(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】放射線曝露に起因する傷害の治療及び予防
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20231208BHJP
A61P 39/00 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231208BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231208BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20231208BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231208BHJP
A61K 33/04 20060101ALN20231208BHJP
A61K 33/30 20060101ALN20231208BHJP
A61K 33/00 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
A61K9/107
A61P39/00
A61K47/28
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/10
A61K33/32
A61P3/02
A61K33/04
A61K33/30
A61K33/00
(21)【出願番号】P 2021522139
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2019068099
(87)【国際公開番号】W WO2020008032
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-07-05
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521009463
【氏名又は名称】メディシス・ファルマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エルザ・コント
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・モレル
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・グリーヴ-ジェルファニョン
(72)【発明者】
【氏名】シリル・ラヴォー
(72)【発明者】
【氏名】ロレーヌ・ベニーニョ-アントン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クロード・モレル
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/005899(WO,A1)
【文献】特表2013-521815(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052279(US,A1)
【文献】特表2017-506249(JP,A)
【文献】癌と化学療法,2014年,Vol.41, No.13,pp.2555-2558
【文献】Drug Delivery System,2014年,Vol.29, No.4,pp.294-303
【文献】RADIOISOTOPES,2001年,Vol.50,pp.353-356
【文献】RADIOISOTOPES,1990年,Vol.39,pp.573-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に曝露された対象の治療及び/又は放射線に曝露されるリスクを有する対象における放射線障害の予防における使用のための
、逆ミセル系を含む医薬組成物であって、
前記逆ミセル系が、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20%のレシチン、エタノール及び水を含み、レシチンのアシルグリセロールに対する重量比が、0.05~0.4であり、
前記逆ミセル系が、キレート剤を含ま
ず、
前記逆ミセル系が、シアノ架橋された金属ナノ粒子を含まない、医薬組成物。
【請求項2】
前記逆ミセル系が、マンガンを含む、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記逆ミセル系が、少なくとも300μg/gのマンガンを含む、請求項1又は2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記逆ミセル系が、5~15%のレシチンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
放射線曝露のリスクを有する対象に有効量の前記逆ミセル系が投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
放射線療法の前に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
がんの治療のための放射線療法の前に、又は医学的診断のためにラジオアイソトープを投与する前に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
がんの治療のための放射線療法後に、がん細胞が、非がん性細胞よりも前記放射線療法に対してより感受性である、請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記対象が軍事戦闘に入る前に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
核攻撃又は事故の前に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
放射線に曝露された対象に有効量の前記逆ミセル系が投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
放射線療法に曝露された対象に有効量の前記逆ミセル系が投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
がんの治療のために放射線療法に曝露された対象に有効量の前記逆ミセル系が投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
がん細胞が、非がん性細胞よりも前記放射線療法に対してより感受性である、請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
軍事戦闘後に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
核攻撃又は事故の後に、有効量の前記逆ミセル系が対象に投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
医学的診断のためにラジオアイソトープに曝露された対象に、有効量の前記逆ミセル系が投与されるように前記医薬組成物を投与することを含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
前記逆ミセル系が、マンガンを含み、前記マンガンが、身体のすべての細胞に均一に分配される、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が、経粘膜的に投与される、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
前記逆ミセル系が、DTPA、ビスホスホネート、プルシアンブルー、EDTA、トリエンチン、D-ペニシラミン、デフェロキサミン、BAL、DMSA、DMPS、フィチン酸、ヒドロキシピリドネート(HOPO)、メルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)、キレート化ペプチド、それらの誘導体及びそれらの組み合わせを含まない、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逆ミセル系を投与することによる放射線曝露に起因する傷害の治療及び/又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線傷害に対する安全で効果的な放射線対策の開発に大きな進歩があった。しかしながら、非臨床の場でのヒト使用(例えば、汚い爆弾、集団核事故)に関して米国食品医薬品局(FDA)によって承認された薬剤はごくわずかである。例えば、アミフォスチン(エチオール(登録商標))は、急性放射線症候群(ARS)の治療用の放射線防護剤としてFDAにより承認されていないが、放射線療法又は化学療法を受けている患者に対する限られた臨床使用にのみ承認されている。更に、アミフォスチンは、静脈内(i.v.)又は皮下(s.c.)投与時にのみ有効であり、短期間の有効性を有するため、多数の死傷者が出る状況に適合しない。
【0003】
2つの顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)(Neupogen(登録商標)及びNeulasta(登録商標))は、ARSの造血サブ症候群(H-ARS)の治療用の放射線緩和剤としてFDAにより改善されている。しかし、これらの組換え薬剤には、注射される必要性、複数回投薬が必要である、及び副作用のモニタリング等の制限がある。
【0004】
いくつかの薬物は、ARSの予防又は治療のための放射線対策としてFDAによる評価が異なる段階にあるが、今までのところ、最適な放射線対策となるために必要なすべての質、例えば、低毒性、広い領域の防護、極端な条件下での安定性、取り扱い及び投与し易さ等を全く有していない。
【0005】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、スーパーオキシドアニオンの酸素及び過酸化水素への不均化を触媒する酵素であり、抗酸化防御機構に関与することが公知である(Huang、2012年)。マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(Mn-SOD)の臨床応用は、半減期が短く、分子量が高く、及び細胞膜を自由に通過することができないために制限されているため、SOD模倣体等の他の戦略が開発されている(Miriyala、2012年)。例えば、AEOL10150は、Aeolus Pharmaceuticals社によって開発されたメタロポルフィリンMn-SOD模倣体であり、複数回の注射後の急性放射線誘発肺傷害を緩和する(MacVittie、2017年)。
【0006】
Greenberger及び共同研究者は、SODに基づく遺伝子治療戦略を調査した。彼らは、電離放射線曝露前にげっ歯類に静脈内投与されたリポソーム中のMn-SOD-プラスミドが、正常組織を防護する強力な効力を有することを示した(Epperly、2008年)。別の研究では、彼らは、微量栄養素のマルチビタミンと、マンガン、抗酸化剤及び化学予防剤、並びに場合により脂肪酸の混合物等の微量元素との混合物に富んだ飼料を毎日投与しても、30日目までの生存は改善されないが、電離放射線の急性影響を生き延びた動物では、食餌は放射線曝露誘発による寿命の短縮を改善することが示された(Epperly、2011年及び米国特許出願公開第2014/0023701号)。
【0007】
Murata及び共同研究者は、腹腔内投与された塩化マンガンが、皮膚又は陰窩細胞の急性放射線傷害に対して防護しないことを示した(Murata、1995年)。
【0008】
マンガンは、経口での生物学的利用能が低く、パーキンソン病に見られるものと同様の関連した運動機能障害症候群を伴う進行性神経変性障害等の毒性があるため、投与が容易ではない(Williams、2012年)。
【0009】
いくつかの逆ミセル系が当該技術分野において公知である。これらの系は、特定の成分を必要とし、並びに/又は放射線障害(radiation damage)の治療及び/若しくは予防以外の用途を対象とする。例えば、米国特許第9,592,218号は、少なくとも1つの金属イオン、ステロール、アシルグリセロール、レシチン、アルコール及び水を含む逆ミセル系、並びに種々の疾患又は障害の症状の治療又は改善のための方法を開示しているが、放射線障害の治療及び/又は予防は開示していない。
【0010】
米国特許第9,452,136号は、少なくとも1つの核酸、ステロール、アシルグリセロール、リン脂質又はスフィンゴ脂質、アルコール及び水を含む逆ミセル系、並びに種々の疾患又は障害の症状の治療又は改善のための方法を開示している。
【0011】
米国特許出願公開第2017/0035909号は、少なくともキレート化剤又は封鎖剤、アシルグリセロール、レシチン、アルコール及び水を含む逆ミセル系、並びに少なくとも1つの放射性核種又は金属の蓄積及び/又は過負荷に関連する1つの疾患の方法を開示している。
【0012】
国際公開第2017/005899号は、生体適合性逆ミセル系内でのシアノ架橋された金属ナノ粒子の調製を開示している。生体適合性逆ミセル系又はそこに含まれるシアノ架橋された金属ナノ粒子は、造影剤及び/又は診断剤として使用される。生体適合性逆ミセル系又はそこに含まれるシアノ架橋された金属ナノ粒子は、放射性核種及び/又は金属カチオンによる置換及び/又はその封鎖のために使用される。
【0013】
Li及び共同研究者は、ベータ-シトステロールが、細胞内の酸化還元バランス(ROSの減少、SOD、カタラーゼ等の抗酸化酵素活性の増加)を調節することにより、照射された胸腺細胞において放射線防御効果を有することを報告している(Li、2007年)。Moustafa及び共同研究者は、照射されたラットにおいて抗酸化作用を確認した(Moustafa、2017年)。
【0014】
上述の刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許出願公開第2014/0023701号
【文献】米国特許第9,592,218号
【文献】米国特許第9,452,136号
【文献】米国特許出願公開第2017/0035909号
【文献】国際公開第2017/005899号
【発明の概要】
【0017】
様々な実施形態の概要
本開示は、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20%のレシチン、エタノール、水、及び場合により活性剤を含む逆ミセル系を投与することを含む、放射線に曝露された対象を治療し、及び/又は放射線に曝露されるリスクを有する対象における放射線障害を予防する方法を提供する。他の実施形態では、活性剤は、少なくとも1つのマンガンイオンを含む。他の実施形態では、逆ミセル系は、核酸又はキレート化剤を含まない。本開示は、放射線に曝露された対象の治療、及び/又は放射線に曝露されるリスクを有する対象における放射線障害の予防における使用のための、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20%のレシチン、エタノール、水、及び場合により活性剤を含む逆ミセル系を提供する。
【0018】
本開示はまた、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20%のレシチン、エタノール及び水を含む逆ミセル系を提供し、逆ミセル系は金属を含まず、キレート剤を含まない。他の実施形態では、逆ミセル系はまた、核酸を含まない。特定の実施形態では、逆ミセル系は、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20%のレシチン、エタノール及び水からなる。この逆ミセル系は、放射線に曝露された対象を治療する方法、及び/又は放射線に曝露されるリスクを有する対象における放射線障害を予防する方法に使用され得る。
【0019】
本開示の目的は、いずれもの副作用もなしに、電離放射線への曝露に起因する、生きている対象における細胞、組織又は臓器の傷害を治療及び/又は予防するための組成物を提供することである。また、大きな集団に投与しやすい組成物を提供することも目的である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】0.16Gy/分の線量率(LD
50/30)で5.6Gy線量照射後のCD1スイスマウスにおけるTBI後の生存を示す図である。処置:(
図1A):試料A:例示的な逆ミセル系及び非処置;(
図1B):試料B:逆ミセル系において500μg/gで処方されたマンガン及び非処置;rm=放射線緩和(radiomitigation);rpm=放射線防護/放射線緩和。
【
図2】0.16Gy/分の線量率(LD
90/30)で6.2Gy線量照射後のCD1スイスマウスにおけるTBI後の生存を示す図である。処置:試料C:逆ミセル系において300μg/gで製剤化されたマンガン、試料D:逆ミセル系において500μg/gで製剤化されたマンガン、及び非処置;rpm=放射線防護/放射線緩和。
【
図3】0.16Gy/分の線量率(LD
99.9/30)で7Gy線量照射後のCD1スイスマウスにおけるTBI後の生存を示す図である。処置:試料E:例示的な逆ミセル系、試料F:逆ミセル系において500μg/gで製剤化されたマンガン及び非処置;rpm=放射線防護/放射線緩和。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の様々な実施形態の詳細な説明
本開示は、少なくともステロール、50~90%のアシルグリセロール、1~20(例えば、5~15%のレシチン)、エタノール及び水を含む逆ミセル系を提供し、レシチンのアシルグリセロールに対する重量比は0.05~0.4である。逆ミセル系は、マンガン等の活性剤を更に含むことができる。逆ミセル系は、電離放射線への曝露に起因して、生きている対象の細胞、組織若しくは臓器傷害の治療又は予防に使用され得る。例えば、本開示は、放射線誘発障害を低減するのに有効な量で本明細書に記載される逆ミセル系を対象(例えば、疾患の治療のために放射線療法に曝露された)に投与することを含む、対象における放射線障害を治療する方法を提供する。
【0022】
逆ミセル系
逆ミセル系は、一般に、油中の水-ナノ液滴の分散体を含むマイクロエマルジョンである。分散体は、2つの界面活性剤(アシルグリセロール、より好ましくはジアシルグリセロール及びレシチン)及び水/油界面で最も可能性がある補助界面活性剤(エタノール)によって安定化される。水は、内部相を形成し、脂質の疎水性尾部は連続相を形成する。油、界面活性剤、補助界面活性剤、及び水性相を含有する逆ミセルもまた、油中水マイクロエマルジョンとして特徴付けられる。これらのマイクロエマルジョンは、熱力学的に安定であり、視覚的に透明である。
【0023】
一部の実施形態では、逆ミセル系は、油相中に分散された水性相を含む逆相系である。逆相系は、逆ミセル又は逆膨潤ミセルを含み得、これらは、油中水マイクロエマルジョン等の高次の等方性構造、又は立方体組織、六方体組織、ラメラ組織等の異方性構造に組織化され得る。
【0024】
一般に、ミセルのサイズは、非常に小さく、例えば、10nm未満、8nm未満、又は6nm未満である。サイズは、添加された水及びレシチンの量によって変化し得る。本発明は、より具体的には、約4nm、好ましくは3~5nm、より好ましくは3.5~5nm、特に3.7~4.5nmの水性コアを有する逆ミセルに関する。
【0025】
本発明による逆ミセル系における脂質構成要素(ステロール、アシルグリセロール及びレシチンを含む)の比を変化することができる。例えば、ステロール/アシルグリセロールの重量比は、0.01~0.1、より具体的には0.03~0.07の範囲であり得る。レシチン/アシルグリセロールの重量比は、0.05~0.40、特に0.06~0.25の範囲であり得る。
【0026】
逆ミセル系の調製
本明細書に記載される逆ミセル系は、当該技術分野において公知である任意の技術によって調製され得る。それらは、より具体的には、以下の方法:
(a)(i)レシチン、(ii)エタノール、(iii)ステロール、(iv)アシルグリセロール、好ましくはジアシルグリセロール及び(v)水、好ましくは精製水を接触させること、並びに
(b)工程(a)で得られた混合物を、40℃以下で、逆ミセル系の形成を得るのに十分な時間、撹拌することによって得ることができる。
【0027】
活性剤を更に含む、本明細書に記載される逆ミセル系は、当該技術分野において公知である任意の技術によって調製され得る。それらは、より具体的には、以下の方法:
(a)(i)レシチン、(ii)エタノール、(iii)ステロール、(iv)アシルグリセロール、好ましくはジアシルグリセロール、(v)水、好ましくは精製水、及び(vi)少なくとも1つの活性剤を接触させること、並びに
(b)工程(a)で得られた混合物を、40℃以下で、逆ミセル系の形成を得るのに十分な時間、撹拌することによって得ることができる。
【0028】
撹拌のパラメーター(例えば、機械的撹拌の持続時間及び速度)は、当業者によって容易に決定することができ、実験条件に依存する。実際には、これらのパラメーターは、均一な逆ミセル系が得られるようなものであり、速度は、視覚的に透明な製剤の形成を可能にするように決定され、撹拌の持続時間は、視覚的に透明な製剤を得てから数分後に撹拌を停止させることができるようなものである。
【0029】
逆ミセル系の成分
レシチン
レシチンという用語は、ホスファチジルコリンを指す。ホスファチジルコリンはまた、1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスホコリン又はPtdChoとしても公知である。それは、コリン、リン酸基、グリセロール、及び2つの脂肪酸で構成される。これは、脂肪酸組成がある分子から別の分子に変化する一群の分子である。ホスファチジルコリンは、20~98%の重量分率でホスファチジルコリンを含有する市販のレシチンから得ることができる。好ましくは、レシチンは、92重量%を超えるホスファチジルコリンを含む。実施例で使用されるレシチンは、LIPOID S 100(Lipoid社により販売される)であり、94%を超える分率でホスファチジルコリンを含有する。
【0030】
上述されるように、逆ミセル系における脂質構成要素(レシチン、ステロール及びアシルグリセロール)の比を変化させることができる。レシチン/アシルグリセロールの重量比は、0.05~0.40、特に0.06~0.25の範囲であり得る。レシチンの重量は、上記されるLIPOID S 100等のホスファチジルコリンを含有する混合物の総重量に対応する。
【0031】
ステロール
本明細書に記載される逆ミセル系の調製に有用なステロールは、好ましくは、天然ステロール、例えば、コレステロール又はフィトステロール(植物ステロール)である。シトステロール及びコレステロールは、逆ミセル系に有用な好ましいステロールである。好ましくは、逆ミセル系は、シトステロール、例えば、ベータ-シトステロールを含む。
【0032】
シトステロール及びコレステロールは市販されている。より具体的には、トールオイルと呼ばれる種々の松から抽出された市販のシトステロールを使用することができる。このような製品では、シトステロールは、一般に、製品の70~80重量%を表し、一般に、それぞれの比率のカンペステロールとシトスタノールの混合物に各10%のオーダーで見出される。大豆から抽出される市販のシトステロールはまた使用することができる。
【0033】
好ましくは、ステロール/アシルグリセロールの重量比は、0.01~0.1、より具体的には0.03~0.07の範囲であり得る。ステロールの重量は、製剤に使用されるステロールの総重量に対応する。
【0034】
アシルグリセロール
本明細書に記載される逆ミセル系の調製に有用なアシルグリセロールは、動物の大部分、より好ましくは植物から単離することができる。アシルグリセロールには、モノ、ジ及びトリアシルグリセロールが含まれる。特定の実施形態では、優先的に使用されるアシルグリセロールは、以下の式(I):
【化1】
を有し、式中、
R
1は、14~24個の炭素原子を有する直鎖又は分枝の、飽和又は不飽和脂肪酸のアシル残基である。
R
2は、2~18個の炭素原子、又は水素原子を有する直鎖又は分枝の不飽和脂肪酸のアシル残基である。
R
3は、14~24個の炭素原子、又は水素原子を有する直鎖又は分枝の、飽和又は不飽和脂肪酸のアシル残基である。
【0035】
特定の実施形態によれば、R1又はR3、好ましくはR1及びR3のうちの1つのみ、特にR1のみが、オレイン酸(C18: 1[cis]-9)のアシル残基を表す。
【0036】
特定の態様によれば、R2は有利には18個の炭素原子を有し、好ましくは、R2はオレイン酸残基(オレオイル基)であり、二重結合に関してその位置異性体(シス-6、7、9、11及び13)の1つ、又はそのイソ分枝異性体の1つである。
【0037】
別の特定の態様によれば、R1は、オレオイル基を表す。
【0038】
別の特定の態様によれば、R3は、水素原子である。
【0039】
別の特定の態様によれば、R2及びR3は、水素原子である。
【0040】
一般的に、高濃度のオレイン酸を含有する油は、本発明によるアシルグリセロールの有用な供給源として選択される。このような油は、通常、本発明に従って有用なアシルグリセロールを高比率で含有する。
【0041】
本発明の特定の態様によれば、脂肪酸の好ましいジグリセロールは、1,2-ジオレオイルグリセロール(又は本明細書では1,2-ジオレインとも呼ばれる)及び1-オレオイル-2-アセチルグリセロールである。
【0042】
アシルグリセロールは市販されている。例えば、グリセロールモノオレエート40は、約32~52%のモノアシルグリセロール、30~50%のジアシルグリセロール、5~20%のトリアシルグリセロールを含有し、薬学的に承認されている(欧州薬局方(第9版)、USP 25/NF20、及び日本食品添加物基準)。
【0043】
このような製品は、Peceol(登録商標)という名称でGattefosse社により市販されている。特に、Peceol(登録商標)は、約43wt%のモノアシルグリセロール、約44wt%のジアシルグリセロール、約11wt%のトリアシルグリセロールを含有し得る(Peceol(登録商標)のアシル分率は主にオレオイルからなり、通常、アシル残基の約80%がオレオイル分率である)。
【0044】
アシルグリセロールの重量は、アシルグリセロール、又はアシルグリセロールの混合物と、前記アシルグリセロールから誘導されたグリセロール及び脂肪酸とを含有する混合物の総重量に対応する。
【0045】
エタノール
エタノールは、一般に、エタノール-水の溶液であり、エタノール量は、約90%~99体積%である。別の実施形態では、エタノールは、純又は無水アルコール(低水分含有量のエタノールを指す)である。最大水分含有量が1%から数百万(ppm)分率の範囲の様々な等級がある。無水エタノールが好ましい。
【0046】
水
本明細書に記載される逆ミセル系の調製に有用な水は、好ましくは精製水、より具体的には蒸留水又は脱イオン水である。
【0047】
他の成分
本明細書に記載される逆ミセル系は、エタノール以外のアルコール等の任意の種類の追加成分を含み得る。
【0048】
本明細書に記載される逆ミセル系は、上記で定義されるエタノールに加えて、少なくとも1つのアルコールを含み得る。使用され得るアルコールは、好ましくは、2~4個の炭素原子を有する直鎖又は分枝のモノアルコールである。アルコールの例は、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、イソプロパノール、及びそれらの任意の混合物である。本発明に従って使用することができるポリオールは、好ましくは、グリセロール及びプロピレングリコールである。
【0049】
逆ミセル系の成分量は、例えば、活性剤の視覚的外観、粘度、及び/又は濃度等の、系に対する所望の特性に応じて適合させることができる。
【0050】
一部の実施形態では、逆ミセル系の成分量は、逆ミセル系が液体の形態になるように調整される。当業者は、例えば、活性剤の視覚的外観、粘度、及び/又は濃度等の所望の特性を有する液体を得るために、アシルグリセロール、ステロール、レシチン、エタノール及び水の相対量を逆ミセル系に適合させることができる。
【0051】
逆ミセル系の異なる成分に対する量の例は、以下の通りである:
逆ミセル系は、1~20%、好ましくは5~15%のレシチンを含むことができる。
逆ミセル系は、1~15%、好ましくは5~15%の水を含むことができる。
逆ミセル系は、エタノール等の、5~15%のアルコールを含むことができる。
逆ミセル系は、0.825~5%のステロールを含むことができる。
逆ミセル系は、50~90%のアシルグリセロールを含むことができる。
【0052】
他に特定されていない限り、本明細書で使用されるパーセンテージ値は、逆ミセル系の総重量に対する重量パーセンテージである。本明細書において特定される量は、より具体的には、上記で同定された重量比に対応するように適合される。
【0053】
一部の実施形態では、逆ミセル系は、リポソーム、核酸、及び/又はキレート化剤を含まない。
【0054】
活性剤
一部の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、場合により、活性剤を含むことができる。活性剤は、任意の種類の電離放射線への曝露によって引き起こされる損傷を予防及び/又は治療することができ、逆ミセル系それ自体の効率を増加させることができる化合物である。
【0055】
他の実施形態では、活性剤は、その放射性核種又は金属キレート化特性/封鎖特性のためには使用されない。例えば、一部の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2017/0035909号に開示されるキレート化剤/封鎖剤を含まない。例えば、一部の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、DTPA、ビスホスホネート、プルシアンブルー、EDTA、トリエンチン、D-ペニシラミン、デフェロキサミン、BAL、DMSA、DMPS、フィチン酸、ヒドロキシピリドネート(HOPO)、メルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)、キレート化ペプチド、それらの誘導体及びそれらの組み合わせを含まない。
【0056】
他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,452,136号に記載される核酸(例えば、DNA、RNA)を含まない。
【0057】
他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2017/005899号に記載されるシアノ架橋された金属ナノ粒子を含まない。
【0058】
ある実施形態では、活性剤は、任意の種類の電離放射線への曝露によって引き起こされる損傷を予防及び/又は治療するために有用である、先行技術において公知でない化合物であり得る。
【0059】
別の実施形態では、活性剤は、任意の種類の電離放射線への曝露によって引き起こされる損傷を予防及び/又は治療するが従来技術において公知であるが、その副作用のために使用されない化合物であり得る。
【0060】
一部の実施形態では、活性剤は、マンガン、リチウム、セレン、銅及び/又は亜鉛のうちの1つ以上を含む。特定の実施形態では、活性剤は、薬学的に許容されるマンガンの塩、例えば、硫酸マンガン;薬学的に許容されるリチウムの塩、例えば、クエン酸リチウム;薬学的に許容されるセレンの塩、例えば、亜セレン酸ナトリウム又は亜セレン酸硫酸塩;薬学的に許容される銅の塩、例えば、硫酸銅;及び/又は薬学的に許容される亜鉛の塩、例えば、硫酸亜鉛である。他の特定の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、少なくとも300μg/gのマンガン、又は少なくとも500μg/gのマンガン;少なくとも600μg/gのリチウム;少なくとも100μg/gのセレン、少なくとも1O0μg/gの銅;及び/又は少なくとも5O0μg/gの亜鉛を含む。特定の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、1,000~2,000μg/gのマンガンを含む。当業者は、本明細書に記載されるように、逆ミセル系の成分の比及び活性剤の量を適応させて、いずれかの活性剤を逆ミセル系に封入することができる。
【0061】
対象
「対象」とは、本明細書に記載される逆ミセル系を投与することができる生物を指す。対象は、ヒト又は非ヒト動物、例えば、哺乳動物であり得る。
【0062】
治療
本開示は、種々の治療方法を意図している。例えば、本開示は、放射線に曝された対象に、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系を投与することを含む、放射線障害から対象を治療する方法を提供する。
【0063】
「治療」とは、発症が始まった後の疾患又は病的状態の徴候又は症状を改善する治療的介入を指す。本明細書で使用される場合、疾患又は病理学的状態に関して「改善すること」という用語は、治療の任意の観察可能な有益な効果を指す。有益な効果は、例えば、感受性のある対象における疾患の臨床症状の発現の遅延、疾患のいくつか若しくはすべての臨床症状の重症度の低減、疾患の遅い進行、対象の全体的な健康若しくは福祉の改善、又は特定の疾患に特異的である当該技術分野において周知である他のパラメーターによって証明することができる。「疾患を治療すること」という語句は、例えば、がん等の疾患にリスクがある対象において、疾患の完全な発現を阻害することを指す。
【0064】
一部の実施形態では、治療は、対象における放射線障害を阻害する。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、がんを治療するための放射線療法に曝露された対象に投与される。特定の実施形態では、がん細胞は、非がん性細胞よりも放射線療法に対してより感受性である。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、医学的診断のために、ラジオアイソトープに曝露された対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、軍事戦闘後に対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、核攻撃又は事故の後に対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、放射線に曝露されるが、放射線障害の症状が現れる前に、対象に投与される。
【0065】
予防
本開示は、種々の予防方法を意図している。例えば、本開示は、放射線曝露のリスクを有する対象に有効量の逆ミセル系を投与することを含む、対象を放射線障害から予防する方法を提供する。
【0066】
疾患又は状態を「予防すること」とは、疾患の徴候を示さない、或いは病態若しくは状態を発症するリスクを減少させる、又は病態若しくは状態の重症度を軽減させる目的のために初期徴候のみを示す対象に組成物を予防的に投与することを指す。
【0067】
一部の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、放射線曝露のリスクを有する対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、放射線療法(例えば、がんの治療のため)の前に対象に投与される。特定の実施形態では、がんの治療のための放射線療法後、がん細胞は、非がん性細胞よりも放射線療法に対してより感受性である。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、医学的診断のためにラジオアイソトープを投与する前に対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、対象が軍事戦闘に入る前に対象に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される、有効量の逆ミセル系は、核攻撃又は事故の前に対象に投与される。
【0068】
投薬レジメン
本明細書に記載される逆ミセル系は、粘膜を介して吸収され得る。逆ミセル系は、経粘膜経路、頬粘膜組織、又は経粘膜を含む異なる経路を介して投与され得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「粘膜」及び「粘膜の」という用語は、呼吸組織、消化組織、又は生殖組織等の粘膜組織を指す。「経粘膜送達」、「粘膜送達」、「粘膜投与」及び本明細書で使用される類似の用語は、粘膜組織を介した組成物の投与を指す。「経粘膜送達」、「粘膜送達」、「粘膜投与」及び類似の用語には、限定されないが、気管支、歯肉、舌、鼻、口腔、頬、食道、膣、直腸、及び胃腸粘膜組織を介して、本明細書に記載される逆ミセル系の送達が含まれる。
【0070】
本明細書に記載される逆ミセル系は、放射線曝露に関していつでも投与することができる。一部の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、電離放射線に曝露する前に、例えば、電離放射線に曝露する数日前に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、電離放射線への曝露後に、例えば、電離放射線への曝露後の1日目、1時間目、又は最初の15分に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、電離放射線への曝露の終了後の24時間を超えて、48時間を超えて、又は96時間を超えて投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、電離放射線への曝露の終了後の数日又は数週間、投与し続けることができる。他の実施形態では、本明細書に記載される逆ミセル系は、電離放射線に曝露する前後に投与される。
【0071】
本明細書で使用される場合、放射線防護又は放射線防護剤(rp)という用語は、放射線曝露前に投与される逆ミセル系を指す。
【0072】
本明細書で使用される場合、放射線緩和又は放射線緩和剤(rm)という用語は、放射線曝露後に投与される逆ミセル系を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、放射線防護/放射線緩和(rpm)という用語は、放射線曝露の前後に投与される逆ミセル系を指す。
【0074】
当業者は、照射の種類及び強度を考慮して、逆ミセル系の毎日の投与回数、投与される量、投与の頻度、及び/又は治療が開始若しくは停止される時点を適応させることができる。
【0075】
当業者は、照射の種類及び強度、並びに逆ミセル系に存在する活性剤の量を考慮して、活性剤を含む逆ミセル系の毎日の投与回数、投与される量、投与の頻度、及び/又は治療が開始若しくは停止される時点を適応されることができる。
【0076】
本明細書に記載される逆ミセル系は、薬学的に許容される支持体を更に含む組成物に製剤化することができる。一部の実施形態では、薬学的に許容される支持体と、アシルグリセロール、レシチン、エタノール、ステロール水及び場合により活性剤を含む逆ミセル系とを含む医薬組成物が提供される。医薬組成物は、カプセル、カプレット、エアロゾル、スプレー、溶液又は軟質弾性ゼラチンカプセルの形態であり得る。
【0077】
「薬学的に許容される支持体」という用語は、当業者に周知である、任意の薬学的に許容される賦形剤、ビヒクル又は担体を指す。安定剤、乾燥剤、結合剤又はpH緩衝剤等の当業者に周知である他の添加剤もまた、本明細書に記載される医薬組成物に使用することができる。特定の実施形態では、完成製品の粘膜への接着を促進する賦形剤が、医薬組成物に含まれる。他の実施形態では、逆ミセル系それ自体、又は活性剤を含む逆ミセル系は、1つ以上の追加の薬剤と組み合わせて使用することができる。
【0078】
電離放射線
本開示は、電離放射線等の放射線による傷害を治療及び/又は予防するための逆ミセル系を提供する。電離放射線は、生体内の原子又は分子をイオン化するのに十分高いエネルギーを有する粒子又は波に関する。粒子放射には、アルファ、ベータ又は中性子が含まれる。電磁波には、X線又はγ線が含まれる。
【0079】
本明細書で使用される場合、「放射線曝露」又は「照射」とは、電離放射線に曝露されているか又は曝露されるリスクがあることを指す。電離放射線は、限定されないが、核事象、原子力発電所事故、汚い爆弾を用いた意図的なテロ攻撃、核画像診断及び治療的放射線等の医療行為を含む、多数の発生源から生じることがある。
【0080】
外部放射線曝露及び内部放射線曝露とは、放射線源の場所を指す。「外部電離放射線曝露」とは、生体外部の放射線源の場所をいい、「内部電離放射線曝露」とは、生体内部の放射線源の場所(例えば、注射後又は傷を介する等、血流中に吸入、摂取又は存在する放射性核種)を指す。
【0081】
電離損傷
放射線に誘発された内部損傷の程度は、放射線曝露の期間、線量及び種類、並びに異なる組織及び臓器の感受性度に依存する。放射線の副作用は、放射線曝露中又は曝露直後に起こる急性のものと、数週間から数ヵ月後に起こる線維化等の晩期のもののいずれかに分類される。
【0082】
本明細書で使用される場合、「急性放射線症候群」又はARSは、非常に短時間(通常、数分程度)に高線量の透過性放射線をヒトに全身又は部分的に照射することによって引き起こされる損傷に関する。臨床症状には、消化管、造血、及び神経血管性のサブ症候群が含まれる。
【0083】
一部の実施形態では、放射線は、致死的となり得る。他の実施形態では、電離放射線は、細胞、組織、臓器、及び全身傷害の連続した段階を誘導する。細胞の傷害及び死は、直接的及び間接的な電離放射線障害の組み合わせである。
【0084】
放射線に誘発された損傷を治療するための、本明細書に記載される逆ミセル系の正確なメカニズムは不明なままである。いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、1つの説明は、本明細書に記載される逆ミセル系が、全身の損傷した細胞膜に作用することである。逆ミセル系に場合により含まれる活性剤は、全身に送達され、それらの標的部位にそれら自身の治療活性を付加する。
【実施例】
【0085】
実施例として、様々な実施形態をここで具体的に記載する。以下の特定の実施形態の記載は、例証及び説明の目的のために提示される。これらは、開示を網羅し、また開示を限定することを意図するものではない。
【0086】
(実施例1)
30日で照射されたマウスの生存における逆ミセルの効力のインビボ研究。
試料
試料A
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する2.5gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、4.5gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する1.2gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。38.7gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。0.4gの精製水を5.6gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、逆ミセル系を形成した。
【0087】
試料B
13.9mgの硫酸マンガン(4.5mgの金属マンガン)を含有する0.5gの精製水を、試料Aに記載される8.5gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、500μgの金属マンガン/g又は470μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0088】
試料C
5.6mgの硫酸マンガン(1.8mgの金属マンガン)を含有する0.3gの精製水を、試料Aに記載される5.7gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、300μgの金属マンガン/g又は282μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0089】
試料D
9.3mgの硫酸マンガン(3.0mgの金属マンガン)を含有する0.4gの精製水を、試料Aに記載される5.6gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、500μgの金属マンガン/g又は470μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0090】
試料E
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する10.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、18.0gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する5.0gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。155.0gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。1.2gの精製水を18.8gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、逆ミセル系を形成した。
【0091】
試料F
31.0mgの硫酸マンガン(10.0mgの金属マンガン)を含有する1.2gの精製水を、試料Eに記載される18.8gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、500μgの金属マンガン/g又は470μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0092】
材料及び方法
3研究は、動物実験に関する欧州及びフランスの規則(欧州指令2010/63/EU、2010年9月22日、及びフランス法令2013-118、2013年2月1日)に従って行われ、以下及びTable 1(表1)に記載される。
【0093】
使用した動物は、実験室での受領時では、4.5~6週齢の雄非血縁スイスCD1マウス系統であった。マウスは、食用ホッパーに分配した市販の食餌(生涯の最初の段階で、及び実験中に21%の生タンパク質を含むSSNIFF)、並びに馴化及び実験中に予め充填した酸性水ボトルに自由に摂取させた。6又は12匹のマウスが、試験バッチを形成する。
【0094】
マウスは、自己防護SARRPキャビン(小動物放射線研究プラットフォーム、X-Strahl)において、線源(FSD)から78~79cmの垂直X線ビーム(上から下)に曝露された。マウスをプレキシグラスの箱に入れて、ケージごとに1匹ずつとし、監視し続けた。
【0095】
全身照射(TBI)は、30日目に50%(研究1)、90%(研究2)又は99.9%(研究3)の致死率、すなわちLD50/30;LD90/30又はLD99.9/30であると計算された。0.16Gy/分(プログラムされた強度3.2mA)の「中」線量率を選択した。照射は、5.6Gy出力の線量で約35分54秒間(研究1)、6.2Gy出力の線量で約39分42秒間(研究2)、7Gy出力の線量で約44分間(研究3)継続した。動物は争いを抱えているため、追加のストレスを考慮に入れる必要があり、拘束期間が長くなるにつれて大きくなる可能性が高い。
【0096】
処置(試料A~F)は、チップ付きマイクロピペットを用いて、直腸経粘膜(permucosal)経路によりマウスに投与された。送達は、動物を傷つけずに、最大粘膜表面を覆うためにゆっくりと行われた。この予防措置にもかかわらず、直腸にチップを挿入すると排便を刺激し得る。直腸注射後の2~3分以内に排便による製品の消失が何らか疑われた場合は、同量(30μl/30gのマウス)の2回目の投与を行った。実際には、大多数の動物が排便したため、実験者は、すべての動物に2回目の直腸注射を行った。
【0097】
照射前に処置を開始して、照射後(rpm)に継続するか、又は照射後(rm)に開始した。
【0098】
3つの研究のエンドポイントは、TBI後の30日でマウス生存のパーセンテージ、及び中間期の生存曲線の展開であった。生存マウスをイソフルラン麻酔下で、照射後の77日目若しくは74日目(研究1)又は30日目(研究2及び3)に断頭により安楽死させた。
【0099】
【0100】
結果
研究1:
非処置、又は試料A若しくはBで処置されたマウス(n=12匹/群)を5.6GyのTBI(LD
50/30)に曝露した。試料A群のマウスは、TBIの1及び2時間前、並びにTBIの0.5、2及び24時間後に直腸投与により逆ミセル系で処置された。試料B(逆ミセルに製剤化されたマンガン)を2つのスケジュールに応じて投与した:マウスは、TBIの1及び2時間前、並びにTBIの0.5、2及び24時間後に直腸投与により処置され(試料Brpm群)、又はTBIの0.5、2及び24時間後に直腸投与により処置された(試料Brm群)。この照射のプロトコール下では、非処置の動物の生存は、30日目に58%に達し、試料Aで処置された動物では83%に上昇した(
図1Aを参照されたい)。試料B(試料B群rpm及び試料B rm群)で処置された動物の生存は、処置のスケジュールに関係なく92%であった(
図1Bを参照されたい)。
【0101】
研究2:
非処置の又は処置されたマウス(n=12匹/群)を、6.2GyのTBI(LD
90/30)に曝露した。マウスは、同じスケジュールに従って、すなわち、TBIの1及び2時間前、及びTBIの24時間後に、試料C又はDでの直腸投与により処置された。
図2に示されるように、この照射のプロトコール下では、非処置の動物は8%の生存を示し、30日目の治療効力は、逆ミセル系におけるマンガンの用量:試料Cで300μg/g又は試料Dで500μg/gに依存し、それぞれ25%及び33%の生存であった。
【0102】
研究3:
非処置の又は試料E若しくはFで処置されたマウス(n=6匹/群)を、7GyのTBI(LD
99.9/30)に曝露した。この照射のプロトコール下では、逆ミセル系で直腸投与により処置されたたマウス(試料E群)は、TBIの1及び2時間前、並びにTBIの0.5、24、48及び96時間後に、非処置群等30日目に0%の生存を示した。しかしながら、中間期の間、試料Eによる処置は、非処置のマウスに対して、更に5日間、生存を延長させた。逆ミセルに製剤化されたマンガンを同じスケジュールに従って処置されたマウス(試料F群)では、30日目に33%の生存を示した(
図3を参照されたい)。
【0103】
結論
全体的な結果(Table 1(表1)に要約される)は、非処置群と比較して、処置されたマウスの30日での生存率を増加させるための逆ミセル系自体又はマンガンを含む逆ミセル系の有効性を示す。
【0104】
動物の生存は、TBI線量に反比例し、同じ線量率(0.16Gy/分)でのLD99.9/30及びLD90/30と比較して、LD50/30での照射のプロトコール下でより良好な効力が観察された。TBIの最高用量(LD99.9/30)では、逆ミセル系にマンガンを添加すると、その中間的な有効性が30日を超えて延長する。
【0105】
LD50/30では、逆ミセル系による処置の効力は、その開始時間(すなわち、照射の前後)に依存しない。
【0106】
これらの結果は、本明細書に記載される逆ミセル系が、重度及び致死的な放射線誘発傷害に対する効果的な医学的対策である可能性を示唆する。
【0107】
(実施例2)
高濃度マンガンを含む製剤
試料G
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する5.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、4.5gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する1.2gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。36.3gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0108】
12.5mgの硫酸マンガン(4.0mgの金属マンガン)を含有する0.2gの精製水を3.8gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、1000μgの金属マンガン/g又は940μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0109】
試料H
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する6.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、4.5gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する1.2gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。33.7gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0110】
25.2mgの硫酸マンガン(8.0mgの金属マンガン)を含有する0.4gの精製水を3.6gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、2000μgの金属マンガン/g又は1880μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0111】
試料I
37.7mgの硫酸マンガン(12.2mgの金属マンガン)を含有する0.4gの精製水を、試料Hに記載される3.6gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、3000μgの金属マンガン/g又は2820μgの金属マンガン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0112】
試料J
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する3.8gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、2.2gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する、0.6gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。15.4gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0113】
49.3mgの硫酸マンガン(16.0mgの金属マンガン)を含有する0.5gの精製水を3.5gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、4000μgの金属マンガン/g又は3800μg金属マンガン/ml(0.95の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0114】
(実施例3)
他の活性剤を含む製剤
試料K
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する10.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、18.0gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する、5.0gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。155.0gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0115】
4.0mgの硫酸セレン(1.2mgの金属セレン)を含有する0.7gの精製水を11.3gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、100μgの金属セレン/g又は94μgの金属セレン/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0116】
試料L
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する94.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、84.6gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する23.5gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。647.9gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0117】
8.2gのクエン酸リチウム(0.6gの金属リチウム)を含有する90.9gの精製水を850.0gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、638μgの金属リチウム/g又は600μgの金属リチウム/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。
【0118】
試料M
94%を超えるホスファチジルコリンを含有する3.0gの市販のレシチンを、室温で300r/分の磁気撹拌下、5.4gの無水エタノールに溶解した。70%を超えるベータ-シトステロールを含有する1.5gのフィトステロールを混合物に添加し、同じ条件で撹拌した。46.5gのPeceol(登録商標)をそこに添加し、700r/分、37℃で磁気撹拌を行い、油状混合物を形成した。
【0119】
2.8mgの硫酸亜鉛(1.0mgの金属亜鉛)を含有する0.1gの精製水を1.9gの油状混合物に添加し、室温で数分間、撹拌して、500μgの金属亜鉛/g又は470μgの金属亜鉛/ml(0.94の密度)を含む逆ミセル系を形成した。