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特許7399082WOOD-LJUNGDAHL微生物におけるポリヒドロキシブチレートの生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】WOOD-LJUNGDAHL微生物におけるポリヒドロキシブチレートの生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20231208BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20231208BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20231208BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/62
C12N15/54
C12N15/53
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020517841
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 US2018054473
(87)【国際公開番号】W WO2019071052
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】62/568,127
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518403425
【氏名又は名称】ランザテク,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】タッペル,ライアン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ベーレンドルフ,ジェームズ ブルース ヤーントン ヘイコック
(72)【発明者】
【氏名】ケプケ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】マーセリン,エステバン
(72)【発明者】
【氏名】レングルーバー,レナート デ ソウザ ピント
(72)【発明者】
【氏名】バルゲピア,カスパー
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,ラース
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509691(JP,A)
【文献】特表2015-506681(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083769(WO,A1)
【文献】3-hydroxybutyryl-CoA dehydrogenase - Wikipedia, the free encyclopedia,2016年10月06日,https://web.archive.org/web/20161006084215/https://en.wikipedia.org/wiki/3-Hydroxybutyryl-CoA_dehydrogenase
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2012年,Volume 78, Number 9,p. 3177-3184
【文献】J Chem Technol Biotechnol,2015年,90,p. 1735-1751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非自然発生型のWood-Ljungdahl微生物であって、
a.アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素と、
b.アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素と、
c.3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する酵素と、
を含み、
ここで、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する前記酵素が、アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.9)であり、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する前記酵素が、アセトアセチル-CoAレダクターゼ(EC1.1.1.36)であり、3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する前記酵素が、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(EC2.3.1.-)である、前記微生物
【請求項2】
前記アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Clostridium acetobutylicum、Cupriavidus necator、Escherichia coli、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来する、請求項に記載の微生物。
【請求項3】
前記アセトアセチル-CoAレダクターゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来する、請求項に記載の微生物。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas caviae、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、Pseudomonas属61-3、Rhodospirillum rubrum、またはStreptomyces coelicolorに由来する、請求項に記載の微生物。
【請求項5】
前記微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、およびThermoanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーである、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記微生物が、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Butyribacterium methylotrophicum、Clostridium aceticum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium scatologenes、Eubacterium limosum、Moorella thermautotrophica、Moorella thermoacetica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択される親微生物に由来する、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物が、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される親微生物に由来する、請求項に記載の微生物。
【請求項8】
前記微生物が、CO、CO、およびHのうちの1つ以上を含むガス状基質を消費する、請求項1に記載の微生物。
【請求項9】
前記微生物が、嫌気性である、請求項1に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物が、ポリヒドロキシブチレートを分解することができない、請求項1に記載の微生物。
【請求項11】
前記微生物が、光栄養性、光合成性、またはメタン資化性ではない、請求項1に記載の微生物。
【請求項12】
ガス状基質の存在下で請求項1に記載の微生物を培養し、それにより前記微生物がポリヒドロキシブチレートを生成することを含む、ポリヒドロキシブチレートを生成する方法。
【請求項13】
前記ガス状基質が、CO、CO、およびHのうちの1つ以上を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記培養することが、嫌気性条件下で実行される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記培養することが、炭水化物基質の不在下で実行される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記培養することが、光の不在下で実行される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月4日に出願された米国特許出願62/568,127の利益を主張し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、遺伝子操作された微生物と、微生物発酵による、具体的には、ガス状基質の微生物発酵によるポリヒドロキシブチレート(PHB)の生成のための方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
石油由来のプラスチックは、主にその軽量性、堅牢性、耐久性、および耐劣化性により、現代の生活に不可欠である。しかしながら、石油由来のプラスチックへの依存により、原油の枯渇、汚染、埋め立て地の蓄積を含む、多くの深刻な問題を引き起こしている。プラスチックの環境への影響を減少させるために、従来の石油由来のポリマーを、従来のプラスチックと同様の物理化学的特性を有するポリラクチド、多糖類、脂肪族ポリエステル、およびポリヒドロキシアルカノエート等のバイオポリマーに置き換える努力が進められている(Anjum,Int J Biol Macromol,89:161-174,2016)。しかしながら、このようなバイオポリマーを生成するための微生物および方法は、依然として大部分が開発されていない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、PHBを生成することができる遺伝子操作された微生物を提供する。具体的には、本発明は、(a)アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素、(b)アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素、および(c)3-ヒドロキシブチリル-CoAをPHBに変換する酵素を含む、非自然発生型のWood-Ljungdahl微生物を提供する。
【0005】
一実施形態では、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素は、アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.9)である。例えば、アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Clostridium acetobutylicum、Cupriavidus necator、Escherichia coli、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来し得る。
【0006】
一実施形態では、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素は、アセトアセチル-CoAレダクターゼ(EC1.1.1.36)または3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.157)である。例えば、アセトアセチル-CoAレダクターゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来し得る。別の例では、3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼは、Clostridium beijerinckii、Clostridium acetobutylicum、またはClostridium kluyveriに由来し得る。
【0007】
一実施形態では、3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する酵素は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(EC2.3.1.-)である。例えば、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas caviae、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、Pseudomonas属61-3、Rhodospirillum rubrum、またはStreptomyces coelicolorに由来し得る。
【0008】
一実施形態では、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、およびThermoanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーである。例えば、微生物は、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Butyribacterium methylotrophicum、Clostridium aceticum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium scatologenes、Eubacterium limosum、Moorella thermautotrophica、Moorella thermoacetica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択される親微生物に由来する。好ましい実施形態では、微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される親細菌に由来する。
【0009】
一実施形態では、微生物は、CO、CO、およびHのうちの1つ以上を含むガス状基質を消費する。別の実施形態では、微生物は、嫌気性である。さらに別の実施形態では、微生物は、PHBを分解することができない。
【0010】
本発明は、ガス状基質の存在下で本発明の微生物を培養することを含む、PHBを生成する方法をさらに提供する。例えば、ガス状基質は、CO、CO、およびHのうちの1つ以上数を含み得る。一実施形態では、培養することは、嫌気性条件下で実行される。別の実施形態では、培養することは、炭水化物基質の不在下で実行される。さらに別の実施形態では、培養することは、光の不在下で実行される。
【0011】
本発明のこれらおよび他の特徴および利点は、添付の特許請求の範囲とともに以下の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。特許請求の範囲の範囲が、その中の記述によって定義され、本説明に記載された特徴および利点の具体的な議論によって定義されないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポリヒドロキシブチレート(PHB)生成への酵素経路を示す図である。
図2】pPHB_01のプラスミドマップである。
図3】PHB生合成経路を有するプラスミド(pPHB_01)またはネガティブ対照としての空のプラスミド(pMTL83157)のいずれかを運ぶC.autoethanogenumでのPHB生成を示すグラフである。細菌は、COおよびCOのみを炭素源とする圧力定格ボトルで嫌気的に増殖した。PHBの収率(乾燥細胞質量の重量%として表される)は、HPLCにより決定された。値は、生物学的トリプリケートの平均に、これらの平均の標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。PHBは、pMTL83157(空の)プラスミドを含む試料では検出されなかった。
図4-1】図4A~4Dは、様々な増殖条件下でのC.autoethanogenumの増殖を示すグラフである。細菌は、空のプラスミド(pMTL83157)またはPHB合成経路を含むプラスミド(pPHB_01)のいずれかを含んでいた。各プロットは、異なる条件の組を表す。図4A(条件1)は、唯一の炭素源として50/18/3/29のCO/CO/H/Nを含むガスミックスを使用して、図3で観察されたデータを生成するために使用される条件の繰り返しを示す。図4B(条件2)は、条件1と同一条件を示すが、新しいガス基質(50/30/10/10のCO/CO/H/N)を含む。図4C(条件3)は、条件2と同一条件を示すが、インキュベーション時間が延長されている。図4D(条件4)は、条件3と同一条件を示すが、ガス基質が定期的に更新されている。値は、生物学的トリプリケートの平均に、これらの平均の標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。
図4-2】図4A~4Dは、様々な増殖条件下でのC.autoethanogenumの増殖を示すグラフである。細菌は、空のプラスミド(pMTL83157)またはPHB合成経路を含むプラスミド(pPHB_01)のいずれかを含んでいた。各プロットは、異なる条件の組を表す。図4A(条件1)は、唯一の炭素源として50/18/3/29のCO/CO/H/Nを含むガスミックスを使用して、図3で観察されたデータを生成するために使用される条件の繰り返しを示す。図4B(条件2)は、条件1と同一条件を示すが、新しいガス基質(50/30/10/10のCO/CO/H/N)を含む。図4C(条件3)は、条件2と同一条件を示すが、インキュベーション時間が延長されている。図4D(条件4)は、条件3と同一条件を示すが、ガス基質が定期的に更新されている。値は、生物学的トリプリケートの平均に、これらの平均の標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。
図5図4A~4Dに関連して説明したように、条件1~4下でのC.autoethanogenumにおけるPHB生成を示すグラフである。値は、生物学的トリプリケートの平均に、これらの平均の標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。PHBは、pMTL83157(空の)プラスミドを含む試料では検出されなかった。
図6】連続発酵におけるガス状炭素源からのC.autoethanogenumにおけるPHB生成を示すグラフである。細菌を、PHB合成経路を含むプラスミドpPHB_01と接合した。PHBを、発酵の完了時に測定した。ガス基質は、50/20/20/10のCO/CO/H/Arまたは50/20/2/28のCO/CO/H/Nの混合物の一部として20%水素または2%水素のいずれかをそれぞれ含んだ。5のpHが維持された。値は、重複した発酵の平均に、これらの平均の標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。
図7】連続発酵におけるガス状炭素源からのC.autoethanogenumにおけるPHB生成の向上を示すグラフである。細菌は、PHB合成経路を含むプラスミドpPHB_01と接合した。PHBを発酵の完了時に測定した。ガス基質は、50/20/20/10のCO/CO/H/Arまたは50/20/2/28のCO/CO/H/Nの混合物の一部として20%水素または2%水素のいずれかをそれぞれ含んだ。20%の水素、低バイオマスでは、他の実行と比較してバイオマスの濃度が減少した。20%の水素、変動pHは、6のpHから始まり、次に5.5まで低下した。20%水素、pH6は、培養が低下するまで、発酵実行全体にわたって維持された。値は、重複した発酵の平均に、これらの平均に関する標準偏差をプラスまたはマイナスして表す。
図8】ゲノムスケールの代謝モデル再構築(GEM)を使用したシミュレーションのPHB値を示すグラフである。実験的に検出されたPHBを、PHB収率の最大化を使用してGEMによって予測されたPHBのレベルと比較した。PHB収率の最大化も、NADH、NADPH、Fdred、またはATPのいずれかの2mmol/gDCW/hの摂取で試験した。試験した条件は、PHB20(対照)、PHBLowB(低バイオマス)、およびPHBpH5.5(pH5.5)であった。ATPは、PHBを最も制限する(達成された最高のPHB値)ことが分かり、Fdred、NADPH、および次にNADHが続いた。データは、2つの生物学的反復ケモスタットの平均±標準誤差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
フィッシャー-トロプシュ法等の触媒過程を使用して、産業廃棄物ガスまたは合成ガス等の二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、および/または水素(H)を含むガスを、様々な燃料および化学物質へ変換し得ることが長い間認識されている。しかしながら、最近、ガス発酵が、このようなガスの生物学的固定のための代替基盤として浮上している。具体的には、酢酸生成(すなわち、Wood-Ljungdahl)微生物が、CO、CO、および/またはHを含むガスを、エタノールおよび2,3-ブタンジオール等の生成物に変換することが実証されている。これらのガスからPHB等のより複雑なポリマー分子を生成することが望ましいことが十分に文書化されている(Drzyzga,J Chem Technol Biotechnol,90:1735-1751,2015)。しかしながら、Wood-Ljungdahl経路は、生命の熱力学的エッジで動作するため(Schuchmann,Nat Rev Microbiol,12:809-821,2014)、Wood-Ljungdahl微生物が細胞の増殖および維持に十分な炭素を蓄積することが難しくなり、複雑な炭素生成物の生成がかなり少なくなる。これらの代謝の課題は、炭水化物または糖基質と比較して、発酵培地におけるガス状基質(例えば、CO、CO、および/またはH)の不十分な溶解によって複雑になる。ゆえに、Wood-Ljungdahl微生物がPHBまたは他のポリヒドロキシアルカノエートを合成するように操作される可能性は低いように思われ、これは、特に、これらのポリマーが過剰な炭素を貯蔵する手段としてRhodospirillum rubrumおよびCupriavidus necator等の種によって天然に生成されるためである。実際、現在まで、CO、CO、および/またはHからPHBを生成する酢酸生成微生物を操作する試みは成功していない(The European SYNPOL Project, Biopolymers from syngas fermentation,2012-2017)。
【0014】
しかしながら、熱心な研究および技術的努力の後、本発明者らは、Wood-Ljungdahl微生物における史上初のPHBの合成を達成した。これは、再生可能かつ持続可能なバイオポリマーの生成への道のりにおける大きな節目を表す。
【0015】
第1の態様では、本発明は、PHBを生成することができるWood-Ljungdahl微生物を提供する。第2の態様では、本発明は、ガス状基質の存在下で前述のWood-Ljungdahl微生物を培養することによってPHBを生成する方法を提供する。
経路
【0016】
Wood-Ljungdahl微生物はPHBを天然に生成しないため、Wood-Ljungdahl微生物におけるPHBの生成には、少なくとも1つの異種酵素の導入が必要になる。本発明の微生物は、一般に、3つの異種酵素、すなわち(a)アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素、(b)アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素、および(c)3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する酵素を含む。この経路を図1に示す。
【0017】
(1)アセチル-CoAからアセトアセチル-CoAへの変換
【0018】
アセチル-CoAからアセトアセチル-CoAへの変換は、任意の好適な酵素によって触媒作用を及ぼされてもよい。ある特定の酢酸生成細菌にはこの反応のための天然の活性が存在し得る可能性があるが、通常、この反応に触媒作用を及ぼすために異種(すなわち、非天然)酵素を導入する必要がある。好ましい実施形態では、酵素は、アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼ(チオラーゼまたは3-ケトチオラーゼとしても知られている)であり、これは、EC2.3.1.9(すなわち、2アセチル-CoA←→CoA+アセトアセチル-CoA)によって定義される活性を有する。アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Clostridium acetobutylicum、Cupriavidus necator、Escherichia coli、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolor等の任意の好適な宿主微生物に由来してもよい。
【0019】
具体的には、アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼは、Acinetobacter baumannii PhaA(SCZ16966)、Aeromonas hydrophilia PhaA(WP_043162470)、Alcaligenes latus PhaA(AAC83659)、Arthrospira platensis PhaA(WP_006617472)、Bacillus subtilis PhaA(CUB52080)、Burkholderia cepacia PhaA(WP_043187452)、Clostridium acetobutylicum ThlA(WP_0109661571)、Cupriavidus necator PhaA(WP_013956452.1)、Cupriavidus necator BktB(WP_011615089.1)、Cupriavidus necator phaA(WP_010810132.1)、Escherichia coli AtoB(NP_416728.1)、Haloferax mediterranei PhaA(WP_004059344)、Pseudomonas aeruginosa PhaA(WP_038823536)、Pseudomonas fluorescens PhaA(WP_073525707)、Pseudomonas mandelii PhaA(WP_019582144)、Pseudomonas oleovorans PhaA(WP_074859314)、Pseudomonas putida PhaA(WP_058540218)、またはStreptomyces coelicolor PhaA(WP_011030221)であり得、またはそれらに由来し得る。
【0020】
(2)アセトアセチル-CoAから3-ヒドロキシブチリル-CoAへの変換
【0021】
アセトアセチル-CoAから3-ヒドロキシブチリル-CoAへの変換は、任意の好適な酵素によって触媒作用を及ぼされてもよい。ある特定の酢酸生成細菌にはこの反応のための天然の活性が存在し得る可能性があるが、通常、この反応に触媒作用を及ぼすために異種(すなわち、非天然)酵素を導入する必要がある。好ましい実施形態では、酵素は、アセトアセチル-CoAレダクターゼであり、これは、EC1.1.1.36(すなわち、(R)-3-ヒドロキシアシル-CoA+NADP←→3-オキソアシル-CoA+NADPH+H)によって定義される活性を有する。アセトアセチル-CoAレダクターゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolor等の任意の好適な宿主微生物に由来してもよい。具体的には、アセトアセチル-CoAレダクターゼは、Acinetobacter baumannii PhaB(WP_095389464)、Aeromonas hydrophilia PhaB(WP_041216919)、Alcaligenes latus PhaB(AAC83660)、Arthrospira platensis PhaB(WP_043469113)、Bacillus subtilis PhaB(WP_070548955)、Burkholderia cepacia PhaB(WP_059234032)、Cupriavidus necator PhaB(WP_010810131.1)、Haloferax mediterranei PhaB(WP_004572392)、Pseudomonas aeruginosa PhaB(WP_031690879)、Pseudomonas fluorescens PhaB(WP_030141425)、Pseudomonas mandelii PhaB(WP_094467462)、Pseudomonas oleovorans PhaB(WP_074858624)、Pseudomonas putida PhaB(BAB96554)、またはStreptomyces coelicolor PhaB(WP_011027734)であり得る。別の好ましい実施形態では、酵素は、3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼであり、これは、EC1.1.1.157(すなわち、(S)-3-ヒドロキシブタノイル-CoA+NADP=3-アセトアセチル-CoA+NADPH+H)によって定義される活性を有する。3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼは、Clostridium beijerinckii、Clostridium acetobutylicum、またはClostridium kluyveri等の任意の好適な宿主微生物であってもよく、またはそれらに由来してもよい。具体的には、3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼは、Clostridium beijerinckii Hbd(WP_011967675.1)、Clostridium acetobutylicum Hbd(NP_349314.1)、またはClostridium kluyveri Hbd1(WP_011989027.1)であり得る。
【0022】
好ましくは、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素は、(R)-特異的であり、すなわち、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを生成し、これは、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAが、PHBの酵素生成の典型的な基質であるからである。しかしながら、場合によっては、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素は、(S)-特異的であり、すなわち、(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを生成する。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、発明者らは、酢酸生成細菌における天然または導入されたエピメラーゼ活性により、(S)-および(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAの相互変換が可能になり得、このような(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoAが、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoA変換され、次に、これがPHBに変換され得ることを確信している。
【0023】
(3)3-ヒドロキシブチリル-CoAからPHBへの変換
【0024】
3-ヒドロキシブチリル-CoAからPHBへの変換は、任意の好適な酵素によって触媒作用を及ぼされてもよい。ある特定の酢酸生成細菌にはこの反応のための天然の活性が存在し得る可能性があるが、通常、この反応に触媒作用を及ぼすために異種(すなわち、非天然)酵素を導入する必要がある。好ましい実施形態では、酵素は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼであり、これは、EC2.3.1.B2(型I)(すなわち、3-ヒドロキシブチリル-CoA+[(R)-3-ヒドロキシブタノアート]=[(R)-3-ヒドロキシブタノアート]n+1+CoA)、EC2.3.1.B3(型II)(すなわち、3-ヒドロキシアシル-CoA+[(R)-3-ヒドロキシアシル]=[(R)-3-ヒドロキシアシル]n+1+CoA)、またはEC2.3.1.B4(型III)(すなわち、3-ヒドロキシアシル-CoA+[(R)-3-ヒドロキシアシル]=[(R)-3-ヒドロキシアシル]n+1+CoA)等のEC2.3.1.-によって定義される活性を有する。この酵素は、ポリヒドロキシアルカノエートポリメラーゼ、ポリヒドロキシブチレートシンターゼ、ポリヒドロキシブチレートポリメラーゼ等とも呼ばれ得る。ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼは、Acinetobacter baumannii、Aeromonas caviae、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、Pseudomonas属61-3、Rhodospirillum rubrum、またはStreptomyces coelicolor等の任意の好適な宿主微生物に由来してもよい。具体的には、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼは、Acinetobacter baumannii PhaC(SCY71072)、Aeromonas caviae PhaC(WP_045524574)、Aeromonas hydrophilia PhaC1(WP_017780191)もしくはPhaC2(AAV41872)、Alcaligenes latus PhaC(WP_084267317)、Arthrospira platensis PhaC(WP_006617456)、Bacillus subtilis PhaC(CUB58881)、Burkholderia cepacia PhaC(WP_027784567)、Cupriavidus necator PhaC(WP_011615085またはWP_013956451.1)、Haloferax mediterranei PhaC(WP_004056138)、Pseudomonas aeruginosa PhaC1(WP_038823539)もしくはPhaC2(WP_025271419)、Pseudomonas fluorescens PhaC1(WP_057399292)もしくはPhaC2(WP_030141001)、Pseudomonas mandelii PhaC1(WP_094467460)もしくはPhaC2(WP_010465951)、Pseudomonas oleovorans PhaC1(AAL17611)もしくはPhaC2(WP_037049875)、Pseudomonas putida PhaC1(BAB96552)もしくはPhaC2(WP_029886362)、Pseudomonas属61-3 PhaC1(BAA36198)もしくはPhaC2(BAA36202)、Rhodospirillum rubrum PhaC1(WP_011388028)、PhaC2(WP_011390166)、もしくはPhaC3(WP_011398569)、またはStreptomyces coelicolor PhaCであり得、またはそれらに由来し得る。
【0025】
ある特定の実施形態では、1つ以上の破壊的変異を1つ以上の内因性酵素に導入して、導入された異種酵素との競合を低減または排除し得る。具体的には、「破壊的変異」は、遺伝子または酵素の発現または活性を低減または排除(すなわち「破壊する」)する変異である。破壊的変異は、遺伝子または酵素を、部分的に不活性化し得るか、完全に不活性化し得るか、または欠失し得る。破壊的変異は、ノックアウト(KO)変異であり得る。破壊的変異は、酵素によって生成される生成物の生合成を低減、防止、または阻害する任意の変異であり得る。破壊的変異には、例えば、酵素をコードする遺伝子の変異、酵素をコードする遺伝子の発現に関与する遺伝子調節エレメントの変異、酵素の活性を低減または阻害するタンパク質を生成する核酸の導入、または酵素の発現を阻害する核酸(例えば、アンチセンスRNA、siRNA、ガイドRNA)および/もしくはタンパク質(例えば、Casタンパク質)の導入が含まれ得る。破壊的変異は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して導入されてもよい。
【0026】
例えば、本発明の微生物は、内因性チオエステラーゼ酵素に破壊的変異を有し得る。Clostridium autoethanogenumでは、3つの推定チオエステラーゼ、(1)「チオエステラーゼ1」(AGY74947.1、パルミトイル-CoAヒドロラーゼと注釈が付けられる)、(2)「チオエステラーゼ2」(AGY75747.1、4-ヒドロキシベンゾイル-CoAチオエステラーゼと注釈が付けられる)、および(3)「チオエステラーゼ3」(AGY75999.1、推定チオエステラーゼと注釈が付けられる)とが同定されている。Clostridium ljungdahliiでは、3つの推定チオエステラーゼ、(1)「チオエステラーゼ1」(ADK15695.1、予測アシル-CoAチオエステラーゼ1と注釈が付けられる)、(2)「チオエステラーゼ2」(ADK16655.1、予測チオエステラーゼと注釈が付けられる)、および(3)「チオエステラーゼ3」(ADK16959.1、予測チオエステラーゼと注釈が付けられる)も同定されている。破壊的変異は、これらのチオエステラーゼまたは本発明の微生物に内因性であり得る任意の他のチオエステラーゼのうちのいずれかに影響を及ぼし得る。
微生物
【0027】
「微生物」は、顕微鏡生物、特に細菌、古細菌、ウイルス、または真菌である。本発明の微生物は、典型的には細菌である。本明細書で使用する場合、「微生物」の記述は、「細菌」を包含するように解釈されるべきである。
【0028】
本発明の微生物は、非自然発生型である。微生物に関して使用される場合の「非自然発生型」という用語は、参照種の野生型株を含む参照種の自然発生型の株には見られない少なくとも1つの遺伝子改変を微生物が有することを意味するように意図される。非自然発生型の微生物は、典型的には、実験室または研究施設で開発される。対照的に、「野生型」は、自然界で発生する生物、株、遺伝子、または特徴の典型的な形態を指す。
【0029】
「遺伝子改変」、「遺伝子変化」、または「遺伝子操作」という用語は、広範には、人間の手による微生物のゲノムまたは核酸の操作を指す。同様に、「遺伝子改変される」、「遺伝子変化される」、または「遺伝子操作される」という用語は、このような遺伝子改変、遺伝子変化、または遺伝子操作を含む微生物を指す。これらの用語は、実験室で作り出された微生物と自然発生型の微生物を区別するために使用し得る。遺伝子改変の方法は、例えば、異種遺伝子発現、遺伝子またはプロモータの挿入または欠失、核酸変異、改変遺伝子発現または不活性化、酵素操作、指向性進化、知識ベース設計、ランダム変異導入法、遺伝子シャフリング、およびコドン最適化を含む。
【0030】
「組み換え」は、核酸、タンパク質、または微生物が、遺伝子改変、操作、または組み換えの生成物であることを示す。一般に、「組み換え」という用語は、2つ以上の異なる株もしくは種の微生物等の複数の源に由来する遺伝材料を含むか、またはそれらによってコードされる核酸、タンパク質、または微生物を指す。本発明の微生物は、典型的には組み換えである。
【0031】
「~に由来する」という用語は、新しい核酸、タンパク質、または微生物を生成するように、核酸、タンパク質、または微生物が異なる(例えば、親または野生型)核酸、タンパク質、または微生物から改変または適合されることを示す。このような改変または適合は、典型的には、核酸または遺伝子の挿入、欠失、変異、または置換を含む。一般に、本発明の微生物は、本発明の微生物を作り出すために使用される微生物である「親微生物」に由来する。親微生物は、自然発生型の微生物(すなわち、野生型微生物)または以前に改変されたことのある微生物(すなわち、突然変異体または組み換え微生物)であり得る。本発明の微生物は、親微生物において発現または過剰発現されていなかった1つ以上の酵素を発現または過剰発現させるように改変され得る。同様に、本発明の微生物は、親微生物により含まれていなかった1つ以上の遺伝子を含むように改変され得る。本発明の微生物は、親微生物において発現されていた1つ以上の酵素を発現しないように、またはより少ない量を発現させるようにも改変され得る。一実施形態では、本発明の微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、またはClostridium ragsdaleiからなる群から選択される親微生物に由来する。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、親微生物Clostridium autoethanogenum LZ1561に由来し、これは、ブタペスト条約の条件下で2010年6月7日にドイツのブラウンシュヴァイク、Inhoffenstraβ 7B、D-38124に位置するDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に、2010年6月7日に寄託され、受託番号DSM23693を与えられた。この株については、国際特許出願第PCT/NZ2011/000144号に記載されており、WO2012/015317として公開されている。
【0032】
本発明の微生物は、機能特徴に基づいてさらに分類され得る。例えば、本発明の微生物は、Wood-Ljungdahl微生物、C1固定微生物、嫌気性菌、アセトゲン、エタノロジェン、および/またはカルボキシド栄養生物であり得、またはそれらに由来し得る。表1は、微生物の代表的なリストを提供し、微生物の機能特徴を同定する。
【表1】
【0033】
「Wood-Ljungdahl」は、例えば、Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008に記載されている炭素固定のWood-Ljungdahl経路を指す。「Wood-Ljungdahl微生物」は、予想通り、Wood-Ljungdahl経路を含む微生物を指す。一般に、本発明の微生物は、天然のWood-Ljungdahl経路を含む。本明細書において、Wood-Ljungdahl経路は、天然の未改変のWood-Ljungdahl経路であってもよく、またはある程度の遺伝子改変(例えば、過剰発現、異種発現、ノックアウト等)を伴うWood-Ljungdahl経路であってもよいが、依然としてCO、CO、および/またはHをアセチル-CoAに変換するように機能する場合に限る。
【0034】
「C1」は、一炭素分子、例えばCO、CO、またはCHOHを指す。「C1酸素化物」は、少なくとも1つの酸素原子も含む1炭素分子、例えば、CO、CO、またはCHOHを指す。「C1炭素源」は、本発明の微生物のための部分的または唯一の炭素源としての役割を果たす1炭素分子を指す。例えば、C1炭素源は、CO、CO、CHOH、またはCHのうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、C1炭素源は、COおよびCOのうちの1つまたは両方を含む。「C1固定微生物」は、C1炭素源から1つ以上の生成物を生成する能力を有する微生物である。典型的には、本発明の微生物は、C1固定細菌である。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定されるC1固定微生物に由来する。本発明の目的のために、メタン(CH)は、例えば、WO2016/138050に記載のようにメタン代謝経路を含むように本発明の細菌が操作された場合にのみ、C1炭素源と考えられ得るが、これは、酢酸生成細菌がメタンを炭素源として使用することが天然にできないからである。
【0035】
「嫌気性菌」は、増殖のために酸素を必要としない微生物である。嫌気性菌は、酸素がある特定の閾値を超えて存在する場合に、負の反応を起こし得るか、または死滅し得る。しかしながら、一部の嫌気性菌は、低レベルの酸素(例えば、0.000001~5%の酸素)に耐性を有することができる。典型的には、本発明の微生物は、嫌気性菌である。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定される嫌気性菌に由来する。
【0036】
「アセトゲン」は、エネルギー節約のため、およびアセテート等のアセチル-CoAおよびアセチル-CoA由来生成物の合成のためのその主要機構としてWood-Ljungdahl経路を使用する、偏性嫌気性細菌である(Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008)。アセトゲンは、Wood-Ljungdahl経路を(1)COからのアセチル-CoAの還元的合成の機構として、(2)末端電子受容、エネルギー節約過程として、(3)細胞炭素の合成におけるCOの固定(同化)の機構として使用する(Drake,Acetogenic Prokaryotes,In:The Prokaryotes,3rdedition,p.354,New York,NY,2006)。全ての自然発生型のアセトゲンは、C1固定、嫌気性、独立栄養性、および非メタン資化性である。典型的には、本発明の微生物は、アセトゲンである。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定されるアセトゲンに由来する。
【0037】
「エタノロジェン」は、エタノールを生成する、または生成することができる微生物である。典型的には、本発明の微生物は、エタノロジェンである。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定されるエタノロジェンに由来する。
【0038】
「独立栄養生物」は、有機炭素の不在下で増殖することができる微生物である。代わりに、独立栄養生物は、COおよび/またはCO等の無機炭素源を使用する。典型的には、本発明の微生物は、独立栄養生物である。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定される独立栄養生物に由来する。
【0039】
「カルボキシド栄養生物」は、炭素およびエネルギーの唯一の源としてCOを利用することができる微生物である。典型的には、本発明の微生物は、カルボキシド栄養生物である。好ましい実施形態では、本発明の微生物は、表1で同定されるカルボキシド栄養生物に由来する。
【0040】
より広範には、本発明の微生物は、表1で同定される任意の属または種に由来し得る。例えば、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、およびThermoanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーであり得る。具体的には、微生物は、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Butyribacterium methylotrophicum、Clostridium aceticum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium scatologenes、Eubacterium limosum、Moorella thermautotrophica、Moorella thermoacetica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択される親細菌に由来し得る。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明の微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiの種を含むClostridiaのクラスターに由来する。これらの種は、Abrini,Arch Microbiol,161:345-351,1994(Clostridium autoethanogenum)、Tanner,Int J System Bacteriol,43:232-236,1993(Clostridium ljungdahlii)、およびHuhnke,WO2008/028055(Clostridium ragsdalei)によって初めて報告され、かつ特徴付けられた。
【0042】
これらの種は、多くの類似点を有する。具体的には、これらの種は全て、C1固定、嫌気性、酢酸生成、エタノール生成、およびカルボキシド栄養性のClostridium属メンバーである。これらの種は、同様の遺伝子型および表現型ならびにエネルギー節約および発酵代謝のモードを有する。さらに、これらの種は、99%を超えて同一である16S rRNA DNAを有するクロストリジウムrRNAホモロジー群I内に群生し、約22~30モル%の含有量でDNA G+Cを有し、グラム陽性であり、同様の形態およびサイズを有し(0.5~0.7×3~5μmの対数増殖細胞)、中温性であり(30~37℃で最適に増殖する)、約4~7.5の同様のpH範囲を有し(約5.5~6の最適pH)、シトクロムを欠いており、Rnf複合体を介してエネルギーを節約する。また、カルボン酸のそれらの対応するアルコールへの還元が、これらの種において示されている(Perez,Biotechnol Bioeng,110:1066-1077,2012)。重要なことに、これらの種は全て、COを含むガスで強い独立栄養増殖も示し、主な発酵生成物としてエタノールおよびアセテート(または酢酸)を生成し、ある特定の条件下で少量の2,3-ブタンジオールおよび乳酸を生成する。
【0043】
しかしながら、これらの種は、いくつかの違いも有する。これらの種は、Clostridium autoethanogenumはウサギの腸から、Clostridium ljungdahliiは養鶏場の廃棄物から、およびClostridium ragsdaleiは淡水堆積物からというように、異なる源から単離された。これらの種は、様々な糖(例えば、ラムノース、アラビノース)、酸(例えば、グルコン酸塩、クエン酸塩)、アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン)、および他の基質(例えば、べタイン、ブタノール)の利用において異なる。さらに、これらの種は、ある特定のビタミン(例えば、チアミン、ビオチン)に対する栄養要求性において異なる。これらの種は、Wood-Ljungdahl経路遺伝子およびタンパク質の核酸およびアミノ酸配列に違いを有するが、これらの遺伝子およびタンパク質の一般的な組織および数は、全ての種で同じであることがわかっている(Kopke,Curr Opin Biotechnol,22:320-325,2011)。
【0044】
したがって、要約すると、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、またはClostridium ragsdaleiの特徴の多くは、その種に固有ではなく、むしろ、C1固定、嫌気性、酢酸生成、エタノール生成、およびカルボキシド栄養性のClostridium属のメンバーのこのクラスターの一般的な特徴である。しかしながら、これらの種は、実際は、全く異なるため、これらの種のうちの1つの遺伝子改変または操作は、これらの種のうちの別のものにおいては同一の効果がない場合がある。例えば、増殖、性能、または生成物生成における違いが観察され得る。
【0045】
本発明の微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、またはClostridium ragsdaleiの単離物または突然変異体にも由来し得る。Clostridium autoethanogenumの単離物および突然変異体には、JA1-1(DSM10061)(Abrini,Arch Microbiol,161:345-351,1994)、LBS1560(DSM19630)(WO2009/064200)、およびLZ1561(DSM23693)(WO2012/015317)が含まれる。Clostridium ljungdahliiの単離物および突然変異体には、ATCC49587(Tanner,Int J Syst Bacteriol,43:232-236,1993)、PETCT(DSM13528、ATCC 55383)、ERI-2(ATCC55380)(US5,593,886)、C-01(ATCC55988)(US6,368,819)、O-52(ATCC55989)(US6,368,819)、およびOTA-1(Tirado-Acevedo,Production of bioethanol from synthesis gas using Clostridium ljungdahlii,PhD thesis,North Carolina State University,2010)が含まれる。Clostridium ragsdaleiの単離物および突然変異体には、PI 1(ATCC BAA-622、ATCC PTA-7826)(WO2008/028055)が含まれる。
【0046】
好ましくは、本発明の微生物は、光栄養性または光合成性ではない。好ましくは、本発明の微生物は、メタン資化性ではない。
【0047】
好ましくは、本発明の微生物は、Alcaligenes、Azotobacter、Bacillus、Cupriavidus(Ralstonia)、Rhizobium、Rhodospirillum、またはPseudomonasの属のメンバーではない。具体的には、本発明の微生物は、好ましくは、Rhodospirillum rubrum、Bacillus cereus、Cupriavidus necator(以前はRalstonia eutropha)、またはPseudomonas putidaに由来しない。他の実施形態では、本発明の微生物は、好ましくは、Escherichia coliに由来しない。
酵素
【0048】
「内因性」または「天然」は、本発明の微生物が由来する野生型または親微生物に存在または発現する核酸またはタンパク質を指す。例えば、内因性遺伝子またはタンパク質は、本発明の微生物が由来する野生型または親微生物に天然に存在する遺伝子またはタンパク質である。一実施形態では、内在性遺伝子の発現は、外因性プロモータ等の外因性調節エレメントによって制御され得る。
【0049】
「外因性」は、本発明の微生物の外側から生じる核酸またはタンパク質を指す。例えば、外因性遺伝子または酵素は、本発明の微生物に人工的または組み換え的に作成され、導入または発現され得る。外因性遺伝子または酵素は、異種微生物から単離され、本発明の微生物に導入または発現され得る。外因性核酸は、本発明の微生物のゲノムに組み込まれるように、または本発明の微生物、例えばプラスミド中で染色体外の状態にとどまるように適合され得る。
【0050】
「異種」は、本発明の微生物が由来する野生型または親微生物に存在しない核酸またはタンパク質を指す。例えば、異種遺伝子または酵素は、異なる株または種に由来し、本発明の微生物に導入または発現され得る。
【0051】
典型的には、(a)アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素、(b)アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素、または(c)3-ヒドロキシブチリル-CoAをPHBに変換する酵素のうちの少なくとも1つは、細菌に対して異種(すなわち、非天然)である。例えば、これらの酵素のうちの1つ、2つ、または3つ全ては、細菌に対して異種(すなわち、非天然)であり得る。しかしながら、細菌がこれらのステップのうちの1つ以上について天然の酵素活性を有することがある場合、異種酵素を導入してこれらのステップに触媒作用を及ぼす必要がない場合がある。
【0052】
本明細書で使用する場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えば、mRNAまたは他のRNA転写物へ)転写される過程、および/または転写されたmRNAが、続いて、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質へ翻訳される過程を指す。
【0053】
「酵素活性」または単に「活性」は、広範には、酵素の活性、酵素の量、または反応に触媒作用を及ぼすための酵素の可用性を含むがこれらに限定されない、酵素的活性を指す。したがって、酵素活性を「増加させること」は、酵素の活性を増大させること、酵素の量を増加させること、または反応に触媒作用を及ぼすための酵素の可用性を増加させることを含む。同様に、酵素活性を「減少させること」は、酵素の活性を減少させること、酵素の量を減少させること、または反応に触媒作用を及ぼすための酵素の可用性を減少させることを含む。
【0054】
「コドン最適化」は、特定の株または種における核酸の最適化または改善された翻訳のための、遺伝子等の核酸の変異を指す。コドン最適化により、翻訳速度の高速化または翻訳精度の向上がもたらされ得る。好ましい実施形態では、本発明の遺伝子は、Clostridium、具体的には、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、またはClostridium ragsdaleiでの発現のためにコドン最適化される。本明細書で使用する場合、「コドン最適化された」および「コドン適合された」という用語は、同じ意味で使用することができる。
【0055】
「変異体」という用語は、核酸およびタンパク質の配列が、従来技術において開示されるかまたは本明細書に例示される参照核酸およびタンパク質の配列等の、参照核酸およびタンパク質の配列とは異なる、核酸およびタンパク質を含む。本発明は、参照核酸またはタンパク質と実質的に同じ機能を実行する変異体核酸またはタンパク質を使用して実施され得る。例えば、変異体タンパク質は、参照タンパク質と実質的に同じ機能を実行するか、または実質的に同じ反応に触媒作用を及ぼし得る。変異体遺伝子は、参照遺伝子と同じ、または実質的に同じタンパク質をコードし得る。変異体プロモータは、参照プロモータと実質的に同じ、1つ以上の遺伝子の発現を促進するための能力を有し得る。
【0056】
このような核酸またはタンパク質は、本明細書において「機能的に同等な変異体」と呼ばれ得る。例として、核酸の機能的に同等な変異体には、対立遺伝子変異体、遺伝子の断片、突然変異遺伝子、多型等が含まれ得る。他の微生物からの相同遺伝子も、機能的に同等な変異体の例である。これらには、Clostridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、またはClostridium ljungdahlii等の種の相同遺伝子が含まれ得、その詳細はGenBankまたはNCBI等のウェブサイト上で公開されている。機能的に同等の変異体には、特定の微生物のコドン最適化の結果として配列が異なる核酸も含まれる。核酸の機能的に同等な変異体は、好ましくは、参照核酸と少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、またはそれを超える核酸配列同一性(相同性割合)を有する。タンパク質の機能的に同等な変異体は、好ましくは、参照タンパク質と少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、またはそれを超えるアミノ酸同一性(相同性割合)を有する。変異体核酸またはタンパク質の機能的同等性は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して評価され得る。
【0057】
本明細書に記載の酵素は、典型的には、本発明の微生物に導入された核酸から発現される。核酸は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して、本発明の微生物に送達され得る。例えば、核酸は裸の核酸として送達されてもよく、リポソーム等の1つ以上の薬剤とともに配合されてもよい。核酸は、必要に応じて、DNA、RNA、cDNA、またはそれらの組み合わせであってもよい。ある特定の実施形態では、制限阻害剤を使用してもよい。追加のベクターには、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、コスミド、および人工染色体が含まれ得る。好ましい実施形態では、核酸は、プラスミドを使用して本発明の微生物に送達される。例として、形質転換(形質導入またはトランスフェクションを含む)は、エレクトロポレーション、超音波処理、ポリエチレングリコール媒介形質転換、化学的または自然の能力、プロトプラスト形質転換、プロファージ誘発、または接合によって達成され得る。活性制限酵素系を有するある特定の実施形態では、核酸を微生物に導入する前に核酸をメチル化する必要があり得る。
【0058】
さらに、特定の核酸の発現を増加または制御するために、プロモータ等の調節エレメントを含むように核酸を設計してもよい。プロモータは、構成的プロモータまたは誘導性プロモータであり得る。理想的には、プロモータは、Wood-Ljungdahl経路プロモータ、フェレドキシンプロモータ、ピルベート:フェレドキシンオキシドレダクターゼプロモータ、Rnf複合オペロンプロモータ、ATPシンターゼオペロンプロモータ、またはホスホトランスアセチラーゼ/アセテートキナーゼオペロンプロモータである。
基質
【0059】
「基質」は、本発明の微生物のための炭素源および/またはエネルギー源を指す。典型的には、基質は、ガス状であり、C1-炭素源、例えば、COおよび/またはCOを含む。好ましくは、基質は、COまたはCO+COのC1炭素源を含む。基質は、H、N、または電子等の他の非炭素成分をさらに含み得る。
【0060】
基質は、一般に、約1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100モル%のCO等の少なくともいくらかの量のCOを含む。基質は、約20~80、30~70、または40~60モル%のCO等の、ある範囲のCOを含み得る。好ましくは、基質は、約40~70モル%のCO(例えば、製鋼所または高炉ガス)、約20~30モル%のCO(例えば、塩基性酸素高炉ガス)、または約15~45モル%のCO(例えば、合成ガス)を含む。いくつかの実施形態では、基質は、約1~10または1~20モル%のCO等の、比較的少量のCOを含み得る。本発明の微生物は、典型的には、基質中のCOの少なくとも一部分を生成物に変換する。いくつかの実施形態では、基質は、COを含まないか、または実質的に含まない(1モル%未満)。
【0061】
基質は、いくらかの量のHを含み得る。例えば、基質は、約1、2、5、10、15、20、または30モル%のHを含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約60、70、80、または90モル%のH等の、比較的多量のHを含み得る。さらなる実施形態では、基質は、Hを含まないか、または実質的に含まない(1モル%未満)。
【0062】
基質は、いくらかの量のCOを含み得る。例えば、基質は、約1~80または1~30モル%のCOを含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約20、15、10、または5モル%未満のCOを含み得る。別の実施形態では、基質は、COを含まないか、または実質的に含まない(1モル%未満)。
【0063】
ある特定の実施形態では、条件「PHB20」および「EP20」とそれぞれ称される20%のH類似合成ガス(50%CO、20%CO、20%H、10%アルゴン)、または条件「PHB2」および「EP2」とそれぞれ称される2%のH類似製鋼所オフガス(50%CO、20%CO、2%H、28%窒素との、2つの異なるCOおよびCO含有ガスミックスを使用して、PHB生成株の増殖を、対照(「空のプラスミド」または「EP」)株と比較する。
【0064】
基質は、典型的にはガス状であるが、基質は、代替的な形態でも提供されてもよい。例えば、基質は、マイクロバブル分散体発生器を使用して、CO含有ガスで飽和した液体に溶解されてもよい。さらなる例として、基質は、固体支持体上に吸着されてもよい。
【0065】
基質および/またはC1炭素源は、自動車の排出ガスまたはバイオマスガス化から等の、産業過程の副産物として得られる、または何らかの他の源からの廃ガスであり得る。ある特定の実施形態では、産業過程は、製鋼所製造等の鉄金属生成物製造、非鉄金属生成物製造、石油精製、石炭ガス化、電力生成、カーボンブラック生成、アンモニア生成、メタノール生成、およびコークス製造からなる群から選択される。これらの実施形態では、基質および/またはC1炭素源は、任意の簡便な方法を使用して、それが大気中に放出される前に産業過程から捕捉され得る。
【0066】
基質および/またはC1炭素源は、石炭もしくは精錬残渣のガス化、バイオマスもしくはリグノセルロース材料のガス化、または天然ガスの改質によって得られる合成ガス等の、合成ガスであり得る。別の実施形態では、合成ガスは、都市固形廃棄物または産業固形廃棄物のガス化から得られてもよい。
【0067】
基質の組成は、反応の効率および/または費用に著しい影響を及ぼし得る。例えば、酸素(O)の存在は、嫌気性発酵過程の効率を低減し得る。基質の組成に応じて、基質を処理、スクラブ、または濾過して、毒素、望ましくない成分、またはちり粒子等のいかなる望ましくない不純物も除去すること、および/または所望の成分の濃度を増加させることが望ましくあり得る。
【0068】
ある特定の実施形態では、発酵または培養は、糖、デンプン、リグニン、セルロース、またはヘミセルロース等の炭水化物基質の不在下で実行される。
【0069】
本明細書で使用する場合、「PHBLowB」という用語は、3倍低い定常状態バイオマス濃度等の低い定常状態バイオマス濃度での実験を指すために使用される。本明細書で使用する場合、「PHBpH5.5」という用語は、5.5のpHで行われた実験を指すように使用される。図8参照。
生成物
【0070】
本発明の微生物は、1つ以上の生成物を生成するように培養され得る。具体的には、本発明の微生物は、アセトアセチル-CoAまたは3-ヒドロキシブチリル-CoA等の、PHBまたはその前駆体を生成し得る。
【0071】
PHBは、3-ヒドロキシブチレートモノマーのポリマーである。本発明に従って生成されたPHBは、任意の数の3-ヒドロキシブチレートモノマー、例えば、約10~1,000,000個のモノマーを含み得る。さらなる例として、PHBは、約10~100,000個のモノマー、100~100,000個のモノマー、100~10,000個のモノマー、500~5,000個のモノマー、1,000~10,000個のモノマー、または5,000~20,000個のモノマーを含み得る。好ましい実施形態では、PHBは、約100~12,000個のモノマーを含む。
【0072】
本発明の細菌によって生成されるPHBの分子量は、約1,000~100,000,000Daの範囲であり得る。例えば、PHBの分子量は、約1,000~10,000Da、10,000~1,000,000Da、10,000~10,000,000Da、または10,000,000~100,000,000Daであり得る。好ましくは、PHBの分子量は、約10,000~1,000,000Da、例えば、10,000~100,000Da、10,000~500,000Da、100,000~500,000Da、300,000~800,000Da、または500,000~1,000,000Daであり得る。
【0073】
PHB生成は、乾燥細胞重量の割合と呼ばれることが多い。本発明の微生物は、例えば、0.005~0.995重量%のPHBを生成し得る。好ましくは、本発明の微生物は、約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、3重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、または95重量%のPHBを生成する。
【0074】
PHBの物理的特徴は、当該技術分野において周知である。概算として、PHBは、ヤング率1497~3500MPa、引張強度18~43MPa、破断伸び1.9~45%、結晶化度60~80%、融解温度162~180℃、結晶化温度45~116℃、および/またはガラス転移温度-1.2~10℃を有する。
【0075】
加えて、本発明の微生物は、エタノール(WO2007/117157)、アセテート(WO2007/117157)、ブタノール(WO2008/115080およびWO2012/053905)、ブチレート(WO2008/115080)、2,3-ブタンジオール(WO2009/151342およびWO2016/094334)、乳酸(WO2011/112103)、ブテン(WO2012/024522)、ブタジエン(WO2012/024522)、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(WO2012/024522およびWO2013/185123)、エチレン(WO2012/026833)、アセトン(WO2012/115527)、イソプロパノール(WO2012/115527)、脂質(WO2013/036147)、3-ヒドロキシプロピオネート(3-HP)(WO2013/180581)、イソプレン(WO2013/180584)、脂肪酸(WO2013/191567)、2-ブタノール(WO2013/185123)、1,2-プロパンジオール(WO2014/036152)、1-プロパノール(WO2014/0369152)、およびコリスマート由来生成物(WO2016/191625)等の他の生成物も生成し得るか、またはそれらを生成するように操作され得る。1つ以上の標的生成物に加えて、本発明の微生物は、エタノール、アセテート、および/または2,3-ブタンジオールも生成し得る。ある特定の実施形態では、微生物バイオマス自体が生成物と考えられ得る。
【0076】
好ましくは、本発明の微生物は、PHBを分解することができない。PHBおよび他のポリヒドロキシアルカノエートを天然に生成する生物は、一般に、他の栄養素(例えば、窒素およびリン)が制限的であり、かつ炭素が過剰な場合に、ポリマーを炭素貯蔵材料として合成する。次に、これらの生物は、制限的な栄養素が貯蔵炭素にアクセスできるように補充されると、ポリマーを解重合/分解し得る。PHB生成を最大化する目的のために、本発明の微生物等の非天然の生成菌は、一旦ポリマーが生成されると、ポリマーを酵素的に分解することができないという利点を有することが多い。これにより、本質的に炭素がポリマーに永久的に固定され、収率が増加する。
【0077】
「選択性」は、微生物によって生成される全発酵生成物の生成に対する標的生成物の生成の比率を指す。本発明の微生物は、ある特定の選択性で、または最小の選択性で生成物を生成するように操作され得る。一実施形態では、標的生成物は、本発明の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、50%、または75%を占める。一実施形態では、標的生成物は、本発明の微生物が少なくとも10%の標的生成物のための選択性を有するように、本発明の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも10%を占める。別の実施形態では、標的生成物は、本発明の微生物が少なくとも30%の標的生成物のための選択性を有するように、本発明の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも30%を占める。
発酵
【0078】
本発明は、ガス状基質の存在下で本発明の微生物を培養し、それによって微生物がPHBを生成することを含む、PHBを生成する方法をさらに提供する。ガス状基質は、一般に、CO、CO、およびHのうちの1つ以上を含む。
【0079】
典型的には、培養は、バイオリアクタ中で実行される。「バイオリアクタ」という用語は、連続撹拌槽反応器(CSTR)、固定化細胞反応器(ICR)、トリクルベッド反応器(TBR)、気泡塔、ガスリフト発酵槽、静的ミキサ、またはガス-液体接触に好適な他の容器もしくは他のデバイス等の1つ以上の容器、塔、または配管からなる培養/発酵デバイスを含む。いくつかの実施形態では、バイオリアクタは、第1の増殖反応器および第2の培養/発酵反応器を含み得る。基質は、これらの反応器のうちの1つまたは両方に提供され得る。本明細書で使用する場合、「培養」および「発酵」という用語は、同じ意味で使用される。これらの用語は、培養/発酵過程の増殖期および生成物生合成期の両方を包含する。
【0080】
培養は、一般に、微生物の増殖を可能にするのに十分な栄養素、ビタミン、および/またはミネラルを含む水性培養培地で維持される。好ましくは、水性培養培地は、最小嫌気性微生物増殖培地等の嫌気性微生物増殖培地である。好適な培地は、当該技術分野において周知である。
【0081】
培養は、望ましくは、標的生成物の生成のための適切な条件下で行われるべきである。典型的には、培養は、嫌気性条件下で実行される。考慮すべき反応条件は、圧力(または分圧)、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地レドックス電位、撹拌速度(連続撹拌槽反応器を使用する場合)、接種レベル、液相中のガスが制限的にならないことを確実にするための最大ガス基質濃度、および生成物阻害を回避するための最大生成物濃度を含む。
【0082】
上昇した圧力でバイオリアクタを作動させることによって、気相から液相へのガス質量移動の速度上昇が可能になる。したがって、大気圧よりも高い圧力で発酵を実行することが好ましい場合がある。また、所定のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であり、かつ保持時間がバイオリアクタの必要な体積を示すことから、加圧システムの使用によって、必要なバイオリアクタの体積、およびその結果として発酵設備の資本コストを大幅に削減することができる。これは、同様に、バイオリアクタ中の液体体積を入力ガス流速で除算したものと定義される保持時間が、バイオリアクタが大気圧よりも上昇した圧力に維持されるときに短縮し得ることを意味する。最適反応条件は、使用する特定の微生物に部分的に依存する。しかしながら、一般的には、大気圧より高い圧力で発酵を作動させることが好ましい。また、所定のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であり、かつ所望の保持時間を達成することが同様にバイオリアクタの必要な体積を示すことから、加圧システムの使用によって、必要なバイオリアクタの体積、およびその結果として発酵設備の資本コストを大幅に削減することができる。
【0083】
ある特定の実施形態では、発酵は、光の不在下で、または光合成性または光栄養性微生物のエネルギー要件を満たすのに不十分な量の光の存在下で実行される。
【0084】
本発明の方法は、PHBの分離または精製をさらに含み得る。PHBは、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して分離または精製され得る。例えば、沈殿(Chen,Appl Microbiol Biotechnol,57:50-55,2001)または連続分離(Elbahloul,Appl Environ Microbiol,75:643-651,2009;Heinrich,AMB Express,2:59,2012)に続く凍結乾燥によって、細胞を収集し得る。フリーズドライの後に、エチルアセテート(Chen,Appl Microbiol Biotechnol,57:50-55,2001)、アセトン(Elbahloul,Appl Environ Microbiol,75:643-651,2009)、または次亜塩素酸ナトリウム(Heinrich,AMB Express,2:59,2012)等の材料で、ポリマーを細胞から除去し得る。次に、ポリマーを残留/可溶化細胞塊から除去し得る。ポリヒドロキシアルカノエートの精製のための多数の代替過程が公開され開発されているが、大規模精製のためにはまだ確立されていない(Kunasundari,Express Polym Lett,5,620-634,2011)。
【実施例
【0085】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、当然のことながら、いかなる方法によってもその範囲を制限すると解釈されるべきではない。
実施例1
【0086】
本実施例は、PHB合成が可能なWood-Ljungdahl微生物の構築を実証する。
【0087】
C.necatorからのPHB経路遺伝子(phaC、phaA、およびphaB)(配列ID番号:1、4、および7)を、C.autoethanogenum、PHBを天然に生成しないWood-Ljungdahl微生物に導入した。注目すべきは、これらの種には、染色体GC含有量に著しい違いがあることである。具体的には、C.necatorのGC含有量は66%(Pohlmann,Nat Biotechnol,24:1257-1262,2006)であり、C.autoethanogenumのGC含有量は31%だけである(Brown,Biotechnol Biofuels,7:40,2014)。コドン使用に基づいて遺伝子発現の問題を予測し、C.necatorからのPHB遺伝子の配列を、C.autoethanogenumのタンパク質のより高い発現プロファイルにより良く合うようにコドン適合した。C.necatorと同一のタンパク質をコードする新規配列(配列ID番号3、6、および9)を有する遺伝子を合成し、発現ベクターpMTL83157(配列ID番号10)に組み立てた。このプラスミドは、pMTL8000シリーズ(Heap,J Microbiol Methods,78:79-85,2009)と同様であり、遺伝子転写を駆動するC.autoethanogenumから取得した天然のWood-Ljungdahlプロモータを有する。遺伝子を、C.necatorゲノムに現れるのと同じ順序、phaC、phaA、およびphaBでプロモータの下流に配置した。抗生物質選択マーカー、catPも使用した。得られたプラスミドを、pPHB_01(配列ID番号11)と命名した(図2)。
【0088】
他で記載されるように(Mock,J Bacteriol, 197:2965-2980,2015)、E.coli HB101を使用した細菌接合によってpPHB_01をC.autoethanogenumに挿入した。別に、「空の」pMTL83157プラスミドをネガティブ対照としてC.autoethanogenumに挿入した。次に、これらの株を使用して、ガス状基質からのPHB生成を試験した。
【0089】
好ましい実施形態では、微生物は、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素を含み、この酵素は、配列ID番号2に規定のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する酵素を含み、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素は、配列ID番号5に規定のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する酵素を含み、および/または3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する酵素は、配列ID番号8に規定のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する酵素を含む。
実施例2
【0090】
本実施例は、ショットボトル内のガス状基質からのPHBの生成を実証する。
【0091】
実施例1で構築された株を、PHBの生成を試験するために小さなバッチで増殖させた。全ての作業は、厳しい嫌気性条件下で行われた(Hungate,Methods in microbiology,pages 117-132,Academic Press,New York,NY,1969)。プラスミド保持のためのチアンフェニコールおよび緩衝のための2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸を含む改変PETC培地(Kopke,Appl Environ Microbiol,77:5467-5475,2011)を含む圧力定格ショットボトルに株を接種し、唯一の炭素源としてのCO、CO、H、およびN(それぞれ50、18、3、および29%)を含むガスをボトルに21psiまで添加した。培養物を37℃で回転振とうしながら増殖させた。
【0092】
培養物が固定相に入るまで、細胞増殖を定期的に監視した。増殖が完了すると、細胞は嫌気性条件下で処理されなくなった。細胞を遠心分離によって収集し、その上清を廃棄し、-20℃で凍結し、凍結乾燥を介して乾燥させた。
【0093】
PHB収率は、他で記載される(Karr、Appl Environ Microbiol、46、1339-1344、1983)のと同様に高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって推定された。簡単に言うと、乾燥した細胞を濃硫酸で処理し、加熱してPHBをクロトン酸に変換した。試料を冷却、希釈、濾過し、UV-Vis検出器を備えたHPLCで分析してクロトン酸を定量化した。初期PHB生成の結果を図3に要約し、これはWood-Ljungdahl微生物で約1.15重量%PHBの生成に成功したことを示している。
【0094】
しかしながら、重量の90%以上を占めるようにPHBのようなポリマーを合成することができるCupriavidusおよびPseudomonas等の天然の生成菌と比較して収率が低いことを考えると、Wood-Ljungdahl微生物のガスからのPHB合成が非ガス状基質で増殖する天然の生成菌ほど単純ではないようである。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、発明者らは、Wood-Ljungdahl微生物と天然のPHB生成菌との間のpH選好、酸素要件、基質利用等の違いを克服するために、Wood-Ljungdahl微生物におけるPHB生成にはコドン適応が必要であり得ると仮定している。
【0095】
ガス状基質からC.autoethanogenumでPHBの合成を達成した後、PHB収率を支持/改善し得る条件を探求するために、増殖条件を変えて上記の作業を繰り返した。具体的には、上記の条件(条件1、図4A)を繰り返し、ガス組成を50/30/10/10のCO/CO/H/N(条件2、図4B)に変更し、培養物のインキュベーションを固定相に延長し(条件3、図4C)、ボトル内のガスを定期的に更新する(条件4、図4D)実験を実行した。図4A~4Dに示すように、全ての試験条件下で、操作された株および対照株の両方について増殖が類似していた。
【0096】
上述のように、細胞を採取し、PHB生成について分析した。その結果を図5に示し、これは、条件1で約1.65重量%のPHB、条件2で約1.50重量%のPHB、条件3で約1.50重量%のPHB、条件4で約0.85重量%のPHBの生成を示す。
実施例3
【0097】
本実施例は、連続発酵におけるガス状基質からのPHBの生成を実証する。
【0098】
実施例1で構築された株を、Valgepea,Cell Syst,4:505-515,2017に記載されている条件と同様の条件下で、主な炭素源としてガスを使用した連続発酵下で試験した。ショットボトルで実行した実験と同様に、連続培養物は、嫌気的に増殖および処理された。ショットボトルとは異なり、培養物は、約20日間、培地を絶えず供給しながら連続的に増殖した。増殖およびPHBの生成には、50/20/20/10のCO/CO/H/Arおよび50/20/2/28のCO/CO/H/Nの2つの異なるガス組成を使用した。質量分析(MS)を使用してガス摂取を監視し、試料を定期的に採取して、液体代謝産物をHPLCで定量化した。
【0099】
PHBは、連続発酵が完了するまで定量化されなかった。ショットボトルの実験と同様に、細胞を遠心分離によって収集し、凍結し、凍結乾燥によって乾燥した。その後、硫酸および熱で処理してPHBをクロトン酸に変換することにより、乾燥細胞をPHBについて分析した。次に、HPLCを介してPHB定量化を行った。連続発酵でのPHB生成の結果を図6に示す。具体的には、20%水素ガスで増殖した微生物は、約0.45重量%のPHBを生成し、2%水素ガスで増殖した微生物は、約0.25重量%のPHBを生成した。
実施例4
【0100】
本実施例は、PHB生成を増加させるための発酵槽の最適化を実証する。
【0101】
細胞内のPHB含有量を増加させるために、連続発酵内で様々な条件を試験した。アセチル-CoAおよびNADPHのプールは、バイオマス濃度がより低くなると増加する(Valgepea,Cell Syst.,4:505-515,2017)。ゆえに、定常状態バイオマスレベルがより低くなると、アセチル-CoAおよびNADPHプールのレベルの増加を通じて結果的にPHBがより高くなるか否かを試験した。COの摂取速度、ひいては発酵槽のバイオマス濃度を低下させると、PHBへの細胞資源のフラックスが増加することが示された(図7)。
【0102】
PHBを増加させることが分かった別の要因はpHであった。pHがより高くなると、酢酸の拡散が少なくなり、プロトン駆動力(PMF)が分離される(Valgepea,Cell Syst.,4:505-515,2017)。ゆえに、pHを5~5.5または6に増加させると、PMFを維持するために消耗するエネルギーが少なくなるか否かを試験した。余分の利用可能エネルギーによって、ATP生成に必要なアセテート生成を低減することにより、PHB生成をサポートする追加のATPが提供される。pHを5.0~5.5または6.0に変更すると、結果的にPHB生成が増加した(pH5.5で約12.5倍)。しかしながら、C.autoethanogenumはより酸性のpHで最適に増殖するため、6.0のpH値を維持することは難しい。
実施例5
【0103】
本実施例は、対照(空のプラスミド)株と比較して、PHBを生成するときの転写およびメタボロームレベルの変化を実証する。
【0104】
RNAシーケンスからのトランスクリプトームデータの分析は、以前に公開されたRスクリプト(Valgepea,Cell Syst.,4:505-515,2017)に基づいており、C.autoethanogenum NCBI参照配列CP006763.1の使用およびBrown,Biotechnol.Biofuels,7:40,2014に記載のその注釈付きゲノム、3つのPHB遺伝子のヌクレオチド配列の追加(配列ID番号:3、6、9)の修正が加えられている。
【0105】
Rで利用可能なメタボロミクスパッケージ(Livera and Bowne,R package,2014)を使用して、細胞内メタボロミクスデータの統計分析を実行した。このスクリプトは、メタボロミクスデータを正規化し、線形モデル適合に統合する(De Livera,Anal.Chem.,84:10768-10776,2012)。データをスクリプトにインポートする前に、細胞内代謝産物濃度をバイオマス(μmol/gDCW)毎に正規化した。メタボロームデータの統計分析には、通常の統計(すなわち、非ベイジアン)を使用した線形モデル適合を使用した(De Livera,Anal.Chem.,84:10768-10776,2012;De Livera,Metabolomics Tools for Natual Product Discovery,2013)。
【0106】
アルギニンは供給されなかったが、アセトゲンにATPを供給することがわかっている代替ルートであるアルギニンデイミナーゼ経路の上方調節が観察された(Valgepea,Metab.Eng.41:202-211,2017)(q値<0.01)、アルギニンデイミナーゼ(CAETHG_3021、約7倍)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(CAETHG_3022、約6倍)、カルバメートキナーゼ(CAETHG_3025、約3.3倍)。加えて、Rnf複合体をコードする3つの遺伝子は、アセトゲンのエネルギー節約複合体の一部であり(Schuchmann and Muller,Nat.Rev.Microbiol.12:809-821,2014)、PHB株で約2倍の増加を示した(CAETHG_3231、q値=0.02、CAETHG_3228、q値=0.04およびCAETHG_3230、q値=0.03)。これらの観察結果によって、異種生成によるエネルギー代謝の変化が強調される。加えて、COデヒドロゲナーゼ/アセチル-CoAシンターゼをコードするWood-Ljungdahl経路(WLP)の2つの遺伝子(CAETHG_1610、約1.4倍、CAETHG_1611、約1.2倍)と(FeFe)-ヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(CAETHG_1691、約2.5倍)の発現は、PHB株で上方調節された。これらの変化は、PHB生成のためのアセチル-CoAおよびNADPHの生成に必要な増加を反映し得る(図1)。
【0107】
メタボロームレベルでは、PHB株はEPと比較して細胞内NADH/NAD比が高かった。これは、PHB発現後のレドックス状態の潜在的な変化を示唆する。C.autoethanogenum代謝の主な天然の副生成物であるアセテートの生成(Abrini,Arch.Microbiol.,161:345-351,1994;Marcellin,Green Chem.,18:3020-3028,2016)は、合成ガスのEP株と比較して減少した(p値<0.01、両側等分散t検定)。製鋼オフガスでは変化は観察されなかった。
実施例6
【0108】
本実施例は、ゲノムスケールの代謝モデル再構築(GEM)の結果を示す。PHB経路を追加して、ゲノムスケールの代謝モデルGEM iCLAU786(Valgepea,Cell Syst.,4:505-515,2017)を使用した。上記の全ての条件で、合成ガスで増殖したPHB株についてシミュレーションを実行した。
【0109】
フラックスシミュレーションにより、PHBがより高い条件(すなわち、「低バイオマス」および「pH5.5」)で散逸するCOが少ないことが確認された。加えて、以前に観察されたように(Valgepea,Cell Syst.,4:505-515,2017)、これらのシミュレーションは、COを直接還元して、電子分岐ヒドロゲナーゼ-ホルメートデヒドロゲナーゼ(HytA-E/FdhA)酵素複合体のホルメート-Hリアーゼ活性を通してHでホルメートにしたことも示した(Wang,J.Bacteriol.,195:4373-4386,2013)。これは、前の酵素複合体を使用したWLPでのCO還元中にレドックスが消費されないため、レドックスを消費するホルメートデヒドロゲナーゼによるCOの削減よりも有利である。また、「低バイオマス」および「pH5.5」実験では、還元フェレドキシンの総量の均衡が、対照(PHB20)と比較して、いくつかの重要反応、例えば、AOR(アルデヒドフェレドキシンオキシドレダクターゼ)、Nfn複合体、またはメチレンTHFレダクターゼ分岐反応に対してフラックスを増加または減少させるかのいずれかによって達成されたことも観察された。
【0110】
驚くべきことに、「対照」条件(PHB20)は、「PHBpH5.5」条件と比較して、インシリコで、維持ATPコスト(mmol/gDCW/h)および総ATP生成からの維持ATPコスト(mATP%)が低かった。
【0111】
ATP、NADH、NADPH、または還元フェレドキシン(Fdred)がPHB生成を制限していたか否かを決定するシミュレーションも実行した。シミュレーションにより、ATPが提供されるとき、PHB生成(mmol/gDCW/h)が、試験された全ての条件(すなわち、「PHB20」、「PHBLowBiomass」、「PHBpH5.5」)の「制限」候補の中で最大値に達したことが示された。この観察は、ATPが制限されているアセトゲン代謝の理解と一致している(Schuchmann and Muller,Nat.Rev.Microbiol.12:809-821,2014)。モデルはまた、ATP制限の後に、PHB生成がFdred、NADPH、および次にNADH可用性によって制限されることを示した(図8)。
【0112】
この結果によって、アセトゲンの高エネルギーキャリアとしてのATPおよびFdredの重要性が確認された。ATPが主に同化作用および細胞維持をサポートするため、Fdredは、Rnfエネルギー節約複合体に不可欠であり(Biegel,Cell.Mol.Life Sci.68:613-634,2011)、Fdredのみが、WLPのカルボニル分岐でCOからCOへの還元のための電子を提供することが知られている(Schuchmann and Muller,Nat.Rev.Microbiol.12:809-821,2014)。
【0113】
本明細書に引用される公表文献、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、あたかも各参考文献が参照により組み込まれるように個々にかつ具体的に示され、かつその全体が本明細書中に記載された場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における任意の先行技術への言及は、その先行技術が任意の国における努力傾注分野の共通の一般的知識の一部をなすという承認ではなく、かつそのように解釈されるべきではない。
【0114】
本発明の記載との関連で(特に、以下の特許請求の範囲との関連で)、用語「a」および「an」および「the」ならびに同様の指示語の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに相反することがない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるものとする。用語「含むこと(comprising)」、「有すること」、「含むこと(including)」、および「含有すること」は、特に断りのない限り、非限定的な用語(すなわち、「~を含むがこれらに限定されないこと」を意味する)と解釈されるものとする。「から本質的になる」という用語は、組成物、過程、もしくは方法の範囲を、特定の材料もしくはステップに、または組成物、過程、もしくは方法の基本的および新規の特徴に実質的に影響しないものに限定する。代替の使用(例えば、「または」)は、代替の一方、両方、またはそれらの任意の組み合わせを意味するように理解されるべきである。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示がない限り、示された範囲、値、または構造の±20%を意味する。
【0115】
本明細書の値の範囲の記述は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に入る各個々の値を個々に言及する省略法としての役割を果たすことを単に意図し、各個々の値は、あたかも本明細書に個々に列挙されたかのように、本明細書中に組み込まれる。例えば、任意の濃度範囲、割合範囲、比率範囲、整数範囲、サイズ範囲、または厚さ範囲は、別段の指示がない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、および適切な場合、その分数(整数の1/10および100分の1等)を含むように理解されるべきである。
【0116】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに相反することがない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書に提供されるありとあらゆる実施例または例示的な文言(例えば、「等」)の使用は、本発明をよりよく理解することを単に意図し、別段特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の範囲を制限しない。本明細書におけるいかなる文言も、本発明の実施に不可欠ないかなる特許請求されていない要素を示すものと解釈するべきではない。
【0117】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変化形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許可された通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正物および均等物を含む。さらに、上記の要素のそれらの全ての考えられる変化形におけるいかなる組み合わせも、本明細書中に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに相反することがない限り、本発明によって包含される。

本願明細書に記載の発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
非自然発生型のWood-Ljungdahl微生物であって、
a.アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する酵素と、
b.アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する酵素と、
c.3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する酵素と、
を含む、微生物。
[2]
アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに変換する前記酵素が、アセチル-CoA
C-アセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.9)である、上記[1]に記載の微生物。
[3]
前記アセチル-CoA C-アセチルトランスフェラーゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Clostridium acetobutylicum、Cupriavidus necator、Escherichia coli、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来する、上記[2]に記載の微生物。
[4]
アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する前記酵素が、アセトアセチル-CoAレダクターゼ(EC1.1.1.36)または3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.157)である、上記[1]に記載の微生物。
[5]
前記アセトアセチル-CoAレダクターゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、またはStreptomyces coelicolorに由来する、上記[4]に記載の微生物。
[6]
前記3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼが、Clostridium beijerinckii、Clostridium acetobutylicum、またはClostridium kluyveriに由来する、上記[4]に記載の微生物。
[7]
3-ヒドロキシブチリル-CoAをポリヒドロキシブチレートに変換する前記酵素が、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(EC2.3.1.-)である、上記[1]に記載の微生物。
[8]
前記ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼが、Acinetobacter baumannii、Aeromonas caviae、Aeromonas hydrophilia、Alcaligenes latus、Arthrospira platensis、Bacillus subtilis、Burkholderia cepacia、Cupriavidus necator、Haloferax mediterranei、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas mandelii、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida、Pseudomonas属61-3、Rhodospirillum rubrum、またはStreptomyces coelicoloに由来する、上記[7]に記載の微生物。
[9]
前記微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、およびThermoanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーである、上記[1]に記載の微生物。
[10]
前記微生物が、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Butyribacterium methylotrophicum、Clostridium aceticum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium scatologenes、Eubacterium limosum、Moorella thermautotrophica、Moorella thermoacetica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択される親微生物に由来する、上記[1]に記載の微生物。
[11]
前記微生物が、Clostridium autoethanogenum、Clostridium coskatii、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される親細菌に由来する、上記[10]に記載の微生物。
[12]
前記微生物が、CO、CO 、およびH のうちの1つ以上を含むガス状基質を消費する、上記[1]に記載の微生物。
[13]
前記微生物が、嫌気性である、上記[1]に記載の微生物。
[14]
前記微生物が、ポリヒドロキシブチレートを分解することができない、上記[1]に記載の微生物。
[15]
前記微生物が、光栄養性、光合成性、またはメタン資化性ではない、上記[1]に記載の微生物。
[16]
ガス状基質の存在下で上記[1]に記載の微生物を培養し、それにより前記微生物がポリヒドロキシブチレートを生成することを含む、ポリヒドロキシブチレートを生成する方法。
[17]
前記ガス状基質が、CO、CO 、およびH のうちの1つ以上を含む、上記[16]に記載の方法。
[18]
前記培養することが、嫌気性条件下で実行される、上記[16]に記載の方法。
[19]
前記培養することが、炭水化物基質の不在下で実行される、上記[16]に記載の方法。
[20]
前記培養することが、光の不在下で実行される、上記[16]に記載の方法。

図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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