(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】音響制御システム
(51)【国際特許分類】
H04R 27/00 20060101AFI20231208BHJP
H04R 3/12 20060101ALI20231208BHJP
H05B 47/155 20200101ALI20231208BHJP
【FI】
H04R27/00 C
H04R3/12 Z
H04R27/00 D
H04R27/00 J
H05B47/155
(21)【出願番号】P 2019221365
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 達也
(72)【発明者】
【氏名】原田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】薮亀 順平
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-060140(JP,A)
【文献】特表2016-528757(JP,A)
【文献】特開2013-101779(JP,A)
【文献】特開2015-022939(JP,A)
【文献】特開2019-068384(JP,A)
【文献】特開2010-281989(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107708027(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 27/00
H05B 47/00-47/29
H04R 3/12
G10K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間にサウンドを提供する2以上のスピーカシステムと、
前記各スピーカシステムへ制御信号を送信する制御システムと、
を備え、
前記各スピーカシステムは、音を出力するためのスピーカ素子部と、サウンドコンテンツデータを格納するコンテンツ記憶部と、前記サウンドコンテンツに関する1以上の動作を実行するためのコンテンツ制御部と、無線制御信号を受信するためのスピーカ用無線信号受信部と、電源部と、を含み、
前記制御システムは、各スピーカシステムの制御条件に関する情報を格納する制御条件記憶部と、前記無線制御信号を送信するための制御システム用無線信号送信部と、を含み、
前記コンテンツ制御部は、前記スピーカ用無線信号受信部で受信した前記無線制御信号に基づいて前記コンテンツ記憶部に格納された前記サウンドコンテンツデータを読み出して、前記スピーカ素子部に前記サウンドコンテンツデータに基づくサウンドを出力させるサウンド出力制御を含む1以上の制御を行い、
前記制御システムが、複数の前記スピーカシステムに関して前記サウンドコンテンツに関する前記動作が同時期に実行されるように前記制御システム用無線信号送信部に前記無線制御信号を出力させる同時期制御を含む1以上の制御を行
い、
前記制御条件記憶部が、前記2以上のスピーカシステムを2以上の異なるグループに関連づける2以上のグループ情報を含み、
前記2以上の異なるスピーカシステムは、同一の室内に配置され、
前記制御システムが行う前記1以上の制御に、前記2以上の異なるグループの前記スピーカシステムに互いに異なる前記サウンドコンテンツを同時に出力させると共に、その出力において同一の前記グループに所属する1以上の前記スピーカシステムに同一の前記サウンドコンテンツを出力させることが含まれる、音響制御システム。
【請求項2】
前記サウンドコンテンツに関する1以上の動作が、前記サウンドコンテンツの再生、前記サウンドコンテンツの停止、前記サウンドコンテンツの変更、前記サウンドコンテンツを構成する音の音量の変更、及びサウンドコンテンツ再生位置の変更のうちの1以上を含む、請求項1に記載の音響制御システム。
【請求項3】
前記制御条件記憶部に1以上のシーン情報が格納され、
前記シーン情報は、前記スピーカシステムが出力する音の情報を含む、請求項1
又は2に記載の音響制御システム。
【請求項4】
空間の作業面を照明するための複数のタスクライト、及び前記作業面よりも広範囲な領域を照明するための複数のベースライトを含む照明システムを備え、
前記制御システムが、前記無線信号送信部を介して、前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が大きくなる集中作業用空間制御領域と前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が小さくなる非集中作業用空間制御領域とが生じるように、前記複数のタスクライト及び前記複数のベースライトを調光・調色制御する照明光ゾーニング制御を行う、請求項1から
3のいずれか1つに記載の音響制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音を出力する音響制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、働き方改革に発端しABW(Activity Based Working)オフィスが台頭している。これは、一人で集中して作業をするソロワークや、複数人でアイデアを出し合うグループワークなどワーカーの活動内容に応じ、それらに適した空間を用意することで、組織のパフォーマンスを向上する、空間設計の方法論である。これに対し、集中作業のために集中空間等を形成する目的でブース型什器などで空間を区切る手段が公知である(特許文献1)。
【0003】
さて、ABWにおいて、集中作業のために集中空間を利用したいワーカーの数は時間帯、日、週、月によって流動的であるが、集中ブースが足りない場合、ワーカーのニーズを満たせず、逆に余った場合、オフィス全体のスペース利用効率が下がるという課題があった。しかし、集中ブースなど公知の集中空間創出手段によれば、集中ブースは重く、容積も大きいので、そのような流動性に応じて集中空間の数を増減させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空間のレイアウトを比較的短い時間(例えば、瞬時)で変化させるアクティブゾーニングを、ワーカーの要望に柔軟に対応するために、スピーカを用いて、スピーカから提供されるサウンドコンテンツの種類や音量を制御することで実現することが考えられる(本願出願時において公知でない)。
【0006】
ここで、近年のオフィスは、天井壁にスピーカや照明を埋め込むように施工するのではなく、ダクトレールを用いてフレキシブルにそれらを変更可能にする手段が好んで選ばれるが、このような用途の場合、スピーカや照明を制御する制御装置は無線接続であることが好ましい。
【0007】
係る背景において、昨今よく使用されるスピーカの無線制御手段としてBlueTooth(登録商標)通信が挙げられる。しかし、アクティブゾーニングの用途においては、例えば4個や5個、多ければ10個以上のスピーカを使用する必要があるところ、本発明者は、BlueTooth通信を用いてサウンドの情報を継続的に送信する方法では、オフィス用途においては、業務用パソコンやOA機器のWi-Fi(登録商標)電波や人が多いため、無線通信の混線が生じ易くて、サウンドの音切れが顕著となるという課題を、実際にBlueTooth通信を用いて組んだ音響制御システムのセットを用いた試験により新規に見出し、サウンドを用いたアクティブゾーニングにBlueTooth通信を適用しにくいことを新規に発見した。
【0008】
そこで、本開示の目的は、サウンドコンテンツを用いてアクティブゾーニングでき、しかも、音切れも抑制できる音響制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示に係る音響制御システムは、空間にサウンドを提供する2以上のスピーカシステムと、各スピーカシステムへ制御信号を送信する制御システムと、を備え、各スピーカシステムは、音を出力するためのスピーカ素子部と、サウンドコンテンツデータを格納するコンテンツ記憶部と、サウンドコンテンツに関する1以上の動作を実行するためのコンテンツ制御部と、無線制御信号を受信するためのスピーカ用無線信号受信部と、電源部と、を含み、制御システムは、各スピーカシステムの制御条件に関する情報を格納する制御条件記憶部と、無線制御信号を送信するための制御システム用無線信号送信部と、を含み、コンテンツ制御部は、スピーカ用無線信号受信部で受信した無線制御信号に基づいてコンテンツ記憶部に格納されたサウンドコンテンツデータを読み出して、スピーカ素子部にサウンドコンテンツデータに基づくサウンドを出力させるサウンド出力制御を含む1以上の制御を行い、制御システムが、複数のスピーカシステムに関してサウンドコンテンツに関する動作が同時期に実行されるように制御システム用無線信号送信部から無線制御信号を出力する同時期制御を含む1以上の制御を行う。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る音響制御システムによれば、音を出力するスピーカシステムがサウンドコンテンツデータを格納するコンテンツ記憶部を有するため、コンテンツを再生するために、サウンドコンテンツデータを継続的に送信する必要がない。したがって、オフィス用途等においてサウンドコンテンツを用いたアクティブゾーニングを実行してもサウンドの音切れを略防止できるという格別かつ顕著な作用効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施例に係る音響制御システムが設置された室の一例としてのABWオフィスにおいて可能な複数の作業机の配置のレイアウトの実施例を示す図面であり、上方から複数の作業机を見たときの配置とABWオフィスの天井部に取り付けられたベースライト、通電用のダクトレール、タスクライト、及びダクトレールに取り付けられた複数のスピーカシステムの配置図を作業机の配置に重畳させる形で記載したレイアウト配置図である。
【
図2】上記音響制御システムで再現可能な複数のシーンの一例を示す表である。
【
図3】上記音響制御システムの主要構成を示すブロック図である。
【
図4】音切れ・音ずれ発生試験の一試験結果を表す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0013】
図1は、本開示の一実施例に係る音響制御システム10が設置された室の一例としてのABWオフィス20において可能な複数の作業机D01~D14の配置のレイアウトの実施例を示す図面であり、上方から複数の作業机D01~D14を見たときの配置とABWオフィス20の天井部に取り付けられたベースライト73、通電用のダクトレール4、タスクライト75、及びダクトレール4に取り付けられた複数のスピーカシステム50a~50dの配置図を作業机D01~D14の配置に重畳させる形で記載したレイアウト配置図である。
【0014】
図1に示すように、ABWオフィス20の1形態においては、一般的な事務用机である計14台の作業机D01~D14をデスクグループ1およびデスクグループ2に分類し、その上方に、ABWオフィス20を照明するためのアンビエント照明としての28台のLED調光調色式のベースライト73(例えば、NNLK41515+NNL4600EXDK9:パナソニック)を等間隔に設置し、その近傍に通電用のダクトレール4を3列分設置した。詳しくは、計14台の作業机D01~D14を4列に配置し、3つの通電用のダクトレール4を、4列の作業机D01~D14うちの3列の作業机D01~D14の近傍に列の延在方向に略平行な方向に延在するように配置した。
【0015】
また、ダクトレール4に4つの第1~第4スピーカシステム50a~50dを取り付け、各スピーカシステム50a~50dを、無線でステレオ接続した。本実施例では、各スピーカシステム50a~50dを、LSPX-103E26(ソニー)を用いて構成したが、スピーカシステムは、それ以外の如何なる音出力部を用いてもよい。また、第1スピーカシステム50aと第2スピーカシステム50bがスピーカ群1を構成し、第3スピーカシステム50cと第4スピーカシステム50dがスピーカ群2を構成するようにした。そして、スピーカ群1に所属する第1及び第2スピーカシステム50a,50bが同一の第1音声コンテンツを出力し、スピーカ群2に所属する第3及び第4スピーカシステム50c,50dが同一の第2音声コンテンツを出力するようにした。
【0016】
スピーカ群1に所属する第1及び第2スピーカシステム50a,50bは、デスクグループ1の領域に存在する人に音を出力し、スピーカ群2に所属する第3及び第4スピーカシステム50c,50dは、デスクグループ2の領域に存在する人に音を出力する。なお、スピーカ群1に所属するスピーカシステムの数は、如何なる数でもよく、スピーカ群2に所属するスピーカシステムの数も、如何なる数でもよい。また、スピーカシステム50は、指向性スピーカ、例えば、パラメトリック・スピーカ等を用いて構成されてもよい。パラメトリック・スピーカでは、超音波が使われるため、音の出力方向に顕著な指向性を持たせることができる。
【0017】
更には、各ダクトレール4に、タスクライト75を計14台設置した。タスクライト75は、LED調光式スポットライト(例えば、NTS05121W:パナソニック)で構成した。併せて、各タスクライト75の開口部には波長変換フィルタを貼り付け、タスクライト75からの出力光の色温度を6000Kに調整した。そして、計14台の作業机D01~D14と、計14台のタスクライト75を、一対一に対応させ、各タスクライト75が対応する作業机D01~D14の中央部を照射するように、各タスクライト75の設置位置、及び設置方向を調整した。
【0018】
また、28台のベースライト73および14台のタスクライト75は、マルチマネージャー(例えば、NQ51101:パナソニック) 、LS/PD信号変換インターフェース(例えば、NK51111:パナソニック)、PD/調光信号変換インターフェース(例えば、NK51012:パナソニック)、PiPit+セパレートセルコンAタイプ(例えば、NQ23171Z:パナソニック)に調光信号線を介して順次接続した。なお、タスクライト75は2台用意したPiPit+セパレートセルコンAタイプに対して7台ずつペアリングした。
【0019】
このような構成において、本開示における音響制御システム10は、スピーカシステム50と、ベースライト73及びタスクライト75を用いて、音と照明光の両面から、ABWオフィス20の一部領域を、人が特に作業に集中し易い優れた集中制御領域とする一方、ABWオフィス20の他の一部領域を、人が特にリラックス感を感じ易くて複数人がコミュニケーションを行うことにも長ける優れた非集中制御領域(共創領域)とし、二つの領域を分断し、ゾーニングする。以下では、先ず、二つの領域のゾーニングを実現する手法の概要について、
図1及び後述の
図2を用いて、音の観点と照明光の観点から説明する。
【0020】
[1.音を用いたゾーニング]
後で詳細に説明するが、各スピーカシステム50は、コンテンツ記憶部を有し、そのコンテンツ記憶部には、複数のサウンドコンテンツデータが格納されている。複数のサウンドコンテンツには、小川のせせらぎの音を録音したサウンドコンテンツデータと、ジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツデータとが含まれる。
【0021】
係る背景において、情報端末、例えば、タブレット、スマートフォン、パーソナルコンピュータ等から小川のせせらぎのサウンドコンテンツを再生する無線制御信号をマルチマネージャー経由でデスクグループ1の上部にあるスピーカ群1に送信して、スピーカ群1に属するスピーカシステム50a,50bに小川のせせらぎのコンテンスを再生させた。
【0022】
また、同時に、上記情報端末から、ジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツを再生する無線制御信号をマルチマネージャー経由でスピーカ群2に送信してデスクグループ2の上部にあるスピーカ群2に送信してスピーカ群2に属するスピーカシステム50c,50dにジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツを再生させた。
【0023】
その結果、デスクグループ1に属するデスクに着席すると、小川のせせらぎ音が聞こえ、ジャズやボサノバ音楽は、わずかに聞こえるばかりであった。一方、デスクグループ2に属するデスクに着席すると、ジャズ・ボサノバ音楽が聞こえ、小川のせせらぎ音は、わずかに聞こえるばかりであった。以上より、例えば、かような構成にすると、異なるデスクグループ単位で、異なるコンテンツをある程度選択的に提供可能であることが確認できた。すなわち、デスクグループ1とデスクグループ2で互いに異なるサウンドコンテンツが出力することで、デスクグループ1とデスクグループ2を空間的に明確に分割できた。しかも、上述のように、デスクグループ1で小川のせせらぎ音を再生し、デスクグループ2でジャズ・ボサノバ音楽を再生した場合には、デスクグループ1の領域を人が集中して作業を行うことができる集中作業用空間制御領域とでき、デスクグループ2の領域を人がリラックス感を感じ易く、複数人による円滑なコミュニケーションを促進し易い非集中作業用空間制御領域(共創空間)とできた。
【0024】
スピーカ群1,2による音の再生は、事前のシーン設定によるシーンの再現により行った。詳しくは、各スピーカシステム50のコンテンツ記憶部には、複数のシーンと夫々のシーンで再生するサウンドコンテンツとがペアリング(紐付けされた状態で)予め記憶されている。
図2は、音響制御システム10で再現可能な複数のシーンの一例を示す表である。
図2に示す例では、音響制御システム10が、4つのシーンを再現できるようになっている。
図2に示す例では、シーン1を再生した場合、スピーカ群1から小川のせせらぎ音を出力し、スピーカ群2からジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツを出力する。
【0025】
小川のせせらぎ音は、全周波数領域に強度をもつ、いわゆるホワイトノイズ、ブラウンノイズと呼称される音の特性に近い。この特性は、周波数対強度のフーリエ変換スペクトルとしてグラフで表現した場合において、全周波数領域に強度をもたないフーリエ変換スペクトルのグラフ、例えば、ピアノの特定の音階音の周波数対強度のフーリエ変換スペクトルのグラフとの比較において、グラフ中の音の周波数特性がブロードであると言及することができる。この特性をもつ音は、周波数領域に強度をもたない傾向のある音と比較して、様々な周波数を持ってデスクグループ1以外の場所から外来する集中ワークの効率を低めうるノイズ、例えば、物音、話し声等を、キャンセルし易いという顕著な作用効果を有する。したがって、デスクグループ1で作業するワーカーは、外来のノイズが聞こえにくくなる。よって、デスクグループ1のゾーンをよりワーカーが作業に集中し易くて作業に没頭し易い領域にできる。つまり、本開示において集中制御領域の効果を高める効果を有する。
【0026】
集中ワークの効率を高めうるサウンドのコンテンツとして、前述のホワイトノイズ、ブラウンノイズと呼称される特性に近いものが好適であるが、特にこの限りではない。例えば、小鳥のさえずり音、森の葉擦れ音、海の波音など自然環境音を主体とするものでも良いし、音楽用シンセサイザーなどで波形合成される電子音を主体に構成される音楽であっても良い。サウンドコンテンツは、自然音をそのまま録音したものでも良いし、人間が作曲したものでも良いし、コンピュータアルゴリズムやAIや人工知能が作曲したものでも良い。サウンドコンテンツは、以上の多種のサウンドがミックスされたものでも良い。
【0027】
一方、デスクグループ2の存在領域では、シーン1が再生されると、スピーカ群2からジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツが出力される。ジャズ・ボサノバ音楽は、前述のホワイトノイズやブラウンノイズと比べて、周波数対強度のフーリエ変換スペクトルのグラフにおける音の周波数特性がブロードでないという特性をもつ。これは、ジャズやボサノバを主体的に奏でるピアノ、サックス、ベースなどの楽器が、特定の単一音階、すなわちド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドおよびその半音階の音を出力するように厳密的にチューニングされた状態で使用されることに起因する。したがって、前述の外来ノイズに対するノイズキャンセルの機能は、乏しくなり易いが、そもそもリラックスや複数人でのコミュニケーションを行うことを意図とする共創空間には、ノイズキャンセルの機能に対するニーズは希薄であるため、ノイズキャンセルの機能を乏しくしても大きな弊害が生じることはない。
【0028】
更には、ジャズやボサノバなどは、カフェやリラクゼーション施設において好んで提供されているサウンドコンテンツであり、リラックスや複数人での円滑なコミュニケーションを促進させる場合に頻繁に用いられている。したがって、そのことからも明らかなように、これらのサウンドコンテンツを用いれば、ワーカーがリラックス感や安らぎ感を感じることができ、円滑なコミュニケーションを実現させることができる。
【0029】
このことから、シーン1を再現した場合、デスクグループ1の領域を集中作業用空間制御領域とでき、デスクグループ2の領域を非中作業用空間制御領域(共創空間)とできる。なお、リラックス感や複数人による円滑なコミュニケーションを促進できるサウンドのコンテンツとして、ジャズやボサノバと呼称される特性に近いものを採用すると好適であるが、特にこの限りではない。例えば、リラックス感や複数人による円滑なコミュニケーションを促進できるサウンドのコンテンツとして、クラシック音楽、ヒーリング音楽、自然環境音等を採用してもよい。そのようなサウンドコンテンツは、自然音をそのまま録音したものでも良いし、人間が作曲したものでも良いし、コンピュータアルゴリズムやAIや人工知能が作曲したものでも良い。サウンドコンテンツは、以上の多種のサウンドがミックスされたものでも良い。
【0030】
以上より、什器や家具などを用いずとも、サウンドコンテンツを利用することで、ゾーニング効果を実現できることを確認できた。ここで、ゾーニング効果とは、例えば、空間の認知上の区切れ感を意味し、人から見た外観上複数の空間が確かに異なる空間であると認知しやすい効果を含みうる。あるいは、その認知を以て、ゾーニングの意図通りにワーカーの行動や動線の変化を促しやすくする効果を含みうる。例えば、集中空間を意図するゾーニングをした場合、それを見たワーカーが確かに集中作業を行うことを主目的とし、該空間を使用するような効果である。または、ワーカーが実際に目的的にそれらの空間を利用した場合の主観的な効果実感や生理・心理・生体的作用が主旨に応じた傾向を示す効果を含みうる。例えば、集中空間を意図するゾーニングで、その場所をワーカーが利用した場合、ワーカー自身が確かに集中できたという実感が得られるとか、心理生体作用として集中をしていたことを示唆する指標・データが得られることである。ゾーニング効果の高いオフィス空間は、ワーカー自身の情動・動機に基づく意思などに対応し、設計主旨の異なるスペースをワーカー自身が選択するABWオフィスとして好適である。ゾーニング効果は、各グループの音響の音量やコンテンツの差が大きいほどその効果を高め易い。この手段によれば、什器・家具を用いることなく空間をゾーニングできるので空間の意匠性を高め易い。
【0031】
更には、情報端末を用いて、マルチマネージャー経由でシーン1を再生し、続けて、情報端末を用いて、シーン3、シーン4など他のシーンを順次再生したところ、各シーンは数秒程度で切り替わった。したがって、この手法によりゾーニングを行う場合、各シーンの切り替えは数秒で完了するため、結果としてオフィスのレイアウトを数秒で変更することが可能である。例えば、オフィスの繁忙日など集中空間のニーズが高い日には、シーン1からシーン3に切り替えれば、オフィスの集中空間席数が8席から14席に増席し、ワーカーの集中空間のニーズを満たすことで、結果としてワーカーや組織のワークパフォーマンスを高め易くなる。あるいは、休閑日の場合は、シーン4に切り替えれば、集中空間の席数が0席となり共創空間が14席となるので、組織のストレス低減や、コミュニケーション量を高め易い効果がある。さらに、ある日の午前中の集中空間の利用率を参考に、午後の集中空間席数を昼休み中に調整することも可能である。本手法によれば、上記のような、什器・家具を用いる手法では困難な、時間毎、日毎、月毎などのサイクルでレイアウトを短時間で変化させるアクティブゾーニングが可能である。
【0032】
従来のオフィスシーンでは、同じ室内の別の領域で、互いに異なるサウンドコンテンツを再生する手法は、行われておらず、そのような手法を採用している空間(室)は皆無である。これに対し、本願はかような照明手法と制御方法を用いているので、とくにABWオフィスシーンにおいて、従来の照明の知見では予見しえなかった顕著な効果を実現できる。
【0033】
[2.照明光を用いたゾーニング]
マルチマネージャーの操作アプリケーションを用いて、28台のベースライト73のマッピング作業により各ベースライト73の位置情報を記憶し、
図1に示すように、12台のベースライト73と8台のタスクライト75を照明グループ1に所属する照明機器として設定し、4台のベースライト73を照明グループ2に所属する照明機器として設定し、12台のベースライト73と6台のタスクライト75を照明グループ3に所属する照明機器として設定した。さらに、
図2に示すように、各照明グループ1~3の夫々に対して、4つのシーンを設定し、各シーンにおいて、各グルーブで色温度および調光率の値を設定した。
【0034】
ここで、各シーンの設定は、既存のシーン設定のアプリケーションがインストールされた情報端末、例えば、スマートフォン、タブレット又はリモコン等を用いて容易に実行できる。そして、実際に各シーンを再現した。詳しくは、ABWオフィス20の窓のブラインドカーテンを閉め切ったうえで、サウンドコンテンツによるゾーニングを実行した上記情報端末を用いて、マルチマネージャー経由でシーン1を再生したところ、外観上、デスクグループ1とデスクグループ2が分割された。続いて、情報端末を用いて、シーン3、シーン4など他のシーンを順次再生したところ、各シーンは数秒程度で切り替わった。
【0035】
シーン1のデスクグループ1では、ベースライト73の照度よりタスクライト75の照度が大きくなり、シーン1のデスクグループ2では、ベースライト73の照度よりタスクライト75の照度が小さくなった。より詳しくは、シーン1のデスクグループ1は、作業机D07~D014の中央部のみ照度が高く、中央部から離れるほど照度が低くなる、不均一な照度分布であった。また、作業机周辺の床や壁などの照度も低く、明るさ感が低い空間であった。一方、シーン1のデスクグループ2は、作業机D01~D06の照度はデスクグループ1と比較し均一性の高い照度分布であり、作業机周辺の床や壁などの照度も高く、明るさ感が高い空間であった。
【0036】
このとき、デスクグループ1にワーカーが着席した場合、ワーカーがより注視すべき作業机D07~D014の中央部のみ照度が高いため、周辺視野の認知的なノイズ要因が低減されることから、ワーカーが作業に没頭しやすく、集中ワークの効率を高め易い。更に、本手法では、ベースライト73の調光率を低く設定していることにより、壁や床などの周辺視野の視認性を低下させているため、より作業机D07~D014および作業への没頭効果を高め易い。また、ベースライト73の調光率を低く設定していることにより、デスクグループ1で作業しているワーカーは、外部から他のワーカーが見たとき、顔の表情がよく見えなかったり、顔に陰がかかることで不機嫌な様子に見えたりするため、話しかけにくい。つまり、このデスクグループ1で作業しているワーカーは、他ワーカーから話しかけられ、作業が中断する確率が低下し易いため、結果として、集中ワークの効率を高め易い。以上より、シーン1が再現された場合、デスクグループ1は、集中空間として機能し易い空間であり、本開示における集中作業用空間制御領域に該当するものとして扱うことができる。一方、シーン1では、デスクグループ2は、色温度が低く、リラックス感や複数人でのコミュニケーション量を高め易いため、共創空間として機能し易い空間であり、本開示における非集中作業用空間制御領域に該当するものとして扱うことができる。
【0037】
デスクグループ1とデスクグループ2は、空間の照度分布が大きく異なる。とくに、デスクグループ1において、作業机周辺の床や壁などの照度がより低い点が特徴であり、それが要因となり2つのデスクグループの、外観上の空間の分割感が高い。さらに、デスクグループ1とデスクグループ2は、照明の色温度が大きく異なることから、外観上の空間の分割感が高い。
【0038】
ゾーニング効果は、各グループの照度分布や、色温度の差が大きいほどその効果を高め易い。この手段によれば、什器・家具を用いることなく空間をゾーニングできるので空間の意匠性を高めやすく、かつ調光調色などの照明制御をデジタル化した場合、照明制御により瞬時にレイアウトを変化させるアクティブゾーニングが可能となるため、好ましい。さらに、デスクグループ1とデスクグループ2の間に、バッファ領域が存在する。この領域は、ワーカーが何か目的的に作業をすることを意図した空間ではなく、通常のオフィスでは通路などとして用いられる空間である。バッファ領域は、デスクグループ1とデスクグループ2のいずれに対しても、照明や音響を異ならせることで、デスクグループ1とデスクグループ2を隣接させるよりも、ゾーニング効果を高める効果を有する。バッファ領域の最大の幅は、とくに限定されないが、0.5m~5mの範囲であればオフィス空間の機能密度を保ちながらゾーニング効果も高めやすいので、好ましい。
【0039】
また、デスクグループ1とデスクグループ2は、それぞれワーカーに促す作業内容が異なり、例えば、本実施例のデスクグループ1では集中ワークを促し、デスクグループ2ではリラックスやコミュニケーションを促すことから、外観上のみならず、各空間の機能的な使われ方にも差がつくため、この効果もゾーニング効果に寄与するものである。
【0040】
そして、この手法によりゾーニングを行う場合、照明光を用いた手法でも、各シーンの切り替えが数秒で完了するため、結果としてオフィスのレイアウトを数秒で変更することが可能である。例えば、オフィスの繁忙日など集中空間のニーズが高い日には、上述のように、シーン1からシーン3に切り替えれば、オフィスの集中空間席数が8席から14席に増席し、ワーカーの集中空間のニーズを満たすことで、結果としてワーカーや組織のワークパフォーマンスを高め易くなる。あるいは、上述のように、休閑日の場合は、シーン4に切り替えれば、集中空間の席数が0席となり共創空間が14席となるので、組織のストレス低減や、コミュニケーション量を高め易い効果がある。さらに、ある日の午前中の集中空間の利用率を参考に、午後の集中空間席数を昼休み中に調整することも可能である。本手法によれば、照明光を用いた手法でも、什器・家具を用いる手法では困難な、時間毎、日毎、月毎などのサイクルでレイアウトを変化させるアクティブゾーニングが可能である。従来のオフィスシーンにとって、作業机や通路などの領域は、色温度や照度分布の均一性の高い照明を行うことが一般的であった。これに対し、本願はかような照明手法と制御方法を用いているので、とくにABWオフィスシーンにおいて、従来の照明の知見では予見しえなかった顕著な効果を実現できる。
【0041】
[3.音によるゾーニングと、照明光によるゾーニングの相乗効果]
本実施例では、照明制御とサウンド制御は連動し、各デスクグループ1,2に支配的に提供されうるサウンドコンテンツおよび照明の主旨が一致する。詳しくは、例えば、シーン1が再現された場合、デスクグループ1の領域では、スピーカ群1が上述した集中ワークの効率を高め易い小川のせせらぎ音を出力し、更には、集中ワークの効率を高め易い照明光が照射される。したがって、デスクグループ1の領域では、音による集中ワークの効率を高め易い効果と、照明による集中ワークの効率を高め易い効果を重畳させることができ、その重畳の相乗効果によって、デスクグループ1の領域を、集中ワークの効率を各段に高め易い領域に変えることができる。
【0042】
他方、デスクグループ2の領域では、スピーカ群2が上述した人がリラックス感や複数人でのコミュニケーション量を高め易いサウンドコンテンツを出力し、更には、リラックス感や複数人でのコミュニケーション量を高め易い照明光が照射される。したがって、デスクグループ2の領域では、照明によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果と、音によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果を重畳させることができ、その重畳の相乗効果によって、デスクグループ2の領域を、リラックス感を各段に感じやすくて、コミュニケーションも格段に取り易い領域に変えることができる。よって、各デスクグループ1,2の領域が意図する主旨の効果を顕著なものにできる。
【0043】
なお、サウンド制御と照明制御が連動する場合、厳密にその動作が同期している必要はなく、例えばサウンドコンテンツの切替えの開始時間もしくは終了時間と、照明のシーン切替えの開始時間もしくは終了時間が、多少ずれていても、前述の作用効果は失われない。また、そのようなずれが生じている場合において、サウンドコンテンツの切替えの開始時間もしくは終了時間と、照明のシーン切替えの開始時間もしくは終了時間においてずれた時間は、如何なる時間でもよいが、30分以内であると好ましく、10分以内であるより好ましく、1分以内であるとさらに好ましく、10秒以内であると最も好ましい。当該ずれた時間が30分以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して十分早く、かつ省労力でレイアウト変更を達成できる。
【0044】
[音響制御システム10の全体概要と、各主要構成の詳細な説明]
次に、音響制御システム10の全体概要と、各主要構成の詳細な説明を行う。詳しくは、先ず、音響制御システム10の全体概要について説明し、音響制御システム10が備える各構成について詳細に説明する。
【0045】
<音響制御システム10の全体概要>
図3は、音響制御システム10の主要構成を示すブロック図である。
図3に示すように、音響制御システム10は、制御システム30、複数のスピーカシステム50、及び照明システム70を備える。
図3に示すように、音響制御システム10では、制御システム30が、無線制御信号を、各スピーカシステム50、及び照明システム70に出力することで、各スピーカシステム50の音の出力に関する動作が制御され、照明システム70が出射する照明光に関する動作が制御される。
【0046】
以下、各構成について、スピーカシステム50、照明システム70、制御システム30の順に詳細に説明する。なお、以下の説明において、各種制御部31,53,76、すなわち、各種プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。また、各種記憶部32,52,78は、ハードディスクドライブ(HDD)や、半導体メモリ等で構成され、半導体メモリは、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリや、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリで構成される。各種記憶部32,52,78は、フラッシュメモリ、ソリッドステートドライブ(SSD)、など任意の情報記憶媒体で適用されてもよい。各種記憶部32,52,78は、一つのみの記憶媒体で構成されてもよく、複数の異なる記憶媒体で構成されてもよい。CPUは、各種記憶部32,52,78に予め記憶されたプログラム等を読み出して実行する。また、不揮発性メモリは、制御プロラムや所定の閾値等を予め記憶する。また、揮発性メモリは、読み出したプログラムや処理データを一時的に記憶する。
【0047】
<スピーカシステム>
スピーカシステム50は、意図した制御のもとに空間にサウンドを提供するものであって、音を出力するスピーカ素子部51と、サウンドコンテンツを格納するためのコンテンツ記憶部52と、サウンドコンテンツの再生や停止や変更をするためのコンテンツ制御部53と、無線制御信号を受信するためのスピーカ用無線信号受信部54と、電源部55と、を少なくとも含む。以上の構成要素は、ひとつの筐体の内部に納められていてもよいし、いなくてもよい。ひとつの筐体の内部に納められている場合、スピーカシステム50を小型化できる。また、ひとつの筐体の内部に納められている場合、レイアウト変更のフレキシビリティが要求されるABWオフィス20において、スピーカシステム50の設置条件を簡便に変更することが可能であるため、好ましい。スピーカ素子部51はサウンドを発音するためのものであって、例えば公知の電気信号を物理的な信号に変換させる素子で構成される。
【0048】
コンテンツ記憶部52には、サウンドコンテンツのデータが少なくとも格納される。また、サウンドコンテンツのデータは、あらかじめ録音された音声をデジタル化したものであり、例えば、WAV形式、MP3形式などのフォーマットで形成されるものである。
【0049】
コンテンツ記憶部52は、例えばRAMやフラッシュメモリであり、その記憶容量の許す限り、サウンドコンテンツ以外のデータが含まれていても良い。コンテンツ記憶部52は基板上に実装された態様であっても良いし、SDカードのようにユーザの手によって着脱が可能な態様であっても良い。コンテンツ制御部53は、コンテンツ記憶部52に格納されたコンテンツデータと、コンテンツ記憶部52に格納されたコンテンツデータを再現するソフトウェアとに基づいて、スピーカ素子部51にコンテンツデータに基づくコンテンツを出力させる制御信号を出力し、スピーカ素子部51がコンテンツデータに基づくコンテンツを出力する動作を実行する。ここで、ソフトウェアは、LINUXやWindowsなどの汎用的なのオペレーションシステムで読み出し可能でもよく、ソフトウェアは、例えばC言語やPythonなど任意の言語でプログラミングされる。
【0050】
スピーカ用無線信号受信部54は、コンテンツ制御部53が、音量、コンテンツ、再生時間位置のいずれかを制御する処理を実行するタイミングに係る無線制御信号を制御システム30から受信する。なお、スピーカ用無線信号受信部54は、送信機能を有して、音量、コンテンツ、再生時間位置のいずれかの現在情報に係る無線信号や、それ以外の情報を含む無線信号を、予め定められた1以上の情報機器に送信するようになっていてもよい。
【0051】
電源部55は、スピーカシステム50の構成要素に電力を供給するものであり、例えば、家庭用コンセント、ダクトレール、安定化電源等を含んでもよい。電源部55が、ダクトレールを含む場合、レイアウト変更のフレキシビリティが要求されるABWオフィス20において、スピーカシステム50の設置条件を簡便に変更することが可能であるため、好ましい。この場合、とくに図示することはないが、スピーカシステム50にはダクトレールに固定取り付けを行うための取り付け機構などが別途設けられる。
【0052】
<照明システム>
照明システム70は、意図した制御のもとに空間に照明光を提供するものであって、複数のベースライト73、複数のタスクライト75、調光調色制御部76、照明用無線信号受信部77、及び記憶部78を含む。タスクライト75の機器形態は特に限定されるものではなく、タスクライト75としては、上述のスポットライトの他、デスクライト、ダウンライト等を採用可能であるが、タスクライト75として、スポットライトのように特定領域に光を集めるような配光制御がなされたものであると、作業机の照明範囲を制御しやすいため好ましい。より詳しくは、スポットライトは、人が外力を付与することでスポットライトの照射方向を調整する構造を有してもよく、リモコンで二つの回転軸をモータ等で自在に回転させることで、スポットライトの照射方向を下方のいずれの方向にも自動で調整できる構造のものでもよい。少なくとも1つのスポットライトが、設置位置において照明光の出射方向をいずれの方向にも変更可能であると、集中スペースにおける長手方向の作業机間の隙間の自由度を高くできると共に、集中スペースにおける幅方向の作業机間の隙間の自由度も高くでき、集中スペースのレイアウトの自由度を高くできる。また、少なくとも1つのスポットライトが、スポットライトの照射方向をリモコンで自在に調整できる場合、脚立等を用いずに地上から安全にスポットライトの照射方向を調整できる。更に述べると、上述のように、タスクライト75として、調光調色式のスポットライトを採用すると好ましい。
【0053】
タスクライト75は、作業者の作業、例えばパソコン操作作業、筆記作業、読書作業などの作業効率を高めるための照明であり、作業机の視対象領域に選択的に照射される照明である。視対象領域とは、作業机で作業をする際、一般的に視野に入り得る領域であり、例えば作業机の中心の奥側にパーソナルコンピュータ(以下、単にパソコンという)を置いて操作をする場合は、作業机の中央部が視対象領域の中心である。このとき、生理的要因であったり偶発的に生じる体勢や目線変化による視対象の変化は勘案しない。つまり、一時的な考え事や背伸びのために天井を見上げたり、壁際に目線を移したり、くしゃみや咳で床に目線を移したり、誰かに話しかけられたため目線を移したり、といった事象は、作業机D01~D14における視対象領域の有意な変化として考慮しない。
【0054】
タスクライト75の照明範囲は、視対象領域の一部に限定されていることが好ましく、例えば、作業机の面積に対して30%~90%が照明範囲であることが好ましい。タスクライト75の照明範囲は、特に限定されるものではないが、略円形もしくは略多角形であることが好ましい。このようにすることで、視対象領域の明るさが、視対象領域ではない領域の明るさに対して明るくなり、周辺視野の認知的なノイズが低減する。よって、ワーカーの意識が、作業机側に向き、作業効率を高め易い。
【0055】
ここで、照明範囲とは、作業机に到達する単位面積あたりの光量の最大値が半減する位置として算出可能であり、一般的には半値幅とよばれる範囲である。照明範囲は、公知の照度計を用いることで測定及び算出が可能である。タスクライト75の色温度は、特に限定されるものではないが、4000K~6500Kであれば、認知上集中力を高め易くて好ましい。
【0056】
ベースライト73は室内の明るさを高めるための照明であり、室内を均一的に照射する照明である。ベースライト73の配光分布は、室内を均一に照射するためにタスクライト75と比べて広範囲であることが好ましい。ベースライト73の色温度は特に限定されるものではない。ベースライト73は調光調色式であることが好ましい。ベースライト73の機器形態は特に限定されるものではなく、シーリングライト、ラインライト、ペンダントライト、スポットライト、ライトバーなど任意のものを使用可能である。
【0057】
照明用無線信号受信部77は、後述する調光・調色信号を制御システム30から受信する。また、調光調色制御部76は、照明用無線信号受信部77が受信した調光・調色信号に含まれる調光・調色情報と、記憶部78に予め記憶されている照明機器73,75の調光・調色制御プログラム等を参照して、複数のベースライト73、及び複数のタスクライト75の調光・調色制御を実行する。
【0058】
<制御システム>
制御システム30は、複数のスピーカシステム50を制御するためのものであり、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等の汎用の情報端末と、例えば、マルチマネージャー(パナソニック:NQ51101)等の多機器連動制御に専用化された専用型制御用端末と、のうちの少なくとも一方を含む。
【0059】
専用型制御用端末は、パソコン、スマートフォン、タブレット端末のように、人のユーザが手に取って使用するユーザインターフェース、すなわち、ディスプレイなどの表示装置や、キーボード、タッチパネルのような入力装置、軽量かつ持ちやすい筐体形状、などを有している必要はなく、例えば、天井面に開けたΦ100mmの穴などに、簡易に埋め込んで固定取り付けができるような筐体形状であってもよい。この場合、空間の意匠性を高めやすく無線通信の混線なども生じにくいため、好ましい。あるいは、天井面に設けたダクトレールに取り付けができるような筐体形状であってもよい。この場合、空間の意匠性を高めやすく無線通信の混線なども生じにくいことに加え、ユーザが簡便に専用型制御用端末の位置条件を変更できるため、好ましい。
【0060】
制御システム30は、制御部31と、制御条件(情報)を含むソフトウェアが予めインストールされた制御条件記憶部32と、制御システム用無線信号送信部33とを備える。制御条件記憶部32には、各種制御プログラムや、制御に用いるデータが予めインストールされている。制御条件記憶部32には、スピーカシステム50の制御条件に係るデータが格納されると共に、照明システム70の制御条件に係るデータが格納される。
【0061】
スピーカシステム50の制御条件に係るデータとは、例えば、スピーカシステム50からサウンドコンテンツを再生する際の音量、サウンドコンテンツの種類、サウンドコンテンツの再生位置、複数のスピーカシステム50のグループ情報、複数のスピーカシステム50の制御シーン情報、あるいは上記制御のタイミングを決めるスケジュール情報などである。なお、制御条件記憶部32は、記憶容量の許す限り、スピーカシステム50の制御条件に係るデータ以外のデータが含まれていてもよい。制御条件記憶部32には、主にスピーカシステムの制御条件に係るデータが格納される。
【0062】
ここで、サウンドコンテンツの再生位置とは、例えば、5分でひとまとまりのサウンドコンテンツがあった場合、この5分のうち現在どの部分を再生しているか、を示すものであり、すなわち時刻で表現できるものである。例えば、上記例示したサウンドコンテンツを最初から再生し、1分経過したときの上記サウンドコンテンツの再生位置は、1分であり、さらにそこから10秒早戻しを行い、さらに20秒経過したときの上記サウンドコンテンツの再生位置は1分10秒である(早戻しの操作時間は含めない)。
【0063】
また、複数のスピーカシステム50のグループ情報とは、上述のように、複数のスピーカシステム50の群情報を一括で記憶部に格納するための管理情報であり、例えば、
図1に示す例では、4つのスピーカシステム50a~50dが存在するが、例えば、スピーカシステム50aとスピーカシステム0bを、スピーカ群1(スピーカグループ1)、スピーカシステム50cとスピーカシステム50dを、スピーカ群2(スピーカグループ2)等とし、複数のスピーカシステム50a~50dをまとめるという概念の情報である。
【0064】
この場合、上述のように、例えば、ABWオフィス20の所定の2つのエリア1とエリア2に対し、異なるサウンドコンテンツを提供しアクティブゾーニングを行うときに、エリア1とスピーカグループ1、そしてエリア2とスピーカグループ2、を対応させておけば、ユーザにとって、本来煩雑な複数のスピーカシステムの設定、管理、運用がしやすくなるため、好ましい。
【0065】
複数のスピーカシステムのグループ情報は、例えばソフトウェアやアプリケーションで管理される。グループ化は、例えば、タブレット端末を操作することで、設定・保存されてもよい。グループ化された複数のスピーカシステム50に対しては、例えば、10時00分に音量をゼロにする、や、17時00分にサウンドコンテンツをb.wavに切り替える等、同時期に同様の制御を行うよう動作させることができる。
【0066】
なお、グループ化された複数のスピーカシステム50の制御に関し、信号遅延は許容され、機器の動作のばらつきも許容される。たとえば、許容される機器の動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、グループ化されている複数機器の挙動に含まれる。スピーカシステム50の動作ばらつきが上記時間以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して十分早く、かつ省労力でレイアウト変更が達成し易いため、好ましい。
【0067】
グループの設定は、制御システム30を操作するソフトウェアやアプリケーションの機能として含まれている場合もあるが、必ずしも「グループ」という名称で定義されるとは限らず、前述の主旨を達成する目的において、例えば「エリア」「ゾーン」など任意の表現方法が選択されてもよい。
【0068】
制御システム30を操作するソフトウェアやアプリケーションは、制御システム30に含まれていてもよい。この場合、制御条件記憶部32の容量の一部などに、ソフトウェアやアプリケーションが書き込まれていてもよい。更には、特に図示することはないが、制御システム30は、それらのソフトウェアやアプリケーションを動作させるオペレーションシステムなどを含むCPUや、ユーザにとって制御情報を操作し易くするディスプレイや入力装置などのユーザインターフェースを適宜含んでいてもよい。ここで、そのようなユーザインターフェースは、例えば、パソコンやスマートフォンやタブレットなどの端末で構成されてもよい。
【0069】
又は、制御システム30を操作するソフトウェアやアプリケーションは、制御システム30に含まれていなくてもよい。この場合、制御システム30とは別途設けられる制御条件設定部90を用いて、制御条件記憶部32の内容が変更される。制御条件記憶部32は、例えば、制御部と、ソフトウェアがインストールされた情報記憶媒体とを有する端末で構成できる。
図3に示す例の場合、制御システム30を、例えば、ソフトウェア等がインストールされた記憶部を有する前述のマルチマネージャーで構成でき、制御条件設定部90を、ソフトウェア等がインストールされた設定用タブレット(パナソニック:NQ51181)で構成することができる。
【0070】
また、特に図示することはないが、スピーカシステムを制御するための制御システム30とは別に、照明システムを制御するための制御システムが設けられていても良い。また、スピーカシステムへ無線信号を送信するための制御システム用無線信号送信部33とは別に、照明システムへ無線信号を送信するための制御システム用無線信号送信部が別に設けられていても良い。
【0071】
複数のスピーカシステムの制御シーン情報とは、上述のように、複数のスピーカシステムに関する制御パラメータを一括で記憶部に格納するための管理情報である。例えば、制御シーン情報とは、上述のように、前述の4つのスピーカシステム50a~50dが再生するサウンドコンテンツの条件、スピーカシステム50a:a.wav、スピーカシステム50b:a.wav、スピーカシステム50c:b.wav、スピーカシステム50d:b.wav、をシーン1としてまとめるという概念の情報である。
【0072】
ABWオフィス20でアクティブゾーニングを行うことを考えると、スピーカシステムを4台以上、ないしは10台以上使用するため、ユーザにとって各機各様の音量・サウンドコンテンツの種類などの制御パラメータを設定し、再生することは大変煩雑であるが、シーンとして一括管理することでこれを大幅に改善できるものである。また、その他シーンの要件に関する事項は、複数のスピーカシステム50のグループ情報に係る記述の通りである。
【0073】
制御システム用無線信号送信部33は、スピーカシステム50へ制御条件に係る信号を無線で送信する。なお、制御システム用無線信号送信部33は、受信機能を有し、スピーカシステム50a~50dから制御状態に係る信号を無線で受信してもよく、それ以外の情報機器から無線信号を受信してもよい。無線制御信号は、公知かつ任意の周波数の電波通信が好適に用いられ、例えばWi-Fi、BlueTooth規格に従う無線信号等あってもよいし、920MHzなどのものであってもよい。
【0074】
制御システム30の制御部31は、制御条件記憶部32に記憶されている各種ソフトウェアや各種データに基づいて、複数のスピーカシステム50が出力するサウンドコンテンツの、音量、種類、再生位置の少なくともいずれかが同時期に制御されるように、制御システム用無線信号送信部33に無線制御信号を送信させる処理を実行する。
【0075】
これは、複数のスピーカシステム50を用いてABWオフィス20でアクティブゾーニングを行うことを主旨とした場合、例えば前述の4つのスピーカシステム50a~50dが再生するサウンドコンテンツの条件、スピーカシステム50a:a.wav、スピーカシステム50b:a.wav、スピーカシステム50c:b.wav、スピーカシステム50d:b.wav(条件1)から、スピーカシステム50a:b.wav、スピーカシステム50b:b.wav、スピーカシステム50c:b.wav、スピーカシステム50d:b.wav(条件2)に変化させ、かつ、「b.wav」をワーカーの集中力を高めやすいサウンドコンテンツとすることで、ABWオフィス20において集中作業用空間制御領域を瞬時的に増加させることができる有効な空間制御が達成できるが、この例示であると、2つのスピーカシステム、すなわち、スピーカシステム50a及びスピーカシステム50bが、同時期に再生コンテンツをa.wavからb.wavへ変更するように制御されている。
【0076】
更には、このとき、例えば、制御条件記憶部32に前述の条件1および条件2のデータをあらかじめ格納しておき、さらに、「9時00分に制御条件を条件1から条件2に移行する」というスケジュールを格納し有効にしておくことで、9時00分に、制御システム用無線信号送信部33からスピーカシステム50a及びスピーカシステム50bに対して、再生コンテンツをb.wavに切り替えるように、同時期に無線制御信号が送信される。こうすることで、ユーザの「9:00にABWオフィスの集中作業向け空間を増加させたい」という意図や要望は達成される。従って、本発明の実施例においては、従来行われてきたように空間の演出を変更するためにスピーカシステムを制御するのではなく、とりわけABWオフィス等で有効に活用できるフレキシブルなレイアウト変更、すなわちアクティブゾーニングのため、同時期に無線制御を行い複数のスピーカシステムを制御することを要とするものである。
【0077】
ここで、同時期とは、なにも寸分の時差もなくという意味ではなく、信号遅延は許容され、スピーカシステムの動作のばらつきも許容される。たとえば、許容されるスピーカシステムの動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、グループ化されているスピーカシステムの挙動に含まれる。スピーカシステムの動作ばらつきが上記時間以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して充分小さく、かつ省労力でレイアウト変更が達成することには普遍的に有意義であるからである。
【0078】
また、前述の制御以外にも、ワーカーにリラックスを促しうるサウンドコンテンツを用いて、逆に集中作業向け空間を減少させるとともにリラックス向け空間を増加させるなど、ユーザのABWオフィス20のレイアウトに係る任意の要望に応じて制御方法は派生しうるものであり、そのいずれにおいても本願の提供手段は普遍的に有効であり、本願の意図に含まれることは自明である。
【0079】
また、制御システムがスピーカシステムに対して行う処理のすべてが、複数のスピーカシステムに対応したものである必要はなく、時として、必要に応じて単体のスピーカシステムに対して無線制御信号を送信するような処理を含んでいてもよい。
【0080】
次に、制御システム30における照明システム70に関する制御について説明する。制御部31は、制御条件記憶部32に記憶された照明光に関するソフトウェアやデータを参照して、制御システム用無線信号送信部33に無線信号である調光調色信号を出力させる。調光調色信号の信号形式は特に限定されるものではなく、公知の調光信号、Wi-Fi、BlueToothなど任意のものが使用可能である。
【0081】
制御条件記憶部32には、複数の照明機器73,75のグループ情報が記憶されている。グループ化は、制御条件設定部90を操作することで、設定・保存されてもよい。グループ化された複数の照明機器73,75には、同じ命令が一斉に飛び、例えば、同様の調光調色制御が施される。なお、グループ化された複数の照明機器73,75の調光調色制御、すなわち群制御に関し、信号遅延は許容され、機器の動作のばらつきも許容される。たとえば、許容される機器の動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、グループ化されている複数の照明機器73,75の挙動に含まれる。機器の動作ばらつきが上記時間以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して十分早く、かつ省労力でレイアウト変更が達成し易いため好ましい。グループの設定は、制御装置を操作するアプリケーションの機能として含まれている場合もあるが、必ずしも「グループ」という名称で定義されるとは限らない。制御装置を操作するアプリケーションあるいは制御装置に含まれる記憶部に、グループの設定をしておくと、ユーザにとって照明やその制御パラメータの管理・変更がし易くなるため好ましい。
【0082】
複数の照明機器73,75に対して、各機各様の調光率・調色率などの制御パラメータを設定し、再生することは、ユーザにとって大変煩雑な作業である。なぜなら、一般的なABWオフィス20では、照明機器を10台以上、ないしは30台以上、多い場合であれば100台以上使用するためである。そこで、複数の照明機器73,75の制御パラメータを一括で記憶部に格納し、管理する手法が知られており、これを本願ではシーンと呼称する。このようにすることで、ユーザにとって、複数の照明機器73,75に対する制御パラメータの条件の管理がしやすいだけでなく、所望のタイミングで、瞬時にそれらの条件を複数の照明機器へ反映させること(以下、再生と呼称する)も容易となるため、好ましい。さらに、ユーザは、複数種類のシーンを予め制御条件記憶部32に格納しておくことによって、意図した2つ以上の設定条件を瞬時に切り替えることが可能である。各シーンの設定は、使用ニーズによって、如何なるように設定されてもよく、例えば、
図2に示す例とは異なり、例えば、シーン1に10台のベースライトの調光率を100%に設定し記憶部に保存し、さらにシーン2に前述の10台のベースライトの調光率を30%に設定し記憶部に保存してもよい。そして、シーン1を再生すれば、瞬時に10台のベースライトの調光率が100%に設定された状態に遷移するし、この状態からシーン2を再生すれば、瞬時に10台のベースライトの調光率が30%に設定された状態に遷移するようにしてもよい。このようにすると、毎回10台の照明機器の調光率を設定し直す作業より、はるかに短時間かつ省労力で多数の照明機器の調光制御を実現できて好ましい。なお、シーンの設定は、制御装置を操作するアプリケーションの機能として含まれている場合もあるが、必ずしも「シーン」という名称で定義されるとは限らない。また、各シーンの設定は、次のようにグループ1、2のシーンを設定してもよい。例えば、シーン1では、グループ1:調光率0%、グループ2:調光率50%に設定されてもよく、シーン2では、グループ1:調光率50%、グループ2:調光率0%に設定されてもよい。このようにシーンを設定すれば、ワーカーが集中し易いゾーンと、ワーカーがリラックスし易くて他のワーカーとコミュニケーションをとり易いゾーンとを瞬時に交換させることができ、二つのゾーンの規模が異なる場合に、ニーズによって、各ゾーンの規模を瞬時に変更させることができる。なお、シーン化された複数機器の調光調色制御、すなわち群制御に関し、信号遅延は許容され、機器の動作のばらつきも許容される。たとえば、許容される機器の動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、シーン化されている複数機器の挙動に含まれる。このように、同時期に無線制御を行い複数のスピーカシステムを制御することとあわせて、同時期に複数の照明システムを制御することによって、とりわけABWオフィス等で有効に活用できるフレキシブルなレイアウト変更、すなわちアクティブゾーニングの効果をさらに高めることが可能である。
【0083】
(音切れ・音ずれ発生の一試験及びその評価等)
<音切れ・音ずれ発生試験の概要と一試験結果>
本発明者は、本開示の音響制御システム10との比較において、スピーカシステムがコンテンツ記憶部を有さずに、各スピーカシステムがサウンドが流れている最中の間、継続的に制御システムからBlueTooth規格に従う無線信号によってサウンドコンテンツデータを受信する点のみが異なる比較例の音響制御システムを作成した。そして、本開示の音響制御システム10と、比較例の音響制御システムの両方で、
図2に示すシーン1~シーン4を20秒ごとに切り替えて、音切れ・音ずれが発生するか否かの試験を行った。
【0084】
図4は、その結果を表す表である。
図4に示すように、比較例の音響制御システムでは、音切れ・音ずれが頻繁に発生したのに対し、本開示の音響制御システム10では、音切れ・音ずれが発生しなかった。
【0085】
<上記一試験結果の評価>
一試験結果から本開示の音響制御システム10を用いると、スピーカシステムを4台以上、ないしは10台以上用いるABWオフィスでアクティブゾーニングを実現する際、音切れ・音ずれが殆ど発生しない優れた音響制御システムを実現できることを確認できた。
【0086】
<上記一試験結果に基づく考察>
オフィスの働き方の多様化、ABW化に伴い、空間レイアウトの意匠性やフレキシビリティ(変更要容易性)が好まれる中、音響制御システムを意匠性や変更容易性の高い無線方式で実現しようとした場合、従来公知の、BlueToothなどでサウンドコンテンツデータを無線通信する形態においては、昨今広くあまねく発売されている汎用的かつ安価な無線対応スピーカを用いることができ、容易に実現可能であるという利点がある。しかしながら、複数、それも例えば4台以上のスピーカシステムを用いてアクティブゾーニングを行おうとした場合、オフィスに存在する業務用パソコンやOA機器のWi―Fi電波との混線や人体の遮断によって、音切れが顕著になる。本開示の技術によれば、システム全体の処理系の末端(エッジ)に位置するスピーカシステムにあえて容量の大きなサウンドコンテンツのデータを格納することで、前述の容易な実現可能性を損なうという欠点をはるかに凌駕する、音切れ・音ずれというユーザにとっては実用上致命的なシステム上の欠陥を回避できるという格別かつ顕著な作用効果を獲得できる。
【0087】
(本開示の音響制御システムの構成及び作用効果)
以上、音響制御システム10における制御、及び各構成の具体的な態様について説明した。本項目では、上述の説明から明らかになった、音響制御システム10の必須の構成とその作用効果、及び採用すると好ましい構成とその作用効果について説明する。
【0088】
<必須の構成とその構成から導かれる作用効果>
音響制御システム10は、空間にサウンドを提供する2以上のスピーカシステム50a~50dと、各スピーカシステム50a~50dへ制御信号を送信する制御システム30と、
を備える。また、各スピーカシステム50a~50dは、音を出力するためのスピーカ素子部51と、サウンドコンテンツデータを格納するコンテンツ記憶部52と、サウンドコンテンツに関する1以上の動作を実行するためのコンテンツ制御部53と、無線制御信号を受信するためのスピーカ用無線信号受信部54と、電源部55と、を含む。また、制御システム30は、各スピーカシステム50a~50dの制御条件に関する情報を格納する制御条件記憶部32と、無線制御信号を送信するための制御システム用無線信号送信部33と、を含む。また、コンテンツ制御部53は、スピーカ用無線信号受信部54で受信した無線制御信号に基づいてコンテンツ記憶部52に格納されたサウンドコンテンツデータを読み出して、スピーカ素子部51にサウンドコンテンツデータに基づくサウンドを出力させるサウンド出力制御を含む1以上の制御を行う。また、制御システム30が、複数のスピーカシステム50a~50dに関してサウンドコンテンツに関する動作が同時期に実行されるように制御システム用無線信号送信部33に無線制御信号を出力させる同時期制御を含む1以上の制御を行う。
【0089】
本構成によれば、サウンドコンテンツデータを格納するコンテンツ記憶部52を、システム全体の処理系の末端(エッジ)に位置するスピーカシステム50a~50dに設けているので、サウンドコンテンツデータそのものを、制御システム30からスピーカシステム50a~50dに継続的に送信する必要がなく、制御システム30が、容量が非常に小さくてスピーカシステム50a~50dの動作を規定する程度の無線制御信号のみをスピーカシステム50a~50dに送信すればよい。したがって、音切れ・音ずれというユーザにとっては実用上致命的なシステム上の欠陥を回避できる。
【0090】
また、制御システム30が、複数のスピーカシステム50a~50dに関してサウンドコンテンツに関する動作が同時期に実行されるように制御システム用無線信号送信部33から無線制御信号を出力する同時期制御を含む1以上の制御を行うので、複数のスピーカシステム50a~50dが出力するコンテンツによるゾーニングの変更を短い時間で実現でき、アクティブゾーニングを実現できる。
【0091】
<選択すると好ましい複数の構成と、その各構成から導かれる作用効果>
また、サウンドコンテンツに関する1以上の動作が、サウンドコンテンツの再生、サウンドコンテンツの停止、サウンドコンテンツの変更、サウンドコンテンツを構成する音の音量の変更、及びサウンドコンテンツ再生位置の変更のうちの1以上を含んでもよく、2以上を含んでもよく、3以上を含んでもよく、4以上を含んでもよく、好ましくは、それら全てを含んでもよい。
【0092】
本構成によれば、ユーザのニーズ対応する動作をフレキシブルかつ短時間で実行できる。なお、サウンドコンテンツに関する1以上の動作は、サウンドコンテンツに関する如何なる動作でもよく、例えば、スピーカシステムが、モータでその筐体の向きを変動できる場合における、スピーカシステムの音出力方向を調整する動作等でもよい。
【0093】
また、制御条件記憶部32が、各スピーカシステム50a~50dを1以上のグループに関連づける1以上のグループ情報を含んでもよい。
【0094】
本構成によれば、サウンドコンテンツに関するゾーニングを、機能的に実行でき、更には、ゾーニングによる分断効果も顕著なものにできる。
【0095】
また、制御条件記憶部32に1以上のシーン情報が格納され、シーン情報は、スピーカシステム50a~50dが出力する音の情報を含んでもよい。
【0096】
本構成によれば、制御を各段に簡素化することができ、しかも、所望のゾーニングを順次に実現することができる。
【0097】
また、音響制御システム10は、空間の作業面を照明するための複数のタスクライト75、及び作業面よりも広範囲な領域を照明するための複数のベースライト73を含む照明システム70を備えてもよい。また、制御システム30が、制御システム用無線信号送信部33を介して、ベースライト73の照度よりタスクライト75の照度が大きくなる集中作業用空間制御領域(シーン1におけるデスクグループ1)とベースライト73の照度よりタスクライト75の照度が小さくなる非集中作業用空間制御領域(シーン1におけるデスクグループ2)とが生じるように、複数のタスクライト75及び複数のベースライト73を調光・調色制御する照明光ゾーニング制御を行ってもよい。
【0098】
本構成によれば、サウンドコンテンツの出力によるゾーニングと、照明光によるゾーニングとの相乗効果により、ゾーニングによる空間の分断効果(分割効果)を格別かつ顕著なものにすることができる。
【0099】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。例えば、
図1に示す音響制御システム10は、4つのスピーカシステム50a~50dを備えていたが、本開示の音響制御システムは、2以上の如何なる数のスピーカシステムを備えていてもよい。また、
図3に示すように、音響制御システム10は、照明システム70を備えていたが、本開示の音響制御システムは、照明システムを有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0100】
10 音響制御システム、 30 制御システム、 32 制御条件記憶部、 33 制御システム用無線信号送信部、 50a~50d スピーカシステム、 51 スピーカ素子部、 52 コンテンツ記憶部、 53 コンテンツ制御部、 54 スピーカ用無線信号受信部、 55 電源部、 70 照明システム、 73 ベースライト、 75 タスクライト。