(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】アクスルケース
(51)【国際特許分類】
B60B 35/16 20060101AFI20231208BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231208BHJP
B23K 20/12 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
B60B35/16 B
B23K31/00 Z
B23K20/12 G
(21)【出願番号】P 2019229293
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519196405
【氏名又は名称】株式会社IJTT
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】濱中 好久
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-122703(JP,U)
【文献】特開2008-272818(JP,A)
【文献】特開2007-229719(JP,A)
【文献】特開2000-213551(JP,A)
【文献】実開平04-091501(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0228979(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/16
B23K 31/00
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルケース本体の先端部に形成される筒状の第1接合代と、
チューブエンドの基端部に形成され前記第1接合代に
突き合わされ摩擦圧接にて同軸に接合される筒状の第2接合代と、
前記アクスルケース本体に形成され、前記第2接合代内に嵌合される嵌合部と、
前記嵌合部の外周面に
全周に亘る溝状に形成され、前記第1接合代に前記第2接合代を接合する際に発生するスケールを受けるスケール受け部と
を備え
、
前記第2接合代の内径および外径は、前記第1接合代の内径および外径と同じに設定され、
前記嵌合部は、前記第2接合代の内径より小さい外径を有し、前記第1接合代よりも先端側に突出され、
前記嵌合部の外周面は、前記第2接合代の内周面から微少な間隔を隔てて離間され、
前記スケール受け部は、前記第1接合代と前記第2接合代が摩擦圧接されたとき内周側に形成される圧接カールを収容するように構成されると共に、前記第1接合代の先端面よりも基端側の位置から先端側の位置に亘って形成され、
前記スケール受け部の溝巾方向の寸法は、前記圧接カールの溝巾方向の寸法より大きくされ、
前記スケール受け部は、その溝巾方向の中央に前記圧接カールを位置させ、かつ、前記スケール受け部の基端側および先端側の端面に前記圧接カールを接触させないように形成され、
前記スケール受け部の溝深さは、前記スケール受け部の溝底面に前記圧接カールを接触させないよう、前記圧接カールの径方向内方への突出量より大きく設定される
ことを特徴とするアクスルケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はアクスルケースに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄製のアクスルケース本体とチューブエンドとの接合には焼嵌めを採用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、接合品質を確保するためにインロー部を太くする必要があり、チューブエンドが重くなる。さらにアクスルケース本体に対してチューブエンドが重さで傾く可能性がある。アクスルケース本体に対してチューブエンドが傾いた状態で接合された場合、接合部の静的精度の低下の原因となる。
【0005】
一方、摩擦圧接又はロータリーアーク溶接による接合を採用した場合、接合部の静的精度の低下は抑制できる。しかし、接合部からスケールが発生するためアクスルケース内にスケールが落下し、ギアの寿命低下の原因になる。
【0006】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、アクスルケース内へのスケールの落下を抑制できるアクスルケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、アクスルケース本体の先端部に形成される筒状の第1接合代と、
チューブエンドの基端部に形成され前記第1接合代に摩擦圧接又は溶接にて同軸に接合される筒状の第2接合代と、
前記アクスルケース本体に形成され、前記第2接合代内に嵌合される嵌合部と、
前記嵌合部の外周面に溝状に形成され、前記第1接合代に前記第2接合代を接合する際に発生するスケールを受けるスケール受け部と
を備えたことを特徴とするアクスルケースが提供される。
【0008】
好ましくは、前記第1接合代と前記第2接合代は摩擦圧接にて接合され、その接合された部分の内周側に形成される圧接カールが前記スケール受け部内に収容される。
【0009】
好ましくは、前記嵌合部の外周面は、前記第2接合代の内周面から微少な間隔を隔てて離間される。
【0010】
好ましくは、前記第1接合代と前記第2接合代は溶接にて接合され、前記嵌合部の外周面は前記第2接合代の内周面に当接される。
【発明の効果】
【0011】
上記の態様によれば、アクスルケース内へのスケールの落下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施の形態に係るアクスルケースの背面図である。
【
図5】アクスルケース本体にチューブエンドを摩擦圧接している状態の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお、後述する実施の形態における前後左右上下の各方向は、車両の各方向をいうものとする。ただし、本実施の形態における各方向は、説明の便宜のために用いるものであり、後述する部材間の相対的な位置関係を表す。
【0014】
図1はアクスルケースの背面図である。
図2はアクスルケースの右端部の断面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、アクスルケース1は、左右方向に延びるアクスルケース本体2と、アクスルケース本体2の左右の先端部に摩擦圧接にて接合されるチューブエンド3とを備える。
【0016】
アクスルケース本体2は、鋳鉄で構成される。アクスルケース本体2は、ファイナルギア(図示せず)が収容されるハウジング部4と、ハウジング部4から左右両側に延びるアクスルチューブ部5とを備える。アクスルチューブ部5は、筒状に形成され、アクスルシャフト(図示せず)を回転自在に収容する。アクスルケース1は概ね左右対称に形成される。このため、アクスルケース1の端部構造について行う以降の説明においてはアクスルケース1の右端部について説明し、アクスルケース1の左端部については説明を省略する。
【0017】
図2及び
図3に示すように、アクスルチューブ部5の先端部(右端部)には、チューブエンド3に接合するための第1接合代6が形成される。第1接合代6は、筒状に形成される。第1接合代6の内径a及び外径bは軸方向において一定に形成される。
【0018】
図2及び
図4に示すように、チューブエンド3は、鉄鋼で構成され、筒状に形成される。なお、チューブエンド3の材料はこれに限られない。チューブエンド3の材料は、アクスルケース本体2と摩擦圧接可能な他の金属であってもよい。チューブエンド3の基端部(左端部)には、アクスルチューブ部5の先端部、すなわち、第1接合代6に接合される第2接合代9が形成される。第2接合代9は、筒状に形成される。第2接合代9の内径cは、第1接合代6の内径aと同じ(内径c=内径a)に設定され、第2接合代9の外径dは、第1接合代6の外径bと同じ(内径d=内径b)に設定される。
【0019】
また、第2接合代9より先端側(右側)のチューブエンド3には、アクスルシャフトを回転自在に挿通させる第1シャフト挿通孔3aが形成される。第1シャフト挿通孔3aの直径eは、第2接合代9の内径cより小さく設定される。また、第1シャフト挿通孔3aを区画する部分のチューブエンド3の内周面3bと第2接合代9の内周面9aとの間には、これらを接続する段差面3cが形成される。段差面3cは、チューブエンド3の中心軸Pに対して直角な平面状に形成される。
【0020】
ところで、第1接合代6と第2接合代9を摩擦圧接によって接合する場合、第1接合代6の厚さf及び第2接合代9の厚さgには、上限がある。このため、求められる強度が高い場合、第1接合代6及び第2接合代9の強度が不足する可能性がある。また、第1接合代6に第2接合代9を摩擦圧接で接合する際に、スケールが発生する。このためアクスルケース1内にスケールが落下し、ギアの寿命低下の原因になる可能性がある。
【0021】
そこで本実施の形態におけるアクスルケース1は、第2接合代9内に嵌合される嵌合部10と、嵌合部10の外周面10cに溝状に形成されスケールを受けるスケール受け部11とを備える。
【0022】
図2及び
図3に示すように、嵌合部10と第1接合代6はアクスルケース本体2に一体に形成される。嵌合部10は、筒状に形成される。嵌合部10の外径xは、第1接合代6の内径aより小さく設定され、嵌合部10は第1接合代6に対して同軸に配置される。すなわち、第1接合代6と嵌合部10は、二重筒状に配置される。また、嵌合部10の基端(左端)は、第1接合代6の基端(左端)に接続される。嵌合部10の先端(右端)は、第1接合代6から軸方向外方(右方)に突出される。嵌合部10は、第2接合代9に微少な間隔を隔てて嵌合されるように外径xを設定される。すなわち、嵌合部10の外径xは第2接合代9の内径cよりも小さく設定され、嵌合部10の外周面10cは第2接合代9の内周面9aから微少な間隔を隔てて離間される。これにより、第1接合代6と第2接合代9を摩擦圧接するとき嵌合部10が第2接合代9に摩擦接触されることが抑制される。
【0023】
また、嵌合部10内には、アクスルシャフトを回転自在に挿通させる第2シャフト挿通孔10aが形成される。第2シャフト挿通孔10aの直径yは、第1シャフト挿通孔3aの直径eと概ね同じ(直径y=直径e)に設定される。なお、第2シャフト挿通孔10aの直径yは、第1シャフト挿通孔3aの直径eより大きく(直径y>直径e)設定されてもよい。嵌合部10の先端面10bは、
図2に示すような第1接合代6と第2接合代9が接合された状態において、段差面3cから微少な隙間を隔てて離間されるように軸方向の位置を調整されて形成される。これにより、第1接合代6と第2接合代9を摩擦圧接するとき、嵌合部10の先端面10bと段差面3cとが当接してアクスルケース本体2の軸方向への移動を阻害することが抑制される。
【0024】
スケール受け部11は、嵌合部10の外周面10cに断面U字の溝状に形成される。スケール受け部11は、嵌合部10の外周面10cに全周に亘って環状に形成される。スケール受け部11は、第1接合代6と第2接合代9とが摩擦圧接されたとき、その接合された部分の外周側と内周側に形成される圧接カール12a、12bのうち、内周側の圧接カール12bを収容する機能を有する。
【0025】
スケール受け部11の左右方向の寸法(溝巾方向の寸法)αは、内周側の圧接カール12bの左右方向の寸法wより大きくなるように設定される。また、スケール受け部11は、左右方向の中央に圧接カール12bを位置させるように形成される。具体的には、スケール受け部11の左右方向の位置は、予め実験又はシミュレーション等によって推定される圧接カール12bの左右方向の位置に応じて決定される。また、スケール受け部11の溝深さβは、圧接カール12bの径方向内方への突出量tより大きく設定される。これにより、スケール受け部11は、圧接カール12bの全体を内周側から覆い、圧接カール12bから剥がれ落ちるスケールを受ける。
【0026】
次に本実施の形態の作用について述べる。
【0027】
アクスルケース本体2にチューブエンド3を摩擦圧接にて接合する場合、第1接合代6と第2接合代9を軸方向に間隔を隔てて対向させるようにアクスルケース本体2とチューブエンド3を同軸に配置する。この後、例えば
図5に示すように、チューブエンド3を第2接合代9の中心軸回りに回転させつつ、アクスルケース本体2をチューブエンド3に接近させるように移動させ、第2接合代9に対して第1接合代6を押し付ける。これにより、第1接合代6と第2接合代9は互いに突き合わされると共に摩擦接触されて発熱する。なお、チューブエンド3を回転させ、アクスルケース本体2をチューブエンド3に向けて移動させるものとしたが、これに限られない。逆にアクスルケース本体2を回転させ、チューブエンド3をアクスルケース本体2に向けて移動させてもよい。
【0028】
この後、第1接合代6と第2接合代9が所定温度に到達したら、チューブエンド3の回転を急速に停止させ、アクスルケース本体2をチューブエンド3に押し付ける圧力を所定圧力まで増大させる。ここで、所定温度とは、接合に適した温度であり、予め設定されている。また、所定温度は、第1接合代6と第2接合代9の接触面積、接触時間及び圧力に基づいて推定される。すなわち、実際の制御では、第1接合代6と第2接合代9の接触面積、接触時間及び圧力に基づいてチューブエンド3の停止タイミングが判断される。また、所定圧力とは、接合に適した圧力(アプセット圧力)であり、予め設定されている。
【0029】
そしてこの状態を所定時間(アプセット時間)維持することで第1接合代6及び第2接合代9に圧接カール12a、12bが形成され、第1接合代6と第2接合代9とが一体に接合される。このとき、圧接カール12a、12bからスケール(図示せず)が剥がれ落ちる可能性がある。しかし、内周側の圧接カール12bはスケール受け部11に囲まれている。このため、内周側の圧接カール12bから剥がれ落ちたスケールは、スケール受け部11内に閉じ込められる。このため、第1シャフト挿通孔3a及び第2シャフト挿通孔10a内へのスケールの侵入を抑制できる。
【0030】
また、アクスルケース本体2とチューブエンド3は、摩擦圧接によって接合されるため、焼嵌めによる接合よりも静的精度の低下を抑えることができる。そして、アクスルケース本体2を安価な鋳鉄で構成できる。
【0031】
また、摩擦圧接による接合では、第1接合代6及び第2接合代9の厚さに上限があり、接合部を構成する第1接合代6及び第2接合代9の曲げ強度が不足する可能性がある。そして、第1接合代6及び第2接合代9に曲げ方向の荷重が作用した場合、その荷重によって第1接合代6及び第2接合代9が撓む可能性がある。しかし、第1接合代6及び第2接合代9が撓んだ場合、第2接合代9の内周面9aに嵌合部10が当たる。これにより、第1接合代6及び第2接合代9が嵌合部10によって支持されることとなり、第1接合代6及び第2接合代9、すなわち接合部の曲げ強度を高めることができる。
【0032】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示は以下のような他の実施形態も可能である。
【0033】
(1)第1接合代6及び第2接合代9は摩擦圧接にて接合されるものとしたが、これに限られない。例えば、第1接合代6及び第2接合代9は、ロータリーアーク溶接等の溶接で接合されてもよい。この場合、アクスルケース本体2及びチューブエンド3は、鉄鋼、鋳鋼等の溶接性に優れる金属で構成されるとよい。またさらに、嵌合部10は、その外周面10cを第2接合代9の内周面9aに当接させた状態で第2接合代9に嵌合されるとよい。第1接合代6と第2接合代9を溶接するとき、第1接合代6及び第2接合代9を同軸に保つことができ、容易に精度良く接合できる。またこの場合、スケール受け部11は、溶接位置の内周側に隣接するように配置されるとよい。内周側の溶接ビードをスケール受け部11内に収容させることができ、溶接ビードから剥がれ落ちるスケールをスケール受け部11内に閉じ込めることができる。そして、第1シャフト挿通孔3a及び第2シャフト挿通孔10a内へのスケールの侵入を抑制できる。
【0034】
(2)スケール受け部11は、嵌合部10の外周面10cに断面U字の溝状に形成されるものとしたが、これに限られない。例えば、スケール受け部11の溝形状は、断面円弧状であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 :アクスルケース
2 :アクスルケース本体
3 :チューブエンド
6 :第1接合代
9 :第2接合代
9a :内周面
10 :嵌合部
10a :第2シャフト挿通孔
11 :スケール受け部
12a :圧接カール
12b :圧接カール