(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ動作補償装置
(51)【国際特許分類】
H02P 15/00 20060101AFI20231208BHJP
F16D 55/00 20060101ALI20231208BHJP
H02P 3/04 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H02P15/00 H
F16D55/00 A
H02P3/04 B
H02P15/00 K
(21)【出願番号】P 2021002050
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】野副 耀介
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-120326(JP,A)
【文献】特開2017-178550(JP,A)
【文献】特開平06-341475(JP,A)
【文献】特開2015-006945(JP,A)
【文献】特開2003-032879(JP,A)
【文献】特開2015-042892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 15/00
F16D 55/00
H02P 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1組のブレーキパッドでディスクを制動し、コイルに電流を流して前記ディスクの制動状態を開放する電磁ブレーキの動作を補償する電磁ブレーキ動作補償装置であって、
前記1組のブレーキパッドが前記ディスクを開放したことを検出するように設けられた第1センサから出力された開放信号を受信した第1時刻から、前記1組のブレーキパッドの間隔を計測するように設けられた光学式の第2センサからのギャップ信号の受信を開始し、
前記ギャップ信号にもとづいて前記間隔を計測し、
前記コイルの保持電流を大きくするように第1補償電流を設定するブレーキ動作判定部を備え、
前記ブレーキ動作判定部は、
前記間隔があらかじめ設定された第1しきい値よりも小さい場合に前記第1補償電流を設定し、
前記間隔が前記第1しきい値以上の場合には前記第1補償電流をゼロに設定する電磁ブレーキ動作補償装置。
【請求項2】
前記ブレーキ動作判定部は、
前記電磁ブレーキを開放するように生成された開放指令を受信した第2時刻と前記第1時刻との差を計算して、開放時間を計算し、
前記開放時間があらかじめ設定された第2しきい値以上の場合に、警報信号を出力する請求項1記載の電磁ブレーキ動作補償装置。
【請求項3】
前記ブレーキ動作判定部は、
前記開放時間があらかじめ設定された第3しきい値以上の場合に、前記保持電流を大きくするように第2補償電流を設定する請求項2記載の電磁ブレーキ動作補償装置。
【請求項4】
前記ブレーキ動作判定部は、
前記ギャップ信号を、その取得時刻とともに定周期で収集して第1時系列データとし、前記第1時系列データを格納するデータベース部と、
前記データベース部から前記第1時系列データをあらかじめ設定された条件で抽出して出力するブレーキ動作管理部と、
をさらに備えた請求項1~3のいずれか1つに記載の電磁ブレーキ動作補償装置。
【請求項5】
前記電磁ブレーキは、一端に、前記1組のブレーキパッドが設けられた1組のブレーキキャリパを含み、
前記第1センサおよび前記第2センサは、前記1組のブレーキキャリパの他端に設けられた請求項1~4のいずれか1つに記載の電磁ブレーキ動作補償装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント設備等の産業用モータを制動する電磁ブレーキ装置の動作を補償する電磁ブレーキ動作補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼設備等のプラント設備用の電磁ブレーキ装置では、設備稼働時等にブレーキを開放する場合には、コイルに突入電流を流し、強励磁することで、ブレーキを開放し、モータを運転可能な状態にする。設備稼働中には、コイルに保持電流を常時流すことにより、ブレーキ開放状態を維持する。ブレーキを制動状態とするには、コイルに流れる電流を遮断する。
【0003】
コイルを強励磁してもブレーキを開放できない場合には、モータを運転させることができず、設備操業に大きな影響が生じるおそれがある。また、設備稼働中にブレーキに異常が発生し、ブレーキの開放状態を維持できない場合には、設備が停止され、操業に影響が生じて、大きな損失を生じるおそれがある。
【0004】
このような電磁ブレーキ装置では、ブレーキに異常が生じているか否かは、定期、不定期の点検等に頼らざるを得ず、電磁ブレーキ装置の異常をリアルタイムに検知することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、電磁ブレーキ装置の状態をリアルタイムで検知し、より適切な状態で設備の運転を継続することができる電磁ブレーキ動作補償装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る電磁ブレーキ動作補償装置は、1組のブレーキパッドでディスクを制動し、コイルに電流を流して前記ディスクの制動状態を開放する電磁ブレーキの動作を補償する。この電磁ブレーキ動作補償装置は、前記1組のブレーキパッドが前記ディスクを開放したことを検出するように設けられた第1センサから出力された開放信号を受信した第1時刻から、前記1組のブレーキパッドの間隔を計測するように設けられた光学式の第2センサからのギャップ信号の受信を開始し、前記ギャップ信号にもとづいて前記間隔を計測し、前記コイルの保持電流を大きくするように第1補償電流を設定するブレーキ動作判定部を備える。前記ブレーキ動作判定部は、前記間隔があらかじめ設定された第1しきい値よりも小さい場合に前記第1補償電流を設定し、前記間隔が前記第1しきい値以上の場合には前記第1補償電流をゼロに設定する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態では、電磁ブレーキ装置の状態をリアルタイムで検知し、より適切な状態で設備の運転を継続することができる電磁ブレーキ動作補償装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る電磁ブレーキ動作補償装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(c)は、実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置の一部を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電磁ブレーキ動作補償装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、電磁ブレーキ動作補償装置30は、ブレーキ制御装置4に接続されている。この例では、電磁ブレーキ動作補償装置30は、IO盤20を介して、ブレーキ制御装置4に接続されている。
【0012】
ブレーキ制御装置4は、変圧器1、遮断器2およびリアクトル3を介して接続されており、電磁ブレーキ装置10のコイル11に電流を供給するように設けられている。ブレーキ制御装置4は、電流駆動回路5を含んでおり、電流駆動回路5は、変圧器1によって供給される交流電源と電磁ブレーキ装置10のコイル11との間に設けられている。ブレーキ制御装置4には、電流駆動回路5を介してコイル11に流れる電流を帰還電流として検出する電流検出器6が設けられている。
【0013】
電流検出器6によって検出された帰還電流IFBKは、演算器7に入力される。演算器7には、あらかじめ設定された電流指令値IREFが入力されている。演算器7は、電流指令値IREFと帰還電流IFBKとの差分を電流駆動回路5に供給する。電流駆動回路5は、帰還電流IFBKの値が電流指令値IREFに追従するように出力する電流を制御する。
【0014】
この例では、演算器7は、ブレーキ制御装置4内に設けられ、電流指令値IREFもブレーキ制御装置4内に設定されているが、これらに限らず、後に詳述する電磁ブレーキ動作補償装置30が、たとえばIO盤20を介して、電流指令値IREFと帰還電流IFBKとの差分を電流駆動回路5に供給するようにしてもよい。
【0015】
電磁ブレーキ装置10は、少なくとも2つのセンサ12,13に接続されている。一方のセンサ12は、距離計測センサである。後に詳述するように、センサ(第2センサ)12は、光学式のセンサであり、電磁ブレーキ装置10の開放時のギャップ幅Lを計測する。センサ12は、計測したギャップ幅LのデータをIO盤20によって、電磁ブレーキ動作補償装置30に送信する。他方のセンサ13は、リミットスイッチである。センサ(第1センサ)13から出力された信号は、IO盤20によって、電磁ブレーキ動作補償装置30に送信される。センサ13は、電磁ブレーキ装置10のコイル11を駆動してブレーキを開放する開放指令が出力されてから、電磁ブレーキ装置10が動作してブレーキが開放されるまでの開放時間を計測するために用いられる。
【0016】
電磁ブレーキ動作補償装置30は、ブレーキ動作判定部31、を備える。ブレーキ動作判定部31は、IO盤20からギャップ幅Lのデータを入力し、ギャップ幅Lのデータにもとづいて、補償電流ICOMを出力する。出力された補償電流ICOMは、演算器7によって、電流指令値IREFと帰還電流IFBKの差分に加算される。
【0017】
また、ブレーキ動作判定部31は、IO盤20から開放指令とセンサ13が出力する開放信号を入力し、開放指令と開放信号の時間差である開放時間Tを計算する。ブレーキ動作判定部31は、計算した開放時間Tにもとづいて、警報信号を生成して出力する。
【0018】
ブレーキ動作判定部31では、開放信号の受信後に、センサ12によるギャップ幅Lの計測および判定を開始する。電磁ブレーキ装置10では、ブレーキの制動状態、つまり電動機の停止状態から開放指令によってブレーキの開放が始まり、センサ13の動作により、ブレーキの開放状態が確定し、有効なギャップ幅Lの計測が可能になるからである。
【0019】
電磁ブレーキ動作補償装置30は、データベース部32を備えており、この例では、データベース部32に、ギャップ幅Lのしきい値ΔLが設定されている。ブレーキ動作判定部31は、ギャップ幅Lのデータを受信すると、データベース部32にアクセスして、受信したギャップ幅Lの値がしきい値ΔLよりも大きいときに、データベース部32に設定された補償電流ICOMを読み出して、IO盤20に出力する。データベース部32には、ギャップ幅Lのデータとギャップ幅Lに対する補償電流ICOMのデータがたとえばテーブル形式で格納されている。
【0020】
たとえば、ギャップ幅Lと補償電流ICOMとの関係は、ギャップ幅Lがしきい値ΔL以上の場合には、一定の補償電流ICOMとされ、ギャップ幅Lがしきい値ΔLよりも小さい場合には、補償電流ICOMをゼロとするように設定されている。これに限らず、ギャップ幅Lがしきい値ΔL以上になった場合には、ギャップ幅Lが大きくなるほど、大きな補償電流ICOMとなるようにしてもよい。
【0021】
データベース部32には、開放時間Tのしきい値ΔTが設定されている。ブレーキ動作判定部31は、開放時間Tを計算すると、データベース部32にアクセスして、計算した開放時間Tの値がしきい値ΔT以上の場合に警報信号を生成して、出力する。警報信号は、テキストデータや音声データ、画像データ等を含むことができ、出力された警報信号は、ブレーキ動作管理部33およびブレーキ状態表示部34を介して、表示装置40に表示される。開放時間Tのしきい値ΔTは、計算した開放時間Tが長くなるにつれて、異なるテストデータ等を含む警報信号となるように、複数の段階にわたって設定されてもよい。
【0022】
ブレーキ動作判定部31は、IO盤20の側で設定されている周期でギャップ幅Lのデータを収集する。収集されたギャップ幅Lのデータは、収集した時刻とともに、データベース部32に格納される。データベース部32に格納されるギャップ幅Lのデータおよび取得時刻のデータには、補償電流ICOMを適用した時刻および適用した補償電流ICOMのデータも記録される。
【0023】
また、ブレーキ動作判定部31は、計算された開放時間Tのデータを、開放指令の生成時刻およびセンサ13からの開放信号の受信時刻とともに、データベース部32に格納する。データベース部32には、開放時間Tに関する警報信号が生成された旨およびその時刻も記録される。
【0024】
ブレーキ動作管理部33は、データベース部32にアクセスして、ギャップ幅Lのデータとその取得時刻のデータを読み出して、時系列データをグラフ等に変換し、経時的な変動や統計的解析等のためのデータとして出力することができる。分析するデータには、補償電流ICOMを適用した時刻を含めることができ、補償電流ICOMの適用の効果の有無を確認等するのに役立てることができる。
【0025】
また、ブレーキ動作管理部33は、データベース部32にアクセスして、開放時間Tに関する時系列データをグラフ等に変換して、出力することができる。開放時間Tの時系列データは、ギャップ幅Lの時系列データと同時に表示するように設定することができ、ギャップ幅Lと開放時間Tの相関関係を表すデータとすることもできる。
【0026】
ブレーキ動作管理部33では、データベース部32に格納された時系列データとともに、リアルタイムで取得したギャップ幅Lのデータおよび開放時間Tの計算値も同時に出力し、表示することもでき、電磁ブレーキ装置10の状態をリアルタイムで観測することもできる。
【0027】
ブレーキ状態表示部34は、ブレーキ動作管理部33によって出力されたデータをあらかじめ設定された表示方式に対応するデータに変換して出力する。出力されたデータは、表示装置40によって表示される。
【0028】
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置30の動作について詳細に説明する。
電磁ブレーキ装置10の構成および動作について説明する。
図2(a)~
図2(c)は、実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置の一部を例示する模式図である。
図2(a)は、電磁ブレーキ装置10が動作している、つまり、ブレーキがかかり電動機が停止している状態を表す図である。
図2(a)は、この例では、電磁ブレーキ装置10の正面図を表しているものとする。
図2(b)は、コイル11の形状を模式的に表しており、左の図は、コイル11の側面図、右の図は、コイル11の正面図である。
図2(c)は、電磁ブレーキ装置10のコイル11に通電され、ブレーキが開放された状態を表す図である。
【0029】
図2(a)に示すように、電磁ブレーキ装置10は、1組のブレーキキャリパ15a,15bを有しており、ブレーキキャリパ15a,15bの先端には、対向して配置されたブレーキパッドPa,Pbが設けられている。電磁ブレーキ装置10が制動状態では、ブレーキパッドPa,Pbの間にディスク16が挟み込まれている。ディスク16は、電動機の回転軸に機械的に結合された円形の部材であり、電動機の回転に応じて、回転する。
【0030】
コイル11は、ブレーキキャリパ15a,15bの間に設けられており、ブレーキキャリパ15a,15bの他端に設けられた支持部材によってブレーキキャリパ15a,15bを支持している。ブレーキキャリパ15a,15bは、一端と他端の間に固定された支点Sa,Sbをそれぞれ有しており、コイル11に固定されている他端側が開いていると、一端側が閉じて、ブレーキパッドPa,Pbがディスク16を挟み込んで保持する。コイルに通電されていない制動状態では、
図2(b)の右の図に斜線で示す弾性部材によって、コイル11は、図の上下方向に伸びた状態で維持されており、ブレーキパッドPa,Pbがディスク16を挟み込んで保持した状態を維持している。
【0031】
ブレーキキャリパ15a,15bの他端には、アングル14a,14bの一端がそれぞれ結合されている。アングル14a,14bは、ブレーキキャリパ15a,15bとほぼ同じ方向に沿って長手方向を有する部材である。
【0032】
センサ12は、2つの対向して配置されているアングル14a,14bの他端の間の距離を計測するように設けられている。
【0033】
ブレーキの制動状態では、コイル11の弾性部材の動作により、アングル14a,14bは、図の矢印の方向に力を受けている。そのため、センサ12が設けられたアングル14a,14bの他端は、開いた状態で維持されている。
【0034】
センサ13は、アングル14a,14bが所定の位置まで接近したときに、アングル14bに接するように、コイル11に設けられている。この図では、アングル14a,14bが十分に離れているので、センサ13は、オフしている。
【0035】
図2(b)に示すように、この例では、センサ13は、コイル11に設けられている。センサ13は、アングル14bに対向する位置に設けられる。また、コイル11には、支持部11aが設けられており、支持部11aを介して、ブレーキキャリパ15a,15bに結合される。
図2(b)の右の図において、コイル11は、斜線で示した弾性部材によって、通電時に図の上下方向に圧縮されるように動作する。これによって、ブレーキキャリパ15a,15bは、支点Sa,SbによってブレーキパッドPa,Pbの間を開くように動作する。
【0036】
図2(c)に示すように、通電によって、上下方向に圧縮されたコイル11は、ブレーキキャリパ15a,15bの間の距離を縮めるように動作する。そのため、ブレーキパッドPa,Pbは、ディスク16を開放するように、図の上下方向に開く。アングル14a,14bは、ブレーキキャリパ15a,15bの他端に結合されているので、ブレーキキャリパ15a,15bの他端とともに、図の矢印の方向に動き、アングル14a,14bの間隔は狭くなる。ブレーキパッドPa,Pbの間隔は、狭くなったアングル14a,14bの間隔を測定することによって、実質的に測定される。つまり、センサ12は、アングル14a,14bの間の距離の計測することによって、実質的にブレーキパッドPa,Pb間の距離を計測する。
【0037】
アングル14a,14bの側では、センサ13がアングル14bに接触することによって、リミットスイッチであるセンサ13は、開放信号を出力する。センサ12は、ギャップ幅Lを計測し、計測したデータを出力する。
【0038】
このようにセンサ12,13を設けることによって、ブレーキパッドPa,Pb間の距離を実質的に計測することができ、ブレーキが十分に開放されているか否かを実質的に判定することができる。このような電磁ブレーキ装置10に設けられたセンサ12,13は、検出したデータや信号等を電磁ブレーキ動作補償装置30に送信する。
【0039】
以下、センサ12,13からの信号等から出力された後の電磁ブレーキ動作補償装置30の一連の動作について説明する。
(1)電磁ブレーキ動作補償装置30では、ブレーキ動作判定部31が開放指令を受信し、続いてセンサ13から開放信号を受信する。ブレーキ動作判定部31は、開放時間Tを計算し、データベース部32のしきい値ΔTと比較する。
【0040】
(2)ブレーキ動作判定部31は、開放時間Tの値がしきい値ΔTよりも小さい場合には、そのまま動作を継続し、開放時間Tの値がしきい値ΔT以上の場合には、警報信号を出力する。
【0041】
(3)ブレーキ動作判定部31は、開放信号の受信により、センサ12から定周期で送られてくるギャップ幅Lのデータを受信およびデータベース部32への記録を開始する。ブレーキ動作判定部31は、ギャップ幅Lのデータを受信するごとに、ギャップ幅Lのデータをデータベース部32のしきい値ΔLと比較する。ブレーキ動作判定部31は、受信したギャップ幅Lのデータがしきい値ΔL以上の場合にはそのまま動作を継続する。ブレーキ動作判定部31は、受信したギャップ幅Lのデータがしきい値ΔLよりも小さい場合には、ギャップ幅Lのデータに応じた補償電流ICOMをデータベース部32より読み出して、ブレーキ制御装置4に対して設定する。
【0042】
(4)必要に応じて、操作者の操作にもとづいて、ブレーキ動作管理部33は、過去のデータのデータベース部32より抽出し、リアルタイムのデータとともにブレーキ状態表示部34を介して、表示装置40に表示する。
【0043】
上述の手順(4)は、リアルタイムのデータの表示をしない場合には、ブレーキが制動されている期間、すなわち、電磁ブレーキ装置10のコイル11に電流が流れていない状態であっても、過去のデータの分析等のために実行することができるのは言うまでもない。
【0044】
上述では、リミットスイッチであるセンサ13による開放時間Tがしきい値ΔT以上の場合に、ブレーキ動作判定部31は、警報信号を出力するものとしたが、これに限るものではない。たとえば、データベース部32には、開放時間Tがしきい値ΔT以上の場合の補償電流ICOM’が設定されており、ブレーキ動作判定部31は、開放時間Tに応じて、補償電流ICOM’を出力するようにしてもよい。なお、開放時間Tのしきい値は、警報信号を出力する場合と、補償電流ICOM’を出力する場合とで、同一値としてもよいし、異なる値としてもよい。また、補償電流ICOM’の値は、補償電流ICOMと同一値でもよいし、異なる値としてもよい。これらの値は、設備に応じて適切な任意の値とすることができる。
【0045】
開放時間Tが長くなる場合には、コイル11による電磁力が劣化している場合が考えられ、その場合には、ブレーキ開放後の保持電流も開放状態を維持するには十分でない場合がある。そのため、ブレーキ動作判定部31は、保持電流による動作に入る時点で補償電流(第2補償電流)ICOM’を設定して、コイル11の電磁力を確保することができる。その後、ギャップ幅Lのデータがしきい値ΔLを下回っていなければ、補償電流ICOM’の設定を維持し、ギャップ幅Lが狭まってきた場合には、補償電流ICOM’にさらに補償電流ICOMを加算してコイル11を駆動するようにしてもよい。
【0046】
上述では、電磁ブレーキは、ブレーキキャリパの一端にブレーキパッドが設けられ、ブレーキパッド間の距離をブレーキキャリパの他端側のアングル間の距離で計測するものとしたが、これに限るものではない。光学式のセンサを用いることで、ブレーキパッド間の距離を直接的に計測するようにしてももちろんよい。このように構成することによって、アングルの設けられていない電磁ブレーキにも適用することができ、また、ブレーキパッドとディスクとの間の設定ずれ等もより正確に計測することができる。
【0047】
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置は、たとえば、演算処理装置を備えたコンピュータ装置で実現するようにしてもよい。電磁ブレーキ動作補償装置をコンピュータ装置で示現する場合には、
図1で示した各ブロックの機能の一部または全部は、演算処理装置で逐次実行される1つ以上のステップで実現される。たとえば、ブレーキ動作判定部31は、一部をIO盤20側のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)で実現し、他の部分をコンピュータ装置のプログラムで実現する等である。
【0048】
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置30の効果について説明する。
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置30は、電磁ブレーキ装置10のアングル14aに取り付けたセンサ12によって、アングル14a,14b間のギャップ幅Lをリアルタイムで計測し、データをリアルタイムで取得することができる。
【0049】
コイル11による電磁力は、コイル11に劣化等がない場合には、コイル11に保持電流を流したときの電磁力はほぼ一定である。一方、ブレーキパッドPa,Pbが摩耗したときには、ブレーキ制動時のギャップ幅Lは、ブレーキパッドPa,Pbが摩耗していないときに比べて広がっている。そのような状態で、ブレーキを開放すると、開放時のギャップ幅Lは、ブレーキパッドPa,Pbが摩耗していないときのギャップ幅Lよりも狭くなる。ブレーキパッドPa,Pbの摩耗状況に応じて、ギャップ幅Lのしきい値ΔLを設定して、補償電流ICOMを追加するように流すことができる。そのため、コイル11の電磁力が実質的に向上し、ブレーキ開放時のブレーキパッドPa,Pb間の距離を十分確保することができ、不測のブレーキ制動を回避することができる。
【0050】
また、ブレーキキャリパ15a,15bとディスク16との相対位置関係が設備の振動等によってずれた場合には、ディスク16がブレーキパッドPa,Pbのいずれか一方との距離が短くなる。そのため、片方のブレーキパッドを摩耗させるような不具合を生じるおそれがあるので、補償電流ICOMを設定することによって、コイル11に十分な電磁力を生じさせ、ブレーキパッドPa,Pb間の距離を十分確保することができる。
【0051】
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置30は、ブレーキ開放時にアングル14a,14b間の距離が十分確保されていることを検出できるように設けられたセンサ13からの信号と、電磁ブレーキ装置10の開放動作開始時の開始指令にもとづいて、開放時間Tをリアルタイムで計算し、監視することができる。
【0052】
産業用途においては、電磁ブレーキ装置10は、高温高湿等の過酷な環境条件で用いられる場合も多く、磁性体の劣化等によってコイル11の電磁力が低下する場合がある。コイル11の性能の劣化によって発生し得る問題は、起動時に、コイル11の突入電流を流して強励磁しても、劣化したコイル11では、十分に励磁できずに、ブレーキを開放するまでの開放時間が長くなること等である。
【0053】
実施形態の電磁ブレーキ動作補償装置30では、開放時間Tを計算して、開放時間Tが所定のしきい値ΔT以上の場合には、コイル11が劣化しているおそれがある旨を警報信号として出力することができる。そのため、コイル11の劣化状態をあらかじめ把握することができ、事前に部品交換や補修等を行うことができ、設備稼働開始時に、ブレーキが開放されず、操業停止しなければならないような状況を回避することができる。
【0054】
劣化を生じたコイル11に保持電流を流したときには、電磁力も低下している場合がある。その場合には、開放時間Tに応じて設定された補償電流ICOM’をギャップ幅Lにかかわらずに設定することによって、十分な電磁力が確保され、不測のブレーキ動作という状況を回避することが可能になる。
【0055】
以上説明した実施形態によれば、電磁ブレーキ装置の状態をリアルタイムで検知し、より適切な状態で運転を継続することができる電磁ブレーキ動作補償装置を実現することができる。
【0056】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 変圧器、2 遮断器、4 ブレーキ制御装置、5 電流駆動回路、6 電流検出器、10 電磁ブレーキ装置、11 コイル、12,13 センサ、14a,14b アングル、15a,15b ブレーキキャリパ、20 IO盤、30 電磁ブレーキ動作補償装置、31 ブレーキ動作判定部、32 データベース部、33 ブレーキ動作管理部、34 ブレーキ状態表示部、40 表示装置