(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
H01B 1/16 20060101AFI20231208BHJP
C01F 7/02 20220101ALI20231208BHJP
【FI】
H01B1/16 Z
C01F7/02
(21)【出願番号】P 2019197081
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/108322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/16
C01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化水酸化物を含む無機物質によって構成される無機マトリックス部と、
前記無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在し、導電性を有する
複数の導電性材料部と、
を備え、
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下であ
り、
前記無機マトリックス部の内部において、複数の前記導電性材料部は互いに接触して繋がっている、複合部材。
【請求項2】
前記導電性材料部は金属で構成される、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記導電性材料部は炭素材料で構成される、請求項1に記載の複合部材。
【請求項4】
前記導電性材料部は、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物からなる群より選ばれる少なくとも一つで構成される、請求項1に記載の複合部材。
【請求項5】
前記導電性材料部は導電性の有機化合物で構成される、請求項1に記載の複合部材。
【請求項6】
前記導電性材料部はアスペクト比が5以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項7】
前記金属酸化水酸化物はベーマイトである、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項8】
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が15%未満である、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項9】
前記無機マトリックス部の内部に、前記導電性材料部に起因する導電パスが形成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項10】
前記複合部材の厚みは50μm以上である、請求項1から9のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項11】
前記無機マトリックス部は、前記無機物質からなる複数の粒子により構成され、さらに前記無機物質の粒子同士が互いに結合することにより形成されており、
前記無機物質の粒子同士は、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して互いに結合している、請求項1から10のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項12】
前記無機マトリックス部におけるベーマイト相の存在割合が50質量%以上である、請求項7に記載の複合部材。
【請求項13】
前記無機マトリックス部を構成する前記無機物質は、実質的に水和物を含まない、請求項1から12のいずれか一項に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子分野において、比較的高い導電性を示すセラミックスの需要が高まってきている。そのため、セラミックスに対して導電性を付与する研究が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1は、導電性が付与されたアルミナ焼結体、窒化ケイ素焼結体、窒化アルミニウム焼結体を開示している。具体的には、Al2O3、Si3N4、AlNのいずれか一種以上からなる非導電性セラミックス中に、TiC、TiN、WC、TaC、MoC、NbC、VCのいずれか一種以上からなる導電性セラミックス粒子が微細分散した組織を持つ導電性複合セラミックスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の焼結処理では、導電性セラミックス粒子の酸化分解を防ぐために、成形体を不活性ガス雰囲気下、1300~2000℃で加熱している。つまり、従来の焼結法による導電性セラミックスの製造方法では、導電性材料の酸化分解を防ぐために、不活性雰囲気下で焼成する必要があった。また、従来の焼結法では、例えば1000℃以上に成形体を加熱する必要があるため、耐熱性の高い導電性材料しか使用できないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、製造時に高温かつ不活性雰囲気下で焼成する必要がなく、さらに耐熱性の低い導電性材料を用いた場合でも導電性を付与することが可能な複合部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る複合部材は、金属酸化水酸化物を含む無機物質によって構成される無機マトリックス部と、無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在し、導電性を有する導電性材料部と、を備える。そして、複合部材において、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、製造時に高温かつ不活性雰囲気下で焼成する必要がなく、さらに耐熱性の低い導電性材料を用いた場合でも導電性を付与することが可能な複合部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る複合部材の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】実施例1で用いた水硬性アルミナのX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト(AlOOH)及びギブサイト(Al(OH)
3)のパターンを示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例の試験サンプルにおける体積抵抗率の測定方法を説明するための概略図である。
【
図4】実施例及び比較例の試験サンプルにおける、体積抵抗率と金属粒子の体積割合との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例2の試験サンプルの断面を3000倍の倍率で観察した結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は試験サンプルの断面の二次電子像を示しており、(b)は試験サンプルの断面の反射電子像を示している。
【
図6】実施例1の試験サンプルの断面を5000倍の倍率で観察した結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は試験サンプルの断面の二次電子像を示しており、(b)は二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図7】実施例1の試験サンプルの断面を20000倍の倍率で観察した結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は試験サンプルの断面の二次電子像を示しており、(b)は二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図8】実施例2の試験サンプルの断面を5000倍の倍率で観察した結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は試験サンプルの断面の二次電子像を示しており、(b)は二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図9】実施例2の試験サンプルの断面を20000倍の倍率で観察した結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は試験サンプルの断面の二次電子像を示しており、(b)は二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図10】参考例の試験サンプルのX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト及びギブサイトのX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本実施形態に係る複合部材、及び複合部材の製造方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
[複合部材]
本実施形態の複合部材100は、無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10を構成する無機物質とは異なる接着物質を介することなく、無機マトリックス部10と直接固着している導電性材料部20と、を備えている。具体的には、
図1に示すように、複合部材100は、無機物質によって構成される無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在する導電性材料部20と、を備えている。
【0012】
無機マトリックス部10は、
図1に示すように、無機物質からなる複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機マトリックス部10が形成されている。
【0013】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。この中でも、無機物質は、アルミニウム、鉄、ニッケル、ガリウム及びイットリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。
【0014】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、上記金属元素の酸化水酸化物を含有している。また、無機物質は、上記金属元素の酸化水酸化物を主成分として含有することが好ましい。つまり、無機物質は、上記金属元素の酸化水酸化物を50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。このような無機物質は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高いことから、無機マトリックス部10の内部に導電性材料部20を配置することにより、導電性材料部20と酸素及び水蒸気との接触を抑制して、導電性材料部20の劣化を抑えることができる。なお、無機物質が上記金属元素の酸化水酸化物を主成分としている場合、無機物質は上記金属元素の水酸化物を含有していてもよい。
【0015】
また、無機マトリックス部10は、多結晶体であることが好ましい。つまり、無機物質の粒子11は結晶質の粒子であり、無機マトリックス部10は多数の粒子11が凝集してなるものであることが好ましい。無機マトリックス部10が多結晶体であることにより、アモルファスからなる場合と比べて、耐久性の高い複合部材100を得ることができる。なお、無機物質の粒子11は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有する結晶質の粒子であることがより好ましい。また、無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化水酸化物を含有する結晶質の粒子であることが好ましい。無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化水酸化物を主成分とする結晶質の粒子であることがより好ましい。
【0016】
無機マトリックス部10の無機物質に含まれる金属酸化水酸化物は、ベーマイトであることが好ましい。ベーマイトは、AlOOHの組成式で示されるアルミニウム酸化水酸化物である。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では殆ど反応しないことから化学的安定性が高く、さらに脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。また、ベーマイトは、比重が3.07程度であるため、無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合には、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れる複合部材100を得ることができる。
【0017】
無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである場合、粒子11は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。例えば、粒子11は、ベーマイトからなる相と、ギブサイト(Al(OH)3)からなる相が混合した粒子であってもよい。そして、この場合、隣接する粒子11は、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合していることが好ましい。つまり、粒子11は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーでも結合していないことが好ましい。なお、隣接する粒子11がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合している場合、当該アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物は結晶質であってもよく、また、非晶質であってもよい。
【0018】
無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト相の割合が増加することにより、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れた無機マトリックス部10を得ることができる。なお、無機マトリックス部10におけるベーマイト相の割合は、X線回折法により無機マトリックス部10のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0019】
無機マトリックス部10を構成する無機物質の粒子11の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、粒子11の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがより好ましく、300nm以上10μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上5μm以下であることが特に好ましい。無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、粒子11同士が強固に結合し、無機マトリックス部10の強度を高めることができる。また、無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、無機マトリックス部10の内部に存在する気孔の割合が20%以下となることから、導電性材料部20の劣化を抑制することが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0020】
無機物質の粒子11の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、粒子11は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まり、無機マトリックス部10の強度が向上しやすい。そのため、粒子11としてこのような形状の粒子を用いることにより、複合部材100全体の強度を高めることが可能となる。
【0021】
上述のように、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、金属酸化水酸化物を主成分として含有することがより好ましい。そのため、無機マトリックス部10も、金属酸化水酸化物を主成分とすることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10は、金属酸化水酸化物を50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。
【0022】
なお、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、実質的に水和物を含まないことが好ましい。本明細書において、「無機物質は、実質的に水和物を含有しない」とは、無機物質に故意に水和物を含有させたものではないことを意味する。そのため、無機物質に水和物が不可避不純物として混入した場合は、「無機物質は、実質的に水和物を含有しない」という条件を満たす。なお、ベーマイトは金属酸化水酸化物であることから、本明細書においては水和物に包含されない。
【0023】
また、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。ここでいうカルシウム化合物は、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト、2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)である。無機マトリックス部10を構成する無機物質が上記カルシウム化合物の水和物を含む場合、得られる複合部材は、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%を超える可能性がある。そのため、無機物質は、上記カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。また、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、リン酸セメント、リン酸亜鉛セメント、及びリン酸カルシウムセメントも含まないことが好ましい。無機物質がこれらのセメントを含まないことにより、得られる複合部材の気孔率を20%以下にすることが可能となる。
【0024】
複合部材100は、導電性を有する材料で構成されている導電性材料部20を備えている。導電性材料部20は、無機マトリックス部10の内部に分散しており、無機マトリックス部10と直接接触して固着している。そして、無機マトリックス部10の内部に、導電性を有する導電性材料部20を分散させることにより、複合部材100に導電性を発現させることが可能となる。つまり、無機マトリックス部10に導電性材料部20を分散させることにより、無機マトリックス部10の内部に、電子が伝導する導電パスが形成されるため、複合部材100の導電性を高めることができる。
【0025】
導電性材料部20を構成する材料は、導電性を有していれば特に限定されない。導電性材料部20を構成する材料は、金属、炭素材料、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物及び有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。後述するように、複合部材100は、300℃以下という低温で加熱する低温焼結法により得ることができる。そのため、有機化合物のような耐熱性の低い導電性材料であっても、導電性材料部20を構成する材料として用いることができる。また、低温焼結法では加熱温度が低いことため、導電性材料部20を構成する材料の酸化反応が生じ難い。そのため、複合部材100は、不活性雰囲気下ではなく、大気中で製造することができる。
【0026】
導電性材料部20は、金属で構成されることが好ましい。導電性材料部20を構成する金属は、例えば金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、タングステン、モリブデン、バナジウム、マグネシウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を用いることができる。導電性材料部20を構成する金属は、これらの金属元素の単体であってもよく、当該金属元素を任意に組み合わせた合金であってもよい。
【0027】
導電性材料部20は、炭素材料で構成されることも好ましい。導電性材料部20を構成する炭素材料は、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ及び導電性ダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0028】
導電性材料部20は、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物からなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されることも好ましい。導電性材料部20を構成する金属酸化物は、例えば、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アンチモンをドープした酸化スズ、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、及びガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。導電性材料部20を構成する金属窒化物は、例えば、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化バナジウム、窒化クロム、窒化モリブデン、及び窒化タングステンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。導電性材料部20を構成する金属炭化物は、例えば、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化バナジウム、炭化クロム、炭化モリブデン、及び炭化タングステンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0029】
導電性材料部は、導電性の有機化合物で構成されることも好ましい。導電性材料部20を構成する有機化合物は、例えば、導電性高分子を挙げることができる。導電性高分子としては、直鎖共役系高分子であるポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリイン;芳香族共役系高分子であるポリフェニレン、ポリナフタレン、ポリフルオレン、ポリアントラセン、ポリピレン、ポリアズレン;複素環式共役系高分子であるポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリイソチアナフテン、ポリオキサジアゾール;含ヘテロ原子共役系高分子であるポリアニリン、ポリチアジル;混合型共役系高分子であるポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン;梯子形共役系高分子であるポリアセン、ポリフェナントレン、ポリペリナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。なお、導電性高分子としては、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)も好ましい。また、導電性の有機化合物は、ポリマーに金属粒子が分散した導電性の金属ペーストであることも好ましい。
【0030】
導電性材料部20の形状は特に限定されず、例えば球状、鱗片状、針状、繊維状とすることができる。ただ、導電性材料部20の形状は、針状又は繊維状であることが好ましい。この場合、複数の導電性材料部20が互いに接触しやすくなるため、無機マトリックス部10の内部に導電パスが形成されやすくなる。そのため、無機マトリックス部10の内部に電子伝導経路が増加し、複合部材100の導電性を高めることが可能となる。
【0031】
なお、複合部材100の導電性は、無機マトリックス部10における導電性材料部20の量がパーコレーション濃度と呼ばれる閾値を超えると大きく向上する。そして、パーコレーション濃度は、導電性材料部20の形状によって変化する。そのため、導電性材料部20の形状が針状又は繊維状であったり、導電性材料部20の粒子径が大きい場合には、当該閾値が低下する傾向にある。
【0032】
導電性材料部20が針状又は繊維状である場合、導電性材料部20はアスペクト比が5以上であることが好ましい。これにより、複数の導電性材料部20がより接触しやすくなるため、無機マトリックス部10の内部に多くの導電パスを形成することが可能となる。なお、当該アスペクト比は、導電性材料部20の直径に対する長さの比(長さ/直径)であり、導電性材料部20の長さ及び直径は、複合部材100の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0033】
本実施形態の複合部材100は、上述のように、無機マトリックス部10の内部に、導電性材料からなる導電性材料部20が配置されている。そして、無機マトリックス部10は、金属酸化水酸化物を含む無機物質によって構成される。金属酸化水酸化物は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高いため、無機マトリックス部10の無機物質が金属酸化水酸化物からなる場合には、無機マトリックス部10の酸素透過性が低くなり、ガスバリア性が向上する。その結果、導電性材料部20と酸素及び水蒸気との接触を抑制して、導電性材料部20の劣化を抑えることができる。また、複合部材100は、無機マトリックス部10の内部に、導電性材料部20に起因する導電パスが形成されることから、導電性を発揮することができる。
【0034】
なお、無機マトリックス部10の内部において、導電性材料部20は、
図1に示すように高分散した状態で配置されていてもよい。ただ、無機マトリックス部10に導電パスを形成しやすくするために、導電性材料部20は、互いに接触して繋がっていることが好ましい。これにより、無機マトリックス部10に導電パスが増加するため、複合部材100の導電性をより高めることが可能となる。
【0035】
ここで、複合部材100の無機マトリックス部10では、無機物質の粒子11が連続的に存在していることが好ましい。つまり、
図1に示すように、無機マトリックス部10において、無機物質の粒子11は、互いに接触して繋がっていることが好ましい。そして、導電性材料部20の表面全体は、無機マトリックス部10により覆われていることが好ましい。これにより、導電性材料部20と酸素及び水蒸気との接触がさらに抑制されるため、導電性材料部20の酸化劣化をより抑えることが可能となる。
【0036】
複合部材100において、無機マトリックス部10は導電性材料部20よりも体積比率が大きいことが好ましい。複合部材100において、無機マトリックス部10の体積を導電性材料部20の体積よりも高めることにより、導電性材料部20の周囲を無機物質の粒子11で覆いやすくなる。そのため、導電性材料部20の劣化をより抑制する観点から、無機マトリックス部10は導電性材料部20よりも体積比率が大きいことが好ましい。
【0037】
複合部材100において、無機マトリックス部10の断面における気孔率は20%以下であることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下であることが好ましい。気孔率が20%以下の場合には、緻密な無機物質の内部に、導電性材料部20を封止することができる。そのため、複合部材100の外部からの酸素及び水蒸気と、導電性材料部20との接触率が減少することから、導電性材料部20の酸化を抑制し、長期間に亘って導電性材料部20の導電性を維持することが可能となる。さらに、この場合、無機マトリックス部10は、内部の気孔が少なく、無機物質が緻密となっていることから、複合部材100は高い強度を有することができる。なお、無機マトリックス部10の断面における気孔率は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機マトリックス部10の断面における気孔率が小さいほど、導電性材料部20と酸素及び水蒸気との接触が抑制されるため、導電性材料部20の劣化を防ぐことが可能となる。
【0038】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機マトリックス部10の断面を観察し、無機マトリックス部10、導電性材料部20及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を、気孔率とする。なお、無機マトリックス部10の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0039】
なお、複合部材100の形状は特に限定されないが、例えば板状とすることができる。また、複合部材100の厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。後述するように、複合部材100は、加圧加熱法により形成するため、厚みの大きな複合部材100を容易に得ることができる。なお、複合部材100の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。複合部材100の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0040】
このように、本実施形態の複合部材100は、金属酸化水酸化物を含む無機物質によって構成される無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在し、導電性を有する導電性材料部20と、を備える。そして、無機マトリックス部10の断面における気孔率が20%以下である。複合部材100では、無機マトリックス部10の内部に導電性材料部20を配置させている。そのため、無機マトリックス部10により、導電性材料部20と酸素及び水蒸気との接触が抑制されることから、導電性材料部20の劣化を抑え、長期間に亘って導電性を発揮することができる。また、複合部材100は、後述するように、低温焼結法により得ることができるため、導電性高分子のような耐熱性の低い導電性材料を導電性材料部20として用いることができる。さらに、金属酸化水酸化物は、酸化物に比べて比重が小さいことから、軽量な複合部材100を得ることができる。
【0041】
また、複合部材100は、導電性を有するため、塵埃などの静電的な汚れが付着し難い。つまり、複合部材100は、内部に導電性材料部20に起因する導電パスが形成されているため、複合部材100への帯電が抑制され、静電的な汚れが付着し難い。そのため、後述するように、複合部材100を外壁材のような建築部材に用いることにより、静電的な汚れの付着を抑制して、長期間に亘って美しい外観を維持することができる。
【0042】
[複合部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る複合部材の製造方法について説明する。複合部材100は、無機マトリックス部10を構成する無機物質の前駆体粒子と、導電性材料部20を構成する導電性材料との混合物を、溶媒を含んだ状態で加圧しながら加熱することにより製造することができる。このような加圧加熱法を用いることにより、無機物質の前駆体粒子が溶媒と反応して、当該粒子同士が互いに結合するため、導電性材料部20が内部に分散した無機マトリックス部10を形成することができる。
【0043】
具体的には、まず、無機マトリックス部10を構成する無機物質の前駆体の粉末と、導電性材料部20を構成する導電性材料とを混合して混合物を調製する。無機物質前駆体の粉末と導電性材料は空気中で混合してもよく、不活性雰囲気下で混合してもよい。無機マトリックス部10を構成する無機物質の前駆体としては、溶媒とともに加熱及び加圧することにより、金属酸化水酸化物を生成するものを用いる。例えば、無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである場合、無機物質の前駆体としては水硬性アルミナを用いることができる。
【0044】
次に、混合物に溶媒を添加する。溶媒としては、無機物質前駆体と反応して、金属酸化水酸化物を生成するものを用いる。このような溶媒としては、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、アルコール、ケトン及びエステルからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。酸性水溶液としては、pH1~3の水溶液を用いることができる。アルカリ性水溶液としては、pH10~14の水溶液を用いることができる。酸性水溶液としては、有機酸の水溶液を用いることが好ましい。また、アルコールとしては、炭素数が1~12のアルコールを用いることが好ましい。
【0045】
次いで、無機物質前駆体と導電性材料と溶媒とを含む混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、無機物質前駆体及び導電性材料が緻密化して、無機物質前駆体の粒子同士が結合すると同時に、無機物質前駆体が溶媒と反応して金属酸化水酸化物となる。その結果、金属酸化水酸化物で構成される無機マトリックス部10の内部に、導電性材料部20を分散させることができる。
【0046】
無機物質と導電性材料と溶媒とを含む混合物の加熱加圧条件は、溶媒が無機物質前駆体と反応して、金属酸化水酸化物を生成する条件であれば特に限定されない。例えば、無機物質前駆体と導電性材料と溶媒とを含む混合物を、50~300℃に加熱した後、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、無機物質と導電性材料と溶媒とを含む混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、無機物質と導電性材料と溶媒とを含む混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0047】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複合部材100を得ることができる。
【0048】
ここで、無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである複合部材100の製造方法について説明する。無機物質がベーマイトである複合部材100は、無機物質の前駆体である水硬性アルミナと、導電性材料部20を構成する導電性材料と、水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理して得られる酸化物であり、ρアルミナを含んでいる。このような水硬性アルミナは、水和反応によって結合及び硬化する性質を有する。そのため、加圧加熱法を用いることにより、水硬性アルミナの水和反応が進行して水硬性アルミナ同士が互いに結合しつつ、ベーマイトに結晶構造が変化することにより、無機マトリックス部10を形成することができる。
【0049】
具体的には、まず、水硬性アルミナの粉末と、導電性材料部20を構成する導電性材料と、水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0050】
水硬性アルミナに対する溶媒の添加量は、水硬性アルミナの水和反応が十分に進行する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、水硬性アルミナに対して20~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
【0051】
次いで、水硬性アルミナと導電性材料と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、水硬性アルミナが高充填化し、水硬性アルミナの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、水硬性アルミナに水を加えることにより、水硬性アルミナが水和反応し、水硬性アルミナ粒子の表面に、ベーマイトと水酸化アルミニウムが生成する。そして、金型内部で当該混合物を加熱しながら加圧することにより、生成したベーマイトと水酸化アルミニウムが隣接する水硬性アルミナ粒子の間を相互に拡散して、水硬性アルミナ粒子同士が徐々に結合する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。なお、このような水硬性アルミナの水和反応、水硬性アルミナ粒子間の相互拡散、及び脱水反応は、ほぼ同時に進行すると推測される。
【0052】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数の粒子11同士がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合した複合部材100を得ることができる。
【0053】
このように、複合部材100の製造方法は、無機マトリックス部10を構成する無機物質の前駆体と、導電性材料部20を構成する導電性材料と、無機物質前駆体と反応して、金属酸化水酸化物を生成するための溶媒と、を混合して混合物を得る工程を有する。複合部材100の製造方法は、さらに当該混合物を加圧及び加熱する工程を有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下で複合部材100を成形することから、導電性材料部20を構成する導電性材料の劣化を抑制し、導電性を有する複合部材100を得ることができる。
【0054】
ここで、セラミックスからなる無機部材の製造方法としては、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。ただ、焼結法では、例えば1000℃以上に固体粉末を加熱する。そのため、焼結法を用いて、無機物質と導電性有機化合物からなる複合部材を得ようとしても、高温での加熱により導電性有機化合物が炭化してしまうため、複合部材が得られない。しかしながら、本実施形態の複合部材100の製造方法では、無機物質の前駆体と導電性材料と溶媒とを混合してなる混合物を、300℃以下という低温で加熱するため、導電性材料の劣化が起こり難い。そのため、無機マトリックス部10の内部に導電性材料部20を安定的に分散させ、導電性を付与することができる。
【0055】
また、例えば、導電性材料として金属アルミニウムを用いて導電性セラミック部材を得ようとした場合、従来の焼結法では、金属アルミニウムを高温で加熱するため、不活性雰囲気を用いない場合、アルミニウムの表面が酸化してしまう。そのため、得られるセラミック部材は、導電性が十分に向上しないという問題があった。しかしながら、本実施形態の複合部材100の製造方法では、300℃以下という低温で加熱するため、導電性材料として金属アルミニウムを用いた場合でも、アルミニウムの酸化を抑制して、複合部材100の導電性を高めることができる。
【0056】
さらに、本実施形態の製造方法では、無機物質の前駆体と導電性材料と溶媒とを混合してなる混合物を、加熱しながら加圧していることから、無機物質が凝集して緻密な無機マトリックス部10となる。その結果、無機マトリックス部10内部の気孔が少なくなることから、導電性材料部20の酸化劣化を抑制しつつも、高い強度を有する複合部材100を得ることができる。
【0057】
[複合部材の用途]
次に、本実施形態に係る複合部材100の用途について説明する。複合部材100は、上述のように、導電性を有し、機械的強度が高く、さらに厚みの大きな板状とすることができることから、構造物に用いることができる。そして、複合部材100を備える構造物としては、住宅設備、住宅部材、建材、建造物であることが好ましい。住宅設備、住宅部材、建材及び建造物は、人の生活の中で需要が多い構造物であることから、複合部材100を構造物に用いることにより、新しい大きな市場の創出効果を期待することができる。また、複合部材100は導電性を有し、塵埃などの静電的な汚れが付着し難いため、複合部材100を構造物に用いることにより、長期間に亘って美しい外観を保つことができる。
【0058】
本実施形態の複合部材100は、建築部材に使用することができる。建築部材は建築用に製造された部材であり、本実施形態では少なくとも一部に複合部材100を使用することができる。複合部材100は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに高い強度及び耐久性を有している。そのため、複合部材100を建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0059】
さらに、本実施形態の複合部材100は、内装部材にも使用することができる。内装部材としては、例えば、浴槽、キッチンカウンター、洗面台、床材などを挙げることができる。
【0060】
なお、本実施形態の複合部材100は、上述の建築部材や内装部材以外の用途にも用いることができる。具体的には、複合部材100は、半導体保持具、静電チャック、放熱用部材、セラミックスヒーター、摺動部材、電磁波遮蔽部材、セラミックスセンサなどにも用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本実施形態の複合部材をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0062】
[試験サンプルの調製]
(実施例1)
まず、水硬性アルミナとして、住友化学株式会社製、水硬性アルミナBK-112を準備した。なお、当該水硬性アルミナは、中心粒径が16μmである。また、金属粉末として、富士フイルム和光純薬株式会社製の銅粉末を準備した。
【0063】
ここで、
図2では、上記水硬性アルミナ粉末のX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト(AlOOH)及びギブサイト(Al(OH)
3)のパターンを示している。
図2に示すように、水硬性アルミナは、ベーマイトとギブサイトとの混合物であることが分かる。なお、
図2には示されていないが、水硬性アルミナにはρアルミナも含まれている。
【0064】
そして、水硬性アルミナに対して15体積%となるように銅粉末を秤量した後、水硬性アルミナと銅粉末とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合し、混合粉末を得た。次に、水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、混合粉末とイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。
【0065】
次いで、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0066】
(実施例2)
水硬性アルミナに対して25体積%となるように銅粉末を添加したこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0067】
(実施例3)
まず、金属粉末として、アルミニウム粉末(富士フィルム和光純薬株式会社製)を準備した。そして、銅粉末をアルミニウム粉末に置換し、さらに水硬性アルミナに対して19体積%となるようにアルミニウム粉末を添加したこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0068】
(実施例4)
水硬性アルミナに対して31体積%となるようにアルミニウム粉末を添加したこと以外は実施例3と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0069】
(実施例5)
水硬性アルミナに対して48体積%となるようにアルミニウム粉末を添加したこと以外は実施例3と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0070】
(比較例)
銅粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0071】
実施例1~5及び比較例で得られた試験サンプルにおける銅粒子及びアルミニウム粒子の体積割合、並びにプレス圧力及びプレス温度を表1に纏めて示す。
【0072】
【0073】
(参考例)
実施例1と同じ水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、50MPa、120℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0074】
[評価]
(体積抵抗率測定)
実施例1~5及び比較例の各試験サンプルの体積抵抗率を測定した。具体的には、
図3に示すように、円柱状の試験サンプル200を2枚のアルミニウム箔201で挟み込んだ。この際、アルミニウム箔201は、試験サンプル200の上面及び底面の全体にそれぞれ接触している。そして、2枚のアルミニウム箔の間の抵抗値を測定器202で測定した後、数式1に沿って、各試験サンプルの体積抵抗率を測定した。なお、測定器202は、二端子法により抵抗値を測定している。また、数式1における「試験サンプルの表面積」は、試験サンプルの上面又は底面の面積である。
【数1】
【0075】
実施例1~5及び比較例の各試験サンプルにおける体積抵抗率を表1に合わせて示す。また、
図4では、実施例1~5及び比較例の試験サンプルにおける、体積抵抗率と金属粒子の体積割合との関係を示す。
【0076】
表1及び
図4に示すように、導電性材料部が存在しない比較例の試験サンプルに比べて、実施例1~5の試験サンプルは体積抵抗率が低下し、導電性が発現していることが分かる。また、導電性材料部が増加するにつれて、体積抵抗率が低下することも分かる。なお、実施例1~2及び実施例3~5を比べると、銅を使用した実施例1~2の試験サンプルの方が、金属粒子の体積割合が小さいにも関わらず、体積抵抗率が低下することが分かる。これは、銅の体積抵抗率が約1.7×10
-8Ω・mであり、アルミニウムの体積抵抗率が約2.8×10
-8Ω・mであることから、銅の体積抵抗率が低いことに起因するものと推測される。
【0077】
(断面観察)
実施例2の試験サンプルの断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。具体的には、まず、円柱状である実施例2の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工を施した。次に、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプルの断面について、3000倍の倍率で観察した。
図5の(a)は試験サンプルの断面の二次電子像であり、(b)は試験サンプルの断面の反射電子像である。
図5に示すように、銅からなる導電性材料部20の周囲には、ベーマイトからなる無機マトリックス部10が直接固着するように存在し、さらに、導電性材料部20の周囲全体を無機マトリックス部10で覆っていることが分かる。そのため、無機マトリックス部10により、導電性材料部20が大気及び水蒸気に接触して酸化劣化することが抑制されることが分かる。
【0078】
(気孔率測定)
実施例1の試験サンプルの気孔率を、次のように測定した。まず、円柱状である実施例1の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工を施した。次に、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプルの断面について、5000倍及び20000倍の倍率で二次電子像を観察した。
図6(a)は5000倍の倍率で観察した結果を示す二次電子像であり、
図7(a)は20000倍の倍率で観察した結果を示す二次電子像である。
【0079】
次いで、
図6(a)及び
図7(a)の二次電子像をそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図6(a)及び
図7(a)の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ
図6(b)及び
図7(b)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図6(b)より気孔部分の面積割合は15.9%であり、
図7(b)より気孔部分の面積割合は11.9%であった。そのため、実施例1の試験サンプルの気孔率は、
図6(b)及び
図7(b)における気孔部分の面積割合の平均値である13.9%であった。
【0080】
同様に、実施例2の試験サンプルの気孔率を、次のように測定した。まず、円柱状である実施例2の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工を施した。次に、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプルの断面について、5000倍及び20000倍の倍率で二次電子像を観察した。
図8(a)は5000倍の倍率で観察した結果を示す二次電子像であり、
図9(a)は20000倍の倍率で観察した結果を示す二次電子像である。
【0081】
次いで、
図8(a)及び
図9(a)の二次電子像をそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図8(a)及び
図9(a)の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ
図8(b)及び
図9(b)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図8(b)より気孔部分の面積割合は4.1%であり、
図9(b)より気孔部分の面積割合は1.7%であった。そのため、実施例2の試験サンプルの気孔率は、
図8(b)及び
図9(b)における気孔部分の面積割合の平均値である2.9%であった。
【0082】
図6~
図9より、実施例1の試験サンプル及び実施例2の試験サンプルのいずれも、気孔率が15%未満であることから、導電性材料部20は大気及び水蒸気との接触が抑制され、酸化劣化が抑えられることが分かる。
【0083】
(X線回折測定)
参考例の試験サンプルについて、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。
図10では、参考例の試験サンプルのX線回折パターン、並びにICSDに登録されたベーマイト及びギブサイトのX線回折パターンを示す。
図10より、参考例の試験サンプルは、主としてベーマイトからなる構造体であることが分かる。そのため、
図2及び
図10に示すように、低温焼結法により、原料のギブサイト(水酸化アルミニウム)がベーマイトへ変化することが分かる。
【0084】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【符号の説明】
【0085】
10 無機マトリックス部
11 無機物質の粒子
20 導電性材料部
100 複合部材