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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20231208BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231208BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231208BHJP
   G02F 1/1368 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H01L29/78 618G
H01L29/78 618B
H01L29/78 627Z
H05B33/14 A
G02F1/1368
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018149154
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020025031
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境 武志
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達也
(72)【発明者】
【氏名】津吹 将志
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0158843(US,A1)
【文献】特開2013-138184(JP,A)
【文献】特開2008-219008(JP,A)
【文献】特開2009-141001(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132769(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002574(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/042608(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/173035(WO,A1)
【文献】特開2011-129897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0137213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
H10K 59/10
H10K 50/10
G02F 1/1368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層を形成し、
前記活性層上にチタンを含む金属層を有する電極層を形成し、
前記電極層にレジスト層を形成し、
前記金属層を、塩素を含むエッチング剤を用いたエッチングによりパターニングし、
前記レジスト層を剥離し、
前記レジスト層の剥離後の前記活性層表面の残留塩素量を、1.0×1019[atoms/cm3]以下とする、
薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、酸化物半導体膜上にチャネル保護膜として機能する絶縁層が設けられたボトムゲート構造のトランジスタを有する半導体装置において、酸化物半導体膜上に接して設けられる絶縁層、及び/または、ソース電極層及びドレイン電極層の形成後に不純物除去処理を行うことで、エッチングガスに含まれる元素が、酸化物半導体膜表面に不純物として残存することを防止することが開示されている。同開示において、酸化物半導体膜の表面における不純物濃度は、5×1018atoms/cm以下、好ましくは1×1018atoms/cm以下とされている。
【0003】
また、特許文献2には、電気特性が良好な、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタとして、基板上に設けられたゲート電極と、ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート電極およびゲート絶縁膜上に設けられた酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜上に設けられた金属酸化物膜と、金属酸化物膜上に設けられた金属膜と、を有し、酸化物半導体膜は、金属酸化物膜と接し、且つ、酸化物半導体膜の他の領域よりも金属濃度が高い領域(金属高濃度領域)を有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-46002号公報
【文献】特開2011-129897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インジウム、ガリウム、亜鉛等の第13族元素等を含んだIGO、IGZO等の酸化物半導体を活性層とするTAOS-TFT(Transparent Amorphous Oxide Semiconductor-Thin Film Transistor)において、出願人は、ゲート電極に、ゲート・ソース間電圧が負となるような電圧(負のゲート電圧)を印可すると、経時的に、低ドレイン電圧時の電流低下が生じる場合があることを見出した。このことは、TAOS-TFTの長期間の使用又は高ストレス下での使用により、経時劣化様の低電圧時の抵抗増加として観察され、当該TAOS-TFTが例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やOLED(Organic ElectroLuminescence Display)の画素電圧制御に用いられた場合には、低輝度時における演色性の低下をきたす恐れがある。
【0006】
本発明は、上述したような酸化物半導体を活性層とするトランジスタにおける経時的な低ドレイン電圧時の電流低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それ
ら側面の代表的なものの概要は以下の通りである。
【0008】
(1)少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層と、前記活性層上に形成されたチタン層を有する電極層を有し、前記活性層と前記電極層の界面から前記活性層に向かって15nmの範囲におけるイオン濃度において、インジウム濃度が酸素濃度の1.3倍以下である、薄膜トランジスタ。
【0009】
(2)(1)において、前記活性層と前記電極層の界面から前記活性層に向かって15nmの範囲におけるイオン濃度において、インジウム濃度が酸素濃度以下である、薄膜トランジスタ。
【0010】
(3)少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層と、前記活性層上に形成されたチタンを含む金属層を有する電極層を有し、前記活性層と前記電極層の界面から前記活性層に向かって15nmの範囲におけるイオン分布において、インジウム量が酸素量以下である、薄膜トランジスタ。
【0011】
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記活性層表面における残留塩素量が1.0×1019[atoms/cm3]以下である、薄膜トランジスタ。
【0012】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の薄膜トランジスタを備えた表示装置。
【0013】
(6)基板上に、少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層を形成し、前記活性層上にチタンを含む金属層を有する電極層を形成し、前記電極層にレジスト層を形成し、前記金属層をエッチングによりパターニングし、前記レジスト層を剥離し、前記レジスト層の剥離後の前記活性層表面の残留塩素量を、1.0×1019[atoms/cm3]以下とする、薄膜トランジスタの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るトランジスタの断面を説明する図である。
図2】トランジスタの酸化物半導体層近辺の拡大断面図である。
図3】残留塩素量の削減を行わなかった場合の、ドレイン電極から酸化物半導体層に向かう方向における、元素のイオン濃度を組成比で示したグラフである。
図4】残留塩素量を1.0×1019[atoms/cm3]以下まで削減した場合の、ドレイン電極15から酸化物半導体層13に向かう方向における、元素のイオン濃度を組成比で示したグラフである。
図5】本発明の実施形態に係るトランジスタと、当該トランジスタを使用したOLEDである表示装置及びその製造方法を説明する図である。
図6】本発明の実施形態に係るトランジスタと、当該トランジスタを使用したLCDである表示装置及びその製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、かかる表現はあくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略することがある。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係るトランジスタ10の断面を説明する図である。
【0017】
トランジスタ10は、基板1上に形成されたアンダーコート層2上にフォトリソグラフィの手法を用いて形成されたいわゆる薄膜トランジスタである。基板1は、ガラス基板、石英基板、樹脂基板等の無機又は有機基板であり、剛性を持つものであっても、可撓性を持つものであってもよい。また、アンダーコート層2は、基板1に含まれる不純物の薄膜トランジスタ側への拡散を防ぐバリア層として機能する膜である。
【0018】
アンダーコート層2上には、ゲート電極層11が形成される。ゲート電極層11は金属若しくは合金層、又は導電性金属酸化物やその他の導電性材料からなってよく、好ましくは低抵抗性の材料を選択する。ゲート電極層11は、図1では単層であるかの様に表現されているが、単層であっても複数の材料の積層であっても良い。ゲート電極層11上に、ゲート絶縁層12が形成され、さらに、ゲート絶縁層12上であって、ゲート電極層11に重畳する領域に、酸化物半導体層13が形成される。酸化物半導体層13は、トランジスタ10の活性層であり、第13族元素の内、少なくともインジウム及びガリウムを含む金属酸化物である。本実施形態では、酸化物半導体層13は、いわゆるIGZOとして知られるインジウム、ガリウム及び亜鉛の酸化物からなる透明半導体である。
【0019】
酸化物半導体層13及びゲート絶縁層12上に、酸化物半導体層13に一部分が接するように、ソース電極14及びドレイン電極15が形成される。ソース電極14及びドレイン電極15は互いに接することなく、所定の距離を離して配置されるため、酸化物半導体層13上には、ソース電極14及びドレイン電極15に覆われない部分が存在する。また、ソース電極及びドレイン電極15は単層であっても、複層であってもよいが、少なくとも酸化物半導体層13と接する層にはチタンが含まれる。
【0020】
酸化物半導体層13、ソース電極14及びドレイン電極15上には、層間絶縁層16および平坦化層18が形成される。このようにしてトランジスタ10が基板1上に形成される。そして、トランジスタ10の用途に応じ、さらに、平坦化層18及び層間絶縁層16を貫通するスルーホールを適宜形成し、ソース電極14及びドレイン電極15と、平坦化層18上に形成した適宜の電気回路とを接続することにより、トランジスタ10を有する任意の装置が形成される。そのような装置として、LCDやOLEDのような表示装置が例示される。
【0021】
図2は、トランジスタ10の酸化物半導体層13近辺の拡大断面図である。酸化物半導体層13の上面には、ソース電極14とドレイン電極15が形成され、ソース電極14とドレイン電極15間には、酸化物半導体層13が上方に露出し、層間絶縁層16と直接接する領域Aが存在する。
【0022】
そして、本実施形態は、この領域Aにおいて、酸化物半導体層13の表面における残留塩素量が1.0×1019[atoms/cm3]以下であることを特徴としている。この点について、以下説明する。
【0023】
トランジスタ10の製造工程において、ソース電極14とドレイン電極15は、酸化物半導体層13上に形成された金属層をエッチングすることにより形成される。エッチング方法に特に限定はないが、ここでは、ドライエッチングにより、領域Aにおける酸化物半導体層13の表面が露出するまで金属層が除去される。ソース電極14及びドレイン電極15となるべき部分は、レジスト膜により保護され、金属層が除去されることなく残留する。
【0024】
このとき、酸化物半導体層13の領域Aの表面には、エッチングガスその他の不純物が付着しているが、特に重要なのは、エッチングガスに由来する塩素が付着している点である。このような不純物は、ソース電極14及びドレイン電極15を保護するレジスト膜の剥離洗浄の際に相当部分が洗浄され、一部が残留塩素として残存する。
【0025】
この残留塩素は、トランジスタ10を使用する上で、直ちに問題となるわけではないが、間接的に、低ドレイン電圧時の電流低下を引き起こす原因となることを出願人は見出した。すなわち、トランジスタ10に負のゲート電圧を印可すると、経時的に、低ドレイン電圧時の電流低下が生じる場合がある。負電圧としては、過大な負電圧(例えば、-30Vなど)を累計で数時間から数日程度印可したり、過大でない負電圧(例えば、-5Vなど)を数月から数年など長期間にわたり繰り返し印可したりする場合が考えられる。
【0026】
このような低ドレイン電圧時の電流低下は、ソース電極14又はドレイン電極15と酸化物半導体層13の界面に高抵抗の薄膜層が形成されたために、低電圧時にのみ界面抵抗の増大が生じたものと考えられ、高抵抗の薄膜層は、酸化チタンによるものと推定される。
【0027】
そして、経時劣化後のトランジスタ10においては、分析により、ソース電極14及び又はドレイン電極15と酸化物半導体層13の界面に本来存在しないはずの塩素が検出された。詳細なメカニズムは不明であるが、出願人は、レジスト膜の剥離後に、酸化物半導体層13の表面に塩化インジウムとして残留した塩素が、トランジスタ10の完成後に酸化物半導体層10とソース電極14又はドレイン電極15との界面に移動し、負のゲート電圧が印可されることによって、徐々に酸化チタンを析出させる作用をもたらしているものと推測している。
【0028】
よって、出願人は、レジスト剥離洗浄時に塩素の除去を行うことにより、酸化物半導体層13の表面に残留する塩素量を削減させることを試みた。この結果、残留塩素量を1.0×1019[atoms/cm3]以下まで削減すると、負のゲート電圧を継続的に印可した場合においても、低ドレイン電圧時の電流低下を有効に防止しうることを見出した。この塩素の除去は、レジスト剥離洗浄時の剥離液の選択や、洗浄条件を適宜変更することによりなされる。
【0029】
図3は、残留塩素量の削減を行わなかった場合の、ドレイン電極15から酸化物半導体層13に向かう方向における、元素のイオン濃度を組成比で示したグラフである。同グラフは、図2におけるB-B線に沿ったイオン濃度の変化を酸素、チタン、亜鉛、ガリウム及びインジウムについて構成比で示したものとなっており、比較例1として示したグラフと、比較例2として示したグラフとは測定したサンプルが異なっている。
【0030】
グラフの縦軸はイオン濃度の組成比、横軸は距離であり、グラフ中左方向がドレイン電極15側、右方向が酸化物半導体層13側に対応する。また、グラフ中「界面」として示した位置が、ドレイン電極15と酸化物半導体13との界面である。
【0031】
図3に示したグラフより明らかなように、界面の位置は、それ自体必ずしも明らかではないので、合理的にこれを定める必要がある。本明細書では、ドレイン電極15の酸化物半導体層13と接する層には電極材料としてチタンが含まれており、このチタンの構成比が10%となる点を界面として定義している。これ以外の定義、例えば、チタンの構成比が、酸化物半導体層13を構成する主要な元素、例えば、第13族元素であるガリウム及びインジウムの構成比のいずれをも上回る点を界面として定義することもできる。これ以外の合理的な定義を用いてもよい。
【0032】
比較例1及び比較例2で使用した酸化物半導体層13は、いわゆるIGZOであり、亜鉛、ガリウム及びインジウムの組成比は、本来1:1:1となることを意図して製膜される。しかしながら、図3より明らかなように、界面から酸化物半導体層13方向(グラフ中右方向)に向かい、およそ15nmの範囲内において、インジウム濃度のみが顕著に増加し、それに伴い、酸素濃度が低下する現象がみられる。
【0033】
すなわち、これら比較例1及び比較例2では、界面から活性層である酸化物半導体層13に向かって15nmの区間におけるイオン濃度において、インジウム濃度が酸素濃度を顕著に上回り、具体的には、インジウム濃度が酸素濃度の1.3倍を超える点が存在する。
【0034】
また、これら比較例1及び比較例2では、界面から活性層である酸化物半導体層13に向かって15nmの区間におけるイオン量において、インジウム量が酸素量を上回っている。特定の区間における特定の元素のイオン量は、同区間におけるイオン濃度の積分値であるから、図3のグラフにおいては、特定区間内における、イオン濃度曲線の下側の面積に相当する。比較例1、比較例2ともに、界面から15nmの区間内において、インジウム量が酸素量を上回っている。
【0035】
一方、界面から酸化物半導体層13に向かって15nmを超える区間では、酸化物半導体層13の元素組成比がほぼ意図された通りとなるため、この部分に関しては特段考慮の必要はないものと考えられる。
【0036】
比較例1、比較例2のサンプルについて、ゲート電圧に負電圧として、-30Vを1時間にわたり印可した結果、低ドレイン電圧時のドレイン電流が低下する(すなわち、ドレイン抵抗が増大する)現象がみられ、経時的にトランジスタ10が劣化していることが確認された。
【0037】
この発生機序は上述した通り判然としないものの、酸化物半導体層13上に残留した塩素がドレイン電極15と酸化物半導体層13との界面に移動する際又は移動した後に、界面から酸化物半導体層13側に向かって15nmの区間内におけるインジウム濃度を増大させ、酸素濃度を減少させる働きをしており、その後、増大したインジウム又は、かかるインジウムと結合した塩素の作用により、逆ゲート電圧の存在下で酸化チタンを生成するものと考えられる。
【0038】
したがって、界面から酸化物半導体層13側に向かって15nmの区間内におけるインジウム濃度の増加を抑え、一定程度以下にすることにより、経時的な低ドレイン電圧時のドレイン電流の低下を抑制することが期待される。
【0039】
図4は、残留塩素量を1.0×1019[atoms/cm3]以下まで削減した場合の、ドレイン電極15から酸化物半導体層13に向かう方向における、元素のイオン濃度を組成比で示したグラフである。同グラフは、図3で示したものと同様に、図2におけるB-B線に沿ったイオン濃度の変化を酸素、チタン、亜鉛、ガリウム及びインジウムについて構成比で示したものとなっており、実施例1として示したグラフと、実施例2として示したグラフとは測定したサンプルが異なっている。またグラフの縦軸、横軸等の表示についても図3に示したものと同様である。
【0040】
図4に示されるように、実施例1及び実施例2に示したサンプルでは、界面から活性層である酸化物半導体層13に向かって15nmの区間におけるイオン濃度において、インジウム濃度が総じて酸素濃度を下回り、実施例1にみられるように部分的にインジウム濃度が酸素濃度を上回る部分があるとしても、インジウム濃度が酸素濃度の1.3倍を超えることはなく、それ以下となっている。
【0041】
また、これら実施例1及び実施例2では、界面から活性層である酸化物半導体層13に向かって15nmの区間におけるイオン量において、インジウム量が酸素量を上回ることはなく、それ以下となっている。
【0042】
そして、これら実施例1及び実施例2のサンプルでは、ゲート電圧に負電圧として、-30Vを1時間にわたり印可した場合にも、低ドレイン電圧時の電流低下は見られなかった。すなわち、界面から酸化物半導体層13側に向かって15nmの区間内におけるインジウム濃度の増大を抑制することにより、トランジスタ10の経時的な劣化に対する耐性を高めることができた。
【0043】
以上より、ドレイン電極15と酸化物半導体層13との界面から、活性層である酸化物半導体層13に向かって15nmの区間におけるインジウム濃度の増大がない又は少ないことが望ましく、インジウム濃度が酸素濃度の1.3倍以下、より好ましくはインジウム濃度が酸素濃度以下であることがよりよいと考えられる。
【0044】
次に、本発明の実施形態に係るトランジスタと、当該トランジスタを使用した表示装置の製造方法を、図5及び図6を参照して説明する。
【0045】
<トランジスタ110の作製>(図5及び図6
基板101を用意する。基板101としては、ガラス基板、石英基板、樹脂基板等が用いられる。樹脂基板を用いることで、基板101に可撓性を付与することができる。
【0046】
基板101上に、アンダーコート層102を形成する。アンダーコート層102は、基板101に含まれる不純物、又は基板101の裏面側から侵入する不純物の、トランジスタ側への拡散を防ぐバリア膜とすることを目的の一として設けられる。この場合、バリア性に優れた窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。
【0047】
アンダーコート上にゲート電極層111が形成される。ゲート電極層111としては、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。トランジスタのゲート電極としては、前述の金属材料のみならず、ITO、IZO等の透明導電材料等を使用することもできる。当該層をトランジスタのゲート電極のみならず、周辺の配線を形成するための導電層として使用する場合は、低抵抗性が求められることから前述の金属材料を用いることがより好ましい。ゲート電極層111の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。ゲート電極層111は、図5では単層様に表現されているが、単層であっても複数の材料の積層であっても良い。
【0048】
ゲート電極層111上に、ゲート絶縁層112が形成される。ゲート絶縁層112としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化シリコン、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。ゲート絶縁層112の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。
【0049】
ゲート絶縁層112上であって、先に形成したゲート電極層111に重畳する領域に、酸化物半導体層113が形成される。酸化物半導体層113としては、インジウムやガリウム等の第13族元素等を含んだ金属酸化物、具体的にはIGO、IGZO等が代表的である。また、酸化物半導体層113として、その他の元素、例えば第14族元素に属するスズ、第4族元素に属するチタン、ジルコニウム等を含んでいても良い。酸化物半導体層113の膜厚は、5nm乃至100nm、好ましくは5nm乃至60nm程度で形成されると良い。
【0050】
酸化物半導体層113は、特にその結晶性についての限定は無く、単結晶、多結晶、微結晶のいずれの態様であっても良い。または、非晶質であっても良い。酸化物半導体層113の特性としては、酸素欠損等の結晶欠陥が少なく、水素含有濃度は低いことが好ましい。酸化物半導体層113に含まれる水素がドナーとして機能し、トランジスタの電流リークを誘発するためである。
【0051】
酸化物半導体層113に接するように、配線層が形成される。図中示されるソース電極114及びドレイン電極115は、配線層の一部として形成される。配線層は、ゲート電極層111と同様、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。また、配線層114は酸化物半導体層113に接して形成されるため、酸化物半導体層113に接する面は、両者の接合部においてオーミックな抵抗特性が取れるような材料を選択することが好ましく、本実施形態では、少なくともチタンが含まれる。配線層114の膜厚は、50nm乃至1μm、好ましくは300nm乃至700nm程度で形成されると良い。
【0052】
配線層は、エッチングによるパターニングがなされる。エッチングの具体的な手法は各種条件に応じて適当なものを選択してよいが、本実施形態では、配線層上に感光性レジスト膜を形成後、フォトリソグラフィによりマスクパターンを形成し、その後エッチングガスを用いたドライエッチングにより配線層の余分な金属膜を除去する。このとき、酸化物半導体層113の表面の一部がわずかにエッチングされるとともに、エッチングガスに含まれる塩素が酸化物半導体層113表面に付着する。その後、剥離液を用いた剥離洗浄を行い、配線層上のレジスト膜を除去する。この時、酸化物半導体層13上に付着した塩素を、その残留量が1.0×1019[atoms/cm3]以下となるようにする。
【0053】
かかるパターニングにより、配線層は、ソース電極114及びドレイン電極115として形成される。以上の工程で、トランジスタ110、及び周囲の配線層(図示せず)が形成される。
【0054】
<表示装置200の作製>(図5
トランジスタ110の形成後、トランジスタ110を覆う層間絶縁層116、及び平坦化層318が形成される。層間絶縁層116は、一部が酸化物半導体層113と接するため、アンダーコート層102や、ゲート絶縁層112と同様、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化シリコン、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。層間絶縁層116の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。平坦化層318は、トランジスタ110等による凹凸の緩和を目的の一として設けられる。平坦化層318としては、熱硬化型あるいは光硬化型の有機樹脂を用いることができる。平坦化層318の膜厚は、300nm乃至2μm、好ましくは500nm乃至1μm程度で形成されると良い。
【0055】
層間絶縁層116、及び平坦化層318に、ソース電極114又はドレイン電極115に達するコンタクトホールが形成される。その後、当該コンタクトホールを介してドレイン電極115と電気的に接続される画素電極323が形成される。図に示すように、コンタクトホール形成後、コンタクトホールを覆うように導電層319が形成され、同時に導電層321が形成されても良い。導電層319は、ソース電極114又はドレイン電極115と画素電極323との接続を良好にすることを目的の一として設けられる。導電層321は、容量絶縁層322を介して画素電極323と重畳するように設けられ、当該重畳箇所で容量を形成することを目的の一として設けられる。
【0056】
画素電極323は、ここでは有機EL素子330の陽極(アノード)として機能する。また、表示装置200をトップエミッション型として構成する場合は、画素電極323は反射電極として形成される。このとき、画素電極323には、良好な表面反射性と、有機EL素子330の陽極として機能するための仕事関数が求められる。これらを満たす構成として、画素電極323は、最表面をITO,IZO等のインジウム系酸化物導電層とし、反射性の高いアルミニウムや銀との積層膜として形成されると良い。画素電極の膜厚は、アルミニウムや銀等でなる反射層を50nm乃至300nm、好ましくは100nm乃至200nm程度、その上にITO、IZO等でなる表層を5nm乃至100nm、好ましくは10nm乃至50nm程度で形成されると良い。
【0057】
その後、画素電極323の端部を覆うと共に、画素電極323の上面を露出する開口を有する絶縁層324が設けられる。絶縁層324から露出する画素電極323の上面に相当する領域が、後に有機EL素子の発光領域となる。絶縁層324は、隣接する画素電極323を隔離する部材として機能することから、一般的に「隔壁」「バンク」「リブ」等と称される。絶縁層324としては、上面の平坦性と共に、開口部分の側壁がなだらかなテーパー形状となるように形成されることが好ましく、平坦化層318と同様、熱硬化性あるいは光硬化性の有機樹脂を用いることができる。絶縁層324の膜厚は、300nm乃至2μm、好ましくは500nm乃至1μm程度で形成されると良い。
【0058】
露出した画素電極323を覆うように、有機層325が形成される。有機層325は、少なくとも発光層を有し、有機EL素子330の発光部として機能する。有機層325は、発光層以外に、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層といった各種の電荷輸送層が含まれても良く、さらには正孔ブロック層、電子ブロック層等といった各種の電荷ブロック層が含まれても良い。有機層325の膜厚は、含まれる層やその光学的特性によって異なるが、5nm乃至500nm、好ましくは10nm乃至150nm程度で形成されると良い。また、図では有機層325は、1つの画素電極323上に設けられているが、複数の画素電極325と、絶縁層324上に連続的に形成されても良い。
【0059】
有機層325の形成後、対向電極326が形成される。対向電極326は、ここでは有機EL素子330の陰極(カソード)として機能する。また、表示装置200をトップエミッション型として構成する場合は、対向電極326は透明電極として形成される。このとき、対向電極326には、有機層325から得られる発光を阻害しない高い透過率と、有機EL素子330も陰極として機能するための仕事関数が求められる。これらを満たす構成として、対向電極326は、ITO、IZO等のインジウム系酸化物透明導電層、又はマグネシウム、銀、もしくはそれらの合金、化合物であって、透過率を確保できる程度の薄膜として形成されると良い。対向電極326の膜厚は、インジウム系酸化物透明導電層を用いる場合は50nm乃至500nm、好ましくは100nm乃至300nm程度、マグネシウム、銀、もしくはそれらの合金、化合物を用いる場合は5nm乃至50nm、好ましくは10nm乃至30nm程度で形成されると良い。また、対向電極326は、複数の有機EL素子330に対して共通の電極であり、複数の画素電極325上と、絶縁層324上に連続的に形成される。
【0060】
有機EL素子330は、水分侵入等によって容易に機能劣化を生ずるため、封止層が形成される。図では、一例として無機絶縁層331、有機絶縁層332、無機絶縁層333を含む封止層が形成される。無機絶縁層331、333としては、バリア性に優れた窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。有機絶縁層332としては、熱硬化型あるいは光硬化型の有機樹脂を用いることができる。封止層を無機絶縁層331、333と有機絶縁層332の積層構造とすることで、工程中に混入したパーティクル等による封止不良を抑制することができる。封止層の膜厚は、無機絶縁層331、333においてはそれぞれ300nm乃至2μm、好ましくは500nm乃至1μm程度、有機絶縁層332においては1μm乃至20μm、好ましくは2μm乃至10μm程度で形成されると良い。
【0061】
以上の工程によって、OLEDである表示装置200が完成する。なお、図に示すように、無機絶縁層333上に、粘着材334を介して対向基板335が設けられても良い。対向基板335は、カバーグラスやタッチセンサ等の機能を有していても良い。
【0062】
<表示装置400の作製>(図6
トランジスタ110の形成後、トランジスタ110を覆う層間絶縁層116、及び平坦化層418が形成される。層間絶縁層116は、一部が酸化物半導体層113と接するため、アンダーコート層102や、ゲート絶縁層112と同様、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化シリコン、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。層間絶縁層116の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。平坦化層418は、トランジスタ110等による凹凸の緩和を目的の一として設けられる。平坦化層418としては、熱硬化型あるいは光硬化型の有機樹脂を用いることができる。平坦化層418の膜厚は、300nm乃至2μm、好ましくは500nm乃至1μm程度で形成されると良い。
【0063】
層間絶縁層116、及び平坦化層418に、ドレイン電極115に達するコンタクトホールが形成される。その後、当該コンタクトホールを介してドレイン電極115と電気的に接続される画素電極421が形成される。画素電極421としては、ITO、IZO等のインジウム系酸化物透明導電層を用いることができる。画素電極421の膜厚は、50nm乃至500nm、好ましくは100nm乃至300nm程度で形成されると良い。
【0064】
画素電極421上には、絶縁層422を介して共通電極423が形成される。共通電極423としては、画素電極421と同様、ITO、IZO等のインジウム系酸化物透明導電層を用いることができる。図では共通電極423は離散的に表されているが、平面視したとき、これらは互いに接続されて、櫛歯状あるいはスリットを有する板状に形成される。画素電極421と共通電極423の形状についてはこの限りではなく、板状に形成された共通電極上に、絶縁層422を介して櫛歯状あるいはスリットを有する板状の画素電極が形成されても良い。
【0065】
一方、対向基板427上にはカラーフィルタ426、及びオーバーコート層425が形成され、基板101に対向するように配置されると共に、両者の間隙に液晶層424が設けられる。液晶層424は、前述した画素電極421および共通電極423とによって、矢印で示すように印加される横電界によって液晶の配向方向が制御され、光線の透過率が制御される。
【0066】
以上の工程によって、LCDである表示装置400が完成する。
【0067】
以上説明した表示装置200及び400においては、画素電極323、421とドレイン電極115が接続されるトランジスタ110が、負のゲート電圧を繰り返し印可された場合であっても、低ドレイン電圧時のドレイン電流の低下を生じないため、長期にわたって良好な諧調表現性能を維持することができる。
【0068】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【0069】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 基板、2 アンダーコート層、10 トランジスタ、11 ゲート電極層、12 ゲート絶縁層、13 酸化物半導体層、14 ソース電極、15 ドレイン電極、16 層間絶縁層、18 平坦化層、101 基板、102 アンダーコート層、110 トランジスタ、111 ゲート電極層、112 ゲート絶縁層、113 酸化物半導体層、114 ソース電極、115 ドレイン電極、116 層間絶縁層、200 表示装置、318 平坦化層、319 導電層、321 導電層、322 容量絶縁層、323 画素電極、324 絶縁層、325 有機層、326 対向電極、330 有機EL素子、331 無機絶縁層、332 有機絶縁層、333 無機絶縁層、334 粘着剤、335 対向基板、400 表示装置、418 平坦化層、421 画素電極、422 絶縁層、423 共通電極、424 液晶層、425 オーバーコート層、426 カラーフィルタ、427 対向基板。

図1
図2
図3
図4
図5
図6