(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】抗がん剤、がん治療用医薬組成物、及びキット
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20231208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231208BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231208BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231208BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231208BHJP
A61K 31/739 20060101ALI20231208BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20231208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61P35/00
A61K35/74 D
A61P37/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/739
A61K38/19
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020551142
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039487
(87)【国際公開番号】W WO2020075672
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018191262
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019030897
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509284129
【氏名又は名称】バイオコモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福村 正之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 順平
(72)【発明者】
【氏名】野阪 哲哉
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103310(WO,A1)
【文献】特開2016-102113(JP,A)
【文献】特表2016-517269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示
するウイルスを有効成分として含有する、抗がん剤
であって、
前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し、
前記少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドは、マウス若しくはヒトOX40L、マウス若しくはヒト4-1BBL、マウス若しくはヒトGITRL、マウス若しくはヒトCD27L、又はマウス若しくはヒトCD30Lであり、
前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスであり、
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、抗がん剤。
【請求項2】
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示するウイルスを有効成分として含有する、抗がん剤であって、
前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し、
前記少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドは、マウスOX40L、マウス若しくはヒト4-1BBL、マウス若しくはヒトGITRL、マウス若しくはヒトCD27L、又はマウス若しくはヒトCD30Lであり、
前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30Lは、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHNのCT配列に置換されており、
前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスであり、
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、抗がん剤。
【請求項3】
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、請求項
1又は
2に記載の抗がん剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗がん剤を含有する、がん治療用医薬組成物。
【請求項5】
更に、第二の抗がん剤を含有する、請求項
4に記載のがん治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、請求項
5に記載のがん治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、請求項
5又は
6に記載のがん治療用医薬組成物。
【請求項8】
更に、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を含有する、請求項
4~
7のいずれか一項に記載のがん治療用医薬組成物。
【請求項9】
腫瘍内投与に用いられる、請求項
4~
8のいずれか一項に記載のがん治療用医薬組成物。
【請求項10】
がんの治療に用い
、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
キットであって、
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスと、第二の抗がん剤と、を含
み、
前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し、
前記少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドは、マウス若しくはヒトOX40L、マウス若しくはヒト4-1BBL、マウス若しくはヒトGITRL、マウス若しくはヒトCD27L、又はマウス若しくはヒトCD30Lであり、
前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスであり、
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、キット。
【請求項11】
がんの治療に用い、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、キットであって、
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスと、第二の抗がん剤と、を含み、
前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し、
前記少なくとも1種類のTNFレセプタースーパーファミリーのリガンドは、マウスOX40L、マウス若しくはヒト4-1BBL、マウス若しくはヒトGITRL、マウス若しくはヒトCD27L、又はマウス若しくはヒトCD30Lであり、
前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30Lは、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHNのCT配列に置換されており、
前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスであり、
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、キット。
【請求項12】
前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、請求項
10又は
11に記載のキット。
【請求項13】
前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、請求項
10~
12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、請求項
10~
13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
更に、パントエア菌
のリポ多糖(LPS)を含有する、請求項
10~
14のいずれか一項に記載のキット。
【請求項16】
腫瘍内投与に用いられる、請求項
10~
15のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤、がん治療用医薬組成物、及びキットに関する。
本願は、2018年10月9日に、日本に出願された特願2018-191262号、及び、2019年2月22日に、日本に出願された特願2019-030897号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は、PD-1/PD-L1のような免疫抑制機構の亢進が一因となって増殖することがある。抗PD-1抗体のような免疫チェックポイント阻害剤は亢進した負の免疫逃避機構を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5159730号公報
【文献】国際公開第2016/199936号
【文献】特開2016-102113号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】BMC Cancer,(2018)18:425
【文献】Clin.Cancer Res.,(2017):23(3)、707
【文献】Eur.J.Immunol.,(2002)32:3617
【文献】Sci. Rep.,(2018)8:2278
【文献】Transplantation Proceedings, (2016)48:1270
【文献】Clin Cancer Res.,(2018)24(8):1816
【文献】JEADV,(2017)31:1324
【文献】Cancer Res.,(2013)73:7189
【文献】Sci.Transl.Med.,(2018)10(426), eaan4488.
【文献】Gene Ther.,(2014)21(8):775
【文献】Hum Gene Ther.,(2013)24(7):683
【文献】Front. Immunol.,(2013)4:11
【文献】Blood.(2014)123(14):2172
【文献】Nat Commun.,(2018)9:4679
【文献】Clin.Cancer Res.,(2017)23:1929
【文献】Nat Commun.,(2019)10:2141
【文献】FEBS J.,(2008)275:2296
【文献】J.Immunol., (2009)183(3):1851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、負の免疫を阻害する免疫チェックポイント阻害剤だけでは抑制することが難しいがん種も多い。そこで、樹状細胞の活性化、および積極的にがん細胞を攻撃する正の免疫機構を賦活化、すなわちナチュルラルキラー細胞(NK細胞)、CD4陽性ヘルパーT細胞、及び細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化し、がん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍免疫活性化剤の開発が進められている。
【0006】
T細胞、NK細胞等に発現するTNFレセプタースーパーファミリー(TNFRSF、以降、特に受容体を示す場合にはTNFSF受容体と、リガンドを示す場合にはTNFSFリガンドと表記)のCD134(OX40)、CD137(4-1BB)、GITR、CD27、CD30等の分子は正の免疫を活性化することにより、CTL等の抗腫瘍免疫効果を示す。進行性固形がんは遠隔転移も多く、従来法での対応困難な患者に対して腫瘍溶解性ウイルス等の腫瘍内投与による処置が試みられており、全身性に誘導された抗腫瘍免疫作用が遠隔がんにも作用している可能性が報告されている。
すなわち、固形がんへの薬剤投与により、CTL等の全身性の抗腫瘍免疫作用を亢進させることにより、投与部位から離れた遠隔がんの抑制が可能となると考えられる。そのためには樹状細胞の活性化及びCD134(OX40)、CD137(4-1BB)、GITR、CD27、CD30等、TNFRSFのシグナル活性化を通して、NK細胞、T細胞機能を強化することにより、遠隔がんへの抗腫瘍効果が可能となる。
【0007】
T細胞等に発現したこれら受容体を刺激するのは、生体内では免疫細胞に発現したTNFSFリガンドタンパク質である。当該リガンドタンパク質は3量体を形成し、受容体(レセプター又はRとも表記)タンパク質と結合することによりシグナルを効率よく伝達する。しかし、リガンドタンパク質単独では効率よくシグナルを伝達することができないため、タンパク質製剤として利用することは容易ではない。そのために、受容体と結合しシグナルを効率よく伝達するアゴニスト抗体がもっぱら作出・利用されてきた。
【0008】
抗体医薬品として、例えばCD20を高発現する悪性リンパ腫において抗CD20抗体(リツキシマブは)は、CD20陽性がん細胞に直接結合し、抗体のFc部位が、FcRを発現するマクロファージ・NK細胞等と結合し、その結果、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)・補体依存性細胞傷害活性(CDC活性)等によりがん細胞を障害する抗体医薬品である。直接がん細胞に結合し腫瘍を抑制するタイプの抗体は、多数市販され、大きな収益を上げている。
また、免疫チェックポイント阻害抗体(ニボルマブ等)は、PD-1とPD-L1/L2の結合を阻害することにより負の免疫シグナルを遮断し、CTL等の抗腫瘍免疫を賦活化させる。免疫チェックポイント阻害抗体も既に市販され大きな収益を上げている。
【0009】
一方、TNFRSFシグナルを活性化するアゴニスト抗体は、全身投与による非臨床試験で高い抗腫瘍効果が示されたが、抗4-1BBアゴニスト抗体の臨床試験において有効性が示される一方で高い肝毒性が報告され(非特許文献15参照)、一旦試験が中断される等の問題が生じた。そのために、抗体医薬品として市販化に至っていない。
また、GITRアゴニスト抗体(DTA-1)を用いた動物試験においても過剰投与によりアナフィラキシーショックが報告されている(非特許文献13参照)。
【0010】
アゴニスト抗体は、単独でTNFSF受容体に結合し、シグナルを伝えることが可能である。受容体にはシステインリッチドメイン(CRD)が4ヶ所ある。アゴニスト抗体により結合するCRDドメインが異なり、シグナル伝達強度に差異が生じる。その強度により毒性も異なるとされる(非特許文献14参照)。
【0011】
また、ヒト抗体は6種類のIgGサブクラスがある。それらのFc領域は、免疫細胞等表面に存在する活性化FcγRに結合しITAMモチーフを通してシグナルを活性化する特性、反対に細胞表面の抑制性FcγRIIBに結合しITIMモチーフを通してシグナルを抑制する特性、又はFcRに結合しない特性を有する。ヒトIgG1抗体は活性化FcγRに結合し、ADCC/CDC活性を増強し、ヒトIgG4はFcRには結合しないとされる。
一方、抑制性FcγRIIBのKOマウスでは、TNFRSFシグナルを利用した抗腫瘍免疫が全く機能しないことも報告されている。ヒトでの肝毒性が報告された抗4-1BBアゴニスト抗体のUrelumabは、CRD1に結合するIgG4抗体である。肝毒性は肝臓に浸潤したCD8陽性T細胞によって引き起こされる。
現在アゴニスト抗体のこれらの問題を克服するための研究が精力的に続けられている一方で、アゴニスト抗体に代わるTNFRSFシグナルを活性化する手段が必要とされている。
【0012】
OX40、4-1BB、GITR及びCD30は、通常状態の細胞では発現しておらず、刺激を受けて数時間から数日に渡って発現が維持され、その後減衰する。
従って、抗体に代えてウイルスベクター等に自然界に存在するTNFSFリガンドの遺伝子を発現させTNFRSFシグナルを活性化する場合、リガンドは受容体の発現に合わせて供給される必要がある。通常の遺伝子供給用のベクターは、目的細胞に感染し、遺伝子が転写・翻訳後に目的のタンパク質が供給されるため、リガンドの発現にタイムラグが生じ、受容体の発現のタイミングとリガンドの供給のタイミングと量の調整が容易ではない。
【0013】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、抗腫瘍効果に優れた抗がん剤、がん治療用医薬組成物、及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の態様を含む。
[1]所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスを有効成分として含有する、抗がん剤。
[2]前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFのリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示する、[1]に記載の抗がん剤。
[3]前記少なくとも1種類のTNFSFのリガンドは、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体である、[2]に記載の抗がん剤。
[4]前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されている、[3]に記載の抗がん剤。
[5]前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルス(hPIV2)である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗がん剤。
【0015】
[6]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、[5]に記載の抗がん剤。
[7]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、[5]又は[6]に記載の抗がん剤。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の抗がん剤を含有する、がん治療用医薬組成物。
[9]更に、第二の抗がん剤を含有する、[8]に記載のがん治療用医薬組成物。
[10]前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、[9]に記載のがん治療用医薬組成物。
【0016】
[11]前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、[9]又は[10]に記載のがん治療用医薬組成物。
[12]更に、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を含有する、[8]~[11]のいずれかに記載のがん治療用医薬組成物。
[13]腫瘍内投与に用いられる、[8]~[12]のいずれかに記載のがん治療用医薬組成物。
[14]がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスと、第二の抗がん剤と、を含むキット。
[15]前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示する、[14]に記載のキット。
【0017】
[16]前記少なくとも1種類のTNFSFリガンドはOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体である、[15]に記載のキット。
[17]前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されている、[16]に記載のキット。
[18]前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスである、[14]~[17]のいずれかに記載のキット。
[19]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、[18]に記載のキット。
[20]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、[18]又は[19]に記載のキット。
【0018】
[21]前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤、及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、[14]~[20]のいずれかに記載のキット。
[22]前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、[14]~[21]のいずれかに記載のキット。
[23]更に、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を含有する、[14]~[22]のいずれかに記載のキット。
[24]腫瘍内投与に用いられる、[14]~[23]のいずれかに記載のキット。
【0019】
[25]パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を有効成分として含有する、抗がん剤。
[26][25]に記載の抗がん剤を含有する、がん治療用医薬組成物。
[27]更に、所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスを含有する、[26]に記載のがん治療用医薬組成物。
[28]前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFリガンドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示する、[27]に記載のがん治療用医薬組成物。
[29]前記少なくとも1種類のTNFSFリガンドは、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体である、[28]に記載のがん治療用医薬組成物。
[30]前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されている、[29]に記載のがん治療用医薬組成物。
【0020】
[31]前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスである、[27]~[30]のいずれかに記載のがん治療用医薬組成物。
[32]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、[31]に記載のがん治療用医薬組成物。
[33]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、[31]又は[32]に記載のがん治療用医薬組成物。
[34]更に、第二の抗がん剤を含有する、[26]~[33]に記載のがん治療用医薬組成物。
[35]前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤、及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、[34]に記載のがん治療用医薬組成物。
【0021】
[36]前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、[34]又は[35]に記載のがん治療用医薬組成物。
[37]腫瘍内投与に用いられる、[26]~[36]に記載のがん治療用医薬組成物。
[38]がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)と、
所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスと、を含むキット。
[39]前記ウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFリガンドをエンベロープ上に提示する、[38]に記載のキット。
[40]前記少なくとも1種類のTNFSFリガンドはOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体である、[39]に記載のキット。
【0022】
[41]前記OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは、同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されている、[40]に記載のキット。
[42]前記ウイルスは、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスである、[38]~[41]に記載のキット。
[43]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムよりF遺伝子を欠失した非増殖型である、[42]に記載のキット。
[44]前記ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化している、[42]又は[43]に記載のキット。
[45]更に、第二の抗がん剤を含有する、[38]~[44]に記載のキット。
[46]前記第二の抗がん剤は、免疫活性化剤、及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む、[45]に記載のキット。
[47]前記第二の抗がん剤は、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体、又は抗CD30アゴニスト抗体を含む、[45]又は[46]に記載のキット。
[48]腫瘍内投与に用いられる、[38]~[47]に記載のキット。
【0023】
[49]OX40L若しくは抗OX40アゴニスト抗体、4-1BBL若しくは抗4-1BBアゴニスト抗体、GITRL若しくは抗GITRアゴニスト抗体、CD27L若しくは抗CD27アゴニスト抗体、及びCD30L若しくは抗CD30アゴニスト抗体からなる群から選ばれる少なくとも2つを含む、がん治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、抗腫瘍効果に優れた抗がん剤、がん治療用医薬組成物、及びキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、BC-PIV/OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30L作製用プラスミドの説明図である。具体的には、F遺伝子を欠失したhPIV2構築用プラスミドのNotI又はMluI制限酵素切断部位に所望遺伝子を導入するための構築図である。
【
図2】
図2は、マウスOX40Lを導入したBC-PIVの感染細胞及びBC-PIV粒子におけるOX40L発現と取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図3】
図3は、マウス4-1BBLを導入したBC-PIVの感染細胞及びBC-PIV粒子における4-1BBLの発現と取込みをウエスタンブロットにより確認した図である
【
図4】
図4は、ヒトOX40Lを導入したBC-PIV粒子におけるヒトOX40L取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図5】
図5は、ヒト4-1BBLを導入したBC-PIVの感染細胞及びBC-PIV粒子におけるヒト4-1BBLの発現と取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図6】
図6は、マウス及びヒトGITRLを導入したBC-PIV粒子におけるマウス及びヒトGITRLの取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図7A】
図7Aは、マウス及びヒトCD27Lを導入したBC-PIV粒子におけるマウス及びヒトCD27Lの取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図7B】
図7Bは、マウス及びヒトCD30Lを導入したBC-PIV粒子におけるマウス及びヒトCD30Lの取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図8】
図8は、BC-PIVへのマウス及びヒトのTNFSFリガンドの2個導入する組合せを示す図である。
【
図9】
図9は、BC-PIVへのマウスOX40L及び4-1BBLの2つを導入したBC-PIV粒子における両者の取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図10】
図10は、BC-PIVへのマウスGITRL+OX40L又はマウスGITRL+4-1BBLの2つをそれぞれ導入したBC-PIV粒子における両者の取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図11】
図11は、BC-PIVへのヒトOX40L及び4-1BBLの2つを導入したBC-PIV粒子における両者の取込みをウエスタンブロットにより確認した図である。
【
図12】
図12は、マウスOX40L又は4-1BBL保持BC-PIVに対する、マウスOX40受容体又は4-1BB受容体タンパク質の結合を確認した図である。
【
図13】
図13は、ヒトOX40L保持BC-PIVに対する、ヒトOX40受容体タンパク質の結合を確認した図である。
【
図14】
図14は、BC-PIVに取込まれた、マウス4-1BBL、4-1BBL-PIV2-HN CT及びヒトCD27Lを非還元/還元状態で多量体構造の状態を確認した図である。
【
図15】
図15は、マコモ共生パントエア菌より熱(121℃、20分)+冷EtOHによる抽出法により調製したLPSの銀染色図である。
【
図16】
図16は、熱(121℃、20分)+冷EtOHによる抽出法により調製したLPSによるNK細胞の活性化を確認した図である。
【
図17】
図17は、BC-PIV、BC-PIV/OX40L、抗OX40アゴニスト抗体投与によるCT26大腸がんに対する経時的な抗腫瘍効果を示す図である。
【
図18】
図18は、BC-PIV、抗OX40アゴニスト抗体、LPSのCT26大腸がんに対する抗腫瘍効果を示す図である。
【
図19】
図19は、BC-PIV、抗OX40アゴニスト抗体、LPSのCT26大腸がんに対する抗腫瘍効果を示す図である。
【
図20】
図20は、LPSのCT26大腸がんに対する影響を経時的に腫瘍容量変化で示した図である。
【
図21】
図21は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/OX40L等投与4日後のCT26腫瘍の増殖の様子を示す図である。
【
図22】
図22は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/OX40L等投与10日後のCT26腫瘍の増殖の様子を示す図である。
【
図23】
図23は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT等投与4日後のCT26腫瘍の増殖の様子を示す図である。
【
図24】
図24は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT等投与10日後のCT26腫瘍の増殖の様子を示す図である。
【
図25】
図25は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/OX40L等投与によるCT26大腸がんに対する経時的な抗腫瘍効果を示す図である。
【
図26】
図26は、NK細胞阻害剤及びCD4/8陽性T細胞阻害剤の有無条件でBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT等投与によるCT26大腸がんに対する経時的な抗腫瘍効果を示す図である。
【
図27】
図27はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT等投与によるB6マウスのB16マウスメラノーマ腫瘍に対する経時的な抗腫瘍効果を示す図である。
【
図28】
図28は、BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT等投与3日後のB6マウスのB16マウスメラノーマ腫瘍の様子を示す図である。
【
図29】
図29は、ウイルス作製用プラスミドのNotI部位にOX40L又は4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子を導入して作製したBC-PIVの抗腫瘍効果を示す図である。
【
図30】
図30は、OX40L及び4-1BBLの2個の遺伝子導入したBC-PIVによる抗腫瘍効果を示す図である。
【
図31】
図31は、GITRL、CD27L又はCD30L単独保持BC-PIV及びGITRL/OX40L又はGITRL/4-1BBLの2つリガンドタンパク質保持BC-PIVよる抗腫瘍効果を示す図である。
【
図32】
図32は、不活化BC-PIV/OX40L又は不活化BC-PIV/4-1BBLによる抗腫瘍効果を示す図である。
【
図33】
図33は、CD30Lを導入したBC-PIVによる抗腫瘍効果を示す図である。
【
図34】
図34は、不活化BC-PIV/OX40L又は不活化BC-PIV/4-1BBLによる抗腫瘍効果を示す図である。
【
図35】
図35は、hPIV2以外のエンベロープウイルス(RSウイルス)へのヒトOX40Lの取込みを示す図である。
【
図36】
図36は、hPIV2の以外のエンベロープウイルス(PIV5)へのヒトOX40Lの取込みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L(CD70)、及びCD30L(CD153)]
これらリガンドの受容体であるOX40(CD134)、4-1BB(CD137)、GITR(CD357)、CD27及びCD30は 、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー(TNFRSF)のメンバーである。OX40、4-1BB、GITR、CD30は、活性化CD4陽性T細胞、活性化CD8陽性T細胞、NK細胞等で誘導的に発現する。
治療予後良好患者の腫瘍内にOX40及び4-1BB陽性リンパ球の増加が報告されている(非特許文献1、非特許文献2参照。)。活性化CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞でTNFSF受容体とリガンドの結合を介したシグナル伝達、制御性T細胞の抑制サイトカインの産生等が誘発され、腫瘍抗原に対するTCRシグナル、CD28シグナルと共に、腫瘍特異的CTLが誘導される。
【0027】
[OX40(CD134)及びOX40L]
活性化CD4陽性T細胞等の膜上に存在する3量体OX40は、同じく3量体で抗原提示細胞(APC)表面に存在するOX40Lと結合することにより、各種機能が活性化される。効率的な活性化には、OX40及びOX40Lのホモトリマー形成と立体構造の維持が重要であるとされ、CD40-CD40Lの相互作用、Toll様受容体等の刺激を受けて誘導的に発現する。
OX40Lは、樹状細胞等により、抗原刺激24-120時間後に誘導される分子である(非特許文献3参照。)。OX40Lの発現は、活性化B細胞、樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)が主であるとされてきたが、NK細胞やマスト細胞での発現も確認されている。
【0028】
ヒトとマウスのOX40Lのアミノ酸配列の相同性はそれほど高いとはいえないが、立体構造は類似している。OX40-OX40L結合により、PI3K/PKB、NF-kB、NFATシグナルの活性化によりT細胞の増殖、生存、サイトカイン産生等がおこる。
特に、CD4陽性T細胞と抗原提示細胞間のOX40とOX40L結合による機能はよく研究されており、活性化CD4陽性T細胞は種々のサイトカインを分泌する。IL-4分泌によるオートクライン作用によりTh2型T細胞が分化し、IL-12及びTh1型サイトカインの分泌によるTh1型のT細胞に分化することが知られている。
特に、Th1型T細胞は、がん細胞を直接攻撃するCTLの活性化に寄与する。また、免疫を負に制御する制御性T細胞には、OX40は恒常的に発現し、APCのOX40Lの発現により、制御性T細胞の作用が抑制されることが知られ、OX40/OX40Lシグナルは負の免疫機構を抑制し、抗腫瘍効果に寄与する。
【0029】
NK細胞は、骨髄中の前駆細胞から作られ、がん細胞、ウイルス感染細胞、紫外線や酸化ストレスを受けた炎症細胞などを標的にする。抗原による前感作なしに細胞傷害活性を発揮できるのが特徴である。NK細胞にOX40が発現することは報告されていたが、その機能についてはほとんど報告がなかった。
しかし、最近マウスのB細胞悪性リンパ腫細胞株(BCL1)を用いた治療モデルで抗CD20抗体に加え、抗OX40アゴニスト抗体を追加することにより、マウスの生存期間が40%延長されることが報告された(非特許文献4参照。)。NK細胞をアシアロGM1抗体で抑制すると生存期間の延長が認められなかったことから、NK細胞でのOX40の発現とそのシグナルは抗腫瘍効果に寄与していると考えられる。
ヒトNK細胞のin vitro試験において、NK細胞上でOX40に加えて4-1BBの発現も上昇、例えば抗CD20抗体刺激後、OX40は24時間後、4-1BBは4時間後に顕著に上昇したと報告されている(非特許文献4参照。)。これは、OX40受容体及び4-1BB受容体に結合するOX40L及び4-1BBLの発現も刺激後早期に起こる必要があることを示す。また、NK細胞上のOX40の発現には、T細胞や単球細胞との接触が必要であることも示されており抗原による前感作なしに細胞傷害活性を発揮するNK細胞ではあるが、抗腫瘍効果を発揮するためにはT細胞との連携が重要であり、単にNK細胞単独では効率的な抗腫瘍免疫が誘導されないと考えられる。
【0030】
[4-1BB及び4-1BBL]
4-1BB及び4-1BBLも、OX40及びOX40Lと同様に、それぞれ3量体でその機能が高まり(非特許文献17、18参照)、その機能はCD4陽性T細胞やNK細胞におけるOX40及びOX40Lと類似している。一方で、サリドマイド処理Treg細胞で、OX40の発現は強く抑制されたが、4-1BBは変化がなかったとされ(非特許文献5参照。)、OX40と4-1BBは全く同じ機能を担っているのではないと考えられる。
【0031】
[抗OX40アゴニスト抗体及び抗4-1BBアゴニスト抗体]
組換え体OX40L及び4-1BBL単量体タンパク質の投与では抗腫瘍効果がほとんどなく、TNFRSFシグナルを活性化させるために、通常抗OX40アゴニスト抗体又は抗4-1BBアゴニスト抗体が使用される。これらアゴニスト抗体の使用により、非臨床腫瘍治療試験で腫瘍退縮や腫瘍増殖効果が多数報告されている。
また、抗OX40アゴニスト抗体及び抗4-1BBアゴニスト抗体を用いた臨床試験が多数実施されている(非特許文献6、7、8参照。)。
一方、抗4-1BBアゴニスト抗体Urelumabは臨床試験において、抗腫瘍効果が示された一方で、肝毒性が報告された(非特許文献15参照)。最近、Urelumab及び他の抗4-1BBアゴニスト抗体であるUtomilumabの特性が調べられた(非特許文献16参照)。4-1BB受容体は4つのシステインリッチドメイン(CRD1-4)をもち、これらにリガンド又はアゴニスト抗体が結合することにより、シグナルが活性化される。Urelumabは、CRD1に結合するヒトIgG4抗体で、Utomilumabは、CRDの3及び4に結合するヒトIgG2抗体であり、抗体の特性が異なる。これら抗体とマウスの脾臓細胞とCD8陽性T細胞との共培養試験において、Urelumabは脾臓細胞及びCD8陽性T細胞のいずれの細胞との共培養でもIFNγを誘導できたが、Utomilumabは脾臓細胞との共培養ではIFNγを誘導できたが、CD8陽性T細胞のみでの共培養ではIFNγを誘導できなかった。これ等の結果から、Urelumabにより活性化されたCD8陽性T細胞は単独で活性化し、当該CD8陽性T細胞が肝臓に浸潤し肝毒性が誘発されたものと考えられている。
アゴニスト抗体については、CRDとの結合部位及びFc-FcγRとの結合等、安全性の面でまだ解決すべき課題があると考えられる。
【0032】
[GITR及びGITRL]
GITR(グルココルチコイド誘発性腫瘍壊死因子受容体)は、OX40及び4-1BB同様活性化CD4/8陽性T細胞及び制御性T細胞に最も多く発現している。GITRとGITRLの結合によりTNFRSFシグナルが活性化するほかに、T細胞受容体(TCR)の活性化、制御性T細胞の活性抑制にも寄与している。刺激後24-72時間後に発現が上昇し、数日間発現が続く。GITRアゴニスト抗体を用いたマウスの抗腫瘍試験で、GITRアゴニスト抗体により腫瘍内の制御性T細胞が減少し、CTL活性が上昇する。多数の抗GITRアゴニスト抗体の開発が進められている。
【0033】
[CD27及びCD27L]
CD27はTNFRSFに属する受容体分子で、CD27L(CD70)はそのカウンタパートとなるリガンドである。CD27Lはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫等の悪性腫瘍細胞に発現している。受容体のCD27はナイーブT細胞及び制御性T細胞に恒常的に発現するとされ、OX40、4-1BB、GITR及びCD30と発現状態が異なる。CD27とCD27Lの結合により、T細胞の活性化補助、T細胞の分化等のエフェクター機能およびメモリー機能がある。Celldex社により、CD27に対するアゴニスト抗体が、卵巣がん、頭頚部がん、グリオブラストーマ及び腎細胞がんに対して、フェーズ2試験が実施されている。CD27Lは関節リウマチ患者や乾癬性関節炎患者の滑膜由来のT細胞等で増加が認められている。
【0034】
[CD30及びCD30L]
CD30はTNFRSFに属する受容体分子で、CD30Lはそのカウンタパートとなるリガンドで、活性化CD4/8陽性T細胞に発現する。CD30は未分化大細胞を含む様々なリンパ腫と関連している。
【0035】
最近の論文で、Toll様受容体(TLR)9を活性化する非メチル化CpG DNAがCD4陽性T細胞のOX40の発現を上昇させることができ、複数移植固形がんの一カ所にCpGと共に抗OX40アゴニスト抗体を投与すると、投与部位だけでなく、遠隔部位のがんも退縮させる効果があることが報告された(非特許文献9参照。)。つまり、固形がんへの投与、さらに遠隔がんの退縮又はがん増殖抑制には、抗OX40、抗4-1BB、抗GITR、抗CD27及び抗CD30のアゴニスト抗体投与のみでは不十分で、CD4陽性T細胞やNK細胞でこれらの受容体の発現が重要である。
【0036】
[BC-PIVベクター及びVLP. BC-PIVベクター]
本発明者らは、マイナス一本鎖RNAウイルスであるパラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ルブラウイルス属に属するヒトパラインフルエンザ2型ウイルス(以後hPIV2という。) の膜融合(Fusion)タンパク質(F膜タンパク質又はFタンパク質)をコードするF遺伝子を機能しないように欠失させ、当該F遺伝子が恒常的に発現するように組込まれたVero細胞を樹立し、当該細胞で2次感染性粒子が産生しないよう作製されたBC-PIVベクターを構築した(非特許文献10参照。)。
【0037】
当該ベクターでは、感染宿主で2次感染性粒子が産生されないため高い安全性が担保される。当該ベクターは外来遺伝子を導入することができ、RNAベクターの特性を活かし、感染細胞で高い外来遺伝子発現が認められる。
更に、BC-PIVは、抗原導入に特徴をもつ。その特徴は、抗原遺伝子だけでなく、外来のウイルス外膜等の大型抗原タンパク質の立体構造を維持した状態で、BC-PIVエンベロープ上に、hPIV2のHN膜タンパク質及びF膜タンパク質と共存させることができ、効率的なワクチン用ベクターとして利用できる(非特許文献10参照。)。
中和抗体誘導に立体構造が必須とされる、当該ウイルス以外のウイルスの高分子量膜タンパク質を当該ベクターに導入し、中和抗体の誘導に成功している。また、抗原をエンベロープ上に導入したBC-PIVはゲノムを不活化してもベクターとしての利用が可能である(VLP. BC-PIV)。不活化の際、非増殖型ベクターであるために、通常のウイルス不活化処理より遥かに低濃度の薬剤で処理することが可能で、導入抗原の免疫原性を維持することができる(非特許文献11、特許文献2参照。)。
【0038】
好ましい実施形態では、BC-PIVは、固形がんを治療する治療薬を提供し、当該治療薬は、OX40L遺伝子又はOX40Lの細胞内領域のcytoplasmic tail(CT)配列を、hPIV2 HNのCT配列に置換したOX40L-PIV2-HN CT遺伝子を保持する。
これには、当該ベクターを直接固形がんに注入する方法も含む。OX40L又はOX40L-PIV2-HN CTは、遺伝子形式だけでなく、タンパク質形式でもBC-PIV又はVLP. BC-PIV上に取込まれる。当該タンパク質は、NK細胞のBC-PIV認識による細胞傷害活性やIFNγ等のサイトカインの産生作用と相まって、BC-PIV等によるプライミングにより短時間のうちに活性化されたT細胞、NK細胞等のOX40受容体と相互作用し、腫瘍に対する免疫作用を生じる。
【0039】
一つの好ましい形態では膜外領域を含むOX40Lをウイルスエンベロープ上に搭載するエンベロープ型ウイルスである。より好ましい形態では、OX40L又はOX40L-PIV2-HN CTを、遺伝子形式かつタンパク質形式で保持するBC-PIV又はOX40LあるいはOX40L-PIV2-HN CTをタンパク質形式で保持するVLP. BC-PIVである。
【0040】
また、別の好ましい実施形態では、BC-PIVは、固形がんを治療する治療薬を提供し、当該治療薬は、4-1BBL遺伝子又は4-1BBLの細胞内領域のcytoplasmic tail(CT)配列をhPIV2 HNのCT配列に置換した4-1BBL -PIV2-HN CT遺伝子を保持する。
これには、当該ベクターを直接固形がんに注入する方法も含む。4-1BBL又は4-1BBL-PIV2-HN CTは、遺伝子形式だけでなく、タンパク質形式でもBC-PIV又はVLP. BC-PIV上に取込まれる。当該タンパク質は、NK細胞のBC-PIV認識による細胞傷害活性やIFNγなどのサイトカインの産生作用と相まって、BC-PIV等によるプライミングにより短時間のうちに活性化されたT細胞、NK細胞等の4-1BB受容体と相互作用し、腫瘍に対する免疫作用を生じる。
【0041】
一つの好ましい形態では膜外領域を含む4-1BBLをウイルスエンベロープ上に搭載するエンベロープ型ウイルスである。より好ましい形態では、4-1BBL又は4-1BBL-PIV2-HN CTを遺伝子形式かつタンパク質形式で保持するBC-PIV又は4-1BBL若しくは4-1BBL-PIV2-HN CTをタンパク質形式で保持するVLP. BC-PIVである。
【0042】
また、別の好ましい実施形態では、BC-PIVは、固形がんを治療する治療薬を提供し、当該治療薬は、GITRL遺伝子又はGITRLの細胞内領域のcytoplasmic tail(CT)配列をhPIV2 HNのCT配列に置換したGITRL-PIV2-HN CT遺伝子を保持する。
これには、当該ベクターを直接固形がんに注入する方法も含む。GITRL又はGITRL-PIV2-HN CTは、遺伝子形式だけでなく、タンパク質形式でもBC-PIV又はVLP. BC-PIV上に取込まれる。当該タンパク質は、NK細胞のBC-PIV認識による細胞傷害活性やIFNγなどのサイトカインの産生作用と相まって、BC-PIV等によるプライミングにより短時間のうちに活性化されたT細胞、NK細胞等のGITR受容体と相互作用し、腫瘍に対する免疫作用を生じる。
【0043】
一つの好ましい形態では膜外領域を含むGITRLをウイルスエンベロープ上に搭載するエンベロープ型ウイルスである。より好ましい形態では、GITRL又はGITRL-PIV2-HN CTを遺伝子形式かつタンパク質形式で保持するBC-PIV又はGITRL若しくはGITRL-PIV2-HN CTをタンパク質形式で保持するVLP. BC-PIVである。
【0044】
また、別の好ましい実施形態では、BC-PIVは、固形がんを治療する治療薬を提供し、当該治療薬は、CD27L遺伝子又はCD27Lの細胞内領域のcytoplasmic tail(CT)配列をhPIV2 HNのCT配列に置換したCD27L-PIV2-HN CT遺伝子を保持する。
これには、当該ベクターを直接固形がんに注入する方法も含む。CD27L又はCD27L-PIV2-HN CTは、遺伝子形式だけでなく、タンパク質形式でもBC-PIV又はVLP. BC-PIV上に取込まれる。当該タンパク質は、NK細胞のBC-PIV認識による細胞傷害活性やIFNγなどのサイトカインの産生作用と相まって、BC-PIV等によるプライミングにより短時間のうちに活性化されたT細胞、NK細胞等のCD27受容体と相互作用し、腫瘍に対する免疫作用を生じる。
【0045】
一つの好ましい形態では膜外領域を含むCD27Lをウイルスエンベロープ上に搭載するエンベロープ型ウイルスである。より好ましい形態では、CD27L又はCD27L-PIV2-HN CTを遺伝子形式かつタンパク質形式で保持するBC-PIV又はCD27L若しくはCD27L-PIV2-HN CTをタンパク質形式で保持するVLP. BC-PIVである。
【0046】
また、別の好ましい実施形態では、BC-PIVは、固形がんを治療する治療薬を提供し、当該治療薬は、CD30L遺伝子又はCD30Lの膜内領域のcytoplasmic tail(CT)配列をhPIV2 HNのCT配列に置換したGITR-PIV2-HN CT遺伝子を保持する。
これには、当該ベクターを直接固形がんに注入する方法も含む。CD30L又はCD30L-PIV2-HN CTは、遺伝子形式だけでなく、タンパク質形式でもBC-PIV又はVLP. BC-PIV上に取込まれる。当該タンパク質は、NK細胞のBC-PIV認識による細胞傷害活性やIFNγなどのサイトカインの産生作用と相まって、BC-PIV等によるプライミングにより短時間のうちに活性化されたT細胞、NK細胞等のCD30受容体と相互作用し、腫瘍に対する免疫作用を生じる。
【0047】
一つの好ましい形態では膜外領域を含むCD30Lをウイルスエンベロープ上に搭載するエンベロープ型ウイルスである。より好ましい形態では、CD30L又はCD30L-PIV2-HN CTを遺伝子形式かつタンパク質形式で保持するBC-PIV又はCD30L若しくはCD30L-PIV2-HN CTをタンパク質形式で保持するVLP. BC-PIVである。
【0048】
[複数の遺伝子を保持するBC-PIVベクター及びVLP. BC-PIVベクター]
好ましい実施形態では、BC-PIVベクター又はVLP. BC-PIVベクターは、1ベクター中に複数の遺伝子を保持する。ウイルス作製用プラスミドの外来遺伝子導入可能部位を調節することにより、2つ以上の遺伝子を発現するウイルスベクターの構築が可能である。
導入対象の遺伝子としては、TNFSFのリガンドをコードする遺伝子が好ましく、OX40L、4-1BBL、GITRL、TNFα、LTα、TL1A、CD30L、及びCD27L、並びに、同一機能を有するこれらの変異体から選ばれる2種類以上がより好ましい。
中でも、TNFSFのリガンドの組み合わせとしては、OX40Lと4-1BBL、GITRLとOX40L、GITRLと4-1BBLの組み合わせがより好ましい。
【0049】
これらリガンドの組み合わせをエンベロープ上に提示するために、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、又はCD30L、或いは同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されていることが好ましい。
【0050】
[パントエア菌由来のLPSによる樹状細胞(DC)・NK細胞等の活性化]
効率的な抗腫瘍免疫の誘導には、NK細胞やCD4陽性T細胞等のOX40及び4-1BB経路の活性化に加えて、活性化した樹状細胞等によるがん細胞のCTLエピトープの提示が重要である。
樹状細胞等のプロフェッショナル抗原提示細胞に、エンドサイトーシス等の作用により取込まれたがん細胞由来タンパク質は、プロテアーゼにより種々の長さのペプチドへと切断される。樹状細胞は、取込まれたがん細胞由来の分解された8~10アミノ酸長CTLエピトープペプチドをクロスプレゼンテーション作用により、細胞表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に提示し、CD8陽性T細胞にペプチド情報を伝達し、CTL活性化に繋げる。
一方、樹状細胞は、CD80、CD86、CD40等の共刺激分子が誘導されない未熟な状態では、ナイーブT細胞刺激時にMHC分子による抗原シグナルによる刺激(第1シグナル)を与えるのみで、共刺激シグナル(第2シグナル)が入らず、最終的にT細胞はその抗原に対して応答できない状態(アナジー)に陥る。腫瘍抗原に対するアナジー状態に陥らないようにするために、樹状細胞がCD80、CD86、CD40等の共刺激分子発現による第2シグナルを伝え、成熟化させる必要がある。
【0051】
本発明者らは以前、イネ科マコモ属の多年草であるマコモ(Zizania latifolia、真菰。別名:ハナガツミ)の肥大果肉中より、滅菌した安全キャビネット内で、グラム陰性菌であるパントエア菌を分離した。当該菌より抽出したリポポリサッカライド(LPS)が未熟な樹状細胞に、CD80、CD86、CD40等の共刺激分子の発現を誘導し、樹状細胞を強く成熟化させることを示している(特許文献3参照。)。パントエア菌由来のLPSは、大腸菌等のLPSと異なり、動物試験では毒性が極めて小さいとされる。
【0052】
また、LPSにより、間接的に又は直接的にNK細胞の活性化が報告されている(非特許文献12参照。)。間接的には、TLR4を通して樹状細胞及びマクロファージを活性化し、その結果NK細胞が活性化される。直接的には、通常NK細胞にはTLR4の発現は低いと考えられているが、LPS刺激によりNK細胞からのIFNγの産生上昇に伴ってNK細胞の分解が低下することが報告されている。
好ましい実施形態では、固形がんを治療する方法を提供し、当該方法には、パントエア菌のLPSを直接固形がんに注入することを含む。当該LPSの作用により、がん組織中のNK細胞活性化による自然免疫作用によるがん細胞の殺傷、さらに樹状細胞活性化によるCD4陽性T細胞への腫瘍抗原エピトープの提示、CTLの活性化による獲得免疫によるがん細胞の殺傷が図られる。
【0053】
更に、別の好ましい実施形態では、OX40L遺伝子、4-1BBL遺伝子、GITRL遺伝子、CD27L遺伝子又はCD30L遺伝子だけでなく、BC-PIV又はVLP. BC-PIVに、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L又はCD30L、或いは、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L又はCD30L-PIV2-HN CTタンパク質をエンベロープに包含するベクターとパントエア菌のLPSを混合して直接固形がんに注入する方法を含む。
【0054】
<抗がん剤>
[第一実施形態]
1実施形態において、本発明は、所望のタンパク質又はペプチドを、ウイルス粒子エンベロープ上に提示し得るウイルスを有効成分として含有する、抗がん剤を提供する。
【0055】
実施例にて後述するように、所望のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子が導入されていない、所謂空ウイルスベクターでも抗腫瘍効果が得られている。
【0056】
本実施形態に用いられるウイルスとしては、所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るものであれば限定されず、センダイウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルスが挙げられ、ヒトパラインフルエンザウイルスが好ましく、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスがより好ましい。
【0057】
上述した通り、2次感染性粒子を産生させない観点から、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルス(hPIV2)は、膜融合機能を有するF遺伝子を欠損し、非増殖型であることが好ましい。
更に、安全性の観点から、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスは、ゲノムが不活化していることが好ましい。ゲノムの不活化は、アルキル化剤処理、過酸化水素処理、UV照射、放射線照射、又は熱処理によって行われることが好ましく、アルキル化剤であるβ-プロピオラクトンで処理されることが好ましい。
【0058】
また、本実施形態に用いられるウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFのリガンドをエンベロープ上に提示することが好ましい。少なくとも1種類のTNFSFのリガンドとしては、OX40L、4-1BBL、GITRL、TNFα、LTα、TL1A、CD30L、及びCD27Lから選ばれる少なくとも1種類が好ましく、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30L、並びに、同一機能を有するこれらの変異体からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
同一機能を有するこれらの変異体とは、リガンドを構成するアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつTNFRSF経路のシグナル伝達能を有するものをいう。
欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸の数としては、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個が特に好ましい。
また、本実施形態に用いられるTNFSFのリガンドとしては、そのホモログも含まれる。
【0059】
所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示するために、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及び/又は、CD30L、或いは同一機能を有するこれらの変異体は、そのcytoplasmic tail(CT)配列が、前記ウイルスのHN由来のCT配列に置換されていることが好ましい。
【0060】
[第二実施形態]
1実施形態において、本発明は、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を有効成分として含有する、抗がん剤を提供する。
【0061】
実施例にて後述するように、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)単独でも抗腫瘍効果が得られている。
【0062】
<がん治療用医薬組成物>
[第三実施形態]
1実施形態において、本発明は、上述した第一実施形態の抗がん剤を含有する。本実施形態のがん治療用医薬組成物は、第二の抗がん剤を含んでもよい。
本実施形態のがん治療用医薬組成物を含む第二の抗がん剤としては、細胞毒性薬、細胞増殖静止薬、免疫活性化剤、免疫チェックポイント阻害剤等が挙げられ、免疫活性化剤、及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含むものが好ましい。
免疫活性化剤としては、TNFSF受容体のアゴニスト抗体が挙げられ、抗OX40アゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD30アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗CD27アゴニスト抗体等が挙げられる。
免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-1アンタゴニスト抗体、抗PD-L1アンタゴニスト抗体、抗CTLA-4アンタゴニスト抗体等が挙げられる。
中でも、本実施形態のがん治療用医薬組成物を含む抗がん剤としては、抗OX40アゴニスト抗体、抗4-1BBアゴニスト抗体、抗GITRアゴニスト抗体、抗CD30アゴニスト抗体及び/又は、抗CD27アゴニスト抗体を含むものが好ましい。
【0063】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、更に、パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)を含有することが好ましい。実施例で後述するように、パントエア菌由来のLPSを含有することで、抗腫瘍効果の増強が期待される。
【0064】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含有することが好ましい。薬学的に許容される担体としては、通常製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0065】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。
【0066】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、上記の薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0067】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、経口的に使用される剤型又は非経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよく、非経口的に使用される剤型に製剤化されることが好ましい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては例えば注射剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられるが、注射剤が好ましい。
【0068】
注射剤用の溶媒としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液が挙げられる。注射剤用の溶媒は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
【0069】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的方法が挙げられるが、腫瘍内投与が好ましい。
【0070】
本実施形態のがん治療用医薬組成物の1回あたりの投与量は、非経口的に投与する場合には、投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から300mg、例えば約0.1から200mg、例えば約0.1から100mgの有効成分を静脈注射又は局所投与により投与することが考えられる。また、上記の量を1日あたり1回又は数回に分けて投与してもよい。
【0071】
本実施形態のがん治療用医薬組成物の適用対象としては、がんであれば限定されず、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵臓がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、子宮肉腫、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病等)等が挙げられる。
【0072】
[第四実施形態]
1実施形態において、本発明は、上述した第二実施形態の抗がん剤を含有するがん治療用医薬組成物を提供する。実施例で後述するように、パントエア菌由来のLPSの単独投与でも抗腫瘍効果が確認されている。
【0073】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスを含有することが好ましい。
また、係るウイルスは、少なくとも1種類のTNFSFのリガンドをエンベロープ上に提示したウイルスを含有することが好ましい。
【0074】
本実施形態のがん治療用医薬組成物は、更に、第二の抗がん剤を含むことが好ましく、係る第二の抗がん剤として、免疫活性化剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含むことがより好ましい。
その他、本実施形態のがん治療用医薬組成物の好ましい態様については、第三実施形態と同様である。
【0075】
[第五実施形態]
1実施形態において、本発明は、OX40L若しくは抗OX40アゴニスト抗体、4-1BBL若しくは抗4-1BBアゴニスト抗体、GITRL若しくは抗GITRアゴニスト抗体、CD27L若しくは抗CD27アゴニスト抗体、及びCD30L若しくは抗CD30アゴニスト抗体からなる群から選ばれる少なくとも2つを含むがん治療用医薬組成物を提供する。実施例で後述するように、複数のTNFSFのリガンドをコードする遺伝子を保持するBC-PIVベクターの投与で、相乗的な抗腫瘍効果が確認されている。
本実施形態のがん治療用医薬組成物における、リガンド又はアゴニスト抗体の組み合わせとしては、上述した分子から少なくとも2種類選択される。中でも、OX40L若しくは抗OX40アゴニスト抗体と4-1BBL若しくは抗4-1BBアゴニスト抗体の組み合わせ、GITRL若しくは抗GITRアゴニスト抗体とOX40L若しくは抗OX40アゴニスト抗体の組み合わせ、GITRL若しくは抗GITRアゴニスト抗体と4-1BBL若しくは抗4-1BBアゴニスト抗体の組み合わせが好ましい。
【0076】
<キット>
1実施形態において、本発明は、がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスと、第二の抗がん剤と、を含むキットを提供する。
その他、本実施形態のキットの好ましい態様については、<がん治療用医薬組成物>の[第三実施形態]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0077】
また、1実施形態において、本発明は、がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
パントエア菌由来のリポ多糖(LPS)と、
所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスと、を含むキットを提供する。
その他、本実施形態のキットの好ましい態様については、<がん治療用医薬組成物>の[第四実施形態]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0078】
<治療方法>
1実施形態において、本発明は、上述した抗がん剤又はがん治療用医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与することを含む、がんの治療方法を提供する。
【0079】
また、1実施形態において、本発明は、有効量の所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスと、有効量の第二の抗がん剤とを、治療を必要とする患者に、同時に、または、逐次投与することを含む、がんの治療方法を提供する。その他、本実施形態の治療方法の好ましい態様については、<がん治療用医薬組成物>の[第三実施形態]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0080】
また、1実施形態において、本発明は、有効量のパントエア菌由来のリポ多糖(LPS)と、有効量の所望のタンパク質又はペプチドをエンベロープ上に提示し得るウイルスとを、治療を必要とする患者に、同時に、または、逐次投与することを含む、がんの治療方法を提供する。その他、本実施形態の治療方法の好ましい態様については、<がん治療用医薬組成物>の[第四実施形態]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0081】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、がんの治療のための抗がん剤、がん治療用医薬組成物、又はキットを提供する。抗がん剤、がん治療用医薬組成物、又はキットとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【実施例】
【0082】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
以下の実施例のOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30L及びそれらのCT置換体の表記において、動物種由来の言及及び記載が特にない場合はマウス由来とする。
[実験例1]
(マウス又はヒトの、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30Lをそれぞれ保持するBC-PIVの構築)
BC-PIVは、エンベロープ上に異種ウイルスの多量体の抗原の立体構造を維持した状態で搭載できることが可能である。抗原が外来ウイルス等の膜タンパク質以外の場合は、当該抗原にhPIV2膜タンパク質のHN又はFの膜領域(transmembrane domain (TM)配列)及び/又は細胞内領域(cytoplasmic tail(CT)配列)を付加することにより、当該抗原はBC-PIVエンベロープに取込まれる。
一方、BC-PIVへの導入抗原が、ウイルス膜タンパク質又は膜タンパク質の場合、導入抗原の膜アンカーリングシグナルはそのままでもBC-PIVエンベロープに取込まれる場合と、膜アンカーリングシグナルをhPIV2のそれと置換しないとBC-PIVエンベロープに取込まれない場合がある。
【0084】
マウス及びヒトのOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30Lは、膜アンカーリングの膜領域(transmembrane domain (TM)配列)及び細胞内領域(cytoplasmic tail(CT)配列)を保持するタンパク質であり、BC-PIVへの取込みを、膜アンカーリングシグナルとして、マウス及びヒトのOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30Lのインタクトな配列をもつ、マウス及びヒトのOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30L遺伝子と、hPIV2のHNタンパク質のCT配列で置換した配列をもつ、マウス及びヒトOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30L遺伝子を保持するBC-PIVをそれぞれ構築し、エンベロープへの取込みを検討した。
【0085】
前者は、マウス及びヒトOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30L遺伝子の配列をそのまま(インタクト)、BC-PIVの構築プラスミドのNotI又はMluIの制限酵素切断部位に当該制限酵素切断配列とBC-PIV導入用tag配列を付加したプラスミドを構築した (
図1参照)。
この際、導入遺伝子を含めたBC-PIVの遺伝子全長の塩基数を6の倍数(ルール・オブ・6)になるように調整した。
一方、マウス又はヒトの、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30Lのインタクトの配列ではBC-PIVベクターに取込まれない後者の場合には、マウス又はヒトの、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30LのCT配列を、hPIV2の膜タンパク質の配列と置換する必要がある。TNFSFリガンドタンパク質は、II型膜タンパク質であるため、通常利用するI型膜タンパク質のhPIV2のFタンパク質のTM配列及びCT配列の導入は難しいと考えられる。
そこで、II型膜タンパク質であるhPIV2のHN膜タンパク質のN末端側にあるCT及びTM配列の利用を考えた。ここで、hPIV2のHN膜タンパク質は4量体タンパク質であり、当該TM配列をTNFSFリガンドタンパク質のTM配列と置換するとTNFSFリガンドタンパク質は、3量体であるところ、4量体を形成する可能性があるので、hPIV2のHN膜タンパク質のCT配列のみ(N末端-MEDYSNLSLK SIPKRTCRII FRTAT)でマウス又はヒトの、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30LのCT配列を置換したマウス又はヒトの、OX40L遺伝子(OX40L-PIV2-HN CT遺伝子)、4-1BBL遺伝子(4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子)、GITRL遺伝子(GITRL-PIV2-HN CT遺伝子)、CD27L遺伝子(CD27L-PIV2-HN CT遺伝子)及びCD30L遺伝子(CD30L-PIV2-HN CT遺伝子)を導入することとし、BC-PIV導入用tag配列を付加したプラスミドを構築した(
図1参照)。
これら遺伝子を保持するBC-PIV構築用プラスミドを用いて、マイナス一本鎖ウイルス作製に常用されるリバースジェネティクス法により、BC-PIVウイルスの回収を行った。すべてのウイルスを回収することができた。
【0086】
この際使用したマウスOX40L遺伝子配列は、GenBank:U12763.1であり(配列番号1)、ヒトOX40L遺伝子配列は、GenBank:NM_003326.3(Sino Biological Inc.)である(配列番号2)。
この際使用したマウス4-1BBL遺伝子配列は、GenBank:L15435.1であり(配列番号3)、ヒト4-1BBL遺伝子配列は、GenBank:NM_003811.3(Sino Biological Inc.)である(配列番号4)。
この際使用したマウスGITRL遺伝子配列は、GenBank:NM_183391.3であり(配列番号5)、ヒトGITRL遺伝子配列は、GenBank:NM_005092.3(Sino Biological Inc.)である(配列番号6)。
この際使用したマウスCD27L遺伝子はマウス脾臓よりPCRにより回収した。遺伝子配列は、GenBank:U78091.1であり(配列番号7)、ヒトCD27L遺伝子はMT2細胞よりPCRにより回収した。配列は、GenBank:BC000725.2である(配列番号8)。
この際使用したマウスCD30L遺伝子はマウス脾臓よりPCRにより回収した。遺伝子配列は、GenBank:BC117097.1であり(配列番号9)、ヒトCD30L遺伝子はMT2細胞よりPCRにより回収した。配列は、GenBank:BC111939.1である(配列番号10)。
【0087】
[実験例2]
(マウス又はヒトの、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30LそれぞれのBC-PIVへの取込みの確認)
実験例1で回収できたBC-PIVが、目的のタンパク質を発現しているか及び当該タンパク質がBC-PIVに取込まれているかを調べた。実験例1で作製したウイルス作製用プラスミドのNotI部位及び/又はMluI部位に導入した、各々すべての遺伝子を保持するBC-PIVを回収することができたので、回収したBC-PIVを、hPIV2のF膜タンパク質発現Vero細胞に感染させ7日間培養し、回収した細胞を、市販で入手可能な抗マウスOX40L抗体(R&D systems社、cat♯:BAF1236)、抗マウス4-1BBL抗体(R&D systems社、cat♯:AF1246)、抗ヒトOX40L抗体(ProSci社、cat♯:7243)、抗ヒト4-1BBL抗体(Biorbyt Ltd、 cat♯:оrb224047)、抗マウスGITRL抗体(R&D systems社、 cat#:MAB21772)、抗ヒトGITRL抗体(R&D systems社、 cat#:AF694)、抗マウスCD27L抗体(Sino Biological Inc、cat#101956-T32)、抗ヒトCD27L抗体(Santa Cruz Biotechnology Inc、 cat#:sc-365539)及び抗ヒト/マウスCD30L抗体(R&D systems社、cat#MAB732)を用いたウエスタンブロットに供した。感染細胞での発現は、マウスOX40L、マウス及びヒトの4-1BBLの結果を
図2、3及び5に記載した。
【0088】
次に、所望遺伝子をウイルス作製用プラスミドのNotI部位に導入したBC-PIV粒子のエンベロープにOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30Lがそれぞれ取込まれているかを確認するために、回収したBC-PIVを、hPIV2のF膜タンパク質発現Vero細胞に感染させ7日間培養し、上清を回収した。
上清は、3,000rpm(1,700xg)の遠心分離で細胞残渣を除去し、0.8μmのフィルターを通して更に不純物を除去した。得られた上清を超遠心分離(140,000xg、40分)した。上清を除去後、沈殿物をPBSに懸濁し、BC-PIVウイルス画分として、導入タンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロットに供した。ウエスタンに供したウイルス数はいずれも106粒子とした。
以降のウエスタンブロットで、試料の処理を通常のウエスタンブロット用の還元剤を含むサンプルバッファーで調製した際、OX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30L等の多量体構造が強固であるため単量体だけでなく、多量体構造と考えられる分子量に抗体陽性シグナルが見出される場合があった。
【0089】
(マウス又はヒトの、OX40L及び4-1BBLそれぞれのウイルスベクター粒子への取込み)
以下、記載がない場合には「ウイルスベクター粒子のエンベロープへの取込み」を「ウイルスベクター粒子への取込み」と「BC-PIV粒子のエンベロープへの取込み」を「BC-PIV粒子への取込み」と記載する。
マウス又はヒトの、OX40L及び4-1BBLそれぞれのウイルスベクター粒子への取込みのウエスタンブロットの結果を
図2乃至5に示す。
これらの結果から、マウス/ヒトOX40L、マウスOX40L-PIV2-HN CT、マウス4-1BBL、マウス/ヒト4-1BBL-PIV2-HN CTはBC-PIV粒子に取込まれていた。一方、ヒトOX40L-PIV2-HN CT及びヒト4-1BBLのBC-PIV粒子への取込みは難しいことが分った。
【0090】
(マウス又はヒトの、GITRLのウイルスベクター粒子への取込み)
マウス又はヒトの、GITRL及びGITRL-PIV2-HN CTのウイルスベクター粒子への取込みのウエスタンブロットの結果を
図6に示す。
GITRL及びGITRL-PIV2-HN CTはマウス及びヒトともBC-PIV粒子に取込まれていた。しかし、ヒトGITRL-PIV2-HN CTはBC-PIV粒子のエンベロープ膜に取込まれる量がそれほど多くはなかった。当該ウエスタンブロットにおいて、GITRL試料を通常ウエスタン用サンプルバッファー用いて処理をした際、マウスでは二量体、ヒトでは二量体及び三量体と考えられる陽性バンドも確認され、多量体の結合が強いことが示された。
【0091】
(マウス又はヒトの、CD27Lのウイルスベクター粒子への取込み)
マウス又はヒトの、CD27L及びCD27L-PIV2-HN CTのウイルスベクター粒子への取込みのウエスタンブロットの結果を
図7Aに示す。
CD27Lは、マウス及びヒトともにBC-PIV粒子に取込まれていた。一方、CD27L-PIV2-HN CTはヒトのみがBC-PIV粒子のエンベロープ膜に取込まれていた。いずれも多量体と考えられる分子量の位置に陽性バンドが確認された。特に、ヒトのCD27L-PIV2-HN CTでは単量体はほとんどバンドが確認できず、二量体及び三量体と考えられる分子量のところに陽性バンドが認められた。
【0092】
(マウス又はヒトのCD30Lのウイルスベクター粒子への取込み)
さらに、マウスCD30L及びCD30L-PIV2-HN CT、及びヒトCD30L及びCD30L-PIV2-HN CTの場合においても、抗体の感度があまりよくないので明瞭なバンドではないが、BC-PIVベクター粒子上で陽性反応を示し、ウイルスベクター粒子への取込みが認められた(
図7B参照)。
【0093】
これらの結果、BC-PIV粒子のエンベロープ膜にOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L、及びCD30L又はそれらのCTの置換体が取込まれており、当該ベクターの固形腫瘍への投与により、T細胞、NK細胞等への刺激直後に誘導的に発現するOX40受容体、4-1BB受容体、GITR受容体、CD27受容体、及びCD30受容体に迅速に結合するOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30Lの提供が可能となる。
これはエンベロープ型ウイルスベクターの特性と考えることができる。つまり、感染、転写、翻訳過程が必要なアデノウイルスベクター等と異なり、転写、翻訳過程を経ずに投与後即座にOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L又はCD30Lを提供できるという優れた特徴を有するといえる。
【0094】
[実験例3]
(OX40L、4-1BBL及びGITRL遺伝子から2個の遺伝子を保持するBC-PIVの構築)
これまで、BC-PIVに導入されたTNFスーパーファミリーのリガンド遺伝子は1個であった。BC-PIVウイルス作製用プラスミドには外来遺伝子を導入可能部位がNotI及びMluI制限酵素部位の2か所ある。hPIV2は上流のNotIに挿入した遺伝子のほうが、発現極性効果により発現量は高いことが知られている。そこで、OX40L遺伝子、4-1BBL遺伝子、及びGITRL遺伝子をウイルス作製用プラスミドのNotI及びMluIに導入し、2つの遺伝子を発現するBC-PIVの回収を検討した(
図8)。
2個の遺伝子と挿入部位の組合せは、
図8に示したように、マウスの場合(1:M1)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL、(2:M2)NotI:4-1BBL+MluI:OX40L、(3:M3)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL-PIV2-HN CT、(4:M4)NotI:4-1BBL-PIV2-HN CT+MluI:OX40L、(5:M5)NotI:GITRL+MluI:OX40L及び(6:M6)NotI:GITRL+MluI:4-1BBLとした。
ヒトの場合は、(7:H7)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL-PIV2-HN CT、及び(8:H8)NotI:4-1BBL-PIV2-HN CT+MluI:OX40Lとした。
ウイルスの回収は実施例1に記載したリバースジェネティクス法により行った。その結果(1)乃至(8)のすべてのBC-PIVウイルスを回収することができた。
【0095】
[実験例4]
(OX40L及び4-1BBL遺伝子の2個遺伝子を保持するBC-PIVへの2種類のリガンドの取込み)
図8に示したM1-M4の組合せ((1)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL、(2)NotI:4-1BBL+MluI:OX40L、(3)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL-PIV2-HN CT、(4)NotI:4-1BBL-PIV2-HN CT+MluI:OX40L)の、BC-PIVへの取込みについて検討した。培地上清から回収した10
6粒子をウエスタンブロットに供した。用いた抗体及び希釈倍率もこれまでのウエスタンブロット試験と同様に行った。
図9の結果から分かるように、M1-M4の組合せにおいて、2つのタンパクが共にBC-PIV粒子に取込まれていた。NotIとMluIのそれぞれに導入した遺伝子から翻訳されたタンパクの取込み量を比較すると、極性効果により発現量が高いNotIに導入した遺伝子産物のほうの取込み量が高かった。
【0096】
(GITRL遺伝子(NotI)及び4-1BBL遺伝子又はOX40L遺伝子(MluI)を保持するBC-PIVのへのリガンドの取込み)
図8に示したM5-M6の組合せ((5)NotI:GITRL+MluI:OX40L及び(6)NotI:GITRL+MluI:4-1BBL)の、BC-PIVへの取込みについて検討した。
試験方法はこれまでと同様の方法で実施した。結果を
図10に示した。
図10のレーン2、3に示すように(5)及び(6)のNotIに導入したGITRLのBC-PIV粒子への取込みが確認された。また、(5)のMluIに導入したOX40L(レーン5)及び(6)のMluIに導入した4-1BBLのBC-PIV粒子への取込みも確認された(レーン7)
これらの結果から、GITRL、OX40L、4-1BBLは狙い通りにBC-PIV粒子に取込まれていた。
【0097】
(ヒトOX40L遺伝子及びヒト4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子の2個遺伝子を保持するBC-PIVへの2種類のリガンドの取込み)
図8に示したH7-H8の組合せ((7)NotI:OX40L+MluI:4-1BBL-PIV2-HN CT、及び(8)NotI:4-1BBL-PIV2-HN CT+MluI:OX40L))の、BC-PIVへの取込みについて検討した。
試験方法はこれまでと同様の方法で実施した。
図11のレーン2、3に示すように(7)のNotIに導入したヒトOX40L及びMluIに導入したヒトOX40LはBC-PIV粒子に取込まれていた。量的には、NotIに導入したヒトOX40Lの取込み量のほうが遥かに多かった。一方、
図11のレーン5、6に示すようにヒト4-1BBL-PIV2-HN CTは(7)のMluIに導入した試料では、取込みが確認できなかった。(8)のNotIに導入した4-1BBL-PIV2-HN CT試料ではBC-PIV粒子への取込みが確認できた。
これらの結果から、マウスではBC-PIV粒子にOX40L、4-1BBL、及びGITRLからなる群から選ばれる2種類のタンパク質を取込むことができた。ヒトでは取込まれない場合もあり、各々の組み合わせについて検討する必要があるが、BC-PIVに2つのTNFSFリガンドタンパクを導入することができた。つまり、in vitro及びinvivoにおいて、1細胞で2種類のTNFRSFシグナルの同時活性化による効果を得ることが可能となる。
【0098】
[実験例5]
(マウス及びヒトOX40/4-1BB受容体とBC-PIV上のOX40L/4-1BBLの結合の確認)
TNFRSFシグナルが活性化されるためには、OX40受容体とリガンド又は4-1BB受容体とリガンドの結合がトリガーとなるために、結合の確認は重要である。
OX40L(マウス又はヒト)、OX40L-PIV2-HN CT(マウス又はヒト)、4-1BBL(マウスのみ)又は4-1BBL-PIV2-HN CT(マウスのみ)を保持すると考えられる1x10
6粒子のBC-PIVを96穴のELISAプレートの1ウエルに一晩貼り付け、ブロックエース(雪印メグミルク)で処理後3量体のマウスOX40受容体(C末端ヒトIgG Fc Tagを付加(Biolegend Inc、 Cat#78904))、ヒトOX40受容体(Biolegend Inc、 Cat#780804)、又はマウス4-1BB受容体(C末端ヒトIgG Fc Tagを付加(Biolegend Inc, Cat#756704))を、1、10、50、100ng添加し、ヒトのFc領域に吸着するHRPをコンジュゲートしたProteinA(Biolegend Inc、 Cat#689202)を加えPOD基質TMBキット(ナカライテスク)を用いて、450nmの吸光度を測定した。試験は各4連で実施した。
マウスの結果を
図12に、ヒトの結果を
図13に示す。
【0099】
まず、マウスの結果を示す。BC-PIVに取込まれた、OX40L及びOX40L-PIV2-HN CTはOX40受容体の添加濃度依存的に吸光度が上昇し、OX40に吸着した。結合能はOX40L-PIV2-HN CTに比べてOX40Lのほうが高い(
図12左図)。
4-1BBL及び4-1BBL-PIV2-HN CTも4-1BB受容体の添加濃度依存的に吸光度が上昇するが、添加量が10ngを超えると、平衡に達する。結合は4-1BBL-PIV2-HN CTに比べて4-1BBLのほうが高い(
図12右図)。
1x10
6粒子のBC-PIVに取込まれる、OX40L及び4-1BBLタンパク数が同程度であると想定するとBC-PIVに取込まれる4-1BBLタンパクのほうがOX40Lに比べて、結合能が高いと想定される。
これらの結果から、BC-PIVに取込まれたTNFSFのリガンドはTNFSF受容体と結合してシグナルを活性化する可能性が高いことが示唆された。
【0100】
次にヒトの結果について
図13に示す。BC-PIVに取込まれた、OX40LはOX40受容体の添加濃度依存的に吸光度が上昇し、OX40に吸着した。しかしOX40L-PIV2-HN CTは全くほとんど反応しなかった。これは、
図4で示したように、OX40L-PIV2-HN CTはウイルス粒子に取込まれないとの結果と符合する。
これらの結果から、BC-PIV粒子に取込まれたヒトTNFSFリガンドもTNFSF受容体に結合することが確認でき、マウス結果のヒトへの外挿性の可能性が示された。
【0101】
(BC-PIVに取込まれたタンパク質が多量体であることの確認)
BC-PIVに取込まれたマウス4-1BBL、4-1BBL―PIV2-HN CT、及びヒトCD27Lを還元剤(DTT)有無のサンプルバッファー処理下で4-1BBL、4-1BBL―PIV2-HN CT及びCD27Lの状態を調べた(
図14)。試料回収時の還元剤無添加状態の4-1BBL、4-1BBL―PIV2-HN CT及びCD27Lは、DTTの添加により、多量体構造が会合した高分子量(偶数レーン〇)の状態から多量体構造の崩れた低分子量(奇数レーン)の状態にシフトした。これらの結果から、マウス4-1BBL、4-1BBL―PIV2-HN CT及びヒトCD27LはBC-PIV粒子上で高分子量の多量体(基本は三量体を形成し、更に三量体が会合)を形成しているものと予想された。
【0102】
[実験例6]
(マコモより単離したパントエア菌LPSの精製(熱(121℃、20分)+冷EtOHによる抽出))
マコモより単離したパントエア菌を培養して得られた菌体3.5gを、50mLのPBSに懸濁し、オートクレーブ(121℃、20分間)し、室温まで冷した。遠心(10,000rpm(9,100xg)、30分間)処理し、上清を回収した。上清20mLに、5M塩化ナトリウム3mLと100%エタノール27mLを加えて-80℃で一晩静置した。室温で解凍後、4℃で10000rpm(9,100xg)、30分間遠心分離し、上清を除去後、70%エタノール5mLに懸濁、4℃で10000rpm(9,100xg)、20分間遠心分離し、上清を除去後、十分に乾燥させた。10mLの蒸留水に溶かし、以下の試験に用いた。大腸菌のLPS、1μg、3μgと共に試料溶液、0.5μL、1μL 、2μL 、3μL及び5μLを電気泳動し、銀染色を行った(
図15参照。)。熱(121℃、20分)+冷EtOHによる抽出LPSの特性は、大腸菌のLPSに比べて低分子が中心であった。大腸菌のLPSの分子量とは異なっていた。大腸菌のLPSを参照に、凡そ0.5μg/μLの濃度であると見積もった。
【0103】
(LPSの特性)
今回回収した試料には低分子量のLPSと考えられる産物がほとんどである(
図15参照。)。高分子量のLPSにおいてより毒性が高いとされる。
LPSにより活性化されたマクロファージより産生されたTNFαが好中球を活性化しエステラーゼが血管内皮細胞を障害する。がんに対して出血性の壊死を誘発する。また、血液凝固の促進や微小循環障害を引き起こし、DIC(播種性血管内凝固症候群)の原因となる。しかし、低用量のTNFαは抗腫瘍免疫にとって有用なサイトカインであると考えられている。
LPSはTNFα等のサイトカインを誘導する一方で、樹状細胞及びNK細胞の活性化能がある。我々は、抗腫瘍免疫には、がん細胞特異的なCTL等による獲得免疫の他にNK細胞等による自然免疫も重要であり、TNFRSFシグナルによるCTL等による獲得免疫に加えて、低分子LPSによるNK細胞の活性化による相乗効果についても検討するために、当該LPSによるNK細胞の活性化について検討した。
【0104】
(熱(121℃、20分)+冷EtOH法により抽出したLPSによるNK細胞の活性化)
パントエア菌より取得した熱(121℃、20分)+冷EtOH法により抽出したLPSの抽出物を単独又はNK細胞の阻害剤である抗アシアロGM1抗体と共にマウスに移植したCT26マウス大腸がん腫瘍に投与し抗腫瘍効果を調べた。マウスの腹側を除毛後、5x10
5個のCT26マウス大腸がん細胞を腹側皮下(SC)部位に麻酔下で接種した。抗アシアロGM1抗体は、LPSの投与3日前に腹腔内に100μL(和光純薬工業;コード#014-09801)を投与した。腫瘍の長径が5-7mmに達した際に、5μg(10μL)を腫瘍内に接種した。投与2及び7日後の様子を
図16に示した。投与後マウスは立毛等症状を呈した。投与2日後には、腫瘍領域は黒色に変化した。投与7日後では、腫瘍部位の黒色領域は縮小したが、LPS+抗アシアロGM1抗体投与マウスでは、壊死腫瘍近傍より新たな腫瘍の生育が認められた(
図16右下〇部分参照。)。一方、LPSのみ投与マウスでは新しい腫瘍の生育は認められなかった。当該LPSにはNK細胞を誘導する可能性のあることが示された。
【0105】
[実験例7]
(OX40L遺伝子をBC-PIVウイルス作製用プラスミドのMluI部位に導入したBC-PIV/OX40L、抗マウスOX40アゴニスト抗体投与によるCTマウス26大腸がんに対する抗腫瘍効果)
本実験例のポイントは、CT26細胞を2か所に接種し、BC-PIV、BC-PIV/OX40L及びBC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体を、2か所の内の1か所の固形がんに投与し、投与部位と遠隔部位における腫瘍退縮効果を調べることにある。
抗マウスOX40アゴニスト抗体は単独使用では効果がないことが報告されており(非特許文献9参照。)、今回単独投与は実施しなかった。
マウスの腹側を除毛後、1×106個のCTマウス26大腸がん細胞を腹側皮下(SC)部位2か所に麻酔下で接種した。6日後、腫瘍の長径が5-7mmに達した動物を以下の各群(各3匹)に振分け、2か所のがんの1か所に試料を投与した。投与は1日おきに3回行った。
【0106】
第1群:PBS投与群
第2群:BC-PIV投与群
第3群:BC-PIV/OX40L投与群
第4群:BC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体投与群
各試料を60μLに調製し投与した。
【0107】
腫瘍容量の経時的変化の結果を
図17に示す。PBSは、2匹の平均値を、他は3匹の平均値をとった。3回目の投与後より、3日毎又は4日毎に腫瘍径を測定し、短径x短径x長径x0.5の計算により腫瘍容量とした。長径が凡そ15mmに達した動物は、倫理上死亡したものとして処理した。
【0108】
投与したBC-PIVのウイルス量は、5.3×10
7粒子である。BC-PIV/OX40LはOX40L遺伝子を、BC-PIV作製用プラスミドのMluI制限酵素部位に導入して回収したウイルスを使用した。BC-PIV/OX40Lのウイルス量は6.5×10
7粒子である。抗マウスOX40アゴニスト抗体(BioLegend Inc、cat♯:119408)は5μgを用いた。
結果を
図17に示した。投与部位の腫瘍容量は、BC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体投与群の3匹の内2匹で、腫瘍容量が0となり消失した。BC-PIV/OX40L投与群3匹の内2匹で、腫瘍がほとんど退縮した。腫瘍への直接投与部位では、PBS投与群とBC-PIV投与群間で腫瘍容量に大きな差が認められ、BC-PIV投与群のみでも抗腫瘍活性が認められた。
また、BC-PIV投与群とBC-PIV/OX40L投与群間では腫瘍容量に明らかな差があり、BC-PIV上に取込まれたOX40Lの効果が大きいものと考えられた。BC-PIV/OX40L投与群とBC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体投与群では、腫瘍の容量に両者間にあまり大きな差が認められず、BC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体投与群で2匹の腫瘍が消失、BC-PIV/OX40Lの2匹の腫瘍もかなり退縮した。
【0109】
遠隔腫瘍は、BC-PIV/OX40L及びBC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体投与群で、他の群に比べて明らかに増殖抑制効果が認められた(
図17参照。)。
Idit Sagiv-Barfi等は、Sci. Transl. Med.(非特許文献9参照。)で抗マウスOX40アゴニスト抗体単独投与では、投与部位及び遠隔部位での抗腫瘍抑制効果はほとんど認められず、CpG DNAとの組合せ投与により、CD4陽性T細胞にOX40が誘導され、両者を組合せることにより、投与部位及び遠隔部位で高い抗腫瘍効果が得られると指摘している。今回BC-PIVと抗マウスOX40アゴニスト抗体の組合せで腫瘍抑制効果が認められたことから、BC-PIV単独でCD4陽性T細胞にOX40の発現を誘導する効果があると考えられた。
【0110】
[実験例8]
(BC-PIV、抗マウスOX40アゴニスト抗体、LPSのCT26大腸がんに対する抗腫瘍効果)
また、Idit Sagiv-Barfi等は、Sci. Transl. Med.(非特許文献9参照。)では、CpG DNA+抗マウスOX40アゴニスト抗体の固形がんへの投与後、腫瘍(がん)組織でNK細胞数の速やかかつ顕著な増加が認められると指摘しており、NK細胞数の顕著な増加が、がん細胞増殖抑制をもたらすと考えられる。
また、CTL活性化のため、腫瘍細胞特異的CTLエピトープを提示する樹状細胞の活性化も重要である。発明者らは、以前に植物マコモ共生パントエア菌由来のLPSが樹状細胞を強く成熟化させることを報告した(特許文献3参照)。また、LPS単独でNK細胞を活性化できることについては
図16に記載した。
【0111】
そこで、今回当該LPS、BC-PIV、抗マウスOX40アゴニスト抗体を組合せ、抗腫瘍効果について調べた。マウス腹側を除毛後、腹側皮下(SC)部位3か所(5×10
5個(1か所)、3×10
5個(2か所))にCTマウス26大腸がん細胞を麻酔下で接種した。5日後、腫瘍の長径が5-7mmに達した3か所のがんの1つに試料を投与した。投与は、1日置きに3回行った。パントエア菌より熱(121℃、20分)+冷EtOH法により抽出したLPS、BC-PIV、抗マウスOX40アゴニスト抗体を組合せて投与した。
図18に投与30日後の最も効果の高いLPS(2.5μg)+BC-PIV(5×10
7粒子)+抗マウスOX40アゴニスト抗体(5μg)の組合せ投与結果を示す。
【0112】
PBS投与に比べて、BC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体の組合せ投与、及びLPS+BC-PIV+抗マウスOX40アゴニスト抗体の組合せ投与(3匹の内1匹)(
図18の真ん中のマウス参照。)で高い腫瘍抑制効果を示した。特に後者の組合せは投与時に大きな腫瘍を選抜し投与を行った。
【0113】
(LPSの効果)
図16においてLPSの効果が示唆されたので、OX40L遺伝子をウイルス作製用プラスミドのMluI部位に導入したBC-PIV/OX40LとLPSの組合せでLPSの効果を調べた。BC-PIV/OX40Lの投与粒子数を1.6×10
7粒子とし、投与回数は、通常投与より1回少ない2回とした。投与は、PBS投与群(コントロール群)、BC-PIV/OX40L+LPS(0μg)投与群、 BC-PIV/OX40L+LPS (2.5μg) 投与群、BC-PIV/OX40L+LPS(5μg)投与群、BC-PIV/OX40L+LPS (12.5μg) 投与群、LPS (12.5μg) 投与群に分けて行った。動物数はすべてn=3とし、腫瘍容量はその平均値で示した。3匹の内2匹を死亡とみなした場合には、その群は除外した。
【0114】
図19に2回目の投与時の腫瘍の様子を示し、
図20に腫瘍容量の結果を示す。LPSを投与した腫瘍部位は黒く変色し、BC-PIV/OX40Lと組合せた場合、投与部位では、LPSの量に依存して腫瘍の増殖が抑制されることが確認された(
図20左図参照。)。BC-PIV/OX40L+LPS (10μg)群、及びBC-PIV/OX40L+LPS (12.5μg)群で2匹、LPS (12.5μg)群で1匹、投与側の腫瘍が消失した。BC-PIV/OX40L+LPS (12.5μg)群のみday19まで死亡は認められなかった。BC-PIV/OX40L+LPS(10μg)群とLPS (12.5μg)群の各1匹は、投与時の腫瘍径が比較的小さい遠隔がん(各3.2×5.2mm及び3.2×3.5mm)は、投与部位及び遠隔腫瘍ともに退縮した。コントロール群は、投与部位での腫瘍の増大が大きく早期に死亡した。コントロール群に比べて他の群の腫瘍の増殖は大きくなかった。
【0115】
一方、遠隔の腫瘍容量については、死亡除外による差異は、多少はあるが、LPS濃度に依存した遠隔部位腫瘍の縮小に及ぼす影響は小さいと考えられた(
図20参照。)。PBS投与群は腫瘍の急激な増大により早期に除外した。
【0116】
今回の試験では、BC-PIV/OX40Lの投与回数を抑え、LPSの投与容量の詳細について調べた。LPS投与では、初回投与から3日目の結果を示した
図19からわかるように1回目の投与翌日から投与腫瘍部位が黒くなり、投与2日後には腫瘍が極めて小さくなった。LPSの投与量が多いと、2回目の投与の際に、腫瘍が縮小し、ほとんど試料を腫瘍内に効果的に投与できない場合があった。
BC-PIV/OX40L+LPS(5μg)投与1日後の腫瘍組織のHE染色像では、出血痕と腫瘍細胞とは形態が全く異なった大量の単核の円形細胞が充実性に浸潤増殖しているのが観察された。腫瘤のより中心部には散在性の微細出血を伴った変性壊死巣が認められ、ヘモジデリンを貪食するマクロファージも多く観察されことから、LPSにより誘導された多量のTNFαによる、急激ながん細胞出血性の壊死を誘発したことが予想された。しかし、LPS(12.5μg)投与群とBC-PIV/OX40L+LPS(12.5μg)投与群間に投与部位での腫瘍増殖に差が認められたことから、BC-PIV/OX40Lの効果もあることが分った。
一方、遠隔部位のがんでは、BC-PIV/OX40Lの投与回数が2回と少ないため通常の3回投与に比べて効果が高くなく、LPSの容量も遠隔部位の抗腫瘍効果への影響があまり認められなかった。試験結果から、今回用いた容量のLPS投与では腫瘍の出血壊死が認められたので、LPSを添加する場合LPS投与量を減らす必要があると考えられた。
【0117】
[実験例9]
(OX40LのNK細胞、並びに、CD4陽性及びCD8陽性T細胞への影響と4-1BBLの効果)
Idit Sagiv-Barfi等のCpG DNAと抗マウスOX40アゴニスト抗体の固形腫瘍への同時投与による投与部位及び遠隔部位への抗腫瘍効果の報告で、腫瘍内に集積したNK細胞に4-1BB(CD137)の速やかな上昇を指摘した。そこで、今回はOX40L及び4-1BBL-PIV2-HN CTを導入したBC-PIVの効果についても確認すると共に、抗腫瘍免疫にNK細胞及びCD4/8陽性T細胞の関与を調べるために、阻害剤(NK細胞は抗アシアロGM1抗体、CD4/8陽性T細胞は、抗マウスCD4/8抗体)を使用し、腫瘍の増殖への影響を調べた。
BC-PIV/OX40L又はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CTは、BC-PIV作製プラスミドのMlu部位(
図1参照。)に所定の遺伝子を導入して作製したものである。投与に用いたBC-PIVの粒子数は、総数8.1×10
6粒子とした。投与は、1日置きに3回行った。パントエア菌より熱(121℃、20分)+冷EtOHにより抽出したLPSを用い投与量を、7.5μgに固定した。試料の投与容量は、60μLとした。
【0118】
マウスの腹側を除毛後、5×105個のCT26マウス大腸がん細胞を、腹側皮下(SC)部位2か所に麻酔下で接種した。1週間後、腫瘍の長径が5-7mmに達した動物を以下の各群(各3匹)に振分け、2か所のがんの1つにそれぞれ試料を投与した。
投与は以下の12群に分けて実施した。初回投与日をday0として腫瘍径を測定した。NK細胞抑制には抗アシアロGM1抗体(和光純薬、100μL/匹)を、試料投与の3日前に腹腔に投与し、抗CD4/8抗体(抗CD4抗体:Tonbo biosciences、Cat#:70-0041、100μg/匹、 抗CD8抗体:Bio X cell、Cat#:BP0061、100μg/匹)を最初の試料投与前日と翌日に腹腔内に投与した。
【0119】
第1群:PBS投与群
第2群:LPS(7.5μg)投与群
第3群:BC-PIV/OX40L (半量)+BC-PIV/4-1BBL (半量)+LPS(7.5μg)投与群
第4群:OX40アゴニスト抗体+LPS(7.5μg)投与群
第5群:BC-PIV/OX40L投与群
第6群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT投与群
第7群:BC-PIV/OX40L+LPS(7.5μg)投与群
第8群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPS(7.5μg) 投与群
第9群:BC-PIV/OX40L+LPS(7.5μg)+抗NK抗体投与群
第10群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT +LPS(7.5μg)+抗NK抗体投与群
第11群:BC-PIV/OX40L+LPS(7.5μg) +抗CD4/8抗体投与群
第12群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPS(7.5μg) +抗CD4/8抗体投与群
【0120】
結果は、投与した初日をday0とした。
図21及び
図22に、OX40L関連について、投与後5日目と10日目の腫瘍の様子を示した。
図23及び
図24に、4-1BBL-PIV2-HN CT関連について、投与後5日目と10日目の腫瘍の様子を示した。
図25に、OX40L関連投与について、投与部位と遠隔部位についての腫瘍容量の平均値を示した。
図26に、4-1BBL-PIV2-HN CT関連投与について、投与部位と遠隔部位についての腫瘍容量の平均値を経時的に示した。
腫瘍容量は、短径×短径×長径×0.5で計算し、3匹の平均とした。最大腫瘍径が15mmに達した動物は死亡とみなした。測定可能な動物が1匹となった時には、その際の数値は除外した。
【0121】
今回の試験で、BC-PIV/OX40L+LPS、又はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT +LPSの抗腫瘍効果は、抗アシアロGM-1抗体又は抗CD4/8抗体投与により、投与部位及び遠隔部位の両部位で腫瘍増殖抑制が強く阻害されることが確認された(
図21及び
図22の第9群参照(抗アシアロGM1抗体投与、4日後又は10日後)、
図23及び
図24の第10群参照(抗アシアロGM1抗体投与、4日後又は10日後)、
図21及び
図22の第11群参照(抗CD4/8抗体投与、4日後又は10日後)、
図23及び
図24の第12群参照(抗CD4/8抗体投与、4日後又は10日後)。
【0122】
図22の投与10日目及びの第7群、第9群及び第11群の腫瘍の様子から分かるように、第7群のBC-PIV/OX40L+LPSでは、投与部位及び遠隔部位で腫瘍が縮小傾向であるのに対して、第9群(第7投与群にNK細胞阻害抗体を追加)及び第11群では、腫瘍が明らかに増大している。第11群(第7投与群にCD4/8陽性T細胞阻害抗体を追加)では、3匹中2匹で腫瘍細胞が腹腔内に転移し、急速に腹部全体が肥大している。第9群は、投与部位での腫瘍の増大が著しい。第7群の3匹のマウスの2つある腫瘍の投与部位(左の動物から向かって右、左、左の腫瘍に投与)だけでなく、遠隔腫瘍においても退縮又は腫瘍の増大抑制が、第9群及び第11群に比べて著しい。
図24のBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPS投与の第8群、第10群(第8投与群にNK細胞阻害抗体を追加)、第12群(第8投与群にCD4/8陽性T細胞阻害抗体を追加)についても同様の結果であった。
【0123】
また、
図25及び
図26の腫瘍容量の結果からも、BC-PIV/OX40L+LPS又はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPSの抗腫瘍効果は、抗アシアロGM1抗体又は抗CD4/8抗体投与により、投与部位及び遠隔部位の両部位で腫瘍増殖抑制が強く阻害されていることが理解できる。
これらの結果から、今回のBC-PIV/OX40L+LPS、又はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPSの高い抗腫瘍効果は、NK細胞とCD4陽性T細胞/CD8陽性T細胞が強く関与していることが示唆された。以前に、当該LPSは、樹状細胞の成熟化を強く誘導する(特許文献3参照。)ことを報告しており、樹状細胞の活性化も腫瘍増殖抑制に関与していると考えられる。
【0124】
次に、
図21及び
図22のBC-PIV/OX40L+LPS(第7群)とBC-PIV/OX40L(第5群)についてみると、最終的に両者とも3匹のうち1匹は遠隔も含めて腫瘍が消失した。BC-PIV/OX40L投与群の投与部位は、3回の投与後一旦腫瘍が大きくなったがその後腫瘍が縮小に転じた。つまり、抗腫瘍効果が投与してから時間がたって起こっている。CTLは免疫惹起操作の1週間程度で起こったこと、CD4/8陽性T細胞の阻害により当該効果が認められないことから、当該腫瘍の縮小の主因はCTLであると考えられた。一方、BC-PIV/OX40L+LPS投与群の投与部位は
図21の第7群の写真からわかるように投与後直ぐに、投与部位の多くの腫瘍が黒変壊死し、腫瘍の多くが縮小していることから、LPSにより誘導されたTNFα及びNK細胞による腫瘍細胞死が投与初期段階から起こっていると考えられた。遠隔部位は、BC-PIV/OX40L投与群では10日後の写真は腫瘍が大きく見えるが、時間を経るごとに腫瘍は増大せず退縮傾向にあった。これは、CTLを主とする全身性の抗腫瘍免疫が遠隔部位の腫瘍細胞に作用したものと考えられた。一方、BC-PIV/OX40L+LPS群の遠隔部位は、時間が経過するとBC-PIV/OX40Lより増大傾向が認められた。
【0125】
今回、第4群に、OX40アゴニスト抗体とLPSの組合せを設定した。第4群と第7群を比較して、LPSと組合せた抗OX40アゴニスト抗体又はBC-PIV/OX40Lの効果は、ほぼ同等か、BC-PIV/OX40Lのほうが優れた効果を示した。ここで、LPSにもT細胞にOX40受容体の誘導能があることが示唆された。BC-PIVのエンベロープ上にOX40Lを取込むことにより、OX40受容体を誘導し、TNFRSFシグナルを効率よく活性化させることが、
図17の結果と共に再確認できた。平行して行った4-1BBL-PIV2-HN CTを導入したBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CTにおいても同様の効果が認められた。
【0126】
以上の結果、BC-PIVのエンベロープ上に、OX40L及び/又は4-1BBLを取込むことにより、OX40L及び4-1BBLタンパク質単独での投与では示すことが難しいとされる高い抗腫瘍効果を、抗OX40アゴニスト抗体と同程度に示すことができ、OX40アゴニスト抗体及び4-1BBアゴニスト抗体以外の形態で高い抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0127】
[実験例10]
(ウイルス作製用プラスミドのMluI部位に4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子を導入して作製したBC-PIVのメラノーマ(B16マウスメラノーマ細胞)に対する抗腫瘍効果)
BC-PIV/OX40L又はBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT及び/又はLPSは、マウス大腸がん細胞(CT26)に対する抗腫瘍効果が認められた。そこで他の腫瘍(メラノーマ)に対する抗腫瘍効果の有無についても検討した。
B6マウスの背部を除毛し、5×105個のB16マウスメラノーマ細胞を、麻酔下で背部SC領域2か所に移植した。今回、腫瘍の生育が1か所のマウスが多く(2回目の投与時に別部位に腫瘍が出現したマウスが複数存在した。)、腫瘍径が4-7mmになったマウスの腫瘍に、BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CTとLPSを組合せて投与した。
投与ウイルス量は、1匹あたり5.9×107粒子とし、投与LPS量は、7.5μgとし、3回投与した。1群は3匹とした。投与量は60μLとした。
【0128】
第1群:BC-PIV投与群
第2群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT投与群
第3群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT+LPS(7.5μg)投与群
【0129】
3匹(死亡例は除去した。)の腫瘍容量の平均を
図27に示した。B16メラノーマは、CT26大腸がん腫瘍と異なり腫瘍内が液体状で、試料投与の際、内容物が流出することが多く見受けられた。B16メラノーマの場合、第3群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT +LPS(7.5μg)群では、腫瘍退縮時間が、CT26大腸がんに比べて早く、投与2日後には、がんは変色し退縮していた(CT26大腸がんの場合より退縮速度は速かった。)。
図28に投与3日後の様子を示した。第3群では、投与部位のがんは完全に退縮した。この群のマウスで投与後に反対側に腫瘍の増殖が認められたが、内2匹で径が3mm程度に増殖後退縮し、両側とも腫瘍が完全に消失した。
メラノーマ細胞の抗腫瘍効果には、CTLの他にNK細胞による自然免疫も重要と指摘されていることから、BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CTのCTL誘導の他にLPSによるNK細胞の活性化も重要であると考えられた。
【0130】
[実験例11]
(ウイルス作製用プラスミドのNotI部位にOX40L又は4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子を導入して作製したBC-PIVの抗腫瘍効果)
図21、22、25で示されたようにOX40L遺伝子をウイルス作製用プラスミドのMluI部位に導入したBC-PIV/OX40Lの単独投与で、投与部位の腫瘍容量は最終投与後一旦腫瘍が増大しその後縮小に転じた。遠隔部位の腫瘍は投与後腫瘍増殖が抑制された。
BC-PIVの遺伝子発現は極性効果を示し、BC-PIVウイルス作製用プラスミドの上流のNP遺伝子産物量が最大で下流のL遺伝子に向かって遺伝子産物量は減少する。そのため、ウイルス作製用プラスミドのMluI部位よりプラス鎖の5´上流側のNotI部位に外来遺伝子を導入したBC-PIVのほうが導入遺伝子の発現量は多くなる。そこで、NotI部位にOX40L又は4-1BBL-PIV2-HN CT遺伝子を導入したBC-PIVを用い抗腫瘍効果を調べた。
動物モデルと投与回数・間隔はこれまでの試験と同様とした。PBS、BC-PIV(2.1x10
7粒子),BC-PIV/OX40L(NotI)(2.1x10
7粒子)及びBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT(NotI)(2.1x10
7粒子)を3回投与した。
初回投与23日後の腫瘍増殖の結果を
図29に示す。PBS、BC-PIV投与では、投与部位及び遠隔部位の腫瘍は増殖し、抗腫瘍効果は認められなかった。一方、BC-PIV/OX40L及びBC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CTを投与したマウスは、投与開始から23日後には図に示すように投与部位及び遠隔部位ともに完全に退縮した。TNFSFのリガンドタンパクをBC-PIV上により多く搭載することにより、より高い抗腫瘍効果を示すことが分かった。また、パントエア菌のLPSを用いることなく投与部位及び遠隔部位の腫瘍に対して退縮効果が示された。
【0131】
(2個のTNFSFリガンド遺伝子を保持するBC-PIVの抗腫瘍効果の検討(OX40L及び4-1BBLの2個の遺伝子を保持するBC-PIVの抗腫瘍効果))
今回5種類のTNFSFリガンド遺伝子をそれぞれBC-PIVに導入した。5種類のTNFRSFシグナルがすべて同じ特性をもっているとは限らず、抗腫瘍作用も異なっていると考えられる。そこで、2種類のTNFSFリガンドを1つのBC-PIVに導入しその効果について検討した。
2個の遺伝子を導入したBC-PIVにおける各リガンドタンパク質の搭載量は、
図9のウエスタンブロットに示した。
【0132】
担癌マウスの作製、投与容量、投与回数等はこれまでの方法に従った。投与群を以下に示した。
第1群:BC-PIV投与群
第2群:BC-PIV/OX40L(NotI)・4-1BBL(MluI)投与群
第3群:BC-PIV/4-1BBL(NotI)・OX40L(MluI)投与群
第4群:BC-PIV/4-1BBL-PIV2-HN CT(NotI)・OX40L
(MluI)投与群
【0133】
各試料を50μLに調製し投与した。今回は、投与ウイルス量が1.6×10
6粒子と通常より低い量で、単独投与ではあまり抗腫瘍効果が得られないウイルス量である。投与方法はこれまでと同様とした。
結果を
図30に示した。リガンドを2個導入したBC-PIVへの各リガンドタンパク質の取込み量は
図9に示したように異なっている。今回の結果は、4-BBLの発現量が多い組合せに腫瘍抑制効果があり、第3群のBC-PIV/4-1BBL(NotI)・OX40L(MluI)投与群に最も高い効果が認められた。
一方、OX40Lと4-1BBLの組合せ以外は、それほどの高い相乗効果が認められなかったので、GITRL、CD27L及びCD30Lの発現確認と共にGITRLとOX40L又は4-1BBLとの組合せについて抗腫瘍効果の検討を行った。
【0134】
(GITRL、CD27L及びCD30Lの抗腫瘍効果と2個のリガンドタンパク(GITRL/OX40L及びGITRL/4-BBL)による抗腫瘍効果の検討)
GITRL、CD27L及びCD30Lを保持するBC-PIV/GITRL、BC-PIV/CD27L又はBC-PIV/CD30Lの抗腫瘍効果、及びGITRLとOX40L又はGITRL及び4-1BBLの2つのタンパク質を保持するBC-PIVの抗腫瘍効果について検討した。
実験はマウスへのCT26大腸がん細胞移植、腫瘍への投与はこれまでと同じように、マウスの腹側を除毛後、5×105個のマウスCT26大腸がん細胞を腹側皮下(SC)部位2か所に麻酔下で接種した。6日後、腫瘍の長径が5-7mmに達した動物を以下の各群(各3匹)に振分け、2か所のがんの1か所に試料を投与した。投与は1日おきに3回行った。
投与ウイルス量は、1匹当たりBC-PIV:9.0×106粒子、BC-PIV/GITRL:9.0×106粒子、BC-PIV/CD27L:9.0×106粒子又はBC-PIV/CD30L:9.0×106粒子、BC-PIV/GITRL(NotI)・OX40L(MluI):2.4×106粒子、BC-PIV/GITRL(NotI)・4-1BBL(MluI):2.4×106粒子とした。2個のタンパク質を導入したBC-PIVの投与粒子数は、他に比べて約1/4のウイルス数であった。
【0135】
担癌マウスの作製、投与容量、投与間隔はこれまでと同様の方法に従った、投与群を以下とした。
第1群:PBS投与群
第2群:BC-PIV投与群
第3群:BC-PIV/GITRL投与群
第4群:BC-PIV/CD30L投与群
第5群:BC-PIV/CD27L投与群
第6群:BC-PIV/GITRL(NotI)・OX40L(MluI)
第7群:BC-PIV/GITRL(NotI)・4-1BBL(MluI)
試料は第1群から第5群には60μL、第6群7群には50μLを調製し投与した。
【0136】
腫瘍容量の経時的変化の結果を
図31に示す。2又は3匹の平均値をとった。初回投与日より図に示した日にちに腫瘍径を測定した。3回目の投与後より、3日毎又は4日毎に腫瘍径を測定し、短径×短径×長径×0.5により腫瘍容量とした。長径が凡そ15mmに達した動物は、倫理上死亡したものとして処理した。
図から分かるように、GITRL、CD27L及びCD30L保持BC-PIVの各単独投与群では、GITRLは少し劣るが、それぞれ投与部位及び遠隔部位において未処理群及びBC-PIV投与群に比べて、抗腫瘍効果が認められた。
一方、GITRLとOX40L又はGITRLと4-1BBLの組合せ投与群では、投与ウイルス量が単独導入に比べて約1/4と少なく、またOX40L又は4-1BBL単独では効果があまり期待できないウイルス量であるにも拘わらず、投与部位及び遠隔部位において高い抗腫瘍効果が認められた(初回投与24日後:
図32参照)。24日後には無処置コントロールでは、3匹中2匹が死亡したが、驚くことにGITRL/OX40Lの投与群マウスでは3匹中3匹が投与部位及び遠隔部位の腫瘍が退縮した。GITRL/4-1BBLの投与群マウスでは3匹中2匹が投与部位及び遠隔部位の腫瘍が退縮した。
これらの結果、BC-PIVは単独でTNFSFリガンド保持する場合より、2個のリガンドを保持するBC-PIVが高い抗腫瘍効果を示す可能性が示された。
当該試験で、
図33で示すようにCD30L投与マウスでは3匹中3匹とも投与部位の腫瘍のみ退縮し、遠隔部位の腫瘍は増大した。
【0137】
(不活化したBC-PIVを用いた抗腫瘍免疫効果の検討)
TNFRSFを活性化するアゴニスト抗体(抗ヒト4-BBL)を用いた臨床試験で肝毒性の有害事象が報告されている。TNFSFリガンドを導入したBC-PIVの利用はそのようなリスクを低減するために考案されたものである。さらに、安全性を高める観点から、不活化したBC-PIVを用いて抗腫瘍効果を検討した。BC-PIVの不活化は、特許6358706号公報に従って実施した。
【0138】
不活化BC-PIVの有効性評価は、OX40L又は4-1BBLを導入したBC-PIVを用いて実施した。
組合せは、以下に示した。
第1群:PBS投与群
第2群:BC-PIV投与群
第3群:不活化BC-PIV投与群
第4群:BC-PIV/OX40L投与群
第5群:不活化BC-PIV/OX40L投与群
第6群:BC-PIV/4-1BBL投与群
第7群:不活化BC-PIV/4-1BBL投与群とした。
【0139】
試験は今までと同様の方法で実施し、移植細胞数は5×105個とした。
投与ウイルス量は、(不活化)BC-PIV:3.0×107粒子、(不活化)BC-PIV/OX40L:3.0×107粒子、(不活化)BC-PIV/4-1BBL:3.0×106粒子とした。(不活化)BC-PIV/4-1BBLの粒子数は他の1/10量とした。投与方法は従来法と同様とした。今回使用したCT26細胞は従来と異なるCT26細胞を用いており、抗腫瘍免疫剤に関する感受性は従来のCT26細より高かった。
【0140】
結果を
図34に示す。OX40Lに関しては、図に示すように無処置群により不活化の有無とは関係なく抗腫瘍効果が認められた。4-1BBLについては、投与量がOX40Lに比べて1/10量であったが、当該CT26腫瘍には効果を示し、不活化BC-PIV/4-1BBL投与群のほうが、BC-PIV/4-1BBL投与群より高い抗腫瘍効果を示した。
これらの結果、TNFSFリガンドを搭載したBC-PIVは、非増殖型及び不活化型のBC-PIVの両者とも、TNFSFリガンドを有効にTNFSF受容体と結合し効率的にシグナルを伝達し、抗腫瘍効果を保持することが分った。
【0141】
[実験例12]
(hPIV2以外のエンベロープウイルスへのヒトOX40Lの取込み)
(RSVウイルスへヒトOX40Lの取込み)
BC-PIVはヒトパラインフルエンザ2型ウイルス(hPIV2)由来でエンベロープ構造をもつ。hPIV2以外のエンベロープ構造をもつウイルスにおけるヒトOX40Lの取込みについて検討した。今までの試験においてマウス及びヒトのOX40L、4-1BBL、GITRL、CD27L及びCD30LのいずれもBC-PIVのエンベロープ膜に取込まれることが確認されているので、他のエンベロープウイルスへTNFSFリガンドタンパクの取込みも、TNFSFリガンドタンパクの一つが取込まれれば他も取込まれるものと考えて、その代表してヒトOX40Lの他ウイルスエンベロープへの取込みについて検討した。
方法はヒトOX40L遺伝子を保持するプラスミドを細胞にトランスフェクションしヒトOX40Lを発現させた細胞に、エンベロープ構造をもつウイルスを感染させ、培養上清より当該ウイルスを回収し、当該ウイルス粒子へのヒトOX40Lタンパクの取込みをウエスタンブロットによって評価した(
図35参照。)。
【0142】
エンベロープ構造をもつウイルスとしてRSウイルスのLong株、感染細胞はHEp2細胞を用いた。ヒトOX40L遺伝子をpcDNA(商標)3.1プラスミド(サーモフィシャー)に導入した。当該プラスミド(3μg)を用いて、HEp2細胞(9×105個)にトランスフェクションした。陰性コントロールとしてヒトOX40L遺伝子が挿入されていないpcDNA3.1プラスミドを用いてHEp2細胞にトランスフェクションした。2日後にそれぞれの細胞に同量のRSウイルスを感染させた。RSウイルス感染2日後にHEp2細胞にウイルスによる細胞変性効果(CPE)が認められたので、培養上清を回収した。培養上清からのウイルス粒子の調製は実施例2に準じて行った。ウエスタンブロットには抗ヒトOX40L抗体(ProSci社、cat♯:7243)を用いた。陽性コントールにはヒトOX40Lを搭載したBC-PIVを用いた。
【0143】
図35に示すように、レーン1及び4はヒトOX40L保持BC-PIV粒子、レーン2及び5はpcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションしRSウイルス感染細胞から回収したRSウイルス粒子、レーン3及び6はヒトOX40L遺伝子保持pcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションし、RSウイルス感染細胞から回収したRSウイルス粒子である。レーン1乃至3は抗ヒトOX40L抗体、レーン4乃至6は抗RSウイルスFタンパク質抗体を用いたウエスタンブロットを示す図である。レーン5及び6は抗RSウイルスF抗体(アブカム社cat♯:ab43812)で陽性バンドが認められ、RSウイルスが確認された。ヒトOX40L保持BC-PIV2の陽性コントロールの入ったレーン1及びヒトOX40L遺伝子保持pcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションし、RSウイルス感染細胞から回収したRSウイルスの入ったレーン3で、抗ヒトOX40L抗体に陽性のバンドが確認された。
これらの結果から、ヒトOX40Lタンパク質がRSウイルスのエンベロープ上に取込まれることが示された。
【0144】
(PIV5へヒトOX40Lの取込み)
更に、別のエンベロープ構造をもつウイルスとしてPIV5(旧名SV5)ウイルス、感染細胞はBHK細胞を用いて同様の試験を行った。結果を
図36に示した。図のレーン1は陽性コントロールのヒトOX40L保持BC-PIV、レーン2はpcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションした細胞から回収したPIV5、レーン3はヒトOX40L遺伝子保持pcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションし、トランスフェクション24時間後にPIV5ウイルスを感染させ、感染2日後の培養上清から回収したPIV5ウイルス粒子である。ヒトOX40L保持BC-PIV2の陽性コントロールの入ったレーン1及びヒトOX40L遺伝子保持pcDNA3.1プラスミドをトランスフェクションし、PIV5ウイルス感染細胞から回収したPIV5の入ったレーン3で、抗ヒトOX40L抗体に陽性のバンドが確認された。
【0145】
これらの結果から、ヒトOX40Lタンパク質がPIV5ウイルスのエンベロープ上に取込まれることが示された。
以上の結果から、プラスミド等よる一過性発現細胞、組換えによる恒常的発現細胞、組換えウイルス等に由来するTNFスーパーファミリーのリガンドタンパク(膜アンカー部分は他タンパク質で置換可)を取込んだあらゆる種類のエンベロープ型ウイルスを取得できる可能性が示された。今後、これらウイルスを利用した抗腫瘍免疫剤の可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、抗腫瘍効果に優れた、抗がん剤、がん治療用医薬組成物、及びキットを提供することができる。
【配列表】