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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20231208BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20231208BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H10B61/00
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2019075644
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020174141
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本庄 弘明
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086481(WO,A1)
【文献】特開2007-095186(JP,A)
【文献】特開2016-004589(JP,A)
【文献】特開2016-100417(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0303997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H10B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、n≧3であり、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記第1の参照層(B1)からの漏れ磁界による前記第1の記録層(A1)に対するシフト磁界Hsは、前記第1の記録層(A1)の保磁力Hcより小さい、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、Ru又はIrを含み、
前記Ruの膜厚は0.9±0.2nm又は0.4±0.15nmであり、
前記Irの膜厚は0.5±0.15nm又は1.35±0.1nmである、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記シフト磁界Hsは、前記保磁力Hcの0.2以下である、請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記複数の磁性層(21、22、・・・2n)のそれぞれはCoを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記複数の磁性層(21、22、・・・2n)のそれぞれは、隣接する前記非磁性挿入層との界面にCo層(213)を備える、請求項4に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接してCo又はFeを含む界面磁性層(211)と、前記界面磁性層(211)の第1の非磁性層(11)と反対側に隣接して設けられた非磁性結合層(41)と、前記非磁性結合層(41)の前記界面磁性層(211)と反対側に隣接して設けられたCoを含むCo磁性層(212)を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記複数の磁性層の数はn≧4であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の磁化M1及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3の和は、前記第2の磁性層(22)の磁化M2及び前記第4の磁性層(24)の磁化M4の和以下である、請求項7に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記第1の磁性層(21)の磁化M1は前記第2の磁性層(22)の磁化M2より小さい、請求項7又は8に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の膜厚t1及び前記第3の磁性層(23)の膜厚t3の和は、前記第2の磁性層(22)の膜厚t2及び前記第4の磁性層(24)の膜厚t4の和以下である、請求項7に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記第1の磁性層(21)の膜厚t1は前記第2の磁性層(22)の膜厚t2より小さい、請求項7又は10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
前記第3の磁性層(23)の膜厚t3は前記第4の磁性層(24)の膜厚t4より小さい、請求項10又は11に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)と前記第2の磁性層(22)の間の反強磁性結合力J12は、前記第2の磁性層(22)と前記第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力J23より大きい、請求項7~12のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
前記第3の磁性層(23)と前記第4の磁性層(24)の間の反強磁性結合力J34は、前記第2の磁性層(22)と前記第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力J23より大きい、請求項13に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の非磁性挿入層(31)及び前記第3の非磁性挿入層(33)は、膜厚0.4±0.15nmのRuであり、
前記第2の非磁性挿入層(32)は膜厚0.9±0.2nmのRuである、請求項7~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項16】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の非磁性挿入層(31)及び前記第3の非磁性挿入層(33)は、膜厚0.5±0.15nmのIrであり、
前記第2の非磁性挿入層(32)は膜厚0.9±0.2nmのRuである、請求項7~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項17】
前記複数の磁性層の数はn=3であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2は、前記第1の磁性層(21)の磁化M1及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3の和より大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項18】
前記複数の磁性層の数はn=3であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の膜厚t2は、前記第1の磁性層(21)の膜厚t1及び前記第3の磁性層(23)の膜厚t3の和より大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】
前記第1の記録層(A1)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられるキャップ層(C1)と、
前記キャップ層(C1)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられる上部電極層(E2)と、
前記第1の参照層(B1)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられる下地層(S1)と、
前記下地層(S1)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる下部電極層(E1)と、
をさらに備える、請求項1~18のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項20】
前記第1の参照層(B1)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられるキャップ層(C1)と、
前記キャップ層(C1)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる上部電極層(E2)と、
前記第1の記録層(A1)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられる下地層(S1)と、
前記下地層(S1)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられる下部電極層(E1)と、
をさらに備える、請求項1~18のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項21】
前記第1の記録層(A1)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の非磁性層(12)と、
前記第2の非磁性層(12)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられる第2の参照層(B2)と、
をさらに備え、
前記第2の参照層(B2)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、n≧3であり、
第2の参照層に含まれる、前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第の非磁性層(1)に隣接して設けられ、
前記第2の参照層(B2)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合する、請求項1~18のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項22】
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積、及び、前記第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積の和は、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積、及び、前記第4の磁性層(24)の磁化M4と膜厚t4の積の和以下である、請求項7に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項23】
前記複数の磁性層の数はn=3であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積は、前記第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積の和より大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項24】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の磁化M1及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3の和は、前記第2の磁性層(22)の磁化M2及び前記第4の磁性層(24)の磁化M4の和以下である、磁気抵抗効果素子。
【請求項25】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層の数はn≧4であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記第1の磁性層(21)の磁化M1は前記第2の磁性層(22)の磁化M2より小さい、磁気抵抗効果素子。
【請求項26】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の膜厚t1及び前記第3の磁性層(23)の膜厚t3の和は、前記第2の磁性層(22)の膜厚t2及び前記第4の磁性層(24)の膜厚t4の和以下であり、
前記第1の磁性層(21)の膜厚t1は前記第2の磁性層(22)の膜厚t2より小さい、磁気抵抗効果素子。
【請求項27】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層の数はn≧4であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記第3の磁性層(23)の膜厚t3は前記第4の磁性層(24)の膜厚t4より小さい、磁気抵抗効果素子。
【請求項28】
前記第3の磁性層(23)の膜厚t3は前記第4の磁性層(24)の膜厚t4より小さい、請求項26又は27に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項29】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)と前記第2の磁性層(22)の間の反強磁性結合力J12は、前記第2の磁性層(22)と前記第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力J23より大きい、磁気抵抗効果素子。
【請求項30】
前記第3の磁性層(23)と前記第4の磁性層(24)の間の反強磁性結合力J34は、前記第2の磁性層(22)と前記第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力J23より大きい、請求項29に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項31】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の非磁性挿入層(31)及び前記第3の非磁性挿入層(33)は、膜厚0.5±0.15nmのIrであり、
前記第2の非磁性挿入層(32)は膜厚0.9±0.2nmのRuである、磁気抵抗効果素子。
【請求項32】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層の数はn=3であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2は、前記第1の磁性層(21)の磁化M1及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3の和より大きい、磁気抵抗効果素子。
【請求項33】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層の数はn=3であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の膜厚t2は、前記第1の磁性層(21)の膜厚t1及び前記第3の磁性層(23)の膜厚t3の和より大きい、磁気抵抗効果素子
【請求項34】
1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
前記第3の磁性層(23)の前記第2の非磁性挿入層(32)とは反対側に隣接して設けられた第3の非磁性挿入層(33)と、
前記第3の非磁性挿入層(33)の前記第3の磁性層(23)とは反対側に隣接して設けられた第4の磁性層(24)と、
を含む構成を有し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積、及び、前記第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積の和は、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積、及び、前記第4の磁性層(24)の磁化M4と膜厚t4の積の和以下である、磁気抵抗効果素子。
【請求項35】
第1の記録層(A1)と、
前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、
前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、
前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、n≧3であり、
前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、
前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合し、
前記複数の磁性層の数はn=4であり、
前記複数の磁性層及び前記複数の非磁性挿入層は、
前記第1の磁性層(21)と、
前記第1の磁性層(21)の前記第1の非磁性層(11)とは反対側に隣接して設けられた第1の非磁性挿入層(31)と、
前記第1の非磁性挿入層(31)の前記第1の磁性層(21)とは反対側に隣接して設けられた第2の磁性層(22)と、
前記第2の磁性層(22)の前記第1の非磁性挿入層(31)とは反対側に隣接して設けられた第2の非磁性挿入層(32)と、
前記第2の非磁性挿入層(32)の前記第2の磁性層(22)とは反対側に隣接して設けられた第3の磁性層(23)と、
を備え、
前記第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積は、前記第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積及び前記第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積の和より大きい、磁気抵抗効果素子。
【請求項36】
請求項1~35のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子を備える、磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、及び、該磁気抵抗効果素子を備えた磁気メモリに関する。特に、参照層の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetic Random Access Memory;磁気メモリ)は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction;磁気トンネル接合)を利用した不揮発性メモリである。
待機時に電力を消費せず、高速動作性及び高書き込み耐性を有し、また、メモリサイズを微細化可能であるMRAMは、次世代の論理集積回路として注目されている。
【0003】
MRAMに使用される磁気抵抗効果素子は、記録層と参照層の間に障壁層となる非磁性層が挟まれた構造を基本とする。MRAMの磁性層(記録層)に記録されたビット情報は、障壁層ならびにその上下に形成される記録層及び参照層の磁化状態に依存して発現するTMR(Tunnel Magnetoresistance;トンネル磁気抵抗)効果を用いて読み出される。
【0004】
ところで、磁気抵抗効果素子であるMRAMで応用上重要となる特性は、(i)熱安定性指数Δが大きいこと、(ii)書き込み電流ICが小さいこと、(iii)磁気抵抗効果素子のトンネル磁気抵抗比(TMR比)が大きいこと、(iv)素子サイズが小さいことである。(i)は磁気メモリの不揮発性のため、(ii)はセルトランジスタのサイズを小さくしてセルサイズを小さくし、また消費電力を下げるため、(iii)は高速での読み出しに対応するため、(iv)はセル面積を小さくして大容量化するために要求される特性である。
【0005】
さらに、上記(ii)の特性に関連し、参照層の固定された磁化が反転を起こす電流と、記録層の書き込み電流Icの間のマージンを広く取ることが求められてきている。両電流の値が近接すると、記録層の書き込みにおいて書き込みエラー率が上がってしまうからである。
また、上記(i)の特性に関連し、記録層に対し参照層からの漏れ磁界をなるべく低減させることが求められてきている。漏れ磁界の影響が大きいと、いずれか一方の磁化状態における記録層の熱安定性指数Δが下がってしまうからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4595541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の参照層は、特許文献1等に公開されているように、図31に示す2段構成を有するのが一般的である。すなわち、参照層(B1)は2つの磁性層(21、22)及びRuに代表される非磁性挿入層(31)を備え、2つの磁性層(21、22)は非磁性挿入層(31)のRuを介して反強磁性結合している。
ここで、RuはRu膜の膜厚に依存して反強磁性結合の強さが変化し、膜厚0.4±0.15nmで最大の反強磁性結合力J12が得られる。しかしながら、耐熱性が十分でないため、CMOS(相補型MOS)等の回路製造におけるバックエンドプロセスの400℃での熱処理で反強磁性結合の劣化が生じやすかった。
そこで、Ru膜では2番目に大きな反強磁性結合を示す膜厚0.9±0.2nmに調整し、参照層の非磁性挿入層(31)として利用していた。
【0008】
しかしながら、膜厚0.9±0.2nmにおける反強磁性結合力は、膜厚0.4±0.15nmにおける反強磁性結合力に比べて弱いため、2つの磁性層(21、22)の結合力が弱く、参照層の固定された磁化が反転を起こしてしまう電流値が小さくなる、という問題があった。すなわち、参照層の固定された磁化が反転する電流と、記録層の書き込み電流Icの間のマージンを広く取ることができず、書き込みエラー率が増加するという課題があった。
【0009】
また、図31の従来例の参照層(B1)の磁性層のうち、最も記録層(A1)に近い磁性層(21)からの漏れ磁界が大きく、シフト磁界Hsが発生し、特に磁化状態が並行の場合に記録層(A1)の熱安定性指数Δと相関する実効的な保磁力Hc′が下がり、素子の熱安定性指数Δが低下するという課題も生じていた。
【0010】
さらに、従来例の参照層(B1)の磁性層の内、最も記録層に近い磁性層からの漏れ磁界の影響を低減するためには、非磁性挿入層の下に配置される磁性層22の磁性層膜厚を増加させることが有効であるが、その場合には、同時に反強磁性結合の強さが低下するために、参照層が反転する電流と記録層が反転する電流の間のマージンが狭くなるという問題が生じる。つまり、従来例では、参照層が反転する電流と記録層が反転する電流の間のマージンを十分に広くすることと、参照層からの漏れ磁界を十分に小さくすることを両立することが難しいという課題があった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑み、磁性層を3段以上有する参照層を備え、参照層の磁化が反転する電流と記録層の書き込み電流Icの間のマージンを広く取れる素子構成により書き込みエラー率を低減させ、かつ、参照層からの漏れ磁界の影響をより少なくすることにより熱安定性指数Δを向上させた、磁気抵抗効果素子を見出し、完成させるに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)と、前記第1の記録層(A1)に隣接して設けられた第1の非磁性層(11)と、前記第1の非磁性層(11)の前記第1の記録層(A1)とは反対側に隣接して設けられた第1の参照層(B1)を備え、前記第1の参照層(B1)は、n個の複数の磁性層(21、22、・・・2n)と、前記複数の磁性層のそれぞれの間に隣接して挟まれた(n-1)個の複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))を含み、n≧3であり、前記複数の磁性層のうち第1の磁性層(21)は前記第1の非磁性層(11)に隣接して設けられ、前記第1の参照層(B1)の磁化の向きは、膜面垂直方向に固定されており、前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、隣接した2つの磁性層間を反強磁性結合することを特徴とする。
【0013】
前記複数の非磁性挿入層(31、32、・・・3(n-1))のそれぞれは、Ru又はIrを含み、前記Ruの膜厚は0.9±0.2nm又は0.4±0.15nmであり、前記Irの膜厚は0.5±0.15nm又は1.35±0.1nmであることが望ましい。
【0014】
また、本発明の磁気メモリは、上述の磁気抵抗効果素子を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、参照層の磁化が反転する電流と記録層の書き込み電流Icの間のマージンを広く取れる素子構成により書き込みエラー率を低減させ、かつ、参照層からの漏れ磁界の影響をより少なくすることにより熱安定性指数Δを向上させた、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の一例の縦断面図を示す。
図2】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図3】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図4】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図5】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図6】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図7】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図8】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図9】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図10】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図11】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図12】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図13】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図14】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図15】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図16】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図17】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図18】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図19】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図20】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図21】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図22】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図23】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図24】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図25】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
図26】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによる評価用参照層の構成と各磁化曲線を示す。
図27A】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによるトンネル磁気抵抗比(TMR比)及び抵抗面積積(RA)を示す。
図27B】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによる交換結合磁界(Hex1)を示す。
図28】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによる評価用参照層の構成と各磁化曲線を示す。
図29A】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによるトンネル磁気抵抗比(TMR比)及び抵抗面積積(RA)を示す。
図29B】磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックによる交換結合磁界(Hex1)を示す。
図30】本発明の磁気抵抗効果素子を複数個配置した磁気メモリのブロック図の一例である。
図31】従来の磁気抵抗効果素子の構成の一例の縦断面図を示す。
図32】Ruの膜厚と層間交換結合エネルギーJexの関係を表したグラフである。
図33】Irの膜厚と層間交換結合エネルギーJexの関係を表したグラフである。
図34A】(a)に従来の磁性層2段の参照層の一例を示す。(b)に本発明の参照層の一例を示す。(c)に、(a)及び(b)の磁化曲線を示す。
図34B】(a)に本発明の参照層の一例を示し、(b)にCo/Pt層の詳細(一部拡大図)を示す。
図35A】磁性層の磁化及び反強磁性結合力と、漏れ磁界の概念図を示す。(a)磁化がM2>M1、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、(b)磁化がM1>M2、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、(c)磁化がM1=M2=M3=M4、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、(d)磁化がM1=M2=M3=M4、反強磁性結合力がJ12=J34>J23の場合の、漏れ磁界の概念図をそれぞれ示す。
図35B】磁性層の磁化及び反強磁性結合力と、漏れ磁界の概念図を示す。(a)磁化がM2>M1、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(b)磁化がM1>M2、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(c)磁化がM1=M2=M3、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(d)磁化がM1=M2=M3、反強磁性結合力がJ12>J23の場合の、漏れ磁界の概念図をそれぞれ示す。
図36】記録層の保磁力Hcとシフト磁界Hsの関係の概念図である。(a)保磁力Hcが低抵抗状態にシフトした状態、(b)保磁力Hcにシフト磁界Hsの影響がない状態、(c)保磁力Hcが高抵抗状態にシフトした状態を示す。
図37】第2の磁性層(22)の磁化M2、及び、第4の磁性層(24)の磁化M4を、膜厚t2及びt4により変化させた場合の、参照層の構成と、各磁化曲線を示す。
図38】第2の磁性層(22)の磁化M2を、積層回数により変化させた場合の、(a)参照層の構成、(b)シフト磁界との関係を示す。
図39】各磁性層の磁化を変化させた場合の、参照層の構成及び磁化曲線である。
図40】各磁性層の磁化を変化させた場合の、交換結合磁界Hex1を示す。
図41】各非磁性挿入層の反強磁性結合力を変化させた場合の、参照層の構成及び磁化曲線である。
図42】各非磁性挿入層の反強磁性結合力を変化させた場合の、交換結合磁界Hex1を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の磁気抵抗効果素子及び磁気メモリについて、詳細を説明する。
なお、図は一例に過ぎず、また、符号を付して説明するが、本発明を何ら限定するものではない。また、図面に示された幅等は、必ずしも実際の比率とはなっていない。
【0018】
(実施の形態1)
―素子の構成―
図1に、本発明の実施の形態1の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/・・・/n-1番目の磁性層(2(n-1))/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n番目の磁性層(2n)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/・・・/n-1番目の磁性層(2(n-1))/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n番目の磁性層(2n)は、第1の参照層(B1)を構成する。nは3以上であり、より好ましくは4以上である。
本発明の磁気抵抗効果素子の磁化方向は膜面に垂直であり、第1の参照層(B1)の磁化の向きは膜面に垂直に固定されている。第1の記録層(A1)の磁化の向きは、書き込み情報に対応して、膜面垂直方向に平行方向又は反平行方向に反転する。
【0019】
第1の記録層(A1)は、Co、Fe、Ni、Mn等の3d強磁性遷移金属元素を少なくとも1つを含んだ材料であり、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、MnAl等が例示される。B、V、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Si、Al、Pd、Pt、Ir等の非磁性元素をさらに含んでもよい。
第1の記録層(A1)は、単層からなっていても、積層あるいは多層となっていてもよい。合金状態でもよい。非磁性元素が含まれる場合、複数の磁性層の間に、磁性層間の磁化方向が同じとなる非磁性結合層を適宜配置してもよいし、非磁性元素の酸化物を適宜配置してもよい。
以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有率はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる他の磁性材料や非磁性材料をさらに含んでいてもよい。
また、第1の記録層(A1)の磁化の向きが膜面垂直方向であるため、第1の記録層(は膜面垂直方向に界面垂直磁気異方性を有する材料であることが好ましい。さらには、第1の非磁性層(11)との界面で垂直磁気異方性を有することがより好ましく、また、第1の非磁性層(11)以外の非磁性層を設けて、二重の界面で垂直磁気異方性を有するような構成にしてもよい。
【0020】
第1の記録層(A1)内の磁性層の膜厚の合計は、層構成にもよるが、概ね0.3nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、0.5nm~2.5nmの範囲にあることがより好ましい。
【0021】
第1の非磁性層(11)は、O(酸素)を含む材料が用いられてもよい。第1の非磁性層(11)は磁気抵抗効果素子の障壁層(絶縁層からなるトンネル接合層)であるため、接合する2つの端面の材料の組み合わせで磁気抵抗変化率が大きくなる発現するよう、MgO、Al23、SiO2、TiO、Hf2O等の酸素を含む絶縁体が好ましく、より好ましくはMgOが用いられる。
【0022】
第1の非磁性層(11)の膜厚は、TMR比を大きくするために0.5nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましい。また、小さな書き込み電流Icで磁化反転するために2.0nm以下であることが好ましく、1.5nm以下であることがより好ましい。よって、好ましくは0.5nm~2.0nmの範囲、より好ましくは0.8nm~1.5nmの範囲に調整される。
【0023】
第1の参照層(B1)は、磁化方向(磁化の向き)が膜面垂直方向に固定された強磁性層であり、n個の磁性層(21、22、・・・、2n)と(n-1)個の非磁性挿入層(31、32、・・・、3(n-1))を交互に隣接して配置してなる。第1の参照層(B1)の第1の非磁性層(11)とは反対側に、固定層等を隣接して配置してもよい。
【0024】
n個の磁性層(21、22、・・・、2n)は、少なくとも3d強磁性遷移金属元素のいずれかを含む強磁性体であり、Co、Fe、Niの少なくとも1つを含むことが好ましく、Coを含むことがより好ましい。具体的には、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi,CoB、FeB、NiB、CoFeB、CoPt、FePt、NiPt、CoPd、TbTeCo、MnAl、MnGa等の元素の組み合わせが例示され、CoFe、CoNi、CoB、CoFeB、CoPt、CoPd、TbTeCo等のCoを含む組み合わせがより好ましい。該磁性層は、上記磁性元素に、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性層元素をさらに含んだ合金であってもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる他の磁性材料や非磁性材料をさらに含んでもよい。
また、各磁性層内に薄い非磁性結合層を挿入してもよい。非磁性結合層の材料としては、Pt、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、Mg、MgO、Cr、V、Pd等が例示される。
n個の磁性層はそれぞれ、合金、単層からなってもよく、積層あるいは多層となっていてもよいし、Co/Ptの他、Pt、Ru、Ir、Rh、W、Ni、Pd等との積層や薄層フェリ構造等でもよい。強磁性層が多層から構成される場合、層の材料や膜厚により磁化の向きが平行に固定されていてもよく、反平行に固定されていてもよい。
【0025】
n個の磁性層(21、22、・・・、2n)の磁性元素相当分の膜厚の合計は、層構成にもよるが、概ね3.0nm~14nm程度に調整される。
【0026】
(n-1)個の非磁性挿入層(31、32、・・・、3(n-1))は、非磁性挿入層を構成する元素膜により隣接する上記磁性層を反強磁性結合し、構成元素とその膜厚により隣接する上記磁性層間の層間交換結合エネルギーJex、すなわち、反強磁性結合力を調整する。膜厚により層間交換結合エネルギーJexが変化する材料の例としては、Ru、Ir、Rh、Os,Au、Re、Cu等が挙げられる。
(n-1)個の非磁性挿入層はまた、結晶構造を変えない程度の他の元素を含んでいてもよい。たとえば、Ta、B、Nb、V等が挙げられる。
【0027】
上記非磁性挿入層を介した層間交換結合エネルギーJex、すなわち、反強磁性結合力の強度は、該非磁性挿入層の材料、膜厚の他、隣接する磁性層の膜厚の変更や、図1のように磁性層と非磁性挿入層を交互に配置した多層膜とすることによって調整される。理想的には、隣接する磁性層の磁性が消失しない膜厚の範囲では、磁性層の膜厚を減少させると、層間交換結合エネルギーJex、すなわち、反強磁性結合力の強度は逆比例して増大する。また、多層膜の積層数を増やすと、層間交換結合エネルギーJex、すなわち、反強磁性結合力の強度は増大する傾向にある。
【0028】
上記非磁性層の膜厚は、主たる元素としてRuを含む場合は、反強磁性結合力がピークを示す、0.9±0.2nm、又は、0.4±0.15nmに調整することが望ましい。
上記非磁性層の膜厚は、主たる元素としてIrを含む場合は、反強磁性結合力がピークを示す、0.5±0.15nm、又は、1.35±0.1nmに調整することが望ましい。詳細は後述する。
【0029】
第1の参照層(B1)からの漏れ磁界による第1の記録層(A1)に対するシフト磁界Hsは、第1の記録層(A1)の保磁力Hcより小さいことが好ましく、シフト磁界Hsは保磁力Hcの0.5以下、あるいは0.2以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。詳細は後述する。
【0030】
―非磁性挿入層を介した反強磁性結合について―
上述したように、(n-1)個の非磁性挿入層(31、32、・・・、3(n-1))は、非磁性挿入層を構成する元素膜により隣接する磁性層を反強磁性結合する。
2つの磁性層の層間交換結合エネルギーJexは、該磁性層の間に非磁性層が存在すると、ある元素に関しては、該非磁性層の膜厚により、RKKY相互作用により層間交換結合の振動がもたらされるという特徴を有する。この振動現象の振動周期は、膜の成長方向のフェルミ面のネスティング・ベクトルの波数で決定されており、2つの磁性層の間の非磁性層内にこの波数の定在波が生じ、量子井戸状態が生成することによる。また、フェルミ面のネスティング・ベクトルがない場合は、層間交換結合エネルギーJexの強度は振動せず、単調減少する。
【0031】
図32に、Ruの膜厚と層間交換結合エネルギーJexの関係を示した。図32に示したCo磁性層間の層間交換結合エネルギーJexは、Co/Ru/Co3層膜のRuの膜厚を変化させた試料の磁気特性を測定し、磁化の飽和磁界から計算することが可能である。
図32より、Ruの膜厚が0.4±0.15nmの範囲に層間交換結合エネルギーJexの最大値を示すピークがあり、Ruの膜厚が0.9±0.2nmの範囲に層間交換結合エネルギーJexの第2のピークが存在することが分かる。
【0032】
図33に、Irの膜厚と層間交換結合エネルギーJexの関係を示した。図33に示したCo磁性層間の層間交換結合エネルギーJexは、Co/Ir/Co3層膜のIrの膜厚を変化させた試料の磁気特性を測定し、磁化の飽和磁界から計算することが可能である。
図33より、Irの膜厚が0.5±0.15nmの範囲に層間交換結合エネルギーJexの最大値を示すピークがあり、Irの膜厚が1.35±0.1nmの範囲に層間交換結合エネルギーJexの第2のピークが存在することが分かる。
【0033】
RuやIrの元素や膜厚の選択においては、層間交換結合エネルギーJex、すなわち、反強磁性結合力の大きさの設定や、CMOS(相補型MOS)等の回路製造における熱処理での反強磁性結合の劣化や、RuやIrの非磁性挿入層の個数等が考慮される。たとえば、記録層に近い非磁性挿入層に対しては、反強磁性結合力を大きく設定することも検討されるし、熱処理による反強磁性結合の劣化が抑えられるように、膜厚を第2のピークの範囲に調整することも検討されるし、1つ1つの反強磁性結合力は小さくても記録層全体として反強磁性結合力を大きくするように非磁性挿入層の個数を増やすことも検討され得る。
【0034】
―漏れ磁界について―
図35Aに示すように、第1の参照層(B1)を構成する各磁性層は、膜面垂直方向に平行方向あるいは反平行方向の磁化(M1、M2、、、)を有し、各矢印及び該矢印の始点と終点を結ぶように連続した磁界が生じている。各磁性層の磁化の大きさや磁性層間の反強磁性結合の大きさに依存するものの、かかる磁界は、第1の参照層(B1)からの漏れ磁界としてシフト磁界Hsを生じ、第1の記録層(A1)の保磁力Hcに多かれ少なかれ影響を与えている。特に、参照層の磁化方向が面内である素子の漏れ磁界が、素子の端部から発生するだけであり記録層への影響が少ないのに対し、本発明の磁気抵抗効果素子の第1の参照層(B1)の磁化方向が膜面垂直方向すなわち記録層の方向を向いているため、記録層全面が参照層の漏れ磁界の影響を受ける。かかる漏れ磁界は、記録層の保磁力Hcをシフトさせ、記録層の安定性指数Δに影響を与える。
【0035】
図36に、記録層の保磁力Hcとシフト磁界Hsの関係の概念図を示す。(a)は保磁力Hcがシフト磁界Hsの影響を受けて低抵抗状態にシフトした状態、(b)は保磁力Hcにシフト磁界Hsの影響がない状態、(c)は保磁力Hcがシフト磁界Hsの影響を受けて高抵抗状態にシフトした状態である。
(b)に示すように参照層からの漏れ磁界がなくシフト磁界Hsの影響がない場合、記録層の磁性層の磁化において、低抵抗状態(P-state)の熱安定性指数ΔPと高抵抗状態(AP-state)の熱安定性指数ΔAPはバランスしている。しかしながら、(a)や(c)に示すように参照層からの漏れ磁界によりシフト磁界Hsが生じる場合、熱安定性指数ΔPとΔAPはアンバランスとなり、素子動作の不具合の原因となり得る。また、記録層の磁性層の保磁力Hcは、素子の熱安定性指数Δに比例するが、シフト磁界Hsの影響を受けると、実効的な保磁力Hc′は、Hc′=Hc-Hsとなり、熱安定性指数Δは減少する。
よって、シフト磁界Hsは、なるべく小さく抑える必要があり、記録層の有する保磁力Hcより小さいことが好ましく、シフト磁界Hsは保磁力Hcの0.5以下、あるいは0.2以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。
【0036】
参照層の磁化方向が膜面垂直方向である磁気抵抗効果素子において、参照層からの漏れ磁界によるシフト磁界Hsをより弱めるためには、反強磁性結合をした参照層の2つの磁性層を、本発明のように3つ以上、あるいは4つ以上の磁性層にすることが挙げられる。参照層内の隣接する磁性層の磁化の向きがN極同士、あるいはS極同士となるため、記録層へ漏れる磁界を低減させることができるからである。なお、参照層の磁化方向が面内である素子の場合、隣接する磁性層上下でN極とS極が逆となるため、反強磁性結合が強められることが知られている。
【0037】
実施の形態1の素子サイズは、適宜設定されるが、100nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましい。
【0038】
(実施の形態2)
―素子の構成―
図2に、本発明の実施の形態2の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)は、第1の参照層(B1)を構成する。すなわち、実施の形態1のうち、n=4の場合の構成である。
実施の形態2の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態1と同様である。
【0039】
―磁性層の磁化及び膜厚について―
実施の形態2において、第1の磁性層(21)の磁化をM1、第2の磁性層(22)の磁化をM2、第3の磁性層(23)の磁化をM3、第4の磁性層の磁化をM4とした場合、それらの大小関係は、M2+M4≧M1+M3、M2>M1、M2=M3>M1=M4、M4>M3、M1=M2=M3=M4等が例示される。
【0040】
ここで、各磁性層の磁化(M1、M2、M3、M4)の大きさは、磁性層の磁性元素分の膜厚にほぼ相当する。よって、第1の磁性層(21)の膜厚をt1、第2の磁性層(22)の膜厚をt2、第3の磁性層(23)の膜厚をt3、第4の磁性層(24)の膜厚をt4とした場合、それらの大小関係は、t2+t4≧t1+t3、t2>t1、t2=t3>t1=t4、t4>t3、t1=t2=t3=t4等が同様に例示される。
【0041】
以下、上記磁化及び膜厚の大小関係について、説明する。
なお、以下の説明において、第1の磁性層(21)と第2の磁性層(22)の間の反強磁性結合力をJ12、第2の磁性層(22)と第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力をJ23、第3の磁性層(23)と第4の磁性層(24)の間の反強磁性結合力をJ34としている。
【0042】
図34A(a)に従来例の参照層の磁性層が2つの構成、図34A(b)に実施の形態2の参照層の磁性層が4つの構成を示した。図34A(a)は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]4.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]4.5 / MgO /記録層の構成を有し、図34A(b)は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / MgO /記録層の構成を有する。ここで、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5に示される積層回数の2.5とは、両端がCo層となるように、Coを3回、Ptを2回積層したものである。図34B(a)のCo/Pt層の詳細を図34B(b)に示した。以下、本明細書における積層回数について同様である。すなわち、[Co(0.5)/Pt(0.3)]3.5は積層回数3.5であり、両端がCo層となるようにCoを4回、Ptを3回積層したものである。同様に、[Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5は積層回数1.5であり、両端がCo層となるようにCoを2回、Ptを1回積層したものである。さらに、元素右隣りの括弧内の数字は膜厚であり、単位はnmである(以下、本明細書において、同じ。)。図34A(b)において、4つの磁性層の磁化は、M1=M2=M3=M4であり、膜厚はt1=t2=t3=t4である。また、図34A(a)も図34A(b)も非磁性挿入層は膜厚0.9nmのRuであり、図34A(b)の反強磁性結合力はJ12=J23=J34である。
【0043】
図34A(c)に、図34A(a)及び図34A(b)の層構成における磁化曲線を示した。図内に矢印で示したように、磁化が飽和する磁界(交換結合磁界Hex1)を、従来例の3500Oeから6200Oeに増加させることが分かった。
よって、4つの磁性層の磁化がM1=M2=M3=M4の場合においても、参照層の固定された磁化の反転を起こす電流が大きくなり、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージンを広く取ることが可能となることが分かった。
【0044】
図35Aに、実施の形態2の参照層における、漏れ磁界の概念図を示した。図35A(a)は磁化がM2>M1、あるいは、M2+M4≧M1+M3、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、図35A(b)は磁化がM1>M2、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、図35A(c)は磁化がM1=M2=M3=M4、反強磁性結合力がJ12=J23=J34の場合の、漏れ磁界の概念図、図35A(d)磁化がM1=M2=M3=M4、反強磁性結合力がJ12=J34>J23の場合の、漏れ磁界の概念図である。
図35A(c)を基準にすると、図35A(b)は記録層に対し参照層からの漏れ磁界が大きく、図35A(a)は漏れ磁界が小さいことが理解できる。すなわち、M2>M1、あるいは、M2+M4≧M1+M3に調整すると、参照層からの漏れ磁界を抑えることができ、記録層におけるシフト磁界Hsの影響を低減し、実効的な保磁力Hc′=Hc-Hsを増大させ、熱安定性指数Δを向上させることができることが分かる。
【0045】
図37に、第2の磁性層(22)の磁性元素であるCoの膜厚t2及び第4の磁性層(24)の磁性元素であるCoの膜厚t4を変えた層構成と、各記録層の磁化曲線を示した。
図37の(a)はPt(6->3) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1) / MgO(1.25)/記録層の構成であり、(b)はPt(6->3) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1) / MgO(1.25)/記録層の構成であり、(c)はPt(6->3) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]3.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1) / MgO(1.25)/記録層の構成であり、(d)はPt(6->3) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1) / MgO(1.25)/記録層の構成である。なお、図37中の[Co(0.5/Pt(0.3)]/Co(0.5)、[Co(0.5/Pt(0.3)]2/Co(0.5)、[Co(0.5/Pt(0.3)]3/Co(0.5)等は、Pt層の両面がCo層に隣接して挟まれるように配置される。
【0046】
図37の(a)及び(b)の磁化曲線から、参照層からの漏れ磁界によりシフト磁界Hsの影響を受け、実効的な保磁力Hc′が小さくなっていることが分かった。一方、(c)及び(d)において、シフト磁界Hsは小さくなり、実効的な保磁力Hc′は小さくなっていないことが分かった。
よって、漏れ磁界の観点からは、t2+t4≧t1+t3、t2>t1、又は、t4>t3となるように、M2+M4≧M1+M3、M2>M1、又は、M4>M3となるように、膜厚、磁化を調整すると、記録層の実効的な保磁力Hc′が大きくなり、素子の熱安定性指数Δを向上させることができる。
【0047】
図38(a)に示される、図37の(a)、(b)、(c)の試料及び素子サイズを400nm、150nm、120nm、110nmとした場合の磁化曲線から、シフト磁界Hsを求め、図38(b)に磁性層の膜厚(積層回数)との関係を示した。また、これらの試料の場合、漏れ磁界の影響の少ない場合の保磁力Hcは磁化曲線から1000Oeであることが読み取れたため、保磁力Hcの0.2に相当する-200Oe~200Oeの範囲にシフト磁界Hsを調整するには、第2の磁性層(22)の膜厚を2.0nm~3.0nm(Co/Ptの積層回数を2.5回~3.5回)にすることが漏れ磁界の観点から好ましいことが分かった。さらに、保磁力Hcの0.15に相当する-150Oe~150Oeの範囲にシフト磁界Hsを調整するには、磁性層の膜厚を3.0nm(Co/Ptの積層回数を3.5回)にすることが、漏れ磁界の観点からより好ましいことが分かった。
【0048】
図39に、磁性層の磁化の大きさ、すなわち膜厚を変えた場合の層構成と磁化曲線を示した。(a)はM1=M2=M3=M4、t1=t2=t3=t4であり、(b)はM2=M3>M1=M4、t2=t3>t1=t4であり、(c)はM1=M4>M2=M3、t1=t4>t2=t3である。なお、(a)~(c)はいずれもM2+M4=M1+M3、t2+t4=t1+t3の関係が成り立っており、非磁性挿入層は膜厚0.9nmのRuで、J12=J23=J34である。
図39の(a)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5の構成であり、(b)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5の構成であり、(c)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5の構成である。
【0049】
図39の磁化曲線より交換結合磁界Hex1を求め、従来例の磁性層2つを有する参照層の値とともに、表1及び図40に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び図40から、従来例の磁性層2つを有する参照層に比べ、(a)、(b)、(c)いずれも、交換結合磁界Hex1を増加させることが分かった。
また、4つの磁性層の磁化、すなわち、磁性層の膜厚が同じ(a)を基準にすると、第1の磁性層(21)及び第4の磁性層(24)の磁化M1及びM4を小さく、膜厚t1及びt4を薄くすることで、交換結合磁界Hex1を6200Oeから9600Oeまで増加させることが分かった。一方で、第2の磁性層(22)及び第3の磁性層(23)の磁化M2及びM3を小さく、膜厚t2及びt3を薄くすると、交換結合磁界Hex1は、基準とした(a)とほぼ同じであった。
よって、4つの磁性層を有する参照層のうち、磁性層の磁化がM2=M3>M1=M4、あるいはM2>M1の場合、特に交換結合磁界Hex1が増加し、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージンを広く取ることが可能となる。
【0052】
以上、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージン、及び、漏れ磁界を抑えることによる熱安定性指数Δ向上の観点から、第1の参照層(B1)の4つの磁性層の磁化は、M2+M4≧M1+M3、M2>M1、M2=M3>M1=M4、M1=M2=M3=M4、磁性層の膜厚は、t2+t4≧t1+t3、t2>t1、t2=t3>t1=t4、t1=t2=t3=t4の条件を備えることが好ましい。さらには、第1の参照層(B1)の4つの磁性層の磁化は、M2+M4≧M1+M3、及び/又は、M2>M1、磁性層の膜厚は、t2+t4≧t1+t3、及び/又は、t2>t1の条件を備えることがより好ましい。
【0053】
―非磁性挿入層の膜厚について―
図41に、非磁性挿入層(31、32、33)の膜厚、すなわち、反強磁性結合力J12、J23、J34を変えた場合の層構成と磁化曲線を示した。(a)はJ12=J23=J34であり、(b)はJ23>J12=J34であり、(c)はJ12=J34>=J23である。なお、(a)~(c)の非磁性挿入層(31、32、33)はいずれもRuであり、膜厚0.9nmでの反強磁性結合力は、膜厚0.4nmでの反強磁性結合力より小さい。
図41の(a)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5の構成であり、(b)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.4) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5の構成であり、(c)は[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.4) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.4) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5の構成である。
【0054】
図41の磁化曲線より交換結合磁界Hex1を求め、従来例の磁性層2つを有する参照層の値とともに、表2及び図42に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2及び図42から、従来例の磁性層2つを有する参照層に比べ、(a)、(b)、(c)いずれも、交換結合磁界Hex1を増加させることが分かった。
また、4つの磁性層間の反強磁性結合力が同じ(a)を基準にすると、第1の磁性層(21)及び第2の磁性層(22)間の反強磁性結合力J12と、第3の磁性層(23)及び第4の磁性層(24)間の反強磁性結合力J34を、第2の磁性層(22)及び第3の磁性層(23)間の反強磁性結合力J23より大きくすることで、交換結合磁界Hex1を6100Oeから12300Oeまで増加させることが分かった。逆に、J23をJ12及びJ34より大きくすると、交換結合磁界Hex1は、基準とした(a)とほぼ同じであった。
よって、4つの磁性層を有する参照層において、J12=J34>J23のように外側の結合を強くした場合、特に交換結合磁界Hex1が増加し、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージンを広く取ることが可能となる。
【0057】
さらに、反強磁性結合力J12及びJ34を高めるため、非磁性挿入層(31、33)として、膜厚0.5±0.15nmのIrを挿入し、第2の非磁性挿入層(32)に膜厚0.9±0.2nmのRuを挿入してもよい。
【0058】
(実施の形態3)
図3に、本発明の実施の形態3の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)は、第1の参照層(B1)を構成し、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備える。
実施の形態3の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態2と同様である。
【0059】
第1の磁性層(21)は第1の非磁性挿入層(31)との界面に、第2の磁性層(22)は第1の非磁性挿入層(31)及び第2の非磁性挿入層(32)との界面に、第3の磁性層(23)は第2の非磁性挿入層(32)及び第3の非磁性挿入層(33)との界面に、第4の磁性層(24)は第3の非磁性挿入層(33)との界面に、Co層(213)を備える。
3つの非磁性挿入層(31、32、33)の界面にCo層(213)が接触することにより、反強磁性結合力(J12、J23、J34)をより大きくすることができる。
【0060】
Co層(213)は、Coを主成分として含み、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性層元素をさらに含んだ合金であってもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる他の磁性材料や非磁性材料をさらに含んでもよい。
【0061】
Co層(213)の膜厚は、0.1nm~1.0nmの範囲が好ましく、0.3nm~0.8nmの範囲がより好ましい。
【0062】
(実施の形態4)
図4に、本発明の実施の形態4の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)は、第1の参照層(B1)を構成し、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態4の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態2と同様である。
【0063】
第1の磁性層(21)に含まれる界面磁性層(211)は、少なくともCo又はFeを含み、第1の非磁性層(11)との界面で垂直磁気異方性を有するように設けられる。具体的には、Co、Fe、CoFe、FeNi、CoNi,CoB、FeB、CoFeB等が例示され、CoFeBがより好ましい。このような界面磁性層(211)を非磁性層に隣接して設けることは、隣接する第1の非磁性層(11)がMgOの場合、MgOを(001)の結晶方向に配向させ、高いトンネル磁気抵抗比(TMR比)を得ることが可能である点で望ましい。該磁性層は、上記磁性元素に、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性層元素をさらに含んだ合金であってもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる他の磁性材料や非磁性材料をさらに含んでもよい。
【0064】
界面磁性層(211)の膜厚は、0.1nm~2.0nmの範囲が好ましく、0.5nm~1.5nmの範囲がより好ましい。
【0065】
第1の磁性層(21)に含まれる非磁性結合層(41)は、W、Ta,Hg、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素を含み、より好ましくはW、Ta等が例示される。非磁性結合層(41)は、隣接する磁性層中にBが存在する場合はBを吸収し結晶化を促進し、また、非磁性結合層(41)に対して隣接する界面磁性層(211)とCo磁性層(212)を磁気的に結合することが可能である。さらに、Co磁性層(212)の結晶構造がfcc構造の場合に、非磁性結合層(41)はfcc構造をリセットし、界面磁性層(211)がbcc構造に配向するようにする役割を有する。これらの作用が相まって、高いトンネル磁気抵抗比(TMR比)を得ることができる。
【0066】
非磁性結合層(41)の膜厚は、隣接する界面磁性層(211)及びCo磁性層(212)を強制的に結合させる必要があるため、十分に薄く、たとえば0.2nm~0.7nm程度に調整される。
【0067】
第1の磁性層(21)に含まれるCo磁性層(212)は、少なくとも3d強磁性遷移金属元素のいずれかを含む強磁性体であり、少なくともCoを含む。具体的には、Co、CoFe、CoNi,CoB、CoFeB、CoPt、CoPd、TbTeCo等の元素の組み合わせが例示され、CoPtが好ましく、積層のCo/Ptがより好ましい。該磁性層は、上記磁性元素に、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性層元素をさらに含んだ合金であってもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる他の磁性材料や非磁性材料をさらに含んでもよい。
また、Co磁性層(212)内に薄い非磁性結合層を挿入してもよい。非磁性結合層の材料としては、Pt、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、Mg、MgO、Cr、V、Pd等が例示される。
Co磁性層(212)は、単層からなってもよく、積層あるいは多層となっていてもよいし、Co/Ptの他、Pt、Ru、Ir、Rh、W、Ni、Pd等との積層や薄層フェリ構造等でもよい。強磁性層が多層から構成される場合、層の材料や膜厚により磁化の向きが平行に固定されていてもよく、反平行に固定されていてもよい。
【0068】
(実施の形態5)
図5に、本発明の実施の形態5の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)は、第1の参照層(B1)を構成し、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備え、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態5の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態3及び4と同様である。
【0069】
第1の磁性層(21)は、界面磁性層(211)、非磁性結合層(41)、Co磁性層(212)、及び、Co層(213)を含む。
【0070】
(実施の形態6)
―素子の構成―
図6に、本発明の実施の形態6の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)は、第1の参照層(B1)を構成する。すなわち、実施の形態1のうち、n=3の場合の構成である。
実施の形態6の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態1及び2と同様である。
【0071】
―磁性層の磁化及び膜厚について―
第1の磁性層(21)の磁化をM1、第2の磁性層(22)の磁化をM2、第3の磁性層(23)の磁化をM3とした場合、それらの大小関係は、M2≧M1+M3、あるいは、M2≧M1が例示される。
【0072】
ここで、各磁性層の磁化(M1、M2、M3)の大きさは、磁性層の磁性元素分の膜厚にほぼ相当する。よって、第1の磁性層(21)の膜厚をt1、第2の磁性層(22)の膜厚をt2、第3の磁性層(23)の膜厚をt3とした場合、それらの大小関係は、t2≧t1+t3、あるいは、t2≧t1が同様に例示される。
【0073】
以下、上記磁化及び膜厚の大小関係について、説明する。
なお、以下の説明においては、第1の磁性層(21)と第2の磁性層(22)の間の反強磁性結合力をJ12、第2の磁性層(22)と第3の磁性層(23)の間の反強磁性結合力をJ23としている。
【0074】
図35Bに、実施の形態6の参照層における、漏れ磁界の概念図を示した。(a)は磁化がM2>M1、あるいは、M2>M1+M3、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(b)は磁化がM1>M2、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(c)は磁化がM1=M2=M3、反強磁性結合力がJ12=J23の場合の、漏れ磁界の概念図、(d)磁化がM1=M2=M3、反強磁性結合力がJ12>J23の場合の、漏れ磁界の概念図である。
図35Bの(c)を基準にすると、(b)は記録層に対し参照層からの漏れ磁界が大きく、(a)は漏れ磁界が小さいことが分かる。すなわち、M2>M1+M3、あるいは、M2>M1、に調整すると、参照層からの漏れ磁界を抑えることができ、記録層におけるシフト磁界Hsの影響を低減し、実効的な保磁力Hc′=Hc-Hsの低下を抑制し、熱安定性指数Δを向上させることができる。
【0075】
以上、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージン、及び、漏れ磁界を抑えることによる熱安定性指数Δ向上の観点から、第1の参照層(B1)の3つの磁性層の磁化は、M2≧M1+M3、あるいは、M2≧M1、磁性層の膜厚は、t2≧t1+t3、あるいは、t2≧t1であることがより好ましい。
【0076】
(実施の形態7)
図7に、本発明の実施の形態7の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)は、第1の参照層(B1)を構成し、3つの磁性層(21、22、23)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32)との界面にCo層(213)を備える。
実施の形態7の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態3及び6と同様である。
【0077】
第1の磁性層(21)は第1の非磁性挿入層(31)との界面に、第2の磁性層(22)は第1の非磁性挿入層(31)及び第2の非磁性挿入層(32)との界面に、第3の磁性層(23)は第2の非磁性挿入層(32)との界面に、Co層(213)を備える。
【0078】
(実施の形態8)
図8に、本発明の実施の形態8の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)は、第1の参照層(B1)を構成し、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態8の詳細は、実施の形態4及び6と同様である。
【0079】
(実施の形態9)
図9に、本発明の実施の形態9の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)は、第1の参照層(B1)を構成し、3つの磁性層(21、22、23)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32)との界面にCo層(213)を備え、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)/Co層(213)を備える。
実施の形態9の詳細は、実施の形態5及び6と同様である。
【0080】
(実施の形態10)
図10に、本発明の実施の形態10の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)/第4の非磁性挿入層(34)/第5の磁性層(25)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)/第4の非磁性挿入層(34)/第5の磁性層(25)は、第1の参照層(B1)を構成する。すなわち、実施の形態1のうち、n=5の場合の構成である。
実施の形態10の詳細は、実施の形態1~5と同様である。
【0081】
なお、図10において、各磁性層(21、22、23、24、25)のそれぞれが、隣接する非磁性挿入層(31、32、33、34)との界面にCo層(213)を備えてもよい。
また、第1の磁性層(21)に、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備えてもよい。
【0082】
(実施の形態11)
図11に、本発明の実施の形態11の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)/第4の非磁性挿入層(34)/第5の磁性層(25)/第5の非磁性挿入層(35)/第6の磁性層(26)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)/第4の非磁性挿入層(34)/第5の磁性層(25)/第5の非磁性挿入層(35)/第6の磁性層(26)は、第1の参照層(B1)を構成する。すなわち、実施の形態1のうち、n=6の場合の構成である。
実施の形態11の詳細は、実施の形態1~5と同様である。
【0083】
なお、図11において、各磁性層(21、22、23、24、25、26)のそれぞれが、隣接する非磁性挿入層(31、32、33、34、35)との界面にCo層(213)を備えてもよい。
また、第1の磁性層(21)に、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備えてもよい。
【0084】
(実施の形態12)
図12に、本発明の実施の形態12の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、n番目の磁性層(2n)/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n-1番目の磁性層(2(n-1))/・・・/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)/第2の非磁性層(12)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/・・・/n-1番目の磁性層(2(n-1))/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n番目の磁性層(2n)が順に隣接して配置された構成を含む。
第1の非磁性層11に隣接した[第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/・・・/n-1番目の磁性層(2(n-1))/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n番目の磁性層(2n)]は、第1の参照層(B1)を構成する。nは3以上であり、より好ましくは4以上である。第2の非磁性層12に隣接した[n番目の磁性層(2n)/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n-1番目の磁性層(2(n-1))/・・・/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)]は、第2の参照層(B2)を構成する。nは3以上であり、より好ましくは4以上である。
実施の形態12の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態1と同様である。
【0085】
第2の参照層(B2)は、磁化方向(磁化の向き)が膜面垂直方向に固定された強磁性層であり、第1の参照層(B1)と第2の参照層(B2)の構成は、同じであっても、各層の膜厚や元素組成が異なってもよい。第1の記録層(A1)において、第1の参照層(B1)からの漏れ磁界と第2の参照層(B2)からの漏れ磁界をキャンセルするような構成が好ましく、また、参照層の総膜厚を減らして交換結合磁界を大きくするような構成であることが望ましい。かかる観点から、第1の参照層(B1)の構成と第2の参照層(B2)の構成を第1の記録層(A1)を挟んで上下対称とすることがより好ましい。
第2の非磁性層(12)は、第1の非磁性層(11)と同様の構成及び特性を有する。
【0086】
(実施の形態13)
図13に、本発明の実施の形態13の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)/第2の非磁性層(12)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の記録層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含む。
第1の非磁性層(11)に隣接した[第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)]は、第1の参照層(B1)を構成する。すなわち、実施の形態12のうち、n=4の場合の構成である。第2の非磁性層(12)に隣接した[第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)]は、第2の参照層(B2)を構成する。すなわち、実施の形態12のうち、n=4の場合の構成である。
実施の形態13の詳細は、実施の形態2及び12と同様である。
【0087】
(実施の形態14)
図14に、本発明の実施の形態14の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)/第2の非磁性層(12)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含む。
第1の非磁性層(11)に隣接した[第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)]は、第1の参照層(B1)を構成し、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備える。第2の非磁性層(12)に隣接した[第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)は、第2の参照層(B2)を構成し、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備える。
実施の形態14の詳細は、実施の形態3及び13と同様である。
【0088】
(実施の形態15)
図15に、本発明の実施の形態15の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)/第2の非磁性層(12)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)が順に隣接して配置された構成を含む。
第1の非磁性層(11)に隣接した[第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/第4の磁性層(24)]は、第1の参照層(B1)を構成し、第1の参照層(B1)中の第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。第2の非磁性層(12)に隣接した[第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の磁性層(21)]は、第2の参照層(B2)を構成し、第2の参照層(B2)中の第1の磁性層(21)は、第2の非磁性層(12)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態15の詳細は、実施の形態4及び13と同様である。
【0089】
(実施の形態16)
図16に、本発明の実施の形態16の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/・・・/n-1番目の磁性層(2(n-1))/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/下地層(S1)に隣接したn番目の磁性層(2n)を含む。nは3以上であり、より好ましくは4以上である。
実施の形態16の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態1と同様である。
【0090】
第1の参照層(B1)の第1の非磁性層(11)とは反対側に必要に応じて下地層(S1)が設けられ、該下地層(S1)の第1の参照層(B1)とは反対側に下部電極層(E1)が設けられる。
また、第1の記録層(A1)の第1の非磁性層(11)とは反対側にキャップ層(C1)が設けられ、該キャップ層(C1)の第1の記録層(A1)とは反対側に上部電極層(E2)が設けられる。
【0091】
下部電極層(E1)の積層構造は、Ta(5nm)/Ru(5nm)/Ta(10nm)/Pt(5nm)、Ta(5nm)/TaN(20nm)等が例示される。
【0092】
上部電極層(E2)の積層構造は、Ta(50nm)、Ta(5nm)/Ru(50nm)、Ru(1nm~50nm)、Pt(1nm~50nm)、CoFeB(0.2nm~1.5nm)/Ru(5nm)/Ta(50nm)等が例示される。
【0093】
キャップ層(C1)は、記録層を保護する材料で構成されることが望ましく、Ta、Ru、Pt、CoFeB等が例示される。
下地層(S1)は、拡散防止、上部磁性層の結晶配向制御等の目的で下部電極の上に積層される。Ta(5)、Ta(5)/Pt(5)、Ta(5)/Ru(30)等が例示される。
【0094】
(実施の形態17)
図17に、本発明の実施の形態17の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/下地層(S1)に隣接した第4の磁性層(24)を含む。
実施の形態17の詳細は、実施の形態2及び16と同様である。
【0095】
(実施の形態18)
図18に、本発明の実施の形態18の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/下地層(S1)に隣接した第4の磁性層(24)を含み、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備える。
実施の形態18の詳細は、実施の形態3及び16と同様である。
【0096】
(実施の形態19)
図19に、本発明の実施の形態19の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/下地層(S1)に隣接した第4の磁性層(24)を含み、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態19の詳細は、実施の形態4及び16と同様である。
【0097】
(実施の形態20)
図20に、本発明の実施の形態20の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)/第1の非磁性挿入層(31)/第2の磁性層(22)/第2の非磁性挿入層(32)/第3の磁性層(23)/第3の非磁性挿入層(33)/下地層(S1)に隣接した第4の磁性層(24)を含み、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備え、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)/Co層(213)を備える。
実施の形態20の詳細は、実施の形態5及び16と同様である。
【0098】
(実施の形態21)
図21に、本発明の実施の形態21の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の参照層(B1)/第1の非磁性層(11)/第1の記録層(A1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、キャップ層に隣接したn番目の磁性層(2n)/n-1番目の非磁性挿入層(3(n-1))/n-1番目の磁性層(2(n-1))/・・・/第1の非磁性挿入層(31)/第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)を含む。nは3以上であり、より好ましくは4以上である。
実施の形態21の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態16と同様である。
【0099】
第1の参照層(B1)の第1の非磁性層(11)とは反対側に必要に応じてキャップ層(C1)が設けられ、該キャップ層(C1)の第1の参照層(B1)とは反対側に上部電極層(E2)が設けられる。
また、第1の記録層(A1)の第1の非磁性層(11)とは反対側に下地層(S1)が設けられ、該下地層(S1)の第1の記録層(A1)とは反対側に下部電極層(E1)が設けられる。
実施の形態16と21は、電極の上下に対し参照層と記録層の位置を逆にしたものである。各種条件によるが、記録層の磁気特性の向上には、参照層を上部電極側に配置することが好ましい。
【0100】
(実施の形態22)
図22に、本発明の実施の形態22の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の参照層(B1)/第1の非磁性層(11)/第1の記録層(A1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、キャップ層(C1)に隣接した第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)を含む。
実施の形態22の詳細は、実施の形態17及び21と同様である。
【0101】
(実施の形態23)
図23に、本発明の実施の形態23の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の参照層(B1)/第1の非磁性層(11)/第1の記録層(A1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、キャップ層(C1)に隣接した第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)を含み、4つの磁性層(21、22、23、24)のそれぞれは、隣接する非磁性挿入層(31、32、33)との界面にCo層(213)を備える。
実施の形態23の詳細は、実施の形態18及び21と同様である。
【0102】
(実施の形態24)
図24に、本発明の実施の形態24の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第1の参照層(B1)/第1の非磁性層(11)/第1の記録層(A1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含み、第1の参照層(B1)は、キャップ層(C1)に隣接した第4の磁性層(24)/第3の非磁性挿入層(33)/第3の磁性層(23)/第2の非磁性挿入層(32)/第2の磁性層(22)/第1の非磁性挿入層(31)/第1の非磁性層(11)に隣接した第1の磁性層(21)を含み、第1の磁性層(21)は、第1の非磁性層(11)に隣接した界面磁性層(211)/非磁性結合層(41)/Co磁性層(212)を備える。
実施の形態24の詳細は、実施の形態19及び21と同様である。
【0103】
(実施の形態25)
図25に、本発明の実施の形態25の構成を示す。該磁気抵抗効果素子は、上部電極層(E2)/キャップ層(C1)/第2の参照層(B2)/第2の非磁性層(12)/第1の記録層(A1)/第1の非磁性層(11)/第1の参照層(B1)/下地層(S1)/下部電極層(E1)が順に隣接して配置された構成を含む。
実施の形態25の詳細は、以下を特徴とする他、実施の形態12、16及び21と同様である。
【0104】
第1の参照層(B1)及び第2の参照層(B2)は、実施の形態1~11に例示される構成を有し、第1の参照層(B1)及び第2の参照層(B2)の構成、膜厚、組成が同じであっても異なっていてもよい。第1の記録層(A1)において、第1の参照層(B1)からの漏れ磁界と第2の参照層(B2)からの漏れ磁界をキャンセルするような構成が好ましく、また、参照層の総膜厚を減らして交換結合磁界を大きくするような構成であることが望ましい。かかる観点から、第1の参照層(B1)の構成と第2の参照層(B2)の構成を第1の記録層(A1)を挟んで上下対称とすることがより好ましい。
【0105】
(実施の形態26)
図26に、実施の形態26として、磁性層の膜厚を変えた場合のフルスタックでの層構成及び磁化曲線を示した。また、図27Aに(a)~(d)のトンネル磁気抵抗比(TMR比)及び抵抗面積積(RA)を、図27B及び表3に(a)~(d)の交換結合磁界Hex1を示した。
(a)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / W(0.3) / CoFeB(1)であり、(b)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1)であり、(c)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / W(0.3) / CoFeB(1)であり、(d)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / W(0.3) / CoFeB(1)であり、試料(a)~(d)いずれもCoFeB層が、記録層に隣接した非磁性層に隣接する。ここで、試料(a)の磁性層4つの磁化の大きさ(Ma1、Ma2、Ma3、Ma4)は全て同じであり(Ma1=Ma2=Ma3=Ma4)、試料(d)の磁性層4つの磁化の大きさ(Md1、Md2、Md3、Md4)も全て同じであるが(Md1=Md2=Md3=Md4)、試料(a)の磁化のほうが試料(d)の磁化より大きい(Ma1>Md1)。
【0106】
【表3】
【0107】
フルスタックであっても、試料(a)~(d)いずれも、図27Bに点線で示した従来例の4400Oeより、交換結合磁界Hex1が大きくなることが分かった。特に磁性層の磁化がM2>M1、磁性層の膜厚がt2>t1の場合は、交換結合磁界Hex1が大きく、図27Bに点線で示した従来例の4400Oeから9000Oeに増加させることが分かった。また、磁性層4つの磁化の大きさが全て同じであっても、1層あたりの磁化の大きさが小さいほうが、交換結合磁界Hex1が大きく、図27Bに点線で示した従来例の4400Oeから9000Oeに増加させることが分かった。
よって、フルスタックの場合でも、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージンを広く取ることが可能となることを示している。
さらに、抵抗面積積(RA)が5Ω・μm2において、トンネル磁気抵抗比(TMR比)も図27Aに点線で示した従来例の値と同様に約150%を確保できることが確認された。
【0108】
(実施の形態27)
図28に、実施の形態27として、非磁性挿入層及び磁性層の膜厚を変えた場合の、フルスタックでの層構成及び磁化曲線を示した。また、図29Aに、(a)~(c)のトンネル磁気抵抗比(TMR比)及び抵抗面積積(RA)を、図29B及び表4に(a)~(c)の交換結合磁界Hex1を示した。
(a)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ir(0.5) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]1.5 / Ir(0.5) / Co(0.5) / W(0.3) / CoFeB(1)であり、(b)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ir(0.5) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ir(0.5) / Co(0.5) / W(0.3) / CoFeB(1)であり、(c)の参照層の構成は、[Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ir(0.5) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]2.5 / Ru(0.9) / [Co(0.5)/Pt(0.3)]3.5 / Ir(0.5) / Co(0.5) / W(0.3) / CoFeB(1)であり、試料(a)~(c)いずれもCoFeB層が、記録層に隣接した非磁性層に隣接する。
【0109】
【表4】
【0110】
フルスタックであっても、外側の非磁性挿入層、すなわち、第1の非磁性挿入層(31)及び第3の非磁性挿入層(33)をRu(0.9nm)からIr(0.5nm)にした場合、層間結合エネルギーは、J12=J34>J23の関係となり、交換結合磁界Hex1は、図29Bに点線で示した従来例4400Oeの約1.5倍となった。また、磁性層の磁化がM2>M1、磁性層の膜厚がt2>t1の場合も、交換結合磁界Hex1を増加させることが分かった。
よって、フルスタックの場合でも、記録層の書き込み電流Icと参照層の磁化が反転する電流のマージンを広く取ることが可能となることを示している。
さらに、抵抗面積積(RA)が6.5Ω・μm2程度において、トンネル磁気抵抗比(TMR比)も従来例の値と同様に約150%を確保できることが確認された。
【0111】
(実施の形態28)
図2に例示される構成を有する磁気抵抗効果素子において、参照層中の4つの磁性層につき、「第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積、及び、第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積」の和が、「第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積、及び、第4の磁性層(24)の磁化M4と膜厚t4の積の和」以下であるように、磁性層の磁化及び膜厚を制御すると、より高い効果が得られる。
【0112】
(実施の形態29)
図6に例示される構成を有する磁気抵抗効果素子において、参照層中の3つの磁性層につき、「第2の磁性層(22)の磁化M2と膜厚t2の積」は、「第1の磁性層(21)の磁化M1と膜厚t1の積及び第3の磁性層(23)の磁化M3と膜厚t3の積」の和より大きくなるように、磁性層の磁化及び膜厚を制御すると、より高い効果が得られる。
【0113】
(実施の形態30)
図30に、実施の形態30として、実施の形態1~15の構成を有する磁気メモリセルを複数個備える磁気メモリの一例を示す。
磁気メモリは、メモリセルアレイ、Xドライバ、Yドライバ、コントローラを備える。メモリセルアレイは、アレイ状に配置された磁気メモリセルを有する。Xドライバは複数のワード線(WL)に接続され、Yドライバは複数のビット線(BL)に接続され、読み出し手段及び書き出し手段として機能する。
【0114】
なお、各実施の形態において示した層構成は順に隣接して配置していればよく、積層方法、積層順序、上下左右の向き等限定されない。
【符号の説明】
【0115】
11 第1の非磁性層
12 第2の非磁性層
21 第1の磁性層
211 界面磁性層
212 Co磁性層
41 非磁性結合層
22 第2の磁性層
23 第3の磁性層
24 第4の磁性層
2n (n番目の)磁性層
31 第1の非磁性挿入層
32 第2の非磁性挿入層
33 第3の非磁性挿入層
3n (n番目の)非磁性挿入層
A1 第1の記録層
B1 第1の参照層
B2 第2の参照層
C1 キャップ層
E1 下部電極層
E2 上部電極層
S1 下地層
J12、J23、、、(磁性層の間の)反強磁性結合力
J12 第1の磁性層と第2の磁性層間の反強磁性結合力
J23 第2の磁性層と第3の磁性層間の反強磁性結合力
Jn(n+1) 第n番目の磁性層と第(n+1)番目の磁性層間の反強磁性結合力
BL1 第1のビット線
BL2 第2のビット線
GND グラウンド線
T1 第1端子
T2 第2端子
T3 第3端子
Tr1 第1トランジスタ
Tr2 第2トランジスタ
WL ワード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図28
図29A
図29B
図30
図31
図32
図33
図34A
図34B
図35A
図35B
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42