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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】乳癌細胞存在率の推定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20231208BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20231208BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231208BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231208BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
G01N33/574 D
G01N33/50 P
G01N33/53 M
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020546062
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035774
(87)【国際公開番号】W WO2020054782
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2018171850
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】517448489
【氏名又は名称】合同会社H.U.グループ中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】牛島 俊和
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505475(JP,A)
【文献】特表2013-509872(JP,A)
【文献】国際公開第2016/083360(WO,A1)
【文献】MIYAMOTO, Kazuaki et al.,Identification of 20 genes aberrantly methylated in human breast cancers,Int. J. Cancer,2005年,vol.116,p.407-414
【文献】DING, Sheng et al.,Methylation profile of the promoter CpG islands of 14 "drug-resistance" genes in hepatocellular carc,World J Gastroenterol,2004年,vol.10, no.23,p.3433-3440
【文献】DEDEURWAERDER, Sarah,DNA methylation profiling reveals a predominant immune component in breast cancers,EMBO Mol. Med.,2011年,vol.3,p.726-741
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
A61K
A61P
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(1)および(2)を含む、乳癌細胞存在率の推定方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率を推定すること。
【請求項2】
解析が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、およびナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
解析が、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマーク・ゲノム・スキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチド・プライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランド・マイクロアレイ法、メチライト法、COBRA法、質量分析(マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法、またはイムノアッセイにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
以下(1)~(4)を含む、乳癌に対する薬物療法の効果の予測を補助する方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、乳癌マーカーの値を測定すること;
(2)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;
(3)(1)で測定された乳癌マーカーの値を(2)で解析されたメチル化率で補正して、乳癌マーカーの補正値を計算すること;および
(4)(3)で補正された乳癌マーカーの補正値に基づいて、乳癌に対する薬物療法の効果予測を補助すること。
【請求項5】
以下(1)および(2)を含む、乳癌の判定を補助する方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、乳癌の罹患可能性評価を補助すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌細胞存在率の推定方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
癌組織サンプルにおける癌細胞画分の評価は、癌マーカーを用いた癌の診断(例、癌の発症リスクの判定、癌の罹患の有無判定、癌に対する薬物療法の効果の予測(例えば、非特許文献1)、および癌に対する薬物療法の予後の評価)における不要画分(正常細胞)の混在による判定精度の低下を排除するために重要である。
【0003】
癌細胞画分を評価する方法としては、例えば、(1)病理診断、および(2)所定の方法を用いて、生検で採取した癌組織サンプル(癌細胞および非癌性細胞を含む)から癌細胞を分離する方法などが存在する。しかし、(1)については、熟練した医師の従事が必要であり、また、(2)の方法については、煩雑であるなどの問題がある。
【0004】
上記問題を解決するため、癌細胞画分に特異的なマーカー(「画分マーカー」)を用いて癌組織サンプルを解析することにより、癌細胞画分を評価することが提案されている。このような画分マーカーとしては、例えば、食道癌におけるメチル化マーカーTFAP2B、ARHGEF4、およびRAPGEFL1(非特許文献2)、胃癌におけるメチル化マーカーOSR2、PPFIA3、VAV3(非特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fujii S, Yamashita S, Yamaguchi T, Takahashi M, Hozumi Y, Ushijima T et al. Pathological complete response of HER2-positive breast cancer to trastuzumab and chemotherapy can be predicted by HSD17B4 methylation. Oncotarget. 2017;8(12):19039-48. doi:10.18632/oncotarget.15118.
【文献】Takahashi T et al., PLoS one, 2013;8(12):e82302
【文献】Zong L et al., Gastric cancer, 2016;19(2):361-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、乳癌組織に含まれる乳癌細胞含有率を判定する癌マーカーを提供することである。本発明の目的はまた、乳癌細胞含有率を判定することにより、乳癌に対する薬物療法の効果予測をする指標の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先ず、乳癌細胞画分を評価するため、乳癌細胞では高度にメチル化されているが、正常細胞(非乳癌細胞)では全くまたは低度にしかメチル化されていない乳癌細胞特異的なCpGサイトを探索すること、ならびにこの探索において、細胞間において高発生率のコピー数変化を有さず、かつ広範な患者を対象とすることができるCpGサイトを選択することを着想した。そこで、本発明者らは、常染色体および性染色体に存在する45万を超えるメチル化候補サイトについて包括的に鋭意検討した結果、このようなCpGサイトとして、SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、およびCFTR遺伝子中の特定のCpGサイトを見出した。本発明者らは、これらのCpGサイトのメチル化率を、乳癌細胞存在率の指標として利用することなどに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕以下(1)および(2)を含む、乳癌細胞存在率の推定方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率を推定すること。
〔2〕解析が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、およびナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段を用いて行われる、〔1〕の方法。
〔3〕解析が、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマーク・ゲノム・スキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチド・プライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランド・マイクロアレイ法、メチライト法、COBRA法、質量分析(マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法、またはイムノアッセイにより行われる、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕以下(1)~(4)を含む、乳癌に対する薬物療法の効果の予測方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、乳癌マーカーの値を測定すること;
(2)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;
(3)(1)で測定された乳癌マーカーの値を(2)で解析されたメチル化率で補正して、乳癌マーカーの補正値を計算すること;および
(4)(3)で補正された乳癌マーカーの補正値に基づいて、乳癌に対する薬物療法の効果を予測すること。
〔5〕以下(1)および(2)を含む、乳癌の判定方法:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、乳癌の罹患可能性を評価すること。
〔6〕以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率の解析手段を含む、乳癌細胞存在率の推定用試薬。
〔7〕以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率の解析手段を含む、乳癌の判定用試薬。
〔8〕以下(1)および(2)を含むキット:
(1)以下:
(a)配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(b)配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;
(c)配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチドからなるCG部分中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率解析手段;および
(2)乳癌マーカーの測定手段。
【発明の効果】
【0009】
本発明の推定方法は、例えば、乳癌マーカーを用いた乳癌の判定(例、乳癌リスク判定、乳癌罹患の判定、薬物療法の効果の予測、予後評価)の精度向上に有用である。
本発明の予測方法は、例えば、乳癌患者に対する外科的手術の要否および薬物療法の選択の判断における指標として有用である。
本発明の判定方法は、例えば、乳癌の診断に有用である。
本発明の試薬およびキットは、例えば、本発明の方法の簡便な実施に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、顕微鏡検査により評価された癌細胞含有率とSIM1、CCDC181、およびCFTR単独のメチル化レベルとの相関を示すグラフである。
図2図2は、顕微鏡検査により評価された癌細胞含有率とSIM1、CCDC181、およびCFTRから選ばれる2つの遺伝子の組合せによるメチル化レベル(メチル化レベルが高いほうを選択)との相関を示すグラフである。
図3図3は、顕微鏡検査により評価された癌細胞含有率とSIM1、CCDC181、およびCFTRの3つの遺伝子の組合せによるメチル化レベル(最も高いメチル化レベルを選択)との相関を示すグラフである。
図4図4は、病理学的完全奏効(pCR)、非完全奏功(Non-pCR)のHER2陽性型乳癌組織サンプルのHSD17B4遺伝子のメチル化率の測定値を、顕微鏡検査により評価された癌細胞含有率およびSIM1とCCDC181の組み合わせによるメチル化率で補正した値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(一般的な説明)
本発明において対象とされる癌は、乳癌である。乳癌は、HER2陽性型、ルミナルA型、ルミナルB型、およびトリプルネガティブ型のサブタイプに分類することができる。本発明において対象とされる癌は、いずれのサブタイプの乳癌であってもよいが、特定の局面ではHER2陽性型が好ましい。
【0012】
本発明において、「乳癌細胞存在率」とは、サンプル中の全細胞の個数(すなわち、乳癌細胞の個数および非乳癌細胞の個数の合計)に対する乳癌細胞の個数の比率をいう。すなわち、乳癌細胞存在率は、下記式で表される。
乳癌細胞存在率=(乳癌細胞の個数)/〔(乳癌細胞の個数)+(非乳癌細胞の個数)〕
【0013】
本明細書において、「画分マーカー」とは、被験体由来サンプル等の細胞集団を癌細胞画分と非癌性細胞(正常細胞)画分に分離した場合の癌細胞画分に特異的なマーカーをいう。画分マーカーは、遺伝子である場合に、「画分マーカー遺伝子」と呼ぶこともある。
【0014】
本発明において主に解析が意図されるSIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、およびCFTR遺伝子(乳癌画分マーカー遺伝子)のCpGサイトの情報は、以下の表1に示すとおりである(ゲノムの位置は、ヒトゲノムアセンブリhg38に基づく)。
【0015】
【表1】
【0016】
本発明において解析されるSIM1遺伝子のCpGサイトは、配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチド残基(SIM1遺伝子のエクソン1上流に存在する標準ヌクレオチド配列ggccgact中の4および5番目のヌクレオチド)からなるCG部分と定義することができる(5’側のggc部分および3’側のact部分が変異していない場合)。標準ヌクレオチド配列は、上記表1のCpGサイトに対応するCpGサイトを特定するために参照されることを意図するものである(本発明において解析される他の遺伝子のCpGサイトも同様)。当業者であれば、ゲノムDNAの変異が認められるヒト被験体について、ゲノムDNAの変異を考慮して、上記位置に存在するCpGサイトに相当するCpGサイトを適宜決定することができる。以下、本明細書において単に「SIM1遺伝子のCpGサイト」と称する場合は、特に記載がない限り、上記CpGサイトを示す。
【0017】
本発明において解析されるCCDC181遺伝子のCpGサイトは、配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチド残基(CCDC181遺伝子のイントロン2中に存在する標準ヌクレオチド配列cagcggca中の4および5番目のヌクレオチド)からなるCG部分と定義することもできる(5’側のcag部分および3’側のgca部分が変異していない場合)。当業者であれば、ゲノムDNAの変異が認められるヒト被験体について、ゲノムDNAの変異を考慮して、上記位置に存在するCpGサイトに相当するCpGサイトを適宜決定することができる。以下、本明細書において単に「CCDC181遺伝子のCpGサイト」と称する場合は、特に記載がない限り、上記CpGサイトを示す。
【0018】
本発明において解析されるCFTR遺伝子のCpGサイトは、配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチド残基(CFTR遺伝子のエクソン1上流に存在する標準ヌクレオチド配列ctccgggg中の4および5番目のヌクレオチド)からなるCG部分と定義することもできる(5’側のctc部分および3’側のggg部分が変異していない場合)。当業者であれば、ゲノムDNAの変異が認められるヒト被験体について、ゲノムDNAの変異を考慮して、上記位置に存在するCpGサイトに相当するCpGサイトを適宜決定することができる。以下、本明細書において単に「CFTR遺伝子のCpGサイト」と称する場合は、特に記載がない限り、上記CpGサイトを示す。
【0019】
(乳癌細胞存在率の推定方法)
本発明は、乳癌細胞存在率の推定方法を提供する。
【0020】
本発明の推定方法は、以下(1)および(2)を含む:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率を推定すること。
【0021】
工程(1)において、サンプルとしては、血液、体液、組織、および細胞からなる群より選択された1または2以上のサンプルを使用することができるが、上述した癌に対応する組織サンプルを好適に使用できる。本発明では、このような癌組織サンプルに含まれるゲノムDNAにおいて、特定のCpGサイトが解析される。ゲノムDNAは、癌組織サンプルから、任意の方法により適宜抽出することができる。癌組織サンプルとしては、例えば、針生検等の生検により採取されたものを用いることができる。癌組織サンプルは、予備処理に付されてもよい。このような予備処理としては、例えば、抽出、細胞固定、組織固定、組織薄片化、細胞解離処理、加熱、凍結、冷蔵、液状化が挙げられる。癌組織サンプルは、通常、癌細胞と正常細胞(非癌性細胞)を含む細胞集団のサンプルである。
【0022】
本発明において解析されるメチル化は、シトシン残基の5位のメチル化である。
【0023】
メチル化率の解析は、当該分野において公知である任意の方法により行うことができる。例えば、解析は、亜硫酸水素塩、プライマー、核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、およびナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の解析手段を用いて行うことができる。
【0024】
亜硫酸水素塩〔バイサルファイト(bisulfite)〕は、非メチル化シトシンをウラシルに変換する一方で、メチル化シトシンをウラシルに変換しない。よって、重亜硫酸水素塩は、このような性質のため、メチル化シトシンの解析では他の解析手段と組み合わせて汎用されている。
【0025】
プライマーは、シークエンシング用プライマー、若しくは遺伝子増幅用プライマー(例、PCRプライマー)、またはその組み合わせである。プライマーは、目的のCpGサイトを解析できるように適宜設計することができる。例えば、プライマーは、目的のCpGサイトの下流領域(SIM1遺伝子については配列番号1のヌクレオチド配列における1002~2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域、CCDC181遺伝子については配列番号2のヌクレオチド配列における1002~2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域、CFTR遺伝子については配列番号3のヌクレオチド配列における1003~2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)にアニールするように、または目的のCpGサイトを含む遺伝子領域を増幅するため、目的のCpGサイトの上流領域(SIM1遺伝子については配列番号1のヌクレオチド配列における1~999番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域、CCDC181遺伝子については配列番号2のヌクレオチド配列における1~999番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域、CFTR遺伝子については配列番号1のヌクレオチド配列における1~1000番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)および下流領域(上記で下流領域として示した任意の領域)においてセンス鎖およびアンチセンス鎖がアニールするように設計することができる。
【0026】
核酸プローブは、目的のCpGサイトを含む領域(SIM1遺伝子については配列番号1のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチド残基からなるCG部分を含む部分、CCDC181遺伝子については配列番号2のヌクレオチド配列における1000番目と1001番目のヌクレオチド残基からなるCG部分を含む部分、CFTR遺伝子については配列番号3のヌクレオチド配列における1001番目と1002番目のヌクレオチド残基からなるCG部分を含む部分を含む部分)またはその上流領域(上記で上流領域として示した任意の領域)若しくは下流領域(上記で下流領域として示した任意の領域)にハイブリダイズするように設計することができる。核酸プローブは、遊離の形態、または固相に固定された形態において用いることができる。固相としては、例えば、粒子(例、磁性粒子);アレイ、メンブレン(例、ニトロセルロース膜、ろ紙)、カラム等の支持体;およびプレート(例、マルチウェルプレート)、チューブ等の容器が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、および金属が挙げられる。核酸プローブはまた、抗メチル化シトシン抗体を用いるメチル化シトシンの解析において詳述したような核酸プローブであってもよい。
【0027】
制限酵素は、メチル化特異的または非特異的制限酵素であり、上述したような亜硫酸水素塩、プライマー、核酸プローブと適宜組み合わせて用いることができる。
【0028】
具体的には、上述したような解析手段を用いる解析方法としては、例えば、DNAメチル化シーケンス法、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマーク・ゲノム・スキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチド・プライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランド・マイクロアレイ法、メチライト法、COBRA法、質量分析(マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知である(例、特開2012-090555号公報、特開2014-036672号公報、特表2010-538638号公報、再表2009/136501号公報)。
【0029】
解析はまた、抗メチル化シトシン抗体を用いて行うことができる。抗メチル化シトシン抗体を用いるメチル化シトシンの解析は、当該分野において周知である(例、WO2015/025862;WO2015/025863;WO2015/025864;WO2016/052368;特開2012-230019号公報;DNA Research 13,37-42(2006);Anal.Chem. 2012,84,7533-7538)。抗メチル化シトシン抗体は、上述したような1または2以上の解析手段と組み合わされて用いられてもよい。具体的には、このような解析手段を用いる方法としては、例えば、抗メチル化シトシン抗体、および異種核酸プローブ(例、ノーマルRNAプローブ、修飾RNAプローブ)を組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025862);抗メチル化シトシン抗体、並びに固相プローブおよび捕捉プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025863);抗メチル化シトシン抗体、並びに吸収剤ポリヌクレオチドおよび捕捉プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025864);抗メチル化シトシン抗体、および修飾核酸塩基対合性異種核酸プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2016/052368)が挙げられる。抗メチル化シトシン抗体と組み合わせて用いられる核酸プローブは、本発明において解析される上記CpGサイトを含むDNA鎖ハイブリダイズして、当該DNA鎖と核酸プローブからなる二本鎖構造部分が形成されたときに、CpGサイト中のメチルシトシン残基が核酸プローブと不対部分を形成するように(換言すれば、相補的に結合しないように)、設計されてもよい(例、WO2015/025862)。したがって、核酸プローブは、不対部分に対応するヌクレオチド残基として、メチルシトシン残基と相補的に結合し得るグアニン残基以外のヌクレオチド残基(例、シトシン残基、チミン残基、アデニン残基、ウラシル残基)を有していてもよい。あるいは、核酸プローブは、このような不対部分が形成されないように設計されてもよい(例、WO2016/052368)。
【0030】
抗メチル化シトシン抗体を用いる方法は、当該分野において公知である任意の免疫学的方法により行うことができる。具体的には、このような方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、CLEIA、ELISA)、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、凝集法、免疫染色、フローサイトメトリー法、バイオレイヤー干渉法、In Situ PLA法、化学増幅型ルミネッセンス・プロキシミティ・ホモジニアス・アッセイ、ラインブロット法、ウエスタンブロット法が挙げられる。
【0031】
本発明において解析されるメチル化率は、癌細胞における上記CpG中のシトシン残基のメチル化の割合である。メチル化率の測定は、当該分野において周知である(例、特開2012-090555号公報、特開2014-036672号公報、特表2010-538638号公報、再表2009/136501号公報)。
【0032】
本発明において解析されるメチル化率は、SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、およびCFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率の組合せであってもよい。上記(d)で示されるようなメチル化率の組合せは、これらのメチル化率の2以上(すなわち、2または3)からなる組合せであり、具体的には、SIM1遺伝子とCCDC181遺伝子の組合せ、SIM1遺伝子およびCFTR遺伝子の組合せ、CCDC181遺伝子およびCFTR遺伝子の組合せ、ならびに、SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、およびCFTR遺伝子の組合せにおけるCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率である。組合せにおけるメチル化率は、例えば、組合せ中の最高メチル化率、最低メチル化率、および平均メチル化率のいずれを採用してもよいが、最高メチル化率を採用するのが好ましい。
【0033】
工程(2)において、解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率を推定することができる。
【0034】
(乳癌に対する薬物療法の効果の予測方法)
本発明はまた、乳癌に対する薬物療法の効果の予測方法を提供する。
【0035】
乳癌に対する薬物療法としては、例えば、抗癌剤による治療が挙げられる。抗癌剤としては、例えば、微小管阻害剤、抗がん抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、プラチナ製剤、アルキル化剤が挙げられる。抗癌剤はまた、分子標的薬であってもよい。このような分子標的薬としては、例えば、HER2阻害剤、EGFR阻害剤(例、ゲフィチニブ、ラパチニブ、エルロチニブ、セツキシマブ)、c-MET阻害剤(例、PHA-665752、SU11274、XL-880)、ALK阻害剤(例、WHI-P154、TAE684、PF-2341066)、PDGFR阻害剤(例、イマチニブ、デサチニブ、ヴァラチニブ)、c-KIT阻害剤(例、スニチニブ、マシチニブ、モテサニブ)が挙げられる。
【0036】
乳癌に対する薬物療法は、乳癌のサブタイプに応じて適宜選択することができる。
【0037】
HER2陽性型乳癌に対する薬物療法としては、例えば、HER2阻害剤による治療が挙げられる。HER2は、上皮成長因子(EGFR)と同じファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼである。HER2は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよびチロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメインが一本鎖で連結した構造を有する(例、Coussensら、Science,1985,Vol.230,No.4730,pp.1132-1139、およびGenebankアクセッション番号:NP_001005862.1を参照)。HER2阻害剤としては、例えば、抗体(例、トラスツズマブ、ペルツヅマブ)、低分子有機化合物(例、ラパチニブ、ネラチニブ、アファチニブ等のHER2チロシンキナーゼ阻害剤)、薬物結合抗体(例、T-DM1)が挙げられる。
【0038】
ルミナルA型乳癌に対する薬物療法としては、例えば、ホルモン療法または化学療法による治療が挙げられる。ホルモン療法としては、例えば、LH-RHアゴニスト製剤、抗エストロゲン薬、黄体ホルモン薬、アロマターゼ阻害薬を用いた療法が挙げられる。化学療法としては、例えば、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用薬、アルキル化薬、代謝拮抗薬を用いた療法が挙げられる。
【0039】
ルミナルB型乳癌に対する薬物療法としては、例えば、ホルモン療法または化学療法による治療が挙げられる。ホルモン療法としては、例えば、LH-RHアゴニスト製剤、抗エストロゲン薬、黄体ホルモン薬、アロマターゼ阻害薬を用いた療法が挙げられる。化学療法としては、例えば、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用薬、アルキル化薬、代謝拮抗薬を用いた療法が挙げられる。
【0040】
トリプルネガティブ型乳癌に対する薬物療法としては、例えば、化学療法による治療が挙げられる。化学療法としては、例えば、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用薬、アルキル化薬、代謝拮抗薬を用いた療法が挙げられる。
【0041】
癌に対する薬物療法においては、複数の抗癌剤を併用することができる。併用される複数の抗癌剤としては、例えば、上述した2以上の抗癌剤の組み合わせ、および上述した1以上の抗癌剤と他の抗癌剤との組み合わせが挙げられる。他の抗癌剤としては、例えば、タキサン系抗癌剤(例、パクリタキセル)等の微小管阻害剤、アントラサイクリン系(例、アドリアシン)、アロマターゼ阻害剤(例、レトロゾール)が挙げられる。
【0042】
本発明の予測方法は、以下(1)~(4)を含む:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、乳癌マーカーの値を測定すること;
(2)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基; (c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;
(3)(1)で測定された乳癌マーカーの値を(2)で解析されたメチル化率で補正して、乳癌マーカーの補正値を計算すること;および
(4)(3)で補正された乳癌マーカーの補正値に基づいて、乳癌に対する薬物療法の効果を予測すること。
【0043】
工程(1)における乳癌マーカーは、乳癌の指標となるマーカーであり、例えば、DNAメチル化率(例、HSD17B4のcg15896301:非特許文献3)が挙げられる。
【0044】
工程(2)における画分マーカー遺伝子(SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、またはCFTR遺伝子)のCpGサイト、ならびにメチル化率の解析手段は、上述のとおりである。
【0045】
工程(3)における乳癌マーカーの値の補正とは、ヒト被験体由来サンプル(乳癌細胞および非乳癌細胞を含むサンプル)において測定された乳癌マーカーの値に基づいて、より純粋に乳癌細胞に対応し得る乳癌マーカーの値を算出することをいう。したがって、乳癌マーカーの補正値は、例えば、下記式により求めることができる。
乳癌マーカーの補正値=(ヒト被験体由来サンプルにおいて測定された乳癌マーカーの値)/(ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率)
【0046】
工程(4)は、乳癌マーカーの値に基づいて乳癌に対する薬物療法の効果を予測する手法において、乳癌マーカーの値の代わりに乳癌マーカーの補正値を用いることにより行うことができる。乳癌マーカーの補正値を用いることにより、薬物療法の効果の高精度な予測が期待される。
【0047】
(乳癌の判定方法)
本発明はまた、乳癌の判定方法を提供する。
【0048】
乳癌の判定とは、ヒト被験体が乳癌に罹患している可能性が高いかまたは低いかを評価することをいう。
【0049】
本発明の判定方法は、以下(1)および(2)を含む:
(1)ヒト被験体由来サンプルにおいて、以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率を解析すること;および
(2)(1)で解析されたメチル化率に基づいて、乳癌の罹患可能性を評価すること。
【0050】
工程(1)におけるヒト被験体由来サンプル、画分マーカー遺伝子(SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、またはCFTR遺伝子)のCpGサイト、ならびにメチル化率の解析手段は、上述のとおりである。
【0051】
工程(2)において、メチル化率が基準値以上のときにヒト被験体は乳癌に罹患している可能性があり、ならびに/あるいはメチル化率が基準値より少ないときにヒト被験体は乳癌に罹患している可能性が低いと評価することができる。このような基準値としては、乳癌患者および健常人を鑑別し得るように適宜設定されたカットオフ値を利用することができる。メチル化率のカットオフ値としては、例えば、10~30%の範囲内にある任意の百分率の値を採用することができるが、15~25%の範囲内にある任意の百分率の値を採用することが好ましく、20%がより好ましい。
【0052】
(試薬およびキット)
本発明はまた、乳癌細胞存在率の推定用試薬を提供する。
【0053】
本発明の推定用試薬は、以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率の解析手段を含む。
【0054】
本発明の推定用試薬における画分マーカー遺伝子(SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、またはCFTR遺伝子)のCpGサイト、ならびにメチル化率の解析手段は、上述のとおりである。
【0055】
本発明の推定用試薬は、メチル化率の解析手段を用いてヒト被験体由来サンプルにおける画分マーカー遺伝子のメチル化率を解析し、解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体由来サンプル中の乳癌細胞存在率を推定するために用いることができる。
【0056】
本発明はまた、乳癌の判定用試薬を提供する。
【0057】
本発明の判定用試薬は、以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率の解析手段を含む。
【0058】
本発明の判定用試薬における画分マーカー遺伝子(SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、またはCFTR遺伝子)のCpGサイト、ならびにメチル化率の解析手段は、上述のとおりである。
【0059】
本発明の判定用試薬は、メチル化率の解析手段を用いてヒト被験体由来サンプルにおける画分マーカー遺伝子のメチル化率を解析し、解析されたメチル化率に基づいて、ヒト被験体の乳癌を判定するために用いることができる。
【0060】
本発明はまた、キットを提供する。
【0061】
本発明のキットは、以下(1)および(2)を含む:
(1)以下:
(a)SIM1遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(b)CCDC181遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;
(c)CFTR遺伝子のCpGサイト中のシトシン残基;または
(d)これらの組合せ
のメチル化率解析手段;および
(2)乳癌マーカーの測定手段。
【0062】
本発明の乳癌の判定用試薬における画分マーカー遺伝子(SIM1遺伝子、CCDC181遺伝子、またはCFTR遺伝子)のCpGサイト、メチル化率の解析手段、ならびに乳癌マーカーの測定手段は、上述のとおりである。
【0063】
本発明のキットは、種々の用途に用いることができるが、例えば、乳癌に対する薬物療法の効果の予測するために用いることができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
1.サンプル
1-1.生体由来サンプル
乳癌患者由来サンプルとして、195検体の乳癌組織サンプルを195人の乳癌患者から取得した。各患者の乳癌組織サンプルは、乳癌と診断された患者から針生検により収集した。サンプルを、PAX遺伝子組織システム(Qiagen,ヒルデン,ドイツ)を用いて固定し、低融点パラフィン中に埋包した。10枚の10μm薄切切片を作成し、DNAを抽出した。同時に、サンプルの顕微鏡検査を実施し、癌細胞画分を決定した。上記の195検体のうち、HER2陽性型乳癌患者由来検体61検体については、トラスツズマブに対する治療応答を決定し、サンプル中に癌細胞が残存しない状態を、病理学的完全奏効(pCR)、それ以外を非完全奏功(Non-pCR)と定義した。さらに、61個のサンプルのうち10個のサンプルを、レーザー捕捉マイクロダイセクション(LCM)により癌細胞および非癌細胞に分離した。
【0066】
1-2.培養細胞株サンプル
培養乳癌細胞株サンプルとして、全体で20個の乳癌細胞株(BT-474、SK-BR-3、MDA-MB-453、HCC38、MDA-MB-231、T-47D、Hs 578T、MCF7、UACC-3199、ZR-75-1、BT-20、MDA-MB-436、HCC1937、MDA-MB-468、HCC1428、BT-549、AU565、HCC1395、MDA-MB-157、およびHCC1954)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入した(ロックビル,MD)。
培養通常細胞株サンプルとして、ヒト乳房上皮細胞(HMECs)を、Cambrex(イーストラザフォード,NL)から購入した。
【0067】
2.画分マーカーのDNAメチル化レベルの測定
2-1.DNAメチル化レベルの測定方法
ゲノム特異的DNAメチル化レベルは、バイサルファイト・パイロシーケンシングにより解析した。バイサルファイト・パイロシーケンシングは、具体的には、以下の手順により行った。ゲノムDNAをBamHIで消化し、1μgのBamHI消化ゲノムDNAを、既報(Yamashita S, Takahashi S, McDonell N, Watanabe N, Niwa T, Hosoya K et al. Methylation silencing of transforming growth factor-beta receptor type II in rat prostate cancers. Cancer research. 2008;68(7):2112-21)のとおりバイサルファイト修飾に供した。バイサルファイト修飾DNAを40μlのTE緩衝液中に懸濁し、1μlのアリコートを、既報(Yoshida T, Yamashita S, Takamura-Enya T, Niwa T, Ando T, Enomoto S et al. Alu and Satalpha hypomethylation in Helicobacter pylori-infected gastric mucosae. International journal of cancer. 2011;128(1):33-9)のとおりバイサルファイトシーケンシングに供した。標的ゲノム領域を、ビオチニル化プライマーにより増幅した。ビオチン標識PCR産物を、0.2μMパイロシーケンシング・プライマーに対してアニールさせ、バイロシーケンシングを、PSQ 96パイロシーケンシング・システム(QIAGEN,バレンシア,CA,USA)を用いて行った。メチル化レベルは、PSQアッセイ・デザイン・ソフトウェア(QIAGEN)を用いて取得した。
【0068】
2-2.画分マーカーのメチル化レベルの解析
2-2-1.画分マーカーのスクリーニング
常染色体および性染色体中の477,344のCpGサイトより、1-2で調製した培養通常細胞株(非癌細胞)でメチル化率が低く、培養乳癌細胞株でメチル化率の高いCpGサイトを探索し、3つのCpGサイトを画分マーカーとして見出した。各CpGサイトの詳細を表1に示す。
【0069】
2-2-2.画分マーカーによる乳癌評価と病理による癌細胞含有率との相関
画分マーカーの乳癌評価の正確性を判定するために、HER2陽性型乳癌サンプル51検体(CFTRについては33検体)について、各画分マーカー(SIM1、CCDC181、およびCFTR)、およびこれらの組み合わせにより評価される癌細胞画分と、顕微鏡検査により評価された癌細胞含有率との間の相関を判定した。画分マーカーを組み合わせる場合は、3つのマーカーの最高メチル化率を採用した。結果を図1~3に示す。画分マーカーにより評価された癌細胞画分および病理による癌細胞含有率の間で有意な相関を確認した(R=0.38~0.77)。したがって、これらの画分マーカーは、乳癌細胞画分を評価することができるマーカーであると考えられた。
【0070】
3.乳癌細胞画分によるHSD17B4メチル化レベルの補正
3-1.乳癌マーカーの値の測定
上記1-1でpCRとNon-pCRを判定したHER2陽性型乳癌サンプル61検体について、HSD17B4遺伝子のメチル化レベルを測定した。HSD17B4メチル化レベルは、上記2-1にしたがってバイサルファイト・パイロシーケンシングにより測定した(非特許文献3参照)。
【0071】
3-2.乳癌マーカーの値の補正
上記3-1で測定したHSD17B4のメチル化レベルを、画分マーカーにより、または顕微鏡検査により評価された乳癌細胞画分により、以下のとおり補正した:[補正HSD17B4メチル化レベル=100×(HSD17B4メチル化レベル)/(癌細胞画分)]。
【0072】
3-3.統計解析
相関解析は、ピアソンの積率相関係数を用いて行った。トラスツズマブ応答者(pCR)と非応答者(Non-pCR)との間のHSD17B4の補正メチル化レベルにおける差異を、マン-ホイットニーU検定により評価した。全ての解析は、PASW統計バージョン18.0(SPSS Japan Inc.,東京,日本)を用いて行い、両側p値<0.05を、統計学的に有意とみなした。
【0073】
3-4.HSD17B4メチル化レベルの補正に対する癌細胞画分マーカーの応用
癌細胞画分を評価することにより癌細胞がHSD17B4メチル化レベルをどの程度補正できるか評価した。メチル化の生データに基づくと、pCRおよびNon-pCR試料間において、HSD17B4メチル化レベルにおいて如何なる有意な差異も認められなかった(p=0.245)(図4)。対照的に、補正後では、メチル化レベルは、Non-pCR試料よりもpCR試料において有意により高かった(顕微鏡検査:p=0.0001;画分マーカー:p=0.0004)。pCRを予測する感度および特異性(表2)に関しては、補正前はそれぞれ13.6%および94.9%であった。DNAメチル化マーカーによる補正後の感度および特異性(59.1%および84.6%)は、顕微鏡検査により補正されたもの(59.1%および87.2%)と同等であった。表2において、HSD17B4メチル化レベルを既報(前述のFujii S et al.)に基づくカットオフ値(50%)を用いて高レベルおよび低レベルに分類した。pCRは、病理学的完全奏効を示す。
【0074】
【表2】
【0075】
4.各サブタイプの乳癌への適用性の評価
1-1でpCR/Non-pCR判定を行った61検体を除く、134検体の乳癌サンプル(HER2陽性型、ルミナルA型、ルミナルB型、およびトリプルネガティブ型)について、非癌細胞も混入した状態で画分マーカー(SIM1、CCDC181、およびCFTR)メチル化率を測定した。メチル化率20%をカットオフとして、3つのマーカーのいずれかがカットオフ以上のメチル化率を示した検体を「陽性」と判定した。結果を表3に示す。表3中、HER2はHER2陽性型、TNBCはトリプルネガティブ型を表す。
【0076】
【表3-1】
【0077】
【表3-2】
【0078】
【表3-3】
【0079】
【表3-4】
【0080】
上記の結果において、各乳癌サブタイプにおいて、SIM1、CCDC181、CFTR、およびこれらの組み合わせについてメチル化率(組み合わせの場合は最高メチル化率)が20%を超えるものを陽性と判定した場合、各画分マーカーおよび乳癌判定率(メチル化陽性の乳癌患者の割合)は下記表4に示すとおりとなった。
【0081】
【表4】
【0082】
いずれの画分マーカー、いずれの組み合わせにおいても高い乳癌判定率(メチル化陽性の乳癌患者の割合)を示した。特に2種類以上の画分マーカーを組み合わせることで、高い確率で乳癌を判定し得ることが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
配列番号1は、SIM1遺伝子のメチル化レベル測定CpGサイト(1000および1001番目のヌクレオチド残基)前後1000bpのゲノム領域の塩基配列を示す。
配列番号2は、CCDC181遺伝子のメチル化レベル測定CpGサイト(1000および1001番目のヌクレオチド残基)前後1000bpのゲノム領域の塩基配列を示す。
配列番号3は、CFTR遺伝子のメチル化レベル測定CpGサイト(1001および1002番目のヌクレオチド残基)前後1000bpのゲノム領域の塩基配列を示す。
配列番号4~6はそれぞれ、SIM1遺伝子のCpGサイトのメチル化レベル測定用フォワードプライマー、リバースプライマー、およびシークエンシングプライマーの塩基配列を示す。
配列番号7~9はそれぞれ、CCDC181遺伝子のCpGサイトのメチル化レベル測定用フォワードプライマー、リバースプライマー、およびシークエンシングプライマーの塩基配列を示す。
配列番号10~12はそれぞれ、CFTR遺伝子のCpGサイトのメチル化レベル測定用フォワードプライマー、リバースプライマー、およびシークエンシングプライマーの塩基配列を示す。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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