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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/03 20060101AFI20231208BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20231208BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20231208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231208BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K3/11
C08K3/105
C08K3/013
C08L33/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021138591
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2022104786
(43)【公開日】2022-07-11
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0186502
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521380281
【氏名又は名称】セヤン・ポリマー
【氏名又は名称原語表記】SEYANG POLYMER
【住所又は居所原語表記】8 LOT, NAMDONG‐GONGDAN 130BLOCK, 64, NAMDONGDAERO 49BEON‐GIL, NAMDONG‐GU, INCHEON, 21700 REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ハ,テ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュク・ジン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソオ・ミン
(72)【発明者】
【氏名】ナ,ホン・スン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,スン・ファ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨウン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジン・キュ
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/117607(WO,A1)
【文献】特開2012-087171(JP,A)
【文献】特開2007-138143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/
C08K 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
ネマチック相の液晶ポリエステル樹脂を65重量%以上85重量%以下、
二硫化モリブデンを1重量%以上5重量%以下、
バリウム化合物を2重量%以上10重量%以下、及び
充填剤を12重量%以上30重量%以下の濃度で含み、
前記充填剤は、(A)α-オレフィンに由来する繰り返し単位と、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位を構成する共重合体であるエラストマー、(B)非繊維状充填剤であるマイカ,カーボンブラックであり、
前記バリウム化合物は粉末状の化合物であり、前記粉末の平均粒径は1μm超過3μm以下であり、
15gのボールを15cmの高さから50回連続落下させて測定したくぼみ(dent)部分の平均表面積が600,000μm2以上900,000μm2以下となる、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂は、ヒドロキシ安息香酸(HBA)55~65モル%、ビフェノール(BP)15~25モル%、テレフタル酸(TPA)10~18モル%、及びイソフタル酸(IPA)3~8モル%を含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂は、モノマー物質として芳香族化合物のみからなる全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記バリウム化合物は、硫酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化バリウム一水和物、無水水酸化バリウム、塩化バリウム、無水塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムからなる群から選択された一つ以上である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを含む低粉塵特性の電子部品素材に関するものである。具体的には、モリブデン化合物及びバリウム化合物を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を製造し、これを電子部品素材に適用することにより、低粉塵特性を向上させることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐熱、高流動特性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物は、各種電気/電子機器の素材として広く使用されており、ノートパソコンなどのような小型ポータブル電子機器は、次第に性能が優秀になり、厚さが薄く軽くなる傾向にあることから、優れた成形性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物の使用量は増加している。
【0003】
電子部品、特に、レンズがある光学機器の場合、塵やホコリのような粉塵がレンズに付着すると光学特性が著しく低下しかねない。粉塵が発生できる事例として、カメラオートフォーカス機能の発揮時に、カメラモジュール部品のスライド移動により部品の表面から粉塵が発生する可能性があり、機器の衝撃及び落下時にも粉塵が発生しやすい。
【0004】
これにより、電子機器内部に使用される周辺電子機器と付属品の小型化が不可欠で、粉塵に敏感な電子部品の素材として半導体及び光学素材部品に適用できる低粉塵素材の必要性が浮上している。
【0005】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、高耐熱、高流動特性で次世代素材として脚光を浴びており、この特性とともに、外部からの衝撃によって発生する粉塵の数と粒子の大きさを最小化することができる方法が課題として残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モリブデン化合物及びバリウム化合物を液晶ポリエステル樹脂に含ませ、これを摩擦及び外部からの衝撃によって発生する粉塵に敏感な電子部品素材に適用して、粉塵を最小化することができる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂を65重量%以上85重量%以下;及び周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物を0.5重量%超過10重量%未満の濃度で含むことができる。
【0008】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物は、バリウム化合物を2重量%以上10重量%以下の濃度で追加的に含むことができる。
【0009】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物は、充填剤を12重量%以上30重量%以下の濃度で追加的に含むことができる。
【0010】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステル樹脂は、ヒドロキシ安息香酸(HBA)55~65モル%、ビフェノール(BP)15~25モル%、テレフタル酸(TPA)10~18モル%、及びイソフタル酸(IPA)3~8モル%を含むことができる。
【0011】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステル樹脂は、モノマー物質として芳香族化合物のみからなる全芳香族液晶ポリエステルとすることができる。
【0012】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる充填剤は、有機充填剤および無機充填剤を含むが、前記有機充填剤はオレフィン系共重合体からなり、前記無機充填剤はタルク、マイカ、ガラスフレーク、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレイ、珪藻土、珪灰石、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、カーボンブラック、及びグラファイトからなる群から選択された一つ以上とすることができる。
【0013】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化モリブデン(MoSe)、セレン化硫化モリブデン(MoSSe)、三酸化モリブデン(MoO)、二硫化タングステン(WS)、二セレン化タングステン(WSe)、セレン化硫化タングステン(WSSe)、及び三酸化タングステン(MoO)からなる群から選択された一つ以上とすることができる。
【0014】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるバリウム化合物は、硫酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化バリウム一水和物、無水水酸化バリウム、塩化バリウム、無水塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムからなる群から選択された一つ以上とすることができる。
【0015】
本発明の他の一実施形態として、粉塵の発生を最小化するための液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるバリウム化合物は、粉末状の化合物であり、前記粉末の平均粒径は、1μm超過3μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、モリブデン化合物を液晶ポリエステル樹脂組成物に添加して、衝撃による粉塵の発生を効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明で提供される液晶ポリエステル樹脂組成物は、外部からの衝撃及び内部摩擦によって発生する粉塵の数と粉塵粒子の大きさを最小化することができ、粉塵に敏感な電子部品素材に適用することができる。特に、カメラモジュール用部品に適用して、スマートフォン画素数、画質などの光学性能を向上させる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で使用される「液晶ポリエステル樹脂」とは、ポリマー内の分子鎖が溶融した状態で、互いに規則的に平行に配列されている特性を有する溶融したポリエステル樹脂を意味する。このように配列された分子の状態をよく液晶状態または液晶物質のネマチック(nematic)相と称し、これらのポリマー内の分子は、一般的に細く長く、平らで、分子の長鎖に沿って、非常に高い機械的強度、電気的特性、及び耐熱性を示す。
【0019】
これらの液晶ポリエステル樹脂の優れた機械的、熱的、電気的特性、難燃性などの本来の物性を維持しながらも、外部の衝撃による粉塵の発生を最小化することができる方案に対して鋭意研究した結果、特定の液晶ポリエステル樹脂にモリブデン化合物及び一定の粒径範囲を有するバリウム化合物を含むことにより、上述した粉塵の発生を最小化する効果を有する液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0020】
本発明の粉塵発生を最小化した液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂を65重量%以上85重量%以下;遷移金属化合物(例えばモリブデン化合物)を0.5重量%超過10重量%未満;バリウム化合物を2重量%以上10重量%以下;及び充填剤を12重量%以上30重量%以下の濃度で含むことができる。
【0021】
本発明に使用される液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で液晶性を示し、450℃以下の温度で溶融されることが好ましい。
【0022】
液晶ポリエステル樹脂は、その機械的強度と射出成形性を考慮すると、約10,000乃至300,000の重量平均分子量、好ましくは約10,000乃至50,000の重量平均分子量を有する。
【0023】
液晶ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10,000以下であれば、機械的強度が不良で成形品の破損が起こることがあり、重量平均分子量が300,000を超えると、樹脂の流動性の低下により、射出成形が困難である。
【0024】
本発明で使用される液晶ポリエステル樹脂は、組成物基準に65重量%以上85重量%以下、充填剤は、組成物基準に12重量%以上30重量%以下が含まれるが、液晶ポリエステル樹脂成分が65重量%未満または有機充填剤/無機充填剤成分が30重量%超過の場合は、流動性の低下によって微細射出成形が困難となり、前記の成分がそれぞれ85重量%超過または12重量%未満の場合は、強度と耐熱性が悪化する。
【0025】
本発明での液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、または液晶ポリエステルイミドからなる群から選択することができる。
【0026】
液晶ポリエステル樹脂は、モノマー物質として、芳香族化合物のみからなる全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。全芳香族液晶ポリエステル樹脂の典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、および芳香族ジアミンからなる群から選択された1種以上の化合物を重合(重縮合)させて製造した樹脂、複数の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて製造した樹脂、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、および芳香族ジアミンからなる群から選択された1種以上の化合物を重合させて製造した樹脂、およびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて製造した樹脂を挙げることができる。
【0027】
前記液晶ポリエステル樹脂は、1種以上の前記のモノマーを重縮合させて液晶ポリエステルのプレポリマーを形成した後、前記プレポリマーを固相重縮合させることにより製造することができる。固相重縮合反応時に発生する副産物は不活性気体を用いたパージや真空によって除去することができる。
【0028】
本発明において、液晶ポリエステル樹脂は、ヒドロキシ安息香酸(HBA)55~65モル%、ビフェノール(BP)15~25モル%、テレフタル酸(TPA)10~18モル%、及びイソフタル酸(IPA)3~8モル%を含む液晶ポリエステル組成物とすることができる。
【0029】
本発明の液晶ポリエステル樹脂のモノマーが、前記のモル%の範囲で構成されることによって流動性を確保することができ、周期律表の6族に属する元素を含む化合物及びバリウム化合物の重量%の範囲で粉塵の発生を最小化しながら製品の曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強度などの機械的物性を向上させることができる。
【0030】
本発明において、液晶ポリエステル樹脂に対する無機充填剤の配合は、ポリエステル樹脂の強度、剛性および硬度などの機械的特性、耐熱性および電気的特性を損なうことなく行う必要がある。
【0031】
本発明における無機充填剤は、一般的に、機械的強度、耐熱特性及び衝撃によるくぼみ(dent)特性を向上させるために使用される。本発明の無機充填剤の例としては、非繊維状充填剤であれば、どのような充填剤も利用することができるが、板状充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレークなどが挙げられる。また、粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレイ、珪藻土、珪灰石などのケイ酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなどの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;二硫化モリブデン;炭化ケイ素;窒化ケイ素;窒化ホウ素;チタン酸カリウム;カーボンブラック;グラファイト等を挙げることができる。これらの中で一つ以上を組み合わせて利用することができるが、本発明では、板状充填剤のマイカと、粒状充填剤の硫酸バリウム、二硫化モリブデン、及びカーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。
【0032】
本発明における有機充填剤は、オレフィン系共重合体を含めることで液晶ポリエステル樹脂組成物の外部衝撃に対する耐衝撃性を向上させることができる。オレフィン系共重合体として、α-オレフィンに由来する繰り返し単位と、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する繰り返し単位を構成する共重合体を挙げることができる。α-オレフィンは、代表的に、エチレンが主に利用され、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステルなどであり、特に、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【0033】
本発明では、前記有機充填剤と無機充填剤の組み合わせを介して、くぼみ(dent)特性を向上させ、外部からの衝撃及び摩擦により発生する粉塵の数と粉塵の粒子の大きさを最小化できる効果を示すことができる。
【0034】
有機充填剤と無機充填剤の組み合わせは、カーボンブラック、オレフィン系共重合体、硫酸バリウム、マイカ及び二硫化モリブデンをすべて含むように組み合わせることが最も好ましい。前記カーボンブラックは、遮光性を確保する目的で使用されるもので、カーボンブラックの配合量を1重量%以上5重量%以下で含むことができる。カーボンブラックの配合量が1重量%未満であれば、得られる液晶ポリエステル樹脂組成物の漆黒性が低下して遮光性を十分に確保することができず、5重量%を超えると、液晶ポリエステル樹脂組成物内に均一に分散されずに固まることで物性低下の原因となり、凝集物が粉塵で剥がれ落ちる可能性が高くなる。前記マイカは、板状形態を有する充填剤で機械的物性と耐熱性の向上及び成形品の寸法安定性を付与する役割をすることができる。
【0035】
本発明において、前記周期律表の6族に属する元素は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)であることができ、好ましくは、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)が使用される。
【0036】
本発明において、前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物は、活用範囲に制限があるわけではないが、モリブデン化合物またはタングステン化合物が使用される。好ましくは、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化モリブデン(MoSe)、セレン化硫化モリブデン(MoSSe)、三酸化モリブデン(MoO)、二硫化タングステン(WS)、二セレン化タングステン(WSe)、セレン化硫化タングステン(WSSe)、及び三酸化タングステン(MoO)からなる群から選択された一つ以上が使用され、より好ましくは、遷移金属の硫化物の形態である二硫化モリブデン(MoS)または二硫化タングステン(WS)、非常に好ましくは、二硫化モリブデン(MoS)が使用される。
【0037】
前記遷移金属の硫化物は、硫黄で構成された二層の間に遷移金属がサンドイッチされた層が積まれている層状構造をしており、層の間には弱いファンデルワールス力が作用して滑りやすく摩擦係数が低い特性を持つようになって、潤滑剤として広く利用される。
【0038】
特に、前記遷移金属硫化物の中で二硫化モリブデンは、プラスチックに添加して、摩擦抵抗が少なく強度が大きい複合体を得るか、または他の物質の表面に真空蒸着させて高温用自己潤滑複合材料を得るために使用される。
【0039】
本発明では、二硫化モリブデンを液晶ポリエステル樹脂に含ませることで、外部からの衝撃及び摩擦による粉塵の発生を最小化することができる。
【0040】
本発明を通じて得られる液晶ポリエステル組成物を粉塵に敏感な電子部品素材に適用させることで、外部からの衝撃及び摩擦によって発生する粉塵を抑制したり、発生する粉塵の数と粒子の大きさを最小化したりする効果を得ることができる。
【0041】
特に、カメラモジュール部品に適用させると、スマートフォン画素数、画質などの光学性能の向上に大きく寄与することができる。
【0042】
本発明では、前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物は、組成物基準に0.5重量%超過10重量%未満の範囲で、好ましくは0.5重量%超過5重量%以下の範囲で、より好ましくには、1重量%以上5重量%以下の範囲で、非常に好ましくは、1重量%以上3重量%以下の範囲で含むことができる。
【0043】
前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物の添加の有無によって曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度のような機械的物性の違いを見ることができる。
【0044】
前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物を含むと、前記のような機械的物性が向上することができるが、その含量が10重量%以上であれば、急激な機械的物性の減少を示すことができる。
【0045】
これらの急激な機械的物性の減少は、一定の含量範囲以上の過剰な添加によって押出加工性が低下し、前記遷移金属化合物が液晶ポリエステル樹脂組成物に適切に分散されなかったため、現れるものである。
【0046】
また、前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物の含量が10重量%以上であれば、粉塵の発生が却って増加する問題が発生する可能性がある。
【0047】
前記周期律表の6族に属する元素を含有する遷移金属化合物が0.5重量%以下の場合には、機械的物性に対する改善効果が十分に達成されず、発生する粉塵の量も増加するという問題が生じる可能性かある。
【0048】
本発明において、バリウム化合物は、硫酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化バリウム一水和物、無水水酸化バリウム、塩化バリウム、無水塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムからなる群から選択された一つ以上の、液晶ポリエステル樹脂組成物であることができる。
【0049】
本発明において、バリウム化合物は、組成物基準に、2重量%以上10重量%以下を含むことができる。
【0050】
バリウム化合物を添加して成形品の表面を均一にすることで、不均一な表面による衝撃と摩擦で発生する粉塵を減少させる効果がある。
【0051】
バリウム化合物が2重量%未満の場合、添加による効果が不十分であり、10重量%超過の場合、成形品の流動性に悪影響を及ぼして良好な機械的物性を得ることが困難になる問題が発生することができる。また、くぼみ(dent)特性が劣位し、外部からの衝撃及び摩擦によって粉塵で剥がれ落ちる可能性が存在する。
【0052】
本発明において、バリウム化合物は、粉末状の化合物であり、前記粉末の平均粒径は、1μm以上3μm以下の範囲、好ましくは、2μm以上3μm以下の範囲であることができる。
【0053】
本発明では、同一含量対比バリウム化合物の平均粒径によって機械的物性の違いが見られるが、相対的に平均粒径が小さいバリウム化合物を適用した組成物が発生する粉塵の量を最小化することができながら、製品の曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強度などの機械的物性を向上させる効果がある。
【0054】
バリウム化合物の平均粒径が1μm未満の場合、機械的物性が低下する問題が発生することができ、平均粒径が3μmを超える場合、製品の表面が荒れて、カメラモジュール部品のスライド移動時に発生する摩擦により、粗い表面で粉塵が発生する確率が非常に高くなる問題点が発生することができる。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後、射出機を使用して試験片を製作して評価した項目には、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度を含むことができる。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後、射出機を使用して試験片を製作して評価した曲げ強度は、140MPa以上160MPa以下の範囲を示すことができる。
【0057】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後、射出機を使用して試験片を製作して評価した曲げ弾性率は、12GPa以上14GPa以下の範囲を示すことができる。
【0058】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後、射出機を使用して試験片を製作して評価した衝撃強度は、640J/m以上1,200J/m以下の範囲を示すことができる。
【0059】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を乾燥させた後、射出機を使用して試験片を製造した後、くぼみ(dent)模写試験機を使用してくぼみ(dent)部分の表面積(μm)を測定し、前記表面積は600,000μm以上900,000μm以下の範囲を示すことができる。
【0060】
本発明は、上述した構成成分を含むことにより、粉塵の発生を効果的に最小化することができると同時に、機械的物性を向上させた液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものであり、前記周期律表6族の元素を含む遷移金属化合物及びバリウム化合物を含ませて、液晶ポリエステル樹脂組成物固有の機械的物性を維持しながら粉塵の発生を最小化した射出成形品を製造することができる。
【0061】
これからは、本発明を以下のような製造例及び実施例により詳細に説明し、本発明は、これらの製造例及び実施例により制限されないことに留意しなければならない。
【実施例
【0062】
〔製造例〕液晶ポリエステル樹脂の製造
1.200L容量の回分式反応器に無水酢酸13,000g(127.3モル)を投入して攪拌機を回転しながらモノマーパラヒドロキシ安息香酸(HBA)20,000g(144.8モル)、ビフェノール(BP)9,000g(48.3モル)、テレフタル酸(TPA)5,400g(32.6モル)、イソフタル酸(IPA)2,600g(15.7モル)を投入した後、無水酢酸14,100g(138.1モル)をさらに投入し、回分式反応器内で混合させた。
【0063】
2.酢酸カリウム触媒2.8gと酢酸マグネシウム触媒11.2gを添加し、反応器内部空間を不活性状態にするために窒素を注入した。
【0064】
3.反応器の温度を1時間かけて回分式反応器内の無水酢酸が還流される温度まで昇温させ、この温度で2時間のモノマーのヒドロキシ基をアセチル化し、アセチル化反応で生成された酢酸と、過度に投入されて未反応した無水酢酸を除去しながら、0.5℃/minの速度で320℃まで昇温させ、液晶ポリエステル樹脂を製造し、下部バルブを介して排出しながら冷却固化させて1次粉砕し、液晶ポリエステル樹脂32,000gを得た。
【0065】
4.微粒粉砕機を使用して2次粉砕し、回転式加熱装置に入れ、窒素を25L/minの流速で流しながら200℃まで2時間昇温し、前記200℃で2時間維持した後、285℃まで0.2℃/minの速度で昇温させた後、3時間維持することにより、重縮合反応を行った。
【0066】
5.重縮合反応後、液晶ポリエステル樹脂を得て、製造された樹脂の融点は330℃であった。
【0067】
実施例及び比較例の液晶ポリエステル樹脂組成物の重量%及び硫酸バリウムの粒径範囲の条件は、下記の表1、使用された具体的な成分は、下記の表2の通りである。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
〔実施例1〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1の組成に応じて製造)
1.液晶ポリエステル樹脂、カーボンブラック、マイカ、硫酸バリウム、エラストマー、及び二硫化モリブデンを、それぞれ前記の表1に列挙した各実施例1の条件で、それぞれ独立して配合した。
【0071】
2.前記の成分をペレット化させる二軸押出機(L/D:44、直径:30mm)で互いに溶融及び混練させ、溶融混練時の押出機のバレル温度は340℃、真空を介して副産物を除去した。
【0072】
3.前記溶融及び混練過程を通じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物は、銅ミキサー(チェイル産業機器、JITD-50KW)で30分間混合した後、熱風乾燥機(チェイル産業機器、JIB-100KW)150℃で2時間乾燥した。
【0073】
〔実施例2〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の実施例2の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、実施例2の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0074】
〔実施例3〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の実施例3の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、実施例3の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0075】
〔比較例1〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の比較例1の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、比較例1の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0076】
〔比較例2〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の比較例2の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、比較例2の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0077】
〔比較例3〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の比較例3の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、比較例3の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0078】
〔比較例4〕成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて製造された液晶ポリエステル樹脂組成物
前記の比較例4の各成分の重量%及び硫酸バリウム粒径範囲の条件に応じて、前記の実施例1を製造する1~3の過程を経て、比較例4の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0079】
〔評価例〕液晶ポリエステル樹脂組成物の機械的特性の測定
<曲げ強度及び曲げ弾性率の測定>
前記実施例1~3、比較例1~4の液晶ポリエステル樹脂組成物を使用して製造された試験片は、ASTM D790に応じて曲げ強度及び曲げ弾性率を評価し、評価結果は、下記の表3の通りである。横12.7mm、縦130mm、厚さ3.2mmの試験片で評価を行った。
【0080】
<衝撃強度の測定>
前記実施例1~3、比較例1~4の液晶ポリエステル樹脂組成物を使用して製造された試験片は、ASTM D256に応じてUn-Notched状態で衝撃強度を評価し、評価結果は、下記の表3の通りである。横12.7mm、縦64mm、厚さ3.2mmの試験片で評価を行った。
【0081】
<剥離測定>
前記実施例1~3、比較例1~4の液晶ポリエステル樹脂組成物を使用して製造された試験片を固定し、クロスカット評価方法を参考にして剥離される程度を確認した。クロスカット試験は、表面の剥離程度を分類する基準に応じて評価する方法で、一定の幅のグリッドに傷をつけた後、テープを利用して、試験片の表面を剥がして剥離される程度を評価する試験である。通常、自動車やタイルで使用される塗料、銅や金のような蒸着膜の分野で主に使用されている試験法であるが、本発明では、液晶ポリエステル樹脂組成物に適用して、表面の剥離される程度を評価した。横12.7mm、縦130mm、厚さ3.2mmの試験片で評価を行った。
【0082】
クロスカット分類基準(ASTM D3359)は、6段階に分類し、評価基準は下記の表4の通りである。
【0083】
剥離特性では、二硫化モリブデンを添加していない比較例1と0.5重量%添加した比較例2と対比すると、二硫化モリブデンの含量が増加するほど剥離される程度が低くなることが確認された。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
<くぼみ(dent)の評価及び測定>
1.前記実施例1~3、比較例1~4の液晶ポリエステル樹脂組成物を使用して射出機で成形した試験片を粉塵模写試験機に装着して15gのボールを15cmの高さから50回連続落下させた。
【0087】
2.前記の連続落下テストの後、光学顕微鏡(HIROX、XY-GB2)を介して3Dタイリング技法を使用して試験片のくぼみ(dent)部分の表面積(μm)を測定した。
【0088】
3.前記の1及び2の過程を一つのテストとして進行して、合計4回のテストを実行し、4回のテストでのくぼみ(dent)部分の表面積(μm)の平均を求めた。評価結果は、下記の表5の通りである。
【0089】
【表5】
【0090】
硫酸バリウムの平均粒径が2.3μmの実施例1の条件で測定したくぼみ(dent)部分の表面積(μm)測定値が、硫酸バリウムの平均粒径が1μmの比較例4の条件での測定値よりも小さいので、硫酸バリウムの粒径が1μm以上の時、衝撃による粉塵の発生が効果的に抑制できることを確認した。
【0091】
二硫化モリブデンを添加した実施例1~3の条件で測定したくぼみ(dent)部分の表面積(μm)測定値が、二硫化モリブデンを添加していない比較例1の条件での測定値よりも小さいので、二硫化モリブデンを1~5重量%添加すると、衝撃による粉塵の発生が効果的に抑制できることを確認した。
【0092】
ただし、比較例3で、二硫化モリブデンが10重量%含まれた時、くぼみ(dent)部分の表面積(μm)測定値が急激に増加したので、二硫化モリブデンが過剰に含まれると、却って粉塵の発生が増加する結果になることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物、及びこれを含む低粉塵特性の電子部品素材に利用できる。