(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】収穫機
(51)【国際特許分類】
A01D 25/04 20060101AFI20231208BHJP
A01D 69/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A01D25/04
A01D69/00 302G
(21)【出願番号】P 2020201965
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭
(72)【発明者】
【氏名】村上 健太
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-158331(JP,A)
【文献】特開2012-005450(JP,A)
【文献】特開2017-221220(JP,A)
【文献】特開2020-043833(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0273243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 25/04
A01D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の農作物を収穫して搬送する搬送部と、
前記搬送部を駆動する動力源と、
前記搬送部の搬送方向を逆転させる操作を受け付ける搬送方向逆転スイッチと、
前記搬送部が逆転方向に駆動しているときの
逆転搬送速度の調整を受け付ける搬送速度操作スイッチと、
前記搬送部の動作を制御する搬送制御部とを備え、
前記搬送制御部は、前記搬送方向逆転スイッチの操作を受け付けた場合に、前記農作物を収穫する際の前記搬送部の前記搬送方向である正転方向から、前記搬送部の前記搬送方向を前記逆転方向に逆転させるように制御すると共に、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じて、前記逆転方向での前記
逆転搬送速度を調整するように前記搬送部を制御
するように構成され、
前記搬送制御部は、収穫時の前記搬送部の正転搬送速度を、機体の走行車速に応じて自動的に調整する車速同調機能を実行することができ、
前記車速同調機能が実行されている際に、前記搬送方向逆転スイッチに前記搬送方向を逆転させる操作が行われると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記逆転方向にさせると共に、前記車速同調機能を停止して、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じた速度に前記逆転搬送速度を調整し、その後、前記搬送方向逆転スイッチに対する前記搬送方向を逆転させる操作が終了されると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記正転方向に戻すと共に、前記車速同調機能を再開する収穫機。
【請求項2】
前記車速同調機能が実行されていない際に、前記搬送方向逆転スイッチに前記搬送方向を逆転させる操作が行われると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記逆転方向にさせると共に、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じた速度に前記
逆転搬送速度を調整し、その後、前記搬送方向逆転スイッチに対する前記搬送方向を逆転させる操作が終了されると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を、前記正転方向に戻すと共に、前記搬送部の搬送動作を停止させる請求項
1に記載の収穫機。
【請求項3】
前記動力源は、供給される圧油により駆動される油圧モータであり、
前記油圧モータは、前記圧油の供給方向を逆転できるバルブを有し、
前記搬送制御部は、前記搬送方向を逆転させる際には前記バルブを制御して前記圧油の前記供給方向を逆転させ、前記
逆転搬送速度を調整する際には前記圧油の流量を制御して前記油圧モータの回転数を制御する請求項
1又は2に記載の収穫機。
【請求項4】
前記搬送速度操作スイッチの操作量と、前記搬送部の前記搬送方向が逆転された際に前記油圧モータの前記回転数を制御するための制御値との関係を示す制御式を格納する記憶部と、
前記油圧モータの前記回転数を計測するセンサとをさらに備え、
前記搬送制御部は、
前記制御式に基づいて、前記搬送速度操作スイッチの操作量に対応する前記制御値を決定して前記
逆転搬送速度を制御した上で、前記センサの計測値を基に、前記
逆転搬送速度が前記搬送速度操作スイッチの操作量に対応す
る搬送速度となるようにフィードバック制御を行うと共に、
実際に前記搬送速度操作スイッチを操作したときの、前記操作量に応じた前記制御式から求められる前記制御値に対応する前記回転数と、前記制御値に基づいて前記
逆転搬送速度が制御された際に前記センサが計測した前記回転数との差を算出し、算出された前記回転数の差に基づいて前記制御式を補正する請求項3に記載の収穫機。
【請求項5】
前記搬送速度操作スイッチは、前記農作物を収穫する際の前記搬送部
の正転搬送速度を調整できる請求項1から
4のいずれか一項に記載の収穫機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場から農作物を引き抜いて機体後方に向けて搬送する搬送部を備える収穫機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、収穫機は、圃場から作物(農作物)を引き抜いて機体後方に向けて搬送する搬送装置(搬送部)を備える。搬送装置(搬送部)は、圃場から作物(農作物)を引き抜いて機体後方に向けて搬送する搬送ベルトを備える。搬送ベルトは、作業時には、作物(農作物)を機体後方に向けて搬送するように駆動されるが、搬送ベルトにつまった作物(農作物)等を除去するために、逆転駆動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の収穫機では、逆転駆動時の搬送ベルトの搬送速度は、あらかじめ定められた所定の搬送速度に固定されている。一方、搬送ベルトにつまった農作物等を除去する際や搬送部のメンテナンスの際には、つまり具合や状況に応じて搬送速度を調整できることが好ましい。
【0005】
本発明は、搬送部を逆転駆動させる際に、逆転駆動時の搬送速度を調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る収穫機は、圃場の農作物を収穫して搬送する搬送部と、前記搬送部を駆動する動力源と、前記搬送部の搬送方向を逆転させる操作を受け付ける搬送方向逆転スイッチと、前記搬送部が逆転方向に駆動しているときの逆転搬送速度の調整を受け付ける搬送速度操作スイッチと、前記搬送部の動作を制御する搬送制御部とを備え、前記搬送制御部は、前記搬送方向逆転スイッチの操作を受け付けた場合に、前記農作物を収穫する際の前記搬送部の前記搬送方向である正転方向から、前記搬送部の前記搬送方向を前記逆転方向に逆転させるように制御すると共に、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じて、前記逆転方向での前記逆転搬送速度を調整するように前記搬送部を制御するように構成され、前記搬送制御部は、収穫時の前記搬送部の正転搬送速度を、機体の走行車速に応じて自動的に調整する車速同調機能を実行することができ、前記車速同調機能が実行されている際に、前記搬送方向逆転スイッチに前記搬送方向を逆転させる操作が行われると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記逆転方向にさせると共に、前記車速同調機能を停止して、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じた速度に前記逆転搬送速度を調整し、その後、前記搬送方向逆転スイッチに対する前記搬送方向を逆転させる操作が終了されると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記正転方向に戻すと共に、前記車速同調機能を再開する。
【0007】
このような構成により、搬送部の搬送方向を逆転させた際に、搬送速度の調整を行うことができ、搬送部につまった農作物等の異物の除去や、搬送部のメンテナンス等を容易に行うことができる。
【0008】
【0009】
さらに、車速同調機能が実行されている際に、搬送方向が逆転されても、搬送速度が車速同調機能とは切り離されて、搬送速度操作スイッチの操作に応じて調整されるため、逆転方向に駆動されている際にも適切に搬送速度を調整することができる。そして、搬送方向が正転方向に戻された際にも、車速同調機能を適用した適切な搬送速度で搬送部が正転方向に駆動することができる。
【0010】
また、前記車速同調機能が実行されていない際に、前記搬送方向逆転スイッチに前記搬送方向を逆転させる操作が行われると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を前記逆転方向にさせると共に、前記搬送速度操作スイッチの操作に応じた速度に前記搬送速度を調整し、その後、前記搬送方向逆転スイッチに対する前記搬送方向を逆転させる操作が終了されると、前記搬送制御部は、前記搬送方向を、前記正転方向に戻すと共に、前記搬送部の搬送動作を停止させても良い。
【0011】
このような構成により、車速同調機能が実行されていない際にも、搬送速度操作スイッチの操作に応じて搬送速度が調整される。そして、搬送方向が正転方向に戻された際に、搬送動作が停止されるため、搬送速度操作スイッチの操作に応じた搬送速度に急激に反転されることが緩和される。
【0012】
また、前記動力源は、供給される圧油により駆動される油圧モータであり、前記油圧モータは、前記圧油の供給方向を逆転できるバルブを有し、前記搬送制御部は、前記搬送方向を逆転させる際には前記バルブを制御して前記圧油の前記供給方向を逆転させ、前記搬送速度を調整する際には前記圧油の流量を制御して前記油圧モータの回転数を制御しても良い。
【0013】
このような構成により、簡単な構成で、搬送方向が逆転され、精度良く搬送速度の調整が行われる。
【0014】
また、前記搬送速度操作スイッチの操作量と、前記搬送部の前記搬送方向が逆転された際に前記油圧モータの前記回転数を制御するための制御値との関係を示す制御式を格納する記憶部と、前記油圧モータの前記回転数を計測するセンサとをさらに備え、前記搬送制御部は、前記制御式に基づいて、前記搬送速度操作スイッチの操作量に対応する前記制御値を決定して前記搬送速度を制御した上で、前記センサの計測値を基に、前記搬送速度が前記搬送速度操作スイッチの操作量に対応する前記搬送速度となるようにフィードバック制御を行うと共に、実際に前記搬送速度操作スイッチを操作したときの、前記操作量に応じた前記制御式から求められる前記制御値に対応する前記回転数と、前記制御値に基づいて前記搬送速度が制御された際に前記センサが計測した前記回転数との差を算出し、算出された前記回転数の差に基づいて前記制御式を補正しても良い。
【0015】
このような構成により、フィードバック制御を行うため、精度良く搬送速度の調整を行うことが可能となる。さらに、制御式を個体差に応じて補正するため、より精度良く搬送速度の調整を行うことができると共に、フィードバック制御に費やす時間を短縮し、所定の搬送速度に制御する時間を短縮することができる。
【0016】
また、前記搬送速度操作スイッチは、前記農作物を収穫する際の前記搬送部の前記搬送速度を調整しても良い。
【0017】
このような構成により、1つの搬送速度操作スイッチにより、正転方向の搬送速度および逆転方向の搬送速度の両方を調整することができ、より簡単な操作構成で、逆転方向での搬送速度を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】搬送部の搬送方向を逆転し、搬送速度を調整する機能ブロックを例示する図である。
【
図6】搬送部の搬送方向を逆転し、搬送速度を調整するフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、図面に基づき説明する。なお、以下の説明では、
図1,
図2に示す、矢印Fの方向を「機体の前方」、矢印Bの方向を「機体の後方」、矢印Lの方向を「機体の左方」、矢印Rの方向を「機体の右方」とする。
【0020】
〔人参収穫機の全体構成〕
まず、
図1,
図2を用いて収穫機の全体構成を説明する。なお、以下の説明では、収穫機の1つである人参収穫機を例に説明する。
【0021】
図1,
図2は、人参収穫機(「収穫機」に相当)を示す。人参収穫機は、走行機体1(「機体」に相当)と、エンジンEと、運転者が搭乗する運転部2と、圃場から作物(農作物)を引き抜いて機体後方に向けて搬送する搬送部3と、収穫された作物を回収する回収部4と、搬送部3で搬送された作物を回収部4に向けて搬送する後搬送部5と、作物を主部(収穫対象部)とその他の部分(葉部等)とに切断するカッタ6とを備える。
【0022】
走行機体1は、クローラ走行装置7と、クローラ走行装置7に支持される機体フレーム8とを備える。走行機体1上には、支持フレーム9が設けられる。支持フレーム9には、搬送部3等が支持される。
【0023】
運転部2は、走行機体1における右側に偏倚した位置に設けられる。エンジンEは、運転部2の下方に設けられる。搬送部3は、走行機体1における左側に偏倚した位置に設けられる。回収部4は、運転部2の後方に設けられる。後搬送部5は、搬送部3の下方から回収部4まで設けられる。カッタ6は、搬送部3と後搬送部5との間に設けられる。
【0024】
搬送部3は、油圧モータ40(
図4参照)により搬送駆動される。また、搬送部3は、前下がりに傾斜する状態で設けられる。搬送部3は、機体左右方向に沿って延びる揺動軸心X1周りで揺動して昇降可能に構成される。搬送部3は、搬送部3の前端部に設けられ、圃場の作物の周囲の土を解す土解し刃10と、圃場から作物を引き抜いて機体後方に向けて搬送する搬送ベルト11とを備える。
【0025】
このような構成によれば、走行機体1が前進走行するのに伴って、土解し刃10が圃場に潜り込んだ状態で振動して土解し刃10によって作物の周囲の土が解されながら、搬送ベルト11によって圃場から作物が引き抜かれて機体後方に向けて搬送されることになる。そして、作物がカッタ6によって収穫対象部(以下、単に「作物」とも称す)と葉部等とに切断された後、収穫対象部が後搬送部5に供給されると共に、葉部等が搬送部3の後端部から排出されて圃場に落下することになる。そして、後搬送部5において、収穫対象部が回収部4まで搬送されながら、補助者によって選別されることになる。最終的には、回収部4において、収穫対象部が回収袋(フレキシブルコンテナバッグ)等の収納容器20に回収されることになる。
【0026】
図2に示すように、運転部2には、運転座席13と、フロントパネル14と、サイドパネル15とが設けられる。フロントパネル14には、メータパネル16および操作レバー17等が設けられる。メータパネル16は、エンジン回転数や車速、燃料の残量等の各種情報が表示されるように構成される。操作レバー17は、走行機体1を操向操作すると共に、搬送部3を昇降操作するためのものである。操作レバー17は、フロントパネル14の右端部に配置される。すなわち、操作レバー17は、運転座席13に対して右側に配置される。
【0027】
サイドパネル15には、主変速レバー18および操作パネル19等が設けられる。主変速レバー18は、エンジンEから伝達される駆動力を変速する主変速装置(図示省略)を変速操作するためのものである。操作パネル19は、搬送部3の搬送方向や搬送速度を調整する各種スイッチ等が設けられる。主変速レバー18および操作パネル19は、運転座席13に対して左側に配置される。
【0028】
〔操作パネル〕
次に、
図1を参照しながら、
図3を用いて、操作パネル19の構成例について説明する。
【0029】
操作パネル19は、収納容器20を圃場に排出する際に用いられるクレーン12の操作に関する操作スイッチ45や状態を表示する表示器46、搬送部3の搬送速度を走行車速に同調させる際に操作される車速同調スイッチ47、搬送部3の搬送方向を逆転させるための操作を行う搬送方向逆転スイッチ48等を備える。
【0030】
搬送部3は、作業走行時には、搬送ベルト11により、収穫した作物を走行機体1の後方に向けて搬送する。この場合の搬送部3の搬送方向、言い換えると搬送ベルト11の搬送方向を正転方向と称す。正転方向に対して搬送方向が逆転された状態の搬送方向を逆転方向と称す。
【0031】
本実施形態に係る人参収穫機は、搬送方向を逆転できると共に、逆転方向での搬送速度を調整できる。搬送方向の逆転は搬送方向逆転スイッチ48により行うことができる。搬送方向が正転方向の際に搬送方向逆転スイッチ48が押下されると、搬送方向が正転方向から逆転方向に逆転される。搬送方向逆転スイッチ48が押下されている間は搬送方向が逆転され、搬送方向逆転スイッチ48が押下が終了すると(離されると)、搬送方向が逆転方向から正転方向に戻される。
【0032】
さらに、搬送方向逆転スイッチ48はダイヤルスイッチであり、搬送方向を逆転させると共に、ダイヤルを回動させることにより逆転方向での搬送速度を調整することができる。なお、搬送速度は、逆転方向のみならず、正転方向においても、搬送方向逆転スイッチ48のダイヤルにより調整されても良く、正転方向と逆転方向とで、異なるスイッチにより搬送速度が調整されても良い。
【0033】
このように、逆転方向での搬送速度を調整できることにより、作物等のつまり具合や搬送部3の状況に応じて、逆転方向での搬送速度を適切に調整できるため、搬送部3につまった作物等の異物を容易に除去し、また、搬送部3のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0034】
ここで、搬送部3は、走行機体1が走行している状態で、搬送ベルト11により人参の葉を挟持し、搬送ベルト11が正転方向に移動するのに伴い、人参を、走行機体1の後方で、かつ、上向きに搬送する。つまり、人参は、搬送ベルト11に挟持された状態で、斜め後方に引き上げられる態様で搬送されることにより収穫される。この時、走行機体1の走行車速と、搬送ベルト11の水平方向における搬送速度が一致していると、人参は真上方向に引き抜かれることとなり、適切に収穫が行われる。これに対して、走行速度と水平方向における搬送速度が一致しないと、人参は、斜め前方または斜め後方に引き抜かれることとなり、適切に収穫されない場合がある。そのため、走行速度に合わせて搬送部3(搬送ベルト11)の搬送速度を自動的に調整することにより、走行速度と水平方向における搬送速度を一致させる車速同調が行われることが好適である。
【0035】
このような車速同調機能は、車速同調スイッチ47が操作されることにより実行される。また、車速同調スイッチ47をダイヤルスイッチにすることにより、搬送速度を微調整することが可能な構成とされても良い。
【0036】
〔搬送伝動系〕
次に、
図1を参照しながら、
図4を用いて、搬送部3を駆動する搬送伝動系について説明する。
【0037】
エンジンEの動力が、エンジンEの出力軸33から伝動ベルト36(走行伝動系)を介して、静油圧式無段変速装置21に伝達される。
【0038】
静油圧式無段変速装置21により変速された動力が、クローラ走行装置7に伝達されて、走行機体1が前進および後進する。運転部2に備えられた主変速レバー18を、作業者が人為的に操作することにより、静油圧式無段変速装置21を前進側および後進側に操作することができる。
【0039】
エンジンEの動力が、エンジンEの出力軸33から伝動ベルト24(搬送伝動系)を介して、油圧ポンプ39に伝達されて、油圧ポンプ39が駆動される。搬送部3において、搬送ベルト11を回転駆動する油圧モータ40が設けられる。
【0040】
油圧ポンプ39の作動油(圧油)が油圧モータ40に供給されて、油圧モータ40により、搬送ベルト11が回転駆動される。油圧ポンプ39から供給される作動油の流量により油圧モータ40の回転数が制御される。
【0041】
以上のように、クローラ走行装置7に動力を伝達する走行伝動系と、搬送部3に動力を伝達する搬送伝動系とが、エンジンEから並列的に分岐しており、走行伝動系と搬送伝動系とは互いに独立した関係となっている。
【0042】
図4に示すように、タンク43の作動油がストレーナ44を介して油圧ポンプ39に供給され、油圧ポンプ39の作動油が制御弁ユニット50に供給される。
【0043】
制御弁ユニット50に、制御弁51(「バルブ」に相当)が備えられており、油圧ポンプ39の作動油が、油路56により制御弁51に供給される。制御弁51から戻る作動油が、油路57からフィルタ58に供給されて、フィルタ58からタンク43に戻される。油路56,油路57に亘って油路52が接続されて、制御弁51の保護用のリリーフ弁53が油路52に設けられる。
【0044】
制御弁51は、中立位置51N、正転位置51Aおよび逆転位置51Bの3位置を備えており、電磁操作型式に構成されている。油圧モータ40は正転駆動および逆転駆動に切り替えることができ、油路56が制御弁51を介して一対の油路54と接続され、油路54が油圧モータ40に接続されている。油圧モータ40に内装されたリリーフ弁40aに接続される油路55が、フィルタ58に接続されている。制御弁51が正転位置51Aに操作されることにより、一方の油路54を通って油圧モータ40に作動油が供給され、他方の油路54を通って油圧モータ40から制御弁51を介して油路57に作動油が戻されて、油圧モータ40が正転方向に駆動する。制御弁51が逆転位置51Bに操作されることにより、油路54を作動油が逆方向に流れ、油圧モータ40が逆転駆動する。油圧モータ40が逆転することにより、搬送部3が逆転する。
【0045】
また、エンジンEの回転数が制御されることにより、油圧ポンプ39が供給する作動油の流量が調整される。油圧ポンプ39が供給する作動油の流量が調整されることにより、油圧モータ40の回転数が制御される。搬送部3は油圧モータ40に駆動されるため、エンジンEの回転数が制御されることにより、搬送部3(搬送ベルト11)の搬送速度が調整されることとなる。
【0046】
〔搬送制御〕
次に、
図1,
図4を参照しながら、
図5~
図7を用いて、搬送部3の搬送方向を逆転し、搬送速度を調整する制御構成例について説明する。
【0047】
搬送部3(搬送ベルト11)の搬送方向を逆転し、搬送速度を調整する制御は、搬送制御部63が行う。搬送方向の逆転および搬送速度の調整は、搬送方向逆転スイッチ48が操作されたことを搬送制御部63が受けつけ、搬送制御部63の制御により行われる。ここで、搬送速度の調整は、搬送方向逆転スイッチ48により行われても良いが、搬送方向逆転スイッチ48とは別に設けられる搬送速度操作スイッチ60により行われても良い。以下の説明では、搬送方向逆転スイッチ48とは別に搬送速度操作スイッチ60が設けられる構成を例として説明する。
【0048】
図5に示すように、搬送制御部63は、車速同調スイッチ47が操作されたことを受け付けて、上述の車速同調機能を制御する。車速同調スイッチ47により車速同調機能がON操作されると、搬送制御部63は正転方向における搬送速度を走行車速に応じて制御する。
【0049】
搬送制御部63は、搬送方向逆転スイッチ48の操作に応じて、搬送部3(搬送ベルト11)の搬送方向を逆転させる。具体的には、搬送制御部63は、搬送方向逆転スイッチ48が操作されると、制御弁51を、正転位置51Aから逆転位置51Bに切り替え、搬送方向逆転スイッチ48の操作が終了すると(離されると)、逆転位置51Bから正転位置51Aに切り替える。これにより、搬送部3(搬送ベルト11)の搬送方向は、正転方向から逆転方向、または、逆転方向から正転方向に切り替えられる。
【0050】
搬送速度操作スイッチ60は、操作位置(操作量)に応じて搬送速度に対応する油圧モータ40の回転数を指示する。つまり、搬送速度操作スイッチ60は、操作位置に応じて、油圧モータ40の回転数を、搬送制御部63への指示値として搬送制御部63に送信する。
【0051】
搬送制御部63は、記憶部64を備える。記憶部64には、搬送速度を制御するための制御式65が格納される。制御式65は、搬送制御部63が搬送速度操作スイッチ60から入力された指示値である油圧モータ40の回転数と、油圧ポンプ39の制御値との関係を示す式としてあらかじめ定められた式である。制御式65において、油圧モータ40の回転数と制御値とは比例関係を有する。
【0052】
搬送制御部63は、制御式65に基づいて、入力された指示値に応じた制御値を求め、制御値に応じてエンジンEを制御する。そして、搬送制御部63は、制御値によりエンジンEの回転数を制御することにより、油圧ポンプ39から供給される作業油の流量を制御する。これにより、油圧ポンプ39から油圧モータ40に供給される作動油の流量が調整されて、油圧モータ40の回転数が制御される。その結果、搬送速度操作スイッチ60の操作量に応じて搬送部3(搬送ベルト11)の搬送速度が調整される。
【0053】
次に、
図6を用いて、搬送速度の調整例を説明する。
まず、搬送部3が正転方向に駆動されている際に(#1)、搬送方向逆転スイッチ48が操作されると(#2)、搬送方向が逆転方向に逆転される(#3)。
【0054】
この際の、車速同調機能が実行されていると、車速同調機能が停止される。そして、車速同調機能が実行されていてもいなくても、逆転方向における搬送速度は、搬送速度操作スイッチ60の操作位置に対応した速度に調整される(#4)。搬送方向を逆転させることにより、搬送部3につまった作物等の異物が除去されたり、搬送部3のメンテナンスが行われたりする。
【0055】
その後、搬送部3が逆転方向に駆動されている状態で、搬送方向逆転スイッチ48が離されると(#5)、車速同調機能が実行されているか否かに応じて(#6)、搬送速度が制御されながら、搬送方向が正転方向に戻される。
【0056】
車速同調機能が実行されていると(#6 Yes)、搬送方向が正転方向に逆転され(#7)、車速同調機能が再開されて、正転方向における搬送速度は走行車速に応じて決定される(#8)。
【0057】
車速同調機能が実行されていない場合(#6 No)、搬送方向が正転方向に逆転され(#9)、搬送部3が一旦停止される(#10)。搬送部3は、搬送が一旦停止された後、徐々に搬送速度操作スイッチ60の操作位置に対応した搬送速度に駆動される(#11)。搬送速度が高速に設定されていると、搬送方向が逆転された際に、搬送部3が急激に逆向きに動作する。搬送方向が逆転された際に、一旦搬送が停止することにより、搬送部3の急激な動作変更が緩和される。
【0058】
なお、搬送部3が一旦停止された後、搬送速度操作スイッチ60が搬送速度を0の位置に戻され、その後に搬送速度操作スイッチ60が再度調整されることにより、正転方向における駆動が再開される構成としても良い。このように、搬送部3が停止された状態で、搬送速度操作スイッチ60が0の位置に操作されることにより、搬送制御部63は搬送を再開させる状態となる。続いて、搬送速度操作スイッチ60が任意の位置に操作されることにより、搬送制御部63は、搬送速度操作スイッチ60の操作位置に応じた搬送速度で搬送部3を駆動させる。このような構成によっても、搬送部3の急激な動作変更が緩和される。
【0059】
次に、
図7を用いて、制御式65を用いた搬送速度の制御について、具体的に説明する。
【0060】
制御式65は、上述のように、搬送速度操作スイッチ60の操作位置に応じて搬送制御部63がエンジンEに出力する制御値と、油圧ポンプ39が供給する作動油の流量に応じて決まる油圧モータ40の回転数との関係が規定される比例式である。搬送制御部63は、制御式65に基づいて、搬送速度操作スイッチ60の操作位置応じてエンジンEを制御することにより、油圧モータ40の回転数によって決まる搬送速度を制御する。
【0061】
一方、人参収穫機は、油圧モータ40の回転数を計測するセンサ66を備える。制御式65に基づいて搬送速度を制御する際には、制御式65に基づいて、搬送速度操作スイッチ60の操作位置応じた制御値をエンジンEに入力して油圧モータ40の回転数が制御されて、搬送速度が調整される。その状態で、制御式65の制御値に対応する油圧モータ40の回転数と、センサ66で計測された回転数とが比較されて、回転数の差が縮まるように、搬送制御部63は制御値をフィードバック制御する。これにより、搬送速度は、搬送速度操作スイッチ60の操作位置応じた適切な速度に精度良く制御される。
【0062】
制御式65に基づいて、搬送速度操作スイッチ60の操作位置に応じて搬送速度が調整されても、搬送速度操作スイッチ60や搬送部3の個体差により、搬送速度に誤差が生じる場合があり、フィードバック制御しても搬送速度の調整に時間がかかったり、正確な搬送速度の調整が困難となったりする場合がある。そのため、制御式65が補正されても良い。
【0063】
そのため、工場での人参収穫機の生産時、または出荷時に、所定の搬送速度操作スイッチ60の操作位置に応じて搬送速度が調整されたときの油圧モータ40の回転数がセンサ66により計測される。そして、実際にセンサ66により計測された油圧モータ40の回転数と、制御式65に基づいて、搬送速度操作スイッチ60の操作位置応じてエンジンEに入力された制御値に対応する油圧モータ40の回転数とが比較され、2つの回転数に差異がある場合は、回転数の差異に基づいて制御式65が補正される。
【0064】
例えば、所定の搬送速度操作スイッチ60の操作位置に対応する油圧モータ40の回転数がR1であるとする。制御式65において、この回転数R1に対応するエンジンEに出力する制御値はC1となる。制御式65に基づいて、制御値C1でエンジンEが制御された場合に、センサ66が計測した油圧モータ40の回転数がR1となっていれば、制御式65に問題はない。制御式65に基づいて、制御値C1でエンジンEが制御された場合に、センサ66が計測した油圧モータ40の回転数がR1と異なるR2である場合、制御式65が適切でないことになる。具体的には、回転数R1と回転数R2との差rが、所定の回転数以上の場合、制御式65が不適切であると判断されて、制御式65が補正される。補正された制御式67は、制御式65に対して、傾きが同じで、回転数側の切片の値が差rだけ修正されるように、制御式65が平行移動された式となる。
【0065】
このように、制御式65に基づく油圧モータ40の回転数と、センサ66により実測された油圧モータ40の回転数とが比較されて、その差分に応じて制御式65が補正されて制御式67が生成される。これにより、搬送部3や、油圧モータ40、油圧ポンプ39等の個体差により、制御式65に誤差が生じているとしても、個体差を補正して、搬送速度操作スイッチ60の操作位置と搬送速度に対応する油圧モータ40の回転数とが適切となるようにすることができる。
【0066】
なお、制御式65の補正は、生産時や出荷時に限らず、定期的にあるいは任意のタイミングで行われても良い。
【0067】
〔別実施形態〕
(1)車速同調機能の制御は、搬送制御部63が行っても良いが、搬送制御部63とは別に設けられる車速同調制御部等が行っても良い。この場合、車速同調機能が実行されている際の搬送部3の制御は、搬送制御部63と車速同調制御部とが協調して行う。
【0068】
【0069】
(2)搬送方向を逆転させ、搬送速度を調整する搬送部3の動力源は、油圧ポンプ39により作動油が供給される油圧モータ40でも良いが、電動モータでも良く、エンジンEにより直接駆動されても良い。その場合、搬送方向を逆転させ、搬送速度を調整する構成は任意の構成とすることができる。
【0070】
(3)搬送方向逆転スイッチ48はダイヤルスイッチに限らず、スライドボタン等の任意の構成で、搬送方向の逆転と搬送速度の調整とを行う構成とすることもできる。
【0071】
(4)搬送制御部63はCPU等のプロセッサを備え、収穫機のECU等に統合されても良く、任意の機能ブロックに分割されても良い。搬送制御部63は上述のようなハードウェアで構成されても良いが、一部または全部の機能をソフトウェアで実施されても良い。この際、プログラムは、記憶部64等の所定の記憶装置に格納され、搬送制御部63等が備える任意のプロセッサにより実行される。また、搬送方向を逆転させ、搬送速度を調整する工程は、任意の機能ブロックにより実行される方法で行われても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、人参収穫機や大根収穫機に限らず、作物を収穫して搬送する搬送部を備える各種の収穫機に適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
3 搬送部
40 油圧モータ(動力源)
48 搬送方向逆転スイッチ
51 制御弁(バルブ)
60 搬送速度操作スイッチ
63 搬送制御部
64 記憶部
65 制御式
66 センサ
R1 回転数
R2 回転数