(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/72 20060101AFI20231208BHJP
H02M 7/49 20070101ALI20231208BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231208BHJP
【FI】
H02M7/72
H02M7/49
H02M7/48 R
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020194276
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】山川 智之
(72)【発明者】
【氏名】川村 弥
(72)【発明者】
【氏名】柏木 航平
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-092333(JP,A)
【文献】特許第6779424(JP,B1)
【文献】特開2017-175740(JP,A)
【文献】特開2017-195682(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148100(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/72
H02M 7/49
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された単位変換器を含む電力変換部と、
前記電力変換部を制御する制御装置と、
を備え、
前記単位変換器は、
第1スイッチング素子と、
前記第1スイッチング素子に直列に接続された第2スイッチング素子と、
前記第1スイッチング素子に逆並列に接続された第1ダイオードと、
前記第2スイッチング素子に逆並列に接続された第2ダイオードと、
前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子の直列回路に並列に接続されたコンデンサと、
前記第1スイッチング素子を駆動する第1ゲート回路と、
前記第2スイッチング素子を駆動する第2ゲート回路と、
前記コンデンサに蓄積された電力を入力して前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路の動作のための電力を前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路に供給する主回路給電回路と、
を含み、
前記単位変換器は、前記コンデンサの両端電圧があらかじめ設定された過電圧しきい値以上の場合にバイパス状態に設定され、
前記バイパス状態では、
前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子は、オフに設定され、
前記第2スイッチング素子をオンさせるためのバイパス指令が生成され、
前記バイパス指令は、
前記コンデンサの両端電圧が前記過電圧しきい値よりも低い値を有する第1しきい値に達するまで前記バイパス指令をアクティブに設定され、
前記第1しきい値に達してから、前記コンデンサの両端電圧が前記過電圧しきい値よりも低く、前記第1しきい値よりも高い値を有する第2しきい値に達するまで、非アクティブに設定され
、
前記主回路給電回路は、前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路に電力を供給するために必要な最低動作電圧を有し、
前記第1しきい値は、前記最低動作電圧よりも高い値を有する電力変換装置。
【請求項2】
前記コンデンサに蓄積された電力を入力して前記第2ゲート回路のための電力を前記第2ゲート回路に供給する補助給電回路をさらに備え、
前記主回路給電回路が前記第2ゲート回路に電力を供給できない場合には、前記補助給電回路は、前記第2ゲート回路の動作のための電力を供給し、
前記補助給電回路は、前記主回路給電回路の出力容量よりも小さい出力容量を有する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記単位変換器は、前記バイパス状態において、前記バイパス指令のアクティブおよび非アクティブを切り替える請求項1
または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記バイパス状態において、前記バイパス指令のアクティブおよび非アクティブを切り替える請求項1
または2に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統や鉄道等の社会インフラ、工場設備等に設置される電力変換装置では、複数の電力変換器を多重化することによって、扱う電力の大容量化を図る場合がある。電力変換器の多重化とともに、複数の電力変換器を冗長構成とすることによって、電力システムの可用性を向上させることができる。
【0003】
このような多重化された電力変換装置として、モジュラーマルチレベルコンバータ(MMC)方式の変換器がある。MMC方式の電力変換器では、複数の単位変換器をカスケードに接続して、入出力される電圧の高電圧化に対応することができる。
【0004】
MMC方式の電力変換器では、単位変換器に故障が生じた場合には、故障した単位変換器の運転を停止させ、単位変換器をアームから除外するバイパス状態とすることによって、電力変換装置の冗長化を実現し、可用性を向上させている。
【0005】
単位変換器は、スイッチング素子やこれらを駆動するゲート回路、制御装置から制御信号を受信して駆動信号を生成する制御回路等を有しており、これらを動作させるための電源回路を有している場合がある。この電源回路を主回路給電回路という。
【0006】
単位変換器がバイパス状態の場合には、主回路給電回路の動作のための電力が、外部から供給されないことがある。その場合には、ゲート回路等への電力供給が遮断され、バイパス状態が維持できないことがある。
【0007】
このような事態を回避するため、単位変換器のバイパス状態を無電源で維持するために機械式リレーを用いた方法が知られている(たとえば、特許文献1等)。
【0008】
このほか、主回路給電回路を冗長化する方法が知られており(たとえば、特許文献2等)、2台の単位変換器の主回路給電回路によって、相互に電力供給できるように接続する方法も知られている。
【0009】
これらの方法では、単位変換器を構成する部品が増えたり、冗長化のための主回路給電回路の構成が複雑になり配線の引き回しが煩雑になったりする問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-11992号公報
【文献】特開2019-92333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
実施形態は、簡素な構成でバイパス状態を維持できる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態に係る電力変換装置は、直列に接続された単位変換器を含む電力変換部と、前記電力変換部を制御する制御装置と、を備える。前記単位変換器は、第1スイッチング素子と、前記第1スイッチング素子に直列に接続された第2スイッチング素子と、前記第1スイッチング素子に逆並列に接続された第1ダイオードと、前記第2スイッチング素子に逆並列に接続された第2ダイオードと、前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子の直列回路に並列に接続されたコンデンサと、前記第1スイッチング素子を駆動する第1ゲート回路と、前記第2スイッチング素子を駆動する第2ゲート回路と、前記コンデンサに蓄積された電力を入力して前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路の動作のための電力を前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路に供給する主回路給電回路と、を含む。前記単位変換器は、前記コンデンサの両端電圧があらかじめ設定された過電圧しきい値以上の場合にバイパス状態に設定され、前記バイパス状態では、前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子は、オフに設定され、前記第2スイッチング素子をオンさせるためのバイパス指令が生成さる。前記バイパス指令は、前記コンデンサの両端電圧が前記過電圧しきい値よりも低い値を有する第1しきい値に達するまで前記バイパス指令をアクティブに設定され、前記第1しきい値に達してから、前記コンデンサの両端電圧が前記過電圧しきい値よりも低く、前記第1しきい値よりも高い値を有する第2しきい値に達するまで、非アクティブに設定される。前記主回路給電回路は、前記第1ゲート回路および前記第2ゲート回路に電力を供給するために必要な最低動作電圧を有する。前記第1しきい値は、前記最低動作電圧よりも高い値を有する。
【発明の効果】
【0013】
本実施形態では、簡素な構成でバイパス状態を維持できる電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図4】実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的な動作波形図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なブロック図ある。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図6(c)は、
図6(b)の電力変換装置の動作を説明するための模式的な動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0016】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置10は、電力変換部20と、制御装置50と、を備える。電力変換部20は、端子21a~21cを含む。電力変換部20は、端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。この例のように、電力変換部20は、変圧器2を介して、交流回路1に接続されてもよい。交流回路1は、たとえば、交流電源や交流負荷、送電線等を含むことができる。交流回路1は、たとえば、三相交流の電力系統である。
【0017】
電力変換部20は、端子21d,21eを含む。電力変換部20は、端子21d,21eを介して、直流回路3に接続される。直流回路3は、たとえば直流電源や直流負荷、直流送電線等を含むことができる。直流回路3は、たとえば、直流の電力系統である。
【0018】
実施形態の電力変換装置10は、交流回路1と直流回路3との間に接続されて、交流-直流間を双方向、あるいはいずれか一方向に電力変換する。
【0019】
電力変換部20は、複数の単位変換器30を含む。複数の単位変換器30は、直列に接続されている。たとえば、単位変換器30は、n台直列に接続されてアーム22を構成している。アーム22は、リアクトル24を介して直列に接続されている。アーム22およびリアクトルの直列回路をレグという。この例では、レグは、三相交流の各相に対応するように3つ設けられている。3つのレグは、端子21d,21e間に並列に接続されている。
【0020】
制御装置50は、電力変換部20に接続されている。制御装置50および電力変換部20は、たとえば光ファイバーケーブルによって接続されている。制御装置50は、光ファイバを介して、電力変換部20のための駆動信号に関する情報等を送信し、電力変換部20から制御に要する情報を受信する。
【0021】
図2(a)および
図2(b)は、実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、単位変換器30の主回路130は、ハーフブリッジ形式(
図2(a))でもよいし、フルブリッジ形式(
図2(b))であってもよい。フルブリッジ形式の主回路230の場合には、スイッチング素子31c,31dの直列回路が追加される。ダイオード32cは、スイッチング素子31cに逆並列に接続され、ダイオード32dは、スイッチング素子31dに逆並列に接続される。スイッチング素子31c,31dの直列回路は、スイッチング素子31a,31bの直列回路に並列に接続される。
【0022】
以下では、単位変換器30は、ハーフブリッジ形式の主回路130を有するものとして説明するが、フルブリッジ形式とした場合も同様である。フルブリッジ形式の主回路230の場合には、単位変換器30をバイパス状態とするためには、スイッチング素子31b,31dをオンし、スイッチング素子31a,31cをオフにすればよい。あるいは、スイッチング素子31a,31cをオンにして、スイッチング素子31b,31dをオフするようにしてもよい。
【0023】
図3は、実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図3に示すように、単位変換器30は、主回路130と、ゲート回路41a,41bと、主回路給電回路42と、補助給電回路43と、を備える。
【0024】
主回路130は、スイッチング素子31a,31bと、ダイオード32a,32bと、コンデンサ33と、を含む。スイッチング素子31a,31bは、直列に接続されている。ダイオード32a,32bは、スイッチング素子31a,31bにそれぞれ逆並列に接続されている。コンデンサ33は、スイッチング素子31a,31bの直列回路に並列に接続されている。主回路130は、端子30a,30bを有しており、端子30a,30bを介して、他の単位変換器30に接続される。
【0025】
ゲート回路41a,41bは、スイッチング素子31a,31bのゲート-エミッタ間にそれぞれ接続されている。図示しないが、ゲート回路41a,41bは、制御回路から供給されるゲート信号にもとづいて、スイッチング素子31a,31bを駆動する。
【0026】
主回路給電回路42の入力は、コンデンサ33に接続されている。主回路給電回路42の出力は、ゲート回路41a,41bに接続されている。なお、より詳しくは、ゲート回路41a,41bは、電気的に絶縁されるので、ゲート回路41a,41bに供給される直流電圧もそれぞれ絶縁されて供給される。以下では、簡単のため、ゲート回路41a,41bに直流電圧Vcc1が供給される、のように記述するものとする。
【0027】
通常の動作において、コンデンサ33には、ダイオード32aを介して電流が流れ、充電される。コンデンサ33の両端には、電圧Vdc1が印加されている。主回路給電回路42は、電圧Vdc1を入力して、ゲート回路41a,41bや制御回路のための電源に変換して供給する。この例では、ゲート回路41a,41bに直流電圧Vcc1を供給する。
【0028】
補助給電回路43の入力は、コンデンサ33に接続されている。補助給電回路43の出力は、ゲート回路41bに接続されている。補助給電回路43は、主回路給電回路42の故障等により、その出力が低下した場合に、電圧Vdc1をゲート回路41bの動作のための直流電圧Vcc2に変換して、ゲート回路41bに供給する。補助給電回路43は、単位変換器30が通常の運転をしているときも、バイパス状態とされたときにも、常時動作し、直流電圧Vcc2を出力している。直流電圧Vcc2の大きさは、直流電圧Vcc1の大きさと同じか若干低く設定されている。
【0029】
補助給電回路43は、スイッチング素子31bのオンの状態を維持するために設けられている。単位変換器30がバイパス状態のときには、スイッチング素子31aはオフ状態が維持されていればよいので、ゲート回路41aは動作を停止していてもかまわない。そのため、補助給電回路43は、ゲート回路41aには電力供給を行わない。
【0030】
また、補助給電回路43がゲート回路41bに電力を供給する場合には、スイッチング素子31bはスイッチング動作をしないので、補助給電回路43は、スイッチング動作のための駆動電力に相当する電力よりも小さい電力を出力することができればよい。
【0031】
実施形態の電力変換装置10では、コンデンサ33の両端の電圧Vdc1について、第1しきい値および第2しきい値が設定されている。第1しきい値および第2しきい値は、過電圧検出値よりも低い値に設定されている。第2しきい値は、第1しきい値よりも高い値とされる。第1しきい値は、主回路給電回路42および補助給電回路43の最低動作電圧よりも高い電圧とされる。
【0032】
実施形態の電力変換装置10では、単位変換器30をバイパス状態とした場合には、単位変換器30の運転が停止される。バイパス指令は、バイパス状態において生成される。バイパス指令は、電圧Vdc1が上昇して過電圧検出値に達したときにアクティブとされる。一旦アクティブとされたバイパス指令は、電圧Vdc1が過電圧検出値から低下して、第1しきい値に達するまでアクティブの状態が維持される。バイパス指令は、第1しきい値に達すると非アクティブとされる。バイパス指令は、電圧Vdc1が第1しきい値から上昇して第2しきい値に達するまで非アクティブの状態が維持される。バイパス指令は、電圧Vdc1が第1しきい値から上昇して、第2しきい値に達すると再度アクティブとされる。実施形態の電力変換装置10では、バイパス指令が非アクティブの期間に、外部からコンデンサ33に充電され、電圧Vdc1の継続的な低下を回避する。
【0033】
第1しきい値および第2しきい値にもとづくバイパス指令のアクティブおよび非アクティブの切り替えは、単位変換器30ごとに設けられた制御回路等によって行ってもよいし、単位変換器30に接続された制御装置50によって行ってもよい。以下では、単位変換器30ごとに設けられた制御回路によって、過電圧等の異常判定を行い、バイパス状態を設定し、バイパス指令のアクティブ、非アクティブの切り替えを行うものとして説明する。
【0034】
具体的には、図示しない制御回路は、過電圧を検出したときには、その単位変換器30をバイパス状態に設定する。バイパス状態では、制御回路は、スイッチング素子31a,31bのスイッチング動作を停止するようにゲートブロック信号をゲート回路41a,41bに供給する。
【0035】
制御回路は、その後、あるいはそれとともにバイパス指令を生成する。制御回路は、電圧Vdc1が第1しきい値よりも高い場合には、バイパス指令をアクティブにして、ゲート回路41bを介してスイッチング素子31bをオンさせる。
【0036】
制御回路は、電圧Vdc1が第1しきい値に達したときには、バイパス指令を非アクティブにして、スイッチング素子31bをオフさせる。
【0037】
その後、電圧Vdc1が第2しきい値に達したときには、バイパス指令をアクティブにして、スイッチング素子31bをオンさせる。
【0038】
実施形態の電力変換装置10の動作について動作波形を参照しながらより詳細に説明する。
図4は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的な動作波形図である。
図4の最上段の図は、バイパス指令を表す信号の時間変化を示す波形図である。この例では、バイパス指令がアクティブのときに、バイパス指令はハイ(H)レベルとされ、バイパス指令が非アクティブのときに、バイパス指令はロー(L)レベルとされている。
図4の2段目の図は、ゲート回路41bに印加される直流電圧Vccの時間変化を示す波形図である。
図4の3段目の図は、スイッチング素子31bのゲート信号の時間変化を表す波形図である。この図では、ゲート信号がハイレベルのときにスイッチング素子31bはオン(ON)、ゲート信号がローレベルのときにスイッチング素子31bはオフ(OFF)である。
図4の最下段の図は、コンデンサ33の両端の電圧Vdc1の時間変化を表す図である。
【0039】
図4に示すように、時刻t0において、単位変換器30で、たとえば過電圧状態が検出される。単位変換器30の過電圧とは、たとえばコンデンサ33の両端の電圧Vdc1が過電圧検出値Vovを超えた場合である。
【0040】
時刻t1において、単位変換器30の過電圧保護が動作し、制御回路は、ゲートブロックを生成し、単位変換器30の運転を停止させて、単位変換器30をバイパス状態に遷移させる。なお、時刻t0とt1の間の期間は、過電圧保護動作の動作遅延時間であり、回路の遅延等により発生する場合があるが、ノイズ等による誤動作の防止等のために意図的に遅延時間が設けられている場合もある。
【0041】
単位変換器30は、バイパス指令がアクティブとなることによって、スイッチング素子31bがターンオンする。図示しないが、スイッチング素子31aは、ゲートブロックによりオフ状態が維持される。
【0042】
時刻t1以降、スイッチング素子31bのオン状態が維持されるので、コンデンサ33には、外部から電力の供給が遮断される。一方、少なくとも補助給電回路43は動作しているので、コンデンサ33の両端の電圧Vdc1は、補助給電回路43の電力消費を含む電力消費により、時間とともに低下する。
【0043】
なお、このときに主回路給電回路42も動作している場合には、電力消費がさらに大きくなるので、電圧Vdc1の時間低下率は、補助給電回路43単独の動作の場合よりも大きくなる。
【0044】
電圧Vdc1が低下を続け、電圧Vdc1は、時刻t2において第1しきい値Vt1に到達する。制御回路は、これによって、バイパス指令を一旦非アクティブにする。
【0045】
時刻t2以降、外部から供給される電流が端子30aに流れ込む場合には、コンデンサ33は、充電される。そのため、電圧Vdc1は上昇する。なお、端子30a,30bに接続された外部回路の状態によっては、電流が端子30aから流れ出す場合があるが、その場合には、電圧Vdc1はほぼ一定値に維持される。
【0046】
時刻t3において、コンデンサ33の充電によって電圧Vdc1は、第2しきい値Vt2に達する。このときに、制御回路は、再度バイパス指令をアクティブにする。それによって、スイッチング素子31bがオンする。以降、上述の動作を繰り返す。
【0047】
第2しきい値Vt2は、過電圧検出値Vovよりも低い値に設定され、たとえば、定格電圧の設定誤差にもとづいて、設定される。第1しきい値Vt1は、主回路給電回路42および補助給電回路43の最低動作電圧Vuv(<Vov)よりも高い電圧であって、設定精度等を考慮して適切な値に設定されている。
【0048】
実施形態の電力変換装置10では、バイパス状態において、バイパス指令を主回路給電回路42および補助給電回路43に入力される電圧の大きさに応じて、アクティブと非アクティブとを切り替える。これによって、コンデンサ33の両端の電圧Vdc1への外部からの電力供給の期間が確保されるので、機械式の部品を追加したり、複雑な配線を引き回したりすることなく、バイパス状態を維持することができる。
【0049】
図5(a)および
図5(b)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なブロック図ある。
図5(a)および
図5(b)では、主回路給電回路42が正常か故障かによって、電力の供給経路が異なり得ることが示されている。
【0050】
図5(a)は、バイパス状態のときに主回路給電回路42が正常に動作し、ゲート回路41a,41bに電力を供給できる場合の例を示している。
図5(a)の太実線は、主回路給電回路42がゲート回路41bに電力を供給していることを表している。
図5(a)の破線は、主回路給電回路42から電力供給されている期間には、補助給電回路43からのゲート回路41bへの電力供給が実質的にされないことを表している。
図5(a)に示すように、故障が検知され、単位変換器30がバイパス状態に移行すると、制御回路は、スイッチング素子31aをオフさせ、スイッチング素子31bをオンさせるように動作する。主回路給電回路42が動作可能である場合には、バイパス指令がアクティブの間には、主回路給電回路42がゲート回路41bに電力を供給する。なお、主回路給電回路42は、バイパス指令が非アクティブの場合にも動作しており、ゲート回路41a,41bにわずかではあるが電力を供給する。
【0051】
図5(b)は、バイパス状態のときに主回路給電回路42が正常に動作できず、出力が低下して、ゲート回路41bに電力供給できない場合の例を示している。
図5(b)の太実線は、補助給電回路43がゲート回路41bに電力を供給していることを表している。
図5(b)の破線は、主回路給電回路42の故障により、主回路給電回路42からのゲート回路41bへの電力供給がされないことを表している。
【0052】
上述のように、補助給電回路43を設けることによって、主回路給電回路42の故障により、ゲート回路41bへの電力給電ができない場合であっても、ゲート回路41bへの電力供給を維持することができ、バイパス状態を維持することができる。なお、主回路給電回路42の故障を考慮する必要のない場合には、補助給電回路43を設けなくてもよい。
【0053】
実施形態の電力変換装置10の効果について、比較例の電力変換装置の場合と比較しつつ説明する。
まず、比較例の電力変換装置の構成および動作について説明する。
図6(a)および
図6(b)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図6(a)に示すように、比較例の電力変換装置の単位変換器は、主回路330を有する。主回路330は、スイッチング素子31a,31b、ダイオード32a,32bおよびコンデンサ33による回路構成は、上述した実施形態の場合と同じである。主回路330は、さらにバイパススイッチ331を含んでおり、バイパススイッチ331は、端子330a,330bの間に接続されている。
【0054】
バイパススイッチ331は、機械式のスイッチ、たとえば電磁リレーである。バイパススイッチ331は、電力の供給のない場合に、回路を閉じ、電力供給されることによって回路を開く構成とされている。制御回路が単位変換器の故障を検知すると、制御回路は、バイパス指令を生成する。バイパススイッチ331は、バイパス指令がアクティブとなると、バイパススイッチ331への電力の供給が遮断され、回路が閉じられる。そのため、端子330a,330b間が短絡されて、単位変換器はバイパス状態となる。
【0055】
この比較例では、機械式のバイパススイッチ331を用いるので、機械式スイッチに固有の問題を生じ得る。たとえば、バイパススイッチ331の寿命や接点のバウンス、遮断時のアークによる溶着等である。
【0056】
これに対して、実施形態の電力変換装置10では、バイパス状態を主回路のスイッチング素子をオンさせることによって、バイパス状態とするので、比較例のようなバイパススイッチ331の開閉にともなう問題を生じにくいとの利点を有する。
【0057】
図6(b)に示すように、他の比較例の電力変換装置では、2台の単位変換器430間で主回路給電回路42が冗長化されている。つまり、セル1とされた単位変換器430の主回路給電回路42は、自己のゲート回路41a,41bに電力を供給するとともに、セル2とされた単位変換器430のゲート回路41a,41bに電力を供給可能としている。また、セル2とされた単位変換器430の主回路給電回路42は、自己のゲート回路41a,41bに電力を供給し、セル1とされた単位変換器430のゲート回路41a,41bにも電力供給を可能にしている。
【0058】
図6(c)は、
図6(b)の電力変換装置の動作を説明するための模式的な動作波形図である。
図6(c)には、停止した方の単位変換器430の主要な部分の動作波形が示されている。
図6(c)に示すように、時刻t0において、単位変換器430は、過電圧を検出した後、時刻t11において、制御回路は、過電圧保護動作を開始し、単位変換器430の運転を停止させ、アクティブなバイパス指令を生成する。
【0059】
時刻t11では、アクティブなバイパス指令によって、運転を停止した方の単位変換器430のスイッチング素子31bがターンオンし、その単位変換器430はバイパス状態に遷移する。
【0060】
時刻t11以降、バイパス状態の単位変換器430では、コンデンサ33への充電も停止されているので、主回路給電回路42の動作により電圧Vdc1は低下する。
【0061】
時刻t12において、電圧Vdc1が主回路給電回路42の最低動作電圧Vuvに達すると、主回路給電回路42は動作を停止する。
【0062】
時刻t12以降は、正常に運転する方の単位変換器430の主回路給電回路42が故障した方の単位変換器430のゲート回路41a,41bに電力を供給することによって、バイパス状態が維持される。
【0063】
ゲート回路41a,41bは互いに絶縁された電源の供給が必要であり、異なる単位変換器間のゲート回路41a,41bともそれぞれ絶縁されている必要がある。そのため、冗長化するための主回路給電回路42は、他の単位変換器に供給するために、自己のゲート回路41a,41bに供給するのとは別に絶縁された電源を出力できるように構成される必要がある。そのため、主回路給電回路42の構成が複雑になり、単位変換器間の接続も煩雑である。また、主回路給電回路42は、自己の電力給電のみならず、冗長化対象の単位変換器への電力給電できるような大きな電力容量とする必要がある。
【0064】
これに対して、実施形態の電力変換装置10では、主回路給電回路42は、自己のゲート回路41a,41bに電力を供給できればよく、簡素な回路構成とすることができ、煩雑な接続をする必要もない。また、電力容量も自己のゲート回路41a,41b等を動作できればよいので、最適な電力容量の電源とすることができる。
【0065】
実施形態の電力変換装置10において、バイパス時に主回路給電回路42が故障している場合であっても、補助給電回路43によって、ゲート回路41bに電力供給ができ、切れ目なくバイパス状態を維持することができる。なお、補助給電回路43は、一方のゲート回路41bと、制御回路のための電力を供給できればよいので、主回路給電回路42の電力容量に比べて十分に小容量とすることができ、たとえば主回路給電回路42の電力容量の10分の1から数10分の1程度とすることができる。そのため、小型で低コストの電源装置とすることができ、省スペース化、省電力化が可能になる。
【0066】
実施形態の電力変換装置10では、コンデンサ33の両端の電圧Vdc1が低下して第1しきい値Vt1に達したときに、バイパス指令が一旦解除されるが、MMCでは、多数の単位変換器30がカスケード接続されているので、その一部がバイパスされたり、解除されたりしても、入出力される電圧への影響は小さい。たとえば、100台の単位変換器30がカスケード接続されている場合に、1台の単位変換器30がバイパスと解除を繰り替えても、変動する電圧は1%以下である。
【0067】
上述では、電力変換部20は、交流-直流間の電力変換する電力変換装置の場合について説明したが、アーム22をスター結線し、あるいはアーム22をΔ結線して三相交流に接続することによって、無効電力補償装置にも適用することができる。
【0068】
このようにして、簡素な構成でバイパス状態を維持できる電力変換装置が実現される。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 電力変換装置、20 電力変換部、30 単位変換器、31a,31b スイッチング素子、32a,32b ダイオード、33 コンデンサ、41a,41b ゲート回路、42 主回路給電回路、43 補助給電回路