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特許7399128インナーロータ型電動機、送風機およびインナーロータ型電動機の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】インナーロータ型電動機、送風機およびインナーロータ型電動機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20231208BHJP
   H02K 15/085 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H02K3/34 D
H02K15/085
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021031587
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022132876
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高志
(72)【発明者】
【氏名】亀山 正樹
(72)【発明者】
【氏名】出口 学
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-322578(JP,A)
【文献】特開昭56-019364(JP,A)
【文献】特開2001-231210(JP,A)
【文献】特許第3102665(JP,B2)
【文献】特開2016-046832(JP,A)
【文献】特開2007-236021(JP,A)
【文献】特開2006-129590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30- 3/52
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に円形に配置された複数の歯部と、前記複数の歯部の外周側を連結する筒状の外輪ヨーク部とを有する固定子鉄心と、
前記複数の歯部を前記固定子鉄心の軸方向の第1端側から覆う第1インシュレータと、前記複数の歯部を前記軸方向の第2端側から覆う第2インシュレータとを有するインシュレータと、
前記第1インシュレータの前記第1端側に第1巻線エンド部を有し、前記第2インシュレータの前記第2端側に第2巻線エンド部を有し、前記インシュレータ上に巻かれた巻線と、
前記固定子鉄心の前記第2端側に設けられ、前記巻線を接続する端子台と、
を有する固定子と、
前記固定子鉄心の内側に配置された回転子と、
を備え、
前記第1巻線エンド部は、前記歯部の前記第1端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出し、前記第2巻線エンド部は、前記歯部の前記第2端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出せず、
前記端子台は、前記第2巻線エンド部と前記回転子とを画成する円筒状の壁部と、前記第2巻線エンド部にワニス処理を施すシート状のワニスと、を備える
ことを特徴とするインナーロータ型電動機。
【請求項2】
前記端子台は、円筒状の前記壁部から垂直に外周方向に延在する基台部を有し、前記基台部に、前記シート状のワニスが前記第2巻線エンド部と接するように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のインナーロータ型電動機。
【請求項3】
前記第1インシュレータは、
前記複数の歯部の前記第1端側でかつ内周側の端部位置より内周側に配置され、前記第1巻線エンド部を引っ掛ける複数の引っ掛け部を有することを特徴とする請求項1に記載のインナーロータ型電動機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のインナーロータ型電動機と、
前記インナーロータ型電動機によって回転され、送風する送風ファンと、
を備えることを特徴とする送風機。
【請求項5】
放射状に円形に配置された複数の歯部と、前記複数の歯部の外周側を連結する筒状の外輪ヨーク部とを有する固定子鉄心と、前記複数の歯部を前記固定子鉄心の軸方向の第1端側から覆う第1インシュレータと、前記複数の歯部を前記軸方向の第2端側から覆う第2インシュレータとを有するインシュレータと、前記第1インシュレータの前記第1端側に、第1巻線エンド部を有し、前記第2インシュレータの前記第2端側に第2巻線エンド部を有し、前記インシュレータ上に巻かれた巻線と、前記固定子鉄心の前記第2端側に設けられ、前記巻線を接続する端子台であって、前記第2巻線エンド部と回転子とを画成する円筒状の壁部と、前記第2巻線エンド部にワニス処理を施すシート状のワニスとを備える前記端子台と、を有する固定子と、前記固定子鉄心の内側に配置された回転子と、を備えるインナーロータ型電動機の製造方法であって、
前記第1インシュレータは、前記歯部の前記第1端側でかつ内周側の端部位置より内周側に配置され、前記第1巻線エンド部を引っ掛ける複数の引っ掛け部が形成されており、
前記外輪ヨーク部と、複数の前記歯部とを別体で形成する工程と、
複数の前記歯部を放射状に並べる工程と、
複数の前記歯部を前記第1インシュレータおよび前記第2インシュレータで覆う工程と、
前記固定子鉄心の前記第2端側に、前記固定子鉄心の内周に突出する巻線用治具を配置する工程と、
前記第1インシュレータの前記第1端側では、前記引っ掛け部の内周側を通るように巻線を巻いて第1巻線エンド部を形成し、前記第2インシュレータの前記第2端側では、前記巻線用治具の内周側を通るように巻線を巻いて第2巻線エンド部を形成する工程と、
前記巻線用治具を取り外す工程と、
前記第2巻線エンド部を前記複数の歯部の前記第2端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出しないように変形させる工程と、
前記固定子の前記第2端側に、前記端子台を配置する工程と、
前記巻線を前記端子台に接続する工程と、
前記端子台を加熱することにより前記ワニスを溶融し、溶融された前記ワニスを前記第2巻線エンド部に供給する工程と、
前記端子台を冷却し、前記ワニスを固化して前記第2巻線エンド部を固定する工程と、
を備えることを特徴とするインナーロータ型電動機の製造方法。
【請求項6】
前記固定する工程の後で、巻線が巻かれた複数の前記歯部と前記外輪ヨーク部とを結合させる工程、をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のインナーロータ型電動機の製造方法。
【請求項7】
前記結合させる工程の後で、複数の前記歯部の内周側に回転子を挿入する工程を、さらに備えることを特徴とする請求項6に記載のインナーロータ型電動機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻線が巻かれた固定子鉄心を有するインナーロータ型電動機、送風機およびインナーロータ型電動機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インナーロータ型電動機では、筒状の固定子の内側に回転子が配置されている。固定子鉄心は、筒状の外輪ヨーク部と、外輪ヨーク部の内周面から突出して周方向に並べられた複数の歯部を有する。歯部には巻線が巻き付けられて巻線部が形成される。巻線部のうち、外輪ヨーク部から中心軸方向に突出する部分は、巻線エンド部と呼ばれる。巻線部に占める巻線エンド部の量が増えると、材料費の増加によるコスト増加に加えて、巻線が長くなることによって抵抗が増加して、電動機の効率が低下してしまう。
【0003】
予め円環状に形成された巻線部を歯部に差し込む方法では、余裕を持たせた大きさで巻線部を形成する必要があるため、巻線エンド部が大きくなってしまう。そこで、特許文献1では、固定子鉄心を外輪ヨーク部と歯部とに分割形成し、周方向に並べた複数の歯部にインシュレータを組み付けて巻枠を形成し、巻枠に直接巻線を巻き付けてから、外輪ヨーク部と歯部とを組み付けることで、巻線エンド部の小型化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3102665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構造では、巻線エンド部の小型化を図る場合には、後から巻く巻線の経路を確保するために、先に巻く巻線が、歯部の先端よりも内周側に張り出してしまう。固定子の内周側には、回転子が設けられるので、張り出した巻線に回転子が干渉し、回転子を挿入できない場合がある。このため、このような場合は、巻枠に巻線を配置する前に回転子を配置する必要がある。回転子が配置された状態で巻線を巻く場合、外輪ヨーク部と歯部とを高精度に組み立てることが難しい。
【0006】
このような事態を避けるために、巻枠に回転子が挿入できる空間を形成し、巻線の巻線エンド部を空間の内部に配置後、巻線エンド部を変形させて空間の外部に移動させることで、巻線後に回転子を挿入することが可能となる。しかし、変形された巻線エンド部が固定されていない場合、振動などの外力により巻線が変形し、回転子との接触、あるいは振動により巻線の被膜が傷つき、絶縁性が確保されない可能性がある。
【0007】
本開示は、巻線エンド部の小型化を図り、巻線エンド部の変形を安価に防止できるインナーロータ型電動機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示におけるインナーロータ型電動機は、放射状に円形に配置された複数の歯部と、複数の歯部の外周側を連結する筒状の外輪ヨーク部とを有する固定子鉄心と、複数の歯部を固定子鉄心の軸方向の第1端側から覆う第1インシュレータと、複数の歯部を軸方向の第2端側から覆う第2インシュレータとを有するインシュレータと、第1インシュレータの第1端側に第1巻線エンド部を有し、第2インシュレータの第2端側に第2巻線エンド部を有し、インシュレータ上に巻かれた巻線と、固定子鉄心の第2端側に設けられ、巻線を接続する端子台と、を有する固定子と、固定子鉄心の内側に配置された回転子と、を備える。第1巻線エンド部は、歯部の第1端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出し、第2巻線エンド部は、歯部の第2端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出しない。端子台は、第2巻線エンド部と回転子とを画成する円筒状の壁部と、第2巻線エンド部にワニス処理を施すシート状のワニスと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、巻線エンド部の小型化を図り、巻線エンド部の変形を安価に防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態にかかるインナーロータ型電動機の外観を示す分解斜視図
図2】実施の形態における固定子鉄心の外観を示す斜視図
図3】実施の形態における外輪ヨーク部の構造を示す斜視図
図4】実施の形態における歯部が放射状に並べられた状態を示す斜視図
図5】実施の形態における複数の歯部がインシュレータに覆われた状態を示す図であって、第1インシュレータ側から見た斜視図
図6】実施の形態における複数の歯部がインシュレータに覆われた状態を示す図であって、第2インシュレータ側から見た斜視図
図7】実施の形態において、インシュレータによって覆われた歯部にコイルが巻回された状態を示す図であって、第1インシュレータ側から見た図
図8】実施の形態において、インシュレータによって覆われた歯部にコイルが巻回された状態を示す図であって、第2インシュレータ側から見た図
図9】実施の形態のインナーロータ型電動機が適用される単相誘導電動機の等価回路を示す回路図
図10】実施の形態のインシュレータによって覆われた歯部にコイルが巻回された状態を示す図であって、第1インシュレータ側から見た図
図11】実施の形態において、円形状に並べられた複数の歯部、補助巻線、主巻線を平面に展開した状態を示す概念図
図12】実施の形態における歯部に巻回されたコイルの巻線エンド部が変形された状態を示す図であって、第2インシュレータ側から見た図
図13】実施の形態にかかる固定子を第2インシュレータ側から見た斜視図
図14】実施の形態にかかる固定子の断面図
図15】実施の形態において、巻線エンド部が形成された状態の固定子の断面模式図
図16】実施の形態における端子台の構成を示す斜視図
図17】実施の形態における端子台の構成を示す断面模式図
図18】実施の形態における端子台が組み付けられた後の固定子の構成を示す断面図
図19】実施の形態における端子台が組み付けられた後の固定子の構成を示す断面模式図
図20】実施の形態にかかるインナーロータ型電動機の製造工程を示す工程図
図21】実施の形態にかかるインナーロータ型電動機を備える送風機の正面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態にかかるインナーロータ型電動機、送風機およびインナーロータ型電動機の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態.
図1は、実施の形態にかかるインナーロータ型電動機100の外観を示す分解斜視図である。インナーロータ型電動機(電動機)100は、筒状形状の固定子1の内側に回転子2が配置されている。回転子2には、固定子1の中心軸(図示せず)に沿って伸びる軸部23が設けられている。軸部23は、2つの軸受3によって回転可能に支持されている。軸受3は、外郭4と外郭5とによって支持されている。外郭4および外郭5によって、固定子1、回転子2、軸受3を内部に収容するためのケーシングを構成する。
【0013】
固定子1は、固定子鉄心6と、コイル(巻線)7と、インシュレータ8と、端子台14とを備えている。インシュレータ8は、固定子鉄心6とコイル7とを電気的に絶縁する。端子台14は、固定子1の軸方向の一方側に設けられている。端子台14では、コイル7が接続される。軸方向とは、軸部23の軸に沿った方向である。
【0014】
図2は、実施の形態における固定子鉄心6の外観を示す斜視図である。固定子鉄心6は、円筒形状の外輪ヨーク部9と、外輪ヨーク部9の内周面から突出して放射状に並べられた複数の歯部10とを備える。外輪ヨーク部9および歯部10は、複数枚の鋼板を軸方向に沿って積層して形成されている。固定子鉄心6は、2相4極であり16スロットである。
【0015】
図3は、実施の形態における外輪ヨーク部9の構造を示す斜視図である。図4は、実施の形態における歯部10が放射状に並べられた状態を示す斜視図である。図3および図4に示すように、外輪ヨーク部9と歯部10とは別体で形成されている。外輪ヨーク部9の内周面には、歯部10の根本部を嵌める溝9aが形成されている。固定子1を製造する際には、図4に示すように、複数の歯部10が放射状にかつ円形に並べられる。また、複数の歯部10にコイル7が巻かれた後、外輪ヨーク部9が組み付けられる。
【0016】
図5は、実施の形態における複数の歯部10がインシュレータ8に覆われた状態を示す図であって、第1インシュレータ8a側から見た斜視図である。図6は、実施の形態における複数の歯部10がインシュレータ8に覆われた状態を示す図であって、第2インシュレータ8b側から見た斜視図である。
【0017】
図5および図6に示すように、放射状に並べられた複数の歯部10の全側面は、インシュレータ8によって覆われる。複数の歯部10における回転子2と対向する内周面側は、露出されている。インシュレータ8は、絶縁性の材料、例えば絶縁性の樹脂で形成されている。インシュレータ8は、第1インシュレータ8aと第2インシュレータ8bとを含む2ピースで構成されている。第1インシュレータ8aを下部インシュレータと呼び、第2インシュレータ8bを上部インシュレータと呼ぶ。インシュレータ8は、放射状に配置された歯部10の上下から歯部10に組み付けられる。下部インシュレータ8aおよび上部インシュレータ8bのうちの一方を配置後、歯部10をインシュレータ8の一方に組み付ける。その後、インシュレータ8の他方が組み付けられる。
【0018】
図5に示されるように、下部インシュレータ8aは、複数の歯部10を固定子鉄心6の軸方向の一方側である第1端側から覆う。下部インシュレータ8aは、歯部10のそれぞれを覆う覆い部8a1を有する。下部インシュレータ8aは、複数の歯部10に囲まれる中央領域、すなわち、複数の覆い部8a1に囲まれる中央領域を塞ぐ蓋部8a2を有する。蓋部8a2には、軸部23を貫通させる穴が形成されている。蓋部8a2には、軸方向に突出するリブ状の引っ掛け部8a3が形成されている。本実施の形態では、4つの引っ掛け部8a3が形成されているが、その数は固定子鉄心6の極数等により異なる。引っ掛け部8a3は、半径方向に延びる第1リブ8a4と、半径方向に垂直な方向に延びる第2リブ8a5を有し、T字状となっている。引っ掛け部8a3は、歯部10の1個分程度の幅を有し、固定子鉄心6の外周から内周側に突出する突出部として設けられる。
【0019】
図6に示されるように、上部インシュレータ8bは、複数の歯部10を固定子鉄心6の軸方向の他方側である第2端側から覆う。上部インシュレータ8bは、歯部10のそれぞれを覆う覆い部8b1を有する。上部インシュレータ8bでは、複数の歯部10に囲まれる中央領域、すなわち、複数の覆い部8b1に囲まれる中央領域が覆われておらず、円形の開口8b2となっている。開口8b2の中の空間には、回転子2が挿入される。
【0020】
複数の覆い部8a1および複数の覆い部8b1の間には、コイル7が巻回されるための空間SLが形成されている。
【0021】
図7は、実施の形態において、インシュレータ8によって覆われた歯部10にコイル7が巻回された状態を示す図であって、下部インシュレータ8a側から見た図である。図8は、実施の形態において、インシュレータ8によって覆われた歯部10にコイル7が巻回された状態を示す図であって、上部インシュレータ8b側から見た図である。図7においては、コイル7の下部インシュレータ8a側の巻線エンド部が示され、図8においては、コイル7の上部インシュレータ8b側の巻線エンド部が示されている。
【0022】
図7に示すように、下部インシュレータ8a側では、先に巻回されるコイル7aは、下部インシュレータ8aの引っ掛け部8a3に引っ掛けられて、歯部10を覆う覆い部8a1に巻き付けられる。コイル7aは、引っ掛け部8a3に対応する位置の歯部10には巻回されず、一つ置きにして歯部10に巻回されている。後で巻回されるコイル7bは、引っ掛け部8a3に引っ掛けられることなく、覆い部8a1に巻き付けられる。コイル7bも、一つ置きにして歯部10に巻回されている。
【0023】
図8に示すように、上部インシュレータ8b側では、巻線用治具12が使用されてコイル7が巻回される。巻線用治具12は、固定子鉄心6の内周側に突出しており、引っ掛け部8a3と同様に、T字状のリブ構造となっている。先に巻回されるコイル7aは、上部インシュレータ8bの上面に配置された巻線用治具12に引っ掛けられて、歯部10を覆う覆い部8b1に巻き付けられる。コイル7aは、巻線用治具12が配置された位置の歯部10には巻回されず、一つ置きにして歯部10に巻回されている。後で巻回されるコイル7bは、巻線用治具12に引っ掛けられることなく、覆い部8b1に巻き付けられる。コイル7bも、一つ置きにして歯部10に巻回されている。
【0024】
図9は、実施の形態のインナーロータ型電動機100が適用される単相誘導電動機の等価回路を示す回路図である。コイル7aは単相誘導電動機の補助巻線であり、コイル7bは単相誘導電動機の主巻線である。単相交流電源127に対し、4個の補助巻線コイル部7a1,7a2,7a3,7a4からなる補助巻線7aとコンデンサ128とが直列に接続された直列体と、4個の主巻線コイル部7b1,7b2,7b3,7b4からなる主巻線7bとが並列に接続されている。端子台14には、コンデンサ128が搭載されており、端子台14においては、図9に示されているような、補助巻線コイル部7a1,7a2,7a3,7a4からなる補助巻線7aと、主巻線コイル部7b1,7b2,7b3,7b4からなる主巻線7bと、コンデンサ128との接続が行われている。
【0025】
補助巻線7aに流れる補助巻線電流Isは、コンデンサ128によって主巻線7bに流れる主巻線電流Imよりも電流位相が90°程度進んでいる。これによって、回転方向に回転磁界が生じる。主巻線電流Imに対して補助巻線電流Isの位相が90°進んでいる時に理想的な回転磁界が得られる。
【0026】
図10は、実施の形態のインシュレータ8によって覆われた歯部10にコイル7が巻回された状態を示す図であって、下部インシュレータ8a側から見た図である。図10は、図7と同様の構成を示す図であるが、4個の補助巻線コイル部7a1,7a2,7a3,7a4と、4個の主巻線コイル部7b1,7b2,7b3,7b4との配置関係を主に示している。図11は、実施の形態において、円形状に並べられた複数の歯部10、補助巻線7a、主巻線7bを平面に展開した状態を示す概念図である。
【0027】
電動機100は、16個の歯部10を有する。主巻線コイル部7b1は、隣り合う3個の歯部10-1,10-2,10-3を囲んで巻線される。主巻線コイル部7b2は、1個の歯部10―4を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-5,10-6,10-7を囲んで、主巻線コイル部7b1と逆位相(逆向きの電流が流れる方向)で巻線される。主巻線コイル部7b3は、1個の歯部10―8を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-9,10-10,10-11を囲んで、主巻線コイル部7b1と同位相で巻線される。主巻線コイル部7b4は、1個の歯部10―12を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-13,10-14,10-15を囲んで主巻線コイル部7b1と逆位相で巻線される。歯部10-16には主巻線は巻かれない。
【0028】
補助巻線7aは、主巻線7bに対し、2個の歯部10をずらせて巻線される。補助巻線コイル部7a1は、隣り合う3個の歯部10-15,10-16,10-1を囲んで巻線される。補助巻線コイル部7a2は、1個の歯部10―2を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-3,10-4,10-5を囲んで、補助巻線コイル部7a1と逆位相で巻線される。補助巻線コイル部7a3は、1個の歯部10―6を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-7,10-8,10-9を囲んで、補助巻線コイル部7a1と同位相で巻線される。補助巻線コイル部7a4は、1個の歯部10―10を飛ばして、隣り合う3個の歯部10-11,10-12,10-13を囲んで補助巻線コイル部7a1と逆位相で巻線される。歯部10-14には補助巻線は巻かれない。
【0029】
図12は、実施の形態における歯部10に巻回されたコイル7の巻線エンド部が変形された状態を示す図であって、上部インシュレータ8b側から見た図である。上部インシュレータ8b側では、コイル7a,7bの巻回が終了すると、上部インシュレータ8bの上面に配置された巻線用治具12が取り外される。さらに、コイル7aおよびコイル7bのうちのコイル7aを歯部10の内周側から外周側へ変形させることで、上部インシュレータ8b側におけるコイル7aの巻線エンド部13bが完成される。巻線エンド部13bが形成されることによって、回転子2の挿入のための空間が確保される。
【0030】
図13は、実施の形態にかかる固定子1を上部インシュレータ8b側から見た斜視図である。図14は、実施の形態にかかる固定子1の断面図である。インシュレータ8およびコイル7が配置された歯部10と、外輪ヨーク部9を組み付けることにより、固定子1が形成される。この固定子1に対し、回転子2を配置することが可能となる。
【0031】
図15は、実施の形態において、巻線エンド部が形成された状態の固定子1の断面模式図である。図15に示されるように、上部インシュレータ8bには、巻線エンド部13bが形成され、下部インシュレータ8a側には、巻線エンド部13aが形成される。第1巻線エンド部としての巻線エンド部13aは、歯部10の第1端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出している。第2巻線エンド部としての巻線エンド部13bは、歯部10の第2端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出していない。
【0032】
図16は実施の形態の端子台14の構成を示す斜視図である。図17は実施の形態の端子台14の構成を示す断面模式図である。端子台14は、円環形状の基台部14aと、基台部14aから軸方向に延びる円筒状の壁部14bを有する。基台部14aでは、図示を省略するが、前述したように、補助巻線コイル部7a1,7a2,7a3,7a4と、主巻線コイル部7b1,7b2,7b3,7b4と、コンデンサ128との接続が行われる。壁部14bは、巻線エンド部13bと回転子2とを空間的に画成するための隔離壁である。基台部14aの裏面15には、上部インシュレータ8bの巻線エンド部13bなどにワニス処理を施すためのシート状のワニス18が設けられている。ワニス18は、基台部14aの裏面15に接着されているか、もしくは端子台14の裏面15に設けられた複数の爪部16に引っ掛けられることで配置される。ワニス18は、上部インシュレータ8b側のコイル7a,7bをワニス処理するために円環形状を有する。
【0033】
図18は、実施の形態における端子台14が組み付けられた後の固定子1の構成を示す断面図である。図19は、実施の形態における端子台14が組み付けられた後の固定子1の構成を示す断面模式図である。壁部14bによって、巻線エンド部13bと回転子2とが空間的に隔絶されている。このため、巻線エンド部13bの回転子2側への変形移動を抑制することができる。この状態で、端子台14を加熱することによりワニス18を溶融し、溶融されたワニス18を上部インシュレータ8b側のコイル7a,7bに供給する。その後、端子台14を冷却し、ワニス18を固化して巻線エンド部13bを固定する。
【0034】
このような手法によって、レーシング糸によるコイルを固定してワニス処理を行う手法に比べ、より安価に巻線エンド部の固定が可能となる。
【0035】
次に、実施の形態のインナーロータ型電動機100の製造工程について、工程図を用いて簡単に説明する。図20は、実施の形態にかかるインナーロータ型電動機100の製造工程を示す工程図である。
【0036】
まず、外輪ヨーク部9と、複数の歯部10とが別体で形成される。次に、下部インシュレータ8aおよび上部インシュレータ8bが配置される(ステップS1)。次に、複数の歯部10が放射状に配置される(ステップS2)。次に、複数の歯部10が下部インシュレータ8aおよび上部インシュレータ8bによって覆われる(ステップS3)。次に、固定子鉄心6の上部インシュレータ8b側に、巻線用治具12が配置される(ステップS4)。次に、下部インシュレータ8a側では、引っ掛け部8a3の内周側を通るようにコイル7を巻いて巻線エンド部13aが形成され、上部インシュレータ8b側では、巻線用治具12の内周側を通るようにコイル7を巻いて巻線エンド部13bが形成される(ステップS5)。つぎに、巻線用治具12が取り外される(ステップS6)。
【0037】
次に、上部インシュレータ8b側の巻線エンド部13bを歯部10の第2端側でかつ内周側の端部位置より内周側に突出しないように変形させる(ステップS7)。次に、固定子1の上部インシュレータ8b側に、端子台14が配置される(ステップS8)。次に、コイル7が端子台14に接続される(ステップS9)。次に、端子台14が加熱されことによりワニス18が溶融され(ステップS10)、溶融されたワニス18が巻線エンド部13bに供給される(ステップS11)。次に、端子台14が冷却され、ワニス18が固化されて巻線エンド部13bが固定される(ステップS12)。
【0038】
この後、複数の歯部10に囲まれた領域に治具が挿入され、歯部10と外輪ヨーク部9とが連結される。次に、治具が抜き取られる。次に、固定子1の内側に回転子2が設けられ、軸受3および外郭4,5が設けられることで、インナーロータ型電動機100が完成する。
【0039】
このように実施の形態では、下部インシュレータ8a側の巻線エンド部13aは、歯部10の内周側の端部位置より内周側に突出し、上部インシュレータ8b側の巻線エンド部13bは、歯部10の内周側の端部位置より内周側に突出しないようにし、かつ端子台14は、上部インシュレータ8b側の巻線エンド部13bと回転子2を画成する円筒状の壁部14bと、巻線エンド部13bにワニス処理を施すシート状のワニス18と、を備えるので、巻線エンド部13bの小型化が図られ、巻線エンド部13bの変形を安価に防止することができる。
【0040】
図21は、実施の形態にかかるインナーロータ型電動機100を備える送風機55の正面図である。図21に示すように、軸部23に羽根54を連結し、羽根54を回転させて送風する送風機55にインナーロータ型電動機100を適用してもよい。なお、羽根または羽根車を回転させて空気を流動させる換気扇にインナーロータ型電動機100を適用してもよい。
【0041】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 固定子、2 回転子、3 軸受、4,5 外郭、6 固定子鉄心、7 コイル(巻線)、7a コイル(補助巻線)、7a1,7a2,7a3,7a4 補助巻線コイル部、7b コイル(主巻線)、7b1,7b2,7b3,7b4 主巻線コイル部、8 インシュレータ、8a 下部インシュレータ(第1インシュレータ)、8a1,8b1 覆い部、8a2 蓋部、8a3 引っ掛け部、8a4 第1リブ、8a5 第2リブ、8b 上部インシュレータ(第2インシュレータ)、8b2 開口、9 外輪ヨーク部、9a 溝、10 歯部、12 巻線用治具、13a,13b 巻線エンド部、14 端子台、14a 基台部、14b 壁部、15 裏面、16 爪部、18 ワニス、23 軸部、54 羽根、55 送風機、100 インナーロータ型電動機(電動機)、127 単相交流電源、128 コンデンサ。
図1
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図21