(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】アダプタ
(51)【国際特許分類】
B65H 18/04 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
B65H18/04
(21)【出願番号】P 2020005269
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000234122
【氏名又は名称】萩原工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久代 昌朋
(72)【発明者】
【氏名】大角 彰保
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-103546(JP,A)
【文献】特開2009-029545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/04
B65H 54/44
B65H 18/10
B65H 75/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート巻取軸に直接装着する巻芯とは異なる内径の巻芯を前記シート巻取軸に装着するためのアダプタであって、
前記シート巻取軸は、前記直接装着する巻芯の前記シート巻取軸への固定及び固定解除を行うチャック機構を備えており、
前記アダプタは、
前記シート巻取軸に外嵌するための軸穴と、
前記異なる内径の巻芯が装着される外周面と、
前記異なる内径の巻芯を前記外周面に把持するための把持具と、
前記把持具による前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持と把持解除とを切り換える切り換え手段とを備えており、
前記把持具は、弾性体で形成された弾性リングであり、
前記切り換え手段は、縮径部と縮径部よりも径の大きい拡径部とを有するロックピンであり、
前記外周面に、周方向に溝が設けられ、
前記アダプタに、前記溝と連通し前記軸穴の軸方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記溝に、前記弾性リングが取り付けられ、
前記ロックピンを前記貫通孔内で前記軸方向にスライドさせることにより、前記弾性リングが前記拡径部上にあり、前記弾性リングが前記巻芯の内周部に圧接して、前記異なる内径の巻芯が前記外周面に把持された状態と、前記弾性リングが前記縮径部上にあり、前記圧接が解除され、前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持が解除された状態とが切り換わり、
前記チャック機構を、前記アダプタの前記シート巻取軸への固定及び固定解除を行う機構として利用し、
前記切り換え手段は、前記シート巻取軸とは独立して操作可能であることを特徴とするアダプタ。
【請求項2】
前記ロックピンの一端を前記アダプタの一方の側面に揃えたときに、前記弾性リングが前記拡径部上にあり、前記異なる内径の巻芯が前記外周面に把持された状態になり、前記ロックピンの他端を前記アダプタの他方の側面に揃えたときに、前記弾性リングが前記縮径部上にあり、前記異なる内径の巻芯の前記外周
面への把持が解除された状態になる請求項
1に記載のアダプタ。
【請求項3】
前記軸穴の軸方向において、一方向に筒状体を突出させて軸穴を延展させた軸周延展部を設けている請求項1
又は2に記載のアダプタ。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれに記載のアダプタを用いたシート巻取方法であって、前記アダプタに巻芯を装着した後、前記アダプタを前記シート巻取軸に外嵌して、前記巻芯にシートを巻き付けるシート巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート巻取軸に巻芯を装着するために用いるアダプタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細幅にスリットした紙やフィルム等のシートを巻き取るためにシート巻取軸が用いられており、例えばエアフリクション巻取軸と呼ばれる巻取軸が知られている。エアフリクション巻取軸は、基軸に複数の巻取部を外嵌し、これらを相対回転可能にし、基軸の回転を回転トルク調節部材を介して巻取部に伝える構造である。巻取部には巻芯(例えば紙管)が固定され、巻取部に固定された巻芯にスリットしたシートが巻き取られる。エアフリクション巻取軸の一例としては、特許文献1に開示されたシート巻取軸装置が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアフリクション巻取軸に用いる巻芯では、内径3インチの規格と内径6インチの規格が主流であるが、巻芯の径は巻取によるフィルムの品質への影響、巻取製品の大きさ、巻取製品の使い方などを考慮し、巻き取るシートや顧客の要求によって任意に選択される。しかしながら、エアフリクション巻取軸は精密に作られたもので安価とはいえず、巻芯に合わせて様々な径の巻取軸を用意することはコストを考慮すれば合理的といえない。
【0005】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、巻芯の内径とシート巻取軸の外径の違いが簡単に調整できるアダプタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のアダプタは、シート巻取軸に直接装着する巻芯とは異なる内径の巻芯を前記シート巻取軸に装着するためのアダプタであって、前記シート巻取軸は、前記直接装着する巻芯の前記シート巻取軸への固定及び固定解除を行うチャック機構を備えており、前記アダプタは、前記シート巻取軸に外嵌するための軸穴と、前記異なる内径の巻芯が装着される外周面と、前記異なる内径の巻芯を前記外周面に把持するための把持具と、前記把持具による前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持と把持解除とを切り換える切り換え手段とを備えており、前記チャック機構を、前記アダプタの前記シート巻取軸への固定及び固定解除を行う機構として利用し、前記切り換え手段は、前記シート巻取軸とは独立して操作可能であることを特徴とする。
【0007】
前記本発明のアダプタによれば、シート巻取軸が備えるチャック機構を、アダプタのシート巻取軸への固定及び固定解除を行う機構として利用し、かつアダプタに備えられた切り換え手段は、シート巻取軸とは独立して操作可能であるので、アダプタの構造が簡素化できることに加え、巻芯の内径とシート巻取軸の外径の違いが容易かつ迅速な操作で調整でき、その作業負担も軽い構造にすることができる。
【0008】
前記本発明のアダプタにおいては、以下の各構成とすることが好ましい。前記切り換え手段のスライド操作により、前記把持具が前記巻芯の内周部に圧接して、前記異なる内径の巻芯が前記外周面に把持された状態と、前記圧接が解除され、前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持が解除された状態とが切り換わることが好ましい。この構成によれば、巻芯の外周面への把持・把持解除が切り換え手段のスライド操作で可能となるので、作業性がより高まる。
【0009】
前記把持具は、弾性体で形成された弾性リングであり、前記切り換え手段は、縮径部と縮径部よりも径の大きい拡径部とを有するロックピンであり、前記外周面に、周方向に溝が設けられ、前記アダプタに、前記溝と連通し前記軸穴の軸方向に貫通する貫通孔が設けられ、前記溝に、前記弾性リングが取り付けられ、前記ロックピンを前記貫通孔内で前記軸方向にスライドさせることにより、前記弾性リングが前記拡径部上にあり、前記弾性リングが前記巻芯の内周部に圧接して、前記異なる内径の巻芯が前記外周面に把持された状態と、前記弾性リングが前記縮径部上にあり、前記圧接が解除され、前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持が解除された状態とが切り換わることが好ましい。この構成によれば、複雑な機構を用いることなく、巻芯の外周面への把持・把持解除がロックピンのスライド操作で可能となるので、構造の簡素化に有利になることに加え、作業性向上にも有利になる。
【0010】
前記ロックピンの一端を前記アダプタの一方の側面に揃えたときに、前記弾性リングが前記拡径部上にあり、前記異なる内径の巻芯が前記外周面に把持された状態になり、前記ロックピンの他端を前記アダプタの他方の側面に揃えたときに、前記弾性リングが前記縮径部上にあり、前記異なる内径の巻芯の前記外周面への把持が解除された状態になることが好ましい。この構成によれば、ロックピンの操作がより単純になり、より迅速かつ確実に巻芯の外周面への把持・把持解除が可能になる。また、ロックピンの状態を目視で確認することができるため、巻芯が把持されているか、その把持が解除されているかを容易に確認できるため、誤操作を防ぐことができる。
【0011】
前記軸穴の軸方向において、一方向に筒状体を突出させて軸穴を延展させた軸周延展部を設けていることが好ましい。この構成によれば、細い幅のシートを巻き取るためにアダプタの幅を狭くしても、アダプタが傾きにくく、巻きずれや巻取張力のムラが生じにくいため、安定してシートを巻き取ることができる。また、一方向に突出させることで、他方の軸穴の周囲の端面をアダプタ側面と水平にすることができ、これによりアダプタ側面に治具等の平面部を押し当てるだけで、ロックピン等の切り替え手段をスライドさせることができるので、巻芯の把持又は把持解除が容易になる。さらに、軸周延展部の周囲の空間を、ロックピン等の切り換え手段をスライドさせるための治具等の操作スペースや切り換え手段の突出スペースとして活用できる。
【0012】
本発明のシート巻取方法は、前記各アダプタを用いたシート巻取方法であって、前記アダプタに巻芯を装着した後、前記アダプタを前記シート巻取軸に外嵌して、前記巻芯にシートを巻き付けるシート巻取方法である。この構成によれば、アダプタに巻芯が予め装着されているので、アダプタをシート巻取軸に取り付けた後、速やかに巻き取りを開始することができる。また、シート巻取軸が他のアダプタで巻き取りを行っている間に、新たなアダプタに巻芯を装着しておくことにより、新たなアダプタによる巻き取り開始までの間の巻取装置の停止時間を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は前記の通りであり、シート巻取軸が備えるチャック機構を、アダプタのシート巻取軸への固定及び固定解除を行う機構として利用し、ロックピン等の切り換え手段は、シート巻取軸とは独立して操作可能であるので、アダプタの構造が簡素化できることに加え、巻芯の内径とシート巻取軸の外径の違いが容易かつ迅速な操作で調整でき、その作業負担も軽い構造にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シート巻取軸を備えたスリッタの一例についての概略構成を示す模式図。
【
図2】シート巻取軸に本実施形態に係るアダプタを装着した状態の外観斜視図。
【
図4】シート巻取軸の内部構造を示す
図3のBB線における断面図。
【
図5】シート巻取軸の内部構造を示す
図3のCC線における断面図。
【
図6】本発明の一実施形態に係るアダプタの外観斜視図。
【
図9】
図8において巻芯及びロックピンを取り外した状態を示す断面図。
【
図11】本発明の一実施形態において、アダプタの外周面に巻芯が把持された状態を示す断面図。
【
図12】本発明の一実施形態において、アダプタへのロックピンの装着工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、シート巻取軸に外嵌して用いるアダプタに関するものである。シート巻取軸は、装着した巻芯に、細幅にスリットした紙やフィルム等のシートを巻き取るための機構であり、スリッタの一部を構成する主要機構である。アダプタについて具体的に説明する前に、スリッタ及びシート巻取軸の概要を説明する。
【0016】
図1は、シート巻取軸を備えたスリッタの一例についての概略構成を示す模式図である。スリッタ30には、広幅シート31が巻回されたロール32が装着されている。広幅シート31は、繰り出されながら各種ローラ等を経て、スリット部34により所定の細幅シート33にスリットされ、シート巻取軸2に装着された紙管等の巻芯50(
図4及び
図5の巻芯50参照)に巻き取られる。
【0017】
図2は、シート巻取軸2に本実施形態に係るアダプタ1を装着した状態の外観斜視図である。
図3は
図2に示したシート巻取軸2の正面図であり、
図2のA矢視図である。
図3はシート巻取軸2の図示に留め、アダプタ1の図示は省略している。
図2に示したように、アダプタ1はシート巻取軸2に外嵌して用いられる。
図2において、アダプタ1には細幅にスリットした紙やフィルム等のシートを巻き付けるための巻芯3が装着されている。シート巻取軸2には、通常はアダプタ1を用いることなく、巻芯50が直接装着される(
図4参照)。本実施形態に係るアダプタ1を用いることにより、シート巻取軸2に直接装着する巻芯50とは異なる内径の巻芯3を、アダプタ1を介してシート巻取軸2に装着することができる。
【0018】
以下、
図4及び
図5を参照しながら、シート巻取軸2について説明する。
図4はシート巻取軸2の内部構造を示す断面図であり、
図3のBB線における断面図である。本図において、基軸40に巻取部41がベアリング42を介して外嵌されている。巻取部41は、内部にチャック機構43を備えている。チャック機構43は、爪44が一体になったチャックチップ45、スライドリング46及び付勢手段であるスプリング47を備えている。チャック機構43は、開口48内に埋設されており、開口48は
図2に示したように、巻取部41の周方向において所定間隔をあけて配置されている。
【0019】
巻芯着脱ピストン49の往復運動により、チャック機構43が作動し、爪44が開口48の内部に退避した状態と、爪44が開口48から突出した状態とに切り換えることができ、巻芯50の固定及び固定解除を行うことができる。
図4に示した状態は、巻取部41に装着した巻芯50の内周面を爪44が押圧し、巻取部41に巻芯50が固定されている。この状態では、巻取部41の回転と一体に巻芯50が回転するので、巻芯50にシートを巻回することができる。
【0020】
図4の状態から第1流体路51に圧縮流体を流通させると、巻芯着脱ピストン49が前進し、スライドリング46が巻芯着脱ピストン49で押されて前進し、チャックチップ45が沈降し、チャックチップ45と一体の爪44が開口48内に退避する。この状態では、爪44と巻芯50の内周面との係合が解除されるので、巻芯50を巻取部41から取り外すことができる。
【0021】
図4では、シート巻取軸2に巻芯50が装着されているが、
図2に示したように、シート巻取軸2にアダプタ1を装着することが可能である。この場合は、アダプタ1の内周面を爪44が押圧し、巻取部41にアダプタ1が固定され、
図2において、巻取部41の回転と一体にアダプタ1が回転するので、アダプタ1に装着された巻芯3にシートを巻回することができる。また、巻芯50を装着した場合と同様に、第1流体路51に圧縮流体を流通させることにより、アダプタ1を巻取部41から取り外すことができる。
【0022】
シート巻取軸2は、基軸40の回転を巻取部41に伝える機構を備えており、この機構について
図5を参照しながら説明する。
図5は
図3のCC線における断面図である。
図5において、第2流体路52に圧縮流体を流通させると、回転トルク調節ピストン53の先端が対向部材56の摩擦部54を押圧する。このことにより、回転トルク調節ピストン53を介してシリンダリング55と対向部材56とが接続される。回転トルク調節ピストン53が摩擦部54を押圧する力を制御することによって、回転トルク調節ピストン53と摩擦部54との間で生じる摩擦力が制御されることになり、その結果、巻き取りに係る回転トルクが制御され、巻芯50における巻取張力が調整されることになる。
【0023】
回転トルク調節ピストン53による巻取張力の調整は、シート巻取軸2に巻芯50に代えてアダプタ1を装着した場合であっても同様であり、
図2において、アダプタ1を介して、巻芯3における巻取張力が調整されることになる。回転トルクの調節は、個々の巻取部41の単位で行うことができるので、アダプタ1は1単位毎に巻取張力を調節することが可能になる。
【0024】
以上、シート巻取軸2について説明したが、本実施形態に係るシート巻取軸2は一例であり、シート巻取軸2の構成は本実施形態のものに限るものではない。例えば、
図5においては回転トルク調節ピストン53は、スライド方向が横方向でシリンダリング55内に配置されているが、スライド方向が縦方向で基軸40内に配置されたものであってもよい。また、
図4における第1流体路51と
図5における第2流体路52とを共有させたものであってもよい。
【0025】
以下、アダプタ1について、図面を参照しながら具体的に説明する。
図6はアダプタ1の外観斜視図、
図7は
図6に示したアダプタ1の正面図(D矢視図)である。
図8は
図7のEE線における断面図、
図9は
図8において巻芯3及びロックピン19を取り外した状態を示す断面図、
図10は
図7のFF線における断面図であり、
図11はアダプタ1の外周面14に巻芯3が把持された状態を示す断面図である。
【0026】
図6において、アダプタ1は軸穴11を備えており、
図8に示したように軸穴11は、アダプタ1を貫通している。軸穴11は、
図2に示したようにアダプタ1をシート巻取軸2に外嵌するための穴である。
図8において、軸穴11の内周面が、
図4に示した爪44で押圧されて、アダプタ1はシート巻取軸2に固定される。
【0027】
アダプタ1の材料は、巻き取った製品(シート)の重量によって変形しない材料であることが求められ、鋼製でもよく、樹脂製でもよい。アダプタ1の重量は、取り扱い易さや、シート巻取軸2の回転トルクを調整し易くする観点からは、軽量であることが好ましい。アダプタ1の全体構造は、円盤状でも円筒状でもよい。いずれの構造であっても、
図8に示したように、軽量化のために、軸穴11とアダプタ外周面14の間の一部に肉抜部13を設けてもよい。
【0028】
図6に示したように、アダプタ外周面14は円周面である。
図9において、巻芯3を、アダプタ1の軸方向にスライド(矢印b方向)させることにより、
図8に示したように、アダプタ外周面14に巻芯3が装着される。
図6に示したように、アダプタ1には、フランジ状の巻芯止め17が設けられている。巻芯止め17は、アダプタ1の軸方向におけるアダプタ外周面14の一端をアダプタ1の径方向に突出させて形成したものである。巻芯止め17の有無は任意であるが、巻芯止め17を設けることで、巻芯3の移動が規制されるので、アダプタ1の軸方向における巻芯3の位置を正確に整え易くなる。
【0029】
図6において、アダプタ外周面14の径は、巻芯3の内径に応じて決定され、巻芯3の内径よりも僅かに小さい径に決定される。
図8に示したように、アダプタ外周面14には、溝15が設けられ、この溝15には弾性リング16が取り付けられている。詳細は後述するが、弾性リング16は、巻芯3をアダプタ外周面14に把持するための把持具である。
図6に示したように、溝15はアダプタ外周面14の全周に亘り形成され、溝15の全周に環状の弾性リング16が対応している。
【0030】
本実施形態では、
図6に示したように、溝15は二条であるが、巻芯3の軸方向の長さ等を考慮して任意にその条数を変更してもよく、例えば溝15は一条でもよく、三条でもよい。弾性リング16は例えば合成ゴム製であるが、弾性体であれば特に限定はなく、バネに用いられる金属材料であってもよい。
【0031】
図9に示したように、アダプタ1には、左側面20と右側面21との間を貫通する貫通孔18が設けられている。貫通孔18は溝15と連通している。
図9において、ロックピン19を貫通孔18に向けてスライドさせることにより(矢印c方向)、
図8に示したように、ロックピン19は貫通孔18に嵌め込まれる。
【0032】
ロックピン19は、貫通孔18内で軸方向にスライドさせることにより、把持具である弾性リング16による巻芯3のアダプタ外周面14への把持と把持解除とを切り換える切り換え手段である。ロックピン19は、縮径部であるテーパ部19aとテーパ部19aよりも径の大きい拡径部19bとを有している。ロックピン19は、例えば鋼製で、
図8に示したように二条のテーパー部19aの位置に弾性リング16が対応する。
【0033】
図8の状態から、ロックピン19をその軸方向にスライドさせることで(矢印a方向)、
図11に示したように、弾性リング16の位置に、ロックピン19の拡径部19bが対応する。このことにより、弾性リング16が径方向に押圧され、弾性リング16が巻芯3の内周面に圧接して、アダプタ外周面14に巻芯3が把持される。
【0034】
一方、
図11の状態からロックピン19を逆方向にスライドさせることで(矢印d方向)、再び
図8に示したように、弾性リング16の位置に、ロックピン19のテーパー部19aが対応する。この状態では、弾性リング16による巻芯3の内周面の圧接が解除されているので、アダプタ1から巻芯3を取り外すことができる。
【0035】
図8に示したように、ロックピン19のテーパー部19aは弾性リング16に対応しているため、テーパー部19aは弾性リング16の数に応じて設ければよい。
図9に示したように、テーパー部19aはロックピン19の中心軸に向かって径が細くなるように傾斜を設けたものであるが、この傾斜は少なくとも弾性リング16が接触する部分に設けられていればよい。
【0036】
図8において、ロックピン19の長さは、貫通孔18の軸方向の長さよりも長尺であり、ロックピン19の軸方向の一端をアダプタ1の右側面21に揃えたとき、ロックピン19はアダプタ1の左側面20から突出している。より具体的には、
図8に示したように、ロックピン19は、ロックピン19の右端をアダプタ1の右側面21に揃えると、テーパー部19aに弾性リング16が対応する。この状態では、巻芯3の内周部には弾性リング16の付勢力はほとんど作用しないため、アダプタ1への巻芯3の取り付け・取り外しが可能な状態になる。
【0037】
一方、
図11に示したように、ロックピン19の左端をアダプタ1の左側面20に揃えると、拡径部19bに弾性リング16が対応する。この状態では、巻芯3の内周部に弾性リング16の付勢力が作用するので、アダプタ1の外周面14に巻芯3が把持された状態になる。
【0038】
すなわち
図8に示したように、ロックピン19がアダプタ1の左側面20よりも突出しているときは、巻芯3の把持が解除されている状態であり、
図11に示したように、ロックピン19がアダプタ1の右側面21よりも突出しているときは、巻芯3が把持されている状態である。このことにより、ロックピン19をボタンスイッチとして押し込むだけで巻芯3の把持・把持解除ができることに加え、巻芯3の把持・把持解除が目視で判別できることになる。
【0039】
次に、軸周延展部12について説明する。
図6及び
図8に示したように、アダプタ1には軸周延展部12を設けている。軸周延展部12は、軸穴11の軸方向において、一方向に筒状体を突出させて軸穴11を延展させた部分である。軸周延展部12を設けた理由は次の通りである。
【0040】
巻き取るシートの幅が細い場合に、細いシートの幅に合わせたことにより、アダプタ1の軸方向の長さが短くなり過ぎると、シート巻取軸2にアダプタ1を外嵌したときに、アダプタ1がシート巻取軸2に対し傾き易くなる。この傾きは、巻取張力のムラの原因となる。一方、アダプタ1の軸方向の長さをシートの幅よりも広くすると、アダプタ1の傾きは防止できる。しかし、アダプタ1の傾きを抑えるのが目的であれば、軸穴11周囲のみシートの幅より軸方向に長くしておけばよく、アダプタ外周面14まで広げても、アダプタ1は重量増となるだけである。アダプタ1の重量が増え過ぎると、回転トルクの調節に不利になるので、巻取張力のムラの軽減にも不利になる。
【0041】
本実施形態では、軸周延展部12を設けたことにより、重量増を抑えつつ、巻芯3とシート巻取軸2との間の平行度の確保に有利になることに加え、回転トルクの安定化にも有利になる。また、対応するシートの幅が十分に広く、アダプタ1の軸方向の長さが元々長い場合であっても、軸周延展部12を設けることにより、シート巻取軸2への外嵌部分の長さがさらに長くなる。このため、アダプタ1に対応する巻取部41(
図2参照)の数は、シート巻取軸2に巻芯3を直接取り付けたときよりも増えることになる。このことにより、より大きな回転トルクでアダプタ1を駆動できるので、回転トルクは負荷の変動の影響を受けにくくなり、回転トルクの安定化に有利になる。あわせて、詳細は
図12を参照して後述するが、軸周延展部12の周囲の空間を、ロックピン19をスライドさせるための治具等の操作スペースやロックピン19の突出スペースとして活用できる。
【0042】
本実施形態においては、
図6及び
図8に示したように、軸周延展部12は、アダプタ1に対し一方向から筒状体を突出させたものである。この場合、軸周延展部12にある程度の突出量が確保されていれば、アダプタ1に対し両方向から筒状体を突出した場合に比べ、巻芯3とシート巻取軸2との間の平行度の確保に特別不利になることはない。軸周延展部12の突出量は任意であるが、アダプタ1に巻き取るシートの幅より短い長さであることが好ましく、突出させ過ぎると
図1のように2本の巻取軸2で個々の巻取軸2に互い違いに巻芯3を配置して巻き取る場合であっても、隣接するアダプタ1同士が干渉してしまう。一方向から筒状体を突出させたことにより、
図8に示したように、アダプタ1の右側面は平坦面となる。このことは、後述する通り、ロックピン19の操作を容易にする効果が得られる。
【0043】
一方、軸周延展部12を設けると、
図2において、シート巻取軸2に複数のアダプタ1を直列的に配置したときに、隣接する巻芯3間に軸周延展部12が介在し、隣接する巻芯3同士を近接させることはできなくなる。しかし、細幅にスリットしたシートを複数の巻芯3で巻き取る場合、シート巻取軸2を2本使用する等により、シート同士が干渉しないように各巻芯3を離間させて巻き取ることが通常である。したがって、軸周延展部12を設けたことにより、隣接する巻芯3同士を近接させることができないことが特別不利になることはない。
【0044】
本実施形態において、アダプタ1への巻芯3の装着とアダプタ1のシート巻取軸2への取り付けの順序は任意であってよいが、アダプタ1に巻芯3を装着した後に、アダプタ1をシート巻取軸2に取り付ける順序とすることが好ましい。アダプタ1をシート巻取軸2に装着した後に、アダプタ1に巻芯3を装着する順序とすることも可能であるが、この場合は、アダプタ1に巻芯3を装着するまでは、巻き取りを開始することができない。前記の好ましい順序のように、アダプタ1に巻芯3を予め装着しておけば、アダプタ1をシート巻取軸2に取り付けた後、速やかに巻き取りを開始することができる。また、シート巻取軸2が他のアダプタ1で巻き取りを行っている間に、新たなアダプタ1に巻芯3を装着しておくことにより、新たなアダプタ1による巻き取り開始までの間の巻取装置の停止時間を最小限に抑えることができる。
【0045】
巻芯3にシートを巻き取った後は、巻芯3が固定されたままアダプタ1をシート巻取軸2から取り外してもよいし、アダプタ1への巻芯3の把持を先に解除した後に、アダプタ1をシート巻取軸2から取り外してもよい。これらは巻き取った製品の状態により選択すればよいが、本実施形態に係るアダプタ1の場合には、巻芯3が固定されたままアダプタ1をシート巻取軸2から取り外した方が、速やかにアダプタ1から巻芯3を取り外すことができ、巻取装置の停止時間も最小限に抑えることができる。具体的には、
図11のように、アダプタ1をシート巻取軸2から取り外した状態において、アダプタ1の右側面21に、治具等の平面部を押し当てれば、複数のロックピン19が同時に左側にスライドし(矢印d方向)、
図8のように巻芯3の把持が解除された状態になり、素早く巻芯3の把持を解除することができる。
【0046】
以下、
図12を参照しながら、アダプタ1へのロックピン19の装着について説明する。ロックピン19の装着は治具を用いれば容易になる。
図12において、治具は、載置台22と押し具23である。載置台22は、アダプタ1の右側面21の外周部を支持可能な程度の内径を有する環状又は円筒状部材である。押し具23は、軸周延展部12を挿入可能な程度の内径を有する環状又は円筒状部材である。
【0047】
図12において、載置台22上にアダプタ1を載置し、押し具23に軸周延展部12が挿入された状態で、押し具23でロックピン19を下側に向かって押し込めば(矢印e方向)、素早くかつ確実に巻芯3をアダプタ1に把持させることができる。この場合、押し具23は軸周延展部12で案内されるので、操作が容易になる。
【0048】
本願発明者らは、
図6~
図8に示した本実施形態に係るアダプタ1と同様の構造のアダプタ1に、内径152.5mmの巻芯3を装着し、外径76mmのシート巻取軸2を用いて、厚み100μm、幅30mmのポリエステルフィルムを1000m巻き取ったところ、巻き取ったシートの側面は美麗で段差等が認められず、巻き取った製品の巻き硬さも良好であった。
【0049】
前記実施形態においては、巻芯3をアダプタ外周面14に把持するための把持具を弾性リング16とし、把持具である弾性リング16による巻芯3のアダプタ外周面14への把持と把持解除とを切り換える切り換え手段をロックピン19とした例で説明したが、これは一例であり適宜変更したものであってもよい。把持具としては、球体、円筒体、傾斜面を有するチップ等が挙げられ、これらの把持具を押し上げて巻芯3の内周面を押圧し、巻芯3をアダプタ外周面14に把持するようにしてもよい。把持具の押し上げやその解除は、例えば傾斜面のスライドにより実現でき、切り換え手段として傾斜面を有する部材、構造体等を用いればよい。
【0050】
また、把持具の押し上げやその解除は、傾斜面を利用したものに限るものではなく、リンク機構により把持具を押し上げてもよく、把持具を回転カムや板ばねにしてピン等の切り換え手段のスライド操作で、把持具を突出させるにしてもよい。さらに、切り換え手段は、スライド操作するものに限るものではなく、レバーやねじを利用してにより、把持具を突出させるものであってもよい。
【0051】
また、把持具や切り換え手段以外の構成についても、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。例えば、前記実施形態では
図7に示すように、周方向において均等間隔で貫通孔18を4箇所に設け、それぞれにロックピン19を配置しているが、貫通孔18の数は、巻芯3の把持の確実性等を考慮して、任意の数とすればよい。また、前記実施形態では
図8及び
図11に示したように、弾性リング16がテーパー部19aや巻芯3に直接接触する構造であるが、弾性リング16とテーパー部19aとの間や弾性リング16と巻芯3との間に、弾性リング16の劣化防止、巻芯3の把持力向上、又は他の目的で、アタッチメントを介在させてもよい。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明によれば、シート巻取軸2が備えるチャック機構43を、アダプタ1のシート巻取軸2への固定及び固定解除を行う機構として利用し、かつロックピン19等の切り換え手段は、シート巻取軸2とは独立して操作可能であるので、アダプタ1の構造が簡素化できることに加え、巻芯3の内径とシート巻取軸2の外径の違いが容易かつ迅速な操作で調整でき、その作業負担も軽い構造にすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 アダプタ
2 シート巻取軸
3 巻芯
11 軸穴
12 軸周延展部
14 アダプタ外周面
15 溝
16 弾性リング(把持具)
17 巻芯止め
18 貫通孔
19 ロックピン(切り換え手段)
19a テーパー部(縮径部)
19b 拡径部
22 載置台
23 押し具
43 チャック機構