(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】治水施設監視装置、治水施設監視方法及び治水施設監視プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 11/04 20060101AFI20231208BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20231208BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231208BHJP
【FI】
G01C11/04
G01B11/24 K
G06T7/00 640
(21)【出願番号】P 2020196905
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将敬
(72)【発明者】
【氏名】有井 基文
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-010630(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101615183(CN,A)
【文献】国際公開第2019/130568(WO,A1)
【文献】特開2013-089021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00-1/14
5/00-15/14
G01B 11/24
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治水対象の水域と前記水域に接する治水施設
とが人工衛星により撮影されて得られた衛星撮影画像を取得する画像取得部と、
前記衛星撮影画像における反射スペクトル特性を用いて前記治水施設
での植生の経時変化を解析し、
前記植生の経時変化を解析した結果、前記治水施設が前記水域に接する領域の近隣で前記植生の範囲が増加している場合に、前記治水施設の変状を推定する推定部とを有する治水施設監視装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記治水施設の形状の経時変化を解析し、前記治水施設の形状の経時変化を解析した結果、前記治水施設が前記水域に接する領域の近隣で前記治水施設の形状が変化している場合に、前記治水施設の変状を推定する請求項
1に記載の治水施設監視装置。
【請求項3】
前記推定部は、
前記水域の経時変化を解析し、前記水域の経時変化を解析した結果、前記水域の範囲が増加している場合に、前記治水施設の変状を推定する請求項1に記載の治水施設監視装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記変状が推定された位置の座標値を取得する請求項1に記載の治水施設監視装置。
【請求項5】
前記画像取得部は、
前記治水施設及び前記水域が複数の時刻で人工衛星により撮影されて得られた複数の衛星撮影画像を取得し、
前記推定部は、
前記複数の衛星撮影画像における反射スペクトル特性を用いて前記治水施設
での植生の経時変化を解析する請求項1に記載の治水施設監視装置。
【請求項6】
前記治水施設監視装置は、更に、
前記治水施設及び前記水域が含まれる地図情報を取得する地図情報取得部を有し、
前記推定部は、
前記衛星撮影画像における反射スペクトル特性と前記地図情報とを用いて前記治水施設
での植生の経時変化を解析する請求項1に記載の治水施設監視装置。
【請求項7】
コンピュータが、
治水対象の水域と前記水域に接する治水施設
とが人工衛星により撮影されて得られた衛星撮影画像を取得する画像取得ステップと、
前記コンピュータが、前記衛星撮影画像における反射スペクトル特性を用いて前記治水施設
での植生の経時変化を解析し、
前記植生の経時変化を解析した結果、前記治水施設が前記水域に接する領域の近隣で前記植生の範囲が増加している場合に、前記治水施設の変状を推定する推定ステップとを有する治水施設監視方法。
【請求項8】
治水対象の水域と前記水域に接する治水施設
とが人工衛星により撮影されて得られた衛星撮影画像を取得する画像取得処理と、
前記衛星撮影画像における反射スペクトル特性を用いて前記治水施設
での植生の経時変化を解析し、
前記植生の経時変化を解析した結果、前記治水施設が前記水域に接する領域の近隣で前記植生の範囲が増加している場合に、前記治水施設の変状を推定する推定処理とをコンピュータに実行させる治水施設監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、護岸等の治水施設の監視に関する。
【背景技術】
【0002】
法面の状態を点検し、その変状の状態および位置を記録する点検方法として、特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1で開示されている法面点検方法では、車両から焦点距離の異なる複数のカメラによって法面を連続撮影することによって、法面の3次元計測データを作成し、法面の変状の状態と位置を特定する。本技術によって、広大な河川護岸の点検においても、河川護岸の天端上を車両で走行することで点検に必要なデータを収集することができ、目視で直接的に護岸の点検を行う場合に比べ省力化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される技術によって従来手法に比べ省力化が可能となる。しかし、特許文献1に記載される技術では、河川等の治水対象の水域の大きさに比例してデータ収集時間が増大する。このため、特許文献1に記載される技術では、治水対象の水域が大きい場合には、治水施設の変状を検知するのに時間を要するという課題が存在する。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決することを主な目的としている。具体的には、本開示は、治水対象の水域が大きくても、治水施設の変状を早期に検知できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る治水施設監視装置は、
治水施設及び前記治水施設の治水対象の水域が人工衛星により撮影されて得られた衛星撮影画像を取得する画像取得部と、
前記衛星撮影画像における反射スペクトル特性を用いて前記治水施設及び前記水域の少なくともいずれかの経時変化を解析し、前記治水施設の変状を推定する推定部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、治水対象の水域が大きくても、治水施設の変状を早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る治水施設監視装置の機能構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る治水施設監視装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る護岸監視方法の処理フロー例を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る植生繁茂前の光学衛星画像と植生繁茂後の光学衛星画像の例を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係る抜け/崩れ発生前の光学衛星画像と抜け/崩れ発生後の光学衛星画像の例を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る増水前の光学衛星画像と増水後の光学衛星画像の例を示す図である。
【
図7】実施の形態2に係る治水施設監視装置の機能構成例を示す図である。
【
図8】実施の形態2に係る護岸監視方法の処理フロー例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を図を用いて説明する。以下の実施の形態の説明及び図面において、同一の符号を付したものは、同一の部分又は相当する部分を示す。
【0010】
実施の形態1.
***概要***
本実施の形態では、治水施設の監視を行う治水施設監視装置を説明する。治水施設とは、治水の用に供する施設である。治水とは、水害及び/又は土砂災害を防止するための事業である。水害には、洪水、高潮等が含まれる。土砂災害には、地すべり、土石流、急傾斜地崩壊等が含まれる。治水施設は、具体的には、護岸、堤防、ダム、放水路、遊水池等である。
以下では、治水施設の例として護岸を用い、治水対象の水域の例として河川を用いて説明を行う。治水施設である護岸は、治水対象の水域である河川に接している。
【0011】
前述したように、特許文献1の技術では、河川が長いとデータ収集時間に多くの時間を要する。このため、特許文献1の技術では、河川が長いと、効率的に護岸を監視することができず、護岸の変状を検知するのに時間を要するという課題が存在する。更に、特許文献1の技術では、車両が走行する道路と護岸との間の視界が植生の繁茂などによって遮られる場合に点検ができないという課題が存在する。
【0012】
本実施の形態では、広域での護岸監視のために光学衛星画像を用いる。光学衛星画像を用いる場合、一度に数十km2から数百km2という非常に広い範囲で地上を観測可能であり、広域な護岸堤防も容易に撮影可能である。一方で地上から撮影する場合に比べ、人工衛星からの撮影は一般に地上分解能で劣り、特許文献1に記載されるように画像上から変状を直接的に目視発見及び記録することは困難な場合が生じ得る。
【0013】
そこで、本実施の形態では、護岸の変状による2次的な現象を時系列衛星画像、衛星画像上の反射スペクトル情報を用いて検出し、護岸の変状位置およびその状態を推定する。
過去の光学衛星画像上において護岸である地点が植生の反射スペクトル特性を示す場合、護岸に亀裂又は目地の開きが生じることで護岸下の地面から植生が発生した可能性があり、これを変状として記録する。また、特に低水護岸に着目した場合、護岸に崩れ又は抜けが生じると当該位置に河川からの浸水が生じ、水の吸収スペクトル特性を示す。この特性を利用し、過去の光学衛星画像上で護岸である地点が水の吸収スペクトル特性を示す場合、崩れや抜けが生じたものとして記録する。
***構成の説明***
図1は、本実施の形態に係る治水施設監視装置100の機能構成例を示す。
また、
図2は、本実施の形態に係る治水施設監視装置100のハードウェア構成例を示す。
治水施設監視装置100の動作手順は、治水施設監視方法に相当する。また、治水施設監視装置100の動作を実現するプラグラムは、治水施設監視プログラムに相当する。
【0014】
以下では、先ず、
図2を参照して、治水施設監視装置100のハードウェア構成例を説明する。
【0015】
本実施の形態に係る治水施設監視装置100は、コンピュータである。
治水施設監視装置100は、ハードウェアとして、プロセッサ901、主記憶装置902、補助記憶装置903、通信装置904及びディスプレイ装置905を備える。
また、治水施設監視装置100は、機能構成として、画像取得部101、位置調整部102、推定部103及び推定結果出力部108を備える。
補助記憶装置903には、画像取得部101、位置調整部102、推定部103及び推定結果出力部108の機能を実現するプログラムが記憶されている。
これらプログラムは、補助記憶装置903から主記憶装置902にロードされる。そして、プロセッサ901がこれらプログラムを実行して、後述する画像取得部101、位置調整部102、推定部103及び推定結果出力部108の動作を行う。
図2では、プロセッサ901が画像取得部101、位置調整部102、推定部103及び推定結果出力部108の機能を実現するプログラムを実行している状態を模式的に表している。
通信装置904は、治水施設監視装置100の外部にある外部装置との通信に用いられる。
ディスプレイ装置905は、治水施設監視装置100のユーザに各種情報を表示する。
【0016】
次に、
図1を参照して、治水施設監視装置100の機能構成例を説明する。
【0017】
画像取得部101は、治水対象の水域である河川と治水施設である護岸の光学衛星画像を取得する。画像取得部101は、例えば、通信装置904を介して人工衛星から又は地上の衛星通信システムから光学衛星画像を取得する。光学衛星画像は、河川と護岸が人工衛星により複数波長帯同時撮影されて得られた衛星撮影画像である。画像取得部101は、複数の時刻で撮影された複数の光学衛星画像を取得する。
なお、画像取得部101により行われる処理は、画像取得ステップ及び画像取得処理に相当する。
【0018】
位置調整部102は、画像取得部101が取得した複数の光学衛星画像の位置を調整する。つまり、位置調整部102は、光学衛星画像間の位置合わせを行う。なお、画像取得部101が位置合わせが完了している複数の光学衛星画像を取得できる場合は、位置調整部102は省略可能である。
【0019】
推定部103は、複数の光学衛星画像における反射スペクトル特性を用いて護岸及び河川の少なくともいずれかの経時変化を解析し、護岸の変状を推定する。護岸の変状とは、例えば、護岸の亀裂又は目地の開き、護岸の抜け又は崩れである。
推定部103により行われる処理は、推定ステップ及び推定処理に相当する。
【0020】
推定部103は、例えば、護岸の経時変化として、護岸の形状の経時変化及び護岸での植生の経時変化の少なくともいずれかを解析する。また、推定部103は、護岸の形状の経時変化を解析した結果、護岸が河川に接する領域の近隣で護岸の形状が変化している場合に、護岸の変状を推定する。また、推定部103は、植生の経時変化を解析した結果、護岸が河川に接する領域の近隣で植生の範囲が増加している場合に、護岸の変状を推定する。更に、推定部103は、河川の経時変化を解析した結果、河川の範囲が増加している場合に、護岸の変状を推定する。
【0021】
推定部103は、内部構成として、人工物抽出部104、植生抽出部105、水域抽出部106及び変状推定部107を備える。
【0022】
人工物抽出部104は、人工物の反射スペクトル特性を用いて光学衛星画像の中から護岸の画像領域を抽出する。なお、以下では、護岸の画像領域を抽出することを単に護岸を抽出するともいう。
【0023】
植生抽出部105は、植生の反射スペクトル特性を用いて光学衛星画像の中から植生の画像領域を抽出する。なお、以下では、植生の画像領域を抽出することを単に植生を抽出するともいう。
【0024】
水域抽出部106は、水面の反射スペクトル特性を用いて光学衛星画像の中から河川の画像領域を抽出する。なお、以下では、河川の画像領域を抽出することを単に河川を抽出するともいう。
【0025】
変状推定部107は、人工物抽出部104により抽出された護岸の画像領域を用いて護岸の形状の経時変化を解析する。また、変状推定部107は、植生抽出部105により抽出された植生の画像領域を用いて植生の経時変化を解析する。また、変状推定部107は、水域抽出部106により抽出された河川の画像領域を用いて河川の経時変化を解析する。そして、変状推定部107は、解析結果に基づいて、護岸の変状を推定する。
【0026】
推定結果出力部108は、変状推定部107により推定された護岸の変状の種類(亀裂、目地の開き、抜け、崩れ等)及び位置をディスプレイ装置905に出力する。推定結果出力部108は、変状の位置として、座標値を出力する。また、推定結果出力部108は、変状が推定される光学衛星画像を出力するとともに、出力した光学衛星画像上の変状が生じていると推定される位置に目印をつけてもよい。
また、推定結果出力部108は、ディスプレイ装置905への出力に代えて、またはディスプレイ装置905への出力に加えて、護岸の変状の種類及び位置を例えば外部のユーザ端末装置に出力してもよい。
【0027】
***動作の説明***
図3は、本実施の形態に係る治水施設監視装置100による護岸監視方法の処理フローを示す。
【0028】
最初に、画像取得部101が光学衛星画像を取得する(ステップST1)。
つまり、画像取得部101は、監視対象である河川及び護岸を複数の時刻で撮影した、一連の光学衛星画像(時系列光学衛星画像)を取得する。これら光学衛星画像は、各画像に同一地点が含まれ、複数波長帯同時撮影の条件を満たす画像である。
画像取得部101は、取得した光学衛星画像を、例えば補助記憶装置903に格納する。
【0029】
次に、位置調整部102が、ステップST1で取得された時系列光学衛星画像の画像間の位置合わせを行う(ステップST2)。
位置調整部102は、例えば、複数の光学衛星画像から求めた相互相関関数の最大値の座標から画像間のずれ量を求めることにより位置合わせを行うことができる。また、位置調整部102は、各光学衛星画像を地図上に投影することで位置合わせを行ってもよい。
なお、ステップST1で取得された光学衛星画像において既に位置合わせが行われている場合は、ステップST2は不要である。
【0030】
次に、推定部103の人工物抽出部104が各光学衛星画像から護岸を抽出する(ステップST3)。
つまり、人工物抽出部104は、光学衛星画像から得た、各画素に対応する地点ごとの反射スペクトル特性より護岸の画像領域を抽出する。
また、推定部103の植生抽出部105が各光学衛星画像から植生を抽出する(ステップST4)。
つまり、植生抽出部105は、光学衛星画像から得た、各画素に対応する地点ごとの反射スペクトル特性より植生の画像領域を抽出する。
また、推定部103の水域抽出部106が各光学衛星画像から河川を抽出する(ステップST5)。
つまり、水域抽出部106は、光学衛星画像から得た、各画素に対応する地点ごとの反射スペクトル特性より河川の画像領域を抽出する。
以下にて、ステップS3~ST5の詳細を説明する。
【0031】
人工物抽出部104は、人工物の画像領域の抽出に、コンクリート、アスファルトといった、可視光線の反射スペクトル特性が一様な地物の抽出に用いられる人工物指標を用いる。人工物指標の計算方法の一例を式(1)に示す。
【0032】
【0033】
可視光線に対する反射スペクトル特性が一様な地物ほど0に近いNHFD(Non-Homogeneous Feature Difference)値を示す。人工物指標を用いることで、光学衛星画像から表面がコンクリートで覆われた地点を検知でき、当該地点が河川に接していればコンクリート護岸であることが識別できる。
表面がコンクリートで覆われた護岸において、地盤の変動や温度変化による膨張収縮によって、亀裂や目地の開きが生じた場合、護岸の下の存在する地面より植生が成長し、護岸に生じた目地の開きに比べ広い範囲で、植生が繁茂する現象が確認される。
【0034】
以上のような護岸上に繁茂する植生の画像領域を光学衛星画像から抽出するため、植生特有の反射スペクトル特性を用いて植生を抽出する指標を用いる。植生を抽出する指標の一例である規格化植生指標NDVI(Normalized Difference Vegetation Index)の計算式を式(2)に示す。
【0035】
【0036】
植生は近赤外光線に対して高い反射率を示す一方で、赤色光線の反射率が低い。このため植生は高いNDVI値を示し、NDVI値から植生の画像領域の検知が可能である。
【0037】
また、河川の水面と接する護岸においては、抜けや崩れが生じた際に、崩落前に護岸が存在した位置への浸水が生じる場合がある。このため、水域抽出部106は光学衛星画像上で護岸への浸水を検知することで、護岸の抜けや崩れを検知する。
河川の水域も人工物及び植生同様に光学衛星画像における反射スペクトル特性から求める水域を抽出する指標によって位置の特定が可能である。水域を抽出する指標の一例である規格化水指標の計算を式(3)に示す。
【0038】
【0039】
水は波長400nmから580nm(青色~緑色)の光に対して比較的高い透過率を示し、逆に波長1000nmから3000nm程度(短波長赤外線)の光に対して非常に高い吸収率を示す。このため、水は高いNDWI(Normalized Difference Water Index)値を示し、光学衛星画像上から容易に河川の水域を検知することができる。
【0040】
次に、以上の手法によって得られた護岸の画像領域、植生の画像領域、河川の水域の画像領域に基づいて、変状推定部107が時系列光学衛星画像において護岸、植生、河川の水域の各々の経時変化を解析する(ステップST6)。
【0041】
ある時点で撮影された光学衛星画像上で護岸として抽出された位置が、それ以降に撮影された光学衛星画像上で植生の特性を示している場合に(ステップST7)、変状推定部107はステップST8の処理を行う。
ステップST8では、変状推定部107は、護岸から植生へと変化した位置が光学衛星画像上で河川に接している、もしくは河川から規定の範囲内であれば、該当位置で護岸に亀裂又は目地の開きが発生したと推定し、亀裂又は目地の開きが発生している可能性を主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。
また、変状推定部107は、該当位置の座標値を取得できる場合は、該当位置の座標値も主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。変状推定部107は、例えば、光学衛星画像の撮影時に取得される緯度経度情報から、亀裂又は目地の開きが発生したと推定される地点の座標値を取得可能である。
このように、変状推定部107は、河川に接する領域又は河川の近隣で植生の範囲が増加している場合に、護岸に亀裂又は目地の開きが発生したと推定する。
【0042】
一方、ある時点で撮影された光学衛星画像上で護岸として抽出された位置が、それ以降に撮影された光学衛星画像上で河川の水域の特性を示している場合に(ステップST9)、変状推定部107はステップST10の処理を行う。
ステップS10では、変状推定部107は、護岸から河川の水域へと変化した位置が光学衛星画像上で河川に接している、もしくは河川から規定の範囲内であれば、該当位置で護岸に抜け又は崩れが発生したと推定し、抜け又は崩れが発生している可能性を主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。
また、変状推定部107は、該当位置の座標値を取得できる場合は、該当位置の座標値も主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。変状推定部107は、例えば、光学衛星画像の撮影時に取得される緯度経度情報から、抜け又は崩れが発生したと推定される地点の座標値を取得可能である。
このように、変状推定部107は、河川に接する領域又は河川の近隣で浸水が発生している場合に、護岸に抜け又は崩れが発生したと推定する。
【0043】
最後に、推定結果出力部108が、変状推定部107の推定結果を出力する(ステップST11)。
つまり、推定結果出力部108は、ステップST8又はステップST10において主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録した事項をディスプレイ装置905に出力する。
【0044】
図4は、
図3のステップST7及びステップST8の具体例を示す。
図4の(a)は、2020年9月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図4の(b)は2020年10月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図4の(a)及び
図4の(b)の光学衛星画像は、河川200と護岸300とを上空(人工衛星)から撮影して得られた画像である。
図4の(a)に示すように、2020年9月1日の時点では、護岸300には植生400が存在しない。しかし、1月後の2020年10月1日では、
図4の(b)に示すように、植生400が存在する。
変状推定部107は、
図4の(a)の光学衛星画像で護岸300となっている位置が
図4の(b)の光学衛星画像において植生400に変化していることを検出し(ステップST7)、当該位置にて亀裂又は目地の開きが発生していると推定する(ステップST8)。
【0045】
図5は、
図3のステップST9及びステップST10の具体例を示す。
図5の(a)は、2020年9月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図5の(b)は2020年10月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図5の(a)の光学衛星画像は、
図4の(a)と同じある。
図5の(a)に示すように、2020年9月1日の時点では、護岸300には浸水箇所500が存在しない。しかし、1月後の2020年10月1日では、
図5の(b)に示すように、浸水箇所500が存在する。
変状推定部107は、
図5の(a)の光学衛星画像で護岸300となっている位置が
図5の(b)の光学衛星画像の浸水箇所500において河川の水域に変化していることを検出し(ステップST9)、当該位置にて抜け又は崩れが発生していると推定する(ステップST10)。
【0046】
また、
図3のフローチャートには含まれていないが、変状推定部107は、複数の光学衛星画像を解析して、護岸の変状として、河川の増水(河川の護岸への流入)を推定してもよい。この場合は、変状推定部107は、ある時点で撮影された光学衛星画像上で護岸として抽出された位置が、それ以降に撮影された光学衛星画像上で河川の水域の特性を示している場合に(ステップST9)、護岸と河川との境界線が護岸側に移動していれば、河川の増水が発生していると推定する。
【0047】
図6は、変状推定部107が河川の増水を推定する例を示す。
図6の(a)は、2020年9月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図6の(b)は2020年10月1日に撮影された光学衛星画像を示す。
図6の(a)の光学衛星画像は、
図4の(a)と同じある。
図6の(a)に示すように、2020年9月1日の時点では、護岸300と河川200との境界線は護岸300の端面に沿っている。しかし、1月後の2020年10月1日では、
図6の(b)に示すように、護岸300と河川200との境界線が護岸300側に移動している。
図6の(b)において破線が2020年9月1日時点での護岸300と河川200との境界線を表している。また、実線が2020年10月1日時点での護岸300と河川200との境界線を表している。
変状推定部107は、
図6の(a)の光学衛星画像で護岸300となっている位置が
図6の(b)の光学衛星画像において河川の水域に変化していることを検出し(ステップST9)、更に、境界線が護岸300側に移動していることを検出し、河川が増水していると推定する。
【0048】
***実施の形態の効果の説明***
以上のように、本実施の形態によれば、治水対象の水域が大きくても、治水施設の変状を早期に検知することができる。
つまり、本実施の形態では、衛星画像を用いることで広大な水域を一度に監視することができる。このため、本実施の形態では、水域が大きくても効率的に変状の監視を行うことができ、治水施設の変状を早期に検知することができる。
更に、本実施の形態によれば、特定種類の変状の発生およびその位置を推定することができる。
また、本実施の形態では、衛星画像を用いるため、車両が走行する道路と護岸との間の視界が植生の繁茂などによって遮られるために護岸の変状を確認できないという問題もない。
【0049】
実施の形態2.
本実施の形態では、地図情報を用いる治水施設監視装置100を説明する。
本実施の形態では、主に実施の形態1との差異を説明する。
なお、以下で説明していない事項は、実施の形態1と同様である。
【0050】
***構成の説明***
図7は、本実施の形態に係る治水施設監視装置100の機能構成例を示す。
図1と比較して、
図7では地図情報取得部109が追加されている。
地図情報取得部109は、河川及び護岸の位置が含まれる地図情報を通信装置904を介して例えば外部装置から取得する。
地図情報取得部109も、画像取得部101等と同様にプログラムにより実現される。
【0051】
本実施の形態では、画像取得部101は、特定の時刻(現在時刻)の光学衛星画像のみを取得する。実施の形態1では、複数の時刻の複数の光学衛星画像を取得していたが、本実施の形態では、地図情報の活用により、画像取得部101は1つの光学衛星画像を取得すればよい。
また、本実施の形態では、位置調整部102は、地図情報取得部109により取得された地図情報を用いて、光学衛星画像の位置合わせを行う。
また、本実施の形態では、人工物抽出部104は、人工物の反射スペクトル特性と地図情報とを用いて、光学衛星画像から護岸を抽出する。
また、本実施の形態では、植生抽出部105は、植生の反射スペクトル特性と地図情報とを用いて、光学衛星画像から植生を抽出する。
また、本実施の形態では、水域抽出部106は、水面の反射スペクトル特性と地図情報とを用いて、光学衛星画像から河川の水域を抽出する。
また、本実施の形態では、変状推定部107は、地図情報を用いて変状が発生した位置の座標を特定する。
推定結果出力部108は
図1に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0052】
***動作の説明***
次に、
図8を参照して、本実施の形態に係る治水施設監視装置100による護岸監視方法の処理フローを説明する。
【0053】
最初に、画像取得部101が光学衛星画像を取得する(ステップST21)。
前述のように、画像取得部101は、現在時刻の光学衛星画像を取得する。
画像取得部101は、取得した光学衛星画像を、例えば補助記憶装置903に格納する。
【0054】
次に、地図情報取得部109が河川及び護岸の位置を含む地図情報を取得する(ステップST31)。
例えば、地図情報取得部109は、外部の地図サーバ装置から地図情報を取得する。
地図情報取得部109は、取得した地図情報を、例えば補助記憶装置903に格納する。
【0055】
次に、位置調整部102が、ステップST21で取得された光学衛星画像をステップS31で取得された地図情報に投影する(ステップST32)。
光学衛星画像を地図情報に投影することで、光学衛星画像上における護岸及び河川の位置(座標値)を判別することができる。
【0056】
ステップST3~ST5は
図3に示したものと同じであるため、詳細な説明は省略する。
なお、
図8では、ステップST4及びステップST5はステップST32の地図投影処理の後の光学衛星画像を用いて行うことを前提としているが、ステップST4及びステップST5を地図投影処理前の光学衛星画像を用いて行うことでもよい。
【0057】
地図情報上で護岸として示されている位置が、地図投影処理後の光学衛星画像上で植生の特性を示している場合に(ステップST27)、変状推定部107はステップST28の処理を行う。
ステップST28では、変状推定部107は、護岸から植生へと変化した位置が光学衛星画像上で河川に接している、もしくは河川から規定の範囲内とであれば、該当位置で護岸に亀裂又は目地の開きが発生したと推定し、亀裂又は目地の開きが発生している可能性を主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。
また、変状推定部107は、該当位置の座標値も主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。光学衛星画像の地図情報への投射が行われているので、変状推定部107は、地図情報から、亀裂又は目地の開きが発生したと推定される地点の座標値を取得可能である。
【0058】
一方、地図情報上で護岸として示されている位置が、地図投影処理後の光学衛星画像上で河川の水域の特性を示している場合に(ステップST29)、変状推定部107はステップST30の処理を行う。
ステップS30では、変状推定部107は、護岸から河川の水域へと変化した位置が光学衛星画像上で河川に接している、もしくは河川から規定の範囲内であれば、該当位置で護岸に抜け又は崩れが発生したと推定し、抜け又は崩れが発生している可能性を主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。
また、変状推定部107は、該当位置の座標値も主記憶装置902又は補助記憶装置903に記録する。前述のように、光学衛星画像の地図情報への投射が行われているので、変状推定部107は、地図情報から、抜け又は崩れが発生したと推定される地点の座標値を取得可能である。
【0059】
ステップST11は、
図3に示すものと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
また、本実施の形態においても、治水施設監視装置100は、護岸の変状として、
図6を用いて説明した河川の増水を推定してもよい。
【0061】
***実施の形態の効果の説明***
本実施の形態によれば、複数の光学衛星画像を取得し、記録する必要がないため、計算機リソースを節約することができる。
【0062】
以上、実施の形態1及び2を説明したが、これら2つの実施の形態を組み合わせて実施しても構わない。
あるいは、これら2つの実施の形態のうち、1つを部分的に実施しても構わない。
あるいは、これら2つの実施の形態を部分的に組み合わせて実施しても構わない。
また、これら2つの実施の形態に記載された構成及び手順を必要に応じて変更してもよい。
【0063】
***ハードウェア構成の補足説明***
最後に、治水施設監視装置100のハードウェア構成の補足説明を行う。
図2に示すプロセッサ901は、プロセッシングを行うIC(Integrated Circuit)である。
プロセッサ901は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等である。
図2に示す主記憶装置902は、RAM(Random Access Memory)である。
図2に示す補助記憶装置903は、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等である。
図2に示す通信装置904は、データの通信処理を実行する電子回路である。
通信装置904は、例えば、通信チップ又はNIC(Network Interface Card)である。
ディスプレイ装置905は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)である。
【0064】
また、補助記憶装置903には、OS(Operating System)も記憶されている。
そして、OSの少なくとも一部がプロセッサ901により実行される。
プロセッサ901はOSの少なくとも一部を実行しながら、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109の機能を実現するプログラムを実行する。
プロセッサ901がOSを実行することで、タスク管理、メモリ管理、ファイル管理、通信制御等が行われる。
また、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109の処理の結果を示す情報、データ、信号値及び変数値の少なくともいずれかが、主記憶装置902、補助記憶装置903、プロセッサ901内のレジスタ及びキャッシュメモリの少なくともいずれかに記憶される。
また、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109の機能を実現するプログラムは、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ブルーレイ(登録商標)ディスク、DVD等の可搬記録媒体に格納されていてもよい。そして、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109の機能を実現するプログラムが格納された可搬記録媒体を流通させてもよい。
【0065】
また、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109の「部」を、「回路」又は「工程」又は「手順」又は「処理」に読み替えてもよい。
また、治水施設監視装置100は、処理回路により実現されてもよい。処理回路は、例えば、ロジックIC(Integrated Circuit)、GA(Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)である。
この場合は、画像取得部101、位置調整部102、推定部103、推定結果出力部108及び地図情報取得部109は、それぞれ処理回路の一部として実現される。
【符号の説明】
【0066】
100 治水施設監視装置、101 画像取得部、102 位置調整部、103 推定部、104 人工物抽出部、105 植生抽出部、106 水域抽出部、107 変状推定部、108 推定結果出力部、109 地図情報取得部、200 河川、300 護岸、400 植生、500 浸水箇所、901 プロセッサ、902 主記憶装置、903 補助記憶装置、904 通信装置、905 ディスプレイ装置。