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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231208BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20231208BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20231208BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021541972
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2019045911
(87)【国際公開番号】W WO2021038897
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019155039
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 唯未
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121700(WO,A1)
【文献】特開2016-009737(JP,A)
【文献】特表2015-517736(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109326715(CN,A)
【文献】INAMI, E. et al.,Sol-gel processed niobium oxide thin-film for a scaffold layer in perovskite solar cells,THIN SOLID FILMS,2019年01月29日,Vol. 674,pp. 7-11
【文献】LING, X. et al.,Room-Temperature Processed Nb2O5 as the Electron-Transporting Layer for Efficient Planar Perovskite,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2017年06月19日,Vol. 9,pp. 23181-23188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池であって、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に位置する第1電子輸送層、
を具備し、
ここで、
前記第1電極および前記第2電極からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンで構成されるペロブスカイト化合物を含有し、かつ
前記第1電子輸送層は、多孔質の酸化ニオブを含有し、
前記多孔質の酸化ニオブは、アモルファスである
太陽電池。
【請求項2】
前記第1電子輸送層および前記第1電極の間に位置し、かつ緻密な酸化ニオブを含有する第2電子輸送層をさらに具備する、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する、
請求項1または2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記ハロゲンアニオンは、ヨウ化物イオンを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記第2電極と前記光電変換層との間に位置する正孔輸送層をさらに具備する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記多孔質の酸化ニオブは、1nm以上132nm以下の平均細孔径を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記多孔質の酸化ニオブは、5%以上35%以下の空孔率を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記多孔質の酸化ニオブは、0.31以上0.41以下のNb/Oモル比を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池が研究および開発されている。ペロブスカイト太陽電池では、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物が光電変換材料として用いられている。
【0003】
非特許文献1は、ペロブスカイト太陽電池の光電変換材料として、化学式(CH3NH3x(HC(NH221-xPbI3-yBry(ここで、xは、0<x<1を満たし、かつyは、0<y<3を満たす。)で示されるペロブスカイト化合物が用いられた、ペロブスカイト太陽電池を開示している。すなわち、非特許文献1に開示されているペロブスカイト太陽電池は、2価のカチオンとしてPbカチオンを含むペロブスカイト化合物を用いる。さらに、非特許文献1は、電子輸送材料としてNb25が用いられ、かつ正孔輸送材料としてSpiro-OMeTADと呼ばれる有機半導体が用いられることを開示している。
【0004】
近年、ペロブスカイト太陽電池の光電変換材料として、例えば環境面から、鉛を含まないものが求められている。例えば、非特許文献2は、鉛を含まないペロブスカイト太陽電池を提案している。非特許文献2は、光電変換材料としてCsSnI3で示されるペロブスカイト化合物を用い、電子輸送材料としてTiO2を用い、および、正孔輸送材料としてSpiro-OMETADを用いること、を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Deli Shen et al., "Facile Deposition of Nb2O5 Thin Film as an Electron-Transporting Layer for Highly Efficient Perovskite Solar Cells", ACS Applied Nano Materials, 2018, 1, 4101-4109.
【文献】Mulmudi Hemant Kumar et Al., "Lead-free halide perovskite solar cells with high photocurrents realized through vacancy modulation", Advanced Materials, 2014, Volume 26, Issue 41, 7122-7127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、高い変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による太陽電池は、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に位置する第1電子輸送層、
を具備し、
ここで、
前記第1電極および前記第2電極からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンで構成されるペロブスカイト化合物を含有し、かつ
前記第1電子輸送層は、多孔質の酸化ニオブを含有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、高い変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明者によって作製された鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池の、電流密度および電圧の実測値を示すグラフである。
図2図2は、太陽電池の光電変換層と電子輸送層とのエネルギーオフセットの変化に伴う、太陽電池の電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
図3図3は、実施形態による太陽電池の断面図を示す。
図4図4は、実施形態による太陽電池の変形例の断面図を示す。
図5A図5Aは、実施例1の第1電子輸送層の電子線回折像を示す。
図5B図5Bは、実施例2の第1電子輸送層の電子線回折像を示す。
図5C図5Cは、実施例5の第1電子輸送層の電子線回折像を示す。
図6A図6Aは、実施例2の第1電子輸送層の多孔質酸化ニオブの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図6B図6Bは、二値化処理後の実施例2の多孔質酸化ニオブのSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語の定義>
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト化合物」とは、化学式ABX3(こ
こで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、およびXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト結晶構造体およびそれに類似する結晶を有する構造体を意味する。
【0011】
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト化合物」とは、スズを含有するペロブスカイト化合物を意味する。
【0012】
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト太陽電池」とは、スズ系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0013】
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト化合物」とは、鉛を含有するペロブスカイト化合物を意味する。
【0014】
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト太陽電池」とは、鉛系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0015】
<本開示の基礎となった知見>
以下、本開示の基礎となった知見が説明される。
【0016】
スズ系ペロブスカイト化合物は、1.4eV付近のバンドギャップを有する。したがって、スズ系ペロブスカイト化合物は、太陽電池の光電変換材料として好適である。しかし、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池は、理論変換効率が高いにもかかわらず、鉛系ペロブスカイト太陽電池と比較すると変換効率が低い。図1は、本発明者によって作製された鉛系ペロブスカイト太陽電池および従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池の、電流密度および電圧の実測値を示す。なお、電流密度および電圧の測定に用いられた鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池は、基板/第1電極/電子輸送層/多孔質層/光電変換層/正孔輸送層/第2電極、の積層構造を有していた。各構成は以下のとおりである。
【0017】
(鉛系ペロブスカイト太陽電池)
基板:ガラス基板
第1電極:インジウム-錫複合酸化物(ITO)とアンチモンをドープした酸化錫(ATO)との混合物
電子輸送層:緻密TiO2(c-TiO2
多孔質層:メソポーラスTiO2(mp-TiO2
光電変換層:HC(NH22PbI3
正孔輸送層: 2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(以下、「spiro-OMeTAD」という)
第2電極:金
【0018】
(スズ系ペロブスカイト太陽電池)
基板:ガラス基板
第1電極:インジウム-錫複合酸化物(ITO)とアンチモンをドープした酸化錫(ATO)との混合物
電子輸送層:緻密TiO2(c-TiO2
多孔質層:メソポーラスTiO2(mp-TiO2
光電変換層:HC(NH22SnI3
正孔輸送層:poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」という)
第2電極:金
【0019】
図1より、鉛系ペロブスカイト太陽電池と比較して、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池では開放電圧が低いことがわかる。このことが、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率が鉛系ペロブスカイト太陽電池の変換効率よりも低いことの要因だと考えられる。開放電圧が低くなることの要因として、電子輸送層を構成する電子輸送材料とスズ系ペロブスカイト化合物との伝導帯下端のエネルギー準位差が大きく、電子輸送層と光電変換層との界面でキャリアが再結合することが考えられる。なお、以下では、「光電変換層を構成する光電変換材料に対する、電子輸送層を構成する電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位差」が、「エネルギーオフセット」と定義される。すなわち、エネルギーオフセットは、「電子輸送層を構成する電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位」から「光電変換層を構成する光電変換材料の伝導帯下端のエネルギー準位」を引いた値である。また、本明細書における「伝導帯下端のエネルギー準位」の値は、真空準位を基準とした値である。
【0020】
スズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、例えば-3.5eVである。一方、鉛系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、例えば-4.0eVである。すなわち、スズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、鉛系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位よりもエネルギー的に浅い。ここで、鉛系ペロブスカイト太陽電池で使用されている代表的な電子輸送材料は、TiO2などである。TiO2の伝導帯下端のエネルギー準位は、-4.0eVである。それゆえ、スズ系ペロブスカイト太陽電池において、電子輸送層が、鉛系ペロブスカイト太陽電池で使用されているTiO2のような電子輸送材料によって構成された場合、電子輸送材料とスズ系ペロブスカイト化合物との界面にエネルギー差(エネルギーオフセット)が生じる。例えばTiO2およびスズ系ペロブスカイト化合物の界面では、伝導帯下端のエネルギー準位の差から、-0.5eVのエネルギーオフセットが存在する。エネルギーオフセットが存在することにより、界面付近での電子の存在確率が増加する。これにより、界面におけるキャリアの再結合確率が上がり、開放電圧のロスが生じる。すなわち、スズ系ペロブスカイト化合物が鉛系ペロブスカイト太陽電池で用いられている電子輸送材料と組み合わされてスズ系ペロブスカイト太陽電池が形成された場合、上記のように開放電圧が低くなる。その結果、太陽電池の変換効率が低下してしまう。
【0021】
図2は、太陽電池の光電変換層と電子輸送層とのエネルギーオフセットの変化に伴う、太陽電池の電圧と電流密度との関係を示すグラフである。当該関係は、デバイスシミュレーション(ソフト名:SCAPS)により算出されている。図2は、光電変換層と電子輸送層とのエネルギーオフセットが0.0eV、-0.1eV、-0.2eV、-0.3eV、-0.4eV、-0.5eV、-0.6eV、および-0.7eVの場合のシミュレーション結果を示す。図2から明らかなように、高効率(例えば、電圧0.7Vで、電流密度は27mA/cm2以上)を得るためには、エネルギーオフセットの絶対値を0.3eV以下に低減させる必要がある。したがって、スズ系ペロブスカイト化合物に最適な新たな電子輸送材料が求められている。
【0022】
本発明者らは、スズ系ペロブスカイト太陽電池において、光電変換層と電子輸送層とのエネルギーオフセットを低減させるために、例えばNb25などの酸化ニオブを電子輸送材料として用いる知見を見出した。酸化ニオブは、スズ系ペロブスカイト化合物の電子親和力と近い電子親和力を有する。したがって、酸化ニオブが電子輸送材料として用いられるスズ系ペロブスカイト太陽電池は、エネルギーオフセットを低減し、かつ高い変換効率を有することができる。
【0023】
さらに、本発明者らは、酸化ニオブが電子輸送材料として用いられるスズ系ペロブスカイト太陽電池について、別の新たな知見も見出した。この新たな知見は、多孔質体の酸化ニオブが、スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率をさらに向上させ得るということである。
【0024】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、スズ系ペロブスカイト化合物を含み、かつ高い変換効率を有する太陽電池を発明した。
【0025】
<本開示の実施形態>
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0026】
図3は、本実施形態による太陽電池100の断面図を示す。図3に示されるように、本実施形態の太陽電池100は、基板1、第1電極2、第2電極6、光電変換層4、正孔輸送層5および第1電子輸送層3を備える。光電変換層4は、第1電極2および第2電極6の間に位置する。第1電子輸送層3は、第1電極2および光電変換層4の間に位置する。第1電極2は、第1電子輸送層3および光電変換層4が第1電極2および第2電極6の間に配置されるように、第2電極6と対向している。第1電極2および第2電極6からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極は、透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」の語は、200nmから2000nmの波長を有する光のうち、いずれかの波長において、10%以上の光が電極を透過することを意味する。
【0027】
光電変換層4は、光電変換材料として、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンで構成されるペロブスカイト化合物を含む。以下、このペロブスカイト化合物を「本実施形態によるペロブスカイト化合物」と記載することがある。また、光電変換材料は、光吸収材料である。
【0028】
本実施形態によるペロブスカイト化合物は、例えば、化学式ABX3で示される化合物である。この化学式において、Aは1価のカチオンを表し、BはSnカチオンを含む2価のカチオンを表し、Xはハロゲンアニオンを表す。ペロブスカイト化合物における、慣用的に用いられている表現に従い、本明細書においては、A、B、およびXは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、およびXサイトとも言う。
【0029】
本実施形態によるペロブスカイト化合物は、例えば、ABX3で示されるペロブスカイト型結晶構造を有する。一例として、上記化学式において、Aが1価のカチオンであり、BがSnカチオンであり、Xがハロゲンアニオンである。すなわち、本実施形態によるペロブスカイト化合物では、例えば、Aサイトに1価のカチオンが位置し、BサイトにSn2+が位置し、Xサイトにハロゲンアニオンが位置する。
【0030】
Aサイトに位置している1価のカチオンは、特に限定されない。1価のカチオンの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3 +)、ホルムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2 +)、フェネチルアンモニウムカチオン(すなわち、C65CH2CH2NH3 +)、またはグアニジニウムカチオン(すなわち、CH63 +)である。アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(Cs+)である。
【0031】
1価のカチオンは、例えば、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する。本実施形態によるペロブスカイト化合物が、1価のカチオンとしてホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有することにより、太陽電池100がより高い変換効率を実現し得る。1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを主として含んでいてもよい。1価のカチオンがホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを主として含むとは、1価のカチオンのモル総量に対する、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンのモル量の合計の割合が最も高いことを意味する。1価のカチオンが、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0032】
Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、例えば、ヨウ化物イオンを含有する。本実施形態によるペロブスカイト化合物がハロゲンアニオンとしてヨウ化物イオンを含有することにより、太陽電池100がより高い変換効率を実現し得る。ハロゲンアニオンは、ヨウ化物イオンを主として含んでいてもよい。ハロゲンアニオンがヨウ化物イオンを主として含むとは、ハロゲンアニオンのモル総量に対するヨウ化物イオンのモル量の割合が最も高いことを意味する。ハロゲンアニオンがヨウ化物イオンであってもよい。
【0033】
Aサイト、Bサイト、およびXサイトは、それぞれ、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0034】
光電変換層4は、光電変換材料以外の材料を含んでいてもよい。光電変換層4は、例えば、本実施形態によるペロブスカイト化合物の欠陥密度を低減するためのクエンチャー物質をさらに含んでいてもよい。クエンチャー物質の例は、フッ化スズのようなフッ素化合物である。
【0035】
第1電子輸送層3は、多孔質の酸化ニオブを電子輸送材料として含有する。酸化ニオブは、本実施形態によるペロブスカイト化合物との間で伝導帯下端のエネルギー準位の差が小さい点で優れている。具体的には、第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブの伝導帯下端のエネルギー準位と、本実施形態によるペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位との差の絶対値は、例えば0.3eV未満である。第1電子輸送層3が多孔質の酸化ニオブを含有することにより、太陽電池100がより高い変換効率を有し得る。
【0036】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブは、アモルファスであってもよい。第1電子輸送層3がアモルファスの酸化ニオブを含むことにより、太陽電池100がより高い変換効率を有し得る。
【0037】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブは、化学式Nb2(1+x)5(1-x)で示されてもよい。この化学式において、xは-0.15以上+0.15以下であってもよい。なお、xの値は、X線光電子分光法(以下、「XPS」という)により求められる。また代替の方法として、エネルギー分散型X線分析法(以下、「EDX」とぃう)、ICP発光分光分析法、またはラザフォード後方散乱分析法(以下、「RBS」という)も挙げられる。
【0038】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブにおいて、酸素に対するニオブのモル比(Nb/O)は、0.31以上0.41以下であってもよい。言い換えると、多孔質の酸化ニオブは、0.31以上0.41以下のNb/Oモル比を有していてもよい。酸化ニオブがこのようなモル比を満たすことにより、太陽電池100がより高い変換効率を有し得る。なお、モル比は、XPSにより求められる。また代替の方法として、EDX、ICP発光分光分析法、またはRBSも挙げられる。
【0039】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブは、Nb25であってもよい。第1電子輸送層3がNb25を含むことにより、太陽電池100がより高い変換効率を実現し得る。
【0040】
第1電子輸送層3は、多孔質体によって構成されていてもよい。すなわち、第1電子輸送層3は、多孔質層であってもよい。第1電子輸送層3が多孔質層である場合であって、かつ第1電子輸送層3が第1電極2および光電変換層4と接する場合、多孔質層中の空孔は、例えば、第1電極2と接する部分から、光電変換層4と接する部分まで繋がっている。この場合、光電変換層4の材料は、多孔質層の空孔を充填し、第1電極2の表面まで到達することができる。したがって、光電変換層4は、第1電子輸送層3だけでなく、第1電極2とも電子の授受が可能である。したがって、電子は、第1電子輸送層3を経由して、または、直接、効率よく光電変換層4から第1電極2へ移動することができる。
【0041】
第1電子輸送層3は、酸化ニオブ以外の他の化合物を含んでいてもよいし、酸化ニオブを主として含んでいてもよいし、実質的に酸化ニオブからなっていてもよいし、酸化ニオブのみからなっていてもよい。ここで、「第1電子輸送層3が酸化ニオブを主として含む」とは、第1電子輸送層3が酸化ニオブを50mol%以上含むことであり、例えば60mol%以上含んでもよい。また、「第1電子輸送層3が実質的に酸化ニオブからなる」とは、第1電子輸送層3が酸化ニオブを90mol%以上含むことであり、例えば95mol%以上含んでもよい。
【0042】
本明細書において、「多孔質」とは、内部に細孔が存在する物質を意味する。すなわち、多孔質の酸化ニオブとは、内部に細孔が存在する酸化ニオブを意味する。例えば、多孔質の酸化ニオブにおいて、細孔とは、酸化ニオブが存在しない領域を示す。個々の細孔のサイズは同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0043】
第1電子輸送層3は、光電変換層4と接していてもよいし、接していなくてもよい。第1電子輸送層3が光電変換層4と接している場合、多孔質の酸化ニオブは、第1電子輸送層3の光電変換層4と接する表面に設けられていてもよい。第1電子輸送層3は、多孔質の酸化ニオブ以外の他の電子輸送材料を含んでいてもよい。太陽電池100は、互いに異なる電子輸送材料からなる複数の電子輸送層を含んでいてもよい。その場合、例えば第1電子輸送層3は、光電変換層4と接する位置に配置される。
【0044】
第1電子輸送層3の厚さは、例えば、1nm以上500nm以下であってもよい。第1電子輸送層3がこの範囲内の厚さを有することにより、第1電子輸送層3は、十分な電子輸送性を発現でき、かつ低抵抗を維持できる。したがって、太陽電池100は、高い変換効率を実現し得る。
【0045】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブの空孔率は、例えば2%以上40%以下であってもよい。多孔質の酸化ニオブの空孔率が2%以上40%以下であることにより、本実施形態による太陽電池100の短絡電流値および変換効率を効果的に向上させることができる。多孔質の酸化ニオブの空孔率は、5%以上35%以下であってもよい。言い換えると、多孔質の酸化ニオブは、5%以上35%以下の空孔率を有していてもよい。空孔率が5%以上35%以下の多孔質の酸化ニオブによれば、太陽電池100の高い短絡電流値および高い変換効率を実現し得る。ここで、第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブの空孔率は、SEMを用いて撮影された多孔質の酸化ニオブの画像(SEM像)を用いて求められる。具体的には、まず、多孔質の酸化ニオブの表面のSEM像において、固体部分の面積および空隙部分の面積が求められる。次に、固体部分の面積および空隙部分の面積の合計(すなわち、総面積)に対する、空隙部分の面積の割合が算出される。算出された空隙部分の面積の割合が、多孔質の酸化ニオブの空孔率である。SEM像における固体部分と空隙部分との認定は、次のように実施され得る。まず、SEM像が、画像処理ソフト(例えば、「ImageJ」(アメリカ国立衛生研究所(NIH)製))によって二値化処理される。二値化処理されたSEM像において、明るい箇所(すなわち白色部分)が固体部分と認定され、暗い箇所(すなわち、黒色部分)が空隙部分と認定される。なお、SEM像のコントラストを明瞭にするために、グレースケールへの変換処理のような画像処理がさらに行われてもよい。
【0046】
第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブの細孔径の平均値は、例えば1nm以上200nm以下であってもよく、1nm以上132nm以下であってもよい。言い換えると、多孔質の酸化ニオブは、例えば1nm以上200nm以下の平均細孔径を有していてもよい。また、多孔質の酸化ニオブは、1nm以上132nm以下の平均細孔径を有していてもよい。ここで、多孔質の酸化ニオブの細孔径の平均値は、SEMを用いて撮影された多孔質の酸化ニオブのSEM像を用いて求められる。具体的には、多孔質の酸化ニオブの表面のSEM像において確認される細孔の中から、任意の30個の細孔が選択される。ここで、SEM像において細孔として確認される領域は、多孔質の酸化ニオブの空孔率を求める際に空隙部分として認定される領域である。すなわち、SEM像において暗い箇所が細孔として認定される。次に、選択された30個の細孔の直径が、細孔径として測定される。ここで、1個の細孔の直径の値が複数ある場合(例えば、細孔の形状が楕円の場合)は、最も短い直径の値がその細孔の直径の値として採用される。30個の細孔の細孔径の測定値から、細孔径の平均値が算出される。SEM像における細孔径は、画像処理ソフト(例えば、「ImageJ」(NIH製))を用いて測定されてもよいし、定規のような長さを測定する器具を用いて測定されてもよい。
【0047】
図3に示される太陽電池100では、基板1上に、第1電極2、第1電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6がこの順に積層されている。太陽電池100は、基板1を有しなくてもよい。太陽電池100は、正孔輸送層5を有していなくてもよい。
【0048】
次に、太陽電池100の基本的な作用効果を説明する。太陽電池100に光が照射されると、光電変換層4が光を吸収し、励起された電子および正孔を発生させる。励起された電子は、第1電子輸送層3に移動する。一方、光電変換層4で生じた正孔は、正孔輸送層5に移動する。第1電子輸送層3は、第1電極2に電気的に接続されている。正孔輸送層5は、第2電極6に電気的に接続されている。負極として機能する第1電極2および正極として機能する第2電極6から、電流が取り出される。
【0049】
太陽電池100は、例えば、以下の方法によって作製される。
【0050】
まず、第1電極2が、基板1の表面に化学気相蒸着法(以下、「CVD」という)またはスパッタ法により形成される。
【0051】
次に、第1電極2の上に、第1電子輸送層3が、スピンコート法のような塗布法により形成される。第1電子輸送層3は、多孔質の酸化ニオブを含有する。第1電子輸送層3がスピンコート法で形成される場合、例えば、Nb原料を溶解させた溶液が準備される。その溶液が所定の温度で加熱されることによって、酸化ニオブの分散液が得られる。得られた酸化ニオブの分散液に、例えばエチルセルロースまたはポリスチレン-ポリエチレンオキシド(以下、「PS-PEO」という)のような多孔化剤が添加されることによって、多孔質酸化ニオブ原料溶液が調製される。多孔質酸化ニオブ原料溶液が第1電極2の上にスピンコートされて、塗布膜が形成される。その塗布膜が、例えば空気中で所定の温度で焼成される。Nb原料の例は、ニオブエトキシドのようなニオブアルコキシド、ハロゲン化ニオブ、シュウ酸ニオブアンモニウム、またはシュウ酸水素ニオブである。溶媒の例は、エタノール、ベンジルアルコール、水、または1,3-プロパンジオールである。焼成温度は、例えば100℃以上700℃以下である。
【0052】
次に、第1電子輸送層3の上に、光電変換層4が形成される。光電変換層4は、例えば、次の方法によって作製され得る。以下では、一例として、化学式(HC(NH221-y(C65CH2CH2NH3ySnI3(以下、「FA1-yPEAySnI3」と省略されることがある)で示されるペロブスカイト化合物を含有する光電変換層4の製造方法が説明される。FA1-yPEAySnI3において、yは、0<y<1を満たす。
【0053】
まず、有機溶媒に、SnI2、HC(NH22I(以下、「FAI」という)、およびC65CH2CH2NH3I(以下、「PEAI」という)が添加される。有機溶媒の例は、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)およびN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)の混合液(例えば、DMSO:DMF=1:1(体積比))である。SnI2のモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、または0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。FAIのモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、または0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。PEAIのモル濃度は、0.1mol/L以上0.5mol/L以下であってもよく、または0.1mol/L以上0.3mol/L以下であってもよい。
【0054】
次に、有機溶媒にSnI2、FAI、およびPEAIが添加された溶液が、40℃以上180℃以下の範囲内の温度に加熱される。これにより、SnI2、FAI、およびPEAIが溶解した混合溶液が得られる。続いて、得られた混合溶液が、室温で放置される。
【0055】
次に、この混合溶液が、第1電子輸送層3上にスピンコート法にて塗布され、40℃以上200℃以下の範囲内の温度で、15分以上1時間以下の範囲内の時間、加熱される。これにより、光電変換層4が得られる。混合溶液がスピンコート法にて塗布される場合には、スピンコート中に貧溶媒が滴下されてもよい。貧溶媒の例は、トルエン、クロロベンゼン、またはジエチルエーテルである。
【0056】
光電変換層4の作製用の混合溶液は、フッ化スズのようなクエンチャー物質を含有し得る。クエンチャー物質の濃度は、0.05mol/L以上0.4mol/L以下であり得る。クエンチャー物質は、光電変換層4内で欠陥が発生すること、すなわち、Sn空孔が発生することを抑制する。Sn4+の増加によって、Sn空孔の生成が促進される。
【0057】
次に、光電変換層4の上に、正孔輸送層5が形成される。正孔輸送層5の形成方法の例は、塗布法または印刷法である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。複数の材料を混合して正孔輸送層5を形成し、次いで正孔輸送層5を加圧または焼成してもよい。正孔輸送層5が有機の低分子物質または無機半導体から形成される場合には、例えば真空蒸着法によって、正孔輸送層5が形成され得る。
【0058】
次に、正孔輸送層5の上に第2電極6が形成される。このようにして、太陽電池100が得られる。第2電極6は、CVD法またはスパッタ法により形成され得る。
【0059】
以下、太陽電池100の要素が、より詳細に説明される。
【0060】
(基板1)
基板1は、第1電極2、第1電子輸送層3、光電変換層4、および第2電極6を保持する。基板1は、透明な材料から形成され得る。基板1の例は、ガラス基板またはプラスチック基板である。プラスチック基板の例は、プラスチックフィルムである。第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2が、電子輸送層3、光電変換層4、および第2電極6を保持するので、太陽電池100は、基板1を有しなくてもよい。
【0061】
(第1電極2および第2電極6)
第1電極2および第2電極6は、導電性を有する。第1電極2および第2電極6の少なくとも一方は、透光性を有する。透光性を有する電極は、例えば、可視領域から近赤外領域までの光を透過させ得る。透光性を有する電極は、透明性かつ導電性を有する金属酸化物および金属窒化物の少なくとも1つから形成され得る。
【0062】
金属酸化物の例は、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化チタン、
(ii) 錫およびシリコンからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化ガリウム、
(iii) インジウム-錫複合酸化物、
(iv) アンチモンおよびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化錫、または
(v) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化亜鉛
である。2種以上の金属酸化物が組み合わせられて複合物として用いられ得る。
【0063】
金属窒化物の例は、シリコンおよび酸素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた窒化ガリウムである。2種以上の金属窒化物が組み合わせられて用いられ得る。
【0064】
金属酸化物および金属窒化物は組み合わせられて用いられ得る。
【0065】
透光性を有する電極は、透明でない材料を用いても形成され得る。この場合、透光性を有する電極は、例えば、光が透過するパターンを設けて形成され得る。光が透過するパターンとしては、例えば、線状(すなわち、ストライプ状)、波線状、格子状(すなわち、メッシュ状)、または多数の微細な貫通孔が規則的若しくは不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンが挙げられる。これらのパターンを有する電極では、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない電極材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、および、これらのいずれかを含む合金を挙げることができる。導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0066】
太陽電池100は、光電変換層4および第1電極2の間に第1電子輸送層3を具備している。そのため、第1電極2は、光電変換層4から移動する正孔をブロックする必要はない。したがって、第1電極2は、光電変換層4とオーミック接触を形成可能な材料から形成され得る。
【0067】
太陽電池100が正孔輸送層5を具備していない場合、第2電極6は、光電変換層4から移動する電子がブロックされる電子ブロック性を有する材料で形成される。この場合、第2電極6は、光電変換層4とオーミック接触しない。光電変換層4から移動する電子がブロックされる電子ブロック性とは、光電変換層4で発生した正孔のみを通過させ、かつ電子を通過させないことを意味する。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光電変換層4の伝導帯下端のエネルギー準位よりも低い。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光電変換層4のフェルミエネルギー準位よりも低くてもよい。具体的には、第2電極6は、白金、金、またはグラフェンのような炭素材料から形成され得る。これらの材料は、電子ブロック性を有するが、透光性を有さない。したがって、このような材料を用いて透光性の第2電極6を形成する場合は、上述のように、光が透過するパターンを有する第2電極6が形成される。太陽電池100が光電変換層4および第2電極6との間に正孔輸送層5を具備している場合、第2電極6は、光電変換層4から移動する電子がブロックされる電子ブロック性を有さなくてもよい。したがって、第2電極6は、光電変換層4とオーミック接触することが可能な材料から形成されていてもよい。
【0068】
第1電極2および第2電極6の光の透過率は、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。電極を透過する光の波長は、光電変換層4の吸収波長に依存する。第1電極2および第2電極6のそれぞれの厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下である。
【0069】
(第1電子輸送層3)
第1電子輸送層3は、多孔質の酸化ニオブを電子輸送材料として含有する。上述のとおり、第1電子輸送層3は、多孔質の酸化ニオブ以外の電子輸送材料を含んでいてもよい。
【0070】
第1電子輸送層3に含まれ得る、多孔質の酸化ニオブ以外の電子輸送材料(以下、「他の電子輸送材料」と記載することがある)は、太陽電池の電子輸送材料として公知の材料であってもよい。他の電子輸送材料は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体であってもよい。第1電子輸送層3が、バンドギャップが3.0eV以上の半導体を含む場合、可視光および赤外光が光電変換層4まで到達し得る。当該半導体の例は、有機または無機のn型半導体である。
【0071】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン、またはフラーレンの誘導体である。無機のn型半導体の例は、金属酸化物、金属窒化物、またはペロブスカイト酸化物である。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。例えば、TiO2が用いられ得る。金属窒化物の例は、GaNである。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0072】
第1電子輸送層3によれば、光電変換層4を容易に形成できるという効果が得られる。光電変換層4の材料が、第1電子輸送層3の空孔の内部にも侵入するので、第1電子輸送層3が光電変換層4の足場となる。そのため、第1電子輸送層3が設けられることにより、光電変換層4の材料が第1電子輸送層3の表面で弾かれたり、凝集したりすることが起こりにくい。したがって、第1電子輸送層3を足場として、光電変換層4が均一な膜として形成され得る。太陽電池100における光電変換層4は、例えば、基板1、第1電極2、および第1電子輸送層3で形成されている積層体の第1電子輸送層3上に、光電変換層作製用の混合溶液をスピンコート法にて塗布し、加熱することによって形成できる。
【0073】
第1電子輸送層3によって光散乱が起こることにより、光電変換層4を通過する光の光路長が増大する効果が期待される。光路長が増大すると、光電変換層4中で発生する電子および正孔の量が増加すると予測される。
【0074】
(光電変換層4)
光電変換層4は、本実施形態によるペロブスカイト化合物を含む。光電変換層4は、本実施形態によるペロブスカイト化合物を主として含んでいてもよい。ここで、「光電変換層4が、本実施形態によるペロブスカイト化合物を主として含む」とは、光電変換層4が本実施形態によるペロブスカイト化合物を70質量%以上含むことを意味する。光電変換層4が、本実施形態によるペロブスカイト化合物を80質量%以上含んでいてもよい。光電変換層4は、本実施形態によるペロブスカイト化合物を含んでいればよく、不純物を含み得る。光電変換層4は、本実施形態によるペロブスカイト化合物とは異なる他の化合物をさらに含んでいてもよい。
【0075】
光電変換層4の厚さは、その光吸収の大きさにもよるが、例えば100nm以上10μm以下である。光電変換層4の厚さは、100nm以上1000nm以下であってもよい。光電変換層4は、溶液を用いた塗布法により形成され得る。
【0076】
(正孔輸送層5)
正孔輸送層5は、有機半導体または無機半導体によって構成される。正孔輸送層5のために用いられる代表的な有機半導体の例は、spiro-OMeTAD、PTAA、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)(以下、「P3HT」という)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)(以下、「PEDOT」という)またはCopper(II) phthalocyanine triple-sublimed grade(以下、「CuPC」という)である。
【0077】
無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V25、または、酸化グラフェンのようなカーボン系材料である。
【0078】
正孔輸送層5は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0079】
正孔輸送層5の厚さは、1nm以上1000nm以下であってもよく、10nm以上500nm以下であってもよく、10nm以上50nm以下であってもよい。この範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現でき、かつ低抵抗を維持できる。したがって、光電変換効率を高くできる。
【0080】
正孔輸送層5は、支持電解質および溶媒を含んでいてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層5中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0081】
支持電解質の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(以下、「LiTFSI」という)、LiPF6、LiBF4、過塩素酸リチウム、または四フッ化ホウ素カリウムである。
【0082】
正孔輸送層5に含有される溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒または有機溶媒であり得る。溶質の安定化の観点から、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の例は、tert-ブチルピリジン、ピリジン、またはn-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0083】
正孔輸送層5に含有される溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独でまたは他の溶媒と混合されて用いられ得る。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性の点で望ましい。
【0084】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0085】
図4は、本実施形態による太陽電池の変形例の断面図を示す。図3に示される太陽電池100とは異なり、変形例の太陽電池200は、第2電子輸送層7を備える。第2電子輸送層7は、第1電子輸送層3および第1電極2の間に位置し、かつ緻密な酸化ニオブを含有する。
【0086】
図4に示される太陽電池200では、基板1上に、第1電極2、第2電子輸送層7、第1電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6がこの順に積層されている。太陽電池200は、基板1を有していなくてもよい。太陽電池200は、正孔輸送層5を有していなくてもよい。
【0087】
第2電子輸送層7は、緻密な酸化ニオブを含有する。本明細書において、「緻密」とは、物質が密に集合している状態を意味している。具体的には、「緻密」は、空孔率が1%以下であることを意味する。ここで、緻密な物質の空孔率は、SEMにより撮影された当該物質の表面のSEM像を用いて求められる。具体的には、緻密な物質の空孔率は、上述の多孔質の酸化ニオブの空孔率と同様の方法によって求められ得る。まず、第2電子輸送層7に含まれる酸化ニオブの表面のSEM像において、固体部分の面積および空隙部分の面積が求められる。次に、固体部分の面積および空隙部分の面積の合計(すなわち、総面積)に対する、空隙部分の面積の割合が算出される。算出された空隙部分の面積の割合が、空孔率である。SEM像における固体部分と空隙部分との認定は、上述した、多孔質の酸化ニオブの空孔率を測定する場合と同様である。
【0088】
第2電子輸送層7に含まれる緻密な酸化ニオブは、アモルファスであってもよい。
【0089】
第2電子輸送層7に含まれる緻密な酸化ニオブは、化学式Nb2(1+x)5(1-x)で示されてもよい。この化学式において、xは-0.15以上+0.15以下であってもよい。なお、xの値は、XPSにより求められる。また代替の方法として、EDX、ICP発光分光分析法、またはRBSも挙げられる。
【0090】
第2電子輸送層7に含まれる緻密な酸化ニオブにおいて、酸素に対するニオブのモル比(Nb/O)は、0.31以上0.41以下であってもよい。酸化ニオブがこのようなモル比を満たすことにより、太陽電池200がより高い変換効率を実現し得る。なお、モル比は、XPSにより求められる。また代替の方法として、EDX、ICP発光分光分析法、またはRBSも挙げられる。
【0091】
第2電子輸送層7に含まれる緻密な酸化ニオブは、Nb25であってもよい。第2電子輸送層7がNb25を含むことにより、太陽電池200がより高い変換効率を実現し得る。
【0092】
第2電子輸送層7の厚さは、8nm以上350nm以下であってもよい。第2電子輸送層7がこの範囲内の厚さを有することにより、第2電子輸送層7は、十分な電子輸送性を発現でき、かつ低抵抗を維持できる。
【0093】
第2電子輸送層7は、緻密体によって構成されていてもよい。すなわち、第2電子輸送層7は、緻密層であってもよい。第2電子輸送層7が、第1電極2および第1電子輸送層3と接しており、かつ第1電子輸送層3が光電変換層4と接する多孔質層である場合、多孔質層中の空孔は、例えば、第2電子輸送層7と接する部分から、光電変換層4と接する部分まで繋がっている。この場合、光電変換層4の材料は、多孔質層の空孔を充填し、第2電子輸送層7の表面まで到達することができる。したがって、光電変換層4は、第1電子輸送層3だけでなく、第2電子輸送層7とも直接電子の授受が可能である。したがって、電子は、第1電子輸送層3および第2電子輸送層を経由して、または、第2電子輸送層7のみを経由して、効率よく光電変換層4から第1電極2へ移動することができる。
【0094】
次に、太陽電池200の基本的な作用効果を説明する。太陽電池200に光が照射されると、光電変換層4が光を吸収し、励起された電子および正孔を発生させる。励起された電子は、第1電子輸送層3に移動する。一方、光電変換層4で発生した正孔は、正孔輸送層5に移動する。前述のとおり、第1電子輸送層3および正孔輸送層5は、それぞれ、第1電極2および第2電極6に電気的に接続されているので、負極および正極としてそれぞれ機能する第1電極2および第2電極6から電流が取り出される。
【0095】
太陽電池200は、太陽電池100と同様の方法によって作製され得る。第2電子輸送層7は、第1電極2の上に、例えばスピンコート法のような塗布法またはスパッタ法により形成される。ここでは、第2電子輸送層7が緻密な酸化ニオブで構成されている緻密層である例が、説明される。例えば第2電子輸送層7がスピンコート法で形成される場合、Nb原料を所定の割合で溶媒に溶解させた溶液が準備される。次に、その溶液が第1電極2上にスピンコートされて、塗布膜が形成される。その塗布膜が、例えば空気中で所定の温度で焼成される。Nb原料の例は、ニオブエトキシドなどのニオブアルコキシド、ハロゲン化ニオブ、シュウ酸ニオブアンモニウム、またはシュウ酸水素ニオブである。溶媒の例は、イソプロパノールまたはエタノールである。焼成温度は、例えば30℃以上1500℃以下である。
【0096】
(実施例)
以下の実施例を参照しながら、本開示はより詳細に説明される。
【0097】
[実施例1]
実施例1では、図4に示される太陽電池200が以下のように作製された。
【0098】
緻密な酸化ニオブからなる第2電子輸送層7が表面上に形成されたガラス基板を、ジオマテック株式会社から入手した。ガラス基板は、インジウムによってドープされたSnO2層を表面に有していた。ガラス基板およびSnO2層は、それぞれ、基板1および第1電極2として機能した。ガラス基板は、日本板硝子社製であり、1ミリメートルの厚みを有していた。なお、緻密な酸化ニオブからなる第2電子輸送層7は、200℃の条件下、スパッタ法で形成された。また、第2電子輸送層7の厚さは、15nmであった。
【0099】
第2電子輸送層7の表面のSEM像が撮影された。SEM像において、空孔は確認されなかった。すなわち、ガラス基板上に形成されている第2電子輸送層7が明らかに緻密体であることが、SEM像から確認された。
【0100】
次に、第1電子輸送層3を作製するための多孔質酸化ニオブ原料溶液が調製された。具体的には、ニオブエトキシド(Nb(OCH2CH35(シグマアルドリッチ製))を含むベンジルアルコール溶液が調製された。この溶液におけるニオブエトキシドの濃度は、0.074mol/Lであった。この溶液が耐圧容器に封入され、180℃で12時間加熱された。その後、この溶液が室温になるまで放置されて、酸化ニオブ分散液が得られた。5.6質量%になるようにエチルセルロースがエタノールに溶解された後、さらにテルピネオール45μLを加えることで、エチルセルロース溶液が調製された。上記のとおり作製された酸化ニオブ分散液とエチルセルロース溶液とが、酸化ニオブ:エチルセルロース=1:2.4(質量比)になるように混合された。これにより、多孔質酸化ニオブ原料溶液が調製された。
【0101】
多孔質酸化ニオブ原料溶液が、第2電子輸送層7上にスピンコートされることによって、塗布膜が得られた。この塗布膜が、100℃で10分間仮焼成された。その後、仮焼成された膜が電気炉の中に入れられて、500℃で30分間焼成されることによって、多孔質の酸化ニオブで形成された第1電子輸送層3が作製された。
【0102】
次に、SnI2(シグマアルドリッチ製)、SnF2(シグマアルドリッチ製)、FAI(GreatCell Solar製)、およびPEAI(GreatCell Solar製)を、DMSOおよびDMFの混合溶媒に添加し、混合溶液を得た。混合溶液におけるDMSO:DMFの体積比は1:1であった。混合溶液におけるSnI2の濃度は、1.5mol/Lであった。混合溶液におけるSnF2の濃度は、0.15mol/Lであった。混合溶液におけるFAIの濃度は、1.5mol/Lであった。混合溶液におけるPEAIの濃度は、0.3mol/Lであった。
【0103】
グローブボックス内で、第1電子輸送層3上に混合溶液80μLをスピンコート法により塗布し、塗布膜を得た。塗布膜の膜厚は450nmであった。なお、この塗布膜の作製に用いられた混合溶液の一部は、第1電子輸送層3の空孔の内部にも侵入していた。したがって、ここでの塗布膜の膜厚には、第1電子輸送層3の厚さが含まれている。次に、塗布膜をホットプレート上で、120℃で30分間焼成することによって、光電変換層4を形成した。光電変換層4は、化学式FA0.83PEA0.17SnI3のペロブスカイト化合物を主として含んでいた。化学式FA0.83PEA0.17SnI3のペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.4eVであった。伝導帯下端のエネルギー準位の測定方法は、後述される。
【0104】
次に、グローブボックス内で、PTAA(シグマアルドリッチ製)を10mg/mLの濃度で含有するトルエン溶液80μLを光電変換層4上にスピンコート法により塗布し、正孔輸送層5を作製した。断面SEM分析(Helios G3:FEI製)による観察から、正孔輸送層5の厚さは10nmであった。
【0105】
最後に、正孔輸送層5上に金を120nmの厚さになるように蒸着し、第2電極6を作製した。このようにして、実施例1による太陽電池を得た。
【0106】
[実施例2]
実施例2では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)第1電子輸送層3の作製において、エチルセルロース溶液の代わりに、0.079mmol/LになるようにPS-PEO(Polymer Source, Inc.製、ポリスチレン部分の分子量:42kg/mol、ポリエチレンオキシド部分の分子量:11.5kg/mol)がテトラヒドロフランに溶解されたPS-PEO溶液が調製されたこと。
(ii)第1電子輸送層3の作製において、塩化ニオブ0.925mmolをエタノール9.21mLおよび水0.38mLに溶解させたものに、上記のPS-PEO溶液6.6mLを加えて混合し、多孔質酸化ニオブ原料溶液を調製したこと。
【0107】
[実施例3]
実施例3では、以下の事項(i)を除き、実施例2と同様に太陽電池200を得た。
(i)第1電子輸送層3の作製において、PS-PEO(ポリスチレン部分の分子量:42kg/mol、ポリエチレンオキシド部分の分子量:11.5kg/mol)の代わりに、ポリスチレン部分の分子量:51kg/mol、ポリエチレンオキシド部分の分子量:11.5kg/molのPS-PEO(Polymer Source, Inc.製)を用いて、PS-PEO溶液が調製されたこと。
【0108】
[実施例4]
実施例4では、以下の事項(i)を除き、実施例2と同様に太陽電池200を得た。
(i)第1電子輸送層3の作製において、PS-PEO(ポリスチレン部分の分子量:42kg/mol、ポリエチレンオキシド部分の分子量:11.5kg/mol)の代わりに、ポリスチレン部分の分子量:144kg/mol、ポリエチレンオキシド部分の分子量:11.5kg/molのPS-PEO(Polymer Source, Inc.製)を用いて、PS-PEO溶液が調製されたこと。
【0109】
[実施例5]
実施例5では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)第1電子輸送層3の作製において、多孔質酸化ニオブ原料溶液を、酸化ニオブを6質量%含む酸化ニオブ分散液(多木化学製)0.25mLに対して、5.6質量%のエチルセルロースのエタノール溶液0.45mLを加えることで調製された多孔質酸化ニオブ分散液に変更したこと。
【0110】
[比較例1]
比較例1では、第1電子輸送層3を形成しなかった点を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。すなわち、比較例1の太陽電池200は、多孔質の酸化ニオブを含有する第1電子輸送層を備えていなかった。
【0111】
[比較例2]
比較例2では、以下の事項(i)を除き、比較例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)光電変換層4の作製において、化学式FA0.83PEA0.17SnI3のスズ系ペロブスカイト化合物が、化学式FA0.83PEA0.17PbI3の鉛系ペロブスカイト化合物に変更されたこと。
【0112】
比較例2の太陽電池200の光電変換層は、次の方法で作製された。PbI2(シグマアルドリッチ製)、FAI(GreatCell Solar製)、およびPEAI(GreatCell Solar製)を、DMSOおよびDMFの混合溶媒に添加し、混合溶液を得た。混合溶液におけるDMSO:DMFの体積比は、1:1であった。混合溶液におけるPbI2の濃度は、1.5mol/Lであった。混合溶液におけるPbF2の濃度は、0.15mol/Lであった。混合溶液におけるFAIの濃度は、1.5mol/Lであった。混合溶液におけるPEAIの濃度は、0.3mol/Lであった。この混合溶液を用いた点以外は、比較例1と同じ方法で、光電変換層4が作製された。
【0113】
化学式FA0.83PEA0.17PbI3のペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-4.0eVであった。伝導帯下端のエネルギー準位の測定方法は、後述される。
【0114】
[比較例3]
比較例3では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)光電変換層4の作製において、化学式FA0.83PEA0.17SnI3のスズ系ペロブスカイト化合物が、化学式FA0.83PEA0.17PbI3の鉛系ペロブスカイト化合物に変更されたこと。
【0115】
比較例3の太陽電池200の光電変換層は、比較例2の太陽電池200の光電変換層と同様の方法で作製された。
【0116】
[比較例4]
比較例4では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)第2電子輸送層7の作製において、ニオブエトキシドを含むエタノール溶液を、塩化亜鉛(ZnCl3)(和光純薬工業製)を含み、かつ塩化亜鉛の濃度が0.3mol/Lであるエタノール溶液に変更したこと。
(ii)第1電子輸送層3の作製において、多孔質酸化ニオブ原料溶液を、0.47mol/Lの硝酸亜鉛・六水和物(和光純薬工業製)0.98mL中に、5.6質量%のエチルセルロースのエタノール溶液2.14mLを加えて混合することによって調製された多孔質酸化亜鉛原料溶液に変更したこと。
【0117】
[比較例5]
比較例5では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)第2電子輸送層7の作製において、ニオブエトキシドを含むエタノール溶液を、塩化アルミニウム(AlCl3)(和光純薬工業製)を含み、かつ塩化アルミニウムの濃度が0.3mol/Lであるエタノール溶液に変更したこと。
(ii)第1電子輸送層3の作製において、多孔質酸化ニオブ原料溶液を、酸化アルミニウムを15重量%含むエタノール-IPA溶液(CIKナノテック株式会社製)0.48gに、5.6質量%のエチルセルロースのエタノール溶液4.15mLを加えて混合することによって調製された多孔質酸化アルミニウム原料溶液に変更したこと。
【0118】
[比較例6]
比較例6では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1と同様に太陽電池200を得た。
(i)第2電子輸送層7の作製において、ニオブエトキシドを含むエタノール溶液を、塩ジルコニウムアセテート2水和物(ZrOCOCH3・2H2O)(シグマアルドリッチ製)を含み、かつジルコニウムアセテート2水和物の濃度が0.3mol/Lであるエタノール溶液に変更したこと。
(ii)第1電子輸送層3の作製において、多孔質酸化ニオブ原料溶液を、酸化ジルコニウムペースト(SOLARONIX製)300mgをエタノール1mLに溶解させて調製した多孔質酸化ジルコニウム原料溶液に変更したこと。
【0119】
[第1電子輸送層3の多孔質の材料の結晶性の確認]
実施例1から5、および比較例3による太陽電池200について、第1電子輸送層3の多孔質の材料の結晶性が、電子線回折により確認された。電子線回折は、原子分解能分析電子顕微鏡(ARM200F、日本電子株式会社製)を用いて測定された。結果は、表1に示されている。図5Aは、実施例1の第1電子輸送層3の電子線回折像を示す。図5Bは、実施例2の第1電子輸送層3の電子線回折像を示す。図5Cは、実施例5の第1電子輸送層3の電子線回折像を示す。図5Aおよび5Bに示されているように、実施例1および2の第1電子輸送層3の電子線回折像にはハローパターンがみられた。このことから、実施例1および2の第1電子輸送層3を構成する多孔質の酸化ニオブはアモルファスであることが確認された。また、図5Cに示されているように、実施例5の第1電子輸送層3の電子線回折像には複数の白い点がみられた。このことから、実施例5の第1電子輸送層3を構成する多孔質の酸化ニオブは結晶であることが確認された。
【0120】
[ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位の測定方法]
光電変換層4のペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、紫外電子分光測定および透過率測定に基づいて算出された。具体的には、基板1、第1電極2、第2電子輸送層7、第1電子輸送層3、および光電変換層4の積層体が測定用サンプルとして用いられた。測定用サンプルは、正孔輸送層5および第2電極6を具備していなかった。言い換えれば、測定用サンプルは、表面に光電変換層4を有していた。
【0121】
測定用サンプルは、紫外電子分光測定装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:PHI 5000 VersaProbe)を用いる紫外電子分光測定に供され、光電変換層4のペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位を算出した。
【0122】
測定用サンプルは、透過率測定装置(株式会社島津製作所製、SlidSpec-3700)を用いて透過率測定に供された。透過率測定の結果に基づいて、光電変換層4のペロブスカイト化合物のバンドギャップが算出された。
【0123】
算出されたこれらの価電子帯上端のエネルギー準位およびバンドギャップに基づいて、光電変換層4のペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位を算出した。
【0124】
[第1電子輸送層3の多孔質の材料の空孔率の測定方法]
第1電子輸送層3の多孔質の材料の空孔率は、電界放出型走査電子顕微鏡SU8200(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて撮影された、第1電子輸送層3の多孔質の材料の表面のSEM像を用いて求められた。第1電子輸送層3の多孔質の材料の表面のSEM像において、空隙部分と固体部分とのコントラストをより明瞭にするために、当該SEM像がグレースケールに変換された。このような多孔質の材料の表面のSEM像の処理が、実施例2の第1電子輸送層3の多孔質酸化ニオブの表面のSEM像を例として、具体的に説明される。図6Aは、実施例2の第1電子輸送層3の多孔質酸化ニオブのSEM像を示す。具体的には、まず、図6Aに示されているような多孔質酸化ニオブのSEM像が準備された。次に、当該SEM像に対し、「ImageJ」(NIH製)において、自動閾値設定方法をDefult、閾値の最小値を0、および閾値の最大値を50と設定して、二値化処理が施された。図6Bは、二値化処理後の実施例2の多孔質酸化ニオブのSEM像を示す。この二値化処理により、明るい箇所(図6Bの白色部分)が固体部分と特定され、暗い部分(図6Bの黒色部分)が空隙部分と特定された。その結果、二値化処理において、閾値指定された範囲が全体に占める割合(すなわち、固体部分と空隙部分との総面積に対する空隙部分の面積の割合)が、22.2%であることが分かった。このようにして求められた、固体部分と空隙部分との総面積に対する空隙部分の面積の割合が、空孔率とされた。
【0125】
[第1電子輸送層3の多孔質の材料の細孔径の平均値の測定方法]
第1電子輸送層3の多孔質の材料の細孔径は、電界放出型走査電子顕微鏡SU8200(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて撮影された第1電子輸送層3の多孔質の材料の表面のSEM像を用いて求められた。第1電子輸送層3の多孔質の材料の表面のSEM像において確認される細孔の中から、任意の30個の細孔が選択された。なお、SEM像において、暗い箇所が細孔として認定された。選択された30個の細孔の直径が、細孔径として測定された。なお、1個の細孔の直径の値が複数存在した場合(例えば、細孔の形状が楕円の場合)は、最も短い直径の値がその細孔の直径の値として採用された。30個の細孔の細孔径の測定値から、細孔径の平均値が算出された。第1電子輸送層3の多孔質の材料において、細孔として認定された空隙部分の30個の細孔径は、「Imagej」(NIH製)を用いて測定された。
【0126】
[第1電子輸送層3の多孔質の酸化ニオブにおけるモル比Nb/O]
第1電子輸送層3を構成する多孔質の酸化ニオブの組成が、X線光電子分光測定装置(PHI 5000 VersaProbe(アルバック・ファイ株式会社))によって求められた。具体的には、基板1、第1電極2、第2電子輸送層7、および第1電子輸送層3の積層体が測定用サンプルとして用いられた。測定用サンプルは、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6を具備していなかった。言い換えれば、測定用サンプルは、表面に第1電子輸送層3を有していた。
【0127】
[変換効率および短絡電流の評価]
実施例1から5および比較例1から6による太陽電池200にソーラーシミュレータ(分光計器株式会社製、BPS X300BA)を用いて100mW/cm2の照度を有する擬似太陽光を照射し、次いで各太陽電池200の変換効率および短絡電流が求められた。表1は、変換効率および短絡電流を示す。
【0128】
表1は、実施例1から5および比較例1から6による太陽電池200について、電子輸送材料(すなわち、第1電子輸送層3の材料および第2電子輸送層7の材料)、第1電子輸送層3の材料の結晶性、光電変換材料、第1電子輸送層3の材料の細孔径の平均値、第1電子輸送層3の多孔質の材料の空孔率、太陽電池200の変換効率、および太陽電池200の短絡電流を示す。
【0129】
【表1】
【0130】
以上の結果から理解されるように、スズ系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む光電変換層4と、多孔質のニオブ酸化物を含む第1電子輸送層3とを備えた実施例1から5による太陽電池200は、高い短絡電流値および高い変換効率を有する。
【0131】
光電変換材料がスズ系ペロブスカイト化合物であって、かつ第1電子輸送層3に含まれる多孔質の材料が酸化ニオブである実施例1から5による太陽電池200は、高い変換効率を示している。これは、酸化ニオブとスズ系ペロブスカイト化合物とのエネルギーオフセットが小さいためである。また、第1電子輸送層3に含まれる多孔質の材料が酸化ニオブであるが、光電変換材料が鉛系ペロブスカイト化合物である比較例3の太陽電池200では、エネルギーオフセットが大きくなることが原因で変換効率が低くなると考えられる。
【0132】
実施例5による太陽電池200では、第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブが結晶であるのに対し、実施例1から4による太陽電池200では、第1電子輸送層3に含まれる多孔質の酸化ニオブがアモルファスであった。多孔質の酸化ニオブがアモルファスである実施例1から4の太陽電池200は、多孔質の酸化ニオブが結晶である実施例5による太陽電池200よりも、高い変換効率を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示の太陽電池は、高い変換効率を実現でき、さらに環境面でも優れたスズ系ペロブスカイト太陽電池であるため、有用である。
【符号の説明】
【0134】
1 基板
2 第1電極
3 第1電子輸送層
4 光電変換層
5 正孔輸送層
6 第2電極
7 第2電子輸送層
100,200 太陽電池
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B