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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   F24C 7/02 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
F24C7/02 340J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020040911
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143774
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真理子
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007672(JP,A)
【文献】特開2012-042156(JP,A)
【文献】特開2009-127933(JP,A)
【文献】特開平05-180446(JP,A)
【文献】特開2011-127824(JP,A)
【文献】特開平10-075754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 7/00-7/10
A23L 3/365
H05B 6/68
A47J 37/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が収容される加熱室と、
前記被加熱物を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記被加熱物の温度が前記被加熱物の老化温度帯の上限値以上となるまで前記被加熱物を最大火力で加熱し、その後、前記被加熱物を最小火力で加熱するよう前記加熱手段を制御し、冷凍状態の前記被加熱物を解凍する加熱調理器。
【請求項2】
前記加熱室内の温度を検出する温度センサと、
前記被加熱物に関する情報が入力される操作部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記被加熱物に関する情報と、前記被加熱物を前記最小火力で加熱した時の前記加熱室内の温度変化とに基づき、前記被加熱物の量を検知する請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記制御部は、第1加熱時間が経過するまで前記被加熱物を前記最大火力で加熱し、その後、第2加熱時間が経過するまで前記被加熱物を前記最小火力で加熱するものであり、
前記第1加熱時間および前記第2加熱時間は、前記被加熱物の量に応じて設定される請求項2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記第1加熱時間は、前記被加熱物の温度がデンプンの老化温度帯の上限値以上になるまでの時間である請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記第2加熱時間は、前記被加熱物の温度が人の体温よりも25~30℃高い温度となるまでの時間である請求項3または請求項4に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記被加熱物の温度を検出する赤外線センサと、
前記被加熱物に関する情報が入力される操作部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記被加熱物に関する情報と、前記被加熱物を前記最小火力で加熱した時の前記被加熱物の温度変化とに基づき、前記被加熱物の量を検知する請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記制御部は、前記赤外線センサにより検出される温度が第1加熱温度に達するまで前記被加熱物を前記最大火力で加熱し、その後、前記赤外線センサにより検出される温度が第2加熱温度に達するまで前記被加熱物を前記最小火力で加熱するものである請求項6に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記第1加熱温度および前記第2加熱温度は、前記被加熱物の量に応じて設定される請求項7に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記第1加熱温度は、前記被加熱物の中心温度がデンプンの老化温度帯の上限値以上となったときの、前記被加熱物の表面温度である請求項7または請求項8に記載の加熱調理器。
【請求項10】
前記第2加熱温度は、人の体温より25~30℃高い温度である請求項7~9の何れか一項に記載の加熱調理器。
【請求項11】
前記被加熱物は食パンであり、
前記被加熱物に関する情報は、前記食パンの厚みである請求項2または請求項6に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被加熱物が収容される加熱室を備える加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
購入した食パンを自宅で食べる場合は、オーブントースターなどの加熱調理器でトーストし、焼き目をつけて食べることが一般的である。そして、従来、いかに良い状態にトーストするかについて様々な検討がなされている。例えば、特許文献1では、パンをトーストする際に、常温と冷凍あるいは1枚焼きと2枚焼きとを設定することなく、自動で調理できるオーブントースターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-14240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、「生パン」など、トーストせずにその柔らかさを楽しむ食パンが人気を博している。この食パンを購入した日に食べきれればよいが、一斤など、簡単に食べきれない量で販売されていることも多く、冷凍保存することがある。このような食パンをトーストせずに解凍する手段として、室温で放置して自然解凍すること、および電子レンジ等の加熱調理器を用いて加熱することが考えられる。しかしながら、室温で放置した場合、パンに含まれるデンプンの老化温度帯である-7℃~18℃で放置されたり、緩慢解凍により水分がデンプン分子間から押し出されたりすることで、パンがβ化、すなわち老化し、ぼそぼそとしたまずい状態になってしまう。また、電子レンジを用いて加熱した場合は、過加熱により水分が飛びすぎたり、加熱不足により老化温度帯で加熱が止まり老化したりと、望ましい食味のパンを得ることは困難であった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためのものであり、冷凍したパンなどの被加熱物の老化を抑制しつつ解凍することができる加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る加熱調理器は、被加熱物が収容される加熱室と、被加熱物を加熱する加熱手段と、加熱手段を制御する制御部と、を備え、制御部は、被加熱物の温度が被加熱物の老化温度帯の上限値以上となるまで被加熱物を最大火力で加熱し、その後、被加熱物を最小火力で加熱するよう加熱手段を制御し、冷凍状態の被加熱物を解凍するものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示における加熱調理器によれば、被加熱物の温度が老化温度帯を素早く通過することができ、冷凍状態の被加熱物の老化を抑制しつつ、解凍することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る加熱調理器の正面斜視図である。
図2】実施の形態1に係る加熱調理器の断面模式図である。
図3】実施の形態1に係る加熱調理器の制御ブロック図である。
図4】実施の形態1に係る加熱調理器の「パン解凍」動作のフローチャートである。
図5】実施の形態2に係る加熱調理器の断面模式図である。
図6】実施の形態2に係る加熱調理器の制御ブロック図である。
図7】実施の形態2に係る加熱調理器の「パン解凍」動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、加熱調理器の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、図面に示す加熱調理器は一例であり、図面に示された加熱調理器によって適用機器が限定されるものではない。また、以下の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「後」など)を適宜用いるが、これらは説明のためのものであって、実施の形態を限定するものではない。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一のまたはこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。なお、各図面では、各構成部材の相対的な寸法関係または形状等が実際のものとは異なる場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱調理器100の正面斜視図であり、図2は、実施の形態1に係る加熱調理器100の断面模式図である。図1および図2は、実施の形態1に係る加熱調理器100を模式的に示すものであり、加熱調理器100の全ての構成要素を示すものではない。また、図1は、加熱調理器100の扉3が開けられた状態を示し、図2は、加熱調理器100を正面と平行な面で切断した状態を示すものである。
【0011】
図1および図2に示すように、加熱調理器100は、内部に加熱室2が形成された本体1と、本体1の前面に設けられた扉3とを備える。本実施の形態の加熱調理器100は、オーブンレンジであり、複数の加熱手段により、加熱室2内に収容される被加熱物を加熱することができる。
【0012】
本体1の前面であって、扉3の隣には、操作表示パネル11が設けられる。操作表示パネル11は、加熱調理器100の運転を操作する操作部と、加熱調理器100の状態を表示する表示部とを有する。操作部は、電源のオン/オフスイッチ、取り消しボタン、自動メニューの選択ボタン、および温度または加熱モードの選択スイッチなどを含む。表示部は、液晶ディスプレイなどからなり、加熱調理中の加熱室2内の温度、選択した加熱設定、メニューおよび加熱調理後の高温注意表示などを表示する。
【0013】
加熱室2は、パンなどの被加熱物200または被加熱物200が入った容器201などを収容するものであり、脱臭塗料などが塗られた金属板を箱状に形成して構成されている。加熱室2の背面側の壁には、吸気孔2aと排気孔2bとが設けられる。また、加熱室2の両側の側壁には、凸状のスライド用レール20が設けられる。図2に示すように、食パンなどのパンが載置された角皿などの容器201が、スライド用レール20の上にスライド可能に載置される。
【0014】
加熱室2の側壁の内面には、加熱室2内の雰囲気温度を検知する温度センサ21が設けられる。温度センサ21は、加熱室2内の温度を直接検出するサーミスタなどの接触式温度センサである。
【0015】
扉3は、図示しないヒンジによって、本体1の手前側、すなわち使用者側に縦開きに開けることができるよう本体1の前面に取り付けられる。扉3には、調理中に加熱室2内を見るための窓3aと、扉3の開閉時に使用者が持つ取っ手3bと、図示しないチョーク構造などの高周波漏洩低減手段とが設けられている。なお、扉3に設けられた高周波漏洩量低減手段はチョーク構造に限定されるものでなく、高周波の漏洩を防ぐことができればよい。
【0016】
加熱室2の上面には、加熱手段の一つであり、輻射熱により被加熱物200を加熱する上面ヒータ4が設けられる。上面ヒータ4は、ニクロム線をマイカ板に巻きつけたものを鉄板に密着させたフラットヒータである。なお、上面ヒータ4として、ハロゲンヒーターまたはラジエントヒーターなどのその他の輻射熱方式の加熱手段を用いてもよい。
【0017】
また、加熱室2の背面には、加熱手段の一つであり、熱風を循環させて被加熱物200を加熱するコンベクションヒータ5が設けられる。コンベクションヒータ5は、ファン5aと、ファン5aの近傍に取り付けられたガラス管ヒータ5bとで構成される。コンベクションヒータ5は、ファン5aによって加熱室2内の空気を吸気孔2aから吸引し、吸気孔2aから吸引された空気をガラス管ヒータ5bにより加熱する。ガラス管ヒータ5bによって加熱された熱風は、排気孔2bから加熱室2内に戻って加熱室2内に収容された被加熱物200を加熱する。
【0018】
また、加熱室2の側面には、加熱手段の一つであり、マイクロ波により被加熱物200を加熱するための高周波発生部6が設けられる。高周波発生部6は、高周波発生器であるマグネトロン6aと、商用交流電源からの交流電力を変換してマグネトロン6aへ供給し、マグネトロン6aを駆動させる電源回路6bとからなる。また、加熱室2の底面の下方には、導波管7およびアンテナ室8が設けられる。導波管7は、一端がマグネトロン6aに接続され、他端がアンテナ室8に連通されており、マグネトロン6aが発生するマイクロ波を、アンテナ室8を介して加熱室2内に導くものである。図2に示すように、アンテナ室8には、マイクロ波の進行方向を調節するアンテナ9が設けられる。また、導波管7の下方には、アンテナ9を回転駆動するモータ10が設けられる。アンテナ9がモータ10によって回転されることで、マグネトロン6aが発生するマイクロ波を、加熱室2内に均一に放射し、加熱室2内に収容された被加熱物200を均一に加熱することができる。
【0019】
続いて、加熱調理器100の動作について説明する。本実施の形態の加熱調理器100は、上面ヒータ4と、コンベクションヒータ5と、高周波発生部6とを用いて、グリル調理と、オーブン調理と、レンジ調理とを行うことが可能である。また、本実施の形態の加熱調理器100は、高周波発生部6を用いたレンジ調理において、冷凍状態のパンをトーストせずに柔らかい食感をもつ状態に解凍する「パン解凍」を実行することが可能である。以下では、加熱調理器100における「パン解凍」の動作について説明する。
【0020】
図3は、実施の形態1に係る加熱調理器100の制御ブロック図である。加熱調理器100は、加熱調理器100の制御を行う制御部15と、制御部15にて用いられる第1テーブル161および第2テーブル162を含む各種データを記憶する記憶部16と、加熱の終了などを報知するための報知部17と、をさらに備える。
【0021】
制御部15は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行されるソフトウェアと、により構成される。または、制御部15を、その機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアで構成してもよい。記憶部16は、RAM、ROMまたはフラッシュメモリなどの不揮発性または揮発性のメモリからなる。報知部17は、スピーカーなどからなり、音声出力にて報知を行う。
【0022】
制御部15は、操作表示パネル11からの入力と、温度センサ21により検出された加熱室2内の温度と、記憶部16に記憶されるデータとに基づき、高周波発生部6とモータ10とを制御する。図3に示すように、制御部15は、プログラムを実行することによって実現される機能部として、パン量検知部151と、加熱時間設定部152と、加熱制御部153と、を有する。
【0023】
パン量検知部151は、操作表示パネル11を介して入力される情報と、被加熱物200であるパンを加熱したときの加熱室2内の温度変化とに基づいて、「パン解凍」を行うパンの量を検知する。パン量は、パンの重さまたは枚数である。パンの量が多いほど、加熱したときの加熱室2内の温度変化は小さくなる。記憶部16には、パンの厚みごとに、最小出力で予め設定された時間、レンジを駆動したときの加熱室2内の温度変化と、パン量との関係を示す第1テーブル161が予め記憶されている。パン量検知部151は、操作表示パネル11を介して入力される「パン厚み」と、温度センサ21によって検出される加熱室2内の温度変化と、記憶部16に記憶される第1テーブル161と、に基づいてパン量を検知する。なお、「パン厚み」は、例えば4枚切り、5枚切り、6枚切り、または30mm、24mm、20mmなどの情報である。
【0024】
加熱時間設定部152は、パン量検知部151により検知されたパン量と、操作表示パネル11を介して入力される「パン厚み」とに基づき、「パン解凍」のための第1加熱時間および第2加熱時間を設定する。同じパン量でもパン厚みごとにパンの表面と中心の温度は異なる。そのため、記憶部16には、パン量およびパン厚みごとの第1加熱時間および第2加熱時間の関係を示す第2テーブル162が予め記憶されている。
【0025】
第1加熱時間は、「パン解凍」のために、最大出力でレンジを駆動する時間であり、パンの中心の温度が老化温度帯の上限値である18℃以上であり、かつ、おいしい温かさとされる温度に到達するまでの時間である。おいしい温かさとされる温度は、体温よりも25~30℃高い温度、すなわち、体温が36~37℃とした場合、61~67℃くらいの温度である。一例として、最大出力でレンジを駆動した場合に、パンの中心温度が20℃に達するまでの時間が、パン量およびパン厚みごとに実験により求められ、第1加熱時間として第2テーブル162に記憶される。
【0026】
第2加熱時間は、「パン解凍」のために、最小出力でレンジを駆動する時間であり、パンの中心の温度がおいしい温かさとされる温度である61~67℃に到達するまでの時間である。一例として、最小出力でレンジを駆動した場合に、パンの中心の温度が65℃に達するまでの時間が、パン量およびパン厚みごとに実験により求められ、第2加熱時間として第2テーブル162に記憶される。
【0027】
加熱時間設定部152は、パン量検知部151により検知されたパン量、および操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」に基づき、第2テーブル162から第1加熱時間および第2加熱時間を抽出して設定する。
【0028】
加熱制御部153は、操作表示パネル11を介して入力される情報と、加熱時間設定部152により設定された第1加熱時間および第2加熱時間とに基づき、高周波発生部6およびモータ10を制御し、加熱調理器100のレンジ駆動を行う。
【0029】
図4は、実施の形態1に係る加熱調理器100による「パン解凍」動作のフローチャートである。図4の「パン解凍」動作は、使用者が冷凍状態のパンを加熱室2に入れ、操作表示パネル11にて「パン解凍」を選択し、「パン厚み」を入力した場合に、制御部15により開始される。
【0030】
本動作が開始されると、まず、加熱制御部153により、最小出力で、予め設定された時間、レンジが駆動される(S1)。ここでは、例えば100Wの出力でレンジが駆動するように、高周波発生部6が制御され、モータ10が駆動される。このとき、レンジの出力を最小にするのは、パンの表面とパンの中心との温度差が大きくなることを回避するためである。また、このとき、温度センサ21により、加熱室2内の温度が検出され、制御部15に出力される。
【0031】
続いて、加熱室2内に収容されたパンの量が検知される(S2)。ここでは、パン量検知部151により、ステップS1のレンジ駆動における加熱室2内の温度変化が算出される。パン量検知部151は、例えばレンジ駆動直後に温度センサ21によって検出された加熱室2内の温度と、レンジ駆動停止直前に温度センサ21によって検出された加熱室2内の温度との差を温度変化として算出する。そして、パン量検知部151は、操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」と、算出した加熱室2内の温度変化と、記憶部16に記憶される第1テーブル161とに基づいて、パン量を検知する。
【0032】
続いて、「パン解凍」のための第1加熱時間と第2加熱時間とが設定される(S3)。ここでは、加熱時間設定部152により、操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」と、ステップS2で検知されたパン量と、記憶部16に記憶される第2テーブル162とに基づいて、第1加熱時間および第2加熱時間が設定される。
【0033】
そして、加熱制御部153により、第1加熱時間が経過するまで(S5:NO)、最大出力でレンジが駆動される(S4)。ここでは、例えば600Wの出力でレンジが駆動するように、高周波発生部6が制御され、モータ10が駆動される。このように、まず最大火力でパンを加熱することで、パンに含まれるデンプンの老化温度帯である-7~18℃を素早く確実に通過することができる。これにより、パンの温度が老化温度帯となる時間が短くなるため、パンの老化を抑制し、パンの食感が固く、ボソボソとまずい状態になることを防ぐことができる。
【0034】
第1加熱時間が経過した場合(S5:YES)、第2加熱時間が経過するまで(S7:NO)、最小出力でレンジが駆動される(S6)。ここでは、例えば100Wの出力でレンジが駆動するように、高周波発生部6が制御され、モータ10が駆動される。このように、レンジの出力を落として加熱を継続することで、パンの表面と内部とを、温度差なく昇温することができ、パン表面の乾燥を抑制しつつ、パンの内部まで解凍することができる。
【0035】
第2加熱時間が経過した場合(S7:YES)、報知部17からのブザー音または操作表示パネル11での光の点滅などで、加熱の終了が報知され(S8)、「パン解凍」動作が終了する。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、冷凍状態のパンを老化温度帯に達するまで最大火力で加熱することで、冷凍したパンの老化を抑制することができる。また、その後、最小火力で加熱することで、冷凍したパンをトーストせずに購入したての柔らかい食感をもつ状態に解凍することができる。また、「パン解凍」のための新たなセンサを追加する必要がなく、コストの増加も抑制できる。また、最大火力および最小火力でそれぞれ加熱する時間をパン量およびパン厚みに応じて設定することで、様々なパンに対して適切な「パン解凍」を行うことができる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態2について説明する。実施の形態2の加熱調理器100Aは、被加熱物200であるパンの温度を直接検出して「パン解凍」を実施する点で、実施の形態1と相違する。下記に説明する以外の加熱調理器100Aの構成は、実施の形態1と同じである。
【0038】
図5は、実施の形態2に係る加熱調理器100Aの断面模式図である。図5は、実施の形態2に係る加熱調理器100Aを模式的に示すものであり、加熱調理器100Aの全ての構成要素を示すものではない。また、図5は、加熱調理器100Aを正面と平行な面で切断した状態を示すものである。
【0039】
図5に示すように、本実施の形態の加熱調理器100Aは、サーミスタで構成される温度センサ21に替えて、赤外線センサ22を備えている。赤外線センサ22は、例えばサーモパイル型赤外線センサである。赤外線センサ22は、検知視野内の赤外線を検知し、検知した赤外線量を制御部15A(図6)に出力し、制御部15Aは、赤外線量を温度に換算することによって、検知対象物の温度を推測(検知)する。
【0040】
赤外線センサ22には、赤外線を受光する素子とは別に、周囲の雰囲気温度を検知する素子が内蔵されており、雰囲気温度による赤外線量の増加と検知対象物の温度の差異を補正できるようになっている。また、赤外線センサ22自体の温度を安定させるために、加熱室2内が加熱されている状態においても、図示しない冷却ファンにて赤外線センサ22を十分に冷却してもよい。赤外線センサ22を冷却しながら赤外線センサ22に被加熱物200の温度を検知させることで、赤外線センサ22の周囲の雰囲気温度を検知する素子の出力変動が低減され、温度検知精度の低下を抑制することができる。
【0041】
続いて、本実施の形態の加熱調理器100Aによる「パン解凍」の動作について説明する。図6は、実施の形態2に係る加熱調理器100Aの制御ブロック図である。本実施の形態の制御部15Aは、操作表示パネル11からの入力と、赤外線センサ22により検出された被加熱物200の温度と、記憶部16Aに記憶される第3テーブル163および第4テーブル164とに基づき、高周波発生部6とモータ10とを制御する。図6に示すように、制御部15Aは、プログラムを実行することによって実現される機能部として、パン量検知部151Aと、加熱温度設定部154と、加熱制御部153Aと、を有する。
【0042】
パン量検知部151Aは、操作表示パネル11を介して入力される情報と、被加熱物200であるパンを加熱した時のパンの温度変化とに基づいて、「パン解凍」を行うパンの量を検知する。パンの量が多いほど、レンジ駆動した場合のパンの温度変化は小さくなる。記憶部16Aには、パンの厚みごとに、最小出力で予め設定された時間、レンジを駆動した場合のパンの温度変化と、パン量との関係を示す第3テーブル163が予め記憶されている。パン量検知部151Aは、操作表示パネル11を介して入力される「パン厚み」と、赤外線センサ22によって検出されるパンの温度変化と、記憶部16Aに記憶される第3テーブル163と、に基づいてパン量を検知する。
【0043】
加熱温度設定部154は、パン量検知部151Aにより検知されたパン量と、操作表示パネル11を介して入力される「パン厚み」とに基づき、「パン解凍」のための第1加熱温度と、第2加熱温度とを設定する。同じパン量でもパン厚みごとにパンの表面と中心の温度は異なる。そのため、記憶部16Aには、パン量およびパン厚みごとの第1加熱温度および第2加熱温度の関係を示す第4テーブル164が予め記憶されている。
【0044】
第1加熱温度は、被加熱物200であるパンの中心の温度が老化温度帯の上限値である18℃以上であり、かつ、おいしい温かさとされる温度以下であるときの、パンの表面温度である。パンの表面温度は、赤外線センサ22により検出される温度である。おいしい温かさとされる温度は、体温よりも25~30℃高い温度、すなわち、体温が36~37℃とした場合、61~67℃くらいの温度範囲である。一例として、最大出力でレンジを駆動した場合に、パン量およびパン厚みごとに、パンの中心温度が20℃となる場合のパンの表面温度が実験により求められ、第1加熱温度として第4テーブル164に記憶される。
【0045】
第2加熱温度は、被加熱物200であるパンの中心の温度がおいしい温かさとされる温度61~67℃であるときの、パンの表面温度である。一例として、最小出力でレンジを駆動した場合に、パン量およびパン厚みごとに、パンの中心温度が65℃となる場合のパンの表面温度が実験により求められ、第2加熱温度として第4テーブル164に記憶される。
【0046】
加熱温度設定部154は、パン量検知部151により検知されたパン量、および操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」に基づき、第4テーブル164から第1加熱温度および第2加熱温度を抽出して設定する。
【0047】
加熱制御部153Aは、操作表示パネル11を介して入力される情報と、加熱温度設定部154により設定された第1加熱温度および第2加熱温度とに基づき、高周波発生部6およびモータ10を制御し、加熱調理器100Aのレンジ駆動を行う。
【0048】
図7は、実施の形態2に係る加熱調理器100Aの「パン解凍」動作のフローチャートである。図7の「パン解凍」動作は、使用者が冷凍状態のパンを加熱室2に入れ、操作表示パネル11にて「パン解凍」を選択し、「パン厚み」を入力した場合に、制御部15により開始される。
【0049】
本動作が開始されると、まず、実施の形態1と同様に、加熱制御部153Aにより、最小出力で、予め設定された時間、レンジが駆動される(S21)。このとき、赤外線センサ22により、パンの温度が検出され、制御部15Aに出力される。
【0050】
続いて、加熱室2内に収容されたパンの量が検知される(S22)。ここでは、まずパン量検知部151Aにより、ステップS21のレンジ駆動におけるパンの温度変化が算出される。パン量検知部151Aは、例えばレンジ駆動直後に赤外線センサ22によって検出されたパンの温度と、レンジ駆動停止直前に赤外線センサ22によって検出されたパンの温度との差を温度変化として算出する。そして、パン量検知部151Aは、操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」と、算出したパンの温度変化と、記憶部16Aに記憶される第3テーブル163とに基づいて、パン量を検知する。
【0051】
続いて、「パン解凍」のための第1加熱温度と第2加熱温度とが設定される(S23)。ここでは、加熱温度設定部154により、操作表示パネル11を介して入力された「パン厚み」と、ステップS22で検知されたパン量と、記憶部16Aに記憶される第4テーブル164とに基づいて、第1加熱温度および第2加熱温度が設定される。
【0052】
そして、赤外線センサ22により検出されるパンの表面温度が第1加熱温度に達するまで(S25:NO)、最大出力でレンジが駆動される(S24)。ここでは、例えば600Wの出力でレンジが駆動するように、高周波発生部6が制御され、モータ10が駆動される。このように、まず最大火力でパンを加熱することで、パンに含まれるデンプンの老化温度帯である-7~18℃を素早く確実に通過し、パンの老化を抑制し、食味の低下を抑制できる。
【0053】
パンの表面温度が第1加熱温度に達した場合(S25:YES)、赤外線センサ22により検出されるパンの表面温度が第2加熱温度に達するまで(S27:NO)、最小出力でレンジが駆動される(S26)。ここでは、例えば100Wの出力でレンジが駆動するように、高周波発生部6が制御され、モータ10が駆動される。このように、レンジの出力を落として加熱を継続することで、パン表面の乾燥を抑制しつつ、パンの内部まで解凍することができる。
【0054】
パンの表面温度が第2加熱温度に達した場合(S27:YES)、報知部17からのブザー音または操作表示パネル11での光の点滅などで、加熱の終了が報知され(S28)、「パン解凍」動作が終了する。
【0055】
以上のように、本実施の形態においても、冷凍状態のパンを最大火力および最小火力でそれぞれ加熱することで、冷凍したパンの老化を抑制しつつ、トーストせずに購入したての柔らかい食感をもつ状態に解凍することができる。また、最大火力および最小火力でそれぞれ加熱する時間をパン量およびパン厚みに応じた加熱温度で判断することで、様々なパンに対して適切な「パン解凍」を行うことができる。さらに、赤外線センサ22を用いてパンの表面温度を直接検出して加熱制御を行うことで、実際のパンの温度に即した加熱制御を行うことができ、パンの食味をより向上させることができる。
【0056】
以上が実施の形態の説明であるが、上記の実施の形態は、種々に変形することが可能である。また、各実施の形態に示す構成のうち、組合せ可能な構成を任意に組合せることも可能である。例えば、上記実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせ、温度センサ21と赤外線センサ22の両方を備えてもよい。この場合は、加熱室2内の温度と、被加熱物200の温度との両方または何れか一方を「パン解凍」動作に用いてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、加熱調理器100がオーブンレンジである場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電子レンジ、IHクッキングヒータまたはガスレンジなどにおいて、「パン解凍」動作を実施してもよい。また、上記実施の形態では、レンジ調理により「パン解凍」動作を実施する場合について説明したが、上面ヒータ4またはコンベクションヒータ5による加熱を用いて「パン解凍」を実施してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、加熱調理器100にてパン量を自動的に検知する構成としたが、これに限定されるものではなく、パン量を使用者が操作表示パネル11を介して入力する構成としてもよい。この場合は、パン量検知部151を省略することができる。
【0059】
また、上記実施の形態では、食パンを対象として「パン解凍」を実施することについて説明したが、食パン以外のパン、もしくはベーグルまたはパンケーキなどのその他の食品についても「パン解凍」を利用することができる。この場合は、使用者により入力される被加熱物200に関する情報として、パン厚みに替えて、または加えて、パンの種類、パンの形状、または被加熱物200の種類などが入力されてもよい。そして、入力される情報に応じたテーブルが予め記憶部16に記憶され、第1加熱時間、第2加熱時間、第1加熱温度および第2加熱温度が設定される。
【0060】
さらに、実施の形態2においては、パン量およびパン厚みに応じて第1加熱温度と第2加熱温度とを設定する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、第1加熱温度を20℃、第2加熱温度を65℃とし、パン量およびパン厚みに依らず、赤外線センサ22により検出される温度と、第1加熱温度または第2加熱温度とを比較して加熱制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 本体、2 加熱室、2a 吸気孔、2b 排気孔、3 扉、3a 窓、3b 取っ手、4 上面ヒータ、5 コンベクションヒータ、5a ファン、5b ガラス管ヒータ、6 高周波発生部、6a マグネトロン、6b 電源回路、7 導波管、8 アンテナ室、9 アンテナ、10 モータ、11 操作表示パネル、15、15A 制御部、16、16A 記憶部、17 報知部、20 スライド用レール、21 温度センサ、22 赤外線センサ、100、100A 加熱調理器、151、151A パン量検知部、152 加熱時間設定部、153、153A 加熱制御部、154 加熱温度設定部、161 第1テーブル、162 第2テーブル、163 第3テーブル、164 第4テーブル、200 被加熱物、201 容器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7