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特許7399101レーザ光を偏向および焦点調整させる独創的な光学システムを備える、組織を治療するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】レーザ光を偏向および焦点調整させる独創的な光学システムを備える、組織を治療するための装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20231208BHJP
   A61F 9/01 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A61F9/008 120F
A61F9/008 120Z
A61F9/01
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020554089
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2019058627
(87)【国際公開番号】W WO2019193148
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】1870407
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518356419
【氏名又は名称】ケラノヴァ
【氏名又は名称原語表記】KERANOVA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ボボー、エマニュエル
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-037474(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178803(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0150837(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0146783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61F 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の組織、例えば角膜または水晶体を治療するための装置であって、当該装置は、フェムト秒レーザ(10)によって生成されるレーザ光を調節するためのデバイスを備え、当該デバイスは、前記フェムト秒レーザの下流にある光学スイーピングスキャナ(30)と、当該光学スイーピングスキャナ(30)の下流にある光学焦点調整システム(40)とを備え、
- 前記光学スイーピングスキャナ(30)は、
○ 前記レーザ光を偏向させるために少なくとも1つの軸の周囲を旋回する少なくとも1つの光学鏡(32)を備え、
- 前記光学焦点調整システム(40)は、
○ 前記レーザ光を焦点面(21)に焦点調整させるためのコンセントレータモジュール(46)を備え、
前記光学スイーピングスキャナ(30)の前記少なくとも1つの光学鏡(32)は、
- 前記光学焦点調整システム(40)に対応する等価レンズ(45)の対物焦点面F Object と、
- 前記光学焦点調整システム(40)の入射オリフィス(41)と
の間のレーザ光の光路にわたって延びていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記コンセントレータモジュール(46)の入射瞳は、前記光学焦点調整システム(40)に対応する前記等価レンズ(45)の面に配置される、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記光学焦点調整システム(40)は、前記コンセントレータモジュール(46)の上流に光リレーデバイス(44)を備える、請求項またはのいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記光リレーデバイス(44)は、前記光学焦点調整システム(40)に対応する前記等価レンズの面内に、前記少なくとも1つの光学鏡(32)の近傍の領域の像を形成するように、前記レーザ光の光路に沿って配置される、請求項に記載の装置。
【請求項5】
記デバイスは、焦点面(21)内にパターンを形成する少なくとも2つの衝突点にレーザ光のエネルギーを分配するために計算された変調セットポイントに従って位相変調されたレーザ光を得るように、レーザ光の波面の位相を変調させるための光成形システム(50)をさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
記デバイスは、前記フェムト秒レーザ(10)、前記光学スイーピングスキャナ(30)および前記光学焦点調整システム(40)を駆動させるための制御ユニット(60)をさらに備える、請求項1~に記載の装置。
【請求項7】
前記コンセントレータモジュール(46)は、レーザ光の光路に沿って、第1の極限位置と第2の極限位置との間を並進して移動することができ、前記コンセントレータモジュール(46)は、前記第2の極限位置よりも前記第1の極限位置で、前記光リレーデバイス(44)に近い、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記光学焦点調整システムの出射時に補正収差を作成するように、前記光学焦点調整システムの上流に配置される前補正光学デバイスをさらに備え、前記補正収差によって、特にヒトまたは動物の組織を通過することによってレーザ光に生じた収差を補正することを可能とする、請求項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザを用いて行われる外科手術の技術分野に関し、より具体的には、特に、角膜または水晶体を切断する用途のための眼科手術の技術分野に関する。
【0002】
本発明は、フェムト秒レーザを用いることによって、ヒトまたは動物の組織、例えば、角膜または水晶体を切断するためのデバイスに関する。
【0003】
フェムト秒レーザとは、非常に短いパルスの形態でレーザ光を発生することが可能な光源を意味し、その持続時間は、1フェムト秒~100ピコ秒、好ましくは、1~1000フェムト秒、特に、100フェムト秒程度である。
【背景技術】
【0004】
フェムト秒レーザは、角膜または水晶体を切断するための手術で一般的に使用されている。フェムト秒レーザは、高出力の超短パルスを伝える。
【0005】
角膜に対する手術中に、フェムト秒レーザを使用し、角膜の基質にレーザ光を焦点調整させることによって、角膜組織の切断を行うことができる。より具体的には、フェムト秒レーザは、各パルスで、光(beam)を生成する。この光は、角膜内で(配置される「焦点調整」点と呼ばれる点で)焦点調整される。この焦点調整点で気泡が作られ、周囲の組織を非常に局所的に破壊する。光エネルギーの一部は、気泡の生成中に消費される。残りの光エネルギーは、網膜にまで伝わり、網膜を局所的に加熱する。
【0006】
角膜内に切断線を形成するために、光を移動させることによって、一連の隣接する小さな気泡が作成される。光を移動させるために、スイーピングスキャナ1が使用される。このスイーピングスキャナ1は、一般的に、鏡等の光学要素の変位を可能にする、制御可能なガルバノメータミラーおよび/またはプレートで構成される。
【0007】
図1を参照すると、各パルスで、フェムト秒レーザから得られる光は、
- スイーピングスキャナ1に入り、
- 焦点調整アセンブリ2を通過し、
- 角膜3内の焦点調整点で焦点調整され、気泡を生成し、次いで、
- 患者の網膜4に向かって発散する。
【0008】
光の発散は、網膜4を加熱する傾向がある。
【0009】
フェムト秒レーザによって生成される光への曝露に依る網膜4の変性のリスクを減らすために、患者の目のために、時間の関数として限界放射照度が計算されてきた。「国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)」の「ICNIRP Guidelines on limits of exposure to LASER radiation of wavelengths between 180nm AND 1,000mm」という表題の文献は、レーザ発光波長の関数として、また、フェムト秒レーザによって生成される光への曝露時間の関数として、このような限界放射照度を記載する(特に、この文献の表5および表6を参照)。
【0010】
一例として、時間の関数として限界放射露光量(ジュール/cmで表される)を示す曲線5が図2に示される。
【0011】
目の病変の治療にフェムト秒レーザを使用する場合、(所与の網膜露光時間に対する)網膜の放射露光量が、図2に示される曲線によって定められる限界放射露光量を超えないことが必要である。このことにより、目の病変の治療にフェムト秒レーザを使用する場合における網膜の完全性を保証することが可能となる。
【0012】
1mmの表面で角膜を切断するためには、互いに非常に近い約20,000回の衝突を達成することが必要である。これらの衝突は、300,000回の衝突/秒の平均速度で1つずつ達成される。約65mmの表面で角膜を切断するためには、レーザがセグメントの終了時にパルスを生成するのを止め、鏡を次のセグメントに配置することを可能にする時間を考慮すると、平均15秒を要する。したがって、このような外科切断手術は遅い。
【0013】
切断時間を最適化するために、レーザの周波数を増加させることが知られている。しかし、周波数の増加は、適切なプレートまたはスキャナを用いることによる、光の変位速度の上昇も示唆する。また、切断される組織上のレーザの衝突間の間隔を増加させることも知られているが、一般的には切断品質が犠牲になる。
【0014】
切断時間を短くするための別の解決手段は、いくつかの気泡を同時に生成させることにある。「n」個の気泡を同時に生成させるという事実によって、切断の全体時間を「n」倍を超えて短くすることができる(光が組織の全表面を処理するために行わなければならない往復回数も減るため)。
【0015】
複数の気泡を同時に作成することは、各焦点調整点で、フェムト秒レーザから得られる出力が各気泡を生成するのに十分であるように、フェムト秒レーザの出力を上げることを必要とする。
【0016】
この出力の上昇は、網膜が受ける放射露光量の上昇を誘発し、ひいては「国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)」の文献「ICNIRP Guidelines on limits of exposure to LASER radiation of wavelengths between 180nm AND 1,000mm」によって与えられる限界放射露光量を超えることを可能とする。
【0017】
本発明の目的は、高出力フェムト秒レーザを備え、また網膜が耐え得る限界放射露光量に関連する制限に適合することが可能な、目の病変を治療するためのデバイスを提案することである。
【発明の概要】
【0018】
この目的のために、本発明は、ヒトまたは動物の組織、例えば角膜または水晶体を治療するための装置であって、当該装置は、フェムト秒レーザによって生成されるレーザ光を調節するためのデバイスを備え、当該調節デバイスは、前記フェムト秒レーザの下流に配置され、光学スキャナと、この光学スイーピングスキャナの下流にある光学焦点調整システムとを備え、
- 前記光学スイーピングスキャナは、前記レーザ光を偏向させるために少なくとも1つの軸の周囲を旋回する少なくとも1つの光学鏡を備え、
- 前記光学焦点調整システムは、前記レーザ光を焦点面に焦点調整させるためのコンセントレータモジュールを備え、
前記光学スイーピングスキャナの前記少なくとも1つの旋回光学鏡は、前記光学焦点調整システムの対物焦点面FObjectと、前記焦点調整システムとの間に配置されることを特徴とする、装置を提案する。
【0019】
本発明の装置の好ましいが限定的ではない態様は、以下の通りである:
- 前記光学スイーピングスキャナの前記少なくとも1つの旋回光学鏡は、
○ 前記光学焦点調整システムに対応する等価レンズの対物焦点面FObjectと、
○ 前記光学焦点調整システムの入射オリフィスと
の間のレーザ光の光路にわたって延びており;
- 前記コンセントレータモジュールの入射瞳は、前記光学焦点調整システムに対応する等価レンズの面に配置され;
- 前記光学焦点調整システムは、前記コンセントレータモジュールの上流に光リレーデバイスを備え;
- 前記光リレーデバイスは、前記光学焦点調整システムに対応する等価レンズの面内に、前記少なくとも1つの旋回光学鏡の近傍の領域の像を形成するように、レーザ光の光路に沿って配置され;
- 前記調節デバイスは、焦点面内にパターンを形成する少なくとも2つの衝突点にレーザ光のエネルギーを分配するために計算された変調セットポイントに従って位相変調されたレーザ光を得るように、レーザ光の波面の位相を変調させるための光成形システムをさらに備え;
- 前記調節デバイスは、前記フェムト秒レーザ、前記光学スイーピングスキャナおよび前記光学焦点調整システムを駆動させるための制御ユニットをさらに備え;
- コンセントレータモジュールは、レーザ光の光路に沿って、第1の極限位置と第2の極限位置との間を並進して移動することができ、コンセントレータモジュールは、第2の極限位置よりも第1の極限位置で、光リレーデバイスに近く;
- 切断装置は、光学焦点調整システムの出射時に補正収差を作成するように、光学焦点調整システムの上流に配置される前補正光学デバイスをさらに備えていてもよく、この補正収差によって、特にヒトまたは動物の組織を通過することによってレーザ光に生じた収差を補正することが可能になり、制御ユニットは、計算機によって概算された距離の関数として、コンセントレータモジュールの並進による変位を制御するように適合される。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照しつつ、例として、限定されることなく、以下に与えられる説明から明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】フェムト秒レーザを用いて目の病変を治療するためのデバイスの一例の模式図である。
図2】時間の関数としての限界放射照度曲線の模式図である。
図3】本発明の切断装置を含む実装例の模式図である。
図4】本発明の切断装置が備える光学スイーピングスキャナおよび光学焦点調整システムの模式図である。
図5図4に同じ。
図6図4に同じ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、目の病変を治療するための装置に関する。より具体的には、本発明は、フェムト秒レーザを用いることによってヒトの組織を切断するための装置に関する。本明細書の残りの部分において、本発明は、例として、ヒトまたは動物の目の角膜を切断するための装置として説明される。
【0023】
1.定義
本発明において、「衝突点」という用語は、集点面に含まれるレーザ光の領域であり、この領域において、レーザ光の強度が、組織内に気泡を生成させるのに十分である領域を意味する。
【0024】
本発明において、「隣接する(adjacent)衝突点」とは、互いに対面して配置されており、別の衝突点によって分離されていない2つの衝突点を意味する。「隣にある(neighboring)衝突点」とは、隣接する点の一群において、距離が最小である2つの点を意味する。
【0025】
本発明において、「パターン」とは、成形される(すなわち、位相が変調される)レーザ光の焦点面内に同時に作成され、そのエネルギーを、デバイスの切断面に対応する焦点面内のいくつかの別個の点に分配するための、複数のレーザ衝突点を意味する。
【0026】
2.切断装置
図3は、本発明の切断装置の一実施形態を示す。この切断装置は、フェムト秒レーザ10と、治療される標的20との間に配置することができる。
【0027】
フェムト秒レーザ10は、レーザビーム(レーザ光)をパルスの形態で発生させることができる。例えば、レーザ10は、400フェムト秒パルスの形態で、波長1030nmの光を発生させる。レーザ10は、20Wの出力、500kHzの周波数を有する。
【0028】
標的20は、例えば、切断されるヒトまたは動物の組織、例えば、角膜または水晶体である。
【0029】
切断装置は、光調節デバイスを備え、この光調節デバイスは、
- レーザ10の下流にある光学スイーピングスキャナ30と、
- 光学スイーピングスキャナ30の下流にある光学焦点調整システム40と
を備える。
【0030】
前記調節デバイスはまた、光学スイーピングスキャナ30および光学焦点調整システム40を駆動させるための制御ユニット60を備える。
【0031】
光学スキャナ30は、レーザ10から得られる光の向きを変え、焦点面21内のユーザによってあらかじめ決定された変位の経路に沿って光を移動させることができる。
【0032】
光学焦点調整システム40は、切断面に対応する焦点面21内で光を焦点調整することができる。例として、図5は、光学焦点調整システム40全体に対応する等価レンズ45を示し、光学焦点調整システムが単なる固定レンズではないことが当業者によって十分に理解される。
【0033】
調節デバイスは、フェムト秒レーザ10と光学スイーピングスキャナ30との間に成形システム50を備えていてもよい。この成形システム50は、フェムト秒レーザ10から得られる光の経路上に配置される。成形システム50は、フェムト秒レーザ10から得られる光の位相を変調し、光のエネルギーを、その焦点面内の複数の衝突点へと分配することを可能にし、この複数の衝突点は、パターンを規定する。
【0034】
したがって、成形システム50は、パターンを規定するいくつかの衝突点を同時に生成することができ、光学スキャナ30は、このパターンを焦点面21に移動させることができ、光学焦点調整システム40は、光を焦点面21に焦点調整することができる。
【0035】
調節デバイスを構成する種々の要素を、図面を参照しつつ、より詳細に説明する。
【0036】
3.調節デバイスの要素
3.1.光学スイーピングスキャナ
光学スイーピングスキャナ30は、切断面に対応する焦点面21内の複数の位置に光を移動させるように光(場合により、位相変調された光)を偏向させることができる。
【0037】
光学スイーピングスキャナ30は、
- 光(場合により、成形ユニット50によって位相変調された光)を受け入れるための入射オリフィス31と、
- レーザ光を偏向させるために1つ(またはいくつか)の軸の周囲を旋回する1つ(またはいくつか)の光学鏡32と、
- レーザ光を光学焦点調整システム40に送るための出射オリフィス33と
を備える。
【0038】
使用される光学スキャナ30は、例えば、SCANLAB AG社製のIntelliScan IIIシリーズのスキャンヘッドである。光学スキャナの鏡(単数または複数)32は、自身を旋回させるように1つ(またはいくつか)のモータに接続される。鏡32を旋回させるためのこの/これらのモータは、有利には、以下により詳細に記載される制御ユニット60のユニットによって駆動される。
【0039】
有利には、図5に示されるように、光学スイーピングスキャナ30の旋回光学鏡32は、光学焦点調整システム40の対物焦点面FObjectと焦点調整システム40との間に配置される。このことは、フェムト秒レーザによって発生されるエネルギーが、網膜のより大きな表面にわたって分配されるように、焦点調整システム40の出射時にスキャン角度を大きくすることを可能にする。
【0040】
したがって、「国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)」の文献「ICNIRP Guidelines on limits of exposure to LASER radiation of wavelengths between 180nm AND 1,000mm」によって与えられる限界放射照度より低い値の範囲に、網膜が受ける放射照度を維持しつつ、フェムト秒レーザ10の出力を増加させることができる。
【0041】
制御ユニット60は、焦点面に含まれる変位の経路に沿ってパターンが移動するように、光学スイーピングスキャナ30を駆動させるようにプログラミングされる。
【0042】
3.2.光学焦点調整システム
光学焦点調整システム40は、光を切断面21に焦点調整させることができる。
【0043】
光学焦点調整システム40は、
- 光学スイーピングスキャナ30から得られる偏向された光を受け入れるための入射オリフィス41と、
- 焦点面21内にレーザ光を焦点調整させるためのコンセントレータモジュール46と、
- 治療される組織に焦点調整された光を送るための出射オリフィス43と
を備えていてもよい。
【0044】
光学焦点調整システムはまた、焦点面を移動させるための深さ位置決めモジュールを備えていてもよい。
【0045】
例えば、図6を参照すると、コンセントレータモジュール46は、複数の(収束および/または発散)レンズ42を備え、深さ位置決めモジュールは、コンセントレータモジュール46の1つ(またはいくつか)のレンズ42と結び付いている1つ(またはいくつか)のモータ(図示せず)を備え、焦点面の深さを変えるために、光の光路に沿って、その並進による変位を可能にする。
【0046】
変形例として、光学焦点調整システムは、深さ位置決めモジュールを備えていなくてもよい。この場合、焦点面の位置の改変は、光学焦点調整システムの上流の光の発散を変えることによって、または治療される標的組織の前にある切断装置(または調節デバイス)を深さ方向に移動させることによって行うことができる。
【0047】
コンセントレータモジュール46は、下記によって光学的に規定される:
- 開口絞り(aperture diaphragm)(すなわち、光の経路を最も制限するコンセントレータモジュール46の要素であり、機械的な絞りであってもよく、またはコンセントレータモジュール46のレンズの1つを制限する)、
- 入射瞳(すなわち、光の光路に沿って、開口絞りの上流に配置されるコンセントレータモジュール46の一部を通る、開口絞りの像)、
- 射出瞳(すなわち、光の光路に沿って、開口絞りの下流に配置されるコンセントレータモジュール46の一部を通る、開口絞りの像)。
【0048】
コンセントレータモジュール46の入射瞳は、光学焦点調整システム40の等価レンズ45の面内に配置されてもよい。これにより、一方で、網膜のより大きな表面にわたって残りのエネルギーを拡散することができ、他方で、本発明の切断デバイスの最適化を容易にすることができる。
【0049】
光学焦点調整システム40はまた、入射瞳移動デバイスを形成する光リレーデバイス44(リレーレンズ)も備えていてもよい。光リレーデバイス44は、コンセントレータモジュール46の入射瞳上に、光学スイーピングスキャナ30の光学鏡32の近傍の領域を像形成することができる。この領域は、光学鏡32の中央(すなわち、光学鏡32の構造的中心)に対応していてもよい。
【0050】
光リレーデバイス44は、複数のレンズ(例えば、凸面レンズ)からなる。このような光リレーデバイス44は、当業者に知られているため、以下により詳細な説明はしない。
【0051】
制御ユニット60は、組織20の切断面の積み重ねを形成するように、焦点面21における少なくとも3つの別個の切断面に光を移動させるように、光の光路に沿って光学焦点調整システム40のレンズの変位を行うようにプログラミングされている。このことにより、例えば、屈折矯正手術の一部として、ある体積で切断を行うことができる。
【0052】
有利には、コンセントレータモジュール46は、第1の極限位置と第2の極限位置との間をレーザ光の光路に沿って並進して移動することができ、コンセントレータモジュール46は、第2の極限位置よりも第1の極限位置で、光リレーデバイス44に近い。このことにより、切断面に対応する焦点面の深さを調節することができる。
【0053】
切断デバイスはまた、前補正光学システム(例えば、複数のレンズが一体化され、レンズのいくつかは、移動可能であり、光学焦点調整システムの上流に配置される)を備えていてもよい。この前補正光学システムによって、光学焦点調整システム40の出射時に補正収差を作成することができる。
【0054】
実際に、切断デバイスから得られるレーザ光が、
- 切断デバイスと患者の目との間に配置される(例えば、本明細書に記載される)結合界面、そして
- 患者の目の組織(角膜および水晶体)を通過する場合、
レーザ光は、変形を受け、収差の形成が誘発される。
【0055】
前補正光学システムの一体化によって、レーザ光が受けるこれらの収差を補正することができる。前補正光学システムの配置、特に、前補正光学システムの可動性レンズの位置は、当業者にとって既知の任意の技術を用いることによって、所望な補正収差の関数として、計算機によって決定することができる。
【0056】
3.3.成形システム
空間光成形システム50は、光の波面を変え、焦点面内に互いに分離された衝突点を得ることを可能にする。
【0057】
より具体的には、成形システム50は、フェムト秒レーザ10から得られる光の位相を変調し、焦点面内に光の強度ピークを生成し、、各強度ピークが、切断面に対応する焦点面内にそれぞれの衝突点を作り出すことを可能にする。成形システム50は、示されている実施形態によれば、液晶空間光変調器であり、空間光変調器はSLMという頭字語で知られる。
【0058】
SLMは、特に、切断面に対応する焦点面21内で、最終的な光エネルギー分布を変調することを可能にする。より具体的には、SLMは、フェムト秒レーザ10から得られる一次光の波面の空間プロファイルを変え、レーザ光のエネルギーを焦点面内の異なる集光スポットへと分配するように適合される。
【0059】
波面の位相変調は、二次元干渉の現象として理解することができる。フェムト秒レーザ10から得られる一次光の各部分は、これらの各部分がレンズの焦点面内にあるN個の別個の点で強め合う干渉が起こるように方向が変えられるように、初期の波面に対して遅れるか、または進む。この複数の衝突点へのエネルギーの再分配は、単一面(すなわち、焦点面)内でのみ起こり、変調された光の伝播経路全体には起こらない。このような現象(一次光を複数の二次光に分ける場合と同様に、1つの面内でのみ起こり、この伝播全体では起こらない)は、強め合う干渉と関連している場合があるため、焦点面の前または後での変調された光の観察からは、複数の別個の衝突点へのエネルギーの再分配を特定することができない。
【0060】
SLMは、波面(したがって、光の位相)を動的に成形することが可能な、配向が制御された液晶の層から構成されるデバイスである。SLMの液晶の層は、ピクセルの格子(またはマトリックス)として組織化される。各ピクセルの光学的厚さは、ピクセルに対応する表面に属する液晶分子の配向によって電気的に制御される。SLMは、液晶の空間配向に依存して、液晶の異方性の原理、すなわち、液晶の指数の改変を利用している。液晶の配向は、電場を用いて達成することができる。したがって、液晶の指数の改変は、レーザ光の波面を変化させる。
【0061】
既知の様式で、SLMは、位相マスク(すなわち、その焦点面における所与の振幅の分布を得るために光の位相をどのように改変しなければならないかを決定するマップ)を実装する。位相マスクは、二次元画像であり、その各点はSLMのそれぞれのピクセルに関連付けられている。この位相マスクは、0~255(すなわち、黒から白)のグレーレベルで表されるマスクの各点に関連付けられた値を、0から2πの位相で表されるコントロール値に変換することによって、SLMの各液晶の指数を動かすことができる。したがって、位相マスクは、SLMに照射される一次光の不均一な空間位相シフトを反映して動くようにSLMに表示される変調セットポイントである。もちろん、当業者は、グレーレベルの範囲が、使用されるSLMのモデルに依存して変わり得ることを理解するであろう。例えば、ある場合には、グレーレベルの範囲は、0~220であってもよい。位相マスクは、一般的に、フーリエ変換に基づく反復アルゴリズムによって、または種々の最適化アルゴリズム(例えば、遺伝的アルゴリズム)または焼きなまし法でに計算される。光の焦点面内の所望な衝突点の数および位置の関数として、異なる位相マスクがSLMに適用されてもよい。いずれの場合でも、当業者は、光のエネルギーを焦点面内の異なる集光スポットへと分配するために、位相マスクの各点での値をどのように計算するかを知っている。
【0062】
したがって、SLMは、Gaussianレーザ光から単一の衝突点を生成し、そして位相マスクを用いることによって、位相変調によって成形される単一のレーザ光(SLMの上流および下流の単一の光)から、その焦点面内にいくつかの衝突点を同時に生成するように、位相変調によってそのエネルギーを分配することができる。
【0063】
角膜切断時間の短縮に加え、レーザ光の位相変調の技術によって、切断後のより良好な表面品質または内皮の死亡率の減少などの他の改善が可能になる。パターンの異なる衝突点は、例えば、レーザスポットの格子を形成するように、レーザ光の焦点面の二次元にわたって均一に空間配置されてもよい。
【0064】
瞳孔リレーシステム(pupil relay system)の使用は、光の経路内の中間焦点の形成を誘発する。フェムト秒レーザパルスの場合、これにより、カー効果(Kerr effect)タイプの焦点で非線形の効果が発生するような、またはプラズマの破壊および生成が起こるような中間焦点での強度を生じることがある。これにより、光の光学品質の低下を引き起こすこととなる。したがって、中間焦点での光のサイズが、これらの効果を発生しない程度に十分低い強度を維持することを可能とする光学的配置を選択すべきである。
【0065】
このような意味において、光成形デバイスの使用は、エネルギーを焦点面内の「n」個の点に分配するという効果を有する。したがって、その強度は、成形されていない光と比較して、「n」個に分割される。したがって、光の成形によって、非線形の効果を発生させずに、同じ光でより多くのエネルギーを運ぶことができる。
【0066】
3.4.制御ユニット
上に示した通り、制御ユニット60は、切断装置を構成する種々の要素、すなわち、フェムト秒レーザ10、光学スイーピングスキャナ30、光学焦点調整システム40および成形システム50を制御することを可能にする。
【0067】
制御ユニット60は、以下を可能にする1つ(またはいくつか)の通信バスを介し、これらの異なる要素に接続される:
-制御シグナルの伝送、例えば、
・成形システムでの位相マスク、
・フェムト秒レーザでの作動シグナル、
・光学スイーピングスキャナ30でのスキャン速度、
・変位経路に沿った光学スイーピングスキャナ30の位置、
・光学焦点調整システムでの切断深さ、
-システムの種々の要素に由来する測定データの受け取り、例えば、
・光学スキャナ30によって達成されるスキャン速度、または
・光学焦点調整システムの位置。
【0068】
制御ユニット60は、1つ(またはいくつか)のワークステーションおよび/または1つ(またはいくつか)のコンピュータから構成されていてもよく、または当業者に既知の任意の他の種類のものであってもよい。制御ユニット60は、例えば、携帯電話、電子式タブレット(例えば、IPAD(登録商標))、パーソナルデジタルアシスタント(またはPDA)などを備えていてもよい。全ての場合において、制御ユニット60は、フェムト秒レーザ10、光学スイーピングスキャナ30、光学焦点調整システム40、成形システム50などの駆動を可能にするようにプログラミングされたプロセッサを備えている。
【0069】
4.本発明に関連する理論および従来技術のデバイスに関連する利点
上述の切断装置は、水晶体を潅注-吸引プローブによって吸引される程度に十分小さい小片に断片化するように、水晶体の異なる領域にレーザ光を焦点調節することによって白内障を治療することができる。
【0070】
フェムト秒レーザから得られる光の焦点調整は、フェムト秒レーザと患者の目との間に配置される光処理デバイスを用いることによって行われる。
【0071】
フェムト秒レーザから得られる光は、一連の時間パルスで構成される。パルスごとに、一連の衝突を生成するように焦点が水晶体内を移動する。焦点の変位は、偏向光学システムを用いることによる光の偏向によって達成される。
【0072】
各パルスについて、パルスエネルギーの一部は、組織の気化によって消費される。エネルギーの残りは、網膜に吸収され、網膜を局所的に加熱する。
【0073】
多数のパルスが、水晶体を切断するために必要である。網膜によって吸収される全エネルギーおよびこのエネルギーから生じる加熱は、フェムト秒レーザの処理技術の限界を表す。
【0074】
従来技術の光処理デバイスは、図1に示される。この処理デバイスは、スイーピングスキャナ1と、焦点調整アセンブリ2とを備えている。スイーピングスキャナの鏡は、いずれかの側に、焦点調整アセンブリ2の入射瞳に対応する第1の位置から等距離に配置される。
【0075】
鏡が位置0にある場合、光線9bは、焦点調整アセンブリ2の光学軸に平行である。光線は、水晶体に配置される画像焦点面3で、焦点調整アセンブリ2によって焦点調整される。焦点調整された光のエネルギーの一部が、点3bに損傷を生成する。残りのエネルギーは、光学軸に沿って伝播し続け、点4bの周囲で網膜に達する。次いで、この光のサイズは、焦点調整から生じる光の発散に起因して、拡大する。
【0076】
鏡が最大角度位置にある場合、光線は、経路9aに沿って光学軸から偏向する。光線は、中心からの距離hで、つまり水晶体の点3aで、焦点調整アセンブリ2によって焦点調整される。残りのエネルギーは、網膜の中心からの距離h’に位置する点4aの周囲で網膜に達する。
【0077】
同様に、鏡が最小角度位置にある場合、光線は、経路9cに沿って光学軸から偏向する。光線は、水晶体の点3cで、焦点調整アセンブリ2によって焦点調整される。残りのエネルギーは、点4cの周囲で網膜に達する。
【0078】
現在、白内障手術に使用される光処理デバイスにおいて、処理デバイスの出射時に光線によって作られる角度は、光が伝播に伴って光学軸に近づく傾向があるような角度である。これは、焦点調整アセンブリ2の対物焦点の前に配置されるスキャナ鏡の位置に起因する。したがって、距離h’は、距離hよりも小さい。したがって、エネルギーが網膜全体に分配される表面は、水晶体によってスキャンされる表面より小さい。水晶体に送ることができる全エネルギーは、この小さな広がりによって制限される。
【0079】
本発明において、光学スイーピングスキャナの鏡32は、光学焦点調整システム40の対物焦点FObjectの後の光路に配置される。この配置において、光は、光学焦点調整システム40の出射時に、光学軸から離れるように移動する。その結果、網膜22全体にわたるエネルギーのより大きな広がり23が得られ、温度上昇が小さくなる。このことは、手術中に使用される全累積エネルギーの限界を押し上げる効果を有する。
【0080】
この広がりの効果は、スキャナの位置が対物焦点FObjectから離れるにつれて、尚更重要になる。光学焦点調整システム40の入射瞳は、例えば、光学焦点調整システム40の等価レンズ45の面に配置されてもよい。
【0081】
このような配置は、例えば、光学焦点調整システム40に対応する等価レンズ45の面において、スキャナの鏡の中央を画像化するように配置された瞳孔リレーデバイスを用いることによって行うことができる。
【0082】
5.結論
したがって、本発明は、効率的な切断ツールを配置することを可能とする。
【0083】
光学焦点調整システム40の対物焦点FObjectと焦点調整システム40との間に光学スイーピングスキャナ30の旋回光学鏡を配置することによって、網膜全体にわたるエネルギーのより大きな広がりが可能になり、したがって、温度上昇が低くなる。
【0084】
したがって、網膜を変性させる可能性が高い限界放射照度を超えることなく、フェムト秒レーザ10の出力を上げることができる。
【0085】
本発明を、眼科手術の分野において角膜を切断する操作について説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、眼科手術における他の種類の操作に使用することができることは明らかである。例えば、本発明は、角膜の屈折矯正手術、例えば、屈折異常、特に、近視、遠視、乱視の治療において、調節力の消失、特に老眼の治療において、用途が見出される。本発明はまた、角膜の切除、水晶体の前嚢の切断、および水晶体の断片化を伴う白内障の治療において、用途が見出される。最後に、より一般的には、本発明は、ヒトまたは動物の目の角膜または水晶体に対する全ての臨床的または実験的な用途に関する。さらにより一般的に、本発明は、レーザ手術の広範な分野に関し、含水量が高いヒトまたは動物の軟組織を気化させるときに有利な用途が見出される。
【0086】
読者は、本明細書に記載する新規な教示および利点から実質的に逸脱することなく、上に説明した本発明に対して、多くの改変を行うことができることを理解するであろう。
【0087】
その結果、この種の全ての改変は、添付の特許請求の範囲に組み込まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6