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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】アンテナ装置、レーダ装置及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/22 20060101AFI20231208BHJP
   H01Q 3/32 20060101ALI20231208BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H01Q13/22
H01Q3/32
H01Q21/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020057043
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158533
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 成洋
(72)【発明者】
【氏名】深沢 徹
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/042508(WO,A1)
【文献】特開平04-330806(JP,A)
【文献】特開2015-167339(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/18
H01Q 3/00- 3/44
H01Q 13/00- 13/28
H01Q 21/00- 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導波管と、
前記第1の導波管における1つの管壁に直線状に配置されており、前記第1の導波管を伝搬している電磁波の一部を空間に放射する複数の放射部と、
前記第1の導波管に挿入されている複数の第2の導波管とを備え、
それぞれの前記第2の導波管は、
前記第1の導波管と接続されている第1の開口部と、前記第1の導波管と接続されている第2の開口部と、前記第1の導波管を伝搬している電磁波が、前記第1の開口部から取り込まれると、当該電磁波を、前記第1の導波管における電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、前記第2の開口部まで伝搬させる電磁波伝搬部とを有しており、
それぞれの前記第2の導波管が有する複数の管壁のうち、前記第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁に施されている複数のスリットと、
前記複数のスリットに挿入される誘電体板と、
前記複数のスリットに対する前記誘電体板の挿入量を調整する単一のアクチュエータとを備えていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の導波管に対して、前記複数の第2の導波管のそれぞれが挿入される位置は、前記複数の放射部が配置されているそれぞれの位置の間であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記スリットの長手方向は、前記第1の導波管の管軸方向と平行な方向であり、前記スリットの深さ方向は、前記第1の導波管の管高方向と平行な方向であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁のほか、前記第2の導波管が有する側壁としての複数の管壁のうち、前記第1の導波管の管軸方向と直交する面を有する管壁に施されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1の導波管の管軸方向と直交する面を有する管壁に施されている前記スリットの位置は、前記複数の第2の導波管が有する側壁としての複数の管壁のうち、前記第1の導波管の管軸方向と平行な方向の面を有する2つの管壁から、等距離の位置であることを特徴とする請求項4記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数のスリットに対する前記誘電体板の挿入量が同一の挿入量であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記第2の導波管が有する前記電磁波伝搬部は、
前記第1の開口部と一方の管路端が接続されている第1の矩形導波管と、
前記第1の矩形導波管と平行に配置されており、前記第2の開口部と一方の管路端が接続されている第2の矩形導波管と、
前記第1の矩形導波管の他方の管路端と一方の管路端が接続され、前記第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁によって、他方の管路端が塞がれている第3の矩形導波管と、
前記第3の矩形導波管と平行に配置されており、前記第2の矩形導波管の他方の管路端と一方の管路端が接続され、前記第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁によって、他方の管路端が塞がれている第4の矩形導波管と、
前記第1の矩形導波管における複数の管壁のうち、前記第2の矩形導波管と向かい合っている管壁に設けられている第3の開口部と、前記第2の矩形導波管における複数の管壁のうち、前記第1の矩形導波管と向かい合っている管壁に設けられている第4の開口部とを接続する第5の矩形導波管とを備え、
前記第1の開口部から取り込まれたのち、前記第3の矩形導波管における他方の管路端によって反射されて、前記第1の開口部まで伝搬された電磁波の位相と、前記第1の開口部から取り込まれたのち、前記第4の矩形導波管における他方の管路端によって反射されて、前記第1の開口部まで伝搬された電磁波の位相とが逆位相であり、
前記第1の開口部から取り込まれたのち、前記第3の矩形導波管における他方の管路端によって反射されて、前記第2の開口部まで伝搬された電磁波の位相と、前記第1の開口部から取り込まれたのち、前記第4の矩形導波管における他方の管路端によって反射されて、前記第2の開口部まで伝搬された電磁波の位相とが同位相であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記第2の導波管が有する前記電磁波伝搬部は、
前記第1の開口部と一方の管路端が接続されている第1の矩形導波管と、
前記第1の矩形導波管と平行に配置されており、前記第2の開口部と一方の管路端が接続されている第2の矩形導波管と、
第3の開口部及び第4の開口部を有しており、
前記第1の矩形導波管の他方の管路端と前記第3の開口部が接続され、前記第2の矩形導波管の他方の管路端と前記第4の開口部が接続され、前記第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁を有する第3の矩形導波管とを備えていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記放射部は、
前記第1の導波管における1つの管壁に施されている貫通孔に挿入されており、先端が前記第1の導波管の管内に位置し、基端が前記第1の導波管の外部に位置している給電プローブと、
前記給電プローブの基端と接続されている放射素子とを備えていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記放射部は、
前記第1の導波管における1つの管壁に施されている貫通孔を介して、前記第1の導波管から給電される放射素子を備えていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記放射部は、
前記第1の導波管における1つの管壁に施されている線状の開口であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置を複数備え、
前記複数のアンテナ装置におけるそれぞれの前記第1の導波管の管軸方向が互いに平行であることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項13】
請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置を備えていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項14】
請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置を備えていることを特徴とする通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の放射部を備えるアンテナ装置と、アンテナ装置を備えるレーダ装置及び通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置に実装されるアンテナ装置、又は、通信装置に実装されるアンテナ装置は、一般的に、電磁波の放射方向を切り替えることが可能なアンテナ装置である。以下の特許文献1には、電磁波の放射方向を切り替えることが可能なアンテナ装置が開示されている。
特許文献1に開示されているアンテナ装置は、導波管を備えている。当該導波管における一つの管壁には、複数の放射部が配置されている。
当該導波管は、一つの管壁と対向する管壁の内側に配置されている複数の溝と、それぞれの溝における4つの内壁同士を互いに電気的に短絡する複数の可動短絡面と、それぞれの可動短絡面の位置を変更する複数の可動短絡面制御機構とを有している。可動短絡面制御機構は、アクチュエータ等によって実現されている。それぞれの可動短絡面の位置がそれぞれの可動短絡面制御機構によって変更されることにより、電磁波の放射方向が切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2018-042508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているアンテナ装置では、それぞれの可動短絡面に可動短絡面制御機構がそれぞれ設けられている。したがって、可動短絡面の数分だけ、可動短絡面制御機構として、アクチュエータ等を実装する必要があるという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、複数のアクチュエータを備えることなく、電磁波の放射方向を切り替えることができるアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るアンテナ装置は、第1の導波管と、第1の導波管における1つの管壁に直線状に配置されており、第1の導波管を伝搬している電磁波の一部を空間に放射する複数の放射部と、第1の導波管に挿入されている複数の第2の導波管とを備え、それぞれの第2の導波管は、第1の導波管と接続されている第1の開口部と、第1の導波管と接続されている第2の開口部と、第1の導波管を伝搬している電磁波が、第1の開口部から取り込まれると、当該電磁波を、第1の導波管における電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、第2の開口部まで伝搬させる電磁波伝搬部とを有している。また、本開示に係るアンテナ装置は、それぞれの第2の導波管が有する複数の管壁のうち、第1の開口部から取り込まれた電磁波が突き当たる管壁に施されている複数のスリットと、複数のスリットに挿入される誘電体板と、複数のスリットに対する誘電体板の挿入量を調整する単一のアクチュエータとを備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数のアクチュエータを備えることなく、電磁波の放射方向を切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
図2図1に示すアンテナ装置のA-A断面図である。
図3図2に示すアンテナ装置における放射部1を示す断面図である。
図4図2に示すアンテナ装置における第2の導波管7を示す断面図である。
図5図5Aは、放射部1が、線状の開口21である例を示す斜視図、図5Bは、放射部1が、線状の開口22である例を示す斜視図である。
図6】複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
図7】複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
図8】実施の形態2に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
図9図8に示すアンテナ装置のA-A断面図である。
図10】複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
図11】複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
図12】実施の形態3に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
図13図1に示すアンテナ装置を備えるレーダ装置を示す構成図である。
図14図1に示すアンテナ装置を備える通信装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
図2は、図1に示すアンテナ装置のA-A断面図である。
図3は、図2に示すアンテナ装置における放射部1を示す断面図である。
図4は、図2に示すアンテナ装置における第2の導波管7を示す断面図である。
アンテナ装置は、3次元空間に配置されており、図中、xは、3次元空間のx軸を示し、yは、3次元空間のy軸を示し、zは、3次元空間のz軸を示している。
図2から図4の断面図では、図面の煩雑化を避けるため、断面を示す斜線の記載を省略している。
【0011】
放射部1は、給電プローブ2及び放射素子3を備えている素子アンテナである。
放射部1は、後述する第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射する。電磁波は、例えば、高周波信号である。
図1及び図2に示すアンテナ装置は、5つの放射部1を備えている。しかし、アンテナ装置が備える放射部1の数は、2つ以上であればよく、5つに限るものではない。
給電プローブ2は、第1の導波管4が有している1つの管壁5に施されている貫通孔6に挿入されている導体である。
給電プローブ2の先端は、第1の導波管4の管内に位置し、給電プローブ2の基端は、第1の導波管4の外部に位置している。
【0012】
放射素子3は、給電プローブ2の基端と接続されており、給電プローブ2と結合している電磁波を空間に放射する。
放射素子3としては、パッチアンテナ、モノポールアンテナ、ヘリカルアンテナ、又は、カールアンテナ等を用いることができる。図1から図3に示すアンテナ装置では、放射素子3が、円形のパッチアンテナである例を示している。
図1から図3に示すアンテナ装置では、放射素子3が、給電プローブ2を介して、第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射している。しかし、これは一例に過ぎず、放射素子3が、第1の導波管4を伝搬している電磁波と、貫通孔6を介して結合し、結合した電磁波を空間に放射するようにしてもよい。この場合、放射部1は、給電プローブ2を備える必要がない。
【0013】
第1の導波管4は、開口部4aから取り込まれた電磁波を伝搬する矩形導波管である。
開口部4aは、外部から電磁波を取り込むための第1の導波管4の開口部である。
第1の導波管4の管軸方向は、x軸と平行な方向であり、第1の導波管4の管幅方向は、y軸と平行な方向であり、第1の導波管4の管高方向は、z軸と平行な方向である。
第1の導波管4において、開口部4aと対向している第1の導波管4の端部4bは、管壁によって塞がれている。
第1の導波管4は、複数の管壁を有しており、複数の管壁のうち、管壁5には、複数の放射部1が直線状に配置されている。
図1及び図2に示すアンテナ装置では、複数の放射部1が等間隔に配置されている。また、複数の放射部1におけるそれぞれの放射素子3の中心部の位置が、第1の導波管4における管幅方向の中心位置と一致している。
貫通孔6は、給電プローブ2を通すために、管壁5に施されている孔である。
【0014】
第2の導波管7は、第1の導波管4に挿入されている導波管である。
図1及び図2に示すアンテナ装置では、4つの第2の導波管7が、第1の導波管4に挿入されている。
図4において、斜線が施されている箇所が、第2の導波管7の管路挿入部7cであり、管路挿入部7cが、第1の導波管4に挿入されている。
複数の第2の導波管7におけるそれぞれの管路挿入部7cが第1の導波管4に挿入されている位置は、複数の放射部1が配置されているそれぞれの位置の間である。
【0015】
第2の導波管7は、第1の導波管4と接続されている第1の開口部7aと、第1の導波管4と接続されている第2の開口部7bとを有している。
また、第2の導波管7は、第1の導波管4を伝搬している電磁波が、第1の開口部7aから取り込まれると、当該電磁波を、第1の導波管4による電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、第2の開口部7bまで伝搬させる電磁波伝搬部とを有している。
第2の導波管7の電磁波伝搬部は、第1の矩形導波管8、第2の矩形導波管9、第3の矩形導波管10、第4の矩形導波管11及び第5の矩形導波管12を備えている。
【0016】
第1の矩形導波管8の一方の管路端は、第1の開口部7aであり、第1の矩形導波管8の他方の管路端は、第3の矩形導波管10の一方の管路端と接続されている。
第3の開口部8aは、第1の矩形導波管8における複数の管壁のうち、第2の矩形導波管9と向かい合っている管壁に設けられている。
第2の矩形導波管9は、第1の矩形導波管8と平行に配置されている。
第2の矩形導波管9の一方の管路端は、第2の開口部7bであり、第2の矩形導波管9の他方の管路端は、第4の矩形導波管11の一方の管路端と接続されている。
第4の開口部9aは、第2の矩形導波管9における複数の管壁のうち、第1の矩形導波管8と向かい合っている管壁に設けられている。
【0017】
第3の矩形導波管10の一方の管路端は、第1の矩形導波管8の他方の管路端と接続され、第3の矩形導波管10の他方の管路端は、第1の開口部7aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁7dによって塞がれている。
第4の矩形導波管11は、第3の矩形導波管10と平行に配置されている。
第4の矩形導波管11の一方の管路端は、第2の矩形導波管9の他方の管路端と接続され、第4の矩形導波管11の他方の管路端は、第1の開口部7aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁7eによって塞がれている。
【0018】
第5の矩形導波管12は、第3の開口部8aと、第4の開口部9aとを接続している導波管である。
第1の矩形導波管8、第2の矩形導波管9及び第5の矩形導波管12は、導波管型の90度ハイブリッド回路に相当する。したがって、第2の矩形導波管9から第4の矩形導波管11に出力される電磁波の位相は、第1の矩形導波管8から第3の矩形導波管10に出力される電磁波の位相よりも90度の遅れを生じる。
図1図2及び図4に示すアンテナ装置では、第2の導波管7が、2つの第5の矩形導波管12を備えている。しかし、これは一例に過ぎず、第2の導波管7は、1つ以上の第5の矩形導波管12を備えていればよく、2つの第5の矩形導波管12を備えるものに限るものではない。
【0019】
スリット13は、4つの第2の導波管7のそれぞれが有している複数の管壁のうち、第1の開口部7aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁7d,7eのそれぞれに施されている。
スリット13の長手方向は、第1の導波管4の管軸方向と平行な方向であり、スリット13の深さ方向は、第1の導波管4の管高方向と平行な方向である。
図1に示すアンテナ装置では、スリット13が、管壁7d,7eに施されているほか、第2の導波管7が有する側壁としての複数の管壁のうち、第1の導波管4の管軸方向と直交する面を有する管壁7f,7gにも施されている。
管壁7f,7gに施されているスリット13の位置は、第2の導波管が有する側壁としての複数の管壁のうち、第1の導波管4の管軸方向と平行な方向の面を有する2つの管壁7h,7iから、等距離の位置である。このため、管壁7f,7gから、電磁波の漏洩をほとんど生じない。
スリット13の位置は、2つの管壁7h,7iから、厳密に等距離の位置であるものに限るものではなく、管壁7f,7gから電磁波の漏洩がほとんど生じない等の実用上問題のない範囲内で、管壁7hからの距離と、管壁7iからの距離とが異なっていてもよい。
【0020】
図1及び図2に示すアンテナ装置では、後述する誘電体板14が平板であり、平板が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。したがって、第2の導波管7の管壁7d,7eのほかに、管壁7f,7gにもスリット13が施されていなければ、誘電体板14をスリット13に挿入することができない。
詳細は後述するが、誘電体板14の形状によっては、第2の導波管7の管壁7d,7eにスリット13が施されていれば、管壁7f,7gにスリット13が施されていなくても、誘電体板14をスリット13に挿入することができる。
【0021】
誘電体板14は、例えば、樹脂製の平板によって実現される。誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。
誘電体板14は、4つの第2の導波管7のそれぞれに施されているスリット13に挿入される。
アクチュエータ15は、油圧装置、又は、電動モータ等によって実現される単一のアクチュエータである。
アクチュエータ15は、誘電体板14をz軸と平行な方向に動かすことによって、4つのスリット13に対する誘電体板14の挿入量を調整する。
アクチュエータ制御装置16は、例えば、半導体集積回路、ワンチップマイコン、又は、コンピュータによって実現される。
アクチュエータ制御装置16は、図13に示すレーダ装置、又は、図14に示す通信装置から、電磁波の放射方向を示す制御信号を受けると、制御信号に従ってアクチュエータ15による誘電体板14の挿入量を制御する。
図13は、図1に示すアンテナ装置を備えるレーダ装置を示す構成図であり、図14は、図1に示すアンテナ装置を備える通信装置を示す構成図である。
【0022】
次に、図1に示すアンテナ装置の動作について説明する。
第1の導波管4の開口部4aから取り込まれた高周波信号である電磁波は、第1の導波管4の内部を端部4bに向かって伝搬する。
第1の導波管4の内部を伝搬している電磁波の一部は、放射部1の給電プローブ2と結合する。給電プローブ2と結合した電磁波は、放射素子3から空間に放射される。
第1の導波管4の内部を伝搬している電磁波のうち、給電プローブ2と結合していない電磁波は、第1の開口部7aから第2の導波管7に取り込まれる。
【0023】
第2の導波管7に取り込まれた電磁波の一部は、第1の矩形導波管8及び第3の矩形導波管10のそれぞれを伝搬して、管壁7dに到達する。
また、第2の導波管7に取り込まれた電磁波の一部は、第1の矩形導波管8、第5の矩形導波管12、第2の矩形導波管9及び第4の矩形導波管11のそれぞれを伝搬して、管壁7eに到達する。
管壁7eに到達した電磁波は、第5の矩形導波管12を通過するため、90度の位相の遅れを生じる。このため、管壁7eに到達した電磁波の位相は、管壁7dに到達した電磁波の位相よりも90度遅れている。
【0024】
管壁7dに到達した電磁波は、管壁7dによって反射される。
管壁7dによって反射された電磁波の一部は、第3の矩形導波管10及び第1の矩形導波管8のそれぞれを伝搬して、第1の開口部7aに到達する。
管壁7eに到達した電磁波は、管壁7eによって反射される。
管壁7eによって反射された電磁波の一部は、第4の矩形導波管11、第2の矩形導波管9、第5の矩形導波管12及び第1の矩形導波管8のそれぞれを伝搬して、第1の開口部7aに到達する。
第1の開口部7aに到達した電磁波のうち、管壁7eによって反射されてきた電磁波は、第5の矩形導波管12を通過するため、90度の位相の遅れを生じる。このため、第1の開口部7aに到達した電磁波のうち、管壁7eによって反射されてきた電磁波の位相は、管壁7dによって反射されてきた電磁波の位相よりも180度遅れている。したがって、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、逆位相である。また、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、同一振幅である。
以上より、第1の開口部7aにおいて、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、互いにキャンセルされるため、第1の開口部7aから第1の導波管4に電磁波が出力されない。
【0025】
管壁7dによって反射された電磁波の残りは、第3の矩形導波管10、第1の矩形導波管8、第5の矩形導波管12及び第2の矩形導波管9のそれぞれを伝搬して、第2の開口部7bに到達する。
管壁7eによって反射された電磁波の残りは、第4の矩形導波管11及び第2の矩形導波管9のそれぞれを伝搬して、第2の開口部7bに到達する。
第2の開口部7bに到達した電磁波のうち、管壁7dによって反射されてきた電磁波は、第5の矩形導波管12を通過するため、90度の位相の遅れを生じる。このため、第2の開口部7bに到達した電磁波のうち、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、同位相となる。また、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、同一振幅である。
以上より、第2の開口部7bにおいて、管壁7dによって反射されてきた電磁波と、管壁7eによって反射されてきた電磁波とは、互いに合成される。合成後の電磁波は、第2の開口部7bから第1の導波管4に出力される。
【0026】
第2の開口部7bから第1の導波管4に出力される合成後の電磁波の位相は、管壁7dによる反射後の電磁波及び管壁7eによる反射後の電磁波におけるそれぞれの位相に依存している。
誘電体板14がスリット13に挿入された場合、誘電体板14の波長短縮効果によって、管壁7dによって反射される電磁波の位相及び管壁7eによって反射される電磁波の位相がそれぞれ変化する。
それぞれの位相の変化量は、スリット13に対する誘電体板14の挿入量によって変わる。
図1及び図2に示すアンテナ装置では、誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。このため、管壁7dに施されたスリット13に対する誘電体板14の挿入量と、管壁7eに施されたスリット13に対する誘電体板14の挿入量とは、同一の挿入量である。したがって、管壁7dによって反射される電磁波の位相の変化量と、管壁7eによって反射される電磁波の位相の変化量とは、同一の変化量であり、管壁7dによる反射後の電磁波と、管壁7eによる反射後の電磁波との位相差が90度に保たれる。
【0027】
図1及び図4に示すアンテナ装置では、第1の導波管4の管壁7d,7eのほかに、管壁7f,7gにもスリット13が施されており、管壁7f,7gに施されているスリット13から電磁波が漏洩することが懸念される。しかし、図1に示すアンテナ装置では、管壁7f,7gに施されているスリット13の位置が、2つの管壁7h,7iから、等距離の位置であるため、電磁波の漏洩を生じることは、ほとんどない。
【0028】
図1及び図2に示すアンテナ装置では、4つの第2の導波管7が第1の導波管4に挿入されており、4つの第2の導波管7におけるそれぞれのスリット13に対する誘電体板14の挿入量が同一である。
第1の導波管4の開口部4aから取り込まれる電磁波の位相がθであり、それぞれのスリット13に誘電体板14が挿入されることによる電磁波の位相量がθである場合を想定する。
この場合、4つの第2の導波管7のうち、開口部4aを起点として、1番目の第2の導波管7の第2の開口部7bから出力される電磁波の位相は、θ+θである。
4つの第2の導波管7のうち、開口部4aを起点として、2番目の第2の導波管7の第2の開口部7bから出力される電磁波の位相は、θ+2θである。
4つの第2の導波管7のうち、開口部4aを起点として、3番目の第2の導波管7の第2の開口部7bから出力される電磁波の位相は、θ+3θである。
4つの第2の導波管7のうち、開口部4aを起点として、4番目の第2の導波管7の第2の開口部7bから出力される電磁波の位相は、θ+4θである。
【0029】
したがって、4つの第2の導波管7のうち、隣り合っている第2の導波管7におけるそれぞれの第2の開口部7bから出力される電磁波の位相差は、全てθである。
電磁波の位相差の全てがθであることは、等間隔に放射素子3が配列されているアンテナ装置において、所定の方向にビーム走査するために必要な位相差と対応している。したがって、アクチュエータ15が、スリット13に対する誘電体板14の挿入量を調整することによって、電磁波の位相量θを制御すれば、複数の放射素子3から放射される電磁波の放射方向を切り替えることができる。
【0030】
第1の導波管4に対して、4つの第2の導波管7のそれぞれが挿入される位置は、5つの放射部1が配置されているそれぞれの位置の間である。したがって、第2の導波管7に対する誘電体板14の挿入位置から給電プローブ2までの距離が、特許文献1に記載の可動短絡面から放射部までの距離と比べて長い。このため、第2の導波管7に挿入された誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合する確率が、特許文献1に記載の可動短絡面と放射部とが電磁結合する確率よりも低減される。第2の導波管7に挿入された誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合する確率が低減されることによって、誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合することによるビームの放射特性の劣化が低減される。
【0031】
アクチュエータ制御装置16は、図13に示すレーダ装置、又は、図14に示す通信装置から、電磁波の放射方向を示す制御信号を受けると、制御信号に従ってアクチュエータ15による誘電体板14の挿入量を制御する。
以下、アクチュエータ制御装置16による挿入量の制御を具体的に説明する。
【0032】
電磁波の放射方向と誘電体板14の挿入量との対応関係を示すテーブルが、アクチュエータ制御装置16の内部メモリに格納されている。
アクチュエータ制御装置16は、テーブルを参照して、制御信号が示す放射方向に対応する誘電体板14の挿入量を取得する。
アクチュエータ制御装置16は、アクチュエータ15による誘電体板14の挿入量が、取得した挿入量と一致するように、アクチュエータ15を制御する。
ここでは、アクチュエータ制御装置16が、テーブルを参照して、制御信号が示す放射方向に対応する誘電体板14の挿入量を取得している。しかし、これは一例に過ぎず、アクチュエータ制御装置16は、電磁波の放射方向と誘電体板14の挿入量との対応関係を示す数式を記憶し、電磁波の放射方向を数式に代入することによって、誘電体板14の挿入量を算出するようにしてもよい。
【0033】
アクチュエータ15は、アクチュエータ制御装置16の制御によって、誘電体板14をz軸と平行な方向に動かすように作用する。アクチュエータ15が誘電体板14をz軸と平行な方向に動かすことによって、4つのスリット13に対する誘電体板14の挿入量が同時に調整される。
特許文献1に開示されているアンテナ装置では、それぞれの可動短絡面制御機構が、それぞれの可動短絡面の位置を個別に変更するため、電磁波の放射方向の切り替えを行うことができるほかに、任意の方向にヌルが形成されているビームを放射することができる。
実施の形態1に係るアンテナ装置では、後述する図6のように、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合、任意の方向にヌルが形成されているビームを放射できることもある。しかし、実施の形態1に係るアンテナ装置では、任意の方向にヌルが形成されているビームを放射する必要性がなく、電磁波の放射方向を切り替えることができればよいため、4つのスリット13に対する誘電体板14の挿入量を個別に調整する必要がない。
【0034】
以上の実施の形態1では、アンテナ装置が、第1の導波管4と、第1の導波管4における1つの管壁5に直線状に配置されており、第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射する複数の放射部1と、第1の導波管4に挿入されている複数の第2の導波管7とを備えている。それぞれの第2の導波管7は、第1の導波管4と接続されている第1の開口部7aと、第1の導波管4と接続されている第2の開口部5bと、第1の導波管4を伝搬している電磁波が、第1の開口部7aから取り込まれると、当該電磁波を、第1の導波管4における電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、第2の開口部7bまで伝搬させる電磁波伝搬部とを有している。
また、アンテナ装置が、それぞれの第2の導波管7が有する複数の管壁のうち、第1の開口部7aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁7d,7eに施されている複数のスリット13と、複数のスリット13に挿入される誘電体板14と、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量を調整する単一のアクチュエータ15とを備えている。したがって、実施の形態1に係るアンテナ装置は、複数のアクチュエータを備えることなく、電磁波の放射方向を切り替えることができる。
【0035】
実施の形態1では、電波を放射する送信アンテナとして動作するアンテナ装置を説明している。しかし、図1に示すアンテナ装置は、電波を受信する受信アンテナとして動作することができる。送信アンテナとしての動作と、受信アンテナとしての動作とは、可逆的である。
【0036】
図1図2及び図3に示すアンテナ装置では、放射部1が、給電プローブ2及び放射素子3を備えている。しかし、これは一例に過ぎず、放射部1が、図5A及び図5Bに示すように、第1の導波管4の管壁5に施されている線状の開口21,22であってもよい。
線状の開口21,22は、第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射させることができるため、線状の開口21,22は、図3に示す放射素子3と同様に動作する。
図5Aは、放射部1が、線状の開口21である例を示す斜視図であり、図5Bは、放射部1が、線状の開口22である例を示す斜視図である。
【0037】
図1及び図2に示すアンテナ装置では、誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形であり、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量が、同一の挿入量である。しかし、これは一例に過ぎず、図6に示すように、z-x平面と平行な平面のうち、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化しているために、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量が、互いに異なる挿入量になっていてもよい。複数のスリット13に挿入される端辺は、x軸と平行な2つの端辺うち、第1の導波管4に近い方の端辺である。
図6は、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合、4つの第2の導波管7のうち、隣り合っている第2の導波管7におけるそれぞれの第2の開口部7bから出力される電磁波の位相差は、全てθになるとは限らない。このため、複数の放射素子3から放射されるビームの形状は、電磁波の位相差の全てがθである場合に形成されるビームの形状と異なる。
複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合、ステップ状の変化量によっては、複数の放射素子3から、任意の方向にヌルが形成されているビームを放射できることがある。
【0038】
図1及び図2に示すアンテナ装置では、誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。しかし、これは一例に過ぎず、図7に示すように、z-x平面と平行な平面のうち、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、例えば、台形の山が連なっている形状であってもよい。誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合、第2の導波管7の管壁7d,7eにスリット13が施されていれば、管壁7f,7gにスリット13が施されていなくても、誘電体板14をスリット13に挿入することができる。
図7は、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
なお、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状は、台形の山が連なっている形状であるものに限るものではなく、例えば、三角形の山が連なっている形状であってもよい。
【0039】
実施の形態2.
実施の形態2では、第2の導波管30が、第1の矩形導波管31と、第2の矩形導波管32と、第3の矩形導波管33とを備えているアンテナ装置について説明する。
【0040】
図8は、実施の形態2に係るアンテナ装置を示す斜視図である。図8において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図9は、図8に示すアンテナ装置のA-A断面図である。図9において、図2と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
アンテナ装置は、3次元空間に配置されており、図中、xは、3次元空間のx軸を示し、yは、3次元空間のy軸を示し、zは、3次元空間のz軸を示している。
図9の断面図では、図面の煩雑化を避けるため、断面を示す斜線の記載を省略している。
【0041】
第2の導波管30は、第1の導波管4に挿入されている導波管である。
図8及び図9に示すアンテナ装置では、4つの第2の導波管30が、第1の導波管4に挿入されている。
それぞれの第2の導波管30が第1の導波管4に挿入されている位置は、複数の放射部1が配置されているそれぞれの位置の間である。
第2の導波管30は、第1の導波管4と接続されている第1の開口部30aと、第1の導波管4と接続されている第2の開口部30bとを有している。
また、第2の導波管30は、第1の導波管4を伝搬している電磁波が、第1の開口部30aから取り込まれると、当該電磁波を、第1の導波管4による電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、第2の開口部30bまで伝搬させる電磁波伝搬部とを有している。
【0042】
第2の導波管30の電磁波伝搬部は、第1の矩形導波管31、第2の矩形導波管32及び第3の矩形導波管33を備えている。
【0043】
第1の矩形導波管31の一方の管路端は、第1の開口部30aであり、第1の矩形導波管31の他方の管路端は、第3の矩形導波管33が有する第3の開口部33aと接続されている。
第2の矩形導波管32は、第1の矩形導波管31と平行に配置されている。
第2の矩形導波管32の一方の管路端は、第2の開口部30bであり、第2の矩形導波管32の他方の管路端は、第3の矩形導波管33が有する第4の開口部33bと接続されている。
【0044】
第3の矩形導波管33は、第3の開口部33a及び第4の開口部33bを有している。
第3の矩形導波管33が有する第3の開口部33aは、第1の矩形導波管31の他方の管路端と接続されている。
第3の矩形導波管33が有する第4の開口部33bは、第2の矩形導波管32の他方の管路端と接続されている。
第3の矩形導波管33は、第1の導波管4と平行に配置されている。
第3の矩形導波管33は、第1の開口部30aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁33cを有している。
【0045】
スリット13は、4つの第2の導波管30のそれぞれが有している複数の管壁のうち、第1の開口部30aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁33cに施されている。
スリット13の長手方向は、第1の導波管4の管軸方向と平行な方向であり、スリット13の深さ方向は、第1の導波管4の管高方向と平行な方向である。
図8及び図9に示すアンテナ装置では、スリット13が、管壁33cに施されているほか、第2の導波管30が有する側壁としての複数の管壁のうち、第1の導波管4の管軸方向と直交する面を有する管壁30f,30gにも施されている。
管壁30f,30gに施されているスリット13の位置は、第2の導波管が有する側壁としての複数の管壁のうち、第1の導波管4の管軸方向と平行な方向の面を有する2つの管壁30h,30iから、等距離の位置である。
スリット13の位置は、2つの管壁30h,30iから、厳密に等距離の位置であるものに限るものではなく、実用上問題のない範囲内で、管壁30hからの距離と、管壁30iからの距離とが異なっていてもよい。
【0046】
図8及び図9に示すアンテナ装置では、誘電体板14が平板であり、平板が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。したがって、第2の導波管30における第3の矩形導波管33の管壁33cのほかに、管壁30f,30gにもスリット13が施されていなければ、誘電体板14をスリット13に挿入することができない。
詳細は後述するが、誘電体板14の形状によっては、管壁33cにスリット13が施されていれば、管壁30f,30gにスリット13が施されていなくても、誘電体板14をスリット13に挿入することができる。
【0047】
次に、図8に示すアンテナ装置の動作について説明する。
第1の導波管4の開口部4aから取り込まれた高周波信号である電磁波は、第1の導波管4の内部を端部4bに向かって伝搬する。
第1の導波管4の内部を伝搬している電磁波の一部は、放射部1の給電プローブ2と結合する。給電プローブ2と結合した電磁波は、放射素子3から空間に放射される。
第1の導波管4の内部を伝搬している電磁波のうち、給電プローブ2と結合していない電磁波は、第1の開口部30aから第2の導波管30に取り込まれる。
【0048】
第2の導波管30に取り込まれた電磁波は、第1の矩形導波管31を伝搬して、第3の矩形導波管33の管壁33cに到達する。
第3の矩形導波管33の管壁33cに到達した電磁波は、第3の矩形導波管33及び第2の矩形導波管32のそれぞれを伝搬して、第2の開口部30bに到達する。
第2の開口部30bに到達した電磁波は、第1の導波管4に出力される。
誘電体板14がスリット13に挿入されている場合、第2の開口部30bから第1の導波管4に出力される電磁波の位相は、誘電体板14の波長短縮効果によって変化する。位相の変化量は、スリット13に対する誘電体板14の挿入量によって変わる。
【0049】
図8及び図9に示すアンテナ装置では、4つの第2の導波管30が第1の導波管4に挿入されており、4つの第2の導波管30におけるそれぞれのスリット13に対する誘電体板14の挿入量が同一である。
第1の導波管4の開口部4aから取り込まれる電磁波の位相がθであり、それぞれのスリット13に誘電体板14が挿入されることによる電磁波の位相量がθである場合を想定する。
この場合、4つの第2の導波管30のうち、開口部4aを起点として、1番目の第2の導波管30の第2の開口部30bから出力される電磁波の位相は、θ+θである。
4つの第2の導波管30のうち、開口部4aを起点として、2番目の第2の導波管30の第2の開口部30bから出力される電磁波の位相は、θ+2θである。
4つの第2の導波管30のうち、開口部4aを起点として、3番目の第2の導波管30の第2の開口部30bから出力される電磁波の位相は、θ+3θである。
4つの第2の導波管30のうち、開口部4aを起点として、4番目の第2の導波管30の第2の開口部30bから出力される電磁波の位相は、θ+4θである。
【0050】
したがって、4つの第2の導波管30のうち、隣り合っている第2の導波管30におけるそれぞれの第2の開口部30bから出力される電磁波の位相差は、全てθである。
電磁波の位相差の全てがθであることは、等間隔に放射素子3が配列されているアンテナ装置において、所定の方向にビーム走査するために必要な位相差と対応している。したがって、アクチュエータ15が、スリット13に対する誘電体板14の挿入量を調整することによって、電磁波の位相量θを制御すれば、複数の放射素子3から放射される電磁波の放射方向を切り替えることができる。
【0051】
第1の導波管4に対して、4つの第2の導波管30のそれぞれが挿入される位置は、5つの放射部1が配置されているそれぞれの位置の間である。したがって、第2の導波管30に対する誘電体板14の挿入位置から給電プローブ2までの距離が、特許文献1に記載の可動短絡面から放射部までの距離と比べて長い。このため、第2の導波管30に挿入された誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合する確率が、特許文献1に記載の可動短絡面と放射部とが電磁結合する確率よりも低減される。第2の導波管30に挿入された誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合する確率が低減されることによって、誘電体板14と給電プローブ2とが電磁結合することによるビームの放射特性の劣化が低減される。
【0052】
アクチュエータ制御装置16は、図13に示すレーダ装置、又は、図14に示す通信装置から、電磁波の放射方向を示す制御信号を受けると、図1に示すアクチュエータ制御装置16と同様に、制御信号に従ってアクチュエータ15による誘電体板14の挿入量を制御する。
アクチュエータ15は、アクチュエータ制御装置16の制御によって、誘電体板14をz軸と平行な方向に動かすように作用する。アクチュエータ15が誘電体板14をz軸と平行な方向に動かすことによって、4つのスリット13に対する誘電体板14の挿入量が同時に調整される。
【0053】
以上の実施の形態2では、アンテナ装置が、第1の導波管4と、第1の導波管4における1つの管壁5に直線状に配置されており、第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射する複数の放射部1と、第1の導波管4に挿入されている複数の第2の導波管30とを備えている。それぞれの第2の導波管30は、第1の導波管4と接続されている第1の開口部30aと、第1の導波管4と接続されている第2の開口部30bと、第1の導波管4を伝搬している電磁波が、第1の開口部30aから取り込まれると、当該電磁波を、第1の導波管4における電磁波の伝搬方向と直交する方向に伝搬させてから、第2の開口部30bまで伝搬させる電磁波伝搬部とを有している。
また、アンテナ装置が、それぞれの第2の導波管30が有する複数の管壁のうち、第1の開口部30aから取り込まれた電磁波が突き当たる管壁33cに施されている複数のスリット13と、複数のスリット13に挿入される誘電体板14と、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量を調整する単一のアクチュエータ15とを備えている。したがって、実施の形態2に係るアンテナ装置は、複数のアクチュエータを備えることなく、電磁波の放射方向を切り替えることができる。
【0054】
実施の形態2では、電波を放射する送信アンテナとして動作するアンテナ装置を説明している。しかし、図8に示すアンテナ装置は、電波を受信する受信アンテナとして動作することができる。送信アンテナとしての動作と、受信アンテナとしての動作とは、可逆的である。
【0055】
図8に示すアンテナ装置では、放射部1が、給電プローブ2及び放射素子3を備えている。しかし、これは一例に過ぎず、放射部1が、図5A及び図5Bに示すように、第1の導波管4の管壁5に施されている線状の開口21,22であってもよい。
線状の開口21,22は、第1の導波管4を伝搬している電磁波の一部を空間に放射させることができるため、線状の開口21,22は、図3に示す放射素子3と同様に動作する。
【0056】
図8及び図9に示すアンテナ装置では、誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形であり、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量が、同一の挿入量である。しかし、これは一例に過ぎず、図10に示すように、z-x平面と平行な平面のうち、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化しているために、複数のスリット13に対する誘電体板14の挿入量が、互いに異なる挿入量になっていてもよい。複数のスリット13に挿入される端辺は、x軸と平行な2つの端辺うち、第1の導波管4に近い方の端辺である。
図10は、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合、4つの第2の導波管30のうち、隣り合っている第2の導波管30におけるそれぞれの第2の開口部30bから出力される電磁波の位相差は、全てθになるとは限らない。このため、複数の放射素子3から放射されるビームの形状は、電磁波の位相差の全てがθである場合に形成されるビームの形状と異なる。
複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺が、ステップ状に変化している場合、ステップ状の変化量によっては、複数の放射素子3から、任意の方向にヌルが形成されているビームを放射できることがある。
【0057】
図8及び図9に示すアンテナ装置では、誘電体板14が有する複数の平面のうち、z-x平面と平行な平面の形状が長方形である。しかし、これは一例に過ぎず、図11に示すように、z-x平面と平行な平面のうち、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、例えば、台形の山が連なっている形状であってもよい。誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合、管壁33cにスリット13が施されていれば、管壁30f,30gにスリット13が施されていなくても、誘電体板14をスリット13に挿入することができる。
図11は、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状である場合のアンテナ装置のA-A断面図である。
なお、複数のスリット13に挿入される誘電体板14の端辺の形状は、台形の山が連なっている形状であるものに限るものではなく、例えば、三角形の山が連なっている形状であってもよい。
誘電体板14の端辺の形状が、台形の山が連なっている形状、又は、三角形の山が連なっている形状である場合、誘電体板14の平面の形状が長方形である場合よりも、第1の開口部30aから取り込まれた電磁波が管壁33cに突き当たったときの、電磁波の反射特性の劣化が緩和される。
【0058】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態1に係るアンテナ装置、又は、実施の形態2に係るアンテナ装置を複数備えているアンテナ装置について説明する。
実施の形態3に係るアンテナ装置は、図1に示すアンテナ装置を複数備えている。実施の形態3に係るアンテナ装置は、複数のアンテナ装置(図1に示すアンテナ装置)におけるそれぞれの第1の導波管4の管軸方向が互いに平行となるように、2つのアンテナ装置が配置されている。
または、実施の形態3に係るアンテナ装置は、図8に示すアンテナ装置を複数備えている。実施の形態3に係るアンテナ装置は、複数のアンテナ装置(図8に示すアンテナ装置)におけるそれぞれの第1の導波管4の管軸方向が互いに平行となるように、2つのアンテナ装置が配置されている。
【0059】
図12は、実施の形態3に係るアンテナ装置を示す斜視図である。図12において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図12に示すアンテナ装置では、2つのアンテナ装置(図1に示すアンテナ装置)におけるそれぞれの第1の導波管4の管軸方向が互いに平行となるように、2つのアンテナ装置が配置されている。
図12に示すアンテナ装置は、図1に示すアンテナ装置を2つ備えている。しかし、これは一例に過ぎず、図1に示すアンテナ装置を3つ以上備えていてもよい。また、図8に示すアンテナ装置を2つ以上備えていてもよい。
【0060】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 放射部、2 給電プローブ、3 放射素子、4 第1の導波管、4a 開口部、4b 端部、5 管壁、6 貫通孔、7 第2の導波管、7a 第1の開口部、7b 第2の開口部、7c 管路挿入部、7d,7e,7f,7g,7h,7i 管壁、8 第1の矩形導波管、8a 第3の開口部、9 第2の矩形導波管、9a 第4の開口部、10 第3の矩形導波管、11 第4の矩形導波管、12 第5の矩形導波管、13 スリット、14 誘電体板、15 アクチュエータ、16 アクチュエータ制御装置、21,22 線状の開口、30 第2の導波管、30a 第1の開口部、30b 第2の開口部、30f,30g,30h,30i 管壁、31 第1の矩形導波管、32 第2の矩形導波管、33 第3の矩形導波管、33a 第3の開口部、33b 第4の開口部、33c 管壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14