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特許7398679材料記述子生成方法、材料記述子生成装置、材料記述子生成プログラム、予測モデル構築方法、予測モデル構築装置及び予測モデル構築プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】材料記述子生成方法、材料記述子生成装置、材料記述子生成プログラム、予測モデル構築方法、予測モデル構築装置及び予測モデル構築プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20231208BHJP
   G16C 60/00 20190101ALI20231208BHJP
【FI】
G16C20/30
G16C60/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020536428
(86)(22)【出願日】2019-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2019028602
(87)【国際公開番号】W WO2020031671
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018149673
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019066367
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】羽川 令子
(72)【発明者】
【氏名】森川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】玉置 洋正
【審査官】阿部 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0074594(US,A1)
【文献】特表2018-503884(JP,A)
【文献】特開2002-097463(JP,A)
【文献】小関 敏彦,材料データとマテリアルズインテグレーション,情報管理,日本,国立研究開発法人科学技術振興機構,2016年06月01日,第59巻 第3号,pp.165~171,ISSN 0021-7298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の組成式を取得するステップと、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力するステップとを含
材料記述子生成方法。
【請求項2】
前記母物質を示す式を生成するステップは、
算出された前記複数の組成差分値のうちの最小の組成差分値である最小組成差分値を取得するステップと、
前記最小組成差分値を算出する際に用いられた第1母物質を示す第1式を、前記母物質を示す式として生成するステップと、を含む、
請求項1に記載の材料記述子生成方法。
【請求項3】
前記1または複数の添加物を示す式を生成するステップは、
閾値以下の前記最小組成差分値に対応する前記差分組成式を取得するステップを含む、
請求項2に記載の材料記述子生成方法。
【請求項4】
材料の組成式を取得するステップと、
前記組成式に含まれる、閾値より大きい係数に対応する複数の元素の各々と、前記複数の元素の各々の前記閾値より大きい前記係数の小数部分を繰り上げた新係数とを用いて、前記材料の母物質を示す式を生成するステップと、
前記組成式に含まれる、前記閾値以下の係数に対応する1または複数の元素を用いて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力するステップとを含む、
材料記述子生成方法。
【請求項5】
前記組成式に含まれる全ての元素に関して、前記全ての元素の各々の係数が閾値より大きいか否かを判断するステップをさらに含み、
前記母物質を示す式を生成するステップは、
前記係数が前記閾値より大きいと判断した場合、前記複数の元素の各々と前記新係数とを組み合わせた式を母物質元素リストへ追加するステップと、
前記母物質元素リストに含まれる複数の前記組み合わせた式を統合した前記母物質を示す式を導出するステップと、を含む、
請求項に記載の材料記述子生成方法。
【請求項6】
前記組成式に含まれる全ての元素に関して、前記全ての元素の各々の係数の和は、整数である、
請求項1又は4に記載の材料記述子生成方法。
【請求項7】
前記材料の生成時の温度情報、前記材料の特性測定時の温度情報、又は前記材料の具体的な生成方法情報に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記材料が生成される環境を示す環境情報に対応する記述子を生成するステップをさらに含み、
前記材料記述子を出力するステップは、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子と、前記環境情報に対応する記述子とを統合した前記材料記述子を出力する、
請求項1又は4に記載の材料記述子生成方法。
【請求項8】
前記組成式又は前記母物質に含まれる複数の元素の各々の位置情報に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記材料の構造を示す構造情報に対応する記述子を生成するステップをさらに含み、
前記材料記述子を出力するステップは、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子と、前記構造情報に対応する記述子とを統合した前記材料記述子を出力する、
請求項1又は4に記載の材料記述子生成方法。
【請求項9】
前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップは、
前記1または複数の添加物を示す式の1または複数の係数のそれぞれを、前記組成式に含まれる全ての係数の和で割った数値を記述子として生成する、
請求項1又は4に記載の材料記述子生成方法。
【請求項10】
前記1または複数の添加物を示す式は、第1係数を有する第1の元素と、第2係数を有する第2の元素とを含み、
前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップは、
前記第1係数を増加させることにより、前記第2係数を減少させた場合、前記減少させた量を示す係数を記述子として生成する
請求項1又は4に記載の材料記述子生成方法。
【請求項11】
材料の組成式を取得する取得部と、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成する第1生成部と、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成する第2生成部と、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出する第1算出部と、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出する第2算出部と、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力する出力部とを含
材料記述子生成装置。
【請求項12】
コンピュータに実行させる材料記述子生成プログラムであって、
前記材料記述子生成プログラムは、
材料の組成式を取得するステップと、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力するステップとを含
材料記述子生成プログラム。
【請求項13】
材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置における予測モデル構築方法であって、
前記材料の組成式を取得するステップと、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力するステップと、
前記材料記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させるステップと、
を含む、予測モデル構築方法。
【請求項14】
所定の材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、
前記材料の組成式を取得する取得部と、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成する第1生成部と、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成する第2生成部と、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出する第1算出部と、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出する第2算出部と、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力する出力部と、
前記材料記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させる学習部と、
を備える予測モデル構築装置。
【請求項15】
所定の材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築プログラムであって、
前記材料の組成式を取得するステップと、
複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との複数の組成差分値に基づいて、前記材料の母物質を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式に基づいて、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す式を生成するステップと、
前記母物質を示す式に含まれる複数の元素の各々に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記母物質を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
前記1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素に基づいて導出されるパラメータを用いて、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子を算出するステップと、
少なくとも、前記母物質を示す式に対応する記述子と、前記1または複数の添加物を示す式に対応する記述子とを統合した材料記述子を出力するステップと、
前記材料記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させるステップと、
をコンピュータに実行させる予測モデル構築プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルに入力される記述子を生成する材料記述子生成方法、材料記述子生成装置及び材料記述子生成プログラムに関するものである。また、本開示は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築方法、予測モデル構築装置及び予測モデル構築プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、材料特性は、第一原理計算などのシミュレーションシステムによって予測することが可能である。このシミュレーションシステムでは、物理計算を詳細に行うことで材料の特性を予測するが、計算に数時間~数カ月を要する場合がある。これに対し、近年、材料の基本的な情報を入力とし、特性値を出力として機械学習又は論理モデル式の構築を行うことで、材料の特性値の予測を簡易かつ高速に行う方法が注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、材料を構成する元素の既知パラメータから算出される記述子を入力に用いて材料の特性値の一つである形成エネルギーを高精度に導出する技術について開示されている。また、例えば、非特許文献2では、材料を構成する元素の既知パラメータから算出される記述子の算出方法を工夫することで、添加物を含む材料の特性値の予測を実現する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A.Seko、H.Hayashi、K.Nakayama、A.Takahashi及びI.Tanaka、“Representation of compounds for machine-learning prediction of physical properties”、Physical Review B95、144110、2017年
【文献】A.Furmanchuk、J.E.Saal、J.W.Doak、G.B.Olson、A.Choudhary及びA.Agrawal、“Prediction of Seebeck Coefficient for Compounds without Restriction to Fixed Stoichiometry:A Machine Learning Approach”、Journal of Computational Chemistry 39(4)、2018年2月5日、p.191-202
【文献】M.W.Gaultois、T.D.Sparks、C.K.H.Borg、R.Seshadri、W.D.Bonificio及びD.R.Clarke、“Data-Driven Review of Thermoelectric Materials:Performance and Resource Considerations”、Chemistry of Materials、2013年、25、2911-2920
【文献】A.Belsky、M.Hellenbrandt、V.L.Karen及びP.Luksch、“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD):accessibility in support of materials research and design”、2002年、Acta Cryst. B58、364-369
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、非特許文献2の技術について、更なる改善が必要とされていた。
【0006】
本開示は、材料の特性値の予測性能を向上させる技術を提供するものである。
【0007】
本開示の一態様に係る材料記述子生成方法は、材料の組成式を取得するステップと、前記組成式から、母物質を示す式と、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成するステップと、前記母物質を示す式及び前記添加物リストに対応する、前記材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出するステップと、前記複数の記述子を統合した材料記述子を出力するステップとを含み、前記材料記述子は、前記材料の前記所定の特性値を予測する予測モデルに入力される。
【0008】
この包括的又は具体的な態様は、装置、システム、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含む。
【0009】
本開示によれば、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した記述子を予測モデルに入力することで、材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0010】
本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】材料の特性予測を行う手順を説明するための図
図2】母物質への添加元素及び添加量の違いによる熱電特性(パワーファクター)の変化の一例を示す図
図3】非特許文献2において算出される記述子の一例を示す図
図4】非特許文献2の方法に従って算出された記述子の具体例を示す図
図5】本開示における材料記述子の一例を示す図
図6】本開示で提案する記述子の具体例を示す図である。
図7】本実施の形態1における材料特性値予測装置の構成を示す図
図8】本実施の形態1の組成式判別処理と従来の組成式判別処理との具体的な違いについて説明するための模式図
図9】本実施の形態1における材料特性値予測装置の動作について説明するためのフローチャート
図10】母物質記述子及び添加物記述子を用いたニューラルネットワークの特性値予測又は機械学習の一例を示す図
図11】本実施の形態1における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャート
図12】実験環境情報から算出された記述子を含む材料記述子の一例を示す図
図13】添加物を示す式に含まれる元素記号の係数を記述子として含む材料記述子の一例を示す図
図14】入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する添加物の組成式に含まれる元素記号の割合を示す記述子を含む材料記述子の一例を示す図
図15】被添加物の係数を含む材料記述子の一例を示す図
図16】添加物を示す式から計算または決定された記述子を配置すべき箇所にゼロ又は平均値が配置された材料記述子の一例を示す図
図17】添加物を示す式から計算または決定された記述子を配置すべき箇所に、ゼロ又は平均値が配置された材料記述子の他の例を示す図
図18】母物質記述子、添加物記述子及び実験環境記述子を用いたニューラルネットワークの特性値予測又は機械学習の一例を示す図
図19】母物質記述子及び添加物記述子を用いたニューラルネットワークの多段階の機械学習の一例を示す図
図20】本実施の形態2における材料特性値予測装置の構成を示す図
図21】本実施の形態2における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャート
図22】本実施の形態3における材料特性値予測装置の構成を示す図
図23】本実施の形態3における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャート
図24】本実施の形態3における実験の結果を示す図
図25】本実施の形態4におけるニューラルネットワーク装置の概念を説明する図
図26】本実施の形態4における材料特性値予測装置の構成を示す図
図27】本実施の形態4における材料特性値予測装置の学習モードでの動作を説明するためのフローチャート
図28】本実施の形態4における図27のステップS1306の学習処理について説明するためのフローチャート
図29】本実施の形態4における材料特性値予測装置の予測モードでの動作を説明するためのフローチャート
図30】本開示における材料記述子の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見)
近年、材料の基本的な情報を入力とし、特性値を出力として機械学習又は論理モデル式の構築を行うことで、材料の特性値予測を簡易かつ高速に行う方法が注目されている。機械学習による材料の特性予測の一般的な手順について、図1を用いて説明する。
【0013】
図1は、材料の特性予測を行う手順を説明するための図である。まず、材料情報1から材料記述子2が導出される。材料情報1は、例えば、材料の組成式を示す組成式情報、材料の構造を示す構造情報、材料が生成される環境を示す実験環境情報及び各元素の有する既知のパラメータなどを含む。また、材料記述子2は、材料情報1が含む情報を数値で示したものであり、画像で言うところの画素値にあたる。材料記述子2は、例えば、原子量又はイオン半径などの各元素が持つ既知のパラメータを、組成式情報に基づいて組み合わせるなどして導出される。
【0014】
例えば、非特許文献1では、各元素固有の既知のパラメータの重み付き平均、最大値又は最小値などが導出され、それらの値が記述子として利用されている。ここで、各元素固有の既知のパラメータとは、原子容積、共有結合半径又は密度など、物理計算をせずとも取得可能な、元素ごとに持つ既知の数値群を示す。また、パラメータの重み付き平均は、材料を構成する原子の数に基づいて算出される。例えば、「CaMnO」の原子半径の重み付き平均は、Caの原子半径である197とMnの原子半径である127とOの原子半径である60とに「Ca:Mn:O=1:1:3」の重みを付けて求める。つまり、「CaMnO」の原子半径の重み付き平均は(197+127+60*3)/5=100.8である。材料記述子2が材料特性予測モデル3に入力される。材料特性予測モデル3は、材料特性予測を行い、予測特性値4を出力する。
【0015】
一般に、材料特性予測では、不純物を含まない物質(以下、母物質と呼ぶ)の特性値が予測される。しかしながら、半導体材料では、母物質に添加物が添加されることで、材料の特性値が大幅に変化することがよくある。
【0016】
発明者は、添加物の種類又は量の変化が小さくとも、それを明確に表現可能な記述子の生成方法を考案することが必要であることに気づいた。以下にその考察過程を述べる。
【0017】
図2は、母物質CaMnOへの添加物の元素及び添加物の元素の添加量の違いによる熱電特性(パワーファクター)の変化の一例を示す図である。なお、図2では、1000Kの温度条件の下で各材料のパワーファクター(Power Factor)が測定されている。図2によると、母物質CaMnOに添加物として何も加えない場合はパワーファクターの値が0.43と小さい値であるのに対し、母物質に添加物としてRu又はYbを加えることで、パワーファクターの値が向上していることが分かる。また、添加物としてYb0.05を加える場合はRu0.04を加える場合と比べ、パワーファクターの値が約1.7倍高くなっていることが分かる。さらに、同じYbであっても、Yb0.1を加える場合は、Yb0.05を加える場合に比べ、パワーファクターの値が3分の2程度まで下がることも分かる。このように、材料の特性値は、添加物の元素又は添加物の元素の添加量がわずかに異なれば、大きく変化することがある。そのため、添加物の元素又は添加物の元素の添加量が変化した際に、添加物の元素又は添加物の元素の添加量の差を明確に表すことのできる記述子の生成が必要となる。
【0018】
非特許文献2の技術を用いて導出された記述子は、母物質及び添加物に関係無く元素情報を平均化してしまうため、添加物の元素の種類又は添加元素の添加量に小さな変化があってもその違いを明確に表現できない。添加物は、元素の種類又は添加元素の添加量が少し異なれば、材料の特性値に大きな影響を与えることがある。そのため、添加物の種類又は添加元素の添加量の変化を明確に表現したデータを用いて、予測モデル、例えば、ニューラルネットワーク装置を学習させることができず、ニューラルネットワーク装置による材料の特性値の予測性能が低下する。そのため、添加物の元素の種類又は添加元素の添加量の変化が小さくとも、それを明確に表現可能な記述子の生成方法について、更なる改善が必要である。以下に非特許文献2について考察した内容の詳細を述べる。まず、非特許文献2において、添加物の情報を含んだ組成式から記述子を導出する方法について、図3及び図4を用いて説明する。非特許文献2では、入力組成式から同比率組成式を導出し、入力組成式と同比率組成式との両方について、各元素の持つ情報の重み付きの平均又は標準偏差を計算し、それらの値を記述子として利用している。
【0019】
図3は、非特許文献2において算出される記述子の一例を示す図である。図3では、入力組成式から算出された記述子11と同比率組成式から算出された記述子12とのそれぞれが、繋げられて1つの数列に変換されている。ここで、同比率組成式とは、例えば「CaMn0.96Ru0.04」という組成式があった場合、母物質及び添加物の分類に関係なく、すべての元素の係数を1にした「CaMnRuO」という組成式のことを指す。
【0020】
図4は、非特許文献2の方法に従って算出された記述子の具体例を示す図である。図2で示した通り、半導体材料においては、母物質の他に添加元素及び添加量が特性に影響を及ぼす。同比率組成式から生成された従来の記述子は、添加元素による変化を表現することができる。図4の例においても、添加元素によって各記述子が変化しており、変化の大きい記述子の場合、数割程度変化していることが分かる。しかしながら、入力組成式から生成された従来の記述子は、添加量の変化を明確に表現することが困難である。図4の例においても、添加元素又は添加量が変化しても各記述子の変化は小さく、変化の大きい記述子の場合でも、全体量の数パーセント程度しか変化しておらず、入力組成式から生成された従来の記述子は、特性値に影響を与える添加元素の添加量の細かな変化が明確には表現できていない。
【0021】
本開示の一態様に係る材料記述子生成方法は、材料の組成式を取得するステップと、前記組成式から、母物質を示す式と、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成するステップと、前記母物質を示す式及び前記添加物リストに対応する、前記材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出するステップと、前記複数の記述子を統合した材料記述子を出力するステップとを含み、前記材料記述子は、前記材料の前記所定の特性値を予測する予測モデルに入力される。
【0022】
この構成によれば、材料の組成式から、母物質を示す式と、母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成し、母物質を示す式及び添加物リストに対応する、材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子が算出されるので、1または複数の添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、1または複数の添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を生成することができる。また、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を統合した材料記述子を予測モデルに入力することで、材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0023】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記母物質を示す式と前記添加物リストとを生成するステップは、複数の母物質を示す複数の式を含む母物質リストを取得するステップと、前記複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと前記組成式との組成差分値を算出するステップと、算出された複数の組成差分値のうちの最小の組成差分値である最小組成差分値と、前記最小組成差分値を算出する際に用いられた第1母物質を示す第1式とを取得するステップと、前記複数の母物質を示す式は前記第1母物質を示す第1式を含み、前記最小組成差分値が閾値以下であるか否かを判断するステップと、前記最小組成差分値が前記閾値より大きいと判断された場合、前記組成式に不採用ラベルを付与するステップと、前記最小組成差分値が前記閾値以下であると判断された場合、前記第1式と前記組成式との差分の式を示す差分組成式を取得するステップと、前記差分組成式に基づいて、第2式を生成するステップとを含み、前記1または複数の添加物を示す1または複数の式は前記第2式を含んでもよい。
【0024】
この構成によれば、母物質リストに含まれる複数の母物質を示す複数の式のそれぞれと組成式との組成差分値が算出され、これにより複数の組成差分値が算出される。そして算出された複数の差分組成値のうちの最小の組成差分値である最小組成差分値が閾値以下であるか否かが判断される。このとき、最小組成差分値が閾値より大きい場合、母物質を示す式と組成式との差分である添加物を示す式に含まれる元素の量が、母物質を示す式に含まれる元素の量よりも多いため、母物質を示す式と添加物を示す式とが適切に判別されておらず、組成式が不適切であったと判断することが可能である。したがって、最小組成差分値が閾値より大きいと判断された場合、組成式に不採用ラベルが付与されるので、不適切な組成式が採用されるのを防ぐことができる。また、最小組成差分値が閾値以下である場合、母物質を示す式と組成式との差分組成を示す差分組成式から添加物を示す式を特定することができる。したがって、最小組成差分値が閾値以下であると判断された場合、母物質を示す式と組成式との差分組成を示す差分組成式に基づいて第2式が生成され、最小組成差分値を算出する際に用いられた母物質を示す第1式と、生成された添加物リストとが出力され、そして、前記1または複数の添加物を示す1または複数の式は前記第2式を含むので、母物質を示す第1式と添加物リストとを適切に判別することができる。
【0025】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記母物質を示す式と前記添加物リストとを生成するステップは、前記組成式から1の元素記号と前記1の元素記号の係数とを選択するステップと、前記係数が閾値より大きいか否かを判断するステップと、前記係数が前記閾値以下であると判断した場合、前記1の元素記号を前記添加物リストへ追加するステップと、前記係数が前記閾値より大きいと判断した場合、前記1の元素記号と前記係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせた式を母物質元素リストへ追加するステップと、前記組成式に含まれる全ての元素記号関して前記添加物リストへ追加または前記母物質元素リストへ追加を行い、これにより、前記母物質元素リストは前記組み合わせた式を複数含み、前記複数の組み合わせた式を統合した母物質を示す式を導出するステップと、前記母物質を示す式と前記添加物リストとを出力するステップとを含んでもよい。
【0026】
この構成によれば、組成式を示す式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とが選択され、選択された係数が閾値より大きいか否かが判断される。係数が閾値以下である場合、選択された1の元素記号は添加物リストへ追加されるので、添加物リストを生成することができる。係数が閾値より大きい場合、選択された1の元素記号は母物質を示す式に含まれると判断することができる。係数が閾値より大きいと判断された場合、係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせた式を母物質元素リストへ追加する。組成式に含まれる全ての元素記号関して添加物リストへ追加または母物質元素リストへ追加を行い、これにより、母物質元素リストは組み合わせた式を複数の含み、母物質元素リストに含まれる複数の組み合わせた式を統合した母物質を示す式が導出されるので、母物質を示す式を適切に特定することができる。
【0027】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記母物質を示す式と前記添加物リストとを判別するステップは、複数の母物質を示す式を含む母物質リストを取得するステップと、前記組成式における複数の元素記号の複数の係数の和が整数であるか否かを判断するステップと、前記和が整数であると判断した場合、前記組成式から1の元素記号と前記1の元素記号の係数とを選択するステップと、前記係数が閾値より大きいか否かを判断するステップと、前記係数が前記閾値以下であると判断した場合、前記1の元素を前記添加物リストへ追加するステップと、前記係数が前記閾値より大きいと判断された場合、前記1の元素記号と前記係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせた式を母物質元素リストへ追加するステップと、前記組成式に含まれる全ての元素記号関して前記添加物リストへ追加または母物質元素リストへ追加を行い、これにより、前記母物質元素リストは前記組み合わせた式を複数含み、前記母物質元素リストに含まれる前記複数の組み合わせた式を統合した母物質を示す式を導出するステップと、導出した前記母物質を示す式が前記母物質リストに存在するか否かを判断するステップと、前記母物質を示す式が前記母物質リストに存在すると判断された場合、前記母物質を示す式と前記添加物リストとを出力するステップと、前記和が整数ではないと判断した場合、又は前記母物質を示す式が前記母物質リストに存在しないと判断した場合、前記組成式に不採用ラベルを付与するステップ含んでもよい。
【0028】
この構成によれば、組成式における複数の元素記号の複数の係数の和が整数であれば、組成式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とが選択され、選択された係数が閾値より大きいか否かが判断される。係数が閾値以下である場合、選択された1の元素記号は添加物リストへ追加されるので、添加物リストを生成することができる。係数が閾値より大きい場合、選択された1の元素記号は母物質を構成する元素であると判断することができる。係数が閾値より大きいと判断された場合、係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせた式を母物質元素リストへ追加する。組成式に含まれる全ての元素記号に関して添加物リストへ追加または母物質元素リストへ追加を行い、これにより、母物質元素リストは前記組み合わせた式を複数含み、母物質元素リストに含まれる複数の元素を統合した母物質が導出されるので、母物質示す式を適切に特定することができる。さらに、導出された母物質を示す式が、母物質リストに存在するか否かが判断されるので、母物質として実際に存在する物質を示す式を出力することができ、母物質を示す式と添加物リストとを判別する精度を向上させることができる。
【0029】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記材料が生成される環境を示す環境情報を取得するステップをさらに含み、前記複数の記述子を算出するステップは、前記環境情報に対応する記述子を算出するステップと、を含んでもよい。
【0030】
この構成によれば、材料が生成される環境を示す環境情報が取得され、環境情報に対応する記述子とが算出されるので、材料が生成される環境を考慮して、材料の所定の特性値を予測することができる。
【0031】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記材料の構造を示す構造情報を取得するステップをさらに含み、前記複数の記述子を算出するステップは、前記構造情報に対応する記述子を算出するステップと、を含んでもよい。
【0032】
この構成によれば、材料の構造を示す構造情報が取得され、構造情報に対応する記述子が算出されるので、材料の構造を考慮して、材料の所定の特性値を予測することができる。
【0033】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記複数の記述子を算出するステップは、前記1または複数の添加物を示す1または複数の式に含まれる1つの添加物を示す式の係数を記述子と生成してもよい。
【0034】
この構成によれば、1または複数の添加物を示す1または複数の式に含まれる1つの添加物を示す式の係数を考慮して、材料の所定の特性値を予測することができる。
【0035】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記複数の記述子を算出するステップは、前記添加物リストに含まれる前記1または複数の添加物を示す1または複数の式の1または複数の係数のそれぞれを、前記組成式に含まれる全ての係数の和で割った数値を記述子として生成してもよい。
【0036】
この構成によれば、添加物リストに含まれる1または複数の添加物を示す1または複数の式の1または複数の係数のそれぞれを、組成式に含まれる全ての係数の和で割った数値を考慮して、材料の所定の特性値を予測することができる。
【0037】
また、上記の材料記述子生成方法において、前記複数の記述子を算出するステップは、第1係数を増加させることにより、第2係数を減少させた場合、前記減少させた量を示す係数を記述子として生成し、前記1または複数の添加物を示す前記1または複数の式は前記第1係数を有する第1の元素記号と、前記第2係数を有する第2の元素記号を含んでもよい。
【0038】
この構成によれば、1または複数の添加物を示す1または複数の式は第1係数を有する第1の元素記号と、第2係数を有する第2の元素記号を含み、第1係数を増加させることにより、第2係数を減少させた場合、減少させた量を示す係数をさらに考慮して、材料の所定の特性値を予測することができる。
【0039】
本開示の他の態様に係る材料記述子生成装置は、材料の組成式を取得する取得部と、前記組成式から、母物質を示す式と、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを判別する判別部と、前記母物質を示す式及び前記添加物リストに対応する、前記材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出する算出部と、前記複数の記述子を統合した材料記述子を出力する出力部とを含み、前記材料記述子は、前記材料の前記所定の特性値を予測する予測モデルに入力される。
【0040】
この構成によれば、材料の組成式から、母物質を示す式と、母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成し、母物質を示す式及び添加物リストに対応する、材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子が算出されるので、1または複数の添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、1または複数の添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を生成することができる。また、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を統合した材料記述子を予測モデルに入力することで、材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0041】
本開示の他の態様に係る材料記述子生成プログラムは、コンピュータに実行させる材料記述子生成プログラムであって、前記材料記述子生成プログラムは、材料の組成式を取得するステップと、前記組成式から、母物質を示す式と、前記母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成するステップと、前記母物質を示す式及び前記添加物リストに対応する、前記材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出するステップと、前記複数の記述子を統合した材料記述子を出力するステップとを含み、前記材料記述子は、前記材料の前記所定の特性値を予測する予測モデルに入力される。
【0042】
この構成によれば、材料の組成式から、母物質を示す式と、母物質に添加される1または複数の添加物を示す1または複数の式を含む添加物リストとを生成し、母物質を示す式及び添加物リストに対応する、材料の所定の特性値の予測に必要な複数の記述子が算出されるので、1または複数の添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、1または複数の添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を生成することができる。また、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した複数の記述子を統合した材料記述子を予測モデルに入力することで、材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0043】
本開示の他の態様に係る予測モデル構築方法は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置における予測モデル構築方法であって、前記材料の所定の特徴を示す記述子を生成するステップと、前記記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させるステップと、を含む。
【0044】
この構成によれば、添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した記述子を生成し、生成した記述子を入力値として用いて予測モデルを学習させることで、予測モデルを用いた材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0045】
また、上記の予測モデル構築方法において、前記記述子を生成するステップは、前記材料の組成式を取得するステップと、前記組成式から、母物質を示す式と、前記母物質に添加される少なくとも1の添加物を示す式を含む添加物リストとを生成するステップと、前記母物質を示す式及び前記添加物リストに対応する、前記所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出するステップと、前記複数の記述子を統合した材料記述子を出力するステップと、を含んでもよい。
【0046】
この構成によれば、材料の組成式が、母物質を示す式と、母物質に添加される少なくとも1の添加物を示す式を含む添加物リストとを生成し、母物質を示す式及び添加物リストに対応する、所定の特性値の予測に必要な複数の記述子が算出されるので、添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した記述子を生成することができる。
【0047】
本開示の他の態様に係る予測モデル構築装置は、所定の材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、前記所定の材料の特徴を示す記述子を生成する生成部と、前記記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させる学習部と、を備える。
【0048】
この構成によれば、添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した記述子を生成し、生成した記述子を入力値として用いて予測モデルを学習させることで、予測モデルを用いた材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0049】
本開示の他の態様に係る予測モデル構築プログラムは、所定の材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築プログラムであって、前記所定の材料の特徴を示す記述子を生成するステップと、前記記述子を入力値として用いて前記予測モデルを学習させるステップと、をコンピュータに実行させる。
【0050】
この構成によれば、添加物の種類又は量が微細に変化する材料についても、添加物の種類又は量の変化を明確に表現した記述子を生成し、生成した記述子を入力値として用いて予測モデルを学習させることで、予測モデルを用いた材料の特性値の予測性能を向上させることができる。
【0051】
以下添付図面を参照しながら、本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本開示を具体化した一例であって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0052】
(実施の形態1)
まず、本開示で提案する記述子の概略について説明する。
【0053】
本開示では、添加物を含む材料の組成式から母物質を示す式と添加物を示す式とを判別し、判別した母物質を示す式及び添加物を示す式のそれぞれから記述子を算出する方法を提案する。本開示で提案する記述子の表現の概略を、図5及び図6を用いて説明する。なお、「記述子を算出する」は「記述子を決定する」と言い換えてもよい。
【0054】
図5は、本開示における材料記述子の一例を示す図である。材料記述子は複数の記述子、すなわち、記述子21、記述子22~記述子2nを含む。図5に示すように、母物質を示す式から算出された記述子21と、第1添加物を示す式~第n添加物を示す式から算出または決定された記述子22~記述子2nとのそれぞれが繋げられて1つの数列に変換されている。
【0055】
図30は本開示における材料記述子の一例を示す図である。図30において、母物質を示す式から算出された記述子21は同一の母物質を示す式から算出された1または複数の記述子21-1、21-2、・・・であってもよい。図30に示す様に、第1添加物を示す式~第n添加物を示す式から算出された記述子22~記述子2nのそれぞれは、同一の添加物を示す式から算出された1または複数の記述子であってもよい。
【0056】
なお、一般的に、母物質は、化学ポテンシャルシフトがゼロの物質を表すが、本実施の形態1では、簡易的に、入力組成式に含まれる元素記号の係数が全て整数となる物質を示す式を母物質を示す式として定義する。
【0057】
一般的に組成式に含まれる元素記号の係数が1の場合は、「1」を記載しないが、本願明細書、請求の範囲、図面、要約書においては、元素記号の係数がない場合は、その係数を「1」と考えてよい。例えば、「CaMnO」は「CaMn」と考えてよい。
【0058】
図6は、本開示で提案する記述子の具体例を示す図である。
【0059】
母物質CaMnOを示す式から算出された1または複数の記述子の例は、「11166.3」、「102.6」、及び/または、「1804.9」である。「11166.3」は母物質CaMnOを示す式から算出された平均原子容積、「102.6」は母物質CaMnOを示す式から算出された平均共有結合半径、「1804.9」は母物質CaMnOを示す式から算出された平均密度である。
【0060】
添加物Ru0.04を示す式から算出または決定された1または複数の記述子の例は、「0.04」、「13.6」、「146.0」、及び/または「12370.0」である。「0.04」は添加物Ru0.04の係数、「13.6」は添加物Ru0.04を示す式から算出または決定された原子容積、「146.0」は添加物Ru0.04を示す式から算出または決定された共有結合半径、「12370.0」は添加物Ru0.04を示す式から算出または決定された密度である。
【0061】
図2に示した通り、半導体材料においては、母物質の他に添加物の元素と添加物の元素の添加量とが特性に影響を与える。本開示の実施の形態1において、材料記述子は、添加物を示す式から導出された添加物の元素の情報を示す記述子、及び、当該添加物を示す式から導出された添加物の元素の添加量の情報を示す記述子を含む。
【0062】
添加物の元素の違いは、材料記述子が元素固有の既知パラメータを利用した記述子を含むことで明確に表現される。図6に示す様に、元素固有の既知パラメータは、例えば、原子容積、共有結合半径、または、密度である。また、添加物の添加量の違いは、材料記述子が添加物係数を示す記述子を含むことで明確に表現される。図6に示す様に、添加物を示す式がRu0.04である場合、添加物係数は、0.04である。
【0063】
図7は、本実施の形態1における材料特性値予測装置の構成を示す図である。本実施の形態1における材料特性値予測装置100は、例えば、パーソナルコンピュータであり、プロセッサ200と、入力部210と、メモリ220と、出力部230とを備える。プロセッサ200は、材料記述子生成部101と、特性値予測部102と、学習部103とを備える。また、材料記述子生成部101は、入力取得部110と、組成式判別部120と、記述子算出部130と、記述子統合部140とを備える。メモリ220は、材料情報記憶部221と、母物質リスト記憶部222と、予測モデル記憶部223とを備える。材料特性値予測装置100は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する。
【0064】
材料記述子生成部101は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルに入力される材料記述子を生成する。
【0065】
入力部210は、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネルで構成され、種々の情報のユーザによる入力を受け付ける。入力部210は、所定の特性値の予測を所望する組成式のユーザによる入力を受け付ける。入力部210が受け付けた組成式を入力組成式と呼んでもよい。ユーザが入力した組成式を入力組成式と呼んでもよい。
【0066】
材料情報記憶部221は、材料に関する材料情報を記憶する。材料情報は、少なくとも1の材料の組成式を示す組成式情報、少なくとも1の材料の構造を示す構造情報、及び、少なくとも1の材料の実験環境情報を含む。少なくとも1の材料の実験環境情報は、当該少なくとも1の材料が生成される環境、当該少なくとも1の材料の特性測定時の温度情報、及び/又は、当該少なくとも1の材料の具体的な生成方法を含む。学習時においては、複数の組成式情報、複数の構造情報及び複数の実験環境情報を含む材料情報が用いられ、予測時においては、ユーザによって入力された材料の組成式を示す組成式情報に対応する構造情報及び実験環境情報を含む材料情報が用いられる。材料情報は、複数の元素それぞれの既知のパラメータを1または複数含んでもよい。元素の既知のパラメータは原子容積値、または、共有結合半径値、または、密度値であってもよい。材料情報は、複数の元素に対する既知のパラメータを1または複数含んでもよい。複数の元素に対する既知のパラメータは平均原子容積値、または、平均共有結合半径値、または、平均密度値であってもよい。
【0067】
母物質リスト記憶部222は、複数の母物質を示す式を記述した母物質リストを予め記憶する。なお、本実施の形態1では、母物質リストは、母物質リスト記憶部222に記憶されているが、本開示は特にこれに限定されず、不図示の通信部によって外部装置からネットワークを介して受信されてもよい。母物質リストは、所定のデータベースに記載された式を含んでもよい。所定のデータベースは、例えば、特許文献4に記載のInorganic Crystal Structure Database(ICSD)である。母物質リストは、実施の形態2に示す方法を用いて予め生成されてもよい。
【0068】
予測モデル記憶部223は、材料の所定の特性値を予測する予測モデルを記憶する。予測モデルは、例えばニューラルネットワークであり、材料記述子を入力情報とし、所定の特性値を出力情報とする。
【0069】
入力取得部110は、入力部210から入力組成式を受け取る。
【0070】
組成式判別部120は、入力取得部110から受け取った入力組成式から、母物質を示す式と、母物質に添加される少なくとも1の添加物を示す式を判別し、少なくとも1つの添加物を示す式を含む添加物リストを生成する。
【0071】
組成式判別部120は、母物質リスト記憶部222から複数の母物質を示す式を示す母物質リストを取得する。組成式判別部120は、母物質リストにおける複数の母物質を示す式のそれぞれと入力組成式との組成差分値を算出する。組成差分値の詳細説明は後述する。組成式判別部120は、算出された複数の組成差分値のうちの最小組成差分値と、最小組成差分値を算出する際に用いられた母物質を示す式とを取得する。組成式判別部120は、最小組成差分値が閾値以下であるか否かを判別する。最小組成差分値が閾値より大きいと判別された場合、組成式判別部120は、組成式に不採用ラベルを付与し、その旨を記述子算出部130に通知する。最小組成差分値が閾値以下であると判別された場合、組成式判別部120は、母物質を示す式と組成式との差分組成式を取得する。組成式判別部120は、差分組成式から1または複数の添加物の式を含む添加物リストを生成する。組成式判別部120は、母物質を示す式と添加物リストを含む情報を出力する。
【0072】
記述子算出部130は、組成式判別部120から入力組成式に不採用ラベルが付与されことを通知された場合、母物質を示す式及び添加物リストが生成されなかったと判断する。
【0073】
記述子算出部130は、母物質を示す式及び添加物リストが生成された場合、母物質を示す式及び添加物リストに対応する、所定の特性値の予測に必要な複数の記述子を算出する。
【0074】
記述子統合部140は、記述子算出部130が算出した複数の記述子を一つの数列に統合した材料記述子を生成する。
【0075】
特性値予測部102は、予測モデル記憶部223に記憶されている予測モデルを用いて、材料記述子から所定の特性値を予測する。特性値予測部102は、予測モデル記憶部223から読み出した予測モデルに材料記述子を入力し、予測モデルから出力された所定の特性値を得る。所定の特性値はパワーファクターを示す値または当該材料の電気抵抗率を示す値であってもよい。
【0076】
学習部103は、材料記述子生成部101によって生成された材料記述子を入力値として用いて予測モデルを学習させる。学習部103は、記述子統合部140から出力された材料記述子を用いて、予測モデル記憶部223に記憶されている予測モデルに対して機械学習を行う。機械学習としては、例えば、入力情報に対してラベル(出力情報)が付与された教師データを用いて入力と出力との関係を学習させる教師あり学習、ラベルのない入力からデータの構造を構築する教師なし学習、ラベルありとラベルなしのどちらも扱う半教師あり学習、状態の観測結果から選択した行動に対するフィードバック(報酬)を得ることにより、又は最も多く報酬を得ることができる連続した行動を学習させる強化学習などが挙げられる。また、機械学習の具体的な手法としては、ニューラルネットワーク(多層のニューラルネットワークを用いた深層学習を含む)、遺伝的プログラミング、決定木、ベイジアン・ネットワーク、又はサポート・ベクター・マシン(SVM)などが存在する。本開示の機械学習においては、以上で挙げた具体例のいずれかを用いればよい。
【0077】
本実施の形態1における材料特性値予測装置100は、材料の所定の特性値を予測する予測モードと、予測モデルを学習させる学習モードとに切り替え可能である。予測モードでは、入力取得部110は、入力部210によって入力された入力組成式を取得する。また、学習モードでは、入力取得部110は、材料情報記憶部221に予め記憶されている複数の入力組成式を取得し、学習部103は、複数の入力組成式のそれぞれから算出された材料記述子のそれぞれを予測モデルに入力することにより、予測モデルに対して機械学習を行う。
【0078】
出力部230は、特性値予測部102によって予測された所定の特性値を出力する。なお、出力部230は、表示装置であってもよく、特性値予測部102によって予測された特性値を表示してもよい。また、出力部230は、プリンターであってもよく、特性値予測部102によって予測された特性値を印刷してもよい。さらに、出力部230は、出力端子であってもよく、特性値予測部102によって予測された特性値を外部へ出力してもよい。
【0079】
なお、材料特性値予測装置100は、サーバであってもよい。この場合、材料特性値予測装置100は、入力部210及び出力部230を備えず、通信部をさらに備え、端末装置と通信可能に接続される。端末装置は、入力部210及び出力部230を備え、入力組成式の入力を受け付け、入力された組成式である入力組成式を材料特性値予測装置100へ送信する。材料特性値予測装置100は、入力組成式を端末装置から受信し、受信した入力組成式から所定の特性値を予測し、予測した所定の特性値を端末装置へ送信する。端末装置は、予測された所定の特性値を材料特性値予測装置100から受信する。
【0080】
図8は、本実施の形態1の組成式判別処理と従来の組成式判別処理との具体的な違いについて説明するための模式図である。
【0081】
本実施の形態1の組成式判別部120は、入力組成式(CaMn0.96Ru0.04)を構成する母物質を示す式(CaMnO)と添加物の式(Ru0.04)とを判別し、判別した母物質を示す式と1または複数の添加物の式を含む添加物リストとを記述子算出部130へ出力する。これに対し、従来の組成式判別部120Bは、入力組成式(CaMn0.96Ru0.04)から同比率組成式(CaMnRuO)を導出し、入力組成式と同比率組成式とを記述子算出部130へ出力する。
【0082】
次に、図9を用いて、本実施の形態1における材料特性値予測装置100の動作について説明する。
【0083】
図9は、本実施の形態1における材料特性値予測装置の動作について説明するためのフローチャートである。
【0084】
まず、ステップS301において、入力取得部110は、入力部210から入力組成式を取得する。
【0085】
次に、ステップS302において、組成式判別部120は、入力組成式から母物質を示す式と1または複数の添加物の式を含む添加物リストとを生成する生成処理を行う。なお、生成処理の詳細については、後述する。
【0086】
次に、ステップS303において、記述子算出部130は、組成式判別部120が母物質を示す式及び1または複数の添加物の式を含む添加物リストを生成したか否かを判断する。ここで、母物質を示す式及び添加物リストが生成されなかったと判断された場合、すなわち、入力組成式に不採用ラベルが付与された場合(ステップS303でNO)、処理が終了する。
【0087】
母物質を示す式及び添加物リストが生成されたと判断された場合(ステップS303でYES)、ステップS304において、記述子算出部130は、母物質を示す式の記述子及び添加物リストに含まれる1または複数の添加物を示す式それぞれの記述子を算出する。記述子算出部130は、1または複数の添加物を示す式にそれぞれ含まれる元素の既知のパラメータを材料情報記憶部221から取得し、取得した既知のパラメータを用いて当該添加物を示す式の記述子を算出または決定する。また、記述子算出部130は、母物質を示す式に含まれる各元素の既知のパラメータを材料情報記憶部221から取得し、取得した既知のパラメータの重み付き平均を母物質の記述子として算出する。母物質を示す式がCaMnOの場合であって、記述子として平均原子容積を求める場合、記述子算出部130は、{(Caの原子容積)+(Mnの原子容積)+(Oの原子容積)×3}/5を求める。
【0088】
なお、記述子算出部130が、組成式情報の他に特性値の予測に必要な情報が取得された場合、記述子算出部130は、特性値の予測に必要な情報の記述子も算出、または、決定する。
【0089】
1つの添加物を示す式について記述子を1つ計算または決定してもよいし、1つの添加物を示す式について記述子を複数計算または決定してもよい。
【0090】
1つの母物質を示す式について記述子を1つ計算してもよいし、1つの母物質を示す式について記述子を複数計算してもよい。
【0091】
次に、ステップS305において、記述子統合部140は、記述子算出部130によって算出された複数の記述子を統合した材料記述子を生成する。このとき、材料記述子は、記述子算出部130によって生成された全ての記述子を連結した数列であってもよい。
【0092】
材料記述子に含まれる1つの母物質を示す式についての記述子の数は1または複数であってもよい。例えば、図30に示すように当該1つの母物質を示す式がCaMnOの場合、CaMnOの材料記述子は、CaMnOの平均原子容積、及び、CaMnOの平均密度を含んでもよい。なお、CaMnOの平均密度は{(Caの平均密度)+(Mnの平均密度)+(Oの平均密度)×3}/5であってもよい。
【0093】
材料記述子に含まれる1つの添加物を示す式についての記述子の数は1または複数であってもよい。例えば、1つの添加物を示す式がRu0.04の場合、Ru0.04の材料記述子は、Ruの原子容積、及び/または、Ruの密度を含んでもよい。
【0094】
次に、ステップS306において、特性値予測部102は、記述子統合部140によって生成された材料記述子を用いて、材料の特性値を予測する。ここで、特性値予測部102が利用する予測モデルは、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト又はグリーディ算法などの機械学習、又は論理モデル式による近似を含んでもよい。
【0095】
図10は、母物質記述子及び添加物記述子を用いたニューラルネットワークの特性値予測又は機械学習の一例を示す図である。特性値予測部102は、母物質を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の添加物を示す式に対する1または複数の記述子とを予測モデルの入力層の複数のユニットに入力し、中間層、出力層に含まれるユニットの各々で入力信号と重み値に基づく計算を行い、予測モデルの出力層のユニットから出力される所定の特性値を予測結果として取得する。また、学習部103は、母物質を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の添加物を示す式に対する1または複数の記述子とを予測モデルの入力層の複数のユニットに入力し、予測モデルを学習させる。複数の記述子に対応する所定の特性の値を含むデータセットを複数含む学習データを用いて、学習を実行すればよい。
【0096】
図9に戻り、次に、ステップS307において、出力部230は、特性値予測部102によって予測された所定の特性値を出力する。
【0097】
続いて、本実施の形態1における図9のステップS302の生成処理の具体例について説明する。図9のステップS302の生成処理は、複数の入力組成式を構成する複数の母物質を示す複数の式を含む母物質リストが予めメモリ220に記憶されている場合と、母物質リストが予めメモリ220に記憶されていない場合とで異なる。ここで、母物質リストとは、例えば、「CaMn0.96Ru0.04」、「Nb0.95Ti0.05FeSb」という2つの材料の組成式が材料情報に含まれている場合に、事前に各々の材料の母物質を示す式である「CaMnO」、「NbFeSb」をリスト化したものである。なお、例えば、組成式「CaMn0.96Ru0.04」の母物質を示す式は母物質リスト中の「CaMnO」であると明示するタグを組成式に付加してもよい。
【0098】
本実施の形態1では、メモリ220が母物質リストを記憶しているため、図9のステップS302の生成処理は、母物質リストを用いて行われる。
【0099】
図11を用いて、本実施の形態1における図9のステップS302の生成処理を説明する。
【0100】
図11は、本実施の形態1における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャートである。
【0101】
まず、ステップS401において、組成式判別部120は、母物質リスト記憶部222から母物質リストを取得する。母物質リストに含まれる母物質の記述はCaMnOを含んでもよい。
【0102】
次に、ステップS402において、組成式判別部120は、母物質リストに含まれる各母物質を示す式と入力組成式との組成差分値を算出する。ここで、組成差分値は、2つの組成式の差分組成式における係数の絶対値の和とする。例えば、母物質を示す式「CaMnO」と入力組成式「CaMn0.96Ru0.04」との差分組成式は「Mn-0.04Ru0.04」であり、組成差分値は、「-0.04」の絶対値と、「0.04」の絶対値の和である「0.08」となる。
【0103】
例えば、母物質を示す式「CaMnO」と入力組成式「CaMn0.95Yb0.05」との差分組成式は「Mn-0.05Yb0.05」であり、組成差分値は、「-0.05」の絶対値と「0.05」の絶対値の和である「0.10」となる。
【0104】
差分組成式、組成差分値は下記のように定義できる。なお、一般的に組成式に含まれる元素記号の係数が1の場合は、「1」を記載しないが、以下の説明では、係数が1の場合も記載するものとして説明する。例えば、組成式がCaMnOの場合、CaMnと記載するものとする。
【0105】
A1、B1、・・・、A2、B2、・・・のそれぞれを元素記号とし、第1(組成)式をA1a1B1b1・・・、第2(組成)式をA2a2B2b2・・・とした場合、A1≠A2、B1≠B2である場合、第1(組成)式と第2(組成)式の差分(組成)式はA2a2B2b2・・・A1-a1B1-b1・・・であり、第1(組成)式と第2(組成)式の(組成)差分値は{|a2|+|b2|+・・・+|-a1|+|-b1|+・・・}である。なお、A2a2、B2b2、・・・、A1-a1、B1-b1、・・・の記載順番は任意である。
【0106】
A1=A2、B1≠B2である場合、第1(組成)式と第2(組成)式の差分(組成)式はA2(a2-a1)B2b2・・・B1-b1・・・であり、第1(組成)式と第2(組成)式の組成(差分)値は{|a2-a1|+|b2|+・・・+|-b1|+・・・}である。なお、A2(a2-a1)、B2b2、・・・、B1-b1、・・・の記載順番は任意である。
【0107】
A1=A2、B1≠B2、a2=a1である場合、第1(組成)式と第2(組成)式の差分(組成)式はB2b2・・・B1-b1・・・であり、第1(組成)式と第2(組成)式の(組成)差分値は{|b2|+・・・+|-b1|+・・・}である。なお、B2b2、・・・、B1-b1、・・・の記載順番は任意である。
【0108】
差分組成式、組成差分値は下記のように定義してもよい。
【0109】
現存する全118個の各元素に対応した118次元のベクトルを組成式ベクトル
【0110】
【数1】
【0111】
と定義する。組成式ベクトルにおいて、Aという元素に対応するベクトル要素をvと表記することとする。たとえば、vMnは組成式ベクトルにおけるMnに対応するベクトル要素を表す。
【0112】
CaMnOについての組成式ベクトルなら、vCaに1、vMnに1、vに3、それ以外のベクトル要素に0という数字をそれぞれ入れる。このCaMnOについての組成式ベクトルを
【0113】
【数2】
【0114】
と表記することとする。二つの組成式c1、c2があったとき、これらに対応する組成式ベクトルの差分ベクトル
【0115】
【数3】
【0116】
を導入する。
【0117】
このとき差分ベクトルにおいて、全ベクトル要素の絶対値の和を組成差分値dとする。つまり、
【0118】
【数4】
【0119】
である。
【0120】
また、対応するベクトル要素が0以外である全ての元素について、対応するベクトル要素値を係数として並べた組成式を差分組成式とする。例えば
【0121】
【数5】
【0122】
としたとき、この差分ベクトルは、v’Mn=-0.04、v’Ru=0.04、それ以外のベクトル要素が0の118次元のベクトルとなり、差分組成値はd=|-0.04|+|0.04|=0.08、差分組成式は係数が-0.04のMnと係数が0.04のRuとをならべてMn-0.04Ru0.04となる。差分組成式の元素の表記順は任意である。なお、差分組成値が0の場合は、差分組成式は存在しない。
【0123】
次に、ステップS403において、組成式判別部120は、最小組成差分値と、組成差分値が最小となる母物質を示す式とを特定する。例えば、入力組成式が「CaMn0.96Ru0.04」、「CaMn0.95Yb0.05」場合、最小組成差分値は「0.08」となる。ステップS402の説明で記載しように、CaMn0.96Ru0.04に関する組成差分値(=0.08)は、CaMn0.95Yb0.05に関する組成差分値(=0.10)よりも小さいからである。
【0124】
次に、ステップS404において、組成式判別部120は、最小組成差分値が閾値以下であるか否かを判断する。ここで、最小組成差分値が閾値以下であると判断された場合(ステップS404でYES)、ステップS405において、組成式判別部120は、最小組成差分値が閾値以下と判断した母物質を示す式と入力組成式との差分組成式を取得する。上記した例の場合、組成式判別部120は、差分組成式「Mn-0.04Ru0.04」を取得する。0.08(差分組成式「Mn-0.04Ru0.04」の組成差分値)<0.10(差分組成式「Mn-0.05Yb0.05」の組成差分値)だからである。
【0125】
次に、ステップS406において、組成式判別部120は、差分組成式から、添加物を示す式をリスト化した添加物リストを生成する。例えば、差分組成式が「Mn-0.04Ru0.04」であった場合に、添加物リストは、添加物を示す式「Ru0.04」を含み、被添加物を示す式「Mn-0.04」を含まなくてもよい。添加物リストは、添加物を示す式「Ru0.04」及び被添加物を示す式「Mn-0.04」の両方を含んでもよい。差分組成式の係数が正の数なら添加物、負の数なら被添加物である。
【0126】
次に、ステップS407において、組成式判別部120は、ステップS403で特定された母物質を示す式と、ステップS406で生成された添加物リストとを含む情報を記述子算出部130へ出力する。
【0127】
一方、ステップS404で最小組成差分値が閾値より大きいと判断された場合(ステップS404でNO)、ステップS408において、組成式判別部120は、入力組成式に不採用ラベルを付与する。
【0128】
なお、記述子統合部140は、材料情報記憶部221から、材料の構造情報及び/又は材料の実験環境情報などの材料特性値に影響を与え得る情報が取得した場合、記述子統合部140は、材料特性値に影響を与え得る情報から導出した記述子と入力組成式から算出した複数の記述子とを統合して1つの数列とした材料記述子を生成してもよい。材料の構造情報とは、例えば、材料の入力組成式に含まれる各元素の3次元位置情報を用いて導出されたパラメータ、又は材料の入力組成式に含まれる各元素の位置情報を用いて導出されたパラメータなどである。また、材料の実験環境情報とは、例えば、当該材料生成時の温度情報、又は、当該材料の特性測定時の温度情報、又は、材料の具体的な生成方法などである。材料組成式に含まれる母物質に含まれる複数の元素の複数の3次元位置の情報を用いて第一原理(first-principles)計算を行い求めたパラメータ、例えば、バンドギャップ及び/または有効質量を記述子として採用してもよい。
【0129】
図12は、実験環境情報から算出された記述子を含む材料記述子の一例を示す図である。図12において、実験環境情報から算出された記述子31は、母物質を示す式から算出された記述子32及び第1~第n添加物を示す式から算出された記述子33~1または複数の記述子3nと並べられ、1つの材料記述子を形成している。実験環境情報から算出された記述子31は1または複数の記述子であってもよい。
【0130】
なお、入力取得部110は、材料が生成される環境を示す実験環境情報を取得してもよい。記述子算出部130は、母物質を示す式に対応する記述子を算出し、添加物リストに含まれる少なくとも1つの添加物を示す式に対応する記述子を算出し、実験環境情報に対応する記述子を算出してもよい。
【0131】
推定モードにおいて、ユーザは入力部210から材料の入力組成式に対応する当該材料が生成される環境を示す実験環境情報を入力してもよい。入力取得部110は、入力部210から、材料が生成される環境を示す実験環境情報を、取得して、記述子算出部130、材料情報記憶部221に送付してもよい。材料情報記憶部221は当該情報を記憶してもよい。
【0132】
学習モードにおいて、材料情報記憶部221は複数の材料の組成式に対応する複数の材料が生成される環境を示す実験環境情報を予め保持してもよい。入力取得部110は、材料が生成される環境を示す実験環境情報を、材料情報記憶部221から取得し、記述子算出部130に送付してもよい。
【0133】
入力取得部110は、材料の構造を示す構造情報を取得してもよい。記述子算出部130は、母物質を示す式に対応する記述子を算出し、添加物リストに含まれる少なくとも1つの添加物を示す式に対応する記述子を算出し、構造情報に対応する記述子を算出してもよい。
【0134】
推定モードにおいて、ユーザは入力部210から材料の入力組成式に対応する当該材料の構造を示す構造情報を入力してもよい。入力取得部110は、入力部210から、材料の構造を示す構造情報を、取得して、記述子算出部130、材料情報記憶部221に送付してもよい。材料情報記憶部221は当該情報を記憶してもよい。
【0135】
学習モードにおいて、材料情報記憶部221は複数の材料の組成式に対応する複数の材料の構造を示す構造情報を予め保持してもよい。入力取得部110は、材料の構造を示す構造情報を、材料情報記憶部221から取得、記述子算出部130に送付してもよい。
【0136】
なお、記述子算出部130が生成する材料記述子に含まれる複数の記述子は、添加物を示す式に含まれる元素記号の係数を示す記述子を含んでもよい。記述子算出部130は、添加物リストに含まれる添加物を示す式に含まる元素記号の係数を記述子として材料記述子に追加してもよい。
【0137】
図13は、添加物を示す式に含まれる元素記号の係数を記述子として含む材料記述子の一例を示す図である。図13には入力組成式CaMn0.96Ru0.04から算出された材料記述子が例示記載されている。図13に示す記述子43は、第1添加物を示す式「Ru0.04」に含まれる元素記号Ruの係数0.04を表している。各添加物を示す式に含まれる元素記号の係数は、各添加物を示す式から算出された記述子の直前に配置される。
【0138】
記述子算出部130は、組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する添加物を示す式に含まれる元素記号の係数の割合を算出し、算出した割合を示す記述子を材料記述子に含めてもよい。
【0139】
図14は、入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する添加物の組成式に含まれる元素記号の係数の割合を示す記述子を含む材料記述子の一例を示す図である。図14には、入力組成式CaMn0.96Ru0.04から算出された材料記述子が例示記載されている。図14に示す記述子53は、入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する第1添加物を示す式に含まれる元素記号の係数の割合を示している。記述子53は、第1添加物であるRuの係数0.04を、入力組成式に含まれる全ての元素の係数の和5で割った値0.008を表している。入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する添加物の組成式に含まれる元素記号の係数の割合を添加物の割合と呼んでもよい。添加物の割合を示す記述子は、当該添加物を示す式から算出された記述子の直前に配置される。
【0140】
記述子算出部130が生成する材料記述子に含まれる複数の記述子は、被添加物を示す式に含まれる元素記号の係数を示す記述子を含んでもよい。被添加物とは、例えば、入力組成式CaMn0.96Ru0.04を母物質CaMnOと比較した際に、Ru0.04が添加されることで割合の少なくなったMnのことを示す。記述子算出部130は、添加物リストに含まれる少なくとも1つの添加物が添加されることにより割合が少なくなった被添加物の係数を記述子として追加してもよい。
【0141】
図15は、被添加物の係数を含む材料記述子の一例を示す図である。図15には、母物質組成式をCaMnOとして入力組成式CaMn0.96Ru0.04から算出された材料記述子が例示記載されている。このとき、Ru0.04は0.04追加された添加物、Mn0.96は0.04削減された被添加物である。図15に示した被添加物の係数を示す記述子は、この「0.04削減された」ことを「-0.04追加された」こととして記述する。図15に示す記述子63は、第1添加物を示す式「Ru0.04」の係数0.04を表しており、記述子65は、第1被添加物を示す式「Mn0.96」すなわち「Mn-0.04」の係数-0.04を表している。記述子63では、第1添加物Ruの係数がプラス符号で表現されているのに対し、記述子65では、被添加物Mnの係数がマイナス符号で表現されている。被添加物を示す式の係数を示す記述子は、当該被添加物を示す式から算出された記述子の直前または直後に配置される。
【0142】
なお、異なる組成式から計算された材料記述子の長さが異なる場合、当該長さを同じにしてもよい。つまり、組成式から計算される材料記述子は固定長としてもよい。一の組成式から算出された添加物を示す式の数と、他の組成式から算出された添加物を示す式の数が異なっても、当該一の組成式から算出された材料記述子と当該他の組成式から算出された材料記述子を1つのデータベースに含めるためである。当該データベースが含む複数の材料記述子は、例えば、入力ユニットの数が同一の予測モデルで使用される。
【0143】
以下、材料記述子を固定長として決定する方法を述べる。
【0144】
記述子統合部140が、記述子算出部130から、添加物を示す式から計算または決定される記述子を、予め定められた所定の数受け取らない場合、記述子統合部140は材料記述子の所定の箇所にゼロ又は平均値を配置する。なお、平均値については後で説明する。予め定められた所定の数は、例えば2以上の自然数であるnで、想定される入力組成式から導出される添加物を示す式の最大個数であってもよい。例えば、入力組成式「CaMn0.96Ru0.04」の添加物を示す式はRu0.04であり、その数は1つであるのに対し、入力組成式「Ca0.9Bi0.1Mn0.9Nb0.1」の添加物を示す式はBi0.1及びNb0.1であり、その数は2つである。入力組成式「Ca0.9Bi0.1Mn0.9Nb0.1」から算出された第1材料記述子は、当該2つの添加物を示す2つの式から算出または決定された第1記述子と第2記述子を含む。第1材料記述子の第1の箇所に第1記述子が配置され、第1材料記述子の第2の箇所に第2記述子が配置される。
【0145】
入力組成式「CaMn0.96Ru0.04」から算出された材料記述子は、当該1つの添加物を示す1つの式から算出または決定された第3記述子を含む。入力組成式「CaMn0.96Ru0.04」の材料記述子である第2材料記述子の第3の箇所に第3記述子が配置され、第2材料記述子の第4の箇所にゼロ又は平均値が配置される。
【0146】
第1材料記述子の長さと第2材料記述子の長さは同じある。第1材料記述子における第1の箇所と第2材料記述子における第3の箇所は同じ位置、かつ、第1材料記述子における第2の箇所と第2材料記述子における第4の箇所は同じ位置であってもよい。または、第1材料記述子における第1の箇所と第2材料記述子における第4の箇所は同じ位置、かつ、第1材料記述子における第2の箇所と第2材料記述子における第3の箇所は同じ位置であってもよい。
【0147】
これにより情報量を落とすことなく、複数の材料記述子を1つのデータベースとして用いて予測モデルを学習させることが可能となる。
【0148】
図16は、添加物を示す式から計算または決定された記述子を配置すべき箇所に、ゼロ又は平均値が配置された材料記述子の一例を示す図である。図16に示すように、材料記述子701において、第1添加物は存在するため、第1添加物を示す式から算出された記述子73は存在するが、第2添加物~第n添加物は存在しないため、第2添加物を示す式から算出された記述子74を配置すべき箇所、~、第n添加物を示す式から算出された記述子7nを配置すべき箇所にはゼロ又は平均値が配置される。なお、第1材料記述子に対する第i添加物が存在しない場合、記述子算出部130は、第2材料記述子に対する第i添加物、~、第n材料記述子に対する第i添加物のうち、存在する添加物に対する記述子の平均値を第1材料記述子の第i添加物の記述子として採用してもよい。第1材料記述子における第i添加物の記述子の位置、~、第n材料記述子における第i添加物の記述子の位置はデータ構造観点から同じ位置に存在する。
【0149】
例えば、図16において、材料記述子701の記述子74には、他の材料記述子701a~701cの中の第2添加物から算出される第2添加物記述子74a~74cの平均値が配置される。
【0150】
また、材料記述子における添加物を示す式から算出される記述子が配置される部分にゼロ又は平均値が配置される場合、当該部分の材料記述子における位置は、他の添加物を示す式から算出される記述子が配置される箇所であってもよい。
【0151】
図17は、添加物を示す式から計算または決定された記述子を配置すべき箇所に、ゼロ又は平均値が配置された材料記述子の他の例を示す図である。図17に示すように、入力組成式は、1つの添加物を示す式Ru0.04を有しているが、当該添加物を示す式から算出または決定される記述子は、第1添加物を示す式から算出または決定される記述子83が配置される位置ではなく、第2添加物を示す式から算出または決定される記述子84が配置される位置に配置されてもよい。そして、第1添加物を示す式から算出または決定される記述子83が配置される位置には、ゼロ又は平均値が配置され、第3~第n添加物を示す式から算出される記述子85~8nが配置される位置には、ゼロ又は平均値が配置されてもよい。
【0152】
なお、実験環境記述子を用いる場合は、図18に示すように、実験環境記述子は、母物質記述子及び添加物記述子と並べて予測モデルに入力してもよい。
【0153】
図18は、母物質記述子、添加物記述子及び実験環境記述子を用いたニューラルネットワークの特性値予測又は機械学習の一例を示す図である。図18に示すように、特性値予測部102は、母物質を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の添加物を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の実験環境の1または複数の記述子とを予測モデルの入力層の複数のユニットに入力し、予測モデルの出力層のユニットから出力される所定の特性値を予測結果として取得する。また、学習部103は、母物質を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の添加物を示す式に対する1または複数の記述子と、1または複数の実験環境の1または複数の記述子とを予測モデルの入力層の複数のユニットに入力し、予測モデルを学習させる。なお、図18において、実験環境記述子だけでなく、1または複数の構造情報の1または複数の記述子も、母物質を示す式に対する1または複数の記述子、及び、1または複数の添加物を示す式に対する1または複数の記述子と並べて予測モデルに入力してもよい。複数の記述子に対応する所定の特性の値を含むデータセットを複数含む学習データを用いて、学習を実行すればよい。
【0154】
なお、本実施の形態1において、学習部103は、添加物記述子を用いず、かつ、母物質記述子を用いて予測モデルを学習させる第1学習ステップと、母物質記述子及び添加物記述子を用いて予測モデルを学習させる第2学習ステップとを含む多段階の学習を行ってもよい。
【0155】
図19は、母物質記述子及び添加物記述子を用いたニューラルネットワークの多段階の機械学習の一例を示す図である。図19に示すように、第1学習ステップにおいて、学習部103は、添加物記述子を用いず、かつ、母物質記述子を用いてニューラルネットワークを学習させ、第2学習ステップにおいて、学習部103は、母物質記述子及び添加物記述子を用いてニューラルネットワークを学習させる。なお、実験環境記述子及び構造情報記述子なども、同じように第3学習ステップ以降に段階的に追加し、ニューラルネットワークを多段階で学習させてもよい。
【0156】
(実施の形態2)
本実施の形態1では、メモリ220が母物質リストを記憶しているが、本実施の形態2では、メモリ220が母物質リストを記憶していない。
【0157】
図20は、本実施の形態2における材料特性値予測装置の構成を示す図である。本実施の形態2における材料特性値予測装置100Aは、プロセッサ200Aと、入力部210と、メモリ220Aと、出力部230とを備える。プロセッサ200Aは、材料記述子生成部101Aと、特性値予測部102と、学習部103とを備える。また、材料記述子生成部101Aは、入力取得部110と、組成式判別部120Aと、記述子算出部130と、記述子統合部140とを備える。メモリ220Aは、材料情報記憶部221と、予測モデル記憶部223とを備える。なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同じ構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0158】
組成式判別部120Aは、入力取得部110から取得した入力組成式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とを選択する。組成式判別部120Aは、係数が閾値より大きいか否かを判断する。組成式判別部120Aは、係数が閾値以下であると判断された場合、1の元素記号を添加物リストへ追加する。組成式判別部120Aは、係数が閾値より大きいと判断された場合、1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせを母物質元素リストへ追加する。組成式判別部120Aは、入力組成式に含まれる全ての元素記号について上記処理を行った後、母物質元素リストに含まれる複数の要素、つまり、複数の「1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせ」を統合した母物質を示す式を導出する。組成式判別部120Aは、母物質と添加物リストとを出力する。
【0159】
本実施の形態2における材料特性値予測装置100Aの動作は、図9に示す実施の形態1における材料特性値予測装置100の動作と同じであるので、説明を省略する。本実施の形態2と実施の形態1との異なる動作は、図9のステップS302の生成処理である。
【0160】
本実施の形態2では、メモリ220が母物質リストを記憶していないため、図9のステップS302の生成処理は、母物質リストを用いることなく行われる。
【0161】
図21を用いて、本実施の形態2における図9のステップS302の生成処理を説明する。
【0162】
図21は、本実施の形態2における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャートである。
【0163】
まず、ステップS501において、組成式判別部120Aは、入力組成式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とを選択する。
【0164】
次に、ステップS502において、組成式判別部120Aは、選択した係数が閾値より大きいか否かを判断する。なお、閾値は、例えば0.5である。ここで、係数が閾値より大きいと判断された場合(ステップS502でYES)、ステップS503において、組成式判別部120Aは、選択した1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせを母物質元素リストへ追加する。例えば、1の元素記号がMnであり、1の元素記号の係数が0.96であった場合、小数部分を繰り上げた係数は1となり、「Mn」が母物質元素リストへ追加される。なお、1の元素記号の係数が1.5であった場合、小数部分を繰り上げた係数は、2となる。
【0165】
一方、係数が閾値以下であると判断された場合(ステップS502でNO)、ステップS504において、組成式判別部120Aは、選択した1の元素記号と、選択した係数との組み合わせを添加物リストへ追加する。
【0166】
次に、ステップS505において、組成式判別部120Aは、入力組成式に含まれる全ての元素記号が選択されたか否かを判断する。ここで、全ての元素記号が選択されていないと判断された場合(ステップS505でNO)、ステップS501に処理が戻る。
【0167】
一方、全ての元素記号が選択されたと判断された場合(ステップS505でYES)、ステップS506において、組成式判別部120Aは、母物質元素リストに含まれる複数の要素、つまり、複数の「1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせ」を統合することにより、母物質を示す式を導出する。例えば、母物質元素リストが[Ca,Mn,O]であった場合に、母物質元素リスト内の全ての要素を繋げた「CaMnO」が母物質を示す式として導出される。
【0168】
次に、ステップS507において、組成式判別部120Aは、入力組成式の係数の和が、母物質を示す式の係数の和と同じであるか否かを判断する。
【0169】
ここで、入力組成式の係数の和が、母物質を示す式の係数の和と同じであると判断された場合(ステップS507でYES)、ステップS508において、組成式判別部120Aは、母物質を示す式と添加物リストとを記述子算出部130へ出力する。
【0170】
例えば、入力組成式がCaMn0.96RU0.04であり、母物質を示す式がCaMnOとして導出された場合、(入力組成式の係数の和)=(1+0.96+0.04+3)=5であり、(母物質を示す式の係数の和)=(1+1+3)=5である。
【0171】
一方、入力組成式の係数の和が、母物質を示す式の係数の和と異なると判断された場合(ステップS507でNO)、ステップS509において、組成式判別部120Aは、入力組成式に不採用ラベルを付与する。
【0172】
なお、本実施の形態2において、組成式判別部120Aは、ステップS507の判断処理を行わなくてもよい。この場合、組成式判別部120Aは、ステップS506で母物質を示す式を導出した後、ステップS508で母物質を示す式と添加物リストとを記述子算出部130へ出力してもよい。
【0173】
なお、組成式判別部120Aは、母物質を示す式をメモリ220Aに送付し、メモリ220Aを当該母物質の示す式を記録してもよい。上記実施形態2で説明した処理を複数の入力組成式に行い、メモリ220Aに複数の母物質を示す式を記録し、当該記録した複数の母物質を示す式を含む母物質リストを生成してもよい。この生成した母物質リストは実施の形態1で説明した母物質リストとして使用してもよい。
【0174】
(実施の形態3)
本実施の形態1では、メモリ220が母物質リストを記憶している。本実施の形態3では、実施の形態2と同様の判別処理で母物質を示す式を導出し、導出した母物質を示す式が母物質リストに存在するかを確認する。
【0175】
図22は、本実施の形態3における材料特性値予測装置の構成を示す図である。本実施の形態3における材料特性値予測装置100Bは、プロセッサ200Bと、入力部210と、メモリ220と、出力部230とを備える。プロセッサ200Bは、材料記述子生成部101Bと、特性値予測部102と、学習部103とを備える。また、材料記述子生成部101Bは、入力取得部110と、組成式判別部120Bと、記述子算出部130と、記述子統合部140とを備える。メモリ220は、材料情報記憶部221と、母物質リスト記憶部222と、予測モデル記憶部223とを備える。なお、本実施の形態3において、実施の形態1と同じ構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0176】
組成式判別部120Bは、複数の母物質を示す式を含む母物質リストを母物質リスト記憶部222から取得する。組成式判別部120Bは、入力取得部110から取得した入力組成式における元素記号の係数の和が整数であるか否かを判断する。組成式判別部120Bは、入力組成式における元素記号の係数の和が整数であると判断された場合、入力組成式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とを選択する。組成式判別部120Bは、係数が閾値より大きいか否かを判断する。組成式判別部120Bは、係数が閾値以下であると判断された場合、1の元素を添加物リストへ追加する。組成式判別部120Bは、係数が閾値より大きいと判断された場合、1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせを母物質元素リストへ追加する。
【0177】
組成式判別部120Bは、組成式に含まれる全ての元素記号について上記処理を行った後、母物質元素リストに含まれる複数の要素、つまり、複数の「1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせ」を統合した母物質を示す式を導出する。組成式判別部120Bは、導出した母物質を示す式が母物質リストに存在するか否かを判断する。組成式判別部120Bは、母物質を示す式が母物質リストに存在すると判断された場合、母物質を示す式と添加物リストとを出力する。組成式判別部120Bは、入力組成式における係数の和が整数ではないと判断された場合、又は母物質を示す式が母物質リストに存在しないと判断された場合、入力組成式に不採用ラベルを付与する。
【0178】
本実施の形態3における材料特性値予測装置100Bの動作は、図9に示す実施の形態1における材料特性値予測装置100の動作と同じであるので、説明を省略する。本実施の形態3と実施の形態1との異なる動作は、図9のステップS302の生成処理である。
【0179】
本実施の形態3では、メモリ220が母物質リストを記憶しているため、図9のステップS302の生成処理は、母物質リストを用いて行われる。
【0180】
図23を用いて、本実施の形態3における図9のステップS302の生成処理を説明する。
【0181】
図23は、本実施の形態3における図9のステップS302の生成処理について説明するためのフローチャートである。
【0182】
まず、ステップS601において、組成式判別部120Bは、母物質リストを母物質リスト記憶部222から取得する。
【0183】
次に、ステップS602において、組成式判別部120Bは、入力組成式に含まれる元素記号の係数の和が整数であるか否かを判断する。この判断は、添加物に対応する被添加物が明確にわかる材料を生成の対象とするために行われる。ここで、入力組成式の係数の和が整数ではないと判断された場合(ステップS602でNO)、ステップS611に処理が移行する。
【0184】
一方、入力組成式の係数の和が整数であると判断された場合(ステップS602でYES)、ステップS603において、組成式判別部120Bは、入力組成式から1の元素記号と当該1の元素記号の係数とを選択する。
【0185】
次に、ステップS604において、組成式判別部120Bは、選択した係数が閾値より大きいか否かを判断する。なお、閾値は、例えば0.5である。ここで、係数が閾値より大きいと判断された場合(ステップS604でYES)、ステップS605において、組成式判別部120Bは、選択した1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせを母物質元素リストへ追加する。
【0186】
一方、係数が閾値以下であると判断された場合(ステップS604でNO)、ステップS606において、組成式判別部120Bは、選択した1の元素記号と、選択した係数との組み合わせを添加物リストへ追加する。
【0187】
次に、ステップS607において、組成式判別部120Bは、入力組成式に含まれる全ての元素記号が選択されたか否かを判断する。ここで、全ての元素記号が選択されていないと判断された場合(ステップS607でNO)、ステップS603に処理が戻る。
【0188】
一方、全ての元素記号が選択されたと判断された場合(ステップS607でYES)、ステップS608において、組成式判別部120Bは、母物質元素リストに含まれる複数の要素、つまり、複数の「1の元素記号と係数の小数部分を繰り上げて生成した新係数との組み合わせ」を統合することにより、母物質を示す式を導出する。
【0189】
次に、ステップS609において、組成式判別部120Bは、導出した母物質を示す式が母物質リストに存在するか否かを判断する。この判断は、実際に存在する物質を扱うために行われる。ここで、母物質を示す式が母物質リストに存在すると判断された場合(ステップS609でYES)、ステップS610において、組成式判別部120Bは、母物質を示す式と添加物リストとを記述子算出部130へ出力する。
【0190】
一方、母物質を示す式が母物質リストに存在しないと判断された場合(ステップS609でNO)、又は入力組成式に含まれる元素記号の係数の和が整数ではないと判断された場合(ステップS602でNO)、ステップS611において、組成式判別部120Bは、入力組成式に不採用ラベルを付与する。
【0191】
本実施の形態3の材料特性値予測装置100B及び公開データベースを用いて実験を行い、材料特性予測の効果検証を行った実験結果について説明する。具体的な実験の概要は次のとおりである。
【0192】
まず、材料情報として利用したデータベースは、非特許文献3に記載のUCSB-MRL thermoelectric database(UCSB)である。このデータベースは、熱電材料の特性をまとめた公開データベースであり、総材料数は、1093である。
【0193】
また、予測した特性値は、パワーファクター及び電気抵抗率である。
【0194】
実際に利用した材料を示す式(入力組成式)の数は、456であり、母物質を示す式の数は、46である。材料情報として使用するデータは、母物質を示す式と添加物を示す式とが図23に示したフローチャートで機械的に判別可能なデータであり、母物質を示す式が非特許文献4に記載のInorganic Crystal Structure Database(ICSD)に存在するデータであり、温度情報(300K、400K、700K及び1000Kのいずれか)付きのデータを選別した。
【0195】
当該実験で用いた材料記述子は、材料の特性測定時の温度を示す記述子を含む。
【0196】
当該実験で用いた材料記述子は、図14を用いて説明した、入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する添加物を示す式に含まれる元素記号の係数の割合を示す記述子を含む。
【0197】
当該実験で用いた材料記述子iにより表現される材料iがj番目の添加物を含まない場合、材料記述子iにおけるj番目の添加物に対する記述子を記載すべき場所には、平均値を配置した。なお、平均値は図16に関連して説明した。
【0198】
また、同じ母物質を示す式を持つ材料データが学習データとテストデータとの両方に存在しないよう、母物質ラベルごとにデータを分割した。予測した特性値は、クロスバリデーションの結果の平均である。
【0199】
また、パワーファクターの学習方法は、ランダムフォレストを利用し、木の数は500で固定した。電気抵抗率の学習方法は、ニューラルネットワークを利用し、中間層は、素子数が記述子数の2倍であり、層数が4層であり、全ての素子を結合させた。
【0200】
実験では、本実施の形態3の手法で予測した特性値のRMSE(Root Mean Square Error)と、非特許文献2の従来の手法で予測した特性値のRMSEとを比較した。
【0201】
図24は、本実施の形態3における実験の結果を示す図である。図24に示すように、パワーファクター及び電気抵抗率のいずれも、本実施の形態3において提案する記述子を用いることで、予測精度が向上していることがわかる。
【0202】
(実施の形態4)
本実施の形態では実施の形態1の予測モデルがニューラルネットワーク装置であるとして説明する。なお、実施の形態2及び/または実施の形態3に示す予測モデルが本実施の形態に示すニューラルネットワーク装置であってもよい。
【0203】
以下では、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。まず、本実施の形態を説明するための準備として、ニューラルネットワーク装置に関する一般的な事項について説明する。
【0204】
図25は、本実施の形態4におけるニューラルネットワーク装置の概念を説明する図である。ニューラルネットワーク装置は、周知のように、生物のニューラルネットワークを模した計算モデルに従って演算を行う演算装置である。
【0205】
図25に示されるように、ニューラルネットワーク装置2100は、ニューロンに相当する複数のユニット2105(白丸で示されている)を、入力層2101、隠れ層2102、及び出力層2103に配置して構成される。隠れ層2102は、一例として、2つの隠れ層2102a、2102bで構成されているが、単一の隠れ層若しくは3以上の隠れ層で構成されてもよい。
【0206】
入力層2101に近い層を下位層とし、出力層2103に近い層を上位層とするとき、ユニットは、下位層に配置された複数のユニットから受信した複数の演算結果と複数の重み値に基づいた演算を行い、当該演算結果を上位層に配置されたユニットに送信する計算要素である。
【0207】
ニューラルネットワーク装置2100の機能は、ニューラルネットワーク装置2100が有する層の数や各層に配置されるユニットの数を表す構成情報と、ユニットでの演算に用いられる重み値を表す重み値W=[w1,w2,・・・]とで定義される。
【0208】
ニューラルネットワーク装置2100によれば、入力層2101の各ユニット2105に入力データX=[x1,x2,・・・]が入力されることにより、隠れ層2102及び出力層2103のユニット2105において重み値W=[w1,w2,・・・]を用いた演算がなされ、出力層2103の各ユニット2105から出力データY=[y1,y2,・・・]が出力される。図25では出力層2103は複数のユニットを有するが、出力層は1つユニットを有し、出力層は当該1つのユニットから出力される1つの出力データY=y1が出力されてもよい。
【0209】
以下では、入力層2101、隠れ層2102、及び出力層2103に配置されるユニット2105を、それぞれ、入力ユニット、隠れユニット、及び出力ユニットとも言う。
【0210】
本開示では、ニューラルネットワーク装置2100の具体的な実装について限定しない。ニューラルネットワーク装置2100は、例えば、再構成可能なハードウェアで実現されてもよく、また、ソフトウエアによるエミュレーションによって実現されてもよい。
【0211】
本開示では、ニューラルネットワーク装置2100の学習の具体的な方法を限定しない。すなわち、ニューラルネットワーク装置2100の学習は以下で述べる方法以外の周知の学習方法に従って行われてもよい。
【0212】
図26は、本実施の形態4における材料特性値予測装置の構成を示す図である。本実施の形態4における材料特性値予測装置1100は、プロセッサ1200と、入力部1210と、メモリ1220と、出力部230とを備える。プロセッサ1200は、材料記述子生成部1101と、特性値予測部1102と、学習部1103とを備える。また、材料記述子生成部1101は、入力取得部1110と、組成式判別部120と、記述子算出部130と、記述子統合部140とを備える。プロセッサ1200に含まれる各部は、例えば、マイクロプロセッサが所定のプログラムを実行することにより発揮されるソフトウエア機能として実現されもよい。メモリ1220は、材料情報記憶部1221と、母物質リスト記憶部222と、予測モデル記憶部1223とを備える。
【0213】
なお、予測モデルは予測モデル記憶部1223と特性値予測部1102を含み、予測モデルは図25に示したニューラルネットワーク装置2100である。本実施の形態4における材料特性値予測装置1100は、ユーザの指示により、ニューラルネットワーク装置2100を学習させる学習モード、または、ニューラルネットワーク装置2100に材料の特性値を予測させる予測モードに切り替え可能である。
【0214】
学習モードでの材料特性値予測装置1100と予測モードでの材料特性値予測装置1100の動作は以下の通りである。
【0215】
<学習モードでの材料特性値予測装置の動作>
図26図27を用いて、本実施の形態4における材料特性値予測装置1100の学習モードでの動作を説明する。
【0216】
図27は本実施の形態4における材料特性値予測装置の学習モードでの動作を説明するためのフローチャートである。
【0217】
材料情報記憶部1221は、予め第1材料情報を保持する。第1材料情報は[(材料の組成式)、(材料の構造)、(材料が生成される環境)、(材料の特性値)、・・・]、~、[(材料の組成式)、(材料の構造)、(材料が生成される環境)、(材料の特性値)、・・・]を含む。第1材料情報は、複数の元素それぞれの既知のパラメータを1または複数含んでもよい。元素の既知のパラメータは原子容積値、または、共有結合半径値、または、密度値であってもよい。
【0218】
材料が生成される環境とは、当該材料の生成時の温度情報及び/又は当該材料の特性測定時の温度であってもよい。
【0219】
材料の特性値は当該材料のパワーファクターを示す値または当該材料の電気抵抗率を示す値であってもよい。
【0220】
また、第1材料情報は、複数の元素それぞれの既知のパラメータを1または複数含む。記述子算出部130は、母物質から記述子を生成する際及び添加物から記述子を生成する際、この情報を参照する。元素の既知のパラメータは平均原子容積値、または、平均共有結合半径値、または、平均密度値であってもよい。
【0221】
入力部1210は、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネルで構成され、種々の情報のユーザによる入力を受け付ける。
【0222】
入力部1210がユーザから材料特性値予測装置100を学習モードに切り替える指示を受け付けると、入力取得部1110は材料情報記憶部1221から第2材料情報に含まれる(材料の組成式)、~、(材料の組成式)を取得する(S1301)。
【0223】
予測モデル記憶部1223は、ニューラルネットワーク装置2100の構成情報を含む。構成情報は、ニューラルネットワーク装置2100が有する層の数、層ごとに配置されるユニットの数を示す情報を含む。
【0224】
予測モデル記憶部1223は、ユニットで行われる演算に用いられる重み値W=[w1,w2,・・・]を含む。ニューラルネットワーク装置2100を学習させる前は、重み値W=[w1,w2,・・・]は、初期重み値Wi=[wi1,wi2,・・・]である。ニューラルネットワーク装置2100を学習させた後は、重み値W=[w1,w2,・・・]は、調整された重み値Wt=[wt1,wt2,・・・]である。
【0225】
特性値予測部1102は、入力データXを受け取る。
【0226】
特性値予測部1102は、入力データXが入力ユニットに与えられたとき、上述した構成情報によって示されるユニットの配置に従って、重み値Wを用いた演算を行う。
【0227】
特性値予測部1102は、出力ユニットから出力データYを出力する。出力データYは出力ユニットで行われた演算結果であると考えてもよい。
【0228】
学習部1103はニューラルネットワーク装置2100を学習させる(S1306)。
【0229】
図28は、本実施の形態4における図27のステップS1306の学習処理について説明するためのフローチャートである。
【0230】
実施の形態1おけるステップS302~S305に示した処理と同様の処理が(材料の組成式)、~、(材料の組成式)のそれぞれについて行われた後、学習部1103は、記述子統合部140から、(材料記述子)、~、(材料記述子)を取得する。なお、(材料記述子)は(材料の組成式)から生成され、~、(材料記述子)は(材料の組成式)から生成される。(S1510)
学習部1103は材料情報記憶部1221に記録された第1材料情報を参照し、材料記述子と材料の特性値を対応づけて学習データを生成する。すなわち、学習部1103は、学習データ={(ラベル付きデータ)=[(材料記述子),(材料の特性値)]、~、(ラベル付きデータ)=[(材料記述子),(材料の特性値)]}を生成する(S1520)。
【0231】
学習部1103は、学習部1103が生成した学習データと予測モデル記憶部1223が保持する初期重み値Wi=[wi1,wi2,・・・]を用いて、教師あり学習によって、調整された重み値Wt=[wt1,wt2,・・・]を決定する(S1530)。
【0232】
教師あり学習では、例えば、学習データに含まれる材料記述子をニューラルネットワーク装置2100へ入力し、ニューラルネットワーク装置2100が出力データを出力した場合、当該出力データと当該材料記述子に対応する材料の特性値(=ラベル)との誤差を表す損失関数を定義し、勾配降下法により当該損失関数の値を減少させる勾配に沿って重み値を更新してもよい。
【0233】
なお、「学習データに含まれる材料記述子をニューラルネットワーク装置2100へ入力し、ニューラルネットワーク装置2100が出力データを出力する」動作は、「学習データに含まれる材料記述子を特性値予測部1102へ入力し、特性値予測部1102が出力データを出力する」と考えてもよい。
【0234】
教師あり学習を行う前に、layer-wise pre-trainingと呼ばれる教師なし学習によって、重み値を層ごとに調整してもよい。これにより、その後の教師付き学習によって、より正確な評価ができる重み値が得られる。
【0235】
教師なし学習では、例えば、ニューラルネットワーク装置2100への入力データ及び重み値を用いて、材料の特性値であるラベルに依存しない評価値を表す損失関数を定義し、勾配降下法により当該損失関数を減少させる勾配に沿って重み値を更新してもよい。
【0236】
ニューラルネットワーク装置2100に入力される入力データに、正規化、しきい値処理、ノイズ除去、及びデータサイズの統一などを含むデータ整形処理を行ってもよい。正規化は、入力データに限らず、材料の特性値であるラベルに対して行ってもよい。
【0237】
入力データX=[入力層の第1ユニットへの入力データ,入力層の第2ユニットへの入力データ,・・・]=[x1,x2,・・・]とすると、入力データX=[実験環境から決定された第1記述子,実験環境から決定された第2記述子,・・・,母物質を示す式から決定された第1記述子,母物質を示す式から決定された第2記述子,・・・,第1添加物を示す式に含まれる元素記号の係数,第1添加物から決定された第1記述子,第1添加物から決定された第2記述子,・・・,第n添加物を示す式に含まれる元素記号の係数,第n添加物から決定された第1記述子,第n添加物から決定された第2記述子,・・・]であってもよい。
【0238】
出力データY=[出力層の第1ユニットから出力データ]=[y1]とすると、出力データ=[入力組成式で示される材料のパワーファクターを示す値]または出力データ=[入力組成式で示される材料の電気抵抗率を示す値]であってもよい。
【0239】
実験環境から決定された第1記述子は該材料の生成時の温度情報、実験環境から決定された第2記述子は当該材料の特性測定時の温度であってもよい。
【0240】
第1添加物を示す式に含まれる元素記号の係数、・・・、第n添加物を示す式に含まれる元素記号の係数に代えて、入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する第1添加物の組成式に含まれる元素記号中の割合、・・・、入力組成式に含まれる全ての元素記号の係数の和に対する第n添加物の組成式に含まれる元素記号中の割合を使用してもよい。
【0241】
入力データは上記入力データから、実験環境から決定された記述子、すなわち、実験環境から決定された第1記述子、実験環境から決定された第2記述子、・・・を除いたものであってもよい。
【0242】
入力データは上記入力データから、第1添加物を示す式に含まれる元素記号の係数、・・・第n添加物を示す式に含まれる元素記号の係数を除いたものであってもよい。
【0243】
入力データは上記入力データから、入力データは上記入力データから、第1添加物を示す式に含まれる元素記号の係数、・・・第n添加物を示す式に含まれる元素記号の係数、実験環境から決定された記述子、すなわち、実験環境から決定された第1記述子、実験環境から決定された第2記述子、・・・を除いたものであってもよい。
【0244】
<予測モードでの材料特性値予測装置の動作>
図26図29を用いて、本実施の形態4における材料特性値予測装置1100の予測モードでの動作を説明する。
【0245】
図29は本実施の形態4における材料特性値予測装置の予測モードでの動作を説明するためのフローチャートである。
【0246】
入力部1210はユーザから材料特性値予測装置1100を予測モードに切り替える指示を受け付けた後、入力部1210は、ユーザから、材料の特性値の予測を所望する材料の組成式の情報を含む第2材料情報の入力を受け付け、入力取得部1110へ送信する。入力部1210は、材料の特性値の予測を所望する材料の組成式に対応する材料の構造を示す情報及び/または材料の特性値の予測を所望する材料の組成式に対応する材料が生成される実験環境を示す情報のユーザによる入力を受け付け、第2材料情報はこれらの情報を含んでもよい。
【0247】
入力取得部110は、入力部1210から材料の組成式を受け取る。材料の組成式を入力組成式と呼んでもよい。
【0248】
ニューラルネットワーク装置2100は、記述子統合部140によって生成された材料記述子を、入力ユニットへの入力として受け取ると、ニューラルネットワーク装置2100は、予測モデル記憶部1223に記憶されている構成情報によって示されるユニットの配置に従って、調整された重み値Wtを用いた演算を行い、材料の特性値を出力ユニットから出力する。上記した動作は、「特性値予測部1102は、記述子統合部140によって生成された材料記述子を受け取る。特性値予測部1102は、受け取った材料記述子を入力とし、予測モデル記憶部1223に記憶されている構成情報によって示されるユニットの配置に従って、調整された重み値Wtを用いた演算を行い、材料の特性値を出力する」と考えてもよい(S2306)。
【0249】
以上で、実施の形態4の説明を終える。
【0250】
本開示において、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部、又は図に示されるブロック図の機能ブロックの全部又は一部は、半導体装置、半導体集積回路(IC)、又はLSI(Large Scale Integration)を含む一つ又は複数の電子回路によって実行されてもよい。LSI又はICは、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、一つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIやICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、若しくはULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができるReconfigurable Logic Deviceも同じ目的で使うことができる。
【0251】
さらに、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部の機能又は操作は、ソフトウエア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウエアは一つ又は複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウエアが処理装置(Processor)によって実行されたときに、そのソフトウエアで特定された機能が処理装置(Processor)および周辺装置によって実行される。システム又は装置は、ソフトウエアが記録されている一つ又は複数の非一時的記録媒体、処理装置(Processor)、及び必要とされるハードウエアデバイス、例えばインターフェース、を備えていてもよい。
【0252】
本開示では、予測モデルの具体的な実装について限定しない。予測モデルは、例えば、再構成可能なハードウェアで実現されてもよく、また、ソフトウエアによるエミュレーションによって実現されてもよい。
【0253】
各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0254】
本開示に係る材料記述子生成方法、材料記述子生成装置及び材料記述子生成プログラムは、材料の特性値の予測性能を向上させることができるので、材料の所定の特性値を予測する予測モデルに入力される記述子を生成する材料記述子生成方法、材料記述子生成装置及び材料記述子生成プログラムとして有用である。
【0255】
また、本開示に係る予測モデル構築方法、予測モデル構築装置及び予測モデル構築プログラムは、材料の特性値の予測性能を向上させることができるので、材料の所定の特性値を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築方法、予測モデル構築装置及び予測モデル構築プログラムとして有用である。
【符号の説明】
【0256】
100,100A,100B,1100 材料特性値予測装置
101,101A,101B,1101 材料記述子生成部
102,1102 特性値予測部
103,1103 学習部
110,1110 入力取得部
120,120A,120B 組成式判別部
130 記述子算出部
140 記述子統合部
200,200A,200B,1200 プロセッサ
210,1210 入力部
220,220A,1220 メモリ
221,1221 材料情報記憶部
222 母物質リスト記憶部
223,1223 予測モデル記憶部
230 出力部
2100 ニューラルネットワーク装置
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