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  • 特許-光学素子および光源装置 図1
  • 特許-光学素子および光源装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】光学素子および光源装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/32 20060101AFI20231208BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20231208BHJP
   F21V 8/00 20060101ALI20231208BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20231208BHJP
   G03H 1/22 20060101ALI20231208BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
G02B5/32
F21V9/00 200
F21V8/00 340
G02B5/18
G03H1/22
G02B27/01
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019081905
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020181005
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋一
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-222727(JP,A)
【文献】特開平01-303482(JP,A)
【文献】特開2003-014914(JP,A)
【文献】特開2003-270585(JP,A)
【文献】特開平06-118864(JP,A)
【文献】特開平08-286016(JP,A)
【文献】特開昭63-019602(JP,A)
【文献】特開平01-237935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
G03H 1/22
G02B27/00-27/64
F21V 8/00
F21V 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射する光入射面と、前記光が到達する光取出面とを有する導光部と、
前記光取出面上に設けられた透過型の体積位相ホログラフィックグレーティングと、
凸部と凹部を有し、前記凸部と前記凹部を有する側と反対側が前記体積位相ホログラフィックグレーティングに接触して設けられた、透過型の回折格子部を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子であって、
前記体積位相ホログラフィックグレーティングは、ゼラチン層の内部に形成された屈折率の周期構造を有することを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学素子であって、
前記回折格子部は、誘電体膜で構成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の光学素子と、
前記光入射面に対して前記光を照射する光源部を備え、
前記回折格子部から前記光の一部を外部に照射することを特徴とする光源装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光源装置であって、
前記光源部は、複数の発光部が二次元的に配置された光フェーズドアレイであることを特徴とする光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および光源装置に関し、特に回折格子を用いた光学素子および光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両内に各種情報を表示する装置として、アイコンを点灯表示する計器盤が用いられている。また、表示する情報量の増加とともに、計器盤に画像表示装置を埋め込むことや、計器盤全体を画像表示装置で構成することも提案されている。
【0003】
しかし、計器盤は車両のフロントガラスより下方に位置しているため、計器盤に表示された情報を運転者が視認するには、運転中に視線を下方に移動させる必要があるため安全上好ましくない。そこで、フロントガラスに画像を投影して、運転者が車両の前方を視認したときに情報を読み取れるようにするヘッドアップディスプレイ(以下、HUD:Head Up Display)も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、車両の自動運転技術や運転補助技術のために、レーザー光の照射と受光により車間距離の計測や障害物の検知を行うセンサ技術も発展してきている。
【0004】
これらのヘッドアップディスプレイやセンサでは、レーザー光を広い範囲に照射するためにレンズ等の光学要素を用いている。しかし、レンズを用いる光学系では、広範囲に対してレーザー光を照射するためには複数枚のレンズを組み合わせることや大きなレンズ径が必要であり、光源装置の小型化を図ることが困難であった。
【0005】
これらの課題を解決するために、光学レンズに代えて回折格子を用い、レーザー光の照射範囲を拡大する技術が提案されている。図3は従来の回折格子を用いた光源装置の概要を示す模式図である。図3に示すように、従来の光源装置は、導光部1と、回折格子部2と、光源部4を備えている。光源部4から照射した光は、導光部1の裏面側に入射して照射角度Φで導光部1内部を透過して、導光部1上に形成された回折格子部2に到達する。回折格子部2では、光は回折条件によって回折して照射角度Φで外部に照射される。光源部4から照射される光の波長と回折格子部2のピッチを適切に設計することで、出射光の照射角度Φを導光部1内での照射角度Φよりも大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-118669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし図3に示した従来の光源装置では、外部に照射される光の照射角度Φは回折格子部2のピッチによってのみ決定されるため、光照射範囲の拡大には限界があった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、小型かつ軽量で光照射範囲を拡大することが可能な光学素子および光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の光学素子は、光が入射する光入射面と、前記光が到達する光取出面とを有する導光部と、前記光取出面上に設けられた透過型の体積位相ホログラフィックグレーティングと、凸部と凹部を有し、前記凸部と前記凹部を有する側と反対側が前記体積位相ホログラフィックグレーティングに接触して設けられた、透過型の回折格子部を備えることを特徴とする。
【0010】
このような本発明の光学素子では、体積位相ホログラフィックグレーティングと回折格子部の組み合わせで重回折格子が構成される。これにより体積位相ホログラフィックグレーティングで光の照射角度を拡大し、さらに回折格子部で光の照射角度を拡大することができるため、小型かつ軽量で光照射範囲を拡大することが可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記体積位相ホログラフィックグレーティングは、ゼラチン層の内部に形成された屈折率の周期構造を有する。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記回折格子部は、誘電体膜で構成されている。
【0013】
また、本発明の画像表示装置は、上記何れか一つの光学素子と、前記光入射面に対して前記光を照射する光源部を備え、前記回折格子部から前記光の一部を外部に照射することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記光源部は、複数の発光部が二次元的に配置された光フェーズドアレイである。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、小型かつ軽量で光照射範囲を拡大することが可能な光学素子および光源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における光学素子の構造を示す模式斜視図である。
図2】光学素子を用いた光源装置10の構成と光路を示す模式断面図である。
図3】従来の回折格子を用いた光源装置の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。なお図面は、光学素子および光源装置の構造を模式的に示したものであり、図中の寸法や角度は光学素子および光源装置10における実寸を示すものではない。
【0018】
図1は、本実施形態における光学素子の構造示す模式斜視図である。図1に示すように光学素子は、導光部11と、回折格子部12と、体積位相ホログラフィックグレーティング(VPHG:Volume Phase Holographic Gratings)13を備えている。
【0019】
導光部11は、光を透過する材料で構成された略板状の部分であり、光入射面11aと、光取出面11bを備えている。導光部11のサイズは限定されないが、例えば幅10mm、厚さ3mm程度の大きさが挙げられる。導光部11を構成する材料は限定されないが、例えばSiOを主成分とする屈折率1.5程度のガラスを用いることが好ましい。光入射面11aは、光学素子の外部に配置された光源からの光が入射する平坦面であり、光取出面11bに対向している。光取出面11bは、表面に体積位相ホログラフィックグレーティング13が形成される平坦面であり、光入射面11aに対向している。
【0020】
回折格子部12は、体積位相ホログラフィックグレーティング13上に形成された略板状の部分であり、表面には複数の凸部12aと凹部12bが周期的に形成されて回折格子を構成している。
【0021】
図1では回折格子部12の凸部12aおよび凹部12bが平行なストライプ状に延伸して形成された例を示したが、ストライプ状に限らず凸部12aと凹部12bを二次元的に配置するとしてもよい。また、図1では回折格子部12の凸部12aと凹部12bとして断面が矩形状のものを示したが、断面形状は限定されず、スランテッドグレーティングやブレーズドグレーティングであってもよい。
【0022】
回折格子部12を構成する材料は限定されないが、体積位相ホログラフィックグレーティング13との屈折率差が大きな誘電体材料を用いることが好ましく、例えばTiOを主成分とする屈折率2.5程度の誘電体を用いることが好ましい。回折格子部12のサイズは特に限定されないが、面内方向にも光を導波できる厚さを有することが好ましい。回折格子部12は公知の方法で形成することができ、例えばナノインプリント技術、EBL(Electron Beam Lithography)技術等を用いることができる。
【0023】
体積位相ホログラフィックグレーティング13は、導光部11の光取出面11b上に形成され、内部に屈折率の周期構造13aが三次元的に構成された層である。体積位相ホログラフィックグレーティング13の表面上には回折格子部12が形成されている。体積位相ホログラフィックグレーティング13を構成する材料は特に限定されないが、感光性を有する材料を用いることが好ましく、例えば重クロム酸ゼラチン等の公知の材料を用いることができる。
【0024】
体積位相ホログラフィックグレーティング13の厚さは限定されないが、10~30μm程度の厚さとすることが好ましい。これは、体積位相ホログラフィックグレーティング13の作製波長をλとし、厚みをtとし、ホログラム中で2光束がなす角をθとし、屈折率をnとした際に、再成光の波長選択範囲はΔλ=λ/nt(1-cosθ)で表わされることによる。例えば、再成光の波長選択範囲を小さくしてΔλ=20nm程度にするためには、λ=532nm、n=1.5、θ=90°の条件ではt=24μm程度が適する。
【0025】
図1に示した光学素子の製造方法例について説明する。はじめに基板準備工程で板状の導光部11を用意し、次に堆積工程で導光部11上にゼラチン膜を塗布した後に重クロム酸アンモニウム水溶液に浸漬して重クロム酸ゼラチン膜を形成する。次に、リソグラフィー工程で公知の干渉リソグラフィー技術を用いて重クロム酸ゼラチン膜の内部に三次元的な屈折率の周期構造13aを露光し、体積位相ホログラフィックグレーティング13を形成する。
【0026】
次に、誘電体形成工程で体積位相ホログラフィックグレーティング13上にTiO層を蒸着等で形成し、次に回折格子形成工程でTiO層表面にEBL技術を用いて凸部12aと凹部12bを形成し、回折格子部12を形成する。最後に、ダイシング工程で所定サイズに切断して本実施形態の光学素子を得ることができる。図1では図示を省略したが、必要に応じて光学素子の側面にガラス等の保護膜を形成して、体積位相ホログラフィックグレーティング13の側面を封止するとしてもよい。
【0027】
図2は、光学素子を用いた光源装置10の構成と光路を示す模式断面図である。図2に示すように、本実施形態の光源装置10では、図1で示した光学素子の光入射面11aに対して光源部14から光を照射する。光源部14は、所定波長のコヒーレント光を照射する光源であれば限定されないが、レーザー光を照射する複数の発光部が二次元的に配置された光フェーズドアレイ(OPA:Optical Phased Array)を用いることが好ましい。
【0028】
図2に示すように、光源部14から出射したレーザー光は、導光部11の光入射面11aに対して略垂直に入射し、導光部11内部を照射角度Φで進行して光取出面11bに到達する。光取出面11bに到達した光は、体積位相ホログラフィックグレーティング13および回折格子部12を透過して照射角度Φで外部に照射される。このときレーザー光は、体積位相ホログラフィックグレーティング13内における屈折率の周期構造13aによって回折された後にさらに回折格子部12で回折される。これにより、回折格子部12または体積位相ホログラフィックグレーティング13を単独で用いる場合よりも照射角度Φを拡大することができる。
【0029】
図2で示したように、回折格子部12を透過する光は体積位相ホログラフィックグレーティング13で回折された光であるため、体積位相ホログラフィックグレーティング13での回折を前提として、回折格子部12における凸部12aと凹部12bを設計する必要がある。また、光源部14から照射されるレーザー光が導光部11に入射する角度は、回折格子部12および体積位相ホログラフィックグレーティング13の回折条件に適したものとする必要がある。
【0030】
本実施形態の光学素子および光源装置10では、回折格子部12と体積位相ホログラフィックグレーティング13を組み合わせた重回折格子を構成しているため、光学レンズやミラーを用いて照射角度を拡大するよりも小型化と軽量化を図ることができる。また、回折格子部12および体積位相ホログラフィックグレーティング13を用いることで、光学素子と光源部14の焦点距離を設定せずに光照射範囲を拡大することが可能であり、設計自由度が向上する。
【0031】
本願発明に係る光学素子としては、体積位相ホログラフィックグレーティング13の上に回折格子部12を形成する代わりに、追加の体積位相ホログラフィックグレーティング層を形成することも可能である。しかし、体積位相ホログラフィックグレーティング13の上に追加の体積位相ホログラフィックグレーティング層を形成する場合には、両者間にエアーギャップが生じて光学特性が低下する可能性がある。
【0032】
それに対して本実施形態の光学素子および光源装置10では、体積位相ホログラフィックグレーティング13上には誘電体を蒸着して回折格子部12を形成するため、界面にエアーギャップが生じることを防止し光学特性の低下を抑制することができる。また、体積位相ホログラフィックグレーティング13の形成には多くの工程数と作製時間が必要であるが、体積位相ホログラフィックグレーティング13を1層だけ形成して回折格子部12と組み合わせることで、製造工程の短縮化を図ることが可能となる。
【0033】
また、ゼラチン等の材料で構成される体積位相ホログラフィックグレーティング13の上面に誘電体で構成された回折格子部12を形成しているため、体積位相ホログラフィックグレーティング13と空気の接触を防止して保護することができる。ここで、光学素子の側面にもガラス等の保護膜を形成すると、回折格子部12と保護膜によって体積位相ホログラフィックグレーティング13を封止できるためさらに好ましい。
【0034】
また、上述したように回折格子部12は断面が矩形状の凸部12aおよび凹部12bだけではなく、スランテッドグレーティングやブレーズドグレーティング、二次元回折格子を用いることも可能である。これにより、回折格子部12の光学的な設計自由度が向上するとともに、光学素子および光源装置10の光学特性を調整することも容易となる。
【0035】
上述したように、本実施形態の光学素子および光源装置10では、ミラーや光学レンズを用いるよりも小型かつ軽量で光照射範囲を拡大することが可能となる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。図1では、光源部14から入射した光が導光部11内を照射角度Φで進む例を示したが、光源部14からのレーザー光をレンズ等でコリメート光として光入射面11aに入射させるとしてもよい。この場合には照射角度Φ=0度となる。
【0037】
導光部11に入射する光をコリメート光とすることで、光源部14に用いる光フェーズドアレイの面積を光学素子と同程度にして、単位面積当たりの光強度を高めることができる。
【0038】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。第1実施形態では、導光部11の裏面側を光入射面11aとして、光入射面11aに対して略垂直にレーザー光を入射した例を示したが、所定角度で傾斜した入射角度でレーザー光を光入射面11aに照射するとしてもよい。この場合には、体積位相ホログラフィックグレーティング13内部に形成される屈折率の周期構造13aと、回折格子部12に形成される凸部12aおよび凹部12bは、それぞれ入射角に応じて適宜設計する必要がある。
【0039】
また、図1では導光部11の裏面側を光入射面11aとしたが、側面を光入射面11aとして、所定角度で傾斜した入射角度で光取出面11bに対してレーザー光を到達させるとしてもよい。
【0040】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10…光源装置
11…導光部
11a…光入射面
11b…光取出面
12…回折格子部
12a…凸部
12b…凹部
13…体積位相ホログラフィックグレーティング
13a…屈折率の周期構造
14…光源部
図1
図2
図3