(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】共押出フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20231208BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231208BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/18 C
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020056506
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591143951
【氏名又は名称】ジェイフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知史
(72)【発明者】
【氏名】山縣 諭
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-016666(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148129(WO,A1)
【文献】特開2015-160374(JP,A)
【文献】特開2018-108733(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148130(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
B65D 67/00-79/02
B65D 81/18-81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシール層と基層とを有する共押出フィルムであって、
前記シール層が、
シール層を構成する樹脂の合計を100質量%とした場合、ポリエチレン系樹脂50~90質量%と、メタロセン触媒で重合したポリプロピレン系樹脂と他の非環状ポリオレフィン系樹脂の和10~50質量%と防曇剤とを含み、
前記基層が、非環状ポリオレフィン系樹脂50質量%超~60質量%未満と環状ポリオレフィン系樹脂40質量%超~50質量%未満とを含み、
フィルム総厚に対する前記基層の厚み比率が30%未満であ
り、
前記シール層と前記基層との間に中間層を有し、前記中間層が非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを含み、前記中間層における防曇剤の含有率が前記シール層における防曇剤の含有率と同等以下である共押出フィルム。
【請求項2】
前記シール層が、非環状ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、該共押出フィルムとホモポリプロピレン製シートとをヒートシールし剥離する際の剥離強度が5~20N/15mm幅である請求項1に記載の共押出フィルム。
【請求項3】
フィルムの流れ方向の引張弾性率が250~400MPaである、請求項1
または2に記載の共押出フィルム。
【請求項4】
請求項1~
3の何れかに記載の共押出フィルムの基層側に、熱可塑性樹脂からなるフィルムを備えた積層フィルム。
【請求項5】
請求項1~
3の何れかに記載の共押出フィルム、または、請求項
4に記載の積層フィルムを用いた包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤を含むシール層と環状ポリオレフィン系樹脂を含む基層とを有する共押出フィルム、および、該共押出フィルムを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートシール性を有するポリオレフィン系樹脂フィルムは、包装用シーラントフィルムとして広く利用され、袋用包装材や、トレーやカップ形状の底材に対する蓋材として多用されている。
また、包装体の収容物が食品等のように水分を有する場合、冷蔵下での流通、保管、陳列において、シーラントフィルムの収容物側表面に水滴が付着して曇ってしまい、収容物の目視確認を行い難いものとなっていた。そういった現象に対処するために、シーラントフィルムの表面に防曇剤を含む溶液を塗布し乾燥して防曇層を形成したフィルムが検討されたが、このフィルムでは長期間の防曇性を保てず、シール性を阻害するものであった。
【0003】
そういった状況において、防曇剤を樹脂に練り込んだシーラントフィルムが検討されてきた。
例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂(a1)と防曇剤とを含有するシール層(A)の片面に、環状ポリオレフィン系樹脂(b1)の含有量が10~40質量%であり、環状ポリオレフィン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂(b2)の含有量が60~90質量%である樹脂層(B)を有するシーラントフィルムが開示されている。
また、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂(a1)と防曇剤とを含有するシール層(A)の片面に、環状ポリオレフィン系樹脂(b1)を50質量%以上含有する樹脂層(B)を有するシーラントフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/148129号公報
【文献】国際公開2016/148130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2は、共に、樹脂層(B)の環状ポリオレフィン系樹脂(b1)によって、シール層(A)の防曇剤の層間移行を抑制し、防曇効果を持続させる技術思想に基づくものである。しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1の技術では、防曇剤の層間移行が原因と推察される、長期保管時における防曇性の低下と、ラミネート接着強度の低下が生じた。
また、特許文献2の技術では、剛性の高い環状ポリオレフィン系樹脂がシーラントフィルムの性状に大きく影響を及ぼし、インフレーション成膜法において折り畳み皴が発生し、長時間の安定製膜を行うことができなかった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、シーラントフィルムとして用いた場合に、持続性の高い防曇性と十分なラミネート接着強度を有し、またインフレーション法フィルム製膜を長時間安定して行うことができる共押出フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、少なくともシール層と基層とを有する共押出フィルムであって、前記シール層が、非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを含み、
前記基層が、非環状ポリオレフィン系樹脂50質量%超~60質量%未満と環状ポリオレフィン系樹脂40質量%超~50質量%未満とを含み、フィルム総厚に対する前記基層の厚み比率が30%未満である共押出フィルムによって課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0008】
第1の本発明は、少なくともシール層と基層とを有する共押出フィルムであって、前記シール層が、非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを含み、前記基層が、非環状ポリオレフィン系樹脂50質量%超~60質量%未満と環状ポリオレフィン系樹脂40質量%超~50質量%未満とを含み、フィルム総厚に対する前記基層の厚み比率が30%未満であることを特徴とする共押出フィルムである。
【0009】
第1の本発明において、前記シール層が、非環状ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、該共押出フィルムとホモポリプロピレン製シートとをヒートシールし剥離する際の剥離強度が5~20N/15mm幅であることが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、前記シール層と前記基層との間に中間層を有し、前記中間層が非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを含み、前記中間層における防曇剤の含有率が前記シール層における防曇剤の含有率と同等以下であることが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、フィルムの流れ方向の引張弾性率が250~400MPaであることが好ましい。
【0012】
第2の本発明は、第1の本発明の共押出フィルムの基層側に、熱可塑性樹脂からなるフィルムを備えた積層フィルムである。
【0013】
第3の本発明は、第1の本発明の共押出フィルム、または、第2の本発明の積層フィルムを用いた包装体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共押出フィルムは、長期の防曇性と十分なラミネート接着強度を有するので、食品のように、冷蔵下で保管され水分を含有する収容物の包装において、長期間にわたり収容物の目視確認を可能とすることができ、また、共押出フィルムを用いて作製されるラミネート包材(積層フィルム)が層間で剥離することなく(デラミネーションが発生せず)、実用性の高い包材を作製することができる。更に、長時間安定にフィルム生産できるので、生産効率の向上に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
本願において、易開封性はイージーピール性、易剥離性と同義である。また、シーラントフィルムは、ヒートシールフィルム、ヒートシール性フィルムと呼称する場合がある。
易開封性の指標として用いる剥離強度は、シール強度と同義であり、開封性および密封シール性の尺度となり、また開封強度と呼称する場合がある。
また、「主成分として含む」とは、50質量%以上を意味し、好ましくは55質量%以上を意味し、より好ましくは60質量%以上を意味する。数値範囲を「○○~△△」で示した場合は、○○以上△△以下を意味する。
【0016】
<共押出フィルム>
(シール層)
本発明の共押出フィルム(以下、本フィルムと称することがある)は、少なくともシール層と基層とを有し、シール層は非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを含む。
【0017】
・非環状ポリオレフィン系樹脂
本フィルムのシール層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂(超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等)、ポリエチレン系エラストマー、エチレンと炭素原子数3~18のα-オレフィンとの共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブテン、エチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-イソプレン共重合体などのエチレン-共役ジエン共重合体、エチレン-非共役ジエン共重合体、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン系共重合体等)、等を挙げることができる。
中でも、ヒートシール性と防曇性の発現しやすさの点で、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン系エラストマーが好ましい。また、ポリプロピレンは、メタロセン触媒で重合したものが低温シール性、透明性等に優れ、好ましい。
【0018】
また、ポリプロピレン製の被着体とヒートシールし、イージーピール性を発現させるためには、シール層が、非環状ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。例えば、シール層を構成する樹脂の合計を100質量%とした場合、ポリエチレン系樹脂50~90質量%と、ポリプロピレン系樹脂、またはポリプロピレン系樹脂と他の非環状ポリオレフィン系樹脂の和50~10質量%との配合や、ポリプロピレン系樹脂50~90質量%と、ポリエチレン系樹脂、またはポリエチレン系樹脂と他の非環状ポリオレフィン系樹脂の和50~10質量%との配合が好ましい。
中でも、シール層に防曇剤を含み、ポリプロピレン製被着体とのヒートシール性が良く、シール後のイージーピール性を付与する点で、シール層は、低密度ポリエチレンとメタロセン触媒で重合したポリプロピレン系樹脂との配合が好ましく、その配合質量%は50~90:50~10が好ましく、60~80:40~20がより好ましく、70~80:30~20がさらに好ましい。
【0019】
また、本フィルムをインフレーション製膜法で作製する観点では、シール層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレート0.2~15g/10分が好ましく、0.5~10g/10分がより好ましい。融点は100~130℃であることが好ましい。
【0020】
・防曇剤
本フィルムのシール層に含まれる防曇剤は、特に制限されないが、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。中でも、非イオン性界面活性剤がポリオレフィン系樹脂との混合親和性がよく適度にブリードアウトする点で好ましい。
【0021】
防曇剤としては、例えばグリセリン脂肪エステルとして、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノウラレート等、またソルビタン脂肪エステルとして、ソルビタンウラレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート等、またポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンラウレート等、またエチレンオキサイド付加物として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリンモノステアレート等が挙げられる。防曇剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
防曇剤のシール層への配合は、フィルム製膜時に押出機に添加する方法でもよいし、フィルム製膜以前に、シール層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂または非環状ポリオレフィン系樹脂と相溶する樹脂を用いてマスターバッチを作製し、マスターバッチを押出機に添加する方法でもよい。マスターバッチの防曇剤濃度は特に限定されないが、フィルム製膜後の防曇剤成分含有量が後述の濃度であることが好ましい。
【0023】
本フィルムのシール層は、シール層の総含有率を100質量%とした場合に、防曇剤含有率は0.5~3.0質量%であることが好ましい。下限は1.0質量%以上がより好ましく、上限は2.5質量%以下がより好ましい。0.5質量%以上であると本フィルムの構成において、持続性のある防曇性を得やすい。3.0質量%以下であると、過量なブリードアウトによるフィルム製造機の汚染を防ぐことができる。
【0024】
(基層)
基層は非環状ポリオレフィン系樹脂50質量%超~60質量%未満と環状ポリオレフィン系樹脂40質量%超~50質量%未満とを含む。
【0025】
・非環状ポリオレフィン系樹脂
本フィルムの基層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂は、シール層に用いることのできる非環状ポリオレフィン系樹脂の種類の中から1種類以上を選択して用いることができる。中でもフィルム製膜性及び環状ポリオレフィン系樹脂との親和性の点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンがよい。
【0026】
また、本フィルムをインフレーション製膜法で作製する観点では、基層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレートは0.2~10g/10分が好ましく、0.5~5.0g/10分がより好ましい。融点は100~140℃が好ましい。
【0027】
・環状ポリオレフィン系樹脂
本フィルムの基層を構成する環状ポリオレフィン系樹脂は、特に制限されないが、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」ともいう。)、ノルボルネン系単量体(環状モノマー)とエチレン等のα-オレフィン(直鎖状モノマー)とを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」ともいう。)等が挙げられる。また、COP及びCOCの水素添加物や、COPとCOCの混合物も用いることができる。非環状ポリオレフィン系樹脂との分散性の点からは、COCが好ましい。
【0028】
COCとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンなどの直鎖状モノマーとテトラシクロドデセン、ノルボルネンなどの環状モノマーとから得られた環状ポリオレフィン共重合体が挙げられる。直鎖状モノマー及び環状モノマーは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。また、このような環状ポリオレフィン共重合体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
また、COCとしては、直鎖状モノマーがエチレンである、エチレン-環状ポリオレフィン共重合体であることが好ましい。さらには、環状モノマーは、ノルボルネンであることが好ましい。
【0029】
また、本発明においては、エチレン-環状ポリオレフィン共重合体は、エチレン/環状ポリオレフィンの含有割合が重量比で15~40/85~60のものであることが好ましい。より好ましくは30~40/70~60のものである。エチレンが15重量%未満であると、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適性を悪化させるため好ましくない。一方、エチレンが40重量%超であると、十分な易引裂性、剛性、バリア性が得られないため好ましくない。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性、衝撃強度が向上するため好ましい。
【0030】
環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度は、環状ポリオレフィン骨格の種類や共重合比率などにより変化し、一般に50~180℃程度であるが、本フィルムに用いる場合は、フィルムの剛性を低減しフィルム製膜時の皴発生を抑制する点から、環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度は60~120℃が好ましく、70~90℃がより好ましい。ガラス転移点が60℃未満では、例えば、防曇剤の層間移行の抑制が低下するようになる、十分な剛性が得られず、高速包装機械適性に劣る等の恐れがある。一方、ガラス転移点が120℃超では、共重合体の溶融成形性やオレフィン系樹脂との接着性が低下する恐れがあり好ましくない。
ガラス転移温度は、JIS K 7121に準じて測定できる。
【0031】
環状ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、非環状ポリオレフィン系樹脂と混合して溶融押出する観点から0.5~12g/10分が好ましく、1.0~10g/10分がより好ましい。MFRは、ISO 1133に準じて260℃、2.16kg条件で測定できる。
【0032】
本フィルムの基層における、非環状ポリオレフィン系樹脂と環状ポリオレフィン系樹脂との組成比率(質量%)は、基層の総含有率を100質量%として、(50超~60未満):(50未満~40超)が好ましく、(52以上58以下):(48以下42以上)がより好ましい。
環状ポリオレフィン系樹脂が50質量%未満であると、本フィルムに柔軟性を付与でき、インフレーション法フィルム製膜を行う場合に折れ皴が発生し難く、長時間安定してフィルム製膜を行うことができ、生産効率、経済効率に優れる。
環状ポリオレフィン系樹脂が40質量%超であると、シール層における防曇剤が基層側へ移行することを抑制でき、長期防曇性に有効である。
【0033】
(中間層)
本フィルムは、シール層と基層との間に中間層し、非環状ポリオレフィン系樹脂と防曇剤を含むことが好ましい。
【0034】
・非環状ポリオレフィン系樹脂
本フィルムの中間層を構成する非環状ポリオレフィン系樹脂は、シール層に用いることのできる非環状ポリオレフィン系樹脂の種類から1種類以上を選択して用いることができる。中でも、フィルムの製膜安定の点から、メルトフローレート0.5~6.0g/10分の低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0035】
・防曇剤
本フィルムの中間層を構成する防曇剤は、シール層を構成する防曇剤の種類から選択することができ、1種類を選択して用いてもよいし、複数種類を選択して用いてもよい。
【0036】
中間層の防曇剤の含有率は、シール層の防曇剤の含有率と同等以下であることが好ましい。また、中間層の防曇剤の含有率が、シール層の防曇剤の含有率よりも低いことがより好ましい。
中間層にも防曇剤を含有させることで、本フィルム全体の防曇剤濃度を高くでき、また、本フィルム厚み方向での防曇剤の濃度勾配が緩やかになり、シール層内の防曇剤が基層側へ移行することを抑制でき、シール層に依る防曇効果を十分に発揮しやすくなる。
具体的には、中間層の防曇剤含有率は、中間層の総含有率を100質量%とした場合に、0.5~3.0質量%が好ましい。下限は0.8質量%以上がより好ましい。上限は2.5質量%以下がより好ましく、2.3質量%以下が更に好ましく、2.0質量%以下が特に好ましい。中間層の防曇剤含有率が、シール層の防曇剤含有率よりも低い場合の両者の含有率差は、特に制限はないが、1.0質量%以内が好ましく、0.8質量%以内がより好ましい。
【0037】
(その他の成分)
本フィルムの各層は、本フィルムの特性を損ねない範囲で、他の樹脂や添加剤を含有することができる。
他の樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
添加剤としては、例えば、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、耐ブロッキング剤、加水分解防止剤、可塑剤、難燃剤などを挙げることができる。
【0038】
(層構成)
本フィルムは、少なくともシール層と基層とを有する共押出フィルムであればよく、中間層や他の樹脂層を有することができる。他の樹脂層としては、例えば、シール層、中間層、基層の層間密着性を向上させるために接着性樹脂からなる層を設けたり、フィルム強度を増大させるために基層の外側に他の樹脂層を設けたりしてもよい。
例えば、シール層/基層、シール層/中間層/基層、シール層/他の樹脂層/基層、シール層/他の樹脂層/中間層/基層、シール層/他の樹脂層/中間層/他の樹脂層/基層、シール層/基層/他の樹脂層、シール層/中間層/基層/他の樹脂層、等が挙げられる。
【0039】
シール層の厚みは、被着体と十分なシール密着性の観点から、5~50μmが好ましく、上限は30μm以下がより好ましい。
基層の厚みは、シール層の防曇剤抑制の観点から、3~20μmが好ましく、上限は10μm以下がより好ましい。基層は環状ポリオレフィン系樹脂を含有し、環状ポリオレフィン系樹脂は剛性が高いという特性を有しているので、本フィルムの総厚に対し基層の厚みの比率は30%未満が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。厚み比率の下限は、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。厚み比率が30%未満であると、インフレーションフィルム製膜におけるバブル広がり時に樹脂膜の厚みがムラなく均等となり易いため、フィルムに折り畳み皴が入り難く、生産安定性が高くなる。厚み比率が5%以上であると、シール層中の防曇剤が基層側に移行せず、シール層面の持続性のある防曇性や、基層面の良好なラミネート密着性を発現できる。
中間層の厚みは、フィルム成膜安定の観点から、10~50μmが好ましく、上限は30μm以下がより好ましい。
本フィルムの総厚は、シール適性や加工適性の観点から、20~120μmが好ましく、上限は100μm以下がより好ましく、70μm以下が更に好ましい。
【0040】
(フィルム特性)
・引張弾性率
本フィルムは、流れ方向(MD)の引張弾性率が250~400MPaであることが好ましく、より好ましくは300~400MPaである。このような物性を有することで、本フィルムをインフレーション法で作製しても、折り畳み皴の少ないフィルムを得ることができる。
【0041】
・ヒートシール性、易剥離性
本フィルムは、ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂からなる被着体に対して優れたヒートシール密着性を有することが好ましい。例えば、被着体に厚み300μmのホモポリプロピレンシートを用い、本フィルムのシール層面と対向させて、シール温度160℃、シール圧0.2MPa、シール時間1秒の条件でヒートシールした場合に、ヒートシール剥離強度5N/15mm幅以上20N/15mm幅以下であることが好ましく、下限は8N/15mm幅以上がより好ましく、上限は15N/15mm幅以下がより好ましい。5N/15mm幅以上であれば、十分な密着性が得られ、包装体の収容物の漏れ出しが起き難く、夾雑物シール性にも優れる。20N/15mm幅以下により、手で容易に剥離することができ好ましい。
ヒートシール剥離強度は、JIS Z0238:1998に基づき、ヒートシール部を中央にし、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、剥離強度(単位:N/15mm幅)を測定する。
【0042】
・防曇性
本フィルムは、防曇性に優れ、水分を含有する収容物の包装に用いても長時間防曇性を示す。また、本フィルムをロール状にて常温条件で保管しても、防曇性の低下が起き難い。さらには、高温長期間保管しても、防曇性の低下が起き難いことが好ましい。
防曇性の評価は、水を入れたポリプロピレン製容器の縁に、本フィルムのシール層側を対向させてヒートシールで密封し、冷蔵環境下で経過観察して行う。
【0043】
・透明性
本フィルムの透明性は、収容物の視認性、包装体の美観性、意匠性等の観点から、ヘーズ15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、下限は特に限定されず、値がより小さいと透明性が良好であり好ましい。
ヘーズは、JIS K7136:2000に準拠した測定法で、基層側にセロハンテープ等を貼着して表面を平らにした状態で測定する。
【0044】
<共押出フィルム製造方法>
本フィルムの製造方法は、特に制限されず、公知のTダイ法やインフレーション法などにより製造することができる。なお、本フィルムは、各層の主成分が非環状ポリオレフィン系樹脂であり、剛性のある環状ポリオレフィン系樹脂を含有する基層の厚みの比率をフィルム総厚の30%未満にすることで、また、さらに、好ましくはフィルムの流れ方向(MD)の引張弾性率を250~400MPaに制御することで、空冷インフレーション法で製膜しても折り畳み皴が発生し難く、効率よく安定して生産することができる。また、インフレーション法はTダイ法に比べ、樹脂の結晶化度が高くなってフィルム弾性率が高くなり、ラミネート加工適性が向上する。
共押出フィルムを製造する方法は、特に限定されないが、公知のフィードブロック方式、マルチマニホールド方式、或いはそれらの組み合わせた方法を用いることができる。
本フィルムは、無延伸でもよく、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸を施してもよい。また、本フィルムは、必要に応じてコロナ処理、印刷、コーティング、蒸着などの表面処理や表面加工を行うこともできる。
【0045】
<積層フィルム、包装体(共押出フィルムの用途)>
本フィルムは、フィルム単体で用いてもよいし、基層側に熱可塑性樹脂からなるフィルム、紙類などの他の材の層を設け積層体として用いることもできる。積層法は、公知の方法を用いることができ、例えば、熱ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法が挙げられる。
積層フィルムの強度の点から、ドライラミネートする熱可塑性樹脂からなるフィルムは延伸フィルムであることが好ましく、ドライラミネートの際は、本フィルムのMD方向と熱可塑性樹脂からなるフィルムのMD方向とをそろえて、ラミネートすることが生産効率の点から好ましい。例えば、本フィルムの基層側と二軸延伸ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなるフィルムとを2液硬化型接着剤を用いてドライラミネートした積層フィルム等が挙げられる。
【0046】
本フィルム、および、上記積層フィルムを用いた包装体としては、用途や形状は特に制限されないが、本フィルムは、良好なヒートシール性を有するので、袋体や、カップやトレー等の底材に対する蓋材として用い、包装体を形成することができる。また、長期防曇性を有するので、水分を有する収容物の包装体用に有用である。
【実施例】
【0047】
以下の実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等によって制限を受けるものではない。
下記の原材料と方法によりフィルムを作製し、また試験、評価を行い、結果を表1に纏めた。
なお、使用した樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210:2014に準拠し、試験温度190℃、試験荷重2.16kgの条件で測定した。密度の測定は、JIS K7112:1999に準拠して測定した。融点、ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定した。
【0048】
(非環状ポリオレフィン系樹脂)
PO1:メタロセン触媒で製造したポリプロピレン(MFR9.5g/10分)
PO2;低密度ポリエチレン(MFR2.0g/10分、融点112℃)
PO3;低密度ポリエチレン(MFR2.8g/10分、融点113℃)
PO4;メタロセン触媒で製造した線状低密度ポリエチレン(MFR1.9g/10分、融点122℃)
PO5;低密度ポリエチレン(MFR2.2g/10分、融点111℃)
PO6;メタロセン触媒で製造した線状低密度ポリエチレン(MFR0.8g/10分、融点124℃)
【0049】
(環状ポリオレフィン系樹脂)
COC1;エチレンを共重合したノルボルネン共重合体(MFR5.5g/10分、ガラス転移温度78℃)
【0050】
(防曇剤マスターバッチ)
AF1; 竹本油脂株式会社製エレカットマスタ―LE870(防曇剤含有率15質量%の線状低密度ポリエチレン樹脂マスターバッチ)
【0051】
<実施例1~5、比較例1~4>
上記原材料を用い、表1に示した配合で、各層用の各押出機に供給し、空冷インフレーション共押出法により押出温度180℃の条件でフィルム製膜した。
実施例1~5及び比較例1~3では、シール層15μm厚/中間層10μm厚/基層5μm厚の層構成の共押出フィルムを得た。
比較例4では、シール層15μm厚/基層10μm厚/他の樹脂層5μm厚の層構成の共押出フィルムを得た。
次いで、共押出フィルムの基層表面をコロナ放電処理し、2液硬化型エーテル系ポリウレタン接着剤を用いて、12μm厚の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムをドライラミネートし、37℃48時間エージングを行い、「積層フィルムA」を得た。なお、共押出フィルムの流れ方向(MD)と、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの流れ方向(MD)とを合わせてドライラミネートした。
また経時促進試験として、実施例および比較例で得られた共押出フィルムを、ロール形態、温度45℃の条件で3ヶ月保管した後に、上記と同様の材料と方法でドライラミネートおよびエージングを行い、「積層フィルムB」を得た。
下記の評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0052】
<評価方法>
(1)フィルム製膜性
空冷インフレーション共押出法で製膜した実施例および比較例の共押出フィルムについて、長さ4000mあたりの折れ畳皴の入った回数を計測し、次の基準で評価した。
○:1回未満
×:1回以上
【0053】
(2)引張弾性率
実施例および比較例で得られた共押出フィルムについて、株式会社オリエンテック製引張試験機にてJIS K7161:2014に記載された方法で、流れ方向(MD)の引張弾性率(ヤング率)を測定し、次の基準で評価した。
〇:250~400MPa
×:400MPa超
【0054】
(3)透明性
実施例および比較例で得られた共押出フィルムについて、JIS K7136:2000に準拠した測定法で、基層側にセロハンテープ等を貼着して表面を平らにした状態でヘーズを測定し、次の基準で評価した。
○:15%未満
×:15%以上
【0055】
(4)防曇性
口径7.1mm、高さ5.3mmの円筒形ポリプロピレン製容器に水10mLを入れ、蓋材として実施例および比較例で得られた積層フィルムAと積層フィルムBを用い、そのシール層側を容器の口部に向けてヒートシールして密封し、設定温度5℃以下の冷蔵庫で3日間保管して積層フィルムの曇り具合を観察した。
積層フィルムAの評価を「短期防曇性」、経時促進試験を施した積層フィルムBの評価を「長期防曇性」として評価した。
◎:フィルム表面に水膜が形成されており、視認性良好
○:フィルム表面に大きな水滴があるが、視認性良好
△:フィルム表面の一部に細かい水滴があるが、視認性良好
×:フィルム全面が水滴に覆われ、視認性不良
【0056】
(5)ヒートシール性、易剥離性
実施例および比較例で得られた積層フィルムAのシール層面を、被着体の300μm厚のホモポリプロピレンシートに対向させて重ね、その一端をヒートシール機を用いてシール幅5mm、シール温度160℃、シール圧0.2MPa、シール時間1秒の条件でヒートシールした。
その後、積層フィルムの流れ方向(MD)に長さ50mm、水平方向(TD)に幅15mmの形状の短冊片に切り出し、JIS Z0238:1998に準拠して、ヒートシール部を中央にして積層フィルムと被着体のそれぞれの端を引張試験機の掴み具に取り付け、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で、短冊片の長さ方向、即ち共押出フィルムの流れ方向(MD)に剥離又は破断するまで引張り、測定された最大応力を剥離強度(単位:N/15mm幅)として測定し、次の基準でヒートシール性、易剥離性を評価した。
○:5~20N/15mm
×:5N/15mm未満
【0057】
(6)ラミネート接着性
実施例および比較例で得られた積層フィルムAについて、積層フィルムを構成する共押出フィルムと二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの間を剥離確度180度、剥離速度300mm/分の条件で剥離試験した際の状態について、次の基準で評価した。
○:強固に接着しており、フィルムが材破する
×:容易に剥離する
【0058】
【0059】
実施例1~5は、シール層に配合した防曇剤の効果が持続され長期防曇性が良好であり(△~◎)、またラミネート接着性も良く、環状ポリオレフィン系樹脂を適量含む基層により防曇剤の基層表面への移行が抑制された効果であると考えられる。また、インフレーション法によるフィルム製膜も安定して行われた。
なかでも、シール層の防曇剤含有率が中間層の防曇剤含有よりも高い実施例1、2では、より長期防曇性に優れていた(◎)。
また、シール層を構成するポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の合計を100質量%として、両者の比が70~80:30~20の範囲である実施例1~4は、ポリプロピレン製被着体とのヒートシール性及びシール後の易剥離性を良好に兼備できた。
【0060】
比較例1~2は、防曇性もラミネート接着性も不十分であり、基層に環状ポリオレフィン系樹脂を含まない、または環状ポリオレフィン系樹脂の含有率が低いために、防曇剤が共押出フィルム外(基層表面)に移行したものと考えられる。
比較例3は、基層の環状ポリオレフィン系樹脂含有率が高く、フィルムの引張弾性率が増大し、インフレーションフィルム製膜時に折れ皴が入ってしまった。
比較例4は、環状ポリオレフィン系樹脂を含む基層の厚みが、フィルム総厚に対して30%以上の比率であるため、インフレーションフィルム製膜時のバブルの厚みムラが発生し、安定したフィルム製造ができず、折り畳み皺が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のフィルムは、持続性の高い防曇性と十分なラミネート接着強度を有するので、食品などの水分を含む内容物を収容する包装体に用いるシーラントフィルムとして利用性が高く、また、その防曇性によって内容物の視認性も良いので、内容物の保管管理に有効である。さらに、インフレーション法フィルム製膜を長時間安定して行うことができるので生産効率、経済効率の面でも有益である。