(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 3/06 20060101AFI20231208BHJP
G05B 19/19 20060101ALI20231208BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20231208BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20231208BHJP
H02P 3/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H02P3/06 B
G05B19/19 X
G05B11/36 505A
H02P5/46 J
H02P3/00 A
(21)【出願番号】P 2019227874
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】菅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】末次 伸浩
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-051290(JP,A)
【文献】特開2014-191727(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/06
G05B 19/19
G05B 11/36
H02P 5/46
H02P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令周期ごとにコントローラから出力される位置指令を順次バッファリングし、最先にバッファリングされた第1の位置指令から、最後にバッファリングされた第Nの位置指令までのN個の位置指令を一時記憶するバッファと、
前記バッファに一時記憶された前記N個の位置指令に基づいて、前記指令周期ごとに基準位置指令を生成する指令生成部と、
前記指令生成部で生成された前記基準位置指令を前記指令周期ごとに受信することで、制御対象であるモータを位置制御するモータ制御部と、
前記コントローラから位置指令が正常に出力されない異常状態を検出する異常検出部と
を備え、
前記指令生成部は、
前記異常検出部において前記異常状態が検出されていない場合には、
N指令周期前に前記コントローラから出力されて前記バッファに一時記憶されている前記第1の位置指令を前記基準位置指令とし、
前記異常検出部において前記異常状態が検出された場合には、前記異常状態が検出される前に前記バッファにバッファリングされた前記N個の位置指令
を活用することで、前記N個の位置指令における隣接する位置指令の間に1以上の追加位置指令を補完することで補完位置指令を生成する補完処理を実行し、前記指令周期ごとに前記補完位置指令を前記基準位置指令とし、
正常運転のたどる予定であった軌跡に沿って前記モータを減速停止させる
モータ制御装置。
【請求項2】
前記指令周期ごとに前記指令生成部から前記モータ制御部に出力される前記基準位置指令を、過去の基準位置指令列として順次記憶する過去記憶部をさらに備え、
前記指令生成部は、
前記異常検出部において前記異常状態が検出され、前記モータが減速停止した後に、前記過去記憶部に順次記憶された前記過去の基準位置指令列から、時系列的に最新の位置指令から順に指令周期ごとに取り出して前記基準位置指令を生成することで、減速中および正常運転中の軌跡を遡る退避動作を実行させる
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
制御対象である前記モータが、複数のモータとして構成され、前記コントローラから出力される個別の位置指令に基づいて前記複数のモータのそれぞれが位置制御される場合には、
複数のモータのそれぞれに対応して、前記バッファ、前記指令生成部、モータ制御部、および過去記憶部が設けられた複数の制御系を有しており、
前記複数のモータに対して共通に設けられた前記異常検出部が故障状態を検出した場合には、前記複数の制御系が同期して前記補完処理を実行することで、前記複数のモータを減速停止させる
請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントローラからの位置指令に基づきモータの駆動制御を実施するモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、被加工物の加工、成型等を行う機械(以下、加工機械と称す)において使用されるモータ制御装置は、コントローラからの指令に基づいて加工機械内のモータの駆動制御を実施するように構成されている。
【0003】
加工機械において使用されているモータ制御装置では、加工機械の運転中に、停電を含む、モータを正常に駆動できない異常が発生する場合がある。このような場合を考慮して、モータ制御装置には、加工を強制的に終了させ、工具と被加工物とを干渉しない位置まで退避させ得る機能が必要とされている。
【0004】
なお、モータを正常に駆動できない異常とは、停電以外に、例えば、コントローラからの指令にモータを正しく追従させる駆動ができない場合などを挙げることができる。
【0005】
異常発生時にあらかじめ設定しておいた退避時間もしくは退避距離により、停止を行わせる従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、コントローラからの指令を記憶しておき、異常発生時には記憶しておいた指令を使用して退避動作を行わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
異常発生時において、加工を強制的に終了し、装置を即時停止させる従来技術による制御を行う場合には、加工機械へショックを与える可能性がある。すなわち、このような制御を行う場合には、機械部品を損傷する、被加工物に傷をつける、などのおそれがある。
【0008】
従来技術による制御では、あらかじめ設定しておいた退避時間もしくは退避距離に基づいて減速停止を行っている。この場合には、異常発生時のタイミングにより、加工機械へショックを与えることに起因する本来予定していた軌跡と異なる軌跡に沿って動作する可能性があり、被加工物に傷をつける問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1に記載の従来技術では、異常発生時には、直ちに指令を逆に折り返し辿る退避動作を行っている。このため、ショックが大きい場合には、被加工物、切削刃などの工具、あるいは加工機械を破損するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、異常発生時に、正常運転の軌跡に沿って減速停止させることのできるモータ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るモータ制御装置は、指令周期ごとにコントローラから出力される位置指令を順次バッファリングし、最先にバッファリングされた第1の位置指令から、最後にバッファリングされた第Nの位置指令までのN個の位置指令を一時記憶するバッファと、バッファに一時記憶されたN個の位置指令に基づいて、指令周期ごとに基準位置指令を生成する指令生成部と、指令生成部で生成された基準位置指令を指令周期ごとに受信することで、制御対象であるモータを位置制御するモータ制御部と、コントローラから位置指令が正常に出力されない異常状態を検出する異常検出部とを備え、指令生成部は、異常検出部において異常状態が検出されていない場合には、N指令周期前にコントローラから出力されてバッファに一時記憶されている第1の位置指令を基準位置指令とし、異常検出部において異常状態が検出された場合には、異常状態が検出される前にバッファにバッファリングされたN個の位置指令を活用することで、N個の位置指令における隣接する位置指令の間に1以上の追加位置指令を補完することで補完位置指令を生成する補完処理を実行し、指令周期ごとに補完位置指令を基準位置指令とし、正常運転のたどる予定であった軌跡に沿ってモータを減速停止させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異常発生時に、正常運転の軌跡に沿って減速停止させることのできるモータ制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置を含むシステム構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態1において、異常状態が検出された際の指令生成部による基準位置指令の生成方法に関する説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置において、(状態1)、(状態2)、(状態3)、(状態4)の順で処理が行われた際の速度と位置の遷移を示した図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作1を実行する状態を示した機能ブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作1を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。
【
図6】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作2を実行する状態を示した機能ブロック図である。
【
図7】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作2を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。
【
図8】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作3を実行する状態を示した機能ブロック図である。
【
図9】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作3を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。
【
図10】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作4を実行する状態を示した機能ブロック図である。
【
図11】本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置が動作4を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。
【
図12】本発明の実施の形態2に係るモータ制御装置を含むシステム構成図である。
【
図13】本発明の実施の形態2に係るモータ制御装置において、2軸のモータで円運動を行っている際に異常状態が検出され、動作1~動作4が実行された際の位置遷移の軌跡を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置を含むシステム構成図である。本実施の形態1に係るモータ制御装置10は、コントローラ1からの位置指令に基づいて、モータ2の位置制御を行う。モータ制御装置10は、バッファ11、指令生成部12、モータ制御部13、異常検出部14、および過去記憶部15を備えて構成されている。
【0016】
次に、コントローラ1の機能、およびモータ制御装置10に含まれる各構成の機能について説明する。コントローラ1は、モータ2の絶対位置としての位置指令を指令周期に従って順次出力する。モータ制御装置10内のバッファ11は、コントローラから指令周期ごとに出力される位置指令を順次バッファリングする。具体的には、バッファ11には、最新のN指令周期分の位置指令に相当するN個の位置指令がバッファリングされる。
【0017】
ここで、以下の説明では、N個の位置指令のうち、最先にバッファリングされた位置指令を第1の位置指令と称し、最後にバッファリングされた位置指令を第Nの位置指令と称する。すなわち、バッファ11が満タンになった状態では、時系列的に最も古い位置指令が第1の位置指令として記憶され、時系列的に最も新しい位置指令が第Nの位置指令として記憶されている。
【0018】
そして、バッファ11は、指令周期ごとに、コントローラから出力される最新の位置指令を受信すると、一時記憶されているN個の位置指令を更新する。具体的には、すでにバッファ11内に記憶されている第Nの位置指令~第2の位置指令を、順次シフトして第(N-1)の位置指令~第1の位置指令に書き換えるとともに、最新の位置指令を第Nの位置指令として記憶する。すなわち、満タン後のバッファ11の動作は、FIFO(First In Fast Out:先入れ先出し)と同様である。
【0019】
指令生成部12は、満タンとなった後のN個の位置指令を、指令周期ごとにバッファ11から順次読み出す。さらに、指令生成部12は、N個の位置指令に基づいて、指令周期ごとに基準位置指令を生成し、生成した基準位置指令をモータ制御部13に出力する。ここで、基準位置指令とは、モータ制御部13による位置制御に用いられるための位置目標値に相当する。
【0020】
モータ制御部13は、指令生成部12で生成された基準位置指令を指令周期ごとの位置目標値として取得する。また、モータ制御部13は、制御対象であるモータ2の位置を検出するエンコーダ3から、位置フィードバック値を取得する。そして、モータ制御部13は、位置フィードバック値を位置目標値に一致させるようにフィードバック制御を実行することで、制御対象であるモータ2を位置制御する。
【0021】
異常検出部14は、モータ制御装置10側で位置指令を正常に受信できない異常状態を検出する。この異常状態とは、コントローラ1から位置指令が正常に出力されないコントローラ1側の異常状態、あるいは、コントローラ1から正常に出力された位置指令がバッファ11で正常に受信できない通信異常状態を意味する。
【0022】
換言すると、異常検出部14により検出される異常状態とは、モータ制御装置10は正常に機能できるが、何らかの原因で正常な位置指令をモータ制御装置10側で受信できない状況を意味している。
【0023】
また、このような状況は、停電が発生したことでも生じる。このような停電時であっても、本実施の形態1に係るモータ制御装置10は、自身の余剰蓄積電力を使用できる場合には、停電発生前にバッファ11にバッファリングされた位置指令を用いて基準位置指令を生成し、運転を継続することができる。
【0024】
異常検出部14で異常状態が検出された場合には、その情報が指令生成部12に送信される。なお、指令生成部12による基準位置指令の生成方法は、異常状態が検出された場合と、異常状態が検出されなかった場合とで異なり、詳細は後述する。
【0025】
過去記憶部15は、指令周期ごとに指令生成部12からモータ制御部13に出力される基準位置指令を、過去の基準位置指令列として順次記憶する。過去記憶部15に記憶された過去の基準位置指令列は、正常運転の軌跡を遡ってモータ2を駆動制御することで退避動作を実行させる際に使用される。この退避動作の詳細は、後述する。
【0026】
次に、指令生成部12による基準位置指令の生成方法について、次に3つの状態に分けて詳細に説明する。
(状態1)正常運転中
(状態2)異常状態が検出された後の減速中
(状態3)異常状態が検出され、減速停止が完了した後に実行される退避動作
(状態4)退避動作の減速中
【0027】
<(状態1)正常運転中における基準位置指令の生成方法>
正常運転中とは、異常状態が検出される前の状態において、モータ制御装置10が、コントローラ1から順次出力される位置指令に基づいて、モータ2の位置制御を行う運転のことである。
【0028】
上述したように、バッファ11の中には、N指令周期前に先入れされた第1の位置指令から、最新の位置指令として記憶された第Nの位置指令までのN個の位置指令が、指令周期ごとに更新されて記憶されている。そこで、指令生成部12は、正常運転中において、バッファ11内に指令周期ごとに更新されて一時記憶されているN個の位置指令の中から、FIFOのルールに従って第1の位置指令を取り出す。
【0029】
そして、指令生成部12は、この第1の位置指令を基準位置指令として、モータ制御部13に送信する。すなわち、指令生成部12は、N指令周期前にコントローラ1から出力された位置指令を、指令周期ごとに順次、基準位置指令に置き換えている。
【0030】
換言すると、正常運転中におけるバッファ11内には、異常状態が検出される前に書き込まれ、まだモータ制御部13に送信していない未来の基準位置指令として、第2の位置指令から第Nの位置指令までの(N-1)個の位置指令が蓄えられていることとなる。その意味では、バッファ11は、モータ制御部13に対する未来バッファということができる。
【0031】
<(状態2)異常状態が検出された後の減速中における基準位置指令の生成方法>
状態1により、基準位置指令が順次生成される正常運転中に、異常状態が検出されたときには、状態2に遷移し、減速停止が実行される。
【0032】
状態2における減速運転では、モータ2を即時停止させることなしに、かつ、正常運転中にすでにバッファ11に蓄えられているN個の位置指令を活用することで、正常運転のたどる予定であった軌跡に沿って減速停止させることを特徴としている。そこで、正常運転のたどる予定であった軌跡に沿って減速停止させるための基準位置指令の生成方法について、次に説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態1において、異常状態が検出された際の指令生成部12による基準位置指令の生成方法に関する説明図である。指令生成部12は、異常検出部14において異常状態が検出された場合には、異常状態が検出される前にバッファ11にバッファリングされたN個の位置指令に基づいて、基準位置指令を生成する。
【0034】
その際に、指令生成部12は、第1の位置指令における隣接する位置指令の間に1以上の追加位置指令を補完することで、補完位置指令を生成する。
図2において、□で示された位置指令は、異常状態が検出される前にバッファ11にバッファリングされた4つの初期計画指令の位置に相当する。
【0035】
より具体的には、
図2の例では、以下のような4つの位置指令として、初期計画指令の位置がバッファリングされている。なお、位置指令の値は、位置が変化することが判ればいいため、無単位として示している。
第1の位置指令:位置20
第2の位置指令:位置21
第3の位置指令:位置22
第4の位置指令:位置23
【0036】
すなわち、異常状態が検出されない正常運転が継続していた場合を仮定すると、指令生成部12は、第1の位置指令、第2の位置指令、第3の位置指令、第4の位置指令に基づいて、指令周期ごとに順に基準位置指令を生成する。従って、この場合には、位置20、位置21、位置22、位置23の順で基準位置指令が指令周期ごとに遷移することとなる。
【0037】
これに対して、異常状態が検出された状態2において、指令生成部12は、正常運転の軌跡である位置20、位置21、位置22、位置23に沿って移動しながら、かつ、減速停止するように、基準位置指令を生成する。すなわち、指令生成部12は、
図2に示すように、隣接する□で示した位置指令の間に1以上の追加位置指令を補完することで、補完位置指令を生成する。
【0038】
指令生成部12は、あらかじめ設定した減速率に従って、補完位置指令を生成することができる。
図2に示した具体例では、減速率を1/2^n(n=1、1、1、1、2、2、2、3、3、4)で規定し、
50%、50%、50%、50%、25%、25%、25%、12.5%、12.5%、6.25%
の減速率に従って補完位置指令を生成している。
【0039】
すなわち、指令生成部12は、第1の位置指令:位置20と、第2の位置指令:位置21との間を、50%の位置指令である位置20.5で補完している。同様に、指令生成部12は、第2の位置指令:位置21と、第3の位置指令:位置22との間を、50%の位置指令である位置21.5で補完している。
【0040】
この結果、指令生成部12は、位置20から位置22に移動させる際に、
位置20
位置20.5
位置21
位置21.5
位置22
の5つの位置指令を補完位置指令として生成することができる。
【0041】
位置20から位置22への移動に当たっては、正常移動時は2指令周期で移動するように位置指令が遷移するが、異常検出時には、4指令周期で移動するように位置指令を遷移させている。この場合、同じ距離を移動する際に、異常検出時は、正常運転と比較して2倍の時間を要することになり、減速率が50%になったこととなる。
【0042】
位置22以降の移動に当たって、指令生成部12は、減速率を25%とした3つの位置指令として
位置22.25
位置22.5
位置22.75
を補完位置指令として生成することができる。
【0043】
さらに、位置22.75以降の移動に当たって、指令生成部12は、減速率を12.5%とした2つの位置指令として
位置22.875
位置23
を補完位置指令として生成することができる。
【0044】
同様にして、指令生成部12は、減速率を6.25%とし、位置23以降の移動に用いる位置指令を補完位置指令として生成することができる。
図2において、●で示したプロットは、補完位置指令として指令生成部12により生成された減速指令の位置に相当している。
【0045】
指令生成部12は、あらかじめ設定された減速率に従った補完処理により生成した補完位置指令を指令周期ごとに基準位置指令としてモータ制御部13に対して出力する。具体的には、位置20から位置23に移動する際に、指令周期ごとに、
位置20
位置20.5 (減速率50%に相当)
位置21 (減速率50%に相当)
位置21.5 (減速率50%に相当)
位置22 (減速率50%に相当)
位置22.25 (減速率25%に相当)
位置22.5 (減速率25%に相当)
位置22.75 (減速率25%に相当)
位置22.875 (減速率12.5%に相当)
位置23 (減速率12.5%に相当)
位置23.0625 (減速率6.25%に相当)
の基準位置指令が、モータ制御部13に順次与えられる。この結果、モータ2は、補完位置指令で規定された位置指令の遷移に従って、減速停止することとなる。
【0046】
本実施の形態1による減速停止処理は、上述したように、正常運転中にすでにバッファ11に蓄えられているN個の位置指令に基づいて補完処理を実施することで補完位置指令を生成することを特徴としている。この結果、生成した補完位置指令を用いてモータ2を駆動制御することで、正常運転のたどる予定であった軌跡に沿って減速停止させることができる。
【0047】
<(状態3)異常状態が検出され、減速停止が完了した後に実行される退避動作における基準位置指令の生成方法>
上述した(状態2)の減速停止処理によりモータ2が停止した後に、退避動作が実行される。退避動作を行うに当たっては、過去記憶部15に記憶されている過去の基準位置指令が用いられる。
【0048】
過去記憶部15には、指令周期ごとに指令生成部12からモータ制御部13に出力された基準位置指令が、過去の基準位置指令列として順次記憶されている。すなわち、上述した(状態1)および(状態2)で、指令周期ごとに指令生成部12からモータ制御部13に順次出力された基準位置指令が、過去の基準位置指令列として時系列順に記憶されている。
【0049】
従って、指令生成部12は、過去の基準位置指令列の中から、直近に記憶された位置指令から順に、時間を遡って過去の位置指令を順次取り出し、基準位置指令を生成することで、減速中および正常運転中の軌跡を遡る退避動作を実行することができる。ここで、指令生成部12は、減速停止の際に記憶された基準位置指令を逆順に取り出して基準位置指令を生成することで、モータ2を加速させながら退避動作を実行することができる。
【0050】
また、指令生成部12は、正常運転中に記憶された基準位置指令を逆順に取り出して基準位置指令を生成することで、モータ2を定速移動させながら退避動作を実行することができる。
【0051】
さらに、指令生成部12は、過去の基準位置指令列の中の1つの位置を、退避させる最終の目的位置として規定することで、最終の目的位置でモータ2を停止させ、退避動作を終了させることができる。
【0052】
<(状態4)退避動作の減速停止における基準位置指令の生成方法>
なお、指令生成部12は、最終の目的位置でモータ2を停止させる際には、(状態2)で減速停止を行うために用いた補完処理を行うことで、最終の目的位置に対しても減速停止させることができる。
【0053】
図3は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置において、(状態1)、(状態2)、(状態3),(状態4)の順で処理が行われた際の速度と位置の遷移を示した図である。
図3では、時刻T1において故障状態が検出され、時刻T2において減速停止の完了が検出され,時刻T3において退避動作の減速を開始した状態を例示している。
【0054】
すなわち、
図3においては、時刻T1よりも前の時間帯が、(状態1)の正常運転中に相当し、時刻T1から時刻T2までの時間帯が(状態2)の減速中に相当し、時刻T2から時刻T3までの時間帯が(状態3)の退避動作中に相当し,T3よりも後の時間帯が(状態4)の退避動作の減速中に相当する。また、
図3において、上段の波形は速度の時間遷移を示しており、下段の波形は位置の時間遷移を示している。さらに、位置の時間遷移に関しては、故障状態が検出された時刻T1において減速せずに即時停止を実施し、退避動作を行った際の従来技術の波形も破線として併記している。
【0055】
図3から明らかなように、本実施の形態1に係るモータ制御装置では、時刻T1において故障状態が検出された後は、即時停止させることなしに、正常運転のたどる予定であった軌跡に沿うようにして減速停止させている。さらに、減速停止が完了した時刻T2以降は、今までの軌跡を遡る経路で、退避動作が行われる。
【0056】
従って、滑らかな減速停止を行わせることで、即時停止を行うことで発生する機械へのショックを抑制することができる。さらに、減速停止および退避動作において、正常運転中の軌跡に沿って移動させることができるため、ワーク等を傷つけることも抑制できる。
【0057】
次に、指令生成部12の具体的な構成例とともに、時系列順に以下の4つの動作に分けて、詳細な動作を説明する。
動作1:(状態1)の正常運転中の動作
動作2:(状態2)の減速中の動作
動作3:(状態3)の退避動作における加速および定速移動中の動作
動作4:(状態4)の退避動作における減速中の動作
【0058】
<動作1:(状態1)の正常運転中の動作>
図4は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作1を実行する状態を示した機能ブロック図である。
図4における指令生成部12は、減速停止指令生成部12a、切り替えスイッチ12b、12c、および12dを備えて構成されている。
【0059】
また、
図4中のAは、異常検出部14において異常が検出された状態を示す信号であり、Bは、(状態2)における減速停止が完了した状態を示す信号であい、Cは(状態3)の退避動作における減速停止開始を示す信号である。信号A,信号Bおよび信号Cの立ち上がりに応じて、切り替えスイッチ12b、12c、および12dのそれぞれの状態が切り替えられることとなる。動作1により成立する経路が、
図4中で太線として示されている。
【0060】
さらに、
図4では、先の
図1で示した構成に加え、異常検出部14による検出状態を出力するための状態出力部16、および状態出力部16の出力結果を表示する状態表示部17が、モータ制御装置10内にさらに設けられている。
【0061】
動作1においては、異常検出部14により異常状態が検出されていない。すなわち、信号A、信号Bおよび信号Cはすべて無効の場合に相当する。この場合には、指令生成部12は、指令周期ごとにバッファ11から読み出した第1の位置指令を、そのまま基準位置指令として出力する。また、その際の基準位置指令は、過去記憶部15に順次記憶される。
【0062】
図5は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作1を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。この
図5では、先の
図3に対して、動作1に対応する部分が、一点鎖線の枠によって囲まれて示されている。
【0063】
<動作2:(状態2)の減速中の動作>
図6は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作2を実行する状態を示した機能ブロック図である。
図6の基本的な構成は、先の
図4と同様であり、切り替えスイッチ12b、12c、および12dのそれぞれの接続状態が、
図4と
図6では異なっている。動作2により成立する経路が、
図6中で太線として示されている。すなわち、動作2においては、信号Aが立ち上がるため、スイッチ12cが
図4の状態から
図6の状態に切り替わることとなる。
【0064】
動作2においては、指令生成部12内の減速停止指令生成部12aは、正常運転中にすでにバッファ11に蓄えられているN個の位置指令に基づいて補完処理を実施することで、補完位置指令を生成する。
【0065】
さらに、減速停止指令生成部12aは、生成した補完位置指令を指令周期ごとに基準位置指令として出力する。また、その際の基準位置指令は、過去記憶部15に順次記憶される。
【0066】
図7は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作2を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。この
図7では、先の
図3に対して、動作2に対応する部分が、一点鎖線の枠によって囲まれて示されている。
【0067】
<動作3:(状態3)の退避動作における加速および定速移動中の動作>
図8は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作3を実行する状態を示した機能ブロック図である。
図8の基本的な構成は、先の
図4と同様であり、切り替えスイッチ12b、12c、および12dのそれぞれの接続状態が、
図6と
図8では異なっている。動作3により成立する経路が、
図8中で太線として示されている。すなわち、動作3においては、信号Bが立ち上がるため、スイッチ12b、12cおよび12dのそれぞれが
図6の状態から
図8の状態に切り替わることとなる。
【0068】
動作3においては、指令生成部12は、動作1および動作2を実施中に過去記憶部15に記憶された過去の基準位置指令列の中から、指令周期ごとに、直近に記憶された位置指令から順に、時間を遡って過去の基準位置指令を順次取り出し、基準位置指令として出力する。
【0069】
なお、(状態2)の減速停止が完了することで、切り替えスイッチ12dは開状態となり、動作3における基準位置指令は、過去記憶部15には記憶されない。
【0070】
図9は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作3を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。この
図9では、先の
図3に対して、動作3に対応する部分が、一点鎖線の枠によって囲まれて示されている。すなわち、動作3においては、加速移動および定速移動により、退避動作が実行される。
【0071】
<動作4:(状態4)の退避動作における減速中の動作>
図10は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作4を実行する状態を示した機能ブロック図である。
図10の基本的な構成は、先の
図4と同様であり、切り替えスイッチ12b、12c、および12dのそれぞれの接続状態が、
図8と
図10では異なっている。動作4により成立する経路が、
図10中で太線として示されている。すなわち、動作4においては、信号Cが立ち上がるため、スイッチ12cが
図8の状態から
図10の状態に切り替わることとなる。
【0072】
動作4においては、指令生成部12内の減速停止指令生成部12aは、動作1および動作2を実施中に過去記憶部15に記憶された過去の基準位置指令列に基づいて、最終の目的位置でモータ2を停止させる際に、動作2で減速停止を行うために用いた補完処理を行い、基準位置指令として出力する。
【0073】
なお、(状態2)の減速停止が完了することで、切り替えスイッチ12dは開状態となったままであり、動作4における基準位置指令は、過去記憶部15には記憶されない。
【0074】
図11は、本発明の実施の形態1に係るモータ制御装置10が動作4を実行した際の速度波形および位置波形の時間変化を示した図である。この
図11では、先の
図3に対して、動作4に対応する部分が、一点鎖線の枠によって囲まれて示されている。すなわち、動作4においては、退避動作の最後で減速停止処理が実行されている。
【0075】
以上のように、実施の形態1に係るモータ制御装置は、異常発生時に、正常運転の軌跡に沿って減速停止させることができる。さらに、退避動作が必要な場合には、減速停止した軌跡、および正常運転中の軌跡を遡って所望の位置まで移動させ、最終的に減速停止させることができる。
【0076】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、
図1に示したように、1台のモータ2を駆動制御する場合を例に、詳細に説明した。ただし、本発明に係るモータ制御装置10は、2軸以上の複数台のモータの制御にも適用可能である。そこで、本実施の形態2では、2台のモータに対してモータ制御装置10を適用する場合について、詳細に説明する。
【0077】
図12は、本発明の実施の形態2に係るモータ制御装置を含むシステム構成図である。本実施の形態2に係るモータ制御装置10は、1台のコントローラ1からの2軸分の個別の位置指令に基づいて、2台のモータ2(1)、2(2)の位置制御を行う。モータ制御装置10は、1台目のモータ2(1)用として、バッファ11(1)、指令生成部12(1)、モータ制御部13(1)、および過去記憶部15(1)を備えている。
【0078】
また、モータ制御装置10は、2台目のモータ2(2)用として、バッファ11(2)、指令生成部12(2)、モータ制御部13(2)、および過去記憶部15(2)を備えている。さらに、モータ制御装置10は、2台のモータ2(1)、2(2)に対して共通の1台の異常検出部14を備えている。
【0079】
このような構成によれば、モータ制御装置10は、異常検出部14により、モータ制御装置10側で位置指令を正常に受信できない異常状態を検出した場合において、2軸のモータ2(1)、2(2)を同期させながら、先の実施の形態1で説明した動作1~動作4を時系列順に実行することができる。すなわち、2台のモータ2(1)、2(2)のそれぞれに対応する2つの制御系の同期をとって、動作1~動作4の各処理を実行させることができる。
【0080】
図13は、本発明の実施の形態2に係るモータ制御装置において、2軸のモータで円運動を行っている際に異常状態が検出され、動作1~動作4が実行された際の位置遷移の軌跡を示した説明図である。
【0081】
図13においては、以下の8つの状態として遷移していく際の、指令周期ごとの位置がプロットされている。
[1]正常運転中
[2]異常検出時
[3]減速中
[4]停止時
[5]退避動作中(加速を含む)
[6]退避動作における減速開始時
[7]退避動作における停止時
【0082】
以上のように、実施の形態2に係るモータ制御装置は、2軸以上のモータに対しても、異常発生時に、正常運転の軌跡に沿って減速停止させることができる。さらに、退避動作が必要な場合には、減速停止した軌跡および正常運転中の軌跡を遡って所望の位置まで移動させ、最終的に減速停止させることができる。
【0083】
なお、上述した実施の形態1、2では、故障発生前にバッファ11に蓄積されているN個の位置指令に対して、あらかじめ設定された減速率に従って補完処理を実行することで、減速停止を実現している。この場合、故障のレベルに応じた減速率に従って、減速処理を行うことも可能である。すなわち、モータ2を停止させる緊急度に応じて、あらかじめ設定された適切な減速率を適用することで、即時停止に近い形で緊急停止させることも可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 コントローラ、2 モータ、3 エンコーダ、10 モータ制御装置、11 バッファ、12 指令生成部、13 モータ制御部、14 異常検出部、15 過去記憶部。