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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】電気化学セルの性能を増強する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
H01M10/44 P
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021538312
(86)(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020050145
(87)【国際公開番号】W WO2020144142
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】1900171.8
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヒーナン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シアリング,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ブレット,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】タン,チュン
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-084544(JP,A)
【文献】特開2017-017887(JP,A)
【文献】特開2000-315505(JP,A)
【文献】特開平09-306489(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111161(WO,A1)
【文献】特表2016-522961(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0261008(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0365600(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159293(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0200731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 -10/0587
10/36 -10/48
H02J 7/00 - 7/12
7/34 - 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極及び第2の電極並びに前記第1の電極と前記第2の電極との間の電解質を有する電気化学セルの性能を増強する方法であって、前記第1及び第2の電極は、電流経路を画定し、前記方法は、前記電気化学セルに加えて、前記電気化学セルを通る変化する磁場を生成する磁場生成器を提供することを含み、前記変化する磁場は、パルス化磁場である、方法。
【請求項2】
前記変化する磁場は、前記電流経路と垂直な成分を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変化する磁場は、回転磁場である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁場は、前記電流経路に平行な軸の周りで回転する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記変化する磁場は、振動磁場である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電気化学セルは、バッテリーである、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記バッテリーは、陽イオンバッテリーであり、及び前記電流経路は、陽イオンの移動方向である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記磁場は、永久磁石、又は一時磁石、又は電磁石によって提供される、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質は、有機である、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気化学セルの性能を増強するためのシステムであって、請求項1~9の何れか一項に記載の方法を実行するように構成されているシステム
【請求項11】
電気化学セルを充電する方法であって、請求項1~9の何れか一項に記載の方法を実施しながら、電源から前記電気化学セルに電流又は電圧を提供するステップを含む方法。
【請求項12】
電気化学セルを放電する方法であって、請求項1~9の何れか一項に記載の方法を実施しながら、前記電気化学セルから電流又は電圧を抽出するステップを含む方法。
【請求項13】
電気化学セルの容量を増強する方法であって、請求項1~9の何れか一項に記載の方法を実施しながら、電気化学セルを形成するステップを含む方法。
【請求項14】
電気化学セルの容量を増強する方法であって、請求項1~9の何れか一項に記載の方法を実施しながら、電気化学セルを充電又は放電するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電気化学セルの性能に関し、特に、限定するものではないが、充電及び放電の速度並びに電気化学セルの容量を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
電気化学セルは、多くの電気システム、特に携帯電話及びラップトップなどの可搬型デバイス並びに更に気自動車にとって不可欠である。
【0003】
電子機器/車両の可搬性は、セルの性能に依存する。一般的に、機器/車両が外部電源から独立して動作できる時間と、機器/車両が充電のために外部電源に接続していなければならない時間との比率を高めるために、容量が大きく、充電時間が短いセルを有することが望ましい。
【0004】
様々な種類及び構成の電気化学セルをサイズ、形状、電圧、電流及び他の要件に基づいて選択することができる。セルの一般的な形状の例としては、パウチセル、円筒形セル、スウェージロック(Swagelok)セル及びコインセルがある。セルをバッテリーに接続して、アプリケーションに適した電圧及び/又は電流を提供することもできる。
【0005】
セルがあまりに速く充電されると、多くの望ましくない動作状態が発生し得る。例えば、樹枝状結晶の形成、金属めっき及び電流ホットスポットなどがそうであり、これらは、それぞれ短絡及びセルの損傷を引き起こす可能性を潜在的に高め得る。
【0006】
過充電を回避しながら、セルを迅速に充電する一般的な方法は、セル内で所定の電圧に達するまで、第1の充電段階において一定の電流を供給し、次いで第2の充電段階において、セルの容量を確実に一杯にするために、電流が減衰する間、電圧を一定に保持することである。第1の充電段階は、セル内の充電を急速に増加させるが、第2の充電段階は、よりゆっくりしている。
【0007】
Cレートは、セルの充電又は放電のレートの尺度であり、電流を容量で割ったものであり、単位は、1時間当たりである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の考慮事項に照らし合わせて考案されたものである。
【0009】
発明の概要
本発明は、第1の電極及び第2の電極並びに第1の電極と第2の電極との間の電解質を有する電気化学セルの性能を増強する方法を提供し、第1及び第2の電極は、電流経路を画定し、この方法は、セルを通る変化する磁場を提供することを含む。
【0010】
変化する磁場は、電気化学セル内のイオン輸送を支援し、それによりバッテリーの性能が向上することを意味する。任意選択的に、セルは、電極間にセパレータを含み得る。イオン輸送は、電解質、及び/又は電極、及び/又はセパレータ内で改善され得る。セルを通る変化する磁場とは、セルにおける磁束の大きさ、及び/又は方向、及び/又は分布が時間の経過と共に変化することを意味する。
【0011】
上記の方法を使用して向上させることができるセルの特性の1つは、セルの充電速度である。セル内のイオン輸送は、充電中の律速過程であることが多いため、イオン輸送を支援することにより、セルの充電が加速する。上記の方法を使用して向上させることができるセルの別の特性は、放電速度であり、なぜなら、イオン輸送は、充電中と同様の方法で改善されるからである。上記の方法を使用して向上させることができるセルの別の特性は、セルの容量である。これは、セルの形成中又は動作中にセルに対して上記の方法を行うことによって達成することができる。
【0012】
変化する磁場は、回転磁場、及び/又は振動磁場、及び/又はパルス化磁場であり得る。
【0013】
変化する磁場は、電流経路と垂直な成分を有する方向を有し得る。変化する磁場は、電流経路と平行な成分を有する方向を有し得る。
【0014】
磁場の回転は、磁場の方向に垂直な成分を有する軸の周りのものであり得る。磁場の回転は、磁場の方向に平行な成分を有する軸の周りのものであり得る。
【0015】
磁場の回転は、電流経路の方向に垂直な成分を有する軸の周りのものであり得る。磁場の回転は、電流経路の方向に平行な成分を有する軸の周りのものであり得る。
【0016】
回転磁場は、スピンする永久磁石、若しくは一時磁石、若しくは電磁石によって提供され得るか、又は磁場を効果的に回転させるように順次活性化される電磁石のアレイによって提供され得る。
【0017】
電気化学セルは、バッテリーであり得る。バッテリーは、コインセル、円筒形セル、角柱セル又はパウチセルであり得る。
【0018】
バッテリーは、陽イオンバッテリーであり得、及び電流経路は、陽イオンの移動方向であり得る。バッテリーは、リチウムイオンバッテリーであり得る。代わりに、バッテリーは、陰イオンバッテリーであり得、及び電流経路は、陰イオンの移動方向であり得る。
【0019】
セルは、電気自動車、携帯電話、ラップトップコンピュータ、タブレット又は他の携帯型若しくは据え置き型の機器に電力を供給するためのものであり得る。セルは、燃料電池であり得る。
【0020】
電気化学セルは、2つ以上のセルのアレイの一部であり得る。
【0021】
磁場は、永久磁石、又は一時磁石、又は電磁石によって提供され得る。
【0022】
電解質は、固体、液体又はゲルであり得る。特に、電解質は、有機電解質を含む非水性であり得る。
【0023】
変化する磁場を生成するために磁場生成器が設けられ得る。磁場生成器は、セルの内部又はセルの外部にあり得る。
【0024】
別の態様では、本発明は、電気化学セルの性能を増強するための充電加速器を提供し、この機器は、上述した電気化学セルの性能を増強する方法を実行するように構成されている。
【0025】
別の態様では、本発明は、電気化学セルを充電する方法であって、上述した電気化学セルの性能を増強する方法を実施しながら、電源からセルに電流又は電圧を供給するステップを含む方法を提供する。本開示では、セルを充電することは、電流若しくは電圧によって課されるにせよ、又はイオンの自然発生的な運動によって課されるにせよ、セル内でイオンを移動させることを含む。
【0026】
別の態様では、本発明は、電気化学セルを放電する方法であって、上述した電気化学セルの性能を増強する方法を実施しながら、セルから電流又は電圧を抽出するステップを含む方法を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、電気化学セルの容量を増加させる方法であって、上述した電気化学セルの性能を増強する方法を実施しながら、電気化学セル形成するステップを含むか、又は電気化学セルの動作中のものである方法を提供する。
【0028】
本発明は、記載した態様と好ましい特徴との組み合わせを含むが、そのような組み合わせが明らかに許容されないか又は明示的に回避されている場合を除く。
【0029】
図の概要
ここで、本発明の原理を示す実施形態及び実験について、添付の図面を参照しながら考察する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】セルの性能を増強する際に使用される装置の例示的な構成の側面図を示す。
図2A】パウチセルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。断面側面図を示す。
図2B】パウチセルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。上面図を示す。
図3】パウチセルの経時的なセル容量を示し、この場合、パウチセルは、(i)変化する磁場を用いて(破線)、及び(ii)不変の磁場を用いて(実線)、4.2Vに達するまで、3.4Vから4.2Vまで0.841Aで充電され、その後、電流が減衰し且つ容量に達する間、一定の電圧に維持された。
図4】パウチセルの経時的な電流及び電圧を示し、パウチセルは、(i)回転磁場の存在下において(破線)、及び(ii)不変の磁場を用いて(実線)、4.2Vに達するまで、3.4Vから4.2Vまで0.841Aで充電され、その後、電流が減衰し且つ容量に達する間、一定の電圧に維持された。
図5】パウチセルの経時的なセル容量を示し、この場合、パウチセルは、(i)回転磁場の存在下において(破線)、及び(ii)不変の磁場を用いて(実線)、4.2Vに達するまで、3.4Vから4.2Vまで0.841Aで充電され、その後、電流が減衰し且つ容量に達する間、一定の電圧に維持された。
図6】回転磁場を用いた及び不変の磁場を用いたサイクルにおける400mAhパウチセルの充電速度を示す。
図7】使用されるセルの寸法及び特性と共に、回転磁場を用いて及び不変の磁場を用いて、図6の400mAhパウチセルを充電するのにかかる時間を示す。
図8】回転磁場を用いた及び不変の磁場を用いた4Cでの200mAhパウチセルの充電速度を示す。
図9】使用されるセルの寸法及び特性と共に、4Cにおいて、回転磁場を用いて及び不変の磁場を用いて、図8の200mAhパウチセルを充電するのにかかる時間を示す。
図10A】スウェージロック型セルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。断面側面図を示す。
図10B】スウェージロック型セルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。上面図を示す。
図11】回転磁場を用いて及び不変の磁場を用いて、LMO/グラファイトスウェージロックセルに対して行われた、1C、2C及び3Cでの充電の速度を示す。
図12】使用されるセルの寸法と共に、1C、2C及び3Cにおいて、回転磁場を用いて及び不変の磁場を用いて、図11のLMO/グラファイトスウェージロックセルを充電するのにかかる時間を示す。
図13A】円筒型セルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。線A-Aに沿った断面図を示す。
図13B】円筒型セルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。線B-Bに沿った断面側面図を示す。
図13C】円筒型セルの性能を増強するために使用される例示的な構成の図を示す。上面図を示す。
図14】回転磁場及び互いに90度離れた2つの方向に向けられているセルを用いた並びに不変の磁場を用いたサイクルでの円筒形2190mAh LG18650の充電速度を示す。
図15】回転磁場及び互いに90度離れた2つの方向に向けられているセルを用いて並びに不変の磁場を用いて図14の円筒形2190mAh LG18650セルを充電するのにかかる時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
ここで、本発明の態様及び実施形態について、添付の図面を参照しながら考察する。更なる態様及び実施形態が当業者に明らかになるであろう。この本文で言及された全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
図1に示した装置の構成を使用して、充電又は放電している間のセル1の性能を強化及び監視することができる。セル1は、回転磁場生成器2の上部に配置される。セル1は、端子4を介してポテンシオスタット及びコンピュータ3に接続されている。ポテンシオスタットは、セル1にわたる電位を制御し、セル1を充電又は放電することができる。コンピュータは、セル1の電流、及び/又は容量、及び/又は電圧を監視する。回転磁場生成器2は、セル1を通る回転磁場を提供する。
【0033】
この構成は、セルを試験するために使用することができるが、セル1の監視が必要でない場合、ポテンシオスタット、コンピュータ3及び端子4は、取り外され、且つ任意選択的にセルの充電又は放電のために電源又はドレインと置き換えられ得る。
【0034】
図1の構成では、セル1は、回転磁場生成器2の上部に配置されているが、本発明の他の実施形態では、セル1及び回転磁場生成器2は、回転磁場生成器2がセル1を通る磁場を生成できる限り、異なる向きにされ得る。
【0035】
磁場の回転は、生成される磁場の方向と実質的に平行な軸の周りのものであり得る。例えば、セル1内で生成される磁場の方向は、磁場生成器2とセル1との間の方向に実質的に平行であり得、磁場の回転は、図2A及び図2Bに示すように、磁場生成器2とセル1との間の方向に平行な軸の周りのものであり得る。
【0036】
代わりに、磁場の回転は、生成される磁場の方向と実質的に垂直な軸の周りのものであり得る。例えば、セル1内で生成される磁場の方向は、磁場生成器2とセル1との間の方向に実質的に垂直であり得、磁場の回転は、磁場生成器2とセル1との間の方向に平行な軸の周りのものであり得る。
【0037】
図1の構成における回転磁場生成器2は、別の方法で変動する変化する磁場を生成する、変化する磁場生成器と置き換えられ得る。例えば、変化する磁場生成器は、回転、及び/又は振動、及び/又はパルス化する磁場を生成するために使用され得る。
【0038】
以下の装置及び方法の例は、幾つかの市販のバッテリーの充電に対する、変化する磁場の効果を示す。これらの例の全ては、変化する磁場の存在下でセルの充電時間が減ることを示す。セルは、様々な幾何形状及び化学的組成のものであり、以下でより詳細に説明される。
【0039】
本開示では、「磁場条件下」という用語は、変化する磁場の存在を指す。以下に説明する例では、変化する磁場の存在下でセルを充電した場合の結果は、変化する磁場がない状態でのセルの比較例と共に示される。実施例及び比較例で用いられる構成は、比較例で提供される磁場が方向及び大きさにおいて一定である一方、実施例で提供される磁場が変化している点のみが異なる。
【0040】
図2は、パウチセル11の性能を増強するために使用される構成を示す。磁場生成器12は、図2Aで矢印によって示される方向と平行な方向を有する磁場を生成する。生成される磁場は、図2Bで矢印によって示される方向に回転する。磁場は、パウチセル11を通過する。
【0041】
磁場は、セル内の磁束が時間の経過と共に変化することを確実にするために回転の軸からオフセットされている。
【0042】
磁場生成器12は、電源15によって給電される電磁石である。ポテンシオスタット13は、パウチセル11に接続され、セルにわたる電位を制御し、セルを充電又は放電するために使用することができる。
【0043】
パウチセル11は、電解質によって互いに分離された第1の電極及び第2の電極から形成される。これらの電極は、実質的に平行であり、セルの長さ及び幅にわたって延びている。パウチセル11は、図2に示すように、ポテンシオスタットに接続され得る電極のそれぞれのための接点を有する。
【0044】
パウチセル11は、磁場の方向がセルの第1の電極、電解質及び第2の電極を通過するように向けられる。磁場の方向は、電極間の電流経路の方向と平行である。磁場の回転面は、電極の面と平行である。
【0045】
図3は、磁場が(i)回転している(破線によって示される)、及び(ii)回転していない(実線によって示される)場合、磁場生成器12によって生成された磁場の存在下で充電された場合のパウチセル11の容量を示す。パウチセル11は、2段階で充電された。第1の段階では、セルは、4.2Vに達するまで、3.4Vから4.2Vまで0.841Aで充電された。次いで、第2の段階では、セルは、電流が減衰し容量に達する間、一定の電圧に保持された。
【0046】
一定の電流がセルに印加される第1の段階は、図4の電流のグラフの水平線部分によって見ることができる。最大容量に達する間、電圧が一定に保持され、電流が減衰する第2の段階は、電流が変化する場所で見ることができる。変化しない磁場及び変化する磁場について、それぞれt=220秒及び300秒までの直線の水平線は、充電の一定電流部分を表し、tから先は、充電の一定電圧部分を表す。
【0047】
磁場は、磁場生成器12内の電磁石によって生成された。破線によって示されたサイクル中、電磁石は、1160rpmでスピンした。この結果は、セルを充電するのにかかる時間が回転磁場の存在によって68%低減したことを示す。
【0048】
図4は、図3に関連して説明した条件でのパウチセル11の充電中の電流及び電圧を示す。やはり、破線は、磁場が回転している場合の充電を示し、実線は、磁場が回転していない(一定である)場合の充電を示す。これらのグラフは、回転磁場の存在下で4.2Vの電圧に達するのにかかる時間が増加し、その結果、電流が印加される充電の第1の段階がより長い期間にわたって維持されることを示す。充電の第1の段階は、第2の段階よりも急速にセルによって保持される電荷を増加させるため、これは、セルを通る回転磁場が存在する場合、充電全体がより速くなることを意味する。
【0049】
図5は、磁場が(i)回転している(破線によって示される)、及び(ii)回転していない(実線によって示される)場合、磁場生成器12によって生成された磁場の存在下で充電された場合のパウチセル11の容量を示す。パウチセル11は、2段階で充電された。第1の段階では、セルは、4.2Vに達するまで、3.4Vから4.2Vまで0.841Aで充電された。次いで、第2の段階では、セルは、電流が減衰し容量に達する間、一定の電圧に保持された。
【0050】
図5から分かるように、両方のサイクルにおいて、セルは、4.2Vまで充電されたが、磁場が回転しているサイクルでは、セルの容量は、5%増加した。磁場の回転によって充電速度も増加した。
【0051】
図6は、パウチセル21を試験した結果を示す。パウチセル21は、400mAhの容量を有し、5cm×2cm×0.5cmの寸法を有する。パウチセル21は、部品情報:+PL-402248-2C, 3.7V 400mAh -PO 7006 20140726を介して市販されている。
【0052】
パウチセル21の充電レートが9つの充電サイクルについて図6に示されている。サイクル1~3並びに7及び8は、1170rpmで回転する磁場の存在下でのものであり、サイクル9は、1000rpmで回転する磁場の存在下でのものであった。サイクル4~6は、静止した磁場の存在下でのものであった。
【0053】
図6から分かるように、充電のレートは、磁場の回転により、一貫して約15%増加した。
【0054】
図7は、1170rpmでの回転磁場、1000rpmでの回転磁場及び静止磁場での、8つの充電サイクルにおけるパウチセル21を充電するのにかかる時間を示す。図7から分かるように、セルを充電するのにかかる時間は、回転磁場の存在下で一貫して約15%減少している。
【0055】
図8は、パウチセル31を試験した結果を示す。パウチセル31は、200mAhの容量を有し、2.5cm×1.7cm×0.5cmの寸法を有する。パウチセル31は、部品情報:-PL-651628-2C, 3.7V 210mAh +PO 7994を介して市販されている。
【0056】
パウチセル31の充電レートが2つの充電サイクルについて図8に示されている。第1のサイクルは、1160rpmで回転する磁場の存在下でのものであり、第2のサイクルは、静止磁場の存在下でのものであった。
【0057】
図8から分かるように、充電のレートは、磁場の回転により、劇的に増加した。
【0058】
図9は、1160rpmでの回転磁場及び静止磁場での、充電サイクルにおけるパウチセル31を充電するのにかかる時間を示す。図9から分かるように、4Cでセルを充電するのにかかる時間は、回転磁場の存在下で58%減少している。
【0059】
図10は、スウェージロック型セル41の性能を増強するために使用される構成を示す。磁場生成器42は、図10Aで矢印によって示される方向と平行な方向を有する磁場を生成する。生成される磁場は、図10Bで矢印によって示される方向に回転する。磁場は、スウェージロックセル41を通過する。
【0060】
磁場は、セル内の磁束が時間の経過と共に変化することを確実にするために回転の軸からオフセットされている。
【0061】
磁場生成器42は、電源45によって給電される電磁石である。ポテンシオスタット43は、スウェージロックセル41に接続され、セルにわたる電位を制御し、セルを充電するために使用することができる。
【0062】
スウェージロックセル41は、電解質及びセパレータ材料によって互いに分離された第1の電極及び第2の電極から形成される。これらの電極は、実質的に平行であり、セルの長さ及び幅にわたって延びている。スウェージロックセル41は、図10に示すように、ポテンシオスタットに接続され得る電極のそれぞれのための接点を有する。
【0063】
スウェージロックセル41は、磁場の方向が電極間の電流経路の方向に垂直にセルを通過するように向けられる。磁場の回転面は、電極の面と垂直である。
【0064】
図11は、スウェージロックセル51を試験した結果を示す。スウェージロックセル51は、5cm×2.5cmの寸法を有する。スウェージロックセル51は、LMO/グラファイトスウェージロックセルとして市販されている。
【0065】
スウェージロックセル51の充電のレートを1C、2C及び3Cでの充電サイクルについて図11に示し、それぞれ回転磁場の存在下及び静止磁場の存在下でのものである。回転磁場は、1100rpmの速度を有していた。
【0066】
図11から分かるように、充電のレートは、磁場の回転により、一貫して増加した。
【0067】
図12は、1C、2C及び3Cでの充電サイクルにおいてスウェージロックセル51を充電するのにかかる時間を示し、それぞれ回転磁場の存在下及び静止磁場の存在下でのものである。図12から分かるように、セル51を充電するのにかかる時間は、回転磁場の存在下で一貫して減少している。
【0068】
図13は、円筒形セル61の性能を増強するために使用される構成を示す。磁場生成器62は、図13Bで矢印によって示される方向と平行な方向を有する磁場を生成する。生成される磁場は、図13Cで矢印によって示される方向に回転する。磁場は、円筒形セル61を通過する。
【0069】
円筒形セル61は、電解質によって互いに分離された第1の電極及び第2の電極から形成される。電極は、らせん状に巻かれており、セルの長さにわたって延びている。円筒形セル61は、図13に示すように、ポテンシオスタットに接続され得る電極のそれぞれのための接点を有する。
【0070】
円筒形セル61は、図13では、磁場の方向が円筒形状の平坦な端部間の方向と垂直に円筒形状の断面を通過するように向けられている。磁場の回転面は、円筒形セルの端面の面と垂直である。
【0071】
以下で更に考察するように、他の実施形態では、代わりに、円筒形セルは、磁場の方向が円筒形セルの両端を通過するように向けられ得る。
【0072】
磁場は、セル内の磁束が時間の経過と共に変化することを確実にするために回転の軸からオフセットされる。
【0073】
磁場生成器62は、電源65によって給電される電磁石である。ポテンシオスタット63は、円筒形セル61に接続され、セルにわたる電位を制御し、セルを充電するために使用することができる。
【0074】
図14は、円筒形セル71を試験した結果を示す。円筒形セル71は、6.5cm×1.8cmの寸法を有する。円筒形セル51は、円筒形2190 mAh LG 18650セルとして市販されている。
【0075】
円筒形セル71の充電レートが6つの充電サイクルについて図14に示されている。サイクル1及び2は、1170rpmで回転する磁場の存在下でのものであり、サイクル5は、1500rpmで回転する磁場の存在下でのものであり、サイクル6は、1200rpmで回転する磁場の存在下でのものであった。サイクル3及び4は、静止した磁場の存在下でのものであった。サイクル5及び6では、円筒形セルは、セルの平坦な端部が磁場生成器62と向き合うように、図13Aに示される位置から90度の向きに配置された。
【0076】
図14から分かるように、充電のレートは、回転磁場の存在下で一般的により高くなった。
【0077】
図15は、図14の充電サイクルにおいて円筒形セル71を充電するのにかかる時間を示す。図15から分かるように、セル71を充電するのにかかる時間は、一般的に、回転磁場の存在下でより短くなった。
【0078】
上記の例によって示される電気化学セル内部の充電速度の向上及び/又は容量の増加を結果的にもたらすイオン輸送の向上の原理は、陽イオンセルの例について以下で説明するような活性化エネルギーの減少によって説明することができる。
【0079】
液体電解質内部のイオン速度νは、抗力Fによって克服されるまで増加する。イオンの運動を駆動する電場力Fは、次式によって説明することができる。
【数1】

イオンの電荷数
q 電子の基本電荷(1.6×10-19C)
dV 電圧差
dx 空間差分
【0080】
抗力は、以下のようにストークスの法則から近似することができる。
=6πμrν 式2
μ 液体の粘度
r イオンの半径
ν イオンの速度
【0081】
電気力と抗力とを等しくさせると、イオンの終端速度、即ち移動度uが決まる。
【数2】
【0082】
移動度は、次式を通して伝導率に影響を及ぼす。
σ=(|z|F)c 式5
モル協調
【0083】
従って、
∝u∝σ 式6
である。
【0084】
ポリマー電解質では、オーム抵抗σは、次式によって記述することができる。
【数3】

ΔGact 活性化エネルギー
F ファラデー定数
k ボルツマン定数
T 温度
【0085】
従って、
∝u∝σ∝exp(-ΔGact) 式8
である。
【0086】
マクスウェル-ファラデーの方程式は、時間変動する磁場δB/δtが、空間的に変動する非保存性電場E(r、t)を常に伴うことを予測しており、これは、次式に記述される。
【数4】

∇ 回転演算子(3次元ベクトル場の微小回転)
r 位置
t 時間
【0087】
所与の地点における電場Eは、所与の電荷qについて、ベクトル電場力Fとして定義される。
=qE 式10
【0088】
従って、磁場は、以下のように活性化エネルギーに影響を与える。
B∝E∝F∝u∝σ∝exp(-ΔGact) 式11
【0089】
最後に、伝導率は、次式を介してセルの抵抗率ρ、従ってオームの電位損失ηohmicに関係する。
【数5】
【0090】
従って、磁場の存在下では、陽イオンを伝導するポリマー膜は、陽子の輸送に関連したイオン移動度に関係する活性化エネルギーの正味の減少を通して、オームの電位損失の低減を経験することになる。
B∝ηohmic 式13
【0091】
磁場は、永久磁石又は電磁石を使用して生成することができる。
【0092】
永久磁石を使用すると、磁場の存在下では、陽イオンを伝導するポリマー膜は、活性化エネルギーの正味の減少を通して、オームの電位損失の低減を経験することになる。
【数6】

B 磁気誘導
A プランジャーの断面積
μ 空間の透磁率
【0093】
電磁石を使用すると、磁場の存在下では、陽イオンを伝導するポリマー膜は、活性化エネルギーの正味の減少を通して、オームの電位損失の低減を経験することになる。
【数7】

C 比例定数
A プランジャーの断面積
n ソレノイドの巻数
I 電流
l ソレノイドの長さ
【0094】
前述の説明、又は以降の特許請求の範囲、又は添付の図面に開示された特徴であって、特定の形態或いは必要に応じて開示した機能を実施するための手段の観点又は開示した結果を取得するための方法若しくはプロセスの観点で表現された特徴は、多様な形態で本発明を実現するために、別々に又はそのような特徴の組み合わせで利用することができる。
【0095】
本発明について、上述した例示的な実施形態と共に説明してきたが、本開示を考慮すると、多くの均等な修正形態及び変形形態が当業者に明らかになるであろう。従って、上述した本発明の例示的な実施形態は、例示的であり、限定するものではないとみなされる。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に対する様々な変更形態がなされ得る。
【0096】
疑義を回避するために、本明細書で提供される理論的な説明は、読者の理解を向上させる目的で提供されるものである。本発明者らは、これらの理論的な説明の何れかによって縛られることを望まない。
【0097】
本明細書で使用される章見出しは、構成上の目的のみのためのものであり、記載した主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0098】
以下に続く特許請求の範囲を含めて、本明細書全体を通して、特に断りがない限り、「含む(comprise)」及び「包含する」という語並びに「含む(comprises)」、「含んでいる」及び「包含している」などの変形は、記載された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外することを意味していないと理解される。
【0099】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」という単数形は、文脈上そうでないことが明らかに指示されていない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から及び/又は「約」別の特定の値までとして表現され得る。そのような範囲が表現された場合、別の実施形態は、1つの特定の値から及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表現される場合、「約」という先行詞を使用することにより、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。数値に関連した「約」という用語は、任意選択的であり、例えば±10%を意味する。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15