(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】シリコーン部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20231208BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231208BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20231208BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20231208BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
G01N35/02 A
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
B01J19/00 321
(21)【出願番号】P 2020062566
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和巳
(72)【発明者】
【氏名】森原 康滋
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177304(JP,A)
【文献】特開2006-181407(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084219(WO,A1)
【文献】特開2010-071820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0065427(US,A1)
【文献】特開2008-082961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
G01N 37/00
B81B 1/00
B81C 1/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロデバイスとして用いられ、試料が収容される収容部を有する、または相手部材との組み合わせにより該収容部を区画形成するシリコーン部材であって、
該収容部は、シリコーン本体と該シリコーン本体の表面に配置される親水層とを有し、
該親水層は、親水性構造と、該シリコーン本体と化学結合する
二つ以上の水酸基と、を有する親水性ポリマーからなり、
該親水性ポリマーの質量平均分子量は5000以上であり、
該親水性構造は水酸基、ポリエーテル構造、およびカルボキシル基から選ばれる一種以上であり、
該シリコーン本体と化学結合する水酸基は、該シリコーン本体とSi-O-Si結合を生成するSi-OH、および該シリコーン本体とSi-O-C結合を生成するC-OHの少なくとも一方であり、該親水層は該水酸基による化学結合により該
シリコーン本体に固定されていることを特徴とするシリコーン部材。
【請求項2】
前記親水層の厚さは1μm未満である請求項1に記載のシリコーン部材。
【請求項3】
前記収容部の深さは、100μm以下である請求項1または請求項2に記載のシリコーン部材。
【請求項4】
前記収容部は、溝状の流路を有し、
該流路の幅は、100μm以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項5】
前記収容部の可視光線透過率は、80%以上である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項6】
波長が280nm以上600nm以下の励起光が照射された場合における前記収容部の自家蛍光の強度は、20以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項7】
前記親水層が形成されている部分で測定されるタイプAデュロメータ硬さは、A20以上A80以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項8】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、
ポリエチレングリコール誘導体、セルロース、カルボキシメチルセルロース、および部分架橋ポリアクリル酸ナトリウムから選ばれる一種以上である請求項1ないし
請求項7のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項9】
前記親水層においては、水の接触角が60°以下の状態が24時間以上維持される請求項1ないし
請求項8のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項10】
請求項1ないし
請求項9のいずれかに記載のシリコーン部材の製造方法であって、
前記収容部を有するまたは区画形成する側のシリコーン本体の一面を改質処理して、該一面に水酸基を付与する改質処理工程と、
該一面に前記親水性ポリマーを有するポリマー溶液を接触させて、該シリコーン本体の該水酸基と該親水性ポリマーの前記水酸基とを化学結合させることにより、該一面に前記親水層を形成する親水層形成工程と、
を有することを特徴とするシリコーン部材の製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー溶液の粘度は、0.01Pa・s以上20Pa・s以下である
請求項10に記載のシリコーン部材の製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー溶液の溶媒は、水またはアルコールである
請求項10または
請求項11に記載のシリコーン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイスとして用いられるシリコーン部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロデバイスは、微細なくぼみ(ウエル)や溝に試料を収容して、検査、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を行うものである。マイクロデバイスを構成する部材の材料としては、微細な凹凸加工が容易であり、光透過性、耐薬品性などに優れるという理由から、シリコーンが多く用いられている。
【0003】
シリコーン製の部材は、ガラス製の部材と比較して、水に対する親和性が低い。このため、微細な流路に親水性の液体を流す場合、流れ性の悪さから所望の操作を正確に行えないおそれがある。また、本体部材と蓋部材など、二つの部材を接合してマイクロデバイスを構成する場合、送液時の圧力により接合部分が剥離するおそれがある。さらに、操作によっては、捕捉したい成分が収容部に入りにくいという問題や、タンパク質を含む薬液を流すと収容部にタンパク質が吸着されてしまうという問題もある。このため、シリコーン製の部材を用いる場合には、流路などの収容部に親水性を付与する処理を施すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特開2008-82961号公報
【文献】国際公開第2014/084219号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコーン製の部材(シリコーン部材)の表面に親水性を付与する処理としては、CVD(化学気相蒸着)法が挙げられる。しかし、CVD法により形成された親水性薄膜は、ガラスに近い硬さを有するものが多いため、シリコーンとの応力差によりクラックや剥がれが生じやすく、親水性を維持することは難しい。また、紫外線照射、エキシマ光照射、プラズマ処理などにより、表面を改質する方法も知られている。しかし、シリコーンの分子骨格はらせん構造を有するため、改質により表面に生成した親水基は、らせん構造の回転により、改質処理から短時間で内部に潜りこんでしまう。よって、これらの方法による改質効果は一時的であり、付与した親水性を24時間持続させるのは難しいというのが現状である。
【0006】
この点、特許文献1には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製のシートにポリエーテル変性界面活性剤を含有させて、その表面をプラズマ処理またはエキシマ光照射により改質処理した後、オルガノシラン被膜を形成する方法が記載されている。しかし、特許文献1に記載されている方法においては、PDMS製シートに界面活性剤を含有させる必要があるため、材料が制約される。加えて、同文献の段落[0031]に記載されているように、界面活性剤による一時親水化処理、表面改質処理、オルガノシラン溶液による二次親水化処理からなる三段階の処理が必須であるため、製造工程が煩雑である。
【0007】
他方、特許文献2には、マイクロ流路の水に対する接触角を60°以下にする(親水性にする)手法として、プラズマ処理、コロナ放電処理、親水性ポリマーの表面コート処理が記載されている。また、特許文献3には、防曇性フィルム、反射防止フィルムなどにおいて、親水性、防曇性、耐水性に優れる被膜を形成するための親水性コート剤として、ベタインモノマーおよびアルコキシシリル基含有化合物を有するモノマー成分を重合させてなるアルコキシシリル基含有ポリマーが記載されている。これらの文献においては、基材の表面に親水性ポリマーからなる被膜を形成して親水性を付与することが記載されているが、基材がシリコーンからなる場合に、シリコーンとの関係において、被膜の親水性の持続性についての検討はなされていない。また、特許文献3においては、親水性コート剤の用途としてマイクロデバイスは想定されていないため、微細なウエルや溝に適用できる形態や方法は記載されていない。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、親水性の持続時間が長く柔軟な親水層を有するマイクロデバイス用シリコーン部材を提供することを課題とする。また、当該シリコーン部材を容易に製造することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明のシリコーン部材は、マイクロデバイスとして用いられ、試料が収容される収容部を有する、または相手部材との組み合わせにより該収容部を区画形成するシリコーン部材であって、該収容部は、シリコーン本体と該シリコーン本体の表面に配置される親水層とを有し、該親水層は、親水性構造と、該シリコーン本体と化学結合する水酸基と、を有する親水性ポリマーからなり、該水酸基による化学結合により該シリコーン本体に固定されていることを特徴とする。
【0010】
(2)上記(1)に記載した本発明のシリコーン部材の製造方法の一例として、本発明のシリコーン部材の製造方法は、前記収容部を有するまたは区画形成する側のシリコーン本体の一面を改質処理して、該一面に水酸基を付与する改質処理工程と、該一面に前記親水性ポリマーを有するポリマー溶液を接触させて、該シリコーン本体の該水酸基と該親水性ポリマーの前記水酸基とを化学結合させることにより、該一面に前記親水層を形成する親水層形成工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明のシリコーン部材の収容部は、シリコーン本体と、親水性ポリマーからなる親水層と、を有する。親水層は、親水性構造と、シリコーン本体と化学結合する水酸基と、を有する親水性ポリマーから形成される。親水性ポリマーとシリコーン本体とは、互いの水酸基が反応することにより化学結合される。親水層においては、水酸基による結合部位の数や、親水性構造を有する分子鎖の立体障害により、シリコーンの分子骨格が回転しても、親水性構造が内部に潜りにくい。このため、本発明のシリコーン部材においては、親水層の親水性が長時間持続する。また、ガラスと比較して柔軟な親水性ポリマーから形成されるため、親水層にクラックや剥がれが生じにくい。このことも、親水性の持続時間を長くできる要因になる。
【0012】
このように、本発明のシリコーン部材の収容部は、親水性の持続時間が長く柔軟な親水層を有するため、親水性の液体を用いて、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。また、流れ性が良好であることから、送液時の圧力が大きくなりにくい。よって、二つの部材を接合してマイクロデバイスを構成した場合、接合部分の剥離なども抑制される。
【0013】
(2)本発明のシリコーン部材の製造方法は、まず、改質処理工程において、シリコーン本体の収容部を含む一面に水酸基を付与しておく。次に、親水層形成工程において、当該一面にポリマー溶液を接触させて、シリコーン本体の水酸基と親水性ポリマーの水酸基とを化学結合させることにより、親水層を形成する。このように、本発明の製造方法によると、収容部に親水性の持続時間が長く柔軟な親水層を有するシリコーン部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第一実施形態のシリコーン部材の斜視図である。
【
図3】第二実施形態のシリコーン部材を備えるマイクロデバイスの平面図を示す。
【
図5】第三実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。
【
図6】実施例1および比較例1、7の試験片の水接触角の経時変化を示すグラフである。
【
図7】実施例2および比較例2の試験片の水接触角の経時変化を示すグラフである。
【
図8】実施例3、4の試験片の水接触角の経時変化を示すグラフである。
【
図9】比較例4~6の試験片の水接触角の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のシリコーン部材およびその製造方法の実施の形態を説明する。
【0016】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態のシリコーン部材の構成を説明する。
図1に、第一実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。
図2に、
図1のII-II断面図を示す。
図1においては、透過した部位を細線で示す。
図1に示すように、シリコーン部材10は、長方形薄板状を呈している。シリコーン部材10の上面には、収容部11が凹設されている。収容部11は、溝部12と二つの孔部13a、13bとを有している。溝部12は、左右方向に伸びる直線状を呈しており、その左右両端部は、二つの孔部13a、13bに接続されている。二つの孔部13a、13bは、各々、円形状に開口している。
図2に示すように、溝部12(収容部11)の深さTは100μm、溝部12の幅(前後方向の長さ)Wは100μmである。試料の液体は、例えば、孔部13aから注入され、溝部12を流動して、孔部13bから取り出される。このように、シリコーン部材10は、それ自体に収容部11を有しており、単体でマイクロデバイスとして用いられる。
【0017】
シリコーン部材10は、シリコーン本体14と親水層15とを有している。シリコーン本体14は、シリコーンゴムからなる。親水層15は、収容部11を含むシリコーン本体14の上面全体を被覆するように配置されている。親水層15は、アルコキシシリル基含有ポリマーからなる。アルコキシシリル基含有ポリマーは、シリコーン本体14と化学結合する水酸基として末端にトリシラノール基を有し、親水性構造としてスルホキシベタイン構造を有しており、その質量平均分子量は500である。アルコキシシリル基含有ポリマーは、本発明における親水性ポリマーの概念に含まれる。親水層15は、トリシラノール基(水酸基)とシリコーン本体14の水酸基とによる化学結合によりシリコーン本体14に固定されている。
【0018】
収容部11における親水層15の厚さは、100nmである。収容部11の可視光線透過率は、88.5%であり、波長280nm以上600nm以下の励起光が照射された場合における自家蛍光の強度は9.0である。シリコーン部材10の上面(親水層15の上面)のタイプAデュロメータ硬さはA59である。
【0019】
次に、本実施形態のシリコーン部材の製造方法を説明する。まず、改質処理工程において、収容部11が凹設されているシリコーン本体14の上面を改質処理する。改質処理は、シリコーン本体14の上面に、アルゴンおよび酸素を含むガス雰囲気中でマイクロ波プラズマを照射して行う。これにより、シリコーン本体14の上面に水酸基が付与される。次に、親水層形成工程において、シリコーン本体14の上面にアルコキシシリル基含有ポリマーをディップコーティングする。すなわち、シリコーン本体14をアルコキシシリル基含有ポリマーの水溶液(粘度10mPa・s)に浸漬した後引き上げて、乾燥処理を行って、シリコーン本体14の上面に付与された水酸基とアルコキシシリル基含有ポリマーの末端水酸基とを化学結合させる。このようにして、収容部11を含むシリコーン本体14の上面に親水層15を形成する。
【0020】
次に、本実施形態のシリコーン部材の作用効果を説明する。シリコーン部材10の収容部11は、アルコキシシリル基含有ポリマーからなる親水層15を有する。アルコキシシリル基含有ポリマーは、水酸基同士の化学結合によりシリコーン本体14と複数箇所で結合されると共に、親水性構造を含む長鎖の分子鎖を有する。結合部位が多いこと、および長鎖の分子鎖の立体障害により、シリコーンの分子骨格が回転しても親水性構造が内部に潜りにくい。このため、シリコーン部材10においては、親水層15の親水性が長時間持続する。具体的には、後述する実施例において示すように、水の接触角が60°以下の状態が、親水層15を形成してから少なくとも24時間維持される。
【0021】
親水層15の厚さは100nmであり極めて薄い。このため、微細な流路である溝部12に適用しても、液体の流れを阻害しにくい。また、シリコーン部材10の上面(親水層15が形成されている部分)で測定されるタイプAデュロメータ硬さはA59である。すなわち、親水層15は、ガラスと比較して柔軟である。よって、親水層15にクラックや剥がれが生じにくく、親水性が長時間持続する。このように、シリコーン部材10の収容部11は、親水性の持続時間が長く柔軟な親水層15を有するため、親水性の液体を用いて、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。また、親水層15が形成されていても、収容部11の可視光線透過率は高く、シリコーンゴムが本来有する透明性が損なわれていない。収容部11の自家蛍光性も弱いため、収容部11に光を照射して、極めて弱い発光を観察する光学検査などにも適している。さらに、試料にタンパク質が含まれていても、収容部11にタンパク質が吸着されにくい。
【0022】
シリコーン部材10の製造方法においては、親水層15を形成する前に、改質処理工程において、収容部11を含むシリコーン本体14の上面に水酸基を付与する。これにより、続く親水層形成工程において、アルコキシシリル基含有ポリマーをディップコーティングして、容易に親水層15を形成することができる。この際、アルコキシシリル基含有ポリマーの水溶液の粘度は比較的小さいため、薄膜状の親水層15を形成することができる。また、当該水溶液の溶媒は水であるため、疎水性のシリコーン本体14に染み込みにくい。よって、ディップコーティングの際、シリコーン本体14が膨潤し収容部11の大きさが変化するおそれは少ない。
【0023】
<第二実施形態>
本実施形態のシリコーン部材と第一実施形態のシリコーン部材との主な相違点は、本実施形態においては、マイクロデバイスが二つのシリコーン部材で構成されている点である。まず、本実施形態のシリコーン部材を備えるマイクロデバイスの構成を説明する。
図3に、マイクロデバイスの平面図を示す。
図4に、
図3のIV-IV断面図を示す。
図3においては、透過した部位を細線で示す。
図3、
図4に示すように、マイクロデバイス20は、全体として長方形薄板状を呈している。マイクロデバイス20は、第一シリコーン部材30と、第二シリコーン部材40と、を有している。
【0024】
第一シリコーン部材30は、長方形薄板状を呈している。第一シリコーン部材30の構成は、親水層の構成を除いて第一実施形態のシリコーン部材10の構成と同じである。すなわち、第一シリコーン部材30の上面には、収容部31が凹設されている。収容部31は、溝部32と二つの孔部33a、33bとを有している。溝部32は、左右方向に伸びる直線状を呈している。溝部32の深さ(上下方向の長さ)は100μm、幅(前後方向の長さ)は100μmである。第一シリコーン部材30は、シリコーン本体34と親水層35とを有している。親水層35は、収容部31を含むシリコーン本体34の上面全体を被覆するように配置されている。
【0025】
親水層35は、ポリビニルアルコール(PVA)からなる。PVAは、側鎖に親水性構造としての水酸基を有し、その一部はシリコーン本体34と化学結合する。PVAの質量平均分子量は20000である。PVAは、本発明における親水性ポリマーの概念に含まれる。親水層35は、PVAの側鎖の水酸基とシリコーン本体34の水酸基とによる化学結合によりシリコーン本体34に固定されている。収容部31における親水層35の厚さは、100nmである。収容部31の可視光線透過率は、87.8%であり、波長280nm以上600nm以下の励起光が照射された場合における自家蛍光の強度は9.1である。第一シリコーン部材30の上面(親水層35の上面)のタイプAデュロメータ硬さはA60である。
【0026】
第一シリコーン部材30の製造方法は、次のとおりである。まず、第一実施形態と同様にして、収容部31が凹設されているシリコーン本体34の上面を改質処理する。次に、シリコーン本体34の上面にPVAをディップコーティングする。すなわち、シリコーン本体34をPVA水溶液(粘度7Pa・s)に浸漬した後引き上げて、乾燥処理を行って、シリコーン本体34の上面に付与された水酸基とPVAの側鎖の水酸基とを化学結合させる。このようにして、収容部31を含むシリコーン本体34の上面に親水層35を形成する。
【0027】
第二シリコーン部材40は、第一シリコーン部材30と同じ大きさの長方形薄板状を呈している。第二シリコーン部材40は、第一シリコーン部材30の上面に積層されている。第二シリコーン部材40は、二つの孔部41、42からなる収容部43を有している。二つの孔部42、43は、各々、円筒形状を呈しており、第二シリコーン部材40を厚さ方向(上下方向)に貫通している。第二シリコーン部材40は、シリコーン本体44と親水層45とを有している。親水層45は、収容部43の表面およびシリコーン本体44の上面全体を被覆するように配置されている。親水層45の構成は、第一シリコーン部材30の親水層35の構成と同じである。すなわち、親水層45はPVAからなり、その厚さは100nmである。
【0028】
第二シリコーン部材40の製造方法も、第一シリコーン部材30の製造方法と同じである。すなわち、収容部43の表面およびシリコーン本体44の上面を改質処理した後、PVAをディップコーティングする。そして、第一シリコーン部材30および第二シリコーン部材40を重ね合わせ、収容部31、43を除く部分を接合して、マイクロデバイス20を製造する。第一シリコーン部材30および第二シリコーン部材40の接合は、各々の接合面(シリコーン本体34の上面の親水層35、シリコーン本体44の下面の親水層45)をプラズマ処理した後、重ね合わせればよい。
【0029】
第一シリコーン部材30の左方の孔部33aは孔部41の下端開口に、孔部33bは孔部42の下端開口に、各々連結されている。第一シリコーン部材30の溝部32は、第二シリコーン部材40により封鎖されている。試料の液体は、例えば、孔部41から注入され、溝部32を流動して、孔部42から取り出される。
【0030】
次に、本実施形態のシリコーン部材の作用効果を説明する。本実施形態のシリコーン部材と、第一実施形態のシリコーン部材とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。第一シリコーン部材30と第二シリコーン部材40とは、同じ親水層を有するため、ここでは両部材を代表して第一シリコーン部材30について説明する。
【0031】
第一シリコーン部材30の収容部31は、PVAからなる親水層35を有する。PVAは、水酸基同士の化学結合によりシリコーン本体34と結合され、親水性構造を含む長鎖の分子鎖を有する。長鎖の分子鎖の立体障害により、シリコーンの分子骨格が回転しても親水性構造が内部に潜りにくい。このため、第一シリコーン部材30においては、親水層35の親水性が長時間持続する。具体的には、後述する実施例において示すように、水の接触角が60°以下の状態が、親水層35を形成してから少なくとも24時間維持される。
【0032】
第一シリコーン部材30の上面(親水層35が形成されている部分)で測定されるタイプAデュロメータ硬さはA60である。すなわち、親水層35は、ガラスと比較して柔軟である。よって、親水層35にクラックや剥がれが生じにくく、親水性が長時間持続する。このように、第一シリコーン部材30の収容部31は、親水性の持続時間が長く柔軟な親水層35を有するため、親水性の液体を用いて、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。また、親水層35の厚さが薄いため、微細な流路構造の収容部31に適用しても、液体の流れを阻害しにくい。流れ性が良好であるため、送液時の圧力が大きくなりにくい。結果、第一シリコーン部材30および第二シリコーン部材40の接合部分の剥離が抑制される。
【0033】
親水層35が形成されていても、収容部31の可視光線透過率は高く、シリコーンゴムが本来有する透明性が損なわれていない。収容部31の自家蛍光性も弱いため、収容部31に光を照射して、極めて弱い発光を観察する光学検査などにも適している。さらに、試料にタンパク質が含まれていても、収容部31にタンパク質が吸着されにくい。
【0034】
第一シリコーン部材30の製造方法においては、親水層35を形成する前に、改質処理工程において、収容部31を含むシリコーン本体34の上面に水酸基を付与する。これにより、続く親水層形成工程において、PVAをディップコーティングして、容易に親水層35を形成することができる。PVA水溶液の粘度は比較的小さいため、薄膜状の親水層35を形成することができる。また、当該水溶液の溶媒は水であるため、疎水性のシリコーン本体34に染み込みにくい。よって、ディップコーティングの際、シリコーン本体34が膨潤し収容部31の大きさが変化するおそれは少ない。
【0035】
親水層35は、シリコーン本体34の上面全体に形成される。第二シリコーン部材40においても同様に、親水層45は、シリコーン本体44の下面全体に形成される。親水層35、45は、いずれもPVAからなり、接着性が良好である。したがって、第一シリコーン部材30および第二シリコーン部材40の接合面に親水層35、45を形成し、それを利用して両部材30、40を接合することができる。
【0036】
<その他の形態>
本発明のシリコーン部材およびその製造方法は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0037】
[シリコーン部材]
本発明のシリコーン部材は、マイクロデバイスとして用いられるものであり、自身に試料が収容される収容部を有していてもよく、相手部材との組み合わせにより収容部を区画形成するものでもよい。相手部材の材質は、シリコーンの他、フッ素樹脂、ガラスなどでもよい。本発明のシリコーン部材と相手部材とは、単に積層させるだけでもよいが、接着剤などを用いて接着してもよい。
【0038】
本発明における「収容部」は、試料が配置される空間は勿論、流路などの試料が通過するだけの空間を含む。試料は、粒子などの固体、液体、気体の他、これらが適宜混合された混合物でもよい。収容部の形状、大きさ、配置形態は、特に限定されない。収容部の形状としては、孔状、溝状、くぼみ状などが挙げられる。収容部の深さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状、半円、楕円などの曲面状、V字状など、特に限定されない。以下に、上記実施形態とは異なる収容部を有する形態例を説明する。
図5に、第三実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。
図5においては、透過した部位を細線で示す。
【0039】
図5に示すように、シリコーン部材50は、長方形薄板状を呈している。シリコーン部材50の上面には、複数のウエル(くぼみ)51が凹設されている。ウエル51の開口部は円形状を呈し、底部は平面状を呈している。ウエル51の開口部の直径は100μm、深さも100μmである。複数のウエル51は、いずれも同じ形状、大きさを有している。試料は、ウエル51に収容される。すなわち、ウエル51は、本発明における収容部の概念に含まれる。ウエル51を含むシリコーン本体の上面全体を被覆するように、親水層(図略)が形成されている。
【0040】
収容部の深さは、シリコーン部材やマイクロデバイスの厚さに応じて適宜決定すればよい。例えば、顕微鏡を用いた光学検査用のマイクロデバイスの場合には、収容部の深さは100μm以下であることが望ましい。また、収容部が溝状の流路を有する場合、流路の幅も100μm以下であることが望ましい。
【0041】
収容部は、シリコーン本体と親水層とを有する。シリコーン本体は、シリコーンを有するシリコーン材料から製造される。シリコーン材料は、必要に応じて、接着成分などの添加剤を含んでいてもよい。本明細書において「シリコーン」とは、シリコーン樹脂およびシリコーンゴムの両方を含む概念である。「シリコーン」には、ポリマー成分に加えて、それを架橋するための架橋剤、触媒などが含まれる。シリコーンゴムには、オルガノポリシロキサンとして広く知られているものを使用すればよい。シリコーンゴムは、液状ゴムでも固形(ミラブル)ゴムでもよい。凹凸などの微細構造を寸法精度よく形成できるという点において、液状ゴムが望ましい。
【0042】
親水層は、親水性構造と、シリコーン本体と化学結合する水酸基と、を有する親水性ポリマーからなる。親水性構造としては、ノニオン系として水酸基、ポリエーテル構造、カチオン系としてアミン、アンモニウム塩、アニオン系としてリン酸塩、スルホン酸塩、カルボキシル基などが挙げられる。親水性ポリマーは、これらから選ばれる一種以上を有することが望ましい。分子鎖の立体障害を大きくして、シリコーンの分子骨格の回転により親水性構造が内部に潜りこむことを抑制するという観点から、親水性構造を含む分子鎖は長い方が望ましい。例えば、親水性ポリマーの質量平均分子量は500以上であるとよい。5000以上、10000以上、さらには20000以上であるとより好適である。
【0043】
シリコーン本体と化学結合する水酸基の形態としては、シリコーン本体とSi-O-Si結合を生成するSi-OH、Si-O-C結合を生成するC-OHが挙げられる。親水性ポリマーは、これらのいずれか、または両方を有することが望ましい。シリコーン本体との結合部位を多くして、シリコーンの分子骨格の回転により親水性構造が内部に潜りこむことを抑制するという観点から、親水性ポリマーは、シリコーン本体と化学結合する水酸基を二つ以上有することが望ましい。好適な親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ビニルアルコール-アクリル酸ナトリウムコポリマー、ビニルアルコール-メタクリル酸ナトリウムコポリマー、部分架橋ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、アルコキシシリル基含有ポリマー、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、でんぷんなどが挙げられる。なかでも、比較的安価で生体適合性に優れるという理由から、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、アルコキシシリル基含有ポリマーが好適である。
【0044】
本発明のシリコーン部材においては、親水層の親水性が長時間持続する。例えば、親水層が形成された後、水の接触角が60°以下の状態が24時間以上維持されることが望ましい。48時間、72時間、さらには恒久的に維持されるとより好適である。本発明においては、水の接触角として、JIS R3257:1999に準じて測定された値を採用する。
【0045】
微細な構造を有する収容部に適用しても流体の流れを阻害しにくく、シリコーン本体の透明性を阻害しにくいという観点から、親水層の厚さは1μm未満であることが望ましい。0.5μm以下であるとより好適である。
【0046】
所望の光透過性を確保するという観点から、収容部の可視光線透過率は80%以上であることが望ましい。85%以上であるとより好適である。本発明においては、可視光線透過率として、JIS A5759:2016に準じ、(株)島津製作所製の分光光度計「UV3100PC」により波長380~780nmの透過スペクトルを測定して計算された値を採用する。また、収容部に光を照射して、極めて弱い発光を観察する光学検査などに使用する場合には、波長が280nm以上600nm以下の励起光が照射された場合における収容部の自家蛍光の強度は、20以下であることが望ましい。10以下であるとより好適である。本発明においては、自家蛍光の強度として、(株)日立ハイテクノロジーズ製の分光蛍光光度計「F-7000SP」により、波長280nm以上600nm以下の励起光を照射して、検出された波長300nm以上900nmの蛍光強度を採用する。シリコーン本体への追従性を高めて密着力を向上させるという観点から、親水層が形成されている部分で測定されるタイプAデュロメータ硬さは、A20以上A80以下であることが望ましい。本発明においては、タイプAデュロメータ硬さとして、JIS K6253-3:2012に準じて測定された値を採用する。
【0047】
[シリコーン部材の製造方法]
本発明のシリコーン部材の製造方法は、特に限定されない。例えば、シリコーン本体の収容部の表面を改質処理するなどして当該表面に水酸基を付与した後、親水性ポリマーを有するポリマー溶液を接触させて、親水層を形成すればよい。収容部にポリマー溶液を接触させるには、収容部にポリマー溶液を塗布したり、流したり、収容部を含む面をポリマー溶液に浸漬すればよい。この場合、ポリマー溶液をシリコーン本体に若干含浸させると、形成される親水層の密着性を高めることができる。
【0048】
上記第二実施形態のように、二つのシリコーン部材を接合してマイクロデバイスを構成する場合、接着性に乏しい親水性ポリマーからなる親水層がシリコーン本体の一面に形成されると、シリコーン部材同士の接合が難しくなる。二つのシリコーン部材を接合するために、接着剤などを使用することも可能であるが、収容部を封止するためには収容部との境界まで接着剤を塗布しなければならず、収容部が接着剤により汚染されるおそれがある。よって、接着性に乏しい親水性ポリマーから親水層を形成する場合には、接合部には親水層を形成せず、収容部にのみ親水層を形成することが望ましい。他方、接着性に問題がない親水性ポリマーから親水層を形成する場合には、収容部以外の領域に親水層を形成しても、接合性が阻害されにくい。収容部を含むシリコーン本体の一面に親水層を形成する製造方法の一例として、以下に本発明のシリコーン部材の製造方法を説明する。本発明のシリコーン部材の製造方法は、改質処理工程と、親水層形成工程と、を有する。
【0049】
(1)改質処理工程
本工程においては、収容部を有するまたは区画形成する側のシリコーン本体の一面を改質処理して、該一面に水酸基を付与する。改質処理は、大気圧下または真空下におけるプラズマ照射、エキシマ光照射、紫外線照射、シランカップリング剤の塗布などにより行えばよい。プラズマ照射を採用する場合、プラズマの発生方法は、特に限定されない。例えば、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを採用すればよい。プラズマ照射は、アルゴンなどの希ガス雰囲気中、または酸素を含むガス雰囲気中で行うとよい。
【0050】
(2)親水層形成工程
本工程においては、改質処理された一面に親水性ポリマーを有するポリマー溶液を接触させて、シリコーン本体の水酸基と親水性ポリマーの水酸基とを化学結合させることにより、収容部を含む該一面に親水層を形成する。親水性ポリマーについては、前述したとおりである。ポリマー溶液の溶媒は、親水性ポリマーに応じて適宜選択すればよい。シリコーン本体への染み込みを抑制し、シリコーン本体の膨潤を抑制するという観点から、水、アルコールなどが好適である。ポリマー溶液の粘度は、特に限定されないが、薄膜状の親水層を形成するという観点から、0.01Pa・s以上20Pa・s以下であるとよい。シリコーン本体の一面にポリマー溶液を接触させるには、一面にポリマー溶液を塗布したり、流したり、一面またはシリコーン本体全体をポリマー溶液に浸漬すればよい。ポリマー溶液を接触させた後、乾燥処理を行うことにより、シリコーン本体の水酸基と親水性ポリマーの水酸基とが化学結合する。乾燥処理は、ポリマー溶液の溶媒に応じて、温度、時間などを適宜調整すればよい。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。種々の親水化処理が施されたシリコーン部材の試験片を製造し、親水性の持続性などを評価した。
【0052】
<試験片の製造>
[実施例1]
まず、シリコーンゴム製の板状の試験片の上面全体を改質処理して、試験片の上面に水酸基を付与した。改質処理としては、真空下でマイクロ波プラズマを照射する真空マイクロ波プラズマ処理を行った。真空マイクロ波プラズマ処理は、アルゴンガス60cc/minおよび酸素ガス300cc/min、圧力52Paの雰囲気にて、マイクロ波の周波数を2.45GHz、出力電力を1.2kWとして行った。処理時間は2秒間とした。次に、改質処理後の試験片を、アルコキシシリル基含有ポリマーの水溶液(大阪有機化学工業(株)製「LAMBIC-771W」、粘度10mPa・s)に浸漬した後引き上げて、100℃下で15分間乾燥することにより、上面にアルコキシシリル基含有ポリマーからなる厚さ100nmの親水層を形成した。このようにして得られた試験片を実施例1の試験片と称す。
【0053】
[実施例2]
実施例1と同様に改質処理した試験片を、PVA(質量平均分子量20000)の水溶液(粘度7Pa・s)に浸漬した後引き上げて、100℃下で15分間乾燥することにより、上面にPVAからなる厚さ100nmの親水層を形成した。PVA水溶液としては、純水100gにPVAを1g配合した水溶液を使用した。得られた試験片を実施例2の試験片と称す。
【0054】
[実施例3]
実施例1と同様に改質処理した試験片を、ポリエチレングリコール(PEG:質量平均分子量6000)の水溶液(粘度7Pa・s)に浸漬した後引き上げて、100℃下で15分間乾燥することにより、上面にPEGからなる厚さ100nmの親水層を形成した。PEG水溶液としては、純水100gにPEGを1g配合した水溶液を使用した。得られた試験片を実施例3の試験片と称す。
【0055】
[実施例4]
実施例3において使用したPEG水溶液を、純水100gにPEGを5g配合した水溶液(粘度10Pa・s)に変更した点以外は、実施例3と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を実施例4の試験片と称す。
【0056】
[比較例1]
親水層を形成する前に、試験片の上面を改質処理しなかった点以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を比較例1の試験片と称す。
【0057】
[比較例2]
親水層を形成する前に、試験片の上面を改質処理しなかった点以外は、実施例2と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を比較例2の試験片と称す。
【0058】
[比較例3]
何も処理しないシリコーンゴム製の試験片を、比較例3の試験片と称す。
【0059】
[比較例4]
シリコーンゴム製の試験片の上面に、セン特殊光源(株)製の紫外線洗浄改質装置により、紫外線を1mmの照射距離で300秒間照射して、親水化処理を行った。得られた試験片を比較例4の試験片と称す。
【0060】
[比較例5]
シリコーンゴム製の試験片の上面に、浜松ホトニクス(株)製のエキシマランプ光源「EX-mini」により、エキシマ光を1mmの照射距離で120秒間照射して、親水化処理を行った。得られた試験片を比較例5の試験片と称す。
【0061】
[比較例6]
シリコーンゴム製の試験片の上面に、真空下でマイクロ波プラズマを照射して、親水化処理を行った。真空マイクロ波プラズマ処理は、アルゴンガス90cc/minおよび酸素ガス90cc/min、圧力6Paの雰囲気にて、マイクロ波の周波数を2.45GHz、出力電力を0.75kWとして行った。処理時間は2秒間とした。得られた試験片を比較例6の試験片と称す。
【0062】
[比較例7]
シリコーンゴム製の試験片の上面に、プラズマCVD法によりヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)膜を成膜して、親水化処理を行った。プラズマ処理は、酸素ガス180cc/minおよびHMDSOガス12cc/min、圧力6.4Paの雰囲気にて、マイクロ波の周波数を2.45GHz、出力電力を0.75kWとして行った。HMDSO膜の厚さは30nmとした。得られた試験片を比較例7の試験片と称す。
【0063】
<評価方法>
[親水性]
JIS R3257:1999に準じて水接触角を測定した。本実施例においては、温度25℃、湿度50%雰囲気にて、測定対象の表面に水を2μl滴下して、水が接触してから1分以内の水接触角を測定した。
【0064】
[光透過性]
JIS A5759:2016に準じ、(株)島津製作所製の分光光度計「UV3100PC」により透過スペクトルを測定し、試験片の可視光線透過率を計算した。
【0065】
[自家蛍光]
(株)日立ハイテクノロジーズ製の分光蛍光光度計「F-7000SP」により、波長280nm以上600nm以下の励起光を照射して検出光(蛍光)を測定し、波長300nm以上900nmの蛍光強度を自家蛍光の強度とした。
【0066】
[タイプAデュロメータ硬さ]
JIS K6253-3:2012に準じて、タイプAデュロメータ硬さを測定した。
【0067】
表1に、各試験片の評価結果を示す。
図6に、実施例1および比較例1、7の試験片の水接触角の経時変化を示す。
図7に、実施例2および比較例2の試験片の水接触角の経時変化を示す。
図8に、実施例3、4の試験片の水接触角の経時変化を示す。
図9に、比較例4~6の試験片の水接触角の経時変化を示す。参考までに、
図6~
図9のグラフには、比較例3(未処理)の試験片の水接触角を経過時間0時間の値として示す。
【表1】
【0068】
表1および
図6~
図8に示すように、改質処理後に親水層を形成した実施例1~4の試験片においては、親水層を形成してから24時間後は勿論、168時間(7日間)経過しても、水接触角は60°以下であり、親水性が維持されていた。特に、実施例1、2、4の試験片は親水性に優れており、親水層を形成してから7日間の水接触角を比較すると、実施例1の試験片は15以下、実施例2、4の試験片は30以下であった。実施例1~4の試験片においては、可視光線透過率が87%以上であり、親水層は光透過性に優れることが確認された。また、自家蛍光も弱いことが確認された。さらに、実施例1~4の試験片においては、タイプAデュロメータの値が比較的小さいことから、親水層は比較的柔軟であることが確認された。これに対して、改質処理を行わずに親水層を形成した比較例1の試験片においては、親水層を形成してから24時間後には水接触角が60°を超えてしまい、比較例2の試験片においては、親水層を形成した直後から水接触角が60°より大きくなった。これらにおいては、シリコーンゴム側に水酸基が無いため、親水性ポリマーが化学結合されず、親水性が持続しなかったと考えられる。また、HMDSO膜を形成した比較例7の試験片においても、親水層を形成した後すぐに、水接触角が60°より大きくなった(
図6参照)。また、表1および
図9に示すように、従来の親水化処理を施した比較例4~6の試験片においては、いずれも親水性の持続時間が短いことがわかる。
【符号の説明】
【0069】
10:シリコーン部材、11:収容部、12:溝部、13a、13b:孔部、14:シリコーン本体、15:親水層、20:マイクロデバイス、30:第一シリコーン部材、31:収容部、32:溝部、33a、33b:孔部、34:シリコーン本体、35:親水層、40:第二シリコーン部材、41、42:孔部、43:収容部、44:シリコーン本体、45:親水層、50:シリコーン部材、51:ウエル(収容部)。