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  • 特許-車両用ドラムブレーキ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】車両用ドラムブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/00 20060101AFI20231208BHJP
   F16D 51/18 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
F16D65/00 C
F16D51/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020055916
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156336
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 竹徳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正一
(72)【発明者】
【氏名】関 一樹
(72)【発明者】
【氏名】依田 大樹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-041734(JP,U)
【文献】特開2004-176737(JP,A)
【文献】特開2004-169846(JP,A)
【文献】特開2008-95741(JP,A)
【文献】特開2008-115957(JP,A)
【文献】特開2018-105349(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0120094(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/00
F16D 51/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転するブレーキドラムの内側に、車体に取り付けられたドラムブレーキを配置し、該ドラムブレーキのバックプレートに拡開可能に設けられたブレーキシューのライニングをブレーキドラムに摺接させて制動操作する車両用ドラムブレーキ装置において、
前記ブレーキドラムは、前記車輪のハブに取り付けられる底板と、前記ライニングが摺接する摺接面を内周面に有する円筒部とを備えた有底円筒状に形成され、前記ブレーキドラムの前記摺接面を除いた内面に、該摺接面との摺接で発生する前記ライニングの摩耗粉を回収する摩耗粉回収プレートを取り付け、空気流との摩擦で帯電させた前記摩耗粉回収プレートに、クーロン力により前記摩耗粉を吸着させることを特徴とする車両用ドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記摩耗粉回収プレートは、前記底板に取り付けられることを特徴とする請求項1記載の車両用ドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記摩耗粉回収プレートは、複数枚のプレートを剥離可能に積層して形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ドラムブレーキ装置。
【請求項4】
前記摩耗粉回収プレートは、空気との摩擦によってマイナスに帯電する樹脂のシートで形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ドラムブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドラムブレーキ装置に関し、詳しくは、ライニングの摩耗粉を回収する構造を備えた車両用ドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用ドラムブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキドラムの内周面に、ドラムブレーキのブレーキシューを押圧して、その摺動摩擦により制動力を得ることから、ブレーキドラムとブレーキシューのライニングとの摺動摩擦によってライニングの摩耗粉が発生するが、この摩耗粉がブレーキドラムの摺接面やライニングに堆積すると、制動性能が低下したり、ブレーキ鳴きと呼ばれる異音の発生を招いたりすることがあった。また、車外に排出される摩擦粉でタイヤホイールが汚れることがあり、さらには、摩擦粉が大気中に放出されることで環境問題を引き起こす虞もあった。
【0003】
このため、従来、ドラムブレーキ装置として、バックプレートに、ゴム材料で形成された摩耗粉の回収部材を取り付けるとともに、該回収部材に摩耗粉を導入するガイド部を形成して、ブレーキドラムの回転により発生する空気流に含まれる摩耗粉を回収部材に導入して、回収するものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-105349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1のものでは、回収部材やガイド部を形成しなければならないことからコストが嵩む虞があった。また、バックプレート内の狭い空間に回収部材を組み付けなくてはならないことから、回収部材の組み付けに手間が掛かっていた。
【0006】
そこで本発明は、簡単な構造でライニングの摩耗粉を回収することができる車両用ドラムブレーキ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ドラムブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキドラムの内側に、車体に取り付けられたドラムブレーキを配置し、該ドラムブレーキのバックプレートに拡開可能に設けられたブレーキシューのライニングをブレーキドラムに摺接させて制動操作する車両用ドラムブレーキ装置において、前記ブレーキドラムは、前記車輪のハブに取り付けられる底板と、前記ライニングが摺接する摺接面を内周面に有する円筒部とを備えた有底円筒状に形成され、前記ブレーキドラムの前記摺接面を除いた内面に、該摺接面との摺接で発生する前記ライニングの摩耗粉を回収する摩耗粉回収プレートを取り付け、空気流との摩擦で帯電させた前記摩耗粉回収プレートに、クーロン力により前記摩耗粉を吸着させることを特徴としている。
【0008】
また、前記摩耗粉回収プレートは、前記底板に取り付けられると好ましい。
【0009】
さらに、前記摩耗粉回収プレートは、複数枚のプレートを剥離可能に積層して形成されると好適である。
【0010】
また、前記摩耗粉回収プレートは、空気との摩擦によってマイナスに帯電する樹脂のシートで形成されると好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両用ドラムブレーキ装置によれば、ブレーキドラムとライニングとの摺接によりプラスに帯電した摩耗粉は、ブレーキドラムの回転により発生する空気流との摩擦によってマイナスに帯電する摩耗粉回収プレートにクーロン力により吸着され、摩耗粉を良好に回収でき、摩耗粉がブレーキドラムの摺接面やライニングに堆積することを防止できる。また、摩耗粉回収プレートは、ドラムブレーキを組み付ける以前のブレーキドラムの摺接面を除いた内面に取り付ければ良いことから、取り付け作業に手間が掛からない。また、ドラムブレーキを取り外せば、容易に摩耗粉回収プレートを取り外すことができ、コストを掛けることなく摩耗粉を回収でき、メンテナンス時に容易に摩耗粉回収プレートを交換することができる。
【0012】
さらに、摩耗粉回収プレートをブレーキドラムの底板に取り付けたことにより、ブレーキドラムの回転に伴って、ブレーキドラムの底板とドラムブレーキのバックプレートとの間の空間部に発生する空気流に乗って、空間部を周回する摩耗粉を効率よく回収することができる。
【0013】
また、摩耗粉回収プレートを、複数枚のプレートを剥離可能に積層して形成したことにより、メンテナンス時に最上部のプレートを剥がすだけで、新規の摩耗粉回収プレートとして使用でき、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0014】
また、摩耗粉回収プレートを、空気流との摩擦によってマイナスに帯電する樹脂のシートで形成することにより、摩耗粉回収プレートの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図2のI-I断面図である。
図2】本発明の一形態例を示す車両用ドラムブレーキ装置の正面図である。
図3】同じく車両用ドラムブレーキ装置の要部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1乃至図3は本発明の車両用ドラムブレーキ装置の一形態例を示す図である。本形態例の車両用ドラムブレーキ装置1は、車輪と一体に回転するブレーキドラム2の内側に、車体に取り付けられたドラムブレーキ3を配置し、該ドラムブレーキ3のバックプレート4に拡開可能に設けられた第1ブレーキシュー5と第2ブレーキシュー6のライニング5a,6aをブレーキドラム2に摺接させて制動操作する。
【0017】
ブレーキドラム2は、車輪のハブに取り付けられる底板2aと、ライニング5aが摺接する摺接面2bを内周面に有する円筒部2cとを一体に備えた有底円筒状に形成されている。底板2aは、中心部にハブ挿通孔2dが形成され、該ハブ挿通孔2dよりも外周側に、ブレーキドラム2をハブに取り付ける取付ボルトのボルト孔2eが周方向に複数形成され、各ボルト孔2eよりも外周側に位置する内面に、リング状に形成された摩耗粉回収プレート7が取り付けられている。摩耗粉回収プレート7は、空気との摩擦によってマイナスに帯電する樹脂のシート、例えば、ポリエチレンやシリコン等で形成されたシート7aを複数枚、剥離可能に積層して形成されている。
【0018】
ドラムブレーキ3は、周知のもので、車体に固設されるバックプレート4の内面に弓型の一対の第1ブレーキシュー5と第2ブレーキシュー6とを配置し、両ブレーキシュー5,6の一端をホイルシリンダ8のピストン8a,8aに、他端をアンカー9にそれぞれ当接させている。
【0019】
このドラムブレーキ3は、第1ブレーキシュー5と第2ブレーキシュー6とをバックプレート4の半径方向外側に拡開して、外周のライニング5a,6aをブレーキドラム2の摺接面2bに摺接させて制動するリーディング・トレーリングタイプで、第1ブレーキシュー5には、パーキングレバー10の一端が支軸10aを介して枢支され、該パーキングレバー10の他端には、パーキングレバー10を牽引するためのブレーキケーブル11が連結されている。
【0020】
両ブレーキシュー5,6の間には、ホイルシリンダ8の内側とアンカー9の外側とにシュー戻しばね12,13が張設されていて、双方のブレーキシュー5,6を常時縮径方向へ付勢しており、さらに、ホイルシリンダ側のシュー戻しばね12のバックプレート中心側には、第1ブレーキシュー5及び第2ブレーキシュー6の縮径位置を外側に規制して、制動間隙を自動的に調整する制動間隙自動調整装置14が配置されている。
【0021】
アンカー9は、バックプレート4を内側に突出させて形成したアンカー部に直方体形状のアンカーブロック9aをリベット9b,9bで固着して形成されている。また、アンカーブロック9aのバックプレート中心側には、ブレーキケーブル11を案内するケーブルガイド9cが設けられている。パーキングレバー10は、第1ブレーキシュー5のバックプレート側に配置され、一端側に前記支軸10aが、他端側にブレーキケーブル11の連結部10bがそれぞれ設けられている。
【0022】
第1ブレーキシュー5及び第2ブレーキシュー6は、それぞれバックプレート4と平行に配置されるウェブ5b,6bと、該ウェブ5b,6bの外縁に直交方向に固設されるリム5c,6cと、このリム5c,6cの外周面に貼着される前記ライニング5a,6aとで形成され、シューホールドピン15とシューホールドスプリング16を介してウェブ5b,6bの略中間位置がバックプレート4にそれぞれ弾持されている。
【0023】
このように形成された車両用ドラムブレーキ装置1では、液圧作動時に、ホイルシリンダ8に液圧が供給されると、ピストン8a,8aが互いに離反する方向に移動し、これに伴って、第1ブレーキシュー5及び第2ブレーキシュー6がアンカー9を中心に拡開し、ライニング5a,6aをブレーキドラム2の摺接面2bに摺接させて制動操作を行う。また、パーキングブレーキ作動時に、ブレーキケーブル11が牽引されるとブレーキケーブル11がケーブルガイド9cにガイドされながらスライドして、パーキングレバー10を牽引する。パーキングレバー10は支軸10aを支点に回転し、制動間隙自動調整装置14のコネクティングロッド14aを第2ブレーキシュー側へ押動し、第2ブレーキシュー6をアンカー9を支点に拡開させ、ライニング5aをブレーキドラムに摺接させる。さらに、ブレーキケーブル11を牽引すると、この反作用によりパーキングレバー10が回動支点をコネクティングロッド14aとの当接点に代えて回動し、第1ブレーキシュー5をアンカー9を支点に拡開させ、ライニング5aをブレーキドラム2に摺接させて制動する。
【0024】
上記のように制動操作が行われると、ブレーキドラム2とライニング5a,6aとの摺動摩擦によってライニング5a,6aの摩耗粉が発生する。摩耗粉は、プラスに帯電した状態で、ブレーキドラム2の底板2aとドラムブレーキ3のバックプレート4との間の空間部E1に発生する空気流に乗って空間部E1を周回する。一方、摩耗粉回収プレート7は、空気流との摩擦によってマイナスに帯電しており、周回する摩耗粉は、摩耗粉回収プレート7にクーロン力により吸着される。
【0025】
本形態例は、上述のように形成されることにより、摩耗粉をクーロン力により摩耗粉回収プレート7に吸着させることができ、摩耗粉がブレーキドラム2の摺接面2bやライニング5a,6aに堆積することを防止できる。また、摩耗粉回収プレート7は、ブレーキドラム2の底板2aに取り付けられることにより、ブレーキドラム2の回転に伴って、ブレーキドラム2の底板2aとドラムブレーキ3のバックプレート4との間の空間部E1に発生する空気流に乗って周回する摩耗粉を効率よく回収することができる。
【0026】
さらに、摩耗粉回収プレート7は、ドラムブレーキ3を組み付ける以前のブレーキドラム2の底板2aに取り付ければ良いことから、摩耗粉回収プレート7の取り付け作業に手間が掛からない。また、ドラムブレーキ3を取り外せば、容易に摩耗粉回収プレート7を取り外すことができ、コストを掛けることなく摩耗粉を回収でき、メンテナンス時に摩耗粉回収プレート7を簡単に交換することができる。
【0027】
さらに、摩耗粉回収プレート7を空気流との摩擦によってマイナスに帯電する樹脂のシート7aを複数枚、剥離可能に積層して形成したことにより、メンテナンス時に最上部のシート7aを剥がすだけで、新規の摩耗粉回収プレート7として使用でき、メンテナンス性の向上を図ることができる。また、摩耗粉回収プレート7を樹脂で形成したことにより、摩耗粉回収プレート7の軽量化を図ることができる。
【0028】
なお、本発明は上述の形態例に限るものではなく、ドラムブレーキの構造はツーリーディングタイプやデュオ・サーボタイプ等、各種のタイプを適用することができる。また、摩耗粉回収プレートは、底板に設けるものに限らず、ブレーキドラムの摺接面を除いた内面であれば、どこに設けても差し支えない。また、摩耗粉回収プレートは樹脂に限らず、空気との摩擦によってマイナスに帯電する材質であればよく、剥離可能に積層して形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…車両用ドラムブレーキ装置、2…ブレーキドラム、2a…底板、2b…摺接面、2c…円筒部、2d…ハブ挿通孔、2e…ボルト孔、3…ドラムブレーキ、4…バックプレート、5…第1ブレーキシュー、5a…ライニング、5b…ウェブ、5c…リム、6…第2ブレーキシュー、6a…ライニング、6b…ウェブ、6c…リム、7…摩擦粉回収プレート、7a…シート、8…ホイルシリンダ、8a…ピストン、9…アンカー、9a…アンカーブロック、9b…リベット、9c…ケーブルガイド、10…パーキングレバー、10a…支軸、10b…連結部、11…ブレーキケーブル、12,13…シュー戻しばね、14…制動間隙自動調整装置、14a…コネクティングロッド、15…シューホールドピン、16…シューホールドスプリング
図1
図2
図3