(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
B60K 17/10 20060101AFI20231208BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20231208BHJP
【FI】
B60K17/10 F
F16H57/04 F
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2019237397
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野上 広宣
(72)【発明者】
【氏名】鳥取 紀太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚也
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-283858(JP,A)
【文献】特開2010-76748(JP,A)
【文献】特開2012-210843(JP,A)
【文献】特開2002-205561(JP,A)
【文献】特開2009-45991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/10
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に備えられ、前記機体の前後方向に延びる姿勢のミッションケースと、
前記ミッションケースにおいて互いに向かい合う壁部の一方に備えた第1油圧ユニット、及び、前記壁部の他方に備えた第2油圧ユニットと、
前記第1油圧ユニットから前記第2油圧ユニットに作動油を供給する供給経路とを備え、
前記第1油圧ユニットと前記第2油圧ユニットとが、前記ミッションケースの前後方向に沿うケース軸芯に直交する方向視で重なり合う位置に配置され、
前記供給経路が、前記ケース軸芯に直交する姿勢となる直線状に前記ミッションケースの内部に備えられており、
前記ミッションケースに静油圧式の無段変速装置が収容され、
前記ミッションケースの底部が作動油を貯留する作動油タンクであり、
前記第1油圧ユニットが、前記作動油タンクからの作動油を制御するバルブユニットであり、
前記第2油圧ユニットが前記無段変速装置に供給される作動油を濾過するフィルタである作業機。
【請求項2】
前記ミッションケースが、前記壁部の内面に一体形成された内部部材を有し、
前記供給経路の少なくとも一部が、前記内部部材の切削により孔状油路として構成されている請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記供給経路が、管状部材に形成される管内油路と、前記孔状油路と、で構成されている請求項2に記載の作業機。
【請求項4】
前記孔状油路が、前記壁部の一方または他方から延び、
前記管状部材が、前記壁部の他方または一方と前記孔状油路の端部とに亘っている請求項3に記載の作業機。
【請求項5】
前記供給経路より上側に、油圧により駆動力の断続を行う多板式のクラッチ機構のクラッチ軸の支持部が配置されている請求項1に記載の作業機。
【請求項6】
前記供給経路より下側に、前記ミッションケースの駆動力を前車輪に伝える前輪駆動軸が配置されている請求項1に記載の作業機。
【請求項7】
前記第1油圧ユニットと、前記第2油圧ユニットとの少なくとも一方が前記壁部の外面に対して隙間なく取り付けられている請求項1に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケースの外面に備えたユニットに作動油が供給される作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の作業機として特許文献1には、トラクタのミッションケースに無段変速装置のケースを連結し、このケースの外壁にオイルフィルタを備え、ミッションケースに貯留された作動油を無段変速装置のチャージ油として供給する油路をミッションケース等に形成した構成が記載されている。
【0003】
つまり、ミッションケースの底部の作動油を、ミッションケースの側壁内部の内部油路に送り、この内部油路の作動油をチャージポンプで加圧してオイルフィルタに送り、更に、ケース内油路から無段変速装置の油圧回路に供給する油路構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミッションケースの外部に管路を備えるものと比較すると、特許文献1に記載されたようにミッションケースの側壁の内部に油路を形成する構成は、部品点数の増加を抑制しつつ油路系の組み立てを容易にするものである。
【0006】
作業機としてトラクタを例に挙げると、走行駆動力を断続や、外部動力取出軸(PTO軸)の駆動力を断続するため多板式のクラッチをミッションケースの内部に備え、このクラッチに対する作動油の給排を行うバルブユニットをミッションケースの壁部の外面に取り付ける構成も存在する。
【0007】
ここで、オイルフィルタをミッションケースの一方の側壁に備え、バルブユニットを他方の側壁に備え、バルブユニットからの作動油をオイルフィルタに供給する供給油路を想像すると、特許文献1に記載された油路のように、ミッションケースの内部(壁体の肉厚内)に孔状の油路を形成するものは、ミッションケースの構造が複雑化し、ミッションケースの製造に手間が掛かる点で改善の余地がある。
【0008】
このような理由から、ミッションケースの対向する壁部の夫々に備えた油圧ユニットの間で作動油を供給する油路を合理的に形成した作業機が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る作業機の特徴構成は、機体に備えられ、前記機体の前後方向に延びる姿勢のミッションケースと、前記ミッションケースにおいて互いに向かい合う壁部の一方に備えた第1油圧ユニット、及び、前記壁部の他方に備えた第2油圧ユニットと、前記第1油圧ユニットから前記第2油圧ユニットに作動油を供給する供給経路とを備え、前記第1油圧ユニットと前記第2油圧ユニットとが、前記ミッションケースの前後方向に沿うケース軸芯に直交する方向視で重なり合う位置に配置され、前記供給経路が、前記ケース軸芯に直交する姿勢となる直線状に前記ミッションケースの内部に備えられており、前記ミッションケースに静油圧式の無段変速装置が収容され、前記ミッションケースの底部が作動油を貯留する作動油タンクであり、前記第1油圧ユニットが、前記作動油タンクからの作動油を制御するバルブユニットであり、前記第2油圧ユニットが前記無段変速装置に供給される作動油を濾過するフィルタである点にある。
【0010】
この特徴構成によると、供給経路がケース軸芯に直交する姿勢で形成されているため、第1油圧ユニットから第2油圧ユニットに対し最短距離で作動油を供給できる。また、供給経路が直線状となるため、供給経路の流路抵抗が低減される。
従って、ミッションケースの対向する壁部の夫々に備えた油圧ユニットの間で作動油を供給する油路を合理的に形成した作業機が構成された。
また、作動油タンクの作動油をバルブユニットが制御して供給経路に送り出し、この供給経路からの作動油を、フィルタで濾過して無段変速装置に供給できる。
【0011】
上記構成に加えた構成として、前記ミッションケースが、前記壁部の内面に一体形成された内部部材を有し、前記供給経路の少なくとも一部が、前記内部部材の切削により孔状油路として構成されても良い。
【0012】
これによると、ミッションケースの内部に一体形成された内部部材を、例えば、ドリル加工することで孔状部を形成することにより、供給経路の一部として孔状油路を形成できる。
【0013】
上記構成に加えた構成として、前記供給経路が、管状部材に形成される管内油路と、前記孔状油路と、で構成されても良い。
【0014】
これによると、作動油を管状部材の管内油路と、内部部材の孔状油路とを用いて供給経路を構成できる。また、供給経路の一部に管状部材を用いるため、例えば、第1油圧ユニットまたは第2油圧ユニットのうち作動油を送り出すポートの位置と、供給経路の軸芯との間に僅かな誤差が生じていても、管状部材を僅かに変形させることにより、管状部材を容易に接続することも可能となる。
【0015】
上記構成に加えた構成として、前記孔状油路が、前記壁部の一方または他方から延び、前記管状部材が、前記壁部の他方または一方と前記孔状油路の端部とに亘っても良い。
【0016】
これによると、一方の壁部に取り付けた第1油圧ユニットまたは第2油圧ユニットからの作動油を管状部材と孔状油路とを介して、他方の壁部に取り付けた第2油圧ユニットまたは第1油圧ユニットに対して供給することが可能となる。
【0017】
【0018】
【0019】
上記構成に加えた構成として、前記供給経路より上側に、油圧により駆動力の断続を行う多板式のクラッチ機構のクラッチ軸の支持部が配置されても良い。
【0020】
これによると、クラッチ機構のクラッチ軸を支持する支持部を避けた位置に供給経路を形成することが可能となる。また、例えば、壁部の内面に一体形成された内部部材が、クラッチ軸の支持部を備えた構成では、内部部材を特別に形成する必要がない。
【0021】
上記構成に加えた構成として、前記供給経路より下側に、前記ミッションケースの駆動力を前車輪に伝える前輪駆動軸が配置されても良い。
【0022】
これによると、前輪駆動軸を避けた位置に供給経路を形成することが可能となる。
【0023】
上記構成に加えた構成として、前記第1油圧ユニットと、前記第2油圧ユニットとの少なくとも一方が前記壁部の外面に対して隙間なく取り付けられても良い。
【0024】
これによると、第1油圧ユニットと、第2油圧ユニットと少なくとも一方をミッションケースの壁部に密着させた状態で取り付けることで安定した取り付けを可能にするだけでなく、作動油の漏出の抑制も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】ミッションケースの伝動構造を示す側面図である。
【
図5】ミッションケースのうち前輪増速装置の部位の断面図である。
【
図7】第3油路の構成を示すミッションケースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1、
図2に示すように、機体Aに左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを備え、機体Aの前部のエンジンボンネット3の内部にエンジン4を備え、機体Aの後部位置に運転部Cを配置して作業機としてのトラクタTが構成されている。
【0027】
図1、
図2の図中のFは「前方向」を示し、Bは「後方向」を示し、Uは「上方向」を示し、Dは「下方向」を示す。Rは「右方向」を示し、Lは「左方向」を示している。
【0028】
このトラクタTは、エンジン4の駆動力を変速するミッションケース5が機体Aの中央から機体Aの後端に亘る領域に配置され、ミッションケース5の後端上部にリフトシリンダ6を収容し、このリフトシリンダ6の作動により上下に作動する左右一対のリフトアーム7を備えている。
【0029】
ミッションケース5の後端には、リフトアーム7により昇降自在に支持されるロータリ耕耘装置(図示せず)等に駆動力を伝えるためのリヤPTO軸8が後方に突出する形態で備えられている。また、ミッションケース5の下面には機体Aの下側に備えられる作業装置を駆動するミッドPTO軸9が前方に突出する形態で備えられている。
【0030】
運転部Cには、左右の後輪フェンダー10の中間位置に運転座席11を備え、この運転座席11の前方にステアリングホイール12を備え、運転座席11より下側にフロアー13を備えている。
【0031】
運転部Cには、運転座席11の左側の後輪フェンダー10の上面のレバーガイドから上方に突出する外部動力制御レバー14を備え、運転座席11の右側の後輪フェンダー10の上面のレバーガイドから上方に突出する昇降制御レバー15を備え、運転座席11の後方に逆U字状となるロプスフレーム16を備えている。
【0032】
更に、運転部Cにおいて、フロアー13の右側にアクセルペダル17を備え、フロアー13の左側前部にブレーキペダル18を備えている。
【0033】
外部動力制御レバー14は、ミッションケース5に内蔵したPTOクラッチ32(摩擦式クラッチの一例、
図3を参照)を制御することによりリヤPTO軸8に駆動力を伝える駆動状態と、駆動力を遮断する停止状態との切り換えを行う。また、昇降制御レバー15はリフトシリンダ6に対する作動油の給排を制御することによりリフトアーム7の昇降作動の制御を行う。尚、ロプスフレーム16は運転座席11の後方の左右において上方に突出する柱状部の上端を連結した構造であり、機体Aが転倒した際に運転座席11に着座する運転者を保護する。
【0034】
〔ミッションケース〕
図3に示すように、ミッションケース5はエンジン4の駆動力が伝えられる主駆動軸21と、主駆動軸21からの駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置22と、無段変速装置22で無段階に変速された駆動力を伝える変速出力軸23と、変速出力軸23の駆動力を変速するギヤ変速機構24と、このギヤ変速機構24からの駆動力が伝えられる後車輪2のデファレンシャルギヤ25とを備えている。
【0035】
無段変速装置22は、作動油の吐出量の変更が可能な可変容量ポンプ22aと、可変容量ポンプ22aから供給される作動油により駆動回転する油圧モータ22bとを備えており、可変容量ポンプ22aから供給される作動油の油量の増減により油圧モータ22bの駆動速度を無段階に調整できるように構成されている。尚、可変容量ポンプ22aは運転部Cのアクセルペダル17の踏み込み量の設定により作動油の吐出量が制御される。
【0036】
ギヤ変速機構24は、駆動速度の増大と低減とが可能な複数のギヤと、複数のギヤを選択して咬合可能なシフトギヤとを備えており、運転者によるシフトギヤの人為操作により走行速度の設定を可能にする。
【0037】
また、ミッションケース5には、変速出力軸23の駆動力が中間伝動ギヤ機構26を介して伝えられる中間駆動軸27と、中間駆動軸27の駆動速度の増速が可能な前輪増速装置28と、前輪増速装置28からの駆動力を前車輪1に伝える前輪駆動軸29とを備えている。
【0038】
中間伝動ギヤ機構26は、人為操作により断続が可能な前輪クラッチ部26aを備えており、この前輪クラッチ部26aでの伝動を遮断することで前車輪1を非駆動状態に維持し、前輪クラッチ部26aで伝動を行わせることで前車輪1の駆動を実現する。前輪クラッチ部26aは、人為操作型に構成されている。
【0039】
図5に示すように、前輪増速装置28は、中間駆動軸27から駆動力で回転するクラッチ軸28aの駆動力を前輪駆動軸29に対して等速駆動力と、増速駆動力との一方を選択して伝える摩擦多板式の前輪増速クラッチ機構28bを備えている。
【0040】
前輪増速装置28は、中間駆動軸27から一対の中間ギヤ27aを介してクラッチ軸28aに駆動力が伝える。前輪増速装置28は、前輪増速クラッチ機構28bに作動油が供給されない場合には、スプリングの付勢力で中間駆動軸27の駆動力を等速駆動ギヤ28dに伝え、更に、前輪駆動軸29に等速駆動力を伝える。
【0041】
また、前輪増速装置28は、前輪増速クラッチ機構28bに作動油が供給された場合は、中間駆動軸27の駆動力を増速駆動ギヤ28cに伝え、更に、前輪駆動軸29に増速駆動力を伝える。
【0042】
前輪増速クラッチ機構28bは、前車輪1の操向角(ステアリング角)が設定値を超えた場合に作動油が供給されるように構成されている。従って、ステアリングホイール12が大きく操作されない(前車輪1の操向角が設定角未満である)場合、直進に近い走行状態にある場合には、等速駆動ギヤ28dを介して前輪駆動軸29に等速駆動力を伝える等速駆動状態が維持され、後車輪2の周速度と等しい周速度で前車輪1が駆動される。
【0043】
これに対し、ステアリングホイール12が、旋回方向に設定角度以上操作された(前車輪1の操向角が設定角以上である)場合には、前輪増速クラッチ機構28bに作動油が供給され、増速駆動力が前輪駆動軸29に伝えられ、後車輪2の周速度より前車輪1の駆動速度の増大が図られる。これにより、機体Aの旋回半径の縮小を可能にする。
【0044】
更に、ミッションケース5は、主駆動軸21のうち無段変速装置22を前後方向に貫通する部位と同軸芯で配置される作業駆動軸31と、主駆動軸21から作業駆動軸31に伝えられる駆動力の断続を行う摩擦多板式のPTOクラッチ32と、作業駆動軸31からリヤPTO軸8に伝えられる駆動力を変速する作業変速機構33とを備えている。
【0045】
ミッションケース5の下部には、作業駆動軸31の駆動力が作業伝動ギヤ34を介して伝えられる下部駆動軸35と、この下部駆動軸35からの駆動力をミッドPTO軸9に伝える下部伝動ギヤ機構36とを備えている。
【0046】
PTOクラッチ32は、作動油が供給されることで複数の摩擦板を接触させ、リヤPTO軸8とミッドPTO軸9とに対する駆動力の伝動を実現する。作業伝動ギヤ34には人為操作で断続が可能な作業クラッチ部34aを備えており、この作業クラッチ部34aでの伝動を遮断することでミッドPTO軸9を非駆動状態に設定し、作業クラッチ部34aで伝動を行わせることでミッドPTO軸9の駆動を実現する。
【0047】
〔油圧回路〕
このトラクタTでは、
図4に示すように、油圧ポンプPからの作動油を、第1油路41を介して油圧式のパワーステアリングユニット38に供給し、このパワーステアリングユニット38からの作動油を、第2油路42を介してバルブユニットVに供給する。更に、バルブユニットVからの作動油を第3油路43(供給経路の具体例)に送り出し、フィルタ44を介して無段変速装置22に対しチャージ油として供給する油路構造を備えている。尚、油圧ポンプPは電動モータとエンジン4との何れで駆動されるものであっても良い。
【0048】
パワーステアリングユニット38は、ステアリングホイール12の操作に連動してステアリングバルブ38aを操作し、このステアリングバルブ38aから複動型のステアリングシリンダ19に作動油を給排するように構成されている。尚、ステアリングシリンダ19は機体Aに備えられ、前車輪1のステアリング作動を実現する。
【0049】
無段変速装置22は、前述したように可変容量ポンプ22aと、油圧モータ22bとを備えており、第3油路43から供給される作動油を、可変容量ポンプ22aと油圧モータ22bとの間の回路22cに供給するチャージ油として用いる。
【0050】
〔油圧回路:バルブユニット〕
図6、
図7に示すように、ミッションケース5の側壁に開口5Hが形成され、この開口5Hを覆う位置にバルブユニットVが複数の固定ボルト49により取り付けられている。この取付状態でおいて露出する面が外面であり、この反対側が裏面となる。
【0051】
バルブユニットVは、
図4に示すように、バルブハウジング50にポンプポート51と、排出ポート52と、第1制御ポート53と、第2制御ポート54とが形成されている。特に、排出ポート52がバルブハウジング50の内面に配置されている。
【0052】
ポンプポート51に対し第2油路42が接続し、バルブハウジング50の内部にはポンプポート51から作動油が供給される供給油路55が形成されている。供給油路55の圧力を調整する圧力調整バルブVaをバルブハウジング50の内部に備えている。
【0053】
圧力調整バルブVaは、リリーフバルブと同様に機能するものである。つまり、圧力調整バルブVaは、供給油路55の圧力が設定値未満である際に閉塞状態を維持し、供給油路55の圧力が設定値以上にある際に開放する。これにより、供給油路55の圧力が設定圧に維持される。そして、供給油路55のうち、圧力調整バルブVaより下流側が排出ポート52に接続している。この排出ポート52に対して第3油路43が接続している。この第3油路43の詳細は後述する。
【0054】
また、供給油路55のうち、圧力調整バルブVaより上流側の2箇所に第1制御油路56と第2制御油路57とが接続しており、第1制御油路56の油路中に電磁バルブSVとして構成される第1制御バルブ58を備え、第2制御油路57の油路中に電磁バルブSVとして構成される第2制御バルブ59を備えている。
【0055】
第1制御ポート53に第1クラッチ制御油路45が接続し、この第1クラッチ制御油路45からの作動油が、前輪増速装置28の前輪増速クラッチ機構28bに供給される。また、第2制御ポート54に第2クラッチ制御油路46が接続し、この第2クラッチ制御油路46からの作動油が、PTOクラッチ32に供給される。
【0056】
尚、図面には示していないが、第1制御ポート53がバルブハウジング50の内面側に形成されているため、第1クラッチ制御油路45は、ミッションケース5の開口5Hからミッションケース5の内部の空間に引き込まれている。
【0057】
第1制御バルブ58と第2制御バルブ59との電磁ソレノイド部がバルブハウジング50の後面側に突出しており、これらの電磁ソレノイド部は、ミッションケース5の開口5Hに入り込む位置に配置される。
【0058】
〔ミッションケース内の油路〕
図5~
図7に示すように、ミッションケース5は、機体Aの前後方向に延びる姿勢で配置され、ミッションケース5には互い対向する位置に右壁部5aと左壁部5bとが形成されている。右壁部5aの外面にバルブユニットV(第1油圧ユニットの一例)が取り付けられ、左壁部5bの外面にフィルタ44(第2油圧ユニットの一例)が取り付けられている。
【0059】
前述したようにミッションケース5の内部に無段変速装置22が収容され、フィルタ44は、第3油路43を介して供給される作動油を濾過する。また、ミッションケース5の底部が作動油を貯留する作動油タンク5Tとして用いられている。尚、ミッションケース5は、底部に潤滑油を貯留する構造であり、このトラクタTでは、ミッションケース5の底部の潤滑油を作動油として用いている。
【0060】
ミッションケース5の前後方向にケース軸芯Xに直交する方向視(具体的には機体Aの側面視)でバルブユニットVとフィルタ44とが重なり合う位置関係で配置され、バルブユニットVから送り出された作動油を最短距離でフィルタ44に供給するように、供給経路としての第3油路43がミッションケース5の内部においてケース軸芯Xに直交する姿勢の経路軸芯Yと同軸芯で直線状に形成されている。尚、この経路軸芯Yは、機体Aの前後方向視で水平姿勢となる。
【0061】
図6、
図7に示すように、バルブユニットVのバルブハウジング50のうちミッションケース5の開口5Hからミッションケース5の内部空間に向けて開放する排出ポート52が形成されている。また、ミッションケース5の内部で右壁部5aの内面と、左壁部5bの内面とに一体形成され経路軸芯Yと重複する位置に縦壁状の内部部材5Fが形成されている。
【0062】
第3油路43は、内部部材5Fに対してドリル加工等の切削により形成される孔状油路43aと、バルブハウジング50の排出ポート52からの作動油を孔状油路43aに導く管状部材47に形成れる管内油路43bとで構成されている。
【0063】
特に、この第3油路43は、孔状油路43aのうち、バルブユニットVに近接する端部部位の内径を拡大することで、管状部材47の一方の端部の挿入を可能にしている。また、管状部材47の他方の端部をバルブユニットVの排出ポート52に内嵌している。
【0064】
このような構成から、バルブユニットVの排出ポート52に管状部材47の他方の端部を予め挿入した状態で、バルブユニットVをミッションケース5の右壁部5aに対して固定ボルト49で固定することにより、管状部材47の一方の端部を孔状油路43aの端部部位に挿入することが可能となる。その結果、管状部材47の管内油路43bと孔状油路43aとを連通させ、バルブユニットVからフィルタ44に対して作動油の供給を可能にする。
【0065】
内部部材5Fは、
図5、
図6に示すように、孔状油路43aの上側に前輪増速装置28のクラッチ軸28aの軸端の支持部を備え、孔状油路43aの下側に前輪駆動軸29が貫通する開口が形成されている。
【0066】
図6、
図7に示すように、バルブユニットVのバルブハウジング50は、ミッションケース5の右壁部5aの外面に対して隙間なく取り付けられている。これと同様に、フィルタ44はミッションケース5の左壁部5bの外面に対して隙間なく取り付けられている。このように隙間を作らないように取り付けることにより、安定した取り付けを可能にするたけでなく、第3油路43に供給される作動油の一部や、ミッションケース5の内部の作動油の漏出の抑制できる。
【0067】
〔実施形態の作用効果〕
このような構成から、作動油タンク5Tの作動油を油圧ポンプPからパワーステアリングユニット38と、バルブユニットVと、無段変速装置22とに対し、この順序で供給することが可能となる。特に、バルブユニットVのバルブハウジング50からフィルタ44に作動油を供給する第3油路43の一部を、ミッションケース5の内部の内部部材5Fに切削により形成した孔状油路43aで構成するため、ミッションケース5の内部空間の幅方向での全長に亘って管路を備えるものと比較して構成が簡素化し、第3油路43を形成するための部品点数の増大を抑制できる。
【0068】
このトラクタTでは、バルブユニットVの排出ポート52から送り出される作動油を、供給経路としての第3油路43によって最短距離で直線的にフィルタ44に供給するため、第3油路43での圧損による供給量の低下を招くことがない。
【0069】
また、この第3油路43では、バルブハウジング50からの作動油を孔状油路43aに供給するための管内油路43bを形成するために管状部材47を用いることが可能であるため、例えば、バルブハウジング50の排出ポート52の中心が、経路軸芯Yから僅かに外れた位置にある場合でも、管状部材47を僅かに曲げる等の対応により管内油路43bからの作動油を孔状油路43aに供給することも可能となり、油路の組み立てを容易に行える。
【0070】
内部部材5Fは、前輪増速装置28のクラッチ軸28aの軸端を支持する構造物であるため、第3油路43を形成するためにミッションケース5を改造する必要もない。
【0071】
例えば、無段変速装置22を備えない仕様のトラクタTの製造を考えると、機体Aを構成する部品の共通化の観点から、実施形態に示した構成のミッションケース5を用いることも考えられる。このような仕様のトラクタTを製造する場合には、フィルタ44に作動油を供給する必要がないため、ミッションケース5の内部部材5Fにドリル加工を行わずに済む。
【0072】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0073】
(a)実施形態では、第1油圧ユニットとして、圧力調整バルブVaと、電磁バルブSVとして構成される2つ制御バルブを備えたバルブユニットVを用いているが、例えば、圧力調整バルブVaだけを備えたユニットを用いることや、作動油を複数の油路に分流する分流弁を備えたユニットで構成することも可能である。
【0074】
(b)実施形態では、第2油圧ユニットとして、フィルタ44を用いているが、作動油の圧力を調整するリリーフ弁や、作動油の流量を制御する流量制御弁を有するユニットを用いることも可能である。
【0075】
(c)実施形態に示した第3油路43(供給経路)の構成に換えて、孔状油路43aと 管内油路43bとの配置を逆にすることも考えられる。つまり、孔状油路43aに対してバルブユニットV(第1油圧ユニット)の排出ポーと52からの作動油を供給し、孔状油路43aから作動油が供給される管内油路43bからの作動油をフィルタ44(第2ユニット)に供給するように構成する。
【0076】
(d)ミッションケース5のうち、第1油圧ユニットと第2油圧ユニットとが備えられる壁部は必ずしも側面に限るものではない。具体的には機体Aの前後方向視において、経路軸芯Yが水平姿勢でない配置でも良い。
【0077】
(e)供給経路として、ミッションケース5の互いに向かい合う壁部の間の内部部材5Fに対し経路軸芯Yに沿って直線的に孔状油路43aを形成することにより、第3油路43の全長を孔状油路43aで構成する。
【0078】
(f)供給経路として、ミッションケース5の互いに向かい合う壁部の間に、経路軸芯Yに沿って直線的に管状部材47を配置することで第3油路43の全長を管状部材47の管内油路43bで構成する。
【0079】
(g)供給経路を形成するために、1つの孔状油路43aと1つの管内油路43bとの組み合わせに限ることなく、内部部材5Fに形成された任意の数の孔状油路43aと、任意の数の管状部材47を用いることで任意の数となる管内油路43bとを、経路軸芯Yに沿って直線的に配置することで供給経路を形成する。
【0080】
つまり、この別実施形態(g)では、例えば、複数の孔状油路43aと複数の管内油路43bとを用いた組み合わせ、1つの孔状油路43aと複数の管内油路43bとを用いた組み合わせ、あるいは、複数の孔状油路43aと1つの管内油路43bとを用いた組み合わせを採用しても良い。
【0081】
(h)第1ユニット(例えば、バルブユニットV)と、第2ユニット(例えば、フィルタ44)との少なくとも一方が、ミッションケース5の外面から僅かに浮き上がるようにミッションケース5に取り付ける構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、ミッションケースの外面に備えた油圧ユニットに作動油が供給される作業機に利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1 前車輪
5 ミッションケース
5a 右壁部(壁部)
5b 左壁部(壁部)
5F 内部部材
5T 作動油タンク
22 無段変速装置
43 第3油路(供給経路)
28a クラッチ軸
43a 孔状油路
43b 管内油路
44 フィルタ(第2油圧ユニット)
47 管状部材
A 機体
V バルブユニット(第1油圧ユニット)
X ケース軸芯