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特許7398840AMPK抑制機能と亜鉛恒常性調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】AMPK抑制機能と亜鉛恒常性調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/427 20060101AFI20231208BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231208BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231208BHJP
   C07D 417/06 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
A61K31/427
A61P25/00
A61P29/00
C07D417/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022528544
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 KR2020015932
(87)【国際公開番号】W WO2021096270
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0145709
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522190959
【氏名又は名称】ジンキュア・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】ZINCURE CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヤンヒ
(72)【発明者】
【氏名】オム,ジェウォン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,サンウォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ボヨン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0167647(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104059060(CN,A)
【文献】特表2006-513143(JP,A)
【文献】細胞外亜鉛とミクログリアの機能制御,Biomedical Research on Trace Elements,2017年08月02日,Vol. 28, No.3,121-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/427
A61P 25/00
C07D 417/06
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化合物のいずれかを有効成分として含有する、多発性硬化症または脳脊髄炎の治療用の薬学的組成物:
(Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((3-ヒドロキシフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン、
(5Z)-2-[(3,4-ジメチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、
(2Z,5E)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((4-ブチルフェニル)イミノ)チアゾリジン-4-オン、
(Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((4-ブチルフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン、および
(Z)-5-((5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル)アミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸。
【請求項2】
前記化合物は、脱髄(demyelination)防止、神経保護効果(neuroprotective effect)、組織損傷の減少、アポトーシス(apoptosis)防止、または炎症性浸潤(Inflammatory infiltration)の抑制効果を有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
治療的に有効な量の請求項1に記載の薬学的組成物を、多発性硬化症に罹患した、ヒトを除く哺乳動物個体に投与することを含む、前記個体の多発性硬化症の治療方法
【請求項4】
治療的に有効な量の請求項1に記載の薬学的組成物を、脳脊髄炎に罹患した、ヒト以外の哺乳動物個体に投与することを含む、前記個体の脳脊髄炎の治療方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の利益に関する声明
本願は、中小ベンチャー企業部の支援を受け、TIPSスタートアップ支援プラン事業(サブジェクト名:亜鉛の恒常性を制御することを標的とした化合物を用いる多発性硬化症のポスト新薬の開発に関する研究、サブジェクト番号:S3136303)として、韓国のSMEのための情報処理推進機構の管理下で、本出願人によって出願された。
発明の分野
本発明は多発性硬化症治療用の薬学的組成物に関し、より詳しくは、AMPK抑制機能と亜鉛恒常性調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(multiple sclerosis、MS)は、人体内免疫系の制御異常と神経細胞の軸索(Axon)を包んでいるミエリン鞘(Myelin sheath)の破壊によって発生する中枢神経系の自己免疫炎症性疾患であり、多様な形態の神経毒性機序が関連している。このような多発性硬化症の治療には従来主にステロイドと免疫抑制剤が使用されてきたが、これは多発性硬化症の主な機序が自己免疫機序である事実に基づくことであって、身体の免疫機能を弱化することで疾患を調節しようとする試みである。しかし、最近までの研究によると、前記治療が疾患の急性期には著しい効果を有するが、長期的には疾患の再発を抑制するか減少する役割をすることができないと示されている。よって、効果が認められたのは、急性期に大量のステロイド製剤や免疫抑制剤などを一定間隔に数日にわたって注入する方法である。最近は再発を防止することで慢性的な退行を軽減するためにβ-グロブリン(beta-globulin)を脊髄液や皮膚を介して注入する治療が多く試みられており、現在までは大きな副作用なしに効果があると認められているが、前記治療は持続的に受けなければならないという短所がある。
【0003】
一方、体内の亜鉛(Zinc)の過度な蓄積或いは深刻な欠乏は神経細胞に毒性を示すが、亜鉛の恒常性消失は多発性硬化症の原因になり得ると報告されている。最近、多様な研究チームが多発性硬化症における亜鉛の恒常性に関する研究を行っており、それによって多様な結果物が発表されているが、現在までその殆どが亜鉛の恒常性消失に対する現象変化に関する結果に過ぎず、それに関する正確な機序の研究は足りない実情である。また、その測定法とサンプルの多様性などのため、多発性硬化症における亜鉛に関する研究はより綿密に行われる必要がある。それに関し、特許文献1は多発性神経硬化症の治療または予防用組成物及びそのスクリーニング方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許 第1324647号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記先行技術の場合、LeuSH(L-Leucinethiol)を利用してNADPH酸化酵素及び/またはMMPの活性を抑制するものであって、AMPK抑制機能及び亜鉛の神経毒性制御に基づく多発性硬化症治療用物質に関する技術はまだ未開拓の分野である。
本発明は前記のような問題点を含む様々な問題点を解決するためのものであって、副作用のない神経保護効果によって多発性硬化症を効果的に治療するAMPK抑制機能と、亜鉛恒常性の調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物を提供することを目的とする。しかし、このような課題は例示的なものであって、これによって本発明の範囲は制限されない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、下記化学式1の構造を有する化合物を有効成分として含有する、多発性硬化症または脳脊髄炎治療用の薬学的組成物が提供される:
【化1】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化2】
は単一結合または二重結合である。)
本発明の他の一観点によると、治療的に有効な量の下記化学式1の構造を有する化合物を多発性硬化症にかかった個体に投与するステップを含む前記個体の多発性硬化症の治療方法が提供される:
【化3】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化4】
は単一結合または二重結合である。)
【0007】
本発明のまた他の一観点によると、治療的に有効な量の下記化学式1の構造を有する化合物を脳脊髄炎にかかった個体に投与するステップを含む前記個体の脳脊髄炎の治療方法が提供される:
【化5】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化6】
は単一結合または二重結合である。)
【0008】
本発明の更に他の一観点によると、多発性硬化症の治療に使用される下記化学式1の構造を有する化合物が提供される:
【化7】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化8】
は単一結合または二重結合である。)
【0009】
本発明の更に他の一観点によると、脳脊髄炎の治療に使用される下記化学式1の構造を有する化合物が提供される:
【化9】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化10】
は単一結合または二重結合である。)
【発明の効果】
【0010】
前記のようになされる本発明のAMPK抑制機能と亜鉛恒常性調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物は、AMPK活性抑制機能と亜鉛恒常性調節機能を有する新規化合物であって、これを処理して多発性硬化症による脊髄の損傷と行動障害を克服することができる新しい治療剤の開発に活用することができる。もちろん、このような効果によって本発明の範囲は限られない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】本発明の一実施例による実験設計に対するタイムラインを示す図である。全体の実験過程に対し、1H10を1日1回腹腔内投与しており、免疫化後21日目にマウスを犠牲させた。
図1b】ビークル投与群に対するEAE臨床点数を分析したグラフである。
図1c】1H10投与群に対するEAE臨床点数を分析したグラフである。
図1d】ビークルまたは1H10-処理された免疫化マウスの百分率の疾患発生率を分析したグラフである。データは平均±SEMである(実験群当たりn=7-8)。*p<0.05。
図2a】偽手術(sham-operated)及びMOG35-55免疫化マウス(ビークルまたは1H10)の脊髄における代表的な微細グリア細胞/マクロファージ活性化を観察した顕微鏡写真である。F4/80(赤色)、DAPIで染色された核(青色)、脱髄領域は減少されたMBP染色で確認した(緑色)。スケールバー、50μm。
図2b】同じ脊髄(spinal cord)領域(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)で測定されたMBP免疫反応性パーセント領域を分析したグラフである。
図2c】同じ脊髄領域(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)で測定された微細グリア細胞/マクロファージ活性化等級を分析したグラフである。
図2d】ビークル-及び1H10-処理されたEAEマウスに併合された画像としてのIba-1-(緑色)及びCD68-(赤色)免疫陽性細胞の代表的な画像を示す図である。DAPI(青色)で染色された核。スケールバー、50μm。
図2e】同じ脊髄領域で決定されたIba-1の免疫蛍光強度の定量化(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)を分析したグラフである。*p<0.05。
図2f】同じ脊髄領域で決定されたCD68(F)の免疫蛍光強度の定量化(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)を分析したグラフである。*p<0.05。
図2g】CD68でIba-1の共局在散点図(Colocalization scatterplots)を分析したグラフである。
図2h】Mander’sオーバーラップ係数及びPearsonの相関係数(平均±SEM;グループ当たりn=4)を測定し、CD68を使用したIba-1の定量的共局在化パラメータを分析したグラフである。*p<0.05。
図3a】SMS単核細胞の浸潤を検出するためにクレシルバイオレット(cresyl violet)に対して染色された脊髄セクションを示す顕微鏡写真である。スケールバー、100μm。
図3b】初期免疫化後3週目にビークルまたは1H10で処理されたマウスにおける脊髄から浸潤された単核細胞の定量化(平均±SEM;グループ当たりn=5)を分析したグラフである。*p<0.05。
図3c】CD4、CD8、及びCD20のような細胞表面分子に対する抗体で染色されたT及びB細胞の発現を示す顕微鏡写真である。
図3d】偽手術またはEAEマウスで1H10処理または無処理された胸部脊髄におけるCD4、CD8、及びCD20免疫反応の強度を分析したグラフである。
図3e】偽手術またはEAEマウスで1H10処理または無処理された胸部脊髄におけるCD4、CD8、及びCD20免疫反応のパーセント面積を分析したグラフである。
図3f】ビークル-及び1H10-処理されたEAEマウスから脊髄におけるphospho-AMPKα 1/2と共同-標識されたCD8+T細胞を示す代表的な免疫蛍光画像である。
図3g】phospho-AMPKα 1/2とCD8の共局在散点図を分析したグラフである。
図3h】Mander’sオーバーラップ係数及びPearsonの相関係数(平均±SEM;グループ当たりn=4)を測定することでphospho-AMPKα 1/2を有するCD8の定量的共局在化パラメータを分析したグラフである。*p<0.05。
図4a】亜鉛の蓄積を探知するためにTSQで染色された脊髄部分を示す顕微鏡写真である。スケールバー、100μm。
図4b】内因性IgGを検出するために抗-マウス免疫グロブリンG(IgG)に対して染色された脊髄部分を示す顕微鏡写真である。スケールバー、100μm。
図4c】初期免疫化後3週目にビークルまたは1H10で処理されたマウスにおける脊髄からのIgGの漏出強度(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)を分析したグラフである。*p<0.05。
図4d】初期免疫化後3週目にビークルまたは1H10で処理されたマウスにおける脊髄からのIgG漏出のパーセント面積(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)を分析したグラフである。*p<0.05。
図4e】ビークル-及び1H10-処理されたEAEマウスで脊髄の白質におけるCD31+内皮細胞(赤色)及び内因性マウスIgG分子(緑色)の二重標識共焦点顕微鏡写真である。スケールバー、20μm。
図4f】脊髄の白質におけるMMP-9の発現を示す免疫蛍光画像である。スケールバー、50μm。
図4g】偽手術及びEAEマウスで1H10処理または無処理された胸部脊髄におけるMMP-9免疫反応性のパーセント面積(平均±SEM;グループ当たりn=3-5)を示すグラフである。*p<0.05。
図5a】本発明の1H10処理による亜鉛の恒常性調節を検証したものであって、蛍光物質であるFluoZin-3の発現を分析したグラフである。
図5b】本発明の1H10処理による亜鉛の恒常性調節を検証したものであって、自由亜鉛蛍光標識薬物(FluoZin-3)の発現を分析したグラフである。
図6a】EAE誘導後の1H10の長期保護効果を分析したものであって、実験設計を示すタイムラインである。1H10を全体期間中1日1回腹腔内投与した後、最初免疫化後45日目にマウスを犠牲させた。
図6b】EAE誘導後の1H10の長期保護効果を分析したものであって、ビークルに対するEAE臨床点数を分析したグラフである。
図6c】EAE誘導後の1H10の長期保護効果を分析したものであって、1H10投与群に対するEAE臨床点数を分析したグラフである。
図6d】EAE誘導後の1H10の長期保護効果を分析したものであって、ビークルまたは1H10-処理された免疫化されたマウスの百分率の疾患発生率を分析したグラフである。データは平均±SEM(グループ当たりn=6-8)。*p<0.05。
図7】亜鉛の恒常性消失は多発性硬化症の原因になり得ることを示す研究結果に対する図である。
図8】多発性硬化症(MS)の病因と亜鉛の可能な連関性を概略的に示す図である。
図9】本発明の1H10の構造類似性に基づき、これと類似した構造を有する類似化合物25個の神経保護効果を分析したグラフである。
図10】25個の新規化合物及び1H10処理による酸化ストレス(oxidative stress)の抑制効果を分析したグラフである。
図11】8つの新規化合物及び1H10処理による酸化ストレスの抑制効果を分析したグラフである。
図12】8つの新規化合物及び1H10処理による興奮毒性(excitotoxicity)の抑制効果を分析したグラフである。
図13】8つの新規化合物及び1H10処理によるアポトーシス(apoptosis)の抑制効果を分析したグラフである。
図14】25個の新規化合物及び1H10処理による亜鉛結合分析(Zinc binding assay)の結果を示すグラフである。
図15】25個の新規化合物及び1H10処理によるAMPKα2の抑制活性を分析したグラフである。
図16】4つの新規化合物及び1H10処理による自体毒性分析結果を分析したグラフである。
図17】本発明の1H10処理による脊髄組織のアストロサイトの活性を分析したものであって、GFAP(緑色)に対する免疫蛍光写真である。21日目に偽手術群及びMOG35-55免疫化されたマウス(ビークルまたは1H10)の脊髄の代表的なアストロサイトの異常な増加(astrogliosis)を観察した。スケールバー、50μ
図18】本発明の1H10処理による脊髄組織のアストロサイトの活性を分析したものであって、同じ脊髄領域で決定されたGFAPの免疫蛍光強度の定量化されたグラフである(平均±SEM;グループ当たりn=4)。*p<0.05対ビークル処理されたEAEマウス;#p<0.05vs.偽手術マウス(Kruskal-Wallisテストに続いてBonferroni post-hocテスト:Chi square=11.514、df=3,p=0.009)
図19】EAEマウス誘導後21日目の日にマウスの脊髄におけるサイトカインのうちIFN gammaとTNF alphaの発現を免疫蛍光染色によって観察したものであって(AJ)、ビークルで脊髄の白質でインターフェロンガンマ(IFN-γ、緑色)(C、H)及び腫瘍怪死因子アルファ(TNF-α、赤色)(D、I)の二重標識共焦点顕微鏡写真(AE)及び1H10処理されたEAEマウス(FJ)。DAPI(青色)(B、G)で染色された核。スケールバー、20μ
図20】EAEマウス誘導後21日目の日にマウスの脊髄におけるサイトカインのうちIFN gammaとTNF alphaの発現を免疫蛍光染色によって観察したものであって、同じ脊髄領域で決定されたIFN-γ及びTNF-αの免疫蛍光強度の定量化されたグラフである(平均±SEM;グループ当たりn=3-4)。*p<0.05対ビークル処理されたEAEマウス(ペアリングされていないStudent‘s t-test)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語の定義:
本文書で使用される「AMPK(AMP-activated protein kinase)」は、触媒αサブユニット(α1またはα2)、及び2つの調節サブユニット(β及びγ)からなる異形三量体タンパク質(heterologous trimer protein)である。AMPKは、細胞エネルギーレベルが低ければリン酸化されて活性化され、更に細胞代謝作用を調節して遺伝子発現を長期間にわたって調節してATPのレベルを回復する。AMP/ATP比の増加、細胞pH及び酸化還元状態の変化、及びクレアチン/ホスホクレアチン比の増加がAMPKを活性化すると公知されている。
【0013】
本文書で使用される「亜鉛(Zinc)」は中枢神経系を含む体全体に豊富に存在する物質であって、神経細胞のシナプス可塑性や学習に非常に重要な役割を担う。しかし、亜鉛の過度な蓄積或いは深刻な欠乏は神経細胞に毒性を示す。亜鉛の細胞内蓄積は急性神経疾患である脳卒中(Stroke)、癲癇(epilepsy)、外傷性脳損傷(traumatic brain injury)、低血糖症(hypoglycemia)の後に発生する神経損傷を起こす主な要因であり、慢性疾患であるアルツハイマー病で発生するプラークの生成を起こすことはすでによく知られている。
【0014】
発明の概要:
本発明の一観点によると、下記化学式1の構造を有する化合物を有効成分として含有する、多発性硬化症または脳脊髄炎治療用の薬学的組成物が提供される:
【化11】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化12】
は単一結合または二重結合である)。
【0015】
前記組成物において、前記置換されていないアルキル基はメチル、エチル、プロピル、またはブチルであり、前記置換されたアルキル基はフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル基、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、またはヨードメチル、ジヨードメチル、またはトリヨードメチルであり、前記ハロゲンはフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨード(I)である。
【0016】
前記組成物において、前記化合物は、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-{[2-トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-{[3-トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-[4-(メチルフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-[3-(メチルフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-アニリノ-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(2,4-ジメチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(2-クロロフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(3,4-ジメチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-[(2-メチルフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(2,3-ジメチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5E)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-(1-ナフチルアミノ)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(3-クロロフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5E)-2-アニリノ-5-[(5-ブロモ-1H-インドール-3-イル)メチレン]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5E)-2-[(4-ブチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-2-[(4-ブチルフェニル)アミノ]-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-2-[(3-メトキシフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5Z)-5-[(2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン]-2-[(4-メチルフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、(5E)-5-[(2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン]-2-[(4-メチルフェニル)アミノ]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、3-[(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ安息香酸、2-[(5E)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ安息香酸、(5Z)-2-[(2-クロロフェニル)アミノ]-5-[(2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン]-1,3-チアゾール-4(5H)-オン、2-ヒドロキシ-5-[(5Z)-5-(1H-インドール-3-イルメチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ安息香酸、(2E,5E)-5-((5-ブロモ-1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-(フェニルイミノ)チアゾリジン-4-オン、(2Z,5E)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((4-ブチルフェニル)イミノ)チアゾリジン-4-オン、(Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((4-ブチルフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン、(Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((3-メトキシフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン、(2E,5Z)-5-((2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-(p-トリルイミノ)チアゾリジン-4-オン、(2Z,5E)-5-((2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-(p-トリルイミノ)チアゾリジン-4-オン、(Z)-3-((5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル)アミノ)安息香酸、(E)-2-((5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル)アミノ)安息香酸、(2Z,5Z)-2-((2-クロロフェニル)イミノ)-5-((2-メチル-1H-インドール-3-イル)メチレン)チアゾリジン-4-オン、(Z)-5-((5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル)アミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸、または(Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-N-(ベンゾ[d][1,3]ジオキソ-5-イル)-4-メチレン-4,5-ジヒドロチアゾール-2-アミンである。前記組成物において、前記化合物は脱髄(demyelination)防止、神経保護効果(neuroprotective effect)、組織損傷の減少、アポトーシス(apoptosis)防止、または炎症性浸潤(Inflammatory infiltration)の抑制効果を有する。
【0017】
本発明の他の一観点によると、治療的に有効な量の下記化学式1の構造を有する化合物を多発性硬化症にかかった個体に投与するステップを含む前記個体の多発性硬化症の治療方法が提供される:
【化13】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化14】
は単一結合または二重結合である。)
【0018】
本発明のまた他の一観点によると、治療的に有効な量の下記化学式1の構造を有する化合物を脳脊髄炎にかかった個体に投与するステップを含む前記個体の脳脊髄炎の治療方法が提供される:
【化15】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化16】
は単一結合または二重結合である。)
【0019】
本発明の更に他の一観点によると、多発性硬化症の治療に使用される下記化学式1の構造を有する化合物が提供される:
【化17】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化18】
は単一結合または二重結合である。)
【0020】
本発明の更に他の一観点によると、脳脊髄炎の治療に使用される下記化学式1の構造を有する化合物が提供される:
【化19】
(前記式において、R乃至Rはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ基、ハロゲン、炭素数1乃至7の置換されたアルキル基または置換されていないアルキル基、炭素数1乃至7の置換されたアルコキシ基または置換されていないアルコキシ基、アミン基、カルボキシル基であるか、R及びRは共に-O-(CH-O-環または置換または非置換のベンゼン環を形成し(nは1乃至3の整数)、Rは水素またはメチル基であり、Rは水素またはハロゲンであり、前記化学式において
【化20】
は単一結合または二重結合である。)
【0021】
本発明の薬学的組成物において、前記化合物の有効量は患者の患部の種類、適用部位、処理回数、処理時間、剤形、患者の状態、補助剤の種類などによって変わり得る。使用料は特に限らないが、0.01μg/kg/day乃至10mg/kg/dayである。前記一日量は一日に1回、または適当な間隔をおいて一日2~3回に分けて投与してもよく、数日間隔で間欠投与してもよい。
【0022】
本発明の薬学的組成物において、前記化合物は、組成物の総重量に対して0.1-100重量%で含有される。本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常に使用する適切な担体、賦形剤、及び希釈剤を更に含む。また、薬学的組成物の製造には固体または液体の製剤用添加物を使用してもよい。製剤用添加物は有機または無機いずれであってもよい。
【0023】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ(cornstarch)、デンプン、タルク、ソルビット、結晶セルロース、デキストリン、カオリン、炭酸カルシウム、及びに酸化ケイ素などが挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニールエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガカント(tragacanth)、ゼラチン、シェラック(shellac)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム、デキストリン、及びペクチン(pectin)などが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが挙げられる。着色剤としては、通常医薬品に添加することが許可されているものであればいずれを使用してもよい。これらの錠剤、顆粒剤には糖衣、ゼラチンコーティング、その他必要に応じて適切にコーティングを実施してもよい。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤などを添加してもよい。
【0024】
本発明の薬学的組成物は、当業界で通常に製造されるいかなる剤形に製造されてもよく(例:文献[Remington’s Pharmaceutical Science、最新版;Mack Publishing Company、Easton PA)、製剤の形態は特に限らない。これらの剤形は全ての製薬化学に一般に公知の処方箋である文献[Remington’s Pharmaceutical Science、15th Edition、1975、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania 18042(Chapter 87:Blaug、Seymour)に記載されている。
【0025】
本発明の薬学的組成物において、前記化合物は経口または非経口に投与されるが、好ましくは、非経口投与で静脈内注入、皮下注入、脳室内注入(intracerebroventricular injection)、脳脊髄液内注入(intracerebrospinal fluid injection)、筋肉内注入、及び腹腔注入などで投与される。
【0026】
退行性神経系疾患である多発性硬化症を治療するためにこれまで多くの薬と治療法が開発されてきたが、未だに特に効果がない実情であって、多発性硬化症で最近現れている現象のように、有害な免疫細胞が脳に侵入することを防ぐために多数の研究者が研究を行っている。本発明者らは、亜鉛のキレート投与及び神経末端に位置して亜鉛のシナプス小胞(synaptic vesicle)への移動を調節するZinc Transporter 3(ZnT3)を遺伝的に除去したマウスにおいて多発性硬化症の症状と脊髄白質の組織損傷が抑制されたという結果を次々と発表しており、亜鉛と多発性硬化症への関心が高まっている実情である。また、このような過程でNADPH oxidaseの活性化による活性酸素の生成が多発性硬化症で発生するミエリン鞘の2次的な損傷に関わることが報告されている。よって、最近発表された様々な研究結果によると、亜鉛が細胞末端から分泌された後、細胞質内に蓄積され、それによってタンパク質からの遊離による亜鉛の毒性のためミエリン鞘が損傷することが知られている(図7)。本発明の先行研究では亜鉛除去剤(Clioquino、CQ)の投与及び亜鉛のシナプス小胞への移動に関わるzinc transporter 3(ZnT3)の遺伝子を除去した動物で脱髄と微細グリア細胞の活性を減少させ、脳炎を誘発するT細胞の浸透抑制などを伴うEAEの症状を改善したことを報告しており、このような過程にNADPH oxidaseの活性化による活性酸素の生成などが多発性硬化症で発生するミエリン鞘の2次的な損傷に関わるという事実を報告したる。前記先行研究はそれぞれ以下のようである:(Choi BY et al.,Neurobiol Dis.Jun;54:382-91.J Neuroinflammation.May 28;12:104.2015,Neurobiol Dis.Oct;94:205-12.2016)。
【0027】
また、亜鉛神経毒性、興奮毒性などの神経細胞損傷の過程はATPの減少とAMPの増加現象が伴ってAMPによって活性化されるAMPK活性が著しく示されるが、この際、増加されたAMPK活性を下げたら神経細胞の損傷が減ることが分かった(Eom JW et al,Mol Brain.Feb 9;9:14,2016)。本発明者らは脳神経細胞損傷の過程でAMPKに関する細胞死の機序を究明する研究を行い、関連機序を2016年Molecular Brain(IF:3.410)に報告している。また、最近発表された様々な研究結果によると、認知性、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、多発性硬化症などの神経退行性疾患において、AMPKの活性が中枢神経系の損傷及び病的関与と関わっていると報告されている。そこで、本発明者らは代謝調節に最も核心的なAMPK中心の神経毒性機序の研究を行い、前記先行研究に基づいて新規のAMPK抑制剤に対する研究開発を行って、新しい化合物をスクリーニングしてAMPK抑制剤((Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((3-ヒドロキシフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン、「1H10」と命名する、化学式2)を発掘したが、次にこの薬物の作用機序(Mechanism of action、MOA)の研究過程で有効物質が細胞内で自由状態の亜鉛の濃度を調節することで、脳卒中によって発生する亜鉛毒性、興奮毒性、酸化ストレスなどの多様な原因によって発生する神経細胞死を減少することを報告している(Eom JW et al., ACS Chem Neurosci.May 15;10(5):2345-2354, 2019)(図8)。
【0028】
【化21】
【0029】
本発明は、多発性硬化症の動物モデルである自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導した後、前記1H10が多様なレベルで疾患の発病を抑制できることを示す。詳しくは、1H10の処理によって行動実験で優れた症状の緩和効果を示しており、発病率も抑制された。また、脊髄の脱髄現象、免疫細胞の活性が減少されており、脱髄が進行された部位に免疫細胞が浸潤することを防止したことを確認した。これは前記1H10薬物のAMPK活性の抑制機序と関わっていることを示唆している。併せて、脊髄の白質内への亜鉛の蓄積も1H10処理によって減少されて、MMP-9の抑制とそれによって免疫細胞が蓄積されることを防止することを確認しており、1H10が亜鉛に直接作用してキレート化することを観察した。最後に、45日まで投与された長期的なEAEモデルでも1H10の効果が卓越であることを立証した。
【0030】
よって、本発明のAMPK抑制機能と亜鉛恒常性調節機能に基づく多発性硬化症治療用の薬学的組成物は、AMPK活性抑制機能と亜鉛恒常性調節機能を有する新規化合物を処理して多発性硬化症による脊髄の損傷と行動障害を克服することができる新しい治療剤を提供する。前記新規薬物は神経細胞の損傷過程で亜鉛キレート(chelator)として作用するが、特に1H10の場合、キレート化だけでなく亜鉛イオノフォアとしても作用するため、積極的な亜鉛恒常性調節物質として開発することができる。
【0031】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下に開示される実施例に限らず、互いに異なる様々な形態に具現されるものであって、以下の実施例は本発明の開示を完全にし、通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。
【0032】
一般的方法
公示の材料
本発明で使用した実験動物は、DBL Co., Ltd.から供給された8週齢のC57BL/6系統の雌マウスである。このようなマウスは温度と湿度が調節される環境で飼育されており、飼料と水は自由に供給した。
【0033】
大脳皮質神経細胞(Cerebral Cortex Neurons)の培養
本発明で使用したマウス大脳皮質神経細胞は、マウス胚の脳から抽出培養して5%ウシ胎児血清(FBS)と5%ウマ血清(HS)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Gibco,Grand Island,NY,US)を利用し、95%湿度、5%CO、及び37℃温度条件で培養した。前記細胞の活性化と分化のために24-wellの組織培養プレートで2×10細胞の密度で増殖しており、亜鉛及び化合物を処理する前にはFBSとHSのないMEM培地で培養した。
【0034】
多発性硬化症の動物モデルの製造
本発明者らは、C57BL/6雌マウスにMyelin oligodendrocyte glycoprotein 35-55(MOG35-55)ペプチド抗原を皮下注射して、多発性硬化症の動物モデルである自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis,EAE)を誘導した(図1a)。そのために、まずMOG35-55(Ana spec,USA)とComplete freund’s adjuvant(CFA)を用意し、MOG35-55(2mg/ml)はPhosphate buffered saline(1×PBS,Sigma)を入れて溶かした後、前記CFAは25ml Incomplete freund’s adjuvant(IFA.Sigma)を50ml conical tubeに入れた。次に、フードでMycobacterium tuberculosis H37Ra(100mg;Difco,USA)アンプルを用心に割って加えた後、ボルテックスして冷蔵保管した。次に、マウスの両脇にMOG35-55及びMycobacterium tuberculosis H37Raを含有するCFAを同じ量で混合し注射した。そして、Pertussis toxin(4μg/ml,List Biological Laboratories,USA)を免疫当日と免疫後2日目に腹腔に注射した。前記免疫後、毎日マウスの体重と臨床症状を測定しており、EAEの進行程度は特定の臨床症状を基準に評価した。それに関する詳細な内容は以下に記載されている。
【0035】
EAEの臨床的症状評価
本発明で使用したEAEの臨床的症状評価は、先行研究(Jones et al. J Neuroimmunol.Aug 13;199(1-2):83-93.2008)に基づいて評価した。詳しくは、EAEの臨床的症状評価のために、マウスの動作は下記基準によって毎日評価された。score 0、症状なし;score 0.5、尻尾が部分的に麻痺する、または歩きが若干異常になる;score 1.0、尻尾が完全に麻痺する、または尻尾が部分的に麻痺する、並びに後足が若干弱くなる;score 1.5、尻尾が完全に麻痺する、並びに後足が若干弱くなる;score 2.0、尻尾が麻痺する、並びに後足が普通に弱くなる(ケージの上で歩くときに足がよくはまり込むことで証明する);score 2.5、後足に重さは感じられないが若干の動きがある;score 3.0、後足が完全に麻痺する;score 3.5、後足が麻痺する、並びに前足が若干弱くなる;score 4.0、四肢が完全に麻痺したが頭は動く;score 4.5、瀕死状態、score 5.0、死亡。
【0036】
クレシルバイオレット染色
本発明らは、EAE誘導後21日目の日にマウスをウレタンで麻酔した後、4%パラホルムアルデヒドを心臓に灌流して脊髄を固定し、前記脊髄を摘出した後、脊髄における単核細胞(mononuclear cell)の浸潤をクレシルバイオレット染色によって観察した。そのために、まず脊髄をクリオスタットで厚さ30umで薄切りして切片を得た後、ゼラチンでコーティングされたスライドに載せ、30分間室温で乾燥させた。100%、70%エタノール溶液に順番にそれぞれ3分間浸した後、0.1%クレシルバイオレット溶液に15分間染色した。次に、過度に染色された部分を除去するために流水に水洗し、50%、70%、80%、90%、100%エタノール溶液にそれぞれ3-5分間脱水過程、キシレンに15分間2回ずつ透明化過程を経た後、封入し光学顕微鏡で観察した。
【0037】
免疫組織化学法
本発明者らは、EAEを誘導後21日目の日にマウスをウレタンで麻酔した後、4%パラホルムアルデヒドを心臓に灌流して脊髄を固定し、前記脊髄を摘出した後、脊髄内の免疫細胞の浸潤を観察するためにT細胞のマーカーとして使用されるCD4、CD8、及びB細胞のマーカーとして使用されるCD20の抗体を使用して免疫組織化学法を行った。凍結切片は、内因性ペルオキシダーゼを除去するために3%過酸化水素に15分間常温で反応させた後、1次抗体であるrat anti-CD4(1:50,BD Bioscience,CA,USA),CD8(1:50,BD Bioscience),goat anti-CD20(1:50,SantaCruz Biotechnology,USA)を4℃冷蔵で15時間反応させた。次に、biotinylated anti-rat IgGまたはanti-goat IgG(1:250,Vector Laboratories,USA)を室温で2時間反応させた。次に、avidin-biotin peroxidase conjugate(ABC regent,Vector Laboratories)で2時間室温で反応させており、免疫反応が終わった組織は3,3’-ジアミノベンジジン(DAB,Vector Laboratories)溶液で発色させた。また、EAEによって発生する血液脳関門の損傷を測定するために、血清内の免疫グロブリンG(IgG)の漏出を確認した。前記IgGは血漿に最も豊富な免疫グロブリンであって、それに確認することが容易なため脊髄内のIgGの存在は血液脳関門の損傷及びタンパク質の血管外漏出を監視するのに使用される(Ruth and Feinerman,Acta Neuropathol.76(4):380-7.1988)。次に、凍結切片は室温で2時間biotinylated horse anti-mouse IgG(1:250,Vector Laboratories,USA)を反応させた後、前記と同じ方法でABC regentに反応させてから、DAB溶液で発色させた。各ステップの間はPBSで十分に洗浄し、エタノールとキシレンの脱水及び透明化過程を経た後、封入し光学顕微鏡で観察したが、マウス1匹当たり3~5個以上の視野でImage Jプログラム(National Institute of Health(NIH),USA)を利用して分析した。
【0038】
免疫蛍光染色
本発明者らは、EAEを誘導後21日目の日にマウスをウレタンで麻酔した後、4%パラホルムアルデヒドを心臓に灌流して脊髄を固定し、前記脊髄を摘出した後、組織の脱髄現象及び微細グリア細胞/マクロファージの活性を検査するために、myelin basic protein(MBP)及びF4/80(Microglia/Macrophage)抗体で免疫蛍光染色を実施した。また、損傷した脊髄の白質部分に強く活性化された微細グリア細胞/マクロファージの表現型(phenotype)を分析するために、微細グリア細胞/マクロファージのマーカーとして使用されるIba-1(Ionized calcium binding adaptor molecule-1)及びCD68(Cluster of Differentiation 68)抗体を利用して二重免疫蛍光染色を行った。併せて、脊髄内に浸潤するT細胞において、AMP-activated protein kinase(AMPK)の活性がこのような細胞の生存にいかなる影響を及ぼすのかを調べるためにCD8とphospho-AMPK抗体を利用して二重免疫蛍光染色を行っており、Matrix metallopeptidase 9(MMP-9)の活性を比較分析するためにMMP-9の抗体を利用して免疫蛍光染色を実施した。脊髄内アストロサイトの活性を検査するためにglial fibrillary acidic protein(GFAP)抗体を利用して免疫蛍光染色を行っており、tumor necrosis factor(TNF) alpha、Interferon(IFN) gammaなどのサイトカインの発現を比較分析するためにTNF-αとIFN gamma抗体を利用して二重免疫蛍光染色を行った。上述した免疫組織化学法と同じ方法で、凍結切片は内因性ペルオキシダーゼを除去するために3%過酸化水素に15分間常温で反応させた後、1次抗体であるrat anti-MBP(1:200,Abcam,UK),F4/80(1:100,eBioscience,USA),goat anti-Iba1(1:500,Abcam),CD68(1:100,Bio-Rad Laboratories,USA),CD8(1:50,BD Bioscience),pAMPK(1:100,Abcam),MMP-9(1:100,Abcam)を4℃冷蔵で15時間反応させた。次に、それぞれの1次抗体のホストに合うAlexa Fluor 488-,594-,647-conjugated secondary antibodies (1:250,Invitrogen,USA)を室温で2時間反応させた。各ステップの間はPBSで十分に洗浄し、キシレンの透明化過程を経た後、DPXで封入し共焦点レーザー走査型顕微鏡(Confocal Laser Scanning Microscope,Carl Zeiss LSM710, Germany)で観察したが、マウス1匹当たり3~5個以上の視野でImage Jプログラム(National Institute of Health(NIH),USA)を利用して分析した。
【0039】
亜鉛染色法(TSQ)
本発明者らは、EAE誘導マウスの臨床的症状評価が終わった後、脊髄組織を亜鉛染色法であるN-(6メトキシ8キノリル)パラトルエンスルホンアミド(TSQ)組織化学法によって検査した。正常の脊髄において、亜鉛は灰白質(gray matter)の神経軸索の末端に存在し、白質では極少量のみ観察される。EAE誘導後21日目の日にマウスを5%イソフルランで麻酔した後、灌流せずに脊髄を摘出して、ドライアイスで急速冷却した。固定されていない凍結組織は-15℃クライオスタットで厚さ20μmで薄切りして切片を得た。凍結切片を直ちにゼラチンでコーティングされたスライドに載せ、30分間室温で乾燥させた後、TSQ溶液に60秒間浸した後、0.9%生理食塩水で60秒間洗浄する。TSQ蛍光度は360nm/490nmの波長を有するOLYMPUS IX70蛍光顕微鏡を使用して監察しており、INFINITY3-1 CCD冷却カラーデジタルカメラ(Lumenera Co.,Canada)とINFINITY分析ソフトウエアを使用して評価した。
【0040】
亜鉛キレート化
本発明者らは、本発明の一実施例による1H10((Z)-5-((1H-インドール-3-イル)メチレン)-2-((3-ヒドロキシフェニル)アミノ)チアゾール-4(5H)-オン)の処理による亜鉛キレート化の可能性を検証するために、自由亜鉛に結合したら蛍光を示す物質であるFluoZin-3を培養されたラットの神経細胞に処理し、亜鉛(300μM)に15分間露出させ、前記亜鉛を除去した後、60分間神経細胞内の亜鉛濃度を測定した。または、試験管に20μMの亜鉛(ZnCl)及び亜鉛と結合したら蛍光を示すNewPort Green DCF蛍光物質を加えた後、本発明の1H10を濃度別に処理し、亜鉛キレートであるクリオキノール(clioquinol)とカルシウムイオノフォアであるイオノマイシンを対照群として使用した。
【0041】
実験例1:動物モデルの臨床的症候及び発病率
本発明の一実施例によって多発性硬化症の動物モデルである自己免疫性脳脊髄炎を誘導した結果、マウスに深刻な行動障害が発生したが、本発明の1H10を投与した実験群では前記行動障害が著しく抑制されると示された(図1b及び図1c)。また、EAEマウスの臨床的症状を評価した結果、1H10を投与した実験群では臨床的症状だけでなく発病率も抑制されることが観察された(図1c)。
前記結果は、本発明の1H10がミエリン乏突起膠細胞(oligodendrocyte)糖タンパク質35-55(MOG35-55)-誘導されたEAEの臨床的症候及び疾病の進行を改善することを示唆している(図1d)。
【0042】
実験例2:微細グリア細胞/マクロファージの活性
本発明者らは、脊髄組織の脱髄現象及び微細グリア細胞/マクロファージの活性を免疫蛍光染色によって観察した。その結果、正常組織の場合、緑色に染色されているはずの脊髄の白質がEAEマウス組織では緑色の染色が低下しており、微細グリア細胞/マクロファージの活性を示す赤色が強く示されていることを確認した(図2a)。前記MBPの減少は、神経の軸索を覆っているミエリンが損傷したことを意味する(図2b)。しかし、1H10を持続的に投与した動物の脊髄では前記EAE-誘導脱髄及び微細グリア細胞/マクロファージの活性が著しく減少すると示された(図2c)。
【0043】
また、微細グリア細胞/マクロファージの表現型を分析するために二重免疫蛍光染色を行った結果、Iba-1とCD68が同時に発現したら活性化されたM1 typeの微細グリア細胞/マクロファージを意味するが(図2d)、EAE誘導後1H1投与群で活性化されたM1 typeの微細グリア細胞/マクロファージが著しく減少したことを確認した(図2e乃至図2h)。
【0044】
実験例3:アストロサイトの活性
本発明者らは、脊髄組織のアストロサイトの活性を免疫蛍光染色によって観察した。その結果、EAEを誘導した実験群の脊髄白質(white matter)でアストロサイトの活性を示す緑色が強く分布されているのに対し、1H10を投与した実験群ではアストロサイトの活性が著しく抑制されていることを確認した(図17及び図18)。
【0045】
実験例4:AMPKのリン酸化及びEAE-誘導免疫細胞の浸潤
本発明者らは、EAEマウス誘導後21日目の日に、前記マウスの脊髄における単核細胞の浸潤をクレシルバイオレット染色方法で観察した。
その結果、単核細胞がEAEを誘導した実験群の脊髄白質で単核細胞が多く分布されているのに対し、1H10を投与した実験群では単核細胞の浸潤が著しく抑制されていることを確認した(図3a及び図3b)。また、前記脊髄内に浸潤された単核細胞が免疫細胞であろうという仮説を確認するために、CD4、CD8、及びCD20抗体を使用して免疫組織化学法を行った結果、EAE誘導後、多くのCD4、CD8、及びCD20(+)細胞が脊髄白質の周辺に分布されているのに対し、1H10を投与した実験群では前記T、B細胞の浸潤が著しく抑制されていることを観察した(図3c及び図3e)。併せて、最近の報告によると、AMPK活性がT細胞の生存(survival)を増進すると知られており、AMPKの活性を観察した結果、EAE誘導後脊髄内に浸潤されたCD8(+)T細胞においてAMPKのリン酸化(phosphorylation)が増加されたが、1H10を投与した実験群では著しく減少されていることを確認した(図3f乃至図3h)。前記結果は、本発明の1H10によるAMPKの抑制が脊髄内に浸潤された自己反応性(autoreactive)T細胞の生存を減少させてEAEの症状を緩和するということを示唆している。
【0046】
実験例5:サイトカインの発現
本発明者らは、EAEマウス誘導後21日目の日に前記マウスの脊髄におけるサイトカインのうちIFN gammaとTNF alphaの発現を免疫蛍光染色によって観察した。その結果、EAE誘導後1H10を投与した実験群はビークル群に比べ脊髄白質内にIFN gammaの発現は増加されたのに対し、TNF alphaの発現は減少されたことを観察した(図19及び20)。
【0047】
実験例6:亜鉛の異常な蓄積、BBBの損傷、及びMMP-9の活性
本発明者らは、1H10の投与によるEAE-誘導脊髄白質内の亜鉛の異常な蓄積、血液脳関門(BBB)の損傷、及びMMP-9の活性を観察した。
その結果、正常組織の白質からはTSQ染色による信号が観察されなかったが、EAE-誘導後21日目の日にTSQ染色を行った結果、脊髄の白質部位で異常な「パッチ様」の蛍光が観察された。前記のような様相は正常動物やビークルを投与した動物の脊髄では観察されておらず、パッチのような模様のTSQ異常染色現象は1H10の投与によって著しく減少されることを確認した(図4a及び図4b)。また、EAE-誘導後MMP-9の活性が増加され、それによってBBBが損傷することでT細胞やB細胞、及びその他の免疫細胞が中枢神経系に浸透するようになるが、免疫細胞の浸透が中枢神経系の免疫系を撹乱することでミエリン鞘(myelin sheath)を破壊する恐れがあるという研究結果に基づいて、本発明者らはBBBの損傷を観察するために免疫グロブリンG(IgG)噴出の組織学的分析とMMP-9の活性度を測定した。その結果、ビークルを投与したマウスや1H10のみを投与したマウス(偽群)ではBBBBの損傷によるIgGの染色が白質や灰白質で発見されなかった。しかし、MOGを注入してから3週が過ぎたマウスではIgGの浸潤が白質や灰白質の両方で著しく増加しており、前記現象は1H10のとうよによって著しく減少すると示された(図4c乃至図4e)。併せて、MMP-9は亜鉛によって活性が増加するため、前記観察した白質内増加とMMP-9の活性増加が互いに密接な関係があると考えられてMMP-9の活性を比較した結果、EAE誘導後1H10を投与した実験群はビークル群に比べ脊髄白質内でMMP-9の活性が抑制されることを確認した(図4f及び図4g)。
【0048】
実験例7:亜鉛の恒常性調節の検証
自由亜鉛に結合したら蛍光を示す物質であるFluoZin-3を利用して1H10処理による亜鉛キレート化の可能性を検証した結果、1H10処理した実験群で細胞内亜鉛の増加が著しく減少することを確認した(図5a)。また、テストチューブで1μM亜鉛、5μM自由亜鉛蛍光標識薬物(FluoZin-3)と共に多様な濃度(0、0.5、1、2、5、10、20、40μM)の1H10またはクリオキノールを反応させた後、蛍光値を測定した結果、各薬物のIC50値は4.234μM、10.06μMと推定されたが、最終FluoZin-3の蛍光数値はクリオキノールの方が低かった。本発明の1H10はクリオキノールより更に低い濃度でも亜鉛と結合するが、高濃度では亜鉛結合強度がクリオキノールより低いと考えられる(図5b)前記結果は、本発明の1H10がAMPK抑制機能だけでなく、亜鉛に直接結合して神経細胞内の亜鉛の恒常性を調節し得ることを示唆している。
【0049】
実験例8:長期保護効果
本発明者らは、マウスEAE誘導後1H10を全体期間中一日1回腹腔内投与し、最初免疫化後45日目にマウスを犠牲させて臨床的症状及び発病率を観察した結果(図6a)、1H10を投与した実験群で臨床的症状及び発病率が著しく減少することを観察した(図6b乃至図6d)。これは、1H10の投与が急性期(21日)だけでなく慢性期(45日)までの長期間にわたってEAEの症状を緩和するのに効果があることを証明している。
【0050】
実験例9:類似化合物の検索及び亜鉛毒性抑制効果の観察
本発明の一実施例によって、本発明の1H10の構造類似性に基づいてこれと類似した構造を有する25個の類似化合物を化合物ライブラリー製造会社(InterBioScreen,Russia;Akos,Germany)から購入した。次に、前記培養されたラットの大脳皮質神経細胞に亜鉛毒性を誘発するためにZnCl(400μM)を10分間処理し、12.5時間経過してから、前記選別された25個の化合物及び予め選別された薬物である1H10を処理(20μM)して、細胞生存アッセイ(cell viability assay,Cell Counting Kit-8,Dojindo)によって細胞死(cell death)の抑制可否を観察した。
【0051】
その結果、前記処理した25個の新しい化合物のうち8つの薬物(4B01、4B04、4B08、4C01、4C03、4C04、4C06、4C08)が神経保護効果を示した(図9)。前記選別された化合物25個の名称と構造を下記表1に示した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0052】
実験例10:酸化ストレスの分析
本発明者らは、前記実施例の8つの薬物及び1H10を対象に亜鉛毒性の他、酸化ストレスの抑制効果を観察した。詳しくは、酸化ストレスは、H(100μM)、FeCl(100μM)をマウスの大脳皮質神経細胞にそれぞれ約4時間、20時間処理して神経毒性を誘発し、前記選別された8つの薬物及び1H10を処理(20μM)した。次に、LDH(Lactate Dehydrogenase)分析によって細胞毒性を観察した。
その結果、4C06、4C08を除く6つの薬物(4B01、4B04、4B08、4C01、4C03、4C04)はH毒性を有意に抑制すると示された(図10)。また、更に4C06と4C08に対してH以外にも鉄(iron)によって誘発される酸化ストレスを確認した結果、前記4C08が鉄による酸化ストレスを抑制すると示された(図11)。
【0053】
実験例11:興奮毒性の分析
本発明者らは、前記実施例の8つの薬物及び1H10を対象に興奮毒性の抑制効果を観察した。詳しくは、興奮毒性はNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸、50μM)をマウスの大脳皮質神経細胞に3時間処理して誘発し、前記選別された8つの薬物及び1H10を処理(20μM)してLDH細胞毒性を観察した結果、4B04、4C06を除く6つの薬物(4B01、4B08、4C01、4C03、4C04、4C08)はNMDAによる興奮毒性を有意に抑制すると示された(図12)。
【0054】
実験例12:アポトーシスの分析
本発明者らは、前記実施例の8つの薬物及び1H10を対象にアポトーシスの抑制効果を観察した。詳しくは、アポトーシスによる神経毒性はエトポシド(ETPS、10μM)をマウスの大脳皮質神経細胞に20時間処理して誘発した。次に、前記選別された8つの薬物及び1H10を処理(20μM)してLDH細胞毒性を観察した結果、4B04、4C03、4C04を除く5つの薬物(4B01、4B08、4C01、4C06、4C08)がETPS毒性を有意に抑制すると示された(図13)。
【0055】
実験例13:亜鉛結合の分析
本発明者らは、前記実施例の25個の化合物及び1H10を対象に亜鉛結合分析を行った。詳しくは、テストチューブ上で1H10と25個の化合物(それぞれ20μM)と共に、亜鉛(20μM)及び亜鉛蛍光染色物質であるNewport green DCF(0.1μM、Kd(Zn)=1μM)を利用して自由結合可否を測定した。この際、亜鉛キレートであるクリオキノールとカルシウムイオノフォアであるイオノマイシンを対照群として使用した(それぞれ20μM)。その結果、イオノマイシンを除く全ての薬物が亜鉛と結合可能であることを確認した(図14)。
【0056】
実験例14:AMPKα2抑制活性
本発明者らは、1H10と25個の化合物(それぞれ10μM)と共に従来よく知られているAMPK抑制剤compound C(CC、10μM)の処理によるrecombinant AMPKα2酵素活性をKinaseProfilerTM Service(Eurofins,UK)によって測定した。その結果、4A06、4B02、4C04、4C05、4C06、4C08、4D01で1H10と類似したAMPK抑制効果が示された(図15)。
【0057】
実験例15:自体毒性の分析
本発明者らは、全ての細胞毒性(亜鉛毒性、酸化ストレス、興奮毒性、アポトーシス)に対して共通に保護効果を示す4つの薬物(4B01、4B08、4C01、4C08)に対する自体毒性(self-toxicity)を1H10と比較した。詳しくは、マウスの大脳皮質神経細胞の培養体で前記薬物をそれぞれ40μM処理し、24時間または48時間後LDH細胞毒性を観察した。
【0058】
その結果、1H10は薬物処理24時間後7.81±2.77%、48時間後60.72±8.28%の自体毒性が観察されたが、4B01は薬物処理48時間後、1H10より強い自体毒性があることを確認した。また、4B08、4C01は1H10と無意味な差の自体毒性を示したが、4C08は薬物処理48時間まで自体毒性を示さなかった(図16)。
結論的に、本発明の一実施例による化合物は、従来多発性硬化症に関連する興奮毒性、酸化ストレス、アポトーシス、亜鉛毒性などの多様な毒性機序に保護効果を示し、併せて亜鉛キレート化によってMMP-9の活性を減少させて免疫細胞の脊髄白質内透過及び蓄積を防止し自己免疫反応を減少させることで、多発性硬化症疾患の発生を抑制することを証明した。よって、本発明の1H10は、長期投与による副作用が深刻なステロイド製剤と免疫抑制剤を代替し、根本的な問題を制御する薬物の開発に活用されることができる。
【0059】
本発明上述した実施例及び実験例を参考に説明されたがこれは例示に過ぎず、該当技術分野の通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形及び均等な他の実施例及び実験例が可能であることを理解できるはずである。よって、本発明の真の技術的保護範囲は、添付した特許請求の範囲の技術的思想によって決められるべきである。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図5a
図5b
【図 】
図6a
図6b
図6c
図6d
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20