(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】ノイズ低減装置
(51)【国際特許分類】
G10L 21/0232 20130101AFI20231208BHJP
【FI】
G10L21/0232
(21)【出願番号】P 2019141153
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 真琴
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-261911(JP,A)
【文献】特開2013-081156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 15/00-21/18
H03F 3/181-3/187
H03G 5/00-5/28
H04S 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成するイコライザと、
前記イコライザにより生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定するノイズ推定部と、
前記ノイズ推定部により推定されたノイズ信号のうち、所定の閾値よりも周波数の高い帯域におけるノイズ信号を減衰させることにより調整ノイズ信号を生成するノイズレベル調整部と、
前記ノイズレベル調整部により生成された調整ノイズ信号を用いて、前記生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減するノイズ低減部と、を備えるノイズ低減装置。
【請求項2】
前記イコライザは、前記所定の閾値よりも周波数の低い帯域における前記入力信号を増幅して前記調整信号を生成する請求項1に記載のノイズ低減装置。
【請求項3】
前記ノイズレベル調整部は、前記ノイズ信号を複数の帯域に分割し、分割されたそれぞれの帯域のノイズ信号のレベルを調整し、レベルが調整された複数の帯域のノイズ信号を多重化して前記調整ノイズ信号を生成する、請求項1に記載のノイズ低減装置。
【請求項4】
音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成するイコライザと、
前記イコライザにより生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定するノイズ推定部と、
前記ノイズ推定部により推定されたノイズ信号のうち、所定の閾値よりも周波数の高い帯域におけるノイズ信号を減衰させることにより調整ノイズ信号を生成するノイズレベル調整部と、
前記ノイズレベル調整部により生成された調整ノイズ信号を用いて、前記生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減するノイズ低減部と、を備えるハンズフリー装置。
【請求項5】
前記ノイズ低減部によりノイズが低減された前記調整信号を、送話信号としてスマートフォンに出力する、請求項
4に記載のハンズフリー装置。
【請求項6】
音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成するイコライザと、
前記イコライザにより生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定するノイズ推定部と、
前記ノイズ推定部により推定されたノイズ信号のうち、所定の閾値よりも周波数の高い帯域におけるノイズ信号を減衰させることにより調整ノイズ信号を生成するノイズレベル調整部と、
前記ノイズレベル調整部により生成された調整ノイズ信号を用いて、前記生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減するノイズ低減部と、を備える音声認識装置。
【請求項7】
請求項6に記載の音声認識装置を音声入力インタフェースとして備えるナビゲーション装置。
【請求項8】
音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成するステップと、
前記生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定するステップと、
前記推定されたノイズ信号のうち、所定の閾値よりも周波数の高い帯域におけるノイズ信号を減衰させることにより調整ノイズ信号を生成するステップと、
前記生成された調整ノイズ信号を用いて、前記生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減するステップと、を備えるノイズ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号に含まれるノイズ信号を低減するノイズ低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズ低減装置は、車両に設置されたハンズフリー装置に搭載され、マイクから出力される音声信号に含まれるノイズ信号を低減する。ノイズ信号は、例えば、車両の走行音、車室に設置されたオーディオ装置からの音声等に起因する。
【0003】
特許文献1は、電話装置に搭載されるノイズキャンセラを開示している。特許文献1に係るノイズキャンセラにおいて、平坦化用イコライザは、適応フィルタの前段に配置され、入力される音声信号を平坦化する。適応フィルタは、平坦化された音声信号に含まれるノイズ信号を低減する。補償用イコライザは、適応フィルタから出力される音声信号の周波数特性を、イコライザに入力される音声信号の周波数特性に戻すように、適応フィルタから出力される音声信号のうち所定帯域の信号を強調する。
【0004】
具体的には、補償用イコライザは、適応フィルタから出力される音声信号のうち、低域の音声信号を強調する。補償用イコライザは、音声信号の周波数が低くなるにつれて、音声信号の増幅率を高くする。
【0005】
この結果、補償用イコライザから出力される音声信号に残留したノイズ信号のうち、低域のノイズ信号が強調される。低域の音声信号が人間の音声の帯域と重複する場合、特許文献1に係るノイズキャンセラから出力される音声信号の質が低下するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、信号の品質劣化を防ぐことができるノイズ低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の発明は、ノイズ低減装置であって、イコライザと、ノイズ推定部と、ノイズレベル調整部と、ノイズ低減部とを備える。イコライザは、音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成する。ノイズ推定部は、イコライザにより生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定する。ノイズレベル調整部は、ノイズ推定部により推定されたノイズ信号のうち、所定の閾値よりも周波数の高い帯域におけるノイズ信号を減衰させることにより調整ノイズ信号を生成する。ノイズ低減部は、ノイズレベル調整部により生成された調整ノイズ信号を用いて、生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減する。
【0009】
第1の発明は、入力信号のうち増幅帯域を増幅することにより生成された調整信号からノイズ信号を推定し、推定したノイズ信号のうち所定の調整帯域のノイズ信号のレベルを調整することにより調整ノイズ信号を生成する。第1の発明は、生成された調整ノイズ信号を用いて、調整信号に含まれるノイズを低減する。これにより、ノイズが低減された調整信号を増幅しなくてもよいため、入力信号の劣化を防ぐことができる。また、第1の発明は、所定の調整帯域のノイズ信号のレベルを調整することにより、入力信号に含まれるノイズ信号の抑圧量を調整することができる。
【0011】
さらに第1の発明によれば、ノイズレベル調整部は、所定の閾値よりも高い調整帯域において、ノイズ信号を減衰させる。これにより、入力信号に含まれる音声信号が、調整帯域において歪むことを防ぐことができるため、音声信号の品質劣化を防ぐことができる。
【0012】
第2の発明は、ノイズ低減方法であって、(a)ステップと、(b)ステップと、(c)ステップとを備える。(a)ステップは、音声信号を含む入力信号のうち所定の増幅帯域の入力信号を増幅することにより調整信号を生成する。(b)ステップは、生成された調整信号に含まれるノイズ信号を推定する。(c)ステップは、推定されたノイズ信号を用いて、生成された調整信号に含まれるノイズ信号を低減する。
【0013】
第3の発明は、第1の発明に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、音声信号の品質を向上することができるノイズ低減装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車載ハンズフリーシステムの構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示すハンズフリー装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図2に示すノイズ低減装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図3に示すノイズレベル調整部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図3に示すノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図3に示すイコライザによる送話信号の周波数特性の変化の一例を示すグラフである。
【
図7】
図4に示す個別調整部に設定される重み付け係数の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の一実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
[1.構成]
[1.1.車載ハンズフリーシステム100の構成]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車載ハンズフリーシステム100の構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
図1を参照して、車載ハンズフリーシステム100は、自動車等の車両に搭載される。車載ハンズフリーシステム100は、ハンズフリー装置1と、スピーカ2と、マイクロフォン3とを備える。
【0019】
スピーカ2は、受話信号41をハンズフリー装置1から受け、その受けた受話信号41を音声に変換して、車室内へ出力する。
【0020】
マイクロフォン3は、車室内の音声を入力して送話信号51を生成し、その生成した送話信号51をハンズフリー装置1に出力する。
【0021】
ハンズフリー装置1は、スマートフォン9から受話信号41を受信し、その受信した受話信号41をスピーカ2に出力する。ハンズフリー装置1は、マイクロフォン3から送話信号51を受け、その受けた送話信号51に含まれるエコー及びノイズを低減する。エコー及びノイズが低減された送話信号51を送話信号54としてスマートフォン9に出力する。
【0022】
ハンズフリー装置1は、後述するノイズ低減装置を含む。以下、ノイズ低減装置を中心に説明し、ノイズ低減装置以外の構成の説明については一部省略する。
【0023】
[1.2.ハンズフリー装置1の構成]
図2は、
図1に示すハンズフリー装置1の構成を示す機能ブロック図である。
図2を参照して、ハンズフリー装置1は、AD(Analog-to-Digital)変換装置11と、エコーキャンセラ12と、ノイズ低減装置13と、通信部14とを備える。
図2に示す送話信号51~54の各々は、音声信号と、ノイズ信号とを含む。音声信号は、車両の搭乗者の音声に対応する。ノイズ信号は、走行ノイズや、車室ノイズ、環境ノイズ等に起因する。
【0024】
AD変換装置11は、マイクロフォン3から受けた送話信号51をAD変換することにより、送話信号52を生成する。送話信号52は、ディジタル形式の信号である。AD変換装置11は、生成した送話信号52をエコーキャンセラ12に出力する。
【0025】
エコーキャンセラ12は、送話信号52をAD変換装置11から受け、受話信号41を通信部14から受ける。エコーキャンセラ12は、受けた送話信号52に含まれるエコーを、通信部14から受けた受話信号41を用いて低減する。エコーキャンセラ12は、エコーが低減された送話信号52を送話信号53としてノイズ低減装置13に出力する。また、エコーキャンセラ12は、通信部14から受けた受話信号41をスピーカ2に出力する。
【0026】
ノイズ低減装置13は、送話信号53をエコーキャンセラ12から受け、その受けた送話信号53に含まれるノイズを低減する。ノイズ低減装置13は、ノイズが低減された送話信号53を、送話信号54として通信部14に出力する。
【0027】
通信部14は、運転者が所持するスマートフォン9と、近距離無線通信又は有線通信を用いて通信する。近距離無線通信は、例えば、無線LAN(Local Area Network)や、Bluetooth(登録商標)等である。有線通信は、例えば、USB(登録商標)通信等である。通信部14は、受話信号41をスマートフォン9から受信し、その受信した受話信号41をエコーキャンセラ12に出力する。通信部14は、送話信号54をノイズ低減装置13から受け、その受けた送話信号54をスマートフォン9に送信する。
【0028】
[1.3.ノイズ低減装置13の構成]
図3は、
図2に示すノイズ低減装置13の構成を示す機能ブロック図である。
図3を参照して、ノイズ低減装置13は、イコライザ31と、フーリエ変換部32と、ノイズ推定部33と、ノイズレベル調整部34と、ノイズ低減部35と、逆フーリエ変換部36とを備える。
【0029】
イコライザ31は、送話信号53をエコーキャンセラ12から受ける。イコライザ31は、その受けた送話信号53のうち所定の増幅帯域の信号を増幅することにより、調整送話信号61を生成する。調整送話信号61は、イコライザ31により増幅された所定帯域の送話信号54だけでなく、増幅帯域以外の帯域の送話信号53を含む。増幅帯域以外の帯域の送話信号53は、イコライザ31により増幅されない。イコライザ31は、生成した調整送話信号61をフーリエ変換部32に出力する。
【0030】
本実施の形態では、所定帯域は、1kHz以下である。所定帯域は、イコライザ31に予め設定されている。
【0031】
フーリエ変換部32は、調整送話信号61をフーリエ変換部32から受け、その受けた調整送話信号61をフーリエ変換する。フーリエ変換により、調整送話信号61が、時間領域の信号から周波数領域の信号に変換される。フーリエ変換部32は、フーリエ変換された調整送話信号61を、変換送話信号62としてノイズ推定部33及びノイズ低減部35に出力する。
【0032】
ノイズ推定部33は、変換送話信号62をフーリエ変換部32から受け、その受けた変換送話信号62に基づいて、調整送話信号61に含まれるノイズを推定する。ノイズ推定部33は、ノイズ推定結果である推定ノイズ信号61Aをノイズレベル調整部34に出力する。推定ノイズ信号61Aは、周波数領域の信号である。
【0033】
ノイズレベル調整部34は、推定ノイズ信号61Aをノイズ推定部33から受ける。ノイズレベル調整部34は、その受けた推定ノイズ信号61Aのうち、所定の調整帯域の信号のレベルを調整することにより、調整ノイズ信号61Bを生成する。ノイズレベル調整部34は、生成した調整ノイズ信号61Bを、ノイズ低減部35に出力する。
【0034】
ノイズ低減部35は、変換送話信号62をフーリエ変換部32から受け、調整ノイズ信号61Bをノイズレベル調整部34から受ける。ノイズ低減部35は、その受けた調整ノイズ信号61Bを用いて、変換送話信号62に含まれるノイズを低減する。ノイズ低減部35は、ノイズが低減された変換送話信号62をノイズ低減送話信号63として逆フーリエ変換部36に出力する。
【0035】
逆フーリエ変換部36は、ノイズ低減送話信号63をノイズ低減部35から受け、その受けたノイズ低減送話信号63を逆フーリエ変換する。ノイズ低減送話信号63は、周波数領域の信号から時間領域の信号に変換される。逆フーリエ変換部36は、逆フーリエ変換されたノイズ低減送話信号63を、送話信号54として通信部14に出力する。
【0036】
[1.4.ノイズレベル調整部34の構成]
図4は、
図3を参照してノイズレベル調整部34の構成を示す機能ブロック図である。
図4を参照して、ノイズレベル調整部34は、分割部341と、個別調整部342-1~342-nと、多重化部343とを含む。nは、2以上の自然数である。
【0037】
分割部341は、推定ノイズ信号61Aをノイズ推定部33から受け、その受けた推定ノイズ信号61Aを複数の帯域に分割する。推定ノイズ信号61Aは、n個の帯域に分割される。推定ノイズ信号61Aの分割により、分割ノイズ信号72-1,72-2,・・・,72-nが生成される。分割部341は、生成された分割ノイズ信号72-1~72-nを個別調整部342-1~342-nに出力する。
【0038】
個別調整部342-kは、分割ノイズ信号72-kを分割部341から受ける。個別調整部342は、その受けた分割ノイズ信号72-kのレベルを調整する。kは1以上n以下の自然数である。個別調整部342-kは、レベルが調整された分割ノイズ信号73-kを多重化部343に出力する。
【0039】
多重化部343は、レベルが調整された分割ノイズ信号73-1~73-nを個別調整部342-1~342-nから受ける。多重化部343は、その受けた分割ノイズ信号73-1~73-nを多重化することにより調整ノイズ信号61Bを生成する。
【0040】
[2.ノイズ低減装置13の動作]
図5は、
図3に示すノイズ低減装置13の動作を示すフローチャートである。ハンズフリー装置1の通信部14が、スマートフォン9と通信を開始した場合、ノイズ低減装置13は、
図5に示す処理を開始する。
【0041】
以下の説明において、送話信号に含まれるノイズ信号のうち、1kHz以下のノイズ信号を「低域ノイズ信号」と記載する。送話信号に含まれるノイズ信号のうち、1kHzよりも高いノイズ信号を「高域ノイズ信号」と記載する。送話信号に含まれる音声信号のうち、1kHz以下の音声信号を「低域音声信号」と記載する。送話信号に含まれる音声信号のうち、1kHzよりも高い音声信号を「高域音声信号」と記載する。送話信号は、送話信号53~54、調整送話信号61、変換送話信号62を含む。
【0042】
図5を参照して、イコライザ31は、エコーキャンセラ12から受けた送話信号53の低域を増幅する(ステップS11)。本実施の形態において、低域は、1kHz以下域である。1kHzよりも高い高域の送話信号53は、増幅されない。イコライザ31は、時間領域の信号である送話信号53に、予め設定された伝達関数を適用することにより、調整送話信号61を生成する。調整送話信号61は、送話信号53と同様に、時間領域の信号である。イコライザ31は、生成した調整送話信号61をフーリエ変換部32に出力する。
【0043】
具体的には、イコライザ31は、送話信号53の周波数特性が所定の規格を満たすように、送話信号53の低域を増幅する。本実施の形態では、所定の規格は、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication sector) P.1100又はITU-T P.1110である。ITU-T P.1100及びITU-T P.1110は、車載ハンズフリー装置の規格の1つである。
【0044】
図6は、
図3に示すイコライザ31による送話信号53の周波数特性の変化の一例を示すグラフである。
図6を参照して、横軸は周波数であり、縦軸は、信号のレベルである。曲線53Pは、送話信号53のスペクトルである。曲線53Qは、送話信号53に含まれるノイズ信号のスペクトルである。曲線61Pは、調整送話信号61のスペクトルである。曲線61Qは、調整送話信号61に含まれるノイズ信号のスペクトルである。
【0045】
曲線53Pが示すように、送話信号53のレベルが、1kHz以下において急激に低下している。マイクロフォン3が、1kHz以下における感度が低下するコンデンサマイクであるためである。なお、送話信号51及び52のスペクトルは、曲線53Pと同様の形状である。
【0046】
曲線53Pを曲線61Pと比較すると、調整送話信号61のレベルは、1kHz以下の低域において、送話信号53のレベルよりも大きい。送話信号53の低域が増幅されるためである。低域における増幅率は、周波数が低くなるにつれて大きくなる。例えば、増幅率は、400Hzにおいて5dBであり、200Hzにおいて10dB以上である。
【0047】
曲線53Qを曲線61Qと比較すると、調整送話信号61における低域ノイズ信号のレベルは、送話信号53における低域ノイズ信号のレベルよりも大きい。イコライザ31が、送話信号53に含まれる音声信号だけでなく、送話信号53に含まれる低域ノイズ信号を増幅するためである。
【0048】
調整送話信号61のレベルは、1kHzより高い高域において、送話信号53のレベルとほぼ同じである。イコライザ31は、1kHzより高い帯域において、送話信号53を増幅しないためである。
【0049】
図5を再び参照して、フーリエ変換部32は、イコライザ31により生成された調整送話信号61をフーリエ変換する(ステップS12)。調整送話信号61が、時間領域の信号から、周波数領域の信号に変換されることにより、変換送話信号62が生成される。フーリエ変換部32は、生成された変換送話信号62を、ノイズ推定部33及びノイズ低減部35の各々に出力する。
【0050】
ノイズ推定部33は、フーリエ変換部32から受けた変換送話信号62に基づいて、調整送話信号61に含まれるノイズを推定する(ステップS13)。例えば、スペクトルサブトラクト法が、ノイズ推定に用いられる。ステップS13の結果、ノイズ推定部33は、推定ノイズ信号61Aを生成する。推定ノイズ信号61Aは、周波数領域の信号である。推定ノイズ信号61Aは、送話信号53における低域ノイズ信号の増幅の影響を受けている。つまり、推定ノイズ信号61Aは、調整送話信号61に含まれるノイズ信号のスペクトルを示す曲線61Qに相当する。
【0051】
ノイズ推定部33は、ステップS13で生成した推定ノイズ信号61Aをノイズレベル調整部34に出力する。ノイズレベル調整部34は、ノイズ推定部33から受けた推定ノイズ信号61Aのレベルを調整する(ステップS14)。ステップS14の結果、調整ノイズ信号61Bが、推定ノイズ信号61Aから生成される。
【0052】
具体的には、ノイズレベル調整部34において、分割部341が、推定ノイズ信号61Aを200(Hz)ごとの帯域に分割することにより、分割ノイズ信号72-1~72-nを生成する。本実施の形態において、分割部341は、コムフィルタである。分割部341は、生成した分割ノイズ信号72-1~72-nを個別調整部342-1~342-nに出力する。個別調整部342-1~342-nは、個別調整部342-1~342-nの各々に設定された重み付け係数に基づいて、分割ノイズ信号72-1~72-nのレベルを調整する。
【0053】
図7は、個別調整部342-1~342-nに設定される重み付け係数の一例を示す図である。
図7を参照して、重み付け係数は、周波数帯域f0~f9の各々に対して設定される。周波数帯域f0~f9の各々の帯域幅は、200Hzである。
図7において、2(kHz)以上における重み付け係数の表示を省略している。
【0054】
図7に示すように、1(kHz)以下の低域に対応する周波数帯域f0~f4に設定される重み付け係数は1である。1(kHz)よりも高い高域に対応する周波数帯域f5~f9に設定される重み付け係数は、1よりも小さく、周波数が高くなるにつれて低下する。周波数帯域f9よりも上の帯域において、重み付け係数は0である。個別調整部342-kに設定された重み付け係数が1よりも小さい場合、個別調整部342-kは、入力された分割ノイズ信号72-kを減衰させる。ノイズレベル調整部34は、周波数が高くなるにつれて、推定ノイズ信号61Aのレベルが小さくなるように、推定ノイズ信号61Aを調整する。
【0055】
つまり、
図7は、調整送話信号61に含まれるノイズのうち1.8(kHz)よりも高い周波数帯域のノイズがノイズ低減装置13において低減されないことを示している。これにより、ノイズ低減装置13は、送話信号53に含まれる音声信号の品質が劣化することを防ぐことができる。この理由については後述する。
【0056】
多重化部343は、レベルが調整された分割ノイズ信号73-1~73-nを個別調整部342-1~342-nから受け、その受けた分割ノイズ信号73-1~73-nを多重化する。これにより、調整ノイズ信号61Bが生成される。
【0057】
図5を再び参照して、ノイズ低減部35は、ノイズレベル調整部34から受けた調整ノイズ信号61Bを用いて、フーリエ変換部32から受けた変換送話信号62に含まれるノイズ信号を低減する(ステップS15)。具体的には、ノイズ低減部35は、調整ノイズ信号61Bが変換送話信号62と逆相となるように、調整ノイズ信号61Bの位相を調整する。ノイズ低減部35は、位相が調整された調整ノイズ信号61Bを変換送話信号62に加算することにより、変換送話信号62に含まれるノイズ信号を低減する。これにより、ノイズ低減送話信号63が生成される。
【0058】
逆フーリエ変換部36は、ノイズ低減部35から受けたノイズ低減送話信号63を逆フーリエ変換する(ステップS16)。逆フーリエ変換されたノイズ低減送話信号63は、調整送話信号61と同様に、時間領域の信号である。逆フーリエ変換部36は、逆フーリエ変換されたノイズ低減送話信号63を、送話信号54として通信部14に出力する。
【0059】
以上説明したように、ノイズ低減装置13は、送話信号53における低域信号を増幅することにより調整送話信号61を生成し、生成した調整送話信号61に含まれるノイズの推定結果である推定ノイズ信号61Aを生成する。ノイズ低減装置13は、推定ノイズ信号61Aを用いて、調整送話信号61に含まれるノイズを低減する。これにより、ノイズ低減装置13は、従来のノイズ低減装置よりも、送話信号53に含まれる低域ノイズ信号のレベルを抑圧することができる。以下、詳しく説明する。
【0060】
ここで、イコライザ31がフーリエ変換部32の前段ではなく、逆フーリエ変換部36の後段に配置された従来のノイズ低減装置を想定する。
【0061】
従来のノイズ低減装置は、逆フーリエ変換部36から出力される送話信号54の周波数特性が上述の所定の規格を満たすように、送話信号54の低域を増幅する。送話音号54が、
図6における曲線61Pで示す周波数特性を有する場合、イコライザは、送話信号54のうち1kHz以下の低域を5dB以上の大きな増幅率で増幅しなければならない。低域ノイズ信号の一部が送話信号54に残留しているため、残留している低域ノイズ信号がイコライザにより増幅される。この結果、低域が増幅された後の送話信号54のS/N比は、低域が増幅される前の送話信号のS/N比よりも低下する。
【0062】
これに対して、ノイズ低減装置13において、イコライザ31は、調整送話信号61が上述の所定の規格を満たすように、送話信号53の低域を増幅する。このとき、送話信号53に含まれる低域ノイズ信号が増幅される。ノイズ推定部33は、イコライザ31により増幅された低域ノイズ信号を推定する。ノイズ低減部35が、推定されたノイズ信号を用いて、変換送話信号に含まれる低域ノイズ信号を低減する。
【0063】
イコライザ31が既に送話信号53の低域を増幅しているため、ノイズ低減装置13は、送話信号54の周波数特性が所定の規格を満たすように、送話信号54の低域を増幅しなくてもよい。つまり、送話信号54における低域のS/N比は、ノイズ低減部35から出力されるノイズ低減送話信号63における低域のS/N比と同じである。従って、ノイズ低減装置13は、従来のノイズ低減装置よりも、送話信号54における低域のS/N比を改善することができる。
【0064】
また、ノイズ低減装置13において、ノイズレベル調整部34が、推定ノイズ信号61Aのレベルを帯域に応じて重み付けする。具体的には、1kHzよりも高い高域のノイズ信号61Aのレベルが、周波数が高くなるにつれて低減量が多くなるように調整される。
【0065】
マイクロフォン3に入力されるノイズは、周波数が高くなるにつれて低くなる傾向にある。このため、ノイズ低減装置13は、1kHz以上の高域において、ノイズ信号61Aのレベルを低減することにより、1kHz以上の高域の音声信号がノイズ信号の低減により歪むことを防ぐ。従って、ノイズ低減装置13は、音声品質の劣化を防ぐことができる。
【0066】
{変形例}
上記実施の形態では、ノイズ低減装置13を備えるハンズフリー装置1を説明したが、ノイズ低減装置13は、ハンズフリー装置1以外の装置に搭載されてもよい。例えば、音声認識装置が、ノイズ低減装置13を備えてもよい。この場合、ノイズ低減装置13は、マイクロフォン3から入力された送話信号をAD変換し、AD変換された送話信号に含まれるノイズをキャンセルすればよい。音声認識装置が、車両に搭載されたナビゲーション装置を操作するための音声入力インタフェースとして用いられる場合、ノイズ低減装置13は、音声の認識精度を向上させることができる。あるいは、ICC(In Car Communication)装置その他のオーディオ装置が、ノイズ低減装置13を搭載してもよい。つまり、ノイズ低減装置13が搭載される機器は、特に限定されない。
【0067】
また、ノイズ低減装置13をアクティブノイズキャンセラ(Active Noise Canceller)として用いてもよい。この場合、ノイズ低減部34は、調整ノイズ信号61Bを音声として出力するスピーカとを含む。ノイズ低減部34は、調整ノイズ信号61Bが変換送話信号62と逆相なるように調整ノイズ信号61Bの位相を調整し、位相が調整された調整ノイズ信号61Bをスピーカから音声として車室へ出力する。この場合であっても、ノイズ低減装置13は、車室内のノイズを低減することが可能である。
【0068】
また、上記実施の形態では、ノイズ低減装置13が、マイクロフォン3により生成された送話信号に含まれるノイズをキャンセルする例を説明したが、これに限定されない。
例えば、ラジオの受信装置がラジオ放送の受信信号の周波数特性を調整する場合に、ノイズ低減装置13を用いることができる。ノイズ低減装置13は、ラジオ放送の受信信号の周波数特性を調整し、調整された受信信号に含まれるノイズを低減する。つまり、ノイズ低減装置13は、様々な電気信号に含まれるノイズをキャンセルするために用いることができる。
上記実施の形態において、ノイズ低減装置13が、ノイズレベル調整部34を備える例を説明したが、これに限られない。ノイズ低減装置13は、ノイズレベル調整部34を備えなくてもよい。この場合であって、ノイズ低減装置13は、送話信号53に含まれる低域ノイズ信号を抑圧することができる。
【0069】
上記実施の形態において、イコライザ31が、送話信号53の周波数特性をITU-T P.1100の規格を満たすように、送話信号53の低域を増幅する例を説明したが、これに限られない。イコライザ31は、送話信号53のうち1kHz以下の低域を増幅する例を説明したが、これに限られない。イコライザ31は、送話信号53のうち予め設定された増幅帯域を増幅すればよい。
【0070】
上記実施の形態において、ノイズ推定部33が、スペクトルサブトラクト法を用いてノイズを推定する例を説明したが、これに限られない。ノイズ推定部33が用いるノイズ推定方法は、特に限定されない。
【0071】
上記実施の形態において、ノイズ低減装置13は、逆フーリエ変換部36の後段に、イコライザ31と別のイコライザを設けてもよい。
【0072】
また、上記実施の形態で説明したノイズ低減装置13において、各機能ブロックは、LSIなどの半導体装置により個別に1チップ化されても良いし、一部又は全部を含むように1チップ化されても良い。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0073】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
【0074】
また、上記各実施の形態の各機能ブロックの処理の一部または全部は、プログラムにより実現されるものであってもよい。そして、上記各実施の形態の各機能ブロックの処理の一部または全部は、コンピュータにおいて、中央演算装置(CPU)により行われる。また、それぞれの処理を行うためのプログラムは、ハードディスク、ROMなどの記憶装置に格納されており、ROMにおいて、あるいはRAMに読み出されて実行される。
【0075】
また、上記実施の形態の各処理をハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア(OS(オペレーティングシステム)、ミドルウェア、あるいは、所定のライブラリとともに実現される場合を含む。)により実現してもよい。さらに、ソフトウェアおよびハードウェアの混在処理により実現しても良い。
【0076】
例えば、上記実施の形態(変形例を含む)の各機能ブロックを、ソフトウェアにより実現する場合、
図8に示したハードウェア構成(例えば、CPU、ROM、RAM、入力部、出力部等をバスBusにより接続したハードウェア構成)を用いて、各機能部をソフトウェア処理により実現するようにしてもよい。
【0077】
また、上記実施の形態における処理方法の実行順序は、必ずしも、上記実施の形態の記載に制限されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、実行順序を入れ替えることができるものである。
【0078】
前述した方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム及びそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の範囲に含まれる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO、DVD、DVD-ROM、DVD-RAM、大容量DVD、次世代DVD、半導体メモリを挙げることができる。
【0079】
上記コンピュータプログラムは、上記記録媒体に記録されたものに限られず、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送されるものであってもよい。
【0080】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 ハンズフリー装置
11 AD変換装置
12 エコーキャンセラ
13 ノイズ低減装置
14 通信部
31 イコライザ
32 フーリエ変換部
33 ノイズ推定部
34 ノイズレベル調整部
35 ノイズ低減部
36 逆フーリエ変換部