IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人土木研究所の特許一覧 ▶ 合同会社アンカーアセットマネジメント研究会の特許一覧

<>
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図1
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図2
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図3
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図4
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図5
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図6
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図7
  • 特許-斜面からの飛出し物の防護構造 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】斜面からの飛出し物の防護構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20231208BHJP
   E01F 7/04 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
E01F7/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022112742
(22)【出願日】2022-07-13
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】513103195
【氏名又は名称】合同会社アンカーアセットマネジメント研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊典
(72)【発明者】
【氏名】間渕 利明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 益央
(72)【発明者】
【氏名】小出 央人
(72)【発明者】
【氏名】高梨 俊行
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3233813(JP,U)
【文献】特開2011-064059(JP,A)
【文献】特開2006-312822(JP,A)
【文献】特開2006-112064(JP,A)
【文献】特開2016-079765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E01F 7/00- 7/06
E02D 17/20
F16L 7/00- 7/02
F16L 13/00-13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に配置され、飛出し物の捕獲部を有する飛出し物捕獲具と、緩衝手段とを備えてなる飛出し物を防護する構造であって、
前記緩衝手段は剛性を備えたシリンダーを備え、前記シリンダーは、前記斜面に支持された反力軸に固定され、
前記シリンダーは、一側に開口部を有し、他側を閉塞部で閉塞して形成され、前記シリンダー内に摩擦材が収容され、
前記シリンダーの開口部に前記摩擦材を押圧できる押し込み材が配置され、
前記飛出し物捕獲具は、前記飛出し物が前記捕獲部で捕獲された際に、前記押し込み材を押圧できる押圧部を備え、前記シリンダー、前記摩擦材及び前記押し込み材は、
前記押し込み材の押圧部が前記摩擦材を前記シリンダー内で圧縮変形させた際に、前記摩擦材が前記閉塞部に当接して、前記シリンダーの軸方向に強く圧縮された場合、前記シリンダーの軸と直交する方向に膨張して、前記シリンダーの内面を強く押圧して摩擦を発揮できる構成としたことを特徴とした斜面からの飛出し物の防護構造。
【請求項2】
飛出し物捕獲具は、飛出したアンカーヘッド等を受ける捕獲部を備え、かつ前記捕獲部の移動方向を押し込み材が摩擦材を押す方向とする押圧部を備え、
シリンダーは、その軸を斜面と略直角となるように配置し、かつ開口部を前記斜面側に向けたことを特徴とした請求項1に記載の斜面からの飛出し物の防護構造。
【請求項3】
押し込み材は、一側がシリンダーの開口部から斜面側に突出し、他側が前記シリンダー内に位置したことを特徴とする請求項2に記載の斜面からの飛出し物の防護構造。
【請求項4】
シリンダーは、他側に閉塞板を備え、反力軸は、前記シリンダー内で前記押し込み材及び摩擦材を貫通して、前記閉塞板に定着されたことを特徴とした請求項2に記載の斜面からの飛出し物の防護構造。
【請求項5】
飛出し物捕獲具は、落石を捕獲する網体や柵等からからなる捕獲部を備え、
前記飛出し物捕獲具は、捕獲部に伝達部材の一側を連結し、かつ前記伝達部材の他側を、押圧部を介して前記押し込み材に連結して、
前記伝達部材は、落石等を捉えた際の前記捕獲部の移動方向を、押し込み材を押圧させる方向に変化させるように構成したことを特徴とした請求項1に記載の斜面からの飛出し物の防護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面(のり面を含む。)に施工したグラウンドアンカー(以下「アンカー」とする。)において、アンカーテンドンの破断により飛出したアンカーテンドン及びアンカーヘッド(以下「アンカーヘッド等」とする。)、斜面で生じる落石等の飛出し物をとらえる際に適用する斜面からの飛出し物の防護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、斜面の崩壊を防止するために施工されたアンカーは、前記アンカーヘッド等から構成されている。アンカー体を斜面中の堅固な地盤に構築して、アンカーテンドンに緊張力を与えて地表部の受圧構造物(アンカーヘッド、アンカープレート(支圧板、受圧板、支圧プレートとも言われる。))に引張力を作用させて定着させていた。これにより斜面の安定を確保していた。
経年変化や設計時には想定していなかった外力の作用により、アンカーテンドンが破断し、アンカーヘッド等が斜面から外方に飛出す事例が多く発生し、現場を調査した結果によるとその危険性を持ったアンカーが多く存在することが報告されている。アンカーヘッド等が外方へ飛出す場合、アンカーヘッド等は、アンカーテンドンに与えられた緊張力が開放されたエネルギーにより、100メートル以上も遠くへ飛出し、その範囲内で人や器物に損害を与えるおそれがあった。
【0003】
アンカーテンドンは、設計上、破断することを想定していないため、このようなアンカーヘッド等の飛出しへの対策に関する公的な基準は無い。そのため、アンカーヘッド等が飛出すおそれがある場合、飛出したアンカーヘッド等をアンカー設置位置付近に留めるための様々な工夫が独自に提案されている。
例えば、アンカー飛出し防止器具をアンカーヘッド外方(飛出し方向)に配置して、飛出したアンカーヘッドを捉える小さな網やキャップ等を設け、これをアンカーのアンカープレート(支圧板)に固定する提案がされていた(特許文献1、2)。また、スプリングバネを設けたカバー部材をアンカープレート(支圧板)に固定する提案もなされていた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-64059公報
【文献】特開2006-312822公報
【文献】特開2006-112064公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の技術では、アンカーテンドンの緊張力に比例した飛出しエネルギーを想定しているので、大きな緊張力が作用しているアンカーテンドンが切れた場合には、従来の技術では衝撃の吸収に限界があり、飛出しを防護しきれなかった。また、スプリングバネを使用した場合(特許文献1、3)、仮に切れたアンカーの飛出しを機構的に制御できても、スプリングバネの伸出しが起こり、このスプリングバネの伸出し量が概ね許容範囲であったとしても、不慮により飛出した装置が人や器物に接触して損害を与える可能性もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、斜面に配置される飛出し物捕獲具に、摩擦材を収容したシリンダーを備え、このシリンダーを地盤もしくは周辺構造物に埋設した反力軸に固定して、飛出し物捕獲具の移動を摩擦材に伝える構造とし、前記問題点を解決した。
【0007】
即ち、本発明は、斜面に配置され、飛出し物の捕獲部を有する飛出し物捕獲具と、緩衝手段とを備えてなる飛出し物を防護する構造であって、
前記緩衝手段は剛性を備えたシリンダーを備え、前記シリンダーは、前記斜面に支持された反力軸に固定され、
前記シリンダーは、一側に開口部を有し、他側を閉塞部で閉塞して形成され、前記シリンダー内に摩擦材が収容され、
前記シリンダーの開口部に前記摩擦材を押圧できる押し込み材が配置され、
前記飛出し物捕獲具は、前記飛出し物が前記捕獲部で捕獲された際に、前記押し込み材を押圧できる押圧部を備え、前記シリンダー、前記摩擦材及び前記押し込み材は、前記押し込み材の押圧部が前記摩擦材を前記シリンダー内で圧縮変形させた際に、前記摩擦材が前記閉塞部に当接して、前記シリンダーの軸方向に強く圧縮された場合、前記シリンダーの軸と直交する方向に膨張して、前記シリンダーの内面を強く押圧して摩擦を発揮できる構成としたことを特徴とした斜面からの飛出し物の防護構造である。
【0008】
また、前記において、飛出し物捕獲具は、飛出したアンカーヘッド等を受ける捕獲部を備え、かつ前記捕獲部の移動方向を押し込み材が摩擦材を押す方向とする押圧部を備え、
シリンダーは、その軸を斜面と略直角となるように配置し、かつ開口部を前記斜面側に向けたことを特徴とした斜面からの飛出し物の防護構造である。
また、前記において、押し込み材は、一側がシリンダーの開口部から斜面側に突出し、他側が前記シリンダー内に位置したことを特徴とする斜面からの飛出し物の防護構造である。
また、前記において、シリンダーは、他側に閉塞板を備え、反力軸は、前記シリンダー内で前記押し込み材及び摩擦材を貫通して、前記閉塞板に定着されたことを特徴とした斜面からの飛出し物の防護構造である。
【0009】
さらに、前記において、飛出し物捕獲具は、落石を捕獲する網体や柵等からからなる捕獲部を備え、
前記飛出し物捕獲具は、捕獲部に伝達部材の一側を連結し、かつ前記伝達部材の他側を、押圧部を介して前記押し込み材に連結して、
前記伝達部材は、落石等を捉えた際の前記捕獲部の移動方向を、押し込み材を押圧させる方向に変化させるように構成したことを特徴とした斜面からの飛出し物の防護構造である。
【0010】
前記におけるアンカーヘッド等は、アンカーを構成するアンカーテンドンが破断された場合に飛出す物で、アンカーヘッドはもちろん、アンカーテンドン等も含む。
【0011】
また、前記における斜面は、未施工の土の斜面、補修工事等をしたコンクリートなどの斜面、斜面上の周辺構造物(アンカーの支圧構造物を含む。)等を含む。
【0012】
また、前記における摩擦材は、シリンダー内で、シリンダーの軸方向に強く圧縮された場合、シリンダーの軸と直交する方向に膨張して、シリンダーの内面を強く押圧して摩擦を発揮できる材料をいう。シリンダーは一般に鋼製やステンレス等の金属製であるので、摩擦材はシリンダー内面との摩擦を考慮すれば、ゴムやシリコン等の樹脂材料等が考えられる。
【0013】
また、前記における伝達部材は、ワイヤーや鋼材等を含む部材である。
【0014】
(本発明の基本原理)
【0015】
続いて、図1図3は本発明の斜面からの飛出し物の防護構造で、同図に基づいて飛出し物捕獲具の押圧部側のシリンダー(緩衝手段)周りの基本原理及び従来技術との相違について説明する。したがって、ここでは、飛出し物捕獲具の捕獲部側の説明を省略してある。
【0016】
(1) 本発明は、例えば、アンカーヘッド等の飛出しを受ける装置を、剛性を備えたアンカーヘッド捕獲具10として、アンカーヘッド捕獲具10の押圧部13の近傍かつ押圧部13が移動軸方向外方(「飛出し方向」のことをいう。以下同様。)に、開口部18を内方(「斜面40側」のことをいう。以下同様。)に向けたシリンダー17を位置させてある。シリンダー17の開口部18に、剛性のある押し込み材27が挿入され、押し込み材27の内方面はアンカーヘッド捕獲具10の外方面に位置している。また、シリンダー17内に、摩擦材23が挿入され、押し込み材27の外方面は摩擦材23の内方面に位置している。ここで、通常、押し込み材27の径はシリンダー17の内径より若干小さい径で形成するが、押し込み材27の径は、押し込み材27をシリンダー17内に挿入できれば大小は問わない。
ここで、摩擦材23は3つの部材を軸方向に重ねて構成したが、重ねる個数(分割する個数)は任意であり、一体の構造とすることもできる(図示していない。)。
また、シリンダー17は地中もしくはアンカーの受圧構造物に埋設されたシリンダー用アンカー(反力手段)21に固定されている。具体的には、シリンダー用アンカー21は基端部が地中もしくはアンカーの受圧構造物に埋設され、地上にある上端部21aは、シリンダー17内の軸方向の中央部(押し込み材27の中央部、摩擦材23の中央部)を貫通して、シリンダー17の閉塞部(蓋)19から突出してナット22が螺合され、シリンダー17の軸方向外方面17a(閉塞部19の外方面)に定着される。なお、シリンダー用アンカー21がシリンダー17内を貫通する位置は中央部に限らず、外力が掛かった場合でもシンダー17がその位置に留まるように配置できれば、貫通位置は任意であり、また、シリンダー用アンカー21がシリンダー17内を貫通しない構造で配置することもできる(図示していない。)。
以上のようにして、本発明のアンカーヘッド防護構造30の一部であるアンカーヘッド捕獲具10の押圧部13周りを構成する(図1(a))。ここで、摩擦材23の軸方向外方面がシリンダー17の閉塞部19の内方面に当接している。なお、場合によって、摩擦材23の外方面がシリンダー17の閉塞部19の内方面の近傍に位置させることもでき、ここで近傍とは、わずかに隙間がある状態をいう。
また、ここで、シリンダー用アンカー21に定着されたシリンダー17、シリンダー17内の摩擦材23、摩擦材23を押圧する押し込み材27から緩衝手段を構成する。
【0017】
(2) 次に、何らかの原因で原位置から飛出したアンカーヘッド等(図示していない。)は、アンカーヘッド捕獲具10を矢示33方向に、衝撃的に押圧し、押圧部13が押し込み材27をアンカーヘッド等の飛出し方向(ここでは、矢示33方向と同一)に押上げ、摩擦材23をシリンダー17内で軸方向に圧縮変形させる。この際、摩擦材23の変形は、その外方面が閉塞部19で拘束されているので、軸直交方向の膨張変形に変り、シリンダー17の内側面との間で大きな摩擦が生じ、アンカーヘッド捕獲具10の外方移動エネルギーを、瞬時に吸収させる。
【0018】
(3) これに対して、前記従来の技術をこの構造に対応させて考えると、アンカーヘッド捕獲具10の押圧部13付近にシリンダー用アンカー21の軸方向外方端21aを直接にナット22で固定した構造と同等となる。よって、アンカーヘッド等の飛出しを総てアンカーヘッド捕獲具10の外方移動エネルギーで受ける構造となる(図1(b))。したがって、アンカーヘッド等の飛出しエネルギーを総て、シリンダー用アンカー21で負担をすることになり、本発明と同等のエネルギー負担を実現しようとした場合には、シリンダー用アンカー21を「より深く設置し」および/または「より太く構成し」なければならなかった。
【0019】
(4) 次に、本発明において、アンカーヘッド等の飛出しエネルギーを吸収する仕組みを説明する。本発明で、アンカーヘッド捕獲具10が加圧される前を図2(a)に示す。この状態からアンカーヘッド捕獲具10の軸方向内方面10aが矢示33方向に加圧された場合、内方面10aは当初位置から長さ[a1]だけ外方移動する過程で、上記のように、同時に押し込み材27が摩擦材23を圧縮し、軸直交方向に膨張変形した摩擦材23の外側面とシリンダー17の内側面とに密着押圧して摩擦が生じる。圧縮された摩擦材23は変形し、シリンダー17の内側面と密着して摩擦エネルギーを発生し、シリンダー用アンカー21には飛出しエネルギーと摩擦エネルギーとの差の分だけが作用する。アンカーヘッド捕獲具10を押圧するエネルギーが摩擦エネルギーに変換されることにより、これを吸収できる。
よって、シリンダー17の軸方向外方面17aは、加圧前に較べて長さ[a2]だけ外方移動することになる(図2(b))。また、アンカーヘッド捕獲具10の外方移動は当初位置から長さ[a1]以上の移動を防止できる。したがって、
[a2]<[a1] または [a2]≒0
となる。
【0020】
(5) 前記図1(b)のような従来の場合を、仮に、本発明のシリンダー17を使用する構造に適用したとすると以下のようになる。
すなわち、摩擦材23ではなく非圧縮材料からなる内装材(例えば鋼製の円柱)23Bを使用することは従来の構造から推定される。そこで、シリンダー17内に、内装材23Bを内装した状態で、同様に、アンカーヘッド捕獲具10の押圧部13の軸方向外方に押し込み材27、内装材23Bを内装したシリンダー17を配置して、シリンダー17をシリンダー用アンカー21に定着してなる構造となる(図3(a))。
この従来の場合では、アンカーヘッド捕獲具10が、受けた矢示33方向の衝撃によりアンカーヘッド捕獲具10の軸方向内方面10aは、長さ[a1]だけ外方移動することになる(図3(b))。この外方移動エネルギーは剛性のある内装材23Bで受けるので、アンカーヘッド等の飛出しエネルギーはシリンダー用アンカー21に100%伝達され、シリンダー17の外方面17aは長さ[a2]だけ外方移動する。したがって、
[a2]≒[a1]
となる。よって、この場合は、シリンダー用アンカー21が負担すべき引張力、シリンダー17の上面17aが外方移動する長さ[a2]は本発明の場合と較べて、より大きくなる。
【発明の効果】
【0021】
シリンダー内に摩擦材を収容し、摩擦材を押圧できる押し込み材を配置して、シリンダーを斜面に支持された反力軸(シリンダー用アンカー)に固定したので、シリンダー、押し込み材及び摩擦材に変形を加える力が加わった場合であっても、シリンダーは原位置に保たれる。したがって、飛出し物捕獲具の捕獲部が飛出し物を捕獲した際の移動方向のエネルギーは、押圧部が押し込み材を押圧するエネルギーに変換され、さらにこのエネルギーは摩擦材の外側面とシリンダー内側面との摩擦により吸収され、飛出し物捕獲具及び飛出し物を原位置付近に留めて、飛出し物の飛散を防止できる効果がある。
【0022】
また、飛出し物をアンカーヘッド等とした場合、シリンダーの開口面を斜面側に向けたことにより、アンカーヘッド等の飛出し方向と、押し込み材がシリンダー内の摩擦材を押圧する方向とを同じにできるので、飛出し部捕獲具及の構造を簡略化し、簡易な構造でアンカーヘッド等の飛出し飛散の防止を確実に実現できる。
【0023】
また、飛出し物を落石とした場合、飛出し物捕獲具の捕獲部が落石を捕獲した際に、飛出し物捕獲具の移動方向を、押し込み材が摩擦材を押圧する方向に変化させる伝達部材を設けたので、網等の従来の手段により飛出し物捕獲具を構成でき、簡易な構造で落石の飛出し飛散を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(a)は本発明の防護構造の基本原理を説明した図で、(b)は従来技術を本発明の構造に対応させた場合の概念図、を表す。
図2】本発明の防護構造の基本原理及び作動を説明した図で、(a)は加圧前、(b)は加圧後、を表す。
図3】従来例の防護構造の基本原理及び作動を説明した図で、(a)は加圧前、(b)は加圧後、を表す。
図4】本発明をアンカーヘッド等の飛出し用に適用した実施形態を表し、(a)は平面図、(b)は正面図を表す。
図5】本発明をアンカーヘッド等の飛出し用に適用した他の実施形態を表し、(a)は平面図、(b)は正面図を表す。
図6】本発明をアンカーヘッド等の飛出し用に適用した他の実施形態の概念図である。
図7】本発明を落石捕獲に適用した実施形態の概念図を表す。
図8】(a)(b)は、本発明を落石捕獲に適用した実施形態に使用するシリンダーの保持を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この実施形態は一例であり、特許請求の範囲の内容をこの実施形態で限定するものではない。
【0026】
1.アンカーに適用した場合
【0027】
(1) この実施形態は、飛出す対象を、斜面に埋設したアンカーとした実施形態である(図4)。なお、定期点検等で、補修対象や更新対象となったアンカーテンドン1及びアンカーヘッド3が、本発明の実施対象となる。なお、ここで飛出す対象をアンカーヘッドとしたが、前記のようにアンカーヘッドはアンカーヘッド等を表す。
【0028】
(2) アンカーは、通常は斜面40に対して略直角(放射軸方向)に、緊張を付与してアンカーテンドン1を打ち込み、斜面40のアンカーヘッド3で、従来の方法により、斜面40に定着されている。例えば、アンカーヘッド3と斜面40との定着は、大きな面積で斜面40と接するように受圧板(図示していない。)に定着されている。また、アンカーヘッド3の外周は、防水等のためにアンカーキャップ5で覆われている。なお、斜面40は、前述のように、未施工の土の斜面、補修工事等をしたコンクリートなどの斜面、斜面上の周辺構造物(アンカーの支圧構造物を含む)等を含む。
アンカーキャップ5の軸方向外方に、剛性材料からなるアンカーヘッド捕獲具(飛出し物捕獲具)10を配置する。アンカーヘッド捕獲具10は、H形鋼10Aの上に、H形鋼10Bを乗せ、平面視90度に交差させて配置して構成してある。アンカーヘッド捕獲具10で、H形鋼10A、10Bが交差する位置がヘッド受け部11を形成して、H形鋼10A、10Bの両端部が押圧部13を形成する。各押圧部13の外方面に押し込み材27が固定されている。アンカーヘッド捕獲具10のH形鋼の構成本数は、必要に応じて増減させることができる。
各押圧部13の外方に、摩擦材23が充填されたシリンダー17を、その開口部18を内方に向けて配置し、開口部18内に押し込み材27の上部を挿入する。シリンダー用アンカー21の下端部が斜面40に埋設して支持され、シリンダー用アンカー21の上端部にシリンダー17が固定される。ここでは、シリンダー用アンカー21は、アンカーヘッド捕獲具10、押し込み材27、シリンダー17、摩擦材23を貫通して、シリンダー17の閉塞部19の軸方向外方に突出させ、シリンダー用アンカー21の上端部21aはねじ切りしてあり、シリンダー17の閉塞部19の外方面のナット22に上端部21aを螺合して定着してある。したがって、アンカーヘッド捕獲具10、押し込み材27、摩擦材23、シリンダー17に外力が加わっても、シリンダー17はこの位置に留まるように配置されている。なお、シリンダー17の閉塞部19はシリンダー17の上部の開口を円盤状の蓋を被せて構成してある。またここで、シリンダーの筒体と被せた蓋とを溶接してシリンダー17とすることもできる。
前記において、通常、押し込み材27の径はシリンダー17の内径より若干小さい径で形成するが、押し込み材27の径は、押し込み材27をシリンダー17内に挿入できれば大小は問わない。
また、前記において、シリンダー用アンカー21は、シリンダー17の軸方向で中央部を貫通させる。
また、この状態で、シリンダー17の軸方向内方縁(開口部18)と押圧部13の外方面との間に隙間25が形成されている。
【0029】
(3) 以上のようにして、アンカーヘッド防護構造30を構成する(図4(a)(b))。
【0030】
(4) 次にアンカーヘッド防護構造30の作動について説明する。
何らかの原因で、アンカーテンドン1が破断した場合、アンカーテンドン1には大きな緊張力が導入されているので、アンカーヘッド等は大きなエネルギーを保持して、矢示33のように軸方向外方(斜面40に対して略直角)に飛出し、アンカーヘッド捕獲具10のヘッド受け部11に当たる。したがって、平面視十字形のアンカーヘッド捕獲具10の全体が矢示33方向に急上昇するように動き始める。これに伴い、同時にアンカーヘッド捕獲具10の各押圧部13の各押し込み材27が、各シリンダー17内の摩擦材23を押圧する。以下、前記基本原理のように(図1(a)、図2)、摩擦材23の外側面とシリンダー17の内側面との摩擦によりこのエネルギーを吸収でき、アンカーヘッド捕獲具10の外方移動を留め、アンカーヘッド3をほぼ原位置に留めることができる。
【0031】
(5)他の実施形態
前記実施形態において、アンカーヘッド捕獲具10は2つのH形鋼を上下に交差させて構成したが、アンカーヘッド3の飛出しを受けるヘッド受け部11、シリンダー17内の摩擦材23を押す押圧部13を備えていれば、他の型鋼や鋼材等、他の構成とすることもできる。例えば、斜面40からやや離れた位置に配置できる板状のヘッド受け部11を備え、その両側で斜面40に近い位置に配置できる板状の押圧部13を備え、ヘッド受け部11と各押圧部13とを縦方向の連結部15で、ヘッド受け部11を中心に線対称となるように連結して、一体のハット型から構成することもできる(図5)。なお、前記において、ヘッド受け部11と各押圧部13とを、ヘッド受け部11を中心に線対称となるように配置したが、バランス良くシリンダー17内の摩擦材23を押圧できれば、配置は任意である。
【0032】
また、前記実施形態において、1つのシリンダー用アンカー21を1つのシリンダー17内を貫通させて、シリンダー17の閉塞部19に定着させたが、アンカーヘッド捕獲具10に外力が掛かった場合でもシリンダー17がその位置に留まるように配置できれば、シリンダー用アンカー21の数やシリンダー17との構造は任意である(図6参照)。
また、前記において、シリンダー用アンカー21は、シリンダー17の軸方向で中央部を貫通させたが、シリンダー用アンカー21がシリンダー17内を貫通する位置は中央部に限らず、外力が掛かった場合でもシリンダー17がその位置に留まるように配置できれば、貫通位置は任意である(図示していない。)。さらに、シリンダー用アンカー21がシリンダー17内を貫通しない構造でシリンダー用アンカー21を配置することもできる(図6参照)。
【0033】
また、前記実施形態において、図6のように構成することもできる。2つの固定用アンカー38の軸方向外方端部38aをアンカー固定板45に固定し、1つの固定用アンカー38のそれぞれに対応して2つのシリンダー17を配置して、アンカー固定板45に合計4個のシリンダーを半固定する。ここでは、アンカー固定板45の内方面が各シリンダー17の閉塞部19を構成する。また、前記実施形態と同様に、各シリンダー17の開口部18には、シリンダー17内の摩擦材23を押圧できる押し込み材27が配置されている(図6)。よって、前記実施形態と同様に、アンカーヘッド3の矢示33方向の飛出しを捉えたアンカーヘッド捕獲具10の押圧部13は矢示33方向に移動し、押し込み材27を押圧して、摩擦材23を圧縮変形させ、摩擦材23の外側面とシリンダー17の内側面との間で摩擦を生じさせ、アンカーヘッド捕獲具10の外方移動を吸収して、アンカーヘッド捕獲具10をその位置に留った状態にさせることができる。
【0034】
また、前記実施形態において、シリンダー17と摩擦材23と押し込み材27とから構成したが、他の構成とすることもできる。例えば、摩擦材23は粘性の大きな半固体のような材料から構成することもできる(図示していない。)。また、シリンダー17とオイルダンパー用の充填剤のような材料から構成することもできる(図示していない。)。また、シリンダー17を省略して、各種スプリングから構成することもできる(図示していない。)。
【0035】
2.落石防護に適用した場合
【0036】
(1) この実施形態では、飛出す対象を、斜面40を転がる落石とした実施形態である(図7図8)。
【0037】
(2) 斜面40上方からの落石を受ける網等を落石捕獲具(捕獲部)42とする。落石をとらえた落石捕獲具42をその場で保持するために、落石捕獲具42の四隅にワイヤー等の鋼材43の各一端部43aを固定する(図7)。また、鋼材43の他端部43bを緩衝手段20(固定用アンカー38等に取り付けたシリンダー17、摩擦材23、押し込み材27)に連結してある(図7)。
なお、斜面40の解釈についてはアンカーに適用した場合と同じである。
【0038】
(3) 斜面40で、落石捕獲具42を設置した位置の周辺で、斜面40から若干離して円筒状のシリンダー17を配置する。落石捕獲具42が落石を捉えて、各鋼材43に軸方向外方の力が作用した場合、その力が、シリンダー17の開口部18の押圧部13を介して、押し込み材27が摩擦材23を押圧する方向に作用するように構成されている。
アンカー固定板45は、斜面40に埋設した固定用アンカー38に固定され、シリンダー17はアンカー固定板45に外力が加わってもこの位置に留まるように配置されている。
例えば、シリンダー17の閉塞部19の外方面に、剛性のあるアンカー固定板45の中央部を設置して、アンカー固定板45の両端部に固定用アンカー38の軸方向外方端部38aを定着して構成する(図8(a))。ここで、シリンダー17とアンカー固定板45の設置は、いわゆる半固定の状態で、動かないように設置してあればよいが、固定することもできる。
あるいは、シリンダー17の閉塞部19を剛性のあるシリンダー固定板46に固定し、シリンダー17より斜面40側に、剛性のあるアンカー固定板45を配置して、アンカー固定板45に固定用アンカー38を定着する。シリンダー固定板46とアンカー固定板45とを連結ロッド47で連結して構成することもできる(図8(b))。前記連結ロッド47は、引張力を伝える材料であれば、他の構造とすることもでき、また、シリンダー17に外力が作用してもシリンダー17をその位置に留めておくことができる構造であれば、他の構造とすることもできる(図示していない。)。
【0039】
(4) また、前記アンカーに適用した場合の実施形態と同様に、シリンダー17内には円柱形の摩擦材23が充填され、シリンダー17の開口部18にはシリンダー17の内径より若干小さい径の円柱状の押し込み材27が挿入されている。なお、押し込み材27の径は、押し込み材27がシリンダー17内に挿入されれば大小は問わない。
鋼材43の他端部43bを、押し込み材27の外面(摩擦材23を押圧する面の反対側の面)に、押圧部13を介して連結されている。押圧部13により、鋼材43に生じた引張力を、シリンダー17の軸方向外方に押し込み材27が摩擦材23を圧縮する方向に作用するようになっている。なお、前記における鋼材43は、主にワイヤーであるが、ある程度の柔軟性を保持しかつ引張力を伝えられる材料であればワイヤーに限られず、材質も鋼材に限られず、また通常は複数の部材を連結して構成されるのに対し単独の構成とされる場合もある。
なお、他端部43bは、鋼材43の内、シリンダー17の軸方向外方に中央部を貫通する棒状の鋼材43cの端部に形成されている(図8(a)(b))。またここで、前記アンカーに適用した場合の実施形態と同様に、鋼材43cがシリンダー17内を貫通する位置は中央部に限らず、外力が掛かった場合でもシンダー17がその位置に留まるように配置できれば、貫通位置は任意である(図示していない。)。さらに、鋼材43cがシリンダー17内を貫通しない構造で鋼材43cを配置することもできる(図示していない。)。
このような固定用アンカー38に取り付けられたシリンダー17、摩擦材23、押し込み材27を総ての鋼材43に対して連結する。
【0040】
(5) 以上のようにして、落石防護構造50を構成する(図7図8)。なお、前記において、固定用アンカー38に設置され、かつ摩擦材23を入れたシリンダー17で、開口部18に押し込み材27を挿入した構成が緩衝手段20を構成する。
【0041】
(6)次に落石防護構造50の作動について説明する。
矢示52方向に、斜面40を転がる落石を、落石捕獲具42が捉えた場合、鋼材43に、矢示53方向の引張力が生じる(図7)。この矢示53方向の引張力は、各鋼材43の他端部43b側でも瞬間的に生じる。各鋼材43の他端部43bの引張力は押圧部13を介して、矢示53方向(鋼材43に生じる引張力と同じ方向)に押し込み材27が摩擦材23の軸方向内方面を強く押し、前記基本原理に示すように、また前記アンカーヘッド捕獲構造30の実施形態と同様に、摩擦材23が押圧方向に直角な方向に変形して、即ちシリンダー17の内側面を強く押し、摩擦材23の外側面とシリンダー17の内側面との摩擦を生じる(図8)。この摩擦により、落石捕獲具42が落石の方向(矢示52方向)に移動するエネルギーを瞬間的に吸収でき、落石による落石捕獲具42の破壊や脱落が防止され、落石の下方で落石による被害が防止できる。
【0042】
(7)他の実施形態
前記実施形態において、総ての鋼材43に摩擦材23を収容したシリンダー17を連結したが、少なくとも1つの鋼材43に対して摩擦材23を収容したシリンダー17を連結し、他の鋼材43は従来の手段により斜面40に埋設して支持させることもできる(図示していない。)。
また、前記実施形態において、落石捕獲具42を網としたが、落下してきた岩石をその位置に留めて、下方への移動を制限できる手段であれば、柵等他の手段とすることもできる(図示していない。)。
【符号の説明】
【0043】
1 アンカーテンドン
3 アンカーヘッド
5 アンカーキャップ
10 アンカーヘッド捕獲具(飛出し物捕獲具)
10A、10B H形鋼(アンカーヘッド捕獲具)
10a アンカーヘッド捕獲具の下面
11 ヘッド受け部(アンカーヘッド捕獲具)
13 押圧部(アンカーヘッド捕獲具、伝達部材)
15 連結部(アンカーヘッド捕獲具)
17 シリンダー(緩衝手段)
17a シリンダーの上面
18 開口部(シリンダー)
19 閉塞部(シリンダー)
20 緩衝手段
21 シリンダー用アンカー(緩衝手段)
21a シリンダー用アンカーの上端部
22 ナット
23 摩擦材
23B 内装材(従来例)
25 隙間
27 押し込み材(緩衝手段)
30 アンカーヘッド防護構造(飛出し物の防護構造)
33 矢示
36 アンカーヘッド捕獲具(飛出し物捕獲具)?
36a、36b H形鋼(アンカーヘッド捕獲具)?
38 固定用アンカー
38a 軸方向外方端部(固定用アンカー)
40 斜面
42 落石捕獲具(飛出し物捕獲具、捕獲部)
43 鋼材
43a 鋼材の一端部
43b 鋼材の他端部
43c 鋼材
45 アンカー固定板
46 シリンダー固定板
47 連結ロッド
50 落石防護構造(飛出し物の防護構造)
52 矢示
53 矢示
【要約】
【課題】
アンカーヘッド等や落石等の飛出し物のエネルギーを、簡易な方法により吸収して、飛出しを防護する。
【解決手段】
アンカーヘッド3を受けるアンカーヘッド捕獲具10に、摩擦材23を挿入したシリンダー17を配置し、摩擦材23を押圧できる押し込み材27を設けてアンカーヘッドの防護構造30とする(a)。アンカーヘッド捕獲具10は矢示33方向に加圧された場合、その下面10aは当初位置から長さa1上昇し、同時に押し込み材27が摩擦材23を圧縮し、拘束され変形した摩擦材23はシリンダー17の内面との間に大きな摩擦が生じる。アンカーヘッド捕獲具10の上昇エネルギーはこの摩擦エネルギーに変換された状態で、シリンダー17の上面17aは、長さa2上昇する(b)。アンカーヘッド捕獲具10は、当初置から長さa1以上の上昇を防止でき、かつ「[a2]<[a1]」又は「[a2]≒0」となる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8