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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】土壌浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
B09C1/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020009355
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021115503
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 岳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069204(JP,A)
【文献】特開2017-154073(JP,A)
【文献】特開2019-042623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00-10
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤へ温水を注入することで、前記地盤内の第1の浄化対象物質を、前記第1の浄化対象物質とは分解に適した土壌の温度が異なる第2の浄化対象物質へ分解させた後に、非汚染物質へ分解させるにあたり、
前記地盤へ注入する温水の温度を前記第1の浄化対象物質の分解に適した土壌の温度へ調整すると共に、前記第1の浄化対象物質の濃度を検出し、前記第1の浄化対象物質の濃度が所定の濃度を下回った場合に、前記地盤へ注入する温水の温度を前記第2の浄化対象物質の分解に適した土壌の温度へ調整する土壌浄化方法。
【請求項2】
前記地盤へ注入する前記温水の温度、注入量、浄化時間は、浄化処理前に前記地盤の内部の前記浄化対象物質の種類と濃度を分析して設定する請求項1に記載の土壌浄化方法。
【請求項3】
前記地盤の内部を複数の注入エリアに分け、前記注入エリアに注入する前記温水の温度、注入量、浄化時間を各々設定する請求項2に記載の土壌浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、嫌気性バイオスティミュレーションを利用した汚染土壌及び地下水の浄化方法において、地中に嫌気性微生物活性剤を添加し、地中を35℃未満に加熱することを特徴とする浄化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-24401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された汚染土壌及び地下水の浄化方法によれば、土壌の温度は35℃未満の一定温度に維持されている。微生物分解による浄化方法では浄化過程において浄化対象物質が変化していく場合があり、変化する浄化対象物質を分解する分解微生物とこれらの分解微生物が活性化される温度は浄化対象物質毎に異なる場合がある。このため、土壌の温度を一定温度に維持する浄化方法によれば、一部の浄化過程では効率的に浄化できるものの汚染物質を完全に分解するまでに長期間を要する可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、地盤内温度を制御することにより省エネルギーかつ効率的に土壌を浄化する土壌浄化方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様の土壌浄化方法は、地盤の内部における浄化対象物質の変化に応じて前記地盤へ注入する温水の温度を変更することによって前記地盤の内部の温度を変更し、分解微生物により前記浄化対象物質を分解する。
【0007】
第1態様の土壌浄化方法によれば、地盤の内部における浄化対象物質の変化に合わせて地盤へ注入する温水の温度を変更することによって地盤の内部の温度を変更する。浄化対象物質は分解微生物により分解されることによって変化し、分解されることにより変化した浄化対象物質は別の分解微生物により分解される場合があり得る。また、分解微生物が浄化対象物質を分解するのに適した至適温度は分解微生物毎に異なる。このため、浄化対象物質の変化に応じて地盤の内部の温度を変更することにより、至適温度の異なる分解微生物の活動を各々活発にすることができる。これにより、浄化対象物質の分解を促進することができる。また、浄化対象物質に応じて注入する温水の温度を変化させることができるので、一定温度で加温する構成と比較して省エネルギーかつ効率的に土壌浄化を行うことができる。
【0008】
第2態様の土壌浄化方法は、第1態様の土壌浄化方法において、前記地盤へ注入する前記温水の温度、注入量、浄化時間は、浄化処理前に前記地盤の内部の前記浄化対象物質の種類と濃度を分析して設定する。
【0009】
第2態様の土壌浄化方法によれば、浄化処理前に地盤の内部の浄化対象物質の種類と濃度を分析することにより、地盤へ注入する温水の温度、注入量、浄化時間を設定する。これにより、浄化中に浄化対象物質の変化を検出しながら、注入温水の温度、注入量、浄化時間を決める方法と比較して、土壌浄化の装置を簡単に構成することができる。
【0010】
第3態様の土壌浄化方法は、第2態様の土壌浄化方法において、前記地盤の内部を複数の注入エリアに分け、前記注入エリアに注入する前記温水の温度、注入量、浄化時間を各々設定する。
【0011】
第3態様の土壌浄化方法によれば、汚染物質や濃度等の汚染状況が地盤内で異なる場合、汚染状況に応じて複数の注入エリアに分け、注入エリア毎に注入温水の温度、注入量、浄化時間を設定することで、効率的に土壌を浄化することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る土壌浄化方法は、地盤内温度を制御することにより省エネルギーかつ効率的に土壌を浄化することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る汚染土壌浄化システムの構成図である。
図2】本実施形態に係る土壌浄化における浄化対象物質の変化を説明する図である。
図3】浄化対象物質毎の土壌の温度と分解速度との関係図である。
図4A】本実施形態に係る土壌浄化における浄化対象物質の濃度と浄化時間の関係図である。
図4B】対比例に係る土壌浄化における浄化対象物質の濃度と浄化時間の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1図4Bを用いて本発明に係る土壌浄化方法を適用した汚染土壌浄化システム10の実施形態の一例について説明する。
【0015】
(汚染土壌浄化システム)
図1には、本実施形態に係る土壌浄化方法を適用した汚染土壌浄化システム10が示されている。汚染土壌浄化システム10とは、地盤としての地下土壌12内に含まれる浄化対象物質としての汚染物質を分解し、浄化するためのシステムである。汚染土壌浄化システム10は、地下土壌12に配設された回収井戸14及び注入井戸16と、地表面GSの上部(地上GL)に配置され、地上GLと地下土壌12の間を回収井戸14及び注入井戸16を介して循環する温水としての地下水WGを浄化するための浄化装置18と、を含んで構成されている。
【0016】
汚染土壌浄化システム10は、上記に加えて、地上GLにおいて循環する地下水WGを加温する加温装置20と、加温された地下水WGに添加物ADを添加する添加槽22と、を含んで構成されている。
【0017】
(汚染土壌)
地下土壌12は、地表面GSよりも下方側の土壌であり、地下水WGが流れる帯水層12Aと、地下水WGが流れない不透水層12Bを含んで構成されている。地下土壌12のうち、汚染物質が基準値(例えば、汚染物質の種類毎に規定された値)以上含まれている部分を、汚染土壌Eと称する。ここで、「汚染物質」とは、テトラクロロエチレンPCE、トリクロロエチレンTCE、1,2-ジクロロエチレンDCE、クロロエチレンVC、塩化ビニルモノマー、ベンゼン等の有機物、シアン等の無機化合物、及びガソリンや軽油等の鉱油類を含む概念である。以下の説明では、特に区別する場合を除いて、テトラクロロエチレンPCE、トリクロロエチレンTCE、1,2-ジクロロエチレンDCE、クロロエチレンVC等の有機物(図2参照)を想定して説明する。
【0018】
図1には、地下水位Hが一点鎖線で示されると共に、地下土壌12内における地下水WGの流れWFの向きが破線の矢印で示されている。ここでの地下水WGの流れWFとは、注入井戸16から地下土壌12へ注入され、回収井戸14から地下水WGを回収(揚水)することにより発生する流れを表す。
【0019】
(遮水壁)
汚染土壌Eの外側の地下土壌12には、汚染土壌Eを囲むように下端が不透水層12Bまで根入れされたソイルセメント製の遮水壁26が配置されている。このため、汚染土壌Eは遮水壁26と不透水層12Bに囲まれることとなり、汚染物質が遮水壁26の外側の地下土壌12へ流出することを抑制することができる。具体的には、遮水壁26の外側の地下土壌12における地下水WGの流れと汚染土壌Eの内部における地下水WGの流れWFとを遮断し、地下土壌12における地下水WGが汚染土壌Eの外側の地下土壌12に影響を及ぼさないように構成されている。
【0020】
(回収井戸)
汚染土壌Eと遮水壁26との間に、地下土壌12から地下水WGを回収する回収井戸14が配置されている。また、回収井戸14は、例えば、塩化ビニール管や鋼管等により構成され、帯水層12Aに配置する部位に地下水WGを取水するための孔またはスリットによって形成されたスクリーン(図示省略)を備えており、スクリーンは、浄化対象の帯水層12Aに対して設置されている。このため、帯水層12Aの地下水WGを回収井戸14内に流入させることができる。ここで、回収井戸14による回収の具体的な方法や回収井戸14の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0021】
回収井戸14は、地上GLまで延在され、内部にはポンプ30が配置されている。このため、回収井戸14に貯水された地下水WGは、ポンプ30により地上GLの浄化装置18へ送られる。
【0022】
なお、以下の説明では、回収井戸14の上部は地上まで延在されているとして説明するが、これに限らず、例えば、回収井戸の上部は、地下土壌に埋設された回収桶の内部に露出するように配設され、回収桶の内部に配置されたポンプにより地上へ送られてもよい。
【0023】
さらに、図1では、回収井戸14は1本だけ記載されているが、これに限らず、複数の回収井戸が浄化対象の区域の広さ等に応じて適宜配置されてもよい。
【0024】
(注入井戸)
汚染土壌Eと回収井戸14から離れた側の遮水壁26との間に、浄化装置18により浄化され、加温装置20により加温された地下水WG又は加温された上で微生物活性剤が添加された上水(温水)を地下土壌12に注入する複数(2本)の注入井戸16が配置されている。注入井戸16は、浄化対象の帯水槽12Aに到達するように地下土壌12に埋設されている。また、注入井戸16は、例えば、塩化ビニール管や鋼管等により構成され、帯水層12Aに配置する部位に地下水WG又は上水を流出させるための孔またはスリットによって形成されたスクリーン(図示省略)を備えている。このため、注入井戸16から帯水層12Aへ加温された地下水WG又は上水(温水)を流出させることができる。ここで、注入井戸16の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0025】
なお、ここでは、注入井戸16は2本配置されているとして説明するが、これに限らず、浄化対象の区域の広さ等に応じて3本以上の注入井戸が配置されてもよく、1本だけ注入井戸が配置されてもよい。
【0026】
(観測井戸)
さらに、汚染土壌Eと遮水壁26との間には、地下土壌12の状態を観測する観測井戸32が配置されている。ここで、「地下土壌12の状態」とは、観測井戸32が埋設された位置における地下土壌12中の地下水WGの状態を表しており、具体的には、例えば、地下水位H、地下水WGの温度、地下水WGにおける後述する添加物ADの濃度、地下水WGにおける汚染物質の濃度等により表される。
【0027】
観測井戸32の内部には図示しない各種センサーSSが配置されている。これらのセンサーSSは、上述した地下水位H、地下水WGの温度、地下水WGにおける添加物ADの濃度、地下水WGにおける汚染物質の濃度等を検知する。各種センサーSSにより検知されたデータは、地上GL側に配置された後述する制御部34に電気信号(出力)として各々送信される。
【0028】
なお、以下の説明では、各種センサーSSは、観測井戸32に配置されているとして説明するが、これに限らず、例えば、観測井戸に加えて回収井戸及び注入井戸の内部にも配置されてもよく、観測井戸を設けることなく回収井戸及び注入井戸だけに設けられてもよい。
【0029】
さらに、図1では、観測井戸32は1本だけ記載されているが、これに限らず、複数の観察井戸が浄化対象の区域の広さ等に応じて適宜配置されてもよい。
【0030】
(浄化装置)
地上GLには、浄化装置18が設置されている。浄化装置18は、回収井戸14から回収された地下水WGに、例えば、空気を送り込むことにより揮発性汚染物質を揮発させ、地下水WGを浄化するように構成されている。
【0031】
(制御部)
汚染土壌浄化システム10には、浄化装置18、加温装置20及び添加槽22を制御するための制御部(制御装置)34が設けられている。制御部34は、観測井戸32の内部に配置されたセンサーSSによって検知された地下水位H、地下水WGの温度、地下水WGにおける添加物ADの濃度、地下水WGにおける汚染物質の濃度等の情報を電気信号として受信し、受信した情報に応じて、浄化装置18、加温装置20及び添加槽22を駆動制御する。
【0032】
(加温装置)
地上GL側には、浄化装置18と図示しないパイプで連結された加温装置20が設置されている。加温装置20は、例えば、内部に設けられた図示しないヒーター等により浄化装置18で浄化された地下水WG又は上水を加温する。加温装置20の地下水WG又は上水を加温する温度は、制御部34により温調される。加温装置20によって地下水WG又は上水を加温することにより、地下土壌12内で汚染物質を生物分解する分解微生物MCの増殖を促進し、分解微生物MCの活性を向上することができる。
【0033】
(添加槽)
地上GL側には、汚染物質の分解を促進するために加温装置20によって加温された地下水WG又は上水に添加物ADを添加するための添加槽22が設けられている。加温装置20において加温された地下水WG又は上水(温水)は、添加槽22と連結された混合槽38へ送られる。添加槽22は、制御部34により設定された分量の添加物ADを混合槽38の温水へ添加する。混合槽38では、添加物ADが混合された添加物AD水溶液が生成される。また、制御部34は、混合槽38を制御することにより注入井戸16毎に温度の異なる温水を注入することができる。
【0034】
添加物ADは、有機物、PH調整剤、微量栄養素及び微量元素を混合して構成される。添加物ADに含まれる有機物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸若しくはクエン酸又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩若しくはカルシウム塩、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、フミン酸又は植物油等を用いることができる。
【0035】
添加物ADに含まれるPH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム、カリウムの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム又はリン酸三ナトリウム等を用いることができる。
【0036】
添加物ADに含まれる微量栄養素としては、ビタミンB12、ビタミンB1、パントテン酸、ビオチン、葉酸等を用いることができる。また、微量元素としては、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)及びB(ホウ素)等を用いることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、回収井戸14から回収された地下水WGは、地上GLにおいて浄化装置18、加温装置20、混合槽38の順に循環されるとして説明するが、これに限らず、例えば、混合槽において予め添加物ADが混合された地下水WG又は上水が加温装置により加温された上で注入井戸から汚染土壌に注入されてもよい。
【0038】
(作用並びに効果)
次に、本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10の説明を通じて土壌浄化方法の作用並びに効果について説明する。
【0039】
汚染土壌浄化システム10は、計画工程、分解工程及び制御工程といった複数の工程を繰り返すことにより運用される。計画工程では、制御部34は土壌浄化を開始する前に観測井戸32の内部に配置されたセンサーSSからの観測データに基づき地下土壌12の内部の汚染物質の種類と濃度を特定すると共に、地下土壌12の内部へ注水する水(温水)の温度、注入量、注水する時間(持続時間)を計画(設定)する。回収井戸14で回収され、浄化装置18で浄化された地下水WGは、加温装置20へ送られる(流出される)。加温装置20は、制御部34において設定された温度まで地下水WG又は上水を加温する。
【0040】
分解工程では、制御部34において設定された計画に基づいて温水を注入することにより地下土壌12の内部を加温し、汚染物質の分解を促進する。また、加温されて混合槽38へ送られた地下水WG(温水)には、添加槽22から制御部34により設定された分量の添加物ADが添加されている。制御部34は、観測井戸32で検知された地下水WGにおける汚染物質の濃度(例えば、トリクロロエチレンTCEの濃度が0.1ミリグラム/リットル以上)にもとづいて添加する添加物ADの量を設定し、添加槽22を制御する。これにより、混合槽38において添加物AD水溶液が生成される。添加物AD水溶液は、混合槽38から注入井戸16を介して地下土壌12へ連続的又は間欠的に注入される。地下土壌12へ注入された添加物AD水溶液は、汚染土壌Eの中で拡散される。加温された添加物AD水溶液により活性化された分解微生物MCは汚染物質を分解する。
【0041】
図2に示されるように、汚染物質の一種であるテトラクロロエチレンPCEは、分解微生物を介した脱塩素反応(還元分解反応)によりトリクロロエチレンTCEへ変化する。さらに、トリクロロエチレンTCEは、分解微生物を介した還元分解反応により1,2-ジクロロエチレンDCE、さらにはクロロエチレンVCへと分解される。最終的に、クロロエチレンVCが還元分解反応により汚染物質ではないエチレンへ分解されることにより汚染物質の浄化(脱塩素化)が完了する。
【0042】
図3には、室内実験により求められたテトラクロロエチレンPCE、トリクロロエチレンTCE、1,2-ジクロロエチレンDCE及びクロロエチレンVCの分解微生物MCによる分解速度と土壌の温度との関係の一例が示されている(「VOCsに対する微生物分解の温度影響と仮想汚染地盤での浄化シミュレーション」、山崎祐二他、地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集23、pp.360-362、2017年11月9日)。これによれば、テトラクロロエチレンPCEの分解速度は土壌の温度が30℃のときに最も速くなることがわかる。また、トリクロロエチレンTCEや1,2-ジクロロエチレンDCEの分解速度も土壌の温度が30℃のときに最も速くなるものの25℃でも分解速度が速いことがわかる。さらに、クロロエチレンVCの分解速度は土壌の温度が25℃で最も速くなり、テトラクロロエチレンPCEよりも低い温度で分解が促進されることがわかる。
【0043】
テトラクロロエチレンPCE、トリクロロエチレンTCE、1,2-ジクロロエチレンDCE及びクロロエチレンVCの分解に寄与する主要な分解微生物MCは物質ごとに異なり得る。これらの分解微生物MCが汚染物質を分解するのに適した至適温度は、分解微生物MC毎に異なる。このため、分解微生物MCが最も活性化され、分解速度が最も速くなる温度は汚染物質により異なる。テトラクロロエチレンPCE等の有機物(汚染物質)を分解する分解微生物としては、例えば、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)の他、Dehalobacter、Acetobacterium、Desulfomonile、Geobacter、Sulfurospirillum、Methanosarcina、Methanobacterium等が挙げられる。デハロコッコイデス(Dehalococcoides)は、テトラクロロエチレンPCE、トリクロロエチレンTCE、1,2-ジクロロエチレンDCE及びクロロエチレンVCの何れも分解する。一方で、DehalobacterはテトラクロロエチレンPCEとトリクロロエチレンTCEだけを分解し、Acetobacteriumは、テトラクロロエチレンPCEだけを分解する。
【0044】
制御工程では、制御部34は観測井戸32の内部に配置されたセンサーSSからの観測データに基づき土壌浄化中の地下土壌12の内部の汚染物質の種類と濃度を特定することにより地下土壌12の内部へ注水する水(温水)の温度、注入量、注水する時間(持続時間)を設定する。制御部34は、例えば、観測井戸32に配置されたセンサーSSの観測データにもとづき地下水WGの水温が所定の温度(例えば、地下水WGの温度が目標温度のマイナス3度以下)よりも低いと判断(判定)した場合に、地下土壌12内での地下水WGの温度が所定の温度を上回るように加温装置20で加温する温度を設定する。例えば、制御部34は、観測井戸32に配置されたセンサーSSの観測データにもとづき地下水WGにおける汚染物質の濃度が所定の濃度(例えば、図4中の濃度D1)を上回っていると判断(判定)した場合に、地下土壌12の内部を当該汚染物質の至適温度にするための温水を注入する時間を調整(延長)する。また、例えば、制御部34は、観測井戸32に配置されたセンサーSSの観測データにもとづき地下水WGにおける汚染物質の濃度が所定の濃度を下回っていると判断(判定)した場合に、その汚染物質については分解が進んだものと判断して地下土壌12の内部を分解後の物質の至適温度にするための温水の温度を調整(低下)する。
【0045】
本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10によれば、地下土壌12の内部における汚染物質の変化に合わせて地下土壌12へ注入する温水の温度等を変更することによって地下土壌12の内部の温度を制御する。汚染物質は分解微生物MCにより分解されることによって変化し、変化した汚染物質は別の分解微生物MCにより分解される。また、分解微生物MCが汚染物質を分解するのに適した至適温度は分解微生物MC毎に異なる。このため、汚染物質の変化に応じて地下土壌12の内部の温度を変更することにより、至適温度の異なる分解微生物MCの活動を各々活発にすることができる。
【0046】
図4Aには、本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10により土壌浄化を行った場合の汚染物質の地下水WGに対する濃度と浄化期間(浄化時間)の関係が示されている。図4Aの縦軸は、各汚染物質の地下水WGに対する濃度が対数軸で示されている。また、図4Aの横軸は、浄化期間(週)が示されている。ここで、地下土壌12へ注入する温水の温度は、地下土壌12の内部における汚染物質の変化に合わせて浄化開始からT1週間後に変更されている。例えば、浄化開始からテトラクロロエチレンPCEとトリクロロエチレンTCEの濃度が所定の濃度D1を下回るまでの期間T1(週)までは、地下土壌12の内部の温度を30℃に維持するように注水する温水の温度が制御されている。また、期間T1(週)以降は、地下土壌12の内部の温度を25℃に維持するように注水する温水の温度が制御されている。図4Aに示された事例では、制御部34は、制御工程においてセンサーSSの観測データにもとづいて地下水WGにおけるテトラクロロエチレンPCEとトリクロロエチレンTCEの濃度が低下すると共に、これらが分解されたことにより1,2-ジクロロエチレンDCEの濃度が上昇したと判断した。このため、制御部34は、T1(週)を境目として地下土壌12へ注入する温水の温度を変更(制御)している。なお、制御工程においてセンサーSSの観測データにもとづいて判断することだけに限らず、計画工程において予め取得した観測データにもとづき地下土壌12へ注入する温水の温度を変更するタイミングが土壌浄化の開始前に決定されてもよい。
【0047】
図4Bには、対比例として地下土壌12の内部の温度を30℃で一定に維持するように注水する温水の温度が制御された場合の汚染物質の地下水WGに対する濃度と浄化期間(浄化時間)の関係が示されている。図4Bの縦軸と横軸は、図4Aと同一の目盛間隔で示されている。本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10によれば、浄化開始から1,2-ジクロロエチレンDCEの濃度が所定の濃度D1を下回るまでの期間T2A(週)は、対比例に係る期間よりも短縮されている。また、浄化開始からクロロエチレンVCの濃度が所定の濃度D1を下回るまでの期間T2B(週)は、対比例に係る期間よりも約2割短縮されている。これらのことから、汚染物質に応じて注入する温水の温度を変化させることにより、一定温度で地下土壌12を加温する場合と比較して浄化時間を短縮することができ、省エネルギーかつ効率的に土壌浄化を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10によれば、計画工程により、土壌浄化を開始する前に地下土壌12の内部の浄化対象物質の種類と濃度を分析することにより、地下土壌12へ注入する温水の温度、注入量、浄化時間を設定する。これにより、土壌浄化中に汚染物質の変化を検出する制御工程を省略することが可能となるため、注入温水の温度、注入量、浄化時間を決める方法と比較して、土壌浄化のための装置等を簡単に構成することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10によれば、土壌浄化の対象となる区域内には複数の注入井戸16が配置されている。地下土壌12の内部における土壌は均一ではないため、地下水WGの流れも不均一かつ不連続となる。このため、汚染物質や濃度等の分布が地下土壌12内部の区域毎に異なる場合がある。汚染土壌浄化システム10の制御部34は、混合槽38を制御することにより注入井戸16毎に温度の異なる温水を注入することができる。これにより、汚染物質や濃度等の汚染状況が地下土壌12内部の区域毎に異なる場合、汚染状況に応じて複数の区域に分け、区域毎に注入井戸16から注入する温水の温度、注入量、浄化時間を設定することで、効率的に地下土壌12を浄化することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る土壌浄化方法を適用した汚染土壌浄化システム10は、地下土壌12の内部の温度を制御することにより省エネルギーかつ効率的に土壌を浄化することができる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る汚染土壌浄化システム10によれば、汚染土壌Eの外周部を囲むように遮水壁26が配置されている。このため、遮水壁26と不透水層12Bにより加温して注水された溶液によって加温された地下水WGが遮水壁26により囲まれた土壌の外側へ流出することが抑制される。したがって加温効率が保持され、汚染土壌Eの浄化効率が高められる。
【0052】
なお、本実施形態では、計画工程と制御工程において観測井戸32に配置されたセンサーSSの観測データにもとづき地下土壌12内の温度を制御しているとして説明したが、これに限らず、井戸から直接採取した地下水のデータに基づく計画工程だけで温水の温度、注入量、浄化時間が設定されてもよい。この場合に、制御工程が省略され、観測井戸とセンサーが配置されなくてもよい。
【0053】
さらに、本実施形態では、浄化装置18、加温装置20及び添加槽22を汚染土壌Eがある地下土壌12の地上GL側に配置されているとして説明したが、これに限らず、汚染土壌を含む区域以外の場所において地上に配置されてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、地下土壌12の一方の片側に回収井戸14、他方の片側に注入井戸16が設けられているとして説明したが、これに限られない。例えば、地下土壌12の中央に回収井戸が配置され、その周囲において放射状に注入井戸が配置されてもよい。また、中央に注入井戸が配置され、その周囲において放射状に回収井戸が配置されても
よい。
【0055】
さらに、本実施形態では、遮水壁26はソイルセメント製として説明したが、これに限らず、遮水壁26の材質としては、粘土、コンクリート、鋼製矢板(シートパイル)等を用いてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、遮水壁26が設けられているものとして説明したが、これに限らず、遮水壁は必ずしも設けなくてもよい。具体的には、例えば、地下水の流れが一定方向に限られている地下土壌において、遮水壁を設けることなく上流側に注入井戸を配置し、下流側に回収井戸を配置されてもよい。
【0057】
さらに、本実施形態では、汚染土壌浄化システム10には、注入井戸16と回収井戸14が設けられているとして説明したが、これに限らず、注入井戸のみで加温や浄化工事が達成できると判断された場合は、必ずしも回収井戸を設けなくてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、汚染土壌浄化システム10には、加温された上水に微生物活性剤が添加されているとして説明したが、これに限らず、加温された上水や地下水に微生物活性剤と併せて分解微生物が添加されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 汚染土壌浄化システム(土壌浄化方法)
12 地下土壌(地盤)
MC 分解微生物
WG 地下水(温水)
図1
図2
図3
図4A
図4B