IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ FSテクニカル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図1
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図2
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図3
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図4
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図5
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図6
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図7
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図8
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図9
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図10
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図11
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図12
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図13
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図14
  • 特許-金属製アンカーおよびアンカーシステム 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】金属製アンカーおよびアンカーシステム
(51)【国際特許分類】
   F16B 13/10 20060101AFI20231208BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20231208BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20231208BHJP
   F16B 31/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
F16B13/10 H
E04B1/41 503G
F16B35/04 B
F16B31/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019214987
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021085464
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031086(JP,A)
【文献】特表2014-500477(JP,A)
【文献】実開昭49-120961(JP,U)
【文献】特表2007-501916(JP,A)
【文献】特開2019-183521(JP,A)
【文献】実開昭63-055133(JP,U)
【文献】特開昭47-004495(JP,A)
【文献】特表2017-529523(JP,A)
【文献】特開2004-316093(JP,A)
【文献】特開昭56-85019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 13/00-13/10
E04B 1/41
F16B 35/04
F16B 31/00
F16B 31/02
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
G01N 33/38
E04B 1/38-1/61
E04G 23/00-23/08
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定対象物を支持固定するために、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーであって、
基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔を有し、基端部において前記固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、
前記遊嵌孔に遊嵌されると共に、前記遊嵌孔の奥部において先端部を前記アンカーボルトに固定されたロッド状部材と、
外部側から前記アンカーボルトの基端部に当接した状態で、前記ロッド状部材の基端部に設けられた荷重検知機構部と、を備え、
前記荷重検知機構部は、前記アンカーボルトに、前記アンカーボルトの降伏点強度以下の所定の荷重が作用したときに、前記アンカーボルトの伸びを受けて視認可能に且つ不可逆的に状態変化することを特徴とする金属製アンカー。
【請求項2】
前記荷重検知機構部は、
前記外部に露出した状態で、前記アンカーボルトの基端部に当接する視認頭部と、
前記ロッド状部材の基端部に取り付けられた機構本体と、
前記視認頭部と前記機構本体との間に介設され、前記所定の荷重が作用したときに破断するネック部と、を有していることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項3】
前記機構本体は、前記ロッド状部材の基端部に螺合し、
前記視認頭部および前記機構本体には、前記螺合のための工具掛け部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の金属製アンカー。
【請求項4】
前記荷重検知機構部は、
前記外部に露出した状態で、前記アンカーボルトの基端部に当接する板状の視認体と、
前記視認体を貫通して前記ロッド状部材の基端部に取り付けられ、前記視認体を前記アンカーボルトの基端部に当接させる破壊体と、を有し、
前記視認体は、前記所定の荷重が作用したときに破壊することを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項5】
前記視認体は、前記破壊体が貫通する貫通孔を有し、
前記破壊体は、前記ロッド状部材の基端部に取り付けられ、前記貫通孔と同径に形成された破壊体本体と、前記外部に露出し、前記貫通孔よりも太径に形成されたヘッド部と、破壊体本体とヘッド部との間に介設された先細りのテーパー部と、を有することを特徴とする請求項4に記載の金属製アンカー。
【請求項6】
前記荷重検知機構部は、
前記外部に露出した状態で前記ロッド状部材の基端部に固定されると共に、前記アンカーボルトの基端部に当接する視認片部と、
前記視認片部の前記アンカーボルト側に隣接して前記ロッド状部材に設けられ、前記所定の荷重が作用したときに破断する脆弱部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項7】
前記荷重検知機構部は、
前記外部に露出した状態で前記ロッド状部材の基端部に装着されると共に、前記アンカーボルトの基端部に当接する視認コマを有し、
前記視認コマは、前記所定の荷重が作用したときに、前記ロッド状部材の基端から抜け落ちることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項8】
前記視認コマは、前記ロッド状部材の基端部に螺合すると共に、前記ロッド状部材よりも軟質の材料で形成され、ネジ山が破損することで前記ロッド状部材から抜け落ちることを特徴とする請求項7に記載の金属製アンカー。
【請求項9】
前記視認コマは、前記ロッド状部材の基端部に装着した止め輪であることを特徴とする請求項7に記載の金属製アンカー。
【請求項10】
前記所定の荷重は、前記アンカーボルトにおける降伏点強度の20~100%の荷重であることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の金属製アンカーと、
前記金属製アンカーに隣接し前記コンクリート躯体に穿孔した下穴に設けられ、前記金属製アンカーによる前記コンクリート躯体のコーン状破壊を検知するコーン状破壊検知装置と、を備えたアンカーシステムであって、
前記コーン状破壊検知装置は、
前記下穴に遊嵌されると共に、前記下穴の最奥部において先端部が前記コンクリート躯体に定着される棒状アンカーと、
前記下穴の開口部側において前記コンクリート躯体に定着されるスリーブ部と、
外部側から前記スリーブ部に当接した状態で、前記棒状アンカーの基端部に設けられた破壊検知機構部と、を有し、
前記破壊検知機構部は、前記コーン状破壊が発生したときに、前記スリーブ部の外方への微小移動を受けて視認可能に状態変化することを特徴とするアンカーシステム。
【請求項12】
前記破壊検知機構部は、
前記外部に露出した状態で、前記スリーブ部の基端部に当接する視認ピースと、
前記棒状アンカーの基端部に取り付けられた機構ボディと、
前記視認ピースと前記機構ボディとの間に介設され、前記コーン状破壊が発生したときに破断する破断部と、を有していることを特徴とする請求項11に記載のアンカーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先付けおよび後付け(あと施工)を問わず、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーおよびアンカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属製アンカーとして、コンクリート基部等の基台に形成された前ボアおよび拡大ボアから成る固定ボアに固定されることで、基台に工作物を固着させるための合くぎ、すなわち金属拡張アンカー(あと施工アンカー)が知られている(特許文献1参照)。
この合くぎは、ボルト頭部を有する固定ボルトと、固定ボルトの先端部に螺合した係止部品と、固定ボルトが挿通する間隙スリーブ、スリーブ部品および係合部品と、を備えている。係止部品は、固定ボルトに螺合する先端部材と、周回溝を存して先端部材に連なる4分割のロック要素と、を有している。4つのロック要素の端部には、先端部が円錐状に先細りになった係合部品が接触している。
ボルト頭部に添設した座金を介して間隙スリーブを打ち込むと、スリーブ部品を介して係合部品が軸方向に前進し、4つのロック要素を押し広げる。これにより、4つのロック要素は、周回溝を中心に外方に向かって、すなわち拡大ボアに向かって揺動する。次に、固定ボルトを回転させて係止部品を引き付けるようにすると、4つのロック要素は、拡大ボアの背向面に突き当たってロックされる一方、スリーブ部品がつぶれるように変形し、固定ボルトにより工作物が基台上に固定圧着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表昭60-500966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の合くぎ(金属拡張アンカー)では、拡大ボアが精度良く形成され、且つ合くぎの有効埋込み深さが十分に執れる場合には、合くぎの引張り耐力は、コンクリート等のコーン状破壊により決まる耐力ではなく、合くぎ自体の引張り耐力で決まる。すなわち、合くぎの引張り耐力は、固定ボルトの降伏点強度に基づいて、決定されることとなる。具体的には、固定ボルトの降伏点強度の数十%を許容引張り強度とし、この許容引張り強度に基づいて設計が為される。
かかる場合において、地震等により、工作物を介して固定ボルトに想定を越える荷重、すなわち許容引張り強度を越える荷重が作用した場合、経時的にボルト破断となる可能性があることは元より、固定ボルトの機能に何らかの支障が生ずる可能性がある。このため、管理者は、合くぎの点検・管理上、固定ボルトに想定を越える荷重が作用したことを知り、且つ荷重の原因を究明しておくことが好ましい。
しかし、従来の合くぎでは、想定を越える荷重が作用しても、固定ボルトの破断や極端な伸び(破断直前の永久ひずみ)が発生しない限り、これを知り得る手段はなかった。
【0005】
本発明は、アンカーボルトに、伸びを生ずるような荷重が作用したときに、これを視認可能に且つ履歴的に検知することができる金属製アンカーおよびアンカーシステムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属製アンカーは、固定対象物を支持固定するために、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーであって、基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔を有し、基端部において固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、遊嵌孔に遊嵌されると共に、遊嵌孔の奥部において先端部をアンカーボルトに固定されたロッド状部材と、外部側からアンカーボルトの基端部に当接した状態で、ロッド状部材の基端部に設けられた荷重検知機構部と、を備え、荷重検知機構部は、アンカーボルトに、アンカーボルトの降伏点強度以下の所定の荷重が作用したときに、アンカーボルトの伸びを受けて視認可能に且つ不可逆的に状態変化することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、アンカーボルトに組み込んだロッド状部材は、その先端部を遊嵌孔の奥部に固定されると共に、ロッド状部材の基端部に設けられた荷重検知機構部を介して、アンカーボルトの基端部に当接している。このため、固定対象物からの引張り荷重によりアンカーボルトに伸びが生ずると、これを受けて荷重検知機構部は、状態変化する。この状態変化により、アンカーボルトに降伏点強度以下の所定の荷重が作用したことが、外部から視認可能に且つ履歴的に検知される。したがって、アンカーボルトに、伸びを生ずるような荷重、例えば想定を越える荷重が作用したことを、自己発信的に検知することができる。これにより、固定対象物を支持固定した金属製アンカーの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカーの健全性を担保することができる。
なお、金属製アンカーには、あと施工アンカー(後付け)は元より先付けのアンカーも含まれる。
【0008】
この場合、荷重検知機構部は、外部に露出した状態で、アンカーボルトの基端部に当接する視認頭部と、ロッド状部材の基端部に取り付けられた機構本体と、視認頭部と機構本体との間に介設され、所定の荷重が作用したときに破断するネック部と、を有していることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、アンカーボルトに所定の荷重が作用すると、視認頭部と機構本体との間に介設されネック部が破断する。すなわち、ネック部の破断により、外部に露出した視認頭部は、機構本体から離脱する。したがって、視認頭部が離脱することにより、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。
【0010】
この場合、機構本体は、ロッド状部材の基端部に螺合し、視認頭部および機構本体には、螺合のための工具掛け部がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、ネック部が破断した荷重検知機構部を、新たな荷重検知機構部に付け替えることができる。例えば、アンカーボルトに想定を越える荷重が作用しても、アンカーボルトの健全性が確認でき、且つ想定を越える荷重の原因を取り除くことができた場合には、新たな荷重検知機構部に付け替えにより、自己発信的な金属製アンカーに容易に復旧させることができる。
【0012】
また、荷重検知機構部は、外部に露出した状態で、アンカーボルトの基端部に当接する板状の視認体と、視認体を貫通してロッド状部材の基端部に取り付けられ、視認体をアンカーボルトの基端部に当接させる破壊体と、を有し、視認体は、所定の荷重が作用したときに破壊することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、アンカーボルトに所定の荷重が作用すると、ロッド状部材を介して、破壊体が視認体を相対的に押圧しこれを破壊する。すなわち、外部に露出した視認体は、割れを生ずるこことなる。したがって、視認体の割れにより、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。
【0014】
この場合、視認体は、破壊体が貫通する貫通孔を有し、破壊体は、ロッド状部材の基端部に取り付けられ、貫通孔と同径に形成された破壊体本体と、外部に露出し、貫通孔よりも太径に形成されたヘッド部と、破壊体本体とヘッド部との間に介設された先細りのテーパー部と、を有することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、アンカーボルトに所定の荷重が作用すると、破壊体のテーパー部が、視認体の貫通孔に食い込むようにして、視認体を破壊する。すなわち、破壊体は、貫通孔を強く押し広げるようにして視認体が破壊する。このため、割れを生じた視認体は、周囲に飛び散るようにして破壊体から離脱する。したがって、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことを、視覚を通じてより明確に確認することができる。
【0016】
また、荷重検知機構部は、外部に露出した状態でロッド状部材の基端部に固定されると共に、アンカーボルトの基端部に当接する視認片部と、視認片部のアンカーボルト側に隣接してロッド状部材に設けられ、所定の荷重が作用したときに破断する脆弱部と、を有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、アンカーボルトに所定の荷重が作用すると、ロッド状部材に設けられた脆弱部が破断する。すなわち、脆弱部の破断により、外部に露出した視認片部は、ロッド状部材から離脱する。したがって、視認片部が離脱することにより、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。
【0020】
同様に、荷重検知機構部は、外部に露出した状態でロッド状部材の基端部に装着されると共に、アンカーボルトの基端部に当接する視認コマを有し、視認コマは、所定の荷重が作用したときに、ロッド状部材の基端から抜け落ちることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、アンカーボルトに所定の荷重が作用すると、視認コマがロッド状部材の基端から抜け落ちる。すなわち、外部に露出した視認コマが抜け落ちることにより、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。
【0022】
この場合、視認コマは、ロッド状部材の基端部に螺合すると共に、ロッド状部材よりも軟質の材料で形成され、ネジ山が破損することでロッド状部材から抜け落ちることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、ロッド状部材の基端部から抜け落ちた視認コマを、新たな視認コマに付け替えることができる。例えば、アンカーボルトに想定を越える荷重が作用しても、アンカーボルトの健全性が確認でき、且つ想定を越える荷重の原因を取り除くことができた場合には、新たな視認コマに付け替えにより、自己発信的な金属製アンカーに容易に復旧させることができる。
【0024】
また、視認コマは、ロッド状部材の基端部に装着した止め輪であることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、ロッド状部材の基端部から抜け落ちた止め輪(視認コマ)を、新たな視認コマに付け替えることができる。例えば、アンカーボルトに想定を越える荷重が作用しても、アンカーボルトの健全性が確認でき、且つ想定を越える荷重の原因を取り除くことができた場合には、新たな視認コマに付け替えにより、自己発信的な金属製アンカーに容易に復旧させることができる。
【0026】
一方、所定の荷重が、アンカーボルトにおける降伏点強度の20~100%の荷重であることが好ましい。
【0027】
この構成によれば、所定の荷重が降伏点強度に近い高い値に設定された場合(永久ひずみ)には、荷重検知機構部の状態変化を受けて、アンカーボルトの付け替えや金属製アンカーの再施工が必要となる。一方、所定の荷重が降伏点強度から遠い低い値に設定された場合(弾性ひずみ)には、荷重検知機構部の状態変化を受けて、上記のように、アンカーボルトの健全性を確認した後、原因の究明を含め適切な対応策を執ることができる。
なお、所定の荷重は、金属製アンカーの設計を考慮して、長期許容引張り荷重(降伏点強度の25~30%程度)或いは短期許容引張り荷重(降伏点強度の40~50%程度)とすることが好ましい。
【0028】
本発明のアンカーシステムは、上記した金属製アンカーと、金属製アンカーに隣接しコンクリート躯体に穿孔した下穴に設けられ、金属製アンカーによるコンクリート躯体のコーン状破壊を検知するコーン状破壊検知装置と、を備えたアンカーシステムであって、コーン状破壊検知装置は、下穴に遊嵌されると共に、下穴の最奥部において先端部がコンクリート躯体に定着される棒状アンカーと、下穴の開口部側においてコンクリート躯体に定着されるスリーブ部と、外部側からスリーブ部に当接した状態で、棒状アンカーの基端部に設けられた破壊検知機構部と、を有し、破壊検知機構部は、コーン状破壊が発生したときに、スリーブ部の外方への微小移動を受けて視認可能に状態変化することを特徴とする。
【0029】
金属製アンカーの引張り耐力は、コンクリート躯体のコーン状破壊に至る耐力、或いはアンカーボルトの引張り耐力で決定される。すなわち、金属製アンカーに過大な引張り荷重が作用すると、コーン状破壊が生ずるかまたはボルト破断となる。
この構成によれば、金属製アンカーにおける荷重検知機構部の状態変化により、アンカーボルトに所定の荷重が作用したこと、すなわち、アンカーボルトに伸びを生ずるような荷重が作用したことが、外部から視認可能に且つ履歴的に検知される。一方、金属製アンカーに隣接しコンクリート躯体に設けられたコーン状破壊検知装置により、コンクリート躯体内でコーン状破壊が発生したことが検知される。
コーン状破壊検知装置では、下穴に遊嵌された棒状アンカーはその先端部をコンクリート躯体に定着されると共に、棒状アンカーの基端部に設けられた破壊検知機構部を介して、下穴の開口部側に定着されたスリーブ部に当接している。このため、固定対象物からの引張り荷重によりコーン状破壊が発生すると、コンクリート躯体の表面に膨らみが生ずる。この膨らみによるスリーブ部の外方への微小移動を受けて、破壊検知機構部が状態変化する。この状態変化により、コンクリート躯体にコーン状破壊が発生したこと、より具体的には破壊の前段階となるコーン状のひび割れが発生したことが、外部から視認可能に且つ履歴的に検知される。
【0030】
この場合、破壊検知機構部は、外部に露出した状態で、スリーブ部の基端部に当接する視認ピースと、棒状アンカーの基端部に取り付けられた機構ボディと、視認ピースと機構ボディとの間に介設され、スリーブ部の外方への微小移動により破断する破断部と、を有していることが好ましい。
【0031】
この構成によれば、スリーブ部が外方に微小移動すると、視認ピースと機構ボディとの間に介設され破断部が破断する。すなわち、破断部の破断により、外部に露出した視認ピースは、機構ボディから離脱する。したがって、視認ピースが離脱することにより、コンクリート躯体にコーン状破壊が発生したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第1実施形態に係る金属製アンカーの構造図である。
図2】金属製アンカーのアンカーボルト廻りの分解図である。
図3】金属製アンカーにおける荷重検知機構部の機能について説明する説明図であって、定常状態の図(a)、および想定を越える引張り荷重を検知した状態の図(b)である。
図4】第1実施形態の第1変形例に係る金属製アンカーの構造図(a)、および第2変形例に係る金属製アンカーの構造図(b)である。
図5】第1実施形態の第3変形例に係る金属製アンカーの構造図である。
図6】第2実施形態に係る金属製アンカーの構造図であって、定常状態の図(a)、および想定を越える引張り荷重を検知した状態の図(b)である。
図7】第3実施形態に係る金属製アンカーの構造図であって、定常状態の図(a)、および想定を越える引張り荷重を検知した状態の図(b)である。
図8】第3実施形態の第1変形例に係る金属製アンカーの構造図(a)、および第2変形例に係る金属製アンカーの構造図(b)である。
図9】第4実施形態に係る金属製アンカーの構造図であって、定常状態の図(a)、および想定を越える引張り荷重を検知した状態の図(b)である。
図10】第4実施形態の第1変形例に係る金属製アンカーの構造図(a)、および第2変形例に係る金属製アンカーの構造図(b)である。
図11】第5実施形態に係る金属製アンカーの構造図である。
図12】実施形態のアンカーシステムの構造図である。
図13】アンカーシステムにおけるコーン状破壊検知装置の分解図である。
図14】アンカーシステムにおいて、コーン状のひび割れを検知した状態の図である。
図15】アンカーシステムにおいて、想定を越える引張り荷重を検知した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る金属製アンカーおよびアンカーシステムについて説明する。この金属製アンカーは、固定対象物をコンクリート躯体に支持固定するためにコンクリート躯体に定着される、先付け或いは後付け(あと施工)のアンカーである。また、この金属製アンカーは、主体を為すアンカーボルトに想定を越える引張り荷重が作用したときに、これを視認可能に検知する機能を有するものである。
【0034】
一方、アンカーシステムは、上記の金属製アンカーと、金属製アンカーに隣接して配置したコーン状破壊検知装置とから成り、アンカーボルトのボルト破断に至る想定外の荷重を検知する機能、およびコンクリート躯体のコーン状破壊に至るコーン状のひび割れを検知する機能を有するものである。以下、金属製アンカーについて説明し、その後アンカーシステムについて説明する。
【0035】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る金属製アンカーの構造図であり、図2は、金属製アンカーのアンカーボルト廻りの分解図である。両図に示すように、金属製アンカー10は、いわゆるあと施工アンカーにおける金属拡張アンカー(メカニカルアンカー)であり、アンカーボルト11を始めとする主要部品が、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0036】
コンクリート躯体Cには、奥部に拡径部AHaを形成したアンカー穴AHが穿孔されており、金属製アンカー10は、このアンカー穴AHに打ち込まれるようにして定着される。アンカー穴AH(コンクリート躯体C)に定着された金属製アンカー10は、そのアンカーボルト11の基端部がコンクリート躯体Cの表面から突出しており、ワッシャーWを介してこの部分に螺合した固定ナットNにより、固定対象物SのベースプレートSaが締結される。
【0037】
金属製アンカー10は、基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔12を有するアンカーボルト11と、アンカーボルト11の先端部をアンカー穴AHの拡径部AHaに定着させる定着機構部13と、を備えている。また、金属製アンカー10は、遊嵌孔12に遊嵌されると共に、遊嵌孔12の奥部において先端部をアンカーボルト11に固定されたロッド状部材15と、外部側からアンカーボルト11の基端面11aに当接した状態でロッド状部材15の基端部に螺合した荷重検知機構部16と、を備えている。
【0038】
アンカーボルト11と定着機構部13とは、コンクリート躯体Cに固定対象物Sを支持固定する金属製アンカー10の本来のアンカー機能を有している。一方、ロッド状部材15と荷重検知機構部16とは、アンカーボルト11に想定を越える荷重(所定の荷重)が作用したこと検知する、本実施形態特有の機能を有している。
【0039】
アンカーボルト11は、金属製アンカー10の呼び径となる全ネジボルトで構成されている。アンカーボルト11の軸心部には、基端から先端に向かって延びる遊嵌孔12が形成されている(図2参照)。遊嵌孔12は、アンカーボルト11の全長の1/4~1/2程度の深さを有している。また、遊嵌孔12は、ロッド状部材15が遊嵌される孔本体12aと、孔本体12aよりも大径に形成され、荷重検知機構部16が収容される基端側の収容孔部12bと、孔本体12aよりも小径に形成され、ロッド状部材15の先端部が螺合する先端側のネジ孔部12c(雌ネジ)と、を有している。
【0040】
なお、遊嵌孔12は、アンカーボルト11を軸方向に貫通するものであってもよい。また、アンカーボルト11は、基端部および先端部にのみ雄ネジが形成されているものであってもよい。
【0041】
定着機構部13は、アンカーボルト11の先端部に螺合した拡開ナット21と、アンカーボルト11を囲繞するように配設された打込みスリーブ22と、を有している。拡開ナット21は、アンカーボルト11に螺合する図示下半部のナット本体24と、スリット25aにより4分割された図示上半部の拡開部25と、で一体に形成されている。打込みスリーブ22の先端部には、コーン部26が形成されており、打込みスリーブ22を打ち込むことにより拡開ナット21の拡開部25が径方向外方に拡開する。拡開した拡開部25は、拡径部AHaの周壁に向かって広がり、拡径部AHaに定着される。そして、この拡開部25と拡径部AHaの協働により、アンカーボルト11がクサビ効果を発揮する。
【0042】
ロッド状部材15は、アンカーボルト11よりも十分に細径の全ネジボルトで構成されている。ロッド状部材15の先端部は、上記遊嵌孔12のネジ孔部12cに螺合し、アンカーボルト11に固定されている。また、ロッド状部材15の基端部は、遊嵌孔12の収容孔部12bに臨み、この部分には荷重検知機構部16が螺合している。詳細は後述するが、荷重検知機構部16の一部は、外部側からアンカーボルト11の基端面11aに突き当てられおり、ロッド状部材15は、基端側において荷重検知機構部16の一部をアンカーボルト11に当接すると共に、先端部においてアンカーボルト11に固定されている。
【0043】
なお、ロッド状部材15は、基端部および先端部にのみ雄ネジが形成されているものであってもよい。また、ロッド状部材15は、主要部を太いワイヤー等で形成されたものであってもよい。
【0044】
荷重検知機構部16は、外部側からアンカーボルト11の基端面11aに当接する円板状の視認頭部31と、ロッド状部材15の基端部に螺合した機構本体32と、視認頭部31と機構本体32との間に介設されたネック部33と、を有している。また、視認頭部31、機構本体32およびネック部33は、アルミニウム等の比較的脆い金属材料、脆いプラスチック、セラミック等、で一体に形成されている。そして、ネック部33は、アンカーボルト11に想定を越える荷重が作用したときに、アンカーボルト11の伸びを受けて破断するようになっている。
【0045】
視認頭部31は、アンカーボルト11の径よりもわずかに小さい径に形成され、アンカーボルト11の基端部と共に外部に露出し、且つアンカーボルト11の基端面11aに当接している。したがって、外部に露出した視認頭部31は、アンカーボルト11の基端に添設されるようにして視認可能となっている。なお、アンカーボルト11における遊嵌孔12(収容孔部12b)の開口部分に浅い環状の溝を設け、これにアンカーボルト11の基端と面一となるように視認頭部31を収容且つ当接するようにしてもよい。
【0046】
視認頭部31には、180°点対称位置においてDカットされた主工具掛け部35が形成されている(図2参照)。そして、荷重検知機構部16は、機構本体32の部分でロッド状部材15にネジ止めされるが、この主工具掛け部35に係合したトルクレンチにより、最終の締付け調整が為されるようになっている。これにより、ロッド状部材15に微小なテンションが付与され、視認頭部31は、所定の圧力をもってアンカーボルト11に当接する。なお、視認頭部31は、目立つように蛍光色等で着色されていることが好ましい。
【0047】
機構本体32は、いわゆる袋ナットの形態を有し、上記遊嵌孔12の収容孔部12b内において、ロッド状部材15の基端部に螺合している。この螺合は、荷重検知機構部16をロッド状部材15に取り付けるものであると共に、視認頭部31をアンカーボルト11の基端面11aに当接させるものである。そして、ロッド状部材15に螺合した機構本体32の端は、遊嵌孔12の収容孔部12bと孔本体12aとの間の段部12dに対し、十分なクリアランスを有し、ネック部33の破断に支障が生じないようになっている。
【0048】
また、機構本体32にも、視認頭部31と同様にDカットの副工具掛け部36が形成されている(図2参照)。この場合の副工具掛け部36は、ネック部33の破断により視認頭部31が機構本体32から離脱したときに、ロッド状部材15に残った機構本体32を取り去るためのものである。詳細は後述するが、これにより、ロッド状部材15に対する荷重検知機構部16の付け替えを可能にしている。
【0049】
ネック部33は、アンカーボルト11に想定を越える荷重が作用したときに破断する部位であり、視認頭部31と機構本体32との境界部分において断面略「V」字状に切削されている。すなわち、ネック部33は、想定を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受けて破断するように、その切込み深さが調整されている。言い換えれば、設定された引張り荷重(例えば許容引張り荷重)に合わせて、ネック部33の切込み深さが調整される。
【0050】
ところで、この種の金属製アンカー10(拡底アンカー)では、その引張り耐力が、アンカーボルト11の降伏点強度を踏まえた引張り強度(耐力)に基づいて設計される。すなわち、降伏点強度に達する荷重がアンカーボルト11に作用しても、アンカーボルト11が破断するわけではないが、繰り返し大きな荷重が作用する場合(例えば振動)や、常時吊り下げ荷重が作用する場合等では、適宜安全率を加味する必要がある。そこで、固定対象物S別に、降伏点強度の20~100%をアンカーボルト11の引張り強度とし、これに基づいてアンカーボルト11(金属製アンカー10)の設計が為されることが好ましい。
【0051】
設計上用いられる引張り強度には、長期許容引張り強度(降伏点強度の25~30%程度)や短期許容引張り強度(降伏点強度の40~50%程度)がある。例えば、固定対象物Sが駆動部を有するもの、固定対象物Sが風圧や振動を受けるもの、或いは固定対象物Sを吊るものである場合には、長期許容引張り強度を考慮することが好ましい。また、固定対象物Sとの関係でアンカーボルト11に金属疲労の可能性がある場合には、降伏点強度の20%を引張り強度とすることが好ましい。
【0052】
本実施形態の金属製アンカー10は、長期許容引張り強度を越える荷重、すなわち、長期許容引張り荷重(以下、単に「許容引張り荷重」という。)を越える荷重を、想定を越える荷重(想定外の荷重)としている。
【0053】
これを受けて、荷重検知機構部16のネック部33は、アンカーボルト11に許容引張り荷重(許容引張り強度)を越える荷重が作用したときに、破断するようになっている。ネック部33の破断は、同時に視認頭部31が機構本体32から離脱することであり、アンカーボルト11の基端から視認頭部31がなくなってしまうことで、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重、すなわち、想定を越える荷重が作用したことが、視覚を通じて検知されることとなる。
【0054】
ここで、図3を参照して、金属製アンカー10の施工手順について簡単に説明すると共に、荷重検知機構部16の機能について説明する。
この金属製アンカー10では、先ずロッド状部材15を組み込んだアンカーボルト11をアンカー穴AHに挿入し、打込みスリーブ22を打ち込んで、アンカーボルト11をコンクリート躯体Cに定着させる。次に、ロッド状部材15の基端部に荷重検知機構部16をネジ込み、トルクレンチを用いて、アンカーボルト11の基端面11aに対する視認頭部31の当接圧を調整する。ここで、固定対象物Sを持ち込み、そのベースプレートSaを固定ナットNによりコンクリート躯体Cの表面に固定する。これにより、固定対象物Sは、金属製アンカー10を介してコンクリート躯体Cに支持固定される(図3(a)参照)。
【0055】
このようにして、固定対象物Sをコンクリート躯体Cに支持固定した状態において、アンカーボルト11に想定を越える引張り荷重が作用した場合、すなわち、固定対象物Sに想定を越える風圧や振動が作用し、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用した場合、荷重検知機構部16のネック部33が破断する。具体的には、アンカーボルト11は、スチールやステンレススチール等で形成されており、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用すると、アンカーボルト11に微小な伸びが生ずる。
【0056】
アンカーボルト11が伸びると、アンカーボルト11に内蔵されているロッド状部材15に、軸方向の引張り力が作用し、視認頭部31が強く押圧されてネック部33が破断する。ネック部33が破断すると、視認頭部31は弾き飛ばされるようにして機構本体32から離脱する(図3(b)参照)。この視認頭部31の離脱により、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重(想定外の荷重)が作用したことが、視覚を通じて検知される。
【0057】
一方、この検知に基づいて管理者は、例えば以下のような対応策を講ずる。先ず、この想定外の荷重の原因を究明し、これを解消するよう努める。原因が解消でき、且つ想定外の荷重がアンカーボルト11の弾性限界以内のものであった場合には、ロッド状部材15から機構本体32を取り去り、新たに荷重検知機構部16を取り付ける。また、原因が解消でき、且つ想定外の荷重が、アンカーボルト11の弾性限界を越えるものであった場合には、金属製アンカー10を付け替える。一方、原因が解消できない場合には、生じた荷重に合わせて、金属製アンカー10の付け替えおよび追加を行う。
【0058】
[変形例]
次に、図4および図5を参照して、本来のアンカー機能を中心とする金属製アンカー10の変形例について説明する。
図4(a)は、第1変形例に係る金属製アンカー10であり、この金属製アンカー10も、いわゆる金属拡張アンカー(メカニカルアンカー)で構成されている。この場合、アンカーボルト11の先端部には、テーパー形状のコーンナット41が螺合する一方、打込みスリーブ22Aの先端部には、拡開スリーブ部42が一体に形成されている。打込みスリーブ22Aを打ち込むと、コーンナット41により拡開スリーブ部42が径方向外方に拡開する。拡開した拡開スリーブ部42は、拡径部AHaの周壁に向かって広がり、拡径部AHaに定着される。
【0059】
図4(b)は、第2変形例に係る金属製アンカー10であり、この金属製アンカー10は、いわゆる接着系アンカー(ケミカルアンカー)で構成されている。この場合、アンカーボルト11Aは、ボルト本体45と、ボルト本体45の先端部に設けられた太径部46と、で構成されている。また、ボルト本体45の周囲には、先端部を太径部46に溶着した保護スリーブ47が設けられている。そして、金属製アンカー10とアンカー穴AHとの間隙には、接着剤が48充填されている。この場合、接着剤48は、太径部46および保護スリーブ47に直接接触しており、ボルト本体45の伸びを許容した状態で、金属製アンカー10がコンクリート躯体Cに接着により定着される。
【0060】
図5は、第3変形例に係る金属製アンカー10であり、この金属製アンカー10は、コンクリート躯体Cを打設するときに埋め込まれる、いわゆる先付けのアンカーである。この場合、アンカーボルト11Bは、埋込みボルト51と、埋込みボルト51の先端に連なる埋込みヘッド52と、を有している。この金属製アンカー10(アンカーボルト11B)では、仮枠にアンカーボルト11Bを支持した状態でコンクリートが打設され、これにより金属製アンカー10がコンクリート躯体Cに定着される。
【0061】
そして、先付けおよび後付け(あと施工)を問わず、これら変形例の金属製アンカー10には、アンカーボルト11,11A,11Bにロッド状部材15および荷重検知機構部16が組み込まれている。
したがって、変形例を含む本実施形態(第1実施形態)の金属製アンカー10では、固定対象物Sを支持固定している状態で、アンカーボルト11,11A,11Bに想定を越える荷重、すなわち、許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、重検知機構部16の視認頭部31が離脱するため、アンカーボルト11,11A,11Bに許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。
【0062】
また、この検知を受けて、適宜想定外荷重の原因究明や対応策を講ずることができるため、金属製アンカー10の点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10の破壊(アンカーボルト11,11A,11Bの破断)を有効に防止することができる。
【0063】
[第2実施形態]
次に、図6を参照して、第2実施形態に係る金属製アンカー10Aについて説明する。この金属製アンカー10Aでは、アンカーボルト11を始めとする本来のアンカー機能を奏する部分は、第1実施形態と同様であるが、荷重検知機構部16A廻りの構造が、第1実施形態とは異なるものとなっている。この荷重検知機構部16Aは、ロッド状部材15の基端部に固定されると共に、アンカーボルト11の基端面11aに当接する視認片部61と、視認片部61のアンカーボルト11側に隣接してロッド状部材15に設けられた脆弱部62と、を有している。
【0064】
視認片部61は、第1実施形態の視認頭部31と同様の形態を有し、外部に露出した状態で、アンカーボルト11の基端面11aに当接している。視認片部61とロッド状部材15とは、一体に形成されていてもよいが、実施形態のものは、視認片部61の中心にロッド状部材15と同径の孔を形成し、これにロッド状部材15の先端を挿入、溶着して形成されている。第2実施形態では、視認片部61を固定したロッド状部材15を、アンカーボルト11の遊嵌孔12に挿入しネジ込んだ後、トルクレンチを用いて、アンカーボルト11の基端面11aに対する視認片部61の当接圧を調整する。
【0065】
脆弱部62は、視認片部61のアンカーボルト11側に隣接してロッド状部材15に形成されている。この場合の脆弱部62は、ロッド状部材15を断面半円状に切削したものであり、上記のネック部33と同様に、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受けて破断する。なお、この場合も、視認片部61は、目立つように蛍光色等で着色されていることが好ましい。
【0066】
このように、第2実施形態の金属製アンカー10Aでも、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、視認片部61が離脱するため、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。
また、この検知により、金属製アンカー10Aの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10Aの破壊(アンカーボルト11の破断)を有効に防止することができる。
【0067】
[第3実施形態]
次に、図7を参照して、第3実施形態に係る金属製アンカー10Bについて説明する。この金属製アンカー10Bでも、荷重検知機構部16B廻りの構造が、第1実施形態とは異なるものとなっている。この荷重検知機構部16Bは、外部に露出した状態で、アンカーボルト11の基端面11aに当接する視認体64と、視認体64を貫通してロッド状部材15の基端部に螺合し、視認体64をアンカーボルト11の基端面11aに当接させる破壊体65と、を有している。そして、視認体64は、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに破壊する。この場合、ロッド状部材15および破壊体65は、スチールやステンレススチール等で形成されており、これに対し視認体64は、脆弱なセラミック等で形成されている。
【0068】
視認体64は、円板状に形成され、軸心部に破壊体65が貫通する貫通孔64aを有している。視認体64に作用する許容引張り荷重(押圧力)に対し、視認体64における破壊の誘発は、その厚みで調整されるようになっている。また、アンカーボルト11の基端面11aには、その中心部に円形の浅溝11aaが形成され、この基端面11aに当接する視認体64の破壊が促進されるようになっている。
【0069】
破壊体65は、ロッド状部材15の基端部に取り付けられ、貫通孔64aと同径に形成された破壊体本体66と、外部に露出し、貫通孔64aよりも太径に形成されたヘッド部67と、破壊体本体66とヘッド部67との間に介設された先細りのテーパー部68とを有し、これらは一体に形成されている。ロッド状部材15に螺合する破壊体本体66は、袋ナットの形態を有している。ヘッド部67には、一文字或いは十字の工具掛け溝67aが形成されており、この工具掛け溝67aを利用して、アンカーボルト11の基端面11aに着座(当接)した視認体64を軽く押圧するように、破壊体65がロッド状部材15に螺合している。
【0070】
この状態で、破壊体65のテーパー部68は、その先端側が、視認体64の貫通孔64aにわずかに食い込むようにして当接している(7(a)参照)。アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用し、アンカーボルト11に伸びが生ずると、視認体64がアンカーボルト11の基端面11aと破壊体65とにより、強い挟持力を受ける。これにより、破壊体65のテーパー部68が、視認体64の貫通孔64aに強く食い込んで、貫通孔64aを押し広げるようにしてこれを破壊する(7(b)参照)。破壊された視認体64は、複数の断片に分割され、破壊体65の部分から離脱する。なお、この場合も、視認体64は、目立つように蛍光色等で着色されていることが好ましい。
【0071】
[変形例]
次に、図8を参照して、第3実施形態の金属製アンカー10Bにおける変形例について説明する。
図8(a)は、第1変形例に係る金属製アンカー10Bであり、この金属製アンカー10Bでは、破壊体65にテーパー部68はなく、破壊体65は破壊体本体66とヘッド部67とので一体に形成されている。一方、視認体64の貫通孔64aは、先細りのテーパー形状に形成されている。そして、破壊体65は、その下端が、アンカーボルト11の基端面11aに着座(当接)した視認体64を軽く押圧するように、ロッド状部材15に螺合している。この場合も、視認体64は、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受け、破壊体65が、テーパー形状の貫通孔64aに強く食い込むことで破壊される。
【0072】
図8(b)は、第2変形例に係る金属製アンカー10Bであり、この金属製アンカー10Bでは、破壊体65は、テーパー部68を有するナットの形態を有しており、アンカーボルト11の基端面11aから突出したロッド状部材15の基端部に螺合している。一方、視認体64は、第3実施形態のものと同一の形態を有している。この場合も、視認体64は、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受け、破壊体65のテーパー部68が、貫通孔64aに強く食い込むことで破壊される。
【0073】
このように、変形例を含む第3実施形態の金属製アンカー10Bでは、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、視認体64が破壊され飛び散ってしまうため、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。
また、この検知により、金属製アンカー10Bの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10Bの破壊(アンカーボルト11の破断)を有効に防止することができる。
【0074】
[第4実施形態]
次に、図9を参照して、第4実施形態に係る金属製アンカー10Cについて説明する。この金属製アンカー10Cでも、荷重検知機構部16C廻りの構造が、第1実施形態とは異なるものとなっている。この荷重検知機構部16Cは、ロッド状部材15の基端部に螺合すると共に、アンカーボルト11の基端面11aに当接する視認コマ71を有している。ロッド状部材15は、スチールやステンレススチール等で形成されており、これに対し視認コマ71は、ロッド状部材15よりも軟質の材料、例えば砲金やプラスチックで形成されている。そして、視認コマ71は、中心部に雌ネジ71aを形成した円板状の板ナットの形態を有している。
【0075】
第4実施形態のアンカーボルト11には、遊嵌孔12において収容孔部12bが無く、孔本体12aがアンカーボルト11の基端面11aまで達している。そして、ロッド状部材15の基端部は、アンカーボルト11の基端面11aからわずかに突出し、この突出部分において、アンカーボルト11の基端面11aに当接するように視認コマ71が螺合している。この場合には、ロッド状部材15の基端部がアンカーボルト11の基端面11aからわずかに突出するように、ロッド状部材15のネジ孔部12bへの螺合調整をしておいて、この突出部分に視認コマ71を螺合する。
【0076】
これにより、外部に露出した視認コマ71は、アンカーボルト11の基端に添設されるようにして視認可能となっている(図9(a)参照)。この状態から、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用すると、アンカーボルト11は伸びを生じ、視認コマ71は、ロッド状部材15の基端から抜け落ちる(図9(b)参照)。すなわち、視認コマ71は、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受け、そのネジ山が破損することでロッド状部材15の基端から抜け落ちる。なお、この場合も、視認コマ71は、目立つように蛍光色等で着色されていることが好ましい。
【0077】
[変形例]
次に、図10を参照して、第4実施形態の金属製アンカー10Cにおける変形例について説明する。
図10(a)は、第1変形例に係る金属製アンカー10Cであり、この金属製アンカー10Cでは、アンカーボルト11の基端面11aから突出したロッド状部材15の基端部に、カップ状視認コマ73が螺合している。カップ状視認コマ73は、カップを伏せたような形態で、アンカーボルト11の基端面11aに当接し、その底板部分でロッド状部材15に螺合している。このカップ状視認コマ73は、上記の視認コマ73と同様に砲金やプラスチックで形成されているが、上記の視認コマ73よりも大型で見易いものとなっている。この場合も、カップ状視認コマ73は、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受け、そのネジ山が破損することでロッド状部材15の基端から抜け落ちる。
【0078】
図10(b)は、第2変形例に係る金属製アンカー10Cであり、この金属製アンカー10Cでは、アンカーボルト11の基端面11aから突出したロッド状部材15の基端部に、視認コマ71に代えて止め輪75が装着されている。止め輪75は、薄手の金属やプラスチックで構成されている。この場合、止め輪75は、許容引張り荷重を越える荷重が作用したアンカーボルト11の伸びを受け、ロッド状部材15の基端から抜け落ちる。
【0079】
このように、変形例を含む第4実施形態の金属製アンカー10Cでは、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、視認コマ71、カップ状視認コマ73或いは止め輪75がロッド状部材15の基端から抜け落ちるため、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。
また、この検知により、金属製アンカー10Cの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10Cの破壊(アンカーボルト11の破断)を有効に防止することができる。
【0080】
[第5実施形態]
次に、図11を参照して、第5実施形態に係る金属製アンカー10Dについて説明する。この金属製アンカー10Dでも、荷重検知機構部16D廻りの構造が、第1実施形態とは異なるものとなっている。この荷重検知機構部16Dは、ロッド状部材15の基端部に螺合した受圧片部77と、受圧片部77とアンカーボルト11の基端面11aとの間に介設した加圧変色体78と、を有している。
【0081】
受圧片部77は、透光性(実施形態のものは透明)の硬質プラスチック等で形成され、アンカーボルト11の基端面11aとの間に加圧変色体78を挟み込むようにして、ロッド状部材15に螺合している。一方、加圧変色体78は、圧力を受けて、例えば白色から赤色に変色するフィルムやプラスチック片で構成されている。変色後の加圧変色体78は、色見本と比較することで、受けた圧力の大きさが確認される。
【0082】
図示では省略したが、実施形態のものは、ロッド状部材15の基端やアンカーボルト11の基端周面に色見本が貼着されており、受圧片部77越しに視認される加圧変色体78の色と、この色見本とが比較される。この場合の色見本の色は、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、加圧変色体78が受圧片部77から受ける圧力に対応している。すなわち、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用すると、アンカーボルト11の伸びを受けた受圧片部77が、加圧変色体78をアンカーボルト11の基端面11aに相対的に押圧することで、加圧変色体78が所定の色に変色する。
【0083】
このように、第5実施形態の金属製アンカー10Dでは、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、加圧変色体78が所定の色に変色するため、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。
また、この検知により、金属製アンカー10Dの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10Dの破壊(アンカーボルト11の破断)を有効に防止することができる。
【0084】
ところで、金属製アンカー10(10A,10B,10C,10D)の破壊には、アンカーボルト11の破断と、コンクリート躯体Cのコーン状破壊と、の2パターンが知られている。上記一連の実施形態の金属製アンカー10では、アンカー穴AHの拡径部AHaと定着機構部13等の協働(いわゆる「拡底アンカー」)により、アンカーボルト11がクサビ効果を発揮し、金属製アンカー10の破壊は、アンカーボルト11の破断が主なものとなる。しかし、コンクリート躯体Cが密度の低いコンクリートである場合、コンクリート躯体C内にジャンカが生じている場合、いわゆる「へりあき寸法」が十分でない場合等では、アンカーボルト11の破断に優先してコーン状破壊が生ずる場合がある。そこで、金属製アンカー10の2種類の破壊パターンを未然に防止するものとして、以下に説明するアンカーシステム80が構成されている。
【0085】
[アンカーシステム]
図12は、本実施形態のアンカーシステム80の構造図であり、図13は、コーン状破壊検知装置の分解図である。両図に示すように、このアンカーシステム80は、上記した金属製アンカー10(第1実施形態を例に図示)と、金属製アンカー10に隣接しコンクリート躯体Cに設けられたコーン状破壊検知装置90と、を備えている。このコーン状破壊検知装置90は、金属製アンカー10により、コンクリート躯体Cにコーン状破壊が発生したこと、具体的には、破壊の前段階となるコーン状のひび割れが発生したことを検知するものである。なお、金属製アンカー10の説明は上記に譲り、ここでは、主にコーン状破壊検知装置90について説明する。
【0086】
コーン状破壊検知装置90は、金属製アンカー10に隣接しコンクリート躯体Cに穿孔した下穴BHに設けられている。上記のアンカー穴AHに隣接するように且つ平行に穿孔された下穴BHは、上記の遊嵌孔12と略同径であって、アンカー穴AHと略同長に形成されている。また、下穴BHは、主体を為す長いストレート穴部BHaと、開口部BHc側の短い定着孔部BHbとから成り、同軸上においてストレート穴部BHaと定着孔部BHbとは、環状段部BHdを存して連通している。
【0087】
一方、固定対象物SのベースプレートSaには、後述するコーン状破壊検知装置90のスリーブ部92が遊挿される円形開口Saaが形成されている。そして、コーン状破壊検知装置90は、金属製アンカー10におけるロッド状部材15および荷重検知機構部16と類似の形態を有しており、その主要部品は、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0088】
図12および図13に示すように、コーン状破壊検知装置90は、下穴BHに挿入された状態でコンクリート躯体Cに定着される棒状アンカー91と、下穴BHの定着孔部BHbにおいてコンクリート躯体Cに定着されるスリーブ部92と、外部側からスリーブ部92に当接した状態で棒状アンカー91の基端部に設けられた破壊検知機構部93と、を備えている。
【0089】
棒状アンカー91は、上記のロッド状部材15と同様に、全ネジボルトで構成されたアンカー本体95と、アンカー本体95の先端部を、下穴BH(ストレート穴部BHa)の最奥部においてコンクリート躯体Cに定着させるアンカー定着部96と、を有している。アンカー本体95の先端部には、アンカー定着部96が螺合し、基端部には、スリーブ部92内に位置する破壊検知機構部93が螺合している。
【0090】
アンカー定着部96は、先端側に拡張部101aを有し、基端側がアンカー本体95に螺合する筒状本体101と、筒状本体101に挿入される拡張カラー102と、打ち込みにより拡張カラー102を介して拡張部101aを拡開させる拡張コーン103と、を有している(図12参照)。このアンカー定着部96では、拡張カラー102および拡張コーン103を組み込んだ筒状本体101を、下穴BHの最奥部に挿入し、打込み棒を用いて拡張コーン103を打ち込むようにする。
【0091】
拡張コーン103を打ち込むと、拡張カラー102が拡開し、拡開した拡張カラー102により筒状本体101の拡張部101aが拡開する。外方に広がった拡張部101aは、下穴BHの周面に圧接され、筒状本体101が下穴BHの最奥部に定着される。そして、定着された筒状本体101(アンカー定着部96)に、アンカー本体95の先端部が螺合されるようになっている。なお、筒状本体101の定着を確実なものとし、且つアンカー本体95の先端部が筒状本体101に接着される(緩み止め)ように、予め下穴BHの最奥部に接着剤(図示省略)を注入しておくことが好ましい。
【0092】
スリーブ部92は、スチールやステンレススチール等で形成され、内部に、後述する破壊検知機構部93の機構ボディ112を収容した状態で、下穴BHの定着孔部BHbに定着されている。スリーブ部92の外周面には、雄ネジ92a或いはリング状の凹凸が形成されており(図示のものは雄ネジ92a:図13参照)、その図示下半部を定着孔部BHbに打ち込むようにして、スリーブ部92がコンクリート躯体Cに定着される。また、この状態でスリーブ部92は、円形開口Saaの部分でベースプレートSaを貫通し、ベースプレートSaの表面から突出している。
【0093】
破壊検知機構部93は、上記の荷重検知機構部16と同様の形態を有している。すなわち、破壊検知機構部93は、外部側からスリーブ部92の基端面92bに当接する円板状の視認ピース111と、棒状アンカー91の基端部に螺合した機構ボディ112と、視認ピース111と機構ボディ112との間に介設された破断部113と、を有している。また、視認ピース111、機構ボディ112および破断部113は、荷重検知機構部16と同様にアルミニウム等の比較的脆い材料で一体に形成されている。そして、破断部113は、コンクリート躯体Cにコーン状破壊(コーン状のひび割れ)が発生すると、コンクリート躯体Cの表面に生ずる膨らみ(盛り上がり)を受けて破断するようになっている。
【0094】
視認ピース111は、スリーブ部92と同径に形成され、スリーブ部92の基端部と共に外部に露出し、且つスリーブ部92の基端面92bに当接している。したがって、外部に露出した視認ピース111は、スリーブ部92の基端に添設されるようにして視認可能となっている。この場合も、視認ピース111には、Dカットされた主工具掛け部115が形成されている(図12参照)。そして、破壊検知機構部93は、この主工具掛け部115に係合したトルクレンチにより、棒状アンカー91に対する最終の締付け調整が為される。
【0095】
機構ボディ112は、袋ナットの形態を有し、スリーブ部92内において棒状アンカー91の基端部に螺合している。この螺合により、視認ピース111がスリーブ部92の基端面92bに当接する。そして、棒状アンカー91に螺合した機構ボディ112の端は、上記下穴BHの環状段部BHdに対し、十分なクリアランスを有し、破断部113の破断に支障が生じないようになっている。
【0096】
破断部113は、コンクリート躯体Cにコーン状破壊が発生したときに破断する部位であり、視認ピース111と機構ボディ112との境界部分において断面略「V」字状に切削されている。すなわち、破断部113は、コーン状のひび割れの発生により、コンクリート躯体Cの表面が盛り上がり、スリーブ部92の外方への微小移動を受けて破断するように、その切込み深さが調整されている。そして、破断部113が破断することにより、コンクリート躯体Cにコーン状破壊が発生したこと、より具体的には破壊の初期段階となるコーン状のひび割れが発生したことが、外部から視認可能に検知される。
【0097】
ここで、図14および図15を参照して、アンカーシステム80における、コーン状破壊が発生したことを検知する機能、およびアンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを検知する機能について説明する。なお、前者の機能が発揮される場合と、後者の機能が発揮される場合とは通常択一的であるが、両機能が同時に発揮される可能性があることを付記しておく。
【0098】
図14は、コンクリート躯体Cにコーン状破壊が発生した状態を表している。すなわち、金属製アンカー10(アンカーボルト11)に大きな引張り荷重が作用し、アンカーボルト11の引張り耐力に対しコンクリート躯体Cの耐力が負けた状態である。この状態では、コンクリート躯体Cの内部において、アンカー穴AHの拡径部AHaを起点にコーン状のひび割れが生ずる。このひび割れは、徐々にコンクリート躯体Cの表面に向かって進行するが、一方でこのひび割れにより、コンクリート躯体Cの表面に盛り上がりが生ずる。
【0099】
コンクリート躯体Cの表面に盛り上がると、コンクリート躯体Cに定着されているスリーブ部92が外方に移動し、先端部を下穴BHの最奥部に定着されている棒状アンカー91に引張り力が作用する。この状態では、スリーブ部92により、破壊検知機構部93の視認ピース111が首つり状態となって破断部113が破断する。破断部113が破断すると視認ピース111が機構ボディ112から離脱し、コーン状破壊(コーン状のひび割れ)の発生が視覚を通じて検知される。
【0100】
図15は、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用した状態を表している。何らかの原因で固定対象物Sに想定を越える荷重が発生し、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用した状態である。この引張り荷重を受けたアンカーボルト11は、荷重に見合った軸方向の伸びを生ずる。アンカーボルト11が伸びると、先端部を遊嵌孔12のネジ穴部12cに固定されているロッド状部材15に引張り力が作用する。この状態では、アンカーボルト11により、荷重検知機構部16の視認頭部31が首つり状態となってネック部33が破断する。ネック部33が破断すると視認頭部31が機構本体32から離脱し、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことが、視覚を通じて検知される。
【0101】
このように、本実施形態のアンカーシステム80によれば、アンカーボルト11に想定を越える荷重、すなわち、許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、荷重検知機構部16の視認頭部31が離脱するため、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知することができる。一方で、コンクリート躯体C内にコーン状のひび割れが発生したときに、コーン状破壊検知装置90における破壊検知機構部93の視認ピース部111が離脱するため、コンクリート躯体C内にコーン状破壊が発生したことを、視覚を通じて検知することができる。
【0102】
また、これらの検知を受けて、適宜対応策を講ずることができるため、金属製アンカー10の点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカー10の破壊(アンカーボルト11の破断およびコンクリート躯体Cのコーン状破壊)を有効に防止することができる。
【0103】
なお、上述のように、破壊検知機構部93と荷重検知機構部16とが同様の形態を有していることから、破壊検知機構部93として、荷重検知機構部16の第2実施形態以降の各種の構造を適用可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0104】
10,10A,10B,10C,10D…金属製アンカー、11,11A,11B…アンカーボルト、11a…基端面、12…遊嵌孔、13…定着機構部、15…ロッド状部材、16,16A,16B,16C,16D…荷重検知機構部、31…視認頭部、32…機構本体、33…ネック部、35…主工具掛け部、36…副工具掛け部、61…視認片部、62…脆弱部、64…視認体、64a…貫通孔、65…破壊体、66…破壊体本体、67…ヘッド部、68…テーパー部、71…視認コマ、73…カップ状視認コマ、75…止め輪、77…受圧片部、78…加圧変色体、80…アンカーシステム、90…コーン状破壊検知装置、91…棒状アンカー、92…スリーブ部、92b…基端面、93…破壊検知機構部、95…アンカー本体、96…アンカー定着部、111…視認ピース、112…機構ボディ、113…破断部、AH…アンカー穴、AHa…拡径部、BH…下穴、BHa…ストレート穴部、BHb…定着穴部、C…コンクリート躯体、S…固定対象物、Sa…ベースプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15