(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】封孔処理剤
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20231208BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231208BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231208BHJP
C09D 5/46 20060101ALI20231208BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231208BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231208BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20231208BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20231208BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231208BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20231208BHJP
C23C 4/18 20060101ALI20231208BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D7/63
C09D7/61
C09D5/46
C09D183/04
B32B27/30 A
B32B27/22
B32B27/20 A
B32B27/00 101
E02D5/80 Z
C23C4/18
B22D17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019194298
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018225071
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 真伍
(72)【発明者】
【氏名】福島 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】三村 展央
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 誠
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300509(JP,A)
【文献】特開2005-288993(JP,A)
【文献】特開平01-307478(JP,A)
【文献】特開2016-180051(JP,A)
【文献】特開2018-044162(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0030307(US,A1)
【文献】特開2012-149455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル樹脂(A)、非反応性液状化合物(B)、エポキシ基を有するシラン化合物(C)および顔料(D)を含有
し、
前記非反応性液状化合物(B)が、塩素化炭化水素系化合物およびフタル酸エステルからなる群より選択される1種以上である、
封孔処理剤。
【請求項2】
前記封孔処理剤の不揮発分100質量%に対して、前記非反応性液状化合物(B)を1~8.5質量%含有する、請求項
1に記載の封孔処理剤。
【請求項3】
さらに、エポキシ基を有さないシリコーン樹脂(E)を含有する、請求項1
または2に記載の封孔処理剤。
【請求項4】
前記封孔処理剤のB型粘度計で測定した粘度(25℃)が0.2~1.0Pa・sである、請求項1~
3の何れか1項に記載の封孔処理剤。
【請求項5】
前記封孔処理剤の顔料体積濃度(PVC)が30~50%である、請求項1~
4の何れか1項に記載の封孔処理剤。
【請求項6】
金属溶射被膜の封孔処理用である、請求項1~
5の何れか1項に記載の封孔処理剤。
【請求項7】
グラウンドアンカー用である、請求項1~
6の何れか1項に記載の封孔処理剤。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか1項に記載の封孔処理剤より形成された塗膜。
【請求項9】
請求項
8に記載の塗膜と基材とを含む塗膜付き基材。
【請求項10】
前記基材が金属溶射被膜付き基材である、請求項
9に記載の塗膜付き基材。
【請求項11】
下記工程[1]および[2]を含む、塗膜付き基材の製造方法。
[1]請求項1~
7の何れか1項に記載の封孔処理剤を基材に塗装する工程
[2]塗装された封孔処理剤を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封孔処理剤、塗膜、塗膜付き基材および塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶射被膜は、鋼構造物等における基材の保護(防食性の付与)、化学機器・装置などへの耐薬品性、環境遮断性の付与、各工業分野の設備や装置などにおける耐摩耗性、耐熱性等の付与を目的として、広く用いられている。
【0003】
適当な地盤に造成されるアンカー体と地上構造物などの補強対象物とを高強度のテンドン(引張材)で連結させ、その緊張力を利用して補強対象物を安定させるグラウンドアンカーが知られており(例えば、特許文献1、2)、近年、土砂災害の防止には、グラウンドアンカー工法が有効であることが広く認知されてきている。このようなグラウンドアンカー工法は、斜面の安定、構造物の転倒・浮き上り防止、コンクリートダムの補強、仮設山留め・土留めなど、土木建築分野において広く利用されている。このグラウンドアンカー工法では、アンカー体の緊張力を保持するために受圧板が用いられている。該受圧板には溶射被膜が形成される場合がある。
【0004】
溶射被膜としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムまたはこれらの合金等からなる線材を加熱して微粒子化したものを被覆対象物表面に堆積させたものが挙げられる。この溶射被膜は、その溶射方法にもよるが、通常、内部に孔を含んだ被膜となる。このように溶射被膜は多孔質であるため、この孔に雨水、海塩粒子、凍結防止剤やNOx、SOxなどの腐食ガスなどが浸透すると、溶射被膜の消耗が促進され、該被膜の膨れや剥離の発生の原因、溶射被膜が形成された下の基材の腐食の原因となる。そこで、溶射被膜の孔を処理(封孔)することで、長期防食性を維持できるほか、溶射被膜を有する構造物の美観を維持することができる。
【0005】
前記溶射被膜の孔を処理(封孔)する方法としては、例えば、カルボキシル基およびアミノ基を含有する樹脂と、エポキシ基および加水分解性シリル基を含有する硬化剤を含む封孔処理剤を用いる方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-149455号公報
【文献】特開2003-121278号公報
【文献】特開2004-300509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属溶射被膜やコンクリートなどの多孔質基材に塗料組成物を直接塗装する場合、基材に存在する孔を十分に埋めることができないため、得られる塗膜表面には破泡跡が生じたり、得られる塗膜には膨れや剥離が生じやすい。
このため、封孔処理剤には、処理対象に存在する孔を埋め、かつ、孔中に存在する気体を孔の外部に押し出すことができることができる性質(以下「封孔処理性」ともいう。)を有することが求められるが、従来の封孔処理剤は、この封孔処理性が十分ではなかった。
【0008】
また、前記受圧板などの地上に露出する部材の孔を処理(封孔)する場合や、工場等において、予め封孔処理を行ったグラウンドアンカーを保管しておき、その後、グラウンドアンカー工法を行う場合、封孔処理剤から形成される塗膜には、防食性とともに耐候性も求められることがある。
しかしながら、従来の封孔処理剤を用いた場合、防食性および耐候性の両者に優れる塗膜を形成することは容易ではなかった。
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、封孔処理性に優れる封孔処理剤であって、防食性および耐候性の両者に優れる塗膜を形成可能な封孔処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、特定の封孔処理剤によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0011】
<1> エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル樹脂(A)、非反応性液状化合物(B)、エポキシ基を有するシラン化合物(C)および顔料(D)を含有する封孔処理剤。
【0012】
<2> 前記非反応性液状化合物(B)が、塩素化炭化水素系化合物およびフタル酸エステルからなる群より選択される1種以上である、<1>に記載の封孔処理剤。
<3> 前記封孔処理剤の不揮発分100質量%に対して、前記非反応性液状化合物(B)を1~8.5質量%含有する、<1>または<2>に記載の封孔処理剤。
【0013】
<4> さらに、エポキシ基を有さないシリコーン樹脂(E)を含有する、<1>~<3>の何れかに記載の封孔処理剤。
【0014】
<5> 前記封孔処理剤のB型粘度計で測定した粘度(25℃)が0.2~1.0Pa・sである、<1>~<4>の何れかに記載の封孔処理剤。
<6> 前記封孔処理剤の顔料体積濃度(PVC)が30~50%である、<1>~<5>の何れかに記載の封孔処理剤。
【0015】
<7> 金属溶射被膜の封孔処理用である、<1>~<6>の何れかに記載の封孔処理剤。
<8> グラウンドアンカー用である、<1>~<7>の何れかに記載の封孔処理剤。
【0016】
<9> <1>~<8>の何れかに記載の封孔処理剤より形成された塗膜。
<10> <9>に記載の塗膜と基材とを含む塗膜付き基材。
<11> 前記基材が金属溶射被膜付き基材である、<10>に記載の塗膜付き基材。
【0017】
<12> 下記工程[1]および[2]を含む、塗膜付き基材の製造方法。
[1]<1>~<8>の何れかに記載の封孔処理剤を基材に塗装する工程
[2]塗装された封孔処理剤を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、封孔処理性に優れる封孔処理剤を提供でき、該封孔処理剤によれば、防食性および耐候性の両者に優れる塗膜を形成することができる。
また、本発明によれば、基材に対し、1回塗りのみで、封孔を十分に処理することができ、防食性および耐候性に優れる塗膜を容易に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪封孔処理剤≫
本発明の一実施形態に係る封孔処理剤(以下単に「本処理剤」ともいう。)は、エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル樹脂(A)(以下「成分(A)」ともいう。他の成分についても同様。)、非反応性液状化合物(B)、エポキシ基を有するシラン化合物(C)および顔料(D)を含有する組成物である。
【0020】
本処理剤の粘度は、本処理剤の用途、塗装方法などにより適宜選択すればよいが、塗装作業性、貯蔵安定性に優れ、封孔処理性、特に、処理対象に存在する孔を埋める性能に優れる処理剤を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.2Pa・s以上、より好ましくは0.25Pa・s以上、特に好ましくは0.3Pa・s以上であり、好ましくは1.0Pa・s以下、より好ましくは0.9Pa・s以下、特に好ましくは0.8Pa・s以下である。
前記粘度は、B型粘度計(型式:BII型粘度計、東機産業(株)製)を用い、温度25℃、回転速度60rpmにおいて、4号ローターを使用して測定した値である。
【0021】
本処理剤を用いて封孔処理する場合、1回塗りで処理対象に存在する孔を埋めるとともに、十分な防食性を示す膜厚の塗膜を形成できる点から、TI値(Thixotropic Index)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.5以上であり、好ましくは7.0以下、より好ましくは6.5以下、特に好ましくは6.0以下である。
本処理剤のTI値が前記範囲より小さい場合、タレ止め性が不十分となる場合があり、十分な膜厚の塗膜形成が困難となる場合があり、前記範囲より大きい場合、流動性が低く封孔処理性が不十分となる傾向にある。
前記TI値は、前記粘度と同様にして測定した回転速度60rpmにおける粘度と、回転速度を6rpmに変更した以外は前記粘度と同様にして測定した粘度とを測定し、下記式(1)より算出される。
TI値=6rpmにおける粘度(Pa・s)/60rpmにおける粘度(Pa・s)・・・(1)
【0022】
本処理剤は、一成分型であってもよいが、保存安定性および保存容易性を考慮すると、主剤および硬化剤を含む多成分型であることが好ましく、例えば、前記成分(A)を含有する主剤、好ましくは前記成分(A)および(D)を含有する主剤、より好ましくは前記成分(A)、(B)および(D)を含有する主剤と、前記成分(C)を含有する硬化剤、好ましくは前記成分(C)および(E)を含有する硬化剤とを含む二成分型が望ましい。さらに、成分(E)を別の成分とした三成分以上型であってもよく、下記その他の成分等を含有する第3剤等を含む三成分以上型であってもよい。
【0023】
本処理剤は、多孔質基材などの孔を有する基材等に用いられ、特に、これらの基材として、防食が要求される鉄鋼製などの基材に好適に用いられる。本処理剤は、より具体的には、亜鉛溶射被膜などの金属溶射被膜が形成された鉄鋼製部材に好適に用いられ、このような部材が用いられる用途、例えば、グラウンドアンカー、鋳鉄管、橋梁等の鋼構造物に好適に用いられる。
また、本処理剤は、1回塗りで基材の孔を処理(封孔)する処理剤として好適に用いられる。
【0024】
<エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル樹脂(A)>
成分(A)は、エポキシ基に対する反応性の官能基を1分子中に少なくとも1つ有していれば特に制限されず、本処理剤に用いる成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
なお、本発明における「アクリル樹脂」は、アクリル系樹脂のことであり、アクリル樹脂であってもよく、メタクリル樹脂であってもよい。
該成分(A)を用いることで、耐候性、柔軟性(耐クラック性)等に優れる塗膜を容易に形成することができる。
【0025】
前記エポキシ基との反応性官能基としては、具体的には、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、酸無水物基等が挙げられる。中でも、アミノ基、カルボキシ基、酸無水物基が好ましい。
このエポキシ基との反応性官能基は、後述する成分(C)のエポキシ基と反応し、本処理剤の硬化に寄与する。該硬化反応の反応機構は必ずしも明らかではないが、例えば、成分(A)がアミノ基を含有する場合、一部は以下のように推定される。
(1)成分(A)の反応性官能基が1級や2級アミノ基である場合、これらの反応性官能基がエポキシ基と反応して硬化する。
(2)成分(A)の反応性官能基がカルボキシ基や酸無水物基である場合、これらの反応性官能基がエポキシ基と反応するが、さらに成分(A)が3級アミノ基を含有することで、これらの硬化反応を促進することができる。
【0026】
成分(A)は、例えば、アクリル系ビニル単量体と、必要により他のビニル系単量体とを用いて、(共)重合することにより合成することができ、これらの単量体の何れか1つとしてエポキシ基との反応性官能基を有する単量体を用いて合成することや、これらの単量体としてエポキシ基との反応性官能基を有さない単量体を用い、前記(共)重合する際や(共)重合した後にエポキシ基との反応性官能基を導入することで合成することができる。これらの中でも、エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル系ビニル単量体を用いて(共)重合することが好ましい。
【0027】
該エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル系ビニル単量体の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド基含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸が挙げられる。
該アクリル系ビニル単量体は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0028】
成分(A)は、必要に応じて、エポキシ基との反応性官能基を有するアクリル系ビニル単量体と、1種または2種以上の他のビニル系単量体とを共重合して得られる樹脂であってもよい。
該他のビニル系単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類;マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシ基含有ビニル系単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有ビニル系単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのシアノ基含有ビニル系単量体;p-スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有ビニル系単量体;p-スチレンスルホンアミド、N-メチル-p-スチレンスルホンアミドなどのスルホンアミド基含有ビニル系単量体;フッ素含有ビニル単量体が挙げられる。
【0029】
成分(A)は、厚膜としてもクラックが生じにくく、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する付着性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、その重量平均分子量(以下、単に「Mw」ともいう。)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは30,000以上、特に好ましくは40,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは70,000以下、特に好ましくは65,000以下である。
【0030】
前記Mwは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、具体的には、以下のGPC条件で測定することができる。
・GPC条件
・装置:「Alliance 2695」(Waters社製)
・カラム:「TSKgel SuperH4000」1本と「TSKgel SuperH2000」2本を連結(いずれも東ソー(株)製、内径6mm×長さ15cm)
・溶離液:テトラヒドロフラン99%(Stabilized whith BHT)
・流速:0.6ml/min
・検出器:「RI-104」(Shodex社製)
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:標準ポリスチレン
・サンプル調製法:試料をサンプル管に量り取り、テトラヒドロフランを加えて約100倍に希釈
【0031】
本処理剤の不揮発分100質量%中の成分(A)の含有量(不揮発分)は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
成分(A)の含有量が前記範囲にあると、封孔処理性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)にバランスよく優れるとともに、基材に対する付着性に優れる塗膜を容易に得ることができる。
【0032】
本処理剤の不揮発分(固形分)は、本処理剤を十分に反応硬化(加熱)した後の塗膜(加熱残分)の質量百分率、または、該塗膜(加熱残分)自体を意味する。前記不揮発分は、JIS K 5601-1-2に従って、本処理剤(例えば、主剤成分と硬化剤成分を混合した直後の組成物)1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間乾燥させた後、加熱温度110℃で1時間(常圧下)加熱した時の、加熱残分および該針金の質量を測定することで算出することができる。なお、この不揮発分は、本処理剤に用いる原料成分の固形分(溶媒以外の成分)の総量と同等の値である。
【0033】
<非反応性液状化合物(B)>
成分(B)は、常温(23℃)で液状であり、かつ、常温下で本処理剤中の他の成分と反応性を有さない、つまり、エポキシ基、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、酸無水物基、ビニル基、水酸基、アルコキシ基等を含有しない、エポキシ基、アミノ基、水酸基、アルコキシ基等と反応性を有さない化合物である。
本処理剤に用いる成分(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0034】
従来、可塑剤などの化合物は、高い耐候性が要求される用途に用いられてこなかったが、本発明者が鋭意検討した結果、特定の化合物を用いることにより、封孔処理性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)にバランスよく優れる塗膜を形成することができることを見出した。
さらに、本処理剤は、成分(B)を含有するため、1回塗りで基材を封孔処理することができるとともに、防食性および耐候性に優れる塗膜を形成することができる。
【0035】
このような成分(B)としては、塩素化炭化水素系化合物、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸トリフェニル、ポリビニルエチルエーテル等が挙げられ、これらの中でも安価で入手容易性に優れる点から、塩素化パラフィン(塩化パラフィン)、フタル酸ジアルキルが好ましく、より耐候性に優れる塗膜を形成できる傾向にある等の点から、融点が20℃以下の塩素化パラフィン、フタル酸ジオクチルがより好ましい。
【0036】
前記塩素化パラフィンとしては、直鎖状でも分岐を有していてもよく、その平均炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは12以上であり、好ましくは26以下、より好ましくは24以下、特に好ましくは22以下である。平均炭素数が前記範囲にある塩素化パラフィン用いると、封孔処理性に優れる塗膜を容易に得ることができる傾向にある。
前記塩素化パラフィンの前記B型粘度計で測定された温度25℃、回転速度60rpmにおける粘度は、好ましくは0.1Pa・s以上、より好ましくは1.5Pa・s以上であり、好ましくは5.0Pa・s以下、より好ましくは3.5Pa・s以下、特に好ましくは3.0Pa・s以下である。
前記塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上であり、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。
【0037】
前記フタル酸ジアルキルとしては、安価で入手容易性に優れることから、フタル酸ジオクチルおよびフタル酸ジイソノニルが好ましく、前記フタル酸ジオクチルとしては、DOP、DHEP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))等が挙げられる。なお、本願において、単にフタル酸ジオクチルと記載した場合、前記DOPとDHEPの両方が含まれる。
【0038】
本処理剤の不揮発分100質量%中の成分(B)の含有量(不揮発分)は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは2質量%以上であり、好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは7質量%以下である。
成分(B)の含有量が前記範囲にあると、封孔処理性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)にバランスよく優れる塗膜を形成することができる。
成分(B)の含有量が前記範囲の下限を下回ると、封孔処理性が低下する場合があり、耐クラック性に優れる塗膜が得られ難い場合がある。また、成分(B)の含有量が前記範囲の上限を上回ると、得られる塗膜が粘着質になりやすく、耐候性が低下する傾向にある。
【0039】
<エポキシ基を有するシラン化合物(C)>
成分(C)は特に制限されず、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有していれば、モノマー、オリゴマーおよびポリマーのいずれであってもよく、本処理剤に用いる成分(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
成分(C)は、後述する顔料(D)と、成分(A)や(E)等の塗膜形成成分とを化学的に結合させる機能を有し、また、形成される塗膜の基材との密着性を改善する効果を有する。
なお、成分(C)は、エポキシ基を有するため、前記効果を奏する塗膜を得ることができる。一方、エポキシ基を有さない化合物のみを用いた場合、前記所望の効果を奏さない。
【0040】
成分(C)としては、防食性および耐候性等により優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、エポキシ基とアルコキシ基とを有する化合物が好ましく、1分子中に1個のエポキシ基を有するアルコキシ基含有シランカップリング剤がより好ましく、下記式で表される化合物であることが特に好ましい。
X-SiRnY3-n
[nは0または1であり、Xはエポキシ基、炭化水素基の一部がエポキシ基で置換された基、または、炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がエポキシ基で置換された基を示し、Rはアルキル基を示し、Yは独立に、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を示す。]
【0041】
前記式で表されるシラン化合物としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのγ-グリシドキシアルキルアルキルジアルコキシシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのγ-グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン;3,4-エポキシシクロヘキシルエチルメチルジメトキシシランなどの3,4-エポキシシクロヘキシルアルキルアルキルジアルコキシシラン;3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリプロポキシシランなどの3,4-エポキシシクロヘキシルアルキルトリアルコキシシランが挙げられ、これらが脱水縮合したオリゴマーやポリマーであってもよい。
【0042】
前記オリゴマーとしては、その数平均分子量(Mn)が、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,000以下の化合物が挙げられる。
前記ポリマーとしては、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下の化合物が挙げられる。
【0043】
本処理剤の不揮発分100質量%中の成分(C)の含有量(不揮発分)は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下である。
成分(C)の含有量が前記範囲にあると、塗装作業性および封孔処理性に優れ、常温硬化可能な乾燥性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)にバランスよく優れる塗膜を容易に得ることができる。
【0044】
乾燥性および封孔処理性により優れる処理剤を容易に得ることができ、耐候性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本処理剤中において、成分(A)中の反応性官能基1モルに対して、成分(C)中のエポキシ基は、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.15モル以上であり、好ましくは2モル以下、より好ましくは1.8モル以下である。
また、同様の理由から、成分(A)と成分(C)の質量比(成分(A)の質量/成分(C)の質量)は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0045】
<顔料(D)>
成分(D)としては、体質顔料、着色顔料、防錆顔料等が挙げられ、有機系、無機系の何れであってもよい。
成分(D)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本処理剤が主剤と硬化剤とからなる多成分型である場合、成分(D)は主剤および硬化剤のどちらか一方に配合してもよく、または、両方に配合してもよいが、主剤に配合することが好ましい。
【0046】
本処理剤中の成分(D)の含有量は、封孔処理性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)に優れるとともに、形成される塗膜が応力緩和の効果を有し、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する付着性に優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、本処理剤の不揮発分100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0047】
本処理剤中の顔料体積濃度(PVC)は、封孔処理性に優れる処理剤を容易に得ることができ、防食性、耐候性および柔軟性(耐クラック性)に優れるとともに、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する付着性に優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは30%以上、より好ましくは32%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは48%以下である。
PVCが前記範囲を下回ると、前記応力緩和の効果が乏しくなる傾向にあり、特に、孔中に存在する気体を孔の外部に押し出す性能が低下する傾向にあり、また、前記範囲を超えると、得られる塗膜の防食性、耐侯性が低下する傾向にある。
【0048】
前記PVCとは、本処理剤中の不揮発分の体積に対する、顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式(2)より求めることができる。
PVC[%]=本処理剤中の全ての顔料の体積合計×100/本処理剤中の不揮発分の体積・・・(2)
【0049】
前記本処理剤中の不揮発分の体積は、本処理剤の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本処理剤の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0050】
前記体質顔料としては特に制限されず、従来公知の顔料を用いることができるが、下記着色顔料および防錆顔料以外の顔料である。
前記体質顔料としては、例えば、タルク、マイカ、硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウムや簸性硫酸バリウムを含む)、(カリ)長石、カオリン、アルミナホワイト、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、シリカ、ガラスフレーク、プラスチックフレークが挙げられる。特に、タルク、シリカ、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石、マイカが好ましい。
【0051】
本処理剤がこのような体質顔料を含有する場合、その含有量は、防食性および耐侯性に優れるとともに、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する付着性に優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、本処理剤の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0052】
前記着色顔料としては特に制限されず、従来公知の顔料を用いることができるが、下記防錆顔料以外の顔料である。
前記着色顔料としては、例えば、従来公知の、カーボンブラック、二酸化チタン(チタン白)、酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青、アルミニウムフレーク、鱗片状酸化鉄、ステンレスフレーク等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。特に、チタン白、カーボンブラック、弁柄が好ましい。
【0053】
本処理剤がこのような着色顔料を含有する場合、その含有量は、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する隠ぺい性等の点から、本処理剤の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0054】
本処理剤は、より防食性に優れ、基材、特に金属溶射被膜付き基材に対する耐白錆性を有する塗膜を容易に得ることができる等の点から、防錆顔料を含有することが好ましい。
防錆顔料としては、前記効果が得られ易い等の点から、好ましくは、金属シアナミド系化合物、リン酸金属系化合物、亜リン酸金属系化合物、トリポリリン酸金属系化合物が挙げられ、シアナミド亜鉛系化合物、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸モリブデン系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、リンストロンチウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物がより好ましい。
【0055】
本処理剤がこのような防錆顔料を含有する場合、その含有量は、前記効果に優れる塗膜を容易に形成できる等の点から、本処理剤の不揮発分100質量%に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0056】
<その他の成分>
本処理剤は、前記成分に加え、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに、エポキシ基を有さないシリコーン樹脂(E)、アルキルシリケート,トリアルコキシラン(F)、公知の分散剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、タレ止め剤(沈降防止剤)、硬化促進剤、有機溶剤等を含有してもよい。
これらはそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記その他の成分は、主剤成分に配合してもよく、硬化剤成分に配合してもよい。
【0057】
<エポキシ基を有さないシリコーン樹脂(E)>
前記成分(E)は、エポキシ基を有さず、シロキサン結合を有する樹脂であれば特に制限されず、直鎖状でも、分岐状であってよい。
成分(E)を用いると、耐候性により優れる塗膜を得ることができる傾向にある。
本処理剤に用いる成分(E)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0058】
成分(E)は、例えば、耐候性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、下記式(I)で示される樹脂であることが好ましい。
【0059】
【化1】
(式(I)中、R
1はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または炭素数1~8のアルコキシ基を示し、R
2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または水素原子を示す。また、nは繰り返し数を示す。)
【0060】
前記R1およびR2における炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
前記R1およびR2における炭素数6~8のアリール基は、芳香環上にアルキル基等の置換基を有する基であってもよく、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基が挙げられる。
前記R1における炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基が挙げられる。
【0061】
前記R1は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基であり、また、R2は、好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基または水素原子である。
【0062】
成分(E)の前述のGPC条件で測定されるMwは、耐候性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは50,000以上、特に好ましくは100,000以上であり、好ましくは10,000,000以下、より好ましくは5,000,000以下、特に好ましくは3,000,000以下である。
前記繰り返し数nは、成分(E)のMwが前記範囲となるように選択されることが好ましい。
Mwが前記範囲の上限を超える成分(E)は、粘度が高いため、取り扱い性を考慮した場合、このような成分(E)を含む本処理剤の粘度を下げるために、後述する有機溶剤等による希釈が必要となる場合が多い。この結果、本処理剤中の溶剤分が増加することとなり、本処理剤中のVOC(Volatile Organic Compounds/揮発性有機化合物)を低減できない場合がある。
【0063】
成分(E)は、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等の耐候性および撥水性を有する樹脂であることが好ましく、下記、ジメチルシロキサン単位(a1)、ジフェニルシロキサン単位(a2)、メチルフェニルシロキサン単位(a3)、モノメチルシロキサン単位(a4)、モノプロピルシロキサン単位(a5)およびモノフェニルシロキサン単位(a6)からなる群より選択される1種以上の構成単位を含有することがより好ましい。
【0064】
【化2】
(式(a1)~(a6)中、Si-O-における、Oに結合し、Siに結合していない「-」は、結合手を示し、Si-O-は、必ずしもSi-O-CH
3を示すわけではない。)
【0065】
成分(E)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「Silicone KR-271」(信越化学工業(株)製)、「SILRES REN60」、「SILRES REN80」(いずれも旭化成ワッカーシリコーン(株)製)、「SILIKOPHEN P80/X」(Evonik社製)が挙げられる。
【0066】
本処理剤が前記成分(E)を含有する場合、本処理剤の不揮発分100質量%中の成分(E)の含有量(不揮発分)は、耐候性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0067】
<アルキルシリケート,トリアルコキシシラン(F)>
前記成分(F)としては、アルキルシリケートおよびトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物が挙げられ、その縮合物である部分加水分解縮合物であってもよい。
本処理剤に用いる成分(F)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0068】
前記アルキルシリケートとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート等の化合物;メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等の化合物が挙げられる。
【0069】
前記トリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の化合物が挙げられる。
【0070】
これらの中でも、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの部分加水分解縮合物が特に好ましい。
【0071】
このようなテトラエチルオルトシリケートの部分加水分解縮合物(以下、単に「エチルシリケートの縮合物」ともいう。)は、エトキシ基を有するシロキサンで構成される化合物であって、例えば、下記式(II)で表される。
【0072】
【0073】
前記エチルシリケートの縮合物は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、五量体を中心とする分子量分布を持つオリゴマーである「エチルシリケート 40」(コルコート(株)製)、「Wacker Silicate TES 40WN」(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)が挙げられる。
【0074】
本処理剤が成分(F)を含有する場合、本処理剤の不揮発分100質量%中の成分(F)の含有量(不揮発分)は、乾燥性、および貯蔵中の脱水効果に起因する貯蔵安定性に優れる等の点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0075】
本処理剤の不揮発分100質量%中の、成分(C)、(E)および(F)(これらを併せて「シリコン成分」ともいう。)の含有量(不揮発分)は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
また、成分(A)とシリコン成分との質量比(成分(A)の質量/(成分(C)の質量+成分(E)の質量+成分(F)の質量))は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
シリコン成分の含有量が前記範囲にあることで、触媒(有機金属化合物)を用いなくても本処理剤を硬化させることができ、安価で容易に前記所望の物性を有する塗膜を得ることができる。
【0076】
[タレ止め剤(沈降防止剤)]
前記タレ止め剤(沈降防止剤)としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のものを使用できるが、中でも、アマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。
【0077】
本処理剤がタレ止め剤(沈降防止剤)を含有する場合、主剤成分の不揮発分100質量%中に、例えば0.1~10質量%の量で含有すればよい。
【0078】
[有機溶剤]
前記有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0079】
<本処理剤の調製方法>
本処理剤は、前記各成分を混合(混練)することで、調製することができる。
この混合(混練)の際には、各成分を一度に添加・混合してもよく、複数回に分けて添加・混合してもよい。また、季節、環境等に応じて加温、冷却等しながら行ってもよい。
前記混合(混練)の際には、従来公知の混合機、分散機、攪拌機等を使用でき、例えば、混合・分散ミル、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザーが挙げられる。
【0080】
本処理剤が主剤および硬化剤を含む多成分型の処理剤である場合、成分(A)中の反応性官能基1モルに対して、成分(C)中のエポキシ基のモル数が前記範囲となるように調整して混合(混練)することが好ましい。
【0081】
≪塗膜、塗膜付き基材≫
本発明の一実施形態に係る塗膜(以下「本塗膜」ともいう。)は、前記本処理剤を用いて形成され、本処理剤の一実施形態に係る塗膜付き基材(以下「本塗膜付き基材」ともいう。)は、本塗膜と被塗物(基材)とを含む積層体である。
【0082】
前記基材としては特に制限されず、前記本処理剤の有する効果が要求されるような基材に制限なく使用することができるが、本処理剤を用いる効果がより発揮される等の点から、好ましくは、多孔質基材などの孔を有する基材等が挙げられ、より好ましくは、金属溶射被膜が形成された基材等が挙げられる。
前記金属溶射被膜としては、亜鉛、アルミニウム、亜鉛-アルミニウム(合金、擬合金)、アルミニウム-マグネシウム合金などの金属を用い、熱エネルギー源によって、溶融あるいは半溶融状態にすると同時に、運動エネルギーを付与して基材表面に衝突、積層させて被膜を形成したものなどが挙げられる。
また、前記基材の材質としては特に制限されず、木材、コンクリート等の無機質基材等であってもよいが、好ましくは、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼等)等が挙げられる。また、前記基材のより具体的な好適例としては、グラウンドアンカー、鋳鉄管、橋梁等の鋼構造物が挙げられ、本発明の効果がより発揮される等の点から、グラウンドアンカーがより好ましい。
【0083】
本塗膜の塗布量は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよく、基材に存在する孔を塞ぐことができれば特に制限されないが、十分な防食性、耐候性を有し、基材に対する付着性によりバランスよく優れる塗膜が得られる等の点から、通常は100g/m2以上、好ましくは150g/m2以上であり、通常は400g/m2以下、好ましくは300g/m2以下である。
【0084】
本塗膜付き基材は、本塗膜と被塗物(基材)とを含む積層体であればよく、本塗膜上に、さらに耐候性等に優れる上塗り塗膜を形成してもよい。このような上塗り塗膜としては、アクリル樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系等の各種上塗り塗料組成物より形成される塗膜等が挙げられる。
【0085】
≪塗膜付き基材の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る塗膜付き基材の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、下記工程[1]および[2]を含む。なお、この本方法は、基材として多孔質基材などの孔を有する基材を用いる場合、孔を有する基材の封孔処理方法であるとも言える。
工程[1]:本処理剤を基材に塗装する工程
工程[2]:塗装された本処理剤を乾燥させて塗膜を形成する工程
【0086】
<工程[1]>
前記工程[1]における塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装等のスプレー塗装、刷毛、ローラー、ヘラ、コテなどを用いた塗装などの従来公知の方法が挙げられ、自動化してもよく、手動にて塗装してもよい。
これらの中でも、複雑な形状の基材を容易に塗装できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
【0087】
本処理剤を塗装する際には、所望に応じて、粘度を適正な値に調整してもよく、この時の粘度としては、前述の粘度の範囲となるようにすればよい。
【0088】
本処理剤を塗装する際には、1回の塗装(1回塗り)が好ましいが、2回以上の塗装(2回以上塗り)で前記量を塗布し、所望の膜厚の塗膜を形成してもよい。
特に、本処理剤によれば、1回塗りで塗膜を形成しても、基材の孔を十分に塞ぐことができ、防食性および耐候性に優れる塗膜を容易に形成することができるため、容易に封孔処理することができる等の点から、1回塗りで塗装することが好ましい。
ここで、1回塗りとは、被塗物に対して前記工程[1]および[2]を経て乾燥塗膜を形成する方法であり、乾燥塗膜を形成する工程を行った後、該工程で得られた乾燥塗膜上に、前記工程[1]を行わない方法である。また、2回以上塗りとは、被塗物に対して前記工程[1]および[2]を経て、乾燥塗膜を形成する工程を少なくとも1回行なった後、該工程で得られた乾燥塗膜上に対し、さらに前記工程[1]および[2]を経て乾燥塗膜を形成する方法である。
【0089】
なお、基材によっては、表面を前処理する工程、例えば、基材に付着した錆、汚れ、塗料(旧塗膜)等を落とす洗浄処理やブラスト処理を、前記工程[1]の前に行ってもよい。
【0090】
<工程[2]>
前記工程[2]における乾燥条件としては特に制限されず、塗膜の形成方法、基材の種類、用途、塗装環境等に応じて適宜設定すればよいが、乾燥温度は、常温乾燥の場合、通常5~35℃、より好ましくは10~30℃である。なお、所望により加熱、送風により強制乾燥(例:30~90℃)してもよいが、通常は自然条件下で乾燥、硬化される。
乾燥時間は、塗膜の乾燥方法によって異なり、常温乾燥の場合、通常1日~7日、好ましくは1日~3日である。
【実施例】
【0091】
本発明について実施例を挙げ、更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
【0092】
[実施例1]
ポリ容器に、表1に記載の主剤を構成する各成分を、表1に記載の量(数値)に従って入れ、ハイスピードディスパーを用いて攪拌した後、適量のガラスビーズを入れ、ペイントシェーカーで1~2時間分散させた。次いで、ガラスビーズを取り除くことで、主剤を調製した。
また、容器に、表1に記載の硬化剤を構成する各成分を、表1に記載の量(数値)に従って加え、ハイスピードディスパーを用いて十分に分散させることで硬化剤を調製した。
塗装する際に、前記主剤および硬化剤を表1に記載の所定の混合比で混合し、封孔処理剤を調製した。
【0093】
[実施例2~5および比較例1~3]
実施例1を構成する各成分の種類および配合量を、下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして主剤、硬化剤および封孔処理剤を調製した。表1中の各成分の数値は、それぞれ質量部を示す。なお、表1に記載の各成分の説明を表2に示す。
【0094】
<粘度>
各封孔処理剤の粘度を、B型粘度計(型式:BII型粘度計、東機産業(株)製)を用い、温度25℃、回転速度60rpmの条件で、4号ローターを使用して測定した。
【0095】
<TI値>
各封孔処理剤の粘度を、前記B型粘度計を用い、温度25℃、回転速度60rpmおよび6rpmの条件で、4号ローターを使用してそれぞれ測定した。TI値は前記式(1)に基づいて算出した。
【0096】
<塗膜外観>
寸法が150mm×70mm×0.8mm(厚)の鋼板を用意した。この鋼板の表面に、前述のようにして調製した各封孔処理剤を、エアスプレーを用いて、それぞれ乾燥膜厚が40μmとなるよう塗装し、23℃で7日間乾燥して試験板を作成した。得られた試験板の封孔処理剤を塗装した側表面の塗膜状態を目視で観察した。
塗膜にクラック、剥離、目標とする色相とのズレ(黄変)、粘着のいずれの発生もなかった場合を、「正常」と評価し、この正常の場合以外については、生じた問題を表1に記載した(例:目標とする色相に対して黄味がかった色相になった場合、「黄変」と記載)。
【0097】
<封孔処理性試験>
寸法が150mm×70mmで、亜鉛-アルミニウム溶射の最小皮膜厚さが150μmである鋼板(JIS H 8300における、TS-WF/ZnAl15(150)皮膜付き鋼板)の溶射被膜側に、前述のようにして調製した各封孔処理剤そのまま(無希釈)を、エアスプレーを用いて、それぞれ塗布量が200g/m2となるよう塗装し、23℃で7日間乾燥して封孔処理性試験板を作成した。得られた試験板の封孔処理剤を塗装した側の表面の塗膜状態を下記評価基準に従って目視で評価した。また、前記試験板を切断し、SEM(電子顕微鏡)による断面観察を行うことで、金属溶射被膜への封孔処理性を評価した。
【0098】
(評価基準)
○:塗膜表面に膨れ、凹み、ピンホールがなく、かつ、
断面観察で溶射被膜に封孔処理剤が十分に浸透していることが確認できる。
×:塗膜表面に膨れ、凹み、ピンホールがある、または、
断面観察で金属溶射被膜と封孔処理剤の間に空隙が存在している。
【0099】
<防食性試験>
前記封孔処理性試験板と同様にして作成した試験板を、耐中性塩水噴霧性に関するJIS K 5600-7-1:1999に基づいて、塩水濃度5wt%、温度35℃、相対湿度98%の塩水噴霧条件の塩水噴霧試験機中に、1000時間保持することで、塩水噴霧試験を実施した。この塩水噴霧試験後の各試験板を下記評価基準に従って目視で評価した。
【0100】
(評価基準)
○:白錆および膨れの発生がない。
×:白錆および膨れの少なくとも一方が発生した。
【0101】
<耐候性試験>
寸法が150mm×70mm×0.8mm(厚)のアロジン処理したアルミ板を用意した。このアルミ板の表面に、前述のようにして調製した各封孔処理剤を、エアスプレーを用いて、それぞれ乾燥膜厚が40μmとなるよう塗装し、23℃で7日間乾燥して耐候性試験板を作成した。次に、得られた耐候性試験板を、QUV促進耐候試験機(型式:QUV Accelerated Weathering Tester、UV-B313型ランプ、Q-Lab社製)内に設置し、ISO 11507のMethod Aに準拠して、1500時間の耐候性試験を行った。
【0102】
その後、光沢計(型式:BYK-Gardner社製)を用いて、試験後の塗膜表面の垂直方向から60°の角度で入射させた光の反射率(60°光沢)を測定し、耐候性試験を実施する前の塗膜の60°光沢の値に対する光沢保持率(%)を算出した。
また、分光測色計(型式:SD5000、日本電色工業(株)製)を用いて、C光源、角度0°における、耐候性試験を実施する前後の塗膜の色差の絶対値(ΔE)を測定した。
これらの値を基に、下記評価基準に従って塗膜の耐候性を評価した。
【0103】
(評価基準)
○:光沢保持率が70%以上、かつ、ΔEが1.0未満であった。
△:光沢保持率が50%以上70%未満であり、かつ、ΔEが1.0未満であった。
×:光沢保持率が50%未満、または、ΔEが1.0以上であった。
【0104】
【0105】