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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】熱交換器および熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 21/08 20060101AFI20231208BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231208BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
F28F21/08 E
C23C26/00 B
F28D1/053 Z
F28F21/08 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020089812
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183893
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】藤原 淳史
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084374(JP,A)
【文献】特開昭49-024842(JP,A)
【文献】特開2016-205653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 21/08
F28D 1/053
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を流体が流れる伝熱管と、
前記伝熱管に取り付けられた複数のフィンと、
それぞれの前記フィンに電気的に接触する少なくとも1つの導電体と、
少なくとも前記フィンの表面に形成された塗装膜と、
を備え、
前記導電体と複数の前記フィンとの接触抵抗は、前記伝熱管と複数の前記フィンとの接触抵抗より小さい、
熱交換器。
【請求項2】
前記フィンが積層された方向において、前記フィンを挟んで配設された一対の管板を備え、
前記導電体は、一対の前記管板に電気的に接触する、
請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記導電体と前記管板との接触抵抗は、前記伝熱管と前記管板との接触抵抗より小さい、
請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記導電体は、複数の前記フィンを貫通する、
請求項1から3の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記導電体は、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金の何れか一つから成る、
請求項1から4の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記導電体は、本体と、前記本体の表面に配置された前記本体より酸化しにくい金属膜、または酸化しても導電性を有する金属膜を有する、
請求項1から5の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記導電体は、表面にスズ若しくはスズ合金を含む導電膜、金若しくは金合金を含む導電膜、または銀若しくは銀合金を含む導電膜の何れかを有する、
請求項1から6の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記導電体は、管状の形状を有する導電管である、
請求項1から7の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記導電管の外径が前記伝熱管の外径と同じであり、前記導電管を挿入するために前記フィンに形成された切欠部の径が前記伝熱管を挿入するために前記フィンに形成された切欠部の径と同じである、
請求項8に記載の熱交換器。
【請求項10】
前記伝熱管と、前記伝熱管の表面に前記導電体を含む導電体膜と、を有する導電伝熱管を備える、
請求項1から7の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項11】
積層された複数のフィンに導電体を取り付ける導電体取付工程と、
複数の前記フィンに伝熱管を取り付ける伝熱管取付工程と、
前記フィンに電着塗装を行う電着塗装工程と、
を備え、
前記導電体と複数の前記フィンとの接触抵抗は、前記伝熱管と複数の前記フィンとの接触抵抗より小さい、
熱交換器の製造方法。
【請求項12】
前記電着塗装工程において、前記導電体および前記伝熱管が取り付けられた前記フィンを電着塗料に浸漬し、前記導電体から前記電着塗料、または前記電着塗料から前記導電体に電流を流して塗装する、
請求項11に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項13】
前記導電体が管状の形状を有する導電管であり、前記導電管および前記伝熱管を拡管して前記フィンに圧着させる圧着工程を備える、
請求項11または12に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項14】
前記導電体取付工程において、伝熱管の表面に前記導電体を含む導電体膜を有する導電伝熱管を複数の前記フィンに取り付ける、
請求項11から13の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項15】
前記導電体取付工程において、前記フィンと、前記フィンが積層された方向において、前記フィンを挟んで配設された一対の管板と、に前記導電体を取り付け、
前記電着塗装工程において、前記管板に吊具を接続し、前記吊具に直流電源と接続することで通電する、
請求項11から14の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱交換器および熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機用の熱交換器では、アルミニウム製の板状フィンと銅製の伝熱管を備えるフィンアンドチューブ式の熱交換器が一般的に用いられている。
【0003】
食品貯蔵庫および食品加工場において使用されている空気調和機の室内機では、食物から発生するアンモニア、ギ酸または硫化水素を含む腐食性ガスにより、周囲が高腐食環境となる場合がある。また、空気調和機が冷房として稼働している場合には、室内機は蒸発器として働くために伝熱管および板状フィンの表面には結露が発生しやすく、結露水に腐食性ガスが溶解することにより、伝熱管および板状フィンをさらに腐食しやすくする。腐食から伝熱管および板状フィンを保護するため、めっきまたは塗装により防食層を形成することでフィンおよび銅管に耐食性を付与することが知られている。
【0004】
特許文献1は、銅製の伝熱管の外側の表面にスズまたはスズ合金を含む防食層を形成し、伝熱管に耐食性を付与する方法を開示する。
【0005】
また、特許文献2は、組立後の熱交換器の全体をカチオン電着塗装することにより、板状フィンと伝熱管の両方に防食層としての塗装膜を形成する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-14334号公報
【文献】特開2016-176092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の熱交換器では、伝熱管はめっき層により保護されているが、板状フィンにはめっき層が形成されていないために、板状フィンが腐食することにより、フィンの破片が室内機から吹き出される。また、特許文献2に記載の従来の熱交換器では、伝熱管および板状フィンの両方に防食層が形成されるが、塗装時間と塗装膜厚の点で以下の課題がある。電着塗装は電気化学反応を利用した塗装方式であり、熱交換器の両端に配設される管板に吊具を吊りかけて搬送し、吊具から伝熱管を介してフィンに直流電流を流すことで電着塗装する。このとき、伝熱管から一部のフィンに電流が流れにくいと、その他の部分のフィンに対して塗装膜の析出が遅く、一部のフィンへの塗装膜の析出が完了するまでに長い時間を要する。さらに、その間もその他の部分のフィンへの塗装膜の析出反応が徐々に進行するために、一部のフィンに対してその他の部分のフィンが厚い樹脂膜で覆われてしまうために、伝熱性に劣るという課題がある。
【0008】
本開示は、上記のような課題を解決するために考案されたものであり、防食性および伝熱性に優れた熱交換器および熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る熱交換器は、内部を流体が流れる伝熱管と、伝熱管に取り付けられた複数のフィンと、それぞれのフィンに電気的に接触する少なくとも1つの導電体と、少なくともフィンの表面に形成された塗装膜と、を備え、導電体と複数のフィンとの接触抵抗は、伝熱管と複数のフィンとの接触抵抗より小さい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、導電体と複数のフィンとの接触抵抗は、伝熱管と複数のフィンとの接触抵抗より小さいことで、防食性および伝熱性に優れた熱交換器および熱交換器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る熱交換器を示す図
図2図1における領域Aの拡大断面図
図3図1における領域Bの拡大断面図
図4】実施の形態1に係る熱交換器の製造方法を示すフローチャート
図5】実施の形態1に係る熱交換器の製造方法を示す図
図6】比較例に係る熱交換器の製造方法を示す図
図7】実施の形態1の変形例に係る熱交換器を示す図
図8】実施の形態2に係る熱交換器の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態に係る熱交換器について図面を参照して詳細に説明する。なお、図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付す。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る熱交換器100は、図1に示すように、フィンアンドチューブ型の熱交換器であり、内部を流体が流れる伝熱管10と、伝熱管10に取り付けられた複数の板状フィン20と、それぞれの板状フィン20に電気的に接触する少なくとも1つの導電管30と、板状フィン20を挟んで配設された一対の管板40と、少なくとも板状フィン20の表面に配置された塗装膜50と、を備える。熱交換器100は、冷媒を伝熱管10に流して板状フィン20の間を流れる空気と熱交換することで空気の温度を調節する空気調和機の室内機または室外機に用いられる。
【0014】
理解を容易にするために、相互に直交するxyz座標を設定し、適宜参照する。伝熱管10が延びる方向をx方向、板状フィン20が延びる方向をy方向、x方向およびy方向に垂直な方向をz方向、と設定する。
【0015】
伝熱管10は、図2に示すU字型に成形したヘアピン管11と、図3に示すU字型に成形したUベンド管12と、図3に示すヘアピン管11にUベンド管12を取り付けるロウ付け部13と、を有し、内部に冷媒流路を備える。図2に示すヘアピン管11は、x方向に延びる一対の直線部11aと一対の直線部11aの端部同士を接続する湾曲部11bとを有する。伝熱管10は、内部に冷媒流路を備えればよく、断面形状は限定されず、円型、楕円型または扁平型を有する。以下、伝熱管10は、円型の断面形状を有する例について説明する。伝熱管10の材質は、熱伝導率の高い材料である銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金である。なお、伝熱管10は、表面に絶縁性の酸化被膜が形成されている。
【0016】
板状フィン20は、y方向に延びる長方形の形状を有し、互いに平行に配置され、それぞれに伝熱管10が貫通するための複数の切欠部21aと、導電管30が貫通するための切欠部21bが形成されている。板状フィン20は、伝熱管10に取り付けられた複数のフィンの一例である。それぞれの切欠部21a、21bの周縁には、該周縁から立ち上げ形成されて伝熱管10および導電管30の外周部と密着するフィンカラー22a、22bが形成されている。フィンカラー22a、22bは、隣接する板状フィン20との間隔を維持するために隣接する板状フィン20に接触している。切欠部21a、21bに貫通している伝熱管10および導電管30は、拡管により板状フィン20に固定されている。拡管は、球型の金属部材を伝熱管10内に挿入し、押し込むことにより行われる。伝熱管10および導電管30は、板状フィン20とロウ付または溶接されておらず、拡管により物理的に接触しているだけである。
【0017】
導電管30は、x方向に延びる管状の形状を有し、複数の板状フィン20を積層方向に貫通して配置されている。導電管30は、板状フィン20に電気的に接触する導電体の一例である。導電管30は、電気抵抗の小さい金属材で作成することが好ましく、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて作成されることが好ましい。このとき、銅またはアルミニウムをそのまま導電管30として利用すると、その表面には伝熱管10と同様に絶縁性の酸化被膜が形成されているために板状フィン20との良好な導通が得られない。良好な導通を得るため、導電管30は、外側の表層に金属を含む導電膜31が形成されていることが好ましい。導電膜31は、好ましくは、導電管30本体の表面に配置された導電管30本体より酸化しにくい金属膜、または酸化しても導電性を有する金属膜を有する。この導電膜31は、拡管時の導電管30の変形に追従して変形し、板状フィン20と物理的に接触することで、板状フィン20との導通が得られる。このため、導電管30と板状フィン20との接触抵抗は、伝熱管10と板状フィン20との接触抵抗より小さい。なお、接触抵抗は、伝熱管10または導電管30と板状フィン20との接触部分の電気抵抗をいう。導電管30は、好ましくは、スズ若しくはスズ合金を含む導電膜31、金若しくは金合金を含む導電膜31、または、銀若しくは銀合金を含む導電膜31を備えることで、板状フィン20との導通を良好に得ることが可能となる。
【0018】
スズおよびスズ合金は表面に酸化皮膜を形成しやすいが、スズの酸化物は銅およびアルミニウムの酸化物と異なり導電性を有しているため、表面に酸化皮膜が形成されていても接触する管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができる。また、金および金合金、銀および銀合金に関しては表面に酸化皮膜が形成されにくい特徴を有する。そのため、これらの金属を含む導電膜31が導電管30の表面に形成されている場合には、導電管30と電気的に接触する管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができ、導電管30と板状フィン20との接触抵抗を小さくできる。
【0019】
導電膜31の形成方法としては、特に限定されず、導電管30を溶融金属の中を潜らせることで金属の皮膜を形成する溶融めっき法、めっき液に浸した導電管30とめっき液とに通電することにより金属の皮膜を形成する電気めっき法、または、真空中で金属材料を加熱することで蒸発させ、導電管30に金属の薄膜を形成する蒸着法などがある。
【0020】
製造工程を容易にするため、導電管30の外径は、伝熱管10の外径と同じであることが好ましい。これにより、導電管30を挿入するために板状フィン20に形成される切欠部21bを、伝熱管10を挿入するために板状フィン20に形成される切欠部21aと同様に形成できる。また、導電管30の内径を伝熱管10と同じ内径にすることで、伝熱管10と同じ拡管ツールを用いて拡管し、板状フィン20と接触させることが可能となる。
【0021】
管板40は、それぞれy方向に延びる長方形の形状を有する一枚の金属部材であり、積層された板状フィン20の両端に配置され、伝熱管10の端部14および導電管30の端部32を固定するものである。管板40は、伝熱管10が貫通する穴41aと導電管30が貫通する穴41bと電着塗装する際に電極を取り付ける孔42とを有する。ここでは、伝熱管10の端部14は、ヘアピン管11の直線部11aの両端部である。導電管30と管板40との接触抵抗は、伝熱管10と管板40との接触抵抗より小さいことが好ましい。このようにすることで、管板40と導電管30との導通を良好に得ることができる。
【0022】
塗装膜50は、伝熱管10、板状フィン20、導電管30および管板40の表面に配置された樹脂膜であり、伝熱管10、板状フィン20、導電管30および管板40に耐食性を付与するものである。塗装膜50は、伝熱管10および導電管30が取り付けられた管板40および板状フィン20を電着塗料に浸漬し、管板40から電着塗料に電流を流して塗装する電着塗装により形成され、好ましくはカチオン電着塗装により形成される。
【0023】
つぎに、熱交換器100の製造方法を説明する。熱交換器100の製造方法は、図4に示すように、積層された板状フィン20に導電体の一例である導電管30を取り付ける導電体取付工程(ステップS101)と、板状フィン20に伝熱管10を取り付ける伝熱管取付工程(ステップS102)と、導電管30および伝熱管10を拡管して板状フィン20に圧着させる圧着工程(ステップS103)と、板状フィン20に電着塗装を行う電着塗装工程(ステップS104)と、を備える。
【0024】
熱交換器100の製造を開始する前に、伝熱管10、板状フィン20および導電管30を準備する。
【0025】
伝熱管10は、上述したように、図2に示すU字型に成形したヘアピン管11と、図3に示すU字型に成形したUベンド管12と、を有する。伝熱管10の材質は、熱伝導率の高い材料である銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金である。なお、伝熱管10は、表面に絶縁性の酸化被膜が形成されている。
【0026】
板状フィン20は、上述したように、それぞれに伝熱管10が貫通するための複数の切欠部21aと、導電管30が貫通するための切欠部21bが形成されている。それぞれの切欠部21a、21bの周縁には、該周縁から立ち上げ形成されて伝熱管10および導電管30の外周部と密着するフィンカラー22a、22bが形成されている。
【0027】
導電管30は、上述したように、電気抵抗の小さい金属材で作成することが好ましく、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて作成されることが好ましい。また、導電管30は、スズ若しくはスズ合金を含む導電膜31、金若しくは金合金を含む導電膜31、または、銀若しくは銀合金を含む導電膜31を備えることが好ましい。導電管30が導電膜31を備えることで、導電管30と接触する管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができる。また、導電管30の形状としては、伝熱管10と同じ内径であることが好ましい。これにより、伝熱管10と同じ拡管ツールを用いて拡管し、板状フィン20と接触させることが可能となる。
【0028】
導電体取付工程(ステップS101)では、管板40および板状フィン20に導電管30を取り付ける。具体的には、管板40および板状フィン20を積層し、管板40の穴41bおよび板状フィン20の切欠部21bに導電管30を貫通させて、管板40および板状フィン20に導電管30を取り付ける。
【0029】
伝熱管取付工程(ステップS102)では、管板40および板状フィン20に伝熱管10を取り付ける。具体的には、管板40の穴41aおよび板状フィン20の切欠部21aにU字型に成形した複数のヘアピン管11を貫通させて、管板40および板状フィン20にヘアピン管11を取り付ける。なお、導電体取付工程(ステップS101)と伝熱管取付工程(ステップS102)との順番は、特に限定されず、導電体取付工程(ステップS101)の後に伝熱管取付工程(ステップS102)を実施してもよく、伝熱管取付工程(ステップS102)の後に導電体取付工程(ステップS101)を実施してもよく、同時に実施してもよい。
【0030】
圧着工程(ステップS103)では、管板40および板状フィン20に取り付けられた導電管30およびヘアピン管11を拡管することにより、導電管30およびヘアピン管11を板状フィン20および管板40に固定する。導電管30およびヘアピン管11を拡管する方法としては、球型の金属部材を導電管30およびヘアピン管11内に挿入し、押し込むことにより行う。拡管により固定した後は、ヘアピン管11の開放されている側にUベンド管12がロウ付けによりロウ付け部13を形成することで取り付けられ、冷媒の流路が形成される。このように、伝熱管10はヘアピン管11とUベンド管12により構成される。導電管30および伝熱管10と管板40、そして、伝熱管10および導電管30と板状フィン20は、拡管により物理的に接触する。
【0031】
電着塗装工程(ステップS104)では、伝熱管10および導電管30が取り付けられた管板40および板状フィン20に塗装膜50を形成する。塗装膜50は、図5に示すように、被塗装物である伝熱管10および導電管30が取り付けられた管板40および板状フィン20を電着塗料61に浸漬し、管板40と電着塗料61とに電流を流して塗装する電着塗装により形成され、好ましくはカチオン電着塗装により形成される。以下、カチオン電着塗装により塗装膜50を形成する方法を説明する。カチオン電着塗装は、電気化学反応を利用して金属部材に塗装膜50を析出させる方法である。
【0032】
図示しない搬送装置により、吊具62を両端の管板40の孔42に吊りかけて搬送し、伝熱管10および導電管30が取り付けられた管板40および板状フィン20を電着槽63に入れられた電着塗料61に浸漬する。
【0033】
つぎに、管板40の孔42を、吊具62を介して直流電源64の陰極に接続し、電着塗料61に浸漬させた電極65を直流電源64の陽極に接続する。つぎに、電極65から管板40に直流電流を流す。矢印Tの向きは、電子の流れる向きを表す。このとき、塗装膜50の析出速度は電着塗料61から被塗装物に流れる電流密度に依存し、電流が流れやすいところから塗装膜50が析出していく。導電管30と板状フィン20との接触抵抗および導電管30と管板40との接触抵抗は、小さい。また、フィンカラー22a、22bにより隣接する板状フィン20に流れる電流は、間隔を維持するためにフィンカラー22a、22bが隣接する板状フィン20に接触しているのみであるので、導電管30と板状フィン20とに流れる電流に比べて十分小さい。このため、直流電流は管板40から導電管30を介して板状フィン20に均等に流れる。これにより、塗装膜50は、伝熱管10、板状フィン20、導電管30および管板40の表面に均等に析出する。
【0034】
カチオン電着塗装に用いる電着塗料61は、不揮発分として基剤樹脂、硬化剤、顔料、添加剤を含み、揮発分として溶剤、中和剤、水を含む。基剤樹脂は、好ましくは中和剤により水溶化される。より好ましくは、基剤樹脂としてエポキシ樹脂を含み、中和剤として酢酸を含み、顔料としてカーボンブラックを含む。
【0035】
以上のように、実施の形態1の熱交換器100および熱交換器100の製造方法によれば、両端の管板40を貫通する導電管30を備えるため、管板40と導電管30、および、導電管30と板状フィン20が良好に導通される。この結果、両端の管板40を直流電源64に接続し、両端の管板40から直流電流を流す場合、両端の管板40から導電管30を介して板状フィン20に良好に通電することが可能となり、電着塗料61からそれぞれの板状フィン20には同等の電流密度で電流が流れる。このため、電着塗装の際に中央部フィン24と端部フィン23との塗装膜50の析出速度を均一化することが可能となり、それぞれの板状フィン20には同等の速度で均一な膜厚の塗装膜50が析出する。また、管板40と導電管30、および、導電管30と板状フィン20が良好に導通されるため、板状フィン20の全体に塗装膜50が析出するために要する電着塗装時間を短縮できる。さらに、それぞれの板状フィン20の塗装膜50の析出速度を均一化することができるため、一部の板状フィン20の膜厚が大きくなることを抑制することが可能となり、一部の板状フィン20に余剰な膜が形成されることによる伝熱性能の低下を抑制しつつ、熱交換器100全体への塗装膜50の析出による耐食性の付与が可能となる。従って、防食性および伝熱性に優れた熱交換器を提供することができる。
【0036】
これに対して、図6に示す導電管30を備えない比較例の熱交換器100’について説明する。比較例の熱交換器100’は、実施の形態1の熱交換器100と比較して導電管30を備えない以外は同じである。さらには、伝熱管10としては一般的には銅または銅合金が使用されているために、伝熱管10の表面には絶縁性の酸化被膜が形成されており、接触抵抗が大きいため、管板40から伝熱管10、伝熱管10から板状フィン20に直流電流が流れにくい。
【0037】
実施の形態1の熱交換器100では、導電管30と板状フィン20が良好に導通されているため、電着塗料61から端部フィン23および中央部フィン24には同等の電流密度で電流が流れる。これに対して、比較例の熱交換器100’では、伝熱管10の表面には絶縁性の酸化被膜が形成されており、伝熱管10と板状フィン20との接触抵抗が大きく、フィンカラー22a、22bにより隣接する板状フィン20に流れる電流が無視できない。このため、電着塗料61から中央部フィン24に流れる電流密度が、端部フィン23に流れる電流密度より小さくなり、塗装膜50の析出速度が遅くなる。この結果、中央部フィン24に塗装膜50の析出が完了するまでに長い時間を要することに加え、中央部フィン24の塗装が完了するまで端部フィン23の膜厚が徐々に増加していくために、中央部フィン24に対して端部フィン23に厚い塗装膜50が形成されてしまい熱交換器100’としての伝熱性能が低下する。実際には、塗装膜50の析出速度は、それぞれの板状フィン20から電着槽63の中に浸漬させた電極65までの距離、すなわち溶液抵抗にも依存するが、ここでは便宜上、熱交換器100’のそれぞれ板状フィン20から電極65までの溶液抵抗は同等であると仮定する。
【0038】
(実施の形態1の変形例)
上述の実施の形態では、導電管30が管板40の上方にあり、吊具62に近い位置に配置される例に用いて説明したが、導電管30は、管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができればよく、導電管30が配置される位置は限定されず、導電管30が管板40の下方にあり、吊具62から遠い位置に配置されてもよい。この場合であっても、両端の管板40はそれぞれ一枚の金属部材であるため、管板40内の抵抗は接触抵抗に比べて無視できるほどに小さいために、吊具62から近い場合と同様の効果を得ることができる。また、導電管30は、少なくとも1つ備えればよく、2個以上備えてもよい。導電管30を2個以上備えることで、管板40および板状フィン20との導通をより良好に得ることができる。
【0039】
上述の実施の形態では、圧着工程(ステップS103)において、球型の金属部材を導電管30およびヘアピン管11内に挿入し、押し込むことにより拡管する方法について説明した。圧着工程(ステップS103)では、導電管30およびヘアピン管11を板状フィン20および管板40に固定することができればよく、拡管する方法は限定されず、伝熱管10および導電管30に液体を高い圧力で導入して伝熱管10および導電管30を拡管してもよい。このようにすることで、球型の金属部材用いる場合と比較して、より均等に圧力を伝熱管10および導電管30に与えることができるため、拡管後の伝熱管10および導電管30の真円度を維持することができる。
【0040】
上述の実施の形態では、板状フィン20に電気的に接触する導電体として、筒状の形状を有する導電管30を用いる例について説明した。導電体は板状フィン20に電気的に接触し、導通を良好に得ることができものであれば限定されない。導電体は、中実の円柱状部材であってもよい。この場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0041】
上述の実施の形態では、熱交換器100が、板状フィン20を挟んで配設された一対の管板40を備える例について説明した。熱交換器100は、板状フィン20に均一に通電することで、均一な膜厚の塗装膜50を析出できればよく、図7に示すように、管板40を省略してもよい。この場合、導電管30は、板状フィン20からxおよび-x方向に突出する突出部33を有する。電着塗装工程(ステップS104)では、吊具62を導電管30の突出部33に取り付ける。導電管30と板状フィン20との接触抵抗は、上述の実施の形態と同様に小さいため、電流は導電管30から板状フィン20に均等に流れる。これにより、塗装膜50は、伝熱管10、板状フィン20および導電管30の表面に均等に析出する。
【0042】
上述の実施の形態では、電着塗装工程(ステップS104)において、管板40を直流電源64の陰極に接続し、電極65を直流電源64の陽極に接続するカチオン電着塗装について説明したが、電着塗装工程(ステップS104)では、電着塗装により塗装することができればよく、管板40を直流電源64の陽極に接続し、電着塗料61に浸漬させた電極65を直流電源64の陰極に接続するアニオン電着塗装を実施してもよい。この場合であっても、管板40と導電管30、および、導電管30と板状フィン20が良好に導通されため、カチオン電着塗装と同様の効果を得ることができる。カチオン電着塗装とアニオン電着塗装の何れを用いるかは、板状フィン20の素材、塗装膜50の種類、熱交換器100を使う環境または目的により決定される。
【0043】
(実施の形態2)
実施の形態1では、導電体として導電管30または円柱状部材を用いる例について説明した。実施の形態2の熱交換器100は、図8に示すように、伝熱管10と、板状フィン20と、管板40と、塗装膜50と、導電管30または円柱状部材に代えて、伝熱管10のうちヘアピン管11の表面に導電体膜15を成膜した少なくとも一つの導電伝熱管16を備える。実施の形態2の熱交換器100が備える伝熱管10、板状フィン20、管板40および塗装膜50は、実施の形態1の熱交換器100が備える伝熱管10、板状フィン20、管板40および塗装膜50と同様である。なお、実施の形態2の熱交換器100は、導電体膜15を有さない少なくとも1つの伝熱管10を備える。
【0044】
実施の形態1にて説明したとおり、フィンアンドチューブ式の熱交換器100は、積層した板状フィン20および管板40に、複数のヘアピン管11を挿入し、隣接するヘアピン管11と開放されている端部にUベンド管をロウ付けすることで接続し、伝熱管10を形成する。このとき、ヘアピン管11は両端の管板40を貫通しているが、ヘアピン管11は一般的に銅および銅合金から成るために、表面に酸化皮膜が形成されており、板状フィン20および管板40との良好な導通を得ることができない。
【0045】
導電伝熱管16は、板状フィン20に形成された切欠部21cを貫通して配置され、切欠部21aの周縁に立ち上げ形成されたフィンカラー22cと接触している。導電伝熱管16と板状フィン20との接触抵抗は、導電体膜15を有することにより、導電体膜15を有さない伝熱管10と板状フィン20との接触抵抗より小さい。また、導電伝熱管16は、端部17が管板40の穴41cに接触して配置される。これにより、管板40と板状フィン20との導通を良好に得ることができる。導電伝熱管16を複数用いると、管板40と板状フィン20との導通をより良好に得ることができる。なお、導電伝熱管16は、実施の形態1で説明した導電体取付工程(ステップS101)において取り付けられる。
【0046】
導電体膜15は、導電伝熱管16本体より酸化しにくい金属膜、または酸化しても導電性を有する金属膜であり、具体的には、スズ若しくはスズ合金、金若しくは金合金、または、銀若しくは銀合金を含む膜であることが好ましい。導電体膜15は、少なくとも管板40と複数の板状フィン20とに接触する領域に形成されればよい。具体的には、導電体膜15は、x方向に延びる直線部18に形成され、導電体膜15の両端が管板40の穴41cに接触していればよい。これにより、導電伝熱管16と板状フィン20および管板40との導通を良好に得ることが可能となる。スズおよびスズ合金は表面に酸化皮膜を形成しやすいが、表面に酸化皮膜が形成されていても接触する管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができる。また、金および金合金、銀および銀合金に関しては表面に酸化皮膜が形成されにくい特徴を有する。そのため、これらの金属を含む導電体膜15がヘアピン管11の表面に形成されている場合には、導電伝熱管16と接触する管板40および板状フィン20との導通を良好に得ることができる。導電体膜15は、実施の形態1の導電膜31を形成する方法と同様の方法により形成することができる。
【0047】
以上のように、実施の形態2の熱交換器100によれば、板状フィン20および管板40に接触する導電伝熱管16を備えるため、管板40と導電伝熱管16、および、導電伝熱管16と板状フィン20が良好に導通される。この結果、実施の形態1の熱交換器100と同様に、管板40から導電伝熱管16を介してそれぞれの板状フィン20に通電することが可能となり、実施の形態2の熱交換器100は、実施の形態1の熱交換器100と同様の効果を得ることができ、防食性および伝熱性に優れた熱交換器を提供することができる。また、導電伝熱管16の位置については、両端の管板40はそれぞれ一枚の金属部材であるために管板40内の抵抗は無視できるほどに小さいため、吊具62からの距離に係わらず同様の効果を得ることができるため、導電伝熱管16の位置または個数に限定されるものではない。
【0048】
(変形例)
上述の実施の形態では、熱交換器100が、冷媒を伝熱管10に流して板状フィン20の間を流れる空気と熱交換することで空気の温度を調節する空気調和機に用いられる例について説明した。熱交換器100は、伝熱管10の内部を流れる流体と板状フィン20の間を流れる流体とで熱交換するものであり、用途は限定されない。熱交換器100は、冷蔵庫または冷凍庫に用いられてもよい。また、熱交換器100は、伝熱管10の内部を流れる冷却水と板状フィン20の間を流れる空気とで熱交換し、冷却水を冷却するラジエータとして用いられてもよい。また、伝熱管10の内部を流れる流体は、液体であっても気体であってもよい。また、板状フィン20の間を流れる流体は、液体であっても気体であってもよい。
【0049】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0050】
100 熱交換器、10 伝熱管、11 ヘアピン管、11a 直線部、11b 湾曲部、12 Uベンド管、13 ロウ付け部、14 端部、15 導電体膜、16 導電伝熱管、17 端部、18 直線部、20 板状フィン、21a~21c 切欠部、22a~22c フィンカラー、23 端部フィン、24 中央部フィン、30 導電管、31 導電膜、32 端部、33 突出部、40 管板、41a~41c 穴、42 孔、50 塗装膜、61 電着塗料、62 吊具、63 電着槽、64 直流電源、65 電極、T 矢印。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8