14c~14eには、上端部に機械式継手15が埋設され、これに連通する垂直方向に延在する貫通孔が形成されている。柱部材14a~14eの構成は、これに限定されない。例えば、柱部材14a~14eに、後から柱主筋を挿入するための部分を、貫通孔ではなくシース管で構成してもよい。この場合、柱部材14a~14eの最上部に機械式継手を配置し、この機械式継手の直下にシース管を配置して、柱部材14a~14eに貫通孔を形成してもよい。
また、建物の形状によっては、各階において、スライドさせる列状構造体10bとなる部分の位置を変更してもよい。
【符号の説明】
【0072】
J1,J2…仕口部、10,60,65,70…柱梁接合構造、10a,60a,65a,70a…第1構造体、10b,60b,65b,70b,70c…列状構造体、11,12,13…柱、11a,11b,12a,12b,13a,13b,14a,14b,14c,14d,14e,64a,64b,64c,64b,74a,74e…柱部材、15,17,21…機械式継手、16…柱主筋、18…貫通孔、19…係合部としての引掛けボルト、20a,20b,20c,20d,20e,61,62,75…梁部材、22,23…梁主筋、25,26…接続鉄筋、30…押圧治具、31…掛止板、31a…凹部、32…ナット部材、33…ボルト部材、34…押圧板、41…滑り部材。