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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/32 20180101AFI20231208BHJP
   F24F 11/52 20180101ALI20231208BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20231208BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20231208BHJP
   B01L 1/04 20060101ALI20231208BHJP
   F24F 110/65 20180101ALN20231208BHJP
【FI】
F24F11/32
F24F11/52
F24F7/06 C
F24F7/007 B
B01L1/04
F24F110:65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020018686
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021124254
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原嶋 寛
(72)【発明者】
【氏名】住吉 栄作
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-135647(JP,A)
【文献】特開2000-346417(JP,A)
【文献】実開平3-83744(JP,U)
【文献】特開2003-65577(JP,A)
【文献】特開平3-5648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F24F 7/00- 7/10
B01L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験室又はクリーンルームの排気口及び屋外から空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を前記実験室又は前記クリーンルームに吹き出す空調機と、
前記排気口から空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を前記屋外に排出する排気ファンと、
前記空調機及び前記排気ファンと前記排気口との間に設けられ、前記空調機の作動時且つ前記排気ファンの停止時に、前記排気口と前記空調機を連通させるとともに前記排気口と前記排気ファンを遮断し、前記空調機の停止時且つ前記排気ファンの作動時に、前記排気口と前記空調機を遮断するとともに前記排気口と前記排気ファンを連通させる方向切替器と、
前記排気口の近傍に設けられ、気体状の薬剤を検出するガスセンサと、
前記実験室又は前記クリーンルーム内の下部に設置された送風ファンと、
前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されない場合に、前記空調機を作動させるとともに前記排気ファン及び前記送風ファンを停止させ、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出される場合に、前記空調機を停止させるとともに前記排気ファン及び前記送風ファンを作動させる制御部と、を備える空調システム。
【請求項2】
前記実験室又は前記クリーンルームに設けられる警報器を更に備え、
前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されない場合に、前記制御部が前記警報器を停止させ、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出される場合に、前記制御部が前記警報器を作動させる請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記実験室又は前記クリーンルームに設けられ、前記実験室又は前記クリーンルーム内の人の所在を検出する人感センサを更に備え、
前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されることに加えて、前記人感センサによって人の所在が検出されない場合に、前記制御部が前記送風ファンを作動させる請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記実験室又は前記クリーンルームが多数の孔を有するグレーチング床によって上下に区切られ、前記送風ファン及び前記ガスセンサが前記グレーチング床の下側の空間に設けられている請求項1から3の何れか一項に記載の空調システム。
【請求項5】
前記実験室又は前記クリーンルームが多数の孔を有するグレーチング床によって上下に区切られ、前記送風ファン及び前記ガスセンサが前記グレーチング床の下側の空間に設けられ、前記人感センサが前記グレーチング床の上側の空間に設けられている請求項3に記載の空調システム。
【請求項6】
前記実験室又は前記クリーンルームと前記屋外を区切る外壁に設けられ、前記空調機の作動時且つ前記排気ファンの停止時に閉じ、前記空調機の停止時且つ前記排気ファンの作動時に開くダンパーを更に備える請求項1から5の何れか一項に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験室又はクリーンルームを空調する空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質を取り扱う実験室又はクリーンルームでは、化学物質の暴露の危険性が問題となっており、そのような暴露の危険性を低減する技術が開発されている。例えば特許文献1には、通常時にはクリーンルームの空気を循環させ、クリーンルーム内の化学物質濃度が偶発的に上昇した異常時にはクリーンルームの空気を排気する空調システムが開示されている。特許文献2には、クリーンルーム内の空気から独立した系の空気を用いて半導体製造機器を換気する換気システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-346417号公報
【文献】特開2001-176762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、作業者等が実験室又はクリーンルームで液状の薬剤を溢(こぼ)した場合、特許文献1に記載の技術のように実験室又はクリーンルームを換気しただけでは、実験室又はクリーンルームの空気中の薬剤濃度が短時間で許容濃度又は閾値以下に制御することは難しい。これは、液状の薬剤の全てが気化するまでに時間を要するためである。
【0005】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、実験室又はクリーンルームで液状の薬剤を溢した場合、気化した薬剤による暴露の危険性を低減させるとともに、実験室又はクリーンルームの空気中の濃度を早期に低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、空調システムは、実験室又はクリーンルームの排気口及び屋外から空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を前記実験室又は前記クリーンルームに吹き出す空調機と、前記排気口から空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を前記屋外に排出する排気ファンと、前記空調機及び前記排気ファンと前記排気口との間に設けられ、前記空調機の作動時且つ前記排気ファンの停止時に、前記排気口と前記空調機を連通させるとともに前記排気口と前記排気ファンを遮断し、前記空調機の停止時且つ前記排気ファンの作動時に、前記排気口と前記空調機を遮断するとともに前記排気口と前記排気ファンを連通させる方向切替器と、前記排気口の近傍に設けられ、気体状の薬剤を検出するガスセンサと、前記実験室又は前記クリーンルーム内の下部に設置された送風ファンと、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されない場合に、前記空調機を作動させるとともに前記排気ファン及び前記送風ファンを停止させ、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出される場合に、前記空調機を停止させるとともに前記排気ファン及び前記送風ファンを作動させる制御部と、を備える。
【0007】
以上によれば、実験室又はクリーンルームの空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇すると、空調機が停止することにより、実験室又はクリーンルームの空気の循環が止まる。排気ファンが作動することで、実験室が換気される。よって、薬剤への暴露の危険性が低減される。
また、送風ファンが作動することで、溢れた液状の薬剤に空気が吹き付けられる。これにより、液状の薬剤の気化が促進される。そのため、溢れた液状の薬剤が早期に除去され、気中の薬剤濃度が早期に低減される。よって、実験室又はクリーンルームの再使用を早期に行える。
【0008】
好ましくは、前記空調システムが、前記実験室又は前記クリーンルームに設けられる警報器を更に備え、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されない場合に、前記制御部が前記警報器を停止させ、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出される場合に、前記制御部が前記警報器を作動させる。
【0009】
以上によれば、実験室又はクリーンルームの空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇したら、警報器が作動して、作業者への警報が行われる。これにより、作業者が実験室又はクリーンルームから早期に退出することができる。よって、薬剤への暴露の危険性が低減される。
【0010】
好ましくは、前記空調システムが、前記実験室又は前記クリーンルームに設けられ、前記実験室又は前記クリーンルーム内の人の所在を検出する人感センサを更に備え、前記ガスセンサによって前記気体状の薬剤が検出されることに加えて、前記人感センサによって人の所在が検出されない場合に、前記制御部が前記送風ファンを作動させる。
【0011】
以上によれば、送風ファンが作動するのは、実験室又はクリーンルーム内に誰も居なくなった時である。そのため、液状の薬剤の気化により実験室又はクリーンルーム内の薬剤濃度が高くなっても、作業者に害を及ぼすことがない。
【0012】
好ましくは、前記実験室又は前記クリーンルームが多数の孔を有するグレーチング床によって上下に区切られ、前記送風ファン及び前記ガスセンサが前記グレーチング床の下側の空間に設けられている。
【0013】
好ましくは、前記実験室又は前記クリーンルームが多数の孔を有するグレーチング床によって上下に区切られ、前記送風ファン及び前記ガスセンサが前記グレーチング床の下側の空間に設けられ、前記人感センサが前記グレーチング床の上側の空間に設けられている。
【0014】
以上によれば、作業者が液状の薬剤を溢したら、その薬剤がグレーチング床の下方へ滴下する。ガスセンサがグレーチング床の下側に設けられているため、空気中の薬剤の濃度上昇がガスセンサによって確実に検出される。また、送風ファンがグレーチング床の下側に設けられているため、グレーチング床の下方に滴下した薬剤には、送風ファンの風が吹き付けられ、薬剤の気化が確実に促進される。
【0015】
好ましくは、前記空調システムが、前記実験室又は前記クリーンルームと前記屋外を区切る外壁に設けられ、前記空調機の作動時且つ前記排気ファンの停止時に閉じ、前記空調機の停止時且つ前記排気ファンの作動時に開くダンパーを更に備える。
【0016】
以上によれば、排気ファンの作動時に屋外の空気がダンパーを通じて実験室又はクリーンルーム内に導入されるため、実験室又はクリーンルームの換気が行われる。よって、実験室の空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇しても、薬剤濃度の更なる上昇が抑えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溢れた液状の薬剤に空気が吹き付けられることにより、液状の薬剤の気化が促進される。よって、溢れた液状の薬剤が早期に除去され、気中の薬剤濃度が早期に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実験室の空調システムを示した図面である。
図2】変形例に係る空調システムを示した図面である。
図3】実験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0020】
〔1. 空調システムの構成〕
図1は、建物の断面図である。本実施形態では、この建物が多層建物であるものとして、図1には或る階11の断面を示す。この階11の屋内空間は下側スラブ21と上側スラブ22との間に設けられており、階11の屋内空間と下階12の屋内空間が下側スラブ21によって仕切られ、階11の屋内空間と上階13の屋内空間が上側スラブ22によって仕切られている。下側スラブ21上には壁パネル23が立設されており、階11の屋内空間が壁パネル23によって実験室31と機械室35とに仕切られている。実験室31内における下側スラブ21の上方にはグレーチング床24が敷設されており、実験室31がグレーチング床24によって床上空間32と床下空間33とに区画されている。グレーチング床24は、格子状又は網目状に設けられており、多数の小孔を有する。
【0021】
以下、実験室31を空調する空調システムについて詳細に説明する。
この空調システムは、空調機41、エアフィルタ42、排気ファン43、ダンパー44、方向切替器45、ダクト51,52,53,55、送風ファン61、制御部46、警報器47、複数のガスセンサ62及び複数の人感センサ63を備える。
【0022】
空調機41は、実験室31の天井面、つまり上側スラブ22の下面に設置されている。エアフィルタ42は、機械室35内に設置されている。排気ファン43は、階11の外壁に設置されている。ダンパー44は、床上空間32に面する外壁に設置されている。送風ファン61及びガスセンサ62は、床下空間33に設置されている。制御部46及び警報器47は、床上空間32に設置されている。なお、制御部46は床下空間33又は機械室35に設置されていてもよいし、階11とは別の階又は集中管理室に設置されていてもよい。
【0023】
制御部46は、例えば、コンピュータ、マイコン、プログラマブルロジックコントローラ又は論理回路等を有する。
【0024】
警報器47は、例えば、警報スピーカ、警報灯、セグメント表示器又はドットマトリクス表示器である。
【0025】
空調機41の吸込口は吸気ダクト51を通じて屋外に通じている。吸気ダクト51の中途部において循環ダクト52が吸気ダクト51から分岐し、その循環ダクト52がエアフィルタ42の吹出口に連結されている。循環ダクト52の中途部において排気ダクト53が分岐して、その排気ダクト53が排気ファン43に連結されている。方向切替器45は循環経路用のダンパー45aと排気経路用のダンパー45bから構成されている。ダンパー45aが、循環ダクト52のうち、排気ダクト53の分岐部から吸気ダクト51の合流部までの間の中途部に設けられている。ダンパー45bは、排気ダクト53の中途部に設けられている。
【0026】
床下空間33に面する壁パネル23には、排気口56が設けられている。排気口56が循環ダクト55の一端に連結され、循環ダクト55の他端がエアフィルタ42の吸込口に連結されている。エアフィルタ42は、床下空間33から排気口56及び循環ダクト55を介してエアフィルタ42に流れ込んだ空気を濾過して、空気中の塵を捕捉するとともに空気中の気体状薬剤を吸収するものである。エアフィルタ42の性能は、高濃度な気体状薬剤を除去できる程度のものではない。エアフィルタ42によって塵埃及び気体状薬剤が除去された空気は循環ダクト52の方へ吹き出る。
【0027】
排気ファン43は、排気口56からエアフィルタ42及び方向切替器45のダンパー45bを通じて空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を屋外へ排出する。排気ファン43は制御部46によってオン・オフされる。排気ファン43は通常時に停止し、非常時に作動する。通常時及び非常時については後に詳述する。
【0028】
空調機41は、排気口56からエアフィルタ42及び方向切替器45のダンパー45aを通じて空気を吸い込むとともに、屋外からも空気を吸い込む。そして、空調機41は、吸い込んだ空気を実験室31の床上空間32に吹き出す。空調機41の送風によって空気が順に床上空間32、床下空間33、エアフィルタ42、ダンパー45a及び空調機41に流れて循環する。暖房時、空調機41は吸い込んだ空気を熱交換により加熱する。冷房時、空調機41は吸い込んだ空気を熱交換により冷却する。空調機41は制御部46によってオン・オフされる。空調機41は、後述のように、通常時に作動し、非常時に停止する。
【0029】
方向切替器45のダンパー45a,45bは圧力動作式又は電動式である。
ダンパー45a,45bが圧力動作式である場合、空調機41が作動し且つ排気ファン43が停止すると、ダンパー45aがその上流側と下流側の気圧差により開き、ダンパー45bがその上流側と下流側の気圧差により閉じる。そのため、エアフィルタ42と空調機41が連通するとともに、エアフィルタ42と排気ファン43が遮断される。逆に、空調機41が停止し且つ排気ファン43が作動すると、ダンパー45aがその上流側と下流側の気圧差により閉じ、ダンパー45bがその上流側と下流側の気圧差により開く。そのため、エアフィルタ42と空調機41が遮断されるとともに、エアフィルタ42と排気ファン43が連通する。
ダンパー45a,45bが電動式である場合、方向切替器45のダンパー45a,45bが制御部46により制御されることによって開閉し、これにより空気の流れる向きが切り代わる。
方向切替器45は、後述のように、通常時にエアフィルタ42と空調機41を連通させ、非常時にエアフィルタ42と排気ファン43を連通させる。
【0030】
ダンパー44は電動式又はチャッキダンパーである。ダンパー44が電動式である場合、ダンパー44が制御部46により制御されることによって開閉する。ダンパー44がチャッキダンパーである場合、実験室31の気圧が屋外の気圧よりも低いときには、ダンパー44が開くことによって屋外から実験室31への空気の流れを許容し、実験室31の気圧が屋外の気圧よりも高いときに、ダンパー44が閉じることによって屋外から実験室31への空気の流れを阻止する。ダンパー44は後述のように通常時に閉じるが、非常時に開く。
【0031】
送風ファン61は、床下空間33の周縁部において床下空間33の中央部に向けて設置されている。或いは、送風ファン61は、壁パネル23に対向する位置において壁パネル23又は排気口56に向けて設置されている。送風ファン61は制御部46によってオン・オフされる。送風ファン61は後述のように通常時に作動し、非常時に停止する。
【0032】
ガスセンサ62は排気口56の近傍に設けられている。ガスセンサ62は、床上空間32において使用される液体薬剤が気化したガスを検出可能なものであり、実験室31において使用される可能性のある薬剤の種類に応じて選定される。ガスセンサ62が制御部46に接続され、ガスセンサ62の出力信号が制御部46に入力される。ここで、ガスセンサ62はガスの検出時にオン信号を制御部46に出力し、ガスの未検出時にオフ信号を制御部46に出力する。
【0033】
人感センサ63は床上空間32の広い範囲に分布しており、床上空間32の全体がこれら人感センサ63の検知範囲に収まる。人感センサ63は人間の所在を検知する。人感センサ63が制御部46に接続され、人感センサ63の出力信号が制御部46に入力される。ここで、人感センサ63は人の所在の検出時にオン信号を制御部46に出力し、人の所在の未検出時にオフ信号を制御部46に出力する。
【0034】
〔2. 空調システムの動作〕
以下に、空調システムの動作について説明する。
【0035】
〔2-1. 通常時〕
作業者が実験室31の使用のために空調機41のリモコンをオン操作すると、オン信号がリモコンから制御部46に入力される。そうすると、制御部46が空調機41を作動させる。また、ダンパー44が電動式である場合には、制御部46がダンパー44を閉じる。方向切替器45のダンパー45a,45bが電動式である場合には、制御部46がダンパー45aを開くとともにダンパー45bを閉じる。ダンパー45a,45bが圧力動作式である場合、空調機41の作動及び排気ファン43の停止により、ダンパー45aが開くとともにダンパー45bが閉じる。
【0036】
そのため、空気が空調機41によって床上空間32に吹き出され、その空気が順に床上空間32、床下空間33、エアフィルタ42、ダンパー45a及び空調機41に流れて循環する。空気の循環中、送風ファン61及び排気ファン43は停止している。更に、各ガスセンサ62がオフ信号を出力するところ、制御部46が各ガスセンサ62の出力信号を監視して、それら出力信号のオン・オフを判別する。なお、ガスセンサ62の閾値は、溢れていない容器内の薬剤が気化した程度ではガスセンサ62が気体状の薬剤を検知しないように設定されている。
【0037】
〔2-2. 非常時〕
(1) 気体状薬剤の検出
作業者が実験室31で実験を行っている際に、液体の薬剤をグレーチング床24に誤って溢してしまうことがある。そうした場合、薬剤がグレーチング床24の小孔を通過して、床下空間33に滴下する。床下空間33内の薬剤が気化すると、気体状の薬剤が何れかのガスセンサ62によって検出され、オン信号がガスセンサ62から制御部46に出力される。
【0038】
(2) 循環の停止並びに換気及び警報の開始
制御部46は何れかのガスセンサ62からのオン信号の入力を認識すると、空調機41を停止させるとともに排気ファン43及び警報器47を作動させる。また、ダンパー44が電動式である場合には、制御部46がダンパー44を開く。方向切替器45のダンパー45a,45bが電動式である場合には、制御部46がダンパー45aを閉じるとともにダンパー45bを開く。ダンパー45a,45bが圧力動作式である場合、空調機41の停止及び排気ファン43の作動により、ダンパー45aが開き、ダンパー45bが閉じる。
そのため、床上空間32の空気は順に床下空間33、エアフィルタ42、ダンパー45b及び排気ファン43に流れて、屋外へ排出される。これにより、実験室31が換気されて、実験室31の気中の薬剤濃度の上昇が抑えられる。従って、薬剤による害が発生せず、実験室31に所在する人にとって安全である。
【0039】
また、警報器47の作動により、音、光又は映像による警報が警報器47によって報知される。警報直後は人が実験室31内に所在するため、各人感センサ63がオフ信号を出力するところ、制御部46が各人感センサ63の出力信号を監視して、それら出力信号のオン・オフを判別する。
【0040】
(3) 退出の検出
床上空間32内にいる人が警報に気付くと、床上空間32から外へ退出する。床上空間32に誰も居なくなると、全ての人感センサ63が人間の所在を検出しなくなり、オフ信号がこれら人感センサ63から制御部46に出力される。
【0041】
(4) 気化の促進
制御部46は全ての人感センサ63からのオフ信号の入力を認識すると、送風ファン61を作動させる。そうすると、溢れた液体状の薬剤に空気が吹き付けられるため、薬剤の気化が促進される。
【0042】
(5) 気体状薬剤の非検出
送風ファン61の作動後、制御部46が各ガスセンサ62の出力信号を監視して、それら出力信号のオン・オフを判別する。ここで、送風ファン61の作動開始直後は、気体状の薬剤が何れかのガスセンサ62によって検出され、オン信号がガスセンサ62から制御部46に出力される。そのため、制御部46は送風ファン61の作動を継続する。
【0043】
送風ファン61の作動開始時から時間が経過すると、溢れた薬剤のほぼ全てが気化する。そうすると、気体状の薬剤が何れかのガスセンサ62によっても検出されず、オフ信号が全てのガスセンサ62から制御部46に出力される。
【0044】
(6) 循環の再開並びに換気及び警報の停止
制御部46は全てのガスセンサ62からのオフ信号の入力を認識すると、空調機41を作動させるとともに排気ファン43及び警報器47を停止させる。また、ダンパー44が電動式である場合には、制御部46がダンパー44を閉じる。方向切替器45のダンパー45a,45bが電動式である場合には、制御部46がダンパー45aを開くとともにダンパー45bを閉じる。ダンパー45a,45bが圧力動作式である場合、空調機41の作動及び排気ファン43の停止により、ダンパー45aが開くとともにダンパー45bが閉じる。
【0045】
そのため、空気が空調機41によって床上空間32に吹き出され、その空気が順に床上空間32、床下空間33、エアフィルタ42、ダンパー45a及び空調機41に流れて循環する。
【0046】
〔3. 有利な効果〕
(1) 実験室31の空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇したら、警報器47が作動して、実験室31内の作業者への警報が行われる。作業者は警報により危険を認識して、実験室31から退出する。よって、薬剤への暴露の危険性が低減される。
【0047】
(2) 実験室31の空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇したら、空調機41が停止するので、実験室31の空気の循環が停止する。更に、排気ファン43が作動して、実験室31の空気が入れ換えられる。そのため、実験室31内の薬剤濃度が更に上昇することを抑えられる。よって、薬剤への暴露の危険性が低減される。
【0048】
(3) 実験室31の空気中の薬剤濃度が偶発的に上昇したら、送風ファン61が作動する。そのため、溢れた液状の薬剤の気化が促進される。従って、溢れた液状の薬剤が早期に除去され、実験室31の空気中の薬剤濃度が早期に低減される。よって、実験室31の再使用を早期に行える。
【0049】
(4) 送風ファン61が作動するのは、実験室31内に誰も居なくなった時である。そのため、液状の薬剤の気化により実験室31内の薬剤濃度が高くなっても、作業者に害を及ぼすことがない。
【0050】
(5) 薬剤が実験室31内の何れの箇所で気化したのとしても、ガスセンサ62が排気口56の近傍に設けられているため、気体状の薬剤及びその濃度がガスセンサ62によって正確に検出される。
【0051】
〔4. 変形例〕
上記実施形態では、床上空間32と床下空間33を仕切る床がグレーチング床24であるが、図2に示すように、液状の薬剤を通過させない通常の床24Aであってもよい。この場合、送風ファン61は床上空間32のうち床24Aの近傍に設けられている。更に、排気口56は、床24A近傍であって、床上空間32に面する壁パネル23に設けられている。更に、ガスセンサ62は、床上空間32のうち排気口56の近傍に設けられている。
【0052】
上記実施形態では、空調システムが実験室31を空調するものである。それに対して、実験室31の代わりにクリーンルームを空調するものとしてもよい。その場合、上記実施形態の説明は「実験室31」を「クリーンルーム」と読み替えるものとする。
【0053】
ダンパー45bと排気ファン43との間に、空気中の気体状薬剤を吸収するエアフィルタが設けられてもよい。
【実施例
【0054】
送風ファンによって空気を液状薬剤に吹き付けることによって薬剤の気化が促進されることを検証した。
【0055】
具体的には、屋外の空気を給気口から実験室に取り込み、給気口の反対側の壁に設けられた排気口から屋外へ空気を排出することで、実験室の換気を行いながら、実験室の空気中の薬剤濃度をガスセンサによって測定した。換気の頻度は、1時間当たりに6.5回である。室温は25℃であり、湿度は60%である。薬剤はエタノールである。ガスセンサの設置位置は排気口の近傍である。
【0056】
送風ファンによって空気を液状薬剤に吹き付けた場合、実験室の空気中の薬剤濃度の変化を図3中に黒色の線で示す。液状薬剤に空気を吹き付けない場合、実験室の空気中の薬剤濃度の変化を図3中に灰色の線で示す。
【0057】
図3から明らかなように、液状薬剤に空気を吹き付けない場合、長時間経過しても、実験室の空気中の薬剤濃度がほぼ一定であって、低減しないことが分かる。一方、液状薬剤に空気を吹き付ける場合、薬剤濃度が上昇するものの、一定時間を経過すると、薬剤濃度が低減して、ゼロになることが分かる。
【符号の説明】
【0058】
24…グレーチング床
24A…床
31…実験室
32…床上空間
33…床下空間
41…空調機
43…排気ファン
44…ダンパー
45…方向切替器
46…制御部
47…警報器
56…排気口
61…送風ファン
62…ガスセンサ
63…人感センサ
図1
図2
図3