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特許7399034光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法
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  • 特許-光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/34 20060101AFI20231208BHJP
   H01J 43/24 20060101ALI20231208BHJP
   H01J 9/12 20060101ALI20231208BHJP
   H01J 40/06 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H01J1/34
H01J43/24
H01J9/12 A
H01J40/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020104501
(22)【出願日】2020-06-17
(62)【分割の表示】P 2020083927の分割
【原出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021007095
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019118249
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019126375
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】河合 輝典
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 良崇
(72)【発明者】
【氏名】柴山 正巳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山下 真一
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166262(JP,A)
【文献】特開2010-257962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
H01J 1/32-1/98
H01J 9/02-9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、光の入射に応じて光電子を発生させる光電変換層と、
前記基板と前記光電変換層との間に設けられ、ベリリウムの窒化物及びベリリウムの酸化物を含む下地層と、
を備える光電陰極。
【請求項2】
前記下地層は、前記基板に接触している、
請求項1に記載の光電陰極。
【請求項3】
前記光電変換層は、前記下地層に接触している、
請求項1又は2に記載の光電陰極。
【請求項4】
前記基板は、前記光を透過する材料からなる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光電陰極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光電陰極と、
電子を収集する陽極と、
を備える電子管。
【請求項6】
基板を用意する第1工程と、
前記基板上にベリリウムの窒化物及びベリリウムの酸化物を含む下地層を形成する第2工程と、
前記下地層上に、光の入射に応じて光電子を発生させる光電変換層を形成する第3工程と、
を備える光電陰極の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程においては、前記基板に直接的に前記下地層を形成する、
請求項6に記載の光電陰極の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程においては、前記下地層に直接的に前記光電変換層を形成する、
請求項6又は7に記載の光電陰極の製造方法。
【請求項9】
前記基板は、前記光を透過する材料からなる、
請求項6~8のいずれか一項に記載の光電陰極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光電陰極が記載されている。この光電陰極は、支持基板と、支持基板上に設けられた光電子放出層と、支持基板と光電子放出層との間に設けられた下地層と、を備えている。下地層は、ベリリウム合金の酸化物、又は、酸化ベリリウムを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5342769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された光電陰極では、支持基板と光電子放出層との間に、ベリリウム元素を含む下地層を設けることによって実効的な量子効率を向上することを図っている。一方で、上記技術分野にあっては、生産性の向上が要求されている。
【0005】
本発明は、生産性を向上可能な光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を進めることにより、以下の知見を得た。すなわち、ベリリウム合金の酸化物、又は、酸化ベリリウムの下地層に比べて、ベリリウムの窒化物を含む下地層の方が生産性が高い(効率よく製造される)。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明に係る光電陰極は、基板と、基板上に設けられ、光の入射に応じて光電子を発生させる光電変換層と、基板と光電変換層との間に設けられ、ベリリウムを含む下地層と、を備え、下地層は、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層を有する。
【0008】
この光電陰極においては、基板と光電変換層との間に、ベリリウムを含む下地層が設けられている。そして、下地層は、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層を有する。このため、上記知見のとおり、下地層が効率よく製造される。よって、この光電陰極によれば、生産性を向上可能である。
【0009】
本発明に係る光電陰極においては、下地層は、第1下地層と光電変換層との間に設けられ、ベリリウムの酸化物を含む第2下地層を有してもよい。この場合、量子効率が向上される。
【0010】
本発明に係る光電陰極においては、第2下地層では、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多くてもよい。この場合、量子効率が確実に向上される。
【0011】
本発明に係る光電陰極においては、下地層は、基板に接触していてもよい。この場合、基板に直接的に下地層を形成できるので、より生産性が向上される。
【0012】
本発明に係る光電陰極においては、光電変換層は、下地層に接触していてもよい。この場合、量子効率がより向上される。
【0013】
本発明に係る光電陰極においては、基板は、光を透過する材料からなってもよい。この場合、透過型の光電陰極を構成できる。
【0014】
本発明に係る電子管は、上記のいずれかの光電陰極と、電子を収集する陽極と、を備える。この電子管によれば、上述した理由により生産性を向上可能である。
【0015】
本発明に係る光電陰極の製造方法は、基板を用意する第1工程と、基板上にベリリウムを含む下地層を形成する第2工程と、下地層上に、光の入射に応じて光電子を発生させる光電変換層を形成する第3工程と、を備え、第2工程は、基板上にベリリウムの窒化物を含む中間層を形成する形成工程と、下地層として、基板上に設けられベリリウムの窒化物を含む第1下地層と、第1下地層上に設けられベリリウムの酸化物を含む第2下地層と、が形成されるように、中間層に対して酸化処理を行う処理工程と、を有する。
【0016】
この製造方法においては、基板上にベリリウムの窒化物を含む中間層を形成した後に、その中間層の酸化処理によって、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層と、ベリリウムの酸化物を含む第2下地層と、を含む下地層を形成する。このため、上記の知見のとおり、下地層が効率よく製造される。また、量子効率が向上される。よって、この製造方法によれば、量子効率が向上された光電陰極の生産性が向上される。
【0017】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、形成工程において、窒素雰囲気でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングにより中間層を形成してもよい。このように、窒素雰囲気下でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングによって、効率よく下地層(中間層)を製造可能である。
【0018】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、形成工程において、窒素雰囲気中に窒素と異なる不活性ガスを混入した状態でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングにより中間層を形成してもよい。この場合、より効率よく下地層(中間層)を製造可能である。
【0019】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、酸化処理は、加熱処理及び/又は放電処理を含んでもよい。このように、第2下地層のための酸化処理としては、加熱処理や放電処理が有効である。
【0020】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、処理工程において、第2下地層においてベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多くなるように、酸化処理を行ってもよい。この場合、量子効率が確実に向上された光電陰極を製造可能である。
【0021】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、第2工程において、基板に直接的に下地層を形成してもよい。この場合、より生産性が向上される。
【0022】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、第3工程において、下地層に直接的に光電変換層を形成してもよい。この場合、量子効率がより向上された光電陰極を製造可能である。
【0023】
本発明に係る光電陰極の製造方法においては、基板は、光を透過する材料からなってもよい。この場合、透過性の光電陰極を製造できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生産性を向上可能な光電陰極、電子管、及び、光電陰極の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る電子管(光電子増倍管)を示す模式的な断面図である。
図2図1に示された光電陰極の部分的な断面図である。
図3図1,2に示された光電陰極の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図4図1,2に示された光電陰極の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図5図1,2に示された光電陰極の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0027】
図1は、本実施形態に係る電子管の一例として、光電子増倍管を示す模式的な断面図である。図1に示される光電子増倍管(電子管)10は、光電陰極1、容器32、集束電極36、陽極38、増倍部40、ステムピン44、及び、ステム板46を備えている。容器32は、筒状であり、一方の端部を入射窓34(ここでは光電陰極1の基板100)により封止されると共に、他方の端部をステム板46により封止されることにより真空筐体として構成されている。集束電極36、陽極38、及び、増倍部40は、容器32内に配置されている。
【0028】
入射窓34は、入射光hνを透過する。光電陰極1は、入射窓34からの入射光hνに応じて光電子eを放出する。集束電極36は、光電陰極1から放出された光電子eを増倍部40に導く。増倍部40は、複数のダイノード42を含み、光電子eの入射に応じて発生する二次電子を増倍する。陽極38は、増倍部40により発生した二次電子を収集する。ステムピン44は、ステム板46を貫通するように設けられている。ステムピン44には、対応する集束電極36、陽極38、及び、ダイノード42が電気的に接続されている。
【0029】
図2は、図1に示された光電陰極の部分的な断面図である。図2の(b)は、図2の(a)の領域Aの拡大図である。図2に示されるように、光電陰極1は、透過型として構成されている。光電陰極1は、基板100、下地層200、及び、光電変換層300を有している。基板100は、光(入射光hν)を透過する材料からなる。基板100は、面101aと、面101aの反対側の面(第1面)102aと、を含む。面101aは、容器32の外側に臨む面であり、ここでは入射光hνの入射面である。下地層200は、面102a上に設けられている。下地層200は、面102aに接触している。すなわち、下地層200は、基板100(面102a)に直接的に形成されている。
【0030】
下地層200は、面102aと反対側の面200aを有している。光電変換層300は、面(第2面)200a上に設けられている。換言すれば、光電変換層300は、基板100上に設けられており、下地層200は、基板100と光電変換層300との間に設けられている。光電変換層300は、下地層200の面200aに接触している。すなわち、光電変換層300は、下地層200(面200a)に直接的に設けられている。このように、光電陰極1においては、下地層200及び光電変換層300が、基板100上に順に積層されている。光電変換層300は、基板100及び下地層200を介して入射光hνの入射を受け、当該入射光hνに応じて光電子eを発生させる。すなわち、ここでは、光電陰極1は、透過型の光電陰極である。
【0031】
ここで、下地層200は、ベリリウムの窒化物(例えば窒化ベリリウム)を含む。より具体的には、下地層200は、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層210と、ベリリウムの酸化物(例えば酸化ベリリウム)を含む第2下地層220と、を含む。第1下地層210は、基板100の面102aと反対側の面(第3面)210aを有している。第2下地層220は、面210a上に設けられている。換言すれば、第2下地層220は、第1下地層210と光電変換層300との間に設けられている。ここでは、第2下地層220は、第1下地層210の面210aに接触している。なお、後述するように、面210aは、図示したような明確な境界を有する面に限らず、仮想的な面であり得る。
【0032】
第2下地層220は、基板100の面102a及び第1下地層210の面210aと反対側の面を有している。第2下地層220の当該面は、ここでは下地層200の面200aである。また、第1下地層210は、基板100の面102aに接触している。すなわち、ここでは、下地層200は、第1下地層210において基板100(面102a)に接触しており、第2下地層220において光電変換層300に接触している。
【0033】
第2下地層220においては、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多い。換言すれば、第1下地層210においては、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量以下である。第1下地層210の面210aは、下地層200の深さ方向(下地層200の面200aに交差する方向)において、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多い領域と、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量以下である領域との境界として定義され得る。この場合、第1下地層210と第2下地層220とが連続的に形成され得ることから、面210aが仮想的な面であり得る。
【0034】
ベリリウムの酸化物の量とベリリウムの窒化物の量との比率は、一例として原子数比である。この場合には、下地層200の面200aを含み(面200aから深さ方向に)、酸素の原子数の比率が窒素の原子数の比率よりも多い領域が第2下地層220とされ、当該領域よりも基板100側の領域が第1下地層210とされ得る。原子数の分析方法としては、例えば、X線光電子分光分析法やオージェ電子分光分析方法等が挙げられる。
【0035】
下地層200の全体の厚さは、例えば、200Å~800Å程度である。第1下地層210の厚さは、例えば、200Å~700Å程度である。第2下地層220の厚さは、例えば、0~100Å程度である。第1下地層210の厚さに対する第2下地層220の厚さの比は、一例として0~0.5程度である。第2下地層220における酸素原子比率は、例えば30at%~100at%程度である。なお、光電陰極1においては、第2下地層220が設けられなくてもよく(すなわち、上記の第2下地層220の厚さの範囲から0が選択されてもよく)、その場合、第1下地層210の厚さは下地層200の全体の厚さと一致し得る。第2下地層220が設けられる場合には、第2下地層220の厚さの下限は例えば1Åである。
【0036】
光電変換層300は、例えば、アンチモン(Sb)、とアルカリ金属との化合物からなる。アルカリ金属は、例えば、セシウム(Cs)、カリウム(K)、及び、ナトリウム(Na)の少なくともいずれかを含み得る。光電変換層300は、光電陰極1の活性層として機能する。光電変換層300の厚さは、例えば、100Å~2500Å程度である。光電陰極1の全体の厚さは、例えば、300Å~3300Å程度である。
【0037】
引き続いて、光電陰極1の製造方法について説明する。図3~5は、図1,2に示された光電陰極の製造方法を説明するための模式的な断面図である。図3の(c)は、図3の(b)の領域Fの拡大図である。図4の(b)は、図4の(a)の領域Gの拡大図である。この製造方法においては、まず、図3の(a)に示されるように、基板100を用意する(第1工程)。ここでは、基板100によって一方の端部が封止されて構成される容器32を用意する。続いて、基板100(面102a)上にベリリウムを含む下地層200を形成する(第2工程)。第2工程について詳細に説明する。
【0038】
第2工程では、まず、基板100(面102a)上にベリリウムの窒化物(例えば窒化ベリリウム)を含む中間層400を形成する(形成工程)。より具体的には、まず、洗浄処理を行った容器32(基板100)をチャンバB内に配置する。また、ベリリウム源Cを基板100(面102a)に対向するようにチャンバB内に配置する。そして、チャンバB内を窒素雰囲気としつつ、該窒素雰囲気でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングにより、基板100(面102a)に直接的に中間層400を形成する(図3の(b),(c)参照)。このときのチャンバB内の雰囲気は、窒素のみからなるものとしてもよいし、窒素と異なる不活性ガスが混入されたものとしてもよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、水素等である。
【0039】
蒸着方法としては、抵抗加熱蒸着法や化学気相成長法等を用いることができる。スパッタリングとしては、DCマグネトロン反応性スパッタリング、RFマグネトロンスパッタリング(非反応性)、又は、RFマグネトロン反応性スパッタリング等を用いることができる。
【0040】
続く工程においては、図3の(b)に示されるように、集束電極36、陽極38、及び増倍部40が組付けられたステム板46によって容器32の他端部を封止する。集束電極36には、蒸着源Dが配置されている。また、ステム板46には、ステムピン44を介してアルカリ金属源Eが配置されている。この状態において、図4に示されるように、中間層400の酸化処理によって中間層400から下地層200を形成する(処理工程)。より具体的には、処理工程では、中間層400における基板100と反対側から中間層400に対して酸化処理を行う。これにより、中間層400における基板100と反対側の面400aを含む領域であって、ベリリウムの窒化物を含む膜状の領域がベリリウムの酸化物を含む領域に置換される。この結果、第1下地層210と第2下地層220とが形成され、下地層200が得られる。
【0041】
すなわち、処理工程では、下地層200として、基板100(面102a)上に設けられベリリウムの窒化物を含む第1下地層210と、第1下地層210における基板100(面102a)と反対側の面210a上に設けられベリリウムの酸化物を含む第2下地層220と、が形成されるように、基板100(面102a)と反対側から中間層400に対して酸化処理を行う。酸化処理の方法は、例えば、加熱処理及び/又は放電処理である。
【0042】
放電による酸化の場合、DC放電酸化やAC放電酸化(例えばRF放電酸化)等を用いることができる。酸化処理の方法としてグロー放電を利用する場合、真空状態とされた容器32内に酸素を適度に封入した後に、集束電極36と容器32(基板100)との間に電圧を印加し、中間層400の面400a側から、ベリリウムの窒化物を含む領域をベリリウムの酸化物を含む領域に置換する。このときの容器32内の圧力(ガスの圧力)は、例えば、0.01Pa~1000Pa程度である。
【0043】
続く工程においては、図5に示されるように、下地層200の基板100と反対側の面200a上に光電変換層300を形成する(第3工程)。より具体的には、第3工程では、まず、図5の(a)に示されるように、蒸着源Dを用いたアンチモンの蒸着により、面200a上に中間層500を形成する。続いて、図5の(b)に示されるように、アルカリ金属源Eからのアルカリ金属の蒸気を中間層500に供給することにより、中間層500を活性化させる。これにより、中間層500から、アンチモンとアルカリ金属との化合物からなる光電変換層300が形成される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る光電陰極1においては、基板100と光電変換層300との間に、ベリリウムを含む下地層200が設けられている。そして、下地層200は、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層210を有する。本発明者の知見によれば、ベリリウムの窒化物を含む膜の成膜速度は、例えば窒素雰囲気下でのスパッタリング等によって、ベリリウムの酸化物からなる膜の成膜速度に比べて高くなる。すなわち、下地層200が効率よく製造される。よって、この光電陰極1によれば、生産性が向上される。なお、本発明者の知見によれば、ベリリウムの窒化物を含む下地層200を用いた場合には、十分な感度(量子効率)をも確保可能である。
【0045】
また、本実施形態に係る光電陰極1においては、下地層200は、第1下地層210と光電変換層との間に設けられ、ベリリウムの酸化物を含む第2下地層220を有している。このため、量子効率が向上される。
【0046】
また、本実施形態に係る光電陰極1においては、第2下地層220では、ベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多い。このため、量子効率が確実に向上される。また、本実施形態に係る光電陰極1においては、下地層200は、基板100に接触している。このため、基板100に直接的に下地層200を形成できるので、より生産性が向上される。
【0047】
また、本実施形態に係る光電陰極1においては、光電変換層300は、下地層200に接触している。このため、量子効率がより向上される。より具体的には、ベリリウムを含む下地層200が光電変換層300に接触した状態で設けられると、製造工程において光電変換層300に含まれるアルカリ金属(例えばカリウムやセシウム)の拡散が効果的に抑制される結果、高い実効的量子効率が実現されると考えられる。さらには、下地層200は、光電変換層300内で発生した光電子のうち、基板100側へ向かう光電子の進行方向を光電変換層300側に反転させるように機能する結果、光電陰極1全体の量子効率が向上されると考えられる。
【0048】
ここで、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、基板100上にベリリウムの窒化物を含む中間層400を形成した後に、その中間層400の酸化処理によって、ベリリウムの窒化物を含む第1下地層210と、ベリリウムの酸化物を含む第2下地層220と、を含む下地層200を形成する。このため、上記の知見のとおり、下地層200が効率よく製造される。また、量子効率が向上される。よって、この製造方法によれば、量子効率が向上された光電陰極1の生産性が向上される。
【0049】
また、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、形成工程において、窒素雰囲気でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングにより中間層400を形成する。このように、窒素雰囲気下でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングによって、効率よく下地層200(中間層400)を製造可能である。
【0050】
また、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、形成工程において、窒素雰囲気中に窒素と異なる不活性ガスを混入した状態でのベリリウムの蒸着又はスパッタリングにより中間層400する。このため、より効率よく下地層200(中間層400)を製造可能である。
【0051】
また、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、第2下地層220を形成するための酸化処理として、加熱処理や放電処理が有効である。本発明者の知見によれば、酸化処理として、グロー放電による酸化を利用することにより、熱による酸化と比較して感度(量子効率)の向上を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、処理工程において、第2下地層220においてベリリウムの酸化物の量がベリリウムの窒化物の量よりも多くなるように、酸化処理を行う。これにより、量子効率が確実に向上された光電陰極を製造可能である。
【0053】
また、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、第2工程において、基板100に直接的に下地層200を形成する。このため、より生産性が向上される。さらには、本実施形態に係る光電陰極1の製造方法においては、第3工程において、下地層200に直接的に光電変換層300を形成する。このため、上記の知見のとおり、量子効率がより向上された光電陰極1を製造可能である。
【0054】
以上の実施形態は、本発明の一態様を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の変形がされ得る。例えば、上記実施形態においては、光電陰極1を透過型として説明したが、光電陰極1を反射型として構成することも可能である。また、基板100(面102a)と下地層200との間、及び/又は、下地層200(面200a)と光電変換層300との間に、別の層が介在していてもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、ベリリウムの窒化物を含む中間層400の酸化処理によって、第1下地層210と第2下地層220とを形成した。これに対して、ベリリウムの窒化物を含む膜(第1下地層210となる層)を成膜した後に、当該膜に対して改めてベリリウムの酸化物を含む膜(第2下地層となる層)を成膜することにより、第1下地層210と第2下地層220とを形成してもよい。この場合、第1下地層210と第2下地層220との間の面210aが実在する面であり得る。
【符号の説明】
【0056】
1…光電陰極、10…光電子増倍管(電子管)、100…基板、200…下地層、210…第1下地層、220…第2下地層、300…光電変換層、400,500…中間層。
図1
図2
図3
図4
図5