(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】金属張積層板および金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20231208BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20231208BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H05K1/03 610M
B32B15/09 Z
H05K3/46 T
H05K1/03 670A
(21)【出願番号】P 2019114889
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-06-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.日刊工業新聞 令和1年5月15日付朝刊,第10面 2.化学工業日報 令和1年6月6日付朝刊,第3面 3.掲載日 平成31年4月25日 掲載ウェブサイトアドレス:https://bunken.org/jlcs/paper/Paper
(73)【特許権者】
【識別番号】591015784
【氏名又は名称】共同技研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜野 尚
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 達雄
(72)【発明者】
【氏名】大曲 翔太
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-338393(JP,A)
【文献】特開2011-124550(JP,A)
【文献】特開2014-080561(JP,A)
【文献】特開2008-188893(JP,A)
【文献】特開2006-008976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
B32B 15/09
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の絶縁フィルムと導電性の金属箔との積層構造を有し,フレキシブルプリント配線基板として使用される金属張積層板において,
前記絶縁フィルムの少なくとも前記金属箔に対する積層面が,前記金属箔の少なくとも一方の表面に定着した焼付塗膜である液晶ポリエステル層によって形成されてい
て,
前記焼付塗膜である液晶ポリエステル層は,液晶ポリエステルの前駆体層が積層された前記金属箔が,張力が解放された状態で,かつ,焼成炉内を上下に蛇行して振動を加えられた状態で通過しつつ熱処理されることによって形成されることを特徴とする金属張積層板。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル層が無配向である請求項1記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記絶縁フィルムが,フィラーが添加されていない前記液晶ポリエステル層と,絶縁性無機フィラーが添加された合成樹脂から成るフィラー添加層の積層構造を有し,
前記液晶ポリエステル層上に前記フィラー添加層が積層された構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載の金属張積層板。
【請求項4】
前記絶縁フィルムが,前記フィラー添加層上に,更にフィラーが添加されていない液晶ポリエステルから成るフィラー無添加層を有することを特徴とする請求項3記載の金属張積層板。
【請求項5】
前記フィラー添加層の前記合成樹脂が,液晶ポリエステル又はポリイミドである請求項3又は4記載の金属張積層板。
【請求項6】
前記金属箔の線膨張係数と前記絶縁フィルムの線膨張係数の差が,前記金属箔の線膨張係数の25%以下であることを特徴とする請求項3~5いずれか1項記載の金属張積層板。
【請求項7】
前記金属箔が,銅又は銅合金製であることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の金属張積層板。
【請求項8】
前記金属箔の厚みが3~50μmであることを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載の金属張積層板。
【請求項9】
前記絶縁フィルムの厚みが3~100μmであることを特徴とする請求項1~8いずれか1項記載の金属張積層板。
【請求項10】
前記金属箔と前記絶縁フィルムの剥離値が10~45N/10mm,又は金属箔及び/又は絶縁フィルムの破断強度以上である,請求項1~9いずれか1項記載の金属張積層板。
【請求項11】
合成樹脂製の絶縁フィルムと導電性の金属箔との積層構造を有する金属張積層板において,
前記絶縁フィルムの少なくとも前記金属箔との積層面が,液晶ポリエステル層によって形成されており,
前記絶縁フィルムの製造工程が,
前記金属箔上に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物を流延する流延工程と,
前記流延工程で流延された液状組成物を乾燥させて,前記液晶ポリエステルの前駆体層を形成する乾燥工程と,
前記前駆体層が形成された前記金属箔を
,張力が解放された状態で,かつ,焼成炉内にて上下に蛇行させて振動を加えられた状態で通過させつつ加熱して,前記前駆体層から前記液晶ポリエステル層を生成すると共に前記金属箔の少なくとも一方の表面に定着させる熱処理工程を含むことを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【請求項12】
前記流延工程を,フィラーを含まない前記液状組成物を使用して行い,
前記乾燥工程後,前記熱処理工程前に,更に,前記乾燥工程で形成された前記前駆体層上に,絶縁性無機フィラーを含み,かつ,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物を流延すると共に乾燥させて第2前駆体層を形成する第2前駆体層形成工程を設け,
前記熱処理工程を,前記前駆体層と,前記第2前駆体層とが形成された前記金属箔に対して行うことで,
前記前駆体層から生成された,フィラーを含まない前記液晶ポリエステル層と,前記第2前駆体層から生成されたフィラー添加層を備えた積層構造を有する前記絶縁フィルムを形成したことを特徴とする請求項11記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項13】
前記第2前駆体層形成工程の後,前記熱処理工程前に,更に,
前記第2前駆体層上に,フィラーを含まない,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第3液状組成物を流延すると共に乾燥させて第3前駆体層を形成する,第3前駆体層形成工程を設け,
前記熱処理工程を,前記第3前駆体層が形成された前記金属箔に対して行うことで,前記絶縁フィルムに,前記第3前駆体層より生成されたフィラー無添加層を設けることを特徴とする請求項12記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項14】
前記流延工程を,フィラーを含まない前記液状組成物を使用して行い,
該流延工程において,前記金属箔に流延された前記液状組成物上に,更に絶縁性無機フィラーを含み,かつ,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物を流延することで,前記乾燥工程において,前記液状組成物が乾燥して成る前記前駆体層と,前記第2液状組成物が乾燥して成る第2前駆体層を形成し,
前記熱処理工程を,前記前駆体層と,前記第2前駆体層とが形成された前記金属箔に対し行うことで,
前記前駆体層から生成されたフィラーを含まない前記液晶ポリエステル層と,前記第2前駆体層から生成されたフィラー添加層の積層構造を有する前記絶縁フィルムを形成したことを特徴とする請求項11記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項15】
前記流延工程において,前記金属箔上に流延された前記第2液状組成物の上に,更に,フィラーを含まない,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第3液状組成物を流延することで,前記乾燥工程において,前記第3液状組成物が乾燥して成る第3前駆体層を形成し,
前記熱処理工程を,前記第3前駆体層が形成された前記金属箔に対して行うことで,前記絶縁フィルムに,前記第3前駆体層より生成されたフィラー無添加層を設けることを特徴とする請求項14記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項16】
前記第2液状組成物に含まれる前記合成樹脂の前駆体が,液晶ポリエステルの前駆体,又は,ポリイミドの前駆体である請求項12~15いずれか1項記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理工程を,不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項11~
16いずれか1項記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理工程を,一方から張力を加えつつ焼成炉内の複数のガイドロール間を順次上下に屈曲させつつ搬送する方法と併
用で行うことを特徴とする請求項11~16いずれか1項記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,金属張積層板および金属張積層板の製造方法に関し,より詳細には,液晶ポリエステル(Liquid Cristal Polyester:LCP)を使用した絶縁フィルムと金属箔との積層構造を有し,フレキシブルプリント配線板(Flexible Print Circuit:以下「FPC」と略称する。)に使用する金属張積層板,及び該金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年に第5世代移動通信システム「5G(5th Generation)」の実用化と共に,IoTや無人化自動車運転時代の到来が迫る中,これらの新規技術に対応するために無線通信機器や,その周辺機器に使用される基板の材料にも変革が求められている。
【0003】
特に,前記5G,自動車のADAS(先進運転支援システム),自動運転向けミリ波レーダーや人工衛星の太陽電池パネル等の未来のネットワークシステム等の新規技術では,大容量化や,低消費電力,及び,電池寿命の延長等が求められており,これらを,基板の改良によって低コストで実現することが要望されている。
【0004】
このような要望により,FPC市場も高機能化の流れが加速しており,実装部品の増加や多層化による三次元配線等に対応し得る高付加価値のFPCが要望され,電装化の進展が著しい自動車用のFPCも含めてより一層の高機能化が求められている。
【0005】
前述のFPCは,絶縁性を持ったベースフィルム(以下,「絶縁フィルム」という。)と導電性を有する金属箔とを貼り合わせて成る金属張積層板の前記金属箔を,エッチング等により所定のパターンに加工して電気回路(導体パターン)を形成したもので,薄く,軽く,自在に曲げることができることから,各種の電気,電子機器の電気配線基板として広く使用されている。
【0006】
このようなFPC用の金属張積層板の金属箔の材質としては,通常,銅が用いられ,このような銅箔を積層したものは銅張積層板(Copper Clad Laminate:「CCL」)と略称されている。
【0007】
一方,FPC用の金属張積層板の絶縁フィルムの材質としては,デバイス実装時のソルダリング(半田付け)の際の熱に耐え得る耐熱性を有すると共に,機械的特性や電気的特性(絶縁性等)が良好なポリイミド(PI)樹脂が主に採用されてきた(例えば,特許文献1)。
【0008】
しかしながら,昨今のエレクトロニクス機器,特に,無線通信機器用のFPCでは,前述の絶縁フィルムの材質として,既知のポリイミド(PI)から,液晶ポリエステル(LCP)等の低吸湿の絶縁新材料に移行している。
【0009】
このような絶縁フィルムの材質の移行の背景には,前述した先端技術向けの通信機器や周辺機器が高周波帯域の信号を取り扱うものであることを挙げることができ,一例として,前述の5G通信で使用する周波数帯域は,セルラー向け周波数帯域(低くても3GHz帯,高ければ28GHz帯)であり,また,衝突回避等の際の物体検出にはミリ波レーダー(例えば,自動運転等で使用されるミリ波レーダーで76GHz帯)が使用される。
【0010】
これに対し,従来のFPCの絶縁フィルムの材質として使用されているポリイミドは,吸湿率が1~2%と高く,高周波信号を扱う場合,吸湿による伝送損失や挿入損失が非常に大きく,その結果,ノイズや発熱の増加,電池寿命の低下が生じ,高積層,高密度化に対応し得ない。
【0011】
また,ポリイミドが吸湿することで,導体パターンの腐食が発生し易く,特に,高機能化に向けて導体パターンの更なる微細化が要求されるファインピッチFPCではより腐食が生じ易く,また,僅かな腐食でも断線やノイズの発生原因となることから,吸湿性の低い絶縁フィルムの使用が望ましい。
【0012】
これに対し,先に示した液晶ポリエステル(LCP)は,吸湿率が0.2%と低く,吸湿に伴う電気信号のロスを小さくすることができると共に(低伝送損失),低吸湿率であることは,導体パターンの腐食や,この腐食に伴う通電不良等も発生し難くすることができる。
【0013】
また,前述の伝送損失は,周波数のほか,比誘電率εrと,誘電正接tanδにも比例するところ,ポリイミドに比べて液晶ポリエステルは比誘電率εrと誘電正接tanδの値が共に低く,この点でも,液晶ポリエステル製の絶縁フィルムを備えるFPCの伝送損失は小さくなる。
【0014】
一例として,20GHzの信号を10cm伝送させた場合の伝送損失は,ポリイミド製の絶縁フィルムを備えたFPCが約-8dBであるのに対し,液晶ポリエステル製の絶縁フィルムを備えたFPCでは約-6dBと小さくなる。
【0015】
この伝送損失2dBの差は,エネルギー換算で約1.58倍の差となり,FPCの絶縁フィルムを,ポリイミド製のものから液晶ポリエステル製のものに変更するだけで,FPCの発熱を抑えることができると共に,電池寿命を理論上,1.58倍伸ばすことができる。
【0016】
なお,FPC用の絶縁フィルムとしては,前述のポリイミドや液晶ポリエステルの他に,例えばオレフィン系などのガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を使用したものもあり,この例では,該樹脂はポリマー化されており扱いやすく熱流動性の自由度を有するが,接着と投錨力の弱さから後述する銅箔の黒化処理(酸化,粗化処理)によって接着力を補強する構成の採用が不可避であり,加えて,FPCに要求されるソルダリングのための耐熱性(一例として270℃で30秒)が得られない。
【0017】
また,絶縁フィルムの材質としてフッ素系の樹脂を採用したFPCでは,低吸湿で,実装時のソルダリングの際の加熱に耐え得るFPCが得られるが,フッ素系の樹脂は無極性であるため接着力が弱く,金属箔との間で剥離が生じ易く,また,接着力の弱さは多層化による三次元配線化への対応を困難なものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上で説明したように,液晶ポリエステル製の絶縁フィルムを備えたFPCは,ポリイミド製の絶縁フィルムを備えたFPCに比較して高機能かつ,高性能である。
【0020】
しかし,金属張積層板の絶縁フィルムの材質として,液晶ポリエステルを採用した場合においても,液晶ポリエステルが有する特性,及び,液晶ポリエステルを含む合成樹脂一般が有する特性等から,金属張積層板の絶縁フィルムの材質を液晶ポリエステルに変更した場合であっても,以下のような各種の問題が発生し得る。
【0021】
〔液晶ポリエステルの異方性に基づく課題〕
液晶ポリエステルのフィルムへの成膜は,通常,融点温度以上に加熱した状態でTダイ法により押出してフィルム状に成形するか,又はインフレーション法によりフィルム状に成形することにより行われる。
【0022】
この場合,液晶ポリエステルが溶融状態(液体の状態)で結晶性を有する『液晶』という特性を有すること,ガラス転移Tg状態(アモルファス)から瞬時に配向する性質を有することから,上記の方法でフィルムを成膜すると,溶融樹脂の流動方向(MD:Machine Direction)に分子配向が生じて異方性を持ったフィルムとなることで,MDに対し直交方向を成すTD(Transverse Direction)方向に弱いフィルムとなり,このような絶縁フィルムを備えた金属張積層板は,TD方向に引っ張るとMD方向に裂け易い。
【0023】
特に,金属箔をエッチングして,MD方向を長手方向とする導体パターンが形成されると,導体パターン間の絶縁フィルムは導体パターンに沿って,容易に裂けてしまう。
【0024】
また,絶縁フィルムが有する異方性は,このような絶縁フィルムが積層された金属張積層板に,反りや歪みを生じさせる原因となる。
【0025】
そのため,金属張積層板の絶縁フィルムを液晶ポリエステルによって形成する場合,MD,TD方向のいずれ,好ましくは更にZ(厚み)方向のいずれの方向にも配向性を持たないものであることが望ましい。
【0026】
〔絶縁フィルムと金属箔の線膨張係数の違いに基づく課題〕
また,液晶ポリエステルに限らず,合成樹脂製の絶縁フィルムの線膨張係数は,一般に金属箔の線膨張係数に比較して高く,その結果,金属箔と絶縁フィルムを単純に積層しただけの金属張積層板では,反りや歪みが生じる。
【0027】
〔反り・歪み対策としてのフィラー添加の課題〕
このような反りや歪みの発生を防止するために,絶縁フィルムの線膨張係数を,金属箔の線膨張係数,例えば銅箔の線膨張係数である17~19ppmに近付けることが考えられ,このような線膨張係数の調整を目的として,絶縁フィルムに絶縁性無機フィラーを添加することも考えられる。
【0028】
しかし,無機フィラーは吸水するため,無機フィラーの添加は,絶縁フィルムの吸水性(吸湿性)を高めることとなる。
【0029】
そのため,液晶ポリエステルに無機フィラーを添加した場合,液晶ポリエステルが有する低吸湿性という特性がもたらす,先に挙げた種々のメリットが失われてしまう。
【0030】
しかも,ポリイミドや液晶ポリエステル等の合成樹脂製の絶縁フィルムは,ただでさえ銅箔等の金属箔との接着力に劣るが,これに更に無機フィラーを添加すると,金属箔に対する絶縁フィルムの接着性はより一層,低下してしまい(指で摘まんで金属箔と絶縁フィルムを層間で簡単に剥がせる程度の接着力),曲げ延ばしを繰り返す用途に使用すると,すぐに層間剥離が生じる。
【0031】
また,導電パターンを形成するために金属箔を部分的にエッチングして,金属箔で覆われていた部分の絶縁フィルムが表面に露出すると,露出した部分の絶縁フィルムに添加されているフィラーが脱落し,FPCの表面に汚れや不純物として付着する場合があり,必要に応じて,これを除去するための洗浄等の作業が別途必要となる場合がある。
【0032】
〔接着力向上対策(プライマー処理)の問題点〕
前述した絶縁フィルムと金属箔間の接着力不足,特にフィラーを添加した絶縁フィルムと金属箔間の接着力不足に伴う層間剥離の発生を防止するために,両者間の接着力を高める処理工程を追加することも考えられる。
【0033】
ここで,金属箔と絶縁フィルム間で接着力が発揮されるメカニズムとしては,化学的接着力と物理的接着力とがあり,両接着力の総合力で,接着力の強さが決定されることから,化学的接着力と物理的接着力のいずれか一方,又は双方を改善することができれば,金属箔と絶縁フィルム間の接着力の改善が期待できる。
【0034】
このうち,化学的接着力を改善する方法としては,絶縁フィルムとなる樹脂やその前駆体を積層する前に,金属箔の表面にシランカップリング剤層を形成することで,本来,結合し難い金属箔と絶縁フィルム間に強固な結合を生じさせる方法(プライマー処理)の採用が考えられる。
【0035】
しかし,例えば,前記ポリイミド(PI)の前駆体であるアミック酸の反応機構には,イミド化収縮と脱水反応の反応硬化機構があるために,ポリイミド(PI)が生成された後の被着体界面における最終の固定場では,収縮により結合,又は投錨にズレが生じて結合に破綻が生じている部分があるものと推察され,その結果,界面域において,分子鎖域での絡み(投錨)が充分に得られないものと考えられ,脱水縮合反応を硬化機構に含む液晶ポリエステルを使用した場合でも,同様の理由により強固な接着が得られないことになる。
【0036】
また,このような絶縁フィルムと金属箔との剥離値が望むほどに向上しない要因としては,上述の縮合脱水反応による界面結合破綻の他に,吸湿によって絶縁フィルムと金属箔の界面で加水分解が生じることも原因であると考えられ,無機フィラーの添加によって吸湿性が高まることでこのような界面結合破綻はより一層助長されるものと考えられる。
【0037】
その結果,無機フィラーを充填していない絶縁フィルムの場合であっても,一例としてプライマー処理を行った場合のポリイミド(PI)製の絶縁フィルムと銅箔間の剥離値は10~15N/10mm(PIの厚み:25μm,銅箔の厚み:12μm)程度であり,絶縁フィルムと金属箔間の接着力を飛躍的に向上させるものではない。
【0038】
〔接着力向上対策(黒化処理)の問題点〕
次に,物理的接着力を改善する方法としては,絶縁フィルムを形成する前に,黒化処理によって金属箔(一例として銅箔)の表面に凹凸を形成して,その表面積を増大させておくことが考えられる(例えば,前掲の特許文献1の[0058]欄参照)。
【0039】
しかし,フィラーを添加していない絶縁フィルムの場合ですら,塗膜前に銅箔表面に前記黒化処理を施しても,一例としてポリイミド製の絶縁フィルムにおいて剥離値は7~8N/10mm幅値(PI厚み25μm:銅箔厚み12μm)であり,プライマー処理を行った場合に比較して大幅に低い値となる。
【0040】
また,この黒化処理は,通常,銅箔表面の粗さを,Rzで1.0~6.5μm凹凸となるように,硫酸液によって酸化,粗化する処理であることから,環境負荷が大きく,また,処理後の廃液処理にコストがかかる。
【0041】
また,形成された黒化処理面は脆く,脱落しやすく,積層コーターマシン等に設けられたガイドロールとの接触面に付着して汚れが成長し,製品である銅張積層板に転写されるおそれがあるため,コーターマシンに付着した黒色異物を除去するために,定期的な清掃が必要となる等,製造工程における負担が増加する。
【0042】
さらに,銅箔の黒化処理により銅箔の表面に半導体に近い性質を有する酸化銅被膜が形成されることで,この部分の誘電率が高くなり,得られた銅張積層板やFPCの電気的性能を低下させる場合がある。
【0043】
また,FPCに対する通電時,導体パターン間の絶縁フィルムに吸湿や水分付着等が生じた状態で,隣接する導体パターン間に電位差が生じると,一方の導体パターンから他方の導体パターンに銅イオンが移動して析出する,マイグレーションと呼ばれる現象が起こり,このマイグレーションの進行により,析出した銅の結晶が成長することで,ノイズや短絡等が発生原因になる。
【0044】
このような銅結晶の成長は,導体パターンのピッチが狭い程生じ易く,また,電気力線は尖った形状の先端部分に集中するため,導体パターンに凹凸があると,この部分を起点として銅の結晶が生じ易くなる。
【0045】
黒化処理によって金属箔の表面に凹凸を形成すると,この銅箔をエッチングして形成された導体パターンにも凹凸が形成されるため,この凹凸の凸部が銅結晶の析出の起点となることで,ノイズや短絡の発生因子となり得る。
【0046】
そのため,特に,導体パターンをL/S=15μm/15μm(Lは導体の幅,Sは導体間の空間の幅)から更に極小化したようなファインピッチのFPCを製造する場合,銅結晶の析出,従って,ノイズや短絡の発生を助長する因子となる黒化処理等の銅箔表面に凹凸を形成する処理は,控えることが望ましく,黒化処理以外の方法での接着力の増強が要望される。
【0047】
さらに,銅箔に黒化処理(粗化処理)を施すと,微細導体パターン形成のためのエッチング時に,脆くなった黒化処理層のエッチング速度は他の部分に比較して速くなるため,
図7に示すようにサイドエッチング(アンダーカット)が発生し,形成される導体パターンは,断面視において絶縁フィルムとの接合面側の幅が狭まった形状となる(基板に対し直角に形成されない)ことから脆くなり,微細導体パターンの形成を困難とし,また,高周波対応におけるノイズの原因ともなり得る。
【0048】
なお,使用する銅箔の種類については電解銅箔や圧延銅箔等があり,前記電解銅箔や圧延銅箔は,共に前記ポリイミドフィルムとの接着向上を図るため,上述した通り,銅箔の製造工程において表面に凹凸を形成させる黒化処理(表面粗化処理)を施す必要がある。
【0049】
しかし,例えば,電解銅箔では銅箔ベースをロール状に巻き取った後に表面処理ラインにて黒化処理(粗化処理)を施すことから,該黒化処理により,もともと粗い電界銅箔のマット面(メッキ面)をさらに粗くすることで,表面積の増加に伴う接着力の向上は得られるかもしれないが,凹凸の形成に伴う前述の問題点は,更に,助長される。
【0050】
〔その他の課題〕
なお,FPC上に半導体チップを実装するCOF(Chip On Film)技術等に応えるべく,基板は,軽く,薄く,折りたたみ,曲げ,ねじれ性などの要求に答えてゆかなければならず,銅張積層板の銅箔側の厚みについて,近年の傾向は,前記圧延銅箔,前記電解銅箔いずれも35μmから12μm,更に6μmへと薄くなることでこれに対応しており,電解銅箔に準じた,メッキ法又はスパッタ法にて形成された厚み1~2μmの銅箔の利用が始まり,さらには,回路幅についても20μm以下のファインピッチ化が始まっている。
【0051】
従って,絶縁フィルム側においても,このような軽量,薄型化,折りたたみや曲げ,ねじれ等の要求に耐え得るよう,金属箔との接着性が良好であると共に,薄く,しかも,折りたたみや曲げ,ねじれなどの要求に応え得る特性を備えたものである必要がある。
【0052】
そこで本発明は,上記欠点を解消するために成されたものであり,金属箔と絶縁フィルムの積層構造を有する金属張積層板において,前記絶縁フィルムの材質として液晶ポリエステルを使用したものでありながら,MD,TD,Z方向のいずれの方向にも裂け難く,かつ,反りや歪みが生じ難く,更に前述したように種々の弊害を伴う黒化処理を行うことなしに絶縁フィルムと金属箔とが強固に接着し,層間剥離等が生じ難い金属張積層板,及び該金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【0053】
また,本発明の別の目的は,前述した目的に加え,更に,絶縁フィルムに対する無機フィラーの添加によって,該絶縁フィルムの線膨張係数を金属箔の線膨張係数に近付けて,金属張積層板に反りや歪みが生じ難い構成としたものでありながら,フィラーの添加により生じ得る吸湿や該吸湿に伴う性能の低下等の弊害を生じさせることなく,また,前述した種々の弊害がある黒化処理を行うことなしに,無機フィラーを添加した絶縁フィルムと金属箔との間で高い接着力を発揮させることで,折り曲げやねじれ等が生じる用途で使用した場合であっても,層間剥離等の問題が発生しない金属張積層板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0054】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0055】
上記目的を達成するために,本発明の金属張積層板1は,
合成樹脂製の絶縁フィルム20と導電性の金属箔10との積層構造を有し,フレキシブルプリント配線基板として使用される金属張積層板1において,
前記絶縁フィルム20の少なくとも前記金属箔10に対する積層面20aが,前記金属箔10の少なくとも一方の表面に定着した焼付塗膜である液晶ポリエステル層21によって形成されてい
て,
前記焼付塗膜である液晶ポリエステル層は,液晶ポリエステルの前駆体層が積層された前記金属箔が,張力が解放された状態で,かつ,焼成炉内を上下に蛇行して振動を加えられた状態で通過しつつ熱処理されることによって形成されることを特徴とする(請求項1:
図1~3参照)。
【0056】
前記液晶ポリエステル層21は,無配向である(請求項2)。
【0057】
前記絶縁フィルム20は,フィラーが添加されていない前記液晶ポリエステル層21と,絶縁性無機フィラーが添加された合成樹脂から成るフィラー添加層22の積層構造を有し,
前記液晶ポリエステル層21上に前記フィラー添加層22が積層された構造とすることができる(請求項3:
図2,3参照)。
【0058】
上記構成において,前記絶縁フィルム20は,前記フィラー添加層22上に,更にフィラーが添加されていない液晶ポリエステルから成るフィラー無添加層23を有するものとしても良い(請求項4:
図3参照)。
【0059】
また,前記フィラー添加層22を構成する前記合成樹脂は,液晶ポリエステル又はポリイミドとすることができる(請求項5)。
【0060】
更に,前記金属箔10の線膨張係数と,前記フィラー添加層22を備えた前記絶縁フィルム20の線膨張係数の差を,前記金属箔10の線膨張係数の25%以下とすることが好ましい(請求項6)。
【0061】
更に,前記金属箔10は,銅又は銅合金製とすることができる(請求項7)。
【0062】
前記金属箔10の厚みは,3~50μmであり,ロール状に巻かれた金属箔10の好適な繰り出し性から,好ましくは6μm以上である(請求項8)。
【0063】
また,前記絶縁フィルム20の厚みは,3~100μmであり,好ましくは絶縁性と生産性から10~70μmである(請求項9)。
【0064】
更に,前記金属箔10と前記絶縁フィルム20の剥離値は,ポリイミドに対する黒化処理後の剥離力7~8N/10mmよりも高く,かつ,プライマー処理の剥離力10~15N/10mmと同等以上の10~45N/10mm,であるか,又は金属箔10及び/又は絶縁フィルム20の破断強度以上(剥離前に破断が生じてしまう接着力での付着)であることが好ましい(請求項10)。
【0065】
また,本発明の金属張積層板1の製造方法は,
合成樹脂製の絶縁フィルム20と導電性の金属箔10との積層構造を有する金属張積層板1において,
前記絶縁フィルム20の少なくとも前記金属箔10との積層面20aが,液晶ポリエステル層21によって形成されており,
前記絶縁フィルム20の製造工程が,
前記金属箔10上に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物41を流延する流延工程と,
前記流延工程で流延された液状組成物41を乾燥させて,前記液晶ポリエステルの前駆体層31を形成する乾燥工程と,
前記前駆体層31が形成された前記金属箔10を
,張力が解放された状態で,かつ,焼成炉内にて上下に蛇行させて振動を加えられた状態で通過させつつ加熱して,前記前駆体層31から前記液晶ポリエステル層21を生成すると共に前記金属箔10の少なくとも一方の表面に定着させる熱処理工程を含むことを特徴とする(請求項11:
図4参照)。
【0066】
なお,液晶ポリエステルの前駆体には,液晶ポリエステルのオリゴマー等の低分子量の液晶ポリエステルを含む。
【0067】
前記流延工程を,フィラーを含まない前記液状組成物41を使用して行い,
前記乾燥工程後,前記熱処理工程前に,更に,前記乾燥工程で形成された前記前駆体層31上に,絶縁性無機フィラーを含み,かつ,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物42を流延すると共に乾燥させて第2前駆体層32を形成する第2前駆体層形成工程を設け,
前記熱処理工程を,前記前駆体層31と,前記第2前駆体層32とが形成された前記金属箔10に対して行うことで,
前記前駆体層31から生成された,フィラーを含まない前記液晶ポリエステル層21と,前記第2前駆体層32から生成されたフィラー添加層22を備えた積層構造を有する前記絶縁フィルム20を形成するものとしても良い(請求項12:
図5参照)。
【0068】
前記第2前駆体層形成工程の後,前記熱処理工程前に,更に,
前記第2前駆体層32上に,フィラーを含まない,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第3液状組成物43を流延すると共に乾燥させて第3前駆体層33を形成する,第3前駆体層形成工程を設け,
前記熱処理工程を,前記第3前駆体層33が形成された前記金属箔10に対して行うことで,前記絶縁フィルム20に,前記第3前駆体層33より生成されたフィラー無添加層23を設けるものとしても良い(請求項13:
図5参照)。
【0069】
また,積層構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板の別の製造方法として,
前記流延工程を,フィラーを含まない前記液状組成物41を使用して行い,
該流延工程において,前記金属箔10に流延された前記液状組成物41上に,更に絶縁性無機フィラーを含み,かつ,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物42を流延することで,前記乾燥工程において,前記液状組成物41が乾燥して成る前記前駆体層31と,前記第2液状組成物42が乾燥して成る第2前駆体層32を形成し,
前記熱処理工程を,前記前駆体層31と,前記第2前駆体層32とが形成された前記金属箔10に対し行うことで,
前記前駆体層31から生成されたフィラーを含まない前記液晶ポリエステル層21と,前記第2前駆体層32から生成されたフィラー添加層22の積層構造を有する前記絶縁フィルム20を形成するものとしても良い(請求項14:
図6参照)。
【0070】
この場合,前記流延工程において,前記金属箔10上に流延された前記第2液状組成物42の上に,更に,フィラーを含まない,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第3液状組成物43を流延することで,前記乾燥工程において,前記第3液状組成物43が乾燥して成る第3前駆体層33を形成し,
前記熱処理工程を,前記第3前駆体層33が形成された前記金属箔10に対して行うことで,前記絶縁フィルム20に,前記第3前駆体層33より生成されたフィラー無添加層23を設けるものとしても良い(請求項15:
図6参照)。
【0071】
なお,前記第2液状組成物42に含まれる前記合成樹脂の前駆体は,液晶ポリエステルの前駆体,又は,ポリイミドの前駆体とすることができる(請求項16)。
【0072】
また,前記熱処理工程は
,一方から張力(長さ方向)を加えつつ焼成炉50内の複数のガイドロール52間を順次上下に屈曲(曲面接触=熱歪低減)させつつ搬送する方法の併
用での手段もある(請求項
18:
図4)。
【0073】
なお,前記熱処理工程は,不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい(請求項18)。
【発明の効果】
【0074】
以上で説明した本発明の構成により,本願の金属張積層板1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0075】
金属張積層板1の前記絶縁フィルム20の少なくとも前記金属箔10に対する積層面20aを,前記金属箔10の表面に焼付塗層として形成された液晶ポリエステル層21によって形成することで,金属箔10と接触する部分を,吸湿性が低く,電気的特性に優れ,接着性の高い液晶ポリエステルを採用することによるメリットを享受することができる一方,焼付塗層として形成された液晶ポリエステル層21は無配向であり,一般的な液晶ポリエステルフィルムが有する異方性を持たず,幅方向に対する引張力等の機械的な強度を向上させることができると共に,絶縁フィルム20が異方性を有することに伴って生じる金属張積層板1の反りや歪みの発生,絶縁フィルム20と金属箔10間での層間剥離の発生等を防止することができた。
【0076】
絶縁フィルム20を,絶縁性無機フィラーが添加された合成樹脂から成るフィラー添加層22と,フィラーが添加されていない前記液晶ポリエステル層21の積層構造としたことで,絶縁性無機フィラーの添加によって絶縁フィルム20の線膨張係数を,金属箔10の線膨張係数に近付けること,好ましくは,前記金属箔10の線膨張係数と前記絶縁フィルム20の線膨張係数の差を,前記金属箔10の線膨張係数の25%以下の範囲とすることで,金属張積層板1の反りや歪みをより一層低減することができた。
【0077】
しかも,金属箔10との積層面20a側に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層21を配したことで,フィラーの添加に伴う絶縁フィルム20と金属箔10間の接着力が低下することを防止できた。
【0078】
このように,本発明の金属張積層板1では,絶縁フィルム20に対するフィラーの添加によっても接着力の低下が生じないことから,黒化処理等によって金属箔10の表面に凹凸を形成する処理を行う必要がなく,その結果,黒化面の脱落による汚染,FPCとした際に導電パターンの表面に凹凸が形成されることで生じ得る結晶粒の成長や,これに伴うノイズや短絡の発生,サイドエッチング(アンダーカット)の発生等の,黒化処理が原因で引き起こされる各種の問題を回避することができた。
【0079】
しかも,絶縁フィルム20の全体にフィラーを添加した場合,タルク等の絶縁性無機フィラーは吸水性を有することから,フィラーが吸水することで,このような金属張積層板1より製造されたFPCでは,伝送損失や挿入損失の増大による電気的特性の低下や,金属箔(導電パターン)の腐食の発生等の各種の問題が生じ得るが,上記のように少なくとも金属箔10との積層面20aを,フィラーを含まない液晶ポリエステル層21によって形成したことで,フィラーの添加により線膨張係数の調整を行うものでありながら,電気的特性や腐食の防止等の各種の効果を享受することができた。
【0080】
更に,金属箔10との積層面20aにフィラーが含まれていると,導体パターンを形成するためのエッチング等によって金属箔10の一部を除去することで露出した絶縁フィルム20の表面からフィラーが脱落してFPCの表面を汚染する場合があるが,金属箔10との積層面20aを液晶ポリエステル層21で形成した本発明の金属張積層板1では,このようなエッチングによるフィラーの脱落が生じることもなく,従って,フィラーの脱落に伴うFPCの汚染や,これに伴う洗浄工程の付加等を必要としない。
【0081】
なお,フィラー添加層22の表面は,フィラーの添加によってざらついた,艶のない表面となるが,フィラー添加層22の表面に更に第2のフィラー無添加層23を設けた構成では,絶縁フィルム20の表面を,平滑で光沢のある美しい表面に仕上げることができた。
【0082】
また,第2のフィラー無添加層23を設けた構成では,絶縁フィルム20は,金属箔10とは反対側の表面における接着性も向上するため,第2のフィラー無添加層23上に,更に別のFPCを積層する等して多層化することで,FPCの三次元配線化等にも対応することが可能となる。
【0083】
しかも,フィラー添加層22の両面がフィラーを含まない液晶ポリエステルによって覆われることで,フィラー添加層22からのフィラーの脱落やこれに伴う汚染の発生をより確実に防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】本発明の金属張積層板の断面模式図(単層の絶縁フィルム)。
【
図2】本発明の金属張積層板の断面模式図(二層の絶縁フィルム)。
【
図3】本発明の金属張積層板の断面模式図(三層の絶縁フィルム)。
【
図6】
図3の金属張積層板の別の製造方法の説明図。
【
図7】黒化処理に伴うサイドエッチング(アンダーカット)の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0085】
以下,添付図面を参照しながら,本発明の金属張積層板1及びその製造方法について説明する。
【0086】
〔金属張積層板の全体構成〕
本発明の金属張積層板1は,
図1~
図3に示すように,金属箔10と絶縁フィルム20の積層構造を有している。
【0087】
なお,図示の実施形態では,金属張積層板1を,絶縁フィルム20の片面にのみ金属箔10を設けた片面金属張積層板とした構成について示したが,この構成に代えて,図示は省略するが,絶縁フィルム20の両面に金属箔10を積層した両面金属張積層板として構成するものとしても良い。
【0088】
〔絶縁フィルム〕
(1)絶縁フィルムの全体構造
前述の金属張積層板1の一方の層を成す前述の絶縁フィルム20は,一例として3~100μm厚さを有する合成樹脂製のフィルムであり,この絶縁フィルム20は,
図1に示すように単層構造のものとして構成するものとしても良く,又は,
図2及び
図3に示すように多層構造のものとして構成するものとしても良い。
【0089】
本発明の金属張積層板1において,絶縁フィルム20は,少なくとも金属箔10との積層面20aを,該金属箔10の表面に定着させた焼付塗膜である液晶ポリエステル層21によって形成されており,
図1に示す単層構造の絶縁フィルム20では,絶縁フィルム20の全体を,この液晶ポリエステル層21によって形成している。
【0090】
一方,
図2及び
図3に示す多層構造の絶縁フィルム20を有する金属張積層板1では,少なくとも金属箔10との積層面20aを成す層を,前述した液晶ポリエステル層21によって形成する。
【0091】
図2及び
図3に示すように,多層構造の絶縁フィルム20を設ける構成では,絶縁フィルム20のうち,少なくとも金属箔10との積層面20aを形成する前述の液晶ポリエステル層21を,フィラーを含まない構造と成すと共に,この液晶ポリエステル層21上に,絶縁性無機フィラーを添加した合成樹脂の層である,フィラー添加層22を積層して多層構造の絶縁フィルム20を形成している。
【0092】
このようにフィラー添加層22を備えた絶縁フィルム20とすることで,絶縁フィルム20全体の線膨張係数を,金属箔10の線膨張係数に近付けて,線膨張係数の差から生じる金属張積層板1の反りや歪みの発生を防止することができる。
【0093】
(2)液晶ポリエステル層
前述の液晶ポリエステル層21は,後述する液晶ポリエステルによって構成されるもので,0.5g/m2・24h以下の透湿度を有する。
【0094】
図2及び
図3に示すように,絶縁フィルム20を多層構造とする場合,液晶ポリエステル層21にはフィラーを含めない構造と成すと共に,その厚みは,線膨張係数を低減する必要性から,後述するフィラー添加層22の厚みを超えないように形成し,好ましくは,フィラー添加層22の50%以下の厚み,より好ましくは,40%以下の厚みに形成する。
【0095】
一例として,多層構造の絶縁フィルム20における液晶ポリエステル層21の厚みは,0.3~20μmであるが,液晶ポリエステル層21の厚みを1μm以下にすると,金属箔10表面の凹凸のバラツキを吸収できなくなる可能性があり,その結果,誘電損失の増加が生じ得ることから,金属箔との結合性と誘電特性を維持する観点から,好ましい液晶ポリエステル層21の厚みは,2~15μmである。
【0096】
なお,
図3に示すように後述するフィラー添加層22の表面側にフィラーを含まない液晶ポリエステルから成るフィラー無添加層23を設ける場合,フィラー無添加層23の厚みも,前述した液晶ポリエステル層21の厚みと同様の範囲となるように形成する。
【0097】
液晶ポリエステル層21を構成する液晶ポリエステルは,溶融時に光学異方性を示し,450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を有するポリエステルである。
【0098】
この液晶ポリエステルとしては,以下の式(1)で示される構造単位(以下,「式(1)構造単位」という。),以下の式(2)で示される構造単位(以下,「式(2)構造単位」という。)および以下の式(3)で示される構造単位(以下,「式(3)構造単位」という。)を有し,全構造単位の合計含有量に対して,式(1)で示される構造単位の含有量が30~80モル%,式(2)で示される構造単位の含有量が35~10モル%,式(3)で示される構造単位の含有量が35~10モル%の液晶ポリエステルであることが好ましい。
(1)-O-Ar1 -CO-
(2)-CO-Ar2 -CO-
(3)-X-Ar3 -Y-
(式中,Ar1 は,フェニレン基またはナフチレン基を表し,Ar2 は,フェニレン基,ナフチレン基または下記式(4)で示される基を表し,Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で示される基を表し,XおよびYは,それぞれ独立に,OまたはNHを表す。なお,Ar1,Ar2およびAr3の芳香環に結合している水素原子は,ハロゲン原子,アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar11-Z-Ar12-
(式中,Ar11,Ar12は,それぞれ独立に,フェニレン基またはナフチレン基を表し,Zは,O,COまたはSO2 を表す。)
【0099】
式(1)構造単位は,芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり,この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては,例えば,p-ヒドロキシ安息香酸,m-ヒドロキシ安息香酸,6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸,3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸,4-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸などが挙げられる。
【0100】
式(2)構造単位は,芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり,この芳香族ジカルボン酸としては,例えば,テレフタル酸,イソフタル酸,2,6-ナフタレンジカルボン酸,1,5-ナフタレンジカルボン酸,ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸,ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸,ジフェニルケトン-4,4’-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0101】
式(3)構造単位は,芳香族ジオール,フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては,例えば,ハイドロキノン,レゾルシン,2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン,ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル,ビス-(4-ヒドロキシフェニル)ケトン,ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0102】
また,このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては,4-アミノフェノール(p-アミノフェノール),3-アミノフェノール(m-アミノフェノール)等が挙げられ,この芳香族ジアミンとしては,1,4-フェニレンジアミン,1,3-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0103】
本発明に用いる液晶ポリエステルは溶媒可溶性であり,かかる溶媒可溶性とは,温度50℃において,1質量%以上の濃度で溶媒(溶剤)に溶解することを意味する。この場合の溶媒とは,後述する液状組成物の調製に用いる好適な溶媒のいずれか1種であり,詳細は後述する。
【0104】
このような溶媒可溶性を有する液晶ポリエステルとしては,前記式(3)構造単位として,フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位および/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち,式(3)構造単位として,XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位(式(3’)で示される構造単位,以下,「式(3’)構造単位」という。)を含むと,後述する好適な溶媒(非プロトン性極性溶媒)に対する溶媒可溶性が優れる傾向がある点で好ましい。特に,実質的に全ての式(3)構造単位が式(3’)構造単位であることが好ましい。また,この式(3’)構造単位は液晶ポリエステルの溶媒可溶性を十分にすることに加え,液晶ポリエステルがより低吸水性となる点でも有利である。
(3’)-X-Ar3 -NH-
(式中,Ar3およびXは前記と同義である。)
【0105】
式(3)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,33~25モル%の範囲で含むことがより好ましく,こうすることにより,溶媒可溶性は一層良好になる。このように,式(3’)構造単位を式(3)構造単位として有する液晶ポリエステルは,溶媒に対する溶解性がより良好になり,低吸水性の液晶ポリエステルフィルムが得られるという利点もある。
【0106】
式(1)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,30~80モル%の範囲で含むと好ましく,35~50モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステルは,液晶性を十分維持しながらも,耐熱性がより優れる傾向にある。さらに,式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も併せて考慮すると,この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては,p-ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好適である。
【0107】
式(2)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,35~10モル%の範囲で含むと好ましく,33~25モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステルは,液晶性を十分維持しながらも,耐熱性がより優れる傾向にある。さらに,式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も併せて考慮すると,この芳香族ジカルボン酸としては,テレフタル酸,イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種であると好ましい。
【0108】
また,得られる液晶ポリエステルがより高度の液晶性を発現する点では,式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル分率は,[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して,0.9/1~1/0.9の範囲が好適である。
【0109】
次に,液晶ポリエステルの製造方法について説明する。
【0110】
この液晶ポリエステルは,種々公知の方法により製造可能である。好適な液晶ポリエステル,すなわち,式(1)構造単位,式(2)構造単位および式(3)構造単位からなる液晶ポリエステルを製造する場合,これら構造単位を誘導するモノマーをエステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後,重合させて液晶ポリエステルを製造する方法が,操作が簡便である点で好ましい。
【0111】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について,例を挙げて説明する。
【0112】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように,カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては,当該カルボキシル基が,ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように,酸塩化物,酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや,当該カルボキシル基が,エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0113】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のように,フェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては,エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように,フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0114】
また,芳香族ジアミンのように,アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては,例えば,アミド交換反応によりポリアミドを生成するように,アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0115】
これらの中でも液晶ポリエステルをより簡便に製造する上では,芳香族ヒドロキシカルボン酸と,芳香族ジオール,フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン,芳香族ジアミンといったフェノール性ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するモノマーとを脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後,このアシル化物のアシル基と,カルボキシル基を有するモノマーのカルボキシル基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ,液晶ポリエステルを製造する方法が特に好ましい。
【0116】
このような液晶ポリエステルの製造方法は,例えば,特開2002-220444号公報または特開2002-146003号公報に記載されている。
【0117】
アシル化においては,フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して,脂肪酸無水物の添加量が1~1.2倍当量であることが好ましく,1.05~1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1倍当量未満では,重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞しやすい傾向があり,また,1.2倍当量を超える場合には,得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0118】
アシル化は,130~180℃で5分~10時間反応させることが好ましく,140~160℃で10分~3時間反応させることがより好ましい。
【0119】
アシル化に使用される脂肪酸無水物は,価格と取扱性の観点から,無水酢酸,無水プロピオン酸,無水酪酸,無水イソ酪酸またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく,特に好ましくは,無水酢酸である。
【0120】
アシル化に続く重合は,130~400℃で0.1~50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく,150~350℃で0.3~5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0121】
また,重合においては,アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8~1.2倍当量であることが好ましい。
【0122】
アシル化および/または重合の際には,ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により,平衡を移動させるため,副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0123】
なお,アシル化や重合においては触媒の存在下に行ってもよい。この触媒としては,従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ,例えば,酢酸マグネシウム,酢酸第一錫,テトラブチルチタネート,酢酸鉛,酢酸ナトリウム,酢酸カリウム,三酸化アンチモン等の金属塩触媒,N,N-ジメチルアミノピリジン,N-メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
【0124】
これらの触媒の中でも,N,N-ジメチルアミノピリジン,N-メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002-146003号公報参照)。
【0125】
この触媒は,通常モノマーの投入時に一緒に投入され,アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく,この触媒を除去しない場合には,アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0126】
このような重合で得られた液晶ポリエステルは,そのまま本発明に用いることができるが,耐熱性や液晶性という特性の更なる向上のためには,より高分子量化させることが好ましく,かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた比較的低分子量の液晶ポリエステルを取り出し,粉砕してパウダー状またはフレーク状にする。続いて,この粉砕後の液晶ポリエステルを,例えば,窒素などの不活性ガスの雰囲気下,20~350℃で,1~30時間固相状態で熱処理するという操作により,固相重合は実施できる。この固相重合は,攪拌しながら行ってもよく,攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお,後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステルを得るという観点から,この固相重合の好適条件を詳述すると,反応温度として210℃を越えることが好ましく,より一層好ましくは220℃~350℃の範囲である。反応時間は1~10時間から選択されることが好ましい。
【0127】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては,その流動開始温度が250℃以上であると好ましい。この液晶ポリエステルの流動開始温度がこの範囲であると,この液晶ポリエステルを含む層上に導電層(電極)を形成した場合に,この液晶ポリエステルを含む層とこの導電層との間に,より高度の密着性が得られる傾向がある。ここでいう流動開始温度とは,フローテスターによる溶融粘度の評価において,9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお,この流動開始温度は,液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(例えば,小出直之編「液晶合成・成形・応用-」第95~105頁,シーエムシー,1987年6月5日発行を参照)。
【0128】
液晶ポリエステルの流動開始温度の上限は,この液晶ポリエステルが溶媒に可溶である範囲で決定されるが,350℃以下であることが好ましい。流動開始温度の上限がこの範囲であれば,液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性がより良好になることに加え,後述する液状組成物を得たとき,その粘度が著しく増加しないので,この液状組成物の取扱性が良好となる傾向がある。なお,液晶ポリエステルの流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには,前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
【0129】
(2)フィラー添加層
絶縁フィルム20を多層構造とした
図2及び
図3に示す構成では,絶縁フィルム20に,絶縁性の無機フィラーが添加された合成樹脂によって構成されるフィラー添加層22を設け,これにより絶縁フィルム20の線膨張係数を低下させることで,金属箔10の線膨張係数に近付ける。
【0130】
このフィラー添加層22を構成する合成樹脂としては,金属張積層板の絶縁フィルムの材質として既知の各種の合成樹脂を使用可能であるが,耐熱性の点からポリイミド又は液晶ポリエステルの使用が好ましく,吸湿性の低さから本実施形態では,前述した液晶ポリエステル層21と同様の液晶ポリエステルを使用した。
【0131】
フィラー添加層22に添加するフィラーは,絶縁フィルム20全体の線膨張係数を,金属箔10の線膨張係数に近付けるために添加するもので,シリカ,タルク,窒化シリカ,窒化アルミ等が使用可能である。
【0132】
絶縁性無機フィラーの配合比は,液晶ポリエステルの固形分100質量部に対し0.5~30質量部の範囲であり,仕上がりフィルムの靱性維持から好ましくは1~15質量部,より好ましくは低誘電率から0.5~7質量部である。
【0133】
使用する絶縁性無機フィラーの平均粒径は,0.001~15μmで,フィラー添加層22の厚みから0.05~3μm,より好ましくは0.05~1μmで,粒形は球状のものの他,針状,その他の形状であっても良く,不定形のものであっても良い。
【0134】
このような絶縁性無機フィラーは,得られた絶縁フィルムを低誘電率とするために,水分を含まないヒームドシリカ等の燃焼法で得られたものを使用することが好ましい。
【0135】
なお,上記以外の方法,例えば湿式粉砕法,常態粉砕法で製造された絶縁性無機物の紛体をフィラーとして使用することも可能であるが,この場合,低水分量のフィラーを得るために,紛体を100℃~400℃以上の温度で,30min~12hの加熱乾燥を施すことが望ましい。
【0136】
このように絶縁性無機フィラーを前述した添加量の範囲で調整して添加すると共に,液晶ポリエステル層21及びフィラー無添加層23とフィラー添加層22の厚みを調整することで,絶縁フィルム20全体の線膨張係数が金属箔10の線膨張係数に近付くように調整し,好ましくは,金属箔10の線膨張係数と,絶縁フィルム20の線膨張係数の差が,金属箔10の線膨張係数の25%以下の値となるよう調整する。
【0137】
一例として,金属箔10である銅箔の線膨張係数が19ppmである場合,その25%は4.75であり,この場合,絶縁フィルム20の線膨張係数が23.75ppm以下となるよう調整する。
【0138】
なお,
図2及び
図3に示した例では,フィラー添加層22を単相構造とした構成例について示したが,フィラー添加層22を更に多層構造として,各層毎に絶縁性無機フィラーの添加量を変更して,厚み方向に無機フィラーの添加量に勾配を持たせるものとしても良い。
【0139】
この場合,
図2に示す構成では液晶ポリエステル層21側,
図3に示す構成では液晶ポリエステル層21側及びフィラー無添加層23側に向かって,フィラーの添加量を減少させる傾斜構造とすることが好ましい。
【0140】
〔金属層〕
本発明の金属張積層板1の他方の層を成す金属箔10の原料としては,銅及び銅合金の他,アルミニウム,鉄,金,銀,及びこれらの合金等,導電性を有する各種の金属を使用することができる。
【0141】
金属箔の製造方法も特に限定されず,電解式(電気メッキ法)や圧延式等の既知の各種の方法で製造されたものを使用することができる。
【0142】
また,本発明の金属層8の厚みは,3~50μmが好ましく,銅箔を使用する場合,銅箔の製膜上の理由,及びロールからの繰り出し性から,厚みが6μm以上であることが好ましい。
【0143】
〔金属張積層板の製造方法〕
次に,本発明の金属積層板1の製造方法を,
図4~6を参照して説明する。
【0144】
(1)単層の絶縁フィルムを備えた金属張積層板の製造(
図4参照)
図1に示す単層構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1の製造は,
図4に示すように,「流延」,「乾燥」,及び「熱処理」の各工程を経て製造される。
【0145】
(1-1) 流延工程
流延工程は,前述した金属箔10上に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物41を流延する工程である。
【0146】
液晶ポリエステルの溶解に使用する溶媒としては,液晶ポリエステルを溶解できるものであれば特に限定されず,例えば,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチル-2-ピロリドン,N-メチルカプロラクタム,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジエチルホルムアミド,N,N-ジエチルアセトアミド,N-メチルプロピオンアミド,ジメチルスルホキシド,γ-ブチロラクトン,ジメチルイミダゾリジノン,テトラメチルホスホリックアミドおよびエチルセロソルブアセテート,並びにp-フルオロフェノール,p-クロロフェノール,ペルフルオロフェノールなどのハロゲン化フェノール類などが挙げられる。これらの溶媒は,単独で用いてもよく,2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0147】
かかる溶媒の中でも,取扱いの観点から,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチル-2-ピロリドン,N-メチルカプロラクタム,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジエチルホルムアミド,N,N-ジエチルアセトアミド,N-メチルプロピオンアミド,ジメチルスルホキシド,γ-ブチロラクトン,ジメチルイミダゾリジノン,テトラメチルホスホリックアミドおよびエチルセロソルブアセテートからなる群から選択される非プロトン性極性溶媒が好適である。
【0148】
この溶媒の使用量は,液晶ポリエステルを0.1質量%以上含有する液状組成物41を調製するような量であれば,適用する溶媒の種類に応じて適宜選択することができるが,溶媒100質量部に対して液晶ポリエステル0.5~50質量部であることが好ましく,より好ましくは10~30質量部である。
【0149】
液晶ポリエステルが0.5質量部未満であると,液状組成物41の粘度が低すぎて均一に塗工できない傾向があり,50質量部を超えると,高粘度化する傾向がある。
【0150】
このようにして得られた液状組成物中において,液晶ポリエステルは前駆体の状態で存在しており,この液状組成物を前記有機溶媒で更に希釈して調整し,液晶ポリエステル0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度は,0.1~10である。
【0151】
以上のように調整された液状組成物41を,金属箔10上に流延する。
【0152】
この流延の方法としては,既知の各種の方法を使用可能であり,例えば,ローラーコート法,グラビアコート法,ナイフコート法,ブレードコート法,ロッドコート法,ディップコート法,スプレイコート法,カーテンコート法,スロットコート法,スクリーン印刷法などを挙げることができ,これらの中でも制御が容易であるとともに、膜厚を精度よく均一にできる観点から,ナイフコート法またはスロットコート法が好ましい。
【0153】
(1-2) 乾燥工程
乾燥工程では,前記流延工程で金属箔10上に流延された液状組成物41を乾燥させて,金属箔10上に,液晶ポリエステルの前駆体によって形成される,前駆体層31を形成する。
【0154】
この乾燥工程は,乾燥温度が高すぎると,後述する熱処理前に,前駆体が重合を開始する等してポリマー化してしまうと共に,塗膜面に欠陥が生じる可能性がある一方,乾燥温度が低すぎると,乾燥するまでに長時間を要し生産性が低下することから,60℃以上,160℃以下の温度で行い,好ましくは150℃以下,より好ましくは140℃以下の温度で行う。
【0155】
この乾燥工程では,前述した液状組成物41に含まれる溶媒を必ずしも完全に除去する必要はなく,溶媒が残存した状態で乾燥を終了させるものとしても良い。
【0156】
(1-3) 熱処理工程
熱処理工程では,乾燥工程を経て前記前駆体層31が形成された前記金属箔10を加熱することで,前記前駆体層31の液晶ポリエステル前駆体より液晶ポリエステルを生成させると共に,金属箔10の表面に定着させ(焼付け)て,金属箔10の表面に液晶ポリエステル層21を形成し,
図4に示す例では,この液晶ポリエステル層21が,そのまま,金属張積層板1の絶縁フィルム20となる。
【0157】
この熱処理工程(連続焼成工程)に際し,好ましくは焼成炉50内に窒素を充満させて窒素雰囲気下で熱処理を行い,これにより,液晶ポリエステルの酸化による絶縁フィルム20の劣化を未然に防止することができる。
【0158】
このような不活性ガスとしては,前述の窒素ガスの他,例えば,ヘリウム,アルゴンなどの既知の各種の不活性ガスを使用することができる。
【0159】
また,焼成炉50内に酸素が入ってこないように,前記焼成炉50の搬送入口及び搬送出口の開口(クリアランス)に不活性ガスを常時吹き付けるのが好ましい。
【0160】
また,焼成炉50における熱処理温度は,200℃~350℃の範囲内であることが好ましい。
【0161】
熱処理温度を200℃以上とすることで,熱処理によって,液晶ポリエステルのオリゴマー等から成る前駆体の重合が促進される等して,液晶ポリエステルとなると共に,金属箔10との界面における溶融結合(投錨)と分子間結合が増大し,絶縁フィルム20と金属箔10とを強固に接着することができ,また,熱処理温度を350℃以下とすることで,液晶ポリエステルの熱分解を抑制することができる。
【0162】
この焼成炉50内には,前駆体層31が積層された金属箔10を挟んで上方及び下方に,前記金属箱10の進行方向に対して上下に交互にエアーノズル51が配設されており,前記焼成炉50内において前駆体層31が積層された金属箔10は,該金属箔10に作用する張力が解放された状態(無接触搬送)で上方及び下方のエアーノズル51からエア(不活性ガス)が吹き付けられる。
【0163】
これにより前駆体層31が積層された金属箔10は,張力が開放された状態で,かつ,焼成炉50内を蛇行して振動を加えられた状態で通過しつつ熱処理される。
【0164】
このように,前駆体層31が積層された金属箔10の張力を開放した状態で熱処理することで,液晶ポリエステルの硬化収縮に伴ってMD方向に分子配向が生じることを防止できると共に,エアーノズル51による不活性ガスの吹き付けによって振動を与えることで,前駆体層31内に残存している溶媒やガスの排出が促進される,また,振動によって溶融した液晶ポリエステルが金属箔10表面に生じている微細な凹凸の凹部内にまで入り込むことで,投錨効果による接着力を向上させることができる。
【0165】
なお,
図4において破線で示すように,一方から張力(長さ方向)を加えつつ焼成炉50内の複数のガイドロール52間を順次上下に屈曲(曲面接触=熱歪低減)させつつ搬送する方法と併用又は単独で行うこともできる。
【0166】
なお,焼成炉50内における,金属箔10の蛇行の上下動の高さは,3mm~900mm,好ましくは,20mm~200mm,より好ましくは,上述した前記上下のエアーノズル51間にて金属箔10を浮上させて搬送する無接触搬送にて,前記前駆積層体の上下動の高さ(波の高さ)50mm~200mmである。
【0167】
また,前記エアーノズルの設置間隔は,3mm~900mmが好ましく,エアーノズルの設置コスト等から100mm~500mm,より好ましくは,200mm~300mmである。
【0168】
(1-4) その他(カレンダーロール)
上述の通り,前駆積層31を熱処理して,金属箔10と絶縁フィルム20を有する金属張積層板1を得た後,絶縁フィルム20と金属箔10間の接着力と絶縁フィルム20の面平滑を高める為に,加熱したカレンダーロール60(150~200℃)で連続加圧し,室温冷却を経て巻取り完了するものとしても良い。
【0169】
なお,前記カレンダーロール60を通過した金属張積層板1をプレス機(図示せず)により加圧して,前記金属箔10と絶縁フィルム20を,さらに圧着させても良い。
【0170】
(1-5) 作用等
以上のように,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物の流延によって形成した塗膜を,金属箔10上で加熱して金属箔10上に焼き付けて形成した液晶ポリエステル層21を絶縁フィルム20とすることで,絶縁フィルム20と金属箔10間の強固な結合が得られるだけでなく,液晶ポリエステルを,溶融状態で一定方向流動させることなく成膜して絶縁フィルム20としたことで,絶縁フィルム20(液晶ポリエステル層21)を無配向とすることができ,配向方向に裂け易いといった,一般的な液晶ポリエステルが有する問題を解消でき,更に,異方性が緩和されることで反りや歪み等も生じ難い,金属張積層板1を得ることができる。
【0171】
また,金属箔10上での加熱によって前駆体を反応,重合等させて生成した液晶ポリエステル層21を絶縁フィルム20としたことで,金属箔10との間に強い接着力を発揮させることができた。
【0172】
(2)三層の絶縁フィルムを備えた金属張積層板の製造(
図5参照)
以上,
図4を参照して説明した金属張積層板1の製造方法では,
図1に示すような単層構造の絶縁フィルム20を有する金属張積層板1の製造方法について説明した。
【0173】
これに対し,
図3に示すような三層構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1を製造する場合には,以下に説明するように,形成する層の数に対応して,それぞれ流延工程と乾燥工程から成る第1~第3前駆体層形成工程を3回繰り返して行うことで,多層構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1を製造することができる。
【0174】
(2-1) 第1前駆体層形成工程
この工程では,フィラーを含まない,液晶ポリエステル前駆体と溶媒から成る液状組成物41を金属箔10上に流延すると共に,これを乾燥させて,金属箔10上に,フィラーを含まない液晶ポリエステルの前駆体から成る前駆体層31を形成する。
【0175】
なお,使用する溶媒,流延方法,乾燥時における温度条件等は,
図4を参照して説明した,単層の絶縁フィルム20を形成する場合における流延工程及び乾燥工程と同様であるため説明を省略する。
【0176】
(2-2) 第2前駆体層形成工程
この工程では,金属箔10上に形成された前述の前駆体層31上に,更に,絶縁性無機フィラーを含む,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る液状組成物42,本実施形態では液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物42を流延すると共に乾燥させて,前駆体層31上に,絶縁性無機フィラーを含んだ第2前駆体層32を形成する工程である。
【0177】
なお,この第2流延,乾燥工程においても,使用する溶媒,流延方法,及び乾燥時の温度条件等を,
図4を参照して説明した,単層の絶縁フィルム20を形成する場合の流延工程及び乾燥工程と同様とすることができる。
【0178】
(2-3) 第3前駆体層形成工程
この工程では,前記第2前駆体層形成工程で形成された第2前記躯体層32上に,更にフィラーを含まない,液晶ポリエステル前駆体と溶媒から成る液状組成物43を流延すると共に乾燥させることにより,前記第2前駆体層32上に,更に第3前駆体層33を形成する工程である。
【0179】
なお,この第3前駆体層形成工程においても,使用する溶媒,流延方法,及び乾燥時の温度条件等を,
図4を参照して説明した,単層の絶縁フィルム20を形成する場合の流延工程及び乾燥工程と同様とすることができる。
【0180】
(2-4) 熱処理工程及びカレンダーロール
上記各工程を経ることにより,前駆体層31,第2前駆体層32,及び第3前駆体層33が形成された金属箔10は,
図4を参照して説明した前述の単相構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1と同様の方法及び条件で,熱処理工程に付されると共に,必要に応じてカレンダーロールによる圧延を行う。
【0181】
焼成炉50で連続的に熱処理(連続焼成)されることで,前駆体層31,第2前駆体層32,及び第3前駆体層33を構成する液晶ポリエステルの前駆体から液晶ポリエステルが生成され,これにより,金属箔10上に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層21,フィラー添加層22,及び,フィラー無添加層23から成る三層構造を有する絶縁フィルム20が形成される。
【0182】
(2-5) 作用等
このように,絶縁フィルム20にフィラー添加層22を設けることで,絶縁フィルム20の線膨張係数を,金属箔10の線膨張係数に近付けて,金属張積層板1に反りや歪みが生じることを防止できる一方,金属箔10との積層面20aを,フィラーを含まない液晶ポリエステル層21とすることで,フィラーの添加によっても絶縁フィルム20と金属箔10との接着性が損なわれることがなく,また,低吸湿性であることにより発揮される液晶ポリエステルの有利な特性により,金属張積層板1を高機能なものとすることができた。
【0183】
なお,上記方法で製造された絶縁フィルム20は,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層21のみならず,フィラー添加層22及びフィラー無添加層のいずれともに無配向となる。
【0184】
(3)多層構造の絶縁フィルムを備えた金属張積層板の他の製法(
図6)
以上,
図5を参照して説明した金属張積層板1の製造方法では,絶縁フィルム20を三層構造とするために,流延工程と乾燥工程を3回繰り返し行うものとして説明した。
【0185】
この構成に代え,
図6に示すように,三層押出ダイス型や三層スロットコート法により,3つの液状組成物41~43を同時に三層重ねて流延し,これらを三層同時に乾燥させた後,熱処理工程に付することで,三層構造を備えた絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1を製造するものとして良い。
【0186】
更に,
図2に示すように,2層構造の絶縁フィルム20を備えた金属張積層板1を製造する場合には,
図5に示した製造工程から,第3前駆体層形成工程を,
図6に示した製造工程における流延工程から,第3液状組成物43の流延をそれぞれ省略すれば良い。
【実施例】
【0187】
以下に,本発明の方法による金属張積層板の製造実施例と,これにより得た金属張積層板の性能評価を行った結果を示す。
【0188】
〔製造実施例〕
(1)実施例1:三層絶縁フィルム
A4版サイズの電解銅箔(厚み16μm)に,液晶ポリエステル前駆体と溶媒から成る液状組成物41(フィラー無添加),を,最終焼成後の固形分厚みが3.4μmとなるようにロールバーで流延し,90℃の温度で60分間乾燥させて第1前駆体層31を形成した。
【0189】
この第1前駆体層31上に,絶縁性無機フィラーとしてシリカを配合した,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第2液状組成物42を最終焼成後の固形分厚みが10μmとなるようにロールバーで流涎し,90℃の温度で60分間乾燥させて第2前駆体層32を形成した。
【0190】
なお,シリカの配合比は,液晶ポリエステルの固形分比100質量部に対し,粒径0.1~0.2μmのヒームドシリカ15質量部である。
【0191】
前記第2前駆体層32上に,更に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る第3液状組成物43(フィラー無添加)を,最終焼成後の固形分厚みが3μmとなるようにロールバーで流延し,90℃の温度で60分間乾燥させて第3前駆体層33を形成した。
【0192】
前記第1~第3前駆体層31~33が積層された銅箔10を,窒素ガスを充填した焼成炉内で焼成して,三層構造の絶縁フィルム20を有する銅張積層板1(
図3参照)を製造した。
【0193】
焼成は,100℃より開始し,2時間後に350℃で停止し,その後,5時間の自然冷却を経た後,焼成炉より取り出した。
【0194】
(2)実施例2:二層絶縁フィルム
A4版サイズの電解銅箔(厚み16μm)に,実施例1と同条件で第1前駆体層(フィラー無添加)及び第2前駆体層(フィラー添加)を形成した。
【0195】
前記第1及び第2前駆体層を積層した銅箔を,実施例1と同条件で焼成して二層構造有する絶縁フィルム20を備えた銅張積層板1(
図2参照)を製造した。
【0196】
(3)実施例3:単層絶縁フィルム
A4版サイズの電解銅箔(厚み16μm)に,液晶ポリエステル前駆体と溶媒の液状組成物(フィラー無添加)を,最終焼成後の固形分厚みが15μmとなるようにロールバーで流延し,90℃の温度で60分間半乾燥させて,前駆体層(単相)を形成した。
【0197】
この前駆体層を積層した銅箔を,実施例1と同条件で焼成し,単層構造の絶縁フィルム20を有する銅張積層板1(
図1参照)を製造した。
【0198】
〔比較試験〕
(1)比較方法
上記製造方法で製造した実施例1~3の各銅張積層板を目視で観察し,反りや歪みの発生を確認した。
【0199】
また,実施例1~3の各銅張積層板に対し,銅箔と絶縁フィルム間で層間剥離が生じるか否かを試験した。
【0200】
更に,各銅張積層板を指で摘まんで縦,横,斜めの各方向に引き裂き,特定方向への引裂き性があるか(絶縁フィルムに配向が生じているか)を確認した。
【0201】
更に,実施例1~3の銅張積層板を,それぞれ塩化第二鉄水溶液に浸漬して銅箔をエッチングにより除去し,絶縁フィルムのみの状態とし,各絶縁フィルムの線膨張係数と,誘電率及び誘電損正接を測定した。
【0202】
(2)比較結果
フィラーを添加していない絶縁フィルムを備えた実施例3の銅張金属板では,僅かな反りの発生が確認されたが,フィラーを添加した絶縁フィルムを備えた実施例1,2の銅張積層板には,反りや歪みの発生は確認できなかった。
【0203】
また,実施例1~3のいずれの銅張積層板共に,銅箔と絶縁フィルム間での剥離を試みたが,剥離が生じる前に銅箔又は絶縁フィルムが破断して,層間で剥離させることはできなかった。
【0204】
更に,実施例1~3の銅張積層板を引き裂いた結果,いずれの銅張積層板共に,特定の方向への引き裂きは生じなかった。
【0205】
なお,実施例1~3の各絶縁フィルムの線膨張係数,誘電率,及び誘電正接の測定結果を,表1に示す。
【0206】
【0207】
(2)考察
以上の結果から,実施例1~3のいずれの方法で形成した絶縁フィルム共に,熱溶融流延法で形成した一般的な液晶ポリエステルフィルムが通常有している配向性(異方性)は確認することができず,いずれの方向においても機械的な強度に優れるものであることが確認された。
【0208】
また,フィラーの添加の有無に拘わらず,いずれの銅張積層板共に,絶縁フィルムと銅箔間が強固に接着されており,曲げたり,折り曲げたりして使用する用途にも耐え得る,十分な接着力を発揮していることが確認された。
【0209】
特に,絶縁性無機フィラーとして,シリカを添加した実施例1及び2の絶縁フィルムでは,シリカを添加していない実施例3の絶縁フィルムの熱膨張係数である30ppmに対し,約1/2となっており熱膨張係数の点でも優れた特性を発揮しており,これにより反りや歪みの発生が抑制されたものと考えられる。
【0210】
しかも,実施例1及び2の絶縁フィルムでは,シリカの添加によって熱膨張係数の低下という有利な効果が得られるものでありながら,誘電率及び誘電正接の測定値が,実施例3のシリカを添加していない絶縁フィルムと同等,又はこれよりも若干低い結果を示しており,シリカの添加によって,電気的な特性が低下していないだけでなく,僅かではあるが向上が見られており,絶縁フィルムを多層構造として,金属箔との積層面を構成しない層に絶縁性無機フィラーを添加する,本発明の構成の有効性が確認できた。
【符号の説明】
【0211】
1 金属張積層板(銅張積層板)
10 金属箔(銅箔)
20 絶縁フィルム
20a 積層面
21 液晶ポリエステル層
22 フィラー添加層
23 フィラー無添加層
31 前駆体層
32 第2前駆体層
33 第3前駆体層
41 液状組成物(フィラー無添加)
42 第2液状組成物(フィラー添加)
43 第3液状組成物(フィラー無添加)
50 焼成炉
51 エアーノズル
52 ガイドロール
60 カレンダーロール