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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】有機化合物分解装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20231208BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 23/20 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 23/08 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 23/14 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 23/02 20060101ALI20231208BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
B01J35/10 301J
B01J23/20 M
B01J23/08 M
B01J23/14 M
B01J21/06 M
B01J23/02 M
B01J19/12 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019187749
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021062332
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】古川 雅志
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】中林 亮
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-192302(JP,A)
【文献】特開2017-225629(JP,A)
【文献】特開2011-016074(JP,A)
【文献】特開2006-088019(JP,A)
【文献】特開2008-194622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 ー 38/74
B01J 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が180nm以上280nm以下である紫外線を照射する光源と、有機化合物を含有する被処理流体の流路内に固定され、該照射された該紫外線により光触媒反応を起こす光触媒とを具備する該有機化合物の分解装置であって、該光触媒のバンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下であり、かつ、該光触媒が被処理流体の流路内壁に塗布され、その塗布厚みが1μm以上100μm以下であり、かつ、該光触媒が、表面開孔率10%以上50%以下の状態で塗布されていることを特徴とする有機化合物分解装置。
【請求項2】
前記紫外線を照射する光源が、ピーク波長230nm以上280nm以下の紫外線を照射する発光ダイオード(LED)である、請求項1に記載の有機物分解装置。
【請求項3】
前記光触媒の結晶子径が、1nm以上60nm以下である、請求項1又は2に記載の有機物分解装置。
【請求項4】
前記光触媒の比表面積が、0.1m/g以上200m/g以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機物分解装置。
【請求項5】
前記光触媒が、ZrO、BaZrO、SrZrO、LiZrO、CaZrO、LiYZr、NaYZr、LiYbZr、NaYbZr、CaZr、MgZr12、GaZr、Ta、LiTaO、NaTaO、KTaO、BiTaO、LaTaO、LiTa、NaTa、KTa、CaTa、SrTa、BaTa、NiTa、CaTa、SrTa、HSrTa、KSrTa、RbNdTa、LaTaO、LiCaTa10、KBaTa10、NaCaTa10、LiCaTa10、SrTa11、KTa12、KTaSi13、KPrTa15、SrTa15、BaTa15、RbTa17、LaTa19、KSrTa20、MgTiO、ZrTiO、LaTi、YTiO、GdTi、LaCaTi17、Ga、LaGaO、ZnGa、MgGa、SrGa、TaGa、BaGa、CaGa、LiGa、YGa12、LaGa15、ZnGa1016、ZnGeO、LiInGeO、GaGeO、NaSbO、CaSbO、CaSb、CaSb、SrSb、BaNb15、SrNb、KTiNbO、ZnNb、CsNb11、LaNbO、CaNb、HfO、PbWO、NaInO、LaInO、及びSrInから成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機物分解装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の装置を用いて、被処理流体に含有される有機化合物の分解を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理流体に含有される有機化合物を、紫外線と光触媒とを組み合わせて分解する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線と光触媒とを組み合わせて、被処理流体、例えば、空気や水等を清浄化(例えば、脱臭等)する装置の開発が行われている。例えば、以下の特許文献1や特許文献2に開示されているように、揮発性有機化合物(VOC)等の有害ガス成分を低減する装置がある。
【0003】
他方、難分解性の有機化合物が環境中に放出されると、環境破壊を引き起こす原因物質となることが知られており、健康への悪影響が懸念されるため、難分解性物質を無害化する開発が行われている。例えば、以下の特許文献3に開示されているように、紫外線と光触媒とを組み合わせてテトラクロロエチレンを無害化する装置がある。
【0004】
一般的に光触媒としては酸化チタンが用いられることが多く、その光触媒性能を向上させる研究は盛んに行われており、より効果的に揮発性有機化合物や、難分解性有機化合物を分解する装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-200592号公報
【文献】特開2017-225629号公報
【文献】特開2010-99625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、被処理流体に含有される有機化合物を効率よく分解できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、ピーク波長が180nm以上350nm以下である紫外線を照射する光源と、該紫外線により光触媒反応を起こす光触媒を具備する装置において、該光触媒のバンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]ピーク波長が180nm以上350nm以下である紫外線を照射する光源と、有機化合物を含有する被処理流体の流路内に固定され、該照射された該紫外線により光触媒反応を起こす光触媒とを具備する該有機化合物の分解装置であって、該光触媒のバンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下であることを特徴とする有機化合物分解装置。
[2]前記紫外線を照射する光源が、ピーク波長230nm以上300nm以下の紫外線を照射する発光ダイオード(LED)である、前記[1]に記載の有機物分解装置。
[3]前記光触媒の結晶子径が、1nm以上60nm以下である、前記[1]又は[2]に記載の有機物分解装置。
[4]前記光触媒の比表面積が、0.1m/g以上200m/g以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の有機物分解装置。
[5]前記光触媒が、ZrO、BaZrO、SrZrO、LiZrO、CaZrO、LiYZr、NaYZr、LiYbZr、NaYbZr、CaZr、MgZr12、GaZr、Ta、LiTaO、NaTaO、KTaO、BiTaO、LaTaO、LiTa、NaTa、KTa、CaTa、SrTa、BaTa、NiTa、CaTa、SrTa、HSrTa、KSrTa、RbNdTa、LaTaO、LiCaTa10、KBaTa10、NaCaTa10、LiCaTa10、SrTa11、KTa12、KTaSi13、KPrTa15、SrTa15、BaTa15、RbTa17、LaTa19、KSrTa20、MgTiO、ZrTiO、LaTi、YTiO、GdTi、LaCaTi17、Ga、LaGaO、ZnGa、MgGa、SrGa、TaGa、BaGa、CaGa、LiGa、YGa12、LaGa15、ZnGa1016、ZnGeO、LiInGeO、GaGeO、NaSbO、CaSbO、CaSb、CaSb、SrSb、BaNb15、SrNb、KTiNbO、ZnNb、CsNb11、LaNbO、CaNb、HfO、PbWO、NaInO、LaInO、及びSrInから成る群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の有機物分解装置。
[6]前記光触媒が、被処理流体の流路内壁に塗布され、その塗布厚みが、1μm以上100μm以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の有機物分解装置。
[7]前記光触媒が、表面開孔率10%以上50%以下の状態で塗布されている、前記[6]に記載の有機物分解装置。
[8]前記[1]~[7]のいずれかに記載の装置を用いて、被処理流体に含有される有機化合物の分解を行う方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る有機化合物分解装置は、紫外線を照射する光源と、バンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下である光触媒を組み合わせることにより、揮発性有機化合物や難分解性有機化合物の分解を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本実施形態の有機化合物分解装置は、ピーク波長が180nm以上350nm以下である紫外線を照射する光源と、有機化合物を含有する被処理流体の流路内に固定され、該照射された該紫外線により光触媒反応を起こす光触媒とを具備する該有機化合物の分解装置であって、該光触媒のバンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下であることを特徴とする。
【0012】
本実施形態において、光源が照射する紫外線のピーク波長は、180nm以上350nm以下であり、好ましくは230nm以上300nm以下であり、より好ましくは250nm以上280nm以下である。
紫外線のピーク波長が180nmより小さいと、紫外線の照射強度が低下し、有機化合物の分解効率が低下する。他方、紫外線のピーク波長が350nmより大きいと、光触媒を励起するためのエネルギーが不足し、有機化合物の分解効率が低下する。
【0013】
本実施形態において、紫外線を照射する光源は、特に限定されるものではないが、ピーク波長が230nm以上300nmである発光ダイオード(LED)を用いることが好ましく、ピーク波長が250nm以上280nm以下であるLEDを用いることがより好ましい。LED光源を使用することで、UVランプを用いる場合よりも波長範囲がシャープであり、光触媒を効率よく励起することができる。さらに、UVランプと比較して長寿命であり、省電力化、低コスト化が可能となる。
【0014】
本実施形態において、光触媒のバンドギャップエネルギーは、3.5eV以上6.0eV以下であり、好ましくは4.0eV以上5.5eV以下であり、より好ましくは4.5eV以上5.0eV以下である。
光触媒のバンドギャップエネルギーは、紫外可視吸収スペクトルの吸収端として測定することができ、本実施形態において、以下の手順によって測定される。
まず、有機化合物分解装置に固定されている光触媒を、スパーテルなどを用いて削り落とし回収する。次に、回収した光触媒を2質量%となるように、硫酸バリウム粉末と混合し、乳鉢で5分以上混合を行う。得られた混合粉末を、紫外可視分光光度計(UV-vis)を用いて、波長200nm以上800nm以下の範囲で拡散反射スペクトルを測定する。得られた拡散反射スペクトルは、クベルカムンク(K-M)変換を行い、横軸を波長λ(nm)、縦軸が吸光度aの、吸収スペクトルに変換する。
次に、式(1):E=1240/λを用いて、スペクトルの横軸を波長λ(nm)からエネルギーE(eV)に変換する。さらに、スペクトルの縦軸を吸光度aから(ahν)1/2に変換する。ここで、hはプランク定数、νは振動数であり、hν = Eの式が成り立つ。
横軸、縦軸の値を変換した後、吸収が立ち上がるスペクトル部分に直線をフィッティングし、その直線とベースラインとの交点のエネルギーE(eV)の値を、バンドギャップエネルギーとする。
【0015】
光触媒のバンドギャップとは、半導体金属のもつ電子伝導体と価電子帯との間のエネルギー幅のことであり、バンドギャップエネルギーとは、そのエネルギー幅の大きさのことである。バンドギャップエネルギー以上の光エネルギーが光触媒に照射されたとき、電子が価電子帯から電子伝導体に移動し、電子伝導体に励起された電子と、価電子帯に電子が抜けた正孔ができる。光触媒機能は、この励起電子と、正孔によって引き起こされる反応である。光触媒のバンドギャップエネルギーが大きいほど、より強いエネルギーを持つ励起電子と正孔が生成するため、効率よく有機化合物を分解することができる。
光触媒のバンドギャップエネルギーが3.5eV未満であると、生成する励起電子と正孔のエネルギーが小さく、有機化合物の分解効率が低下する。他方、光触媒のバンドギャップエネルギーが6.0eVを超えると、電子を励起するために必要なエネルギーが大きく、電子の励起効率が低下し、有機化合物の分解効率が低下する。
【0016】
本実施形態において、光触媒の結晶子径は、好ましくは1nm以上60nm以下であり、より好ましくは5nm以上50nm以下、さらに好ましくは10nm以上40nm以下である。
光触媒の結晶子径は、前述の通り回収した光触媒を、X線回折装置(XRD)で測定してスペクトルを得た後、そのスペクトルのピーク幅から、シェラーの式を用いて算出することで求められる。
光触媒の結晶子径が1nmより小さいと、光触媒の嵩密度が低く、有機物分解装置への固定化の工程でスラリー粘度が増大し、装置への塗布が困難となる。他方、光触媒の結晶子径が60nmより大きいと、光触媒の嵩密度が高く、有機物分解装置への固定化の工程でスラリー粘度が低下し、装置への塗布が困難となる。また、光触媒の比表面積が低下し、有機化合分解の効率が低下する。
【0017】
本実施形態において、光触媒の比表面積は、好ましくは0.1m/g以上200m/g以下であり、より好ましくは0.5m/g以上150m/g以下、さらに好ましくは1m/g以上100m/g以下である。
光触媒の比表面積は、前述の通り回収した光触媒を、窒素ガス吸着法を用いた比表面積計により測定し、BET法によって算出することで求められる。
光触媒の比表面積が0.1m/gより小さいと、有機物分解装置への固定化の工程でスラリー粘度が低下し、装置への塗布が困難となる。また、有機化合分解の効率が低下する。
光触媒の比表面積が200m/gより大きいと、光触媒の嵩密度が低く、有機物分解装置への固定化の工程でスラリー粘度が増大し、装置への塗布が困難となる。
【0018】
本実施形態において使用する光触媒は、
ZrO、BaZrO、SrZrO、LiZrO、CaZrO、LiYZr、NaYZr、LiYbZr、NaYbZr、CaZr、MgZr12、GaZr、Ta、LiTaO、NaTaO、KTaO、BiTaO、LaTaO、LiTa、NaTa、KTa、CaTa、SrTa、BaTa、NiTa、CaTa、SrTa、HSrTa、KSrTa、RbNdTa、LaTaO、LiCaTa10、KBaTa10、NaCaTa10、LiCaTa10、SrTa11、KTa12、KTaSi13、KPrTa15、SrTa15、BaTa15、RbTa17、LaTa19、KSrTa20、MgTiO、ZrTiO、LaTi、YTiO、GdTi、LaCaTi17、Ga、LaGaO、ZnGa、MgGa、SrGa、TaGa、BaGa、CaGa、LiGa、YGa12、LaGa15、ZnGa1016、ZnGeO、LiInGeO、GaGeO、NaSbO、CaSbO、CaSb、CaSb、SrSb、BaNb15、SrNb、KTiNbO、ZnNb、CsNb11、LaNbO、CaNb、HfO、PbWO、NaInO、LaInO、及びSrInから成る群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、光触媒は、2種類以上を選んで混合して用いても構わない。
【0019】
本実施形態において使用する光触媒は、有機化合物との接触効率を上げるため、例えばゼオライトのような有機化合物の吸着物質を担持させてもよいし、電子励起の効率を上げるため、金、白金、ニッケル、タングステンなどの金属を担持させていてもよい。
【0020】
使用する光触媒の同定、結晶子径の測定は、X線回折装置(XRD)及びX線光電子分光装置(XPS)を用いて行うことができる。
【0021】
本実施形態において、有機物分解装置の形状は、流体である対象物(被処理流体)が装置内部を通過する形状であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態において、装置内の光触媒の設置位置は、装置内の紫外線が照射される位置であれば、特に限定されるものではない。例えば、装置の内壁に位置していてもよいし、装置内部の対象物の流路上に光触媒を塗布したメッシュ状の担体を設置してもよい。光触媒を、好ましくは、光源から10cm以内の距離に設置することで、有機化合物の分解効果が高まる。
【0023】
本実施形態において、装置内への光触媒の固定方法は、特に限定されるものではないが、固定化した後の状態がよりポーラスとなる方法で固定化されることが好ましい。例えば、ポリエチレングリコールを溶かした水に光触媒を分散してペーストを作製し、基材へペーストを塗布した後、400℃以上に加熱をしてポリエチレングリコールを焼き飛ばして固定化することで、ポーラスな状態で光触媒を固定することができる。
【0024】
本実施形態において、装置に塗布された光触媒の塗布厚みは、1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上80μm以下、さらに好ましくは10μm以上60μm以下である。
光触媒の塗布厚みが1μmより小さいと、光触媒量が十分でなく、有機化合物分解の効率が低下する。他方、光触媒の塗布厚みが100μmより大きいと、塗布が不均一となり、剥がれ落ちやすくなる。
【0025】
本実施形態において、装置に塗布された光触媒の表面開孔率は、10%以上50%以下が好ましく、より好ましくは15%以上45%以下、さらに好ましくは20%40%以下である。
光触媒の表面開孔率が10%未満であると、塗布された光触媒の内部と有機化合物との接触頻度が低下し、有機化合物分解の効率が低下する。他方、光触媒の表面開孔率が50%を超えると、塗布された光触媒の密度が低下し、有機化合物との接触頻度が低下し、有機化合物分解の効果が低下する。
【0026】
光触媒の表面開孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した倍率1,000倍の反射電子像を、画像解析ソフトの二値化機能を用いて解析し、SEM画像の範囲内に観察される孔の面積割合を算出することで求められる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例、比較例における各物性は、以下の方法により測定した。
【0028】
(1)光触媒のバンドギャップエネルギー
紫外可視分光光度計(UV-vis)(日本分光(株)製、V-770)と、ISN-923型積分球ユニットを用いて、拡散反射スペクトルの測定を行った。測定に際して、製版者の影響を避けるために、固体試料ホルダーと積分球との間に5度傾斜スペーサーを挿入した。測定条件は、以下の通りである。開始波長800nm、終了波長200nm、データ取り込み間隔0.5nm、操作速度1000nm/分、繰り返し回数1回。ベースラインは、光触媒と混合した硫酸バリウム粉末を用いて測定した。得られた拡散反射スペクトルから、前述の通りバンドギャップエネルギーを算出した。
【0029】
(2)光触媒の結晶子径
X線回折装置(XRD)(リガク(株)、Ultima-IV)を用いて、X線回折スペクトルの測定を行った。測定の条件は、以下の通り。X線源Cu-Kα、励起電圧40kV、電流40mA、検出器D/teX、測定方式θ/2θ法、スキャン条件0.02°/ステップ、10°/分。得られたX線回折スペクトルから、前述の通り結晶子径を算出した。
【0030】
(3)光触媒の比表面積
比表面積測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、BELSORP-miniII(商品名))で測定した。試料を専用の5mLガラスセルに投入し、液体窒素でガラスセルを冷却しながら、窒素ガスの吸脱着により、細孔体積および比表面積の測定を行った。吸着質として純度99.99体積%以上の窒素ガス、パージガスとして純度99.99体積%以上のヘリウムガスを用いた。参照セルとして、測定用のガラスセルと同体積の空のガラスセルを用い、測定値を補正する設定で測定を行った。測定方式は簡易方式で、吸着相対圧上限0.95まで、脱着相対圧下限0.3までの設定で、測定を行った。測定後のBET法及びBJH法による解析は、解析ソフト(マイクロトラック・ベル(株)製、BELMaster(Version6.3.1.0))を用いて行った。
【0031】
(4)光触媒の表面開孔率
SEM((株)日立ハイテクノロジーズ製、TM-1000)を用いて、塗布光触媒の反射電子像を撮影した。撮影時の設定は、次の通り。観察モード:帯電軽減モード、撮影像:反射電子像、撮影倍率:1,000倍、明るさ/コントラスト:オート輝度で調整、フォーカス:オートフォーカスで調整。撮影した反射電子像は、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて画像解析を行った。画像解析ソフトでSEM画像を取り込んだのち、撮影したSEM画像の範囲を選択し、閾値30%に設定した時に黒く表示される部分を孔として、その面積割合を算出した。
【0032】
(5)有機化合物分解率
有機化合物の濃度が20mg/Lとなるように調製した処理液10Lを作製し、容量10Lのポリタンク内に入れた。この処理液を、紫外線照射部に光触媒が塗布された有機物分解装置に、流速100mL/分の速度で通液し、紫外線照射器の発光出力20mWで紫外線を照射して、有機化合物の分解を行った。通液した処理液は、再度ポリタンク内に戻し、液は循環した。所定の時間(10分、30分、60分、120分)ごとにポリタンクから処理液を採取し、その有機化合物濃度を測定した。
有機化合物の濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子(株)製、JMS-Q1000GC)にて測定した。
試験開始60分後の有機化合物分解率が50%以上であると良好な性能、有機化合物分解率が70%以上であるとさらに良好な性能であると判断した。
【0033】
[実施例1]
直径30mmの円筒状のモジュールで、円筒の上部から下部に向かって処理液が流れる構造であり、円筒の上部に光源が配置され、光源から15mmの距離に光触媒が塗布された20mm角のプレートが設置された形状のモジュールを用いて、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒としてSrTaを用いた。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は21nm、比表面積は25m/g、塗布厚みは58μm、表面開孔率は28%であった。
【0034】
[実施例2]
光源として紫外線のピーク波長が285nmのLEDを用いたモジュールを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法にて試験を実施した。
【0035】
[実施例3]
光源として紫外線のピーク波長が310nmのLEDを用いたモジュールを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法にて試験を実施した。
【0036】
[実施例4]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒としてLiTaOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.8eV、結晶子径は35nm、比表面積は1.8m/g、塗布厚みは56μm、表面開孔率は27%であった。
【0037】
[実施例5]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒としてGaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.7eV、結晶子径は13nm、比表面積は49m/g、塗布厚みは56μm、表面開孔率は25%であった。
【0038】
[実施例6]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、ZnGeOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.8eV、結晶子径は25nm、比表面積は19m/g、塗布厚みは57μm、表面開孔率は21%であった。
【0039】
[実施例7]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.4eV、結晶子径は35nm、比表面積は4.2m/g、塗布厚みは56μm、表面開孔率は24%であった。
【0040】
[実施例8]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、NaTaOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは3.9eV、結晶子径は12nm、比表面積は26m/g、塗布厚みは55μm、表面開孔率は26%であった。
【0041】
[実施例9]
光源として紫外線のピーク波長が230nmのLEDを用い、光触媒として、ZrOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは5.2eV、結晶子径は11nm、比表面積は33m/g、塗布厚みは51μm、表面開孔率は23%であった。
【0042】
[実施例10]
光源として紫外線のピーク波長が210nmのLEDを用い、光触媒として、CaZrOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは5.8eV、結晶子径は15nm、比表面積は23m/g、塗布厚みは55μm、表面開孔率は29%であった。
【0043】
[実施例11]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は43nm、比表面積は0.8m/g、塗布厚みは56μm、表面開孔率は26%であった。
【0044】
[実施例12]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は55nm、比表面積は0.3m/g、塗布厚みは55μm、表面開孔率は25%であった。
【0045】
[実施例13]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は15nm、比表面積は52m/g、塗布厚みは7μm、表面開孔率は23%であった。
【0046】
[実施例14]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は14nm、比表面積は47m/g、塗布厚みは2μm、表面開孔率は22%であった。
【0047】
[実施例15]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は15nm、比表面積は48m/g、塗布厚みは47μm、表面開孔率は18%であった。
【0048】
[実施例16]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は16nm、比表面積は50m/g、塗布厚みは46μm、表面開孔率は12%であった。
【0049】
[実施例17]
分解対象である有機化合物をイソブタノールにしたこと以外は、実施例1に記載の方法で試験を実施した。
【0050】
[実施例18]
分解対象である有機化合物をフタル酸ジメチルにしたこと以外は、実施例1に記載の方法で試験を実施した。
【0051】
[実施例19]
分解対象である有機化合物を酢酸エチルにしたこと以外は、実施例1に記載の方法で試験を実施した。
【0052】
[実施例20]
分解対象である有機化合物をテトラクロロエチレンにしたこと以外は、実施例1に記載の方法で試験を実施した。
【0053】
[比較例1]
光源として紫外線のピーク波長が365nmのLEDを用いたモジュールを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で試験を実施した。
【0054】
[比較例2]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、TiOを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは3.2eV、結晶子径は14nm、比表面積は50m/g、塗布厚みは52μm、表面開孔率は19.8%であった。
【0055】
[比較例3]
光源として紫外線のピーク波長が365nmのLEDを用いたモジュールを使用したこと以外は、比較例2と同様の方法で試験を実施した。
【0056】
[比較例4]
光源として紫外線のピーク波長が365nmのLEDを用いたモジュールを使用し、分解対象物である有機化合物をテトラクロロエチレンにしたこと以外は、比較例2と同様の方法で試験を実施した。
【0057】
[比較例5]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は63nm、比表面積は0.08m/g、塗布厚みは54μm、表面開孔率は21%であった。
【0058】
[比較例6]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は13nm、比表面積は47m/g、塗布厚みは0.5μm、表面開孔率は25%であった。
【0059】
[比較例7]
光源として紫外線のピーク波長が265nmのLEDを用い、光触媒として、SrTaを用いたモジュールを使用して、アセトアルデヒドの分解試験を実施した。塗布された光触媒の、バンドギャップエネルギーは4.6eV、結晶子径は14nm、比表面積は46m/g、塗布厚みは53μm、表面開孔率は4%であった。
【0060】
実施例1~20、比較例1~7の結果を以下の表1、2に示す。
【表1】
【0061】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る有機化合物分解装置は、紫外線を照射する光源と、バンドギャップエネルギーが3.5eV以上6.0eV以下である光触媒を組み合わせることにより、揮発性有機化合物や難分解性有機化合物の分解を効率よく行うことができるため、被処理流体に含有される有機化合物の分解等の各種分野に広く好適に利用可能である。